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作成:2012/08/11
更新:2013/04/06

リーヴィング戦争 The Wars of Reaving



 中心領域で聖戦が猛威を振るっていたそのころ、遠く離れた氏族の本拠地でも、あまりに破滅的なふたつの戦いが巻き起こっていました。
 ひとつはリーヴィング戦争。スティールヴァイパー、スターアダーなど本拠地氏族が、「中心領域侵攻氏族は汚染されている」として剥奪の神判(Trial of Reaving)を行ったもの。
 もうひとつはソサエティによる反乱。秘密結社「ソサエティ」に属する遺伝子担当の科学者たちが、我らこそ氏族の中心であるとして大々的に反旗を翻したもの、です。
 このふたつの戦争がほぼ同時に起きた結果、氏族は根幹から破壊しつくされました。戦後、氏族本拠地に残された氏族はわずかに4つのみ。しかもこのほとんどがかつての残骸に過ぎない存在です。ウルフ、ファルコンなどの中心領域侵攻氏族は生き残ってはいますが、大打撃を受けた上、本拠地との連絡を断たれています。
 ソサエティは、トレイ(Trey)、セプト(Septs)という特別な部隊編成を使っています。トレイはメック3機、セプトは2個トレイ+指揮官機の7機編成です。











階級の神判





暗黒階級

 公式には氏族社会の全員が5つの階級のどれかに所属していることになっている。実際には、「暗黒階級」「非生産者」と呼ばれる6番目の階級が、氏族を離れ惨めに暮らしている。これらの人間は、氏族社会に適応できないか適応する気のない、はみ出し者、反乱軍、犯罪者とみなされる。氏族外で暮らす彼らは、自活するため頻繁に海賊行為に走らねばならない。存在しない階級によるこのような不名誉な行動は、同胞たる氏族人たちから怒りを買う。暗黒階級の社会はよく軍事行動の目標になるので、これら社会にとって好ましくない者たちは、最大でも数個家族単位の社会しか形成しない。

 暗黒階級(ダーク)の起源は、クロンダイク作戦の終了時にある。戦役後、各氏族がペンタゴンの5つの世界の市民全員を捕らえ、責任を問おうとしたが、一部が荒野に逃げるのに成功したというのが現実であった。これらの生存者たちは文明から切り離されて大半が死んだが、少数がどうにか生活を営んだ。小規模だが、氏族はこれが暗黒階級の始まりであると信じている。

 数世紀にわたって、暗黒階級はゆっくりと成長した。ダークは氏族に適合しない者たちの総称であるので、小グループ(すみか、防衛、コミュニティのようなものを求めて集まる)を超える真の階級の結束はない。タニス星系内にのみ、持続性があり身を守れる複雑なコミュニティが存在する。タニスでさえも、永続的なプレゼンスを打ち立てるほど長く続くことはない。なぜなら、一度見つかってしまうと、駐屯しているアダーかコブラに狙われるからだ。時折、そして中心領域にいる「ゆるい」氏族の民衆のあいだでよく見られることだが、暗黒階級が用心棒、ボディガードとしての役割を果たすことがある。たいていは商人階級、科学者階級が彼らを雇うのだ。

 暗黒階級の「穴」(非生産者たちの家を指すスラング、決まった場所になることはない)は、極めて丈夫である。その性質上、ダークは遊牧民となる。長期的な穴は、盗賊狩りの任務に付いている氏族の戦士に発見されやすいからだ。車両やその他原動機付きの輸送手段を使うのは危険とまでは言いかねるが、それらはダークを狩るものにとってビーコンになりうる。

 暗黒階級の中には、自らを放り出した、あるいは生きる価値がないと信じている社会への武装闘争を好む者たちがいる。彼らは暗黒階級内での役割を際立たせるために自らを「盗賊階級」と呼んでいる(氏族人はこれらふたつを区別しない。彼ら正規の氏族階級人から見れば同一で同じものである)。暗黒階級が氏族飛び地領土の周辺で営まれる分裂して崩壊した社会である一方、盗賊たちは自身をダークの「守護者」であると考えている。各種のカリスマ的なリーダーの下に、ゆるく組織されたこれらのグループは、戦場から回収できる兵器ならなんでも回収し、氏族の飛び地領土や商人の輸送隊から盗みとる。

 盗賊は分散したダークのグループをまとめる存在である。彼らは限られた宇宙輸送手段を持っており、漁り取り、盗み、勝ち取るのに成功した輸送船に依存している。盗賊のグループは、したがって、放浪する艦隊を中心としており、1隻か2隻の古い航宙艦(エグゾダスの時代から残されたもの)と、多数の降下船、小船艇を持つ。ふたつの盗賊グループ(偶然にも最大のもの)のみが1隻ずつ戦艦を保有するが、どちらも良い修理をされてはいない。これらのグループは整備用の最も基本的な造船所すら欠いており、将来、宇宙の荒野で船を失うことになりそうだ。

 通常の盗賊の戦術は、隠密と忍耐によるものである。彼らの船は発見されるのを避けるため、目標星系の近接限界を遙かに超える地点に到着するか、氏族が使う通常の移動ルートから離れたパイレーツポイントを使う。氏族のインフラは予想される通り厳密なものなので、見つからず到着することが保証されている。しかしながら、遠距離であることから襲撃する惑星までの移動時間が長くなり、また発見される可能性を下げるために噴射とドライブのフレアを最小限にしている。目標惑星に近づくと、往来の激しい星系の場合は船の通行に紛れ込むか、上陸前の露出を最小限にするために月や惑星を使う。

 このような習慣で、襲撃任務達成までに、数ヶ月とは言わないまでも数週間がかかるかもしれない。襲撃はあらゆる不測の事態を考慮して計画される。よって、目標星系にいる用心深い戦士の反応が、すぐに任務を終わらせることがある。それは盗賊が喜んで取るリスクなのである。

 上陸に成功したら、盗賊は2つの目的を達成しようとする。回収品・資源を得ることと、惑星上の暗黒階級と接触することだ。すべての任務が両方を達成するとは限らないが、盗賊のすべての船は近くにいる暗黒階級の集団と連絡を取ろうとする。他の集団とつながるのは重要なことである。なぜなら、盗賊が情報を受け渡し(時代遅れのものであっても)、新しい志願者を受け付ける手段であるからだ。一部の盗賊は、奴隷や強制労働者のようなものとして暗黒階級を強引に連れて行く。もし可能なら、物々交換が実施され、食料、物資と、情報、装備、奴隷さえもが取引される。

 盗賊たちはハイリスクを取っていることから、最も重武装になりがちである――もっともシブコを卒業したての戦士にすらかなわないのだが。盗賊の使う船にバトルメックがあることは稀である。車両とバトルアーマーはそこまででもない。なぜなら、注意不足になりやすい遠隔地のソラーマを騙してきたからだ。プロトメックは存在しない。そのような装備は極めて特殊である。

 一世紀にわたり、暗黒階級はバーロック氏族との奇妙な共生関係を持った。バーロックは暗黒階級を地下組織の一種として使い、商人階級の法規をかいくぐって彼らを安価な労働力とし、好ましくない者を科学者階級の各種実験の被験者とした。バーロックは犯罪者たちが彼らの飛び地領土で生き延びるのを許した。その理由は、諜報、密輸、その他の非氏族的活動のための、消耗可能なリソースが得られたからだ。バーロックは単に暗黒階級の存在を容認し、たまに群れを間引いて、捕虜をタニス星系に奴隷労働者として輸送したのである。

 スターアダーによるバーロック吸収で、暗黒階級と氏族の取引はほとんどなくなったが、終わったわけではなかった。元バーロック戦士と暗黒階級の共謀はほぼ消えた一方で、民間階級指導者数名が単純に現状を維持したのである。アダーが扱いにくいアブタカ(受け入れた元捕虜の戦士)をゴミ箱としてのタニスに移動し始めると、この星系とダークの関係は強いものとなった。3071年までに、タニスの3星系それぞれが再生したバーロック氏族を支援するのに十分な支援基盤となった。

 ――ゴリアテスコーピオン氏族、ローアマスター・コリン・ヨウ、暗黒階級を定義する、3071年以前、17073076











所有の神判


不在だが存在する

 族長会議の約二週間前、ホースはティバーでウルフとぶつかった。両氏族長は名誉を持って所有の神判を始めたが、ウルフが故意にゼルブリゲンを破るまでそう長くはかからなかった。ウルフはインフェルノミサイルの一斉砲火をアテナ戦闘車に浴びせ、それから蹴りつけたのである。続いて起きた乱戦は、第82機械化機兵隊をひどく傷めつけるのに充分だった。ウルフが明らかにデズクラ的な行動をとった(ホースの視点では)ことに怒ったホースは、最初の入札を破棄した。第65機械化打撃星団隊、第229機械化打撃星団隊、第83バトルメック星団隊、第85バトルメック星団隊が到着し、ティバーの残りすべてを奪うため、進路にいたウルフのレッド親衛隊を粉砕した。

 ティバーで得られたものは素早くホース軍に編入された。族長会議の会合が開かれたころ、ジェームズ・コブ氏族長は戦争に備えてヌーボー・パリにあるホースの前衛基地に向かっているところだった。数年前のウルフの裏切りに復讐を果たすと決意を固め、またウルフOZで彼らを待つ富に舌なめずりするコブは、ターニャ・ドローレル副氏族長とともに侵攻の準備で忙しくした。

 12月17日、スターアダー氏族のユプシロン銀河隊が、深辺境での偵察任務中にヌーボーパリにたどり着いた。ジャンプポイントに大規模なホースの商船輸送隊がいることに気づいたギャラクシーコマンダー・トリステイン・ンブタは、補給と情報を求めてホースに神判を行うと決断した。輸送隊(シータ銀河隊の2個星団隊が含まれていた)の名目上の指揮官、スターコマンダー・ヘンリーン・アミラウルトは挑戦を受け、それから神判が星系の主要惑星から充分に離れた月で行われた。アダーは補給物資を勝ち取り、先へ進んで、スタニスロフ・ンブタ氏族長に遭遇の詳しい報告を送った。

 数日後にユプシロン銀河隊の報告を受け取ったンブタ氏族長とローアマスター・ダグマール・ラヒリは、ホースがなにごとか企んでいるとの結論に達した。可能性が高いのは中心領域への侵攻で、少なくともウルフ氏族かゴーストベア氏族への報復強襲になると思われた。辺境に手を出す機会と見たンブタ氏族長はHPG越しにコブ氏族長と面談した。ンブタはアダー・ウォッチが発見したものとホースの計画の予測に関して非常にオープンであった。コブはホースの計画を曖昧に認めざるを得なかった――おそらくはウルフOZかファルコンOZを通った中心領域への手短な侵攻で、足場を確保し、中心領域内の利益に飛びかかるためのものである。

 遠まわしな脅迫のようなもので、ンブタはホースが深辺境のヌーボーパリに用意している補給と施設を使わせてくれるなら、ホースの活動については秘密にすると保証した。具体的には、ユプシロン銀河隊の深宇宙での作戦継続を支援するよう求めたのである。交渉はすぐにまとまり、閃いたンブタは、ホアードの小規模な領土と引換に、ホースの目標に本拠地で協調した攻撃を仕掛け妨害するという申し出を行った。少しばかりアダーに有利だったのだが、コブはこれを受けた……少なくとも、中心領域に物資と階級人を移すなら、飛び地領土が減るとわかっていたのである。ホアードは鉱物資源以外、ホースにとって価値のない世界だったので、契約がまとまった。秘密を守るために、交換はホースが侵攻を始めてから行われることになる。

 ヌーボーパリは数カ月で拡大する飛び地領土へと変身し、最初の兵士たちの到来に備えて、ふたつの工業施設、弾薬工場と大規模支援施設が作られた。ホースは月末までに5000名近い下級階層人を輸送し、来るべき戦役に備え、シータ銀河隊と補給物資で増強した。隠密性が非常に重要だった……ホースは航宙艦を新しい前哨基地に移動させるため創造性を発揮して、飛び地領土のあいだで航宙艦をあちこちに動かした。


秘密の移動、秘密の世界

 3068年の前半、ホースのローアマスター・テムチン・アミロウは、中心領域の境界内で活動するためのロビー活動を氏族長に行った。この活動のために、エプシロン銀河隊(すでにヌーボーパリに移動していた)の1個星団隊が呼ばれ、ゴーストベア・ドミニオン宙域に浸透し、死活されていた中心領域の状況に関する情報を集めた。第二星間連盟崩壊に関する噂はすぐに確固としたニュースと諜報報告に取って代わった。氏族本拠地にはほとんど入ってきてなかった事実である[これは大部分、侵攻氏族が本拠地氏族と情報を共有したがらなかったところから来ている。-SK]。ホースの両氏族長が承認し、ローアマスター・アミロウによって指揮されたこの任務は、すべての面で大成功を収めた。

 第91機械化強襲星団隊がラサルハグ星系に姿をあらわし、ふたつの所有の神判を宣言した。ひとつはドミニオンのウォッチ・データベース、もうひとつはGKT社輸出用商船パッド(3隻の満載された降下船含む)の中身である。ホースは容易に最初の神判に勝ったが、ふたつめの勝利はかろうじてだった。最後に[もしかしたら、本当の目的として。-SK]、ホースはゴーストベアのリスター、スターキャプテン・ジェイク・カブリンスキーを神判の戦利品のひとつとして獲得した。

 勝ち取った報奨と共に、ホースはヌーボーパリに帰還した。3隻の降下船にはいっぱいの新型ゴーレム・バトルアーマーと、リョウケンIIのプロトタイプ1機(技術試験のためオレステスに行く予定だった)が積まれていた。スターキャプテン・カブリンスキーはストラナメクティに連行され、コブ氏族長、アミロウ氏族長と共にケレンスキー星団に帰還した。コブは氏族長としての権利を行使し、このゴーストベアのエレメンタルをボンズマンとして得た。

 ホースの未来の計画が巧みに実行され、コントロール下にある状況において、コブ氏族長は次の段階に入り、スノウレイヴン氏族長たちとの交渉を始めた。ベアクロウの飛び地領土を交渉の切り札として使ったコブは、最終的にレイヴンのコンパクトな移動式造船所を獲得した。ホースはこれをヌーボーパリに移動させ、後には中心領域に持ち込むことになる。





 この小型の移動式造船所(HH-1)は、ヘルズホース氏族とスノウレイヴン氏族の合意によって建設される。仕様を決めるのはレイヴンの技術者と労働者だが、ヘルズホース氏族が示した要綱と交渉によって定められた要求が元となる。

 HH-1は以下の性能を持つ予定である。

・主目的は海軍戦力(50万トンまでの戦艦含む)の整備
・5000トンまでの小型船艇、気圏戦闘機、降下船を建造するための形状、装備
・一般的な宇宙艦艇用の共通部品・装備を生産する強化修理ベイ
・必要に応じて半永久的にドッキングされる工業降下船用のハードポイント
・必要に応じて使える通常型輸送降下船用のハードポイント

 技術、労働副長官たちの全面的な見直しの上、建設日時、輸送日時が決定され、ヘルズホース氏族技術、商人副長官の認可を受けることになる。

::://補遺; トレバー科学長官>> 見直し、草案提出の結果、HH-1はこれらの要素をすべて満たすか上回ることになりそうです。本日から11ヶ月以内に、ヘルズホースに輸送する準備ができるでしょう。輸送オプションはヘルズホース氏族商人長の裁量となります。>>






取引の粋

 族長会議で氏族の政治が停滞したのに伴い、ダイアモンドシャークは得意としているものに戻った……取引である。3068年の後半、商人長ロレンゾが恒星連邦の奥深くまで旅し、ビジネスリーダーたち、AFFS補給部、ドラコ境界域の貴族数名との会合を持った。この秘密の会議(3068年後半に終了)はシャークにとって完全なる成功となった。GMインターステラーとの激しい交渉によって、シャークは数千トンにおよぶ工作機械と鉱業用設備を得た。これらは、シャークが最近獲得した、トワイクロスのトレルシェア重工業工場群用である。1個星隊分のウンディーネと引き替えに、新しいプロトタイプの鉱業用設備もまた取得された。シャークの科学者たちはすぐにこれを使って[もちろん、改良後に。-SK]、ヨナ・リーチでのハージェルA採掘を強化した。

 セネット氏族長は中心領域の開かれた豊かな水域に氏族の未来があることを知っていた。商人階級が(ウォッチと共に)広がり続けるのに従い、シャークと中心領域の取引にうるさい氏族をどうにかしないと、本拠地にいることが難しいとセネットにはわかっていた。彼女とラボフ副氏族長は、ケレンスキー星団のよどんだ統制から逃れる計画を立て始めたが、ローアマスター・セミ・カラザの承認を得られなかった。この計画は氏族の道を放棄するものであると見たカラザは、氏族長相手に断固とした拒絶の神判を戦った。セネット氏族長は最後には勝利を収めたが、ローアマスターの知恵を認識し、シャークの退避は名誉を持って――そして静かに進行することを彼女に確信させた。波風が立つことはなかった。

 副氏族長とローアマスターが本拠地の氏族に接近して、追加の資源と軍需品の備蓄を取引し始めると、セネットはギャラクシーコマンダー・レイヴン・ギベルティとプレデター銀河隊に重要な任務を託した。通常の氏族移動路の外に、辺境の新しい中間地点を作り上げるのである。後退地点、また修理・備蓄用の秘密施設を想定した氏族長は、氏族の将来のためにすべての基地をカバーすることを望んだ。

 様々な議論――それにすくなくとも一度の死者が出た神判――のあと、ギベルティは、ジェイドファルコン国境に近い未調査のチェインレーン・アイランドがダイアモンドシャークの前哨基地として最適であるとした。氏族長の同意を得たギベルティとプレデター銀河隊は、4ヶ月かけて、アイランド内の3つの星系を占領した。恒星連邦との合意とともに帰還した商人長ロレンゾは、植民の急先鋒に立ち、1年以内に、大規模な倉庫群と技術者、労働者の小都市、小規模な軌道修理ヤードを作り上げた。

 なにがあろうと、ダイアモンドシャークには準備ができていた。

――ダイアモンドシャーク・ウォッチ・スターキャプテン・オーソン、要約、09113070






スコーピオンと星間連盟

 氏族の仲間たちからよく尋ねられたのはこれである。ゴリアテスコーピオンは、神判、告発、権力闘争、取引が行われていたときにどこにいたのか?

 簡単だ。我らはいつもそこにいた。

 大拒絶をひっくり返すという試みが失敗したあと、エリアル・スボーロフ氏族長は断固としてスコーピオンを小さな政治的動きから遠ざけ続けた。スコーピオンは各氏族の策謀を歯牙にもかけなかった……その代わりに、我々は全員の鼻の下に現れた機会に専念した。

 第二星間連盟が崩壊すると、ハントレスの星間連盟大使館は突如として意味を持たないものとなった。我らの前に示されたのは、砂の上に鎮座した遺物である。風化していたが、いまだ砂漠の太陽の下で輝いていた。

 エリダニ軽機隊である。

 警報が増えるに従い、大使館員たちと随行していた軽機隊の戦士たちは、中心領域から切り離され、かつての敵の間で漂っていることに気がついた。我々は、名誉ある古き星間連盟連隊であると認識して彼らに近づき、彼らの歴史を調べ、彼らの伝統を尋ね、模擬戦闘でテストした。

 シャークがもう通信を使わせなくなり、この共通の祖先に関心を示す氏族がなくなったあと、スボーロフ氏族長は商人たちに軽機隊との神判を始める許可を出した。我々は傭兵に対し氏族の道を徐々に教え込み、名誉と敬意を与え、故郷への通信とメッセージを準備する一方で、生き残るのに必要な基本的な配給を行った。

 大使館の人員はダイアモンドシャークの航宙艦(唯一、商人氏族が用意できた輸送船)で出発した。軽機隊指揮官、サンドラ・バークレー大佐は残ることを選び、私たちにひとつの案を出した。ハントレスにおける我らの飛び地領である。彼らはもてるものをすべて戦場でぶつけることになるだろう。我々は彼らとの戦いを光栄なものとし、勝った場合は彼らをスコーピオンに吸収するものとした。

 軽機隊は勇敢に戦ったが、最終的にゴリアテスコーピオンの優位にかなわなかった。残った軽大隊はアイソーラ(戦利品)となり、スボーロフ氏族長は大々的なファンファーレと共にボンズレフの儀式を行って、これらの中心領域アブタカ(捕虜から戦士となったもの)を氏族に受け入れた。新しい戦士たちは我らの伝統に則ってテストされ、氏族軍に行き渡っていった。彼らは配属された星団隊に古代星間連盟の名誉をもたらすのである。

 スコーピオンがそれを命ずるなら、それはなされる。セイラ。

――ゴリアテスコーピオン氏族、ローアマスター・キリエ・ベン=シモン、記録、13083070






うろこの身繕い

 アンドリュース氏族長と私は、族長会議から戻る途中、CSV〈ペリガード・ザールマン〉を視察した……この船が巣から出る準備はまだできていなかったが、完了するところだった。このリヴァイアサン・プライム級戦艦は、多くの点で、レイヴンが案出し、ゴーストベアが製造した元の設計よりも優れている。我が氏族の科学者・技術者階級の技術的ブレイクスルーを利用した本艦は、必要に応じて武器を取り外し可能である。コヨーテとウルフの鼻の先で製造され、遠方の乾ドックに座していると、その名前の由来はとくに楽しめる。

 年が開け、中心領域での新しい戦争のニュースが届くと、我らの時間が迫りつつあることは明らかとなっていった。中心領域人による明らかな汚染、ウルフ氏族長が数年前に予言したもの(われらを悔しがらせ続けている)は、我らの同胞氏族の中に見られるようになっている。

 マトロフの血統を巡るブラッドライトの神判が、3068年4月、アイアンホールドで開催された。ファルコンは我らがスターキャプテン・ポール(リバイバル前の一連の神判の結果、マトロフの血統遺産を持つ数少ないヴァイパーの一人)の到着を遅らせる方法を思いついた。このブラッドネームに挑戦するには、宣言が遅すぎたというのである。我らの降下船が「検疫ロックダウン」されたために、彼が到着したときには、神判はすでに二回戦となっていた。ポールがブラッドライトの最後に拒絶の神判を宣言すると、ファルコンは「不可避の遅延」と「異国の汚染物質」(深宇宙の肥料が大量に積まれていた)に関して、金切り声でわめきたてた。同日、彼らはスターキャプテンの神判を認めたが、アンドリュース氏族長はファルコンがポールに欠陥品のラインバッカーを与えたと信じ続けている。もちろん、証拠はない……弾薬が自然発火した際に、このオムニメックは花火のように吹き飛んだからだ。

 我々がアドバイスしたにもかかわらず、アンドリュース氏族長は族長会議に問題を持ち込むのを拒否した……そうしても単にファルコンが譴責されるだけだとしたのである。3062年、バビロン事件の後のコヨーテになにが起きたかも見ていた。実際に「譴責」されたのだ。

 かつては氏族の名誉と制限に関し我らのライバルと考えられていたファルコンでさえも、中心領域に居続けることで汚染されてしまったことは明らかだ。

 そうする代わりに、我らは軍備を増強し続け、シブコに訓練を施し、各星団隊の牙を研ぎ澄ませ続けた。アンドリュース氏族長は、再建されたバトルアーマー部隊と気圏戦闘機星隊を、ニューケントで生産される新型オムニメックと組み合わせ、各兵器のコンビネーションを実験し続けた。8月後半、アダーの商人が我らに敗北し、新型コロナ・バトルアーマーの生産ラインと、飛び地領土向けの追加資源を得ることができた。新型の歩兵用スーツが流入し、〈ザールマン〉が完成に近づいていることから、次世代のシブコたちに深宇宙での戦闘技術を教え始めるときがきた。ギャラクシーコマンダー・キャロン・モファットはクラウドコブラの海兵3個星隊を確保し、大いなる栄誉を勝ち取った。これらの部隊はすぐさまニューケントで使うために置かれた。

 年末が近づくと、我らは他の氏族が些細な問題に互いに身構えるのを見た。静かに、アンドリュース氏族長はニューケントのオミクロン銀河隊を立ち上げ、他の部隊から古参兵を引きぬいて、混成星団隊(プロトメック、バトルアーマー、少なくとも1個の気圏戦闘機星隊)で穴埋めした。これらの新星団隊は、戦闘支援、ヘッドハンティング攻撃、指揮統制本部の捜索、偵察に使われることになっていた。彼らは正式な入札でカットされる最初の部隊になるだろうが、より非通常的な戦役において追加の優位を提供してくれるはずだ。

 この戦略的再編成は、3069年2月、マーシャルの神判でその価値を証明した。ベータ銀河隊のヴァイパー機兵星団隊と、ファルコンの第2軽装隊の戦いだ。ファルコンはコントック近くの油田と銀鉱山を手に入れようと2個銀河隊にまで入札を削減した。ギャラクシーコマンダー・アンジェリカ・ザールマンは第5戦闘星団隊にまで削減した。この部隊は、新しい混成部隊1個とオムニメック星隊1個からなっていた。村近くでオムニを戦線中央の重しとして使った第5は、3個星隊を分離させ、突進するファルコンの側面を打った。プロトメックの1個混成星隊に驚いたファルコンの攻撃は脱線し、戦力の大半が遊兵化して、そのあいだにヴァイパーのメック戦士たちが最初の交戦に勝利した。計画を狂わされたファルコンはザールマンが逆襲を仕掛けたときには動揺していた。ギャラクシーコマンダーは、神判の勝利、戦利品、大いなる名誉をベータ銀河隊の戦士たちにもたらした。

 同年の後半、ファルコンは腐敗のひどさを見せつけた。マーシャルにおいて、第2軽装隊はふたたびバッチェルを行い、今度は全部隊を入札したのである。このとき、ザールマンはヴァイパー機兵星団隊以外を入札から外し、数で劣るが、優秀な部隊を、鈍足で経験に欠けるファルコン部隊をぶつけた。この戦いは熾烈なものとなったが、スターコーネル・アレン・デューモントがスターコーネル・ディーンを下すと、ヴァイパー機兵星団隊が優勢となった。

 ファルコンはデューモントが知らない所で入札を破った。警告なしに、間接砲の砲弾が機兵星団隊の側面沿いに降り注ぎはじめ、最初の攻撃でヴァイパーの星団隊全体がほぼ粉砕された。機兵星団隊の指揮部隊が一掃されると、1個三連星隊分のオムニメックとバトルアーマーだけが、どうにか飛び地領土に引き返した。全滅の危機において、ファルコンは我が軍にヒジュラを与えたが、さらなる恥辱をわれらに押し付けた……人員だけに惑星からの撤退を許し、装備は残していかないとならなかったのである。

 間接砲の使用は、完全な入札の破棄であり、氏族長が利用しようと探していた突破口であると判明した。ファルコンは代償を支払うことになるだろう。ああ、支払うことになるだろう……

――スティールヴァイパー・ローアマスター・アーサー・ストクラス、個人的な記録、20033070





ヴァイパーとファルコン

 多くの氏族が秘密に動いて取引する一方で、ヴァイパーとファルコンは公にぶつかった。マーシャルにおいて、ファルコンの再建された第2ファルコン軽装隊は、所有の神判でヴァイパーのベータ銀河隊と再び対決した。氏族本拠地における名誉がかかっていた軽装隊は、中心領域の同胞たちと同じくらい価値があることを証明しようと戦った。だが、ヴァイパー機兵星団隊が優勢になると、ファルコンは中心領域でならフェアで名誉であると通常考えられる戦術に訴えた……最初の入札を破って、間接砲支援に頼ったのだ。弾幕はヴァイパー機兵星団隊の大部分を粉砕し、生き残った者たち(二連星隊以下)に神判からの撤退を強いた。

 ファルコンのデズグラ的戦術を知ったアンドリュース氏族長は、ファルコンの行動に関する族長評議会を求めた。譴責以上のものを求めたヴァイパー氏族長は、手痛い敗北を喫すると嫌悪感を催した。中心領域の戦争の複雑さを経験した諸氏族は、ファルコンの砲兵戦術使用を支持した。激怒したホスキンズは、氏族がいかに堕落し、創設者がかつて設定した真の戦闘の道からどれだけ外れてるかを語った。

 ヴァイパー指導部はベータ銀河隊の不平の神判を拒否し、戦士たちに「報復の時間は近づいている」と約束した。それは予想よりも早く訪れた。





ヴァイパーの攻撃

 11月半ば、我がスティールヴァイパー氏族のアルファ銀河隊がアイアンホールドに侵入し、この世界を奪ってファルコンを排除するという意思を宣言した。ファルコンは全力での防衛を宣言し、我らの戦艦群がエメラルドタロン海軍強襲星隊を追い払う前に、我軍の降下船数隻を落とすのに成功した。3個銀河隊までに減らされたアンドリュース氏族長は、ファルコンの第12タロン、ゼータ・ソラーマに対しての素晴らしい強襲を率いた。12月半ば、アイアンホールドは我らのものとなった。得られた戦利品は、すぐにアルファ銀河隊の再建に使われた。

 ベータ銀河隊はマーシャルに戻って自らの復讐を果たし、デズグラの第2ファルコン軽装隊を壊滅させた。5個星団隊のベータはファルコンを圧倒し、一日以内に全部隊を破壊した。生き残った戦士は存在しなかった。

 我が軍はエデンを素早く確保した。ガンマ銀河隊は、矢継ぎ早に第1ファルコン竜機兵団と第3軽装隊を倒した。竜機兵団の2個二連星隊はボンズマンとして取られた……なぜなら、彼らは氏族的なやり方で我らの降下船が上陸するのを待っていたのである。年末までに達成されたすべての強襲のうち、最も名誉ある敵と遭遇したのが彼らだった。たとえ彼らがジェイドファルコンに生まれたとしても、そのような可能性を排除することは、まさに我らのやり方に反するものである。

 ハントレスで、第93強襲星団隊は、第3ファルコン竜機兵団を撃破した。最初の強襲でファルコン・エリーを取り除いたファルコンは、隠れるべき山の止まり木を失った。逃れるために彼らは山のあちこちでわれらに襲いかかってきたが、スターコーネル・アンダース・ブリーンが降下船を移動用に上手く使ったので、ファルコンの臆病さが相殺されたのだった。

 我らの成功は素早くて決定的だった。トカーシャ、ゲートキーパー、バーセラ、グローリー――ここでの戦闘は激しかったが結果は同じだった。勝利は我が物で、3070年1月までに、ルウムとストラナメクティを除くほぼすべてのファルコン飛び地領土が我が物となっていた。アンドリュース氏族長はトリアッシュ親衛隊を率いて、ファルコンの領土にまっすぐ突っ込み、わずか数時間で、守るファルコン戦士を殲滅した。氏族法に乗っ取り、アンドリュース氏族長は族長会議を招集し、奪った領土を再分配のために返上した。

 そして再び、族長会議は正規の氏族法に則ることを拒否したのである。この議題は、会議の(そしてジェイドファルコンの)ローアマスター・ケール・ペールシャーが指摘したひとつの欠点によって退けられた。ファルコンに対する吸収の神判、殲滅の神判は公式に認可されていないので、ファルコンはいまだケレンスキーの氏族のひとつであり、よってストラナメクティの領土を得る資格がある。だが、この領地はルウムから転任した第74戦闘星団隊の1個星隊を受け取っただけだった。

 ルウムはファルコンにとって唯一の避難地となり、レイヴンは逃げてきたファルコンの戦艦が惑星の限られた備蓄で修理・最武装し、唯一の領土をわれらの強襲から守るのを許した。だがそれはそう遠くなかったのだ。

 スティールヴァイパー氏族副氏族長ニコル・ホスキンス、略記


 ヴァイパーは集団になって絡まり、ルウムを除く全ファルコン領土を叩いた。3070年1月までに、第74戦闘星団隊が本拠地に残った唯一のジェイドファルコン氏族となり、ヴァイパーに再結集の時間が必要だったことから被害を免れただけだった。ファルコンはたまたま先延ばしになっただけとわかっており、残った名誉と共に死ぬ決意を固めた。

 ファルコンは長く待つ必要がなかった。3070年2月、スティールヴァイパー海軍予備がアルファ銀河隊と共にルウムに到着した。アルファは本拠地から最後のファルコンを排除する大規模な入札戦争に勝ったのである。いまだルウムにいるスノウレイヴンの干渉を避けるため、ヴァイパーは素早く動いて、ボロボロになったファルコンのエメラルドタロン海軍星隊と交戦した。CSV〈マーシャル・レガシー〉がヴァイパー艦隊を率いる権利を入札した。一時間におよぶルウムの戦いで、ヴァイパーはファルコンの戦艦3隻を引き裂いた[〈ガントレット〉〈アイアンホールド・プロバイダー〉〈ブルー・エリー〉-SK]。CJF〈ホワイト・エリー〉だけがどうにか離れて、ジャンプするのに成功し、ストラナメクティに向かった。地上にて、戦いは始まる前に終わっていた。

 ヴァイパーは素早くファルコンの飛び地領土二ヶ所を圧倒し、1個星隊以下の戦士をアイソーラとした。この時、本拠地における最後のファルコンの領土(ストラナメクティ)を守っているのは、1個星隊のソラーマ戦士のみだった。





スコーピオンの放浪

 飛び地領に居座り、他氏族が彼らを口車に乗せようとしたり交渉したりするのを眺めいていたゴリアテスコーピオンは、いつも彼らがすることをしていた……探検である。シーカーの遠征の大半は、アーティファクトや発見をもたらすことがほとんどなかったが、ひとつの重要な作戦が氏族に力をつけることになった。

 第8スコーピオン擲弾兵隊と第1エリダニ槍機兵隊は、3071年前半、辺境世界共和国の名残を探して、ジェイドファルコンOZ(占領域)に向けて下っていった。代わりにスコーピオンはふたつの重要な発見をした。エレウォンからジャンプ6回のところにある固く守られていた星系と、アイスヘリオンの小艦隊である。

 この星系(スコーピオンの古い星図ではT-892とされている)は一見すると平凡なものだった。スコーピオンの航宙艦3隻からなる小軍勢は、突如として所属不明のペリグリン級戦艦に前をふさがれた。幸運にもスコーピオンはこの星系からジャンプすることができたが、航宙艦ウィスパーは使えなくなった。損傷したK-Fドライブが修理不能となったので、槍機兵隊のスターコーネル・サンドラは航宙艦と貨物を放棄した。

 過積載となり、ちょっとした修理が必要だった残りの航宙艦2隻は、近くの有人星系、ジェイドファルコンの世界ケンブリッジによろよろと戻った。到着した直後、スコーピオンはまたも驚かされることになった。かなりの大きさのアイスヘリオン艦隊が近くに到着していたのである。直感によってスターコーネル・サンドラは、ヘリオン航宙艦の1隻に対する神判を行い、楽々と勝利した。船員と話した彼女は、この艦隊がジェイドファルコンOZに向かうヘリオン侵攻の尖兵であることを知った。

 スコーピオンがこの情報を活用できるとわかっていたサンドラは、新たに捕獲したヘリオン航宙艦、フロストジャイアントをエレウォンに向かわせた。幸運の女神が微笑んだかのように、スターコーネル・ブライアン・プライドがこの星系におり、ウォッチの作戦を調整していた。通常の氏族的な口論の後、スコーピオンはプライドと情報を共有し、それから出発した――もう1隻の航宙艦に、ファルコンウォッチの戦士1個星隊と、新品のジュピター3個星隊が積まれていた。

 奇妙なことに、スコーピオンが3077年に放棄された航宙艦ウィスパーのところに戻ると、この船は姿を消していたのである。

――ダイアモンドシャーク氏族科学者(歴史家)マラキ、報告書補遺081778






コンモドゥス・バン=ホーテン

盗賊階級: コンモドゥス・バン=ホーテン
主星: なし
主要支援世界: タニス星系(3071〜74年)

 どんなに拡大解釈しても正式な集団とはいえない盗賊階級は、暗黒階級の好戦的かつ喧嘩腰の者たちを指している。氏族宙域の内外には数限りない盗賊階級の集団がいるが、その大半は降下船1〜2隻、航宙艦1隻と、各地で回収されたバトルメック、車両、エレメンタルアーマーからなる。氏族の飛び地領土に深刻な脅威となっているのはふたつの盗賊階級グループだけで、中小規模の氏族火砲基地を強襲し蹂躙できるほどの火力を持っている。

 この大集団のひとつが、コンモドゥス・バン=ホーテンに率いられるものである。彼は元バーロックの戦士階級で、3041年、ストラナメクティの商人、技術者階級数名を殺したことで階級を剥奪された。バン=ホーテンは拒絶の神判の最中に気絶し、囚人船の〈プリンツ・オイゲン〉に収容された。

 投獄中、バン=ホーテンはどうしたことか、暗黒階級、ソサエティとの関係を持った。3056年、この有名な犯罪者は囚人船から姿を消した。警備のエボン親衛隊は彼が殺され、宇宙に流されたと決めてかかった……実際には、彼は監獄船にドッキングした暗黒階級の船によって脱出したのだった。

 ソサエティに支援されたコンモドゥスは、同士の盗賊たちを集めて小規模なギャング団を作り、補給物資と捕虜を求めて定期的に氏族の各飛び地領を襲撃し始めた。盗賊たちは通常、若い世代の民間人を選びとり、ソサエティが提供する武器、食料、修理と交換した。

 3072年1月以降のいつか、〈プリンツ・オイゲン〉がストラナメクティからジャンプした。囚人のうち半数は宇宙に放り出された……残りはタニス星系のスタチャに到着した。このテキサス級戦艦はエグゾダスの際に負った損害を形だけ修理し、タニス星系を来るべき氏族の強襲から守るためバン=ホーテンに渡された。

 この盗賊の指導者はまだ襲撃を行い、3071年の初期のカオスの中でプライオリ、ヴィントン、パクソン、マーシャルを叩いた。各世界に数個トレイ、セプトを送り込んだ〈オイゲン〉は、ジャンプドライブにストレスの兆候を示し始め、3072年、タニスに永久的に残ることとなった。



軍事部隊

 パイロットと兵器の寄せ集めであるバン=ホーテンの部隊は、かろうじて2個星団隊分の地上部隊を招集している。主にソサエティが設計した兵器と、ブライアンキャッシュから奪った旧星間連盟マシンを使うこの盗賊たちは、腕前が衰え、錆び付いていることから、集団攻撃に頼る傾向がある。〈プリンツ・オイゲン〉が与えられたとき、ソサエティはプロトメックと気圏戦闘機による1個セプトを追加した。戦士たちの一部は、ソサエティの世にも恐ろしい変異ウィルス実験であるシナプス計画から来ている。

 盗賊の「星団隊」は三連星隊ごとか、さらに小さい編成で活動するのに向いており、大規模な交戦を率いるのは難しい。バン=ホーテンは問題解決を強要することなく、全体の目的を指示したあとは、三連星隊の指揮官たちがなすがままに任せている。











剥奪(リーヴィング)


血統の剥奪

 中心領域にいる氏族のあいだで戦争が荒れ狂うなか、さらに大きな戦争がケレンスキー宙域で起ころうとしていた。

 族長会議は、3071年12月1日、地味に始まった。いつもの議題が取り上げられ、却下されると、スティールヴァイパー氏族長ブレット・アンドリュースがフロアに入った。再び、情熱的なスピーチで大拒絶を終わらせる議題が出され、スターアダーに支持された。アンドリュースは、投票が失敗したら、もうこの問題は永遠に取り上げないと約束した。

 投票は氏族長たちのあいだを這うように集められ、参加しなかった氏族はなかった。スノウレイヴンとジェイドファルコンが賛成した。両氏族は、連合した氏族の編成がワード・オブ・ブレイクに対する奇襲となり、もしかしたら地球への道が再び開けるかもしれないことを知っていたのである。同じく賛成に投票したのは、ブラッドスピリット、ファイアマンドリル、ゴリアテスコーピオン、スティールヴァイパーである。アイスヘリオンとヘルズホースは反対した――両者は新しい侵攻の出発点におり、従って苦労して得たものを分かつことになるからだ。強固な守護派であるゴーストベア、コヨーテは、様々な理由からダイアモンドシャーク氏族に加わって反対票を投じた。クラウドコブラ副氏族長テリノフは、この提案に賛成票を投じた。ディン・シュタイナー氏族長とスターアダー両氏族長は棄権した。

 投票の結果が出ると議場は一瞬、沈黙した。大拒絶は彼らの前で崩壊し、無効となったのである。氏族が中心領域を支配する障壁はもうなかった。[間違わないように。この投票は拒絶の神判を覆すものではなかった。この投票は、第二星間連盟が恥ずべきものになったとされたあとで、神判に合法性があるかどうかについてだった。関係する組織が正当性を欠くことは、リバイバル作戦が覆されたという決定に影響を与える。第二星間連盟が失敗したことで、氏族指導部の者たちがその正統性に疑問を持ったのである……過半数の同意があれば、大拒絶とその結果は無効ということになる。氏族政治の複雑に精通してない者は、この取り扱い方がもつれたものに見えることだろう。だが、氏族は法律の文言に寄って立っているので――多くの場合は極端に――それぞれの議題を進めるために政治的な議論が必要とされることがあるのだ。-SK]

 新しい大氏族長を決めるのは、決まり切った結論であり、今回は二人の候補しかいなかった。スタニスロフ・ンブタ氏族長とブレット・アンドリュース氏族長である。

 アンドリュースはここ数年のヴァイパーの成功を単純に指摘した。ファルコン、スノウレイヴン、ダイアモンドシャークを破って決定的勝利を達成した一方で、氏族の戦闘の掟を厳格に守ったのである。この事実に反論できるものはなく、彼は大氏族長に選ばれた。反対したのは、コヨーテ、ファルコン、レイヴン、シャークだけだった。マーサ・プライド氏族長、サマンサ・クリーズ副氏族長は声高に抗議し、この投票は族長会議が役に立たない証拠だとした。嫌悪感を表すために、彼らは通信を切断した。

 そうして、ファルコンの指導者たちはアンドリュースの大氏族長としての最初の行動を見逃した。氏族内に浸透し蔓延する中心領域の汚染を取り除くために、アンドリュースは論拠を述べた。「侵攻を成功させる唯一の道は、氏族の道を浄化することである」。これを達成するために、アンドリュース大氏族長は、現在、中心領域に住む氏族のすべてのブラッドネームと、それから作られた戦士とシブコのすべてが、汚染されており堕落していると宣言した。「彼らは地球を取り戻し、偉大なる父の夢を達成するのに必要な、名誉の純粋性を欠いている。よって、汚れた遺産と彼らから作られたすべての戦士は、剥奪の神判を受けることになり、これは汚染されていないと考えられる名誉ある氏族によって実行される」。大氏族長の意図は、汚されたブラッドネームをリバイバル作戦前の遺伝子記録に戻し、そのあいだの世代の戦士すべてを排除し、きれいな遺伝子によって氏族を開始することだった。

 予想されるように、この制限は族長会議に大騒動を引き起こした。アンドリュースは素早く秩序を取り戻すために動き、アンガス・ラボフ副氏族長に対する剥奪の神判を宣言した。怒り、まだショック状態にあった副氏族長はこれを受け、いますぐ行うように要求した。アンドリュースは儀式的な反応を示し、流れるような動きでスティールヴァイパーの装飾品から儀式用のナイフを引き抜き、議場の床にたたきつけた。ナイフは副氏族長の首に刺さり、シャークの商人=戦士から副氏族長になった男を殺した。

 ラボフの血液が議場の床に広がるなか、ビョルン・ヨルゲンソン氏族長は大氏族長と議会を非難した。彼は全体の進行を、「創設者たちとその血族の本質そのものを冒涜しており、もはやゴーストベアが相手をするに値しない」とした。ゴーストベアの宣言は両氏族長のサインオフによって終わった。アンドリュースは神判のためフロアを開けることによって応じた。ヴァイパーはファルコンとゴーストベアのブラッドネームのいくつかに宣言を行った。他氏族の反応は様々であった。アダーとコヨーテは沈黙を続けた [決定の無法さが氏族の目前に晒されたからだという可能性がある。氏族のすべてはなんらかの形でなんらかのリーヴィングを受けることだろう……なぜなら、侵攻氏族の血統の大半(特に複数の氏族に分散している非占有ブラッドネーム)が神判の対象となり、プログラムに入れられたからだ。この宣告によって、中心領域氏族の権力がはぎ取とられるのみならず本拠地氏族のいくつかもそうなるという厳しい現実があったのである。-SK]。


ドアに立ちふさがるウルフ

 二日後の夜明け、ウルフ氏族の降下船2隻がストラナメクティ軌道管制の指示を無視して、都市の上空に飛来し、オミクロン銀河隊の2個銀河隊をケレンスキー血統礼拝堂(ブラッドチャペル)の内外に降下させた [これは取引されたコヨーテの銀河隊だった。記録によると第246ウルフ打撃星団隊と第509ソラーマ戦闘星団隊で、スターコーネル・ラミル・ケレンスキーとウルフ氏族ウォッチ戦士の1個星隊に指揮されていた。-SK] 。ウルフ戦士は素早く礼拝堂の警備を圧倒し、全施設を手中に収めた。スターコーネル・ラミル・ケレンスキーは全氏族に挑戦を布告し、「礼拝堂をウルフのあぎとから奪還し、ケレンスキーの遺産にふさわしい価値があることを証明せよ」と求めた。

 最初にウルフに挑戦したのは、スターキャプテン・ウリエル・クリアウォーターとメック戦士テーゼであった。この二人のスノウレイヴン戦士は、スターコーネル・ラミル・ケレンスキーのダイアウルフを倒してやろうと、礼拝堂の正面ゲートに突進した。両メックは施設内にいた他のウルフメックが発射した大量のミサイル群に叩かれた。族長評議会からすでにデズグラであると宣言されていたウルフはその立場を利用したのである。レイヴンのメックだけが礼拝堂の門前に止まったものではなかった――次の数日間で、粉砕された戦闘用マシンの山が、強固な石と鋼の玄関周りに、即席の障壁を作り出した。

 各氏族の戦士たちがウルフの防衛陣地を叩き、そのうち一部は共に戦ったが、完全に結束した部隊はなかった。ウルフの衝撃的な行動と見事な防衛によって緊張はきわめて高く、戦士たちは、射線、攻勢、射撃ミス、さらには攻撃成功などのささいなことで、不服の審判、所有の神判に巻き込まれた。

 最初の攻撃が始まってから数時間後、成功がなかったことから(ウルフのサヴェッジ・コヨーテ1機が撃墜されただけだった)、アンドリュース大氏族長はウルフから施設を奪い取れた氏族がケレンスキーの遺産を持つことになると宣言した。これは各氏族をさらに駆り立てたのみならず、氏族間での同盟をないものとした……いくつかのケースでは、一部の氏族が些細なことで衝突した。あるケースではクラウドコブラが外壁を壊したことでスターアダーの戦士2名に挑戦した。アダーは短時間の神判に勝ったのだが、ようやく空いた壁から侵入しようとしたそのとき、ウルフのウォーホークが到着し、損害を受けていたアダーの両メックを倒したのである。

 近くにいた氏族の戦士たちは群れをなしてやってきて、ウルフの絶えざる嘲笑によって狂乱し、ケレンスキーの名を自分の氏族に入れるという名誉の夢に突き動かされた。ウルフの戦士と名誉ある戦闘を行うことができた者はほとんどなかった。なぜなら、ウルフは施設とその防衛装置を最大限に利用して、建物の壁に近づく敵戦士をできるだけ減らしたのである。3日間で、90名以上のウルフ戦士の立てこもるウルフ陣地を強襲し、ケレンスキー血統礼拝堂と周囲の建物に甚大な被害を与えた [同じころ、ウィンストン血統礼拝堂が謎の集団に火をかけられた。我々の情報源によると、それはケレンスキー礼拝堂のほうにいる主力と同時に降下したウルフのエレメンタル数名であり、その後、ケレンスキーのほうの大虐殺に加わったという。-SK]。

 ウルフは包囲の中で徐々に押しつぶされていった。最後の一機であるラミル・ケレンスキーのダイアウルフが倒れたとき、彼は大々的な通信を行った。「ケレンスキーの名は恩知らずの子孫たちに汚されるべきではない」。通信は大規模な爆発で終わった。血統礼拝堂が内側から崩壊し、ダイアウルフもそれに飲み込まれていったのだ。あとで掘り返したところによると、ウルフはこの礼拝堂にいた科学者と民間人を全員処刑し、マスターコンピューターのデータを消去し、貯蔵されていた遺伝子のオリジナルとコピーを破壊していた [噂によると、大量の塩素(chlorine)の痕跡が発見されたという。疑いようもなく、ウルフによる最後の挑戦的なユーモアであろう。-SK]。

 氏族がこのウルフによるショックから回復すると、さらに恐ろしいニュースが族長会議の場に飛び込んできた。主貯蔵庫のジェニファー・ウィンソン、ニコラス・ケレンスキー、アンドリュー・ケレンスキーの遺伝子マスターファイルが破壊され、事実上、偉祖父の遺産が [ウルフ以外にいる存命の戦士をのぞいて。-SK] 氏族宙域からなくなってしまったのである。血統礼拝堂周囲での残虐な戦闘とは対称的に、小規模なウルフ氏族ウォッチの工作員チームが――ウルフ科学者の共謀によって――主貯蔵庫に浸透し、途方もない愚行を成功させたのである。ウルフの科学者たちは、それからウォッチ工作員に処刑された。

 予想されるように、氏族と族長会議はウルフの行動に激怒した。ケレンスキー血統礼拝堂が破壊された直後、ウルフに対する殲滅の神判を持ち上げるため、緊急会議の場がもたれた。この神判は出席していた全氏族によって行われることとなった……ジェイドファルコン、ゴーストベア、ヘルズホースは除外された。族長会議のローアマスターは族長会議に不在の氏族の投票は保留にするように命じられたが、氏族法に忠実で大氏族長のいい加減な命令に従えなかったケール・ペールシャーは、族長会議の命令を拒み、ゴーストベアのローアマスター、ローリー・ツェン [まだ惑星上にいた。-SK] と、ジェイドファルコンの氏族長たちに通報した。マーサ・プライド氏族長は、ストラナメクティに残ったすべての者たち――戦士、科学者、技術者――を集めて、本拠地を離れるように命令した。ヴァイパー・ウォッチはこの会談を立ち聞きし、数時間後、ケール・ペールシャーに対する剥奪の神判を宣言した。

 氏族の名簿からペールシャーの遺産を排除するのを熱望していたスティールヴァイパー1個星隊(スターコーネル・トーマス・アンドリュース指揮下)がファルコンの飛び地領に行進した。ヴァイパーは小規模な民間人スタッフ集団が彼らを待ち構えていたことに驚愕した。ストラナメクティに残った唯一のファルコン戦士、ペールシャーは「機械が埋め込まれた我が肉と骨だけを持って行く」と挑戦した。トーマス・アンドリュースは受けた……年老いたファルコン戦士をリーヴィングすれば、ヴァイパー内でのリスターとしての地位を大いに高めるだろう。ペールシャーはヴァイパーの指揮官と会う準備をしていたとき、飛び地領のスタッフたちにゴーストベアと共に出発するように命じた。彼はツェンとの交渉を行っていたのである。

 簡単に勝てると疑ってなかったスターコーネル・アンドリュースは対等の環に入り、1分以内に死亡した。ペールシャーの左腕に仕込まれていた小さなレーザーピストルの犠牲となったのである。ペールシャーはバッチェルにも神判にも抵触していなかったので、アンドリュースの星隊員たちは彼が出発するのを渋々許した。ペールシャーは飛び地領のスタッフ全員が避難し、軌道上のゴーストベア降下船の1隻に加わるのに充分なだけの時間をかけた。

 ペールシャーの二枚舌に怒って正気を失ったヴァイパーは、〈ペリガード・ザールマン〉を移動させ、軌道上からファルコンの飛び地領すべてを破壊した。しかし、ヴァイパーは軌道支援の技について訓練不足であり、何発かはファルコン領の外に命中し、発生した火災は制御不能となって、カチューシャとその周辺の民間区画に広がっていった。

 ローアマスター・ツェンは最後に発ったゴーストベアの一人だった。戦って都市を押し通った彼女は3回の剥奪の神判を受けた……スコーピオン、コブラ、マンドリルのすべてが彼女を倒すのに失敗した。ベアはギャラクシーコマンダー・ベンジャミン・スヌーカを失った。この年老いた戦士は3機のマンドリル・オムニメックの前に立ちふさがったのである。彼のおかげで、ツェンと星隊の残りは〈アズール・クラウド〉まで後退することができた。待っている航宙艦に向かうあいだ、ローアマスター・ツェンはカチューシャを襲う破壊の様子をできるだけ記録した。

 火災の猛威が衰えなかったことから、カチューシャは混乱に陥った。リーヴィングの呼びかけは少なくなり、流血への渇望が全氏族の戦士たちを誘い、都市を襲った。影響を受けた氏族の民間人たちは彼らの名誉を守るために立ち上がった。その多くは棍棒や、死んだ歩兵、警察軍から奪った小火器を装備していただけだった。これらの民間人は、戦士階級の汚れに影響されたものとみなされ、汚染を除去するためただちにリーヴィングされた。

 クラウドコブラとゴリアテスコーピオンは、(ヘルズホース氏族の)アミラウルトとフレッチャーの血統礼拝堂に集まった……ふたつの施設は隣り合っていた。素早く動いた両氏族は、両施設を集団で攻撃し、壁を破って、火をかけた。科学者とそのほかの労働者階級作業員たちが燃えさかる施設から逃げると、クラウドコブラのピラニアが逃げる彼ら民間人を撃ち倒した。ホースのエレメンタル幾人かはアミラウルトの建物で粘り強い防衛を成し遂げ、全滅する前に、スコーピオンのキットフォックス2機を撃墜した。コブラは猛烈な空爆で報復を行い、両施設の残った部分を倒壊させ、燃える建物の中に残っていた全員を殺した。

 12月半ばまでに、カチューシャの大部分は廃墟となった。ファルコン、ベア、レイヴンの飛び地領は破壊された [ファルコンの場合は殲滅された。-SK]。本拠地氏族でさえも痛みを感じた。アダーの飛び地領は、ブラッドスピリットの1個星隊が守りの薄さを突いて、燃え尽きた廃墟となった。続いた強襲で、スターアダーのダンテ・トラスコット副氏族長が、ロックとクリュサオルに圧倒されて死亡した。アダーはこの臆病で名誉なき攻撃への報復を誓った。なぜなら、副氏族長が民間人を救出していたときに、スピリットは死角から彼のエクシキューショナーを不意打ちしたのである。

 アイスヘリオンの飛び地領もまた、スノウレイヴンの戦士3名と、クラウドコブラのプロトメック1個星隊が城壁内で戦ったことで大打撃を受けた。ヘリオン戦士たちは勝手に入ってきたことに異を唱えたが、コブラ軍によってすぐに鎮圧された。ヘリオンの戦士たち全員が敗北すると、コブラはすぐに退却した。

 破壊の大騒ぎのピークは、ファイアマンドリルの〈ジャングル・ヒート〉が軌道上から(スノウレイヴンの)マッケナ、クリアウォーターの血統礼拝堂を破壊したことだった。マンドリル軍による両施設への強襲はうまくいかず、よってなんらかの勝利を熱望していたスターコーネル・アブラクサス・ミックは軌道攻撃を命令したのである。〈ジャングル・ヒート〉の砲撃は両血統礼拝堂を破壊したのみならず、ベン=シモンズのものと、近くにいたスターアダー1個二連星隊を破壊した一方で、カチューシャにさらなる火災を引き起こした。マンドリルの行動はアダーとスコーピオンを怒らせたが、スティールヴァイパーのCSV〈サンラ・マーサー〉とクラウドコブラのCCS〈ソーラー・ブレイズ〉が砲門を〈ジャングル・ヒート〉に向け、存在をリーヴィングした。ヴァイパーはすぐにミック=クリース=クライン=セインツ族をリーヴィングの新しいターゲットであると宣言した。彼らは汚染が広がっているものと判断したのである――他の何がこのような愚行を起こすことができるだろうか? 大氏族長はスコーピオンとコヨーテにリーヴィングの実行を任せた。その理由の一部は、両氏族をスネーク同盟の計画から離しておきたかったということがある。両氏族は任務を受けたが、コヨーテはほとんど熱意を示さなかった。

 〈ペリガード・ザールマン〉と〈ジャングル・ヒート〉の砲撃ミスによって始まった白熱する火災は、20時間以内にストラナメクティのHPG施設に到達した。消防当局は都市のあちこちで起きる戦闘の被害にかかりきりだったので、HPG施設を救うことはできなかった [民間人の報告によると、他の場所での消火活動で、放水と化学消火泡はすでに不足していたという。-SK]。1日以内にカチューシャの少なくとも3/4が停電した。

 ストラナメクティから逃げるゴーストベアとスノウレイヴンの降下船(汚染された戦士を乗せていると思われた)を落とそうという試みが何度かあった……ほとんどが失敗した。レイヴンの民間人を乗せた降下船の1隻は天頂点にたどり着くのに失敗した。ゴーストベア船の1隻はひどい損傷を負っていたために、乗組員と乗員たちは待っていた航宙艦に乗って星系から離れる前に、危険な数時間をかけて宇宙での移動を行わなければならなかった。ゴーストベアは戦士とそのほかの重要な下層階級民を移動させるためにアルカディアにジャンプした。ローアマスター・ツェンもまた予期される強襲に備えて、守る準備をした。レイヴンはさらなる民間人を移動させるための輸送船を持っていなかったことから、残った飛び地領に自分の身を守るように呼びかけた。ラボフの死後、できる限り早くストラナメクティから退却したシャークは、指導者が殺されたことに対する報復の準備を行った。他の商人・労働階級の大半は、氏族の輸送船をかき集め、できる限り載せ始めた。戦士たちと残った戦艦は、最後の瞬間まで彼らを守る準備を行った。

 アンドリュース大氏族長は中心領域氏族が帰還するのを遅らせるために族長会議の投票を必要とした [そしてもちろんストラナメクティの混乱に恐怖していたのだろう。-SK]。アンドリュースはスターアダーのンブタ氏族長に「問題を解決する」よう求めた。ンブタはペンタゴンワールドに帰還中だったユプシロン銀河隊に命令を送った。放浪する銀河隊はいくつかのグループに分かれて、深宇宙HPG中継器を落とすか破壊し始めた。これらは通常、中心領域氏族が族長会議にバーチャルで参加するためのものである。この年の終わりまでにすべての中継器が通信不能となったが、一部が稼働するままに残された。メッセージは最終的に中心領域の氏族に届いたが、それは逃げるレイヴン、ゴーストベア艦隊が到着した直前に過ぎなかった。

 12月半ば、ファイアマンドリルの〈アナテマ〉がアルカディアに到着し、(ゴーストベアの)スヌーカとヴォングのブラッドネームに対する剥奪の神判を宣言した。マンドリルが残ったペイン=ベイル=グラント族の氏族軍を惑星上に落としたが、応じた第4ベア正規隊とアレッサ・カブリンスキー副氏族長のシルバールート親衛隊に直ちにたたきのめされて呆然とすることになった。カブリンスキーは、ローアマスター・ローリー・ツェンと話し合ったあと、第4ベアの戦士たちに「氏族法の不適切で恐ろしい不正使用」として剥奪の神判を無視するように命令した。交戦後、本拠地内での絶体絶命な状況をヨルゲンソン氏族長に伝えるため、副氏族長は直ちに中心領域へと出発した……ローアマスター・ツェンは、アルカディアの地表に残ったものをかき集めてゴーストベア最後の航宙艦に載せたあと、できるだけ早くついていくことになる。

 ホアード、グローリー、パクソンでは、コヨーテ氏族に渡された元ウルフ領土が、スターアダー、ゴリアテスコーピオン、ファイアマンドリル、ブラッドスピリットに強襲された。攻撃した氏族は、コヨーテがウルフと共謀していたとした――ケレンスキーの血統礼拝堂を破壊したウルフ戦士の3/4以上が、最近、コヨーテから「取得」された者たちだった――そして飛び地領は昨年までウルフ領だったという事実がある。スターアダーはホアードの飛び地領に完全な奇襲をかけ、都市を守っていた第80打撃星団隊を虐殺し、それから守られてないアイスヘリオンの飛び地領を奪うために移動した。

 グローリーでは、コヨーテはすぐにスコーピオンとマティラ=キャロル族の連合軍に圧倒された。強襲の最初にスターコーネル・ハーム・トカルノフコフが殺されると、第120打撃星団隊は混乱に陥った。スコーピオンはこれを利用して、第14スコーピオン擲弾兵隊がコヨーテの戦線に群がった。マティラ=キャロル族の第61ファイアストーム星団隊は退却するコヨーテに追いつき、ポーテージ山で足止めした。スターキャプテン・ブレーズはすぐに崩壊した第120を放棄し、この日が終わるまでに、元コヨーテ領土は攻撃した両氏族のあいだで分割された。

 12月20日、ブラッドスピリットのスカーレット・ガードがパクソンに上陸し、コヨーテが取得したウルフ領土に対するバッチェルを行った。ダイアウルフとゴーゴンの工場がどうしてもほしかったブラッドスピリットは、サスケハナ川の渓谷沿いでコヨーテの防衛入札を受け入れた。スピリットのスカーレットガードがいかに岩場で有効かを見落としていたコヨーテは開始からつまづいた。最初の二時間で戦力のほぼ半数を失った後、コヨーテの第49戦闘星団隊は谷沿いに退却し、ダイアモンドシャークの都市、サーモポリスに近づいた。勝利を感じたブラッドスピリットはコヨーテ軍を遮断するために動き、密集したシャークの民間人居留地に入った。シャーク下層階級の大半(降下船に乗り込むのを待っていた)を収容していた臨時施設は蹂躙され、その後、スピリットのプロトメックは離脱した。

 民間人の生命が理不尽に失われた [スピリットが退却し得る前に、600名以上の生命が失われた。-SK] ことに激怒したシャークは、ブラッドスピリットの戦線に激しい逆襲をしかけた。だが、シャークの第83連合打撃星団隊が移動したことで、近くの火砲基地は無防備となった……シャークは中心領域に持っていけるものはすべて移動している最中だったからだ。コヨーテのスターコーネル・ダニエル・レヴィエンはチャンスに気づき、基地を素早く奪って、これまでに受けた膨大な損失を再建するアイソーラを得た。

 事態が進むと、第83打撃星団隊はサーモポリスに戻り、残った民衆の中にいた元戦士たちをできる限り武装させた [明白だが、この戦略はシャークの指導部が許可したものではない。指揮官たちがこのようなチャルカス的な手法をとったことに我々は失望している。-SK]。降下船の積み荷(つい最近ブライアンキャッシュから引っ張り出してきたもの)がシャークの防衛に加えられると、ブラッドスピリットが都市に迫った。コヨーテは座して待ち、両氏族が互いに攻撃するままに任せたが、到着したシャーク第8クルーザー星団隊の1個二連星隊がコヨーテ戦線の後方に滑り込み、コヨーテの指揮星隊を粉砕すると、コヨーテは前に出ざるを得なくなり、サーモポリスの市街地で三すくみの戦闘が発生することになった。シャーク(スターコーネル・メーガン・クラーク指揮下)の戦略は復讐から、死ぬまで立ちはだかることに変わり、スピリットとコヨーテにこれ以上民間人を殺させないようにすると決意した。

 長い2日間の後、ブラッドスピリットはわずか2個星隊分のプロトメックだけで都市から引いた。スターコーネル・ストック・キャンベルはシャークの降下船数隻が離陸し始めたのを見て、スピリットの乏しい航空支援を呼んで、降下船を撃ち落とさせた。ブライアンキャッシュの物資が満載されているものと思いこんだのである。2隻の降下船、オーソンとウーゼルは民間人をいっぱいに乗せていた――離陸したすべての船がそうだった――船がパクソンの地表に墜落し、1100人の民間人が死んだ。

 スピリットが退却する船を破壊したとき、コヨーテは最後のシャーク戦士を倒し、シャークの崩壊した都市を我が物とした。最初の神判をおぼえていたコヨーテは、それから退却するブラッドスピリットを攻撃し、残った戦力の半数を切り刻み、勝利を我が物とした。この勝利は代償を伴うものだった。メックとエレメンタルの半数だけが生き残った。スカーレット・ガードがパクソンから退却した直後、コヨーテは静かに新しい飛び地領から退却し、無防備なまま残した。[スターアダーが後で移動し、飛び地領を得た。-SK]

 二週間後、ブラッドスピリットのカリアナ・シュミット氏族長は、アルファ銀河隊、CBS〈ストッピング・カイト〉、CBS〈ロシナンテ〉と共にアルカディアに到着した。彼女はアルカディア飛び地領の残りを得られるようゴーストベアと交渉するのを望んだのだが、ベアのカブリンスキー副氏族長が断固たる拒絶の姿勢をとるとは思ってもみなかった。ベアはこの数週間、最後の小さな飛び地領をゴーストベア・ドミニオンに移す準備をしており、この困難な仕事を成し遂げたまさにそのときスピリットが到着したのである。

 せっかちで尊大なシュミットは〈ロシナンテ〉を軌道上に近づけ、問題を片付けることを望んだ。〈ロシナンテ〉は「警告射撃」をスノウピーク山脈近くに撃ち込んだ。これにはベアからの反応があったが、スピリットの望んだものではなかった。カブリンスキー副氏族長はシュミットに対しベアの信念がどこで発揮されるのかをぶっきらぼうに語り、ブラッドスピリットの鼻先でドアを閉めたのだ。侮辱され激怒したシュミット氏族長は〈ストッピング・カイト〉に対し、一番近くにいるベア船のジャンプを妨害しろと命令を出した。この船は降下船を満載したスターロード級航宙艦、アルシャイン・サンセットであった。

 サンセットの商船長は〈ストッピング・カイト〉の機動に抗議し、下がるように求めた。〈ストッピング・カイト〉は立ちふさがった。それにも関わらず、スターロード級はこの船を後退させようとジャンプの手順に入った。〈ストッピング・カイト〉は鈍感に暴力で応じた。

 〈ストッピング・カイト〉の舷側一斉射撃はサンセットとドッキングしていた降下船を引き裂き、中にいた数千人の民間人を殺した。[この件では両者が間違った対応をした。サンセットは氏族戦士階級の命令を拒んだが、後にベアが主張したところでは命令を与えたのはベアの戦士ではないとしている。結果として生じたのは、「宇宙のチキンレース」であり、これが悪い方に出て、ゴーストベアの民間人が犠牲となった。両陣営の見苦しい行動と態度は、すでに緊張していた空気を悪化させるだけであった。-SK]

 ゴーストベアは素早く暴力的に応じた。ブラッドスピリットが正常な反応を示す前に、ベアはすべての宇宙船を〈ロシナンテ〉に向かわせたのだ。この船は瞬時に火だるまとなり、重要なシステムが破壊され、いくつかのデッキが真空に露出した。ブリッジが爆発するとシュミット氏族長は致命傷を負い、残骸から脱出する前に背骨を折ったのだった。ベアはのたうつスピリットの巡洋艦から離れた。そして、小規模なエグゾダス艦隊がジャンプポイントに達すると、ベアは戦力をまとめ、それから氏族本拠地を離れた。

 永遠に。





バーロック氏族

主星: タニス(タニス星系)
主要支援世界: アレクサンドラ、スタチャ

指導者(3072)
氏族長: マーカス・ポリチェク
副氏族長: ナマン・ハチンソン
ローアマスター: ブレナ・リン

 バーロックはスターアダー氏族に吸収を許した後、この新しい氏族が長年の敵であるブラッドスピリット氏族を叩くのを支援した。しかし吸収は問題なしでとはいかなかった。強硬的な戦士の多くが明らかな「寝返り」に激怒していた。これらの不満分子、手に負えない者たちは、スターアダーのユプシロン臨時銀河隊に集められ、辺境を歩きまわり中心領域国境線沿いを偵察するというほぼ白紙委任の命令を与えられた。

 ユプシロンは彼らにあった任務を果たし、若干の商人輸送艦隊――主にスピリットとシャーク――と交戦し、各地の氏族前哨地点で補給を求めて神判した。次の数年に渡る放浪で、この銀河隊はタニス星系に立ち寄ることが多くなり始め、戦士と装備を求めてロー銀河隊と神判で交戦した。実際に起きていたことは、はるかに邪悪なことだった。

 バーロック氏族が持っていた暗黒階級とのコンタクトとネットワークはタニス星系の一部で生き続けていたのだ。タニスはアダーとコブラに守られていたのだが、アイスヘリオンの行き当たりばったりな偽装船団来訪と海賊の襲撃を除いては、ほとんどなにも起きていなかった。両氏族の戦士たちにとって、ここへの配置は、評判が悪いものだった。結果、この星系の守りは他の氏族世界より手ぬるいものとなった。したがって、暗黒階級はそのすぐ下で生き延びることができたのである。

 タニスはいつもコブラの悩みの種であった。この古代星間連盟の植民地は氏族が到着する数世紀前に設立された。いくつかの豊富な鉱山と、星間連盟レベルの技術は、(地球)帝国の崩壊以来見られなかったもので、コブラは発見を秘密にするのを熱望した。コブラは素早く鉱石の優位を活かして、いくつかの工業地域を作り上げ、商人階級はダイアモンドシャーク氏族の影響力にゆっくり取って代わるため、得られるはずの授かりものをどう使うか計画し始めた。

 問題は入植していた植民者たちが、氏族社会への「転向」に興味を示さなかったことである。タニテは軍事技術をほとんど持っていなかった。彼らの軍隊は民間に転用されるか、コブラが到着する数十年前にスペアパーツ倉庫に入れられたのである。コブラは兵器、タニテは資源を持っていたので、不安定な占領が始まった。コブラは力を見せつけるために3つの世界を移動し、できうる限りの秩序を維持した。表面上、タニテはコブラ指導部が望んだように振る舞い、独自のやり方で反乱を起こした。暗黒階級である。

 氏族の社会不適合者たちは、占領されたタニス星系に同調者と資源を見つけた。コブラとアダーが常に存在したために表立って近づけないのだが、ダークは3つの世界すべてに数多くの友人を持ち、盗賊の指導者が活動のために必要としていた補給、物資、情報の大部分を手に入れることができた。バーロックは駐屯の手伝いのためコブラに加わった直後に地下社会とつながった。ほとんどすぐ、コブラの地上軍のほとんどが他領土にかかった圧力を軽減するために撤退し、バーロックを唯一の防衛軍として残した。密かに運営されていたタニスのブラックマーケットは、呼吸のできる環境で新しい人生を発見し、よってダークは必須だった補給物資を遠い同胞のために得る活動を活性化させ、盗賊たちに武器と弾薬を供給した。バーロックの領土に手を付けない(あるいは疑いを避けるために軽い攻撃を仕掛ける)のと引換に、バーロックは静かに、二線級バトルメック、戦闘車両、エレメンタルアーマーを、この世界のダークによる「略奪」で「失った」のだった。

 スターアダーが(バーロックの)吸収を実行したとき、ダークは素早く地下に潜った。アダーがバーロックの連絡係――守備隊については言うまでもない――に何をするのか自信がなかった暗黒階級とタニテは交易と連絡を断った。アダーは単にバーロックがタニスについて放棄した分野を再開しただけであったことから、地下のブラックマーケットはゆっくりと成長したが、吸収の前のレベルには程遠かった。

 ケネス・ハッチンソンのロー銀河隊司令官昇進は、タニテとダークにとって朗報だった。この元バーロックの戦士は、バーロックの各民間指導者と戦士たちを正規のチャンネルを通して静かに動かし、タニスの世界での任務につけた。彼はまた、バーロックのソサエティ・セルの接触を受け、アレクサンドラとスタチャにあるセルの研究施設強化を依頼された。引換に、セルのリーダーはハッチンソンに、氏族の海軍備蓄地点いくつかの場所と再始動シークエンスを教えた [ソサエティはSLOTウィルスの一バージョンも渡した。これにより裏切り者たちはスターアダーの戦艦を無効化し、盗むことができた。-SK]。ハッチンソンはタニスでのローテーションを終えて氏族本拠地に戻る前に、タニテの指導者たち数名にこの情報を知らせた。

 ブレット・アンドリュース大氏族長が宣告を行ったとき、ソサエティはユプシロン銀河隊の戦士たちと指揮官のトリステイン・ンブタに請願を行った。独自の計画を持っていたソサエティは、強硬路線の元バーロックたちに、氏族を復興し、支配権を取り戻すよう説得したのである。ンブタは強く反対し、永久的に排除された。スターコーネル・ナマン・ハッチンソンは、彼女の名の下にウォッチの報告書を改ざんし、アダー指導部が事実に気づくのを妨げた。新名ゼータ銀河隊は、次にアダーのシンパ――ごくわずか――を取り除き、全星系を確保するために素早く動いた。

 3つの世界すべてが確保されると、バーロックは氏族評議会を開催し、新しい指導者を選んだ。彼らは族長会議に氏族の再生を発表するつもりはなかったのだが、マーカス・ポリチェクは最初の命令として、氏族の防衛予備を築きあげる大規模な命令を下した。バーロックは彼らの発表がよく受け止められないことを知っており、以前の主君であるスターアダーを相手にする前に準備すると決めたのである。



軍事部隊(3072年)

 バーロックの新たな誕生は、4個星団隊からなる新設ゼータ銀河隊と共に始まり、タニテの志願兵からすぐ2個星団隊が追加された。いずれ来るであろう各氏族の強襲を跳ね返すため、巨大な地上の要塞が建築された。しかしながら、バーロック氏族軍にとって輝かしい宝石なのは、7隻の戦艦を得たことである。船員たちは大半がタニテの徴募兵であり、いくらかバーロックの商人、技術者階級がいた。この海軍の火力は、襲撃に必要な力と、絶対に必要な星系の防衛力を与えた。

 タニス星系は各盗賊階級の戦力もまたこの地域に呼んだ……もっとも、彼らは数個三連星隊を越えることが滅多になかったのだが。最大の盗賊戦力は、老朽化したCSJ〈ストリーキング・ミスト〉を拠点に活動するジャガーである。彼は4個星団隊近くの戦士たちを集結させることができたが、どこから徴募しているかは不明のままである。



戦艦

 その最盛期に、バーロックの海軍艦隊は、ローラIII級〈リバース〉(元CSA〈ヨダン〉)、リーガ級〈ヘザーリントン〉、キャメロン級〈トレモア〉(元CCS〈インセンス〉)、キマグレ級〈ラッセル・ンガ〉、マコ級〈ストーンクラブ〉〈イングリッド・ブチャレフ〉からなった。後にマッケナ級〈セカンド・カミング〉が加わった。



バーロック氏族軍(3072年)

ゼータ銀河隊(アンダイイング)
指揮官: ナマン・ハッチンソン副氏族長

第1バーロックセンチネル 古参兵 90%
  (指揮官:ナマン・ハッチンソン副氏族長)
第2バーロックセンチネル 古参兵 50%
  (指揮官:スターコーネル・ラッチェル・マクミラン)
第5バーロック戦闘星団隊 古参兵 80%
  (指揮官:スターコーネル・エリック・コロンボ)
第100バーロック・ゲートキーパー星団隊 古参兵 100%
  (指揮官:スターコーネル・ミッチェル・ポリチェク)

オメガ防衛銀河隊(ディジーズド)
指揮官: ギャラクシーコマンダー・ウィリアム・ガストピフ

第1タニス防衛隊 新兵 100%
  (指揮官:スターコーネル・イヴス・ポリチェク)
第2タニス防衛隊 新兵 100%
  (指揮官:スターコーネル・リーゼ・バン=ホーテン)

――ダイアモンドシャーク氏族ローアマスター・セミ・カラザ編集、08013084











反乱





前進する死

 1月1日、ミック=クリース=クライン=セインツ族のリーヴィングを実行するため、スティールヴァイパーとゴリアテスコーピオンの小部隊がシャドウに到着した。両氏族は1個星団隊ずつ [ヴァイパーの第61打撃、スコーピオンの第2エリダニ槍機兵隊。-SK] 持ってきていたことから、この惑星に飛び地領土を持つコヨーテが強襲の大半を担当することが示されていた。

 1月3日、コヨーテ氏族は大氏族長によって分担された剥奪の神判に従い、ミック=クリース=クライン=セインツ族が持つシャドウで最大の領地に襲いかかった。この強襲を行ったのはコヨーテ唯一のシャドウ領にいた戦力で、素早く突然だった。この強襲で驚くべきことは、それまで存在が知られていなかった強襲プロトメック(APM)など新型プロトメックや、新型の軽オムニメック、ケパロスが使われたことである。36時間以内に、3対1近い戦力差にさらされたミック=クリース=クライン=セインツ族は敗北し、ダーカー・ミック副氏族長はクライン闘技場でコヨーテに降伏した。ヴァイパーとスコーピオンの両指揮官もまた、ダイソン・クリアウォーター(コヨーテのラムダ銀河隊指揮官)の要請に応じて、公式のセレモニーに出席した。

 残ったマンドリルの戦士たちとダーカー・ミック副氏族長がコヨーテの前に姿を現すると、コヨーテのエレメンタル儀仗兵が彼らを虐殺した。ほかの者たちが反応する前に、コヨーテのエレメンタルは出席していたヴァイパーとスコーピオンの戦士たちに武器を向けた。施設の外では、コヨーテのラムダ銀河隊がヴァイパーとスコーピオンの指揮所を攻撃し、素早く彼らを捕らえた。コヨーテの虐殺を逃れた戦士たちはおらず、装備はすぐにアイソーラとして捕獲された。ヴァイパー、スコーピオン航宙艦のうち数隻が、コヨーテの海兵隊分遣隊によって拿捕された。

 奇襲 [氏族的でない。-SK] が完了すると、コヨーテはリーヴィング戦争を新たな暗い水準に落とし込んだ。

 3072年1月の半ば、航宙艦、降下船数隻の小艦隊が、アイアンホールド近くのパイレーツポイントに到着した。スティールヴァイパー氏族からの呼びかけをすべて無視した謎の艦隊は分散して降り立ち、スティールヴァイパーの主要訓練施設、両降下港、ターキナ工場などを攻撃した。この電撃的強襲によってヴァイパーの防衛軍は打ち砕かれた。それは攻撃部隊の数によるものではなく、氏族宙域ではこれまで配備されていなかった装備と武器によるものである。アイアンホールドはソサエティによる最初の表だった攻撃であり、大きな成功を収めたと考えられる。この世界のHPGは最初の上陸から1時間以内にシャットダウンし、惑星は1週間以内にソサエティ兵士に奪われた。ヴァイパーのオミクロン銀河隊は全滅した。





無敵をまとう

 12月に大氏族長の行った宣告が、3072年に始まったソサエティの行動を促進したことは間違いない。戦士階級の元になる遺伝子遺産の究極の保護者として、ソサエティはアンドリュー大氏族長の勅令に避けられない未来を見て、行動に移ることを決断した。

 リーヴィングの宣言がなくても彼らが行動したかは不明であるが、反乱を振り返ってみると、いくらかの推測が出来る。

 反乱を起こした科学者たちが持つ武器や装備の在庫は、必ずしも大量とはいかなかった……彼らの戦力の大半は、1月半ばのバビロン強襲で使われた。最初の攻撃で重要なブライアンキャッシュを奪取したあとでようやく、ソサエティは軍事力を強化するのに成功し、「セプト」の大半が倉庫から出されたメックと車両で埋められた。

 部隊を埋める戦士を探すのは、難しいことではなかった。暗黒階級は、数十年分の元戦士、不満分子、脱落者、下層階級の希望者で満たされた。落ちこぼれたソラーマでさえも、バトルメックのコクピットにいれば危険なのである。そして、いかに我々がケレンスキーの社会は完ぺきだと考えていようと、(それとは異なった)よりよい社会を知ると信じている少数がいるのである。

 なので、この年が進むと、ソサエティのランダム攻撃は、ランダムでなかったことが証明された。ブライアンキャッシュの場所、内部の目録、シーケンス番号の知識で武装していたソサエティは、素早くこれらの地点を奪い取るのに成功し、残った兵士をすぐに武装させた――そしてそれは盗賊階級との交渉材料にするのに充分であった。結果は明白である……混沌だ。そして、ケレンスキーの子供たちには、それを容易に癒やすすべがなかったのである。

――スターアダー・ウォッチ・スターコマンダー・ジェリ・バナチェク、ウォッチ報告補遺、21073076






暗闇の中での決断

[サイラス・クファール氏族長]: それで、我々はどのようにやっていくのか? どう行動するか、選択すべきだ。我々は氏族がそうあるべきすべてを支持するだろう……我々は名誉に縛られている。

[科学長レマー]: 大氏族長の宣告は単なる厄介ごとを超えています……これが示唆するところは恐ろしいものです。もし戦士階級が生命の生き死にで遺伝子の移動を要求できるのなら、科学者はなんのためにいるのでしょうか? ケレンスキーは科学者たちに対してひとつの分野での最大の権利を与えました。それは遺伝子の分野です。それは戦士には支配出来ないとケレンスキーは知っていたのです。遺伝子は氏族の生命線です……このリーヴィングの呼びかけは、数十年の仕事を台無しにするものでしょう。我々はすでにケレンスキーの血統を失っています――さらに失うことになるのでしょうか?

[レイヴン・クリアウォーター副氏族長]: おまえが言っていることは、名無し氏族すらしなかったことを超える反逆行為だ。我々は絶対の氏族法に抗うことになるぞ! これより間違ったことがあるだろうか?

[クファール氏族長]: 裏切りというものは戦闘が終わった後にのみ決まる。勝者が、なにが名誉であるか、なにが裏切りかを決める。それが道というものだ。

[科学長レマー]: 命令に反するコヨーテたちは、傍観者としてタマロンに残るかもしれません。

[クリアウォーター副氏族長]: それは人質だ。同意しない者は捕虜にするか人質にするのだろう?

[クファール氏族長]: ネグ。もし我々が正しいのなら――ヴィジョンが我らを示すのならば――彼らは氏族内のふさわしい場所に降格される。そして、創設者が我らを守る。もし我々が正しく、失敗したのなら、コヨーテは異なる道を進んだ者たちによって生き残るだろう。

[クリアウォーター副氏族長]: 選ぶに値しない選択肢だ、氏族長。

[科学長レマー]: これは大量虐殺なのです。大氏族長の命令に従う者は、ケレンスキーの夢を殺しています。大勢が死ぬ前兆で、さらに多くが傷つくでしょう。正気の沙汰ではありません。これは氏族の死だ。

[クリアウォーター副氏族長]: それは私にも理解できる。とても。了解した。コヨーテを暗闇に投げ込もうじゃないか。

[クファール氏族長]: この問題は解決された。氏族評議会を開催する。

――コヨーテ氏族ウォッチ録音、Archive 21123071






最初の攻撃

 シャドウでの軍事行動が、ソサエティの反乱の第一撃だったが、参加した戦力の1/3が明白にコヨーテのものだった。ラムダ銀河隊はコヨーテ氏族軍の一部であり、ミック=クリース=クライン=セインツ族の降伏後、投降した戦士たちを虐殺するまで、氏族の部隊として活動していた。

 コヨーテ氏族の支援を抜きにしたソサエティの最初の行動は、アイアンホールド強襲で、完全にスティールヴァイパー氏族の不意を打った。粛清の後で文章と記録はほとんど残ってないが、アイアンホールドはソサエティの主要研究世界であり、正体を表す前に素早く確保する必要があったと推測できる。ヴァイパーの新オミクロン銀河隊は、純粋な火力と優れた技術に直面した驚きで素早く取り除かれた。惑星はソサエティの研究基地だらけだったので、同化するのは容易であった。ソサエティは民間階級の状況をほとんど変えなかったが、シブコで失敗して各階級に入ったトゥルーボーンたちに戦士として働かないかと持ちかけた。惑星上の商人倉庫が略奪されると、その多くが喜んでソサエティの戦列に加わった。これらの数世紀に渡る氏族の常識を破った者たちは、ソサエティに使われるのに充分なほど狂信的だった。そうでなかった者たちは集められ、実地試験段階にあった各種麻薬の被験者となった。どちらの選択肢も断ったトゥルーボーンは、単純にその場で殺された。

 その他の陥落した世界――バビロン、キルケ、ダグダ、ハントレス――もまた忘れ去られた研究・生産拠点(あるいは、氏族評議会が計画を諦めた後、閉鎖され、封印されたと戦士たちが思い込んでいた拠点)を持つソサエティの要塞だった。その一部は非常に辺鄙な荒野に位置し、一部は封印されたと考えられていたブライアンキャッシュの中に存在し、少数が暗黒階級の居住地近くに隠され、各種遺伝子・精神実験用の「実験用マウス」を供給した。これらの中核世界が確保されると、ソサエティはストラナメクティで大規模なプロパガンダを実施し、戦士階級に対し権力の座から降りるよう公然と求めた。

 その後、ソサエティの駆逐中に、氏族は他の世界に秘密の施設が点在しているのを発見したが、1個トレイを超える程度の部隊を維持できないほどに小さいものであった。

――クラウドコブラ氏族ウォッチ・スターキャプテン・ワレン、ウォッチ記録、11083076


 1月の終わりごろ、スターアダー氏族のユプシロン銀河隊が姿を消した [彼らが忠誠心を変えたと特定できる時期である。銀河隊の指揮官たちが騙していたので、スターアダー氏族の上層部はこの年の後半になるまでそれに気づかなかった-SK]。より正確には、行方不明になっているアダー銀河隊と同じ船で編成された新銀河隊がタニスの天頂ポイントに姿をあらわしたのである。クラウドコブラの戦艦〈ブラインド・フェイス〉は短い通信を受け取り、その後突如として、到着した艦隊は降下船と気圏戦闘機の群れを発進させた。〈ブラインド・フェイス〉は緊急HPG信号を発することが出来るだけ長く生き延びたが、この星系は出現した盗賊階級の襲撃隊による強襲を受けていたので、それ以上のなにも伝えることはできなかった。

 スターアドミラル・ステファニー・ホッブスは、星系の残りを警戒状態に置いたが、スタチャがすでに沈黙したことには気づかなかった。スターアダーのユプシロン銀河隊が修理のため一ヶ月前に到着していたが、襲撃隊の攻撃が始まる一週間前には去っていた [ユプシロン銀河隊はこの時点で「皮を脱ぎ」、新しいアイデンティティを確立し、受け入れなかったものを粛清して、強襲に備え、再充電すべく、近くの星にジャンプした。-SK]。最初の強襲の翌日、襲撃隊はタニス近くのパイレーツポイントにジャンプし、CCS〈インセンス〉を拿捕して、コブラの司令本部の真上に降下した。

 一週間以内に、全タニス星系は通信断絶した。定期的な交信は必要に応じてクラウドコブラ氏族とスターアダー氏族に送られたが、この星系はどう見ても暗黒階級と仲間のソサエティのいわゆる革命軍の安全な避難地となったのである。氏族への忠誠を誓っていた民間人たちは、遠方の島(アレクサンドラならコシラ島、スタチャならトチブラ)に追放されるか、処刑された。氏族宙域の周辺を放浪する盗賊階級いくつかにニュースが広まり始めたが、これらの船の位置は意図的に隠されていたので、ニュースが行き渡るまでに一年間近くがかかったのだった。6月、旧式のマコ級〈イングリッド・ブチャレフ〉がスタチャ近くに到着し、継ぎ接ぎのヘリウムシールをついに崩壊させた。この船は惑星の軌道上に牽引されて永久的な防衛ステーションとなったが、どの武器もかろうじて稼働するのみであったから、盗賊たちが持つわずかな戦闘機、シャトルの浮遊ハンガーとなった。

 その他、反乱の初期で奪取された4つの氏族世界のうち、バビロンがもっとも暴力的なものとなった。コヨーテのエプシロン、ガンマ銀河隊が、バビロンの飛び地領土から踊り出て、シャーク、ヘリオン、コブラの領地を蹂躙した。30時間以内に星系全体がコヨーテの手に落ちた。惑星を脱出できた戦士はごくわずかで、捕まってボンズマンとなったのは更に少なかった。ヘリオンの飛び地領土は完全に圧倒されて、防衛を任されていた2個星隊の戦士たちはヒジュラを求めて降伏しようとした。無視したコヨーテ軍の猛攻の前に、生き残った戦士は一人もいなかった。

 守っていた氏族のうち、シャークだけが頑強な抵抗を示した。エリートのデスストライク銀河隊(回収とアップグレードのため駐留していた)は、手痛い打撃を受けて最終的に退却した [第39打撃星団隊丸ごとと、銀河隊の優れた戦士多数を失った。-SK]。準軌道の商船数隻が記録したデータが、2週間後、どうにか外部に持ち出された。コヨーテはこれら民間階級の小集団に離れることを許可したのである [これらの民間人たちが、様々な遺伝子を持つものか、トゥルーボーンであることに気づかされたのは、後でのことであった。彼らのうち全員が、ソサエティのテストしていた遺伝子ウィルスに汚染されていたのである。-SK]。映像の大半は、スターコーネル・ジョシア・ウォーカー最後の瞬間を収めたものだった。彼のキングフィッシャーが、ソサエティのオムニメック1個セプトに倒されたのである[現在、我々はこのメックが、セプテシミアと呼ばれていることを知っている。当初、我が氏族のウォッチはパリアーと名付けていた。セプテシミアはまさにソサエティのワークホース兵器であった。-SK]。

 1月末までに、5つの世界――アイアンホールド、バビロン、キルケ、ダグダ、ハントレス――が通信不能となった。さらに、積極的な盗賊階級の戦士が打って出たことから、いくつかの世界のネットワークが程度は異なるが通信途絶した。これらの感情的な攻撃は、盗賊の生命を終わらせたが、ニューケント、ヴィントン、アルカディア、ホアード、トカーシャ、グラント・ステーションの重要な支局を破壊するのに成功した。これら星系の一部で、なんらかの規模で通信が失われた。それは大きな混乱とは言えないが、短期的混乱を植えつけるには充分だった。

[幾度にも及ぶ分析の後、名目上ソサエティが決めた優先順位に従って、特定の氏族が他より大きな打撃を受けたと決めることができる。たとえば、マーシャルでほぼすべてのスティールヴァイパー飛び地領土が通信を失った一方で、ファイアマンドリル、ゴリアテスコーピオンの領地はそのような妨害を受けなかった。ヴァイパーが最も大きな打撃を受けた。コヨーテが最小だった――いまではおどろくべきことではない。-SK]





突破口を叩く

 大氏族長は、ストラナメクティに奇妙なプロパガンダが溢れているという報告を受けたあとで、反乱、クーデターに加わった者は創設者の遺産を破壊した共謀の罪で殲滅の審判にかけるという布告を出した。数多くの剥奪、殲滅、放棄がなされているなかで、大氏族長の布告は、混乱にいくらかの秩序を打ち立てようという試みだった。各氏族が飛び地領での暴動と戦いながら、他の地での紛争で勢いを維持しようとするなかで、この布告はほぼ無視された。

 同時期、HPGのいくつかが技術的問題、システム・ウィルス、完全な破壊によって不通となった。ダグダ、ロシェ、ブリム、ストラト・ドミンゴ、ヴィントンはすべてネットワーク・グリッドとのコネクションを失った……ロシェとブリムのHPGは爆発によって崩壊し、ヴィントンはニューケントに似たネットワーク・ウィルスに感染した。ダグダとストラト・ドミンゴは技術的不具合で約4日間オフラインとなった。

 ブリムでは、ゴリアテスコーピオンはいかなるバッチェルも行わず、デルタ銀河隊の2個星団隊をスノウレイヴンの飛び地領に落とした。到着したスコーピオンは、シルフ工場と周囲の都市がレイヴンの戦士でなく、大規模なソサエティ軍に守られているのを見て、ショックを受けた [ここにいたレイヴンの戦士たちは、中心領域に行く価値がないと思われたソラーマか、レイヴンのソサエティメンバーから徴募された者であると推測する。-SK]。この反乱軍は正規のバッチェルと入札を求めたのだが、デルタ銀河隊ギャラクシーコマンダー、リンカーン・ディノールは拒絶し、スコーピオンに攻撃を命じた。銃撃戦は激しいもので、大規模なテラフォーミング研究地域にまで達した。流れ弾がタンクのいくつかを貫通し、結果として起きた爆発が防衛部隊の半数とスコーピオンの大半を吹き飛ばした。

 これを罠と見て怒ったディノールは、CGS〈アトロポス〉に配置につくよう命令し、残ったスコーピオンが退却すると、都市全体を破壊するように命じた。

 近くの飛び地領のスターアダーは恐怖が膨らんでいくのを見た……スコーピオンが200万人を蒸発させたのだ。スターコーネル・エリック・マルゲーラは、直ちにディノールに対する剥奪の神判を発動し、問題が即座に解決されるように求めた [マルゲーラが神判を発動したことは、リーヴィングが氏族だけでなく個人によってねじ曲げられ始めていたことを意味している。通信が崩壊し始めると命令系統もそうなった。-SK]。そうすることを余儀なくされたスコーピオンは、兵士の残り(第1エリダニ槍機兵隊と第8スコーピオン擲弾兵)をアダー飛び地領近くのベソルト平原に上陸させた。

 ふたつの氏族軍が衝突すると、三番目の正体不明の戦力が近づいてきた。後で確認されたところでは、それは少なくとも2個星団隊のソサエティ兵(ブリムのレイヴン飛び地領から来たようだ)だった。この侵入者は勝った方が平原から出てくるのを待った。

 激しく疲れ果てるような一時間の後、アダーの第178センチネルスが勝利を収め、数名のスコーピオン戦士をボンズマンとして取った。戦場の掃除が始まると、ソサエティ軍は横から打って出た。元気な兵士たちは先進的な装備を持って疲れ切ったアダーを圧倒するのに成功したが、損害は大きいものだった。

 ナイルズでは、クラウドコブラ氏族が2月半ばに到着し、リーヴィングの神判をマントラとして使って、まだ階級の神判に参加していないシブコのすべてを抹殺するために戦った。コブラが勝ったが、ホースとローアマスター率いる第412機械化打撃星団隊に甚大な損害が出た……コブラは退却し、第412は崩壊し、ナイルズのシブコの子供たち全員が死んだ。

 2週間後、コブラは仕事を完遂するために戻ってきた。ホースの守りが最小限であることを利用して、コブラはそこにいた戦士たちを容易に始末し [ローアマスター・アミロウは4日前に出発して無事だった。-SK]、ナイルズに残されていた武器と装備の大規模な備蓄を奪い取った。ホースの前線基地であるヌーボーパリに行く予定だった1個銀河隊分のオムニメックとバトルアーマーが、コブラ軍の5個星団隊を再建するために使われたのである。





内側からの腐敗

 4月後半、ヴァンターでアイスヘリオンが敗北した後、謎の病がマトロフとチストゥの血統を持つジェイドファルコン戦士たちを襲った。当初、ファルコンはこのウィルスを単に厄介なインフルエンザだと考えていた。なぜなら、ヘリオンに対する損害を算定するために、両ブラッドネームの戦士がズデーテンで顔を合わせた後に罹患したからだ [3073年後半まで、作られた遺伝子ウィルスだとは判明しなかった。ゴーストベアによって行われた重点的な研究の成果である。-SK]。たった3ヶ月で、チストゥのブラッドネームを持つ戦士のうち、生き残ったのはわずか5名だけとなった。ファルコン占領地域で他の事件が起きたので、プライド氏族長は空いたブラッドネームのブラッドライトの神判を保留とした。

 一見して偶然にも、「ヴォータンはしか」が惑星に蔓延し、コントロール不能となった。商人長ダニエルは5月半ばに星系の隔離を宣言した。4ヶ月にわたって降下船の往来は禁止され、病気の蔓延は自然消滅した。85万人の民間人が病死し、民衆はファルコンが惑星を死ぬに任せたと考えた。惑星の市民から隔離されていたにも関わらず、第1ファルコン急襲星団隊も罹患し、ヴォータンに駐留していた戦士のうち1/4が死亡した。

 ヴォータンでのトラブルの直後、ブラックアース、パシグ、サマーセット、キュセ、ドムペールのHPGが故障し、通信不能となった。キュセではその理由は明白だった……反氏族ゲリラグループの民間階級が破壊工作を行い [ロキによる仕事だといまだ考えられている。-SK]、施設の主発電装置を吹き飛ばしたのである。他の障害は、サマーセットとパシグでのコード破損から、ブラックアースとドムペールでの致命的な部品故障までがある [事件後のファルコンによる広範囲な分析によると、これらはすべてヘリオンとの短く残忍な戦争を終えた直後のファルコンのバランスを崩し、狼狽させるというエチエンヌ・バルザックの攻撃の第一波だった。-SK]。

 加えて、各辺境沿いの世界のファルコン航宙艦数隻が、不可思議な慢性的整備不良を起こした。一部はヘリウムシールが破れ、数隻は電子システムが故障し、少なくとも2隻がミスジャンプした。この事件は偶然の一致として片付けるにはあまりに多すぎるもので、ウォッチの目を引いた。本拠地から6ヶ月の旅路でファルコンOZに近づいたローアマスター・ケール・ペールシャーは、アルファ銀河隊にフォン・ストラング・ワールドでの合流を命じた。





暗黒の辺境

 10日間以内に、エグゾダスロードの交易路沿いにあるダイアモンドシャーク前哨地点3つが連絡を断った。アッテンブルックス、クテシフォン、スダ・ベイのすべては、小規模な侵攻部隊がやってきたと報告した後に連絡不能となった。スダ・ベイだけがかなりの規模の植民地を持っていた。他の2つは氏族の商人階級が運営する再充電ステーション、積み替え地点だった。シャークの交易輸送船団のひとつ(ヴィントンとの連絡が断たれたことから中心領域に帰還する命令を出された)は、クテシフォンで改造型ダヴィオン級戦艦を含む小規模な武装船団に出会ったと報告した。このシャーク輸送艦隊は、直後に音信不通となったが、この戦艦に関するデータを送信していた。〈ニコラ・テスラ〉と識別されたこの船は、戦闘機の攻撃によって損傷を負った。この壊滅的な爆発もまたシャークのデータを終わらせたものである。

 他の氏族交易船団は襲撃の犠牲となった。クラウドコブラはタニスに向かう航宙艦4隻の輸送艦隊を失い、ヘルズホースは最後のトカーシャ船団のひとつをスターアダーの激しい襲撃で失い、アイスヘリオンのスターロード1隻はミスジャンプを起こしたのか単純に消え失せた [このうち一部は、暗黒階級かコヨーテによるものだと確認された。スコーピオンは気圏戦闘機とバトルアーマーを積んだ2隻の航宙艦を、武装の優れた航宙艦相手に失った。その後、これらの戦闘機は、アレクサンドラの倉庫で見つかった。盗賊はパイロット不足だったために使われなかったのである。ブラッドスピリットの商船艦隊はアルカディア天頂ポイントでの待ち伏せをかろうじて逃れ、僅差の勝利のなかで3隻のうち2隻を失った。確実にソサエティの行動は氏族世界中に充分な混乱を引き起こし、これらの盗賊は大胆に攻撃を仕掛けるようになったのである。-SK]。

 アイスヘリオン氏族軍の残存兵力(急いでまとめられたベータ銀河隊を含み、〈コーテリ〉に率いられていた)もまた目標となった。ダイアモンドシャークの交易路にある中間地点、残ったわずかなHPGブイの存在するDS-822で、ヘリオン艦隊は驚かされた……バーロック氏族のゼータ銀河隊が現れたのである。〈コーテリ〉のHPG送受信装置が失われていたことから、本拠地でなにが起きているか知らなかったヘリオン艦隊は、バーロック軍に攻撃されると不意を打たれた。〈コーテリ〉はかろうじて難を逃れたが、次の目的地(氏族の星図にはない星系)に飛んだとき、K-Fドライブに損傷を負った。同行していた5隻のヘリオン航宙艦のうち2隻のみがバーロックの待ち伏せを避けるのに成功した。このグレイシャル・コームとスノーバードは12月、ヘクターに到着した。

 〈コーテリ〉、船員、乗員(35名の戦士とコナー・ルード氏族長含む)は、ミスジャンプで死ぬことになっただろう……もし、ある戦艦が7月に到着しなかったら。はるか昔に失われたと思われていたCSJ〈オシス・プライド〉が天頂ポイントに現れ、ヘリオンの船員たちを驚かせた。〈オシス・プライド〉はすべての通信を拒否しているように見え [船の通信システムが修理されてなかったからだと後でわかった。-SK]、〈コーテリ〉がルード氏族長を載せた小艦艇を派遣したときに応じた。ヘリオンは幽霊船とある種の合意に達したようだ。2隻はドッキングし、積荷・物資・人員を〈コーテリ〉から〈オシス・プライド〉に積み替えた [ルード氏族長の記録によると、移送の間、〈オシス・プライド〉は、少なくとも二度、到着した航宙艦を攻撃するために1個気圏戦闘機星隊を送り込んだという。1隻は破壊され、もう1隻(中心領域のトランプ級)は最初の掃射の後にジャンプアウトした。-SK]。約1カ月後、価値あるものをすべて〈オシス・プライド〉かその船員に渡した〈コーテリ〉は、無名の星の軌道上に押し出された。いくらか修理され、完全な船員を持ち、アイスヘリオンの支配下に入った〈オシス・プライド〉は、氏族本拠地への帰還の旅を再開した。ヘクターに到着したのは3074年の2月だった。





ファルコンを解体する

 6月、カッパ銀河隊のウォルドルフ司令部が、科学者エティエンヌの支配下にあったと後で判明される部隊に強襲された。ファルコン銀河隊の大半がほかのところに配備されていたので、この攻撃は完全な奇襲となった [攻撃した部隊は、3ヶ月にわたって、科学者が権限を持つ降下船によってバラバラに運ばれてきていた。-SK]。主要施設群に対する攻撃は残虐なものだったが、陽動でもあったようだ。ほぼ改造型プロトメックで構成される小部隊が、ヴァレンティの予備遺伝子貯蔵庫と周辺施設を確保した。ギャラクシーコマンダー・セレンディン・プレンティスが危機に気づいて部隊を動かすまでに、貯蔵庫はエティエンヌのものとなっていた。

 プレンティスの指揮二連星隊はヴァレンティを押し通って素早い残虐な逆襲を行い、貯蔵庫を奪還するために居住区域のいくつかを破壊した。エティエンヌ軍は降下船の機銃掃射で敵を足止めし、戦線を破って、プレンティスを殺した。この空挺攻撃により、都市の数個ブロックが破壊され、3000人以上の市民が死亡した。残ったわずかなファルコンの戦士たちは立ち止まって再結集することなく、ほとんど連携を持たぬまま前進した……彼らのただひとつの目的は、貯蔵庫から侵略者を排除することだった。最後のファルコン戦士は施設から1ブロックのところで倒れた。この逆襲は、首都の人口密集地域を破壊し、南風によって他の部分を炎上させただけだった。

 パラコイラでは、1個星団隊以上の兵士たちが、惑星で最大のドーム都市、ニューペトラを包囲した。近くの地熱発電所からのケーブルを破壊したあと、エティエンヌ軍は都市を人質として、中にいた第5タロンのソラーマ戦士たち数名に降伏を求めた。ファルコンは拒絶し、強襲に備えてドームのエアロック近くで防衛の準備を行った。

 予備貯蔵庫を手中にし、1400万の民間人を人質にした、科学者エチエンヌはズテーテンのプライド氏族長にメッセージを送った。彼は彼女に氏族の支配権を科学者階級に明け渡すように要求した [噂によると、プライド氏族長は10分間笑い続けたあと、最初に見かけた科学者を撃ったという。-SK]。





最後通牒

 マーサ・プライド氏族長へ

 貴君が簡潔を旨とすることから、すぐ本題に入る。

 ウォルドルフの予備遺伝子貯蔵庫は我が手中にあり、ファルコンの遺伝子遺産の61.8パーセントを直接的に利用できる状態にある。また、ヴァレンティの大半を支配している。少なくとも、貴君の戦士たちが、私を排除するための攻撃で破壊しなかった部分を。

 さらに、パラコイラのニューペトラも包囲している。わからないなら説明すると、この都市はファルコンが占領域内に確立した軟弱な鉱業ネットワークの重要地点であり、レーザー技術に使う焦点レンズとエミッターの72.4パーセントを供給している。当地を失うことはファルコンの戦争進行にとって災厄的であり、攻撃は鈍化することになろう。

 貴君は我らの動機について聞く耳を持たず、私を氏族本拠地と中心領域の楽園のあいだに漂う宇宙の藻屑にしてくださるであろうから、いま私は貴君がわかる言葉で語るのみである。その地位から下りて、戦士階級を降格し、ケレンスキーのヴィジョンの真の代行者に道を譲るべきである。

 さもなくば、ニューペトラは崩壊し、途方もない数のファルコン戦士が生まれる前に死に、貴君の周囲は死に満たされることになろう。

 ――科学者エチエンヌ・バルザック、ウォッチ・アーカイブ、10063072


 6月18日、ローアマスター・ケール・ペールシャーと、アルファ銀河隊の3個星団隊がウォルドルフに到着し、素早く貯蔵庫を包囲した。この施設に損傷を与えたくなかったウォッチ軍は、反乱軍とのにらみ合いに甘んじた。エレメンタルの小規模な部隊が、どうにか見つかる前に歩哨をすり抜けた……続いて起きた銃撃戦で、反乱科学者部隊の半数近くが施設を離れ、急ごしらえの待ち伏せを行った。

 降伏は選択肢にないとわかっていた科学者軍は、6月30日、貯蔵庫に火をかけた。アルファ銀河隊は施設に急き、地雷原、爆発物をしかけた壁など、急ごしらえのブービートラップに引っかかった。犠牲者を出したにも関わらず、ウォッチの戦士たちはすぐに残った反乱軍を片付け、燃えさかる炎を消化した。遺伝子クーラーのふたつが損害を受け、いくつかの遺伝血統が失われたが、施設の大部分は――そして少なくとも外見上――何事もなく無事に取り返された。しかしながら、反乱軍が遺伝子に改竄を加えていないという証拠がなかったことから、プライド氏族長はアルファ銀河隊に施設を破壊するように命令した。ウォッチ戦士たちは命令を実行し、すぐに貯蔵庫は破壊された。

 パラコイラでは、CJF〈ホーク・アイ〉が到着し、ニューペトラの軌道上に入った。スターアドミラル・イヴィック・フェトラドラルが包囲軍に最後通牒を与えた。退却し、降伏するか、全滅するかというものである。創造的に書かれた否定の文言を受け取った〈ホーク・アイ〉は、その艦船級砲列を開き、ドームと取り囲む包囲軍を蒸発させた。[フェトラドラルによると、プライド氏族長が都市の破壊を命令したという。なぜなら、科学者たちが戦士階級を壊滅させる空気感染遺伝子ウィルスを開発したことにウォッチが気づいたからだ。感染した可能性のあるニューペトラ市民をそのままにするよりも、燃やし尽くすことを氏族長は決断したのだ。-SK]





ザボ陥落

 本拠地世界で発生した混乱を利用しようと決意したクラウドコブラ氏族とゴリアテスコーピオン氏族は、3072年6月、ハントレスの休眠遺産いくつかをリーヴィングするために動いた。氏族ふたつは、スモークジャガー氏族の休眠遺伝血統を収めたザボ山の巨大施設を目標とした。ジャガー殲滅後、いくつかの血統はいくつかの氏族によって獲得されていたが、大半は単純に巨大な山岳施設の冷蔵保管庫の中に残されていた。

 大氏族長によるリーヴィングの呼びかけを真剣に受け取ったシュタイナー、スボーロフ両氏族長は、遺伝子血統を永遠に取り除くことに同意したのである。2氏族は容易に施設を奪ったが、近くで野営していた小規模な暗黒階級軍からいくらかの抵抗に遭遇した。盗賊がいたことは驚きであったが、両氏族星団隊はたやすく盗賊を撃破し、この山を勝ち取った [後の証拠によると、ザボ山はソサエティ施設となり、大規模な遺伝子試験が行われていた。-SK]。両氏族は修理するのに充分なアイソーラだけを得て、山で発見したすべての遺産を残していった。6月30日、彼らは内部からの起爆と軌道攻撃によってザボ山を破壊した。

 ちょうど山の施設が崩壊したとき、かつてファルコンエリーが放棄した地域から盗賊の小規模な部隊が現れた。先進的な空中プロトメックの1個セプトで武装した盗賊は、どうにか第14軽機兵隊の1個二連星隊を撃破するのに成功し、それからコブラの戦闘機とバトルメックが群がってくるのを見た。最終的に無意味な行為だったが、この攻撃によって両氏族はハントレスで他のソサエティの巣や技術を調査せざるを得なくなった。

 スコーピオンが第14軽機兵隊、第35胸甲機兵隊を放棄されたジャガーの飛び地領土いくつかに動かしたとき、コヨーテ軍が近くのパイレーツポイントに姿を現した。コヨーテは素早く動き、数個二連星隊をアビズマルに落とし、スコーピオンのウォーホーク工場と周辺の資源施設を奪った。すぐに使える資源(ウォーホーク・オムニメックとポッド含む)がはぎ取られ、発電所は破壊された。スコーピオンの反応は素早いもので、第35胸甲機兵隊が包囲された飛び地領に移動したが、惑星から脱出するコヨーテのしんがりとなんとか交戦できただけだった。

 軌道上の〈アンドロメダ〉と〈オルフェウス〉は、スターアドミラル・パテル・スボーロフの慧眼のおかげですでに攻撃ポジションに入っており、出発する降下船の半数を捉え、破壊するのに成功した。コヨーテの〈リリントレス・パースート〉が迎撃に動き、〈アンドロメダ〉を舷側射撃で破壊した。〈オルフェウス〉を気圏戦闘機と奇妙な新型羽根付き強襲プロトメック(APM)で食い止めたコヨーテは、このスコーピオン艦がハントレスの大気圏に突っ込んで分解するまで攻撃を加えた。残ったコヨーテの降下船は襲撃艦隊と合流するのに成功した。〈リリントレス・パースート〉とその護衛戦闘機は、4日後にジャンプアウトするまで、生き残ったスコーピオンの戦闘機を寄せ付けなかった。

 困難に直面したアビズマルのスコーピオン領地(コヨーテによって破壊され炎上していた)はルーテラに移された。使用できるコブラ、スコーピオン船のすべてを持ってしても、この移動は二ヶ月を要したことだろう……もし、突然の熱病の発生が民間人の間に蔓延し、1ヶ月で200万人を殺さなければ。スボーロフ氏族長には、惑星全土への感染を防ぐために飛び地領土の閉鎖を命令するしかなかった。感染した民衆と接触した戦士たちは隔離され、試験のためにロッシェ(1年以上、スコーピオンの科学者が抗ウィルス薬を開発していた)に送られた [スコーピオンは抗ウィルス薬と共にアビズマルへと戻ったがあまりに遅すぎたのである……大陸全土に人命は残されていなかった。-SK]。

 ソサエティがハントレスで遺伝子貯蔵庫を失ったのは大打撃であったようだ。2ヶ月以内に、モラレス、ベケット、エーカーの血統が、狙いを定めたダグダ脳炎で死亡したのだ。感染は本拠地中に広まり、これら遺伝子のうち少なくとも半分を持つものは全員が罹患した。ホーマーの損失は最悪のもので、トロイだけでも8000人以上の民間人が死亡した。





シャークのあごをつかむ

 ケレンスキー星団の周辺で活動し、エグゾダスロードを下っていったバーロック氏族は、容易にP9(放棄された貨物がまだあったウルフの前哨地)を奪取した。ゲント(スノウレイヴンの元再充電地点)でもまたバーロックはわずかな補給物資を捕獲し、それから3つのタスクフォースに分かれた。小艦隊の大多数はアレクサンドラに残り、その一方で2個星団隊が枝分かれして、知られている氏族の商人前哨地を奪って、タニス星系から50光年以内にあるHPGの中継器と再充電基地を破壊した。

 スターアドミラル・オルソン・ンガ指揮下のバーロック軍はサロニカでトラブルに突っ込んだ。天頂点に到着したバーロックはダイアモンドシャークの大規模な分艦隊がいるのに驚いた。このシャーク艦隊(最後にヴィントンを出たもののひとつ)は、商人階級の落伍者を待っていた。シャークの航宙艦2隻は軌道修理ステーションを伴っていた。ダイアモンドシャーク氏族のスターアドミラル・ロリ・ホーカーは、未知の艦隊が近くのシャーク基地を叩こうとしていると考え、〈ボールド・ヴェンチャー〉と〈スター・スイマー〉に攻撃に移るよう命じた。中心領域に向かう民間人と重要な部品・物資でいっぱいだったダイアモンドシャーク氏族の航宙艦60隻が彼等の背後にいた。

 〈ヘザーリントン〉と10個星隊近い戦闘機(タニテの志願兵とバーロックのシブコたちが乗っていた)が中心となったバーロック軍は遅延行動で戦い、航宙艦が緊急充電するのを待った。彼等は激しく戦ったが、〈スター・スイマー〉が航宙艦に近づく前にある程度の損害を与えられただけだった。ホーカーは少なくとも一隻の船を捕獲しようとし、〈スター・スイマー〉を航宙艦アーザン・ヴェゼルに近づけた。この船の船員たちはパニックに陥り、K-Fドライブを動かした。〈アーザン・ヴェゼル〉のハイパースペース・フィールドが〈スター・スイマー〉のドライブコアによって歪められると、両船はK-Fドライブに壊滅的な損害を被った。

 バーロックの航宙艦5隻のうち2隻は脱出した。1隻は〈ボールド・ヴェンチャー〉に降伏し、1隻は傷ついた〈スター・スイマー〉の激しい舷側射撃で爆発し、3隻目はミスジャンプした。ホーカーはタスクフォースの安全が保たれたと信じて、放棄せねばならなくなった〈スター・スイマー〉から重要な部品を取り外しはじめた。[ホーカーはバーロック目撃の情報を氏族本拠地に送ったが、信号はヴィントンにたどり着く前に消失した。輸送船団と本拠地のあいだのHPG中継器がすでに通信不能となっていたからだ。-SK]

 2週間後、7月の半ば、シャークはまだサロニカに集まっていた。タジス(わずか70光年離れているだけだった)から呼ばれたバーロック主力艦隊がシャークの輸送船団、71隻の中に到着した。〈ヘザーリントン〉〈アドミラル・ラッセル・ンガ〉〈ストーン・クラブ〉、30隻近い降下船、8個気圏戦闘機星隊はシャークの商人たちのあいだに穏やかなパニックを引き起こした。スターアドミラル・ホーカーは素早く反応し、20隻以上の戦闘可能な降下船を商人たちから集めて、〈スター・スイマー〉、〈ボールド・ヴェンチャー〉に加わらせた。〈スター・スイマー〉はいくつかのシステムを取り外していたが、武装の大半を載せたままであり、移動可能だった。ホーカーはそれからバーロックを考えられるすべての方向から叩いた。

 戦闘はシャーク艦隊の内外で発生し、撃てるところにいた船に途方もない損害を引き起こした。バーロックが勝利したが、代償も大きいものだった――〈ヘザーリントン〉と、半分近い降下船戦力が破壊された。両シャーク戦艦とほぼすべての戦闘船がバーロックの犠牲となり、残った48隻の商船、非武装の無力だった者たちがアイソーラ(戦利品)となった。この報償のなかには、軌道修理ステーションも含まれていた。バーロックはステーションが一番重要だと考え、タニス星系に持ち帰るのを保証するために戦士たちを送り込んだ。監視のなかったシャーク船15隻がどうにか輸送船団から抜け出すのに成功し、深辺境へと散っていった。





ほどかれたヴァイパー

 8月、コヨーテ艦隊がニューケント上空にあらわれ、クファール氏族長が小派遣部隊と共に到着した。アンドリュース氏族長はコヨーテが助けを求めているものだと考えた。なぜなら、あちこちの飛び地領土で行われている作戦の多くがコヨーテ氏族によるものだとウォッチが報告していたからである [おそらく、アンドリュースはコヨーテが強襲で大打撃を受け、同盟相手を探していたものと信じたのだろう。-SK]。ヴァイパーは、クファール氏族長がブレット・アンドリュースのブラッドネームに対する剥奪の神判を宣言すると、いくらか驚かされた。コヨーテが出した理由は、アンドリュースが内部の危機と戦うために氏族を結集させることに失敗し、よって大氏族長失格であり、アンドリュースの名前に値しないというものだった。

 クファール氏族長は、自身が間違っていたことをすぐに知った。神判が始まると、アンドリュースはヴァイパーの議場内で5分以内に彼を殺したのである。

 それにも関わらず、アンドリュースはコヨーテの告発に若干の意味があることを知っていた。彼はローアマスター・ストークスと、同盟者であるスターアダーとクラウドコブラのウォッチに、他の星系の状況に関するさらなる情報を集めるように命じた。明らかになったのは、氏族世界の多くが音信不通になっているという恐怖と、それらが暗黒階級や階級反乱軍のたぐいの前に陥落したという噂や断片的な証拠だった。もうひとつの事柄もまた明らかになった……アイスヘリオン氏族の軍隊が奇妙にも本拠地にいないのである。ヘリオンの守られてない大規模な飛び地領と資源は容易に奪うことが可能で、ヴァイパーと仲間たちの戦力を素早く再建できるだろうと思われた。ンブタ氏族長とシュタイナー氏族長も同じ結論に達した。

 各氏族――スティールヴァイパー、クラウドコブラ、スターアダー――は、ヘリオンに吸収の神判を宣言した。本拠地で危機が進行中であるのを理由として、アンドリュースは大氏族長としての力を使い、これら3氏族が吸収を行うものと決定した。HPGがいまだダウン中であることから、このメッセージは航宙艦の伝令、商人階級を通して伝えられた。ネットワークが崩壊しているあいだ、族長会議すら招集することができなかった。大氏族長は必要とされていたことをなした。

 ニューケントで第44ヘクター機士団の1個二連星隊を破ったあとの9月、ホスキンス副氏族長(ヴァイパー)はベータ銀河隊、ガンマ銀河隊と共に、ロンデルホルムに到着した。適切なバッチェルが宣告され、一人の年老いたソラーマ戦士がヘリオンとして応じた。ヴァイパーの上陸に対抗した戦力はなく、飛び地領4つがすぐに捕獲された。ホスキンス副氏族長がスピローグの外部に到着したとき、状況は最悪のものとなった。

 スピローグのヘリオンは、クロンダイク作戦の時代より使われることのなかった固定式の防衛を用い、恐るべき防衛を行った。化学弾頭がホスキンス副氏族長の幕舎のただ中に落ちたとき、ヴァイパーはすぐにヘリオンをデズグラであると宣言した。ガンマ銀河隊がスピローグの大半を破壊し、復讐を行った。都市を征服したあとでようやく、ホスキンスはロンデルホルムを守っていたのがヘリオン軍ではなく、ヘリオンに化けた科学者のグループと暗黒階級の仲間ということに気づいたのである。

 コヨーテはヴァイパーのロンデルホルム侵入を快く思わなかった [ソサエティがここに遺伝子試験センターを持ち、コヨーテの戦士によって守られていたのではないかと我々は疑っている。この施設はヘリオンの民間人を被験者として使っていた可能性が高い。-SK]。9月10日、コヨーテの第27打撃星団隊、第44戦闘星団隊が、ホスキンス副氏族長の陣地を叩き、ヴァイパーのベータ銀河隊にかなりの打撃を与えて、第195打撃星団隊を一掃し、ホスキンス副氏族長を負傷させた。バッチェルも名誉ある戦いもなかったこの戦闘は、ガンマ銀河隊が全隊でコヨーテの左側面を叩くと、コヨーテ側に不利になっていった。ヴァイパーの第428星団隊はとてつもない損害を出したが、コヨーテ軍を足止めするのに成功し、銀河隊の残り部隊がコヨーテを倒した。

 ヴァイパーは捕まえたメック戦士、エレメンタル乗りたちの中に奇妙な者たちを見つけた。彼らは外見も行動も普通ではなく、氏族の優れた集合体というよりは、遺伝子捨て場のようだった [あとに我らの科学者たちが伝えたところによると、これらの遺伝子的な奇形たちは、特殊な化学物質を服用した、まさに見捨てられた者たちだったのである。このような情報は、暗黒階級の下劣な犯罪者たちを抹殺するという我々の主張を後押ししたのみであった。-SK]。これを知ったホスキンスは、この星系から汚染されたであろうものを抹殺していった。直ちに降伏したヘリオンとコヨーテの下層階級たちは殲滅を免れ、他のヴァイパー領土に分かれていった。そうしなかった者たちは素早く静かにリーヴィングされた。9月17日までにロンデルホルムはヴァイパーの支配下に入った [我々の概算によると、ヴァイパーは殲滅を行うなかで、20万人以上の民間人を虐殺した。さらに語られるところでは、ヴァイパーは発電所、食料庫、そのほかの重要施設を破壊し、700万人近い民間人に緩やかな死を与えた。我々の情報源が示唆したところによると、ヴァイパーはこの惑星の民間人の多くが何らかの形で遺伝子実験に関わっていると信じているとのことだった。その見通しがあまりに恐ろしかったので、彼らは殲滅という究極の手段を選び、汚染を除去するために民衆を死に追いやり、本拠地が「通常」に戻ったあとで移住する計画を持っていた。-SK]。

 ヴァイパーのアルファ銀河隊は、アトレウス、ホアード、フォスターのヘリオン飛び地領いくつかを解放し、ロンデルホルムで見かけたような遺伝子異常者たち(操縦していたのは、しまい込まれていた旧式装備と新型オムニメック、プロトメックの組み合わせ)の他にはほとんど抵抗に遭遇しなかった。新型兵器はすぐに捕獲された……生きたまま見つかった遺伝子異常者たちは全員が殺された。

 ロンデルホルムと同じく、ヴァイパーによるフォスターのヘリオン領土奪取で、コヨーテは例外的な処理を行った。コヨーテのガンマ銀河隊の残存戦力 [元スノウレイヴン戦士たちによる、第7、第8予備星団隊からなる。-SK] が、トルソンの外部でアルファ新兵星団隊を待ち伏せし、殲滅したのである。両コヨーテ星団隊は、直後に大氏族長とアルファ銀河隊に破壊されたが、ひとつをのぞいてすべてのコヨーテ飛び地領が自爆したのである。

 ヴァイパーの指導部にとって、ソサエティ、コヨーテ、その腐敗した戦士たちが狂気で汚染されていることは、明白となった。11月、大氏族長は他の氏族長たちに証拠を示し、ソサエティ、暗黒階級、そして彼らを匿うか支援した民間人たちは、殲滅の神判の下、名無し氏族と同じ扱いを受けることを宣言した [フォスター、ロンデルホルムの事件があったにも関わらず、コヨーテは大氏族長の殲滅の呼びかけに含まれなかった。なぜなら、ヴァイパーは氏族の全体がソサエティと共謀しているとの決定的な証拠がなかったからだ。ヴァイパーの氏族長たちは、彼らが間違っていたときに攻撃に晒されるのを望んでおらず、コヨーテが自壊するのを待つと決断したのである。-SK]。

 12月に最悪がスティールヴァイパー氏族を襲った。

 ホスキンス副氏族長が最初に倒れた。数日かけて、謎の病が副氏族長を内側から沸騰させたかに見えたあと、彼女は死亡した。大氏族長は他のヴァイパー戦士たちが同じ病気にかかったとの報告を受けた。そのすべてが、ホスキンス、メーサー、タムの遺伝子遺産を持つものたちだった。ヴァイパーの科学者たちはすぐに感染源を特定し――遺伝子的に操作された血液ウィルスである――特効薬を作成した。特効薬が届く前に、ニューケント、ロンデルホルム、フォスター、アトレウスで、これら遺伝子を持つ9万人近い民間人が死亡し、3個星団隊分近いスティールヴァイパーが運命を共にした。





信号消失

 3072年9月中、プライド氏族長が科学者階級への殲滅の神判を開始すると、ジェイドファルコン占領域の各世界が混乱に陥った。民衆に気づかれ、パニックが起きるのを最小化するために、氏族の指導部はウォッチの戦士たちによる殲滅の開始を承認した。情報部の戦士たちはできるだけ静かに処刑を実行するよう命令を受けた。同時に各世界の氏族指揮官たちは、HPGと各放送センターを出入りする情報の締め付けを強化するよう命じられた。

 ウォッチは、たとえ相手が無罪を訴えようとも、どの所属であっても、疑わしい情報部員を罰する完全な権利を与えられた。ウォッチのチームが到着してから1週間以内に、氏族の科学者たちはシステマチックに抹殺された。中心領域出身の民間科学者は、知的権威であるか、氏族科学者の研究チームに加わって無い限り、捨て置かれた。氏族科学者は星系から星系に移動するものなので、ほとんどの世界で、科学者が消えたことにはほとんど注意を払われなかった。

 必然的に、科学者に対する静かな殲滅の神判は、一般の目にさらされるようになっていった。これらの世界において、民衆は知識人とメディアに対する残虐な取り締まりが行われるのを目撃した。この攻撃は影から行われたもので、ここ数世紀で見られたいかなる紛争よりも暴力的なものだった。下層階級の粛清が進むごとに、民間人は反応して、反撃を開始した。これらの世界――ベータVII、デルフ、アリーナ、モンマロー、ズデーテン――では、反氏族グループが新しい人生を発見した。新たに暴力が発生した。ファルコン世界の多くで、通常の活動が完全に混乱した。エチエンヌによる科学者運動もまた、これら温床となっている世界で盛り上がりと新しい志願者を得た。粛清の犠牲者の大部分が氏族人であったことは問題ではなかった。……大勢の生命が失われたことと、数十年前の自由を覚えていた中心領域人の感情が、暴力に火を付けたのである。





ヘリオンの衰退

 この年、すべての氏族がなんらかの激動を経験した。問題がはじまったのは年初からで、8月までにHPGの大部分と、氏族の飛び地領土を結んでいた通信ネットワークが通信不能にさせられたのである。HPG基地のいくつかは技術的問題か戦闘の損傷でダウンした。多くはHPGの通信に乗って星系から星系に飛び回るメインフレーム・ウィルスの犠牲になった。潜伏期間があったことから、ウィルスがネットワークの大半に感染するまでは数ヶ月を要した。ウィルスがHPGシステムを積んだ航宙艦、戦艦に感染したケースもあった。一部はHPGが単純にシャットダウンし、その他の場合は、全ネットワークが混乱するか、使用不能となり、少なくともひとつのケースでは、ウィルスが移動用ドライブに偽の信号を送り、船を回収不能な深宙域まで運んだ。

 アイスヘリオン氏族軍の大半は中心領域にいたので [システマチックに虐殺された。-SK]、ヘリオンの飛び地量の多くは、生じたカオスの影響を最も受けた。同じ星系にいる他の氏族たちは、ヘリオンの守りが薄い [あるいは、完全になかったことがあった。-SK] ことに気づき始めた。通信が大規模に妨害されていたことから、地元の氏族指揮官たちのなかには近くのヘリオン領を奪う決断を下したものがいた……たとえそれが食料と原材料を自分たちの民衆に供給するだけのものであっても。

 タジスでは、コヨーテとダイアモンドシャークの両氏族が、市民のために多量の食料をかけて戦い、勝利した。隣人相手に倉庫の中身を失ったことで、ヘリオンの飛び地領は飢え始めた。彼らの最後の戦士はシャークとの神判で死んだので、ヘリオンが失われた資源を取り戻す方法はなかった [飛び地領はかろうじて短いあいだ維持できるだけで、商人階級による毎月のホアードからの食料輸送に完全に頼っていた。-SK]。謎のメインフレームウィルスに浸食されたHPGは作動不能だった。トゥルーボーンの技術者と労働者による大規模な部隊が、近くのコヨーテ飛び地領に移動し、飢えた民衆のためにいくらかの配給を奪おうとしたが、ほとんど即座に倒された。

 10月に標準の商船隊が到着したが遅すぎた。飛び地領の80パーセントが、自殺、飢餓、共食いで死亡した。ヘリオン各階級の指導者たちが発見されるに従い、事件が起きたのはタジスだけでないと判明した。ほぼすべてのヘリオン領土が何らかの形で隣人、もしくは盗賊階級侵攻軍に包囲された。

 ハントレスでヘリオンが失った飛び地領土は外部の軍隊に対してではなく、近くのブライアンキャッシュから活動しているソサエティ・セルに対してだった。ソサエティは、8月、暗黒階級軍が飛び地領を襲撃するため到着したときに動いた。第180攻撃星団隊の1個三連星隊が盗賊を迎撃するために動き、先進的なプロトメックによる小規模なソサエティ軍に囲まれて驚いた。この三連星はすぐに破壊され、盗賊が飛び地領を奪い、ソサエティは民衆に自らの秩序を押しつけた。

 ハントレスのヘリオン領にいたトゥルーボーンの下層階級の多くは、反乱グループから戦いに加わるよう誘われた。暗黒階級軍は素早く新たな志願兵とブライアンキャッシュIH-902からの装備で、3個セプトを強化した。[後で判明したことによると、これらトゥルーボーンの多くには選択肢がなかったのかもしれない。ソサエティが開発した血清と薬剤の投薬によって、彼らは中毒となり、戦闘しか考えられない血に飢えた人間となった。ソサエティはこの渇望をすぐに使って、惑星の隣人たちに向けた。-SK]

 暗黒階級の盗賊はハントレスの氏族領地を一掃し、守りの薄いファイアマンドリル、スティールヴァイパー領土を立て続けに素早く奪った。だが、スターアダーに対してはそううまくいかなかった。惑星唯一のHPGがソサエティの手にあったことから、アダーの第983センチネルスは、仲間たちの救援がやってきて敵を撃退してくれるとの一縷の望みを抱いて、最後まで戦った。スターコーネル・オンカー・ポリチェクは最後の戦士が倒れるまで、6週間にわたって断固たる防衛を行った。[この状況で書くべき価値のあることは、アダーのスターコーネルが飛び地領内の技術者階級、労働者階級のフリーボーンとトゥルーボーンたちに武装を許可したことである。彼らの多くは急遽作られた歩兵星隊群の人員を埋めたが、メック戦士やエレメンタルのようないくらかの栄光を得るのに成功したのは数名だけだった。アダーは、この氏族のドクトリンに明白に違反する指揮官たちの行動について発言していない。なぜなら部隊全体が破壊されたからだ。-SK]

 バーセラで、ヘリオンはもう少しうまくやった。資源と再建を求めていたブラッドスピリット氏族(オナーに駐屯していた二線級部隊で増強されていた)が打って出て、バーセラにあった4つのヘリオン領土のうち3つを素早く奪いとった。ヘリオン戦士の1個二連星隊のみが惑星全体におり、彼らはこの6ヶ月氏族指導部からの指示を聞いておらず、一連のレスリングマッチを通して持ち場を守ることを選んだ。スピリットは熱烈にこれを受けた。

 ヘリオンの残った領土、グレイシア・ロックは、ヘリオンとスピリットの神判について聞き及んだスティールヴァイパー氏族によって素早く奪われた。この惑星にあるヘリオン最大の都市を奪った余勢を駆って、ヴァイパーは攻撃を行い、マティラ=キャロル族の主要工業飛び地領、モルテンを奪った。第61ファイアストーム星団隊の半数近くがこの地を守って死んだが、最後には戦闘を放棄した。撤退したマンドリルはモックヴァで第1ファイア強襲星団隊と遭遇した。報復したかったが、ヴァイパーを警戒したマンドリルは、ブラッドスピリットの第79ブラッド軽機兵隊に奪われたばかりのレストンに移動して押し入った。素早い戦いのなかで、アイスフェレット工場群近くの倉庫いくつかが爆発した [両氏族は互いに相手が誤射したと非難した。直後に暗黒階級が強襲したことを考えると、この爆発は計算された破壊工作である可能性がある。-SK]。両軍はお互いが神判の精神に違反したと主張し、切り裂きあった。ブラッドスピリットが勝利したが、1個三連星隊以上が犠牲となった。

 それから一ヶ月足らずの10月後半、盗賊階級軍がバーセラに到着し、新ブラッドスピリット飛び地領の近くに上陸した。1週間以内にヴァイパーの飛び地領のみが、暗黒階級の支配を逃れ、戦線が明確に引かれた。両陣営の大規模な損害は、はらわたが煮えくり返るようなデタントを生み出し、氏族上層部に交信する方法がなかったことから [ヴァイパーの航宙艦は盗賊階級の戦闘機に破壊された。-SK]、事態は膠着状態で残った。

 マーシャルとヘクターでは、ヘリオンの飛び地領はひどく守りが薄かった。暗黒階級とソサエティはこの状況を利用し、ヘリオンの領地の大半を素早く奪い取った。飛び地領土は公に彼らの所有物であると宣言されなかったが、変わらず単純な氏族の効率性を持ってして運営され続けた――アイスヘリオンの名称すら変わらなかった。[ソサエティがこれら二つの世界でヘリオンの身分を乗っ取り、偽り続けた理由はおそらく今後もわからないだろう。もしかしたら、彼らはヘリオンが戻ってきて内側から崩壊するのを待っていたのかもしれない。「何気ない光景に隠れる」のを選んだ可能性もある。この詐欺はうまく機能し、ヘクターにある一部のヘリオン飛び地領は、コントロールを失ったことに気づきさえしなかった。-SK]

 12月前半、ファイアマンドリルはマーシャル領が思っていたよりも固く守られていた事実をすぐに知ることとなった。第301ファイアブランド星団隊は、餓えた都市から押し寄せ、強引にイメッシャとオメッシャを叩き、外部の惑星への出荷を待っている大規模な食料庫を奪おうとした。この一ヶ月商人階級の船は到着しておらず、倉庫はあふれる寸前だった。

 第301はイメッシャで暗黒階級の2個セプトの砲列にまっすぐ突っ込み、ただちに行動不能とされた。捕まったマンドリルの戦士たちは暗黒階級に加わるのをまったく望まず、代わりにソサエティにテスト用として与えられた [この処置は、様々な小競り合いで捕らえられた氏族戦士への対応としては一般的になった。彼らに加わるのを望まなかったものたちは、液のしたたる注射針を向けられるか、「研究所のネズミ」として使うためどこかへ連れ去られた。-SK]。マンドリルの飛び地領から適切な防衛がはぎ取られたので、盗賊階級は攻撃を加えた。都市は包囲され、トゥルーボーンの民間人たちが集められて連行され、軍事的に価値のある物資は持ち去られ、それから撤退が行われた。残された民衆たちは自活せねばならなかった。この襲撃で捕獲されたトゥルーボーンは何らかの形で暗黒階級とソサエティに加わった。大半がタニスに運ばれた。

 3072年以降、ルード氏族長からの連絡がないことに懸念を示したアイスヘリオンのローアマスター・ジョナス・ケージは、11月前半にヘクターで戦略評議会を開いた [この「評議会」は奇妙なもので、普通なら氏族評議会に参加できるのはブラッドネーム戦士だけだが、そのときに参加可能な全戦士が集まったものと思われる。それからケージは戦略評議会の提案を認可するため氏族評議会に諮っただろう。ケージが公式の氏族評議会を開催するのを拒否した可能性はきわめて高い。なぜなら、そうすると欠席者、行方不明者が死んだと宣言したと解釈されるかもしれないからだ。-SK]。この会議には53名の戦士が参加し、ブラッドネーム持ちは29名のみだった。ヘリオンに残された戦力の大半である。氏族本拠地が崩壊し、飛び地領土のいくつかが通信不能なことから、ローアマスターは生き残った戦士たちにどうするべきかを問うた。

 議論はほぼ二日間にわたって続いた。最後に、戦略評議会は投票を行い、氏族軍の残りが戻るまで、現在の指導部を維持し、氏族の領土を統合して、いくらかの結束を維持すると決めた。ローアマスター・ケージはスターコーネル・ブレイン・タニーを補佐として昇進させ、この動きは強い賛同を得た。それから生き残った部隊に対し、ヘクターへの退却が命じられた。この世界には強力な防衛が必要とされた。なぜなら、ヘリオンの主星が脆弱だと他の氏族に知れたらすぐに攻撃が来るとケージは知っていたからだ [皮肉にも彼らが狙われてると気づいたのは最後だった。-SK]。

 3072年末までに、アイスヘリオンは残ったシータ銀河隊を増強するために、ソラーマとシブコの戦士たちから1個星団隊を集めることができた。ヘクターだけが氏族の保有領土として残された。あまりに多くの領地を失ったことから、商人階級が得られそうな資源ならなんでも交渉しようとしているあいだに、厳しい配給と生産の優先順位が課された [ヘリオンと暗黒階級の共謀についての噂が広まっていたことから、これらの交渉は多くの失敗を残した。あるヘリオンの商戦艦隊はバビロンにたどり着くとコヨーテ戦艦に破壊された。-SK]。ヘリオンはヘクターにあるもので間に合わせるのを余儀なくされた。幸運にもルード氏族長が6週間後に到着し、〈オシス・プライド〉と、第200攻撃星団隊の生き残り、3個三連星隊を連れてきた。

 直後に氏族評議会が開かれ、ジョナス・ケージが新しい副氏族長として、ブレイン・タニーが新しいローアマスターとして迎えられた。





収縮

 年末、本拠地にあるレイヴン最後の飛び地領は混沌に屈することとなった。ヘルゲートが陥落したのは、スティールヴァイパーのアルファ銀河隊が艦隊のジャンプドライブへの再充電のために到着したのがきっかけである。将来の強襲に備えて、静かに惑星を監視していたコヨーテの小艦隊がパニックに陥り、ヴァイパーを攻撃した。この海戦は短く野蛮なものとなった……コヨーテは〈ハウリング〉を失い、航宙艦1隻のみがなんとか脱出に成功した。

 なぜコヨーテがこの星系に潜んでいたのか、興味を引かれたギャラクシーコマンダー・キンバリー・ホスキンスは、調査のため惑星に第2ヴァイパーガードを送り込んだ。惑星に上陸するまでにヴァイパーの降下船が傍受した通信によって、惑星全土が混乱に陥っていると明らかとなった。残った民間人を支配する戦士階級がいなかったことから、レイヴン内に潜伏していた少数のソサエティ・セルが姿を現して、乗っ取ったのである。

 第2ヴァイパーガードはゲヘナシティの外に上陸し、戦闘に備えた。そのあいだ、彼らがレイヴンから通信の返事を受け取ることはなかった。スターコーネル・ジェフ・マーサーはゲヘナを奪うために動いて、確固とした橋頭堡を築き上げた……レイヴンの主要飛び地領土への道は、急な峠道だけであった。ヴァイパーは、星系への移動中に軍事通信をほとんど傍受しておらず、よって大きな抵抗を予期しなかった。階級反乱を起こしたレイヴンの盗賊たちには腹案があり、歩兵と数両分の車両用塹壕を使って、第2ヴァイパーの隊列の真ん中に伏撃を仕掛けた。ヴァイパーは最初は驚いたが、すぐに立ち直った。ヴァイパー軍の大半が逆襲に取りかかると、レイヴンは山の中腹を吹き飛ばして土砂崩れを起こし、ヴァイパーガードのすくなくとも1/3を埋葬し、スターコーネル・メーサーを殺害した。





頑強な防衛

 3072年10月18日、スターアダー氏族のガンマ海軍予備星隊が、(コヨーテの主星)タマロンの天頂点に到着した。アダーは報復としてコヨーテ氏族の領地いくつかを奪ってやるつもりだった……コヨーテは最近起きたアダー飛び地領土への攻撃の共犯者となっていたのである。

 到着時にアダーが直面したのは、武装し、待ち構えたコヨーテの防衛であった。通常、守っているのは、コヨーテの〈エンストラル・ホーム〉と強襲降下船数隻だけだったので、そこに追加されていた〈レイジ〉[元はマティラ=キャロル族の船。-SK]、強襲降下船数隻、10個気圏戦闘機星隊(新しく建造されたオリンパス級宇宙ステーション、〈ステップス〉で生産されたもの)に対する準備はできていなかった。

 アダーのスターアドミラル・ギャビン・タージドソンは、タマロン地表へのセーフコンを求め、直ちに拒否された。コヨーテの〈ホーム〉は素早く動き、〈ブラック・アダー〉を粉砕した。アダーの〈イーグル〉と〈ケンタウロ〉は突進するコヨーテ艦に砲撃を加え、ダメージが吸収されたのを見て愕然とした。対応が遅れたことはコヨーテの有利に傾き、コヨーテの〈レイジ〉がアダーの〈イーグル〉の前を横切って、船首に衝突した。この攻撃は、武器ベイいくつかに打撃を与えただけで、ほとんどなにもなさなかった。だが、直後、気圏戦闘機星隊群が迫ってくると、〈イーグル〉はコントロールを失った。気圏戦闘機の攻撃によって機動ドライブとエンジンが破壊され、アダーの戦艦は操艦不能となったのである。後の記録では、〈イーグル〉が故障する前に、〈レイジ〉から〈イーグル〉へのHPGバーストのようなものがあったことが示されている。

 スターアダーの〈ケンタウロ〉と近づいてきた〈ディヴァイン・コンクエスト〉は、コヨーテの〈エンストラル・ホーム〉に舷側射撃を加え、ほとんど効果をもたらさなかった。〈ホーム〉は恐るべき高Gターン、ロールを実行し、アダーのソヴィエトスキー・ソユーズ級〈コンクエスト〉に一斉射撃を浴びせて、船首から船尾までを破壊した。アダーの〈ケンタウロ〉は残ったわずかな気圏戦闘機、降下船支援と共に後退し、ヒジュラの要求を送信した。コヨーテは受けた。

――スターアダー・ウォッチ・ジェネラル、作戦後報告、08113072


 ゲヘナシティに進入できなくなると、残ったヴァイパーは降下地点に退却した。彼らは残って、監視を行った。何度かのランダムな空爆をのぞいて、レイヴンはこの侵入者を無視した――ヴァイパーの戦艦〈スネーク・リーダー〉が到着するまで。

 ギャラクシーコマンダー・ホスキンスは、レイヴンの行動と、汚染がゲヘナ市民に広まっていることに激怒した。〈リーダー〉は砲火を開き、山からゲヘナシティを焼いた。この月のあいだに、〈リーダー〉は惑星上空を移動し、各飛び地領を攻撃し、発電所、工場、その他の重要な施設を破壊した。ヴァイパーが破壊を完了したとき、残った民間人は5万人以下であり、彼らはヘルゲートの荒野のなかをスカベンジャーとして生活する存在となった。

 11月半ば、スターアダーは衝撃を受けることになる。アダーの航宙艦3隻とCSA〈ポンペイ〉が、タニス星系の氏族防衛部隊(この数ヶ月、音信不通だった)を救援するためにタニスにジャンプした。到着した彼らが見つけたのは、この星系がアダーの支配下にもコブラの支配下にもないことだった。攻撃を受けると、アダーのスターアドミラル・ハンフリー・トラスコットは航宙艦キャンサーにこの情報と共にすぐジャンプするよう命じた。タニスの天底点はキャリアー級降下船3隻と、搭載されていた気圏戦闘機に守られており、アダーという侵入者に襲いかかってきた。アダーのパイロットたちは、防衛する部隊の記章がバーロック氏族であるのを見て驚いた。

 残った2隻の航宙艦は、降下船を発進させた瞬間に破壊された。この交戦は短く残虐なものとなった……1隻のキャリアーと4隻の戦闘機だけが到着した地点からのろのろと進んだ。〈ポンペイ〉はK-Fドライブへのホットロードとジャンプを成し遂げたが、コアへのダメージは恐ろしいミスジャンプを起こすのに充分なものであった。この船は約8ヶ月後に目的地に到達した。船体は破壊され、ねじくれていた。

 航宙艦キャンサーはなんとか逃げ延び、12月の第一週、SA-83 [スターアダー商人階級の中間地点、大拒絶後にはほとんど使われなくなった。-SK] に向かった。この航宙艦はスターアダーの商人階級艦隊を呼び止め、タニス星系に関する情報を渡した。数日後、氏族の指導部がこのニュースを受けとった。両氏族長は、最近の連続した海戦での損失(レイヴン、コヨーテ、そして今おそらくバーロック)によって、最後のモスボールされた戦艦のいくつかを再始動せねばならなくなったことに合意した。これらの船はペンタゴンとケレンスキー星団のあいだの無惑星星系に位置していた。ンブタ氏族長はサルベージ・チームを準備し、12月後半、デポットMKSC-2に派遣した。

 到着したアダーはまたも驚かされた……暗黒階級がすでにサルベージを行っているのを目撃したのだ。アダーはすぐに2隻の戦艦が行方不明であることに気づいた。リガ級とキマグレ級である。もう一隻のモスボール艦、バロン級はすでに再始動しており、接近するアダー軍の前に出た。アダーの〈キャメロン・フレイム〉と〈エグゾダス・レンジャー〉は脇から暗黒階級のバロン級を叩いた。〈フレイム〉がさらけだされた船体の横を通り過ぎると、バロン級の船尾の主砲群が火を噴いた。致命的な損傷を負った〈フレイム〉は、バロン級にとどめを刺す位置にゆっくりと動いていったが、バロン級が横スラスターを撃ったので、両艦は衝突することになった。アダーの戦艦は大気によって破滅的な損害を受け、乗員のほとんどが死亡した。

 唯一の防衛軍が任務不能になると、暗黒階級は近くにいた航宙艦に向かって逃亡を試みた。退却する船は、復讐心に燃えたアダーによって1隻1隻破壊されていき、航宙艦がその最後となった。アダーのサルベージ・チームは、残った最後の各船を調べ、サマルカンド級空母〈ヨークタウン〉を再始動した。ンブタ氏族長は難しい決断を下し、備蓄地点にあった他の4隻と〈フレイム〉の海水弁を開くように命令した。暗黒階級がこの星系を知っていたことと、アダーは他の戦艦を再始動する時間、資源を浪費できないという事実から、氏族長は他に選択肢がないことを知っていたのである。最後の海軍予備であるこの戦艦備蓄地点は破壊された。





準備

 氏族長へ

 アレクサンドラでの修理と改装は進行中です。ダイアモンドシャークへの襲撃で得られたアイソーラによって、軌道ヤードの規模は2倍となりました。シャークの戦闘用装備の大半は一般に使用され、またタニス世界3つの防衛セプトを強化しました。得られた民間人は区分けされ、あなたの命令通りに分類しております。シナプス・プロジェクトは続行中であり、満足できる成果が得られたと聞いています。

 ゼータ銀河隊は現在5個銀河隊と戦力充足しています。彼らの部隊編成・システムを我らのやり方で変更しないように推薦します。なぜなら、これらの戦士たちは、ケレンスキー方式の5単位編成を使っているからです。我々は世界ごとに4個セプトを結成するのに充分な戦士を持っていますが、これら戦士の大半は下層階級のトゥルーボーンか、シナプス・プロジェクトの一部です。それにも関わらず、各セプトの指揮官から、他氏族の侵攻に対して充分であるとの保証を得ております。

 あなたが要請した準備は、いまだ実行中であり、3073年6月までに完了するでしょう。一方、サルベージチームと適切な道具をさらにMKSC-2に送るべきかと思います。不幸なミスジャンプで〈ニコラ・テスラ〉を失ったことから、主要ラグランジュポイントを適切に守ることができません。新たに入手したものを早く集めることができれば、この星系の状況はよくなるでしょう。

 職務に専心いたします。

 オメガ銀河隊指揮官ウィリアム・ガストピフ、03103072

――インターシステム・タニス・メモ、09073075確認






ウィルス神経症

 中心領域にある氏族世界の大半に蔓延したこのウィルスは、HPGに感染し、混乱させるのを狙った自己増殖型ウィルスワームである。HPG群は多層型のセキュリティを持つため、悪意あるコードに感染しづらいことで知られていた。

 SL.10.T.RWR32.000.82v.2、またはSLOTと呼ばれるこのワームは、3073年1月後半に、エレウォンのHPG基地から送信されたようだ。ゆっくりと作用したワームは複製され、HPG通信に便乗し、エレウォンの変種が展開される前に、少なくとも5つの世界に広まった。悪意あるウィルスはHPGのオペレーションソフトウェアに拡大し、HPGが「いっぱい」になるまで、指数関数的に帯域幅とストレージ容量を圧迫した。それからHPGの安全装置が、メモリーのキャッシュがクリアされるまでシステムをオフラインとした。エレウォンで最初の兆候が現れる前に、ウィルスは特にファルコンOZの中で爆発的に広まった。

 問題があらわとなると、SLOTはメインシステムネットワークのアクセスコードを変更し、事実上、HPG技術者を「締め出した」。バックドアプログラムによる完全なシステム再起動によってのみ、キャッシュをクリアして、システムをリセットすることができた。だが、もしウィルスをシステムディレクトリから排除しても、このプロセスを単純に繰り返すのみであった――そしてディレクトリ内の別の場所に若干異なる新たな変種を作り出すのである。結果、HPGはスタンバイモードに入って、オフラインとなり、全手順による完全な再起動を強制するのである。総合的で完全な再起動は28時間から44時間を要する。

 氏族の技術者たちが混乱の原因を隔離するのに二ヶ月近く要し、ネットワークに感染したSLOTの全変異種を探して排除するアンチウィルスを生み出すのにもう六ヶ月がかかった。最も長く感染したHPG基地は、最も大規模なソフトウェアの修理を要した。HPGキャッシュの中に天文学的な数のディレクトリとノードがあったことから――各支局とリモートネットワークハブに数千があった――修理にはもう一ヶ月以上がかかったのである。

 SLOTウィルスの大きな副作用のひとつは、氏族の商用航宙艦が感染した指令システムのHPGバッチファイルから通信を受け取ったことである。SLOT内の二次コードは、氏族の航宙艦システムコードを認識するためのものだった(なぜ戦艦のシステムを狙わなかったのかは、SLOTのプログラマーのみが返答可能である)。航宙艦と認識すると、ウィルスはHPG版と同じやり方で展開するが、通信に便乗することはない。

 SLOTは三ヶ月という期間で、ファルコンHPGネットワークの95パーセント以上を崩壊させるのに成功した。このウィルスは、商人、戦士階級の通信パターンに乗っかって、ホース、ウルフ、ゴーストベアの領域にも広まった。ホースは40パーセントの世界で通信不能となり、ウルフは57パーセント、ベアは22パーセントだった。SLOTが中心領域のHPG基地に作用することはなかった。コードが分析されると、ウィルスから氏族の暗号と手順が含まれた通信の比率を調べる検索キーが発見された。比率の高いところ――通常の氏族世界――で、ウィルスが立ち上がった。

 問題を悪化させたのは、ファルコンの抹殺命令である。感染の際には、すでに氏族のトップHPG科学者、HPG科学者の大半が殺されていた。3073年3月、ファルコンが獲得したウルフの科学者がすぐに問題の解決を託され、6月までに解決プロトコルをインストールし始めた。

 ソサエティが始めたすべての攻撃のうち、SLOTウィルスはファルコンを――そしてもしかしたらほかの中心領域氏族も――もう少しで破滅させるものであった。

――ヘルズホース氏族ウォッチ・スターコーネル、アンガー・デュウェルリー、SLOTに関する分析、17083079











殲滅の神判





蔓延

 3073年3月、スティールヴァイパー氏族のアンドリュース氏族長は、〈ペリガード・ザールマン〉とその護衛艦〈アナコンダ〉、〈マーシャル・レガシー〉、〈サンラ・メーサー〉を中心に、スティールヴァイパーのタスクフォースを集結させた。ここにアルファ、ベータ、デルタ銀河隊全体もまた追加された。ニューケントはまだ技術的な故障に苦しんでいたことから、戦役の集結地点、通信センターとして使うのは不可能だった。この任務は単純だった……連絡の取れなくなったヴァイパー領土を解放し、可能ならより多くを得るのである。

 最初の目標は、グラント・ステーションだった。3072年1月に6つあるヴァイパー領土のうち2つが全滅していた。ニュー銀河隊の2個星団隊は火砲基地4を含む残った要塞の防衛を託されていた……そのすべてとの連絡が8月に断たれ、この世界から帰ってきた商人階級の航宙艦はなかった。

 ヴァイパー艦隊が到着すると、彼らは沈黙に遭遇した。他の氏族はこの星系内に航空宇宙戦力を持っておらず、惑星からの通信はほとんどなかった。ヴァイパーの主要領地であるゼブラ駐屯地から通信が戻ってくると、彼らの懸念は注意深い喜びに変わった。

 だが、デルタ銀河隊の降下船が惑星に近づくと、彼らの喜びは短いものに終わった。厚い大気圏を降りているとき、地表から気圏戦闘機と小船舶の群れが上がってきて、降下する部隊に切り込んできたのである。ヴァイパーは分厚い航空宇宙支援に守られて戦いながら降下し、技量に劣る盗賊たちをはねのけるのに成功した [ヴァイパーは降下船1隻を失ったのみだった。盗賊階級のパイロットの腕がいかにまずいものであるかの証明である。-SK]。ヴァイパーのデルタ銀河隊は、友軍であるゼブラ駐屯地の戦士たちの小規模な分遣隊と合流した……第33ファランクスの1個二連星隊のみが生き残っていたのだ。ヴァイパーはすぐに〈ザールマン〉を動かして、軌道支援プロットフォームとした。

 氏族の生存者たちによると、数隻の降下船が約1個銀河隊分の盗賊を北部の荒野に置いたという。この盗賊軍(大半が星間連盟の旧式車両と、しまい込まれていたバトルメックからなる)は、ニュー銀河隊の伸びきった防衛を倒し、大きな損害を出しながらも火砲基地を奪い取った。それから盗賊はヴァイパーの各領土をそれぞれ包囲し、近隣から切り離し、行き来しようとするすべての小船艇、降下船を破壊した。8月後半までに、盗賊はゼブラ駐屯地(重要なキルギス、サブタイの工場を含む)をほぼ手にしかけていた。生き残ったヴァイパーによるゼブラからの攻撃は、容赦なく叩かれた。

 [他の飛び地領の生存者が報告したところによると、盗賊たちが支配を得ると、民間人たちは食料配給を制限された上で奴隷労働者にされたという。抵抗はほとんどなかった……なぜなら、盗賊は違反や反乱の兆候に対して致死的手段を使うだろうからだ。が、ヴァイパーはこの事実を認めないだろう。-SK]

 ゼブラを氏族の拠点として使い、アルファ、ベータ銀河隊を上陸させたヴァイパーは4月末までに暗黒階級の横行を押し戻した。激しい熱意を持ってして、ヴァイパーは敵に文明化した戦闘を与えることなく、目撃すると直ちに処刑した。

 失われた領地を奪還する過程で氏族が見つけたのは、困惑するようなものだった。惑星の通信断絶中に、ヴァイパーの市民数千人が虐殺されていた。10万人以上が疾病と栄養失調で死亡した。掃討作戦中に、飛び地領のいくつかは役に立たないと判断された。生き残った階級人のほとんどがゼブラ駐屯地に移された。残りは、速やかに死ぬか、氏族からの支援なしに放棄された領土に移住するかの選択肢を与えられた。30万人以上が名誉ある道を選んだ。

 [もうひとつ書き残しておくべきは、ゴリアテスコーピオンの領土がヴァイパーと同じ規模の殲滅を受けなかったことである。各地に若干の死体が転がっていたが、死亡者数がグラントステーションの人口とあわないものだったことは特筆に値する。これらの民衆が移住したのか、それに協力していたかどうかは、判断を下すのが難しい。また、死者の中にスコーピオンの戦士は混じっておらず、ほとんどのスコーピオン領には軍事物資が欠けていた。スコーピオンがウルフからもぎ取った巨大なバトルメック工場は、倒壊するか、役に立つ装備をはぎ取られていた。ヴァイパーの生存者たちは、遠くにいる隣人たちになにが起きたのか、まったく知らなかった。-SK]

 健康な市民をゼブラ駐屯地に移動させて1週間以内に、ウィルス性の疾病がこの山城を襲った。この病気は数週間にわたって猛威をふるった……ウィルスが次々と感染したために、医療科学者たちは原因を特定できなかった。グリーマーニ副氏族長は全氏族の戦士にグラント・ステーションからの離脱を命令し、科学者と商人たちに治療法の発見を命じた――さもなくば、仲間たちは死ぬことになる。アルファ、デルタ銀河隊が、軌道上の艦隊に加わると、病気の兆候を示した戦士たちは、タスクフォースからすぐにリーヴィングされた。幸運にも、第93強襲星団隊の1個三連星隊のみが疫病に感染し、外されたのだった。

 ヴァイパーたちはそれから次の目標であるマーシャルに向かった。それは氏族が面している危機の水準を教えた、大氏族長にとって最初の目覚ましだった。

 6月にヴァイパーが到着すると、惑星全土が荒野となっていた。マーシャルはこの年のはじめのいつかに、激しい軌道爆撃の犠牲となっていた。結果として起きた破壊で、大都市の大半と工場のいくつかが完全に破壊された。そのうちひとつは、本拠地で核融合エンジンの大部分を生産していた大工場だった。爆撃による破滅的な煙と塵は、惑星の繊細な生態系を阻害した。そして、この惑星にやってきた降下船がなく、食料やそのほかの必需品を輸入できなかったことから、生存者たちは互いに襲いかかった。ヴァイパーの小規模な飛び地領は、防壁を破られることなく、最後まで持ちこたえた。わずかな氏族人たち(大半がかろうじて生き延びたアイスヘリオン市民)が、惑星上に散らばり、ヴァイパーから無視された。氏族長たちはこのような病んだ者たちに限られた資源を浪費するのを拒否した。

 マーシャルに価値あるものが残っていなかったことから、アンドリュース大氏族長はアトレウスに向かう準備を進めた。近頃、ヘリオンから飛び地領のいくつかを獲得していたのだが [そして遺伝子ウィルスによって数千の市民たちの葬式世界となっていた。-SK]、この星系は、年初以来、通信不能となっていた。





蛇の分裂

 3073年、シェリダンに到着すると、スターアダーのンブタ氏族長は氏族の指導部を集め、タニスでバーロック氏族が見つかったことについて話し合った。氏族長たちは、バーロックが突然現れ、ユプシロン銀河隊が脱走したらしいことに、強い懸念を示した。ウォッチは氏族軍について分析し、バーロックの裏切りに気づいた。

 アダーのリーダーたちは、同盟氏族に発見を隠すことを決断した。ンブタはアンドリューの野心を知っており、もしアダーの現状を知れば、ヴァイパーは容易にアダーに襲いかかり、大量の資源を奪っていくだろう。氏族は状況に対処するため、シェリダンで氏族評議会を開いた。

 氏族長が現状を説明したあとに浮かび上がった重要な疑問は忠誠心だった。アダーに吸収された戦士たちの多くが何事もなく順応している一方で、そうでない者もいた。バーロックのブラッドハウスに属するこれら戦士たちは、スターアダーでの戦士としての地位を保つために新しい階級の神判を実行せねばならないと、アダーは決断した。失敗した者は下の階級に落とされる――コデックスが名誉あるものの場合――か、もしくは殲滅される。

 ロー銀河隊のギャラクシーコマンダー・ケネス・ハッチンソンは会議の決断に拒絶の神判を宣言した。このアブタカの戦士たちは「最初の」階級の神判を二度受けていると彼は主張した。シブコを卒業したときと、吸収後にアダーでもう一回だ。彼らの「不屈の」名誉は、この拒絶の神判の代わりに戦場で証明されることだろう。これを超えて名誉を疑われた者は、不服の神判を行えばいい。ローアマスター・フレッチャー・ダニエルスは、ハチンソンの拒絶を受け入れ、翌日、ノルロフ平原で戦闘が行われた。

 過酷な3時間の戦闘のあと、ハチンソンのマーズはエンジンへの過大な損害によってシャットダウンした。その数秒後、ダニエルのウォーホークも同様となった。神判のバトルROMを精査したあとで、ンブタ氏族長はハチンソンが入札に負けて、階級の神判は実施されるとした。

 アダーのアブタカたちは氏族の勅令に従った……彼らのうち3/4が階級の神判を通った。[ソサエティ、暗黒階級から失われた飛び地領を奪還したあと、この再試験は1年近くにわたって継続された。-SK]

 ユプシロン銀河隊が非常に強情であることと、ギャラクシーコマンダー・トリステイン・ンブタからの報告が6ヶ月ないことに懸念を示していたンブタ氏族長は、この気まぐれな銀河隊を探す小規模なタスクフォースを編成した [ユプシロン銀河隊がアダーの指揮の下、深辺境で活動しているものとまだ思われていた。-SK]。ユプシロンが見つかったら、タニス星系のバーロック氏族を掃討するつもりであった。

 ンブタ氏族長はクラウドコブラ氏族と相談するためにホーマーで立ち止まった。アダーは11月に得たタニス星系に関する情報をコブラに渡し、そして彼らがバーロック氏族の復活と、ユプシロン銀河隊の離反を知っていたことに怒った。情報を隠していた理由は、この事態を自分たちで解決し――そして星系を自分たちのために取り返したかったとういことだけだった。ンブタ氏族長は、ここで小さい戦争を始めて必要な同盟氏族を遠ざけたりはせず、この星系を奪還したあとで所有の神判を行うというシュタイナー氏族長の提案に同意した。コブラは侵攻のための資源をより合わせ始めたのみならず、領土で起きた問題を解決するのは後回しだとした。形ばかりの行為として、コブラはアダーにバーロックのゼータ銀河隊の居場所を教えた。ヌーボーパリである。バーロックは軍事的資源を持っており、このヘルズホースの辺境基地は交換部品、弾薬、装備でいっぱいだったことが報告されている。





感染拡大

 3073年5月、ヘルズホースのウォッチは、科学者階級の一部がジェイドファルコンの裏切り者たちと共謀している証拠を発見した。SLOTウィルスがゆっくりとホースOZに入ってくるのに従い、コブ氏族長はドローレル副氏族長に対し、スキャンダルに関わった科学者たちを探し出して抹殺する任務を与えた。この裏切り者たちは(ファルコンと違って)どんな種類の権力闘争も行わなかったので、コブはファルコンが行っているような流血沙汰よりも、個別の殲滅がよりよい手法だと考えた。[ファルコンが科学者階級をシステマチックに処刑しているとの確かな証拠を持っている氏族はなかったが、ホースとウルフのウォッチは充分な間接的証拠を得ていたのである。それに加え、我々ダイアモンドシャークが利益確保のために、望んで彼らと情報交換したということがあった。-SK]

 調査中、ドローレルはプロトタイプの兵器プロジェクトをいくつか発見した。これは氏族評議会がリスクが高すぎると判断して使用を制限していたもので、実際には秘密裏に続けられていたのだ。これらのプロジェクトはファルコン科学者エチエンヌの辺境世界に移され、実験と試験が続けられていた。加えて、正式な神判も儀礼もなしに、ホースの遺伝子系統がホースの中心領域移動前から自由に取引されていた。遺伝子系統のいくつかが、希釈化されるか、汚染されているという可能性は、ホースの指導部にとって衝撃的な問題であり、ドローレルは秘密の取引を終わらせるためにさらなる決意を固めた。

 [この件に関し、SLOTウィルスは実のところホースを助けた。HPGが落ちて、深宇宙のHPGリレーが破壊されたことから、遺伝子汚染の可能性があるという話は本拠地に届くことがなく、さらなるトラブルを起こすことがなかったのだ。さらにドローレルの任務に関するニュース拡散が妨げられ、副氏族長とタスクフォースは星系に滑り込むことがしばしば可能となった。よって対象を警戒させることなく調査することが可能となり、堕落したソサエティのセルを追い詰めるのを大いに助けたのである。もしHPGが通常通りに機能していたら、これらのセルは、副氏族長が到着するまでにほとんどが姿を消していただろう。-SK]

 だが、ウルフは自分たちの中にいるソサエティ・セル容疑者に対処するのが困難だった。ウルフがケレンスキーの遺伝血統の破壊に関与したということが、どうにかしてセルの耳に届いた。氏族長の幼稚な行動に怒ったと思われるセルのひとつが、ズーテルメールに赴き、イオタ銀河隊の主司令本部施設で危険な化学爆弾を解き放った。兵舎の中央にいた第17ウルフ正規隊の半分以上が、爆発に巻き込まれて、ゆっくりと死んでいった。突然のテロ攻撃に対処するため基地が緊急状態に入ると、トゥルーボーンの科学者たちの一団が近くの研究施設から姿を現し、砲火を開いた。近くの射撃場からスコーコーネル・オニキスと彼の指揮星隊が到着したことのみが、この虐殺を終わらせたが、研究施設は炎と灰に包まれたのだった。

 ウルフ氏族ウォッチのスターコーネル、トレボー・スラダク(ズーテルメールの情報部長)は攻撃が何であるのかを把握した。彼は第17ウルフ正規隊の残存戦力に他の研究施設2カ所を捜索するように命じた。戦士たちが2番目の目標に近づくと、1隻の降下船が離陸して、星系の天底点に向かって、商人階級の航宙艦にドッキングしようとした。第17は18時間遅れで追跡し、商人階級の船が出発するまさにそのときに到着することができた。降下船はドッキングの直前に、航宙艦の通信にジャミングを行ったようで、目的地を示すことなくジャンプが行われた。ウォッチがファルコン宙域内でこの船を探すまで4週間近くがかかった。

 スターコーネル・スラダクと彼の二連星隊(第17ウルフ正規隊)は、6週間後、ファルコン世界、デニズリに到着した。彼らの目標はすでに惑星に降下しており、地上に消え失せていた。ウォッチの降下船が惑星に到着すると、ジェイドファルコンがやってくるウルフの船に挑戦した。やりとりは上手くいかず、ファルコンは数機の戦闘機を発進させた。この降下船はデニズリの大気圏内に入ったところで破壊された。

 6月の後半、ファルコンの惑星司令本部が爆発し、ズーテルメールで起きたのと似たような化学兵器の爆発をもたらした。この爆発は惑星の命令系統を一掃し、化学物質のフォールアウトが1個星隊分の戦士と1万人以上の民間人を殺した。デニズリが無法地帯となり、指導する立場にあるファルコンが消滅すると [若干名の商人代表はのぞく。-SK]、ソサエティはデニズリが安全な避難地であるとのニュースを触れ回り始めた。これらの科学者たちは、ウォッチ処刑部隊の執拗な追跡を逃れようと、この孤立したファルコン世界に腰を落ち着け始めた。

 ヘルズホース副氏族長のタスクフォースは、6月末までに、行き止まりにぶつかった。ホースの世界で大きな事件が起きなかったことから、ホースの戦士たちのなかには、裏切り者たちの影響を免れていると考える者が出るようになった [これらの戦士たちは本拠地に残ったわずかな領地のことを都合よく忘れており、撤退してきたレイヴン、シャーク艦隊のウォッチからもたらされた途切れ途切れの報告について言及していない。-SK]。ホースがより懸念を示していたのは、ヌーボーパリの大規模な補給ステーションの沈黙についてであった。

 遺伝血統と技術の密売に関わったソサエティ・セルのいくつかが、ドローレルの調査に引っかかった。隠れる前に、彼らはヌーボーパリに集まっていた大規模なセルに知らせた [我々が集めた断片的な事実によると、これらのセルはホースとスコーピオンのもので、数ヶ月前に本拠地から来ていた。ホースはファルコンのOZを通って、中心領域に入ることを望んでいたようである。移住以外の目的があったかについては、我らが知ることはないだろう。-SK]。

 ヌーボー・パリのソサエティ・セルは3072年末に活動を開始した。病原体が軍事施設の中に放たれ、防衛を任されていた戦士たちの半分を無力化した。他の戦士たちは待ち伏せされ、抵抗した場合は殺された。1個三連星隊以下の戦士たちがどうにか惑星の荒野に脱出するのに成功した。一度平定すると、氏族の資源にあふれたこの星系は、ソサエティと仲間の暗黒階級にとって理想的な前線植民地となった。大勢の科学者たちがこの世界に集まった。そのうち一部は本拠地で進む戦争から逃れてきた者で、一部は重要で繊細な研究を実行するための静かな場所を探していた者たちだった。

 1個二連星隊分のホース戦士たちが数ヶ月にわたって追撃の手を逃れていた。彼らはついにHPGステーションを奪取するのに成功し、ホースOZに向かっていくつかのメッセージを発信した。ヌーボーパリとフェリスの間のHPG中継地点がすでに破壊されていたので、偶然にも〈ブラッドホース〉が最後の通信のひとつを傍受し、ヘルズホースの指導部に中継したことでこれが伝わったのだった。

 これらの勇敢な戦士たちは最終的に殺された。HPGがセルの手に戻ると、彼らは深辺境の通信ラインを使って支援を求めた。[我らは、反乱軍が破壊されなかったシステムやHPG装備の航宙艦を使うなどして、なんらかのHPG中継設備を確保していたとまだ信じている。彼らは本拠地、タニス、ヌーボーパリのような暗黒階級の前哨地点の間で通信を保っていたので、そう考えるほかない。またバーロックがヌーボーパリの苦境を知ったのもそれが要因と考えるのが最も論理的だろう。それが事実であるのか、他の技術が使われたのか、我らが知ることはないと思われる。-SK]

 6月前半、ホースはイータ銀河隊を〈ブラックナイト〉と共に送り、〈ブラッドホース〉と合流させた。7月5日、小規模なホース艦隊が、この沈黙した中継地点に到着し、天頂点にキャメロン級戦艦1隻を見つけて驚愕した [元〈インセンス〉だった〈トレマー〉。-SK]。ホースとの交信を拒否したこのバーロック戦艦は、大規模な前衛部隊を発進させ、惑星へ向かうホースの降下船艦隊を襲わせた。ホースはこのような強襲に備えていたのだが、それでも小さな降下地点を確保する前に重い損害を出した。

 ホースが軍事境界線を構築する前に、少なくとも2個のバーロック星団隊がぶつかってきた。名誉ある戦闘という枷を外されたホースは陰険な手法でもって戦った。暗黒階級の2個セプトが真夜中の闇に紛れて到着し、ホースの降下船の1隻を吹き飛ばしてスターコーネル・キーマ・ドローレルを殺し、戦いの流れを守備側に傾けた。ホースはどうにか第39バトルメック星団隊の大半を脱出させたが、他の部隊はほぼ不可能であった。

 しかしながら、ホースはひとつの作戦を成功させていたのである。スターコーネル・レックス・マルサスに率いられた小規模なウォッチ軍が、弾薬とスペアパーツを満載した主要倉庫地帯に潜り込んだ。12時間後、施設のいくつかが爆発して出火し [そしてさらなる爆発が起きた。-SK]、盗賊たちは後退するか、この一帯を失うかを余儀なくされた。

 ホースは〈ブラックナイト〉に引き返すと、アダー戦艦、航宙艦の数個星隊分が到着したことに再び驚かされた。〈ウォーロック〉と〈アブソリュート・トゥルース〉は即座に星系内を直進し、アルファ、ベータ銀河隊を惑星まで護衛した。ンブタ氏族長は退却するホースにメッセージを送り、アダーの進路に入らないよう命令した [これは命令というよりも、「別の軌道に入るべし」という提案だった。-SK]。ベータ銀河隊の戦闘機が上空支援を行い、そのあいだアルファ銀河隊が分散したバーロック、暗黒階級の防衛軍の真上に降り立った。

 バーロックは損傷してないホースの備蓄を自由に使って、アダーが惑星に到着するまでの二日間でなんとか再武装に成功した [弾薬庫の火災により、バーロックは大口径兵器の使用を制限され、これが戦闘の趨勢をアダーの方に傾けた。-SK]。バーロック星団隊はそれからパリ・プライムの市街地(この数年間でホースが建設した主要兵舎、支援都市)という迷路に分散した。素早い戦闘降下を持ってしても、アダーは敵を根絶するという困難な課題に直面したのである。

 第85アダー機士団が最初に攻撃を行い、大規模な銅の採掘場近くで、バーロック氏族第18ウォーレン星団隊の大半を捕らえた。ウォーレン星団隊は急いで待ち伏せをしかけたが、アダー機士団は進路を変更して、このバーロック部隊を足止めした。そこにスターアダー第10装甲機兵隊の気圏戦闘機2個二連星隊がやってきて、採掘場の露出した道路沿いの陣地に爆弾の雨を降らせた。爆撃の後に、アダー機士団がなだれ込むと、ウォーレン星団隊の戦士は最後の一人までが死亡したのだった。

 次の数日間、採掘場の戦いは両軍の間で唯一の大規模な戦いとなった。パリ・プライムの大規模な複合施設群の中で小規模な戦いが荒れ狂ったが、どちらの氏族も優位を得ることはなかった。このような残虐な交戦のひとつで、ンブタ氏族長と彼の指揮親衛隊が、盗賊の指揮官ヴァイスロイと彼の第9セプトに包囲された。ヴァイスロイはンブタ氏族長と戦士2名の足下の強化列車車庫を崩すのに成功し、それから素早く撤退した。氏族長をナイトジャイルのコクピットから救出する必要があることを知ると、親衛隊は最悪を想像したが、ンブタはすぐ戦闘に戻った[すばらしい偉業である。スタニスロフはあばら骨の骨折4本、大腿骨骨折、大規模な出血を被っていたのだ。-SK]。

 アダーの航空部隊はセイン谷にバーロックの降下船を発見し、大打撃を与えた……この集中攻撃によって、アダーの航空支援の相当数が犠牲となった。整然と退却するという望みが断たれたバーロックは、破れかぶれの計画を企てた。

 7月28日、第98タニス竜機兵団がアダーの降下船に迫り、ンブタに核兵器を所有していると伝えた。もしアダーが船を放棄し後退するのを拒否するなら、起爆するというのである。そうなったらアダーはヌーボーパリで立ち往生となり、氏族長と戦士たちは放射線にまみれた荒野でゆっくりと死んでいくことになるかもしれない。ンブタ氏族長には選択肢がなかった。彼は戦士たちに降下船を離れるよう命じ、軍を引いたのである。

 だれもいなくなると、残ったバーロック星団隊と暗黒階級はアダーの船に飛び乗った。彼らは第79アダー竜機兵団の装備2個三連星隊分が船に残されているのを発見した。生き残った盗賊の船が近くに上陸し、船員たちが分乗した。損傷した船は爆薬で自沈処分となった。

 撤退した部隊は〈トレマー〉と合流し、星系を発った。アダーにとっては幸運にも、少なくとも2名のウォッチ担当者が降下船に潜り込むのに成功した。





アルビオンの中傷

 3073年前半、ブラッドスピリット氏族は、オミクロン銀河隊の4個新プロトメック星団隊を静かにエデンに再配備するのに成功した。この規模が大きい銀河隊は、スターアダーとヘルズホースの飛び地領を圧倒し、重要な食料と部品を奪い取った [アダーは合意によって、3071年の半ばにホースのエデン施設を受け取っていた。-SK]。ブラッドスピリットはスターアダーに容赦せず、ヨークにやられたことへの報復として、アダーを抹殺した。それから捕らえたホースたちに選択肢を与えた……スピリットに加わるか、同じ運命に直面するかである。スピリットは厄介ごとを起こしたら直ちに死を与えると警告した。ホースの民間人にとって決断は簡単なものだった。

 エデンの大半を確保すると、オミクロンはアルカディアに移動し、天頂点でスピリットのコンスタンス・クラッフ副氏族長とオメガ銀河隊の残存戦力に加わった [就任したばかりのオミクロン銀河隊、ギャラクシー・コマンダー・ダーリン・ケラーは賢く行動し、クラウドコブラを監視し続けるために第171クリムゾンガードを残していった。-SK]。戦力強化されたスピリットは惑星強襲に動き、現存するアルカディアの飛び地領が存在しないのを発見することとなった。クラッフ副氏族長はさらなる調査を行い、氏族の領地――スピリット、コブラ、アダー、ヴァイパー――で生存者を見ることはなかった。工場の大半は設備をはぎ取られ、倉庫は空となり、降下パッドは放棄されていた。数千万の民間人が風雨と飢餓によって死亡していた……わずかな放浪集団だけが各領地のあいだをさまよっていた。これらの生存者は大半が正気を失っており [投薬と実験の結果であることは間違いない。-SK]、ブラッドスピリットは慈悲を示した。

 ブラッドスピリットのブーケ氏族長はオミクロン、オメガ銀河隊に対し、アルビオンに移動してスピリットの領土を守るように命じた。ヨークが死んだ荒野となったことから、彼らの2個植民地世界は苦慮し、他のスピリットの獲得は失われ、生きるのに必要な残されたわずかな資源を早々と使い果たしてしまった。アルビオンは氏族の安全を守るのに必要なふたつを持っていた……資源と、復讐を果たすのにふさわしいアダーの大規模な分遣隊である。あるいはそうスピリットは信じた。

 ブラッドスピリット軍は4月後半に到着し、素早く軌道を確保した。〈エクスサングイン〉(数ヶ月前にヨークで打撃を受け、一部しか修理されていなかった)は、軌道を周回するCCS〈ヘルツォーグ・スタッフ〉〈ネビュロス〉の挑戦を受けた。コブラの海軍防衛にかなわないことをよく知っていたクラッフ副氏族長は、神判を1個星隊対1個星隊の決闘にまで小さいものとし、オメガ銀河隊で最高のパイロットたちが、コブラ・ベータ予備の同等の立場にある戦士たちと対決した。このドッグファイトは最終的にスピリットが勝利し、地表までの安全な通行を確保した。

 オミクロン銀河隊は残ったアダー飛び地領のひとつ、インディカス・ベータの上に降下した。アダーは工業地帯に群がるプロトメック4個星団隊近くに対する準備ができておらず、急いで防衛を再組織した。ギャラクシーコマンダー・ケラーは素早くこの状況を利用し、第1114ゲートキーパー星団隊を半分に切断した。スピリットは即座に大規模な倉庫群を確保し、空っぽの降下船に食料、部品、そのほかの必要としていた資源を積み込んだ。

 1週間後、オミクロンはインディカス・アルファ(100万人近い民間人のいるアダー領土)に移動した。この飛び地領にはバトルメック工場、バトルアーマー工場、各種生産施設がいくつかあった。ここ18ヶ月、暗黒階級の強奪によって荒らされていたが、アダーは死につつある飛び地領のために強力な防衛を構築した。

 第286アダー・センチネルは都市に迫るスピリットの側面に襲いかかり、第22ブラッド機兵隊を突き通して、オミクロン銀河隊の後方深くに入った。スピリットの第21クリムゾンガードが素早く反応し、移動して、生き残っていたアダー超新星隊を包囲された第22ブラッド機兵隊のプロトメックと共に挟み撃ちにした。スピリットの逆襲の重量に耐えきれず、第286アダー・センチネルは崩壊した。

 スピリットの第98クリムゾンガードは都市の外辺部を突破すると、崩壊しつつあるアダーの非常線を押し通った。スターアダー第343センチネルの残存戦力に率いられた氏族民間人は、スピリットの猛攻を逃れて後退し、クリムゾンガードを都市渓谷の奥深くに引きずり込んだ。大規模なオムニメック工場の外で、アダーの防衛は固くなった。都市内に捕らえられたスピリットはミスに気づいたが遅すぎた。武装した民間人の群れと支援する第343センチネルに囲まれたスターコーネル・ナッド・ジョーンズは、アダー戦線を東から攻撃する準備を行い、主降下港の離れたフェロクリート・パッドに向かった。

 スピリットが移動し始める前に、アダーは真上に降下した。20スクエア以上のブロックで暴力的な爆発が起き、崩壊した重量のある構造物が第98クリムゾンガードのメックの上に降り注いだのだ。この待ち伏せで7000名以上のアダー民間人が死亡した。

 この災厄のニュースがギャラクシーコマンダー・ケラーの耳に届くと、スピリット軍の前進は止まった。最後のアダー気圏戦闘機二連星隊が一瞬の混乱をついて低空爆撃を行い、オミクロン指揮三連星隊と第1ブラッド機兵隊に数百トンの爆弾を投下した。アダーの戦闘機はそれからブラッドスピリットの戦闘機に飛びかかった。ドッグファイトの結果、ブラッドスピリットの戦士3名のみが生き延びた。

 ケラーはブラッドスピリット軍を後退させ始めた。当初の目的は、必要な資源と装備を奪うために都市内の重要箇所いくつかを奪うことだった。待ち伏せを受けた後、スピリットはこの戦いが勝利の保証のない代償の大きいものになるであろうことを知った [数千数万という膨大な数の民間人が武装していたことから、これは思慮分別のある動きであった。-SK]。残ったオミクロンが安全にインディカス・アルファから移動すると、ケラーは命令を発した。〈エクスサングイン〉は持てる火力のすべてを都市に解き放った [この戦艦は軌道上でオミクロン銀河隊の支援を続けていたので、ケラーの命令から数分以内に爆撃を始めることができた。それはアダーの不意を完全に打った。後から考えると、この動きはやり過ぎかつ無駄なように見えるが、アダーがヨークでやったことを考えると、ケラーがいくらか自己正当化したという可能性はある。-SK]。数分以内に都市は壊滅的に損なわれた。

 インディカス・アルファを片付けたあと、〈エクスサングイン〉はインディカス・ベータに移動し、同じことを繰り返した。完了すると、ブラッドスピリットはアルビオンの残ったものと呆然とするクラウドコブラを残して出発した。





アルビオン崩壊

 インディカスの飛び地領は、アダーに残された唯一の広大な領土だった。3072年前半、HPGが完全に通信断絶し、無価値なものとなった。直後、大規模なコヨーテ、暗黒階級の強襲が、アテネにあったアダーの主要降下船・気圏戦闘機工場を確保した。それから侵攻軍は戦艦と降下船・気圏戦闘機の群れを使って、星系内に入ったすべての船を攻撃し、アルビオンを本拠地世界から切り離した。

 3073年前半、アテネを守る小部隊をのぞき、盗賊の大半は星系を離れた。彼らはスピリットとコブラの飛び地領を狙い、ニュー・ベルゲン(ヒュダスペス工場があるコブラの小領土)まで少しずつ爆撃していった。コブラは、アイヴス空襲を生き残った数千人のスピリット市民を素早く吸収し、都市外部にある破壊された鉱山の操業再開に従事させた。

 4月、コブラは星系を偵察するため、〈ヘルツォーグ・スタッフ〉〈ネビュロス〉と小規模な商人輸送船団を送り込み、ブラッドスピリットが到着したときには、ニュー・ベルゲン再建の真っ最中だった。スターアドミラル・ロバート・スパーツは、暗黒階級がしでかしたことを聞き及ぶと、機嫌良くアテネを軌道上から爆撃した。

 スターアダーは飢餓の危機に瀕し、3073年の初頭には厳しい配給制度を制定していた。彼らはニュー・ベルゲンのコブラに近づき、乏しい物資の取引をしようとした。コブラもまた物資が不足しており、同盟氏族が衰退し始めたのを見る以外にできることはなにもなかった。

 よって、コブラはブラッドスピリットがインディカス・プライムで残ったアダー軍を破った後、非難する立場にはなかったのである。

――ダイアモンドシャーク氏族ローアマスター・セミ・カラザ、注釈 28073082






スコーピオンの仕掛け

 ゴリアテスコーピオンは、ハントレス、ブリム、マーシャルでの損失後、静かに引き下がった。アルビオンは早い段階で完全に失われ、彼らが新たに獲得した飛び地領は不幸にも暗黒階級の襲撃のターゲットとなった。ダグダ、デリオス、フォスターとも通信不能になって意気消沈したスボーロフ氏族長は、スターアダー、スティールヴァイパーの戦略を真似るのが賢明であると考えた……撤退して、統合し、それから集中した力で襲いかかるのである。[スコーピオンはハーデス山の噴火でダグダの鉱山が失われたのを知っていたが、2カ所の海中工場からはなにも聞いていなかった。-SK]

 スコーピオンは3073年の3月に動くことを強いられた。フォスターのスコーピオン領がコヨーテの包囲と戦っているとスボーロフ氏族長は聞き及んだのである。3月半ば、ガンマ銀河隊がフォスターに到着し、すぐ惑星に向かった。〈レイ・クン〉と〈コリレーン〉が軌道上に居座り、そのあいだ銀河隊の降下船が惑星に降下した。スコーピオン最後の飛び地領、ピラー・プライムはコヨーテのデルタ銀河隊に包囲されていた。コヨーテは広大な工業地区を望むふたつの丘に砲兵部隊をいくつか置き、巨大なバトルメック工場を組織的に砲撃した。第8スコーピオン擲弾兵隊はだいぶ前に撃破されていた[ブリムで。-SK]。コヨーテは近くの農業ドームと降下港から砲撃を始め、飛び地領を切り刻んでいくつもりのようだった。

 ローアマスター・キリエ・ベン=シモンペレスは銀河隊を率いて、コヨーテの南側面から狂乱した突撃を敢行した [ローアマスターは戦闘の前にネクロシアを過剰摂取するよう奨励したと報告されている。-SK]。この突撃は砲兵陣地のひとつを圧倒し、コヨーテはすぐに後退した。容易な勝利を得たスコーピオンは丘の上で停止した。

 つかの間、身をさらしただけなのだが、これは支援に向かっていたコヨーテの第67強襲星団隊エリート打撃航空二連星隊が、丘の上と第16スコーピオン竜機兵団の大半を吹き飛ばすのに充分な時間であった。ローアマスター指揮下の第3胸甲機兵隊はコヨーテの航空機を追ったが、損害はすでに出ていた――貴重な勢いを失ったのである。

 ガンマ銀河隊の残りは丘を乗り越えて、退却するコヨーテを追撃した。スターコーネル・ニール・ヒルの部隊(コヨーテ第67強襲星団隊)の残りは頑強に抵抗し、スコーピオンの追撃を阻んで、起伏の激しい森の中で接近戦を仕掛けた。遭遇した新型バトルメックとプロトメックの一部になれていなかったスコーピオンは徐々に切り刻まれていった。コヨーテの第9、第34打撃星団隊が到着したことで、スコーピオンは壊滅した。

 氏族の地上・航空戦力が圧倒されると、両スコーピオンの戦艦もコヨーテの暴力を受ける側であることに気づいた。両艦が近づくと、この星系の小規模なSDSが起動し、数発の対戦ミサイルを発射した。[SDSはかつてファイアマンドリルの支配下にあったが、いまはコヨーテ氏族の手にあった。-SK]。〈コリレーン〉は右舷の弾倉に直撃を受けて、完全に動力を失った。〈レイ・クン〉がなんとか第一波、第二波を受け流すのに成功したとき、コヨーテの戦闘機が惑星から到着した。果敢な気圏戦闘機の攻撃によって船尾に致命的な打撃を受ける前に、スコーピオン戦艦はSDSの75%近くを破壊した。主要照準システムが損傷し、降下船の半分を破壊された、このマッケナ級艦には、ぼろぼろの地上部隊を救うためできることはなにもなかった。第3胸甲機兵隊の最後の部隊がドッキングすると(ローアマスターはいなかった。彼女のキルギスは地表に突っ込んだのである)、スコーピオン軍は撤退し、ロッシェに帰還した。

 ガンマ銀河隊を虐殺されたことと、ローアマスターを失ったことで、スコーピオンは氏族本拠地において彼らの立場を新たにした。コリン・ヨウが空いたローアマスターの地位を得ると、スボーロフ氏族長は氏族艦隊の大部分にフォスターへ向かうよう命じた。アルファ海軍予備星隊 [急いで作られた星隊。〈アトロポス〉、〈セルケト〉、〈コロナ・オーストリーナ〉、〈ベルンラッド〉からなる。-SK] に護衛されたベータ銀河隊とガンマ銀河隊の残りは3073年6月、フォスターに入った。彼らを驚かせたのは、スティールヴァイパーがほとんどいなかったことである。

 何らかの形で勝利を求めていたスコーピオンは、ヴァイパーで最大の飛び地領、アデルと火砲基地ニューを獲得する意思を示した。両地点は重要な工業地帯で、スコーピオンの素早い再建を助けることだろう。スターコーネル・オロスは戦いに合意し、アデル郊外の岩がちな平野へのセーフコンを与えた。

 ヴァイパーの第144ファランクスは、第22スコーピオン槍機兵隊相手に善戦し、戦線を保った。神判が終了すると、あるスコーピオンのメック戦士がティンバーウルフの砲口をスターコーネル・オロスが乗るクリムゾン・ラングールのコクピットに突きつけて、このスティールヴァイパー士官を火葬にした [興味深いことに、後でわかったことだが、問題となったこの戦士は、元エリダニ軽機隊の中心領域戦士で、上官のアドバイスに反して、戦闘中にネクロシアを摂取していたという。これが悪く作用し、彼女は不名誉な振る舞いをすることとなった。この事件は、スコーピオンにとっては不幸なことに、ヴァイパーによって文章化され、「汚染」を宣言され粛正されるきっかけとなったのである。-SK]。指揮官に対し敬意と名誉を欠いたことに怒ったヴァイパーはスコーピオンがデズグラであると宣言し、槍機兵隊を圧倒し、完全に粉砕した。

 ヴァイパーの突然の強襲に対する準備の出来ていなかったスボーロフ氏族長は、〈アトロポス〉、〈ベルンラッド〉が支援できる位置に動くと、第1カテラン星団隊と第3スコーピオン胸甲機兵隊の残存兵力に対して火砲基地ニューを攻撃するよう命じた [後にスボーロフは、槍機兵隊が敗北を認めたということをのぞいて、神判の最後に何がおきたか知らなかったと認めた。第144の行動は彼女の視点からはまったく受け入れがたいもので、よって第144を盗賊であると見なし、彼らを撃破するため必要に応じて軌道爆撃を許可したのである。-SK]。第144ファランクスはスコーピオンの強襲を押し戻せず、後退して火砲基地を放棄した。スターコーネル・ピーテーレは第144ファランクスと第167ファングをアデルで結集させ、この都市の入り口を守っている大規模な要塞を占領した。〈ベルンラッド〉は主砲を発射し、軌道上からヴァイパーの守備陣地を爆撃した。守りが崩壊すると、アデルはすぐスコーピオンの手に落ちた。

 損害を補充し、ガンマ、ベータ銀河隊を合併させたあと、3073年9月、スコーピオンはグローリーに到着した。彼らが見つけたのは、近くのスティールヴァイパーから繰り返し攻撃を受けたマティラ=キャロル族の崩壊した生き残りで、彼らはポーテッジにかろうじてしがみついていた。スボーロフ氏族長がロッシェに帰還すると、スコーピオンのケルトン・マイヤーズ副氏族長は包囲された同盟軍を助けるために動いた。

 スコーピオン艦隊が軌道に移動すると、彼らはすぐにスティールヴァイパーの攻撃を受けた [このときまでに、フォスターでの事件はヴァイパー軍のほぼすべてが知るところとなっていた。-SK]。〈オフィディアン〉と〈シルバー・スネーク〉 [ニューケントの海軍貯蔵庫から持ってきたイージス級。-SK] は、接近する侵略者を迎撃し、デズグラであると宣言した。返事を待つことなく、〈オフィディアン〉は砲火を開き、〈アウリガ〉を痛めつけた。スコーピオンが素早く身を守ると、両氏族の艦隊が戦闘機、降下船を引き連れてぶつかった。

 戦いは残忍なものとなった。ヴァイパーの船はスコーピオンの上陸を妨げるために最善を尽くし、〈オフィディアン〉を失ったが、〈アウリガ〉、〈セルケト〉、〈コロナ・ボレアリス〉を破壊するのに成功した。大打撃を受けた〈シルバー・スネーク〉は残った戦闘機を率いて、フォスターの第一衛星の向こう側に進んだ。

 マイヤーズ副氏族長はベータ銀河隊をポーテッジ近くに上陸させ、ぼろぼろになっていたマティラ=キャロル族に加わらせた。戦力の流入に勇気づけられたアマンダ・キャロル氏族長はSLB-32近くにあるヴァイパーの主要領地、エティアウを攻撃する計画を立てた。

 9月30日、マンドリルはSLB-32の西から第23強襲星団隊(スティールヴァイパー)の陣地に砲撃を行った。ヴァイパーのスターコーネル・アンダース・ブリーンはマンドリル軍を戦闘不能にするか破壊して名誉を得ることを望んで、迎撃に動いた。陣地に残された三連星隊は圧倒された……スコーピオンの戦闘機(第3胸甲機兵隊所属)が数トンの爆弾を投下したのだ。ヴァイパーの守備陣地が炎に包まれると、第10スコーピオン竜機兵団が第23強襲星団隊の背後に入り、なだれこむマンドリルに押しつけた。





シュタイナーの愚行

 タニス星系に関しスターアダーと衝突したあと、コブラの指導部は行動に移らねばならないことを知った。タニス星系で成長する敵を倒すことで、大きな栄光を勝ち取るのだ。アダーが強襲の準備をする前にそれをすることで、いくらかの技術的獲得があるだろう。力の源泉はコブラの手から離れてしまっている……決定的な行動と軍事的勝利で暗黒階級の脅威を排除すれば、族長会議でコブラが権力の座に飛び乗ることとなろう。

 コブラは3073年後半にタニス星系への侵攻に着手した。シュタイナー族長はデルタ、エプシロン銀河隊をこの星系に率い、その護衛を〈コンシークエンス〉、〈カタクリズム〉、〈セカンドカミング〉、〈トルゥーサイト〉が務めた。

 コブラ艦隊が天頂ポイントに到着すると、彼らは古いオリンパス級ステーションと〈プリンツ・オイゲン〉に迎えられた。氏族の囚人船を見てショックを受けたスターアドミラル・ルーファス・カルダーンは硬直して貴重な数秒間を無駄にした。軌道ステーションは短い間隔で破壊力の大きい艦船級ミサイルを放った。戦闘機と降下船、少なくとも2個セプトが続いた。

 〈セカンド・カミング〉は反応が遅すぎて、最初の一撃をもろに受けてしまった。このマッケナ級戦艦は突進し、その巨体を盾にして他の艦を続くステーションの攻撃から守った。接近するとカルダーンは船を回頭し、継続的な片舷斉射を実行した。両者が至近距離に入ると、宇宙ステーションは引き裂かれた。

 マッケナが突進すると、〈プリンツ・オイゲン〉は下降して、距離を置き〈コンシークエンス〉と交戦した。コブラが唖然としたのは二度目だった……エネルギー兵器の攻撃が元囚人船の船体にあたって四散したように見えたのだ。状況の危険性を把握したスターコモドア・ブルターニュ・ホッブスは、全コブラ艦隊に〈プリンツ・オイゲン〉を叩くよう命令し、降下船と戦闘機を妨害用に発進させた。オリンパスが脱落し、盗賊階級戦闘機の数機が直ちに撃ち落されると、〈プリンツ・オイゲン〉が取り囲まれて、それから破壊されるのは時間の問題となった。シュタイナー氏族長は〈プリンツ・オイゲン〉が漂流するままに任せ、触ることも回収もしないように命じた。

 〈セカンド・カミング〉は、K-Fドライブが損傷し、出力が上がらなくなったので、戦闘から離脱し、残った降下船を射出して味方艦隊に追従させ、支援を提供した。[〈セカンド・カミング〉はその後タニテとソサエティの海兵に奪われ、アレクサンドラ上で一部修理された。-SK]

 2日後、コブラ軍はスタチャに高Gで近づいた。氏族長はできるだけ早くコブラ戦士を戦闘に加わらせようとした。コブラは彼ら自身が一世紀前に建設した主力要塞の一つにデルタ銀河隊を戦闘降下させた。山道での激しい砲撃戦の後、コブラは要塞の壁にたどり着いた。シュタイナー氏族長はデルタ銀河隊に持ち場を守り、次の指示を持つように命じた。氏族長はエプシロン銀河隊を率いて、極冠付近のエンディコ・ステーションに似たような強襲を行い、元コブラの研究基地を奪おうとした。それがコブラが氏族長から聞いた最後の言葉だった。

 デルタ銀河隊は各暗黒階級軍から三度別々の猛攻を受けて持ちこたえた。惑星防衛軍のほとんどは、先進バトルメックに支援された歩兵、通常車両、戦闘機であった。タニテ人は最終的に要塞へと核兵器を投下し、一撃で銀河隊の2/3以上を一掃した。

 スターアドミラル・ホリーラン・カルダーンは、〈コンシークエンス〉と〈カタクリズム〉に対し、都市シドニーの近郊を爆撃するように命じ、デルタ銀河隊生存者の撤退を支援した。エプシロン銀河隊と氏族長が行方不明となり、おそらくは死ぬと、コブラは再集結してこの星系から撤退した。

――スターアダー氏族科学者・歴史家ローレント、タニス星系――3073, 16093075


 スコーピオンとマンドリルの両氏族は、すぐにスティールヴァイパーが使い果たしたブライアンキャッシュを見つけた。適切な再武装ができなかったのだが、キャロル氏族長はふたつの氏族軍にエティアウへと向かうよう命じた。マイヤーズ副氏族長はキャロル氏族長の決断に表だって挑戦し、その場にとどまって、補給と弾薬をポーテージから持ってくるよう主張した。引き下がりたくなかった氏族長二人は、意見の相違を解決するため戦場に向かった。

 拒絶の神判が始まったところで、スティールヴァイパーが襲いかかってきた。

 第2ファング(ヴァイパー)の戦闘機2個二連星隊が、第71ファイアストーム星団隊(マンドリル)と第10竜機兵団(スコーピオン)の不意を打った。スコーピオンとマンドリルが対応のため緊急出動すると、第2ファングの残りがスコーピオンの側面にぶつかった。キャロル氏族長が死亡すると、マンドリルは混乱し、局所で交戦したが、最終的に圧倒された。スコーピオンは負傷した副氏族長の近くに結集し、第2ファングと到着した第38ファランクスを押した。SLB-32から退却したスコーピオンは〈アトロポス〉に支援を求めた。軌道攻撃が第2ファングの強襲を押しとどめ、スコーピオンは降下船に退却することができた。

 ヴァイパーを排除できなかったスコーピオンはポーテッジでマティラ=キャロル族の民間人を吸収し、逆襲に備えた。

 氏族の資源が大量に失われたことに懸念を示していたスボーロフ氏族長は、ほかの代替手段を探し始めた。3073年11月、アイスヘリオン氏族長コナー・ルードがロッシェに到着し、ひとつの扉を開いた。3074年、第3スコーピオン・シーカーが帰還して、もうひとつを提供した。

 3073年11月、コナー・ルード氏族長を乗せたアイスヘリオンの商船1隻がロッシェに到着した。ヘリオン氏族長はふたつの氏族を合併させるという可能性を話し合うために来たのである。スコーピオンが弱いという含みに侮辱を感じたスボーロフ氏族長は、それにも関わらず、ヘリオン指導者に続けるのを許した。ルードはヘリオンの不安定な状況について開けっぴろげで率直であった。アイスヘリオン氏族にとって唯一残された選択肢は、族長会議の権力闘争で吸収・絶滅させられるか、氏族の運命を自らの手で動かし、合併について交渉することであった。

 スコーピオンはヘリオンが見せた正直さに驚かされた。1個銀河隊、ふたつの工業地帯、半ダースの訓練施設をほとんど代償なしに得られることを認識したスボーロフ氏族長は、ヘリオンの申し出について考えた。当初、マイヤーズ氏族長はこの考えに反対し、合併は両陣営が対等であることを示唆していると主張した。ヘリオンは決定的に弱い……スコーピオンはほとんど損失なしにこの氏族を吸収できるであろう。いくらかの議論後、スコーピオンはヘリオンに吸収の申し出を行った。これがヘリオンの構成員を守ることになる最高の申し出であることがわかっていたルード氏族長は受けた。だが、吸収が起こる前に、両氏族は氏族評議会の前でこれを発表せねばならない。

 11月後半、スボーロフ氏族長は残ったファイアマンドリル氏族と交信するため、第24胸甲機兵隊を率いてシャドウに来た。彼らのため元本拠地に残されていたものはなにもなかった。惑星の軌道上にいたコヨーテの大艦隊は繰り返された通信の求めに応じることはなかった。〈ヘパイストスル〉のみで完全な海軍星隊に直面したくなかったスボーロフは星系の天底点からできる限りの情報を集めると、ダグダに移動した。





ステラー・システム・ウェイポイント531

[ヘルメス副長官、歴史家たちに対して、純粋に事実を記録させ、文学的手法は取らないことを思い出させるように。関係する記録と抜粋は含まれているのだが、そのような傾向があることは事実の要約には不適当である。我々はスターアダーではない。ガーモン長官]

 ウェイポイント(中間地点)531は、地球同盟黎明期に人類が容赦なく植民地を拡大したことから、星図学の初期に登場した。特に目立たない星系で、例外はTHS〈ヨセミテ〉が失われたことくらいである……新しい植民地を探していたこの植民航宙艦は2499年にK-Fドライブの損傷を負ったのだ。赤色巨星を中心にするウェイポイント531の他の天体は、様々な軌道でこの星の周囲を回る4つの巨大な小惑星(ザ・ブラザーズ)だけである。

 〈ヨセミテ〉とその貨物は長い間残っており、帝国の植民歴の失われた脚注となった。2833年、コムスターが幽霊船を発見し、使える技術(と降下船)を剥ぎとって、この星の容赦無い太陽風で死ぬに任せた。

 氏族のゆっくりとした拡大の間、2880年、ブラッドスピリット氏族がウェイポイント531を訪れ、これが氏族の限られた探検任務の一部となった。それ以来、この重要でない星図の点を訪れる客人は、近くのヌエバ・カスティーリャを襲撃する途中の盗賊階級だけだった。

 3060年後半のいつの日か、ワード・オブ・ブレイク探査局の船が到着し、この星系が空っぽなのを確認した。2年以内に、小規模な宇宙ステーションがザ・ブラザーズのひとつの広い軌道上に作られた。ステーションは最小限の防衛システムしか持っておらず、徐々に弾薬、バトルメック、スペアパーツ、その他の戦争の道具を集積していった。

 3073年前半、数隻のWOB航宙艦が星系の外辺部に到着した。遠方の保護領にいる上司と連絡の取れなくなったアイリーン・ギリック司教は、前もっての集結を行い、ヌエバ・カスティーリャ内のワードの人員と補給物資をウェイポイント531に移動した。ペンタゴン侵攻のためのワードによる兵站的準備の一環として、この小規模なステーションに全戦力と1個全師団分に充分な補給と物資が集められた。その時点でギリックがなにを計画していたかは不明である。

 3073年6月、暗黒階級の小艦隊が到着し、中心領域の航宙艦がジャンプポイントに集結していることに驚かされた。損傷した〈フチダ〉に護衛されたこの盗賊艦隊は、ブレイク派よりも早く反応し、中心領域人の船に群がった。最小限の戦闘機援護と一部機能するだけの戦艦にすら対処できなかったギリックは、たった一度の攻撃で航宙艦の2隻が破壊されると降伏した。

 ジャガーの名で知られる盗賊のリーダーは、ブレイク派という授かりものを利用した。捕虜たちはタニテで食料や他の補給物資と交換された。保管されていた装備はジャガーの盗賊軍を強化するために使われた。ブレイク製の機体が、ヌエバカスティーリャ、ハンザ同盟への襲撃、そして氏族世界への一撃離脱襲撃で目撃されている。

 11月、ゴリアテスコーピオン氏族の〈アンドロメダ〉と第3シーカー星団隊が、遠方の辺境世界共和国宙域から氏族本拠地に帰還する最中に到着した。彼らは宇宙ステーションの軌道近くに、放棄されたマコ級戦艦に見えるものを発見した。シーカーたちは古代星間連盟の倉庫を見つけたと信じて、無防備に小惑星星団に近づいた。この戦艦が交戦のために動き、若干の戦闘機と降下船を解き放つと、スターコーネル・エンリケ・イップは小規模なスコーピオン軍を戦いに投入した。損傷を追っていた〈フチダ〉は、熱狂的な〈アンドロメダ〉に対抗できず、シーカーたちはこの星系にいたわずかな盗賊たちを手早く片付けたのだった。

 目録を作ったあとで、スターコーネル・イップは、獲得した報奨を守るために1個二連星隊の戦闘機を残し、ニュースと共にロッシェへと帰還した。それは氏族とその未来を救う、スボーロフ氏族長の計画の最後のピースとなったのである。

――ゴリアテスコーピオン氏族科学者、歴史家エドワード、摘要報告公文書、18103075


 ダグダで、スボーロフは星系が衰退しているのを発見した。惑星の生態系は、おそらく大規模な軌道爆撃のために不安定となっていた。海中ドームいくつかが崩壊し、サタン・テーブルのハーデスマウンテンが噴火したことで、機能する氏族領地は極めて少ないものとなっていた [ゴリアテスコーピオンの鉱山は、3072年後半、ハーデスの噴火で破壊された。スコーピオンは鉱物と鉱石の60%近くを失い、生産に大打撃を受けた。-SK]。スコーピオンはなんとかフォルケ近くにいたファイアマンドリルのスターコーネル・ハンプトン・シュレーダーと連絡をとれたのみだった。わずかなマンドリルの生存者たち [ほとんどが戦士、科学者、技術者であることを記す。-SK] は、〈ヘパイストスル〉とその降下船の空いたスペースに詰め込まれ、スターコーネル・シュレーダーはスコーピオン氏族長が持ちかけた吸収形式の神判に同意した。両指導者間での短い所有の神判は、ボクシング数ラウンドのあと、スボーロフがマンドリルのスターコーネルをノックアウトした。

 新たに得た市民をできるだけ多く移動するため、スコーピオンはダグダに3つの輸送船団を送りこんだ。3074年の1月後半、出発の準備中だった4隻の航宙艦艦隊が盗賊階級の軍勢に襲われ、破壊された。これで1万人以上の民間人が殺されたのだった。

 ゴリアテスコーピオンは2月に氏族評議会を招集し、その場で氏族長たちはアイスヘリオン氏族との交渉に暫定的な合意を出した。他氏族とその資源を加えることの価値(特に最近のダグダでの災害の中で)を理解した評議会は、氏族長たちの決断を圧倒的多数で可決した。知らせがヘリオンに送られ、3074年の3月、両氏族長の間の短いが熾烈な星隊対星隊の戦闘の末、スコーピオンが勝利し、公式にアイスヘリオン氏族のすべてとヘクターの残った領土を吸収した。[スコーピオンの副氏族長、ケルトン・マイヤーズが神判で死亡したことは記述する価値があるだろう。-SK]。それから連合した両氏族は、新たなゴリアテスコーピオン氏族の副氏族長としてコナー・ルードを選出した。

 氏族本拠地に広がる不安定さを懸念した、スボーロフ氏族長、ルード副氏族長は生まれ故郷の外に移動する必要があると合意した。ウェイポイント531で大量の戦争物資を見つけたことから、スコーピオン指導部は深辺境の国家に対する素早い戦争と征服が可能であることがわかっていた……リスクのある探検で減りつつある資源を消費するよりもそちらのほうがいい。ヌエバカスティーリャの星系群に侵攻し、占領する計画が立てられた。





ゴリアテのペテン

 3074年4月、ルード副氏族長が小規模なタスクフォースを率いて、ヌエバカスティーリャへの偵察に赴いた。この小宇宙国家の技術レベルは取るに足らないものだと考えられていたが、氏族は危険を冒す意思がなかった。スコーピオンは3074年6月にウェイポイント531に到着した。

 ルード副氏族長はベータ銀河隊を従え、護衛として〈ベルンラッド〉〈レイ・クン〉〈カルティケーヤ〉を連れていた。ウェイポイント531に到着すると、そこにいたはずの第3シーカーの二連星隊の気配はなかった。しかし、そこにはぼろぼろになったブラックライオン級戦艦が存在し、その乗員たちは物資の大半を積み込んでいる最中だったのである。

 戦艦――IDによるとCSJ〈ストリーキング・ミスト〉――がいることに仰天したスコーピオンはルードが交戦を指示するまで二の足を踏んでいた。ミストは武装の75%近くを失っていたが、いまだ危険な存在であり、副氏族長の任務をすぐに終わらせるかもしれなかった。スコーピオンのタスクフォースは広がって近づき、攻撃した。

 〈ストリーキング・ミスト〉はすべての通信を拒絶し、取り囲もうとするスターアドミラル・トリーの手を逃れた……〈ベルンラッド〉の船尾とエンジンデッキに深刻な損害を与え、近くのジャンプポイントに滑り込んだのである。それからミストは荷物の半分とともに消失した。

 計画の調整を迫られたルードは、倉庫内の兵器を〈レイ・クン〉の降下船に移動し、第1カテラン星団隊にこれら劣ったバトルメックと車両を回した。副氏族長の初任務は7月に始まった。

 ウマイヤ宙域の外辺にあるコルドバにジャンプし、発見されないよう通常のジャンプポイントを使った降下船はカテランの1個三連星隊を積んでおり、この世界への長い移動を行った。この航海で氏族人たちは情報収集のために惑星からの散発的な無線信号を傍受した。3週間後に船が上陸すると、三連星隊は分散し、いくつかの居留地を襲撃した。指揮星隊はプリミティブメック・車両の2個小隊に迎撃された。氏族の戦士たちは彼らを倒すのにほとんど力を使わなかった。「侵略者たち」は現地の指導者数名を集め、ジャンプポイントへと戻る長い船旅に出た。

 コルドバ襲撃が行われている間、〈レイ・クン〉がバレンシアに移動し、このプロセスを繰り返した。9月末までに、スコーピオンの襲撃部隊は6つの世界を叩くのに成功し(カスティーリャ人とウマイヤ人の前哨基地含む)、各種の民間人と、この小国家の情報を集めていた。この年の終わりまでにルードは充分な情報を集め、カスティーリャ人とウマイヤ人は一時的な休戦を結んでいると知った。彼らの数個連隊がハンザ宙域に移動し、なんらかの報復強襲を仕掛けていたのである。

 3075年の初めに、スコーピオンは侵攻の準備を行ったが、よそで起きた出来事が彼らの計画を遅らせたのだった。





ヴィントンの報復

 3073年の1月、ダイアモンドシャーク氏族は、氏族軍の大部分を中心領域の新鮮な海域に移動させていた。氏族本拠地にあるシャーク最後の要塞、ヴィントンは、CDS〈ディール・ブレイカー〉と第11打撃星団隊に守られていた [この船はヴィントンの海軍備蓄地点から現役に戻されたサマルカンド級空母だった。残念ながら、この船は小規模な貯蔵から正規の序列に入れられた唯一の船だった。残り2隻は3011年の彗星通過で大きすぎる損害を受けたのである。-SK]。3072年、最後の大規模輸送船団が出発する前に、ローアマスター・セミ・カラザは残った最後の商人倉庫ふたつを開放し、戦士としての再テストを望むトゥルーボーン全てにそれを与えた [テストは単純なものであった。第11の戦士にレスリングで勝てたらよかったのだ。結局のところ、私は氏族的な礼儀正しさをある程度守らねばならなかった。-SK]。依然としてこの惑星に700万人の氏族人が残っていたことから、シャークは10個星団隊以上の戦士をヴィントンの防衛に加えた。またたく間に倉庫は空っぽとなり、商人たちはヴィントン防衛星団隊(VDC)に適切な装備を供給するため、ピラーニャ、マッドキャットII、グレンデル、バトルアーマーの生産を急いだ。

 ローアマスターの命令には先見性があったと証明された。8月後半、大規模なコヨーテのタスクフォースが到着し、侵略の手順を始めたのである。ギャラクシーコマンダー・トレバー・ロドリゲスは、惑星のSDSを稼動し、最悪に備えた。

 シャークのSDSは手早く〈カレッジ〉と〈ブロークン・シー〉を片付け、その後、送信されたネットワーク・ウィルスに妨害された。シャークの〈ディール・ブレイカー〉はコヨーテの〈オナー・オブ・エイジス〉を破壊したが、〈ブラッド・オブ・ザ・コヨーテ〉に始末された。そのあいだ、戦闘機数個星隊がSDSの主要部分を破壊した。システムが完全にオフラインとなると、デルタ、エプシロン、ロー銀河隊のための道が開かれた。[コヨーテには少なくとも数個星団隊のソサエティ軍が同行していたが、その中に前線部隊はなかった。彼らはヴィントン中にちらばり、我らが市民に毒を盛り、デズグラ的な暗殺攻撃を仕掛けた。-SK]

 コヨーテは二箇所の橋頭堡を作った。一つ目は空になった倉庫SLB-28の近くで、もうひとつはアクアティン島であった。ギャラクシーコマンダー・ロドリゲスは躊躇わず、第1、第4VDCをアクアティン島に投入した。2個星団隊は近くのオフィリア島から短い海中の移動を行い、第15クルーザー星団隊の攻撃航空中隊が敵の降下船に機銃掃射できるくらいに長く、コヨーテを驚かせた。コヨーテの反応は、警告なしの〈ブラッド・オブ・ザ・コヨーテ〉の攻撃で、オフィリア島と50万人の民間人を蒸発させた。コヨーテの行動に愕然とした第1、第4VDCは戦場を渇望し突き進んでいたそのとき、すべての連携をなくした。連携がとれていないが、恐れを知らぬシャークは少しずつ削られていったが、喜んで身をなげうった。コヨーテの第95打撃星団隊はこの戦闘で失われたのだった。

 コヨーテは放棄された倉庫に立てこもり、それからクリアウォーター副氏族長がタスクフォースの指揮幕僚とともに到着すると、分散した。彼らは素早く近くの製油所を確保し、それからヴェニスの大きな居留地を占領した。一週間以内に、クリアウォーターの軍勢はアスカロン大陸の3/4とマッドキャットII工場を手にしていた。シャークは数個VDCを投入したが、ほとんど効果はなかった。

 破れかぶれのギャンブルで、ロドリゲスは1個三連星隊を率いて、古い山脈の蜂の巣状になった溶岩洞窟を使って、マコ山脈の中心を通った。小規模なシャーク軍は、見つかることもなくコヨーテ領域の深くに入り込んだ。溶岩トンネルは三連星隊の目的地であるSLB-28近くまで貫いていた。

 1月31日の早朝、シャークはマッドキャットII工場のあるパールシティに大規模な攻勢を仕掛けた。4個VDCバトルメックと1個歩兵星団隊が、高速移動する降下船から都市に降下し、第58戦闘星団隊を痛めつけ、大規模な石油貯蔵施設を破壊した。コヨーテがエプシロン銀河隊の大部分をパールシティに動かすと、ロドリゲスの三連星隊がSLB-28の後方の壁を破って、コヨーテの司令部に迫った。これらシャークの戦士はだれも撤退できなかったが、侵略者の指揮系統の大半を破壊し、第49戦闘星団隊を叩きのめしたのだった。

 地上が荒れ狂っていたそのとき、14隻の降下船と数隻の小艇がシャークの北極基地から離陸した。この群れ(中心領域のエクスカリバー降下船2隻含む)は、軌道上の〈ブラッド・オブ・ザ・コヨーテ〉に破壊的な逆襲を行った。コヨーテのキャメロン級戦闘巡洋艦はこの強襲で大損害を負い、〈ウィンドランナー〉が介入したときには撤退せざるを得なくなっていた。シャークの攻撃部隊の多くがヴィントンに戻らなかった。

 成功に勇気づけられたシャークは、2月中、コヨーテを追いやり続けた。侵略者は3月までに消耗戦に勝利し、惑星の大都市のすべてを手にした。残った拠点はヴェルヌ、レイザー海に沈む深海都市で、第2VDCの残りと1個ウンディーネ三連星隊に守られていた。沈んだシャークを引き上げるよりも、コヨーテはこの世界の物資と資源をはぎ取ることを選んだ。クリアウォーター副氏族長は3月末までに、〈ブラッド・オブ・ザ・コヨーテ〉、ロー銀河隊、イプシロン銀河隊と共に出発した。デルタは残って、退去させる民間人を注意深く選んだ。抵抗するものは抹殺された。選ばれなかった者は死ぬままに任された。3074年7月に最後のコヨーテが出発すると、〈ウィンドランナー〉は大都市のいくつかを爆撃し、乾いた大地に火をつけた。ヴィントンは炎上した。





プライオリの大逆

 我らが判断できたところでは、プライオリはバーロック氏族の旗の下に集まっていた各階級人たちのゴミ捨て場のようなものだった。少なくとも2名の階級リーダーと、各サブリーダーたちが仕事の割り当てを変更し、10年以上にわたってバーロック氏族に忠誠を誓っていた大勢の民間人をプライオリの職場、基地に移動させた。

 HPGが断絶し、シェリダンとの通信が切断されてから一ヶ月後、プライオリの親バーロック派が反乱を始めた。ケープタウンでクーデターが始まり、すべての小規模な飛び地領地、都市に拡大していった。反乱はヘイドリッチ議会の乗っ取りで最盛期に達し、アダーで最大の都市と広大な工業団地群がバーロックの手に落ちた。3072年4月、新しい氏族に仕えないことを選んだアダーの民間人は駆り集められ、埋葬され、最終的にタニス星系に移送されるか、プライオリ内部の施設奥深くに移された。

 軌道上の施設は傷ついたバーロックと暗黒階級の船を修理するのに使われるのと同時に、アダー最後の海軍備蓄地点から回収された戦艦数隻を整備するのに使われた。星系の防衛は強化され、発見されたときのために準備がなされた。

 やってくるであろう敵がアダーであっても、他の氏族であっても、プライオリは待ち受けることができた。

――スターアダー氏族科学者歴史家ジュード、プライオリ、注釈付き要約、 06033076






プライオリ処分

 3073年11月後半、スタニスロフ・ンブタ氏族長は、ガンマ、ミュー、シグマ銀河隊をプライオリに送った。この世界は2年間手付かずだったが [アダーの商人によると、送られた船が戻ってくることはなかったという。-SK]、アダーが動く時が来たのだ。アダーはその資源、とくに軌道工場と大量の食料を必要としていた。アダー指導部は最悪を予想していた。

 ローアマスター・フレッチャー・ダニエルズに率いられた大規模なタスクフォースは、星系のゼニスポイントに到着して、星系内を突進した。彼らを待っていたのは、バーロック氏族の相当な防衛部隊であった。アダーはモスボールされていたはずのアダー戦艦3隻と、ブラックライオン級戦艦(〈ストリーキング・ミスト〉と確認)が惑星の軌道上にいるのを見て驚いた。惑星の防衛は、造船所近くの小規模なSDSシステムによって強化されていた [アダーによって設置された小型の星系防衛システムである。-SK]。迫るアダー軍に対して迎撃に動いたバーロック艦はなかったのだが、この横取り氏族が準備を整えているのは明白だった。

 ふたつの海軍部隊は、プライオリの二番目の月、オパールで衝突した。バーロックのスターアドミラル・カーク・バンホーテンはオパールをアンカーポイントとして使い、数で劣る彼の艦隊を巧みに有利な位置に動かした。バーロックはアダーの〈ペガサス〉に火力を集中させ、全戦闘機にアダーの戦艦隊を通り抜けさせ、後方で待ち構える輸送降下船を狙わせた。

 バーロックから戦闘機の守りが失われると、アダーのスターアドミラル・リリス・パイクは容赦なくそれを利用し始めた。アダーはもう3個星隊の気圏戦闘機を発進させ、〈ストリーキング・ミスト〉を痛めつけた。この傷ついたブラックライオンは、〈アルカディアン・アスプ〉と月を盾にして撤退した。どうしても逃げる船を捕まえたかったアダーは〈ヨークタウン〉で追跡を行い、乗っ取りのため数隻の小船艇で海兵を送り込んだ。〈ミスト〉は安全な場所にたどり着いて、ジャンプを行い、数隻のアダー船が航跡に残された。

 〈ミスト〉が突如として撤退すると、バーロック艦隊はアダーの猛攻から逃げようとした。バーロックの戦闘機部隊は敵の降下船にいくらかの損害を与えていたが [この攻撃でアダーはミュー銀河隊の半数を失った。-SK]、スターアドミラル・バンホーテンの退却を支援するには外れたところにいた。アドミラル・パイクはバーロックと同じ歩調で軌道上の造船所へと向かった。SDS砲台からの突然のロックオン警報のみが、アダーの追撃を足止めした。

 艦隊の有利な射程を使って、アダーは数時間にわたって問題の砲台を狙撃した。バーロック艦隊の生存者たちはパイレーツポイントまで退却を続け、アダーが軌道施設の海兵防衛を圧倒し、占領するまでには、アダーの手に届かないところに達していた。

 プライオリの地表をかけた戦いはそう簡単にいかなかった。アダーは元の領土を奪還するのに2個銀河隊 [ミュー銀河隊の残存兵力含む。-SK] を投入した。彼らと対面したのは、4個銀河隊近い、ソサエティとバーロック氏族の混合部隊であった。防衛部隊の大半は、バーロックの生き残りに命をかける単なる武装した市民であったが、ケープタウンに上陸したスターアダー戦士の二倍近い数がいた。

 アダーは素早くケープタウンを包囲する主要な足場を確立した。そこはキングフィッシャーとマンノウォー工場群、僻地にある飛び地いくつかの近くである。バーロック市民内の「裏切り者」たち [実際には、バーロックの圧政を逃れたアダーの氏族人で、氏族が到着するまで持ちこたえ、レジスタンス活動を支援していた。-SK] が植民地の中から侵攻軍を助けた。

 ここからローアマスター・ダニエルズは長引く厳しい地上戦を行い、システマチックにバーロックの前哨基地をすべて奪取していき、裏切り氏族の支持者と防衛部隊を殲滅していった。両軍は領土を回復に使ったが、3074年1月にアダーは商人階級の輸送物資を受け取り始めた。

 10月までに、ヘイドリッチを奪い取る最後の戦いは終了し、この星系は完全にスターアダーの支配下に入った。200万人以下の民間人が星系に残った。





プライオリの亡霊

ローアマスター

 我らが判断できたところでは、疫病が広まり始めたのは3074年9月前後であるようです。兵器化されたウィルス――本当にそうかどうか不明――は、惑星上に残っていた者たちにひそかに感染拡大していきました。その潜伏期間が原因で、我々はこの疫病を我ら氏族の領土に広げてしまいました。人口のうち大半はこの病にかかっていないようですが、ミキノ、レラー、トラスコット、キャノン、タラスコの遺伝子をいくらか持つ者が最も罹患しやすいのを突き止めています。我々はすでにあなたの前任者をウィルスで失っています……彼の突然の死で調査が始められたのです。

 他氏族ウォッチの噂と報告によると、ウィルスをばらまいたのは、根絶前にプライオリにいたソサエティのセルだったとの強い意見の一致が見られます。最も可能性の高い感染源は水源です。我らの降下船すべてが惑星を発つ前に惑星の真水を使ったからです。

 我々は現在、この疫病の治療法を見つけるために、忠実と思われる科学者たちと協力しています。現在の死亡者数は戦士の間で受け入れがたい水準に達しており、解毒剤が完成するまでにさらに高いものとなるのではないかと疑っています。しばしの間、ブラッドネームの神判を止めるのが氏族の最大の利益となるかもしれません。なぜなら、勝者が長く生き延びられるか保証されていないからです。

――スターアダー氏族ウォッチ・スターキャプテン・ウィリアム・パイク、プライオリ分析、27073075






ロレンゾの逃亡

 ブラッドスピリット氏族によってヴィントンの海中都市ヴェルヌから救出されたダイアモンドシャーク商人代表ロレンゾは、スピリットに対して航宙艦1隻と降下船2隻の交渉を行った。ブーケ氏族長は卑しい商人に関わるのを拒否し、スピリットの商人代表ヤジアが来るまで待てと伝えた。

 シャークの第4VDCが実際には戦士ではないことに気づくと、スピリットは部隊のバトルメックとバトルアーマーを没収した。シャークの生存者の中に戦士がいないことに満足したスピリットは、次に再編成のため新植民地ヘイヴンに移動した。

 ロレンゾ代表とシャークはスピリット軍の積み下ろしを手伝い、約6週間かけてヘイヴンで損傷した装備の修理をした。商人長ロレンゾはヤジアと会うために主都市リュフジに連れてこられた。決定的な長い競争(チェス、トリヴィア、難しい経済問題など)の末、契約は結ばれた。ロレンゾはアルビオンへの輸送を勝ちとったのだ。そこで彼らはスカウト級航宙艦〈トロイ〉、コンドル降下船、中心領域への旅に必要な物資を得ることになる。

 シャークは3073年12月に出港した。2月、シャークは盗賊階級襲撃隊の真ん中に到着してしまい、盗賊たちは略奪のため商人の船に乗り込もうとした。盗賊たちは反抗的な船員たちへの準備がなかった。ほとんどが武装していなかったのだが、シャークは使えるものはなんでも使って敵に群がり叩きのめした。待ちぶせと船のシステムを最大限に使った彼らは盗賊を鎮圧した。狡猾と欺瞞を使ったロレンゾはいまや武装した民間人たちの部隊を率いて、盗賊の航宙艦と戦い、この船と降下船2隻分の積荷を押収した。シャークは敵を隔離し、3074年7月、チェインレイン・アイルズに到着した。彼らはスピリットの隠し植民地星系の情報と、降下船に積まれた先進プロトメック技術と共に帰還した。この技術は盗賊がタニスから輸送中のものだった。

 ロレンゾ代表は中心領域に移動し、ヘルズホースと話し合うために立ち止まり、先進プロトメック数機を、長期の資源契約、その他の商業的合意と交換した。

――ダイアモンドシャーク氏族セミ・カラザ、報告追記 16073082






ベアへのちょっかい

 7月後半、第191アダーガードのスターコーネル・ボイド・トラスコットは、ウォッチの工作員からメッセージを受け取った。バーロック氏族のゼータ銀河隊が、ヌーボーパリのアダーとホースをすり抜けて、ゴーストベアドミニオンに現れたというのだ。サンタンダーVから送信したこの工作員は、バーロック軍がゴーストベアとホースの間にトラブルを起こそうとしているとアダーに伝えた。バーロックの任務の要点は、ヌーボー・パリで得られた装備の大半を使ってホース銀河隊を装ってることと、ドミニオン国境をさまよっていることだった。次の目標となる世界は、ダミアン、ホルムスブ、ピナクル、チューレだった。

 アダーの情報は、すぐにヘルズホースのギャラクシーコマンダー・アンサー・クーパーに伝えられ、それからホース指導部にあがっていった。コブ氏族長はスターコーネル・ジェイク・カブリンスキーを通じて、この情報をゴーストベアに渡し、ホースがこの状況を解決しようとしていると伝えた。8月半ば、ホースとダイアモンドシャークの商船を使って、イータ銀河隊の第39星団隊 [アダーの2個星団隊が同乗していた。-SK] が、チューレに到着した。ホースはドミニオンから、バーロック軍が到着するのを惑星の月で待つ許可を受けた。[イータ銀河隊は、バーロックが別のところに到着するのに備え、ピナクルとホルムスブに分割していた。-SK]

 8月29日、ホースを装ったバーロックがパイレーツポイントに到着し、アッコティンク湖岸にある重要な工業都市に向かい、主工場に突撃降下をしかけた。ギャラクシーコマンダー・アンサー・クーパーは襲撃部隊を追いかけ、上陸する降下船を迎撃した。ホースが襲撃隊の船を確保しに動くと、スターアダーがバーロック軍を捕まえるないし無力化するために急派された。ゴーストベアのパトロールもまた到着した。彼らが受けていた命令は、監視を行い、ベアの民間、インフラが危機に晒されたら介入するというものだった。[介入まではそう長くなかった。バーロック軍は迫るアダーを抑えるために素早く年に入った。両陣営が建物を吹き飛ばし始めると、ベアには介入する以外の選択肢はなかったのだ。-SK]

 三つどもえの戦いで、新たに建設されたミラボーグ造船所を含む都市のほとんどが破壊された。偽ホース軍は迎撃に入ったベアのソラーマ三連星隊を撃破した。アダーの第5アダー強襲星団隊は、第2バーロック機士団を足止めし、崩壊するまでたたきのめした。バーロックの残り3個星団隊は、アッコティンク・シティを押し通ることで第191を迂回し、逃げる中で火をかけ、建物とインフラを破壊した。バーロックは都市外縁の貯水池に到達し、ホースから逃げてきた降下船のうち2隻と合流した。ゴーストベア気圏戦闘機1個星隊の激しい砲撃の下、到着したホースとアダーから圧力を受けたことから、降下船のうち1隻だけがチューレを脱出することができた。もう一隻は離陸したときに湖の上空で撃墜された。

 ギャラクシーコマンダー・クーパーは10月中を通して、部隊をドミニオン内にとどまらせ続けた。バーロックが到着に失敗したとき、この銀河隊はホース宙域に呼び戻され、生き残ったアダーの戦士たちは公式にヘルズホース氏族に受け入れられた。

[これに対する脚注として、バーロックが戦闘中、チューレの水源に遺伝子ウィルスのようなものを混入したことが現在では知られている。アッコティンク湖の水(天然由来の甘さを持ち、ミネラル豊富)はチューレのミネラルウォーター輸出ビジネスの中核であったことから、ウィルスはすぐにドミニオンの各地に広まった。このウィルスはツェンとスヌーカの血統がほぼ根絶したことの先駆けであったようで、ドミニオン内で28万5000人の死者を出した。

幸いにして、昨年までに、この非常に強力なウィルス変種に対する特効薬が完成し、ドミニオンの民衆に配布され始めている。ツェンの血統は激減したが、不自然な根絶を免れた。-SK]





〈スウィフト・ストライク〉のタイタニック的航海

 3073年8月、CDS〈タイタニック〉〈スウィフト・ストライク〉が、ダイアモンドシャークの中心領域領土であるナイセルタからの長旅を終えて、ヨークに到着した。2隻の船は、ブラッドスピリット氏族との最後の契約のひとつとして、補給と物資を満載した数隻の降下船を搭載していた。〈タイタニック〉に載せられていたのは、特別な贈り物であった。シャークの新型バトルメック、クリムゾンホーク数個星隊である。この機種は、最初スピリットによって開発されたのだが、伝説的な所有の神判でシャークに移ったものである。シャークは元の設計を改造・強化し、生産の初期ロットがスピリットに輸送されている最中だった。

 シャークにとっては不幸なことに、この星系はスターアダー氏族によって再び封鎖されていたのである。1年前の爆撃により、生態系に多大な被害を受けていたこの惑星は、名目上いまだブラッドスピリット氏族の所有だった。アダーは生き残りを封鎖するのみならず、CBS〈エクスサングイン〉含む、残ったスピリットの戦士たちを迎撃することを望んでいた。

 スターアドミラル・フォルトゥナ・ジーナはどのような取り決めがなされていたかに関わらず、シャークの通行を拒否した。シャークが配送を成功させるには、封鎖の突破しかなくなったのである。CSA〈アブソリュート・トゥルース〉と〈ニゴール〉が接近する〈タイタニック〉の進路に入った。〈タイタニック〉が離脱を拒否すると、両アダー艦は通り過ぎる船に斉射を加えた。両艦の猛烈な片舷斉射は〈タイタニック〉に致命的な打撃を与え、ジャンプコアを破壊した。このポチョムキン級の降下船の群れは、破壊される船の周囲で隊形を組み、アダーをすり抜けようとした。逃げるシャーク艦のうち半数がヨークの地表にたどり着いた。

 〈タイタニック〉が運命を決すると、〈スウィフト・ストライク〉は逃げ出そうとした。〈アブソリュート・トゥルース〉からの長距離砲撃がエンジンに損傷を与え、後方ベイを貫通して、船の1/4を虚無にさらけ出した。スターアドミラル・ナガサワは高Gターンを決行し、追撃してくるアダーの進路から離れたが、この機動によって〈スウィフト・ストライク〉の老朽化したK-Fドライブに細かい亀裂が走った。惑星から遠く離れたくなかったアダーは、追跡を諦め、〈スウィフト・ストライク〉がジャンプするに任せた。

 この戦艦はアルビオンに飛んだ。そして、10日後、アルビオンからジャンプし、3077年まで再び目撃されることはなかった。生存者によると、〈スウィフト・ストライク〉は未知の星系にミスジャンプしたという。航法センサーが損傷し、パワーの一部を失い、K-Fドライブが損傷を受け、ジャンプセイルが故障した〈スウィフト・ストライク〉には、破滅しか残されていないように見えた。この星系の唯一の惑星はかろうじて生きていけるのみだったが、汚染された水と小さな生命体を持っていたので、浄水装置によって船員が生存できるなんらかの方法を供給したのである。

 漂流し、パワーを失った〈スウィフト・ストライク〉の船員たちは、K-Fコアのリアクターを修理するために主エンジンを分解した。このプロセスは、完成までに3年近い期間と、半分以上の乗員を犠牲にした。6ヶ月におよぶ注意深い近隣星系パターンの調査の後、〈スウィフト・ストライク〉はついに数世紀前に発信されたチェインレイン・アイルズからのかすかな無線ノイズを拾ったのである。慎重な先導と、任務への注意深さによって、〈スウィフト・ストライク〉の船員はゆっくりと故郷への進路をとった。3077年11月3日、当艦はチェインレイン・アイルズのダイアモンドシャーク海軍基地にたどり着いた。

 再び、ダイアモンドシャークの任務につくまでには3084年までかかった。

――ダイアモンドシャーク氏族科学者、歴史家クラウド、失踪船舶報告補稿、 11103084






一親類族の滅亡

 3072年前半、〈ストリーキング・ミスト〉がアトレウスの近くに到着した。盗賊の指導者、ジャガーに率いられた降下船2隻がマンドリルの火砲基地ガンマそばに上陸し、守っていた第16強襲星団隊を撃破した。施設を略奪し、出発した直後、惑星中に危険な疫病が広まった。〈ストリーキング・ミスト〉はアトレウスに停泊していた商船数隻を破壊し、事実上、惑星を封鎖した。数カ月間残っていたジャガーはマンドリルとヴァイパーの領土に対して各種の襲撃を仕掛け、物資と奴隷を奪った。

 疫病の大流行で人口激減したファイアマンドリルとスティールヴァイパーのアトレウス飛び地領土はかろうじて生存にしがみついていた。コヨーテ氏族や暗黒階級によるたまの襲撃のために集められていた両氏族の防衛隊は、スティールヴァイパーのタスクフォースが3073年の7月に到着するまで混乱状態にあった。ヴァイパーのスターコマンダー・フリーダ・アフマドは、アンドリュース氏族長に疫病のことと、惑星地表の悲惨な状況を伝えた。他に感染を広げてしまうのを避けるべく、大氏族長は残っているヴァイパーに命令を下した……治療法が見つかったら助けを送るというものだ。[補給を求められると、大氏族長は答えた。「諸君らはスティールヴァイパーである。隣人から必要なものを奪え。さもなくば死ね。氏族に仕えよ、さもなくば名誉なき犬として死ね」。-SK]

 ブラッドスピリットのゼータ銀河隊が一年以上後に到着したとき、ヴァイパーは死んでいた。アトレウスに残っていたのは数千万の民間人と、戦力2個星団隊以下のファラディ=タナガ族の軍事部隊であった。スピリットの遠征軍を率いたクラッフ副氏族長は、親類族の生き残りに対して吸収の神判を宣言した。マンドリルは喜んで運命を受け入れた。10月までに飛び地領土は消滅し、ファラディ=タナガ族はもう存在していなかった。[興味深いことにスピリットの科学者によるテストで、疫病は自然消滅したとわかった。病は主にタナガ、ホスキンス、ケネルの遺伝子に影響した。-SK]





ファルコンの復讐

 3073年11月、ジェイドファルコン氏族は、これまで悩まされてきた者たちの隠し基地を発見した。1年以上にわたって、ファルコンはウォッチが陣頭指揮をとる調査派遣団を送っていた [なぜなら、3072年、ローアマスター・ケール・ペールシャー率いる報復攻撃隊が発見したエチエンヌの星系の座標は悪賢い科学者たちによって偽造されていたからである。ファルコンの攻撃部隊が到着すると、そこには辺境世界共和国の放棄された航宙艦1隻が残されているだけだった。-SK]。この発見の一部は、皆殺し命令の中で捕らえられたわずかなソサエティ会員への暴力的な尋問から得られたものだ。

 アルファ銀河隊は〈ファルコン・ネスト〉、〈ホーク・アイ〉、〈ターキナ・プライド〉とともに派遣された。12月半ば、ファルコン艦隊はエチエンヌ・サンクチュアリに到着した [そう、この星系の名前はエチエンヌ・サンクチュアリと呼ばれている。それはこの男について多くを語っている。-SK]。この星系は通常のSDSに守られていなかったが、兵器化されたHPGパルスのようなものを使っていた。送信されたウィルス(ファルコンOZに蔓延するSLOTウィルスとよく似ている)は、〈ホーク・アイ〉の運用システムだけを制圧し、移動中のジャンプを強制させた。結果として起きた〈ホーク・アイ〉の消滅は、ファルコンの強襲を阻止しなかった。凄まじい技量を持って戦い、先進的プロトメックの群れと固定地上防衛網を押し通ったアルファ銀河隊は、ファルコンの戦士ひとりにつき、エチエンヌ軍の3、4人を倒した。第101戦闘星団隊は、ソサエティの要塞の城壁を破り、銀河隊の残りが殺到するあいだ、猛烈な反撃を寄せ付けなかった。残忍な4時間の後、負傷したローアマスター・ケール・ペールシャーと数名のエレメンタルがついにエチエンヌの私室に押し入り、裏切り者の存在を生で確認すると、その顔を撃ちぬいた。

 ソサエティの指導部が壊滅すると、アルファ銀河隊の生き残った戦士たちは退却した。安全なところにまで達すると、〈ファルコン・ネスト〉と〈ターキナ・プライド〉が爆撃を始めた。近くの地上ランチャーから核弾頭装備のSDSミサイルが一斉発射された。ミサイルの大半が大気圏を突破する前に撃ち落とされたが、2発は対抗措置を避け、〈ファルコン・ネスト〉の前方ウェポンベイの真下を叩いた。核爆発が船の内部を蒸発させた……その残骸はエチエンヌ・サンクチュアリの大気圏で燃え尽きた。

 〈ターキナ・プライド〉が爆撃をやめたのは、要塞があったところから10キロメートル圏内になにもなくなってからだった。ファルコンはもう一ヶ月かけてこの惑星を探査し、ふたつのソサエティ施設を破壊して、それからこの星系からの脅威は終わったと満足した。

[ローアマスター・ケール・ペールシャーは、科学者の要塞に小規模なファルコン部隊を率いたときの怪我が元で死亡した。タスクフォースが帰還すると、ギャラクシーコマンダー・プライドがローアマスターの座に選出された。-SK]





トカーシャ陥落

 3074年9月後半、スティールヴァイパーはトカーシャに到着した。アンドリュース大氏族長は、主星への危機は去ったと確信し、数個ヴァイパー銀河隊を持ってきた。[ニューケントが、ソサエティの革命の初期に行われたウィルス攻撃の大打撃からどれだけ回復したかはほとんどわかっていない。最も簡潔で明白な説明は、ヴァイパーが、いまだ少数のコヨーテ軍が占領していたイオニアの工場飛び地を完全に破壊したということだ。-SK]。ヴァイパーは状況を把握するために到着し、もし可能なら、トカーシャの大規模な工場群で戦争資材を増強しようとしていた。

 だが、大氏族長が見たのは、ブラッドスピリット氏族がヴァイパーの元領土を占領していたことだった。ホースとスコーピオンの領土は、惑星上の都市ひとつだけに減少していた。ヴァイパーが到着したとき、スピリットはそれらの領土について交渉している真っ最中だった。

 アトレウスの戦力が殲滅され、スピリットが病魔に侵された民衆を吸収し、移動したと聞き及んだ大氏族長は(氏族本拠地中の全氏族人が脅威にひんしていることとあわせ)、この惑星に対する所有の神判を宣言した。スピリットが挑戦に応じ、弱体化したホースとスコーピオンの領土に代理として立って、3個銀河隊、オミクロン、オメガ、ゼータが星系を守ると宣言した。ブーケ氏族長(ブラッドスピリット)の反応に喜んだヴァイパーは、単純に4個銀河隊すべてを上陸させ、強襲を開始した。大氏族長からボンズマンを取らず、降伏も認めないように命令されていたヴァイパーは、敵に名誉を見せず、あらゆる攻勢でゼルブリゲンを破棄した。

 大氏族長は多大な戦力を投入しすべてのスピリット銀河隊を順番に目標とした。ゼータが最初に倒れた。大規模なHH-8バトルアーマー工場群近くのコヘ山脈に捕らえられたのである。全6個星団隊が、空爆と戦闘降下の無慈悲な組み合わせによって粉砕された。

 ブラッドスピリットのオミクロン銀河隊 [プロトメック中心の編成。その内の一部はコヨーテ軍に見られる新型機だった。-SK] は、ヴァイパーのベータ銀河隊の側面を叩き、支援戦線から切り離した。ヴァイパーの逆襲は激しいものとなった。ニュー銀河隊がオミクロンの背後に移動し、スピリットを2個銀河隊による容赦ない攻勢の間に閉じ込めたのである。その機動性にも関わらず、オミクロン銀河隊は脱出できず、完膚なきまでに打ちのめされかけた。そのとき、スピリットの気圏戦闘機数機が、駐留していたトカーシャの月から到着し、ヴァイパーの戦線に穴を開けた。オミクロンの生存者はどこか近くの峡谷に逃れることができた。

 ヴァイパーは戦いの勢いを維持し続けた。夜明けからまもなく、ガンマ銀河隊はスピリットのオメガ銀河隊に激しくぶつかり、ものの数分間で彼らの防衛戦を蹂躙した。大氏族長自身に率いられたアルファ銀河隊は、ブーケの司令本部に到着し、包囲した。アンドリュースはスピリットの氏族長に対し、対等の環(サークル・オブ・イコールズ)での戦闘を求めた。ブーケはヴァイパーのデズクラ的戦術を理由に当初拒否したが、絶え間ないブーケとその血統への侮辱が常識に打ち勝った。大氏族長の傲慢を終わらせることにしたブーケは戦場でヴァイパーの氏族長と直面し……敗北した。

 彼のブラックパイソンがブーケのサモナーに一撃を見舞って勝利すると、大氏族長は神判の終了を宣言し、ヴァイパーが勝利した。生き残ったスピリット戦士たちは、ヴァイパー氏族内での労働者として新しい運命を受け入れるか、死ぬかだった。ほとんどすべての戦士が後者を選んだ。

 それからアンドリュースは集まったスコーピオンとホースの戦士たちに向き直り、彼らがデズクラであり汚されていると宣言して、処刑した。生き残った民間人はいなかった。彼らの飛び地領土は奪い取られ、それから爆撃された。

 勝利を得たのに伴ない、ヴァイパーはついに彼らの真の敵に立ち向かう準備をした。コヨーテ氏族と仲間のソサエティである。










贖罪





ヴァイパーの毒

 3074年末までに、スティールヴァイパー氏族の通信の大半は復旧した。HPGが物理的に損傷するか破壊された世界は、HPGアンテナを装備した航宙艦によって手当されるか、残ったHPG中継装置が使われた。各氏族世界からのニュースと報告を評価した大氏族長は、氏族戦力の大部分をストラナメクティに集めた。ここでもう一度、アンドリュースはこの世界をさらに汚す氏族人たちを罰する命令を出した。それから大氏族長は集結させたスティールヴァイパー氏族の部隊をタマロンに率いた。

 3074年12月7日、ヴァイパー艦隊は惑星近くのジャンプポイントに到着した。やってくる侵攻軍に対し、星系の複合SDS、2個完全海軍星隊が陣容を整えていた。

 大規模な防衛部隊に対抗するのは、生き残った戦艦、6個銀河隊を含むヴァイパー氏族軍の大半であった。その中核はCSV〈ペリガード・ザールマン〉とブレット・アンドリュース大氏族長である。タマロン周辺での海戦は、クロンダイク作戦以来、氏族世界では見られなかったものとなった。〈ペリガード・ザールマン〉はヴァイパーの強襲の要となり続け、その舷側一斉射撃は致命的な効果を発揮した。このリヴァイアサン・プライム級は、艦隊が惑星に近づくと、船体の壊れた部分を背後に隠した。ヴァイパーのスターコモドア・テレンス・モファットは、艦隊を見事に操り、SDSの有効射程範囲の外を保ち続け、その穴を突いた。ヴァイパーの降下船が降り始めると [大氏族長の指揮船が先頭に立った。-SK]、コヨーテの〈アンセストラル・ホーム〉が〈ペリガード・ザールマン〉の船首を狙い、深く穴を穿った。〈ペリガード・ザールマン〉の応射は受け流され、改造型〈アンセストラル・ホーム〉は〈ザールマン〉の注意を引いた。幾度か一斉射撃が交換され、〈アンセストラル・ホーム〉の側が最悪を被った。このテキサス級戦艦は叩かれたが、敵のリヴァイアサン級との距離を近く保ち続けた。ヴァイパーは〈アンセストラル・ホーム〉のK-Fドライブが大きくパワー上昇しているのを感知した。数秒後、〈アンセストラル・ホーム〉はハイパースペース・バブルを開き、それは戦艦の半分を包んだ。ジャンプ失敗のフィードバックは、〈アンセストラル・ホーム〉を崩壊させた。〈ペリガード・ザールマン〉は更に酷い被害を被り、リヴァイアサンの半分が切り離され、崩壊するハイパーウェーブにぺしゃんこにされた。致命的な損傷を被った船は、徐々に惑星に落ちていき、高低速減衰軌道で安定した。

 海戦が続くなか、ヴァイパーの降下船は地上へと突き進んだ。降下中に数隻が惑星防衛対空砲にとらえられたが、対空砲も、戦闘機の大群も、空中プロトメックも、ヴァイパーの接近を鈍らせはしなかった。アルファ銀河隊が先陣を務め、デルタ、ニュー銀河隊の素早い強襲とあわせて、降下地点を確保した [ガンマの解散後、第423、第428強襲星団隊がデルタに再配置された。-SK]。時間を無駄にすることなく、ヴァイパーは北進し、惑星の首都から200キロメートル以内に入った。

 攻撃側の6個銀河隊は目標に向かい、アパッチ山脈の重要な工場群いくつかを確保し、エプシロン、ラムダ銀河隊を粉砕した。このとき、コヨーテの戦艦数隻が配置につくのに成功していたが、友軍を支援するために一斉射する以上の時間があるのは稀であった。強襲の第一週目、ついに海戦の決着がつき、最後のコヨーテ艦〈グレート・コヨーテ・スピリット〉が降伏した。〈ミッドナイト・スター〉、〈ソーラー・ブレイズ〉だけがなんとか脱出に成功した。この2隻の逃げた戦艦は、キリンで〈スピリット・イン・ザ・スカイ〉と〈リリントレス・パースート〉に合流した。

 惑星の地表では、ヴァイパーがゆっくりと念入りに、コヨーテの首都サンマテオに進んでいた。攻撃軍を驚かせたのは、ゼータ銀河隊がエプシロンの残存戦力を強襲したというものだった。彼らはヴァイパーのアルファ銀河隊を待ち伏せするために待っていたのである。他の場所での攻撃が始まったとの噂もまた付記されるべきものであろう。

 12月16日までに、首都は包囲された。ヴァイパーが進撃したあとには、死んだ4個銀河隊が横たわっていた。ヴァイパー自身は容赦ない前進で3個銀河隊を失った [コヨーテはエプシロン、デルタ、ラムダ、ローの大半を失った。ヴァイパーはデルタ、ニュー、ローである。-SK]

 生き残った部隊を、古い都市の鬱蒼としたアーバン・ジャングルに入れたくなかったアンドリュースは、エリオット・マッキベン氏族長とレイヴン・クリアウォーター副氏族長に呼びかけた。所有の神判が宣言された [大氏族長のこの決断は寛大なものであった。おそらく、コヨーテ内で不和があるという報告に影響されたのだろう。-SK]。両コヨーテ氏族長は大氏族長の挑戦に応えた。副氏族長のグリマーニと共に、四人の氏族長がファウンダーズ・パーク内でぶつかった。ヴァイパーの氏族長二人だけが公園を出てきた。傷ついていたが勝利したのだ。ヴァイパーはタマロンを我が物とした。

 コヨーテの戦士の全員に対し、武器を捨てて、ダストランド西岸のウート市に集まるよう命令が出された。ヴァイパーは集まった者たち(2個銀河隊分近く)を拘留し、捕虜収容所の外にいた戦士を見ると撃ち殺した。大氏族長は彼らの運命を決めることになるが、それは2月に予定されている次の族長会議の後でだった。





アダーの強襲

 コヨーテ氏族を叩くためヴァイパーが氏族軍を集めていたとき、スタニスロフ・ンブタ氏族長はスターアダーの戦力をダグダに集めた [アダーのウォッチはようやくいくつかのグループをひとつにまとめ、タニス星系でなにか悪いことが怒っていることに気づいたようだ。-SK]。ハンニバル・バナチェック副氏族長は、クラウドコブラの戦艦2隻 [〈ヘル・フューリー〉と〈ブリムストーン〉-SK]、小型乗組艦艇、戦闘機数個星隊からなる艦隊と遭遇した。アダー副氏族長はタニス星系を奪還するためコブラに支援を求め、そうしないとアダーはコブラが数年前の合意の精神に違反したと考えるとした。コブラはしぶしぶ同意した。

 連合氏族艦隊は、12月17日、タニス星系のL1ポイントに到着し、強襲を始めた。〈ステラー・サーペント〉〈ディヴァイン・コンクエスト〉〈ヘル・フューリー〉は、容易に〈イングリッド・ブチャレフ〉、〈セカンドカミング〉を片付け、スタチャの降下地点を確保しに向かうガンマ、デルタ、エプシロン銀河隊のための道を作った。〈ブリム・ストーン〉と〈エクソダス・レンジャー〉は、アルファ、シグマ、グザイ、タウ銀河隊を護衛し、激しい地対大気圏砲撃を受けた。グザイ銀河隊の半分は、降下船が兵士を下ろす前に殲滅された。

 スタチャで、アダーはカートム近くの中心的な要塞に攻勢をかけた。直面した抵抗は小さいもので、統制のとれてない盗賊のまばらな集団を掃討した。アダーはそれからカートム・タワーを包囲し、頑強なソサエティのセプト群を根絶した……薬で狂ったパイロットは強襲するデルタ戦士を奇襲し、機銃掃射と爆撃で崩壊する前に、デルタ銀河隊の約半数を切り刻んだ。敵の主力を蹴散らしたのに伴ない、ガンマが動いて、司令センターを奪取し、同時に他の部隊がカートム市を臨む切り立った崖に分散した。都市内にバーロックの1個星団隊が存在し、主要「研究」施設があるのを確認すると、アダーは都市をがれきに変えた。

 ンブタ氏族長はアルファ、シグマ、グザイ銀河隊を率いて、主大陸で最大の工業地帯へと向かった。ごみごみした工業地区と標高が低く険しい山脈での戦闘で、アダーは塹壕を掘って決意を固めた防衛部隊と直面した。盗賊階級のリーダー、ジャガーである。この元戦士は大規模な工業区域を優位として使い、可能な時は常にアダーを待ち伏せし、直接的な交戦を避けた [後に確認されたところでは、ジャガーは約2個星団隊分のバトルメックと、機械化歩兵1個星団隊を持っていただけだった。彼はこれらを極めて有効に使い、ンブタ師族長の部隊を分断して、機会が訪れたときには小規模な部隊を狙い撃っていった。-SK]。一ヶ月近くに及ぶ絶え間ない一撃離脱戦の後、工場の価値がなくなったことに気づいたンブタは、打ちのめされたアダー軍を後退させ、それから〈エクソダス・レンジャー〉に命じて、バーロックの施設をシステマチックに破壊させた。アダーは狡猾な敵が軌道爆撃に追い立てられなかったことに失望した。

 タウ銀河隊はコルキュラ島を確保し、あることがわかっていた研究所の隣に、大規模な捕虜収容所を発見した。バーロック氏族とタニテの科学者たちによって、氏族市民への遺伝子実験が行われていたことは、アダーを激怒させ、研究所は基礎まで破壊された。病に侵された数千名の市民もまた不幸から解放された。バーロックの堕落とタニテの自己満足に吐き気を催したンブタ氏族長は、アレクサンドラの両大都市を破壊するように命じた。それからタニスのデルタ、ガンマ銀河隊に合流すべく、タスクフォースにタニスへの移動を命令した。

 アダーの艦隊がタニス上空に陣取ると、バーロック氏族長マーカス・ポリチェクは、無条件降伏の信号を送った。ンブタはバーロック指導者の通信を無視し、地表の3つの都市を探し、軌道爆撃で破壊した [この攻撃で、バーロックのゼータ銀河隊の残存兵力らしきものも消滅した]。完了すると、アダーはバーロックの山岳要塞に3個銀河隊分の兵士を上陸させ、包囲した。アダーが配置につくと、ンブタ氏族長はバーロックの降伏を受け入れた。

 短命に終わったバーロック氏族の指導者たちは要塞を出て、アダーが指定した場所に集まった。指導者たち(戦士と民間人)が集まると、スターアダーの指揮親衛隊は砲火を開き、全員を虐殺した。

 3075年1月までに、タニスの3つの世界は有用な戦争資材とすぐ使える資源をすべて剥ぎ取られた。アダーの戦士たちは発見したすべての市民たちをタニテ人かバーロックとして殺した。アダーはいかなる種をも残したくなかったのだ。この星系が充分に去勢されたことに満足すると、アダーは出発し、〈ステラー・サーペント〉だけを監視のために残していった。





六大氏族評議会

[マーサ・プライド氏族長]: 参加者に動議を提出する。本拠地にいる道を誤った兄弟たちと、もうこれ以上の接触を持たないというものだ。
[ローアマスター・ローリー・ツェン]: 動議が出されました。同意者は?
[リン・マッケナ氏族長]: 同意する。
[ツェン]: 六大氏族評議会がここにいない氏族と連絡をしてはいけないかどうか、出席者全員で投票します。賛成の者は挙手を。[間] 記録、9名がこの動議に投票。反対する者は挙手。[間] 記録、2名が反対。棄権1名。従って、この動議は票決された。この評議会にいる氏族長は、この政体に存在しない氏族との通信を試みてはならない。
[アラン・ホーカー副氏族長]: 明確化を願う。放棄された氏族もこの命令に従うのか?
[プライド]: [笑って] 彼らは氏族ではないシャーク。いつも利益を考えている。通常は。
[ラグナー・マグヌッソン副氏族長]: もっと単純にいこう。ノヴァキャットと放浪ウルフは氏族ではない。文化としての氏族だ。彼らは中心領域人の道に下り、あまりに遠くに行ってしまった――
[サマンサ・クリーズ副氏族長]: [鼻で笑う] 見るがいい、誰が言ってるんだ、クイアフ?
[ヴラッド・ワード氏族長]: 我々は進んでいく。あいつらは馬鹿げた考えを振り回して、族長会議の力を吸い取り、シブコの口げんかにまでおとしめた。
[ツェン]: 議論を進めるのが私の責務であることも思い出していただけますかな、ワード氏族長。
[アレサ・カブリンスキー氏族長]: いつも義憤の声だな、ワード。おまえの演説のために割く時間はない。だが、同意しよう……実務に進もうじゃないか。
[ツェン]: けっこう。サマンサ・クリース副氏族長、どうぞ。
[クリース]: ウルフ氏族が3071年、ストラナメクティでとった行動について、ジェイドファルコンは譴責処分を動議にかける。我らが偉大なる父の遺産を破壊したことは、紛れもない愚行であり、懲罰に値する。
[ホーカー]: 同意する。説明しろ、ウルフ。
[ワード]: [笑う]
[カブリンスキー]: ふざけてる場合じゃないぞ、ウルフ。おまえがしたことは大量虐殺に等しい。なぜこんなことが起きたのか、説明しろ。我々から見たら、狭量なウルフがケレンスキーの血統を他の氏族に使わせないようにやったとしか思えない。
[ワード]: おまえらはまだ生きている遺産を忘れているぞ? おまえたちのギャラクシーコマンダー・ケレンスキーもそうだ、ファルコン。[笑う]
[マッケナ]: 馬鹿げたシブコの悪ふざけだな……
[ワード]: いいだろう。我が氏族長たちよ。[ウルフのテーブルに箱のようなものを置く音] 恐れるな。ケレンスキーの遺産は安全だ。完全に。
[息をのむ音]
[ワード]: 本拠地の政治的スラットどもは、ウルフが父の遺産を腐敗から守るためならなんでもやることを理解する必要があった。もしそれが破壊を意味するものであってもだ。
[バーバラ・セネット氏族長]: いいでしょう。お話しなさい。
[ワード]: [間] ウォッチ指揮官・スターコーネル・ラミル・ケレンスキーは、本拠地から我々のもとへ父の遺産を移動するためなら、使えるものはなんでも使った。それを成し遂げたのは……遺産から受け継いだ直感によるものだ。
[プライド]: [ゆっくりとした拍手] 感心した。根性のあるウルフ。よくやった、ワード氏族長。我らファルコンはいつの日かおまえたちを尊敬するかもしれないな。我らの強情な兄弟たちが懸念していたように、遺産の両方は思い出以上のものだ。トランキルにある我々の予備貯蔵庫もヴァイパーによって破壊されたとの報告も受け取っている。

――六大氏族評議会書き起こし 18023075






ヘリオン・ヘルライジング

To: ウォッチ・スターキャプテン・ラッセル
Re: アイスヘリオン氏族、深辺境で目撃

 要求の通り、我らは諜報チャンネル(そのようなもの)を動かし、第3ヘクター機士団の残った三連星隊の居場所を捜索しました。スターコーネル・オリヴィア指揮下のこの部隊は、3072年の暮れにヌーボーパリで最後に存在が報告されています。

 我々が集め得た情報によると、スターアダーとヘルズホースの報告には、ヌーボーパリで襲撃隊に対して行われた作戦で機士団については触れられていません。我々に想像できるのは、この部隊が氏族領域に帰還しようとしたが、果たせなかったということだけです。最近まで、我々はこの部隊を作戦中行方不明としていました。

 ヌエバ・カスティーリャへのルード副氏族長の使節の間、情報の小さな断片が偶然にも我らのもとに届きました。捕らえられたカスティーリャ人指揮官の一人が、サンマテオ近くのどこかで活動している「リザードクラン」なる傭兵部隊に言及したのです。カスティーリャ人はすぐに我が部隊の軍服にあるアイスヘリオンのロゴを認識しました。(正規の装備を入手する時間がなかったのです。現在では状況が是正されています)

 我らが気まぐれな機士団たちは、野蛮な金で雇われる兵士というところにまで身をやつしてしまったのです。もし彼らに遭遇することがあるのなら、彼らに名誉ある扱いをし、受け入れることができるかはわかりません。もちろんこれは、我らが指導者の返答次第です。我らは単に正確な知らせを届けただけです。

――ゴリアテスコーピオン氏族ウォッチ、マーク、摘要報告、パーソナル19033075











創設者の未来





ヘリオンの残存戦力

ローアマスター・カラザへ

 あなたの六大氏族評議会向け追加報告に、謹んでこの補遺をお送りする。深辺境の星々にアイスヘリオン氏族が生き残っているとの噂は根拠なしではなかった。各ウォッチの報告は、この壊滅した氏族の大半がヘクターに帰還し、それからゴリアテスコーピオンに吸収されたことを示しているが、ふたつの言及されるべき例外がある。

 ルードたちが本拠地へと帰還するさなかのどこかで、ヘリオンは2隻の航宙艦を失った。通常、このような損失は脱走の類ではなく破滅的なミスジャンプの結果と記録される。脱走のような行動は、極めて不名誉なものであり、氏族評議会はそう認めないだろう。

 航宙艦のうち1隻は〈パーマ・フロスト〉であった。小型のトランプ級であるこの船は、第3ヘクター機士団1個三連星隊の戦士と装備を運んでいた。この船は3072年にヌーボーパリからジャンプし、以降、消息不明となった。

 3075年、ゴリアテスコーピオン・ウォッチは問題の部隊との二次的接触を報告している。彼らの情報源によると、ヘリオンはサンマテオ近くで目撃され、ハイテク装備を持った傭兵部隊として活動しているという。ウォッチの情報源は部隊章とヘリオンのロゴを見て、つい最近やってきた傭兵とまさしく同じものと言っている。

 残念ながら、スコーピオンはヌエバ・カスティーリャへの短い遠征中、行方不明になった三連星隊を発見することができなかった。彼らがこの三連星隊を見かけた場合、野蛮な金で雇われる兵士として不名誉な行動をとっていることから、撃破することになっている。

 同じく注目すべきなのは、第121ヘリオン槍機兵隊の行方不明になった超新星隊である。槍機兵隊は、3071年、ヘルズホースの破滅的な逆襲の後、トーランドから撤退した。ルード副氏族長は次にベンシンガーへの退却を命じたが、この世界がすでにホースの手に落ちていることに気づいてなかった。到着すると、槍機兵隊は状況に気づき、さらに移動することを選んで、ダークネビュラに向かった。

 そこからジャンプした槍機兵隊の航宙艦は、これまで中心領域軍のみを悩ませていた部隊、グリーンゴーストに攻撃された。槍機兵隊からの最後の通信は、グリーンゴーストの海兵の強襲に蹂躙されているというものだった。槍機兵隊が到着しなかったとき、ヘリオンは彼らが壊滅したものと単純に捉えた。

 3076年、第121のマーキングを帯びたメックとエレメンタルが、ヘルズホースとゴーストベアの辺境沿いの世界をいくつか叩いた。この攻撃部隊は最後に報告された槍機兵よりも規模が大きく、よって両氏族のウォッチは海賊が元ヘリオンの装備を使用している可能性が高いと考えた。

 3079年にグリーンゴーストがナイセルタを叩くまで、我らがウォッチもそう思っていた。

 グリーンゴーストはこの古い植民地にある我らの新しい施設のひとつを破壊しようとしたが、折よく到着したスターコーネル・ハンナ・コールストンと第16打撃星団隊にはねのけられた。第16打撃星団隊はドミニオンとの貿易使節団の一部としてナイセルタに一時的に配備されていたものだった。第16は手際よくグリーンゴースト中隊を撃破し、降下船も破壊した。パイロット一人だけが生きて捕らえられた。彼の遺伝子情報は、スターコーネル・イルト・ブラッグ(第121ヘリオン槍機兵隊指揮官)と一致したが、彼の顔はいくらか別のものとなっていた。回収品のうちいくつかは氏族を起源とするものだった……マシンのうち少なくとも2機にアイスヘリオン工場の製造マークが入っていた。

 少ない証拠は、槍機兵隊がグリーンゴーストに吸収されたか、「最後の選択」のようなものでグリーンゴーストに加入したかを示している。謎めいたグリーンゴーストが、死んだ氏族の星団隊としてあたりをパレードしているのは、憂慮すべきことである。我らの最高のアナリストたちは、利益をもたらすであろうシナリオを思いつけていない。

 これらふたつは例外として、そのほかの中心領域戦役で行方不明となったヘリオン部隊はすべて確認されている。

 ――ダイアモンドシャーク氏族ウォッチ・スターキャプテン・デリク・ボルゲフ、アップデート10013087







クラウドコブラ氏族

主星: ホーマー
主要支援世界: ブリム、ヘルゲート

指導者(3085)
氏族長: ホリーラン・カルダーン
副氏族長: レイモンド・シュタイナー
ローアマスター: エルドリッチ・スパーツ

 キルケとニューケントでの交戦が終わったあと、コブラは傷ついていたが、重傷ではなかった。ときにライバルだったゴリアテスコーピオンと同じ力を持っていたコブラは、引き下がって物事を落ち着かせるのに満足していた。氏族長たちは中心領域への新たな侵攻のために生産レベルを増大させた。

 3076年6月、コブラの科学者は氏族評議会に重大な一報を届けた。さかのぼること3072年、コブラがスコーピオンとハントレスの領土を争っていたとき、ソサエティはコブラのブラッドネームいくつかを抹殺した遺伝子ウィルスを解き放った。両氏族は抗ウィルス薬を開発し、広範囲にわたる流行の方向性を変えた。

 だが、ソサエティはさらにコブラとの戦争を行った。この秘密結社は、コブラの独占であったブラッドネームのいくつかをさらに改ざんすることに成功したのである。荒廃から立ち直ると、コブラの忠実な科学者とキーパーたちは氏族が保有する遺産の約80パーセントを完全にチェックした。このニュースは最悪なものだった……ほとんど壊滅的だった。遺伝子遺産のほとんどが、未確認の血統との混合によって汚染されていたのである。一部のケースでは、遺産は手つかずであった……重度の放射線被曝を受けていたことをのぞいて。氏族の遺伝子遺産のうち9%のみが純血を保たれた。残りは、疑わしいか、なんらかの方法で決定的に腐敗していた。

 カルダーン氏族長はキーパーたちと科学長オレッグにこのニュースを内部で隠すように命じた。コブラはいまだ強力なスターアダーと本心からの同盟関係にあったが、コブラの遺伝子が弱体化したということが明らかになったとき、バナチェックがどう反応するかはわからなかった。

 コブラは3077年末までにゆっくりと筋肉を動かし始め、状況を調査するため各氏族星系に少しだけ手を出した。プレゼンスを示し、他氏族の前で小規模な神判を実行することを望んでいたコブラは時間を稼いでいるところだった。3078年前半、コブラの科学者たちはストラナメクティで二番目のプロジェクトを完了し、コブラの遺伝子倉庫再建を助けるであろうアイスヘリオンの遺伝子遺産(現在、スコーピオンが持っているもの)多数を特定した。

 コブラの神判は基本的な資源、軍需物資の奪い合いから、遺伝子的な収穫の神判へと様相を変え始めた。しばしば、コブラは特定の人物を狙い、彼らをギフテイク(戦死者の遺伝子を受け入れる)とするか、可能なら、その人物をボンズマンにするつもりであった。3078年末までに神判は激化していき、カルダーン氏族長は大胆な動きを命じた。ヘクターにあるスコーピオンの遺伝子研究所(元ヘリオン遺伝子貯蔵庫)を奪うのだ。スコーピオンがデズグラ的な戦術を使うなど、激しい戦いのあとで、コブラは薄汚い遺伝子実験が進行中であることを発見した。スコーピオンは元傭兵のエリダニ軽機隊から採取された新しい遺伝子血統のいくつかを使っていたのである。

 名目上の同盟氏族の行動に激怒したコブラ氏族長たちは、この恐ろしいニュースの中にチャンスを見た。スコーピオンを放棄するべきだと激しく追求したカルダーン氏族長は族長会議のシンパシーを獲得した。他の氏族がスコーピオンの資源を狙うなか、コブラは彼らの遺伝子遺産と血統礼拝堂を狙った。

 コブラはロシュに到着するまでに、ストラナメクティ、ヘクター、ダグダの施設からスコーピオンとヘリオンのブラッドネーム遺産を確保していた。アダーとの激しい交渉後、コブラは世界のすべてを奪うために動いた。コブラには敵をデズグラ扱いして強襲するチャンスがあったのだが、厳密なゼルブリゲンを使って整然と惑星に近づいたことから、アダーとライオンは感銘を受けた。完全な侵攻には数ヶ月を要したのだが、コブラは最小限の被害を受けただけで済み、族長会議内で他氏族から健康的な敬意を勝ち取ったのだった。

 この数年間、クラウドコブラは得たものを統合した。彼らは荒廃したデリオス、アルビオン、エデンの飛び地領から数千人の民間人をロシュに動かし、この元スコーピオンの世界を強化し、工業地区を再建した。コブラの商人階級は輸送のために航宙艦と降下船を執拗に追い求めた……ソサエティの反乱と干渉で、コブラの「食料庫」だった領地の多くが灰になったことから、商品の流通を維持する必要があったのである。数個氏族がエグゾダスし、盗賊軍とソサエティ軍の手で破壊された結果、航宙艦が貴重品となっていることから、商人長ヒューマーは経済の流れによって力を得る機会を見たのだ。

 3082年、タニス星系での通常のパトロール中、スタチャで高い放射線が観測された。第59コブラガードが調査のために送られ、プロトメック組み立て工場の廃墟近くに、相当な規模の暗黒階級居留地を発見した。コブラガードは情け容赦なく交戦し、2隻の降下船を切り裂き、盗賊による緊急の防衛を崩壊させた。居留地のすべてを破壊し、燃やし尽くしたあと、スターコーネル・キース・ホッブズは廃墟となった工場の地下に強化陣地をいくつか発見した。そこにはボガード、スプライト・プロトメックが数機残されていた。ボガードはすぐに破壊されたが、先取的なホッブズはスプライトを組み立てクレードルから取り外して、ロシュに持ち帰った。科学者、技術者たちによる2年近くにおよぶリバースエンジニアリングのあと、コブラはこの機種の限定的な生産を開始した。

 プロトメックの生産を増やすという動きは、計算されたものであった。バトルメック工場が不足しており、リーヴィング戦争前より生産が遙かに少なくなっていることから、代替的な戦闘の手段が求められたのである。コブラはライバルたちと同じくらいメック工場を持っているわけではないので、気圏戦闘機というルーツに戻ることになった。問題は戦闘機では大地を保てないということだ。戦闘車両には可能なのだが、コブラはいまだ車両に対する偏見を持っていて、大規模な航空宇宙フェノタイプがあったことから、より小型でより汎用性の高いプロトメックに目を向けたのである。

 3077年、コブラの科学者は、優秀なプロトメック戦士の遺伝子配列を完成させたブラッドスピリットのフェノタイプ計画を取得した。3084年、最初のシブコがすでに有望さを見せているが、死亡率はきわめて高かった。コブラは順調に氏族軍を増やしている最中である。コブラ氏族軍は次の10年間、25パーセント増しで成長するものと概算されており、政治的影響力を増すための力を与えている。



軍事部隊

 コブラはリーヴィング戦争という廃墟から、9個地上星団隊と共に這い出た。16個海軍航空宇宙星団隊のうち12個を失ったが、このほとんどがスティールヴァイパー殲滅のときにであった。ホリーラン・カルダーン氏族長は氏族軍を4個銀河隊に再編成し、氏族の軍事力の再定義に着手した。各銀河隊は、最低でも1個のバトルメック星団隊、バトルアーマー/プロトメック星団隊(打撃星団隊)、航空宇宙星団隊を持つ。諸兵科連合を重視するコブラはこの再編成をうまく利用して、スコーピオンの放棄の時には、リーヴィングの交戦のときよりも高い撃墜率を見せたのだった。



戦艦

 コブラ艦隊はリーヴィング戦争で打撃を受け、半数以上を破壊工作、神判、戦闘で失った。残っているのは、ローラIII級〈カタクリズム〉、ポチョムキン級〈ウィズダム・オブ・ザ・エイジズ〉、ヨーク級〈ブリムストーン〉、〈ネビュラス〉、〈プロテクター〉である。最近、コブラはモスボールされていた2隻のソヴィエトスキー・ソユーズ級〈ダマスカス〉、〈ブダペスト〉を現役に戻した。技術者たちは、サマルカンド級〈ペキン〉も再始動しようとしたが、3081年にそれをあきらめた。現在、この船は艦隊実弾演習用の訓練船としてロッシェの軌道上にある。




クラウドコブラ氏族(3085年時点)

親衛隊と海軍予備
 指揮官: ホリーラン・カルダーン氏族長
 コブラファラオ親衛隊 エリート 50%
 アルファ予備 一般兵 80%
 ベータ予備 古参兵 80%

アルファ銀河隊
 指揮官: レイモンド・シュタイナー副氏族長
 第33戦闘星団隊 エリート 50%
 第149コブラガード エリート 80%
 第214コブラファング エリート 90%
 第89コブラストーカー 一般兵 40%

ベータ銀河隊
 第45コブラ擲弾兵隊 古参兵 80%
 第111コブラストーカー 新兵 90%
 第97コブラガード 古参兵 95%
 第116竜機兵団星団隊 古参兵 70%

ガンマ銀河隊
 第59コブラガード エリート 100%
 第1コブラコイル エリート 75%
 第512コブラガード 新兵 85%

オミクロン銀河隊
 第254コブラガード 一般兵 50%
 第441コブラガード 新兵 80%
 第62コブラストーカー 一般兵 70%
 第222コブラファング 古参兵 100%






コヨーテ氏族

主星: キリン
主要支援世界: バビロン

指導者(3085)
氏族長: レオ・コガ
副氏族長: ローラ・マクタイ
ローアマスター: カール・ヘラー

 断固たるスティールヴァイパー軍と戦った熾烈なタマロン防衛戦、そして族長会議に強制された神判の後、コヨーテ氏族はほとんど死に絶えてしまった。コヨーテ氏族という廃墟の中から残ったのは、不動の戦士たちであった。彼らは裏切りに手を貸さず、ケレンスキーの子供たちの側に身を置き、リーヴィング戦争が終わる数ヶ月にソサエティが指揮する氏族を内側から倒した。

 この行動は賞賛されるものではあるが、氏族指導者たちの心中に芽生えた忠誠心に対する疑問を解くのには充分でなかった。浄化の神判を強制されたコヨーテは、不浄であるとの判定をされた者たちがいたことから、氏族軍に55パーセント近い損失を被った。加えて、氏族から科学者の影響を排除するために、約95パーセントの氏族科学者階級が殲滅された。残ったのはここ数年でコヨーテのシブコから脱落した者たちで、ソサエティに巻き込まれる時間がなかった者たちだった。

 ほぼ崩壊したコヨーテ氏族の戦士たちは、スティールヴァイパー氏族に対する戦闘に身を投じた。生き残ったものたちは、ソサエティの陰謀によってもたらされた不名誉な打撃をいくらか軽減したが、同胞の反逆的な行動によって氏族内で敬遠されることになったのである。

 コヨーテは新たに結成されたストーンライオン氏族という仲間を見つけた。キリン上空にある宇宙ドックを提供したコヨーテは、ライオンが持っている唯一の戦艦の修理と引き替えに、商業輸送協定の交渉を行った。キリンにあったコヨーテの領土(元ホース飛び地領)もまたライオンと取引し、操業中だったトカーシャ・メックワークス工場から追加のバトルメックを得た。ゆっくりと、しかし確実に、コヨーテは再建を始めた。

 コヨーテにとって最も重要なのは、遺伝子血統の砕かれた破片を拾い集めることだった。レオ・コガは遺産の多くが汚染されていると考えた……氏族の道に反するものであった。コヨーテの科学者(残ったわずかな者たち)は、新しい遺産を入手するか、古くて「消滅した」コヨーテ内の血統を再試験してプールに入れるべきだと認めた。

 コヨーテが持っている重要な遺産は、ウィンソン一族のものであった。ニコラス・ケレンスキーの妻、ジェニファー・ウィンソンに属するこの血統は、3070年のウルフ氏族との交渉の最中、静かにコヨーテへと贈られたものだった。1個銀河隊分の兵士と引き替えに、この血統と戦艦2隻を得たコヨーテは、ウィンソン血統礼拝堂が燃え尽きたとのニュースを聞いたあと沈黙を保った。いまや、3名の偉大な創設者のうち、氏族宙域に残った唯一の遺伝子遺産を持つコヨーテは、3077年の族長会議で所有を発表した。

 この遺産が未使用・未汚染であることを確認した氏族指導部は、この血統を使う交渉を持った。コヨーテはここで優位を得て、氏族の悪いイメージを払拭するのに役立てたのである。最初の神判はこの年に始まり、ゴリアテ・スコーピオンとスターアダーが積極的な入札で二世代分の使用権を獲得した。

 コヨーテが直面した次の課題は、壊滅した科学者階級であった。氏族長は残ったわずかな科学者たちに許可を出して、他氏族の選び抜いた各種研究チームと下位階級グループを所有の神判の目標とした。ゆっくりとコヨーテは彼らの科学的中枢を再建したが、リーヴィングから10年たっても、3068年前の1/4以下しかなかった。他氏族のウォッチは強い関心を示し、コヨーテが陰謀組織を秘密裏に再建しないことを確実にしている。

 科学的基盤を再建している最中にして、氏族の名誉を取り戻す途上にあるコヨーテは、保守的な様子見のアプローチをとっている。氏族評議会は特別なハンターキラー任務の入札を満場一致で評決した。この任務は3つの目的を持っている。残されたソサエティの領地を追い詰め、戦士の戦闘技術を保ち、コヨーテが「自分でけりを付ける」ことを他氏族に見せつけるのである。この任務は明白に成功した。アイアンホールド、バビロン、バーセラの三カ所でソサエティの領地が発見され、破壊されたのである――すべての居住用技術を含めて。加えて、氏族ウォッチは、ペンタゴンワールドからジャンプ一回の671-H星系に近いところで暗黒階級グループを発見した。

 ゼータ銀河隊の第69打撃星団隊は、3077年3月、アイアンホールドのソサエティ施設があると疑われていた場所のひとつに上陸した。ギャラクシーコマンダー・ノエミ・マッキベンは、「偽氏族長」エリオット・マッキベンのソサエティ政策によって汚されたブラッドネーム遺産の汚れを少しでも落とそうとした。マッキベンは2個三連星隊を率いて最初の地点に向かい、星団隊の残りに二番目に行くよう命じた。

 マッキベンが近づくと、ソサエティのセルが準備していることは明らかとなった。側面の星隊が1個トレイのセプテシミアに待ち伏せされたのだ。彼女がこの脅威に反応すると、1個セプト全体が反対の側面を崩壊させ、軽星隊を通って、マッキベンと直接交戦した。コヨーテの戦士たちは、むしばまれた名誉の具体的証拠が目の前にいるのを見て、復讐心と共に反撃を行った。敵軍は撃破されたが、マッキベンは勝利のために自軍の半数近くを費やした。

 援軍を求めることを拒否したコヨーテの戦士たちは前進し続け、飛び地領の哨戒線を即座に突破した。彼らは建物から建物を移動し、遭遇したすべての人間を抹殺した。慈悲が示されることはなかった。後にマッキベンは、掩蔽壕で奇形の人間によって作られたシブコを丸ごと発見し、殲滅したことを報告した。さらに彼女は少なくとも5つのファルコン遺伝子血統をその場で見かけたことを報告している。これはコヨーテのサラマンダーが廃墟を炎で浄化したときに破壊された。

 第69打撃星団隊の残りはペリグリン山脈で似たような抵抗に遭遇した。放浪するトレイに二度待ち伏せされた3個三連星隊は、最小限の損害で山の飛び地領を奪い取るのに成功した。コヨーテは部屋から部屋に移動し、目にしたすべてを炎上させた。最後のソサエティ・トレイは無意味にコヨーテの陣地に逆襲をしかけ、翌日の夜明けまでに、残されたソサエティ陣地はすべて灰となった。

 このような強襲がバビロンとバーセラで繰り返されたが、コヨーテはバビロンでオムニメックの工場を破壊しないでおいた。氏族の指導部は新しい飛び地領を近くに建設したが、この施設を臨むソサエティ施設の廃墟は、内乱がもたらした結末を思い起こさせるものとして残されている。

 ローラ・マクタイ副氏族長はコヨーテの残る海軍を671-H星系に導いた。コヨーテ副氏族長は天底点に星間連盟時代の船3隻がおり、戦闘の準備を整えていたことに驚いた。さらなる調査によって、これらの戦艦がわずかに連携し、宇宙ステーションのようなものを形成していることが判明した。後に識別されたところでは、これらはマングースの古い海軍備蓄地点から持ってこられたもので、自衛できる状況にはなかった。

 小規模な暗黒階級の飛び地領は、近づくコヨーテ艦隊に対して持てるわずかな防衛を投入したが、コヨーテの戦艦3隻と数個戦闘機星隊にかなう見込みはなかった。コヨーテはぼろぼろの宇宙ステーションに直接突っ込み、崩壊させた。コヨーテの戦闘機隊は虚空に逃げようとした数隻の降下船と小船舶を蒸発させた。逃亡に使った軌道と、即席の捜索によって、マクタイ副氏族長は2隻の盗賊航宙艦を発見し、ジャンプしようとしていた1隻を破壊した。逃亡したもう1隻は行方不明である。

 3082年、ストーンライオンは名目上の同名氏族であるブラッドスピリットの居場所を伝えてきた。生産物資、輸送船、資源協定を切望していたコヨーテはライオンに加わり、3083年4月、コリーン星系に共同探検隊を送り込んだ。また氏族軍を戦闘状態に戻すことも望んでおり、自信と力を取り戻すためにヘイヴンで強さを見せようとした。

 驚かされたのは、コヨーテが苦労して勝ち取った領土に対し、ブラッドスピリットが武装した市民を使うというデズグラ的行動をとったことである。両氏族は包囲され、慎重な協議の後、コガ氏族長はスピリットが不名誉であると公に宣言し、獲得した工場から輸送できるすべてを持って行くように命令した。コヨーテは戦ってグラスゴー市を押し通り、退却した。ニュー銀河隊は打ちのめされたが、まだ生きていた。

 現在もコヨーテ氏族は、ソサエティの反乱と浄化の神判の大損害から回復する困難な途上にある。領土の大半は、没収されるか放棄された……コヨーテ指導部は、氏族軍が小さいことから領土が小さいことが最良の防衛になると信じている。バビロンとタマロンの再建は進行中だが、氏族評議会の命令により、もうプロトメック軍を生産ないし配備することはない。再建の努力はバトルメック、エレメンタル工場の復興につながり、また他氏族との修理サービス契約を期待してキリン造船所を拡大している。



軍事部隊

 コヨーテ氏族は、ソサエティ主導の反乱を、新しく作られたストーンライオン氏族より悪い状態で脱した。わずか6個星団隊しかないコヨーテは、染みついた不名誉の汚れがなかったら、すぐにも他氏族に吸収されてしまうだろう。氏族の指導者たちは、コヨーテがゆっくりと死んでいくと個人的に信じている。コヨーテの新氏族長はどちらもこの運命に乗るつもりはない。

 次の10年で、コヨーテは残ったわずかなオムニメック、エレメンタル工場を修理した。鋼鉄の子宮の生産を増やし、数十年休眠状態にあった遺伝子系統を復活し、ソサエティの反乱に関与していた一部を閉じた。結果、氏族は次の5〜7年分の新世代戦士たちが使う軍事物資を備蓄し始めた。この備蓄は近隣氏族の注意を引き、コヨーテの戦士にとっては増加した所有の神判を防衛するのが追加の練習となっている。



戦艦

 主要造船所としてキリンのみを持つ(タマロンはスティールヴァイパーに破壊された)コヨーテは、まず造船能力を増やすことに力を傾けた。結果、コヨーテはいまや氏族宙域で最大の海軍造船施設を持つに至ったが、それは彼らが破壊したルウムの元レイヴン造船所の半分の規模でしかない。少なくとも10年間は戦艦を作る能力はない一方で、コヨーテは残った3隻の戦艦をゆっくりと修理している。キャラック級〈ソーラーブレイズ〉、リベレーター級〈スピリット・イン・ザ・スカイ〉、ヴィンセントMk42級〈リリントレス・パースート〉である。ポチョムキン級〈ミッドナイト・スター〉は、スティールヴァイパーとの交戦で激しい損傷を負ったので、昨年、現役を解除され、自沈処分となる前に使える部品をはぎ取られた。




コヨーテ氏族(3085年時点)

海軍予備
 指揮官: ローラ・マクタイ副氏族長
 アルファ海軍予備 一般兵 25%

ニュー銀河隊(デザート・サバイバー)
 指揮官: レオ・コガ氏族長
 第92戦闘機航空星団隊 エリート 85%
 第202戦闘星団隊 一般兵 50%
 第330ソラーマ攻撃星団隊 古参兵 90%
 第605予備打撃星団隊 新兵 35%

ゼータ銀河隊(リディーマー)
 指揮官: ギャラクシー・コマンダー・ノエミ・マッキベン
 第69打撃星団隊 エリート 40%
 第81打撃星団隊 一般兵 60%
 第72予備戦闘星団隊 古参兵 85%
 第900ソラーマ戦闘機航空星団隊 古参兵 95%






スターアダー氏族

主星: ホアード
主要支援世界: シェリダン、タジス、ダグダ、アルカディア

指導者(3085)
氏族長: ハンニバル・バナチェック
副氏族長: ワイアット・タラスコ
ローアマスター: セファ・パイク

 最も強大なライバル、スティールヴァイパー氏族が崩壊したのを見届けたあと、スターアダーは氏族本拠地の中で抜きん出た勢力となった。43個星団隊近くが戦闘可能状態を保たれ、これは他の氏族ふたつをあわせたよりも多い戦力である。それにもかかわらず、アダーの指導部は中心領域への再侵攻が死を招くことを認識している。生き残った氏族のすべてが、氏族軍、インフラ、資源、社会に各種の打撃を受けている現状において、新しい侵攻はリバイバル作戦の失敗を繰り返すことに他ならない。

 ハンニバル・バナチェック大氏族長(アダー上級氏族長でもある)は、全氏族に最低でも20年の「停止」を命令し、補充、再建、再武装のチャンスを与えた。彼は、各キーパーたちによって汚染がないと結論づけられるまで、各ブラッドネームの優生プログラムを止める討論を行うよう命令した。討論は議場内で長くかしましいものとなった。この議題は修正を加えてかろうじて通った。10年にわたって使われてない遺産は、大雑把なチェックのあと、再始動できる。3086年以前にキーパーによって「クリーン」と宣言された遺産は、優生プログラムに再投入される。そして、3086年の後、すべての優生プログラムは再スタートされるが、わずかでも遺伝子に異常の兆候を示したら、リーヴィングの対象になる。

 氏族長数名は、スターアダーがかなりの軍事的・政治的な力を持ったことに私的な懸念を示していた。他の5氏族の中で生まれた緊張感のある政治的空気を緩和するために、バナチェック大氏族長は自発的にその座から下りた。バナチェック曰く、そのために選ばれた紛争は終わったとしたこの動きは、弱体化した氏族内の懸念を緩和し、彼らが強力な政治派閥を形成しないようにするためのものであった。また、氏族の全神経を新たな侵攻に向け、自らを引き裂かないようにするためだった。

 新しい侵攻が少なくとも4世代先になったのに伴ない、アダーは優位を保つため、戦士たちの技術を最大限に磨き続けるのが最優先であるとわかっていた。暗黒階級の数個グループがまだ存在することを知っていた(リーヴィングでは、ソサエティの反乱後に氏族領土を占領した盗賊階級を片付けただけだった)アダーは氏族の腐敗の残りを根絶するために動いた。アダー・ウォッチはギアをハイに入れ、各氏族の領地に潜入し、暗黒階級、その活動、居場所の情報を探した。

 当初、この活動は資源の壮大な無駄だったようだ。一年かけてアダーはシャークが放棄した場所に作られたヴィントンの暗黒階級領地を発見しただけだった。スターコーネル・タムール・ジーナはこの仕事に熱心になりすぎて、盗賊をひとりも捕まえることなく全施設を徹底的に破壊してしまった。廃墟から得られた情報はほとんどなかったが、重要な事実がひとつあった……盗賊の装備の一部が、スモークジャガー製だったのである。

 ローアマスター(当時)・フレッチャー・ダニエルスと、商人長ユリシーズは、この最新の情報を追う専門のウォッチグループを作り上げた。商人階級はニューケント陥落以来、非常に活動的であり、氏族が持つかなりの経済的力を使って、他の氏族の再建を助けた。他氏族とのコンタクトは、できる限り多くの装備を追尾するのに有用であり、徹底的な調査の後、スモークジャガーの装備がハントレスの倉庫から来ていることに気がついた。

 アダーウォッチはそこ(アビズマル大陸南方の遠隔地)に監視拠点を作った。残っていたウィルスから守られたウォッチチームは16ヶ月にわたって調査を続行した。3079年10月、ぼろぼろのライオン級降下船が倉庫の近くに上陸し、略奪を始めた。

 迅速に動いたスターコーネル・ウィンダム・アールは、第471センチネルの打撃超新星隊を率いて、油断していた盗賊たちに突っ込んだ。アダーはまずライオンを損傷させて離陸を妨げ、それから散開した盗賊たちを駆り集めた。数日に渡る熾烈な尋問の末、アールは盗賊の航宙艦の場所と、さらに重要なことを知った。盗賊たちはお馴染みの敵の一部だったのである……盗賊の指導者、ジャガーだ。センチネルはライオンを動ける程度に修理し、襲撃部隊のリーダーをのぞいて全員を処刑し、降下船に乗り込んだ。アールは計画を助けるのに必要なだけの情報を捕虜から聞くと、彼らを船から放り投げた。ライオンは一ヶ月後、盗賊の降下船に合流した。

 アールとウォッチ工作員はほぼ問題なく航宙艦を捕まえた。スターコーネルは氏族に連絡を取り、ジャンプして調査に向かう前に、船のナビゲーションデータを送信した。ローアマスター・ダニエルスは、他の暗黒階級グループを見つけるため、カッパ、シグマ、タウ銀河隊の大部分にジャンプデータの探索を行うよう命じた。

 スターコーネル・アールがレースに勝った。捕獲された航宙艦は、ヘント(ダイアモンドシャーク氏族が放棄した後、荒野となっていた)にジャンプし、見慣れた船の近くに到着した。〈ストリーキング・ミスト〉である。この元ジャガーの戦艦は悪い状況にあり、この星系に散らばる残骸から回収した部品を使ってパッチワークの修理をしている真っ最中だった。口先三寸とハントレスの倉庫で得た高品質な技術を提供するとの約束によって、アールは盗賊の船員たちを騙し、ライオンを〈ミスト〉にドッキングさせた。

 いまだ与圧されていた区画での3、4時間におよぶ残忍な銃撃戦のあと、ウォッチのチームは船員たちを制圧し、この艦を確保した。戦死したスターコーネルから指揮を引き継いだスターコマンダー・ポルティア・ラヒリは、ヘント星系内のどこにジャガーがいるかを知り、航宙艦に氏族宙域への帰還を命令し、アダー指導部に知らせようとした。ラヒリと選ばられた船員たちは、ジャガーが〈ミスト〉のところに戻ってくるのに備えて残った。

 3週間後、カッパ銀河隊はヘントに着いた。〈ミスト〉は消えていた……通信ブイによると、ラヒリはジャガーが逃げるのを阻止するために星系外にジャンプしたとなっていた [これ以降、〈ミスト〉は見つかっていない。ヌーボーパリの近くで目撃されたとの噂もあるが、証拠はない。アダーの作戦後報告によると、この艦はひどい状態にあったという。生き残ったとは思えない。-SK]。大規模な軌道探査のあと、ギャラクシー・コマンダー・ジェニカ・タージドソンは盗賊に占領された可能性のある場所を三箇所発見し、星団隊指揮官たちにそれぞれの入札を許可した。第300センチネルが勝ち取った大規模な火山島にジャガーが隠れていた。激戦でアダーは確固とした橋頭堡を確保したが、盗賊たちは山腹に点在する洞窟の迷路に退却した。スタチャでアダーに対して使われたのと同じ戦術と認識したタージドソンは、カッパの残りに突入するよう命じ、圧倒的な戦力を用いて、ゆっくりと山の巣穴を掃討していった。

 スターキャプテン・フレイヤ(第844ゲートキーパー)のパトロール星隊が、地下川の岸辺で、突如としてザ・ジャガーと二人の盗賊に出くわした。激しい戦いで戦士たちは洞窟に埋められかけたが、フレイヤがジャガーと彼のオステオンを撃墜した。スターキャプテンは盗賊指導者の損傷した死体を引っ張り上げてギャラクシーコマンダーに見せ、アダーの敵が本当に死んだことを証明した。

 指導者を失った盗賊軍は崩壊し、週末までに虐殺された。ヘントの他の場所は調査されたが、わずかな暗黒階級しか見つからなかった。〈アルカディアン・アスプ〉、〈ヴィシエス・ファング〉は、残ってるかもしれない秘密を抹消するために火山島を爆撃した。

 カッパ銀河隊が暗黒階級最後の脅威を排除したとき、アダーはシェリダンでソサエティと対処していた。3079年8月、シェリダンに駐留するオクリク、ダニエル、ラヒリ、タラスコ、リン、ガイバの血統を持った戦士たちが同時発生的に罹患し、場合によっては死んだとの報告がもたらされたあと、惑星の地下地質帯水層でウィルスが発見された。いくらかの研究と、研究所の事故の後、アダーの科学者たちはウィルスがセプト=デルタ=4(野生化ドラッグと似た効果を引き起こす)の亜種だと突き止めた。遺伝子ウィルスが各種の腺を攻撃し、感染後、野生化作用を真似る変異種を生産し始める。さらに悪いことに、少なくとも6種類のウィルス変異種がシェリダンの水源にはあった。

 さかのぼって調査した科学者たちは、ウィルスが混入しているのが地質帯水層とその支流だけだったので、投入された時期は6ヶ月以内であると結論づけた。この世界の水源全体が汚染されていたわけではないのだ。氏族のウォッチは少なくとも一年間、科学者たちの出入りを禁じた。ウィルス攻撃を仕掛けたソサエティのセルがまだこの星系内にいると判断したのである。この状況に対処し、脅威を排除するため、氏族評議会はシェリダンにいる科学者階級すべてを殲滅すると票決した。この極端な措置は、反乱の残り火を一掃するという氏族の継続的な制約によるものである。この浄化が完了した後、アダー宙域でソサエティ関連の事件は起きていない。

 毒に対する治療法が開発されると、アダーは首都と遺伝子貯蔵庫をホアードに移した。この惑星は、アダーがストーンライオンとクラウドコブラを破ってわずかな領土を奪った後、全土がアダーの管理下に置かれていた。暗黒階級とソサエティの脅威が抑制されると、アダーは追加の余剰物資を作るために、資源と生産基盤を増加した。バナチェックは、侵攻の時が来たら、アダーの余剰戦争資材を弱小氏族と取引するつもりだった。次の命令は、リーヴィング戦争で深刻に枯渇した航空宇宙・海軍力を増やすことだった。

 サルベージチームは、ニューケントで星系の端近くに流れていくヴァイパーの元リバイアサン級を解体するよう指示を受けた。進行は遅々としたものだった……この造船所は以前の予想よりも大きかったのである。ブラッドスピリットの隠し星系が見つかったとの情報が届いたとき、作業は停止された。コヨーテ氏族長コガによって、どれほどスピリットが道からはずれているかの証拠が示された。彼らが下層階級を武装化、軍事化したこと、臆病にも氏族の統合から離れようとしたこともその一部である。放棄が票決されるのはほとんど確実で、アダーは神判の神判の実施を入札した。真に反対したものはなかった……アダーとその仇敵の間に立ちふさがることは、死を招くか、それより悪いことになると、よく知っていたのである。

 再び、憎しみあう敵同士が衝突した。逃げる場所のなかったブラッドスピリットはコリーン星系の隅に追い詰められた。アダーは、3084年、3個銀河隊をこの星系に送り込み、2ヶ月でカシアス・ンブタ氏族長が20年前に始めたことを達成した。アダーは抵抗の武器をあげたものを処刑していき、スピリットの軍事産業、インフラを破壊して、遺伝子貯蔵庫を数千トンの山の下に埋めた。アダーはスピリットが再び姿を現した場合に備えて、コリーン星系を監視しているが、スピリットが不名誉の中で緩慢な死を迎え、最期を遂げたことに自信を持ち続けている。

 アダーは課された遺伝子の最終期限が来た後に目を向けている。新たな侵攻は、もう10〜20年先であるが、アダーは氏族の成功に自信を持っている。氏族が清められ、浄化されたのに伴い、地球解放を邪魔するものはなくなったと彼らは固く信じている。なぜなら、ケレンスキーがそれを望んだからだ。



軍事部隊

 アダーは大量の部隊を維持し、領土を守るためにいくつかの星系に分かれている。弱小氏族からの資源を求める数度の神判を除いて、彼らがすることは腕を保ち続けることしかない。侵攻が数世代先であることから、氏族の戦士の多くは他の場所での戦いを求めた。バナチェック氏族長は1個銀河隊にエスコーピオン・インペリオ(スコーピオン帝国)か、さらに遠いハンザ同盟への襲撃を許可した。深辺境の各氏族の状況を確認するかどうか、氏族評議会で論戦が繰り広げられているが、時折ゲントへ赴くのを除いては、なにも実施されていない。アダーは腐敗から氏族を守るために、深辺境で発見した中心領域を出入りする氏族艦艇はすべて破壊すると公言している。

 現時点で、アダーの戦士たちは互いに腕を磨いている。ここ数ヶ月、氏族領土のいくつかで、近隣の同胞氏族に対し極めて暴力的な競争が行われている。技術をテストするため、若い戦士が年上の戦士に挑んでいるものだ。外から見ると、この暴力は不穏当なものである。氏族評議会は、加害者に建設・再建プロジェクトの民間労働者を手伝わせることで、この習慣にはっきりと反対している。これらの暴力的対立が、氏族を破壊するか、氏族の力を増すか、現時点では不明である。

 アダーは自らを氏族本拠地の保護者、守護者として見ており、弱い氏族が再建を行なっているあいだ、外部の侵攻から彼らを守る準備ができている。他の氏族はこの態度に腹を立てているが、コブラを除いては真剣な挑戦をできる状態にない。よって、アダーは氏族の道に反しているかいないかの事実上の裁定者となっている。



戦艦

 スターアダー氏族は、リーヴィング戦争で14隻の戦艦を失った。さらに重要なのは、アルビオンにある中心的な造船所を失い、奪取したプライオリの造船所が大規模な損害を受けていたことである。この損失は氏族の整備・修理能力の大半を奪いとった。ホアードに新しい造船所が建設されてもなお、アダーはいまだ海軍支援能力が深刻に不足している。大規模な交渉により、最近、アダーはキリンにあるコヨーテの新造船所を少し使えるようになり、これが助けになるだろうと思われる。戦艦の備蓄が付き、造船する施設を持たないアダーは、将来の侵攻計画で、海軍艦隊を護衛任務、防衛任務につかせることは間違いない。

 現在、現役にある海軍艦隊は、イージス級〈アレス・マイト〉〈ステラー・サーペント〉、フレダサ級〈アルカディアン・アスプ〉〈ヴィシウス・ファング〉、ローラIII級〈ハガー〉〈ウォーロック〉、マッケナ級〈ソヴリン・ライト〉、ナイトロード級〈アブソリュート・トゥルース〉、ヴィンセントMk42級〈ケンタウルス〉〈ペガサス〉、ヨーク級〈エグゾダス・アヴェンジャー〉〈エグゾダス・クルセイダー〉〈エグゾダス・センチネル〉である。




スターアダー氏族(3085年時点)

アルファ銀河隊
 指揮官: ハンニバル・バナチェック氏族長
 アダー指揮親衛隊 エリート 80%
 第11装甲機兵隊 エリート 45%
 第73アダー機士隊 古参兵 75%
 第73アダー機士隊 エリート 90%

ベータ銀河隊
 第4強襲星団隊 エリート 85%
 第10装甲機兵隊 古参兵 30%
 第15装甲機兵隊 古参兵 30%
 第80アダー機士隊 一般兵 65%

ガンマ銀河隊
 アダー・クェーサー親衛隊 エリート 50%
 第3強襲星団隊 エリート 25%
 第69竜機兵星団隊 古参兵 30%
 第79竜機兵星団隊 古参兵 30%
 第133軽機兵隊 一般兵 20%

デルタ銀河隊
 第6強襲星団隊 一般兵 60%
 第17打撃星団隊 古参兵 75%
 第18装甲機兵隊 古参兵 30%

エプシロン銀河隊
 第13アダー強襲星団隊 古参兵 50%
 第42アダー機士隊 一般兵 35%
 第212戦闘星団隊 一般兵 20%
 第471アダーガード 一般兵 15%

カッパ臨時銀河隊
 第1スターセンチネル エリート 55%
 第300アダーセンチネル 古参兵 35%
 第417アダーセンチネル 一般兵 55%
 第421アダーセンチネル 一般兵 40%

ミュー臨時銀河隊
 第383アダーセンチネル 一般兵 75%
 第935ゲートキーパー星団隊 一般兵 80%
 第1001アダーセンチネル 一般兵 40%

グザイ臨時銀河隊
 第97アダーセンチネル 古参兵 40%
 第522アダーセンチネル エリート 10%
 第1015アダーセンチネル 古参兵 35%

オミクロン臨時銀河隊
 第271アダーセンチネル 古参兵 100%
 第312アダーセンチネル 一般兵 90%
 第460アダーセンチネル 一般兵 100%

ロー臨時銀河隊
 第152アダーセンチネル 新兵 40%
 第362アダーセンチネル 一般兵 85%
 第1129ゲートキーパー星団隊 一般兵 30%

シグマ臨時銀河隊
 第471アダーセンチネル エリート 15%
 第504アダーセンチネル 一般兵 35%
 第822ゲートキーパー星団隊 古参兵 50%
 第1143ゲートキーパー星団隊 新兵 40%

タウ臨時銀河隊
 第899ゲートキーパー星団隊 新兵 35%
 第1008アダーセンチネル 一般兵 95%






ダイアモンドシャーク氏族

指導者(3084)
氏族長: ナオミ・ナガサワ
副氏族長: アラン・ホーカー
ローアマスター: セミ・カラザ

 氏族内の多くはそれを論じるのを拒否するが、シャークは本拠地にいた氏族と同じくらいソサエティの反乱で大打撃を受けた。科学者たちの憎悪は、この氏族が科学でなく、商人と経済学にほぼ支配されているという冷たく動かしがたい事実から来たと思われる。その結果、最後の拠点であるヴィントンから逃げようとしたシャークの航宙艦と戦艦の多くが、SLOTウィルスの一種(アダーとヴァイパーに蔓延したのと似たもの)の攻撃を受けた。幸いにも、シャークは数十年かけてゆっくり船とシステムのアップグレードをしていたので、修復不能の損傷を負うことはなかった。

 そうだとしても、ヴィントンからチェインレイン・アイルズまでの移動時に数隻の航宙艦が失われた。物資の大半が航行不能となった船から回収されたが、一部は虚空に消えた――もしくは、よりありえそうなのは、放浪する暗黒階級の盗賊たちか、忌まわしきバーロックの手に落ちたことである。コヨーテがヴィントンを奪取し、設備を奪っていったとき、重要な施設、技術、資源の多くが失われた。

 中心領域内での進捗状況は順調である。氏族地域のツカイードとラモーラ、ライラ同盟のハーフウェイは、「交易地点」として確立されたが、足を踏み入れるのは、氏族の商人・戦士階級のみに限定され続けている。ハーフウェイはしばらくのあいだ特例であり、アークロイヤルから出てきた商人たちに賄いを与え、現在、シャークと中心領域の各企業との連絡事務所となっている。

 シャークはニークヴァーンで同様の取り決めを求め、チャンドラセカール・クリタとの関係を通してドラコ連合に接触した。交渉のため、連合の各企業・省庁の長を集め得たのは、チャンドラセカールの影響力によるものだった。連合は我らとのビジネスに非常に熱心だった――必死になっていた――ので、停止していた海軍プログラム(工場船に関するもの)を支援する契約を結んだ。技術と引き換えに、氏族はニークヴァーンのエチオピア大陸を受け取ることになった。シャークはここに連合企業向けに連絡事務所を開くことを計画し、またノヴァキャット=ダイアモンドの共同プロジェクトのための、交易・開発拠点とする予定である。

 連合にとっては不幸なことに、ドラコ内の各派閥同士の連絡が断たれたことが、3075年、大きな事件を引き起こした。シャーク軍がニークヴァーンに上陸したことを第12、第22ディーロン正規隊が発見し、我が氏族の商人・技術者調査隊を追い出すために到着した。400人以上が正規隊に虐殺された。ギャラクシー・コマンダー・ブレイク・ホーカーは理不尽な凶行を知ると、ペシュト元帥が介入する前に、コーラル・スケートと第57混合強襲星団隊をドラコ2個連隊の真上に落とし、狭い区域の中で破壊した。シャークの逆襲のニュースが広まると(ローアマスター・カラザのウォッチの仕事である)、DCMSはニークヴァーンと連合内にいた他のすべての艦船に広い停泊地を与えた。

 チェインレイン内の新領土で新しい工場が幾つか完成した。航宙艦、戦艦を建造する能力はないのだが、艦船を修理することは可能で、3081年、ファルコンとウルフの修理・維持をする仕事を開始した。元氏族長バーバラ・セネットが行った最初の交渉の協約によって、いくらかの保安を守るために、シャークは船をファルコン、ウルフ領内の特定の世界から移動せねばならない。この契約に完全に満足しているわけではないのだが、どちらの氏族も手をひくことはなかった。ファルコンの〈ジェイド・エリー〉とウルフの〈ローグ〉が、3隻の修理伝票のうち2隻を占めている。

 3075年、シャーク・ウォッチは氏族本拠地に帰還した。2隻の小型航宙艦に乗り込んだウォッチは、2つのサルベージチーム、技術者、商人を同行させ、護衛する十数名のソラーマ戦士を増強した。彼らの目的は、残った氏族に一部浸透することと、バビロン外辺部にあるシャーク唯一の海軍キャッシュを訪れることだった。シャークの戦艦艦隊は数十年前に始動済みだったので、バビロンのキャッシュには2隻の軍艦と数隻の旧式航宙艦があるのみだった。

 シャークの作業チームは、8月、バビロンに到着した。敵氏族の前哨基地とステーションを避けるため、シャークの大規模な航法データが使われた。彼らは容易にキャッシュを見つけだしたが、まともな状態にあったのは2隻の船のうち1隻、エセックス級戦艦〈マルセイユ〉だけだった。他の船は深刻なシステム障害を被っており、小グループが対処するにはあまりに大きすぎる問題だった。

 〈マルセイユ〉はすぐに中心領域へと戻る準備が進められ、最小限の船員がついた。それから数名のソラーマ、下級階級人が志願して、小型船でバビロンに行くことになった。このグループは氏族の中に散らばり、出来る限り情報を報告し続けた。これらスパイの最後の通信は、3086年の前半だった。

 サルベージ作戦のつぎのステップはルウムで、星系の外辺部に到着した。レイヴンから得たデータと進路パターンのショートサーチを使ったシャーク・チームは、ポチョムキン級〈スノウフレイク〉のボロボロになった船体を発見した。船体の大部分が失われていたが、KFジャンプドライブが稼働していたことから、サルベージチームは補助コントロールに緊急修理を行い、テストジャンプに成功した。それから乗員たちは、最近破壊された戦艦から名前をとって、〈タイタニック〉に改名した。〈マルセイユ〉は〈アルキテウシス〉と名を改めた。

 注意深く帰郷した両船の乗員たちは、出来る限りの修理をこなし続けた。道沿い、シャークは遠距離のジャンプポイントを使って深辺境の氏族前哨地いくつかを訪れたが、そのすべてが沈黙していたと記録を残している。3076年、小艦隊がラモーラに到着すると、乗員たちはようやく息を抜いた。シャークは最近、ラモーラにあるレイヴンの修理ベイを使用できることになっていた。両戦艦ともに必要以上そこに残ることなく、3080年、トワイクロスに帰還した。

 昨年、トワイクロスで〈デヴァウアー〉に多大な損傷がもたらされたことは、技術者・商人階級のあいだで相当な議論を巻き起こした。限られた軌道施設でラボフ・プロジェクトを実行していることから、予定されていた改修に遅延が発生し、事故が劇的に増加した。スラスターの不発のような単純な事故で〈デヴァウアー〉が失われたのは、きまりが悪いものである。ナガサワ氏族長に提出された新プランはこれを変えるかもしれない。

 ラボフ・プロジェクトの下、シャークの戦艦は改造と改装を実行中で、船の内部スペースを拡大し、ビジネス、修理、その他を実行するための特殊な「ハブ」を生み出すため、降下船を永久的に取り付け、改装している。このような改造は、さらなる大規模な修理と改装を必要とするだろう。よって科学長マルセルは、状況を是正するための新しい計画を提案した。新しい造船所は他の氏族の船に使うことになるかもしれないが、現時点では、シャークのニーズにのみ応えている。ツカイードが主要地点として選ばれ、この星系の外辺部ですでに作業が始まっている。






ジェイドファルコン氏族

指導者(3085)
氏族長: サマンサ・クリーズ
副氏族長: ダイアナ・アヌ
ローアマスター: ブライアン・プライド

 ジェイドファルコン氏族にとって、科学者階級を殲滅した後の日々は楽なものではなかった。ファルコンOZの通信網は、科学者エティエンヌのSLOTウィルス攻撃によってまだ一部通信不能であった。通信断絶によって、最も優秀な科学者、指導者たちの「失踪」に関するニュースは広まらずに済んだが、各惑星の民衆の不満は高まった。過去に反体制派をかくまっていたようないくつかの世界では、暴動が一般的なものとなり、ファルコンが厳しい取り締まりを余儀なくされ、しばしば残虐な暴力に発展した。このような行動は、ただでさえ中心領域で悪かったファルコンの評判を傷つけた。

 氏族のピントを合わせるために、プライド氏族長はウルフ氏族に対する選別した神判と、同盟国境への数度の襲撃を認可した。やってきたホースの科学者たちは、すぐにズテーテンの遺伝子貯蔵庫で欠陥を探す任務を託され、2年をかけて完了した。氏族長たちは、氏族の停滞した技術的発展を活性化させるのを望んで、中心領域のトップ科学者たちを科学者階級に入れる承認を渋々した。

 ワード・オブ・ブレイクと戦う中心領域合同軍を作るため、プライド氏族長のもとに、(コムスター)軍司教の代理人がやってきた。氏族国境の向こうの中心領域の政治には興味がなかったのだが、プライドはこの求めにいくらかのチャンスを見た。ローアマスター・ブライアン・プライドにアルファ銀河隊(大半がウォッチ工作員とソラーマの戦士)の指揮をとらせ、中心領域合同軍に加わらせた。彼に課された目標は、偵察であった……ストーン将軍の進軍ルートは、まっすぐ地球へ続いている。よって、地球への進路について直接情報を得られるのは利益となるだろう。第二にウルフ氏族が戦士1個銀河隊の派遣に合意したことがある。どんなときでも、ファルコンがウルフに後れをとってはならないのだ。

 科学長エティエンヌが死んだことによって、氏族占領域内におけるソサエティの驚異は排除されていたが、血塗られた粛正、通信断絶、建設不況からいくつかの世界でいくつかの反氏族グループが新しい人生を見いだした。これらグループはファルコンの目標に対し、激しい攻撃を始め、それはしばしば暴力的なものになった。最悪の攻撃は、3076年5月15日、マーサ・プライド氏族長が新しいオムニメック工場の施設を視察した際にやってきた。彼女と星隊が建設用トレーラーの横を通ったときに爆弾が起爆し、氏族長と3名の戦士を即座に殺したのである。

 公式には、異常な事故が起きたということしか認めていない。しかし氏族ウォッチは、ロキ(ライラ情報部の一部署)が後援しているライラの国粋主義者グループが爆弾を仕掛けたと報告している。突如としてこの数十年で最も行動的な指導者を失ったファルコンは、完全な急降下に入る恐れがあった。ファルコンはすぐにサマンサ・クリーズを氏族長に選んだが、副氏族長選びは意見が合わなかった。ユーヴィン・ブハーリンが2票差という僅差で選出された。

 指導部が不安定となったジェイドファルコン氏族は混乱するかに見えた。よってライラ同盟が3080年にそれを利用とした。同盟はファルコンの防衛をテストするためニュートン・スクエアとキクユに部隊を送り、したたかに跳ね返された。ブレイク派の驚異を排除するという「平和的な」合同軍の作戦後、あまりにすぐ同盟が蛮勇を働いたことに怒ったブハーリンは、エプシロン銀河隊に国境をまたぐよう命じた。ギャラクシーコマンダー・ダイアン・アヌは、モグヨルド、クレルモン、マチダを続けて叩き、撤退前により規模の大きいライラの防衛部隊をつぶした。この強襲でファルコンが渇望していた士気向上が得られたが、ファルコンは完全にこれらの星系を奪い取ることができなかった。

 惨劇が訪れたのは、ライラのファルコン占領域進入を排除するために、ブハーリン副氏族長がデルタ銀河隊に率いてグラウスに来たときだった。この星系を奪うことは、ファルコン主星に接近する驚異を排除し、ブハーリンに対する批判を黙らせる助けになるはずだった。どれだけの戦力が必要か過小評価していたブハーリンは、第1ファルコン打撃星団隊、第53戦闘星団隊だけと共にジャンプした。ファルコンはぶ厚い戦闘機スクリーンを押し通って、惑星に突進し、オリトン市の外に上陸した。この世界を奪い取ろうとしたファルコンは、自らの存在を示し、惑星防衛部隊が彼に挑戦するのを待った。

 惑星市民軍は翌日の夜明け前にファルコンを叩き、氏族陣地にいくらかの砲撃と空爆を浴びせた。ブハーリンが部隊を再調整していたとき、ルビンスキー軽機隊が近くの枯れ谷から姿を現し、ファルコンの脆弱な側面を叩いた。短い砲撃戦で、ブハーリンのサモナーは残骸となり煙をあげながら地面に倒れ、第1ファルコンの残存兵力は降下船に退却した。

 ブハーリンの死は氏族の戦士たちのあいだに喜びと怒りの両方を生み出した。氏族評議会は次の候補者について何時間も議論し、ギャラクシーコマンダー・クイン・ケレンスキーを退けて、ギャラクシーコマンダー・ダイアン・アヌを選んだ。ケレンスキーは即座に拒絶の神判を持ち出し、アヌが守った。議場にて二人は武器なしで対面し、5分以内に、アヌはケレンスキーを気絶させて価値を証明した。

 氏族評議会に自らの価値を証明しようと決意していた彼女は、第1ファルコン猟兵隊とグラウスに向かった。二週間後、彼女はルビンスキー軽機隊を打ち負かし、この星系を確保した。ブハーリンの半数の戦力で世界を奪ったアヌ副氏族長は、彼女を選んだ戦士たちの決断が正しかったことを証明し、氏族を固めたのである。三ヶ月後、ファルコンは再びグラウスを失った……第32ライラ防衛軍が第2ドネガルと共に帰還し、兵力不足のファルコン守備隊を惑星から追いやったのだ。

 次の数年間はファルコンにとって表面上は静かなものように見えた。HPGネットワークが完全に再生したファルコンは、積極的な商人階級の駆け引きによって経済を安定させ始めた。氏族長たちの最優先事項は、現在、致命的に不足している航宙艦を獲得し続けることにある。評議会は企業の所属やライセンスに関係なくファルコンOZ内にある民間の航宙艦を押収する許可を出した。商人階級は選ばれた中心領域企業に商業的な認可を出し始め、即席の階層を用意し、彼らの間で入札戦争を行わせ、勝者に対し輸送および商売の自由と引き替えに借金を背負わせた。






ウルフ氏族

指導者(3085)
氏族長: イワン・ケレンスキー
副氏族長: アナトリー・ケレンスキー
ローアマスター: カーチャ・ケレンスキー

 本拠地から強制的に追い出されたのだが、ウルフは牙をむき出しにしたままでいた。シータ銀河隊と、新たに獲得したオミクロン銀河隊はほぼ一掃されたが、アンドリュー、ニコラス・ケレンスキーの遺伝子遺産と共に、彼らは氏族宙域を離れた(他氏族は氏族創設者の遺伝子が破壊されたものと信じていた)。族長会議は残ったウルフを殲滅したが、ワード氏族長も侵攻氏族も、無力な政治体制に注意を支払わなかったのである。

 ソサエティの反乱は、ウルフ氏族占領域内でほとんどなにもなさなかったが、デニズリ事件はファルコン/ウルフの戦争を引き起こしかけた。ファルコンのプライド氏族長から十分な警告を受けていたワード氏族長は、ウルフのセルの活動を縮小する措置をとった。その過程で、彼らはワインガルテンの氏族政府施設にダーティーボムを仕掛けようとしていたワード・オブ・ブレイクのテロ工作員二人を発見した。

 ファルコンの科学者エティエンヌが放ったSLOTウィルスは、ウルフ占領域に浸透し、ゴーストベア、ファルコン、ライラ国境沿いのHPGいくつかを落とした。航宙艦が通信と物資輸送の両方の役割を始めたことから、ウルフ世界の多くが不況に陥り始めた。突如として本拠地との兵站網が失われたことで、問題は複雑化した。戦士階級はいきなり部品、物資、重要な装備の不足に見舞われたのである。

 それまでウルフは、見事に確立された貿易関係と、本拠地からの着実な物資流入、輸送に頼っていた。これらの物資は、商人階級が運営する各種移動式生産拠点によって補強された。これは柔軟性と効率性という氏族哲学に従った優秀な支援システムだったが、タマラーの喪失と本拠地から切り離されたことが組み合わされ、ウルフのアキレス腱となった。

 当初、商人階級は近隣氏族との取引を続けようとしたが、それぞれの問題により――時折の暴力的な行動は言うまでもなく――そのような取引は維持できなくなった。ウルフ氏族長たちは対処できず問題を悪化させ、3074年に最後の予備が分配された。

 残された選択肢がなくなったことから、ヴラッド・ワードは中心領域での生産を禁じる命令を取り消し、積極的な工業プラグラムに着手した。ウルフは技術的経験を持った中心領域人を雇って、技術者階級率いる作業チームに入れた。これら寄せ集めの作業チームはウルフOZ内に点在する遺棄された軍需工場に群がった。隣国とワード・オブ・ブレイクによる絶え間ない襲撃と攻撃のあいだで、ウルフ氏族は最初の生産指定をまかなうためいくつかの小工場をアップグレードするのに成功し、生産分は巨大なワインガルテン工業群に運ばれた。3080年代の前半まで、ワインガルテンのほかには氏族のオムニメック、エレメンタルアーマー、氏族製車両すらも生産できるところはなかった。[興味深いことに、中心領域諜報部のいくつかは、この損傷したガーゴイル工場がブレイクの攻撃にさらされてないと考えたようだ。組み立て施設は完全に破壊されたが、工場の関連施設は、古くて傷ついたマシンを修理・再生するのに充分なだけのスペアパーツを作ることができた。この目くらましは、中心領域に対してはうまく働いたようだ……氏族ウォッチがだまされることはなかった。-SK]

 3076年、ウルフはストーン合同軍にデルタ銀河隊を送った。これはカトリーナ・ウルフの発案によるものだ。氏族評議会の多くは、ワード氏族長が元女王でボンズウーマンだった人物と信頼を築いていることにさらなる懸念を抱くようになった。実際、カトリーナのボンドコードが切られたあと、ワードは日常的に権威への挑戦を受けることになった。そのうち一部は彼女が階級の神判を通ったあとに沈黙した……カトリーナのウォーホークはすべての武器を発射し、シャットダウンして神判が終わるまでに、近くにいたアイスフェレット1機を破壊したのである。ワードは中心領域の貴族女とのつきあいについて批判され続けており、そのような態度は氏族の最も熱心な侵攻派のあいだでゆっくりと広まりつつある。

 中心領域が合同軍のブレイク保護領進軍に注視するあいだ――デルタ銀河隊の一部はストーンの指導力をテストしていた――ウルフは静かに傍観し、再建を図った。ファルコンとベアが拘束されていたことから、ウルフはコブ氏族長とホースを押し返す準備を始めた。3080年、ウルフはセデュイツとハーヴェストを叩いた……最初は成功したものの、ウルフは押し戻された。6ヶ月後、ウルフは再挑戦したが、攻撃した世界は、ホースがウルフOZ侵攻のために展開地点としたところだったのである。キルヒバッハ・リーゼン、ベルーベンのすべてで激戦の上に敗北し、ホースの侵攻を始まる前に終わらせたに過ぎなかった。ホースのバランスを崩し続け、ウルフ兵の牙を研ぎ澄まるために、ワード氏族長は資源と生産されたホースの各種軍事物資を奪うための襲撃を認可した。多くが成功した。そのうちのひとつで、氏族の最も狡猾な指導者が犠牲となった。

 3083年、ワード氏族長は再建されたゴールデン親衛隊を率いてロディゴを襲撃し、第53バトルメック星団隊に対する所有の神判を宣言した [ヴラッドはホースの最新世代の戦士たちをすくい取ろうとしたようだ。-SK]。当初、ホースは氏族長の到着に驚いたが、神判に合意し、シータ銀河隊指揮官ブロデリック・ラッセネーラがレッドプラットでウルフと対面した。渓谷が走る大規模な台地で、戦闘は3時間にわたって続いた。ヴラッドと星隊員たちは熟達した手腕でホースのメック、エレメンタル・ポイントを落とし、決定的でない役割を果たした。だが、氏族長は背後の狭い崖からホースのバトルメック2機が現れ、なにをするかは予想してなかったのである。ウルフの氏族長は、ホースのヘルスターの存在に気づかずに死んだ。4門のPPCすべてがワードの傷ついたティンバーウルフに撃ち込まれたのだった。

 指導者を失い動揺したウルフは、ホース戦線に対して全面強襲を仕掛けるところだった。イワン・ケレンスキー氏族長がウルフの攻撃を押しとどめた。氏族は精神的にではなく物資の準備ができていないとしたのである。全面戦争は、たとえ弱いホースに対するものであっても、隣人に対してドアを開くことになり、貴重な世界を失ってしまうだろう。氏族評議会はケレンスキーの言葉を胸に止め、若きベータ銀河隊指揮官アナトリー・ケレンスキーを新しい副氏族長として選出した [3078年にエリック・ケレンスキーのブラッドネームを得た勝者である。 -SK]。

 ケレンスキー氏族長がとった最初の行動は、キャサリン・ウルフを氏族の主星タマラーから追い出すことだった。彼女はワインガルテンにある再建された遺伝子貯蔵庫の儀仗兵に再任命され、年老いたブラッドネームを持たないソラーマ星隊の一員となった。この動きは氏族評議会の多くに賞賛されたが、後にローアマスター・ケレンスキーはこの元国家主席=女王と何度か会合を持っている。ウォッチは同盟と新共和国に対し、何度も作戦を成功させていることから、ローアマスターは中心領域人の考えに操られているというよりも、単純にキャサリンから情報を搾り取っていると考えられている。






人物



レイヴン・クリアウォーター
派閥:コヨーテ氏族
階級/称号:副氏族長
生年: 3031年
没年: 3074年

 クリアウォーター副氏族長は氏族人の典型で、抑圧された怒りを戦闘に注ぎ込む。だが、コクピットの外では、例外的に思慮深く、注意深く、しばしばストラナメクティの集まりに参加して、隅の席で他の出席者を観察しているのが見られた。彼女は全体として猛烈な情熱を氏族に傾け、仲間の地位向上のために自身の信念を脇においやった。

 レイヴン・クリアウォーターは3055年にエプシロン銀河隊の指揮を勝ち取り、初期の時間のほとんどを部隊の再建に同意しない者に対する調停者としての役割を果たした。3060年代前半、一連の戦闘でジェイドファルコンをタマロンから追い出すのに成功すると、レイヴンは政治的、個人的なライバル、サイラス・クファールに直面していることに気がついた……サリヴァン・コガの死後に、氏族長として選ばれた人物である。政治的な対立(氏族全体をふたつに割り始めていた)を終わらせるため、残虐で肉薄した拒絶の神判が行われたあと、クリアウォーターは副氏族長の地位に選ばれた。ライバルに負けたのだが、二人は協力してコヨーテ氏族の力を取り戻し、コヨーテを本拠地の事実上の守護派勢力に置いた。

 当初、コヨーテ軍とソサエティの共闘に反対したクリアウォーターは、サイラス・クファール氏族長とコヨーテ科学長からアンドリュース大氏族長の宣告が氏族の優生学数世代分を事実上抹殺することになると説得され、黙認することになった。一度参加すると決めると、副氏族長はエプシロン銀河隊と共に戦闘へと身を躍らせた。バビロン、グラントステーション、マーシャル、パクソンでの主要飛び地領を確保したあと、副氏族長のこの上ない栄光は、ダイアモンドシャーク氏族の主星ヴィントン征服であった。

 サイラス・クファールがニューケントで死亡した後、レイヴンはエリオット・マッキベンの登用に反対した。投票が何らかの形で不正操作されたことを確信していた彼女は、新氏族長の選出に対する難しい拒絶の神判を戦ったが、タマロン赤道の荒れ地で厳しい8時間の戦闘を行ったあと、彼女のサヴェージ・コヨーテのジャイロが崩壊したときに敗北したのだった。屈辱を与えられた副氏族長は、タマロンに残り、来たるべき逆襲に備えて星系の防衛を強化した。彼女の心変わりによって、若干のコヨーテ戦士がソサエティの支援を自発的にやめた。3074年、スティールヴァイパーがついに到着すると、コヨーテ戦士の一部が氏族全体を支持することを選び、氏族の道に外れた同胞たちに立ち向かった。

 コヨーテの副氏族長は、2074年12月16日、マッキベン氏族長と共にヴァイパーの挑戦を受けた。氏族の噂によると、クリアウォーター副氏族長は自らの命を持ってコヨーテの血迷った選択のスルカイレード(贖罪の証)にすることを大氏族長に申し出た。大氏族長はクリアウォーター最後の選択を尊重し、命を奪う前に彼女がマッキベンを殺すことを許したのだった。



マグナス・デルヴィラー
派閥:ストーンライオン氏族
階級/称号:氏族長
生年: 3045年(3086年時点で41歳)

 シータ銀河隊指揮官タミー・デルヴィラーのシブコ仲間であったマグナスは、ヘルズホース氏族内でこの積極的な同胞よりも実利主義的な道をたどった。3068年、ルーシャス・メンドーサに挑戦した後、第27バトルメック星団隊の指揮を任されたデルヴィラーは、ジェームズ・コブ氏族長の命令に従うためにベストを尽くし、ナイルズとトカーシャで氏族の重要な飛び地領を確保した。

 ウルフがケレンスキーの血統礼拝堂(ブラッド・チャペル)に立ちはだかったとき、デルヴィラーと彼の指揮超新星隊はストラナメクティにいた。激怒したマグナスとホースは、できるだけ多くのウルフを倒そうと、始まった争いに突進した。中心領域でホースがウルフを倒すのを見ていたことで鬱屈した不満をためたホースは、やがてカチューシャを覆い尽くすことになる虐殺に加わった。デルヴィラーと彼の新星隊は騒ぎに加わり、ウルフのナイトジャイル1機とエレメンタル7体の撃墜を記録した。彼らはまた氏族の独占血統の礼拝堂いくつかを守り、フレッチャー血統礼拝堂を破壊しかけたゴリアテスコーピオンの強襲をはねのけた。

 リーヴィング戦争が拡大していくと、ホースはトカーシャ・メックワークスを奪い取ろうと何度か動いた。ナイルズで300名近いシブコ生が失われたことで、ローアマスター・テムチン・アミロウはホースの微妙な立場をコブ氏族長に直接伝えるため中心領域へと出発した。同日、ローアマスターがデルヴィラーを氏族本拠地の代表とすると、彼はゼータ銀河隊の指揮権を勝ち取った。

 本拠地のホース軍を統合したデルヴィラーは、コブ氏族長が援軍を送ってくるまで持ちこたえることを決意し、ナイルズとトカーシャの防衛を構築した。数ヶ月たっても、ホースの戦士たちの決意は衰えず、氏族宙域で最も広大で重要なバトルメック工場のひとつを守っていることに慰めを見いだした。ゼータ銀河隊はデルヴィラーの要請で領土の隅々まで調べ上げ、惑星の地形と天候に関する知識を利点として使った。

 3075年、デルヴィラーとホースは最も過酷な試練に直面した。スティールヴァイパーがヘルズホース氏族の氏族宙域からの放棄を求めたのである……マグナスは反対した。行われた拒絶の神判は、残された氏族宙域のホースと飛び地領に対しての代理として戦われた。デルヴィラーと戦士たちはスターアダー(族長会議で戦い権利を勝ち取った)と激しく戦ったが、究極的には敗北した。彼らの戦いぶりだけでなく、リーヴィング戦争中の功績に感銘を受けたスタニスロフ・ンブタ氏族長は、入札通り、この氏族を受け入れた。そして、一部は敬意から、一部は政治的洞察から、ンブタは新しい氏族、ストーンライオンを作り上げた。この氏族は氏族宙域に残された元ホースの領土、戦士、装備、市民のすべてを持つ。アダーはそれからライオンの保護を約束し、新しい氏族にある程度の余裕を与えた。

 デルヴィラーはすぐにストーンライオンの初代氏族長に選ばれた。彼の最初の目標はいずれスターアダーの影から出るため、堅実に行動し、指針を定めることだった。ライオンはすぐに氏族の活動を落ち着かせた。遺産を集めて統合し、新しい貿易協定を結び、他氏族にライオンの戦士たちが同じ力を持っていることを示したのである。

 デルヴィラーは厳粛にライオンを支配し、一人で氏族の政策と手順を指示した。彼は歴史に対して好奇心旺盛であり、最近、ロッシェを転用した後で、クラウドコブラ氏族から論文と人工遺物の入ったコンテナいくつかを入手した。



エリアル・スボーロフ
派閥:ゴリアテスコーピオン氏族
階級/称号:氏族長
生年: 3018年
死亡年: 3079年

 この1世紀以上で初めての気圏戦闘機パイロット出身であるゴリアテスコーピオン氏族長、エリアル・スボーロフは、リーヴィング戦争の混乱の間、よく氏族に仕えた。彼女の破滅は、知らず知らずのうちに、スコーピオン科学者による違法な遺伝子テストの実行を許してしまったことにある。この教訓は致命的なもので、スコーピオンは氏族宙域から放棄され、異なる運命を強いられたのだった。

 エリアル・スボーロフの初期のキャリアは平凡なものだった。それなりのパイロットであった彼女はゆっくりと昇進していき、3042年、ファイアホイール戦闘群を指揮する地位についた。3043年、ティバーでのウルフに対する作戦行動で、ウルフ気圏戦闘機と強襲降下船の数個星隊を捕獲して、氏族評議会の重鎮たち何人かが彼女に注目し、その後の3052年、彼女はスコーピオンの氏族長に選出された。

 大拒絶後、スボーロフはスコーピオン氏族軍を再編成しようとこころみたが、ほとんど効果はなかった。選ばれ、送られるシーカー(探求者)は減ったのだが、トカーシャでヘルズホースとぶつかるまでは現状を維持した。トカーシャの飛び地領の大半(重要なオムニメック工場と、巨大エレメンタル生産地点用の支援を含む)を失ったことは、スコーピオンにショックを与え、戦闘に対するアプローチの再考を余儀なくされた。本拠地、中心領域氏族での紛争がエスカレートするに従い、スボーロフは注意をそらすためスコーピオンを中立に保った。その代わり、熱烈なシーカー支持者は第二星間連盟の大使館と駐屯しているエリダニ軽機隊に近づくことを許された。サンドラ・バークレーとの長い対談において興味を引かれたスボーロフは、最終的に、大使館のスタッフと中心領域傭兵の残りを吸収する最後の所有の神判を許可した。小数の経験豊かで知的な兵士たちは他の星団隊に分散したが、傭兵部隊の大半とスコーピオンのシーカー若干名は2つの軽星団隊にまとめられ、氏族軍に追加された。

 スボーロフ氏族長はリーヴィング戦争とその後の期間を通して、氏族の行動のほぼすべてに関与した。崩壊したアイスヘリオンを吸収するという機会は、さらなる力と遺伝子の成長を彼女に与え、氏族宙域で発生した大損害を埋めることになった。紛争後、スコーピオンがヴァイパー、アダー、その他氏族に比べて、弱い状態になるかもしれないことを知っていた彼女は、ヌエバ・カスティーリャの世界を調査するというルード副氏族長の提案に従った。

 氏族の活動すべてに関わったのだが、科学者たちのやったことを見過ごしたのは致命的であった。死んだ傭兵戦士たちの遺伝子要素を混ぜていたことに気づかなかったスボーロフは、それにも関わらず、その後の拒絶の神判で氏族を守った。これが最後の戦いになるかもしれないことに気づいていた氏族長は、人生で二度目のネクロシア服用を行った。「ヴィジョン」の結果、彼女は自らの死を見たと噂されており、よって最後の命令を後継者に書いた。「歴史という殻を後に残し、前に進んで新しい道を刻むように」というものだ。一ヶ月後、この言葉を受け取ったコリン・ヨー氏族長は、ヌエバ・カスティーリャでの新しい機会をつかんだのだった。



"ザ・ジャガー"(ロッソー・ハウェル)
派閥:暗黒階級
階級/称号:盗賊指導者
生年: 3019年
死亡年: 3079年

 "ザ・ジャガー"の名前でのみ知られる盗賊の指導者は、早くも3063年には暗黒階級のヴィントン襲撃で姿を表していた。盗賊たちはこのダイアモンドシャークへの攻撃において大胆に振る舞い、少なくとも二連星隊分の戦士を殺している。盗賊たちは数トン分のパーツと補給物資、ウルフ氏族から入手したばかりの新品ウォーホーク・オムニメックを持って脱出した。この攻撃を生き延びた戦士は一人だけだった。盗賊たちは撃墜されたマシンからパイロットを引きずり出し、処刑したことが記述されている。目撃者は氏族宙域の外辺が危機にさらされているというニュースを伝えるために生きて残された。

 それ以来、ジャガーとその一党に関する数百の報告と目撃談が生まれた。その大半は、たいがい夢想、誤認として片付けられるものである。少数の信頼できる報告(その大半は、短期間でも盗賊に戦士を潜入させようとしたウォッチの作戦により得られたもの)では、ジャガーが極めて有能な戦術家であることが示されている。堕落し、執念深いとされるジャガーは、起きている時間の半分は酒を飲んでおり、氏族の死と裏切り者の仲間たちについての話をするときは大荒れとなる。

 3079年、スターアダーはヘントで盗賊指導者を追い詰め、数週間にわたって足止めした。地下でアダーのソラーマ戦士たちとの撃ち合いになったジャガーは敗北することとなった。スターキャプテン・フレイ・スターアダーは、どうにかしてジャガーの遺体を地表に運び、死の証拠とした。通常の手順、というよりは好奇心によって、バナチェックはジャガーのDNAテストを実施した。アダーはこの人物が、3060年ハントレスで目撃されたのを最後に行方不明となっていた、スモークジャガーのギャラクシーコマンダー・ロッソー・ハウェルであることを解き明かした。



セミ・カラザ
派閥:ダイアモンドシャーク氏族
階級/称号:ローアマスター
生年: 3016年(3086年時点で70歳)

 シャークのローアマスターにして氏族ウォッチの長であるセミ・カラザは、常に中心領域の住人を警戒していた。戦士としての実績は控えめで確実なものとして知られる彼女は、リバイバルが始まる直前にローアマスターの地位に選ばれた。彼女は商人階級をウォッチとして使い、中心領域の軍事、経済データの両方を収集させた。たゆまぬ努力によって、シャークはかなりの情報を収集し、それはほかの氏族や中心領域の一部諜報部よりも上であった。

 最近まで、彼女の諜報ネットワークは氏族宙域にまでおよんでいた。まだ稼働する数隻のバグアイ観測船と、商人階級の志願者による大規模なネットワークを使っていたのである。[悲しいかな、評議会のバグアイは専用のSLOTウィルスによって破壊された。稼働できる船は残らず、後に破壊された。-SK]。カラザを通じて、六大氏族評議会は、本拠地で起きた事件の正確な大きさを把握することができた。事細かに集められ、分類されたこの情報は、本拠地との連絡をすべて断つという評議会の決断を固めた。それにも関わらず、カラザはこの宙域から来るどんな情報でも耳を傾け続けている。よってシャーク(それに評議会の他氏族)は、中心領域近くでの本拠地氏族の活動に無警戒となることはないだろう。










新型プロトメック


スプライト・ウルトラヘビー・プロトメック Sprite Ultraheavy ProtoMech
重量: 15 トン
移動: SPT/15
パワープラント: 75核融合
巡航速度: 32 キロメートル/時
最高速度: 54 キロメートル/時
ジャンプジェット: X5シリーズ・エクステンデッド・ジャンプジェット
 ジャンプ能力: 150メートル
装甲板: ウルトラプロト・スタンダード
武装:
 LRM5 4門
製造元: 不明
 主要工場: 不明
通信システム: プロト・タイプ4
照準・追尾システム: SAT-PM 1




概要
 ボガードと連携して活動すべく設計されたスプライトは、同じく民話の悪い妖精から名付けられた。大型機なのだが、スプライトはボガードと同じジャンプ力を持ち、この足の速い四脚機(ボガード)に遅れず済む。本機は4基のLRM5ラック(2分間射撃を続けられる弾薬を持つ)で戦場に大火力を供給する。またスプライトは似た戦術でほかのプロトメックと組んだ多数の実例を持ち、脆弱なプロトメック部隊を補強し、ゴーゴンにとって最高の僚機であることを証明した。



性能
 氏族のLRMシステムは長年にわたって最小限の革新しかなかったというのに、きわめて高い競争力を持ち続けている。スプライトにとって最高の装備であることが証明されているのだが、改良型であるフュソレイド(Fusillade)が利用可能になったら、使用する計画があった。ソサエティは短時間交戦して弾薬補給に戻るのを意図していた。これはもしかしたら、驚異的な装甲(クラス20オートキャノンを胴に受けても生き残る性能を持つ)よりも、スプライトの生存性に寄与しているかもしれない。しかし、通常、スプライトは指揮官やソサエティの優秀なプロトメック・パイロットに配備されることから、この最小限の生存性は諸刃の剣となっている。ソサエティは数少ない高い技量を持った戦士を保護できる一方で、戦場からすぐに技量と達見が失われてしまうのである。これがソサエティの乏しい戦果の原因となり、過度に熱心な指揮官が弾薬補給なしで戦場に居座ったときは逆効果となったのである。



配備
 ソサエティのみがスプライトを配備しているが、氏族の戦闘思想にマッチしすぎていることから、同種の機体が登場することはありえるようだ。すでに、アトレウスのブラッドスピリット・オミクロン銀河隊がそうだという証拠がある。興味深いことに、スプライトはヘルズホースのスヴァルトアールヴに影響を与えたかもしれない。証拠はないが、ホースがスプライトを入手したことが示唆されている。





タイプ: スプライト・ウルトラヘビー・プロトメック
技術ベース: 氏族(アドバンスド)
重量: 15トン
戦闘価値: 589

装備                重量(KG)
内部中枢:                1500
エンジン:        75       2000
    歩行MP:      3
    走行MP:      5
    ジャンプMP:     5       1500
放熱器:          0          0
操縦機器:                 750
装甲板:          65       3250

            内部中枢    装甲
頭部:           4         9
胴中央:         15        30
左/右腕:         4/4        6/6
脚:            8        14

武器・装備       配置      重量
LRM5          右腕      1000
弾薬(LRM)12       -       500
LRM5          左腕      1000
弾薬(LRM)12       -       500
LRM5          胴1      1000
弾薬(LRM)12       -       500
LRM5          胴2      1000
弾薬(LRM)12       -       500











新型バトルメック

 ソサエティは遠隔地で生産される兵器に重い制約を課した。プロトメックに必要な資源とインフラはオムニメックよりも比較的少なかったが――設計段階での重要な目的である――オムニメックを持たないことが壊滅的な弱点になることは明らかだった。彼らの意向は、1機種を生産する工場を作って、その一方、他2機種を自動化された部分の少ない場所でゆっくりと生産することだった。その利点は、トータルでの生産数が少なくなっても、複数箇所で作れることである。最低限のオムニメックを得るために必要な時間の概算は様々だったが、彼らが反乱を起こしたとき、3タイプのすべてが目標をかなり下回っていた。

 設計の主な目的は、戦士階級が数世紀かけて作り上げてきた固有の戦術的欠点、盲点、ミスを突くことであった。インプットのかなりの部分が中心領域生まれの科学者たちから来ているが、外部の視点なしでもソサエティがいくつかの戦術的結論に達したのは明白だろう。

 注目すべきは、セプテシミアを生産する工場が、元々はウッズマンを作っていたストラナメクティの研究・設計施設だったことである。ストラナメクティはケレンスキー星団で最も人口過密な世界だが、使われている土地はカチューシャに偏っており、惑星の地表のほとんどが使われずに残されている。降下船の往来が激しいことと、戦士階級が偽装を嫌うことを組み合わせて、ソサエティが工場用の遅くて薄い補給線を確保するのは比較的簡単だった。加えて、ストラナメクティ飛び地領の間での所有の神判はほとんど行われず、戦闘中に偶然見つかってしまう可能性はきわめて低かった。

 後から考えると、この工場がコヨーテ領にあったことは驚くべきことではなく、身を隠すのに協力したことは疑うべくもない。




オステオン Osteon
重量: 85 トン
シャーシ: 85-100Tサポート・リインフォースド・ラムダ・プロファイル
パワープラント: モデル-G255XL
巡航速度: 32 キロメートル/時
最高速度: 54 キロメートル/時
ジャンプジェット: なし
 ジャンプ能力: なし
装甲板: グレヴァスター・フェロラメラー
武装:
 ノヴァCEWS
 空きポッドスペース35トン
製造元: ケレンスキー・メモリアル・マニュファクチャリング
 主要工場: ストラナメクティ
通信システム: モデル74/129.3 TCS
照準・追尾システム: S438 Mk. VI Mod. 2 TTS




概要
 ソサエティの一部戦略家たちは、強襲メックを大量生産するべきだとしたが、インフラのボトルネックで設計上の妥協をせねばならないことは早いうちに明白となった。この強襲機に先進技術を投入し、同世代機を上回る優位を与えるという決断がなされた。このオステオンは、非常に柔軟性の高い支援機であることを実証し、戦力を乗数的に増加させる存在となり、ナーガのメック戦士にすら理解できない役割を実行した。



性能
 生存性を重視しているオステオンは、18トンのフェロラメラー装甲という驚異的な防護を誇り、事実上、100トンメックにのみ許されるような堅い守りを達成している。この殻にヒビが入ったとしても、このメックにはきわめて頑丈な17トンの強化フレームが使われており、普通のメックなら行動不能になる点を超えても稼働し続けるのである。このメックが戦闘から撤退できる能力をさらに高めるため、コクピットは胴中央に移動されている。

 これらすべての処置により、ポッドスペースにしわ寄せが来ているが、オステオンの役割は戦場にいる機体のすべてを支援するものなので、この犠牲は受け入れられるものである。追加のメリットとして、頑迷な戦士階級のドクトリンによって、オステオンは不相応な注目を集めることとなり、より軽いメックが無視されることになる。戦場の一番後ろが定位置であることと、頑丈さを考えると、この傾向は氏族の戦士たちに無駄な火力を使わせたのである。



配備
 セファラスと同じくらい珍しいオステオンは、通常、トレイとセプトの高密度な陣形に配備される。本機はバビロンで多数が使われ、セプテシミア・トレイとそのほかのノヴァCEWS装備オムニメックと連携して活動し、惑星の防衛部隊に多大な損害を与えた。



派生型
 基本仕様は、iATM-9ラック4門を搭載し、絶えることのないミサイルの本流を敵に浴びせかける。CASEIIが大型の弾薬庫を守り、装甲が貫通されたときにすら生存性を確保する。13トンにおよぶ大量の弾薬は、作戦継続能力と柔軟性を与え、オステオンが戦場にiATMの各種弾薬を持ち込むことを可能としている。

 アルファ仕様は間接砲撃支援のために、旧式のメック迫撃砲を使っている。この兵器は歩兵・バトルアーマー部隊を殲滅する能力を実証しており、プロトメックと軽メックに対しても有効である。4門の強化ヘビーレーザーは敵が突進してくるのを思いとどまらせる。





タイプ: オステオン
技術ベース: 氏族(実験)
重量: 85トン
戦闘価値: 3235

                            装備重量
内部中枢:     リインフォースド          17
エンジン:         255XL             6.5
    歩行:         3
    走行:         5
    ジャンプ:       0
放熱器:          10(20)            0
ジャイロ:                        3
操縦機器(胴):                     4
装甲板(フェロラメラー): 252             18

        内部中枢    装甲
頭部:      3         9
胴中央:    11        40
胴中央(背面):          12
左/右胴:    27        24
左/右胴(背面):         12
左/右腕:    14        24
左/右脚:    18        36



重量・スペース配置
場所      固定装備         残りスペース
頭      ノヴァCEWS            3
胴中央    コクピット            0
       センサー
右胴    2 XLエンジン            7
       生命維持
      2 フェロラメラー
左胴    2 XLエンジン            7
       生命維持
      2 フェロラメラー
右腕    2 フェロラメラー          8
左腕    2 フェロラメラー          8
右脚    2 フェロラメラー          0
左脚    2 フェロラメラー          0

武器・装備         配置    装備欄数    重量

基本仕様
iATM-9           右腕      4       5
弾薬(iATM)21       右腕      3       3
CASEII           右腕      1      0.5
iATM-9           左胴      4       5
弾薬(iATM)14       左胴      2       2
CASEII           左胴      1      0.5
弾薬(iATM)21       頭部      3       3
iATM-9           右胴      4       5
弾薬(iATM)14       右胴      2       2
CASEII           右胴      1      0.5
iATM-9           左腕      4       5
弾薬(iATM)21       左腕      3       3
CASEII           左腕      1      0.5

A仕様
2 強化ヘビー中口径レーザー 右腕      4       2
2 高性能放熱器       右腕      4       2
メック迫撃砲8        右胴      3       5
弾薬(迫撃砲)12      右胴      3       3
中口径パルスレーザー    左腕      1       2
弾薬(迫撃砲)12      頭部      3       3
2 メック迫撃砲8       左胴      6      10
ER大口径レーザー      左胴      1       4
2 強化ヘビー中口径レーザー 左腕      4       2
2 高性能放熱器       左腕      4       2




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