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作成:2004/03/05
更新:2008/09/19

氏族 clan



 中心領域から〈脱出〉した星間連盟防衛軍(SLDF)。その後の命運はけして平坦なものではありませんでした。〈脱出〉して一年後、ようやくペンタゴンワールドに到着します。植民化には成功したものの、10年を経て不満が高まり、ついには反乱と大規模な内戦が発生しました。
 ケレンスキー将軍の息子ニコラスは、仲間を募り、第二の〈脱出〉を実行に移します。そこで〈氏族〉が生まれます。争いの元になる出身地や家柄を廃し、純粋にすぐれた戦士を選抜して、動物名を冠した部隊を作ったのです。
 氏族たちはペンタゴンワールドへ帰還し、内戦を鎮圧しました。ここに氏族の歴史がはじまります。
 The Clans: Warriors of KerenskyThe Great Fatherより





氏族、ケレンスキーの戦士たち The Clans: Warriors of Kerensky

 ニコラス・ケレンスキーは、戦士たちを見てひらめいた獣性、要素、属性から、氏族の名を決めた。それぞれは、戦士たちに望むような価値ある特徴が反映された実例になった。例えば、ウルフは狡知と隠密性で称賛された。

 元あった20の氏族のうち14が残っている。失われた氏族のうち3つは、神判と族長会議の採決を通して吸収された。ふたつは殲滅された……氏族によってひとつ、新星間連盟によってひとつだ。また最後に、ひとつの氏族が放棄された。以下は残っている氏族の全リストである。


氏族の政治的派閥 Political Division of the Clans

 大氏族長ニコラス・ケレンスキーの死後、数年で氏族に大きな変化があった。そのうちのひとつは、中心領域への帰還に関係がある。星間連盟の王座を取り戻し、氏族のイメージにあわせて再建するため、征服軍として中心領域に戻るべきだと、ケレンスキーの教えを解釈をする者たちが氏族にはいた。

 一方で、中心領域を守り、守護者(ケレンスキーのやり方と未来像を教える)として帰るべきと言葉を解釈する者もいた。氏族はこの哲学によって、バランスよく分裂した。征服軍として帰還するのを支持する者たちは「侵攻派」と呼ばれ、守護者としての氏族を支持する者たちは「守護派」と呼ばれた。意見の対立が故に、氏族のそれぞれは数多の神判で戦った。にもかかわらず、氏族は中心領域を占領するため帰還したのだが、今日、氏族のうちふたつが停戦ラインの向こう側に行き、新星間連盟の一員となり、守護派の未来像に従っている。他の者たちは、次の行動を熟慮している最中だ。

 以下のリストは、「侵攻派」と「守護派」のものだ。未来像を違え、拒絶戦争で戦ったがため、氏族のひとつが分裂したことに注意してほしい。いまの日付の時点で、他の残留氏族は侵攻氏族に加入していない。

ケレンスキーの氏族 Kerensky's Clans

侵攻派氏族 Crusader Clans
ブラッドスピリット氏族 Clan Blood Spirit
ジェイドファルコン氏族 Clan Jade Falcon
ウルフ氏族 Clan Wolf
ヘルズホース氏族 Clan Hell's Horses
アイスヘリオン氏族 Clan Ice Hellion
スターアダー氏族 Clan Star Adder
ファイアマンドリル氏族 Clan Fire Mandrill

守護派氏族 Warden Clans
コヨーテ氏族 Clan Coyote
スティールヴァイパー氏族 Clan Steel Viper
ゴーストベア氏族 Clan Ghost Bear
ゴリアテスコーピオン氏族 Clan Goliath Scorpion
スノウレイヴン氏族 Clan Snow Raven
クラウドコブラ氏族 Clan Cloud Cobra
ダイアモンドシャーク氏族 Clan Diamond Shark




偉父祖 The Great Father

アレクサンドル・セルゲイヴィッチ・ケレンスキー Aleksandr Sergeyevich Kerensky
将軍、星間連盟軍司令官
アレクサンドル・セルゲイヴィッチ・ケレンスキー:偉父祖
生まれ:2700年12月16日、地球、モスクワ
学歴:ターカッド大学(2721年)
学歴:ナーゲルリンク士官学校(2723年)
学歴:マーズ戦争学校、ガンスリンガー(2724年)
昇進:中尉(2727年)、大尉(2729年)、大佐(2729年)
   准将(2731年)、少将(2733年)
SLDF将軍任命:2738年4月21日
結婚:2763年6月9日
子供:ニコラス(2764年5月4日)、アンドリュー(2766年11月9日)
星間連盟摂政(護国卿):2751-2762年、摂政:2779-2780年
死亡:2801年6月11日

 ニコライ・マクシモヴィッチとアンナ・トロチーナ・ケレンスキー(両者ともSLDFの元隊員)から生まれたアレクサンドルは、病弱な子供であった。3歳まで心臓疾患を煩っていたアレクサンドルは、命を救った心臓病手術から回復するのに、さらに2年を費やした。若きケレンスキーは内気で引きこもりがちだったが、優秀な生徒だった。彼は両親の学術的嗜好を継承した。父親は市民歴史博物館の学芸員で、母親は文学への愛情を持っていた。2718年にはターカッド大学の奨学金を得る。そこでマイケル・シュタイナー(未来のライラ共和国指導者)と出会い、親交を深める。彼は研究助手を務めていた。この友情は〈脱出〉まで続くこととなる。

 教育課程の後期に行われた定期医療診断で、ケレンスキーが反応の鋭い神経系を持っていることが明らかとなった。一連の物理的、心理的テストに支援され、この能力が彼にナーゲルリンク士官学校でメック戦士の訓練を積む道を与えたのである。ケレンスキーは優等でナーゲルリンクを卒業し、マーズ(火星)戦争士官学校のガンスリンガープログラムを受けた。2724年にプログラムを卒業したあとで、第564機兵連隊の決闘士となり、第一次秘匿戦争(Hidden War)の後半にDCMSと幾度も交戦した。2729年までに、ケレンスキーは大尉の地位を得ていた。

 彼がはじめて戦闘指揮をとったのは、惑星ロイヤルにおいて、スムーザー作戦でのこと。この星間連盟の作戦は、進行中だったドラコ連合/恒星連邦間の紛争(のちに第二次秘匿戦争と呼ばれた)を終わらせるためのものだった。連隊の幕僚が降下船の事故で死んだとき、ケレンスキー大尉が指揮を引き継ぎ、部隊を救い出した。この決定的行動がために、ケレンスキーは名誉勲章を受け取り、二階級昇進して大佐になったのだった。

 新たに指揮することとなった部隊は、タウラス連合に基地を構える第261親衛竜機兵連隊だった。当地で彼は政治的な動きにまきこまれた。地元政府と企業のあいだの汚職を撲滅しようとしたのだ。この行動で市民からの尊敬を集めたが、上流階級の怒りを買う。ケレンスキーの正直さと清廉潔白さは、辺境の王国を開発するという計画を邪魔した。よって議会君主たちは彼を准将に昇進させることにしたのだった。ケレンスキーは地球にて作戦立案戦略部門の副司令となった。地球で彼は、第一君主ジョナサン・キャメロン、その姉妹、その母親イオカステ(当時の実質的な星間連盟指導者)と出会った。ケレンスキーはまたサイモン・キャメロンと固い友情(やがて重要なものとなる)を結んだ。

 素早い昇進は続き、2733年、アレクサンドル・ケレンスキーは少将に昇進し、SLDF司令官レベッカ・フェトラドラルの側近(補佐)となった。任期を通じて、反汚職運動を続けていた。第一君主ジョナサンの死後、フェトラドラル将軍が引退すると、彼女の支援と、新第一君主との友情によって、ケレンスキーはSLDF将軍の地位を与えられたのだった。若干38歳で、彼は、史上最大の軍を指揮した。2751年のサイモン・キャメロンの死後、アレクサンドル・ケレンスキーは、サイモンの8歳の息子リチャードの摂政となったのだった。




ニコラス・ケレンスキー Nicholas Kerensky

氏族の仕組みを創りし者

 ニコラス・ケレンスキーは、歴史上の人物としてだけでなく、人間として、確かに魅力がある。少年時代、アマリスによる虐殺の暗闇のなかで、遺産を受け取るのを拒否する気にさせたのはなにか? 人々が父親を神と見なすのにどう対処したのか? 氏族文化のすべてを作り上げるよう彼を駆り立てたのはなにか?

 アレクサンドル・ケレンスキーが単独で星間連盟を守ったのは事実である。神として尊敬されたのもまた事実である……それを知るには、リメンバランス(氏族の歴史を綴った詩)に目を通すだけでいい。しかし明白なことは、ニコラスが父の優位性を熱心に信じていたことである。そのような人物の影で生きることは大変だったに違いない。同時期の少年たちはしばしば父親を印象づける必要性を感じていた。しかしどうやってアレクサンドル・ケレンスキーのように印象づけられるのだろうか? この人物は人類の歴史上、誰よりも多くのことを成し遂げたのだ。ニコラス・ケレンスキーがどうにかして父親の影から出て歴史に顔を出したのは、驚くべき事である。彼はそれを行うためにどのような代償を払ったのだろうか?

 ここにニコラス・ケレンスキーもうひとつの暗黒面がある。彼はアマリスによる(地球)帝国占領の時に育ったのだが、目撃した残虐行為については、個人的な記述のなかでほのめかす程度にしている。これら残虐、苦悶、災害のイメージは、少年の心を傷つけたに違いない。こういった経験の記録が存在しないことから、ニコラス・ケレンスキーが見たものを抑圧したと信じるのは可能である。

 ペンタゴンワールドでの最初の混乱の時期、ニコラスは脳炎(母の死因とおなじもの)をわずらった。二週間、病魔と闘った。患者の脳に広範囲な障害を起こす病気として知られていたのだが、彼は無傷で生き残った。

 明らかにされた彼の人生と、ニコラス・ケレンスキーが考案した氏族、新社会は、彼にトラウマを与えた社会の害悪を永久に消し去ろうとする試みを示唆しているように見える。戦闘による神判は名誉あるもので、敵に「群がる」のを許さない。ここに反映されているのは、ドシェヴィラーと弟のアンドリューがどのように死んだかを、ニコラスが苦々しく思っているかである。病が脳にダメージをあたえていたかを知る方法はないし、彼が産み出したものがどれだけ才気によるものだったのか、狂気によるものだったかはわからないのである。

 氏族人が崇拝するようにニコラス・ケレンスキーが天才だったとしても、あるいは逃れられない人生に苦しみわめく狂人だったとしても、それはわからない。誰も真実を知りそうにない。しかしながらただひとつ明白なことがある。ニコラス・ケレンスキーが氏族を作り出したがために、中心領域のすべての人々が彼の名を呪う日が来るかもしれないことだ。




ウィドウメーカー氏族(吸収) Clan Widowmaker(Absorbed)

歴史 History

 ウィドウメーカー氏族は2834年、ウルフ氏族に吸収された。ウルフはウィドウメーカー氏族と長いあいだ敵対関係にあり、ウルバリーン氏族への破滅の神判でそれが最も顕著にあらわれた……ウィドウメーカーがウルフに入札の削減を強いたときのことだ。2834年の夏、ウィドウメーカーは市民階級に残虐な戦闘を行い、ウルフ氏族のウィンソン・ジェローム氏族長は、彼らの支配権に疑問を持つこととなった。族長会議はウィンソンに同意し、ウルフに吸収する権利を与えた。

 アイアンホールドでの吸収の神判は、意外で悲劇的な結末に終わった。ウィンソン族長とキャル・ヨルゲンソン(ウィドウメーカー氏族長)の決闘に、ウィドウメーカー軍の隊員が乱入すると、レフリー(ニコラス・ケレンスキー大族長に率いられていた)が乱入した。意図されたものか、事故だったのか、ヨルゲンソン族長はケレンスキー大族長を殺し、ウルフ氏族を復讐の怒りに駆り立てたのだ。続いて起こった攻撃(実質的な破滅の神判)では、ウィドウメーカーの戦士、数人だけが生き残った。




マングース氏族(吸収) Clan Mongoose(Absorbed)

背景 Background

 マングース氏族は2868年、スモークジャガー氏族に吸収された。明白に政治的な動きに頼っていたマングース氏族長は、行動を正当化するのに、偉大なケレンスキーの著作を引用するのを好んだ。しかしながら、族長会議での意に反する決定を避けるため、それらの行動を試みたとき、彼らは規則に不適当だと宣言され、吸収の神判の対象とされたのである。

 スモークジャガー氏族がマングースの資産を吸収する権利を勝ち取った。公式な神判を超えて行われたスターアダー氏族の動きが、スモークジャガーの収益を制限した。スモークジャガーはマングース軍を破壊したのだが、遺伝子資産を得るのは拒否した。クラウドコブラが11個の遺産を要求し、今日までも使い続けている。




バーロック氏族(吸収) Clan Burrock(Absorbed)

歴史 History

 バーロック氏族はスターアダー氏族に吸収された。3059年のことだ。長いあいだ、バーロック氏族は独自の目的のため無法者階級と共謀していた。バーロックは3058年の後半まで秘密を何とか守っていたのだ。スターアダーが族長会議に問題を持ちこむと、族長会議は吸収の神判を宣言した。スターアダーによる公式の吸収と時を同じくして、バーロックの長年の仇敵であったブラッドスピリット氏族が動いた。バーロックとスターアダーは協力して、闖入者を倒すこととなった。

 バーロック氏族部隊の多く(指導者と無法者階級の共謀に唖然としていた)はスターアダーに先制のバッチェルを行い、アダーに編入されるまで、単に形だけの抵抗を行っただけだった。ブラッドスピリット氏族に対する戦闘を除いて、この吸収は氏族史において最も流血の少ないものとなった。バーロック氏族の大部分が、完全にスターアダー氏族の一部となっている。




ウルバリーン氏族 Clan Wolverine

 ウルバリーンはニコラス・ケレンスキーの全氏族独裁に対して最も声高な非難を行っていた。公式の氏族史では、彼らは民主主義や自主独立といった反氏族的な意見を見せたために殲滅されたとしているが、真実はいささか異なるものである。ウルバリーン氏族の事件が起きたころ、多くの氏族は内部抗争に苦しんでおり、ニコラスは氏族全体が彼の権威に反対する瀬戸際にあると見た。ウルバリーンは、実例的な教訓としての、また他の19氏族が団結するための共通の敵としての役割を果たした。

 ウルフ氏族は、サラ・マクイヴディ氏族長とその氏族に対する族長会議の刑罰を執行したが、後の調査によると、一部の人員――大半が民間人と二戦級兵士たちが逃げ延びたことが強く示唆されている。生存者たちの居場所と末路は不明なままである。以下が、この事件とウルバリーン氏族の殲滅につながったものの全実態である。


ウルバリーンの裏切り Wolverine Treachery

 最初にあがった不満の声は、驚くべきところから来た……ジェイドファルコン氏族である。ファルコンの多くは、クロンダイク作戦後にニコラスがファルコンでなくウルフ氏族への加入を選んだことに怒ったのだ。落胆はニコラスの理想(手法ではなかったが)に対する疑問を生み出し、批判と反乱の間の細い糸を彼らはしばらく歩くことになった。結局、ファルコンの氏族長たちは、中枢の「癌」を切除することになる。2823年7月、彼らは反乱分子を粛正し、自らの一部を断ち切って、氏族全体を生き残らせたのである。彼らが呼ぶところの「よりわけ」を終えたファルコンは、軍事的に弱体化したが、ケレンスキーのビジョンを完全に受け入れ、最も伝統にうるさい氏族と見なされるようになったのである。だが、反逆的な不平を述べていたのは、ファルコンだけでなかった。

 その後起きたことについては、ニコラスの日誌から再構成できる。氏族の公式記録と違って、日誌は名無し氏族(Not-Named Clan)に関する言及を削除されなかった。

 ニコラスは、氏族の統制が離れていくのを恐れ(おそらくそれは事実であった)、権威に反する大きな敵……ウルバリーン氏族に対し、大氏族長の権勢をふるった。ニコラスの強力な推進によって、2823年8月28日、族長会議はウルバリーンが補給に使っていたキルケのブライアンキャッシュをウルバリーンの所有ではないと宣言した。それを近隣のスノウレイヴンとわけあうことを会議は命じたのである。氏族の社会的な原則を破り、ウルバリーンは激しく抗議した。政治的な戦いは数週間にわたって続いた。9月30日、会議は投票を呼びかけた(ウルバリーンの副氏族長はHPGを通じて票を投じた)。ウルバリーンの抗議は無視され、氏族法の権利の下、彼らは拒絶の神判を求めた。神判は10月7日に戦われ、ウルバリーンは敗北した。

 辛辣なやりとりが交わされるに従い、状況は族長会議の会場内でさらに悪化していった。ウルバリーンのサラ・マクイヴディ氏族長は、他氏族を自らの理想に引き入れるのを望んだ……ニコラスの独裁的な行動が、仲間の数氏族を心配させていたのを、彼女は知っていたのである。だが、ニコラスは抜け目ない政治家であり、マクイヴディの弱点を知っていた。特に無愛想なやりとりの中で、彼女はニコラスを直接侮辱し、それを超えて、氏族自体を侮辱してしまったのである。誤った言葉遣いで、マクイヴディは自身の権力基盤を破壊し、氏族を自由化するという望みは消失した。さらに悪いことに、ニコラスが不服の神判を呼びかけた時、マクイヴディは究極の罪を犯してしまった……彼女はウルバリーンの氏族からの独立を宣言したのである。そうすることで、彼女はまさにニコラスが求めていたものを与えてしまった。敵を殲滅する口実である。


一線を越える CROSSING THE LINE

族長会議のセキュリティテープより、2823年10月8日

ケレンスキー[氏族長]: 我が名誉ある友人、[検閲]氏族の氏族長は、神判によって確認された本会議の決定を無視し続けている。私はこのキャッシュが第331親衛師団、彼女の父の部隊であったことをどうでもいいと考えている。本会議はキャッシュが氏族全体に属する資源だと認めている。旧体制では、彼女の父方の忠誠心は賞賛されていたが、ここは旧体制ではない。我らは氏族だ。我らは、己の功績を重んじている。先祖のではなく。

マクイヴディ[ウルバリーン]: あなた以外は。

ケレンスキー[氏族長]: なんだって?

マクイヴディ[ウルバリーン]: あなた以外は、と言ったのです。あなたはお父上の功績の恩恵に属して、ご満足のように思える。お父上は世界のため、正義と平和を求める理想家だった。あなたは支配を求めている。

ミッチェル・ロリス[マングース]: [検閲]氏族長、度を超えているぞ。

マクイヴディ: 私が? この議場にいるあなたがたは、ペンタゴンの敵対的な民衆を支配するべく、大氏族長がとった行動を知っているはずだ。星間連盟は、拷問と暴力を信奉していなかった。そういったものは権力に飢えた狂人の道具だ。ニコラス・ケレンスキーはそうなってしまったのではないか? 権力に飢えた狂人に。

[全体から声が挙がる]

ケレンスキー: 静粛に! [検閲]よ、[検閲]氏族長よ。私、ニコラス・ケレンスキー、大氏族長は、不平の神判を発動する。法に則り、君が許されるのは……

マクイヴディ: 法など吊してしまえ。真実はそこまであなたを傷つけたのか、ニコラス?

ケレンスキー: 諸君、我らが同僚は明らかに興奮しすぎている。非難の投票を求める。ローアマスター・ワード、どうか……

マクイヴディ: 騒がないでください、ニコラス。出ていきますから。本当に、我々全員は出ていきます。[検閲]氏族は、もう大氏族長や族長会議の権威を認めません。現時点から、我らは独立勢力です。我らの行く末は、星間連盟の倫理と規範に基づき、我らが決めます。

ケレンスキー: そんなことは出来ない。

マクイヴディ: 出来るし、もうそうしている。

[マクイヴディが出ていこうとする]

ケレンスキー: 捕らえよ!

[マクイヴディは拳銃を抜く。氏族長たちと警備兵たちが下がる。ウルバリーンの兵士たちが到着する]

マクイヴディ: もし我らに会いたいというのなら、ご立派なことだ。だが、我らはもう戻らない。つむじ風のように去る準備をしている。

[マクイヴディが立ち去る]

ケレンスキー: 氏族長たちよ、私たちは重大な決断をせねばならない……


 マクイヴディ氏族長はストラナメクティを脱出してキルケに戻った。そこではフランクリン・ハリス副氏族長が、すでにウルバリーン氏族軍を最大の警戒態勢に置いていた。10月10日、スノウレイヴンが独自の偵察をウルバリーンの国境に行ったそのとき、ウルバリーンは逆襲を行った。彼らは慈悲を見せず、短い交戦の後、レイヴンの首都デラドゥーンに襲いかかった。彼らはマングース氏族、ノヴァキャット氏族の大軍に遭遇して撤退したが、その前に都市に対する実践的教育を行った。この地区から民間人を追い出した後で、彼らはレイヴンの遺伝子集積所を破壊するべく、低威力の核兵器を使ったのだ。メッセージは単純で残忍なものだった。追いつめたのはそちらだ、こちらはそちらを止めるために何でも、どんなことでもする。この「野蛮な」行動に脅された、マングース、ノヴァキャット、スノウレイヴンは撤退し、族長会議の最終審理を待った。

 集積所の破壊に伴い、ウルバリーンにどう罰を与えるかという問いは、新たなねじれを見た。族長会議は10月8日に、マクイヴディとウルバリーンを非難する投票を終えていたが、最終的に彼らを氏族に戻すつもりだった。そしていま、ウルバリーンは究極的な罰を与えられることになったのである。10月11日、氏族長たちはウルバリーン氏族全体の殲滅に投票した。判決が下されると、ニコラスはその後最も引用されることになる言葉を述べた。「信義と協調を破るものは、闇に沈んでいくことになろう」。その後の数日、残った19氏族は反乱軍を滅ぼす名誉をかけて争った……最終的にウィドウメーカー氏族とウルフ氏族が競争に勝利した。だが、入札に勝つため、ウルフは受容できる限界よりも大きな戦力削減を強いられたのである。

 マクイヴディ氏族長は10月13日、キルケに帰還し、きたる強襲にそなえて、準備の責任を負った。ウルバリーン氏族長はニコラスが計画したことを疑っており、ハリス副氏族長は意図的に運命的な投票の場を欠席していた。マクイヴディの命令に従い、彼は第三エクゾダスの準備をしていた。マクイヴディと彼は、ウルバリーンが氏族宙域でけして安全ではないことを知っていたのである。ウルバリーンの生存を図るため、彼らは小部隊をペンタゴンワールドとケレンスキー星団を分散させ、補給庫から物資を集め、逃げる準備をしていた。ゴーストベアはこのような部隊のひとつを見つけていたが、この情報を数十年隠していた。

 ウルフ氏族軍は10月25日に強襲を開始し、降下地点に対するウルバリーンの逆襲を撃退した。戦闘が地上、空中、宇宙で巻き起こった。この戦いは二日間続き、ウルフは数で劣っていたのだが、優勢を確保した。続く戦いはウルバリーンが氏族宙域から逃げるためのものだった。両陣営の艦船の多くが沈んだが、19日後に、ウルフは勝利した。ウルフ軍の約80パーセントが死んだ……ウルバリーンには生存者がいなかった。ニコラス・ケレンスキーは三時間に及ぶキルケでの決闘で、ハリスを残虐に殺した。マクイヴディの行方はようとして知れなかった。次の二ヶ月間、ウルフ軍は機械的にウルバリーンの領地を破壊し、建物を壊し、市民階級を強制的に断種した。ウルバリーンの遺伝子を持つすべてのシブコは息の根を止められた。

 これらの手段がとられたにもかかわらず、2824年の1月22日、ウルフのローアマスターは族長会議にやっかいな報告書を提出した。ウルバリーンの人口と設備が調査と食い違っていたのである。ウルバリーンの前線兵士たちの大半がキルケで死んだ一方、二線級の兵士たちの多くが、ブライアンキャッシュに納められていた第331師団の装備の大半と共に、行方不明となっていたのである。同様に、民間人の数が予想されていたより少なかった。公式には、食い違いは間違った調査によるものとされている。だが、実際には、ウルバリーンのかなりの数が、おそらく中心領域に逃げ去ったのだろうと、族長会議は疑っている。




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