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作成:2002/07/07
更新:2021/05/02

3025年以降の歴史



 日本語版「バトルテック」の世界は3025年でその歩みを止めています。しかし原著では、小説やサプリメントの展開で時代が進み、50年以上の歳月が経過しました。「メックウォリアー:ダークエイジ」に至っては、100年後の世界です。
 この空白を埋めるため、自分なりに中心領域の流れをまとめてみました。




2601-2750


星間連盟(スターリーグ)

 バトルテック世界の歴史を辿っていくと、必ず〈星間連盟〉に突き当たります。星間連盟が宇宙を統べていた時代、人類は繁栄の頂点にありました。恒星間の輸送・通信を筆頭に高度な技術が発展し、植民惑星と人口は増える一方でした。

 星間連盟は多くの国家が集まる連合組織です。その中心となっていたのが地球帝国とキャメロン家でした。そもそも星間連盟を作ったのが地球帝国(キャメロン家)であり、強大な軍事力を用いて、他の国家にむりやり加入を迫ったのです。それを可能としたのが画期的な巨大人型兵器バトルメックでした。他の国(王家)もバトルメック軍を常備していましたが、星間連盟防衛軍(SLDF)の技術と規模にはかないませんでした。

 星間連盟による平和と成長の時代は150年間続きました。



2751-2784


崩壊

 2751年、キャメロン家の当主が事故死し、8歳になるリチャードが王座につきました。摂政として彼をバックアップしたのが、星間連盟防衛軍のアレクサンドル・ケレンスキー将軍です。彼は有能で高潔な軍人でした。

 このころから星間連盟の支配力は衰えを見せ始め、そしてついには辺境で大規模な反乱が発生し、ケレンスキー将軍は地球を離れ、鎮圧に向かうこととなりました。

 ケレンスキーの代わりに地球とキャメロン家を守っていたのが、辺境世界共和国の王ステファン・アマリスという男です。彼は若いリチャード・キャメロンに取り入り、信頼を勝ち取っていました。しかし、2766年の12月、アマリスはとうとうその本性をあらわし、リチャードとキャメロン一族を文字通り皆殺しにします。そして我こそが星間連盟の新たな首長であると宣言したのです。

 辺境にいたアレクサンドル・ケレンスキーは、ステファン・アマリスに宣戦を布告します。その後、11年の時間と1億人もの死者を費やして、ようやくケレンスキーはアマリスを討ち取りました。しかし、かつての星間連盟は戻ってきませんでした……何しろキャメロン一族は根絶やしにされていたのですから。

 本来なら、キャメロン家にかわって、ケレンスキーが星間連盟首長(第一君主)の座につくべきでした。しかしケレンスキーは一軍人であることにこだわり、星間連盟に忠誠を誓い続けたのです。

 星間連盟に所属していた五大王家は、第一君主の座を狙って、評議会で言い争いを始めます。彼らはアマリスとケレンスキーの戦いに荷担せず、傍観者に徹していました。ケレンスキーは調停に勤めたものの、逆に評議会から星間連盟防衛長官の職を解かれてしまいます。やがて交渉決裂。五大王家はそれぞれ自国に戻り、戦力を動員し始めます。

 星間連盟の理想が崩壊する状況に落胆したアレクサンドル・ケレンスキーは、戦艦に乗り込み、星間連盟防衛軍の3/4を率いて、深宇宙のどこかに消えていきました。これを脱出(エクソダス)と言います。ケレンスキーはいずれ中心領域に帰還し、星間連盟を復興しようと考えていました。しかし、それ以降、彼らの消息はつかめていません。



2785-3025


終わりなき戦乱

 ケレンスキーという重しの外れた中心領域に、戦乱の嵐が吹き荒れました。互いの王家が、互いを攻撃し、都市や生産施設が大々的に破壊されたのです。この戦いは〈継承権戦争〉と呼ばれ、200年以上の長きに渡って続いているものの、決着はついていません。ただ破壊のみがもたらされました。

 戦争が長引くうちに、中心領域の技術力は衰えていきます。高度な技術を必要とするバトルメック、航宙艦は、生産技術が失われて、わずかに残った自動化工場でのみ生産が続けられています。もし工場設備が故障してしまったら、誰にも直せない状態です。王家軍は、これらの施設を直接攻撃せずに、占領しようと試みるようになりました。また貴重な航宙艦が攻撃されることもなくなりました。

 バトルメックも貴重品です。メック戦士(パイロット)たちは貴族として扱われ、メック(と地位)を親から子へと継承していきます。王家のリーダーたちも、ほとんどがメック戦士です。しかしスペアパーツと技術者の慢性的な不足によって、バトルメックの稼働率は下がりつつあります。戦場の内外で自機を失ったメック戦士は〈失機者〉として扱われ、特権もまた失います。



3025-3028


バトルテックユニバース

 初期の「バトルテック」「メックウォリアーRPG」は、この年代を舞台にしています。3025年に第三次継承権戦争が終結。来るべき新たな戦いに向けて、各勢力が陰謀や軍備を進めているという状況です。

 プレイヤーは、メック戦士や支援要員(技術者、偵察兵など)になり、過酷な戦場を生き抜きます。王家に雇われた傭兵としてプレイすることが多くなるでしょう。惑星防衛に、襲撃、反乱鎮圧、海賊退治……仕事は数え切れないほどです。宇宙のあちこちには、星間連盟時代の物資貯蔵庫が残されています。ファンタジーRPGのように、PCはこれらの遺跡に挑むこともあります。また世界観自体も、SFというより歴史をベースにしたファンタジーであると考えた方が理解しやすいかもしれません。


バトルメック

 身長20メートル前後の、巨大人型兵器です。日本のロボットアニメを模して作られたものですが、イメージは「ガンダム」や「マクロス」とまったく異なっています。まず空や宇宙を飛べません。地上専用です(ただしジャンプできる機種が存在します)。

 戦い方は装甲の削りあい。基本的に避けるという概念がありません。武器はオートキャノンやミサイル、レーザー砲などです。パンチにキックを使った格闘もできます。

 メックの重さは20トンから100トン。「重い方が強い」という鉄則が存在します。20トンの軽量級メックが5機集まっても、100トンの強襲級メックに勝つのは難しいでしょう。頭に操縦席があり、ここは装甲が薄いため、メックに共通の弱点です。ただしルール的に狙い撃ちは難しくなっています。


3025年の各勢力

・恒星連邦(ダヴィオン家)
 最も強大かつ強力な継承国家。効率的な軍事組織を持つ。ニューアヴァロン科学大学にて、旧時代の技術を取り戻すべく、研究を進めている。支配者は〈狐〉のハンス・ダヴィオン国王。

・ライラ共和国(シュタイナー家)
 タマラー協定、ドネガル保護領、スカイア連邦の3国からなる寄り合い所帯。貴族的であるのと同時に、商人の国で、経済的に他王家を凌駕している。現在、ドネガル系の国家主席カトリーナ・シュタイナーが国を指導している。

・ドラコ連合(クリタ家)
 日本人の子孫であるタカシ・クリタが権力を維持している。この国のメック戦士は「サムライ」であり、やや独特で非効率的な軍事システムが見られる。継承権戦争では、ライラ共和国タマラー協定領の半分を奪取した。

・自由世界同盟(マーリック家)
 数多の小国からなる連合国家。反乱と内戦が蔓延り、ヤノス・マーリック総帥は弟と戦ったことすらある。そういった事情により、国力を活かせないでいる。

・カペラ大連邦国(リャオ家)
 五大王家中、最も小さな国家。継承権戦争で恒星連邦に領地の半分を奪われた。陰謀家のマクシミリアン・リャオ首相は、うまく立ち回りされすれば、星間連盟首長の座を狙えると信じている。

・コムスター
 地球に本拠を構える中立組織。各国に恒星間通信(HPGパルス通信)を提供している。創設者ジェローム・ブレイクと科学技術を信仰する宗教的な団体である。メックを継承できなかった貴族の子弟が、この「聖ブレイク教団」に入団することも多い。裏では宇宙を支配する独自の策謀を続けている。

(注:これら五大国家の存在する範囲を〈中心領域〉と呼ぶ。地球を中心に数百光年である。中心領域の向こう側は、〈辺境〉で、中小国家や蛮王国が遍在している)


大同盟

 3020年ごろ、ライラ共和国のカトリーナ・シュタイナー国家主席は、長引く継承権戦争に飽き飽きし、他の国家指導者たちに和平調停を申し出ました。この声に応えたのが、恒星連邦のハンス・ダヴィオンです。両王家は、コムスターの仲介のもと、同盟を結びました。

 危機を感じた残りの継承武王三家も、カプテイン協約によって、緩やかな同盟関係を作り出しています。この時代、中心領域は大きくふたつの勢力に別れていると考えてもいいでしょう。





3028-3030


第四次継承権戦争

 3028年8月20日、ハンス・ダヴィオンとメリッサ・シュタイナーが結婚します。前者は恒星連邦の国王、後者はライラ共和国国家主席の娘です。 両国は、同盟のみにとどまらず、近い将来の国家併合を考えていました。ふたりの子供が新たな超大国を指導するというわけです。

 地球で開かれた結婚式には、各王家のリーダーが招かれていました。その場で、ハンス・ダヴィオン国王は、カペラ大連邦国(リャオ家)への宣戦布告を行います。彼の戦略目標は、地球周辺にあるリャオの惑星です。いわゆる地球回廊を造りだし、遠く離れた二国家をつなぐことを目論んでいました。

 こうして、ドラコ連合、自由世界同盟も巻き込んだ、第四次継承権戦争が始まったのです。戦争は比較的短い3年間で終わりました。しかしその規模と影響は大きなものでした。

 カペラ大連邦国は大敗北を喫し、領土の半分を失いました。恒星連邦=ライラ共和国同盟軍は各地で大勝利を納め、騒ぎが沈静化するまで多くの惑星を獲得しました。しかし恒星連邦はドラコ領域でいくつかの重要な惑星を失い、画竜点睛を欠きました。



3031-3039


内乱と新国家誕生

 第四次継承権戦争で最も大打撃を受けたのは、カペラ大連邦国です。元々脆弱であったこの小国は領土の半分を失いました。そのすべてが侵略のみによって、奪われたものではありません。

 第四次継承権戦争中の3029年にカペラ領内の一部が、新国家「聖アイヴス協定」として独立してしまいます。指導者は、マクシミリアン・リャオの娘キャンダス・リャオ。恒星連邦のスパイ(ジャスティン・キング=アラード)と結婚し、恒星連邦寄りの国家を作り上げました。

 カペラ軍の実質的な最高司令官であったパーヴェル・リジックは、地球周辺のサーナ共和区を率いて独立しました(チコノフ自由共和国)。しかし彼は3031年に暗殺され、新国家は連邦=共和国に吸収されてしまいます。

 このふたり、リャオを裏切ったつもりはありません。崩壊する国家のために最善手を打った結果が、独立だったのです。しかし、マクシミリアン・リャオ首相にとってみれば、実の娘と腹心に裏切られたことになります。彼は精神のバランスを失い、とても国家運営の出来る状態ではなくなりました。かわりに娘のロマーノ・リャオ(キャンダスの姉)がカペラ大連邦国の手綱を握ることとなります。

 第四次継承権戦争終結後すぐに、新たな国家消滅の危機がやってきました。自由世界同盟のアンドゥリエン公国が独立し、カノープス統一政体と同盟を結んで、カペラ大連邦国へと攻め込んできたのです。リャオ家の新リーダー、ロマーノ・リャオはなんとかこれを撃退し、国家再建への気運を盛り上げました。

 この時期に、もうひとつ大きな独立国が生まれています。3034年、ライラ共和国、ドラコ連合の間に出現した自由ラサルハグ共和国です。

 第四次継承権戦争でライラ共和国は、ドラコ連合ラサルハグ軍管区から多くの惑星を獲得しました。タマラー協定の旧領土です。バトルテック、メックウォリアーリプレイでシナリオソースにされていたように、この地域は独立心が旺盛です。現地の民衆は、クリタの支配から逃れるため、攻め込んできたシュタイナー軍に喜んで力を貸しました。しかしクリタ家を追い出したところで、シュタイナーが新たな支配者になっていることに気づきました。

 ラサルハグの人々は、今度はシュタイナーに対する抵抗運動を始めます。根負けしたシュタイナーはラサルハグ併合を諦め、新国家樹立を認めました。一方、コムスターと通じていたドラコ連合は、すぐさまこの独立国家を承認し、それだけでなく領内に残った旧ラサルハグ領(ラサルハグ軍管区)を手放しました。こうして3034年、完全な形で、自由ラサルハグ共和国が誕生したのです。

 しかしラサルハグ軍管区に駐留していたドラコ軍人たちは、この地域からの撤退をかたくなに拒んで、ドラコ連合上層部に反旗を翻しました。浪人戦争の勃発です。彼らの抵抗は長く続かず、3035年に自由ラサルハグ共和国=ドラコ連合=ライラ共和国の連合軍が勝利しました。

 このラサルハグ建国とほぼ同時期に、ライラ共和国内のスカイア連邦で独立運動が活発化しています(スカイア危機)。ラサルハグの独立により、ライラ共和国は、ドネガル保護領とスカイア連邦の2国で構成されることになりました。しかし、実権のほとんどは、ドネガル出身のシュタイナー家が占めているのです。非主流派たるスカイアが分離独立したがるのも当然といえましょう。またドネガルが勝手に押し進める連邦=共和国合併への反発も、背景のひとつです。

 結局、調停により、独立運動は消滅しました。しかし、ライラ共和国と、将来誕生する連邦=共和国にとって、スカイア連邦は大きなとげであり続けるのです。


見えない戦争

 恒星連邦とライラ共和国の同盟・併合は、中心領域のパワーバランスを著しく崩しました。超大国の出現に、他の三王家だけでなく、コムスターもまた脅威を感じます。この組織が中立を守るにせよ、陰謀を図るにせよ、特定の勢力が突出するのは好ましくないのです。

 第四次継承権戦争中、コムスターは恒星連邦を「破門」し、領内のHPG通信システムをすべて止めてしまいました。これを予期していた恒星連邦国王ハンス・ダヴィオンは、自前の設備と航宙艦を活用して、なんとか通信を確保し続けます。

 両者の対立は悪化を続け、3029年、恒星連邦正規軍がサーナのHPG施設を攻撃、報復としてコムスターがNAIS(ニューアヴァロン科学大学)を襲撃する事態にまで発展しました。同年、リャオ侵攻の経過に気をよくしたハンス・ダヴィオンは、コムスターと和解の協定を結びます。

 しかし第四次継承権戦争後も両勢力の抗争が依然として続いていました。この戦いの主力は、バトルメックでなく、水面下で暗躍するスパイです。恒星連邦は自国内からコムスターのROM(秘密諜報員)を一掃するため「オペレーションフラッシュエンド」を発動しました。この「情報戦」で数千名のエージェントが死亡し、コムスター、恒星連邦、双方の諜報網がずたずたに引き裂かれました。

 このように恒星連邦が消耗戦を繰り広げる一方で、コムスターとある種の同盟関係を結んだ人物もいます。ドラコ連合の次期大統領セオドア・クリタです。


竜の後継者

 ドラコ連合といえば、狡猾にして残虐。バトルテック世界においては、二流の悪役に過ぎません。第四次継承権戦争でも、タカシ・クリタ大統領は傭兵ウルフ竜機兵団との無意味な戦いに固執し、恒星連邦、ライラ共和国に領土を蹂躙されてしまいました。この老大国は滅びの道を歩みつつあるように見えました。

 しかしドラコ連合には、セオドア・クリタがいました。タカシの息子である彼は、第四次継承権戦争中に、指揮下のヴェガ連隊と優れた戦略眼を駆使して、恒星連邦=ライラ共和国同盟軍の猛攻を食い止め、逆に恒星連邦からバトルメック工場のあるマーダックなどいくつかの惑星を奪い取る戦果を上げています。実のところ、この若者は、中心領域で一、二を争う戦術家、戦略家だったのです。

 タカシ・クリタもセオドアの才覚は認めざるを得ず、戦後「軍事の管領」というドラコ連合軍最高司令官の地位を与えました。実権を握ったセオドアは軍の刷新を押し進め、またコムスターや国内のヤクザ組織と密かに取引を行い、大きな後ろ盾を得ました。セオドアとドラコ連合は少しずつ力を蓄えていたのです。しかし、コムスターと戦い諜報力を落とした恒星連邦はこの事実に気づいていませんでした。

 3039年、恒星連邦=ライラ共和国同盟軍が、ドラコ連合領に雪崩を打って攻め込んできます。いわゆる3039年戦争の始まりです。ハンス・ダヴィオンは圧倒的な軍事力でドラコ連合を過去のものにしようと考えていました。

 セオドア・クリタ率いるドラコ正規軍はいったん引いて守勢にまわり、機を見て、数に勝る連邦=共和国への反撃を開始しました。戦場に投入されたのは、星間連盟技術を使った強力なバトルメック――コムスターから秘密裏に受け取った技術で製造した最新機でした。セオドアは連邦=共和国の侵攻を予測して、あらかじめ周到な防衛計画を進めていたのです。大規模な反攻作戦で、ドラコ連合は戦争初期に奪われた惑星のほとんどを取り戻し、恒星連邦からメック工場のある惑星クェンティン、イラーイなどを獲得しました。この結果、恒星連邦からは強襲級メックを生産する工場が無くなってしまっています。

 圧倒的な国力差があったにもかかわらず、セオドアは恒星連邦とハンス・ダヴィオンを相手に二度目の勝利をおさめたのです。時代の進んだバトルテック世界において、セオドアとドラコ連合は悪役どころか、主役の一翼を担う存在と化しています。



3040-3049


成長と平和

 それからの10年間、中心領域を平和が覆います。継承権戦争の時代は終わりを告げたのです。

 3028年に傭兵グレイデス軍団が発掘した星間連盟「図書館(グレイデスメモリーコア)」により、様々な技術が復活しました。航宙艦やバトルメックの生産が可能となり、XLエンジン、エンドースチールなど星間連盟時代の高度な装備が再登場しています。

 「図書館」の恩恵は民間にもおよび、産業用メック生産、食糧増産など、経済の活性化と人口増加をもたらしました。中心領域と同様に辺境のタウラス連合、マリウス帝国などもまた、大きな飛躍を遂げています。

 なお、この時期、自由世界同盟ではトーマス・マーリックが総帥になっています。彼はコムスターの元教団員です。バラバラだった自由世界同盟をひとつにまとめ上げ、強力な統一国家を作り上げました。

 3041年、恒星連邦とライラ共和国が正式に併合し、新国家〈連邦=共和国〉が発足しています。


3049年の各勢力

・連邦=共和国
 新たに誕生した大国。かつてのライラ共和国と恒星連邦からなる。中心領域の半分を占める。だが、合併のひずみは大きく、いくつもの不安要素を抱えている。王子ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンが、次代の国家指導者である。

・ドラコ連合
 この20年で大きく変化・刷新した国家。セオドアの影響力は強いものの、いまだにタカシ・クリタが大統領の地位にある。

・自由世界同盟
 トーマス・マーリックの指導力により、本来の国力を発揮しつつある。トーマスは爆弾テロで重傷を負ったが、コムスターの手により復活した。

・カペラ大連邦国
 いまだ第四次継承権戦争の傷は癒えていない。市民の生活は厳しい。

・自由ラサルハグ共和国
 旧ライラ共和国とドラコ連合のあいだに生まれた新国家。両大国に対しては中立的な立場を維持している。

・聖アイヴス協定
 連邦=共和国の属国のような存在である。 キャンダス・リャオの息子、カイ・アラード=リャオはニューアヴァロン科学大学に留学し、軍事訓練を受けている。



3050-3052


ケレンスキーの帰還

 3049年、辺境で海賊を掃討していた傭兵部隊ケルハウンドは、突如、強力な敵部隊と遭遇し、司令官の息子フェラン・ケルが行方不明となります。彼は作戦中に死んだものとされました。このときはまだ、誰もその意味を深く考えませんでした。

 翌年――3050年の3月。中心領域は突如押し寄せた、謎の軍勢による大侵攻に直面します。氏族(クラン)を名乗る彼らは、強力なバトルメックとずば抜けたメック操縦技術、独特の軍事戦術を有しており、瞬く間に旧ライラ共和国、自由ラサルハグ共和国、ドラコ連合の諸惑星を征服していきました。中心領域は敗北と潰走を続け、わずかに二度の勝利を得たのみでした。

 惑星トワイクロスにおいては、ひとりの若いメック戦士が自機ハチェットマンを自爆させ、ジェイドファルコン氏族の精鋭部隊ファルコンガードを岩の下に生き埋めにしました。このメック戦士こそ、カイ・アラード=リャオ。聖アイヴス協定の第一王子です。

 もうひとつの勝利は、セオドア・クリタの息子、ホヒロ・クリタによるものでした。スモークジャガー氏族に捕まったホヒロ(星郎?)は捕虜収容所から脱走したあとで、ウォルコットにてスモークジャガー軍を破り、氏族の強力な装備を戦利品にしました。

 もっともこれらの事例は、局地的勝利に過ぎません。ほとんどの惑星において、中心領域軍は降伏を余儀なくされていたのです。氏族の快進撃により最も大きな被害を被ったのは、自由ラサルハグ共和国でした。領土の多くを失い、国家消滅の寸前まで追い込まれてしまいます。

 3050年10月には、ラサルハグ選定公ハーコン・マグヌッソンを乗せた航宙艦が、氏族戦艦の待ち伏せに会います。選定公はなんとか脱出しましたが、時間稼ぎしていた気圏戦闘機部隊が現場に取り残されました。このなかには、ラサルハグ有力者の娘であるティラ・ミラボーグも含まれていました。彼女は気圏戦闘機シロネで、氏族の旗艦ダイアーウルフに体当たり攻撃をしかけ、乗艦していた大族長レオ・シャワーを殺しました。これによって、氏族は侵攻を一時中止し、新しい大族長を選ぶため、本拠地に帰還することになります。


氏族(クラン)

 彼らは中心領域から脱出(エクソダス)したケレンスキー将軍と星間連盟防衛軍の末裔です。古いケレンスキー将軍の誓いを守り、星間連盟の理想を復活させるため、中心領域に帰ってきたのです。

 氏族の社会は、戦士を頂点とするカースト制です。人口の0.01%に過ぎない戦士階級が、全体を支配しています。階級の神判(決闘)に勝ち残った戦士が、より高い軍事階級につき、もっとも優れた者が各氏族の代表者である族長(カーン)となります。戦士のうちほとんどは遺伝子操作で生まれた「トゥルーボーン」です。男女から普通に生まれた人間は「フリーボーン」と呼ばれ、様々な差別を受けます。

 戦士たちだけでなく、彼らの使う装備もまた驚異です。星間連盟の技術を受け継ぐ氏族は、それを高度に発展させました。その代表格がオムニメックで、中心領域のバトルメックより数段優れた能力を有しています。中でも有名なのが、機動力、火力、装甲を高次元で兼ね備えた機体ティンバーウルフ(中心領域名マッドキャット)でしょう。また歩兵用の装甲服バトルアーマーが存在し、これを着て戦う遺伝子改良された身長2m以上の巨人たちは、エレメンタルと呼ばれています。

 氏族は決して一枚岩ではありません。ウルフ氏族、ジェイドファルコン氏族、スモークジャガー氏族、ゴーストベア氏族等の動物名を冠した勢力に分かれています。中心領域に対する態度も、守護派(中心領域を教育し導いて星間連盟を復活させる)、侵攻派(中心領域を滅ぼして星間連盟を復活させる)と二分しています。


ウルフ竜機兵団

 この傭兵部隊は、3005年、どこからともなく中心領域に姿を現しました。出自は疑問であったものの、五大王家のすべてがウルフ竜機兵団を雇い、そのたびに彼らは勇猛果敢な戦いぶりを見せ、名実ともに最高の傭兵部隊の座を不動のものとしています。

 ウルフ竜機兵団の正体は、氏族が派遣した先遣部隊(スパイ)です。3000年当時、氏族内では侵攻派が勢力を強めており、守護派のウルフ氏族(中心領域と争いたくなかった)は中心領域に偵察部隊を送ることで妥協を計りました。その偵察部隊こそがウルフ竜機兵団であり、中心領域にやってきた彼らは傭兵を名乗り、各王家に仕えて情報を集めました。

 かの有名な"ブラックウイドウ"ナターシャ・ケレンスキーは、ウルフ氏族のトゥルーボーンです。まさしく人間離れした腕を持っているのも当然でしょう。といってもすべてのトゥルーボーンの戦士が、彼女ほど優秀なわけではありません。ナターシャ・ケレンスキーはその後ウルフ氏族長になるほどの傑出した存在です。

 第四次継承権戦争の直前、ウルフ竜機兵団は雇い主のドラコ連合と折り合いが悪くなり、惑星ミザリーで名誉をかけ激突する事態にまで発展します。この戦いで竜機兵団は部隊の2/3以上を失います。クリタ家はすべての傭兵を憎み、彼らを雇うことはなくなりました。

 その後、ダヴィオン家と契約した竜機兵団は、第四次継承権戦争中もクリタとの戦いを続けました。その後ウルフ竜機兵団は惑星アウトリーチを下賜され、この星でバトルメックの生産や傭兵部隊の仲介などの業務に乗り出します。

 3051年、ウルフ竜機兵団の最高司令官ジェイム・ウルフ大佐は、各王家の指導者をアウトリーチに呼び出し、自らの出自を明らかにします。この最強の傭兵部隊は、もはや氏族に従う気はありませんでした。氏族はどのような存在か、どのように戦うべきか、様々な情報を集まった指導者たちに伝えました。ナターシャ・ケレンスキーのみがウルフ氏族に帰還しました。

 3052年、侵攻を再開した氏族の部隊は、とうとうドラコ連合首都惑星ルシエンにその矛先を向けます。クリタ家と不戦同盟を結んだ連邦=共和国は、援軍としてウルフ竜機兵団、ケルハウンド(ウルフ竜機兵団に次ぐ能力を持つ傭兵)を送り、氏族の撃退に成功しました。

 ここにはふたつの和解が含まれています。まずドラコ連合と連邦=共和国、継承国家同士の和解。そしてドラコ連合とウルフ竜機兵団(及びすべての傭兵部隊)の和解です。中心領域では氏族に対抗するため、互いに協力する傾向が強まります。


ツカイードの戦い

 コムスター。この謎めいた集団は、中立の仮面の下に、鋭い牙を隠し持っています。彼らは早いうちから氏族と連絡を取り、中心領域と戦わせることで、両者の力を相殺させ、やがては自分たちの手で宇宙を支配しようと考えていました。しかし、氏族の最終目的地が地球(コムスターの本拠地)と知って、対決の意志を固めます。

 コムスター軍の戦司教(総司令官)アナスタシウス・フォヒトは地球を賭けた「所有の神判」を氏族に申し入れます。もし氏族が勝ったら地球を渡し、コムスターが勝ったら氏族は侵攻を15年停止する。以上が条件です。大氏族長ウルリック・ケレンスキーは挑戦を受けてたちました。

 3052年、自由ラサルハグ共和国の惑星ツカイード上で、コムガード25個師団(50個連隊)、氏族連合軍25個銀河隊(ギャラクシー)もの大軍が激突しました。コムガード(コムスター軍)は、氏族軍の補給路を断つ作戦に出ます。21日間に及ぶ大激戦の結果、ダイアモンドシャーク氏族、スティールバイパー氏族、ノヴァキャット氏族が、コムガードに敗北。ジェイドファルコン氏族とゴーストベア氏族が引き分け。勝利を得たのはウルフ氏族のみでした。ツカイードの戦いは、コムスターに軍配が上がり、条件通り15年の停戦が結ばれることとなったのです。

 同じころ、コムスターの指導者ミンド・ウォータリーは、HPG通信を使用不能にすることにより、氏族・中心領域双方を大混乱に巻き込もうと策謀していました(スコーピオン作戦)。しかしこれは失敗します。勝利を手に地球へ戻った戦司教アナスタシウス・フォヒトは、ミンド・ウォータリーを排斥、コムスターの改革に乗り出します。この動きに反対する一派がコムスターより離脱して、ワード・オブ・ブレイクを名乗ります。この狂信者たちは元コムスターのトーマス・マーリック総帥を頼り、自由世界同盟内の惑星ギブソンに居を構えました。



3053-3057


内部闘争

 この時期、各国で首長が代替わりします。連邦=共和国は、ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオン(ハンス・ダヴィオンとメリッサ・シュタイナーの長男)が巨大な国家を支配します。ドラコ連合ではタカシ・クリタが腹を切り、既定路線通り息子のセオドア・クリタが王位を継承します。

 一方、カペラ大連邦国の新たな首相となったのは、スン=ツー・リャオという若者でした(スン=ツーは漢字にすると孫子)。彼は大きな目標、もしくは野望を抱いていました。第四次継承権戦争によって失われたかつての領土を取り戻そうというのです。その第一歩として、自由世界同盟と同盟関係を結びます。

 しかし自由世界同盟のトーマス・マーリック総帥に、連邦=共和国を攻撃する気は毛頭ありません。それどころか、氏族と戦うヴィクター国王に惜しみない援助を与えています。総帥の息子ジョシュア・マーリックが、ニューアヴァロンのNAISにて、白血病の治療を受けていたからです。

 スン=ツー・リャオにチャンスが巡ってきたのは、3057年のことです。NAIS医療チームの努力の甲斐なく、ジョシュア・マーリックは亡くなります。困ったヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンは、ジョシュアの替え玉を用意しました。これはすぐにばれて、マーリック総帥の怒りを買いました。

 こうして、連邦=共和国サーナ境界域(旧カペラ連邦サーナ共和区)への侵攻が始まったのです。攻めるはマーリック−リャオ同盟軍。守る連邦=共和国は氏族戦線に手一杯で、有効な戦力を割けませんでした。同盟軍は13の惑星を連邦=共和国から奪い去りました。

 このとき中心領域には、スン=ツーよりも大きな野望を抱いている人物がいました。キャサリン・シュタイナー=ダヴィオン。ヴィクター国王の妹です。彼女は兄に変わって連邦=共和国を支配したいと渇望していました。3055年には、計画の邪魔となるメリッサ・シュタイナー――実の母親を暗殺しているほどです。中心領域随一の謀略家といって間違いないでしょう。

 キャサリンは、替え玉の件でヴィクターを非難すると、旧ライラ共和国領を率いて独立してしまいます。この新国家をライラ同盟といいます。建国と同時に自らの名前をカトリーナ(偉大な祖母と同名)に変更。そして中立を宣言します。

 旧恒星連邦領にまで縮小した連邦=共和国は、独力でマーリック−リャオに対処せねばなりませんでした。苦慮したヴィクターは、自由世界同盟にかつての領土を返却し、うまく和平を勝ち取りました。同盟者を失ったリャオも、渋々、連邦=共和国との停戦に合意します。

 この状況で、サーナ境界域には混沌がはびこりました。それぞれの惑星に、ヴィクター支持派、カトリーナ信奉者、リャオの工作員、マーリックの雇った傭兵……、あらゆる勢力が入り乱れる状況となったのです。この一帯は、カオス境界域(カオスマーチ)という新たな名前を授かりました(傭兵を主役としたTRPGキャンペーンを行うには絶好の舞台のようです)。

 そんな混乱をぬって、3058年、ワード・オブ・ブレイクが、コムスターの本拠地テラ(地球)を占領しました。氏族の再侵攻に備えていたコムスターは地球奪還を断念します。そしてそのあいだに狂信者の集団は着々と力を蓄えていくのです。


拒絶戦争

 一方の氏族内でも、二大勢力のウルフ氏族とジェイドファルコン氏族が、対立を始めていました。元々、ウルフ氏族は守護派、つまり中心領域を保護する考えを持っており、軍事力による侵攻に反対していました。ウルフ氏族出身の大氏族長ウルリック・ケレンスキーは、守護派の中心的人物です。そんな彼が、氏族の力を減じるためコムスターと密かに結び、ツカイードの戦いを起こしたのではないか――そう告発したのはジェイドファルコン氏族でした。

 3057年8月8日、族長会議での投票の結果、ウルリック・ケレンスキーは大族長の座を失ってしまいます。氏族では実力によって採決をひっくり返すことが可能です。ケレンスキーは、ジェイドファルコン氏族に対して拒絶の神判を宣言し、戦争による決着を試みました。これが拒絶戦争です。

 惑星トワイクロスにおいて、ジェイドファルコン氏族は氏族的でない待ち伏せ攻撃を仕掛け、大族長ウルリック・ケレンスキーを抹殺します。またウルフ氏族長ナターシャ・ケレンスキーが(信じられないことに)一騎打ちで敗北し、その波乱の生涯に幕を下ろします。拒絶戦争はジェイドファルコン氏族の勝利に終わりました。

 負けたウルフ氏族は、ジェイドファルコン氏族に吸収されてしまうかと思われました。しかしウルフ氏族の戦士ヴラッドが、ジェイドファルコン氏族の汚いやり口(ウルリック・ケレンスキーを待ち伏せ攻撃で倒した)を告発し、ジェイドファルコン氏族長に一対一の神判を求めました。この戦いで、ヴラッドは勝利を得て、自らの氏族を救いました。また彼は新たなウルフ氏族長となり、ワードのブラッドネームを獲得しました。

 拒絶戦争に際して、ウルリック・ケレンスキーはウルフ氏族内の守護派をあらかじめ中心領域に脱出させていました。脱出した「放浪ウルフ氏族」は、ライラ同盟のアークロイヤルに移動、傭兵部隊ケルハウンドと合流して、新たな勢力を作り出します。放浪ウルフ氏族のフェラン・ケル族長は、ケルハウンド司令官モーガン・ケルの息子です。3049年に海賊との戦いで死んだと思われていたフェランは、ウルフ氏族に捕らえられ、その実力がゆえに氏族内で大出世を遂げていたのです。

 こうしてヴラッド・ワード族長のウルフ氏族(侵攻派)と、フェラン・ケル族長の放浪ウルフ氏族(守護派)、ふたつのウルフ氏族が誕生しました。彼らは互いに反目し、融合は難しいと見られています。一方、氏族長を失ったジェイドファルコン氏族ではマーサ・プライドが新たなる族長となり、拒絶戦争からの回復を図ります。



3058-3060


星間連盟の復活

 3058年、拒絶戦争に勝ったジェイドファルコン氏族は停戦を破り、再び中心領域に侵攻。ライラ同盟のコベントリを占領します。新たな危機に及んで中心領域の各勢力はコベントリに連合軍を派遣し、なんとかジェイドファルコン軍を撤退させます。団結と勝利の結果、各王家はこれまでのいさかいを捨て、星間連盟を復活させることに同意しました。新星間連盟の第一君主となったのは、スン=ツー・リャオです(彼は祖父マクシミリアン・リャオの悲願を達成しました)。

 新しい星間連盟防衛軍(SLDF)が編成され、ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンと戦司教アナスタシウス・フォヒトを中心に、ブルドッグ作戦を決行に移します。その目的はスモークジャガー氏族の殲滅。ひとつの氏族を滅ぼすことで、中心領域の能力を氏族に知らしめようというのです。3059年、数十個連隊からなる連合軍が、中心領域のスモークジャガー占領地域を四波に渡って攻撃し、すべての領土を取り戻すことに成功しました。このとき、ノヴァキャット氏族は神秘的な予知視に従い氏族を離れ、ドラコ連合の臣下となります。

 スモークジャガー氏族にとどめを刺すため、10個エリート連隊で編成されたサーペント機動部隊が、スモークジャガーの本拠地ハントレスへ侵攻。激戦の末、中心領域連合軍は、スモークジャガーの戦士階級を殲滅しました(市民階級は他氏族に吸収)。こうしてひとつの氏族が滅び去ったのです。

 戦いはまだ終わったわけではありません。SLDFはさらに、氏族の主星ストラナメクティへ移動し、侵攻の永久停止を賭けて神判を持ちかけます。これを大拒絶といいます。激しい戦いの結果、8戦5勝でSLDF側が勝利をつかみました。10年に渡る氏族の侵攻は、中心領域の勝利で終わりを告げたのです。


3060年の各勢力
・連邦=共和国
・ライラ同盟
・ドラコ連合(ノヴァキャット氏族含む)
・自由世界同盟
・カペラ大連邦国
・自由ラサルハグ共和国
・聖アイヴス協定
・ウルフ氏族占領地域
・ジェイドファルコン氏族占領地域
・スティールヴァイパー氏族占領地域
・ゴーストベア氏族(元自由ラサルハグ連合内の占領域に移住)
・アークロイヤル(ケルハウンド+放浪ウルフ氏族)
・辺境
・海賊
・コムスター
・ワード・オブ・ブレイク

・ウルフ氏族
・ジェイドファルコン氏族
・スティールヴァイパー氏族
・ダイアモンドシャーク氏族
・スノーレイヴン氏族
・ブラッドスピリット氏族
・クラウドコブラ氏族
・コヨーテ氏族
・ファイアマンドリル氏族
・ゴリアテスコーピオン氏族
・ヘルズホース氏族
・スターアダー氏族
・アイスヘリオン氏族





3060-3067


氏族紛争

 大拒絶後、氏族の本拠地では、大規模な所有の神判、つまり戦争が始まりました。氏族たちが争ったのは、スモークジャガー、ノヴァキャット、そしてゴーストベアの残した大規模な領土です。

 ノヴァキャットは中心領域に味方した罪を問われ、氏族から「放棄」されました。他氏族の攻撃を受け、多大な犠牲を払いながらも、ドラコ連合内に与えられた領土に撤退しています。一方、ゴーストベアは自主的に中心領域のラサルハグドミニオンへと集団移住していきました。数年前から密かに計画し、実行に移していたものです。

 領地を巡る戦いは、すべての氏族を巻き込み、絶え間なく続いています。確定した勝者や領土はなく、いずれ、より大規模な氏族内戦に結びつくことになります……。

 中心領域でも、氏族と氏族の争いが発生しました。スティールヴァイパーによる、ジェイドファルコン占領域侵攻がそれです。しかし、この攻撃は完全に失敗し、ヴァイパーは中心領域から撤退する事態に追い込まれます。

 ウルフ氏族は氏族最大級のゴーストベアに対応するため、ベアのライバル、ヘルズホースを呼び寄せて領土を与えました。


ブラックドラゴン・ソサエティ

 氏族から放棄されたノヴァキャット――。彼らはドラコ連合内に居住地を与えられましたが、そこもまた安住の地ではありませんでした。ドラコ人といえば、保守的な上に外国人嫌い。そんなドラコ人民が、元々侵略者であるノヴァキャット氏族を受け入れるはずがなかったのです。

 機に乗じて、かつてセオドア・クリタ大統領の暗殺をたくらんだ極右組織、黒竜会(ブラックドラゴン・ソサエティ)が活動を活発化させます。彼らは戦争を誘発するため、ドラコ正規軍に偽装して、ゴーストベア領、ライラ、恒星連邦のすべてに攻撃を仕掛けました。そして眠れる巨大な熊が目覚めてしまったのです。

 3064年、ゴーストベア戦争勃発。この当時、既知宇宙で最強ともいえる大軍勢が、なだれを打って、ドラコ連合の国境に押し寄せました。DCMS(ドラコ軍)とノヴァキャットは必死の防衛を行い、一年にわたり、血なまぐさい戦いが続きます。最終的に、この戦争を止めたのは、外部からの介入でした。チャンスと見た恒星連邦(ロビンソン家)とヘルズホースが、ドラコとベアの無防備な後方から強襲を仕掛けてきたのです。両国はこの新たな敵に向かうため、休戦を結びました。

 この後、恒星連邦軍とヘルズホース軍はすぐに撃退されました。しかし、この戦いは将来への禍根を残すことになります。


聖アイヴス戦争

 氏族宙域で大拒絶が行われていたそのころ、カペラ大連邦国の指導者、スン=ツー・リャオは陰謀を練っていました。彼の狙いはただひとつ、過去に奪われた旧領土の奪還です。彼は、カオス境界域で工作員を使い、独立世界を取り込んでいく一方、最大の目標である聖アイヴス協定に対しては、星間連盟第一君主の地位を利用し、攻撃を仕掛けます。

 このたくらみは途中で頓挫します。しかし、スン=ツーは辺境のタウラス連合・カノープス統一政体と同盟を結び、大きな援軍を得ます(三国同盟)。戦争遂行にあたって、自軍のみならず、外国の軍隊を使うあたりに、スン=ツーの謀略家としての才能が見え隠れしています。聖アイヴスは二年以上にわたって抵抗しましたが、結局、それ以上の被害を嫌って、カペラ大連邦国に戻る決断をしました。こうして、リャオ家は3025年時に保有していた領土をほぼすべて奪還したのです(カオス境界域除く)。


二人の後継者

 大拒絶のあと、氏族領域から中心領域に戻ってきたヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンは、留守中、連邦=共和国が妹カトリーナの手に落ちているのを目の当たりにします。摂政であった妹イボンヌが、未熟ゆえに、国家を姉に譲り渡してしまったのです。ヴィクターは氏族に勝った英雄であり、本来なら連邦=共和国の正統な後継者でしたが、内戦になるのを嫌って、ここはカトリーナに国を譲ります。彼の新たな役職は、SLDF最高司令官、そしてコムガードの戦司教です。前戦司教のアナスタシウス・フォヒトは常にヴィクターの味方でした。

 このまま中心領域にはしばしの安定が訪れるかに思われました。しかし、弟のアーサー(ダヴィオン=シュタイナーの末っ子)がカトリーナに暗殺されるに至ると、とうとうヴィクターは重い腰を上げて妹と戦う決意を固めます。結果、引き起こされたのが、破滅的な連邦=共和国内戦でした。

 兵を挙げたヴィクターは、ライラ辺境から出発し、中心領域を大きく「南下」して、カトリーナのいるニューアヴァロンを目指すことになります。ヴィクターの初戦はさんさんたる有様でした。対氏族戦の英雄、アダム・シュタイナーを相手に重傷を負い、あやうく負けてしまうところだったのです。仲間たちのおかげでどうにか勝利したヴィクターは、ジェイドファルコンの侵攻に備えてアダム・シュタイナーを残し、次の戦いへと向かいました。

 この連邦=共和国内戦で主な戦闘の舞台となったのは、バトルメックや気圏戦闘機の工場がある惑星です。ヴィクター率いる同盟軍は、コベントリ、アラリオンなど重要な世界を攻め落とし、恒星連邦側に向かう準備を整えます。ジェイドファルコンが突如としてライラに侵攻を仕掛けてきたのはこの時です。ジェイドファルコン軍は、国境線上の惑星ほぼすべてに強襲を行い、いともたやすく攻め落としていきました。内戦で傷ついたライラは危機に陥ります。

 が、連邦共和国にとっては幸運なことに、プライド氏族長の目的は、中心領域侵攻の再開ではなく、若い兵士たちの訓練だったのです。アダム・シュタイナー、ヴィクター派部隊が反撃を行い、ウルフがさらにファルコンの背後から襲いかかると、すぐにプライド氏族長は休戦を結びました。一時的にですが、危機は去ることになります……。


決着

 内戦において、ヴィクターは数多くの仲間、支援者を得ました。同盟軍には、連邦共和国兵の他に、馳せ参じた外国からの義勇兵(友人たち)、持ち場放棄してやってきたコムスター兵たちがいました。さらには、スン=ツー・リャオが援軍を送り、ワード・オブ・ブレイクさえもが暗黙の支持を与えたほどです。

 対照的に、カトリーナは余計な敵を増やしています。たとえば、中立派であったハセク家を信用せず、攻撃を仕掛けて、ヴィクター派にしてしまうなどです。これが両者の差を分けたのかもしれません。3067年、同盟軍の攻撃によって、とうとう恒星連邦の首都、ニューアヴァロンが陥落しました。この時、同時に、ピーター・シュタイナー=ダヴィオン(俗世から離れていたヴィクターの弟)率いる連合同盟軍が、ライラの首都ターカッドを攻め落としています。

 こうして、五年にわたった連邦=共和国内戦は終わりました。責任を感じたヴィクターは連邦=共和国を継ごうとはせず、ピーター(弟)とイボンヌ(妹)に任せ、コムスター戦司教の座に戻りました。捕らえられたカトリーナは、最終的にウルフ氏族のヴラッド・ワード氏族長の下へと行っています。



3067-3081


聖戦

 3067年11月、第四回星間連盟評議会開催。この会議で星間連盟の解散が決まりました……。これに絶望したのがワード・オブ・ブレイク教団です。彼らは星間連盟に加入し、独自の計画を実行に移そうと考えていました。

 怒ったブレイク教団は、ターカッド(ライラ共和国主星)、ニューアヴァロン(恒星連邦主星)に戦艦を差し向け、翻意を促しました。両国首脳がこれを拒否すると、戦艦の砲門が開かれ、地上に死の雨が降り注ぎます。これが、中心領域、いや人類宇宙を完膚無きまでに破壊することになる聖戦(Jihad)のはじまりです。

 なぜ、ワード・オブ・ブレイクが破滅的な凶行に走ったのか、それはわかりません。ともかく、彼らは戦艦、核生物兵器を使って、中心領域に恐怖と混乱をもたらしました。これはアマリス内戦と第一次、第二次継承権戦争を現代に再現したものといえるでしょう。

 ワード・オブ・ブレイクはいったいどこでこれほどの力を蓄えたのか? 答えは自由世界同盟にあります。トーマス・マーリック総帥はブレイク教団首位者として15年近くも狂信者たちを援助し、陰謀の苗床になっていました。それもそのはずでトーマスは偽物! ブレイク一派の秘密工作による替え玉だったのです……。

 聖戦勃発後、自由世界同盟は分裂し、同盟軍の戦艦と部隊の多くがブレイク派の手に落ちました。しかし、実は穏健派にして愛国者だった偽トーマスはテロや破壊に荷担せず、反ブレイク派の一員として戦い、いずれ恐怖の時代を生き延びることになります。


崩壊する中心領域

 次々と各国の主星、重要世界を攻撃し、占領していくワード・オブ・ブレイク。しかし、攻撃を受けた各勢力は満足な反撃を行えませんでした。

 恒星連邦は、主星ニューアヴァロンをブレイクに包囲されていたにもかかわらず、現地の指揮官が勝手にカペラ、ドラコとの戦闘を始めてしまい、加えて、ブレイクに敵意と恐怖を煽られたタウラス連合が攻めてくるに至り、国家存亡の危機を迎えます。

 ドラコ連合では、主星ルシエンの支配権をかけて、連合、ブレイク、ブラックドラゴンによる三つどもえの戦いが始まります。この戦いでは核兵器が使われ、ルシエンは回復不能なまでのダメージを受けました。3069年には、ブレイクに踊らされたスノウレイヴンが連合を攻撃。翌年、セオドア・クリタが死亡します。息子のホヒロが大統領の座を継ぎましたが、内乱と外敵により、やはり国家滅亡の瀬戸際にまで追い込まれます。

 コムスターは、地球奪還作戦の失敗と、ブレイクによる本拠地ツカイード強襲・包囲で、半壊しました。さらには、首位者がドラコ連合のスパイであったことが暴露され、暗殺されます。前戦司教フォヒトの正体もまたブレイクによって白日の下にさらされます……彼は戦死したことになっていたシュタイナー家の一族だったのです。この件で、コムスターは完全に求心力を失いました。

 謀略と情報操作もまた、ブレイクの強力な武器だったといえるでしょう。宇宙には疑惑と不信が満ちてしまったのです。


ターカッドの鍵

 聖戦が始まったその時から、ライラの主星、ターカッドはワード・オブ・ブレイクの戦艦によって包囲・封鎖されていました。この船こそ、ライラ共和国所属、LCS〈インビンシブル〉。かつて、ジャンプミスによって失われた、継承権戦争最後の戦艦です。これをブレイクは手にしており、ターカッド攻撃にもちいたのです。ライラ人としてはショックだったことでしょう。

 さらにショックと思われるのが、ヘスペラスIIがブレイク軍の前に陥落したことです。巨大なバトルメック工場を持つこの惑星は、かつて幾度となく侵略を受けても、けして失われることがありませんでした。そのヘスペラスが占領されたのです。この惑星だけでなく、ブレイク軍は、工業惑星ドネガル、コベントリ、ゲームワールド・ソラリス、傭兵の星ガラテアなど、ライラの重要世界を次々と手中におさめていきます。

 ライラの国家主席ピーター・シュタイナーは、ターカッドに閉じこめられてしまい、満足に国家の指揮を執れませんでした(さらにこの時期、ライラはマーリックやジェイドファルコンによる攻撃まで受けています)。救出作戦が失敗すると、ピーターは有名な英雄アダム・シュタイナーに国家主席の座を譲ります。


ヴィクター連合軍

 中心領域の危機に際し、コムスター軍司教のヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンは、コムガード、ライラ軍、放浪ウルフ、ジェイドファルコン(形だけの参加)の連合軍を編成し、ライラ同盟のターカッドとドネガルをワード占領軍から解放しました(このとき、アダム・シュタイナーは救出したピーターに国家主席の地位を返還しています)。

 3073年1月、ヴィクターは反ブレイクの拠点たるアークロイヤルに、中心領域、氏族の要人を集め、サミットを開催します。ここで反ブレイク連合軍を作り上げるのに成功したら、対スモークジャガー多国籍軍の再現といえるでしょう。しかし、ワードは希望のすべてを吹き飛ばしました。人体に仕込んだ爆弾テロにより、参加者の多数を死傷させたのです。

 サミットの失敗でヴィクターによる連合軍は潰えました。もしかしたらこのことは彼が聖戦というストーリーの主役にはなれないことを意味していたのかもしれません。


デヴリン・ストーン合同軍

 3071年、ひとりの男が惑星キタリーにあるワード・オブ・ブレイクの「再教育センター」から逃亡に成功します。彼は、デイビット・リーア教授(カイ・アラード=リャオの息子)とともに抵抗軍を組織し、ブレイク軍相手に勝利を収め、多くの志願兵を集めました。この男の名はデヴリン・ストーン。過去の記録が残っていない謎の人物です。

 3073年8月、デヴリン・ストーンと仲間たちはツカイードに姿を現し、ゴーストベアとの神判を行って、HPG施設の利用権を一年間獲得し、ここを臨時司令部としました。10月、彼は、デイビット・リーアの紹介で中心領域の指導者たちと顔を合わせ、やがてブレイクを打破するのみならず、スフィア共和国を産み出すことになります。

 彼の連合軍を構成するのは、ライラ同盟、ドラコ連合、恒星連邦、ウルフ氏族、ジェイドファルコン氏族、ノヴァキャット氏族です。このうち、ノヴァキャットは強烈にストーンを支持し、わざわざストーンが神判を行って、連合軍に参加した部隊の一部をドラコ連合領土に戻したほどでした。

 ツカイードでの会談後、ピーター・シュタイナー=ダヴィオンは暗殺によって死亡しました。彼はアダム・シュタイナーを後継者に指名し、正式に彼が新国家主席となります。


マスター

 内戦のさなか、ついにワード・オブ・ブレイクの真の黒幕が判明します。ザ・マスター。彼こそはテクノロジーの信奉者にしてサイボーグ化された機械の化身でした。マスターの手下であるサイボーグ兵、マネイドミニは宇宙の各地で激しい抵抗を繰り広げます。しかし、ストーン連合軍は着実にブレイクの本拠地、地球へと近づいていました。

 3078年、ついにデヴリン・ストーンは地球を攻め落とすのに成功します。中心領域と氏族の連合による勝利です。しかし、自らの命が潰える寸前、マスターは満足していました。彼の目的は、自分たちが悪役となって人々を団結させ、地球を中心に星間連盟崩壊以来失われていたバランスを取り戻すこと。ワード・オブ・ブレイクもマスター自身もそのためのコマに過ぎません。

 マスターの正体こそ、トーマス・マーリック。自由世界同盟の正統後継者にして、コムスター入信者からブレイク狂信者に転身した男。そして人類のために戦う理想家……。すべては彼の計画通りでした。トーマスは核の炎の中でブレイクの意思を達成したのです。


リーヴィング戦争

 中心領域が聖戦で破壊されていたそのころ、遠く氏族本拠地でもさらに破滅的な戦いが起きていました。リーヴィング戦争。それは氏族同士の大規模な紛争にして、科学者階級の公然とした反乱です。

 発端となったのは、スティールヴァイパー氏族のブレット・アンドリュースが大氏族長に選ばれ、中心領域に侵攻した氏族は「汚染」されていると訴えたことです。穢れた血統を取り除く(リーヴィング)と称して、中心領域氏族への攻撃が行われました。それは、教条主義と欲望と憎悪が混ざり合った暴挙でした。結果、ウルフ、ジェイドファルコン、ゴーストベア、ダイアモンドシャークが中心領域への完全な移住を余儀なくされ、以降、氏族宙域との連絡が完全に絶たれる結果となります。

 これと同時期に、いくつかの氏族が中心領域への再侵攻、あるいは移住をもくろみ、ヘルズホース氏族はファルコン、ベアの領土を奪い取るのに成功。スノーレイヴン氏族は辺境の外世界同盟に移住し、後に合併して、レイヴン同盟が生まれました。一方、アイスヘリオン氏族はファルコン領侵攻に失敗し、滅びの道へと向かっていきます。

 次から次へと血統がリーヴィングされていくなか、大きな危機感を持ったのが科学者階級の秘密組織ソサエティです。彼らは我こそが氏族の立役者であると信じ、戦士階級の支配に憎しみを抱いていました。3072年、ソサエティは、暗黒階級やコヨーテ氏族と手を結び、戦士階級に反旗を翻します。

 ソサエティの取った戦術は、ワード・オブ・ブレイクのそれとよく似ていました。HPG網の破壊、生物兵器の投入、なりすまし、遺伝子の改造と改竄、おぞましい人体実験、そして奇妙な新型兵器群です。ソサエティの魔の手は中心領域にまで及び、特に民間人階級の地位が低いジェイドファルコンにおいては、猛威を振るいます。ファルコン氏族長は鎮圧に成功しましたが、その過程で科学者階級を皆殺しにするという残虐な代償を自ら支払いました。

 リーヴィング戦争の中で、ファイアマンドリル氏族が滅びました。弱体化したアイスヘリオンはゴリアテスコーピンに吸収されました。各氏族の領土は荒廃し、食糧供給すらままならず、民間階級が死んでいきました。それでも氏族は、協力してソサエティに当たらず、それどころか反乱に気づくのに遅れ、リーヴィングと奪い合いに熱中していたのです。

 スティールヴァイパーの大氏族長ブレット・アンドリュースはようやく行動に移り、反乱軍に占領された各地を開放、あるいは破壊し、最後にはソサエティと同盟するコヨーテ氏族を打倒しました。このとき、コヨーテ氏族はかろうじて破滅を逃れています……ソサエティに与しなかったコヨーテの戦士たちが神判に勝利したからです。以後、コヨーテ氏族は力を失い汚名を負った氏族として存続していくことになります。

 リーヴィングを終えたブレット・アンドリュース大氏族長は、あろうことかとても大切なことを忘れていました。スティールヴァイパー氏族は中心領域に侵攻した氏族のうちのひとつです。そう……彼らも中心領域に汚染されており、リーヴィングの対象なのです。残った全氏族による殲滅の神判を受け、3076年、スティールヴァイパー氏族は滅びました。こうして、発案者の運命とともにリーヴィング戦争は集結したのです。

 しかし、氏族本拠地の暴力と破壊はまだまだ続きます。3085年、孤立化していたブラッドスピリット氏族が集団でターゲットにされて、消滅しました。ゴリアテスコーピン氏族は、血統にエリダニ軽機隊元隊員の遺伝子を混ぜるというスキャンダルを起こし(スコーピオンは星間連盟マニアで、エリダニ軽機隊は星間連盟防衛軍の生き残りなのです)、氏族本拠地から放棄されました。彼らは深辺境への移住を成し遂げ、スコーピオン帝国を打ち立てています。

 立て続けの殲滅・放棄を受けて、残ったのはかつて強大だった氏族の遺骸です。3085年時点で、氏族本拠地にいるのは、スターアダー氏族、クラウドコブラ氏族、コヨーテ氏族、ストーンライオン氏族のわずかに4氏族のみ。

 コヨーテはかろうじて殲滅を免れ、戦力はわずかに8個星団隊。ストーンライオンは、本拠地に残ったヘルズホースから作られた新氏族で7個星団隊しか持っていません。クラウドコブラは両者よりましな程度。唯一力を持っているのがスターアダー氏族で、単独一強のいびつな権力構造になっています。

 以降、彼らの消息は不明です。再建は可能なのか、次にいつ姿を現すのか、誰にもわかりません。



3081-3129


スフィア共和国

 ワード・オブ・ブレイクに勝利したデヴリン・ストーンは、旧ブレイク保護領(地球周辺)に新しい国家、スフィア共和国を建国しました。各勢力から多様な移民を受け入れ、同時に軍備を削減することにより、他国がうらやむようなふたつの美徳……平和と経済発展を獲得したのです。成功を目の当たりにした中心領域の諸国は、デブリンストーンの平和政策に追従。戦場の主役であったバトルメックは中心領域から大きく数を減らしました。

 全ての国家が、スフィア共和国に友好的だったわけではありません。サン=ツー・リャオのカペラ大連邦国は、領土の割譲に難色を示し、スフィア共和国とのあいだに軍事的な衝突が発生しました。3085年に和平が結ばれたものの、テロや内乱が起きるなど、その後もリャオ国境で騒ぎが収まることはありませんでした。しかし中心領域全体では、おおむね平和が保たれました。

 3130年、デヴリン・ストーン総統が引退を表明。そして、「いつの日か、共和国が必要としたら戻ってくる」との約束を残し、謎の失踪を遂げました。それでも、スフィア共和国では新しい総統が選ばれ、何も変わらない安定の時代が過ぎていくかのように見えました。しかし……、水面下では国内の各勢力の間で不和が広まっていたのです。

 暗黒時代が始まります。





3130-3150


グレイマンデー

 3132年8月、突如としてコムスターのHPG星間通信網が停止します。原因は不明、しかし何者かの工作であることは明白でした。一部のHPG基地は、知られていないバトルアーマーを装備した謎の部隊の攻撃を受けていたのです。

 原因も目的も不明。しかし、HPGがダウンしたというただそれだけで、スフィア共和国は崩壊していったのです……。内部勢力間の対立、四方八方から押し寄せる敵国。ブラックアウトから3年で共和国は滅亡の瀬戸際にありました。

 反乱と侵攻というまさに内憂外患の状況において、新総統ヨナ・レヴィンは、3135年に「フォートレス・リパブリック」の実行を宣言します。これはスフィア共和国の中心部分に兵を引き、航宙艦のジャンプを妨害することで、外敵の侵入を阻むという緊急プランです。フォートレス内部に残された世界はわずか35。フォートレス・リパブリックでスフィア共和国は実に領土の9/10を見捨てることになりました。レヴィンはいつの日かフォートレスの外に打って出て、旧領を取り戻すことを誓います。

 そしてフォートレスの外では、あるいは共和国の望んでいた通り、大王家や氏族の血で血を洗う抗争が始まります。


ハンマーフォール

 ライラ共和国では国家主席のメリッサ・シュタイナーが元自由世界同盟宙域に目を向けていました。そこにあるのは、かつての大国ではなく、聖戦で崩壊した中小国と独立世界――与し易い相手であることは間違いありません。ここにハンマーフォール作戦が切って落とされました。

 侵攻を受けた元マーリックの兵士たちは驚くことになります。ライラ兵に加えて、なんとウルフ氏族のメックが国境に押し寄せてきたのです。ウルフとの軍事同盟――これぞメリッサ・シュタイナーの勝算でした。ライラ共和国とウルフ氏族は次から次へと元自由世界同盟の世界を占領していきます。

 この戦いの中で、アラリック・ウルフという一人のスターコーネルが名を挙げました……彼にはひとつの大きな秘密があったのです。


ホームカミング

 この期に及んでも、元自由世界内では、「内戦」が進んでいました。3138年、反マーリックで知られるレグルスが元主星アトレウスを占領。さらには、オリエント保護領がアンドゥリエン公国の惑星クワマシュを襲撃し、放射性物質が大気中にばらまかれるという不快な事件が発生します。両陣営は互いを非難しましたが、実のところこれは不和と対立を広げるスフィア共和国工作員の仕業でした。

 オリエントのジェシカ・マーリックは、レグルスからアトレウスを奪還するため、共同の軍事行動を呼びかけます。これがホームカミング作戦です。駆けつけた参加者には、なんと移住した氏族人までもが混じっていました。商人氏族であるシーフォックス(ダイアモンドシャークから改名)の一部と、スフィア共和国から逃げてきたスピリットキャッツ(ノヴァキャットの神秘主義集団)の一派です。

 3139年、アトレウス奪還は成功。ジェシカ・マーリックが総帥に就任し、ここに自由世界同盟が復活します。しかし、その間もライラとウルフによる侵攻は続いていました。アトレウスはもう目と鼻の先です。


ウルフ帝国

 ウルフ氏族はライラ共和国に独力でのアトレウス強襲を任されます。ここに至ってようやくウルフは気づきました――LCAFはウルフを単なる使い捨ての消耗品として扱っていると。怒ったウルフ氏族は自由世界同盟との単独講和を結び、侵攻路を逆転させます。今度はライラ共和国への攻撃を始めたのです。

 ウルフ氏族は自由世界同盟からライラ共和国にまたがる60近い世界を占領します。それぞれの主星、アトレウスとターカッドに接する卵のような形の領土です。3142年1月1日、ウルフ氏族長はウルフ帝国の樹立を発表しました。誰にも気づかれていませんでしたが、彼らは密かに氏族占領域を放棄して新領土に移住を行っていたのです。

 ウルフ帝国の侵略を受け、ライラ共和国ではクーデターが発生し、メリッサ・シュタイナーが強制的に退位させられました。後継者は残念ながら無能で無責任な人物でした。


チンギス・ハーン

 さて、その間、他の氏族は何をしていたのか。ラサルハグドミニオンは元スフィア共和国領の一部を独立させてヴェガ保護領を作りました(後に吸収)。一方、ジェイドファルコン氏族は内戦の中にありました。

 ファルコンの氏族長に挑戦状を叩きつけたのは、狂気に満ちた人物、マルヴィナ・ヘイゼンです。彼女はモンゴル・ドクトリンという暴力的なイデオロギーを信奉しており、民間人を虐殺し、核兵器の投入すら辞さず、氏族のルールに従いませんでした。神判で氏族長を倒したマルヴィナは反対派を皆殺しにするため、主星に大破した戦艦を落とすまでします。

 モンゴル・ドクトリン(元は単なる機動戦術)の発案者だったヘルズホース氏族は、マルヴィナを新たな侵攻のシンボルと見なし、チンギス・ハーンの称号を贈ります。しかし、マルヴィナの狂気を見て自分たちの判断が正しかったのか疑問に抱き始めるのです。

 マルヴィナ・ヘイゼン氏族長は、シュタイナー家の苦境をチャンスと見て、ヘルズホースと共にライラ共和国への侵攻、ゴールデン・オルドゥンを開始します。ファルコンとウルフ、どちらも目標はライラの主星ターカッド。果たしてどちらが先にゴールへとたどり着くのか――


アラリック・ワード

 3氏族が主星ターカッドに迫り、国家主席代理までもが逃げ出すなか、空の玉座に残されたのはメリッサ・シュタイナーでした。

 3143年7月、ウルフ氏族が一歩先に到着し、ターカッドの宮殿を占領します。勇敢にも降伏を拒否したメリッサはウルフのエレメンタルに殺され、従姉妹のトリリアン・シュタイナーが国家主席の座を引き継ぎました。ジェイドファルコンも遅ればせながらターカッドに到着しますが、目的を達成したウルフ氏族はヒジュラを受けて撤退。ファルコンも渋々兵を引きました。

 本拠地に戻ったアラリック・ウルフは、ワードのブラッドネームを勝ち取り、新たにウルフの氏族長となります(※前ウルフ氏族長を暗殺しています)。そして、ここで驚くべき事実を公表するのです。彼女の母親は、連邦共和国内戦で敗北しウルフ氏族の一員となっていたキャサリン・シュタイナー=ダヴィオンでした。つまりアラリック・ワードはアラリック・シュタイナーとしてライラ共和国の王位につく継承権を持っているのです。

 さらに悪いことに、アラリックの正体はキャサリンが中心領域への復讐のために生み出した、シュタイナー=ダヴィオン血統のトゥルーボーンなのです。しかし、アラリックは母を拒絶して、自ら手にかけます(キャサリン・シュタイナー=ダヴィオン享年111歳)。精神面の弱さを克服したアラリックが目標とするところはひとつでした。

 ――地球に降り立って大氏族となること。


ノヴァキャットの怒り

 一方その頃、ドラコ連合では大統領とその子弟が不可解な死を迎えていました。最終的に玉座についたのは、傍系のヨリ・クリタなる怪しげな人物です。彼女の背後には、陰謀家の管領マツハリ・トラナガがいました。クリタ家は奸臣に血統を乗っ取られてしまったのです。

 ドラコ連合は高名な傭兵部隊、ウルフ竜機兵団を雇い入れ、恒星連邦への攻撃を成功させます。ドラコの「臣民」となっていたノヴァキャット氏族が、管領トラナガに反旗を翻したのは、ちょうどこの頃のことです。キャットは唯一クリタ家の正統として残された子供ダイスケを庇護していました。

 とって返したドラコ軍はノヴァキャットの本拠地イレースを攻撃し、反乱の鎮圧に成功します。ダイスケはイレースの廃墟の中から死体となって発見されます。3143年、ノヴァキャット氏族はクリタの正統とともに滅びました。残されたのは、脱出した小規模な集団と、自由世界同盟にいるスピリットキャッツのみとなります。


パルミラの大敗

 ノヴァキャットの乱が終わり、ドラコ連合の侵攻が再開されたそのころ、恒星連邦はカペラ大連邦国侵攻の計画を練っていました。急遽、ドラコ国境に転進したケーレブ・ダヴィオン国王は、パルミラに戦力を集結させ、レイヴン同盟からの軍事援助を取り付けます。

 スノウレイヴンの氏族長は、ケーレブの父親ハリソンと深い関係にある人物でした。だからこそ彼女はケーレブが国王にふさわしくない最悪な男であることを知っていたのです。スノウレイヴンはドラコ連合と密約を結び、ケーレブがどこにいるかの情報を流しました。

 3144年、ドラコ軍がパルミラを強襲し、AFFSの13個部隊をこの世から消し去りました。そして、国王ケーレブ・ダヴィオンも殺したのです。後継者であるジュリアン・ダヴィオンはそのときライラ宙域にいて氏族と戦っていました。

 国王不在。さらには境界域主星のニューシルティスとロビンソンを落とされ、恒星連邦は絶望の淵に立たされます。


救世主の帰還

 タッカー・ハーウェルはHPGの一部復旧を成し遂げたコムスターの天才技術者です。不幸にも誘拐され、拷問され、どうにか脱出した彼は、苦難と冒険の果てにもうひとつの偉業を達成します。スイスのとある山荘で、コールドスリープ中のデヴリン・ストーンを発見したのです。タッカーはストーンを起こすスイッチを押します。

 眠りについてから、わずか十数年での目覚めは、デヴリン・ストーンにとっても意外な出来事だったようです。状況を把握したストーンはスフィア共和国を救うため、様々なプランを実施し、恒星連邦のジュリアン・ダヴィオン国王に白羽の矢を立てます。

 地球に招待されたジュリアンは、ストーンと会談し、スフィア共和国との同盟を新たにしました。しかし、ジュリアンが恒星連邦の指揮をとる前に、最悪の事態が彼の祖国を襲います。ドラコ連合が第一次継承権戦争以来の悲願であるニューアヴァロン占領を成し遂げたのです。

 主星の外で戴冠したジュリアン・ダヴィオン新国王は、まずニューシルティスを奪還し、負傷しながらもカペラによる逆襲をはねのけます。リャオ家との非公式な停戦を受け、次なる目標はニューアヴァロンとロビンソンの奪還に他なりません。


ファルコン止まらず

 ファルコン氏族長マルヴィナ・ヘイゼンといえば、平気で虐殺を行いながら、ライラ人の少女(シンシア)を拾い、ペットのように可愛がっては虐待するという、この時代でも屈指の異常者にして危険人物です。

 懸念を示したファルコン副氏族長は、氏族長暗殺という氏族的でない解決手段を実行に移し、失敗しました。生き延び、昏睡から目を覚ましたマルヴィナは、不服の神判で副氏族長を殺し、新たな敵地強襲に乗り出します。目標は、ライラ共和国で最も手強い惑星、アークロイヤルです。

 アークロイヤルといえば傭兵ケルハウンドと放浪ウルフ氏族の本拠地。これまで幾度も侵略者の攻撃をはねのけてきた対氏族の城塞です。マルヴィナは軍事的才覚と残虐性によって、これを打ち砕きました。脱出した少数のケルハウンドは辺境へと向かい、放浪ウルフはライラ領土内に後退したものの、やがてどこかへと消えていきました。


ウォールを下ろす

 3149年1月、デヴリン・ストーンはフォートレス・リパブリックを解除しました(地球のぞく)。これにより侵略者たちは、残ったスフィア共和国の領土に航宙艦で足を踏み入れることが可能になります。

 恒星連邦との約束を守ったストーンは、RAFのタスクフォースを派遣し、ドラコ連合から境界域主星ロビンソンを奪還するのに成功します。

 とうとう打って出たデヴリン・ストーン。各勢力はストーンの深慮遠謀を警戒します。しかし、ウルフ、ファルコン、カペラ、ドラコと戦うには、決定的に資源が足りていませんでした。四方から猛攻を受けて、スフィア共和国は次々と領土を失っていきます。

 デヴリン・ストーンはウルフ氏族を最大の敵であると見なし、地球のウォールを突破する方法をわざとアラリック・ワードにリークしました。地球でウルフ氏族を迎え撃ち、撃破するつもりだったのです。が、狡猾なアラリックはこれに乗らず、ファルコンにも突破方法を教えるという策に出ます。

 3151年、地球にウルフ氏族、ジェイドファルコン氏族が到着し、スフィア共和国最後の戦いが始まります。


リバイバル

 アラリック・ワードは、ウルフ帝国中から戦力をかき集め、地球侵攻にほとんどすべてを投入しました。しかし、試算ではまだスフィア共和国を破るには足りていません。そこで彼はふたつの勢力を招待します。放浪ウルフ氏族とウルフ竜機兵団――かつてウルフ氏族から分離した者たちです。アラリックは全ウルフでこの神判に挑もうというのです。

 地球各地で戦闘が繰り広げられ、ふたつの氏族を同時に相手するスフィア共和国軍は劣勢に立たされました。仕方なくストーンはダミアン・レッドバーン前総帥の提案した秘策を実行に移します……氏族長の暗殺計画です。このダーティーな作戦はウルフの副氏族長を殺しただけにとどまり、レッドバーン前総帥は失敗の中で死亡します。

 こうなったらもうスフィア共和国に残された道はひとつしかありませんでした。氏族への降伏、そして共和国の解散。3151年、スフィア共和国は70年間の歴史に幕を下ろし、完全に消滅しました。

 一方、残されたふたつの氏族、ウルフとジェイドファルコンは、大氏族の地位を賭け、最後の神判に挑みます。

 この戦いには、とても奇妙な勢力が参加していました。スフィア共和国の極秘部隊で、ウルフのボンズマンとなったフィデリスです。彼らの正体はなんとスモークジャガーの生き残り。中心領域への借りを返すために、スフィア共和国の一員として戦っていたのです。アラリックはフィデリスに約束します……勝利したらスモークジャガー氏族を復活させると。

 決戦の場はアメリカ大陸。両軍ともに甚大な損害を出すなか、殊勲を上げたのはウルフの副氏族長アナスタシア・ケレンスキーでした。アナスタシアのサベージウルフがチンギスハーンことマルヴィナ・ヘイゼンを撃破したのです。

 ウルフ氏族の歴史的勝利。大氏族の誕生、そして第三星間連盟の復興。アラリック・ワードは我こそ大氏族長にして第一君主であるとの宣言を行います。エグゾダスから367年、ケレンスキーはここに帰還を果たしました。


新体制

 究極の勝者になったアラリック・ワードは、単なる独裁者として振る舞いませんでした。それどころか負けたジェイドファルコンを保護し、スモークジャガーの復活を実現させさえしています。このあたりは、氏族をまとめる大氏族、大氏族長にふさわしい行動と言えるでしょう。

 ただし、ウルフ竜機兵団だけは話が別でした。アラリックは3000年前の地球の故事にも詳しかったのでしょう……ウルフ竜機兵団に30枚の銀貨を与えます。それは裏切り者への報酬にふさわしい金額。アラリックは氏族に背を向けた傭兵たちをけして許さなかったのです。怒り狂ったウルフ竜機兵団は地球を離れます――いつかの復讐を誓って。

 ジェイドファルコン氏族長、マルヴィナ・ヘイゼンは処刑されることなく、一室をあてがわれていました。氏族長の部屋を訪れたステファニー・チストゥ(生き残った唯一のファルコン上級司令官)は、衝撃的な光景を目撃して立ちすくみます。広がる血だまり、ナイフ、倒れているジェイドファルコン氏族長。

 その前にいるのは、民間人の少女、シンシアでした。彼女がマルヴィナを刺したのです。それは虐待に対する正当防衛だったのでしょうか。ともすると、マルヴィナに対する拒絶の神判のようなものだったのかもしれません。死にかけのマルヴィナは衛生兵を呼ぶよう命じます。しかし、チストゥはこれに応じず、マルヴィナが出血多量で死んでいくのを見守ります。

 マルヴィナ・ヘイゼンは大氏族になれなかった敗北者でした。モンゴル・ドクトリンで民間人を殺し、ジェイドファルコン氏族を消滅の瀬戸際にまで追いやった破壊者でした。氏族が産んだ最悪の狂人であり、悲しい被害者でもありました。彼女の歪んだ物語はここに終わりを告げます。

 事件後、アラリック・ワードは、ステファニー・チストゥを新たなファルコン氏族長に選び、氏族創設者の起源にふさわしい名誉ある役割を与えます。親衛ブラックウォッチ。その任務は護衛として第一君主を守ることです。


それで何がどうだったのか?

 地球を巡る戦いの中で、高齢のデヴリン・ストーンは体調を崩しました。戦後、死の床の中でストーンはアラリック・ワードに語ります。彼が言わんとするところはこうでした。確かに、共和国は敗北し、ウルフ氏族が勝利した。しかし、アラリックはデヴリン・ストーンに操られていたに過ぎない――と。

 当然、アラリックは否定します。操られていたなどありえない。しかし……事実として、ウルフが地球にやってこられたのは、ストーンが意図的に情報を流したからなのです。それに気づいたアラリックは愕然として言葉を失います。

 そもそもHPG網を破壊したのは誰なのか? 犯人は長期間潜んでいたワード・オブ・ブレイクのスリーパーセルだとストーンは語ります。

 では、デヴリン・ストーンとはいったい何者なのか? それはブレイク派に捕まった一兵士、おそらくは恒星連邦の――です。名もなき彼はワード・オブ・ブレイクの人体実験で記憶をすべて消され、代わりに人間兵器として戦略と政治と戦術を埋め込まれました。ブレイク派はデヴリン・ストーンを完璧な将軍として活用し、聖戦を戦うつもりだったのです。

 ストーンの話が続くごとに、アラリックは打ちのめされていきます。彼はストーンの言葉を否定出来なくなっていました。本当にすべてストーンが陰で糸を引いていたのか?

 同行していたウルフ副氏族長はストーンの口を塞ぎます……物理的に。枕を押しつけ、窒息死させたのです。100年以上に及ぶデヴリン・ストーンの謎に満ちた長く苦しい人生は、彼が作った共和国とともに過ぎ去りました。ストーンの策謀はすべて失敗に終わりましたが、死を目前にした最後の一撃は見事だったといわざるを得ません。

 残されたアラリック・ワードは敗北感を感じていました。確かに地球は勝ち取った。しかし、戦力を失い、周りは敵だらけの中、大氏族には味方がいません。地球のフォートレスを解除したら、すぐにもドラコ連合とカペラ大連合国が攻めてくるでしょう。ヘルズホース氏族とライラ共和国はすでにジェイドファルコン氏族領への侵攻を始めています。

 征服よりも統治は難しい。ストーンの言葉です。アラリックの星間連盟はいつまで存続出来るのでしょうか?



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