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作成:2002/05/31
更新:2002/09/03

コベントリの戦い



 3058年、ジェイドファルコン氏族がライラ同盟の惑星コベントリを襲います。その数、8個銀河隊。一方、ライラ同盟は傭兵部隊のウルフ竜機兵隊エリダニ軽機隊ワコー特戦隊、合計9個連隊を援軍として送り込みます。

 政治情勢、氏族の流儀など、ちょっとわかりにくいことが多いかもしれません。

1、ウルフ氏族とジェイドファルコン氏族は、同じ氏族勢力にも関わらず、ライバル関係にある。
2、ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンとキャサリン・シュタイナー=ダヴィオン(改名してカトリーナ・シュタイナー)は、実の兄妹にも関わらず、ライバル関係にある。

 以上の2点を把握すれば、多少はわかりやすくなるでしょうか。
 この戦いをテーマにしたシナリオ集『Battle of Coventry』が出版されています。




Learning to Fly 羽ばたきの学び

 ツカイードの休戦は、氏族による侵攻の急停止を招き、氏族の若いメック戦士たちから戦いと自らの価値を証明する機会を奪いさった。新米戦士たちを初陣に立たせるため、また壊滅的な拒絶戦争の被害から立ち直ったことを氏族全体に知らしめるため、ジェイドファルコン氏族長マーサ・プライドは、ライラ同盟の惑星コベントリ襲撃を命じた。

 ジェイドファルコンの攻撃は、中心領域の各王家を活気づける出来事のひとつとなった。氏族の侵攻に呼応して、キャサリン・シュタイナー=ダヴィオン(カトリーナ・シュタイナー)はコベントリ防衛軍を組織した。ジェイドファルコン氏族がしたたかにコベントリ遠征軍(CEF)を撃破したとき、彼女はターカッドで編成した部隊を救援に向かわせた。この援軍は、各王家と傭兵の連合軍であり、ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオン国王によって指揮された。このふたつの部隊がコベントリをよく守った。カタリーナは兄(ヴィクター)の信用を傷つけるために、氏族の攻撃を利用しようと考えた。しかし、防衛が成功したことで、ヴィクターは熟達した政治家・軍事的リーダーとしての地位を固め、氏族の本拠地を叩くという作戦計画を後押しできたのである。



Seeds of Invasion 侵攻の種

 3057年の12月、新たな大族長を選ぶため、全氏族がヴォータン上に集まりまった。ジェイドファルコン氏族が前大族長ウルリック・ケレンスキーを非難したことで拒絶戦争が起き、その最中にケレンスキーが死んでしまったからである。ジェイドファルコン氏族は、次の大族長が自分たちの中から選ばれると想定していた。前族長ウルリック・ケレンスキーを見事に屠ったジェイドファルコン氏族長ヴァンダーヴァン・チストゥが有力視されていたのである。

 しかしながら、形勢はファルコンに不利になっていった。ヴォータンにおける戦いの三日後、ウルフ氏族のヴラッドが崩壊したビルのがれきの下から脱出し、チストゥがケレンスキー大族長を破ったのは、裏切り行為と非氏族的なミサイル攻撃によってだと明らかにしたのだ。ジェイドファルコン氏族によるウルフ氏族吸収を取り消すため、ヴラッドはチストゥ族長に拒絶の神判を申し出た。ジェイドファルコン上級族長エリアス・クリッチェルの意に反して、チストゥはこれを受け入れた。戦いは一方的なものとなり、ウルリック・ケレンスキーが殺されたガバメントヒルにおいて、ヴラッドはチストゥを倒した。

 神判の結果、ファルコン氏族による怪しげなウルフ氏族吸収は翻された。傷ついた名誉を守るのに必死な氏族長エリアス・クリッチェルは、ジェイドウルフと呼ばれる氏族を作り出し、吸収したウルフ氏族をこの新たな集団に投入した。しかしながら、ヴラッドはウルフ氏族の確保に熱中していた。彼は、クリッチェルもウルリック・ケレンスキーを殺した共犯者だと糾弾し、二回目の拒絶の神判に挑戦した。氏族の複雑な儀式、神判、名誉のシステムを巧みに駆使して、ヴラッドはクリッチェルが挑戦を受けざるを得ない状況に追い込んだ。さらに彼は、族長の代役を指名する権利を拒否し、年老いたジェイドファルコンの指導者を戦闘で容易に倒した。ウルフ氏族はジェイドウルフの名称を退け、新たなるウルフ氏族の誕生を宣言した。

 ジェイドファルコン氏族は指導者の死から生き残ったが、ウルフ氏族と戦った残忍な拒絶戦争から立ち直り始めたばかりでもあり、チストゥとクリッチェルの死でジェイドファルコンは劇的に弱っていった。不安定なファルコンを生きながらえさせるために、新族長マーサ・プライドが選ばれ、すぐに氏族の力が健在だと示すための計画案が提出され始めた。



Proving Grounds 試験場

 3058年の1月31日、ジェイドファルコン氏族軍がライラ同盟領に進入した。一連の電撃作戦で、エンガディーネ、ウィルンガ、ニーラブプ、バックラントが攻撃された。ライラ側の防衛軍は、技術に勝る氏族軍にほとんど抵抗できなかった。それでも彼らは、どの惑星でも猛烈な反撃をしてみせた。バックラント市民軍(この部隊は退役軍人の社交クラブと大差がなかった)のように、まったくメックを持っておらず、農業用メックに重マシンガンと装甲をつぎはぎして、戦った部隊もあった。これら応急装備のメックは、圧倒的な氏族の侵攻を遅らせることはできなかった。

 (最近誕生したばかりの)ライラ同盟への乱暴な侵攻について、国家主席カトリーナ・シュタイナーは、市民への声明を発表しなかった。実際のところ、国家主席は、側近にのみ知らされた計画に基づき、ジェイドファルコン侵攻の前から、氏族占領地域へと旅立っていた。彼女はスモークジャガー氏族の代理人に会い、ライラ=ジャガー同盟を結んで、ダヴィオン・ウルフ氏族と対抗する助けにしようと考えていた。

 しかし彼女の望んだ同盟が結ばれることはなかった。3058年2月12日、カトリーナの航宙艦"ボーディシア"が、スモークジャガーの所有する惑星キアンバのジャンプポイントにたどり着いた。ちょうど同じ時刻に、ウルフ氏族の惑星襲撃部隊が、同じ場所にある航宙艦ステーションへと戻ってきていた。ウルフ氏族軍は簡単に"ボーディシア"を拿捕し、カトリーナをボンズウーマン(捕虜)とした。カトリーナはこの意外な状況下で巧みに動き、ウルフ氏族長ヴラッド・ワードに対して、共通の敵と戦うためのライラ=ウルフ同盟を申し出た。

 翻ってライラ同盟では、(不在のカトリーナのために動いていた)ノンディ・シュタイナー将軍とトーマノ・リャオ男爵が、前例のない政治的活動を行っていた。ライラ同盟がどれほど困難な状況にあるか、ヴィクターに気がつかせないため、彼ら二人は、ジェイドファルコン侵攻地域からの情報とニュースを完全にシャットアウトするよう命令した。もし国家主席ヴィクター国王がファルコン軍の連邦=共和国再侵攻に気がついたら、大規模な部隊を編成して、彼らを追い出そうとするだろう。リャオとシュタイナーの両名は、そのような事態になるのを畏れていた。ヴィクターのどのような成功も、ライラ同盟におけるカトリーナ・シュタイナーの地位を弱め、ヴィクターが連邦=共和国の正当な政治指導者であるという主張の説得力を強めるだろう。

 リャオとシュタイナーは素早く行動して、ファルコン軍の進軍が警戒される区域に正規軍を配置し、同時にいくつかの傭兵部隊と交渉して、あらかじめ戦略的要所に彼らを配備した。これまでのファルコン軍の攻撃から、男爵と将軍は氏族の最終目的地を正確に予言した。惑星コベントリである。



Coventry コベントリ

 3月初旬、ジェイドファルコン氏族は、リャオ男爵の予言を的中させた。3隻のスターロード級航宙艦が、コベントリのいわゆるパイレーツポイントのひとつに飛んできた。C型オーバーロード級降下船と、ライオン級降下船が切り離され、航宙艦艦隊は深宇宙のどこかに消えていった。

 最初の戦いは、コベントリの最重要地点、聖ウイリアム宇宙港において行われた。第2ファルコンイェーガー星団隊に属する降下船が猛スピードで宇宙港を通過し、街の北側にオムニメックとエレメンタルを降ろした。まったく抵抗がなかったので、未熟なファルコンの襲撃部隊は降下に成功し、部隊を再編し宇宙港へ向かうための貴重な数分を稼ぐことができた。ハインリッヒ・オヒレル率いる第10スカイア特戦隊第3大隊は、その時間を使って、宇宙港のまわりに展開した。ファルコンの部隊が突き進んだ。オヒレル大佐(大隊司令官)は相手が数的優位をもってることにすぐ気づき、航空部隊の支援を必死に要求したが、冷たく拒否されてしまった。

 オヒレルは周波数を切り替え、なんとか特戦隊の第1支援砲兵隊に連絡をつけようとした。砲兵隊はちょうど砲を準備したところだった。前進する氏族部隊に弾幕をあびせるよう、オヒレル大佐は命令した。40秒後、最初の砲弾が発射され、コベントリ戦役の幕開けになった。しかしながら砲弾は目標に命中しなかった。大佐がガラガラ声で間違った座標を叫んだのか、あるいは砲撃管制官が間違えて伝えたのか、目標から100メートル離れた宇宙港脇の通りに着弾した。125ミリ砲弾の一発が、倉庫の屋根を直撃した。中には高純度の石油製品をおさめたドラム缶が並んでいた。大爆発が生じ、数ブロックに渡って、ビルのガラス窓が吹き飛んだ。皮肉にも、この交戦における38人の民間人死傷者のうち22人がこのミスによるものだった。

 オヒレルの陣取る大隊司令部からは着弾点が確認できなかったので、ミハエル・ドス上級伍長率いる機械化歩兵小隊が、直接、砲撃の効果を見に行った。ドス上級伍長は宇宙港のホテルの屋根に観測所を設け、素早く弾着の修正を要請した。次の砲撃は効果的だった。数秒以内に、ロングトム砲の弾丸がうなりを上げて飛んでいき、聖ウイリアム港を越え、氏族の戦線を直撃した。前進するオムニメック部隊に高性能弾薬が降り注いだ。砲撃により、2機の軽量級メックと、近くにいた1個エレメンタル星隊が吹き飛んだ。しかし、ファルコン隊は前進をやめなかった。

 ドス上級伍長と隊員は無線で、弾着修正を伝え続けた。ファルコンのブラボー三連星隊に所属するオムニメック"コシ"が、通信を傍受し、ビルに短距離ミサイルを浴びせた。ドス上級伍長を含め、数人の歩兵が負傷した。ドス上級伍長は小隊長の座をジャニス・ヴリー伍長に引き継がせ、撤退を命じた。自身は、無線担当シギシムント・コール上等兵とともに、その場に残り、観測所が破壊されるまで、砲撃を指示し続けた。

 勇敢な歩兵部隊の努力もむなしく、ファルコンはライラ同盟を宇宙港から追い払った。オヒレル大佐は、撤退と都市北東での再結集を命じた。



Growing Up Fast 急成長

 ファルコンイェーガー星団隊が聖ウイリアム港を強襲しているそのとき、第2の襲撃隊がコベントリに降り立った。目標はコベントリメック戦士養成学校。ジェイドファルコンのエリー星団隊が攻撃に向かった。ライラ装甲軍(LCAF)のとある歩兵は、この戦いは殺し屋率いる学生同士の喧嘩と大差ないなどとたちの悪い皮肉を飛ばした。

 養成校での戦いは、精力的で、不安定で、ひどいものとなった。メック戦士のたまごたちは、敵メックを倒しても、次の目標に移ることなく、ボロボロになるまで叩き続けた。ファルコンの新米メック戦士は、有利な射程と火力を生かすことなく、接近戦での殴り合いに応じた。そのあいまに、両軍のベテラン戦士――教習士官及び部隊長は、激しい長距離射撃戦を繰り広げ、メックとメックの待ち伏せを許さなかった。

 最終的に氏族のテクノロジーと訓練が、メック戦士候補生たちをうち倒した。ルーサー・ロールソン大佐は、戦闘を終了し、養成校の東5キロメートルに指定した集結点への撤退を命じた。メック戦士候補生たちは、燃えさかる学校から立ち去った。管理局や科学センターなど、ほとんどの建物が、重い被害を受け、破壊された。戦闘ROMを分析した者は、候補生たちが記録を守るため、自らの手で管理局や情報センターを爆破したのだと指摘している。

 一握りの疲れ果てた訓練生たち――負傷したり、ショック状態の者もいた――は、ロールソン司令の命令を誤解し、西のウイリアム宇宙港に撤退していった。彼らは、宇宙港を占領していたファルコンイェーガー隊の中にうっかり入り込み、野蛮な乱戦を繰り広げた。叩きのめされたがまだ生きていた候補生たちは、損傷した"リョウケン"と半分壊れた"ウラー"を破壊したものの、この行為のため高い代償を支払った。6人のメック戦士候補生と32人の歩兵が、聖ウイリアム港に退却した。生存者たちがジェイドファルコンに投降するまでに、4機のメックが破壊され、19人の歩兵が殺された。このうちのほとんどがA-Pod(対歩兵装備)搭載のウラーCを「膝関節攻撃」しようとして失敗した歩兵たちだった。ファルコンイェーガー隊は、生き延びたメック戦士候補生をボンズマン(捕虜)とした。



A Valuable Objective 最大の目標

 ジェイドファルコン侵攻軍の第3部隊が、最大の目標を襲った。コベントリ金属工業の中心工場である。この戦いは、絶望的で、野蛮で、残酷なものになった。族長マーサ・プライドは、スターコーネル、デヴィン・ブハーリン率いるジャイルファルコンエリー星団隊に、工場奪取を命じた。ブハーリンの強襲部隊は、新兵と初陣の戦士たちで構成されていた。この侵攻は階級の神判でもあった。訓練生たちは降下中の戦闘で破壊されるおそれがあった。プライドとブハーリンは、工場群外の岩石地帯に、降下船でジャイルファルコン隊を降ろすことを決めた。

 コベントリ防空隊(CADF)の全兵力が、コベントリー金属の防衛にあたった。氏族の降下船が炎と煙で、明け方の空を埋め尽くしていた。CADFガンマ隊の気圏戦闘機が迎撃に向かった。彼らはまず氏族のブロードソード級降下船に警告を与えた。ジャイルファルコン隊は、迎撃機とミサイルで警告に答えた。雨に濡れる工場上空を、爆発と破壊が満たした。砲火の中に降りていくのは得策でなかった。スターコーネル・ブハーリンは、別の降下地点へ向かうよう、降下船パイロットに命令した。工場から西に2キロメートル以上の位置である。この変更で侵攻作戦が30分遅れた。

 地上では、クロウディア・ペイマン大佐(セミリタイアしていたベテランで第2コベントリドネガル領市民軍を指揮していた)が、わずかな時間的余裕を利用して、部下を氏族降下地点と工場の間に割って入らせた。生き残っていたCADFガンマ隊の気圏戦闘機から氏族部隊接近を知らされたペイマン大佐は、所定の陣地で待機するよう部下に命じた。彼女は、以下のことを知っていた。市民軍は、未熟な予備兵と引退したベテランパイロットで編成されている。3025年モデルの旧式メックでは、氏族製オムニメックに及ぶべくもない。しかし以下のことは知らなかった。敵軍の大部分は二線級メックであり、一握りのスターコマンダーだけがオムニメックに乗っていたのだ。

 ジャイルファルコン隊が市民軍に近づいたとき、ガンマ隊の気圏戦闘機が戻ってきた。ペイマンのメックが襲われる前に、機銃掃射と爆撃で、2機の氏族メックを破壊した。ファルコン軍の猛烈な対空砲火が気圏戦闘機を追い払った。それさえなければ、戦いの趨勢が変わっていたかもしれない。侵攻軍が、300メートルの目前に迫ったとき、ペイマン大佐が発砲を命じた。数機の氏族メックが、破壊の雨の下でよろめいた。軽量級メック"ペリグリン"は4本の荷電粒子砲が生み出す強烈なパワーの前に崩壊した。

 守備隊の弾幕に対抗するため、氏族は小さなグループに散開し、それぞれ敵に突撃を仕掛けた。スターコーネル・ブハーリンの"マンノウォー"と、ペイマン大佐の"バンシーS"が、3分もの長き間に渡って、互いに砲火を交え、ぶつかり合った。そのとき、メック戦士ランダル・フェツコJrのファイアスターターが、ブハーリンを背後から襲い、野蛮な喧嘩を中断させた。ファイアスターターの火炎放射で、マンノウォーは燃え上り、急激に過熱した。ブハーリンは燃えさかるメックから緊急脱出した。どん欲な戦いにとりつかれた新米メック戦士フェツコJrは、ブハーリンを捕らえようとはしなかった。その代わりにファイアスターターのヘビーマシンガンを氏族指揮官に向けた。

 フェツコJrは、初めての人殺しを充分に楽しむ時間がなかった。またペイマン大佐にも、新米予備兵の理由なき虐殺をとめる時間がなかった。その瞬間、氏族版ルシファー気圏戦闘機が、市民軍に機銃掃射を浴びせ、ファイアスターターとパイロットを始末したのだ。同じ攻撃でペイマン大佐の乗るバンシーも、コクピットを直撃された。ペイマンはひどく傷つき、身体の感覚をなくした。そしてメックに乗ったまま、出血多量でゆっくりと死んでいった。

 ブハーリンとペイマンの死は、激しい精製所争奪戦の象徴的な出来事となった。ひとつの大きな戦いというより、2機、4機のメックによる小競り合いが繰り広げられた。勝利は野蛮な戦いとともにあった。最後には、ジャイルファルコン隊が、多大な犠牲を払って勝利した。彼らは市民軍を撤退させたが、65パーセント以上の被害を被っていた。

 聖ウイリアム港、コベントリ士官学校、金属工業の各防衛部隊が、戦略的撤退していくなかで、ジェイドファルコン軍の司令官たちは、残存する中心領域軍を追いつめ破壊していった。追撃の多くが失敗する一方で、一部の捜索・撃破チームが疲弊した敵を容易に見つけだし、うち倒した。といっても防衛部隊の一部が氏族を足止めし、コベントリ奥地へと撤退する時間を稼いでいたのである。



Guerrilla Warfare  ゲリラ戦

 コベントリにおける最初の攻撃のあとで、戦闘行動は急激に先細っていった。中心領域軍は、あちこちにばらまかれてしまったため、有効な逆襲をかけることができず、またジェイドファルコン隊は、多大な損害を被った部隊を交代させるのに忙しかった。最初の数日間、コベントリ防衛軍はまともに交戦せず、侵攻者にゲリラ戦を仕掛けた。最も優秀なメック装備のゲリラ戦部隊は、カラドック・トレヴェナ大尉率いる第10スカイア特戦隊第1大隊第2中隊であった。

 ジェイドファルコン隊がコベントリにやってきたとき、トレヴェナ第2中隊を含む第1大隊は、マッケンジー分子製錬所に派遣されていた。スカイア特戦隊司令部のある聖ウイリアムズ宇宙港からは100キロメートル離れていた。ファルコン軍が作戦区域に来たと、すぐ大隊司令部に連絡が入った。第1大隊の、政治的なコネがあったが無能な司令官(ホースト・サーズ大佐)は酒を飲んでいた。トレヴェナ大尉がすぐに大隊の指揮を執った。彼は部隊を率いて精錬所から洞窟に入った。コベントリのクロス−ディバイド山脈には、鉱山用トンネルが走り、深い峡谷が横たわっていた。このごみごみとした地点から、トレヴェナは侵略軍に大胆な奇襲を仕掛けた。こういった電撃作戦で、ジェイドファルコンは奇襲部隊を捕らえるために戦闘部隊を増強せざるを得なくなった。

 第1大隊はコリヴェッテ近くのファルコン軍補給所を二度攻撃した。この基地は第15星団隊の分隊と、二線級メックにより守られていた。このころがゲリラ作戦の最盛期だった。

 イザベル・マードック少尉に率いられた第1特戦隊が、二線級の軽量メックとエレメンタルからなる小防衛隊を横撃した。彼らはすみやかに補給品を集めて、ジェイドファルコンの援軍が来る前に、トンネルへと消えていった。同じころ、トレヴェナの2個小隊が狭い通りに待ち伏せし、二線級メックを偽のセンサー反応でおびき寄せ、痛撃した。

 第1大隊は秘密の司令部で再編成中だった。氏族の戦士達は補給所に退却しているように見えたと、マードック少尉がトレヴェナに報告した。この行動は、ふたつのことがらのうちひとつを示しているのではないかと、トレヴェナは考えた。ジェイドファルコンがコベントリ撤退を決めたか、それとも第15星団隊が強力な敵に直面し再編成しているか、である。コベントリ上空に降下船が放つ炎の筋を見つけたとき、トレヴェナはふたつ目の予言が正しかったと気づいた。援軍がやってきたのだ。



Relief At Last 救援隊

 ジェイドファルコン隊にも、包囲されたコベントリー守備隊にも、知られていないところで、惑星争奪戦は別のねじれをみせていた。トーマノ・リャオ男爵(国家主席カトリーナの名の下に動いていた)は、ウルフ竜機兵団デルタ連隊、ガンマ連隊を、エリダニ軽機隊第1連隊とともに、ライラ同盟首都ターカッドに呼び寄せた。リャオの計画では、もし状況さえ許せば、傭兵部隊をコベントリ攻撃の先鋒にするつもりだった。そして、もしジェイドファルコンがコベントリを占領してターカッドに向かうなら、傭兵たちは首都を守ることになる。

 計画が破綻した場合に備えて、リャオ男爵はワコー特戦隊もターカッド防衛に雇うことにした。彼らはウルフ竜機兵団を憎んでいたにも関わらずである。ワコー特戦隊の前司令官ウェイン・ワコーは、死んだ息子ジョンの復讐を遂げるため、捕らえた竜機兵隊のメック戦士を殺すと誓っていた。部隊の中では、いまだ反ウルフ竜機兵団的感情が高ぶっていた。リャオ男爵はワコー特戦隊の自分自身に対する忠誠を確信していた。彼はワコー特戦隊を頼りにターカッドから離れた。もし作戦が失敗したら、国家主席カトリーナはリャオの首に責任を負わせるだろう。

 氏族宙域における秘密作戦から帰ったあとで、カトリーナはリャオの計画を承認したが、ワコー特戦隊もコベントリ救援軍に含めるべきだと主張した。4月10日、新たに名付けられたコベントリ遠征軍(CEF)は、コベントリからジェイドファルコンを追い出すため出発した。

 最初に到着したのはエリダニ軽機隊、第1軽機連隊である。ファルコン軍が最初に使ったのと同じパイレーツポイントに、軽機隊の航宙船〈フォルカーク〉〈ボスワース〉が現れ、降下船を切り離し、教科書的な素早さで離脱していった。傭兵部隊のオーバーロード級降下船、レパード級降下船の動きは素早く、高々度降下を行うまで、ジェイドファルコン軍の気圏戦闘機と接敵しなかった。

 ファルコン防空隊は動きがにぶかったため、着陸を阻止できなかった。第1ファルコン打撃星団隊の小部隊が駆けつけ、傭兵部隊と一進一退の攻防を繰り広げたが、軽機隊の最後の降下船が都市リートネルトンに着陸すると、やがて1600時前に撤退していった。



Runaway 逃亡

 軽機隊の降下地点にウルフ竜機兵団が着陸を始めていた。そんな厚かましい行動とは似合わぬことに、竜機兵団デルタ連隊のシェリー・ブラベイカー大佐は、ジェイドファルコン防衛部隊に挑戦宣告(バッチェル)を申し出た。彼女はその旨をジェイドファルコン軍に宣言し、麾下の3個大隊だけで聖ウイリアムにある宇宙港を攻め落とすと通告した。スターコーネル、クリード・マットロフは、すぐにブラベイカーの挑戦を受け入れた。そして都市の東の平原で、第12ファルコン正規星団隊の2個三連星隊が竜機兵団と対決すると伝えた。マットロフは、ジェイドファルコンの戦場における典型的な氏族の礼儀への厳密な執着を実証し、竜機兵団の降下船〈バヤード〉と戦うことなく着陸を許した。ブラベイカーは降下地点を防衛するために第2、第3大隊を残して、第1大隊を率い宇宙港に向かった。

 第1大隊は、宇宙港の外で待ちかまえていた中・軽量級を簡単に蹴散らした。そのあとで施設に突入した。ほぼ15分間、竜機兵団のメックは、宇宙港、燃え上がる備品、破壊された装備、修理施設、残骸の中を突き進んでいった。そのとき氏族軍が到着して、一斉射撃で竜機兵団のメック3機を破壊した。残忍な戦いが狭い一帯で行われた。ファルコンと竜機兵団のメックは、ミサイル、オートキャノン、レーザーの応酬を交わし、壊れた梁の一部を巨大なこん棒として使い、互いに乱打した。コベントリ戦役において聖ウイリアム宇宙港の戦いが最も残忍だった、そう多くの歴史家が認めている。ファルコンが長きに渡って保ち続けてきたウルフ氏族(と特に竜機兵団)への憎悪が、彼らの険しい凶暴性に結びついたのではないか、と識者は推測している。

 20分もたたないうちに、ブラベイカー大佐は援軍を呼んだ。当初の交戦入札にとらわれていたスターコーネルマットロフは、この敵の行動で解放され、彼女もまたすぐに援軍を呼び寄せた。数分内に、戦いが拡大するとともに、両司令官は航空、砲撃支援を要請した。すぐに150機を超えるバトルメックと、似たような数の装甲歩兵、非装甲歩兵部隊が、宇宙港での恐ろしい無慈悲な争いに参戦した。

 最後には、竜機兵団が撤退した。第1大隊は深刻な損害を被っていたが、宇宙港を充分に破壊し、ファルコン軍に使わせないことで、その目的を達成した。スターコーネルもまた勝利を主張した。彼の部隊は竜機兵団の交戦入札を退け、撤退させたからである。

 特務部隊の中で、ワコー特戦隊とクレイジーエイト隊が最後にコベントリへ降下した。CEF(コベントリ遠征軍)の司令部は、魅力的だが危険な戦闘降下をするよりも、特戦隊とエイト隊に降下船を着陸させるべきだと決めた。この件で特戦隊の司令官ウェイン・ロジャースと竜機兵団ブラベイカーの間に緊張が走り、エリダニ軽機隊のアドリアナ・ウィンストンが両者を沈めることとなった。3058年4月10日1125時の直後、特戦隊とエイト隊は惑星への道を切り開いた。この熱い接近と着地のあいだ、特戦隊は8機のオムニ戦闘機と5機の前線級オムニメックを破壊した。クレイジーエイト隊はもう2機のオムニメックと、数は不明ながらエレメンタルを破壊した。



Probing The Defenses 防衛力調査

 CEF(コベントリ遠征軍)が到着してからの一週間、ジェイドファルコン軍と中心領域軍の間で、数度の小競り合いが起きた。傭兵と氏族は互いに互いの強さを試しあった。ホイッティング市の周辺に脱出した残存兵力(スカイア特戦隊、コベントリメック士官学校、コベントリ市民軍)を救出するため、CEFは機動部隊を送った。

 4月15日の夕方前に、第10スカイア特戦隊のレジーナ・ウォルフォード二等兵が、ワコー特戦隊の偵察小隊と出会った。数日前、第10スカイア特戦隊第1大隊のトレヴェナ大尉は、守備隊に参加するため大隊をジェイドファルコンの占領地帯に動かしていた。ワコー特戦隊のドナ・ド・ラ・カルブ少尉は、ウォルフォードのジェンナー(夕方で雨でずぶぬれになっていた)が暗闇の中からぼんやりと姿を現すと、その氏族との戦いで傷ついたマシンを、ジェイドファルコンでよく見られる新型機と見間違えた。スカイア特戦隊にとって幸運なことに、特戦隊のメックが小雨の中から姿を現したとき、デール・フリーズ軍曹は小隊長ド・ラ・カルブの命令を守って発砲しなかったのだった。

 トレヴェナ第1大隊が到着し、コベントリ防衛軍のほとんどはリートネートン市に集まっていた。CEFの司令部は熟慮を重ねた結果、聖ウイリアム港のファルコン軍に三方向から攻撃を仕掛けた。この作戦では、竜機兵団とエリダニ軽機隊が、宇宙港を守っているジェイドファルコン軍を直接叩く必要があった。コベントリ市民軍、士官学校候補生、スカイア特戦隊の残りは西に向かい、氏族の機動部隊による側面攻撃から傭兵部隊の縦列を遮るのである。第三軍は敵の背後から攻撃する手はずになっていた。ワコー特戦隊とクレイジーエイト隊で編成されたこの部隊は、デールスと呼ばれる険しい地域を進む。一度陣地につけば、この特務部隊は氏族の後ろから攻撃を仕掛けるだろう。カラドック・トレヴェナと彼の偵察中隊が、荒れ地の丘を通って特戦隊をガイドするあまりありがたくない仕事を引き受けることになった。作戦中のワコー特戦隊担当部分は静かに実行され、竜機兵団・軽機隊の攻撃が順調に進むまで敵と交戦することはなかった。

 しかし中心領域側の作戦立案者は気づいていなかったが、彼らの襲撃計画はジェイドファルコンの手中にあったのだ。氏族の諜報部は、ワコー特戦隊とクレイジーエイト隊が、リートネートン市でCEF基地の守備を行っていると報告した。竜機兵団と特戦隊のあいだに横たわる有名な憎悪を考えてみると、スターコーネル、アリマス・マルサスは大いに疑問を感じた。彼は、現在 特戦隊がリートネートンにいるとの報告が間違いであると断じ、彼らがデールスを通ってファルコン軍の背後から攻撃を仕掛けてくるのではないかと推測した。

 この驚異に対抗するため、ファルコンの司令官は聖ウイリアム港守備隊の3個銀河隊の中からメックとエレメンタルを選び取り、2個星団隊を編成した。コードネーム〈ハリアー〉と命名された第一部隊は軽量級オムニメックで編成されていた。重量級・強襲級部隊を含む第二星団隊は、〈赤い尻尾〉と名付けられた。この二部隊は、スターコーネルマルサスの立案した計画に従って、待ち伏せ攻撃を仕掛けた。この計画は氏族の名誉の厳密な定義を広げるものだったにも関わらず、氏族長プライドは合理的な戦術だと理解を示し、実行を許した。しかしながら、今後の戦いにおいて、このようなだまし討ち戦術を取るのを禁止した。

 4月21日の午前中、スターコーネルマルサスの計画は、おそろしいほどに効果的だと明らかになった。竜機兵団/軽機隊の隊列がジェイドファルコン軍の主力に攻撃を加えたころ、特戦隊/エイト隊の隊列は〈ハリアー〉隊と接敵し、聖ウイリアム港とデールスのあいだの平原に引き込まれていた。最後の特戦隊のメックが侵入を終えたとき、ヤマナラシに囲まれた平原に布陣していた〈赤い尻尾〉のオムニメックがミサイルの弾幕を張った。最初の攻撃で特戦隊のマシン5機が破壊され、ファルコン軍のメックが前進し残った傭兵を痛めつけた。トレヴェナ大尉率いる第10スカイア特戦隊(傭兵部隊から偵察任務を割り振られていた)の遅延攻撃と、折良く到着した竜機兵団デルタ連隊によって、ワコー特戦隊、クレイジーエイト隊の全滅は妨げられた。最終的にファルコンの待ち伏せで、特戦隊とエイト隊の85%が破壊された。



Siege And Relief 包囲と救援

 ワコー特戦隊の損失によって、主力部隊である竜機兵団/軽機隊は崩壊し、ファルコンはコベントリ市民軍の撃退に成功した。CEF司令官は聖ウイリアム港の再奪取を諦め、リートネートンへ部隊を引き返させた。

 ジェイドファルコン軍は何週間も小規模な小手調べの攻撃を行い、リートネートンの包囲された防衛部隊に圧力をかけ続けた。その後の5月8日、CEFをコベントリから追い出そうと、ジェイドファルコンは全面的な試みを開始した。エリー星団隊の部隊が激しい雷雨のなか静かに夜間行軍し、守備隊の前に辿り着いた。ちょうど0630時のあと、疲れ切ったコベントリ市民軍、スカイア特戦隊を攻撃して、無制限のリートネートン強襲が再開された。ファルコンの強力な攻撃にもかかわらず、疲弊した防衛部隊は守備地点の放棄を拒絶した。ジェスパー・グリーア大佐は特戦隊の生き残った1個サンパー間接砲中隊を呼び出し、高性能爆薬弾、ICM子爆弾、FASCAM(地雷弾)が不揃いに入り交じった雨を降らせた。弾幕の騒ぎでファルコンのメックは速度をゆるめたものの、氏族軍の前進は続いた。ウィンストン将軍(エリダニ軽機隊)は、コベントリ市民軍が崩壊しかかっていることに気づき、支援のため気圏戦闘機を急送した。結局、砲撃と航空攻撃がファルコン軍の撤退を促した。この戦いは4時間に渡って続き、両陣営それぞれに100名近い死者を出した。しかし戦線は動かなかった。

 5月9日、ファルコン軍が再攻撃をしかけた。街の北端でエリダニ軽機隊が攻撃された。このとき砲撃による弾幕が、攻撃に先んじて行われた。しかし、氏族の着弾観測員は防護射撃の厳密な手順に慣れておらず、正確な座標、砲撃修正の報告に失敗した。従って、氏族の砲撃のほとんどは軽機隊を飛び越え、リートネートン郊外の荒れ果てた家屋やアパートに落下した。

 軽機隊の砲手はそのようなミスを犯さなかった。まず長距離ミサイルの一斉射撃を、前進する第305強襲星団隊アルファ三連星隊に命中させた。オムニメック数機がミサイル攻撃でよろめいたが、ファルコン軍は前に押し込んだ。そのあとで、サンドラ・バークレー大佐に指揮された火砲の連続射撃が、突撃するファルコン軍の間に降り注ぎ始めた。ファルコンの砲兵部隊は自軍の強襲部隊が危機に瀕していると気づき、軽機隊の間接射撃部隊に砲撃を始めた。これに応じて、バークレーは氏族への反撃を、すぐ第1支援中隊の砲撃部隊に命じた。ロドニー・ミュールニクス少尉の部下の射撃担当官たちは素早く、ファルコンの砲兵部隊に応射した。数分内に、熟練した砲手が3門のロングトム砲(ファルコン軍が第10スカイア特戦隊の中央基地から奪ったもの)を破壊し、残ったファルコンの火力支援隊に撤退を強いた。

 スターコーネル、アリマス・マルサスは、損耗した火力支援と置き換えるため、スターキャプテン、ジャニス・フォークナー率いるエコー三連星隊の気圏戦闘機に、前進するメックの近接航空支援を命令した。発着場ではすでに準備ができており、すぐにフォークナーは彼女のスーラで急降下攻撃をしかけ、レーザーとPPCの連射で、敵軍のE・M・カタニーズ操るギロチンを破壊した。(奇跡的にカタニーズは冷却ベストの肩が少し裂けただけで助かった)。この新たな脅威に応じて、バークレーは軽機隊所属の気圏戦闘機を呼び寄せた。始まった接近戦はやがて拡大していった。5時間後、生き残ったファルコンの戦士たちは、くすぶり、残骸のまき散らされた戦場を横切って足をひきずり戻っていった。もう一度、氏族は精鋭部隊をCEFの戦線にぶつけ、中心領域軍は押し返した。前の戦いとおなじように、両陣営におびただしい死傷者が出た。



Foiled By Fate 運命による妨害

 予期されていた三回目のファルコンの攻撃は、CEF戦線中央の竜機兵団に対して行われた。コベントリ市民軍のジュディス・ニームイアー将軍とウィンストン将軍は、5月10日の朝、空襲で氏族の後方に大規模な先制攻撃をしかけてやろうと計画した。ファルコン防衛線の背後の隊列に大きな攻撃を加えれば、街を包囲している氏族の攻撃を分断できるだろうと、司令官たちは推論した。この計画では、戦闘機が離陸してすぐに竜機兵団が地上で強襲することが要求された。

 しかしながら、爆弾とミサイルを積んだ戦闘機が空中でよろめくとすぐに、予測不明の嵐が近づいてきたのだった。この大変な天候にもかかわらず、死にものぐるいのCEF司令官は、計画された作戦の実行を戦闘機に命令した。運命はその日二枚目のカードを切った。まさに最初の爆弾が氏族の隊列に落下したとき、発見されていなかったパトロール中のオムニ戦闘機が迎撃のため竜機兵団の航空機に襲いかかったのだ。ファルコン軍と対決するためにまわされたCEFの戦闘機隊は、敵の存在に関する警告を受け、すぐ氏族の迎撃機のほうに降下し追い払った。この猶予のあいだにCEFの戦闘機部隊は残った戦闘機に緊急出動をかけた。そのうち数機は半分しか燃料が入っておらず、弾倉は消費されていた。数分内に、ジェイドファルコン、スカイア特戦隊、コベントリ市民軍の戦闘機が、混乱のうちに空を埋め、20世紀の地球を思い出させる大量の戦闘機によるドッグファイトが巻き起こった。ジェイドファルコンの抵抗は手強く、中心領域の戦闘機は機動力を得るために対地上装備を捨てなければならなかった。結果、CEFの地上攻撃計画は放棄された。従って、CEF司令部は地上強襲を諦め、リートネートンは包囲されたままだった。



A Strange Alliance 奇妙な同盟

 コベントリの戦いが手詰まりとなり、ライラ同盟と連邦=共和国の軍事指導者たちは、氏族の脅威を中和させるために追加の処置をとった。氏族侵略に対する国家主席カトリーナシュタイナーの要求に応えて、トーマス・マーリックとサン=ツー・リャオは、防衛力強化のため中心領域騎士団とハーロック襲撃隊をターカッドに送った。いまカトリーナはこれらのメック部隊を第11ライラ防衛軍、ウルフ竜機兵団3個連隊とともに、CEF救援のためコベントリに送った。

 同時に国家主席は、兄で連邦=共和国国王のヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンに救援を求めた。コベントリの氏族がどれくらの強さであるかを、明らかにカトリーナは意図的に述べなかった。全共和国の支配を望んでいたからである。

 都合の良いことに、コベントリで戦いが始まったとき、ヴィクターは他の国家指導者とともに、惑星ツカイードでコムスターが主催する軍事演習に参加していた。彼と仲間の統治者たちは戦闘の報告に従った。彼がカトリーナの要求を受け取ったとき、ツカイードには第1ゲンヨウシャ、第1聖アイヴス槍機兵隊、コムスターインベーダー銀河隊がおり、彼らはヴィクターの指揮下にあるダヴィオン重近衛隊への参加を受け入れた。アークロイヤルからケルハウンドの2個連隊を加え、援軍は完全6個バトルメック連隊となった。

 援軍の異常な性質に注目した歴史家たちもいた。ヴィクターは大規模で多様な部隊を動員し、その政治的手腕を実証したと多くの人々が感じた。それは彼がこれまで持っていないと批判されていた能力であった。確かに、部隊の中の何人かは数年前まで殺し合いをしていた。争いを脇に置いて、関係しようとする試みが良い方向に向かうのでないか、そう推測する評論家もいた。しかし、混成救援部隊を編成したヴィクターは、新生星間連盟の第一君主の座を狙っているのでないかと見る中傷者(ほとんどがライラ分離派だった)もいた。



Whitting ホイッティング

 コベントリ戦役における最後の軍事的攻撃は、3058年5月30日、山村ホイッティングでの小部隊の行動だった。

 最後の戦いはトレヴェナ大尉が考案した計画によって始まった。CEFのメックと歩兵からなる小部隊が、コベントリのクロス−ディバイド山脈の下に走る鉱山トンネルを通り、ホイッティングにあるファルコンの後方司令部を襲撃してはどうかと、彼は提案したのである(トレヴェナによると、ファルコンはトンネルのすべてを知り尽くしているとは限らないという)。同時に、ファルコンの戦線に前方と側面から攻撃をしかけて氏族を混乱させ釘付けにすれば、成功の可能性が上昇するだろう。そして襲撃部隊は氏族の司令部スタッフの多くを殺すか捕らえるかして、ほぼ同数の諜報部員を捕らえるだろう。この単純で明瞭な計画は、達成可能な目標を持っていて、CEFの司令官が注意深くそれを容認した。

 CEFは補給が乏しく援軍も見えていなかった。ホイッティング作戦は防衛軍が招集できる最後の攻撃となるだろう。しかしCEFが襲撃について話しているまさにそのとき、竜機兵団のセキュリティパトロール隊の手によって、第10スカイア特戦隊の前補給将校リカルド・コプリー少尉が避難民の中から発見され、彼らのゆるんでいた士気は高まった。未知の理由により、コプリーは弾薬、スペアパーツ、糧食、医薬品の予備を洞窟(トレヴェナの大隊が侵攻の初期、敵を悩ますものに使っていたもののひとつ)に隠していた。突然、物資が流入し、打ちのめされていた中心領域軍は新たな希望に沸いた。

 若返った気分で、CEFの攻撃は5月30日の夜が明けてからすぐ立ち上がった。ブラベイカー大佐総指揮の下で、竜機兵団デルタ連隊、トレヴェナ偵察中隊の生き残り、「戦術即応部隊」、これらの部隊のメック戦士(メックを降りている)、歩兵からなる軍勢が、クロス−ディバイドの下を進んだ。決められた時間に、ブラベイカーはホイッティングの防衛部隊に対して全面的な攻撃をしかけ、トレヴェナの小機動部隊が町の南から滑り込むと、敵は北側から撤退していった。

 攻撃は当初の計画よりもうまくいった。ジェイドファルコンの駐留部隊のほとんどがブラベイカーの部隊を追跡し、街には一握りのメックとエレメンタルだけが防衛のため残されていた。トレヴェナ率いる一団は簡単にこの軽部隊を片づけて、町のタウンホールに直進し、ファルコンの司令部を捜索した。40分以内に襲撃は終わった。その攻撃でライラ領強襲の目的など様々な情報を得ることができた。またワコー特戦隊を罠にかけた氏族の士官、スターコーネル、アリマス・マルサスを捕虜とした。



End Game ゲーム終了

 ホイッティング襲撃のあと、彼らは戦闘をどう続けるかについて話し合った。部隊の数は減り、補給は途絶えがちで、勝利できるチャンスはわずかしかなかった。結局、CEFは、少数のゲリラ部隊にわかれ、山に撤退して、援軍が来るまで敵をかく乱する道を選んだ。

 問題は、6月5日、ヴィクター・ダヴィオン国王が連合軍とともに辿り着いたときに起きた。この部隊は名目上コムスター戦司教アナスタシウス・フォヒトが指揮していた(ツカイードの勝利者というステータスが、ファルコンにこの軍事計画の強さをイメージさせる助けになるだろうと参加者たちは考えていたのである)。放浪ウルフ氏族の戦士ラグナー(自由ラサルハグ共和国の元王子)の推薦に従って、ヴィクターは挑戦宣告(バッチェル)の交戦入札を延期し、中心領域軍次席司令官の正統な権利を使って、セーフコン(攻撃されずに部隊を展開する約束)を訴えた。伝統に縛られたファルコンの指導者には選択の余地がなく、要求を尊重した。氏族長プライドは、到着した敵軍の降下船にリートネートン近くへの安全な着陸許可を与えた。またふたりの指導者は四日後、正式な決闘を行うためにホイッティングで会合することで同意した。その際、通信回線が切れる前に、氏族長プライドは彼女のすべてを持ってしてコベントリを防衛すると宣言した。

 氏族の伝統に従い戦力報告書を交換した後で、ヴィクターは反対入札を案出しはじめた。彼はコベントリの連合軍とファルコン軍がちょうど拮抗していることに気がついた。また連合軍がファルコンから惑星を奪い去ろうとした場合、双方とも長く血塗られた戦役に直面することにも気づいた。しかしながら、連合軍が包囲されているコベントリ連合軍を単に救出するだけだったら、ジェイドファルコンと戦って負けたときのように、連邦=共和国、中心領域、ヴィクター自身がうち負かされたと受け取られるだろう。敵の直前での撤退を、カトリーナは政治的に彼を攻撃する手段に使うだろう。反ダヴィオン派の煽動者が、大統領に指名されたホヒロ・クリタの旧敵との見かけ上の同盟に反旗を翻して、連邦=共和国とドラコ連合のか細い協力関係は消え失せるだろう。カペラのサン−ツー・リャオ首相は撤退を弱さのあらわれと捉え、自由世界同盟トマス・マーリック総帥との強い結びつきを利用して、隣国の聖アイヴス協定を奪還するだろう。コムスターでさえも、嵐を回避できないだろう。コムスターのライバル、狂信的なワード・オブ・ブレイクは、フォヒトがヴィクターを第一君主にするのに失敗したと吹聴するだろう。そしてもし連合軍がファルコン軍を撃破したとしても、戦いによって部隊は破滅的な被害を受け、中心領域は他の氏族軍からの攻撃に弱くなってしまうだろう。撤退も決戦もできず、結末が見えない戦役の中で、ヴィクターは戦略を案出しようと骨を折った。

 皮肉にも、氏族長マーサ・プライドも同じジレンマに陥っていることに、ヴィクターは気づいていなかった。連合特務部隊が到着してすぐ、氏族長プライドはウルフ氏族長のウラジミール・ワードからメッセージを受け取っていた。彼はジェイドファルコンの素晴らしいライラ宙域侵攻を祝福して、氏族占領域のファルコン保有惑星を攻撃できる位置にウルフ軍を移動させたと何気なく通告してきた。もし氏族長プライドが戦力をコベントリで中心領域軍と対峙させたままでいたら、ウルフ氏族はファルコン占領域の小規模な守備隊をうち破り、それらの惑星を獲得するだろう。ファルコンは氏族の間で名声を失う。もし彼女がファルコン軍をコベントリから危機にある惑星へ移送したら、彼女は連合軍と破滅的な戦いを避けてコベントリを去ることになり、彼女とジェイドファルコン全体がデズクラ(恥さらし)になってしまう。氏族の間で辱められるだろう。

 それからの数日間、不確実性と理解が戦線の両側に漂った。ヴィクターが戦闘で破壊された町ホイッティングに入り、ジェイドファルコン氏族長と面会したとき、それは頂点に達した。そのとき氏族の戦士たちは中心領域の野蛮人からまったく予期してなかった申し出を受けた。ヴィクターが、ジェイドファルコンにヘジラを持ちかけたのである。これは破れた敵を、彼らの部隊と完全な名誉を保持したまま戦場から撤退させる伝統的な権利である。ファルコン氏族長は長いあいだ、ぼんやりとした目で虚空を見つめていた。その後、最大の尊厳でもって、彼女は申し出を受けた。その瞬間、コベントリ戦役は終焉を迎えたのである。



Aftermath 余波

 氏族の習慣に従い、ファルコン軍のヘジラの受理に続いて、捕虜が全員交換された。氏族によって返還されたボンズマンの中には、ワコー特戦隊のウェイン・ロジャース大佐と、部下の傭兵隊員が含まれていた。彼らは待ち伏せ攻撃の最中に死んだと思われていた。トレヴェナ大尉(第1大隊の司令官に不適合とみなされていた)はウルフ竜機兵団から入隊を持ちかけられた。しかしながら彼は丁重にそれを断った。ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオン国王が彼に連邦=共和国装甲軍少将の地位を授け、将来、対氏族中心領域連合軍が行う作戦を評論する仕事を与えたのである。

 氏族長マーサ・プライドはヘジラを受けたことにより、自軍をジェイドファルコン占領域に戻す面子が立った。それによって、ファルコン保有惑星へのウルフ氏族長ヴラッド・ワードの強襲の脅威に対処した。この撤退は熱狂的な侵攻派氏族の性格にあわないように見え、すぐに中心領域の識者はジェイドファルコン氏族の現実的な動機と究極の目的について推測が交わされた。しかしながら、これまでのところ、激しく渦巻く噂のどれも、実体を表すことがなかった。ファルコンについて上がっていることはすべてうまく秘密が保たれた。

 ターカッドのカトリーナ・シュタイナーにとって、被害のない勝利は喜ばしいとは言い難かった。ヴィクターは生き残った。彼はまったく危機に瀕さなかった。さらに彼はヘジラの申し出によって、平和調停者となった。それはカトリーナが自らに割り当てたかった役割だった。

 おそらくもっとも重要なことは、コベントリにおける中心領域連合軍の成功によって、古い敵同士が互いに同盟を組めることを実証した点にある。コベントリの教訓を受け、ヴィクターは敵氏族と戦うための新たな計画をたてることになった。




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