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作成:2012/11/25
更新:2021/07/11

エクスペリメンタル・テクニカルリードアウト



 XTROシリーズは、実験レベルの機体・装備をテーマにしたテクニカルリードアウト群です。ここに掲載されているメックや車両は、最低でもひとつの実験装備、特殊な装備を積んでいます。それら実験機のうち一部は、『テクニカルリードアウト・プロトタイプ』などで実用化、量産化されました。

















中心領域産業メック(買主負担)


クロスカットIIC・ソラーマメック CROSSCUT IIC SOLAHMAMECH
実地試験概要: カスタム・クロスカット改装型
生産者/生産地点: 生産工廠 SFF-IT7、イタバイアナ
技術監督者: 技術者キット(†)
プロジェクト開始日時: 3133年
詐欺分析: 
 馬鹿げたXXLエンジン(利益最大化のため)


概要
 常に新たな収入源を探しているシーフォックス氏族は、ブラックアウト後、戦闘用に改造された産業メックがあちこちで使われているというチャンスに飛びついた。少なからぬ野心的な技術者たちが改造型の開発に成功して(つまりは高収益を上げて)商人階級に加わったものの、戦場で使えない欠陥だらけの改造型を生産した技術者たちはもっと多かったのである。とある改造型は、戦場で成功しても、常に市場で成功するわけではないことを証明して見せた。

 フォックスは、各副氏族長領(Khanate)と州(Aimag)に配備された戦力に加えて、中心領域中の地上飛び地領それぞれに魚群星団隊(Shoal Clusters)を維持していた。こういった星団隊は、主に退役した戦士=商人と、最初の任務となる候補生たちで構成されていた。彼らは飛び地領を守るだけでなく、地元の産業メック団のパイロットにもなり、不必要な神判抜きに腕を維持するという利益を得ていた。さらには実験機のテストパイロットの群れが氏族に与えられた。イタビアナ飛び地領の技術者キットは、3133年、こういったテスト部隊のひとつに配属された際に、「クロスカットIIC」と名付けた改造型を開発した。飛び地領の上級商人ディブニー・オーシカの気を引くためであった。

 エンジンを300XXLに換装して、すさまじい高速を達成しているものの、操縦の難しいメックとなった。この改造型をテストしたシーフォックスのパイロットたちは、高速化がいかに貧弱な武装を埋め合わせて、改造された森林メックのチェインソーを有用な武器にしているかを高く評価した。上級商人オーシカはクロスカットIICの販売を許可し、暫定的にキットを商人階級にする予定を立てた。

 キットにとっては残念なことに、この機種は公開市場で失敗した。XXLエンジンは惑星市民軍の大半にとって高価すぎるものであった。逆に国家が出資する大規模な軍隊は容易に高額を出せるものの、購入する理由がなかった……クロスカットIICは強化した産業メックとしては優秀である一方、似たような価格の本物のバトルメックと比べるとたいしたことがないのである。その結果、クロスカットのプログラムは終了し、キットは昇進のチャンスを失って、氏族辺境領土に駐屯するソラーマ部隊の支援スタッフに左遷された。彼は改造型をいじり続け、その結果敗北を被ったメック戦士に不服の神判で殺されたなる噂は事実か確認されていない。










中心領域市民軍メック(買主負担)


ガウスバスター・ミリシアメック GAUSS-BUSTER MILITIAMECH
実地試験概要: カスタム・バスター改装型――我らが「移動砲台」最初の一機(悲しいかな最後ではない)
生産者/生産地点: ミシサガ市民軍、ミシサガ
技術監督者: フランシス・ザッパ
プロジェクト開始日時: 3134年
詐欺分析: 
 ヘビーガウスライフル(電力不足で動作せず)


概要
 必要は発明の母という言い回しがあるが、ミシサガのバスター改修型はそのはっきりとした実例である。ジェイドファルコン国境からジャンプ数回の位置にあるライラ共和国の僻地惑星、ミシサガはあまりに小さく重要でないので、LCAFの正規防衛部隊を必要としていなかった。HPGネットワークが障害を起こして以降、中心領域中で軍事活動が活発化していることから、地元市民軍は貧弱な戦力の強化をもくろみ、いわゆる既成概念に囚われない考え方をせざるを得なかった。

 市民軍で最高のメック(BXK-F7ホランダーII)は核融合エンジンへのダメージで脇に追いやられた。手元に修理部品がなかったことから、テックたちはヘビーガウスライフルを別の機体に取り付けようとした。残念ながら、物理的に搭載可能な唯一の機体は、みすぼらしいバスター運搬メックだけで、安定していることから理想的なプラットフォームとなった。だが、核融合エンジンがないので、キャパシターに充電して砲撃することが出来なかった。テックたちはうろたえることなく、スケールアップをもくろみ、ガウスライフルを装備したバスターMOD C を計画した。

 電力の問題を回避するために、技術チーフのフランシス・ザッパは「エウレカ(閃いた)」の瞬間を迎えて、装甲化された充電ケーブルを作る決断を下した。外部電源とメックをつなげるのである。理論上は作動する一方、この機体は「プラグイン」している間はそこに止まってないとならない。動いたら、接続が切られ、機体とケーブルの両方にダメージが及ぶ可能性がある。市民軍のテックたちは性能の高い射撃統制システムに換装し、装甲をバトルメック水準のものにアップグレードしたが、弾薬に使える重量は1トン分しか残されていなかった。ガウスバスターが4発分射撃するだけ生存できないだろうことを鑑みて、妥当と判断された。

 驚くべきことに、ガウスバスターは限られた範囲でまともに稼働しているようだ。兵器を場所から場所に移動させる移動砲台と考えればいいだろう。ケーブルを接続、切断するには外部の助けが必要とされる。この運用には1個歩兵小隊が最適と証明された。電源をAPCに収めることによって、歩兵小隊は1分でケーブルをまとめる。ミシサガからの大雑把な報告によると、市民軍は重要な目標の近くにメックサイズの電源コネクタを用意して、ガウスバスターが自力ですぐに接続できるようにしている。ファルコンがやってきたら、不意の驚きに遭遇するかもしれない。










中心領域産業メック(買主負担)


ポーキュパイン PRC-3N PORCUPINE
実地試験概要: 生産ポーキュパイン派生型
生産者/生産地点: イノヴェーティヴ・デザイン・コンセプト、ソラリスVII
技術監督者: ジェレミー・スチュアート
プロジェクト開始日時: 3132年
詐欺分析: 
 武器の付いていない戦闘用プラットフォーム
 スパイク、衝撃吸収装甲(本当に?)
 異常な高価格


概要
 メックの特徴とは、パイロットと敵の両方の心を捉える一面を指すものである。特徴のあるメックはパイロットを引きつけ、パイロットは特徴から最大の効果を引き出し、何を得られるかわかっている補給士官たちはこういったメックを買い込む。

 だが、ポーキュパインの場合、特徴は不安要素に落とし込まれてしまう。チャージャーのように、この機体は突撃に主眼を置いている。だが、チャージャーとは違って、軽量で脆弱なポーキュパインは打撃に耐えることが出来ない。そして、砲火の嵐を生き延び、接触できたとしても、その過程で簡単に自壊してしまうだろう。

 イノヴェーティヴ・デザイン・コンセプトの恐れを知らないエンジニアたちは、こういった批判を受け入れず、ちょっと手を入れれば、ソラリスのVIIのアリーナと同じく戦場でも活躍出来るだろうと確信していた。新型の衝撃装甲は自壊してバラバラになるのを防ぐ手助けになるだろう。ヌルシグネチャーシステムがあれば、突撃の準備が済むまで、敵の砲撃に耐えやすくなるはずだ。大々的に砲撃を行うとメックは加熱しやすくなるものであり、突撃の時には兵器を使わない。よって彼らは取り外してしまった。もっとも砲口は残され、敵がどのモデルと戦っているのか混乱させるようになっている(そして改造費用が浮く)。それでもなお、このポーキュパインは突撃時の砲撃に弱いので、レーザー・アンチミサイル・システム1門が、いくらか攻撃をはねのける。敵に近づくには、もっとスピードが必要なので、MASCが追加された。こういった装備を取り付けるには、高熱を発するXXLエンジンが必要だった。コストが成層圏にまで達すると、おそらく一部の機能が削除されたが、コンセプトはまっとうなもののように見えた。

 慎重に考慮された分析の結果、20トンのポーキュパインは現代型パンサー3機分の価格になり、射撃武器はなく、偵察能力はなく、通常の軽量級メックの3倍の整備時間を必要とした。突撃の効果は(スーパーチャージャーとMASCを一度に使って分解しなければ)破壊的なものであるが、実際それは1150万コムスタービルでダイスを振るのに等しいものである。

 トライアル段階を越えた買い手は現れなかった。イノヴェーティヴ・デザイン・コンセプトはくじけていない。










中心領域メック(特殊部隊)


WGT-4NC ワイト・デズグラ WGT-4NC Wight Dezgra
実地試験概要: 新WGT-4NC・ハイブリッド・プロトタイプ
生産者/生産地点: ノヴァキャット / 不明
技術監督者: 不明
プロジェクト開始日時: 3074年?
非生産装備分析: 
 ヌル・シグネチャ・システム
 カメレオン・ライト・ポラリゼーション・シールド
 ウォッチドッグCEWS
 複合シャーシ
 氏族フェロファイバー


概要
 そのステルス性を理由に、20世紀の神話の不死生命体から名前を取られたWGT-4NCワイトは、他の派生型よりもその名にふさわしいものである。これまでで最もステルス性が高く、臆せぬヘッドハンターであるこの機種は、敵指揮部隊の「暗殺」に理想的なだけでなく、戦線後方の守りが薄い兵站部隊、補給庫を破壊するのにも優れているのだ。

 WGT-4NCは、複合フレーム、氏族仕様フェロファイバー装甲、中心領域XLエンジンのような先進装備を賢く使うことで、重量の1/4以上の戦闘装備を搭載することが可能になっている。これらの部品は、入手性を注意深く見て選ばれている……複合シャーシは見過ごされていた民間の先端航空宇宙サプライヤーから、装甲は稼働しているノヴァキャット氏族の工場から、エンジンはDCMSの備蓄から。ジャイロスコープは普及品の3トン型である。WGT-4NCが少量生産であることを考えると、レーザーと電子機器は、ダイアモンドシャーク商人とノヴァキャット工場からの入手で充分に需要がまかなえる。唯一のギャンブルは、ドラコ連合の業者が(ノヴァキャットの大規模な支援で)生産する、星間連盟スペックの先進ステルスシステムである。

 できあがったバトルメックは、高速地上速度、210メートルのジャンプ能力、ほぼどんな兵器にでも(少なくとも一発は)耐えられる生存性、バトルメックに乗ってない指揮官たちの脅威となる高精度パルスレーザーを持つ(メックに乗っている指揮官を素早く倒すには、1個星隊のWGT-4NCワイトが必要である)。性能の鍵となるのは、事実上この三百年間存在していなかったステルスシステムの組み合わせである……ヌル・シグネチャ・システムと、カメレオン・ライト・ポラリゼーション・シールドだ。これらはすべて、新型の強力なウォッチドッグ複合電子戦システムに裏打ちされる。

 WGT-4NCワイトは、各王家の特殊部隊は当然として、DCMSに喜んで迎えられることであろう。この機体はきわめて優れた襲撃機であり、優れたヘッドハンターである。しかし、驚くべきことに、王家バトルメックではないのだ。ノヴァキャット氏族がこれらの任務のためにこの機体を配備する――氏族の名誉の基準からは、一般にデズグラとされる任務だ。現在までに目撃されている少数のWGT-4NCは、ハイリスクな任務を課された不名誉なトゥルーボーン・メック戦士によって操縦されている。










中心領域メック(海賊)


HSN-7D2 ヘルスポーン・ハルパリン HSN-7D2 HELLSPAWN HALPERIN
実地試験概要: カスタムHSN-7Dシャーシ改装型
生産者/生産地点: 不明、トルトゥーガ?
技術監督者: 不明
プロジェクト開始日時: 3072年?
非生産装備分析: 
 冷却ポッド
 エンジェルECMスート


概要
 南十字星境界域からの離脱者であるグレタ・ハルパリンは、傭兵になりすまし、小さな駐屯部隊に潜り込んで内側から攻撃する危険なメック戦士である。彼女は恒星連邦の辺境国境沿いで活動し、たいていはロッキー・ブラッドハンズと呼ばれる海賊襲撃部隊と協力する。ブラッドハンズ(よく悪名高いデス・コンソルト海賊団の影で活動する)は、恒星連邦の南十字星境界域とカペラ境界域の両方で襲撃、海賊行為を行う。3074年のマラグロッタで、グレタ・ハルパリンはこの海賊団の成功に寄与した。

 独立メック戦士になりすましたハルパリンは、城塞都市ハモンドの守りの要として雇われた。ブラッドハンズが城壁の向こうに現れると、ハルパリンは都市守備隊指揮官のクイックドロウを小隊から離れた陣地に誘い出し、彼を撃った。彼のヘルスポーンがどれだけ改造されているかを調べるため、回収されたROMが調査された。

 分析によると、ヘルスポーンは通常の長距離ミサイルラックを取り外し、射撃の早いロケットポッドを2門取り付けている。これがヘルスポーンに強力な近距離での弾幕を与える。加えて、4門の腕搭載ER中口径レーザー(パルス3門と交換されている)は、即座の追撃を可能とし、正確に放たれた場合は、用心深くない敵を行動不能にできる。そんなアルファストライクの後でさえも、プロトタイプ冷却ポッドがヘルスポーンを加熱せず、機動性を持った状態に保つ――そして実験用エンジェル級ECMスートがすべての通信を覆い尽くし、敵が仲間に警告したり、助けを呼ぶのを防ぎ、危険なほど容易に獲物を孤立させることができる。(これら実験用技術の出所は不明なままだが、トルトゥーガの海賊はソラリスVIIにまでつながっている可能性がある)

 指揮官が死亡すると、ハモンド砦の防衛は即座に崩壊し、ブラッドハンズは都市に押し入って、2000人以上の民間人を殺し、ハモンド防衛軍を皆殺しにした。都市を救うために援軍が到着するまでに、ブラッドハンズはすでに軌道上へと上がっていた。グレタ・ハルパリンは海賊と一緒に出発したと信じられており、よって旅人たちはヘルスポーンのパイロットが護衛を申し出たら注意するように警告される。










中心領域水中メック(買主負担)


アクアグラディウス AQS-5 MAM AQUAGLADIUS
実地試験概要: 限定生産されたアクアグラディウスの派生型
生産者/生産地点: ヴァイニング・エンジニアリング・アンド・サルベージチーム、ソラリスVII
技術監督者: コンスウェラ・バナナ=ハモック
プロジェクト開始日時: 3090年
詐欺分析: 
 水中メックはモノになるとRAFに思いこませた
 ハンガークイーン


概要
 聖戦は人類がこの数世代体験していないような戦闘を特徴としていた。特に地球侵攻は、準備と実行において完全に新しい挑戦となり、非正統的な解決手法をとることがしばしばであった。そんな手法のひとつがアクアグラディウスである。ソラリスVIIのために作られた機体で、これまで本物の戦いに駆り出されることはほとんどなかった。水中アリーナ向けに設計されたこのメックは、軍事の天才的なひらめきによってワード・オブ・ブレイクの陣地への水上強襲に用いられた。

 スフィア共和国が標準化された軍隊を立ち上げようとした時、お歴々の一部が波をかき分けて戦闘に突入するアクアグラディウスの奇天烈な成功に心を奪われ、標準化されたドクトリンにこのコンセプトを拡大することを望んだ。それを念頭に、VESTはソラリスのスタジアム外での戦闘にふさわしいモデルの開発を依頼された。VESTのエンジニアたちは大金を生み出しそうな新しい顧客を大歓迎した。最終的にRAFに披露されたバトルメックは単純な戦闘マシンであった――ゲームワールドの水準では。自ら高い目標を掲げたことで、設計チームは贅沢かつ疑わしい選択を重ね、その多くが拡大解釈的な理論で正当化された。例えば、XXL核融合エンジン(時速を維持しながらハーデンドアーマーを使うのに必要)の過大な発熱は、中心領域の冷たい海の中にいるものだから問題にはならないとされた。

 待ちわびる共和国に、AQS-5 マリーン・アサルト・メックを披露する時が来ると、デモンストレーション小隊は50トンのクロコダイルの群れのように水を切り裂き、PPCの集中砲撃でターゲットを落として見せた。同じく目を引いたのは、三重強化マイアマーを起動した際の地上速度であった。プロジェクトを監督していた高官たちは、アクアグラディウスが期待を遙かに上回ると見て、高額な値札にほとんど気づくことなく、すぐさま発注を行った。1個中隊全体が AQS-5 MAM で水陸両用戦の訓練を行い、戦力の大部分をなした。広範囲な教練を受け、海と海岸の達人になったこの部隊は、地球に駐屯しているものの、構想から数十年、実戦を経験していない。結局のところ、聖戦中にアクアグラディウスを使ったのが斬新だったのは、現代戦において投入する必要がめったにないからなのだ。一方で、この奇妙なメックはVESTに利益をもたらし、RAFとの契約を主眼にした数多のプロジェクトに資金が投入されたのである。










中心領域可変メック(失敗作)


SCP-X1 スコーピオンLAM SCP-X1 Scorpion LAM
結果要約: 失敗したプロトタイプ
生産者/生産地点: ブリガディア・コーポレーション、オリヴァー
技術監督者: セリナ・チャウシェスク少将
プロジェクト開始日時: 2690年
失敗分析: 動作しない装備


概要
 27世紀後半、数多のバトルメック製造業者が、星間連盟の最新軍事技術である可変メックに参入することを望んだ。ブリガディア・コーポレーションもまた例外ではなかった。四脚メックで評判(疑問の余地がある)を築いた設計チームは、既存シャーシのひとつを気圏戦闘機に変形させるという挑戦にひるむことはなかった。重すぎて遅すぎるゴリアテはすぐに除外され、中量級のスコーピオンに目が向けられた。

 変形用装備とジャンプジェット分の重量を稼ぐため、ブリガディアのエンジニアたちはスコーピオンの核融合エンジンを小型化し、10トン近くを節約した。ジャンプジェットを搭載するのに加えて、積年の熱負荷問題を軽減するため、放熱板2基が追加された。これらの変更は簡単な部分だと証明された。変形に必要なシャーシの大改造は、予想を遙かに超えて長くかかった。

 シャーシの改造を考えたとき、スコーピオンはほかの機種よりも理論上有利な点があった。比較的平らな胴体は表面積が広大であり、同時に側面は飛行安定性を生み出す「ウィングレット」を付けるのに理想的な形であった。ハイブリッドモードの際、これらの「ウィングレット」は外に開き、四本脚は一部折りたたまれる。そして戦闘機モードの際は、胴体の下部に完全に格納される。難しいのは、各モードの再配置に対応するのに必要な胴体部の変更であった。設計士たちが問題を克服すると、結果として生じた柔軟性によってメックの地上ストライドも劇的に改善し、スコーピオンが過去に賜った「野生の荒馬」のニックネームがついに返上されると見込まれた。残念ながら、この改善は最終的に利用不可能となった。

 このメックは試験場のガントリーでは変形可能であるが、実地ではエアメックモード、戦闘機モードに変形しようとすると単純に崩壊した。苛立った設計チームは、エアメックモードで送り出すという決断を下し、優雅さに欠けながらも実地でバトルメックモードに戻せることを証明して見せた。このささやかな勝利に勇気づけられたチームは、計画を進めたが、成功は手をすり抜けていった。スコーピオンがモード変更に成功したとしても、ジャンプジェットは飛ぶのに必要な推力を生み出すことが出来なかった。ブリガディアの試験部門は戦闘機仕様で飛び続けられることを確認するため、プロトタイプの1機をシャトルから空中投下しさえした。ことわざに出てくるレンガのように落ちることこそなかったが、飛行と考えられる挙動を取ることもまたなかった。コントロールされた降下のようなものの後、パイロットは墜落まで300メートルのところで緊急脱出し、LAMは試験場の突き出た岩に墜落したのである。

 計画の損失に足を引っ張られたブリガディアは、ついにコンセントを抜き、設計スタッフを全員解雇した。皮肉にも、スコーピオンLAMプロジェクト最後の報告では、バトルメックモードでは通常型のスコーピオンより効果的とされていた。新型を出せば評判の悪い機体の売り上げを伸ばせたかもしれないが、ブリガディアには改良型を売り出すのに必要な変更を施すリソースがなかったのである。

 [編集者注:それにも関わらず、ブリガディアの奮闘の記録は、数世紀にわたり企業の垣根を越えてちょっとした興味を引いた。聖戦の直前、ヘスペラスIIの戦闘で古い掩蔽壕が発見され、内部には失敗したスコーピオンLAMのスペックとプロトメックがあったと伝えられている。これはディファイアンス社が密かに生産し、テストしたものであるようだ。ヘスペラスIIには遙かに高度なリソースがあったにも関わらず、彼らが作った四脚LAMは残念ながらブリガディアのものと同じ運命を迎えたと思われる]










中心領域メック(買主負担)


スカージ SCG-WX1 SCOURGE
実地試験概要: スカージ改装型プロトタイプ
生産者/生産地点: カイザー・システムズ、ヘルツベルク
技術監督者: ジェローム・ペリアン
プロジェクト開始日時: 3132年
詐欺分析: 
 (販売されなかったが、もしされたならば……
 慢性の動作不良
 互換性のない技術)


概要
 ライラ共和国のカイザー・システムズが生産する最上級バトルメック、頑強なスカージは同社の先進的な技術的アイディアのテストベッドとして好んで使われ、その多くが何らかの理由で買い手を見つけるのに失敗した。-WX1の場合は、エンドースティールの構造に、最近取得した反射装甲を融合させるというものであった。メックの骨格に何度新型装甲を組み込んでも上手くいかなかった。一つの問題を解決すると、池に広がる波紋のように、別の問題が生まれるのである。例えば、ソフトウェアを変更してヘビーデューティージャイロを新しい装甲・兵器に適合させると、連鎖的に電力サージが発生して、綿密に調整されたAESに負荷がかかり、腕に制御不明な「痙攣」が起きた。ソフトウェアにパッチを当てると、AESへの電力問題は修正されたが、武装の試験中に氏族技術の兵器が急に動かなくなった。

 ほとんど絶え間なく技術的問題が発生し、半永久的に試験用ハンガー行きとなったものの、スカージは一度だけ実戦に参加したことがある。3134年、ボラン襲撃後の第8自由世界防衛軍が意気揚々とヘルツベルクへの襲撃を開始した。第8防衛軍の1個中隊が、探知されず、闇に紛れて、惑星首都ブルックランドとカイザー工場群の間に上陸した。素早く動いた第8防衛軍は、装備こそ良いものの経験に欠けるカイザーの警備隊を攻撃し、激しく押しこんで素早く防衛戦を突破して、工場の貴重な倉庫を狙った。サマンサ"ローハイド"ホルコムの駆る評判悪き-WX1が駐機場から現れたのは、まさにそのときであった。

 近くにいた第8防衛軍のトレシェビットに向けて乱射したスカージは、ヘビーレーザーの一撃で敵機を撃ち抜き、XXLエンジンに命中させた。スカージは止まることなく第8防衛軍に襲いかかり、使えるレーザーをすべて使い、レーザーで撃たれたときはそのたび反射装甲を輝かせた。ホルコムはどうにかスカージを戦闘に加わらせるのに成功し、その無軌道な攻撃ぶりで第8防衛軍を愕然とさせた。こうしてカイザー警備隊の残りが結集し、襲撃部隊を撃退するまで敵の攻撃を遅らせたのである。スカージと勇敢なるパイロットは生き残らなかった一方、即興での戦いぶりを見たカイザーの経営陣たちはコンセプトが間違っていなかったことを確信した。しかし、求められたのは改装型ではなく新型なのであった。










中心領域メック(海賊)


VTR-9K2 ヴィクター・セントジェームス VTR-9K2 VICTOR ST. JAMES
実地試験概要: カスタム・ヴィクター改装型
生産者/生産地点: 不明、ニューシルティス?
技術監督者: 不明
プロジェクト開始日時: 3069年?
非生産装備分析: 
 パッチワーク・通常型/フェロファイバー装甲
 エンジン・スーパーチャージャー
 ロングトム間接砲
 中口径Xパルスレーザー


概要
 タウラス連合が恒星連邦に侵攻した際、両陣営の若者が大勢殺された。死者の中にはAFFSのメック小隊指揮官、ベンジャミン・セントジェームスがいた。彼の小隊は、3069年、タウラス槍機兵団に包囲され、壊滅したのである。その苦々しいニュースが、ニューシルティスにいた父、ベネディクト・セントジェームス退役大佐の元に届いたとき、この男の神経は単純に切れてしまったと友人たちは語っている。直後、老セントジェームスは一族のヴィクターと共に、恒星連邦=タウラス連合国境に向かい、以来、消息不明になったとされている。

 公式にはそうなっている。

 3070年、重改造された漆黒のヴィクターが、オルガノでミュール級降下船から下りたのが目撃された。二日後、タウラス槍機兵団メック中隊指揮官、ユリシーズ・ヘイズの邸宅が、このバトルメックに破壊された。記録によると、ヘイズは若きベンジャミン・セントジェームスを殺した中隊の指揮官だったという。

 以来、この黒いヴィクターはタウラス内外の世界に出没している。2機のタウラスメックに忍び寄り、レイエスの町に入る姿が、3070年、ブロムヘッドでホログラフ撮影されている。確認されたすべての証拠によると、この黒いメックはセントジェームス大佐のヴィクターだというのだ。おそらくまだ大佐が持っているAFFSのコネを使って改造された、この再設計型VTR-9Kは、息子の復讐に突き動かされた男のための死の道具となっている。

 改造は本当に極端である。原型機のガウスライフルでは不足だと言うがごとく、セントジェームスは主兵器を巨大なロングトム間接砲に交換した――それはバトルメックが搭載できる最も強力な兵器かもしれない。バトルROMは歩く攻城砲のようにこのメックを使い、タウラス連合内の要塞化された地所を押し通る。反対の腕に載せられた2門の実験用Xパルスレーザーが徒歩の落伍者を掃討するのである。標準型装甲とフェロファイバー装甲のパッチワークがメックの装甲板を軽量化するが、伝統的に持っているジャンプジェットを維持するには充分でなかった。失われた機動性を補うために、スーパーチャージャーがエンジンに追加され、速度を90キロ近くにまで上げている。










中心領域メック(ガンスリンガー)


THG-11ECX サグ・ホセ THG-11ECX Thug Jose
実地試験概要: カスタムTHG-11E改装型
生産者/生産地点: マルテックス・コーポレーション/イラーイ
技術監督者: アブナー・ドラクロワ
プロジェクト開始日時: 2772年12月29日
非生産装備分析: 
 ヌル・シグネチャ・システム
 コマンド・コンソール


概要
 ホセ・マゼランは、ケレンスキーがアマリスと戦っていた時期に、アマリスに仕えていた傭兵であった。彼は特にサディスティックな男であり、待ち伏せとすでに傷を負った敵を攻撃するのを楽しんだ。ケレンスキーとの戦争が白熱するに従い、アマリスの将軍たちは彼の才能にますます高額の依頼料を支払うようになった。実際、イラーイでのある契約によってサグは改良され、さらに危険な道具と化した。雇い主はこのマシンに感服し、改造について相談し、マゼランと長期契約を結んだ。

 サグの代名詞となっているPPCは取り外され、長射程大口径レーザーに交換される一方、エクストラライト核融合エンジンを使うことによって、3門の短距離ミサイルランチャーを搭載するだけの重量が浮いている。よって、彼のサグは30本のSRMを一度に発射できるのだ。厚い装甲と兵器の大半を一度に射撃するに足る高性能装甲によって、サグ・ホセは優秀な待ち伏せ機となるが、マルテックスで終わりというわけではない。

 潜んだサグのステルス性を上げるため、捕獲したヌル・シグネチャ・システムが搭載されている。建物や森の中に注意深く身を潜めたサグは、敵のセンサーにほとんど探知されることがない。マゼランが待ち伏せ攻撃をしかけるタイミングのセンスは、辺境世界共和国で最高の士官すら上回るものであることから、マゼランと共に士官が乗るためのコマンド・コンソールが搭載され、マゼラン自身が攻撃に着手する貴重な瞬間に全体での待ち伏せ攻撃の開始を送信することができる。マゼランの戦闘を助けるために、4基のジャンプジェットが追加されサグに優れた機動力をもたらしている。

 ホセ・マゼランのサグは、星間連盟のニューアース強襲で炎の洗礼を与えられた。ここでマゼランはゴルフ市を守るアマリス大隊と共に配備され、SLDFの戦闘団と交戦を行った。マゼランのサグは病院をくりぬいた内側から防衛的待ち伏せを実施し、最初の攻撃で2機のワイバーンを粉砕した。一度戦闘に加わると、彼はジャンプジェットとヌル・シグネチャ・システムを使って、疑わぬSLDF機に次から次へと追加の戦術的待ち伏せをしかけた。サグのコクピットにいたアマリスの士官は、アマリス軍が破壊されるごとに精神的なバランスを崩していった――ついに撃墜されたマゼランのサグを調査した結果、拳銃で頭を撃ち抜いた死体が見つかったのだ。マゼランは後に処刑され、サグはスクラップとして売られた。










中心領域メック(最重要指名手配)


BL-X-KNTブラックナイト"レッドリーパー" BL-X-KNT Black Knight “Red Reaper”
実地試験概要: カスタムBL-9-KNT改装型
技術監督者: ヴァイニング・エンジニアリング・アンド・サルベージ・チーム
技術監督者: ロバート・グレイフィールド
プロジェクト開始日時: 3069年
非生産装備分析: 
 中口径Xパルスレーザー
 PPCキャパシター
 大型ヴィヴロブレード
 大型シールド


概要
 レジナルド・ファンジャスターはかつて中堅どころのソラリスVIIファイターであった。ワード・オブ・ブレイクがソラリスVIIを占領していたあいだ、彼はレジスタンスの側に立って戦い、レジスタンスで最も腕の立つ一人となるだけの戦闘の経験を得た。ワードがソラリスから撤退する4日前に、ファンジャスターは妻のメリッサがワードの手で殺されたことを知った。この時点で彼は精神に何らかの形で異常を来したようで、ワード・オブ・ブレイクに対する大暴れを始めた――加えて行く先にあるすべてが対象となった。ソラリスVIIのベテランたちやレジスタンスの仲間たちが彼を止めようとしたが、殺されるだけであった。

 占領が終わると、ファンジャスターは「ブレイク派の隠れ蓑」であるとして、新しく作られた政府に対するテロを続けた。直後に彼は惑星を離れるのに成功し、崩壊するブレイク保護領に深く侵入して個人的な十字軍を実行する決意を固めたようだ。共和国の創設が発表された直後、彼は姿を現し、現在の第VIII宙域、第IX宙域において、1ダースの事件を起こし、軍事・民間の目標を攻撃した。同時に、彼は地元・国際メディアにメッセージを送り、スフィア共和国を「偽の政府」と非難し、デヴリン・ストーンを「ワード・オブ・ブレイクの回し者」と宣言した。

 ファンジャスターの最も最近の攻撃は、パイクIVでヘーゲンドルフへの医療品・医療担当者を運んでいた人道支援車列に対するものであった。武装せず、護衛のない輸送車列は、小規模な市民軍部隊が駆けつけるまでに、全滅していた。その場に残っていたファンジャスターは、攻撃を仕掛けて、市民軍部隊もまた撃破し、生存者を誰一人として残すことはなかった。

 これらの攻撃で回収されたバトルROMによって、ファンジャスターのメック"レッド・リーパー"は重改造されたブラックナイト(ソラリスVII時代と武装が同じ)であることが判明した。大型のヴィヴロブレードとシールドによって、このメックは中世の騎士のような外観になった一方で、キャパシターで充電されるヘビーPPCが長射程のパンチ力をもたらしている。5門の中口径Xパルスレーザーが近距離での破壊的なダメージを出力する。彼はこれらレーザーを使って、軽メック、車両、歩兵に対処することで知られている。なぜなら、レーザーとPPCを一緒に使うと、放熱器の性能を超えるからだ。

 ファンジャスターの攻撃パターンは非常に不安定であり、「なにも聞かずに」彼を運んでくれる船を発見したときだけ、世界と世界を移動すると我々は信じている。従って、次にいつどこを攻撃するのか我々は決定できないでいる。この反逆者と遭遇した治安部隊は、彼が火力と格闘攻撃の真価を発揮する接近戦を試みてはならない。遠距離から交戦し、人口密集地帯から離れることが望ましく、可能であれば間接砲を使用すること。

 注意: 3069年以降のファンジャスターの写真は、中央犯罪データベースに存在しない。現在の写真はないのだが、年をとったことに加え、精神状態が悪いことを考えると、外見に気を配ってないと思われる。この理由から、現在の彼は、ファイルの写真よりもだらしなくなっているかもしれない。










中心領域メック(ガンスリンガー)


RF2-A ライフルマンIII RF2-A Rifleman III
実地試験概要: プロトタイプ・RFLアサルトシャーシ
技術監督者: クルップ兵器製作所
プロジェクト開始日時: 2776年1月1日
非生産装備分析: 
 ヌル・シグネチャ・システム


概要
 最初のメック、マッキーが戦車を踏みつけたそのときから、スーパーメックに関する怪しげな話はつきものであった。これらの話のうちひとつが、ケレンスキー将軍がステファン・アマリスの簒奪を打倒した地球陥落時のものである……メック殺しのライフルマンがジュネーヴで星間連盟防衛軍のメック1個中隊近くを倒したというのだ。この話は、長い間、中心領域中の酒場で語られてきたが、ジュネーヴの考古学者が古戦場を発掘し、条件にあうメックの残骸を発見した。

 90トンのライフルマンIIIは、記録上、最大重量のライフルマン系バトルメックであり、実際にその通りのものである。この遺物メックの右腕は完全に残っており、旧式のRFLモデルに使われている共通部品が機種の特定を容易にしている。コクピットを開けて、ROMを回収した科学者たちは、このメックの歴史を再構成することができた。本機はスクリーマーなどアマリスの「終末の日」メックの僚友機として、クルップ兵器製作所で設計された。発掘されたプロトタイプ機だけが、ケレンスキーの侵攻に間に合い、ROMによると撃墜されるまでに9機のSLDFバトルメックを破壊した(少なくとも1両の弾薬輸送車に支援されていた)。

 待ち伏せからの攻撃を念頭にしているライフルマンIIIは、物陰(たいていは建物)の内側に隠れ続けるために、ヌル・シグネチャ・システムを使っている。エクストラライトエンジンを使っているが、アーバンメックと同じくらいの鈍足である。放熱器は通常型だが、高性能なものは必要ない。搭載した兵器を戦闘に持ち込むためだけに設計されているのだ……4門のガウスライフルである。

 ライフルマンIIIは充分な装甲と弾薬を積んでないのだが、その役目には見事に適合している――隠れた場所から躍り出て、驚異的な物理的・心理的火力によって一番近くにいる敵を破壊するのである。回収されたROMによると、パイロットはパトロール隊を待ち伏せし、まず敵の指揮官を始末してから、次のメックを吹き飛ばし、それからダメージに屈したようだ。

 残骸を発掘した考古学者は、このROMをデヴリン・ストーンの当局に渡したが、データが利用されたかについての情報はない。現存する星間連盟の記録はライフルマンIIIに触れていないが、クルップは内部文章の閲覧を拒否している。










中心領域メック(傭兵)


"シュベーレ・グスタフ" "SCHWERER GUSTAV"
実地試験概要: カスタム・ハイブリッド・シャーシ
生産者/生産地点: フィールドセンター・ブラヴォー613、アークロイヤル
技術監督者: セルジ・イヴァノヴィッチ、テック長、トゥース・オブ・ユミル傭兵連隊
プロジェクト開始日時: 3073年
非生産装備分析: 
 ハイブリッド・シャーシ(通常型/エンドースティール)
 コマンド・コンソール
 ブラッドハウンド・アクティブプローブ
 バイナリ・レーザーキャノン
 氏族製ロータリーAC/5
 サンパー間接砲


概要
 噂によると、"シュベーレ・グスタフ"が誕生したのは、トゥース・オブ・ユミル傭兵連隊のテック長、セルジ・イヴァノヴィッチが、破壊され尽くしたウルフ竜機兵団アニヒレーターの残骸を六ヶ月以内に動かすところまで持って行けるかどうか、ケルハウンドのテック長、ダニエル・ホルスタインと賭けたところから始まるという。イヴァノヴィッチがいくつかのプランをあきらかにすると、酒場の賭けは生命を宿し、ケル大公からの援助を受けた。実験用の兵器システムを使うという「インスピレーション」に対し、追加の支援が与えられたのである。

 このメックの最終的な形は、中心領域と氏族で作られた実証済み技術とプロトタイプ技術の寄せ集めであった……まさに「フランケンメック」の定義そのものだ。"シュベーレ・グスタフ"と名付けられたこのハイブリッド機は、少なくとも6機のシャーシからパーツを集められている……とりわけ、解体されたアニヒレーター、残骸となったヴェルフォルジャー、スクラップのバーサーカーである。

 しかし、間に合わせに見えるのだが、驚くほど頑丈なフレームの中には、多数の新しいパーツが収められている。コンパクト・ジャイロが最低限のスペースで安定性を供給する一方、コマンドコンソールによって戦術士官を乗せるのが可能となっている。ブラッドハウンド・アクティブプローブは近くに隠れたどんな敵でも探知する能力を与える一方、その火力は氏族製ロータリーAC/5、バイナリ・レーザーキャノン、サンパー間接砲で構成される。

 イヴァノヴィッチはホルスタインとの賭に勝った……"シュベーレ・グスタフ"は二ヶ月ちょうどで完成したのである。勝ち取ったのは――自慢する権利と上官からの賞賛の他に――ラチャン・カントリー・エール6ケースだったと言われている。このユニークな"グスタフ"は、指揮小隊の一部として消耗したトゥース・オブ・ユミルに加わってる。










中心領域車両(特殊部隊)


パックラット・ゲシュペンスト Pack Rat Gespenst
実地試験概要: カスタム・パックラット改装型
生産者/生産地点: ギナー・コンバットビークル社、ロキ技術支援部/不明
技術監督者: 不明
プロジェクト開始日時: 3073年?
非生産装備分析: 
 車両用ステルスアーマー
 XXL核融合エンジン
 エンジェルECM
 ブラッドハウンド・アクティヴプローブ


概要
 車両用ステルスアーマーが普及したのに伴い、ほとんどどこにでもあるパックラット長距離偵察車のステルス版が登場したのは、驚くべき事ではない。同じく、ライラ同盟のような孤立地域を持つことで有名な政府が、ステルス装甲を核融合偵察車に載せるのも驚くべき事ではない。パックラット「ゲシュペンスト」(ゴースト)に関する初期の性能報告は、ありがちなものであった。ステルスと、おきまりのECM、ビーグルアクティヴプローブ。ストリークミサイルランチャーを通常のハーヴェスターから交換し、おそらくは追っ手をかわすためのER中口径レーザーを搭載している。

 この評価(ライラの内部文章から得られたと考えられていたもの)に問題があったと判明し始めたのは、ニューアースでロキのパックラット・ゲシュペンスト1個小隊が、ワード・オブ・ブレイク戦線の背後に姿を現したときのことである。この地域には、水深の深い川を渡らないと入れないのである。この矛盾に加えて、ゴーストは1個分隊のバトルアーマーを展開した。

 謎が深まったのは3078年である。このときゲシュペンストはサターン(太陽系第六惑星)の衛星タイタンで目撃され、タスクフォース・クロノスが到着する数日前に早期警戒装置を破壊した。これをなすには、炭化水素の沼地と小川を渡る必要があり、きわめて危険な環境下で活動する必要があるのだ。ゲシュペンストの電子装備の性能に対する報告は、ライラから「入手」したスペックを超えるものであり、兵器を載せる空間はなかった――作戦中に使われなかったのである。

 その後、地球解放時にロキのゲシュペンスト部隊(おおざっぱに2個小隊)と交流したことで、ゲシュペンストのスペックをより正確に推測することが可能となった(このパックラットがどれだけ"got spent"なのかという悪いジョークも助けになった)。この予算無制限な特殊部隊用車両は、単なる核融合エンジンではなく手作りのライラ製XXLエンジンを使っており、目を見張る地上速度を達成するのだ(オフロードでもスポーツカーのように走ることから、サスペンションも改造されていると予測される)。電子装置は最新鋭のブラッドハウンドとエンジェルであると同時に、通信用の「ファックス」マシンすら積んでいるかもしれない(これについては未確認)。あきらかに、環境シーリング、水陸両用システム、バトルスーツ4体分の内部区画を持つパックラット・ゲシュペンストは、不可欠である兵器を搭載するだけの重量を純粋に欠いている。

 バトルアーマー用区画は興味深いものである。4名1個分隊(それにちょっとした補給物資スペース)の空間を持つこの区画は、通常歩兵には不適当なものである……乗れるだけの重量の余裕はあるのだが、1個歩兵分隊にはかなり窮屈なのだ。










氏族VTOL(海賊)


アンフルP・ステルス ANHUR P-STEALTH
実地試験概要: カスタム・アンフル・ハイブリッド改装型
生産者/生産地点: 不明
技術監督者: 不明
プロジェクト開始日時: 不明(3074年前)
非生産装備分析: 
 中心領域ガーディアンECM
 中心領域車両用ステルス装甲


概要
 氏族を食い物にする盗賊は、中心領域を相手にする者たちよりも少数派なのだが、恐ろしくないわけでも腕が劣るわけでもない――実際、氏族軍の防衛とぶつかるこれらの無法者たちは、中心領域を相手にする同業者たちよりも危険で恐れ知らずなのである。氏族を相手に彼らが成功を果たした――たいていは短期間でも――という事実は、「海賊は馬鹿なわけではない」という話の強い証明となっているのである。

 このような海賊団のひとつ(名前無し)が、3074年、コンスタンスでゴーストベアの訓練、駐屯基地を襲撃した。この勢力は、バトルメックを持ってなかったのだが、ホバークラフト、VTOLの高速機動グループを運用していた。この中には、鹵獲された高機動な改造型アンフル輸送機があった。このアンフルの操縦手――ビアンカ・ブヒンデュシュラとシェリー・ゲーブル――は、この海賊団のリーダーでないかと噂されている。

 コムスターは、海賊がアンフルを現在の仕様に改造するのに必要な装備(あるいは必要な技能)をどこで手に入れたのか、まだ特定できないでいるが、もたらされた結果については議論の余地が無い。機首にLRM15ラック2門を載せるため、輸送能力の大半を犠牲にしているこのVTOLは、優れた支援機、あるいは長距離襲撃機である。その性能は、中心領域製のステルス装甲板とECMで相当に強化されている(これはカペラ宙域への襲撃を行ったか、ブラックマーケットとの強いつながりを持つことを示唆している)。ステルス技術と戦うのになれていなかったゴーストベアは、苦労して反撃を行った。だが、ベアの防衛軍は地上のホバー戦車から攻撃を受けていたので、この陽動はきわめて有効だったのだ。

 この海賊団は3074年後半、ゴーストベアのブロードソード級降下船を捕獲したと伝えられたあとで姿を消した。しかしながら、コムスターはこの報告を確認できないでいる。ブロードソードをコンスタンス星系の外に運べる船はこの地域で活動していなかったのである。










中心領域車両(共和国I)


クアエストル機動戦術指揮HQ Quaestor Mobile Tactical Command HQ
実地試験概要: 生産シャーシ
生産者/生産地点: ダンカン・エンタープライズ、ムーア
技術監督者: ピエール・ヌーヴィル
プロジェクト開始日時: 3095年
非生産装備分析: 
 張り出し砲塔


概要
 プレトリアン、トリビューン機動HQは、スフィア共和国創設直後のカペラとの戦いで、RAF部隊に高度な連携をもたらした。その成功に中心領域中が興味を引きつけられたが、RAFは両HQに搭載された先進装備を渡したがらなかった。ビジネスチャンスをかぎつけたダンカン・エンタープライゼス社は輸出仕様の機動HQを作る部品のライセンス計画を記録的な早さで提出した。

 できあがったクアエストルはプレトリアンに似ていたが、トリビューンの重量と通常型のECM・通信装備を引き継ぐ一方、ブラッドハウンド・プローブとレーザーポイント防衛システムは持っていない。プレトリアンの上部構造を共有することにより、設計への投資金額は最小化されており――装甲は通常型の脆弱で安価なものを使っているのだが――生まれた車両はサイズが大きくなったが中は快適で広かった。大柄な上部構造は、残念ながら加速力を低下させるが、トリビューンと同じだけの速度を保つ努力が払われた。突き詰めると、買い手たちが求めているのは、並の装甲で、驚くほどスピードがあるが操作性はいまいちで、非常にお粗末な防御で、しっかりした通信中継能力を持つ指揮車両だった。それでも買い手たちは、スフィア共和国が提供するベストと思われるものを切望した。

 クアエストルはトリビューンと同じ通信能力を持ち、価格が安く、整備しやすいことから、共和国もまた本車を購入した。RAFは旅団に小隊規模のプレトリアン・トリビューンを配備する一方、必要とされる兵站の末端は正規連隊の責任になっている。クアエストルが存在することにより、RAFの常備防衛軍もまた機動HQを装備することが出来たのだ。

 カペラクルセイドは機動HQシリーズに関する共和国の輸出指針を変更させた……カイ・アラード=リャオ最期の地に燃え尽きたデスコマンドのクアエストルが残されていたのである。共和国の道具が中心領域最大の英雄の運命を変える手助けをしたことは明白であった。クアエストルが中心領域中に完全に行き渡っていたという現実があったことから、プレトリアンとトリビューンもまた公開市場に出すという決定がなされた(少なくとも共和国に友好的な国家のすべてに)。

 共和国で生産されている機動HQ3種類は事実上中心領域の国家すべてで増殖する一方、整備しやすく根本的に頑丈なクアエストルは、本当にどこにでもある存在となったのだった。










中心領域車両(失敗作)


ゾーリザー Thorizer
結果要約: 失敗した製品
生産者/生産地点: ジョンソン=アルディス兵器工廠、ゾーリン
技術監督者: ウリ・フジサマ少佐
プロジェクト開始日時: 2390年
失敗分析: 設計の不備


概要
 可変メックが生まれる数百年前、タイプの境界を越えるまたひとつの戦闘機種が開発された。これこそゾーリザーである。このジョンソン=アルディス兵器工廠が考案したジェットとホバークラフトのハイブリッドを見て、同業他社はジョンソン=アルディスが地球帝国軍産複合体のトップにのし上がると感じた。そのような発明品であった。

 ゾーリザーは非常に現実的なニーズに応えるために作られた。帝国師団のほとんどは大量のホバークラフトを保有している一方で、航空宇宙支援を慢性的に欠いていた。ジョンソン=アルディス社の本拠地に住む肉食獣から名付けられたこの特殊車両はホバークラフトと戦闘機の両方の特徴を兼ね備えたものであり、各師団が必要とされる追加のエアカバーを用いて敵に奇襲をかけ圧倒することが出来た。可能性に興味を引かれた地球帝国は、この概念を推し進めるジョンソン=アルディス社を援助することで合意した。

 ゾーリザーの第一目標は、飛行中にそれなりの気圏戦闘機に変形可能な高性能ホバークラフトを開発することであった。エンジニアたちがペイロードや速度を見積もるずっと前に、ジョンソン=アルディス社は革新的な新型フレームを設計せねばならなかった。(後世代のLAM開発者たちが気づいたように)固定式の構造はふさわしくなかった。ホバークラフトに向いた構造は、気圏戦闘機には向かなかったのである。ふたつのまったく異なったニーズに応じるため、車両の側面はそれぞれのモードにあわせて形を変える必要があった。航空機用の長い翼と降着装置を取り付け、地上での移動時にはそれを折りたたむのである。これによって、ホバークラフトに残されたのは、大型兵器1門を取り付けるセンターライン上の空間だけであった。悲しいことに、変形に必要な装備の重量がかさんで最小口径のオートキャノンすら積めなかったことから、設計士たちは前方と後方の射界を守るために小型の兵器を積むことを選び、最終的に2連短距離ミサイル3門が搭載され、弾薬は共通となった。

 短距離気圏戦闘機として作られたことから燃料は大きな問題ではなく、3.5トン分が搭載された。こうして残されたのは、車体を守る低グレード装甲3トン以下である。この薄い装甲は、前方の装備が2連短距離ミサイルのみであることとあわせて、ゾーリザーが他のゾーリザーの脅威にしかならない現実を意味している――しかしそれはプロトタイプにとっては小さな問題であった。なぜならコンセプトが正しいと証明されたら、簡単に修正できることだからだ。

 結局のところ、ゾーリザーはそれほど簡単に修正できなかった。戦闘機仕様で処女飛行したところ、見物人たちはなぜパイロットがスラスターを吹かさないのか疑問を抱いた。ゾーリザーがどうにか離陸し、最速のマニューバを見せたところ、加速は帝国で最も鈍重な戦闘機と同程度であった。デブリーフィングにおいて、パイロットは本機を限界まで押しこんだが、エンジンは単純に出力を上げるのに失敗したと結論づけられた。初期生産が続くあいだ、設計チームはこの問題を解決しようと奮闘したが、加速の欠陥は基本設計に由来するものだという結論に終わった。それはふたつのモードとトレードオフになっていたのである。ジョンソン=アルディス社はゾーリザーの生産中止を拒否したが、帝国に対するプレゼンテーションを変更した。

 航空宇宙防衛を強化するのに必死だった帝国は、鈍足に目をつぶって初期生産分を購入したが、すぐにその選択を後悔するようになった。飛行速度の遅いゾーリザーは、あらゆる種類の空の相手に事実上役立たずであり、失速する傾向があった。墜落であまりに多くの搭乗員を失った後、帝国はゾーリザーの飛行変形装備を無効化し、積み荷用の燃料タンクに再利用して、残った車体を市民軍に払い下げ、平凡なホバークラフトとして使うよう厳命した。搭乗員たちに「グーニー・バード」と名付けられたゾーリザーは予備役として20年を生き延びただけで、残ったものはスクラップとして売り払われたのだった。










中心領域車両(海賊)


ミルミドンP(テイト) MYRMIDON P (TATE)
実地試験概要: カスタム・ミルミドン改装型
生産者/生産地点: 不明
技術監督者: 不明
プロジェクト開始日時: 不明(3069年前)
非生産装備分析: 
 張り出し型砲塔


概要
 ブリード・ブローラーズの名で通った小規模な海賊団に属する、この改装型ミルミドンの戦車兵たちは、3075年のコロヴレティ襲撃の際に、パクストンで3つの病院を破壊したことで悪名高い。車長のテイト、砲手のモストゥ、操縦手のホーナーは、ブローラーズのメックが都市の防衛軍を釣り出した後で、パクストンに入った中隊規模の部隊の一部であった。

 ブローラーズの目標は、他惑星向けにバクスター金属が精錬した金属の倉庫だった。この倉庫は都市市民軍の戦車小隊(定数不足)と歩兵中隊に守られていた。ブローラーズは正面からの戦いで守備隊を破壊することもできたかもしれないが、そうする代わりにテイトと戦車兵たちは「ちょっとした陽動」をすることを選んだ。

 彼らが遭遇した最初の病院はほとんど無人だった――そこは都市の小規模な宇宙港(この六ヶ月間たいした発着はなかった)の近くにあった。だが、二番目の病院は診察中の集中治療医院だった。彼らはカスタム・ミルミドンのスナブノーズPPCを使って建物の構造を破壊し、それから逃げだそうとした者たちを副砲で皆殺しにした。側面の張り出し型砲塔に搭載されたこれらのマシンガンは、逃げる罪なき人々をあらゆる角度から攻撃するのを可能とした。三番目の病院は同じように扱われた――これによってついに倉庫の守備隊は引き出されたのである。

 鈍足な守備部隊が到着する前に、テイトのミルミドンは6キロメートル離れたところにおり、海賊の降下船に向かっていた。残ったブローラーズの通常部隊は、倉庫の中身を盗み取り、脱出し、バクスター金属に数十億クローナーの損害をもたらした。LAAFはテイトと戦車兵たちに200万クローナーの賞金をかけ、コムスターもそれに匹敵するCビルをかけている。










中心領域車両(最重要指名手配)


カルノフUR輸送機(ヘビーステルス) Karnov UR Transport (Heavy Stealth)
実地試験概要: カスタム・カルノフUR改装型
生産者/生産地点: 不明
技術監督者: 不明
プロジェクト開始日時: 3082年以前
非生産装備分析: 
 スーパーヘビーVTOL
 ジェットブースター
 車両用ステルス装甲
 エンジェルECMスート
 張り出し型砲塔


概要
 この「ヘビーステルス」バージョンのカルノフUR輸送機は、地球がワード・オブ・ブレイクから解放された後の3082年に最初に目撃された。それ以来、少なくとも4機のこれら重改造型VTOLが、盗賊として活動しているのが、共和国中で目撃されている。抵抗が予期される場合は、小型の戦闘VTOLと一緒に行動している。

 これまでのところ、この部隊は単純だが非常に効果的な作戦手法に従っている。この航空隊はゆっくりと目標区域に入り、探知されるのを避けるために非常に低い高度を飛ぶ――ステルス装甲はこの段階で非常に有用と証明された。目標区域に達すると、張り出し型砲塔のマシンガンが着陸地点の敵を掃討し、搭乗している兵士たちが抵抗に遭うことなく展開できるようにする。襲撃部隊は、近隣を漁り回る――たいていは小都市の商業地区・住宅地で、簡単に持って行けるもの、目にした価値あるものをすべて奪い取る。「マスターに選ばれし者」を自称するこのグループが犯行声明を出しており、「ヴィジョンに忠実な者たち」に分け与えるため、「マスターを裏切りし者」から奪っているのだと主張している。ブレイク派のテログループが抵抗活動を続ける手段として、火力過剰の些細な窃盗事件を起こすのは疑わしいのだが、奇妙な出来事は起きている。

 我々はこのグループの背後関係を特定できてないが、治安部隊が最も最近に起きた3083年12月3日のエプシロン・インディ攻撃において、カルノフの1機を撃ち落とすのに成功している。「マスターに選ばれし者」による攻撃はそれ以来、起きていないが、それにも関わらず、最重要指名手配リストに載り続けている。なぜなら、1機が失われて以来、活動拠点をただ単に移動させただけと疑ってるからだ。我が軍のテックは、VTOLからデータの少なくとも一部を回収できると保証し続けているが、墜落の最中か直後にメモリーは完全に抹消されている。より懸念されるのは、回収されたカルノフのパーツにシリアルナンバーがないことであり、どこでだれがこの機体を作ったのか特定を難しくしている。生き残った搭乗員はいなかったので、コンピュータのメモリーが唯一の調査対象となっている。

 それでもなお、墜落したVTOLはこの派生機に関する広範囲な技術データを提供してくれた。我々が長きにわたって疑ってきたように、このバージョンのカルノフは、通常型より大きくなっている。最高速度を130キロメートルに保つため、エクストラライト核融合エンジンが使用され、VTOLジェットブースターがさらなる推進力を与える。










中心領域戦闘機(失敗作)


BSE-X2 バンシー気圏戦闘機 BSE-X2 Banshee Aerospace Fighter
結果要約: 開発中止されたプロトタイプ
生産者/生産地点: ワンガー・エアロスペース、アクストン
技術監督者: ハルチザン・ルユヌピング大佐
プロジェクト開始日時: 3046年
失敗分析: 設計の不備


概要
 気圏戦闘機配備における燃料消費の制限に挑戦すべく、ワンガー社は連邦=共和国軍に新しいコンセプトの戦闘機を持ち込んだ。それはタービン推進で大気圏を飛びながら、宇宙でも使えるというものだった。AFFCはワンガー社に数百万クローナーの補助金を出し、計画が進んで目標を達するたび、さらに資金を融通した。

 3年間に及ぶ開発の後、ワンガー社は軍事審査委員会にプロトタイプを披露した。彼らは言葉の通り、要求にすべて合致する高品質なマシンを持ってきたのである。バンシーはその名の通り、大気圏だけでなく宇宙でも作動し、連邦共和国の一部の機体よりも操作性が高かったのである。核融合ベースのタービンは大気圏で遙かに長い航続距離を与え、同時に5トンの燃料が宇宙での作戦に充分以上の行動範囲を供給した。

 残念なことに、卓越した操縦性と燃料タンクの大きさが、新型戦闘機の提供できるすべてだったのである。ふたつのエンジンという特殊な設計によって重量が必要となったことから、この中型戦闘機は重量戦闘機と同程度の速度を稼げるのみであり、装甲と火力は軽量級並みであった。たった4Gのバンシーはスツーカ、チペワと同等であり、ほとんどの中型機に背中を取られてしまう。その一方で、装甲はセイバーと同等である――装甲の配置はドッグファイターに最適であると一部の戦闘機マニアたちが認めているのではあるが。残念ながら、バンシーの中口径レーザー2門はF-10 チーターにも劣るため、バランスの取れた装甲配分は議題に上がらなかった。

 最初の試験データが出た後、AFFSの担当者たちは資金を投じた結果に失望し、兵站局の一部はパニックに陥った……失敗に終わったことが判明したら、この計画に予算を付けたことでキャリアに傷が付くかもしれない。水面下で問題を解決したかったが、契約に縛られていた彼らは、すでに生産されていたわずかなプロトタイプを「延長試験」のためライラ//辺境国境の部隊に送りこんだ。そこでなら、敵と遭遇して欠点が露呈する可能性が少ないことから、バンシーが忘れ去られると信じたのである。

 この策略は実際に成功した……氏族がやってくるまでは。数機のバンシー戦闘機がジェイドファルコンに対して破れかぶれで投入される羽目になったのである。このプロトタイプは戦闘で惨めに敗北したが、エニウェアで1人がファルコンのアヴァルを撃墜したのは記録に値するだろう。この氏族パイロットは、敵がやり口の一種として故意に性能を落として飛んでいると信じ、狙われると砲撃を避けるため金属鉱脈の渓谷に躍り込んで壁に衝突したのだった。










中心領域小船艇(海賊)


S7-P"スカラベ" S7-P "SCARAB"
実地試験概要: 改造型S7-Aバス・シャーシ
生産者/生産地点: 不明、トルトゥーガ?
技術監督者: 不明
プロジェクト開始日時: 不明(3069年前)
非生産装備分析: 
 ブービートラップ


概要
 海賊は他の犯罪者たちと同じように、一般市民を脅すための最も強力な武器を持っている。その恐怖は、海賊たちが民間人と同じ法や価値観に捕らわれず、望むものを得るため、躊躇も後悔もなく痛み、恐怖、冷血な殺人を使うだろうという印象の元になっている。海賊行為はしばしば無差別殺人となり、戦争の慣例に従わず、対応するチャンスも与えられない。

 多くの場合、海賊の被害者にとって最も恐ろしい考えは、海賊が自分の身の安全を顧みてないように見えることだ。

 S7-Aバスのような船艇は数千年にわたって使われている一方で、「スカラベ」星系内移動用シャトルはエロード・エスケープで使われ、恐るべき戦果を残した改造型である。この船が他にも存在し、ひとつの船種として定められるという確証があるのだ。この「スカラベ」が最初に使われた記録は以下のようなものである。エロード・エスケープの天頂点にいたインベーダー級航宙艦が、近くにいたバッカニア級輸送降下船の救難信号に応え、降下船の船員が乗ったシャトルを受け入れた。その一方、バッカニアの船員少数が暴走する降下船を制御するために残った。少なくとも、インベーダーはそういう話を聞かされた。

 ロックが開かれると、海賊の乗っ取り部隊が改造されたシャトルから現れ、航宙艦のシャトルベイの周辺に素早く橋頭堡を確保した。バッカニアが突如として「復旧」し、インベーダーの空いていたドッキング・カラーに向かうと、海賊のリーダー(名乗らなかったので、コムスターの記録には載っていない)は、スカラベのエンジンには大量の「ブービートラップ」爆薬が積まれており、航宙艦の艦長が航宙艦と降下船すべてを即座に放棄しない限り爆発させると宣言した。

 インベーダーの艦長は海賊との取引を拒否し、海賊が確保した区画の酸素を抜き始めた。海賊は素早く航宙艦にまだドッキングしていたトロイ級降下船に乗り込み、拿捕し、船を切り離した。トロイが離れるとすぐ、海賊のリーダーはインベーダーの艦橋に通信し、カメラに向かって笑いかけ、ブービートラップのトリガーを引いた。引き起こされた爆発は、インベーダー級の竜骨をへし折り、船員二人を除く全員と残っていた海賊たちを殺した。残った海賊は拿捕した降下船、今回の録画記録を持ち去った。以来、2隻の航宙艦が拿捕された……似たようなシャトルが船体に張り付き、ROMと同じ目に遭うと警告されたのである。










中心領域降下船(特殊部隊)


ヴァンパイアII Vampire II
実地試験概要: カスタム・ヴァンパイア改装型
生産者/生産地点: ジャラスター・エアロスペース / 不明
技術監督者: 不明
プロジェクト開始日時: 3070年
非生産装備分析: 
 レーザー・対ミサイルシステム
 Xパルスレーザー、大口径


概要
 ヴァンパイアIIは、ラビッド・フォックスが使っているかもしれないと噂される幽霊船である。その証拠は主に、ワード・オブ・ブレイクがリークしたAFFSの機密文章と、ラビッドフォックスの施設と疑われている二ヶ所の監視によるものである。ここにはヴァンパイアのランディングギアの痕跡が極端に深く残されていた。

 船名から分かるように、ヴァンパイアIIは既存の船に珍しい改造を施したものである……エンジンもフレームも強化することなく、原型艦より1.5倍大きくなっているのだ。実際、ワード・オブ・ブレイクがリークした文章へのコメントによると、技術管理者が要求した兵器を載せるために、ジャラスターは約1トン分の「不必要な」構造部品を削り取らされた取られたとされている(気密区画の素材を化学的に削り取って薄くするなど)。

 当然ながら、ヴァンパイアIIの加速は著しく弱いものであり、交換されてないドナヴァンXVIIIエンジンは最大3Gを生み出す。この加速の減少は良いことだ……なぜなら、過積載のスペースフレームは、3.5Gまでしか耐えられないからだ。重量が増えたこと、寸法の変化がないことが空力性能に影響することで、離陸・着陸速度をいくぶん増やす必要があるものの、その一方、低高度での飛行はスムーズなものとなっている。

 ヴァンパイアIIの歩兵ベイは4個バトルアーマー分隊の輸送用にアップグレードされており、歩兵ベイの設備は兵員区画よりも高い耐久性がある(正規の船室と同じ品質ではないが)。バトルアーマーを支援する物資の積載量は通常型のヴァンパイアよりわずかに増加しており、長期の活動が可能となっている。

 重量が大きくなった理由の一つは武装である……ヴァンパイアIIは原型のヴァンパイアよりも重武装なのだ。強襲級降下船にはまったくかなわないのだが、降下地点を機銃掃射するのに向いたエネルギー兵器を装備してしており、長期間再補給無しで活動することができる。その大幅に増加した放熱能力と、レーザー対ミサイルシステムは、ミサイル攻撃に対し優れた防御となり、他の船にも追加の防衛火力を供給可能である。

 最後に、ヴァンパイアIIはコクピットの背後と真下に大規模な指揮施設を備えている。洗練された通信装備と戦闘コンピューターが、士官たちに優れた戦場の展望を与える。ヴァンパイアIIは、疑いなくラビッド・フォックスに貢献する一方で、幕僚のための軽快な機動本部として通常AFFS戦力を支援することも目的とされている。










中心領域降下船(海賊)


レパードPA強襲船 LEOPARD-PA ASSAULT SHIP
実地試験概要: カスタムレパード級改装型
生産者/生産地点: 不明
技術監督者: 不明
プロジェクト開始日時: 3073年?
非生産装備分析: 
 PPCキャパシター
 バイナリー・レーザー・キャノン


概要
 500年以上にわたって使われ続けている降下船として、改造されたレパード級降下船の数はリスト化できないほど多い。一種類の船体があらゆる目的に使われており、海賊行為も例外ではない。しかしながら、3075年にリパルスで目撃された船は、レパードを強襲船として最適化した究極の一例かもしれない。

 カペラ科学財団の輸送船団(商用航宙艦3隻と護衛のレパードCV級1隻)が攻撃を受けたのは、訓練任務のためカノープス統一政体に向かっていたとき、リパルスの天底点である。この海賊小艦隊には、これまで目撃されたことがない仕様のレパードが含まれていた。このレパードはカペラの艦隊に接近し、船首の破滅的なPPC攻撃で護衛を手早く始末したのである。

 この攻撃の記録によると、海賊のレパードはふたつの気圏戦闘機ベイをそのままにしているが、メック格納庫をふたつの小船艇用ベイ(それぞれバトルタクシーを収める)に転換している。両タクシーは拿捕した船に海賊の敵船乗り込み兵を送り込むためにあるので、我らのアナリストはこのレパードには乗り込み兵を収めるための歩兵ベイがあると推測している。これだけでもレパードPAは宇宙船で危険な敵となるのだが、海賊はレパードの兵器もまた重改造した。

 旧式レパードの通常型PPC2門の代わりに、5門のERPPC(捕獲したPPCキャパシターで強化される)を持つPA型は、小型戦艦すら敬意を払うような前面砲列を形成している。LRMランチャーはアルテミスIV射撃管制システムでアップグレードされ、レーザー兵装はパルス兵器を近接砲として使い、出所不明の旧式バイナリーレーザーキャノンでバックアップされる。観測された限り、レパードPAは兵器の大半を射撃するのに充分な放熱器を保持しており、ビジュアルスキャンによると、追加の装甲が付けられているという。このような改造には、船の構造の強化が必要とされるが、現時点では未確認である。

 アナリストたちが懸念しているのは、改造が大規模におよぶことである――このレパードPAは改造に専門の造船所が必要とされ、また現在操業している大手の造船所がこのようなアップグレード・パッケージを提供しているという記録は存在しないのである。海賊が造船所を使ったというのは当惑させられることであり、どこで改造が行われたのか突き止めために資源が使われている。










中心領域戦艦(ガンスリンガー)


キマグレ・サプライズ Kimagure Surprise
実地試験概要: 修正キマグレ船体改装型
生産者/生産地点: SLDF海軍開発局
技術監督者: ジャスパー・コクレーン
プロジェクト開始日時: 2756年2月2日
非生産装備分析: 
 ライト・マスドライバー


概要
 SLS〈サプライズ〉は、2756年、ベリンダ・ペイス艦長の下で就役し、帝国本土艦隊に配属された星間連盟海軍のキマグレ級追撃巡洋艦である。不確かな研究を下地に、〈サプライズ〉は軌道造船所のひとつに持ち込まれ、それから9ヶ月間姿を消した。姿を現したとき、前面に大きな砲門があり、側面には武装が何もないのが目撃されている。〈サプライズ〉は試験のためにタウラス連合近くの辺境に帆を向け、小規模な監視用艦隊が後に続いた。

 タウラス連合からジャンプ3回の試射場に入ると、〈サプライズ〉は戦闘態勢に入り、目標の小惑星に向かっていった。近くの降下船・戦艦から見学者が見守る中、ペイス艦長は主砲を起動し撃つように命じた。ここに星間連盟戦艦初のライト・マスドライバーによる射撃が行われたのである。

 SLDF造船業界内で人気の艦船用巨大ガウスライフルに理論面で似ているマスドライバーは、さらに巨大な重量を驚くべき速度で目標に投げつけ、純粋な運動エネルギーによって破壊した。生じたダメージは最大級の艦船用ガウスキャノンより大きく、SLDFの提督たちは大いに感心した。むろんのこと、〈サプライズ〉の乗員たちはすでにいくつかの結論に達していた。

 第一にこの兵器は大量の電力を消費した。よって、船内の配線盤いくつかが突然の電力消費の負荷で吹き飛んだのである。〈サプライズ〉の前面、側面兵器は、マスドライバーの発射後、数分間、使用不能となった。また、設計士たちは、反動がこれほど大きく、これほど早く来るとは計算していなかった――砲撃によって主砲後方の12区画分、船体がゆがみ、船尾から遠くにいた船員たちは「嫌な振動」を報告している。下士官たちは相当数の気密シールが破裂したのを報告し、ダメージコントロールチームを派遣した。〈サプライズ〉の航海日誌によると、ペイス艦長は「もう一発撃ったら、バラバラになるだろう」と言ったという。

 SLDFの提督たちはこれらの欠点に失望せず、即座に〈サプライズ〉の構造材と電力配線網の強化を主眼に置いた再設計を命じたが、歴史的な事件によって手が付けられることはなかった。アマリス内戦が勃発したとき、〈サプライズ〉はタイタンの造船所で半分解体されており、ペイス艦長はアマリス海軍の手に渡るよりはと自沈処分を命じたのだった。










中心領域戦艦(失敗作)


エンタープライズ Enterprise
結果要約: 失敗したプロトタイプ
生産者/生産地点: ワンガー・エアロスペース、アクストン
技術監督者: ウルスラ・バーランダー提督
プロジェクト開始日時: 2745年
失敗分析: 稼働しない装備


概要
 戦争は絶えず変化する。「究極の兵器」が誕生するかに見えた時はいつでも、別の兵器がそれを妨げるのである。20世紀の半ばには、空母の登場が戦艦の終わりの始まりを知らせるサインとなった。こういった歴史の分岐を恐れた星間連盟宇宙海軍の指揮官たちは、宇宙でも同じことが起きるかもしれないと感じた。彼らは問題を運に任せることなく、造船部門のトップに対し、星間連盟加盟国の船艦を無力化する戦艦空母の設計を命じたのである。

 仕様の草案は3個戦闘機大隊を積む100万トンの艦を求めていた。星間連盟のプロジェクトがいつもそうであるように、仕様は複数回変更された。最後には60パーセント大型化し、1000機以上が搭載されることになった。複数回設計が変更されたのに加えて、大規模な改変のたびに新しいエンジニアたちが連れてこられ、12社以上が図面群の完成に対する支払いを受け取った。

 建造された最初の艦は地球の空母の長い伝統にちなんで命名された。戦闘機18個大隊を内部に収めるのに加え、降下船4隻のドッキングポイントを持つ。54箇所の戦闘機ベイドアを持つ〈エンタープライズ〉は、最大で10秒ごとに1個航空大隊を発進させることが可能である。船腹には、これまで星間連盟が船舶用に設計した中で最も複雑な指揮統制システムを備え、戦闘中に最大2500の異なる目標を追跡する能力を持つ。多種多様な艦載用兵器群は〈エンタープライズ〉にパンチ力だけでなく、射程も与える。

 おそらく最大のイノベーションは、膨大な大口径パルスレーザーと対ミサイルシステムを搭載したことにある。これによって、〈エンタープライズ〉は自身が生み出した宇宙戦闘の革命、すなわち戦闘機の集団攻撃で餌食になるのを妨げられたのである。対ミサイルシステムは飛来するミサイル(通常弾頭と核弾頭の両方)が艦に損害を与え、艦載機を立ち往生させる前に撃墜するのを可能とするだろう。

 最初の図面が引かれてから約5年後、全SLDF海軍が注目するなか、ようやく〈エンタープライズ〉は進水した。〈エンタープライズ〉は泊地を離れるのに充分な推力を生み出せず、タグボートが惑星サターン周辺の造船ドックから艦を引っ張るしかなかった。見物人たちはこの戦艦が推進力の問題を解決するのを4時間待ってから諦め、試運転は後にリスケジュールされた。その日が来ることはなかったのである。

 何度も計画が変更されたために、エンジンはスラスターのネットワークと同調しなかったと調査官は結論づけた。たとえ彼らがメインスラスターを修理出来たとしても、この艦は移動することが出来なかった。バーランダー提督は早期退職し、このプログラムの支援者たちのキャリアを守った。プロジェクトはキャンセルされ二度と再考されることはなかった。〈エンタープライズ〉は小惑星帯に牽引されて船体が丸裸になるまで装備を外された。太陽系のスカベンジャーによって、船体すらも塊として切り取られたのだった。










中心領域バトルアーマー(最重要指名手配)


グラウンドホッグ"マスターシーフ" Groundhog “Master Thief”
実地試験概要: カスタム・グラウンドホッグ改装型
生産者/生産地点: 不明
技術監督者: 不明
プロジェクト開始日時: 3072年?
非生産装備分析: 
 バトルアーマー・マイアマー・ブースター


概要
 フランク・オテガは、現代における数少ない本物の大泥棒である。彼の「キャリア」は、14歳のときに自由世界同盟で始まった。これまでに彼は何度か捕まった(そして脱獄した)のだが、どれだけの額の金と宝石を盗んだのか、お茶よりコーヒーが好きということ以外については聴取を拒否している。きわめて丁重な態度とあわせて――窃盗中に起こされた損害に対していつも謝罪の手紙を送るという習慣によって追跡しやすくなっている――彼は「義賊」としてあちこちの界隈で知られるようになった。

 彼が最後に捕まったのは、3076年の恒星連邦でのことである。これまでにいくら盗んだのか訪ねられると、現時点では32億コムスタービルと、30トンのダイヤモンドと答えた。これがもし本当ならば、彼は中心領域で最もリッチな男ということになる。オテガはまたも脱獄に成功したが、押収された装備もまた取り返していた。この遭遇から、当局は彼のエグゾスケルトンの技術的データを得ている。

 オテガは現在ゴーストベアドミニオンで活動中であるが、そこでの仕事が終わったらスフィア共和国に移動して来そうな兆候がある。国から国へと飛び回るやり方は、彼独特の奇妙なパターンであり、次に移る前に3回攻撃することを好む。さらに彼が好むのは、「ほとんど不可能」な目標から盗むことだ。この一例が、3073年に地球の銀行を立て続けに3回襲ったケースだ。この強盗を調査した地球の治安部隊の報告では、三度目の襲撃を「天才のやり口」と渋々表現している……なぜなら、そのとき銀行には2個レベルIのバトルアーマー兵がいたからだ。その日、オテガは(あるいは仲間は)どうやってか兵士の水に一服盛って、夜に戻ってきた。警備の者たちは熟睡していた。どのように強盗が行われたかは、再構成することができる……オテガの謝罪の手紙には、どのように薬を持ったのか、将来似たようなことを避けるにはどうしたらいいかのヒントが語られていたからだ。

 ミスター・オテガの重改造されたグラウンドホッグ・エグゾスケルトンは、3072年に初めて姿を現した。通常型のグラウンドホッグと同じ最高速度に達するが、実験型のマイアマー・ブースター・システムによってそれが実現されているのである。彼の敵のほとんどが徒歩であることを考えると、追加のスピードブーストは事実上必要ないように見えることから、ドアを安全にちょうつがいから外すためにもこの装備を使っているのではないかと我らは信じている。このスーツが持つ25キログラムの収容スペースは通常型グラウンドホッグよりも大幅に少ないのだが、彼が現金とダイアモンドを好んでいることを考えると、大金を運ぶには充分以上のものがある。

 オテガのスーツは武装していないが、直面したときには怪力に注意が必要である。しかしながら、オテガは暴力的な男ではない。もし彼を取り囲んで、脱出できない状態に置いたならば、エグゾスケルトンを脱ぐように丁寧な要求を行うべきである。平和裏に降伏させるのにそれで十分かもしれない。










中心領域バトルアーマー(共和国I)


"スラット"(グレイデス)ソラーマ・スーツ "Surat" (Gray Death) Solahma Suit
実地試験概要: カスタマイズドGDスタンダード(ティピカル)ハイブリッド改装型
生産者/生産地点: 各種
技術監督者: なし
プロジェクト開始日時: 約3090年
非生産装備分析: 
 混合技術(氏族装甲、ヘビー小口径レーザー)


概要
 "スラット"は氏族の俗称であり、歩兵に対して使われるときは、鹵獲・接収された中心領域バトルスーツ(氏族の装甲と武器で改装し、ソラーマ部隊に投じられたもの)を指すことがほとんどである。このような部隊で見られる狂信的な「火力がすべてに勝る」ドクトリンが、バトルメックでのものを越えているのは、やっかいな問題であった。

 だが、これらの改装は、氏族の病的なドクトリンを考えると、理にかなうものであった……現在でもなお、ソラーマの兵士たちは死を望んでいるのである。これら使い捨て戦力のスーツにハージェルを使うのは馬鹿げている……特にハージェルがこの数十年で貴重になってからは。通常の中心領域スーツに単純な氏族装甲板を取り付けて、他にはアップグレードしないと、ハージェルのシーリングがオミットされたことで、他の中型バトルアーマーをしのぐような大型武器を搭載するだけの余裕が生まれる。これらの現地改修スーツのさらなる恩恵は、かき集めた部品による収まりの悪いでっち上げであるにも関わらず、容易にすべての体格(筋骨隆々としたエレンメタルから、徴募された中心領域の駐屯兵まで)に適合し、維持費用が明らかに安価なことである。

 中心領域でも種類が多いのは、グレイデス系統の製品である。中でも、単純で地上型のスタンダードとストライクは、コンバージョンに理想的なように見える。これら改装型は、3091年に失敗した海賊の襲撃で初めて見られた。民間の降下船に中継された映像(受け取った直後に離陸した)によると、海賊側小隊長のジェンナーはグレイデス・スタンダード・スーツの部隊の中に走って行った。だが、コクピットはヘビーレーザーのものにしか見えないエネルギーの本流に晒された。レーザーが輝いた後、コクピットだけでなく、胴中央の大部分が消失していたのだった。

 ヘビーレーザーはバトルアーマーの兵器としてはうまくないものである――歩兵が使用するためのパワーパックを取り付けられるのだが、バトルメックに搭載するよりも重量がかさんでしまうのだ。だが、通常の中心領域バトルアーマーと違って、グレイデススーツは氏族技術で軽量化されればヘビーレーザーを取り扱うことが可能である。そうすることによって一線級のスーツに使われる資源が浪費されることもなかった。

 明らかに、スーツの全体的なコンセプトと利用方法は、氏族軍内で「本物のエレメンタル」に嫌悪感に他ならないものを与えている。それがなぜグレイデス・ソラーマスーツや類似機種に、侮蔑的な名称が染みついているかの理由になっている。ただし、氏族の惑星への攻撃を行う者は、歩兵駐屯部隊の本当に壊滅的なレベルの火力に留意すべきという事実は変わらないものである。










中心領域バトルアーマー(特殊部隊)


ピュリファイアー・テラ Purifier Terra
実地試験概要: カスタム・ピュリファイアー・ハイブリッド改装型
生産者/生産地点: 地球?
技術監督者: 管区知事ラマ43世
プロジェクト開始日時: 3075年
非生産装備分析: 
 氏族製装甲
 氏族製バトルアーマー兵器


概要
 ワード・オブ・ブレイクは、前線の兵士たち(特にマネイドミニ)のために6機種の新しいバトルスーツを導入したが、テラセクや保護領惑星市民軍がこれらのスーツを広く使えたわけではなかった。従って、地球区、タイランド管区の知事が、地元の「準軍事」部隊用の普及型バトルアーマースーツの開発を依頼した。ワード・オブ・ブレイクの監督下で提供されたこの「ピュリファイアー」は、反抗的な地球人に対する警察活動向けに重改造されており、擬態装甲を通常型装甲に交換しているが、モジュラー兵器マウントによって幅広いタイプの武器を携行可能である。

 ピュリファイアー・ポリスは大量生産され、ワードが最後に行った焦土核攻撃によって生まれた北アメリカの難民を取り締まるのに広く使われた。非常に血なまぐさく厳しいものだったが、これらの活動によって難民の群れが北アメリカのインフラを崩壊させるのを防ぎ、被災していない地域が立ち直れるようにしたのである。

 「ピュリファイアー・ポリス」の興味深い派生型が、エリートのテラセク部隊の中で見られた――この戦力はワード・オブ・ブレイクとは無関係だったようだ。戦闘で破壊された実物がわずかに二体のみ発見され、素早く発見した合同軍の手の中に消えていった。これらの「ピュリファイアー・テラ」は、地元で生産された氏族品質の装甲を搭載している。このような高品質の装備を生産できる地球の製造施設が捜索されたが、このような調査は後にデヴリン・ストーン自身により妨害された。合同軍が目標地点のそれぞれを徹底的に調べ上げたしたことを考えると、製造施設を突き止めるのに失敗したことは、地元で作られたのではなく、氏族との取引で入手したか、鹵獲した備蓄品を使ったことを示唆するものである。一方で、トルネードG17プログラムの文章は、ワードが氏族品質物資・装備を地球のどこかで生産していることを強く示唆している。

 ピュリファイアー・テラは、先進装備・兵器を使っていること以外に、抜本的な性能の変化はないのだが、できあがったものは、氏族の信頼性が高いエレメンタル・アーマーのほぼコピーであった。そうなる要因は主に、400kg分の脱着式兵器マウント(左腕)を持つことから来ているようだ。分厚い氏族装甲は、胴体と右腕に兵器を載せるスペースを生み出しているが、地球開放以前にそのような派生型が作られたということはないようだ。




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