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作成:2005/01/07
更新:2021/10/17

自由世界同盟 Free Worlds League



 5つの継承国家のひとつで、多数の小国から構成される自由世界同盟について、誕生から崩壊した現在(3134年)まで。旧公式サイトとツーリング・ザ・スターズより。











自由世界同盟 Free Worlds League 3063



起源と歴史 Origins and History

 自由世界同盟は3つの大きな勢力の緩やかな連合から成長したものである。それぞれの勢力がまったく違う民族構成、文化遺産、政治的見解を持っていた。マーリック共和国は征服によって、オリエント連邦は外交によって、レグルス公国は大商人たちのつながりによって結成された。三者のデリケートなバランスは、自由世界同盟の政治と性質を形作り、多様性が比類なき活力を与えるのみならず常に分裂の危機に瀕している国家を生み出した。

 マーリック共和国は2238年に生まれた……地球同盟のチャールズ・マーリック元老院議員が二極化する同盟政府から故郷世界を独立させる宣言を行ったのである。22世紀に鉱業採掘のために移住、開発された惑星マーリックは、名前の由来となった東ヨーロッパ出身の富豪一族のものだった。チャールズがマーリック民国と改名するまでに、この鉱業植民地は工業と貿易の繁栄する中心地にまで発展していた。独立は明るい展望であり、恐ろしいものでもあった。地球同盟の孤立主義は地球と植民地の鉱物、鉱石製品市場を混乱させる恐れがあった。貿易関係は新たに作られる可能性があるものの、それは強力な中央政府を通じてのみである。マーリック人たちはいつもそうしてきたとおりマーリック家の指導に頼った。社会が変革する1世紀半の間、彼らは莫大な富と指導力によって優越的な地位を保ってきた。

 チャールズ・マーリックはほとんど何もせず新民国のリーダーとなった。独立から5年以内に、彼はマーリック憲法を使って強力な中央集権が生き延びるのを確実とし、相互防衛のため新生民国と同盟するよう近隣の3惑星を説得した。新しい同盟の象徴として、チャールズ・マーリックは4世界からなる連邦をマーリック共和国に改名した。それから強力な生産力を軍事生産に向けることでマーリックの経済力を支えた。数多の元植民地が自壊するか生き延びようと苦闘する時代において、マーリックの共和国は単なる防衛のみならず征服するための軍隊を創設した。2249年から2271年にかけて、チャールズ・マーリックと息子2人は20の世界を支配し、地球同盟宙域外縁部から60光年まで領土を拡大させた。勝利を達成した軍事的才覚により、マーリック一族は自由世界同盟となるものの中でますます重要な役割を果たしていくことになる。

 マーリック共和国と同じく、オリエント連邦は元地球同盟元老院議員の惑星独立宣言によって始まった。2241年、著名な長老政治家であるトーマス・アリソンは縮小する地球領から故郷オリエントを離脱させ、近隣世界と外交関係を結び始めた。次の30年間で、オリエントは20の惑星との同盟網にまで拡大した。オリエントの最初の入植者たちは、政治、科学、芸術の進歩に身を捧げるという熱意によって団結した地球の多国籍集団であった。独立一年目までに、惑星は科学と芸術の成果のとりでとなっていた。高い教育を受け、コスモポリタン的な視点を持つオリエント(惑星と連邦)の市民たちは、自由を守り、人類の新たな星間社会にその名を刻む決意を固めた。

 レグルス公国は地球リムワードの植民地いくつかの貿易関係から成長した。中心になっているのはセラジ家が支配する5つの惑星からなるミニ帝国であった。リムワードに向かった初期の移民の中で、インド生まれのセラジ一族がすぐにこの地域のビジネスほぼすべてを支配した。地球帝国が23世紀半ばに長く苦痛に満ちた崩壊を始めると、セラジの貿易コングロマリットの長たちは時間を浪費せず、クライアントの世界の権力を強化した。地球のライフラインを失ったことに苛立ち、生き残れるか懸念した十数の惑星(セラジの貿易ネットワークの中にある)は、喜んで政治的連合に合意した。そうすることによって、セラジが輸送する物資と、セラジ武装商船隊の保護の両方が受けられるのである。2270年までにセラジ帝国は5つの世界から17にまで拡大していた。



同盟の誕生 Birth of the League

 自由世界同盟は、オリエント連邦の指導者、トーマス・アリソンの発案によるものである。2260年代が終わりに近づきつつあった時期、オリエントは周辺宙域にある3つの新興連合国群の1つになっていた。のこり2つはマーリック共和国とレグルス公国である。3つの国家すべてが、この数年間でゆっくりと国境を拡大し、互いの領地に今まで以上に近づいていた。歴史学者で先見の明があるアリソンは、遅かれ早かれ、どちらかと衝突するだろうことに気がついた。破滅的になり得る戦争を避ける唯一の希望は、真っ先に相互利益のある同盟を結ぶことであった。

 その他の懸案事項もまたアリソンの決断に影響を及ぼした。地球同盟は2237年の混乱後、70年以上衰退しており、政治的勢力として消滅するのは時間の問題だった。2260年代までに、同盟政府が死にかけていることはアリソンにとって明白となった。同盟全世界市民軍(AGM)が薄汚い裏取引で信用を失っていない数少ない国家機関であることを鑑みると、後継になるのは軍事政権であろうと彼は確信した。新しい地球政府がどんなものであろうと力を強化するはずだ……元植民地を取り戻す以外にその方法があろうか? 大規模で装備に優れたAGMと戦うには、独立世界の小さい軍隊では単独で太刀打ちできない。生き残るためには、結集するのが最善の望みのようだった。

 広大な領土と強力な軍隊を持つマーリック共和国は、有望な同盟国に見えた。レグルス公国には安定した経済と大武装商船隊という別の長所がある。マーリックの軍事力とレグルスの経済力を、オリエントの外交力と混ぜれば、すべての面で誰もかなわない組み合わせになるのが約束される。

 ニューデロスのサー・ジョージ・ハンフリーズは一族が長きにわたって公共部門で働いてきたことに誇りを抱いていた。政治の世界に身を置いて、弁舌の才能を磨き、比類なき取引のすべを身につけた。トーマス・アリソンが新しい自由世界同盟の枠組みを持ってアプローチすると、ハンフリーズは喜んでアリソンを支持した。2271年、5年の交渉の後、ハンフリーズはデトレフ・マーリックとラジュ・セラジをオリエントでの重要な会談に引っ張り出した。4ヶ月かけて、三人のリーダーは自由世界同盟を生み出すマーリック条約に同意した。この条約は設立国家群に内部自治を許可し、各リーダーたちに同盟政府の重要な役割を与え、危機の際には軍の全権指揮官(総帥)の任命を規定する。アリソンの利益創造と防衛産業のビジョンにあわせて、政府代表は人口ではなく経済力によって割り振られた。

 マーリック条約は書き上げられ、議論され、書き直され、修正され、破棄されかけ、英語で再び書き直された(3人の首長が話せる言語)。論争と言語の選択は、今後何世紀にわたり争いの種となる自由世界同盟の特徴を予兆するものであった。初期の同盟を構成する3ヶ国は、異なる民族と文化のまばゆい隊列であった……いくつか例を挙げると、インド、パキスタン、ルーマニア、ハンガリー、スロバキア、モンゴル、カザフ、ウズベク、スペイン、イタリア、バスク、イングランド。異なる民衆たちの多くは母国語のみを話し、隣人や言語、その他をほとんど理解していなかった。創設した3ヶ国もまた政治体制がまったく異なっていた……マーリックは軍事的で強力な(絶対的でないが)中央政府を持つ。レグルス公国は少数の裕福な一族が支配する寡頭制である。オリエントは英国風の議会民主制である。こういった違いは、新しい国家の大きな活力源となったのみならず、連邦政府と地方自治の線引きがどこまでかを巡って頻繁に同盟政府を身動きできなくさせた。元地球植民地のほぼすべてにある誰にも邪魔されたくないという願望は、自由世界同盟の中で特に強く響いた。同盟の各地域は、理解出来ぬ「部外者」から伝統と権利を注意深く守ったのである。

 同盟の歴史の上で一度ならず、文化的・政治的緊張が分裂や完全な崩壊につながりかけたことがあった。潜在的に敵対する勢力同士の不安定なバランスを取ることで、同盟は生き延びてきた――単独では連帯している時の半分ほども成長することが出来ないという智恵が生み出したバランスであった。



好況と恐慌 Booms and Busts

 次の一世紀間、自由世界同盟は領土と富の面で大きく成長した。2270年代から2290年代の間、同盟宙域に近い世界と小連合のいくつかが、海賊や危険な隣国からの保護を求めて同盟に加わった。実際のところ同盟政府は自由商人に私掠免許状を与えて、海賊行為を推奨することがあり、乗り気でない近隣国を勧誘する手段になったかもしれない。平和裏に進んだ拡大の時代は2293年、6つの世界からなるスチュワート共和国が同盟の勧誘を拒否した時に終わりを告げた。スチュワートはマーリック共和国と国境を接しており、マーリックの指導者たちは玄関先で生まれたばかりの軍事独裁政権が成長していくのを見たくはなかった。議会でマーリック共和国の代表が要請し、同盟はスチュワートの拒絶に対し宣戦布告で応じた。

 マーリック一族の軍事的才能に感銘を受けた議会は、ジュリアーノ・マーリックを総帥に選んだ。マーリックの活躍はめざましいものであった。スチュワート星系に艦隊を率いた彼は、簡単に防衛を突破した。数週間以内に、6つのスチュワート世界のすべてで同盟の旗が翻った。それからわずか12年後、地球帝国が結成され、同盟をパニックに落とし入れると、ジュリアーノ・マーリックは総帥に戻った。地球帝国は同盟が立ち向かうにはあまりに強すぎると、マーリックは正確に推し量った。たとえ自由世界同盟軍が勝ったとしても、勝利の代償はそれを無意味にするものとなろう。議会の閣僚たちが戦争を求めることで恐怖を隠していた間、マーリックはジェームズ・ハンフリーズを派遣し、帝国の指導者ジェームズ・マッケナと秘密の交渉を持った。マッケナには帝国装甲軍を差し向けるべき目標がいくらもあった……マーリックが望んだのは、同盟の惑星がそこに入らないようにすることだった。HAFが同盟宙域に侵攻することはないという確約を受け取った後、ハンフリーズは地球条約に調印した。帝国の軍隊を近隣のディーロン連邦に向けるというマッケナの誓約と引き換えに、自由世界同盟は帝国の艦船が同盟領内で交易する許可を出した。

 帝国による侵略の脅威が排除されると、自由世界同盟は繁栄した。24世紀半ばの好景気は同盟の経済を成長させ、成層圏にまで打ち上げた。一夜にして富が生まれ、失われ、時には惑星全体の所有者が変わった。平均的な市民は給料が上がり、モノを手に入れやすくなり、かつての同盟よりも大きく財政的に豊かになった。軍事作戦に成功したことで、陶酔感のような雰囲気が追加された。2366年から2369年の間、同盟軍は水の豊かなアンドゥリエン、ベレンソン、シロー、ハサドを誕生したばかりのカペラ大連邦国から奪い取った。続く10年でこれら星系は何度か所有者を変えたものの、2390年代前半に同盟が取り戻し、両陣営はこれが最後になると考えた。

 同盟にとっては残念ながら、カーナス・リャオ首相には別の考えがあった。2395年、カペラの玉座に着いたカーナスは、いかなる犠牲を払っても、アンドゥリエンの各世界を取り戻すと決意していた。2398年、アンドゥリエンへの全面的強襲が始まった。悲惨な紛争の第一撃は、歴史の中で〈戦い〉の時代の始まりとして歴史に残ることとなる。2398年から26世紀半ばの星間連盟結成まで、自由世界同盟と中心領域の各国は次々と起こる戦争に巻き込まれ、惑星が傷つき経済が疲弊しながらも利益を得ることはなかった。同盟の経済は、他国と同じように、戦闘で被害を受けた。最初に後押しを受けた後、同盟の国庫は絶え間ない戦争によってかつての良い時代が遠い記憶になるまでゆっくりと枯渇していった。

 アンドゥリエンの紛争は自由世界同盟を別の形に作り上げた……マーリック一族が政治的な支配にまた一歩近づいたのである。第一次アンドゥリエン戦争を戦うために、2396年に任命されたピーター・マーリックは、6年に及ぶ血塗られた戦争の末、係争中の星系を勝ち取っていった。2404年から2413年の間、ピーターは民衆たちの英雄としての地位を利用して、カペラと新たなライバル(ライラ共和国)から軍事的な獲得を続け、議会に不安を引き起こした。議員たちは選挙で選ばれたわけでもない士官に軍事を委ねることの是非で分裂した。2416年、ライラ国は報復として、同盟の世界デュドネを占領しようとした。同盟軍は攻撃をはねのけたものの、議会の軍事監査委員会は総帥に休戦を模索するよう命じた。ピーター・マーリックは公然と無視して、ライラの世界をいくつか奪ってから、2418年にようやく戦役を終えた。

 2年後、ライラとの戦争は再開された。ピーター・マーリックは戦時職権法の下、総帥の座につくのを拒否して、議会を狼狽させた。総帥職はジョセフ・スチュワートに渡った。有能であるが、恒星間戦争の経験がほとんどない独創性に欠ける士官であった。同盟はライラ相手に惑星をふたつ失い、それからドラコ連合がライラ領を攻撃して注意をよそに向けた。2427年に新たな戦いの火の手が上がり、同盟の惑星みっつが犠牲となった。ピーター・マーリックは5年前に暗殺者の手にかかって死んでおり、ジョセフ・スチュワートは戦争の指導者として最悪の選択であったことが証明されていた。さらなる損失をどうしても避けたかった議会は、ピーターの息子テレンスに懇願して、総帥になってもらった。テレンスの求めに従い、戦時職権法は廃止された。議会に束縛されないテレンス・マーリックはライラが止まるまで14年間戦った。それでも、惑星ボラン、カメンツが占領されるのを防ぐことは出来なかった。敗北に幻滅した彼は辞職し、2441年、総帥の職を弟ピーターに譲った。二人目のピーター・マーリックはふたつの惑星を解放し、ライラの惑星ふたつを占領してから、2446年に攻勢を止めた。

 自由世界同盟を破滅に追いやりかけたとされるジョセフ・スチュワートの失敗に比べて、テレンス・マーリックとピーター・マーリックII世の成功は、大きく見えるものであった。実際にはスチュワートは同盟に比較的小さな損害を与えただけだった――しかし、敗北になれていない国家にとって、いつつの惑星を失ったのは苦い薬だった。マーリック兄弟がライラの侵略者を敗走させたことで、マーリックといえば軍事的成功という民衆の固定概念は確認された。2556年に自由世界同盟が星間連盟に加入するまで、総帥が公式にマーリックの職務になることはなかったが、2430年以降、非公式にマーリック家のものとなったのである。同盟の経済のために軍事的征服の重要性が増すと、マーリックの力はさらに増大した。その後、マーリックの政治的名声と軍事的才覚によって、同盟の関心は商業的事業から軍事的事業に変化した。



マーリック家と継承権戦争 House Marik and The Succession Wars

 第二次、第三次アンドゥリエン戦争の英雄、アルバート・マーリックは2556年に自由世界同盟を星間連盟に加入させた。2575年までに、生まれたばかりの星間連盟は、全人類をまとめるという決意の下に辺境への大々的な強襲を行った。アルバートの娘、マリオンは再統合戦争のあいだ、総帥として立派に働き、長く激しい戦役でカノープス統一政体を征服した。カノープス征服は、第一星間連盟期が終わるまで、自由世界同盟軍による最後の外部紛争となった。

 それからの一世紀半、マリオンの後継者たちは時折内部の問題にぶつかることがあった。2620年代の景気後退と28世紀前半の熾烈な内戦があったにも関わらず、自由世界同盟は第一星間連盟の時代に概して繁栄した。最大の試練が始まったのは、28世紀の最後の20年であった……星間連盟が崩壊し、その後の残虐な戦争で自由世界同盟の経済基盤が破壊されたのである。長きにわたる継承権戦争のあいだ、自由世界同盟は領土の大半を維持するのに成功したが、内部争いで軍は分裂し、敵国に強い打撃を与えることはなかった。一度ならず、自由世界の戦線が分断されて、敵国が同盟領に深く切り込んだことがあった。失われた領土を取り戻すために、自由世界同盟は莫大な資金と血液を代償とし、国家の未来が抵当に入れられかけた。



第一次継承権戦争: オリエントの反乱 First Succession War: Oriente Rebels

 星間連盟の平和は末期になる前から崩れ始めていた。第一君主サイモン・キャメロンの突然の死が権力闘争を引き起こし、中心領域の各王家は私兵部隊を増強した。2784年、星間連盟防衛軍が未知の宙域に旅立ち、王家君主たちの野心をつなぎ止めていた最後の壊れやすい留め具が外された。来るべき戦いで勝つ決意を固めていたケニオン・マーリック総帥は、恐怖に陥る議会を説得して、決議288号を通した。「危機が続く間」、総帥に広範囲な裁量権を与えるものである。危機が終わるのを決めるのは議会ではなく総帥であることから、決議288号は実質的に自由世界同盟軍の永続的な支配権を総帥に与えるものとなる。

 当初、自由世界国家群の大半は新しい決議を支持した。ケニオン・マーリックが地球帝国の惑星と星間連盟貯蔵庫いくつかを占領すると、一人の軍人に大きな力を渡すという判断は正しいと確認されたように見えた。2787年までに自由世界軍は元地球領を可能なだけ手にし、ケニオンは新しい目標を攻撃した……カペラ大連邦国である。第一波で自由世界はカペラの惑星2つを奪い、バラバラの抵抗を受けて損害はほとんどなかった。それからニューデロスへの大連邦国の強襲がやってきた。アレス条約を無視した残酷な攻撃で、自由世界の市民2万人が殺された。次の敗北は2793年、カペラの惑星アネガサキへの侵攻が予期せぬ大連邦の大軍に押しとどめられた時であった。カペラ宙域で躓いたケニオン・マーリックは、ライラ共和国に視線を向けた。ヘスペラスII(ライラの巨大なバトルメック工場がある)占領作戦は敗北に終わり、自由世界同盟海軍で最良の戦闘巡洋艦数隻が犠牲となった。第一次世界大戦が長引き、終わりが見えなくなると、一連の失敗は初期の獲得を上回るようになった。少なからぬ議員たちが性急に決議288号を通したことを後悔し始め、総帥の権威に対する地方の反発はゆっくりと高まり始めた。

 ケニオンの息子、サディアスが2804年に後を継いだ。第一次継承権戦争の「危機」はいまだ荒れ狂っていた。決議288号の下で41年経過し、自由世界同盟が派遣にも平和にも近づいてない状況において、政治的指導者たちはマーリックの支配に苛立ち始めていた。しかし、サディアスは決議を廃止するチャンスを与えなかった。父が死んだと知った彼は1個メック大隊と共に同盟主星アトレウスに戻り、議会議場周辺に部隊を展開した。強情な議員たちはすぐに288号への反対を再考し、サディアス・マーリックは前任者と同じ絶対的な権力で任期を開始した。オリエントのカーター・アリソン公爵が法令の更新に挑戦すると、サディアスは公国から全軍事部隊を撤退させた。最近の敗北にいまだ苦しんでいたカペラ大連邦国はオリエントに侵攻し、アリソン公爵が心変わりするまでにオリエント星系を占領しかけた。オリエントが服従すると、総帥は兵士を送り込んで、すぐにカペラを追い払った。

 だが、公国のトラブルはまだ終わっていなかった。次代の総帥はオリエントと全同盟を危機に追いやり、国家の存亡を危機に陥れたのである。



コムスター戦争 The ComStar War

 疲弊した第一次継承権戦争の参加者たちが再結集と再建を試みていたことから、2821年は凪の年となった。産業基盤が崩壊し、惑星が荒廃したいわゆる継承国家群は、戦争を続けられる状態になかった。10年近く、疲弊による平和が続いた。チャールズ・マーリック総帥はこの時間を使って枯渇した軍事的資源を再建し、次の戦争が間近に迫っていることを確信した。彼が正しいことは証明されたが、ほかを犠牲にして戦争につぎ込むことの愚劣さという厳しい教訓を自由世界同盟に与えた。

 2820年代、オリエントとシリウス連合の議員たちは、戦争で引き裂かれた地方国の大規模な再建を求めて扇動した。チャールズは拒否した。すべての使える資源は、軍隊か関連産業に注ぎ込まれた。2825年、チャールズは密輸の罪状で罰金を集めるのを総帥に許す執行命令を出しさえした。前任者から痛みを伴う教訓を得ていたオリエント公爵は、どうにかオリエントの議員たちを支持者の列にならべた。シリウスの代議員はそれほど臆病でなく、やがて反対ブロックの急先鋒となった。長らくマーリックによる軍支配を妬んでいたレグルス公国は、この状況を利用して、議会内の不平を持つ者たちの中で反マーリックの権力基盤を作り上げた。

 レグルスのチャンスは、2837年、第二次継承権戦争の半ばにやってきた。自由世界同盟は2830年に紛争を開始していた。コムスターの侍祭だったジャネット・マーリックがライラの攻撃計画に関する情報を総帥にリークしたのである。チャールズは先制攻撃で対応して、ライラの不意を打った。次の6年間、自由世界同盟軍はライラ共和国とカペラ大連邦国に対して幾度かのめざましい勝利を得た。だが、2836年までに、同盟は大きな敗北もまた喫していた。チャールズはコムスターが同盟の敵に兵士の動きをリークしているのではないかと疑い、2837年、動かぬ証拠を発見した。怒り狂った彼はコムスターのオリエントHPG基地を破壊した。コムスターは同盟全体を通信禁止にすることで報復した。

 何光年にも広がる戦力を指揮する方法を失ったチャールズは、攻勢が行き詰まり、部隊が敗走するのを見た。敗北が重なったことで、議会に批判の嵐が吹き荒れ、レグルスのリーダーたちはすぐにこれを利用した。財務大臣で、レグルス州生まれのヘクター・ロンバードは2838年に議会を説得し、チャールズ・マーリックが切迫に求める援軍、補給、予算を拒否した。追加の戦力と重要な予備部品を欠いたチャールズの部隊は、シローとヴァン・ディーメンIVの世界を巡る重要な戦いに敗北した。後者の大敗は同盟の軍隊にとって痛いものだった。もし、他の4大継承国家が互いに戦ってなかったら、自由世界同盟は引き裂かれていたかもしれない。

 2838年後半、チャールズがコムスターに屈した後でさえも、議会は戦役への予算を拒否し続けた。コムスター戦争が大惨事に終わったことから、ヘクター・ロンバードは公に、「マーリックどもの皇帝気取り」と糾弾し、決議288号の撤廃を叫び始めた。だが、2841年までに、政治的な流れはチャールズの方へと変わり始めた。この年にダナイスを、前年にアスンシオンを失ったことで、ライラ軍、カペラ軍は惑星イリアン(大規模なバトルメック生産拠点)まであと一歩のところまで迫っていた。この重要な工場を占領されるか、大きな損傷を受けたら、ただでさえ不安定な軍に大打撃が与えられるかもしれない。同盟の崩壊が目の前に迫っているかもしれない中で、議会の反対派は崩壊した。2842年、ライラの侵攻軍がイリアンに上陸すると、議会は議会は圧倒的多数で軍の予算を全額元に戻した。チャールズは同盟の損失を3年で多数取り戻したが、極めて高い代償を伴ってであった。惑星いくつかが敵の手に残り、戦争の猛威で同盟の経済はかつての面影にまで落ち込んだ。



祖国防衛: 地域権力の勃興 Home Defense: The Rise of Regional Power

 マリー・マーリック総帥(2837年就任)の短い任期は、同盟を地域ごとに分裂させる舞台を作った。祖父のチャールズと同じくらいに独断的なマリーは、2680年代後半にライラ共和国から奪った世界を守るためアンドゥリエン公国、オルロフ公国から戦力を引き抜いて、実力者たる両公爵と距離を作った。マリーが最大限の努力を払ったにもかかわらず、ライラ共和国は激しい攻撃で惑星を奪還し、オルロフ、アンドゥリエンの防衛部隊は大損害を出した。この損失は地域指導者たちの間で高まっていた総帥への憎しみという炎に油を注いだ。彼らが求めていたのは、なんといっても自領を守ることなのである。

 10年後、エリザベス・マーリックが総帥になると、地域のリーダーたちは長年求めてきた軍事掌握権を主張するチャンスを手に入れた。18歳からコムスターの侍祭であったエリザベスは、戦争遂行の経験をほとんど持っていなかったが、政治取引の得がたい才能を持っていた。統治期間の初期を、彼女は議会と良い関係を築くことに費やし、自由世界同盟はふたつの派閥に分断されるべきではないと確信した。当初、彼女の尽力は報われた。2880年代から30世紀の初期にかけて、エリザベス・マーリックは議会内でこれまでの総帥の誰よりも大きな人気を得た。こういった温かな関係は、エリザベスがカペラ、ライラに対する何度かの軍事行動を可能とし、作戦の成功に寄与したのである。

 2901年から2910年にかけて、アンドゥリエン、オルロフ、国境保護領の自由世界部隊は、カペラ大連邦国に対する見事な深攻撃を実施した。この襲撃で得た世界はなかったものの、カペラ装甲軍が同盟国境の惑星への攻撃が出来ないほどに忙しくさせたのである。戦力の大半を負担した3ヶ国の指導者たちはだいたいにおいて攻勢を支持したが、戦役が続いていくと、増えつつある重い負担によって故郷世界が攻撃に対して脆弱だと訝しみ始めた。懸念を示した代議士は、祖国防衛法(Home Defense Act)を起草した。そこには、いつか爆発するかもしれない含みを持つ、漠然とした声明が綴られていた。この法案は、「差し迫った攻撃の危機がある」と議会が決めた地方国に、自軍の最大75%を駐屯兵とする権利を与えた。

 エリザベス・マーリックと議会の調和が取れた関係は、法案通過が起こすかもしれない結果を見ないものとした。事実、彼女は小さな妥協と考えているものに積極的なキャンペーンを行った。だが、後に総帥は権威に対する最悪の障害として祖国防衛法を呪うようになる。その後の数十年間、地方のリーダーたちは祖国防衛法を使って、納得できぬ政策を持つ総帥を繰り返し妨害してきた。兵権のバルカン化によって同盟は、次の一世紀間、意味のある領土獲得を出来ず、時折は敵の強襲に対して無防備になった。最悪の敗北はステファン・マーリックの治世にやってきた。同盟の世界カリソンがライラの強襲の前に陥落し、カペラの攻撃部隊がイリアンの新しいバトルメック工場を破壊したのである。その一方、ステファンは敵と考えるものからの軍事的援助を慎重に保留としたことで、議会と総帥の間の権力闘争は軍事的分野だけでなく政治的なものに陥った。



内戦 Civil War

 2991年に総帥となったステファン・マーリックの息子、ヤノスは、三十世紀の政治的、軍事的舞台で苦い果実を食べることになる。費用を費やし、成功しなかった軍事作戦で、同盟の経済はさらに悪化した……カペラ、ライラ国境の惑星いくつかは報復襲撃を受けた。ステファンと議会の政治的闘争で、一部の地方リーダーたちは、権力の集中につきものの専制主義を確認した。このすべてを利用したのが、ヤノスの才能豊かで恥知らずの弟、アントン・マーリックだった。3002年、疑いもせぬ兄がアントンをプロキオン公爵、全カペラ戦線総司令官に任命すると、12年かけて恐るべき権力基盤を構築した。

 3014年、アントンと麾下の兵士たちは、「狂った専制君主」ヤノスに対する反乱を宣言した。10年以上に渡る軍事的失敗と、壊滅的なライラ戦役のあとに将軍の一人をスケープゴートとして即時処刑したことで、このレッテルは同盟市民の多くにとって適切なものに響いた。アントンの反乱は、複数の地域公爵・知事の支持を受けた。そのうち一部は、アントンに決議288号を廃止する意思があると信じていたようだ。同盟の1/4が反乱に加わった。その大半が小国で、政治的影響力を増すのを望んでいた。アンドゥリエン公国やレグルス侯国のような反マーリックの大物は、2人のマーリックが互いに殺し合うのを望んだ。アンドゥリエンとレグルスは中立を保ち、3014年後半にレグルスはヤノス・マーリック支持に鞍替えした。最後にはヤノスと王党派が勝利した。内戦は始まってから一年以内に突如として終わりを告げた。アントンに指揮官の弟が殺されたことへの復讐として、傭兵部隊ウルフ竜機兵団がアントンと戦力の大部分を抹殺したのである。

 だが、戦争の負の側面は残った。ヤノスは元反乱部隊の生存者たちに恩赦を与えたものの、これら部隊と王党派部隊の間の憤りは残った。政治的、地域的なライバル心がここに加わり、同盟軍の分断はさらに続いた。理屈の上では、同盟とその軍隊は10ヶ月にわたるひどい戦いで結束したはずだった。実際には、20年後のトーマス・マーリックの治世まで、本来の団結を取り戻すことはなかったのである。

 長引く内戦の影響と、ますます枯渇する同盟の国庫により、3028年、恒星連邦のハンス・ダヴィオンが始めた第四次継承権戦争で自由世界同盟の軍隊は事実上無力化された。同盟したライラ=ダヴィオンが他の敵を叩いたことで、同盟は大きな損失を被らなかったが、何かを得ることもなかった。法律上は、カプテイン協定でカペラ大連邦国、ドラコ連合と同盟していたのだが、同盟は軍事的に弱すぎたので、両国に対し形ばかりの援助も出来なかった。この屈辱的な状況に、議会でのヤノス・マーリックの立場(内戦の記憶が薄れていたことから、すでに弱くなっていた)はさらに低下した。マーリック自身は、アントンの裏切り以来、ますます気難しく、被害妄想的になっており、このような態度は政治的な亀裂をますます広げるのみであった。悪化する状況は、危機が来るのを避けられないものとした。それは不安定な同盟にルネサンスをもたらす触媒としての役割を果たした。



アンドゥリエン危機 The Andurien Crisis

 第四次継承権戦争が終わるまでに、ヤノス・マーリックの政治的立場は深く沈み、レグルス侯国のデリック・キャメロン=ジョーンズ議員がマーリックを権力の座から追い出す提案を行ったくらいだった。だが、キャメロン=ジョーンズが法案を出す前に、事件が彼を追い抜いていった。3030年の9月、第四次継承権戦争が終わってからわずか数ヶ月後、アンドゥリエン公国が自由世界同盟から離脱したのである。カノープス統一政体(自由世界同盟、カペラ大連邦国と国境を接する辺境国家)と手を組んだアンドゥリエンはカペラ領に対する激しい強襲を仕掛けた。この劇的な事件は自由世界同盟中に衝撃を与えた。これまで数多の内輪もめがあったが、所属国が同盟を離れたことはなく、単独で外国勢力と手を結んで大規模な軍事作戦に打って出たことなどなかったのだ。反対派が突如として不明確となったことで、ヤノスは神経質な議会に圧力をかけて、3030年に内部緊急法案を通した。これは「危機が続く間」小国の大半から主権のほとんどを取り上げるものであった。最も力を持った二ヶ国は、この法案の適用除外となった――マーリック家に長年の忠誠を誓ってきたオリエント公国と、レグルス侯国である。なぜなら、大国がもうひとつ離脱するのを望む者はなかったからだ。個別の惑星いくつかは法案を拒絶し、アンドゥリエンの先例にならったが、中央統制の強化は同盟を実質的に保った。

 法案が通ってから、一週間以内に、ヤノス・マーリックは発作を起こして倒れた。指名された摂政トーマス・マーリックは、遠く離れたところでコムスターの侍祭として働いていた。トーマスが不在の中、兄のダガンと従兄弟のダンカンは総帥の座を争った。オリエントのハラス公爵に権力闘争が始まったとの警告を受けたトーマスは、即座にアトレウスまで移動し、正統な地位を主張した。それから4年、トーマスは父の名の下、同盟を統治し、議会との崩壊した関係を再構築して、権力を強化した。彼はアンドゥリエンに対して大規模な軍事行動に出ることなく、カペラの抵抗がアンドゥリエン=カノープス同盟を打ち破るのを待った。カペラ兵たちが3035年にアンドゥリエン侵攻軍を追い払うと、わずか数週間後にヤノス・マーリックがほとんど奇跡的な回復を遂げた。だがアンドゥリエンのドラマは結末から遙か遠かったのである。

 3035年6月1日、アンドゥリエンに対する高レベルの戦略会議の場で爆弾が炸裂した。この攻撃でブリーフィングルームにいた全員が殺されたかのように見えた。例外となったのは、爆発の数分前に都合良く呼び出されたダンカン・マーリックであった。総帥と二人の息子、ダガンとトーマスは死亡したとされた。ダンカンは素早く総帥であるとの宣言を行い、このひどい事件を起こしたのはアンドゥリエン分離主義者のパルチザンであると非難して、アンドゥリエンに宣戦布告した。卑劣なテロリズムに怒りを燃え上がらせた同盟兵は、反乱した公国への最初の強襲で見事な勝利を飾った。だが、アンドゥリエンに深く進むと、激しい抵抗に遭遇することとなった。3036年11月後半までに、ダンカンの攻勢は絶望的なまでに停滞した。軍が士気低下し、苛立つ議会が崩壊の瀬戸際に立つ状況において、自由世界同盟は最悪の悪夢に直面した……完全な解散である。

 救いの手は12月前半にやってきた。トーマス・マーリックがアトレウスに到着し、愕然とする議会の前に姿を現したのである。爆発で重傷を負ったトーマスは、死の議場から救い出され、コムスターの庇護下で数ヶ月かけて回復したのだ。議会は再登場したトーマスを大喜びで歓迎した。議員たちは、爆弾攻撃がダンカンの手によるものだと疑っていた。議会はすぐさまトーマスの側につき、戦場にいるダンカンの権限を大幅に削減して立ち往生させた。幸運にも、同盟は公然とした内戦を避けることが出来た……3037年、アンドゥリエンの惑星ザンティIIIへの絶望的な強襲で、ダンカンは死亡したのである。同年、新総帥が編入補遺法案を通した際、喜ぶ議会がほとんど反対することはなかった。この広範囲に及ぶ法案は、祖国防衛法を廃止し、議会や地方政府の作った法に対する事実上の拒否権を総帥に与えるものであった。

 政治的、軍事的権力を実質的に絶対的なものとしたトーマス・マーリックは、自由世界軍を率い、3040年、アンドゥリエンに対する決定的な勝利を得た。同盟は最悪の危機を乗り切ったが、まったく違う国家として姿を現した。次の20年間、トーマスによる改革は、自由世界同盟を潜在的に対立する勢力の気難しい集合体から、安定した経済と手強い軍事力を持つ真に統一された国家へと変貌させた。



自由世界の社会 Free Worlds Society

 他の中心領域国家よりも、自由世界同盟は人と人の違いを誇っている――文化が違い、政治が違い、地元の歴史が違うのだ。154に及ぶ所属国と数多の独立世界は、古き地球の民族的に中心領域で最大の幅を持っている。所属国における自治の長き伝統は地元の歴史と発展を生み出し、社会を形作る上で同盟全体の経験よりも重要なものとなった。3037年以降、トーマス・マーリックの政治的・社会的改革は、この小国の雑多な集合体に、同盟の初期以来初めて本当の国家の融合という感覚を与えたのである。氏族戦争は、同盟にかつてない物質的繁栄をもたらし、この改革を後押しした。現代の自由世界同盟は、偉大さの一歩手前にある。その断層線は大部分、トーマス・マーリックへの忠誠心と、彼のもたらした成果に沈んでいる。



多くの民、ひとつの国家 Many Peoples, One Nation

 過去25年以上に渡り、自由世界同盟はいくつかの面で意義深い変貌を遂げている。3037年補遺は、総帥職に事実上完全な政治的・軍事的権限を集中させることで、同盟全体の問題の重要性を大幅に高めた。総帥が新たに力を得たことで、同盟の市民たちは新しく幅広い愛国心の感覚を与えられた。同盟の住人たちは、ニューオリンピアの農民であろうと、オリエントの馬産家だろうと、イリアンの兵器製造者だろうと、地域的なつながりを越えて、総帥と彼が代表する国家に目を向けるようになったのだ。

 祖国防衛法の廃案から始まる軍事の発展は、自由世界軍の兵士たちの思想面に似たような変化をもたらした。自由世界同盟軍(FWLM)は事実上地方軍のルーズな集まりから、団結し、すさまじく効率的な戦闘部隊となった。この統一された軍事機構は、3057年のリャオ=マーリック攻勢で実力を証明して見せた……自由世界の部隊はわずか8週間の戦闘で第四次継承権戦争時に失った8つの世界すべてを取り戻したのだ。この軍事的な成功は、兵士たち、部隊、全FWLMの自尊心を満たし、地方よりも国家への忠誠心をさらに強めた。トーマス・マーリックは、3040年代、3050年代に新たな軍事部隊を作ることで、この変化を政治的に利用した。自由世界軍団と中心領域騎士団である。既存のFWLM部隊とは違って、軍団と騎士団の士官たちは、地域公爵や惑星統治者の任命に寄らないものである。彼らはマーリック家と同盟に忠誠を誓う。これらの部隊は、マーリックの権力や政治に反対する地方のリーダーたちにいまだ開かれている数少ない問題解決の手段をわずかに阻害する。

 3055年にトーマス・マーリックが作った中心領域騎士団は、故郷たる地方国のためでなく同盟のために戦うという新しい精神を体現している。自由世界中から最高の戦士を集めた騎士団は、兵士と象徴、両方の役割を果たす。騎士道の掟を厳守していたことから、当初は一部から「優等生」と嘲られたものの、3060年のスモークジャガーに対する英雄的な行動の後、騎士団はすぐに受け入れられた。彼らがトーマス・マーリックと同盟に忠誠を誓っていたことで、総帥の権力はさらに強まり、彼を国家と同一視した。

 残った政治的ライバルたちをさらに締め付けるのに加えて、近年、トーマス・マーリックはオリエント公国(長年のマーリック忠誠派)と強い関係を結んだ。3058年、彼はオリエント公爵クリストファー・ハラスの娘にして後継者、シェリル・ハラスと結婚した。このカップルは二人の息子を授かって、マーリックの血統を伸ばし、近い将来のためにハラスとの同盟を強化した。



新たな繁栄 The New Prosperity

 だが、団結を最大に後押ししたのは、同盟の安定した経済である。ほとんどすべてのベンチャーから金が生まれるという状況において、アトレウスの宮殿から辺境国境の惑星にある最小の町にまで楽観主義が蔓延した。かつての小規模な好況は特定の地域に限られる傾向があったが、3050年代と3060年代の狂乱経済は、自由世界同盟のほぼ全域に利益をもたらした。

 平均的な同盟市民は、総帥が新たな繁栄をもたらしたと考えているが、それを可能にした決断は外部の出来事があったからだ。3051年、氏族の猛攻が一時的に止まると、氏族が新たな戦争指導者を選んでいた間、各継承国家の長たちはアウトリーチの世界でサミットを開催した。氏族生まれの傭兵部隊ウルフ竜機兵団に招集された継承武王たちは、数ヶ月かけて中心領域を征服から救う絶望的な計画を作り上げた。氏族の強襲に晒された国のボロボロになった軍隊は、自由世界同盟が大量生産する膨大な補給がなければ、持ちこたえることが出来なかった。自由世界同盟は隣国のカペラ大連邦国より大きな産業基盤を保有しており、カペラと同じく氏族の戦線から遠く離れていた。氏族戦争にほとんど関わらなかった自由世界同盟は、中心領域の消耗しきった防衛部隊に再補給する能力を持った唯一の継承国家であった。

 だが、この時期、5つの継承国家の間に信頼と呼べるものはほとんどなかった。単純に共通の敵がいるという認識が、大きなブレークスルーとなった……三世紀に及ぶ相互憎悪の後では、氏族と共に戦うというのはかろうじて可能な程度のものに見えた。連邦=共和国のハンス・ダヴィオン国王は、渋るトーマス・マーリックを説得するために、絶対に断ることのできない申し出をした。同盟の軍需生産品を入手するのと引き換えに、トーマスの不治の病に冒された息子をニューアヴァロン科学大学(中心領域で最高の科学・医療研究施設)で治療するというものである。大規模な輸出契約は同盟経済を地に落としてしまうのではないかという不安をよそに、マーリックは同意した。

 実際のところ、武器取引は同盟の経済を急上昇させた。氏族の侵攻を一時的に止めた3052年のツカイード停戦は、需要を低下させることがなかった。なぜなら、停戦が失効するその日まで、全中心領域が兵器とマシンを備蓄したからだ。

 買い手が途切れず、10年以上増産を続け後、同盟の経済は悪化の気配などみじんも感じられなかった。その影響は軍需産業を越えるものである。なぜなら、高給の労働者たちが、金を使う対象を求めたからだ。眠れる僻地の世界は一夜にして新しい商業のエンジンに生まれ変わるか、希望にあふれた若者が富を求めて開発された近隣世界に移住し、人口減少を被った。もっと都市化された惑星では、チャンスを求める人たちで都市は混雑している。毎日のように新しいビジネスが立ち上がり、ひとつのベンチャーが死ぬごとにみっつの新規ベンチャーが生まれるのである。いつも満席の騒がしいカフェから、惑星証券取引所のフロア、かつて荒廃していた街区のリノベーションされた住宅まで、至る所に富があふれていた。

 全般に民衆のムードは、希望に満ちたものから、完全に浮ついているまでがある。いまだ取り残されている多くの者たちにも、遅かれ早かれいい時代がやってくるだろう。同盟の新たな黄金期の立役者とされるトーマス・マーリックは、富を得た全市民、そしてそれを待っている市民の確固とした忠誠心を獲得している。大衆からの支持は、他の何よりも新たに団結した自由世界同盟を安定させている。

 だが全員が好況の時代を完全に良いものと見ているわけではない。開発が進んでおらず、そこそこ繁栄したような世界では、新しい秩序がもたらした望まれざる変化を地元市民たちが恐れているのである。あふれるマネーと成金たちの台頭により、このような惑星は一攫千金を狙う土地の投機家や悪徳開発業者の餌食になっている。住人たちの一部は、彼らが愛するゆったりした生活を強欲な新参者たちが邪魔していることに不平を述べている。小さく緊密なコミュニティが、Mビルの価値しかない場所に変えられていくのだ。

 こういった感覚は別種の敵対者を生み出す潜在的基盤となった。トーマス・マーリックの持つ強大な権力は、かつて同盟がよって立っていた完全なる自由への裏切りと見なされた。中央集権反対派は、3030年に内部緊急法案を(ほぼ同じ理由で)拒否した惑星のいくつかで立ち上がった。これまでのところ、彼らはカムランのような独立世界(自分たちの惑星政府よりも大きな権威を拒否した長い歴史がある)で力を持っている。大きな権威からの独立を目指した最初の同盟世界、カムランの指導者たちは、「惑星、地域の権利」陣営のための基調を打ちだした。彼らはマーリックの政策そのものに反対しているのではなく、権力の締め付けに反対しているのだ。彼らにとって、最も大切な権利は、放っておかれる権利である。中央政府の力が高まれば、権利は侵害される。自由な市民はそれに抵抗する義務がある。

 経済が好調な限り、そういった感情は散発的かつ静かなものである。大半の同盟市民は、新しい富を楽しむ、ないのなら得ようとする以上のことを求めていない。いい時期が続く限り、トーマス・マーリックと後継者たちは、深刻な反対に直面することはほぼないだろう。未来への希望に満ちあふれたこの国を脱線させるのは、大規模な景気後退か、あるいは予期せぬカタストロフィーだけだろう。



主な地方国 Major Provinces

 中心領域のどの国よりも、自由世界同盟は部分と部分の組み合わせである。多様性を持ち、自国の歴史と伝統にすさまじいまでの誇りを抱く国々・惑星が同盟を形作り、多彩な人類の輝かしいパッチワークをなしている。各地域と独立世界の完全な地図は本書の範囲を超えるものであるが、多文化で、国際的で、独立心を持つ社会の生活を少しでも理解して頂くため主な地方国(Provinces)を短く紹介する。



マーリック共和国 Marik Commonwealth

 マーリック一族の拠点たるマーリック共和国は、地球の東ヨーロッパ、中央ヨーロッパに文化的なルーツがある。同盟公用語の英語に加えて、ルーマニア語、スロヴァキア語、チェコ語、ハンガリー語が多くの惑星で話される。共和国は自由世界同盟の国境から遙か遠くにあるので、継承権戦争における最悪の破壊をだいたいにおいて逃れてきた。よって、共和国の企業と工場は、近年の経済的活況を享受する絶好の位置にあるのだ。ニューオリンピアでは、業績好調な新興企業数社が共同で科学的研究を行い、第二次継承権戦争で破壊された農業ドーム3箇所を修理しようとしている。ここで育つ余剰の農作物は、マーリック共和国の穀倉地帯たるニューオリンピアの地位を固めるだろう。すでにかなりの量の食料が拡大するアトレウスの都市群に割り当てられている(アトレウスでは広大な耕作地が住宅と新興工場に転換された)。この貿易協定は、マーリック共和国の惑星間では典型的なものである。この地域においては、有利な取引と同じぐらいに文化的な結びつきが重視されており、「家族の中」での取引を維持するためたびたび意思がねじ曲げられる。

 マーリック共和国の身内主義を生み出した別の要素は、同盟を作った国であるという歴史、マーリックが長い間権力を握っていること、自由世界軍の背骨たるマーリック国民軍の存在などがある。地元市民はマーリック共和国あっての自由世界同盟だと信じるのを好む……その始まりから、軍隊を才能豊かなマーリック一族が率いてきたのだ。共和国の軍隊とマーリックの指揮官がいなければ、2330年代に入る前に、地球帝国がレグルス侯国とオリエント連邦を蹂躙していただろう(とマーリック市民たちはいう)。長きにわたる継承権戦争で、同盟が生き残るのに軍隊の役割がさらに重要になったことでのみ、この島国根性的視点は認められる。他の自由世界同盟住人は、こういった地域エゴに同意しない。そして彼らも、自国や惑星に対して似たような視点を持っているのである。同盟の歴史の難しい時期には、各地域が優位に立とうと争ったことから、こうした地域的傲慢が激発の種になった。親マーリック派を大きく増やした現在の楽観的なムードは、とげとげしい対立を幾分和らげている。マーリック共和国を訪れた者たちは、支配王家に対する地元の誇りを共有することが多く、引き換えに共和国の市民たちは訪れたこともない国への賛辞を惜しまないのである。

 共和国の星々と市民の中にある島国根性の例外は、古代地球のロマ族の子孫であるトラベラーズだ。人類による最初の宇宙探索ブームの間、少数の裕福なロマ族が資金を貯めて船を建造した。かつて地球の道沿いに祖先を運んだ荷馬車のように、彼らを乗せた船は宇宙の航路を進んだ。多くのロマがその後に続き、トラベラーズたちは惑星と惑星の間の道を往復した。後から来た大勢は植民船でいずれマーリック宙域となる惑星に到着した。よって、彼らは自由世界同盟を本拠地のようなものと見なすようになっている。小規模なロマのコミュニティが、事実上マーリック共和国すべての世界に存在する。宇宙にいる兄弟たちが地に足を踏みしめる必要性を感じたときはいつでも、歓迎される場所を見つけられるのである。そうでないとき、トラベラーズたちは旧式の船で暮らし、気分次第で行く場所を決める。一部はマーリック共和国領土内に残るが、一部は遙か遠くまで冒険を行う。腕のいい天才的なロマの技術者たちが愛情を込めて整備していることから、彼らの船は見た目より遙かに宇宙向けである。トラベラーズが機械に強いことは、同盟中で有名である。軍隊や民間で職を得ている数少ないロマの技術者たちは、たいてい自分の望む仕事を得ることが出来る。



オリエント公国 Duchy of Oriente

 学問、芸術、科学の中心として自由世界中に知られるオリエントは、支持者たちから同盟の文化的な王冠の宝石であると賞賛される。嫌う者たちは「本当の仕事を知らない口だけの政治家、成金の弁護士、酩酊した芸術家気取りの集まり」とよく言う。だが、この国際的で先進的思想を持つ地方が、国家の多くをなしてきたことを否定する同盟の住人はいない。主に民主的な諸世界の連邦として創設されたオリエント公国は、自由世界同盟に優れた文化的風潮の多くと民主的政府(時にトラブルをもたらしてきた)の伝統を与えた。同盟に議会が存在するのはだいたいにおいてオリエントが理由である。大昔のリーダーたちが、何らかの形で代議制の政府を作るべしと主張したのである。選挙で選ばれた手強い政体がなければ、初期の総帥たちはもっと簡単に気難しくない自由世界同盟を統治することが出来ただろう。だが、自由を愛する同盟の市民たちは、融合の対価を支払うわけがない。現代の同盟人は、地方の党派根性と行き詰まりに文句を言うかもしれないが、誰も個人の自由を捨てたりはしないだろう。それは、異なる無数の利得の中で何世紀も抜け目のない政治的を続けて確保してきたものなのだ。

 オリエント公国はもうひとつの価値ある伝統の主でもある。科学と技術のイノベーションだ。継承権戦争が始まるまで、オリエントはその両方を主導し、残酷な紛争の数世紀があってなお、研究の先進性を失わなかったのである。バトルメック工場いくつかを擁するキャロウェイIVには、キャロウェイ技術社(同盟における軍事設計と工学のトップ企業)の本社がある――マーリック共和国市民は国境外に軍事的優位があるのを嫌うので、これを悔しがっている。民間部門では、惑星デイル・カフナのメタモフォシス社がバイオテクノロジーで最先端であり、副業として利益の上がる人体の交換部品を取り扱っている(一般市民は人体の交換を嫌っているのだが)。

 オリエントの民主的傾向は、初期の植民で人口の多かった英国人、北アメリカ人に依っている。これらグループの両方がたびたび騒がしくなる代議制政府に慣れ親しんだ社会から来ており、それは彼らが誇りとともに星々に持ってきた伝統なのだ。スペイン人とイタリア人が二番目に大きい民族グループで、バスク人もちらほらと混ざっている。マルティーグ 大陸南部の習慣であるスペイン流のシエスタから、惑星オリエントの政府地区を彩るイタリア・ルネサンス風の大理石ビル、国中にまたがるサッカー熱まで、現代の公国ではすべての文化的な痕跡を見ることが出来る。公国は頻繁に国境の変わるカペラ沿いに近いので、中国系の人口が多く、カペラ大連邦国の世界から移住した朝鮮、インド、ロシアの小規模集団がいる。最大のアジア人飛び地は、レ・アールとアネガサキにあり、どちらも歴史の中で何度もカペラの支配下に入った。



レグルス侯国 Principality of Regulus

 同盟の創設に関わった三番目の国、レグルス侯国はインドと中央アジアから人口、文化的遺産の大半を引き継いでいる。 宇宙旅行時代の前から貿易商だったインド出身のセラジ家が、当初からこの地域(5つの世界の商業コングロマリット)を支配していた。2680年代、セラジ家は残虐なテロ暗殺事件に関わったと疑われ、カノープス統一政体に落ち延びるのを余儀なくされた。利益の上がる香辛料貿易の分野でセラジ家とライバルだったキャメロン=ジョーンズ一族が、権力の空白に飛び込み、それ以来、侯国の首都レグルスを支配している。その後、他の裕福な一族がレグルスの寡頭制政治に加わった。最も有力なのは、ヘロス・マイナーのロンバルド家やウォリスのアレクサンダー家である。新参者たちは、この地域を支配するインド文化を少しずつ薄めていったが、セラジ一族の遺産はレグルス社会に力強く残っている。ヒンドゥスターニー語が幅広く普及し、3040年代にインドの古典ラーガ音楽が情熱的にリバイバルし、侯国の惑星のどこにでもヒンズー寺院が存在する。

 政治面では、4世紀近く前にセラジ家が去ったことで、マーリック家による同盟支配への反発が弱まることはなかった。デリック・キャメロン=ジョーンズ(議会の元野党リーダー)は地方の権利運動の長老政治家となった。現在の野党リーダー、カーク・キャメロン・ジョーンズとレグルスの議員たちは、デリックの指示に従う傾向がある。だが、一般大衆の中では、経済の好況と親マーリック感情がほとんど重なりあっている。レグルス市民の多くがたいがいはリーダーたちを支持するものの、反マーリックの政治的駆け引きにふけるより、レグルスの商業的な利益を守ることを好むのである。

 2681年に侯国からの分離独立を勝ち取った3つの惑星、レグルス自由州は、トーマス・マーリック個人への最高の忠誠心を持つ。セラジ一族に家族が殺されたと勘違いして始まったジェラルド・マーリック総帥の戦争で生まれたこの小さな連邦は、マーリックに忠誠を誓い、素早く親マーリック政府を樹立することで、安全と自由を勝ち取った。だがレグルス自由州は、絶え間ない政治的、経済的干渉を受けて、書類上の自由に価値がないことを思い知った。3037年に、トーマス・マーリックが編入補遺法案を通して、ついに自由州は独自の道を探る手段を手にした。それ以来、地元の文化と惑星経済は、活力あるルネッサンスの時代に入った。もう侯国の貿易禁止令に囚われることのない自由州の工業と輸出は盛んになった。分離独立運動の初期に非合法化され、侯国の地元支配で無意味なものとなったモンゴル語とカザフ語が、この小さな地方国家の主要言語として見事に復活を果たした。人類移住の初期から大きなノルウェー人居住地のあるオラフスヴィークではノルウェー語も広く話されている。



アンドゥリエン公国 Duchy of Andurien

 水に恵まれた惑星アンドゥリエンは、ふたつの巨大な星間帝国が奪い合ってきたという長い歴史を持つ。23世紀後半以降、カペラと自由世界同盟が交互に占領し、2398年から2551年まで3つの戦争の種となった。星間連盟への加入を勧誘するためカペラ大連邦国に与えられ、第一次継承権戦争で自由世界同盟が奪還したこの地域は、同盟に大きな富と大きなトラブルをもたらしてきた。統治するハンフリーズ家(かつては同盟忠義派だった)は繰り返される攻撃を避けるために独立へと傾いた。3030年のアンドゥリエン危機を引き起こした故キャサリン・ハンフリーズ女公の語るところでは、「我らはうなる2頭の犬に引き裂かれる肉片ではない。我々は狂ったリャオと気取ったマーリックが英雄ごっこをするたびに人生を台無しにされるべきではない。我らは我らの道を行く。両家に災いあれ!」。このような歯に衣着せぬ分離主義感情は、トーマス・マーリックの治世にほとんど死に絶えたものの、歴史はアンドゥリエン市民の多くにとって大きな感情的な力であり続けている。裏切り者という不当な汚名を払拭するために、同レベルの情熱で分離主義を否定する者もいる。いずれにしても、この地域の人々はアンドゥリエン生まれを猛烈に誇り、政治の問題に非常に敏感である。

 膨大な水と価値ある資源に恵まれたアンドゥリエン星系は、自由世界同盟で最高に繁栄する惑星の中に入るはずだった。だが、数世紀に及ぶ国境戦争で、惑星政府は壊れたインフラを何度も何度も再建せねばならなかった。最新の再建がほぼ完了したことで、公国はついに同盟中にまたがる好況の波に乗り始めた。人口が多く資源に欠ける惑星で輸出用の水とシーフードの需要がうなぎ登りとなり、アンドゥリエン政府とビジネスマンは両方とも豊かになった。

 好景気に後押しされた楽観主義は、イシス・マーリックとサン=ツー・リャオが婚約していた9年間に急降下した。アンドゥリエン惑星の多くで反リャオ感情が高まり、リャオ総帥が生まれるという見通しが瀕死の分離主義運動を復活させかけた。婚約が破棄され、イシス・マーリックがマーリック継承者から廃されると、地元の感情はトーマス・マーリックへと確実に戻った。独立派は残り、リャオ派すら残っているが、後者はほとんどが国境世界の大きな中国人飛び地にあるものである。そうはいっても、アンドゥリエン人の大半はどのような民族であろうと、当面のところ繁栄する自由世界同盟の一部であることに満足している。

 カペラ国境に位置することから、公国は大勢のアジア人人口(中国、インド、朝鮮が主)を抱えている。ウェールズ人、スペイン人の影響も強いのだが、ウェールズ系と関係の深いハンフリー一族が没落していることから、前者は減りつつある。辺境に近いアンドゥリエンの惑星ではカノープス統一政体とかなりの往来がある――なんでもありという考え方で知られる辺境国家だ。2つの地域の間の文化的、科学的交流(市民たちも頻繁に旅する)で、アンドゥリエンのリムワードの日常生活にのんびりした空気が植え付けられている。これは、市民たちが仕事に励み目標に向かっていく他の地方にはまったくないものだ。
















自由世界同盟軍 3067


保護領防衛団 PROTECTORATE GUARD

 連邦=共和国から国境保護領が解放されたことで、保護領防衛団とFWLMのあいだに出来ていた亀裂は大いに修復された。防衛団の部隊は30年近く故郷から亡命し、厳しい国境チェックの必要性から、家族や友人たちとの結びつきはひどく薄いものとなってしまっていた。部隊の士気は大きく低下した……3057年のゲレイロ作戦まで、総帥が本拠地を奪回するのを拒み、彼らを辛抱強く待たせていたときには、特にそうなっていた。それからの10年、防衛団は保護領世界との関係を復活させるのに尽力し、軍事再建法案があるにも関わらず(そしてFWLMからの多少の支援の下)、これらの惑星から新兵を集めるのに主眼を置いている。結果として、保護領防衛団の40パーセント前後が地元の入隊者で占められ、三番目の連隊――赤鉄衛団が3065年から実戦配備されている。

 だが防衛団の幸運は、二人の指揮官の長き不和に再び火を付けた。鋼鉄衛団の世襲指揮官ストラウド家と、保護領防衛団全体の指揮官ブライス=マーリック将軍である。ストラウド一族が主張するところによると、部外者はこの再統一の時代にふさわしくないとし、ブライス=マーリック将軍の能力と、この状況に対する過敏さ無視している。FWLMはブライス=マーリック異動に関する二度の請願を拒否している。防衛団内で将軍の権威が衰えていない一方、この亀裂は赤鉄衛団に問題を起こしている。隊員がストラウド派とブライス=マーリック派に分裂しているのだ。[長年の関係のおかげで、ストラウド一族は我らの提案を喜んで聞くと判明し、計画の理想的な協力者となるかもしれない。鉄衛団は我らの影響外にあるが、ここ最近の騒ぎの後で、鋼鉄衛団と赤鉄衛団は我らの都合のいい位置にいる。-C]


鉄衛団 Iron Guard

 保護領軍最古の鉄衛団は、総帥に固い忠誠を誓っており、軍事再編法案とその後の変化を心から受け入れた。ゲレイロ作戦での損耗はすぐに回復し、その後の平和な10年間で、この防衛団のメックと戦車は現代の標準レベルになった……もっともバトルアーマーとアップグレードされた気圏戦闘機はほとんどないのだが。ストラウド一族とブライス=マーリックの舌戦は、この連隊にほとんど影響を与えなかったが、シュタイナー家に対する憎悪――と連邦=共和国内戦の混乱につけ込むという嘆願――は、FWLMにいくらかの懸念を起こさせ、リャオ国境への配置換えとぼろぼろになった鉄衛団のゾスマ帰還に結びついた。


鋼鉄衛団 Steel Guard

 元は傭兵だった鋼鉄衛団は、アスンシオンでハーロック襲撃隊から被った損害が完全に回復していない。この惑星で、ザイオン救援に向かおうとした保護領の部隊を、カペラが拘束し、痛めつけたのである。ザイオンの件が解決したのと、ゾスマへの撤退で、さらにリャオ軍から攻撃を受けることはなくなった。ストラウド大佐はコメントを残していないが、部隊内の噂によると、鋼鉄衛団の再建が遅れているのは、ストラウド家の不忠への制裁として、FWLMが部隊の補給を厳しく制限しているからだという。我らの記録に、そのような妨害の存在は記されていない……ストラウド大佐の怠慢、あるいはストラウド家の者の干渉によるものと考えられる。[我が結社と鋼鉄衛団の秘密の関係は、この10年でかなり進展している。この同盟関係は、我らのパイロット数名が航空大隊で飛行するところから、戦車兵、メック戦士まで拡大している。この基幹人員的役割は減少したが、鋼鉄衛団とブレイク市民軍のつながりは強いまである。-C]


赤鉄衛団 Haematite Guard

 3年前には配備されていなかった、保護領防衛団の新部隊、赤鉄衛団は、保護領軍内でもっとも若く経験不足の兵士たちで構成されている。この連隊の装備は良いものである。新型機とフィールドアップグレードキットで強化された旧型機の組み合わせで、大半は姉妹連隊で不要になった品である。赤鉄衛団はまだアイデンティティを確立しておらず、未熟な兵士たちの間で頻発する口論で有名になっている。それぞれブライス=マーリック派、ストラウド派に分かれている、鉄衛団連隊、鋼鉄衛団連隊と違って、赤鉄衛団はどちらの派閥にも属さず、従って説得の対象となっている。鉄衛団のメンカリネン配備と、鋼鉄衛団のゾスマ帰還で、ストラウド家に有利な状況であるように見える。










アルバート・マーリック:小さな巨人

 自由世界史上、最も重要なリーダーの一人、"偉大"なアルバートは、最上級の演説家にして戦術家であった。といっても、小柄であることから戦場に出ることはなかった。キャロウェイVIのライジングスターコングロマリットで働いた12年で、彼はビジネスに精通し、一方でマーリック一族の天性が、軍事的才能を保証したのである。熱心な画家、美術収集家である彼は、文化の後援者の一人となり、彫刻、絵画から、バレー、太鼓まですべてに興味を持った。アルバートは多才であったが、このような様々な関心を抱いている他の人間たちと違って、いくつかを極めていた。

 2511年、アルバートは総帥権を継ぎ、同盟中にまたがる政治と統治という新たなる段階に押し出された。しかし彼のビジネス感覚と生まれ持った演説の能力は、彼が望んだ通りに行うのをほぼ可能としたのである。彼の低く澄んだ声は人々を魅了した。自分で演説の原稿を書くことはなかった――多くの政治家のように、スタッフに頼った――が、人の心を奪う即興の演説をぶつことができたのである。会議、面会に臨む際には、参加者たちのことを出来るだけ調べるのを務めとした。ゲストの最新のゴルフスコアや、子どものコンサートの成果を調べる彼の能力は、親密になる個人的な手段となったのである。彼はまた、素晴らしい言語能力を持っていた。ネイティブである英語に加えて、ヒンズー語、日本語、ドイツ語を流ちょうに話し、ウルドゥー語、マンダリン、フランス語もかなりのものであった。これが彼に、外国人との外交折衝をスムーズに行わせたのである。アルバートが、友人のイアン・キャメロンとともに星間連盟の秘密の考案者となったのは、おそらく驚くべきことではない。星間連盟を実現させるには、まさに彼の多才さが必要だったのである。だが、彼が日常的に中心的な役割を果たしたと認識されていたのは、自由世界だけである。同盟創設直後の彼の死は大きな悲劇であり、大王家の全指導者たちが、惑星マーリックで行われた葬儀に参列したのだった。

――ジャレッド・カーン著『偉大なるマーリックたち(2巻)』オリエント
















自由世界同盟 Free Worlds League 3076


指導者: コリン・マーリック総帥
政府: 議会制連合体(軍事統治下)
首都、主星: アトレウス・シティ、アトレウス
主要言語: 英語(公用語)、スペイン語、ギリシャ語、ルーマニア語、ウルドゥ語
主要宗教: キリスト教(カソリック)、ユダヤ教、イスラム教
居住星系: 308
創世年: 2271年
通貨: イーグル


 氏族侵攻後、中心領域の武器商人となった自由世界の工業と経済は好調であったが、聖戦が始まると、同盟の市民たちも無関係ではいられなくなった。総帥であるトーマス・マーリックが、何十年も前にコムスターに仕込まれた偽物だったと知り、驚いた同盟はほころび始めた。現在、少なくとも3人の指導者が総帥を名乗り、国家を崩壊の瀬戸際に追いやってる。


コリン・マーリック Corinne Marik
称号/階級: 自由世界同盟総帥、3069年〜
生年: 3023年(3075年時点で52歳)

 トーマス・マーリックの姪であるコリンは、叔父を支持していたが、実際には政治の場に立つよりも、第2自由世界軍団の指揮に居心地の良さを感じていた。トーマスが本物のトーマスでなかったことが明らかになると、彼女は好むと好まざると国家のため総帥の地位に就かざるを得なかったのである。

 聖戦中、コリンは薄氷の上を歩かねばならなかった。ワード・オブ・ブレイクが同盟の大半と父親(コムスターの侍祭で、弟をワードの謎めいたマスターに捧げている)を支配し、強い影響力を振るった。それにも関わらず、コリンは市民にとってベストになることをしようとし、ワードの行きすぎた行為を抑えるために働いてきた。聖戦が落ち着き始めていることから、彼女が総帥としての役割を続けることが、自由世界同盟の生き残りにとって喫緊の問題となるだろう。


"トーマス・マーリック" “Thomas Marik”
称号/階級: 自由世界同盟総帥、3036〜3069年
生年: 2990年?

 トーマスはヤノス・マーリックの最初の結婚で生まれた末っ子で、自由世界同盟の政治に参加することなくコムスターに入信した。父親が統治不能となり、兄と姉たちが候補から外れると、トーマスは実家に戻り、総帥の地位に就いた。彼は父を暗殺した爆弾で一緒に死んだと考えられたが、回復した1年後に姿を現し、国家を指導する準備をした。在任中、氏族と戦う国に軍需物資を供給することで、同盟は力強く成長した。分派であるワード・オブ・ブレイクを庇護したのは、彼がコムスターに籍を置いていたことの表れとされていた。

 だがそれは全部嘘だった。聖戦に入ってから一年後、ワード・オブ・ブレイクは全中心領域に真実を暴露した。"トーマス・マーリック"は、同盟を支配するためにコムスターが配した偽物だったのである。この秘密は"トーマス"が築いてきた信頼を破壊し、自由世界同盟を崩壊に導いたのだった。


第2自由世界軍団 Second Free Worlds Legionnaires

 トーマス・ハラスの望みに反して、彼の正体が明かされたことで離脱者が相次ぎ、自由世界軍団は数を減らすこととなった。コリン・マーリックが総帥に任命されたのに伴い、第2軍団はアトレウスに配置され、第1中心領域騎士団が務めていた儀仗兵の役割を引き受けた。他の軍団からは若干の離脱者が出て、アリス・ルーセ=マーリックのレジスタンスに集ったが、全体として総帥に忠誠を誓い続けた。

 地位を向上させたことで、第2は装備と技術を惜しみなく使用し、同時に惑星上のブレイク派部隊、第15師団とあまり友好的でないライバル関係に置かれた。ブレイク派の役割が「メンター」部隊であることはパー将軍にとって据わりが悪く、その懸念はほとんど無視されている。


第1レグルス軽機兵隊 First Regulan Hussars

 ミシェル・キャメロン=ジョーンズ妃大佐のショッキングな死以来、レグルス軽機兵隊は急速な拡大プログラムをさらに実施し、3076年前半にブレイク派の使者が主星を訪問したのが報告されてから始まった取り組みを加速させている。現在の軽機兵隊は、約12個連隊が存在するが、当然ながら新しい部隊の人員と装備は低い水準である。

 新たに昇進したイーサン・ハンター卿大佐は、元指揮官(パージの後で階級を剥奪された)とのポストをかけた決闘に直面したものの、第1軽機兵隊の指揮官に就任した。名目上、ハンターがレグルス地上軍を指揮するが、実際にはトーマス・オルフェルト少将が全体の指揮権を握っている。


第15マーリック国民軍 Fifteenth Marik Militia

 自由世界同盟軍の永遠の防波堤であるマーリック国民軍は、ジェレミー・ブレットのブロークンフィスト作戦から同盟内に蔓延る各種の反乱戦まで、聖戦の先陣を務めてきた。ほとんど絶え間なく活動してきたものの、国民軍は脱走と損失の両方でわずかな連隊を失ったのみである。

 第15国民軍はベレンソンでのミニ内戦でほぼ潰滅した……部隊内のブレイク派分子が丸ごとワードに寝返ろうとしたときのことである。親FWL派の生存者はアリス・ルーセ=マーリックのレジスタンスに加わった。


アースワークスFWL Earthwerks-FWL Incorporated

 FWL軍需産業の一流企業であるアースワークス社は威風堂々としたたたずまいを保っている。不況が続くにもかかわらず、バトルメックの生産レーンはほぼフル生産で稼働中だ。

 イルテックの上層部とは対称的に、アースワークスの取締役会はいわゆるシン・レッド・ラインを見つけたようだ。いまだに支配を続けるワード・オブ・ブレイクを喜ばせることと、拡大する抵抗軍への密かな補給をすることの絶妙なバランスを取った判断をしているのである。















ツーリング・ザ・スターズ Free Worlds League 3134



第33回:孵化する運命 - 自由世界同盟の誕生

 独立を愛する心で連合しているが、互いに分裂している。経済と社会は強大だが、悪夢のようにもつれる官僚政治と紛争によって抑え込まれている。こういったものが自由世界同盟を形作っているとよく言われる。この国家は対照性の研究材料になってきた。創設から崩壊に至るまで、そして現在でさえも、この王国がどうやって誕生できたのか、加盟国同士に大きな違いがあるなかでどう始まったのかが、歴史書の全巻で推測されている。学者たちはほぼ8世紀間(ほとんどの期間が絶えざる戦役に蝕まれてきた)も、国家が存続してきたことに驚嘆している。同盟の崩壊後でさえも、専門家たちはかつてのプライドが残っていることに驚嘆し(絶望的なまでに争いばかりの王国だったが)、気まぐれな子孫たちの多数が今日でさえも国家の再興をいつか成し遂げるべく活動していることに驚かされている。

 他の継承国家と同じように、同盟の創設は地球同盟の緩やかな終焉とともに始まっている。植民地世界が次々と独立を宣言するなかで、地球同盟の力はさらに衰えていき、結局、内政重視の政策に変更することとなった。若い植民地への援助をうち切ったのである。続く混沌のなかで、貧しい世界は海賊行為と襲撃の犠牲者となり、力を減退させ、駆け出しの政府を弱体化させた。生き残るために、同盟が作られた。いずれドラコ連合となるゲイルダン同盟や、ライラ共和国を作り出すスカイア連邦、タマラー協定、ドネガル保護領の経済勢力などである。だがこういった同盟国ができる前に、自由世界同盟を結成することになるマーリック共和国、レグルス侯国、オリエント連邦が現れていたのだった。

 マーリック共和国(鉱物の豊かな世界マーリックを中心としていた)は、たったひとつの世界として始まり、同じ名前の一族によって統治されていた。チャールズ・マーリック(統治者であり、多数の指導者を輩出した一族の出身)は、2238年に地球同盟からの独立を宣言した。彼の統治下において、新名マーリック共和国は、すさまじい生産能力に支えられ、強力な中央政府の下に結びついた。マーリックは軍隊もまた立ち上げた。軍隊は結局、さらなる世界を旗下に集める助けとして、優れた外交手腕とともに使われたのだった。2771年までに、マーリック共和国――ひとつの世界から拡大していったのちに名付けられた――は、合計12個の世界を統治し、地球同盟宙域の国境から60光年離れていた。

 ほぼ同時期に、レグルス侯国が、リムワードにあった地球植民地間の貿易契約連合として作られ始めていた。裕福なセラジ家(この地域で最も開発されていた5つの世界が力の源になっていた)に支配される侯国は、準国家――2270年までに17個の世界からなる企業政治同盟になっていった。

 オリエント連邦は、そのあいだ、オリエントに近い世界の外交ネットワークを核として結成された。オリエントは2241年にトーマス・アリソンが(地球)同盟からの独立を宣言していた。多民族が集まっている――ほとんどが東欧人であるマーリック共和国や、インド、パキスタン系が占めるレグルス侯国とは対照的に――連邦は、自由と同様に科学・芸術の進化にも心を砕いていた。

 これら三つの連邦国家は、独自の政治組織文化の下で成長した。マーリック共和国は強力な中央政府を持った軍事国家である。侯国は裕福な一族の寡頭政治体制である。また連邦は議会制民主主義によって統治されていた。しかし、違いがあったがために、これら3同盟国は自身の成長を、地球同盟の避けられぬ衰退と同様に、自身の安定を脅かすものと見ていた。アリソン(優れた洞察力を持ち合わせていた)が、ニューデロスの特使ジョージ・ハンフリー卿とともに、初めて同盟を持ちかけた。


 地球同盟の最盛期に開発された植民地間の大きな違いを考えると、自由世界同盟を創設したときにレグルス、オリエント、マーリックが遭遇したような問題に、他の大国が遭遇しなかったのはやや驚きである。言語(あらゆる文化の中核要素)がマーリック条約の焦点となった。最近勝ち取った独立と、統治している様々な民衆に気を遣って、共和国、侯国、連邦の指導者たちは、実質的な仕事量と同じくらい、言語と用語について議論を交わした。結局、英語(指導者3名全員が話せる唯一の言語)が選ばれた……民衆の大部分は、通常、この言葉を使えないのではあるが。
――ショーナ・ヴェリジ著『混乱した国家、政治と(元)自由世界同盟』(共和国プレス、3099年)より


 新国家の公式言語から政府の様式についてまで、数年間討議した後で、2271年、マーリック条約は最終的に――あるいは奇跡的に――署名され、今日の学者が継承国家と呼ぶ最初の自由世界同盟が作られた。この国の指針は、マーリック共和国の軍事力、レグルス侯国の経済力、そして雑多で独立的な統率力を持ったオリエント連邦の外交技術から得られる相互利益である。マーリック条約は3王国に自治を与え、指導者たちは議会政治のなかで活躍することになる。緊急時のみの称号として、総帥の地位が作られた。危機の間、選ばれたひとりの軍事的指導者に、同盟軍の全権限を与えるのである。同様に、経済的繁栄を促進するインセンティブが政府内に組み込まれた。議会における代表の影響力は、惑星の人口でなく、経済力(国家の税額)に比例する。この事実は――一時的に――マーリック、オリエント、レグルスの支配を保証していたのである。真の権力は、中央の指導者でなく、議会の大臣(MPs)に与えられたが、たいていは結集力のある政府に帰着したのだった。

 手に負えず、変化に応えるのが遅いのだが、自由世界同盟は結成後、はるかに繁栄し成長した。相互保護のために近隣の世界と小規模な連合国が結局は同盟に参加し、その一方で他の国家は併合されていった。征服された国家のひとつがスチュワート共和国……6個の世界からなる軍事独裁政府である。マーリック共和国はこの国を重大な脅威とみなし、議会の宣戦布告を勝ち取り、2293年に強襲した。この危機は同盟最初の総帥ジュリアーノ・マーリックを選ぶに足るほど重大であり、同盟の運命(数世紀間、動く方向を決める)を本質的に変更するお膳立てをした。


 マーリックは自然と同盟最初の総帥に選ばれた。マーリック家が加盟国で最も軍事的な経験を持っているからだが、徹底的なこの地位の権力は、最も予期しない最も遠い結果をもたらしたと私は考えている。最初は、確かに、同盟がスチュワート共和国を吸収し、たった一週間で完了した。だが、ちょうど20年後にふたたび総帥が必要とされた。地球帝国が出現すると、ジュリアーノ・マーリックが同盟の危機を救うためにまたやってきたのだ。勝てない戦いをするよりも(地球同盟装甲軍は軍事的天才のジェームズ・マッケナ提督によって再編されていた。帝国軍は同盟軍より優れていた)、マーリックは総帥としての幅広い権限を使って帝国との対話を行い、同盟を好況に導く貿易の道を切り開いたのである。同盟の大臣たちはこの解答にまったく反対しなかった……前例のない軍事と政治の共同作業だったというのに。あらゆる意志・目的のために、総帥は有事において国家の指導に関するすべての権限を持つことができたのだ。

 当然、この初期の例は、決議288号に結びつき、自由世界議会の権力を事実上停止する長い道に入ったのである。

――ケビン・デュエリ著『皮肉な政治ガイド 第三版』(ダーク・スカイア・プレス、3090年)より







第34回:鷲の飛行 - マーリック家の勃興と没落

 2398年、アンドゥリエンの世界が、隣国のカペラ大連邦国軍による強襲を受け、戦争の時代の幕開けとなった。時が進むに連れ、同盟――それに中心領域の残り――は、少なくとも星間連盟の誕生まで、ほぼ絶えざる強襲で自身の国境線を追い求めることになる。これはまた自由世界同盟の素晴らしき日々の終わりをも意味していた。長引く戦いの費用で国庫は枯渇していったのである。しかしそれ以上に、総帥の長期就任が、マーリック家と同盟議会の政治的党争に結びついたのである。

 ピーター・マーリック(アンドゥリエン危機を扱うために2396年に任命)は、リャオ家に強襲された世界をなんとか取り返しただけでなく、同盟の大兵力をライラ共和国に向け、自由世界市民のヒーローとして人気の波に乗った。議会(総帥の手綱を締めようとしていた)がマーリックに、ライラと休戦するよう命令を出したとき、彼はそれを無視して征服を続け、2418年に戦いを終えるまでに共和国の世界をいくつか手に入れていたのだった。議会は戦時特権法案(政府が総帥を監督し、権限を広範囲に制限する)によって反撃した。ちょうど2年後にライラとの戦闘が再開したとき、マーリックはその地位に戻りたがらなかった。

 ヨセフ・スチュアート(スチュアート共和国)が次の戦闘指導者となったのだが、冴えない戦果しか残せず、2420年代に5つの世界を失った。スチュワートの災害的なまでの失敗を考え(同盟はマーリックの下で軍事的成功にならされていた)、議会はピーター・マーリックの息子テレンスに総帥職に就くよう依頼した。だが、戦時特権法案がある限り気が進まないようだった。政治的な行き詰まりが、テレンスの要求を押し通し、総帥を議会のコントロールから解放したのである。

 その後、マーリック家は、星間連盟時代にはほとんど権力拡大しようとしなかった(軍事と政治の結合を除く)。この地位が星間連盟議会において自由世界国家の長であるとされた時代のことである。


 星間連盟に加入する取引はおそらくマーリック一族最大の成功のひとつである。長きに渡ったアンドゥリエン地方の紛争――リャオはこの領土を奪い取ろうと三度目の戦役を行っていた――を終わらせる、地球帝国からの支援を受け取っただけでなく、戦争のない時期でさえも総帥の地位を保証する確約を得たのだ。当然、法律上、マーリック家がその地位を常に確保するわけでなかった一方で、自由世界の歴史上、マーリックが常に最高の軍事戦略家・指導者であった事実は、マーリックが星間連盟の一員として自由世界同盟の軍事的王座につくことを保証したのである。

――ケビン・デュエリ著『皮肉な政治ガイド 第三版』(ダーク・スカイア・プレス、3090年)より


 星間連盟の崩壊後に、もちろん、継承権戦争が勃発した。もう同盟の中央政府であるとの認識されていなかったマーリック家は、宇宙で突如戦争が噴出していなかったら、事実上の治世を終えていたかもしれない。ケレンスキー軍が未知の世界に出発すると、ケニオン・マーリック(総帥だった)は有名な――あるいは悪名高い――決議288号を可決するよう、混乱する議会を説得したのである。この決議は「危機の続くあいだ」総帥に全面的な裁量権を与えるものだった。奇妙なことに、「危機」の定義に疑問を呈した議員はほとんどいなかった。数世紀に渡る総帥の政治への口出しにならされていたのだ。決議は通過し、法的に際限のない支配権が総帥の職務に与えられた。従って、マーリック一族は支配を保証されたのである。マーリックの後継者――一族のでていった祖先と友人によって選ばれる――は決議288号を持ち出して前任者より指揮を引き継つぐことになる。

 数世紀に及ぶ継承権戦争を通じて、総帥に対する挑戦は繰り返されたものの、マーリック家は自由世界同盟の手綱を握り続けた。だがこの手綱はせいぜいが弱いものだった。29世紀の半ばと31世紀の初めまでに、多くの同盟に属する小国家――アンドゥリエン公国、オルロフ公国、国境保護国のような――が、なんとか本拠地防衛法案を通過させ、総帥の望みに反して、兵士の3/4をその地方国家から招集できるようになったのである。

 このバルカン化(小国分裂化)は最終的に3014年のマーリック内戦に結びついた。アントン・マーリック(ヤノス総帥の弟)が、相当数の地域公爵に支援されて反乱を起こしたのだ。アンドゥリエンとレグルスのように中立を宣言した大国もあった一方で、マーリック兄弟は王国中にまたがる残酷な戦争を行った。それは始まったのと同じくらい素早く終わったのだが、同盟の構成国のあいだに禍根を残したのである。


 仲の良い友人たちがひとつの部屋にいるとして欲しい。人気のある者が突如、他の者を非難し始めたとする。なにか恐ろしいこと……窃盗、レイプ、殺人などをしたとしてだ。他の者たちがどちらか一方につき、憎まれ口を叩き、舌禍を交わし、血が流れる様を想像して欲しい。次に外部の者たちがやってきて、最初に非難した者を糾弾し、他の者たちをショックに与えたとする。おそらく嫌疑は晴れる。その場には、不和が初めからあったのではないかとの疑いだけが残る。隠されていた嫉妬と恨みが、最も人気のある友人に向かい、声になってしまったのだ。「悪かった」「許してくれ」では関係を修復できない。この友情はもう元に戻らないだろう。

 まるで高校生だが、このようなことが自由世界同盟で起きたのだ。ウルフ竜機兵団がアントン・マーリックを殺し、効果的に内戦を終わらせた後でのことだ。突如、マーリック家は誰が友人であり、誰が敵であるかを知った。いまいましいことに前者はごく少数で、後者が多すぎた。実際に、ライラ共和国と恒星連邦の連合による脅威がなければ、別の内戦(アントンの反乱より大規模なもの)によって同盟が消滅していたかもしれない。

――ショーナ・ヴェリジ著『混乱した国家、政治と(元)自由世界同盟』(共和国プレス、3099年)より


 実際のところ、同盟の分断化は第四次継承権戦争のすぐ後に始まった。アンドゥリエン公国が同盟からの離脱を宣言して、辺境の隣国であるカノープス統一政体とともに、カペラ大連邦国への戦役を開始したのだ。ヤノス・マーリック(同盟の老いた指導者)は、3030年の「緊急法案」提出で反応した。公式には同盟地方国家の権限を「緊急時にだけ」縮小するものである。決議288号を真似たこの法律は、アンドゥリエン危機に対処するだけでなく、より小さな怒れる地方国家をターゲットとし、総帥に権力を集約するものだった。この危機は、戦略会議でヤノスが暗殺されたとき頂点に達し、結局――明らかに――数ヶ月後、息子トーマスの帰還によって終わったのである。

 むろん、トーマス・マーリックは闇の時代にコムスターが王座に据えた詐欺師であることを歴史は知っているが、その詐欺師は同盟の歴史上、もっとも有能な指導者になったことを証明した。彼は、「合併に関する追加条項」のために、「緊急法案」を撤廃した。この法律は、総帥の拒否権と引き替えに、地方国家に自治権と権力を与えるものだった。「マーリックのドアマット(踏みつけにされる)」であることに疲れていた地方国家の信頼を勝ち取ったのだ。ほぼ専制的な政府と軍当局とともに、トーマスはアンドゥリエン戦争に勝利し、裏切った地方国家を新たなより強力な中央権力の支配下に置いたのである。

 その後、偽トーマス・マーリックは中央政府の力を強めただけでなく、同盟の軍事・産業基盤を再建した。だが、氏族侵攻の始まる3048年までに、同盟の運命を変える大きな機会はなかった。他の継承君主たちと取引するなかで、トーマス・マーリックは(氏族に)包囲された中心領域のために同盟の優れた軍事産業・製造業を提供した。またシュタイナー=ダヴィオン同盟に対する安全を確保するため、カペラ大連邦国と緊密な同盟を結んだ。だが、ほぼ同時期に、彼はまたワード・オブ・ブレイク(コムスターの分派で、いずれ彼の王国を焼き尽くすことになる)のホスト役を務めたのだ。

 従って、自由世界同盟は中心領域における最も強力かつ尊敬される力を持つにいたったが、その一方で同時に恐怖の種子をまいていたのである。






第35回:王国の墓碑銘

 3060年代の半ばまでに、自由世界同盟に降りかかる難題は、歴史の中に消えていったかに見えた。マーリック内戦も追憶でしかなくなっていた。正統な王国の後継者である(とみなが考えていた)トーマス・マーリックはアトレウスの玉座につき、総帥職の権力を復活させ、その一方でコムスターの分派(ワード・オブ・ブレイク)は成長し、彼を亡命司教にしようとロビー活動していた。サン=ツー・リャオとの同盟(かつては連邦=共和国の野心に対して身体を支える松葉杖だった)は、シュタイナーとダヴィオンの同盟が崩壊すると、もはや重要でなくなったように見えた。そして氏族の差し迫った脅威によって、侵攻が終わったあとでさえも、中心領域中の王国が同盟の兵器輸出に依存していた。総帥が、自慢の中心領域騎士団とともに、中心領域に平和をもたらすべく専念し、名誉ある戦いぶりを見せると、みなが総帥を称賛して、伝統的な内部争いの脅威でさえも忘れられた追憶になっていった(少なくとも表面上は)。

 外部でのんきに見ていた者は、混乱する3060年代に同盟が顕著な安定を見せたことに妬みさえ抱いた。氏族戦争、第一次ドミニオン/連合戦争、聖アイヴス/カペラ紛争、連邦=共和国内戦、それに伴う戦争が見られたときに、同盟はまったく政治的・軍事的脅威に直面しなかった。だが王国の中枢部では、政治、狂信、憎しみ、絶望といった時限爆弾が時を刻んでいたのだ。ブレイク派はおそらく聖戦の開始を計画していなかったという証拠がいくつか残っているのだが、彼らは内部にさえ秘密にして動き続けた。暗闇と邪悪のしばしの同盟は、新生星間連盟に計り知れないほどの栄光をもたらしたはずだった。

 ワードにとっては不幸だったことに、中心領域の指導者たちが、新生星間連盟がまがい物であると認めたとき(カペラ首相のサン=ツー・リャオを除く。すでに撤退を宣言していた)、彼らの預言された昇華は唐突に終わったのだ。彼らの同盟は、戦争を防ぐよりむしろ、実質的に最近の戦争で所属国家の多くを叩きのめしていた。戦争は新SLDFへの義務を果たすために行われた。この組織はもう有用な目的のためには機能しなかったのだ。従って、誇り高き星間連盟を復活させる試みは放棄されたのである。

 この後のことは、中心領域中の学童がむろん知っている……


 彼らが言うところの先制攻撃はアウトリーチに行われた。ワードは(ウルフ)竜機兵団が脅威であると、(カオス)境界域で戦ったあとに心から信じていたのである。だが、11月28日が終わる前に、ニューアヴァロン、ターカッド、ルシエンの空が、都市に向かう降下船の熱煙とともに炎上していた。どこからともなく現れた戦艦が軌道対地表砲撃の奔流を浴びせ、地上に向かう降下船を援護した。

 多くの人たちが聖戦をアマリス危機や第一次継承権戦争に結びつけている。なぜならブレイク派は、核兵器、生化学物質の使用を躊躇せず、余裕がない世界の必要な生命維持システムでさえも破壊したからだ。だが、特記すべきひとつの重要な違いがある。ワードの目的は征服でなく、テロと破壊だったのだ。アウトリーチは不毛の地にされ、奪取はされなかった。アヴァロン市は立て続けに打撃を受け、単なる戦場のゴーストタウンとなり果てた。ターカッドは破壊された原子炉の放射能雲によって汚染された。ワードの兵士たちは、軍を拘束し、混乱をまき散らすためだけに、これらの地域の一部に長くとどまった。

 もっともアトレウスはそれよりさらに悪かったかもしれない。かつて自由世界同盟軍最高の兵士とされていた者たちによって、破壊がもたらされたのだ。ブレイク派工作員と結託して、議会と総帥の司令センターが破壊され――中心領域騎士団の多くが殺された――同盟海軍の半数以上がその手で首都を爆撃で塵に変えた。強襲が始まる前に、「トーマス・マーリック」が偽物であると公表された。アンドゥリエン危機の時期にコムスターが彼を玉座につけたのである。皮肉にも攻撃軍の最重要目標(偽トーマス・マーリック自身)は強襲から生き残った。議会大臣が決議288号の撤廃(やその他)を議論し続けていたときでさえも隠れ続けていたのだ。

 アトレウス破壊は始まったばかりだった……

――ショーナ・ヴェリジ著『混乱した国家、政治と(元)自由世界同盟』(共和国プレス、3099年)より


 ワードの工作員はあらゆるレベルで自由世界同盟に浸透していた。15年にわたる不自然な信頼がそれを許したのだ。同盟の部隊と戦艦の多くがブレイク派の手に落ち、元々優れていた武器庫に追加された。トーマス・マーリック――もしくはトーマス・マーリックになるとみなが信じていた者――は、これらの行動にぞっとし、ブレイク派と敵対した。ブレイク派は王国に聖戦の嵐を持ち込んだだけであった。狂信者たちとその仲間が3068年にアトレウスを強襲したとき、この攻撃は決定的なものとなった。というのも、同盟の政治的中枢ともっとも信頼できる貴族軍(第1中心領域騎士団)を一掃した以上のことをなしたからだ。マーリック家内の信頼もまたうち砕いたのである。

 続いて起きたことは必然であった。確固たるリーダーシップを奪われ、裏切られた同盟の国家群は内向きになり、大慌てで聖戦から身を守る防衛方法を探し求めたのである。これらのうちでもっとも大きな6つが、レグルス、マーリック、オリエント、アンドゥリエン、タマリンド、レスノヴォの世界を中心としていた。そしてそのほとんどが歴史的な国境線の下に独立国家として再生を主張する一方で、そのすべてが小世界・同盟を取り巻いて成長し、今日に至るまで存在する6ヶ国を形作ることになる。ワードに対して彼らはともに立ちむかったが、以前のようにはうまく連携できなかった。実際に、トーマス・マーリック(3080年からトーマス・ハラス)は戦後、自らにオリエントでの亡命・追放の一種を課し、妻シェリー・ハラスの監督下にあった。聖戦の残りの期間を通して、彼の行動は、分裂した同盟とデヴリン・ストーン連合への諜報支援に終始した。彼の政治的影響力・達成はすべて、偽総帥としての敗北になるのだ。

 そのあいだにワード・オブ・ブレイクが捕食行動を行い、分断された地方国は協調してブレイク派の脅威に立ち向かうよりも、もっと心配するべきことができた。マーリック軍に変装したブレイク派兵士がライラ同盟のスカイア地方を強襲し、報復をうながしたのだ。スチュアート共和国とタマリンド公国が占領された。同時に、カペラ国境でオリエントとアンドゥリエンに似たような効果をもたらすためにあらゆる努力が払われた。通信網――粉砕された同盟中で深刻な通信障害が出ていた――によって、混乱した指揮系統は完全に闇の中に消えていった。健在であった第2騎士団(アトレウスへの最初の逆襲における最後の抵抗は伝説的だった)を含む忠誠派軍はあらゆる前線で勇敢に戦ったが、ブレイク派が単純にすべての点で有利だった。

 勝利によって最終的に同盟の大部分が取り戻されることになる。このとき、ストーン同盟の戦士たちと市民たちは進んで攻め手と同じレベルの野蛮さに訴えた。たとえばギブソン(かつてワードの中心地だった)は、3078年、自由レグルス軍が行った集中核爆撃によって「殺菌」されたのである。この行動(戦争における最も残酷な行為のひとつ)は、効果的に自由世界同盟内のワードを粉砕しただけでなく、国家を棺桶送りにする最後の釘を打つことにもなった。当面の危機は去り、議場は破壊され、偽物がすべての信頼を奪ったなかで、同盟の地方国家はそれぞれ異なる道へと進んでいった。彼らは若干の外交的連携を保っているのだが(そのほとんどは分裂してない隣国への防衛に関するもの)、同盟領土に広がる保有者のいない世界と小同盟を獲得するために競うことになる。

 そして、マーリック家の団結と、自由世界同盟をもたらした統一は消滅した。それに続く数年間で、お互いと隣国(ライラ、カペラ、辺境、共和国)に対する小戦争が、かつては経済的・政治的に強力だった動乱の宙域に顕在化したのだった。6大国とどこにも所属していない80の世界が、日々、なんとか生き残っている。

 だが、失われし市民たちはまだ希望を持っている。自由世界同盟が蘇らないと全員が信じているわけではないのだ。一部の者たちにとって、鷲がフェニックスとなり灰の中から復活するのは時間の問題に過ぎないのだった。






第36回:同盟の遺産――マーリック=スチュアート、レグルス

データ表:マーリック=スチュアート共和国 The Marik-Stewart Commonwealth
創設年:3082年(2238年、マーリック共和国として)
首都(都市、世界):ドーマス、マーリック
国家シンボル:金の円盤と紫の長方形の前にある黒い鷲と旗
位置(地球からの):地球のリムワード−アンチスピンワード、内側
総(居住)星系数:31
人口概算(3130年):912億人
政府:議会制民主主義(現在、軍法の下に運用)
統治者:アンソン・マーリック総帥
主な言語:英語(公用語)、スロバキア語、チェコ語、ルーマニア語
主な宗教:ユダヤ、イスラム、キリスト(正教会)
貨幣単位:イーグル(1イーグル=0.52コムスタービル)


 ドーマス(マーリックとマーリック=スチュアート共和国の首都)は、大規模なスプロール地区である。異国風のタワービル、ドーム、突き出たビルの地平線が、昼の太陽光でオレンジ色にきらめく。恒星の近くを周回するマーリックは、熱い、乾いた世界であるが、鉱石が豊富で、工業が発達している。(スフィア)共和国の設立以降、数十年かけてこの世界は再建されてきた。よって、のんきな観光客がスプロールの大都市で見るものは歴史的に驚くべきものが多い。彼らは自由世界同盟が生まれたこの世界で時間旅行を楽しむ。そして、変化したすべてと引き替えに、マーリックには同じまま残っているものが数多く存在する。ドーマスとマルケントの政府・軍事指揮ビルはまったく質実剛健としている。他国家の大宮殿とはまったく違うものだ。旅行者の人気をもっとも集めるのは、バーリングラッド・ホバードロームで毎年行われるレースである。地元の人たちは、ソラリスVIIのホバー・ダービー・レースに触発されたものであると誇っている。


 元自由世界同盟加盟国のなかで最大、かつ同盟の元首都アトレウスを持つマーリック=スチュアート共和国は、現実に元のマーリック共和国とスチュワート共和区の融合である。隣接する星系と小同盟が、ワード・オブ・ブレイクの聖戦後に併合されるか、自ら加わった。かつてはマーリック家による自由世界同盟支配の根元で、総帥の権力の中枢だった。今日、元同盟諸国のなかでもっとも手に負えない国家のひとつであり、消滅した同盟の生き写しである。

 オーガスティンのアリス・ルーセ女公(3067年、決議288号と総帥の地位の撤廃を求めた事実上の人物)は、皮肉なことに同盟が最終的に崩壊した3078年、この王国の最初の総帥になった。だが、この国家で内輪争いが始まったときでさえも、戦う代わりに彼女は自身の世界とその他のいくつかを初期のスフィア共和国に割譲したのである。コリン・マーリックが3082年、総帥職を要求し、この打ちのめされた国家を率いた。軍事力で主権を守り、(スフィア)共和国、カペラ、ライラや、元同盟国のオリエント、レグルスにさえも立ち向かった。

 名目上、マーリック=スチュアート共和国は議会スタイルの民主主義であると主張しているが、3082年に国家が独立して以来、総帥が玉座に着き、危機の国家を統率している。それは古きマーリック家の伝統を不気味にも思い出させるのである。民主的基盤が共和国内の大国に参政権を与えている。彼らの多くはマーリックの指導力にいらだちを隠せていない。というのも今日、シュタイナー家とスフィア共和国が保有権を主張している世界(失われた祖先の世界)を、マーリックは取り戻そうとしないからだ。他の政治勢力もまた、レグルスやオリエントへの軍事行動を求めている。彼らの多くは、以前より強力で連帯した自由世界同盟の再建に目を向けているのだ。声高で目立つこういった政治勢力と、「危機の期間だけ」続いている規則は、多くの対立と冷え込んだ外交関係を産み出したのだが、中央政府とそれを守る軍事力を産み出したのである。

 しかしながら、マーリック=スチュアート共和国の市民は、もっと国際的である。元同盟でもっとも工業化された世界と、貿易――敵対する隣国とでさえも取り引きする――による繁栄を保持する共和国は、元同盟国でもっとも裕福なのである(他の大国と肩を並べている)。自由世界同盟の内部に位置していた共和国は、継承権戦争でほとんど被害を受けず、それが産業・文化の力を育てた。元のマーリック共和国出身者の多くが、元同盟国のなかで、芸術、文学、エンタティメントに対する最大のパトロンなのだ。そして国家が政争にさらされているにもかかわらず、市民の多くは相当に好意的で信頼できる。隣国のマスメディアが報道するように好戦的ではない。



データ表:レグルス領 The Regulan Fiefs
創設年:3086年(2243年、レグルス侯国として)
首都(都市、世界):チュニス、レグルス
国家シンボル:レグルスの世界のうしろにいる青鷲
位置(地球からの):地球のリムワード−アンチスピンワード、中央
総(居住)星系数:27
人口概算(3130年):180億人
政府:立憲君主制(現在、戒厳令下で運用)
統治者:レスター・キャメロン=ジョーンズ総帥
主な言語:英語(公用語)、ヒンズー語、アルドゥー語、モンゴル語
主な宗教:ヒンズー、イスラム、キリスト(ギリシャ正教会)
貨幣単位:ルピー(1ルピー=0.58コムスタービル)


 レグルス(レグルス領の首都)は、熱い白黄色巨星を周回する暖かい世界である。自由世界同盟領土の商業中心地として数世紀のあいだ富が蓄積されたこの世界は、マーリックのようによく開発されもしている。巨大な農業施設と大規模な都市が、温暖・熱帯の風景に点在している。なかでも群を抜いて大きいのは首都で港湾都市のチェニスである。500万のレグルス人が住むチェニスは貿易・政治の中枢であるのと同様に芸術品である。ここの建築様式は古代東インド、中東、アジア様式であり、惑星を創設したセラ王朝時代の文化的影響を繁栄している。


 かつては自由世界同盟の三大創設国家で二番目に力を持っていたレグルス侯国は、マーリック家の台頭とともに政治的影響力の弱体化を体験した。この弱体化は、創設セラジ家の名誉を汚していっただけだった。総帥追放を努力をしたあとで、彼らは2550年代に同盟から離脱した。表だって反抗することはほとんどないのだが――3030年代にアンドゥリエンが短期間独立したときでさえ彼らとの同盟を拒否した――レグルスの指導力は総帥への権力集中に反対してきた。実際に、アンドゥリエン事件後、レグルスが同盟の参加国でもっとも分離独立主義的であると、歴史家の多数が見なすようになっている……比較的暴力には訴えていないのではあるが。

 そしてまた皮肉にも、独立のため長き政治闘争を同盟内で繰り広げていたのに、レグルス人は専制政治を採用している。(現在の統治者キャメロン=ジョーンズ一族によってレグルス自身が独裁政治に変更した)。この指導者はこれまでに総帥の地位に就く動きを見せたことさえある。なにがレグルスの野心を語っているのだろうか? ライバルのオリエント保護国やマーリック=スチュアート共和国と同じように、レグルス人もまた、聖戦の戦火の中に失われていった同盟をいつか再生し、繁栄を取り戻したいと夢見ているのであろう。

 内部に位置している王国(継承権戦争の戦いで多くが生き残った)であるレグルス領は、聖戦前の経済安定期に好況の果実を楽しんだ……政治的影響力を失ったのであるが。生まれつき働き者であるレグルス人は、すべての事柄(特にビジネスと政治)で成功に邁進する。彼らは国家(現在戦争でもほとんど傷ついていない)を産み出した。その一方で、同時に、隣国に挑戦する充分に力強い装甲軍を立ち上げたのである。

 そして挑戦はたしかにレグルス人の特質なのである。同盟が崩壊してすぐにレグルスは、他に先んじて、隣国のレグルス自由州とギブソン公国の確保に動いた。3086年にレグルス領であると再宣言した王国は、現在、マーリック=スチュアート共和国とオリエント保護国のあいだにくさびを打ち込む形で存在する。その一方で、共和国のリムワード=アンチスピンワード方面国境を、現実的に抑えている。軍隊は、マーリック=スチュアート、オリエント、アンドゥリエン、あるいはリム共和区とでさえも衝突した。二度、これら隣国の世界を捕獲したレグルス人は、アトレウス(以前の同盟政府の中心)すらも強襲した。

 まだレグルス人は自身の国家を好戦的とは見ていないが、同盟の遺産の単なる生き残りであるとしているか、おそらく現実的な救済の器であるとさえもしている。ここにはプライドがある。レグルス人がギブソンの地表とともにワード・オブ・ブレイクによる恐怖の時代を抹殺したとき以来、成長してきたプライドだ。このプライドが人々に語るのは、彼らがいつか(おそらくすぐに)隣人たちを啓蒙し、崩壊した自由世界を以前より強くより良く再建するということだ。






第37回:同盟の遺産――オリエント、アンドゥリエン

データ表:オリエント保護国 Oriente Protectorate
創設年:3086年(2241年、オリエント連邦として)
首都(都市、世界):アムール、オリエント
国家シンボル:紫と黒の円盤の前の銀鷲
位置(地球からの):地球のリムワード、カペラ大連邦国のアンチスピンワード、中央
総(居住)星系数:29
人口概算(3130年):855億人
政府:代議共和制(現在、軍法の下に運用)
統治者:ジェシカ・マーリック総帥
主な言語:英語、ギリシャ語(双方ともに公用語)、中国語
主な宗教:キリスト(正教会)、イスラム
貨幣単位:ドラクマ(1ドラクマ=0.31コムスタービル)


 アムール(オリエントとオリエント保護国の首都)は時を超えたかのごとき美しい都市である。現実的にアムラリアス山脈の麓を囲む森林を切り開いた――そして一部では雪を頂く範囲まで到達している――この都市は現代的な新古典主義建築(地球の古代ギリシャの様式から続く)の一例である。都市の摩天楼(高層階は惑星の白黄色巨星が放つ太陽光線を反射して輝く)は、威厳ある円柱建築とその他の疑似ギリシャ的なデザインを特徴としている。ストリートでさえもそうだ。アムールは商業の大都市である。500万の人口はほとんどがビジネスと貿易に従事している。ここでは交通が途切れることはない。ビジネスマン、旅行者、貿易商、政府首脳たちは絶えず次のアポイントメントに向かっているのだ。


 オリエント保護国は、当初、オリエント連邦として2241年に創設された(後にオリエント公国として歴史に登場する)。自由世界同盟の三番目の創設国であり、現在では二番目に大きい。仲間の創設国と同じようにオリエントは人口豊かで繁栄している。その創設者は政治と外交のセンスに恵まれていた。だがこの外交能力は、常に隣国カペラ領域からの襲撃と侵攻をいつも防いできたわけではない。実際にオリエント人が自由世界同盟の結成を最初に申し出たのである。地球の復活と、現在進行しているカペラ方面での戦争を阻止するために強い同盟を探し求めていたのだ。

 マーリック家の台頭とともに、オリエントは「忠実なる野党」として知られるようになった。彼らの常に実利的な指導力は、長きにわたって総帥の職務を幅広く支援してきただけでなく、マーリックの横暴に対抗しようとする議会でそれをなだめる発言をよくしてきたのである。同時にオリエントは商業と技術の中心地となってきた。連邦=共和国創設後のカペラ方面が比較的平和であるあいだ、オリエント市民は経済・産業の繁栄の時代を体験した。その一方で、オリエントの商人たちはその商品と技術の専門知識を中心領域中に輸出したのである。

 同盟崩壊に続く混乱のなかで、レグルス軍は隣国に対して何度も攻撃を仕掛けた。対象は主にオリエントである。なぜならハラス家が偽トーマス・マーリックの逃亡を受け入れたからだ。突如敵対的になった隣国との戦いで守勢に追い込まれたオリエント公国は、3080年にクリストファー・ハラスが死んだ後、トーマス・マーリックの偽物と妻シェリル・ハラスの共同統治の下に結集した。自由世界の玉座を喜んで手放すことを表明するために、偽トーマスは妻の名字を選んで横領した名前を捨てたのだが、この変化はレグルス人を鎮めなかった。彼らは詐欺師とその保護者に、数十年間に及ぶ詐欺の罪を償わせようとしたのである。

 しばらくするとレグルス人は撃退されたが、3084年に彼らはオリエントに注意を戻した。マーリック=スチュアート共和国軍に太刀打ちできなかったときのことである。このような戦いが、同世紀のあいだずっと続き、つい最近の3120年代まで荒れ狂った。同盟の3大創設国すべてが、分裂した国家の支配と権利回復を巡って争ったのである。そのあいだ、オリエントは保護国への併合を余儀なくされ、オルロフ公国と合併した。またレグルスの野心に対抗し、カペラの攻撃から身を守るために、小さな2共和国を吸収した。

 政治的にオリエントの地位は今日でさえも不安定なままである。偽トーマス・マーリック(ハラス)の娘であるジェシカ・マーリックは、マーリックの名を帯びて以来、当人が紛争の中心となっている。彼女がマーリックの名を不当に盗んだと、みなが考えている。この名を主張する論拠は、真に同盟の総帥であるべき男に名誉を与えるためだった。本物のトーマス・マーリックは狂人で、新生同盟の下で名誉に値しないと、彼女は引用している。だが、大部分の者は、このような動きを、分裂した同盟諸国のすべてにマーリックの覇権を復活させる野望をむき出しにしたと見ている。




データ表:アンドゥリエン公国 The Duchy of Andurien
創設年:2791年
首都(都市、世界):ジョジョケン、アンドゥリエン
国家シンボル:紫の城の頂に止まる銀の鷲、黒地
位置(地球からの):地球のリムワード、カペラ大連邦国のアンチスピンワード、外側
総(居住)星系数:25
人口概算(3130年):712億人
政府:世襲制寡頭政治
統治者:アリ・ハンフリーズ女公
主な言語:英語(公用語)、イタリア語、標準中国語(マンダリン)
主な宗教:カソリック、儒教、
貨幣単位:アンドゥリエン・ドル(1ドル=0.47コムスタービル)


 数千に及ぶ外来種の鮮やかな色に驚かされるジョジョケンの植物園は、この首都(地球型惑星アンドゥリエンとアンドゥリエン公国全体の首都)の誇りである。ジョジョケン植物園は来園者に、都市の通りでは見つからない美と静寂を提供する。都市は画一的な建物と慢性的な交通渋滞で埋め尽くされている。元同盟の創設世界と同じように、アンドゥリエンは約600万人が住み、貿易と政府の中心になっている、にぎやかな大都市である。だが騒々しい都市とは対照的に、植物園の反対側にはハンフリーズの宮殿がそびえている。ハンフリーズはアンドゥリエンの世襲統治者――拡大解釈すれば公国全体の統治者である。


 アンドゥリエンは長期に渡って戦場になってきた。2791年に公国が創設される前でさえも、自由世界同盟とカペラ大連邦国の軍隊によって頻繁に争われてきた。そのような理由から、多くのアンドゥリエン人が外国人には目立って用心深く、特に支配しようとする者は軽蔑する。同盟の一員である間を通して、アンドゥリエン市民はこれを占領でしかないと考え、いらだった。彼らの指導者は疑いようもなく総帥と最も対立しており、分離主義的感情は深まる一方だった。

 3030年代、キャサリン・ハンフリーズ女公が最終的にこの傾向通りに行動した。脱退とカノープス統一政体との同盟を宣言し、カペラ大連邦国との戦争を始めたのである。アンドゥリエン危機はマーリック内戦後の31世紀における自由世界同盟に最大の挑戦をもたらした。反乱国を再奪取するため兵士を送らざるをえなかった。だが、テロリストがマーリック一族の会議場に爆弾を仕掛け、旧コムスターによる邪悪な計画への扉を開いた。トーマス・マーリック(総帥の後継者)を影武者にすり替えたのである。アンドゥリエンが大連邦国侵攻を無惨に終えたあとで、偽トーマス・マーリックはアンドゥリエン再統合戦役を成功させた。

 だが、敗北し、軍事力をはぎとられても、アンドゥリエン人は独立をあきらめず、聖戦が終わる数年間にチャンスをつかんだ。多くの同盟諸国とは違い、アンドゥリエンは同盟再興を考えてはいない。代わりに彼らは、モシロ、アーキペラゴといった同盟でも最小の近隣世界吸収に乗り出した。カペラやオリエント保護国に対する緩衝地帯を確保するためである。

 典型的なアンドゥリエン人は今日まで猛烈な独立心を保っており、マーリック=スチュアート共和国、スチュワート領、オリエント保護国による自由世界同盟の再生を絶対防がねばならないと信じている。同じく、カペラ人、カノープス人にも対抗せねばならない。市民と自由の間に割ってはいるものがあってはならず、公爵自身から下級階層の工員までが、なんとか勝ち取った独立を保つためには、どのような手段に訴えても構わないと思っている。






第38回:同盟の遺産――タリマンド=アビー、リム

データ表:タリマンド=アビー公国 Duchy of Tamarind-Abbey
創設年:3078年
首都(都市、世界):ザンジバル、タマリンド
国家シンボル:紫の鷲の抽象画、両翼に5つの星、緑地を背景に人の手が尾を握っている。鷲のかぎ爪はトウモロコシの茎をつかんでいる。
位置(地球からの):地球のアンチスピンワード、外側
総(居住)星系数:26
人口概算(3130年):750億人
政府:軍事政権
統治者:フォンテイン・マーリック公爵
主な言語:英語(公用語)、スペイン語
主な宗教:キリスト(カソリック)、ユダヤ
貨幣単位:ペソ(1ドラクマ=0.48コムスタービル)


 ザンジバルは文明のオアシスである。まるで、かつては緑茂る森林だった不毛地帯から突如広がったかのように見える。ザンジバル川にまたがるこの都市は、遠くから見るとサイクロンを上下逆さまにしたかのように見える。ビルが中央に近づくにつれて高くなっているのだ。だが、最も高い建物は実際にはアンテナに過ぎない。惑星の中央通信ハブの一部である……実用的であるのと同時にまるで彫刻のようなのだが。ストリートは交通が緩やかで、あちこちで市場が開かれている。しかし、各市場では、タマリンドの民兵たちがちらほらと見られる。彼らの任務には、この大都市の取り締まりが含まれている。住人のほとんどはそう考えていないが、よそ者は戒厳令下にあることの明白な証だと気づくのである。


 タリマンド=アビー公国は現実的に、タマリンド公国、アビー郡、その間に散在していた独立世界の融合体である。主要な加盟国(タマリンド含む)は議会制民主主義を採用しているのだが、全体としての国家は政治同盟というより軍事同盟で、現在、軍の戒厳令下にある。軍事独裁政権下にある、政治的に自由な世界のミックスが、公国を自由世界同盟のミニチュアとした。

 タマリンド=アビー同盟の目標は、辺境への存在感を維持し、特にライラの脅威に対するものでしかない。かつて同盟が崩壊するなか、ライラ軍が辺境に押し寄せた。これは元同盟の惑星を「安定化させる」ためのもので、惑星の多くは数世紀前にシュタイナーの旗をなびかせていた。この脅威に対応するため、タマリンドとアビーの同盟が明白に必要となった。かつて忠実な同盟加入国がライラ共和国に飲み込まれるのはまずかった。

 皮肉なことに、タマリンド=アビーの軍事指導者フォンテイン・マーリック公爵は、マーリック家の遺産を最も強行に主張するひとりなのである。ヤノスの下から二番目の子どもであるテレーゼ・ブレット=マーリック(末っ子は本物のトーマス・マーリック)の直系であるフォンテイン公爵は、前任者であるプロトン・ブレット=マーリックに習い、ブレットの姓を外して、マーリックの姓を使った。公爵はまた父と同じく総帥権を求めた。もっとも、この王国の外部にいる者――とくにマーリック家の者は――は、それを認識しようとはしないのだが。テレーゼ・ブレット=マーリックはヤノス・マーリックに勘当されていたのだ。

 今日、指導者がそれを熱望しているにもかかわらず、タマリンド=アビー公国は、レグルス、マーリック=スチュアート、オリエントの戦いと距離を置いている。だが、この王国はライラの攻撃的態度に対抗するため、マーリック=スチュアートと一時的な防衛協約を結んでいる。辺境の前線に沿って、公国は活発に拡大もしている。マリア帝国の脅威に対抗するためだ。この辺境の帝国主義的王国は3092年に元同盟世界を3つ奪っている。

 公国の市民は勤勉で生産的である。侵略者から自由を守るのに力を割く。だが、同様に自由世界同盟が復活することもまた熱望しており、元同盟国に再結集を呼びかけた、公爵の要求に賛成する政治集会は、数年前のバラバラな集まりから、公国市民内の大規模な政治的活動にまで達したのである




データ表:リム共和区 The Rim Commonality
創設年:2681年
首都(都市、世界):ズレトヴォ、レスノヴォ
国家シンボル:赤地に黄色の日輪、中央に鷲のシルエット
位置(地球からの):地球のリムワード=アンチスピンワード、外側
総(居住)星系数:15
人口概算(3130年):396億人
政府:封建独裁制(民主的傾向がある)
統治者:マイケル・センダー首相
主な言語:英語、ギリシャ語、マケドニア語、アラブ語
主な宗教:キリスト(正教会)、イスラム
貨幣単位:ディナール(1ディナール=0.31コムスタービル)


 ズレトヴォ(レスノヴォ首都)にはリム共和区の政府が位置しており、明らかに惑星最大の人口密集地帯で、角張った平凡なビルと屋根が尖った一軒家のスプロールに300万人以上が住んでいるということだ。だが、南部の空港の降下船はこの星でぬきんでて印象的な建物である。レスノヴォの巨星が暮れゆくなか、地平線にそびえている。しかしながら、地域経済の中心として金が入ってくるにもかかわらず、都市の大部分は地元の警察ですらほとんどパトロールしないスラムになっている。数世紀に及ぶ経済的窮乏と辺境からの襲撃は、結局、一夜にして消え去りはしなかったのだ。


 長きにわたって、レスノヴォと他のリム共和区の世界は、レグルス公国の一部であり、その後の2681年、マーリック家が押し進めた国民投票によって同盟国家から分離した。これは敵の力を抑えるために行われた政治キャンペーンの一環であった。それ以来、共和国と公国は実り多き貿易関係を楽しんでいる……もっとも、脱退して以来、その経済はレグルス時代の残骸に過ぎなくなっているのだが。

 だが、マーリック支配に反する起源と歴史を共有しているにもかかわらず、リム共和区は自由世界同盟時代の晩年と聖戦が降りかかったときには成長したのである。突如、全周囲を攻撃的な隣人に囲まれた共和区は、軍事行動のリスクを犯すよりもむしろ生き残るために、用心深いアプローチを試みた。アストロカジーの世界(長く海賊の避難地になっていた)は武力によらず、政治的手法で吸収された。他の受け入れ候補国は同盟政府の崩壊に続く内乱のうずにのみこまれていた。

 レグルスはその一方で友人・同盟国としての輝きをいくらか失った。かつてはリムの失われた親であると見なされていたレグルスの指導者は、外交よりも軍事行動を求め、すぐにレグルス自由州と元ギブソン公国を確保することができた。だが、彼らの目がリムに向くまでに、彼らは突如レグルスを親切でないなにかとして見ている人々に直面したのである。

 レグルスに対する絶えざる戦い(中間にあった独立世界を巡るもの)のなかで、そしてマリア・カノープスの襲撃者に対する防衛作戦のなかで、リムの軍事力は自身を保つ能力があると証明した(少なくとも当面のあいだは)。その一方で、平和的領土拡大政策は続いている。それは交易と資源を増加させているだけでなく、軍事力が常に正しいとは限らないことを身をもって証明している。

 自由世界同盟辺境地域の文化が混ざり合い、そこにアストロカジーが加わったことで、リム共和区の奇妙な文化が創り出された。世界のほとんどが民主的か無政府主義的であり、経済は物々交換か自由企業体制であり、多すぎるほどのサブカルチャーが互いの違いを見せつけている。防衛の必要性から相互受け入れした政治的・社会的思想のるつぼであり、民主主義の装飾(機能していなくても)を取り入れた独裁者によって統治されている。だが多くのリム市民は、自国を誇りに思っている。なぜなら、生き残る能力を持っており、隣国からの莫大な援助なしで繁栄し、暴力を必要としていないからだ。




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