indexに戻る
作成:2004/01/16
更新:2005/08/10

継承権戦争 Succession War



 2786年から3030年まで続いた継承権戦争。その被害、規模、期間で、後世の氏族戦争、聖戦を軽く超えています。初期には核・生物化学兵器が使われ、科学技術の基盤が破壊されました。行われた戦いの一部をハウスブックから。







継承権戦争 Succession War

2786-2821 第一次継承権戦争
2830-2864 第二次継承権戦争
2866-3025 第三次継承権戦争
3028-3030 第四次継承権戦争





ダヴィオン家ソースブック House Davion Source Book


第一次継承権戦争 THE FIRST SUCCESSION WAR

 万一、いつか中心領域に帰りたくなったとしても、我らはより強く燃える星々の星団を探すのみであろう。その光は千の惑星の千の炎でさらに強くなる。5王家が絶滅するまで戦う所から我らは離れたのである。
――エジンコート・マロイ大尉の言葉、ジョナサン・デグラッシ司教著『エクソダスの反響』(2801年)より引用

 2784年に行われたケレンスキーと星間連盟正規軍の出立によって、議会君主たちを縛る最後のいましめが解かれた。正規軍には、第一君主、補給基地、政治的権威が欠けていたのだが、星間連盟軍は敵対するより仲間に引き入れたいような恐ろしい脅威であった。ケレンスキーがいなくなるとともに、残った正規軍(辺境での戦役から対アマリス戦まで、すばらしい戦闘経験を多くが持っていた)は、様々な軍事キャンプを転々とした。それらの基地は、我こそが連盟首長だと主張するために継承武王たちが建設したものだった。



暗黒時代 A DARK AGE

 星間連盟の崩壊とともに、中心領域の世界は新たな時代に入った。この時代を生きた人にとってさえも、時代の連続性は不確かであった。今日でさえも、星間連盟が継承権戦争の灰の中から不死鳥のごとく復活するとする者たちが大勢いる。これは武王の時代の徴候である。

 アマリスの一撃で始まり、2世紀半引き延ばされた歴史は、戦闘、同盟、歴史的な日時の無限連鎖と大差がないかのように見える。だが、この過程で、科学、経済、社会の進歩は減退している。人類は沈滞の時代に入った。欲望と野心が継承武王を盲目にし、気づかせないのである。人類はゆっくりだが確実に暗闇へと落ちていっている。

――アルマンド・シェイエス侍祭著『人類の瞬き』(コムスター一般広報第18654、資料印刷局、地球、3016年)より引用



タウンの大敗走 THE TOWNE DEBACLE

 ケレンスキー最後の輸送艦が辺境へとジャンプすると、恒星連邦は非常に弱い立場におかれた。ジョン国王はキャメロン家の正統な後継者のように振る舞いたかったので、軍が「不適当」な何かをすることを禁じた。たとえば他の王家君主たちが、公然と地球系国家の富と世界を掠奪していた一方で、AFFSはジョン国王を困惑させないように、それら価値のある物を買うか、秘密裏に盗まねばらなかった。その結果、恒星連邦は、他王家よりも少ない補給物資、軍事物資を得ただけだったのだ。

 多くの人々が想像するくらいにAFFSが力を持っていたのなら、このことはたいした問題とはならなかったかもしれない。書類上では、ダヴィオン軍は他の王家軍より大規模だったのだが、ほとんど致命的なまでに深刻な欠陥があったのである。そのひとつは、地域に対する愛着の復活である。平穏であった星間連盟の時代に、AFFSの予算を削減するのが流行っていた。とくに王国内での部隊輸送の資金をである。その結果、兵士たちは特定の地域に数年間ずっと配置されることになり、恒星連邦やダヴィオン家よりも新たな故郷に忠誠心を持つに至ったのだ。戦闘地区担当の元帥は、兵士たちが故郷となった地域を誇り、そこから移動させられるのをひどく嫌っていることに気がついた。配置が顕著となるとともに、戦闘地区間の連携がおそまつなものとなった。そしてもろく分断された防衛戦が作り出されたのである。

 もうひとつの欠点は、部門間の争いである。かつて、メック戦士、戦闘機パイロット、歩兵の良き競争関係だったものは、苦々しいまでの争いに成り下がっていた。部門間での敵意は一般的なもので、戦場での協調はほとんど存在しなかった。

 2785年におきた〈タウンの大敗走〉で、このときのAFFSの状況がくっきりと現れた。恒星連邦は惑星タウン(かつて地球帝国の一員だった)の所有権を2783年に奪い取った。ジョン国王は、第一君主の王座を継ぐ正統な後継者であると振る舞っていた一方で、タウンこそ公然と奪うだけの価値がある地球帝国の世界だと考えていた。

 惑星は、多くの機械類の倉庫を持っていただけでなく、恒星連邦から地球へと続く通路のひとつでもあった。タウンの重要性から、ジョン国王は第56アヴァロン装甲機兵隊と第123航空要撃大隊の分隊を、守備のために送り込んだ。

 2785年の前半に、ドラコ連合とカペラ大連邦国の襲撃隊が、タウンの倉庫と工業を奪取しようとした。惑星の防衛軍は小規模な襲撃隊を簡単に追い払うことができたはずなのだが、装甲機兵隊と気圏航空大隊の間にあった対抗意識が、惑星防衛の邪魔をしたのである。装甲機兵隊のウィルキンス少佐が、最初に連合の襲撃隊を片づけるべきだと確信する一方で、航空大隊のドナー少佐はカペラの襲撃隊を先に潰したがった。クリタとリャオの襲撃隊は、撤退する前に、防備の手薄な倉庫群(すべてに価値があった)から掠奪可能だったのである。

 恒星連邦には弱点があると見た、また恒星連邦を攻略したがっていたドラコ連合は2785年の後半、タウンに大攻勢を仕掛けた。第50ディーロン正規隊(歩兵隊、航空隊の7個連隊に支援されていた)が惑星を攻撃し、タウンのダヴィオン兵たちに援軍を求めざるをえなくさせたのである。

 だが、地域に対する愛着と官僚政治が一緒になって救援の試みを遅らせ、タウン星系にAFFSの航宙艦が入るまでに、第56装甲機兵隊と第123大隊の兵士たちは、両方とも征服者たちのなすがままにされて死んでいった。タウンはいま連合の所有物である。

 ダヴィオン経済のわずかな落ち込みは、2786年の後半、星間連盟の崩壊にともない、全面的な暴落へと転じた。酒と薔薇の日々が永遠に終わらないと信じていた人々は、変化の時期に遭遇し、経済政策の変更という不本意な代価を支払うこととなった。


クリタか、リャオか KURITA OR LIAO?

 我らが近年やってきたことを考えれば、我らが戦争状態にあっても驚かない。ふさわしい罰である。
――『ジョン・ダヴィオン国王の日誌』(NAISプレス、ニューアヴァロン、3011年)より

 〈タウンの大敗走〉はジョン国王にさえも、いかにAFFSの効果がなくなってしまったかを悟らせた。第一君主の座を欲していた彼は、王国が必要としていたものに対して、明らかに盲目となっていた。だが彼は石頭ではなかった。部下の元帥を集めて、真実に備えた。それがあまりに痛ましいものだったので、近隣の王国に和平の使者を送るのを考えたという話が残っている。だが、起きたことは、ジョン国王による大規模な刷新と防衛の準備の発表であった。

 AFFSを浸食する腐食を止めるために、ジョン国王は軍事力強化の応急プログラムを認可した。恒星連邦はほとんどすべての大規模な軍需物資製造産業を接収し、その他の資源のほとんどをAFFSの所有物とした。この抜本的な政策におけるよい効果のひとつは、高水準にあった失業率を引き下げ、経済の無風状態を阻止したことである。この動員によって六ヶ月以内に、航宙艦、メック、気圏戦闘機、戦車の生産が着実に増加した。ジョン国王は、日和見主義の敵を止めるにはこれ以上のものが必要だとわかっており、少なくとも「隣人」のどちらかの攻撃を止める手だてを探した。もっともありそうな恒星連邦への攻撃計画を潰すような攻撃を立案するよう彼は元帥たちに命じた。継承権戦争における大失敗のひとつは、ダヴィオンの元帥が、リャオ家とクリタ家ではカペラ大連邦国が最も危険な脅威であると報告したことだ。

 ダヴィオン軍がカペラに対する阻止攻勢を準備していた一方で、ドラコ連合招集軍(DCMS)は恒星連邦に壊滅的打撃を与える奇襲攻勢を準備していた。自身が第一君主であると宣言した2786年、ミノル・クリタ大統領は、主張が正しいと断言するには、他家の軍隊に軍をぶつけるのが一番の方法だと信じていた。恒星連邦に対する決定的な勝利は、マーリック家、リャオ家、シュタイナー家に対する事実上の無制限な影響力を与え、従って第一君主の権利を保証するだろう。

 攻勢を設計、指揮するために、ミノル・クリタは息子のジンジロー・クリタ(行動を予想できない男)を選んだ。〈タウンの大敗走〉を徹底的に研究したジンジローは、AFFSが張り子の虎以上のものではないと気づいた。恒星連邦軍のすべての欠点、失敗を利用しようと意図した彼は、中心領域にかつてない素晴らしい攻撃を考案した。

 ケレンスキーと正規軍がニューサマルカンド(連合の世界)の周囲に集合し始めたとき、ミノル・クリタはケレンスキー軍の兵士たちに攻撃されるのを畏れ、他地域から部隊をこの管区に集めた。正規軍の出発により彼の恐怖はやわらいだ。エクソダスから2年がたっても、ゲイルダン管区はまだ警戒態勢にあり、この地域を通る兵士たちで混雑していた。

 恒星連邦のエージェントはこの地区の動きに慣れてしまった。ジンジローはダヴィオン前線に沿って兵士たちが集中していくのを擬装することができた。彼は王国中から兵員を引き出し、ゲイルダン軍管区を通して部隊を送り、それから国境線に沿った陣地に展開した。一度割り振られた陣地についた連合の部隊は、AFFSの部隊との衝突を避けるよう厳密な命令を下されていた。連合の士官たちは、恒星連邦に手の内を晒すよりも、戦闘に負けるよう命じられていた。

 クリタ家が何かをしていると疑ったAFFS内の士官もいた。アヴァロン装甲機兵隊RCTのE・ドライヤー准元帥は、DCMSが攻撃を計画していると警告した。この兵力招集の呼びかけは耳触りだったために、彼は軍法会議で三階級降格された。意見を異にしたとある元帥に殴りかかったのである。(ドライヤー大佐は攻勢の初期に戦死した)。他の者たちもドライヤーに同意していたのだが、ダヴィオン中にまん延している部門間の対立によって、軍の戦略家たちは連合の攻勢の可能性という事実のすべてから目をそらし続けたのである。

 その代わりに、ジョン国王と部下の元帥たちは、カペラに対する攻撃の準備をした。AFFSのどんな兵員でも本拠地の地域から引きはがすことができた。ダヴィオンの攻撃の目標は、惑星ミラ、メサルティム、ティコノフだった。ダヴィオンの工作員はそこがリャオ家の大規模な集結地点になってるのを発見していた。

 惑星上の補給に対する攻撃が成功したら、敵の攻勢は数ヶ月遅れるだろう。4月の終わりまでに、AFFSは50個連隊以上を恒星連邦の世界タワス、ファーウェル、アミガに集合させていた。



前線の懸念 FRONT-LINE WORRIES

2787年3月5日
発:ヤノス・ディダース准元帥、MI-3司令官(連合防衛区域)
宛:ティモンズ・ダヴィオン元帥、MI-2司令官

 ぜひともゲイルダン管区を出入りするドラコ連合招集軍の通信を再評価していただきたい。信じられないような通信の量と、該当地域にある無数の連隊が、私をナーバスにしている。エクソダス前にケレンスキーがゲイルダン軍管区ニューサマルカンドを終結地点したことで、DCMSはまだ活動を活発化させているのかもしれないが、私が見た全てを説明することはできない。貴官の意見を頂きたい。


2787年3月6日
宛:ティモンズ・ダヴィオン元帥、MI-2司令官
発:ヤノス・ディダース准元帥、MI-3司令官(連合防衛区域)

 貴官の報告書を読んだ。貴官は薬物で幻覚を見ているか、昇進のために躍起になっていると結論付けた。もし龍が攻勢を計画しているのなら、なぜ連合内にいる工作員たちは今まで警告しなかったのだろうか? もし龍に何事かあるのなら、なぜ我らは12度の小競り合いで勝利したのか? 落ち着きたまえ。貴官がクリタ家を畏れているのは、被害妄想である。

――コムスター(地球、恒星連邦フォルダ26A)の調査資料より



嵐の到来 THE STORM BREAKS

 2787年5月1日、クリタ−ダヴィオン国境で戦いが噴出した。クリタの部隊は、国境上の恒星連邦の全世界を攻撃し、惑星の通信能力を破壊した。攻撃のほとんどは予期されていなかったので、多くの世界は救難メッセージすら送らずに沈黙した。わずかな救援要請を受けたAFFSは、攻撃の規模を過小評価した。国境線に沿ったこの戦闘地区を指揮していた元帥たちにとって、突然のクリタの攻勢は心配であるが扱いやすいものに見えた。実際に彼らは防衛を同調させる努力をしなかった。

 3日後に、ジンジローは攻勢を第二段階に移した。前線に沿って新たな攻撃を広げるかわりに、彼はクローヴィス戦闘地区にクリタ連隊の群れを送り込んだ。第二波に参加した連隊は、地区の奥深く、カルタゴ、オランチャ、クローヴィスを叩いた。クローヴィス(この地区の全AFFS隊の司令部があった)への攻撃は、ジンジローの計画でもっとも重要だった。もしクローヴィスが陥落したら、この地区のどのような防衛も崩壊するだろう。

 シモンズ元帥(クローヴィス戦闘地区司令官)は、クリタの意図を察しており、クリタの侵攻が来たら司令部の位置を変更しようとしていた。元帥の部隊(第1クローヴィス防衛連隊)と3個装甲部隊は、これまで行われてきたなかで最高の防衛戦のひとつを戦った。彼らの任務はゴーストシティ(クローヴィス首都、山に囲まれた谷にあった)を守ることだった。クリタ軍は防衛隊の5倍の戦力で戦ったが、最初の週の終わりまで、谷に小さな橋頭堡を確保できただけだった。

 戦いの間ずっと、シモンズ元帥はドラコ境界域の元帥に対して、必死に援軍の要請をした。不運にも、彼は形だけの支援を受け取れただけだった。隣人たちは自分の戦闘区域に注意を払いすぎて、クローヴィス戦闘区域がいかにダヴィオンにとって重要か気づかなかったのだ。

 二週目の終わりまでに、クリタ兵がゴーストシティをとりかこむ状況になっており、シモンズ元帥は撤退を必要とし、惑星からの脱出を試みた。降下船が惑星の地表から離陸すると、クリタの戦闘機が船を攻撃、破壊した。クローヴィス戦闘地区の防衛は、このあとすぐに崩壊した。龍の軍隊はいま、恒星連邦のまさに心臓への道を確保した。



バーロウズ・フォーリー BARLOW’S FOLLY

 ダヴィオンに所属するクリタの国境線上の惑星キューサーでは、龍の紋章を付けた軍による襲撃が他より多く見られた。

 住人たちは正面玄関のドア脇にライフルを立てかけるのと同様、冗談でクリタ兵のための皿を食卓に置いておいたものだった。惑星に駐屯していたのは、マイケル・バーロウ大佐が指揮するアヴァロン装甲機兵隊の1個大隊だった。この惑星の生まれたであるバーロウは、山岳の地形をよく知っていた。彼は故郷を愛しており、ダヴィオン家だけが同じ敬意を払ってくれると信じていた。

 クリタの攻勢が始まったとき、キューサーは最初の目標のひとつとなった。全力で戦った防衛軍は、やがて惑星の支配権を失っていった。その一方で、ドラコ軍はすべての建物を破壊し、すべての農場を撃ち、作物を燃やした。

 シモンズ元帥(この戦域の司令官)がクローヴィスで殺されたとのニュースが届いたあとで、バーロウ大佐の上官はROW命令(惑星上からの撤退)を与えた。バーロウ大佐は故郷を手放すのを拒否した。その代わりに、残ってくれるよう同僚たちを説得した。上官はこれが愚行(folly)であるとし、よってすべてのAFFS降下船はキューサーを離れた。だが、バーロウ大隊のほぼ全軍があとに残ったのだった。

 最後のAFFS降下船が行ってしまったあと、バーロウは大隊を率いて、惑星の3大都市を囲む山地に入った。続く3年間、メックはクリタ軍を攻撃し、嫌がらせした。バーロウ軍はマシンを維持するのに充分なパーツと補給物資をなんとか確保した。メックがもう使えなくなると、バーロウと部下はライフルを手に取り10年間戦った。

 14年の闘争で、バーロウの部下は数え切れないクリタ兵を殺し、敵の装備と補給物資を数トン分破壊した。その後、クリタの守備隊は最後のゲリラ兵を殺した。だが、クリタ人を狼狽させたことに、バーロウ大隊の勇気は、キューサー市民に反抗心を植え付けていたのである。バーロウ大佐の名の下に、数多の新たなるゲリラ戦が行われた。

 山中に隠れた利口な敵と戦うのは困難であった。いまクリタ人は都市の群衆に隠れた敵と直面していた。

 今日までバーロウ大佐はキューサーに残っている。市民が反抗的になると、全面的な暴動を防ぐために、通常の3倍のドラコ兵が駐屯することになった。兵士たちはこの惑星に配属されることを畏れるようになった。多発する暗殺テロを畏れたのである。

 惑星の名前すら変わった。バーロウ大佐の勇敢な物語が中心領域に広がっていくと、キューサーは「バーロウズ・フォーリー(バーロウの愚行)」と呼ばれるようになった。ドラコ連合自身が慣例に従い、今ではキューサーをその名で認識している。

――T・J・ベーカー大佐著『第一次継承権戦争の英雄』(シルティス軍事プレス、3002年出版)より



退却 RETREAT

 この状況が危機的でないと言えるなら私は祖母を売り払おう。問題は二時間前に彼女が死んでしまったことだ。
――AFFSの公式記録(2778年、AFFS資料、アヴァロン市)より

 攻勢の第三週目に、ジョン国王(いまだカペラ国境の近くにいた)は、ドラコ国境域からの完全で整然とした退却を命じた。故郷への愛着から多くの兵士がそれを拒絶した。他の者たちは、高価なマシンを後に残して逃げ出した。

 この混乱した退却は、恒星連邦の防衛戦に巨大な穴を開けた。すぐにそういった穴を発見して、突いたクリタ家は、侵攻を一週間以上繰り上げられることに気づいた。素早い前進ができた大きな理由のひとつは、クリタが孤立したAFFS抵抗軍を喜んで迂回したことである。あとでゆっくり破壊するために梯隊を残していった。孤立した抵抗軍のほとんどは、敵軍の数に押しつぶされるか、補給物資と食料を使い果たしたときに消滅した。国境線に駐留していたAFFS部隊のうちごく少数がなんとか生きのびた。マッキノン襲撃隊、フランクリン・ゴーゴン隊、ドゥボーイズなどである。

 2792年までに、AFFSは首星ニューアヴァロンから2回のジャンプの位置にあるインブリアルIII、ケストレル、ソーネミンを防衛していた。このときまでに、ジョン国王は二度の逆襲を行っていた。一度目は、2788年、カペラが連合軍を攻撃するよう意図して、兵を投入したものである。連合の攻勢の側面を突くことで、前進の速度を低下させたいと思っていた。カルタゴで敗北すると、ジョン国王は幸運にも命を長らえて世界から脱出した。

 二度目の逆襲は2790年のものだ。海軍から戦艦のほとんどを集め、気圏戦闘機と航宙艦をつけて、クリタ侵攻軍を正面から攻撃する機動艦隊を編成した。その目標は世界を取り戻すことではなかったが、クリタ人の攻撃を遅らせるために、海軍を充分に破壊することであった。

 この攻勢は最初のものより幸運に恵まれた。ケネス・ジョーンズ提督(FSSゴールデンライオン搭乗)に率いられた機動艦隊は、インブリアル、ニューヴァレンシアを皮切りに10以上のクリタ占領星系を叩き、20隻以上の敵航宙艦と、同数の降下船を破壊した。AFFSの艦船は数世界でなんとか抵抗軍に補給を行い、気圏戦闘機は移動を強いられる前にしばしば地上の目標に打撃を与えるだけの時間があった。

 AFFS機動艦隊は、クリタ領域からの脱出を考えていた時期に終わりを告げた。戦争の初期に、恒星連邦は小世界のショレーム星系を放棄しており、そこにドラコ連合の守備隊は置かれてないと言われていた。ジョーンズ提督はショレームこそ、ロザモンドにジャンプして安全を確保する前に、隊を休憩させられる完璧な場所と考えていた。

 機動艦隊が星系に入ると、すぐクリタの気圏戦闘機がダヴィオンの航宙艦の多くを攻撃した。クリタ戦艦のグループが戦闘機のすぐあとに続いた。海戦は6週間続いた。少しでも多くの船が安全にジャンプできる時間を稼ぐため、ジョーンズ提督は星系のジャンプポイントの中間点に突っ込んだ。小コルベットからゴールデンライオン自身まで、100隻以上のAFFS戦艦と同数の降下船、戦闘機が破壊された。ジョーンズ提督がほぼ同数のクリタ戦艦を始末したことは、恒星連邦の人々にわずかな安心感を与えた。

 カペラ大連邦国は恒星連邦とドラコ連合国の戦闘中に手をこまねいてはいなかった。いまやダヴィオン家からの脅威がほとんどないことに気づいたカペラ人は、地球近くの数世界(アディックス、アンカー、スモールワールド含む)を得た。さらに悪いことに、恒星連邦は、2796年から2797年にかけて、セーレム、ヴィクトリア、カーマックス、シクルムンをカペラに奪われた。

 いま恒星連邦は地球への経路を断たれた。この事実にたいした意味はなかったのだが、人類の故郷とのつながりが断たれたのは敗北であると、恒星連邦人の多くが感じた。



粛正 THE PURGE

 クリタ家の恒星連邦侵攻におけるもっとも醜い影響は、心理的なものであった。ダヴィオン市民のなかに、不合理な意地汚さ、秘密性、疑いが産み出され、補給物資盗難の衝撃が広がっていった。顕著な例はストロウンで起きた。

 2794年、五等下級官僚(なんとかストロウンの首相になった人物)が、東洋人の全員を自宅、親類から離し、キャンプ(国家機密を扱う政府施設から離れている)に移すよう命令した。

 この法律は、クリタの龍を深く畏れる人々の心を揺るがした。突如、東洋の血を引く者なら誰でもドラコ連合国の潜在的な工作員となった。カペラ人も同じように、恒星連邦と地球のつながりを断ったことから、恐怖の対象となっていた。結果、引き起こされたヒステリーで、多くの不幸な人々が両王国の工作員だと非難された。

 妄想は山火事のように広がっていった。家は焼かれ、商店は爆破され、パスタ工場でさえも「東洋的」であるとされて閉鎖された。東洋人の祖先を持つ恒星連邦市民にとって、これは笑い事からほど遠かった。多くが家から引き離され、殺された。その一方で他の者たちは、彼らのために働くのは逆によくないとして見守った。

 様々な惑星政府、貴族から、ごちゃまぜになった反応があった。多くは市民の行動に激怒し、狂気を止めようとした。この状況を利用して、東洋市民の不幸から利益を得た者もいた。少数の政府、貴族はこれが粛正であると信じ、無実の血が流されたことでこの世界の歴史が永遠に汚されたと信じた。

 2年後、問題はさらに激化し、夢中になっていたダヴィオン政府でさえ、それを放置できなくなった。2796年1月、ジョン国王は、どのような人種差別も全王国中の市民に与えられた自由の権利に抵触していると声明を出した。その後、ニューアヴァロンカトリック教会の教皇クルメント20世は同様の法令を出した。人種差別は神の愛と共存できず、従って破門による懲罰がありえると。

 こういった動きは、狂気にとらわれた多くの普通の男女を落ち着かせる役割を果たしたが、すでに失われた生命や財産を補うことはできなかった。今日まで、恒星連邦で粛正について論議されることはほとんどない。

――ライアン・レイモン神父著『戦場外での残虐行為』(アンフィニッシュブックプレス、ニューアヴァロン、3001年出版)より







MIIO創設 CREATION OF THE MIIO

 ポール国王のダヴィオン政府に対する辛辣な批判のひとつは、恒星連邦の非軍事情報収集部門がまったく不適当なことだった。星間連盟の誕生以来、軍事諜報局(MI)が他国家の情報入手をすべて取り仕切っていた。既存の非軍事諜報工作員は MI に情報の要求を行わねばならず、諜報データを手放すかどうかは MI 士官に責任があった。この配置は星間連盟の時代には比較的うまくいった。

 ある情報を知るか知らないかに基づき、1日で世界全土を勝ち取ったり失ったりする現在において、MI に完全に依存するのはもはや現実的でなかった。情報要求の洪水を扱うには人員不足だっただけでなく、AFFSを蝕む派閥争いで苦しめられていた。諜報部は注意深く情報を保護しており、権力が弱まるのを畏れて情報を出し惜しみした。

 ポール国王の解決策は情報調査活動省(MIIO)を創設することだった。このとき彼は改革で自身の権力をすべて強化していた。この省の目的は、あらゆる必要な情報を集め、迅速に政府へとフィードバックすることだった。新MIIOの諜報工作員の質を確保するため、ポール国王は、個々人の主導権を奨励し、報いがあるように命令した。

 新省の設立コストは高かったが、国王の浪費はよい投資だったとすぐに証明された。MIIOの創設から1年もしないうちに、重要な情報をMI より早く徹底的に提供したのである。

――イヴァン・ナヴァロ著『恒星連邦におけるスパイと情報』(研究論文、トレドプレス、ニューアヴァロン、2997年出版)より






モトチカ将軍 GENERAL MOTOCHIKA

 我は義務を果たしただけである。それ以上でもそれ以下でもない。なぜかと? 軍人の人生にそれ以上のことがあろうか?

――チョウソカベ・モトチカ将軍に対する尋問、MI の公式調査書類より、2830年

 2830年、予想に反して、ドラコ連合はダヴィオン国境の世界への大規模な襲撃を開始した。ルツェルン、フランクリン、サハラVなど、国境の惑星を狙った攻撃は少数だった。大がかりな攻撃のほとんどは、連邦内部の奥深くの世界を狙ったものだった。ドラコ軍部は知らなかったのだが、AFFSはDCMSの作戦暗号を解読し、侵攻が来るのを待ち受けていたのである。

 チョウソカベ・モトチカ将軍は、ルツェルン・フランクリンへの襲撃を担当したクリタの司令官だった。30年間勤め上げた尊敬される士官であり、ほとんど宗教的なまでにクリタ家と名誉の掟に熱狂していた。戦場での仕事ぶりは、典型的なクリタ士官らしく、退屈で想像力に欠けていたが、潔癖で正直な戦士であるとAFFS内での評価を勝ち得ていた。

 ダヴィオンの2個世界への攻撃を調整している最中、両惑星に予想より多くのAFFS兵がいることを知って、将軍は狼狽した。追加の報告書が来ると、将軍は侵攻の情報が漏れていたことと、いま全軍を失う危機にあることに気づいた。そして撤退の命令を下した。

 大統領自身もROW(惑星からの撤退)命令のすべてを承認せねばならなかった。それがクリタ隊に戦場におけるさらなるトラブルをもたらした。多くの場合において、大統領からの撤退許可は、部下を救うにはちょっと遅すぎた。許可なしでの撤退は名誉を著しく傷つけることになる。たいていは指揮官、参謀、退却した全兵のうち一定の割合が、死罪となる。最後の一兵が惑星から離れる前に大統領の許可が届くことを祈りつつ、多くのクリタ司令官たちはとにかく惑星からの撤退を進めた。

 モトチカ将軍のアシスタント(撤退の要求を求めるために急送した人物)は、配達に失敗した。降下船が航宙艦と合流してはじめて、将軍と部下たちは違法な撤退に参加していると気づいたのである。それは大多数の死を意味していた。モトチカ将軍は礼儀正しくストイックな作法でこのニュースを受け取ったが、ルシエンに戻って報告する代わりに、3個メック連隊と1個戦車連隊を恒星連邦の奥深くへ導くことを決めた。

 この不安定な集団の目標はダハールIVであった。ダハールは第一次戦で損害を被ってない数少ない富める世界のひとつだった(占領されたことはあるのだが)。ダハールには多くの鉱物倉庫と重工業があったので、第23アヴァロン装甲機兵隊と多数の下位連隊が駐留していた。

 モトチカ将軍の兵がダハール上に現れたとき、ダヴィオン軍はクリタの降下船と戦闘機がやってくるのを待ち構えるため、用意された重防御陣地にすぐ散っていった。だがそうはならず、クリタの降下船がゆっくりとやってきて、交渉を求める通信をしてきた。モトチカ将軍の要求を信用しない者がほとんどだったが、クリタの通信を監視していたMI は、将軍になにか悪いことが起きたと理解していた。MI はAFFSの司令官に保証した。もしモトチカがAFFSの虜囚になるなら、彼の要求はおそらく真実であると。

 1個メック連隊だけが降下した後に、モトチカ将軍と幕僚たちは身柄の拘束を許可した。MI が将軍を尋問する一方で、AFFS司令官は兵士たちに陣地から離れるように命令していた。これを合図として、残ったクリタ2個メック連隊は軌道上の降下船を離れ、無防備なAFFS防衛隊をとらえた。

 すぐにダハールの大都市すべてが炎上していった。クリタのメックは目標を探して地方部をうろついた。ダヴィオンの士官が裏切りを非難したとき、将軍は笑い、部下は命令に従っているだけだと言った。こういう行動で、違法な撤退の不名誉を雪いでいると説明した。部隊はいまドラコ連合に帰れるかもしれない。そしてモトチカは制服の袖に隠していた毒のカプセルを取り出して、それを仰いだ。

 ジンジロー・クリタは、モトチカ将軍の行動を聞くと、生き残ったモトチカの兵士たちが名誉を持ってドラコ連合に戻れるような命令を与えた。


チコノフ戦役 BATTLES FOR TIKONOV

 アナグマかクズリを罰するにはいい場所だろう。
 ――ダヴィオンメック士官の発言、ホロニュース・ショー「真実の太陽」 2832年8月12日

 ポール国王と部下の元帥たちは、最近行ったクリタ国境襲撃によって、ドラコ連合が再び恒星連邦に視線を向けているだろうと懸念していた。小規模な小競り合いが起きただけで、緊張の数ヶ月間が過ぎ去ると、AFFSはクリタ家が最大の脅威ではないと判断した。2832年までにドラコ前線が静かになると、ダヴィオンはカペラの世界チコノフ(大連邦国の共和区首都)への攻勢を練り上げた。

 派手なH.R.“遠吠え”グリーア将軍に率いられた第2ケチ戦闘部隊連隊戦闘団が、攻撃の先頭に立った。アメリカ西部のカウボーイに先祖帰りしたと考えられている遠吠えグリーアは、機動力があってよく訓練された部下のメック隊を、チコノフの不毛な砂漠に導いた。何度も攻撃を急き立てる彼のほとんど熱狂的なまでのエネルギーは、立ち向かうすべてを粉砕していった。

 遠吠えグリーアの努力は、ハイ・クレムリン(カペラの要塞)の外で終わりを告げた。包囲戦の専門家というより、機動部隊司令官だった将軍は、防衛隊に割ってはいることができないと知った。カペラ強化陣地との、6ヶ月のにらみあいの末に、遠吠えグリーアは世界から脱出せざるを得なくなった。カペラの援軍が航宙艦への退路を断とうと脅かしていたのである。

 しかしながら、翌年、グリーアは重装備を伴って戻ってきた。もしチコノフを連邦日輪旗の下に置けなかったら、士官食堂の配膳係にするとポール国王に脅されていた。二度目は上手くいった。遠吠えグリーアはなんとか惑星の大部分を手中に収めた。二ヶ月の戦役ののち、ハイ・クレムリンも手に入れた。

 だが、遠吠えグリーアは、補給の確保に失敗した。カペラ戦闘部隊の戦闘機と軽メックからなる特殊打撃隊が、チコノフに入り、ケチ戦闘部隊の補給廠を直接叩き、壊滅的な結果をもたらしたのだった。(ケチ)戦闘部隊が新たな脅威に対応できる前に、カペラ戦闘部隊の残り(多数の強襲級メックを含む)もまたチコノフに向かっていることが、遠吠えグリーアにはわかっていた。カウボーイとしてのプライドを砕かれ、将軍は失敗を許容せざるを得なかった。重メックを戦わせる補給物資がなくなっていたのだ。ポール国王は、脅し文句を実行した。グリーア将軍はニューシルティスの士官食堂で一年間食べ物を配ったのだった。

 チコノフを勝ち取るといまだ決心していたポール国王は、2834年に再トライすることを決めた。三度目の試みには、ジェシカ・バスナー将軍率いる第3デネブ軽装甲機兵隊連隊戦闘団が使われることになった。計画では、彼女の高速軍がチコノフの主要な大陸を抑え、近衛旅団の他のRCTが惑星の残りを奪うのを助けるためにやって来るまで、充分長く保持することになっていた。バスナー将軍と部下たちは、うまく作戦を遂行した。より遅い敵を後目に、鍵となる都市を手中に収めたのだった。いまデネブ軽装甲機兵連隊は、救援軍を待っていた。

 救援がやってくることはなかった。第2ダヴィオン親衛旅団RCTがチコノフに向かおうとしたまさにそのとき、ジンジロー・クリタが親衛隊の本拠地サニラックへの襲撃を開始したのだ。この予期せぬ襲撃は、多くの親衛部隊(地上の防御されてない降下船のなかにいた)を捕らえた。彼らの損失は大きかった。第2RCTがクリタの襲撃者を追い出すまで、チコノフのデネブ軽装甲機兵隊が救援を受ける見込みはなかった。ジェシカ・バスナー将軍はチコノフを離れざるを得なかった。


カペラの圧倒 CAPELLAN JUGGERNAUT

 ドラコ連合のマラソン攻勢が、最終的に、補給物資とパーツの困窮で苦しみ始めるのは必然であった。両国境において大規模な戦役を行うなかで、補給線は長くなりすぎ混乱した。これがミヨギの部下の戦闘能力と士気に作用を及ぼした。すみやかに逆襲を始める代わりに、大元帥は兵士の大部分を休止させた。クリタ人に気を揉ませておくために、国境内外でたまの襲撃を行ったのみだった。

 ピーター・ダヴィオン公爵は、カペラ前線に攻撃を集中する決断を下した。約40年前にチェスタートンを奪ったことで、ダヴィオンはリャオから着実に収益を上げ始めていた。必要な資源を奪われたカペラ装甲軍は、しばしば戦闘を途中で切り上げることを迫られ、勝者のダヴィオンに多数の世界を明け渡した。

 着実に世界を獲得していたことが、ダヴィオンの世論に謝った印象を与えた。カペラ兵は弱いので、カペラ国境の戦闘で簡単に戦果が挙げられると。真実からはほど遠かった。カペラの弱点は臆病さにあったのではなく、不十分な軍需産業と、非効率な補給システムにあったのである。実際にカペラ人は、ダヴィオンの古参兵たちが証言するように、勇敢でねばり強い戦士だった。

 歴史のこの瞬間、この頑強な勇気がリャオ歩兵のあいだに「戦士の哲学」産み出したという徴候がある。さらにダヴィオンの元帥は、カペラ大連邦国が領土を減らして「防衛に最適なサイズ」になったと信じていた。いまその軍は強く集中し、以前よりさらに素早く反応する能力があった。

 頑強な抵抗の徴候を心配して、ピーター・ダヴィオン自身が2860年のキャマル侵攻を指揮した。報告によると、キャマル防衛隊は資源の豊富な惑星を守ろうと猛烈な抵抗を続けており、なんとかダヴィオンの前進を押しとどめようとしていた。

 防衛隊がいかに心血注いでいたかを、大元帥はすぐに学んだ。降下船をカペラのスラッシュ戦闘機に破壊され、その過程で大けがを負ったのである。リャオに航空優勢があったことによって、防衛隊は効果的にダヴィオン兵を支援から切り離した。大元帥が生命に固執し、指揮をとれなくなるなかで、キャマルにあったAFFS10個連隊(2個メック部隊含む)は、降伏せねばならなかった。

 ここで運命が介入し、大元帥と部下の両方を救った。ローレリ・リャオ首相(カペラ防衛戦略の策定者)が2860年の10月、ピーター・ダヴィオンがキャマルにやってくる2週間前に死んでいたのである。その息子で後継者のデンマーは、戦士ではなく、キャマルで大規模な軍事行動を行うのは損であると見ていた。新首相は間抜けなことに、惑星からの撤退を命令したのだ。現代軍事史における最大の失敗例のひとつである。

 大好きな叔父の救出に安堵したマイケル国王は、新首相の弱点につけこむことを望み、2861年、大胆なメックによる襲撃を認可した。軍事に関してめずらしく行動的な役割を取った国王であったが、このタイミングは幸運であった。ダヴィオンの襲撃の目標となった聖アイヴスにはリャオ首相が住んでいたのだ。襲撃の実行を任命されたのは、親衛旅団のエリート強襲近衛隊で、レベッカ・ダヴィオンという名の生意気な若い士官(マイケル国王の二番目の子ども)に率いられていた。予測不能の乱暴者として有名だったレベッカは、すでに二度の懲戒処分を受けており、撤退命令を無視したために降格されたこともあった。

 聖アイヴス襲撃は彼女に最適な任務であった。FSSリゾルブに乗り組んだ強襲近衛隊は事実上気づかれずに聖アイヴスへと旅した。非居住星系を移動し、また経路と目的地をごまかすために幾度も偽の識別コードを用いたのだった。聖アイヴスについたとき、近衛隊は防衛隊の不意を打ち、1機のメックも失わず惑星地表に降り立った。

 一度着陸すると、レベッカ・ダヴィオン大佐は部隊を二手に分けた。ひとつはリャオ防衛隊と戦うもので、もうひとつは惑星首都の中心部深く、デンマー首相の宮殿へ突っ込んでいくものであった。リャオ防衛隊は都市を傷つけるのをおそれ銃撃戦に乗り気ではなかったが、堅固な防衛体制でダヴィオン軍を首相の宮殿から押し返したのだった。幸運にもダヴィオン軍はこの襲撃で2機のメックを失っただけだった(両パイロットとも救出された)。聖アイヴスを離れる前に、レベッカと部下たちは、デンマー首相(宮殿地下の強化掩蔽壕で震えていた)にメックの恐怖を植え付けていた。

 聖アイヴスで強襲近衛隊に恐怖を与えられたことにより、デンマー首相は2862年の前半、恒星連邦に和睦を請うた。この時点で首相がおそらく何にでも署名をすることを悟ったマイケル国王は、ダヴィオンが犠牲を払って獲得した領土をすべて承認するように求めた。意気地なしのデンマーは、恒星連邦に16惑星の所有を認める署名をした。

 カペラとダヴィオンの和睦はドラコ連合にとって都合が悪かった。というのも、もうひとつの前線にとらわれなくなった敵に、長く対処ができそうになかったからだ。ミヨギ大統領の壮大な二方面攻勢は最終的に崩壊の兆しを見せ始めた。それは疲弊のためであり、長くもつれた補給線で補給が遅れるか届かないためであった。

 2862年の後半、ロビンソン地区でダヴィオンの行動が活発化しているのを見て取ったDCMSの将軍たちは、攻勢が災厄に変わる前に中止するようミヨギ大統領に求めるためやってきた。驚いたことに大統領は受け入れた。すぐにAFFSとDCMSの戦闘は先細っていった。両陣営は領土を得るより兵を休めるときが来たと決断したのだった。2864年までに、第二次継承権戦争が終わったと認めぬ者はなくなった。

 もし戦争の結果が領地獲得で判定されるなら、カペラから多くの惑星を取った恒星連邦が限定的な勝者であったろう。もし結果が、他の継承君主より中心領域の支配を進めたかで判定されるなら、勝者はいなかった。もし結果が、どれだけの人命が失われ、生存者の生活水準が低下したかで判定されるなら、全員が敗者であった。


第三次継承権戦争 THIRD SUCCESSION WAR

 平和がとうとう中心領域に戻ったのを喜ばしく思う。さあ、論理と常識が介在し、平等・公正な条約で平和を永久なものとできるなら、我らは戦争を過去のものとできるだろう。

――マイケル国王の〈クリスマス和平提案〉より、2863年


平和の男 MAN OF PEACE

 2864年の前半、カペラと自由世界のビジネスマンたちが、5大継承国家に対して、恒久的な平和条約を求め始めた。ビジネスライフを続ける上で真に重要なものであるからだ。彼らの努力は「金による平和」と呼ばれ、マイケル・ダヴィオン国王から誠心誠意の支援を得た。国王は似たような公式和平協定に探りを入れるため、密使を送り込んだ。運動の指導者がニューアヴァロンに到着したとき、国王は熱烈に歓迎し、現金を与え、メッセージを持って国中を旅できるような手段を与えた。

 だが、他の継承君主たちは運動の指導者たちに時間を与えようとせず、マイケル国王による堂々とした気前のよい支援は、恒星連邦国王がかかわってることを意味しているのでないかと疑った。エリザベス・シュタイナー国家主席による似たような和平の提案は無視され、「金による平和」も2866年の前半に解散した。マイケル国王の熱意が、中心領域の平和を思いがけず破壊してしまったかもしれないことは、死ぬまで彼の心につきまとい続けたのだった。

 2866年までに、非公式な平和が保てないことが明らかになった。他の王家の戦いが再開しても、マイケル国王は恒星連邦を大規模な紛争から切り離したままでいた。敵対行為を避けることで、恒星連邦が調停者の役割を取ることができ、結局、他国家と和平協定が強いることができると推論していた。この無邪気な方法で、マイケルは第一君主の王座を得られるだろうと推測していた。


戦闘開始 OPENING GAMBITS

 もし戦争が立体チェスと同じくらいに単純なら、我らの元帥は全員が聡明な学者タイプになるであろう。戦争とはそういうものでなく、我らの元帥は明らかにそうでない。

――ピーター・ダヴィオン大元帥著『忠実な元帥の日誌』(アヴァロン軍事プレス、2874年出版)より

 平和な年の間、ドラコ連合は静かだが致命的な内戦に巻き込まれていた。争った二人は、ミヨギ大統領(連合政府を支配している)とロウェナ・クリタ(戦争の被害から王国を再建する人民再建委員会を率いている)だった。2864年までに、PRE(人民再建委員会)は力を持ち、一般大衆にたいして政府と同程度の影響力を行使するに至った。

 最終的にPREと大統領がドラコ連合の支配権を争うのは避けられなかった。表だって戦う(PREに勝ち目はない)かわりに、連合の秘密警察(ISF)が兵士となった。両陣営の戦いは目に見えないものだった(死体を除く)ために、この内乱は〈影の戦争〉として知られるようになった。体面を保ち、内部の弱点を晒さぬよう、クリタ人は内戦のニュースを隠しておいた。この努力は無駄となった。最初に〈影の戦争〉を知ったのは恒星連邦で、2865年前半のことだった。

 AFFSの元帥たちは、連合の弱点を突くべく即時の攻撃開始を求めた。だが、和平調停者でいることを望んでいたマイケル国王はいかなる侵攻計画も断固拒否し、面前でその話をするのを禁じた。焦れたカール・ダヴィオン(後継者に指名されていた)は、父親を打倒する準備を行った。その後、考えを改めるようピーター・ダヴィオン大元帥に説得された。

 ミヨギとロウェナの〈影の戦争〉はISFの派閥を通して行われ、2865年に終了した。クリタ家は内戦が、クリタこそ人類の指導者に唯一ふさわしいという名誉ある運命を汚したと見た。ミヨギ大統領が妹との争いに勝ったとき、彼は汚名返上すべく龍の軍隊に命令を下した。内戦を知るすべての部外者を痛めつけるのである。DCMS(内戦中に中立だった)は、なすべきことを得て安心した。2866年、龍はライラ共和国に対する攻勢を開始した。ライラ諜報員の潜入に応じただけでなく、ライラの経済帝国主義とスカイア連邦の防衛プラントの脆弱に対するものだった。

 クリタの攻勢のニュースはAFFSの元帥たちを安心させた。クリタ卿の復讐心が恒星連邦に向くのではないかと畏れていたのだ。この安心に伴い、元帥たちはDCMSの注意が逸れている隙に攻撃をしかけるべきとの思いを新たにした。

 このとき、ピーター・ダヴィオン大元帥は、元帥たちを支持した。ピーター公爵はケンタレスの司令部からニューアヴァロンに旅し、ドラコ連合に対する攻勢を行うよう、乗り気でない国王に個人的な働きかけを行った。二週間の議論のあとで、国王はピーター・ダヴィオンに承認を与えた。それから一ヶ月以内に、金色に輝く記章をつけたメック、戦闘機、その他の車両が移動を始めた。



MIIO工作員 AGENT OF THE MIIO

 第一次継承権戦争中に創設されて以来、情報調査活動省(MIIO)は中心領域でもっとも効果的かつ創造的な情報収集機関のひとつとなった。我らが結社だけがダヴィオン工作員の能力を上回っている。MIIO成功の理由は、工作員たちが機関のどんな仕事にも献身的なことだ。発足以来、MIIOは意欲と心理学の訓練に強く力を入れている。この訓練のいくつか(新人の精神を形成する一週間の心理教化のような)は、まったく残酷である。にもかかわらず、めざましい効果を発揮する。我らの工作員たちによれば、MIIOの工作員がプレッシャーに負け、ダヴィオンの秘密を明らかにしてしまったケースはわずかとのことだ。

 もうひとつの重要な要素は、新人のあいだに育てられた団結心である。MIIOの全訓練基地は、世界の奥地か、都市のただ中にある。その都市に住む市民たちはダヴィオンの英国系フランス語を話さない。この隔離措置で新人たちはほぼすべての事柄において、他のメンバーに頼らねばならなくなるのだ。さらにこの協力の精神を促進させるために、二人の新人が一切の準備なしで郊外か都市に放り出される。彼らの任務は、定められた期間内に、生きて正体を明かさずに基地に帰還することだが、いくらか重要な情報(おとりか本物)を運ぶ。ほぼ重要なのは、全訓練生が最高の教育を受けることだ。言語と、嘘、偽造、変装のテクニックが特に重視される。MIIOの長く多彩な歴史を学ぶことは、同様に訓練コースで重要とされている。卒業までに、新人それぞれは、この省の歴史で重要な出来事と英雄のすべてを知るだろう。このことが伝統の誇りを与え、似たような素晴らしい成功を収めるための前向きな競争心を促進させるのである。

 MIIOで最大の功績のひとつは、派閥争いの発見である。その争いは〈影の戦争〉のあいだにドラコ連合を引き裂きかねなかった。他の継承国家に先駆け、MIIOがどうやってこの紛争を知ったかは、いくつかの方法で説明できるかもしれない。ISFが混乱するなかで、MIIOは下層階級の者(話好きの農場主のような)からトラブルの噂を聞いたのかもしれない。もしくは、単に目と耳を開いたままにしていたのかもしれない。

 別の可能性は、〈影の戦争〉で死んだメツケの交代人員を募集する際に、セキュリティチェックが甘くなったのではないかということだ。ISFはことによると(知らず知らずのうちに)、MIIOの工作員を訓練プログラムに採用してしまったのかもしれない。

 もうひとつの興味をそそる可能性が存在する。かなり確実な証拠によると、ISFのトップメツケ(ダークアサシン・ケリー・ウリゾス)が、恒星連邦の二重スパイだったというのだ。もしこれが本当だったら、自慢のダークアサシン(ISFの長官にして災厄)がドラコ連合を裏切った最初にして唯一のケースとなる。

――ユリウス・ミノック司教著『MIIOの考察』(コムスター告示、資料、地球、3002年)より



ペンドラゴン作戦 OPERATION PENDRAGON

 全PDZへ警告。命令コードは以下の通りである。パパ、エコー、ノーベンバー、デルタ、ロメオ、アルファ、ゴルフ、オスカー、ノーベンバー559。この作戦に参加する忠義あるAFFS全隊員へ個人的なコメントを送る。餓えた猟犬の群のように、我らは解き放たれた。龍の喉笛に食らいつくときが来た。――ピーター・ダヴィオン大元帥
 ――ダヴィオンによるクリタ家への攻撃命令、2869年

 ダヴィオン元帥たちは、予定より数ヶ月早く攻勢計画(コードネーム、ペンドラゴン作戦)の大部分を完成させた。よって、ピーター・ダヴィオンが国王からの許可を取り付けたあとで、攻勢は実行に移された。作戦の第一段階では、クリタ国境線のあちこちに大規模な重襲撃を行って弱点を探し、惑星ロビンソンを取り戻す。

 よく練られて計画されていたにもかかわらず、ペンドラゴン作戦はスタートからつまづいたようにみえた。クリタの防衛軍(寡兵だった、軍の多くが共和国への攻撃を行っていたため)は、補給状態が良く、士気旺盛であった。エリートの第3〈光の剣〉連隊と付属の下位連隊が要塞化されたロビンソンを守っていた。そして連隊司令官ヒルシ・テンワン将軍は有能な指導者だった。

 AFFSはすぐに予期せぬ勢力からの助けを得ることになる。この戦役の初期に、ミヨギ大統領はダヴィオン前線の進捗状況を知るため、タラギ・クリタ将軍を派遣した。軍官僚組織に通じた巧妙な男であるタラギの野心は、戦闘の行方に影響を及ぼすことになる。

 2872年、第4アヴァロン装甲機兵隊はコリアで進退窮まっていた。本体から切り離された部隊が、クリタ軍の大半が集中する小大陸で孤立した。撤退する時間を稼ぐだけ陣地を確保できなかったメック連隊は、三週間逃げ回った。いまクリタのメック連隊がすぐそばまで来ていた。

 最終的に逃げ道のない谷に追いつめられた装甲機兵隊司令官は、最後の戦いのときが来たことを悟った。あたりは山に囲まれ、唯一の道からメックが迫る煙が上っているのを見た。奇妙なことにクリタの戦闘機は現れず、頭上から地獄をまき散らすことはなかった。戦闘は起こらず、迫る縦隊の煙は空に消えたように見えた。装甲機兵隊が用心深く前進すると、クリタのメック連隊の半数が立ったまま静止しており、テックたちが金属の獣の内部を半狂乱でいじっていた。

 この機会を逃さなかった装甲機兵隊はすぐに攻撃して、クリタ人を釘付けにし、ほぼ殲滅した。生き残りになぜ前進をやめたのか質問すると、軍事的な怪談を聞かされたのだった。

 明らかに、物資調達が部隊を右往左往させていた。メック用でない戦車向けの放射能遮蔽を受け取ったのだ。テックたちに選択の余地はなく、部隊のマシンに遮蔽をあわせようとした。この遮蔽は不適当だっただけでなく、荒っぽい使い方がなされたあとに崩壊し、メックの冷却システムに危険を及ぼした。メックを完全にシャットダウンさせたのである。似たような混乱がクリタの航空支援にも起き、仕事ができなくなった。ダヴィオンの士官はこの件でどうすればいいかわからなかった。というのも、クリタ人は補給物資の供給を、真の軍事的芸術に変えていたからだ。

 タラギ・クリタ将軍が補給線に破壊活動を施したことが、のちに明らかとなった。ミヨギ大統領への報告でテンワン将軍を無能に見せるためだった。タラギを心底驚かせたことに、ミヨギは彼の結論を受け入れた。それはダヴィオン前線の司令官を一人の最高司令官にすげ替えるというもので、彼はすぐに息子のジョンをその地位につけた(タラギ自身でなく)。


私的で小規模な戦争 PRIVATE LITTLE WAR

 この地獄のなかで連中がどこにいったかわかるでしょうか? わかっているのは、連中が持ち場を放棄したことと、もし連中が我が手に落ちれば喉をかききってやることです。むろん、私が生き残ったとしてですが。
 ――第45ギャラックス戦車連隊司令官ジョアン・ディディエから、ニューシルティス地域司令部への通信。ロバート・タガート公爵著『危険な手――恒星連邦と傭兵部隊』(シルティス軍事プレス、2987年出版)より

 2866年、新たな戦争に対応できないとして、デンマー・リャオがカペラ大連邦国首相の座を退いた。息子のオットー・リャオが静かに指揮を引き継いだ。カペラ軍にとって、リーダーシップの変化は遅きに失した。デンマーの下、カペラは多くの世界を、戦闘で、裏切りで失い、大連邦国は恒星連邦と自由世界同盟のあいだで不都合なまでに狭くなっていたのである。大連邦国の指導者の変化は、むろん恒星連邦を喜ばせなかった。というのも、デンマーからさらに数個の世界を獲得し続けることを望んでいたからである。

 オットー・リャオ(古参兵のメック戦士)の台頭はすぐリャオ軍を再生させた。新首相が軍を再建するであろうと見たAFFS最高司令部は、まだ敵軍が弱い間に、カペラの世界に入り奪うことを望んだ。

 だが、ペンドラゴン作戦(恒星連邦によるドラコ連合への攻勢)で、AFFS予備戦力はすでに使い果たされていた。カペラ世界に電撃的襲撃を加えるだけの前線隊はほとんどなかった。加えて、第二のリスキーな攻撃を開始するよう、マイケル国王を説得するのは不可能だったろう。ペンドラゴン作戦への説得も充分に困難であった。

 ジェローム・ハセク元帥(シルダールPDZ司令官)は作戦への承認が欠けていたことを気にせずいた。渇望するカペラの世界がすぐそこにある状況を前にして、彼は目標を達成すべく計画を立てた。それは、命令に背くのを避ける、これまでに幾度も実証されたやり方だった。彼が指揮する隊はこの仕事に向かなかったので、ハセク元帥は自分のポケットから傭兵部隊を雇うことにした。なぜそんなに多くの傭兵を雇ったかをAFFSに問われると、カペラの攻撃を畏れていると答えた。そんなことはとても起こりそうになかったが、この言い訳で当面のあいだ最高司令部の目を逃れた。

 2869年、ハセク元帥はクリントン・カットスロートを雇い、運が向いてきたと考えた。1個メック連隊であるカットスロートは、名誉を持って自由世界同盟に仕えてきた長い歴史を持つ。彼らが恒星連邦に来たのは、マーリック家の口論ばかりの政治スタイルからの変化を求めたからだった。古参兵部隊を手中に収めたハセク元帥は、いま私的で小規模な戦争を始める準備を整えた。

 カペラを攻撃するなとの命令を回避するために、ハセクは悪名高い「強行偵察」のテクニックを用いた。彼は戦力で負けていると知りつつ、偵察隊をカペラの世界に送り込んだ。救出部隊の必要性が、大規模な作戦の引き金となる。全面攻勢によって彼はカペラの世界を得られるのである。この策略は完全に違法なものであったが、元帥は命令の言葉を「保護的防衛行動」「短期間の積極行動」「小規模な戦術的確保と支配」としたため、最高司令部は止める術を持たなかったのである。

 クリントン・カットスロートはヴェルロ攻撃の急先鋒であった。この世界は資源が豊富で、カペラの工業発展の焦点であると考えられていた。この星を恒星連邦に加えるのは素晴らしいこととハセクは考え、カットスロートに加え7個の他連隊、航空大隊を送り込んだ。

 攻撃はすぐトラブルに突っ込んでいった。降下時の計算ミスでダヴィオン軍は、ヴェルロの首都から数百キロメートル離れたところにいたのだ。そしてまた、予想していたより遙かに多く、遙かにタフな防衛軍を発見した。ハセク元帥は個人的な攻勢の計画が漏れるのを畏れ、軍諜報部やMIIOに敵軍の戦力を問い合わせてなかったのである。その失敗が彼に返ってきた。

 だが、1年間の攻勢で主導権が移り、ダヴィオン軍は義務を果たしたのである。多くのカペラ兵がまだ惑星上にいたが、ダヴィオン間違いなくそう遠くない内に彼らを惑星から追い出すだろう。いまごろになってようやくAFFSはハセク元帥の真の目的に気がついたが、元帥を軍法会議に送るか、名誉勲章を与えるか、決めずに待った。

 2870年3月、ヴェルロ星系に航宙艦が現れ、小型の連絡艇を惑星に送り込んだ。その小型船がコムスターのものであると信じていたダヴィオン艦(天頂のジャンプポイントに停泊していた)は、なにもせずやりすごした。連絡艇はヴェルロのダヴィオン軍の司令部近くに着陸した。所属不明の衣をまとった男女が現れ、クリントン・カットスロートの司令官に会いたい(ダヴィオン軍の士官でなく)と頼んだ。

 次の3日間、謎の訪問者はクリントン大佐と私的な会合を持ち、そのあいだ中、ハセクは説明を求めた。クリントンはこの件に顔を突っ込むなと警告した。

 5日目に、3隻の航宙艦がヴェルロ星系に到着した。7隻の降下船を積んでおり、所属不明で、製造時の状態にあった。二週間後、降下船群が惑星に降下し、カットスロートを運んでいく明白な意志を見せた。怒り狂ったダヴィオン司令官は、カットスロートに契約を尊重するよう要求した。クリントン大佐が拒否すると、ダヴィオン軍は傭兵隊を攻撃したのだが、不公平な戦いとなった……ダヴィオン軍にはメックがなかったのだ。カットスロートはヴェルロを離れた。以後、行方を知るものはない。

 カットスロートが行ってしまうと、ヴェルロのダヴィオン軍は突如、不利になった。続いて起きた戦闘で、撤退する前にダヴィオン前線隊の3個連隊が虐殺された。

 カットスロートに関して言うと、彼らを運んだ降下船は、ケレンスキー将軍が脱出して以降、中心領域では見られなくなったものだった。この事実は、カットスロートが中心領域を監視する「偵察隊」か「放浪ケレンスキー」だったことを導きだす。カットスロートの隊員が、傭兵のウルフ竜機兵団にいたと誓った者もいた。とにかくクリントンカットスロートは、謎の消失の仲間入りをした。謎の消失とは、ミネソタトライブ、ヴァンデンブルグ・ホワイト・ウィング、メローペの戦艦消失、そしてもちろんケレンスキー将軍と星間連盟正規軍の大部分である。

 ハセク元帥にとっては、カットスロートの謎など、この事実に比しては重要でなかった……彼はマイケル・ダヴィオン国王とピーター・ダヴィオン大元帥に面会し、数個連隊を完全に失った責任を取らねばならなかったのだ。ハセク元帥の経歴はこの件を除けば完全無欠で、さらに強行偵察によって3つの重要な世界を恒星連邦にもたらしたのだが、AFFSはカットスロートの大失態と大量の死者を簡単に処理できなかった。軍法会議にかけられたハセク元帥は、三階級の降格処分とされた。追加の刑罰として、前線勤務から軍内部の事務職にまわされた。


デイビット陥落 FALL OF DAVID

 私は対話と外交の時間を与えない。それは弱虫の愚図がするものだ。戦いこそが今できるベストだ。
 ――ジェシカ・ヤールーズ著『王族としての我が人生』(オーデル・リスケ・プレス、2877年出版)より引用

 マイケル・ダヴィオン国王は2873年に死に、息子のカール(45歳)が跡を継いだ。新国王は人生を単純なものと見ていた。彼にとってダヴィオンがなすべきことはひとつで、人生とはメックの操縦であった。カールはそのように乱暴で毒舌の男だったために、一族の分派が現実的に国王との関わりを断ち、政府に参加するのを拒否した。

 このことはある日、恒星連邦にあだなすかもしれない。その間に、ペンドラゴン作戦は数年間進行しており、驚くべき成功を収めていた。ドラコ連合がダヴィオン前線で適切に補給を行えなかったことは、慢性的な欠点となり、ダヴィオン司令官をとても喜ばせたのだった。

 カペラ前線では、ハセク前元帥の「強行偵察」がまだ行われ、シーアンを目標にできる確固とした優勢を作っていた。だが、カペラに容易に勝てる日々は過ぎ去っていたのである。大連邦国は敵の侵入に素早く対応できるほどサイズを縮めていた。加えて、リャオのメック軍内でロリック教義(戦士の哲学)が復活し、恒星連邦に得たものに対する大きな犠牲を払わせたのである。

 カール国王が舵を握るとともに、恒星連邦人の多くが、戦争の新たな段階にはいることを望んだ。そのかわりにカールはお気に入りの連隊(第四親衛隊)を率いるために、すぐドラコ前線を離れた。すべての軍事技術を習得していた彼は、老いたピーター・ダヴィオン大元帥を追い出す資格を明らかに持っていた。

 不運にもカール国王の軍事的約束は果たされなかった。2876年、彼は惑星デイヴィッドに対する強襲の第一波を率いたが、これは元帥たちのアドバイスに反するものだった。デイビットは戦争の早い時期にクリタの手に落ちた世界だったために、ダヴィオン王国にとって軍事と同様、心理的に重要な意味があった。

 デイビット上のDCMS軍は、他の全前線と同じく補給の問題に見舞われていたが、士気旺盛だった。クリタのメックが、カール国王の侵攻ポイントを押さえ込み孤立化させた。絶望的な状況に直面したカールは、強力な全面強襲でのみ生き残れるかもしれないと決断した。罵りを交えた鼓舞を叫びつつ、国王は親衛隊の先頭に立って、マローダーでクリタの5つの要塞に突撃していった。

 こういう狂乱した突撃は司令官よってなされるべきものだと推測したクリタの名手チーム(2基のPPC砲塔に配属)は照準して射撃した。双方の一斉射撃がマローダーを完全に捕らえた。めちゃくちゃに叫びながら、カール国王はメックを前に突っ込ませた。そのときまでに、他の砲塔が彼のマローダーに砲火を集中させ始めていた。驚くべき事に、メックは耐え抜き、そして致命傷を負ったカール国王は目に見えない力で要塞に接近した。手傷を負った野獣のように、国王のメックはその腕を振り上げて、要塞の壁をたたき壊した。

 それからメックは崩壊し、狂ったパイロットを殺した。だが攻撃は成功したのだ。クリタの防衛隊は数ヶ月にわたって情熱的な守りを見せ続けたが、惑星デイヴィッドは、最終的に、恒星連邦軍の前に陥落したのだった。


モデルアーミーの創設 CREATION OF THE MODEL ARMY

 私は戦闘のスリルを楽しみすぎますが、馬鹿ではないので安全なままでいます。市民たちがどれほど私のことを必要とするか知っていて、それは大きな責任となっています。兄は馬鹿でした。私はそうでありません。
 ――メリッサ・ダヴィオン女王の未出版の手紙、信頼できるアドバイザーで友人のレノックスへ、2877年

 兄と同じく、メリッサ・ダヴィオンはAFFSに長期間、傑出した功績を持って仕えてきた。第2アヴァロン装甲機兵隊を率い、カペラとドラコの両前線で何度か重要な勝利を得た。しかしながら、2876年にデイヴィッドで兄が死んだとのニュースを聞いたとき、彼女はすぐ部隊司令官の座を辞したのだった。恒星連邦の新女王として、47歳のメリッサはAFFSにいくつかの重要な改革を行うと決めた。

 バトルメックはこの2世紀のあいだ戦場を支配していたのだが、生産工場の損失と、修理におけるメック維持の難しさによって、歩兵、戦車、ホバークラフト、間接砲といった古代の兵器が再び重要な役割を持つようになっていたのだ。戦争は進化し、そしてメリッサは新手法の必要性を理解していた。

 メリッサ女王が最初に行った最も重要な改革のひとつは、様々な部署からの連隊をまとめ、連隊戦闘団にすることだった。今まで、ダヴィオン軍に完全な規模のRCTsは例外的であった。というのも、様々な任務を実行するために連隊は分割されていたからだ。1個RCTは単一の任務のために創設され、任務が終わったら解散された。このシステムは充分に効果的だったのだが、各部署の協力関係を産み出すことはなかった。メリッサ女王の下で、RCTsは恒久的なものとなったがために、各連隊間の多大な協力が進んだ。メリッサによる他の改革は、頭でっかちになりつつある軍事官僚に関するものだった。AFFS行政部門(特に調達・軍需産業連絡部門)の合理化によって、前線に補給が届きやすいようにした。また軍需産業(過度に負担を求められていた)とAFFSのあいだで時に高まった緊張をうち消す助けとしたのである。

 改革が伝統に反するものと感じていた者たちがいることによく気づいていたメリッサ女王は、ゆっくりと、だが確実に動いた。たとえば、ある問題について相談するため元帥たちや貴族を呼びつけ、賛否を説得力と客観性をもって示した。彼らの助言はしばしばメリッサの意図に反映され、また相互解決したことが法になるのをみな喜んだのである。

 2890年までに、メリッサ女王は「モデル・アーミー」を作り上げた。新連隊戦闘団がクリタ・カペラの両戦線に展開されていた。新部隊を使った小競り合いに関する初期の報告は有望であった。官僚部門も補給物資を迅速かつ効率的に動かしていた一方、軍需産業の生産量が増加していた。メリッサ女王は、モデルアーミーをテストするときが来たと感じた。


ロビンソン攻防戦 BATTLE FOR ROBINSON

 等しい戦力の軍隊がぶつかったとき、勝利を得るのは、兵士たちが真に互いを思いやり、従って、戦友のために喜んで生命を投げ出す側になるだろう。
 ――メリッサ・ダヴィオン女王によるジェラルド・レノックス元帥への言葉、2892年

 クリタ家が惑星ロビンソンを獲得し、長いあいだ手中に収めていることは、恒星連邦の人々に取って常に頭痛の種であった。ここ何年か、AFFSはこの世界(ドラコ境界域の伝統的な首都)を取り戻そうと何度か試みたが、クリタの恐ろしい防衛部隊を撃破できた司令官はいなかった。

 しかしながら、この数ヶ月間、ロビンソンのクリタ軍(エリートの第3〈光の剣〉)が補給の問題をかかえているとの情報を、MIIO(恒星連邦情報部)が集めたのだった。確かにクリタ人はレジスタンスとの戦いで人員や物資を浪費するのを望まないように見えた。そうしてロビンソンでの抵抗運動は何度かの勝利を収めていた。他には、クリタによる襲撃の減少が、厳しい補給状況の証拠とされた。

 敵が弱っているのを察したメリッサ女王は、ロビンソン奪回のため、第2アヴァロンRCTを投入すると決めた。作戦の司令官はヨセフ・ダヴィオン准元帥だった。

 ヨセフ・ダヴィオンII世は、マイケル国王の晩年の息子であった。父が死んだとき少年はまだ9歳であり、メリッサ・ダヴィオンは彼を我が子のように育てた。彼は幼いころに戦いを好き(父が戦いを憎んでいたように見えたのと同じくらい)になることを学んだ。

 このような若者に軍事上の問題が託されると、AFFS内の成熟した隊員たちは頭を抱えた。戦闘と同じく戦術や戦略に心とらわれていたヨセフは、戦場で突然の機会が舞い込めば、注意深く練られた作戦を喜んで放り出して、大胆な新しい冒険に突進するだろう。にもかかわらず、ヨセフはすい星のように昇進していった。27歳で第2アヴァロンRCTの司令官の座をつかみ、AFFS史上最も若い元帥となったのだった。

 しかしながらメリッサ女王は異母弟に確信を抱いており、ロビンソンへの大胆な侵攻の計画に必要なすべてを支援したのである。それがRCTに力を与えた。

 敵や険しい地形を避けて惑星の安全な地域に降下するかわりに、彼は敵のど真ん中に着地することを決めた。奇襲の優位性によって、連隊の能力が活かされると彼は確信していた。「不毛な平原で間抜けなダンスを踊るつもりはない。そんなところで勝利は決まらないのだ! 素早く戦い、血を流し、勝敗を決する」と元帥は部下に伝えた。彼は望みを達成した。

 攻撃は第3〈光の剣〉を驚かせた。彼らはAFFSの降下船が来るのを見たが、それは予想されていたような通常の降下地点を選ばなかったのだ。彼らは後退したが、潰走にはならなかった。第3〈光の剣〉は、結局、エリートメック連隊だったのである。逆襲にかかった第3連隊は、RCTの前進をすぐに食い止めた。向かい合った二つの軍は、ロビンソン首都のビル街で決着をつけた。

 ひどい戦いが一ヶ月続いた。小部隊での戦いにおいて、クリタ軍はダヴィオン軍に匹敵した。しかしながら、大規模な戦い(メックと他部隊の協調が重要となる)では、第2アヴァロンRCTが優れていた。クリタ人は補給にもまた悩まされた。弾薬が足りなくなっていたのである。補給を得る見込みが無いなかで、〈光の剣〉司令官は、他に選択肢がなく、ロビンソンから引き上げることを決めた。それは惑星を失うことになるが、連合で最も権威ある部隊を破壊されたら、大統領もクリタの司令官も損失に耐えられないとわかっていた。

 第3〈光の剣〉がロビンソンからいなくなると、残ったクリタ連隊は第2アヴァロンRCTに立ち向かえなかった。その後すぐ惑星ロビンソンはついに解放された。ヨセフ・ダヴィオン元帥は英雄であり、メリッサ女王は軍事改革が完成したのを見たのだった。





コーサVII XHOSA VII

 引っかかれただけだ
 ――ヨセフ国王の言葉、クリタのスレイヤーにメックを撃ち倒されたあとで

 ドラコ連合は、第一次継承権戦争以来、コーサVIIの豊かな世界を占領しており、前線の半分に沿ってDCMSの補給・援軍センターになっていた。惑星は重防衛されていたので、サカモト将軍(クリタ司令官)はこの世界で近いうちに戦闘を見込めそうになかった。連合の他の軍指導者たちと同じように、彼はMIIOによる情報かく乱作戦に引っかかっていた。MIIOは、恒星連邦が過去3年間、カペラ大連邦国への大規模な攻勢に関わっていると見せかけていたのだ。AFFSの通信回線がカペラでの作戦行動に関する偽の報告で満たされる一方、ヨセフ国王は密かにコーサVIIの周囲に軍を集めていた。

 2930年、彼は攻撃を行った。コーサは連合の輸送ハブであったがために、ダヴィオンの航宙艦と降下船は偽のIDコードを用い、行き来する他の多くの船とともに、気づかれず星系に潜り込めたのである。クリタ人がダヴィオンの降下船だと気づく前に、惑星の半分にまで来ていた。

 ヨセフ国王は最初の強襲中に負傷した。航空優勢をかけた熾烈な戦闘が行われたあとで、ヨセフ国王は部下の戦闘機が勝ったと信じ、安全に着陸できると考えた。だが、彼が降下船を離れると、クリタの気圏戦闘機のペアがダヴィオンの防衛網をすり抜け、国王と護衛を爆撃したのである。一発の爆弾が国王のバトルマスターを直撃し、軽傷を負わせた。

 ダヴィオン国王が戦闘から外れるなかで、サカモト将軍はDCMSが援軍を送るまでに持ちこたえられるかもしれないと望んだ。新指導者(ウォーレス・ミッカートリック将軍)がそうはさせなかった。彼はダヴィオンにまん延する暗いムードを一掃する技量とカリスマを持っていた。サカモト将軍が押されているのに気づくまでそう長くはかからなかった。

 クリタ守備隊が最終的に敗北を喫したのは、ミッカートリックがサカモトを殺したときのことである。コーサ首都の外縁部にて、メックによる決闘が行われたのだった。連合は有能な指導者を失う損害を被った。コーサVIIは2931年に陥落した。





マーリック家ソースブック House Marik Source Book



契約は契約 A CONTRACT IS A CONTRACT

 傭兵は裏切りがちな存在と考えられているが、雇う側の政治家が、いつでも名誉ある行動を取るとは限らない。雇用主が、傭兵を不注意に扱うか、不名誉に扱ったために、契約無効になったケースが数多くある。

 このような悲劇(もし喜劇でないなら)のひとつが、バン・ディーメン・デーモンズとシュレック・レックスに起きた例だ(クリタ家に仕えていた優秀なシュレック・レックスと同じ部隊。2941年、指揮官が非番中にバーの喧嘩でオトモ隊員に殺され、クリタから離れた)。両傭兵隊は2976年時点でマーリック家に雇われていたが、サディアス・マーリックが日常的に傭兵契約を破っていたため、他の雇用主を探す必要があると考えていた。マーリックが惑星フォード(両隊が数週間戦っていた)に新鮮な水を輸送するのを拒否したとき、ブリガム・スタンレー大佐(デーモンズ指揮官)は、シモン・チウ大佐(レックス指揮官)との会合を持った。

 どちらがどれだけ酒を飲んでいたかは不明だが、それぞれが敵対する王家と契約して、戦うことにはなりたくないことで合意した。他人のため戦うのにうんざりしていた彼らは、自分たちの世界を勝ち取れるだけの火力があると判断した。夜が明ける前に、辺境世界のひとつに侵攻すると決めたのだった(どこかは不明である)。

 チウとスタンレーは、明朝、マーリック政府に辞表を送ると決議した。その一方で兵士たちに計画を発表した……その計画には、メックによる決闘をただちに行い、新部隊の指揮権を決めることも含まれていたのだった。酔っぱらった状態でのメック決闘で、無意味な危険を冒すことに反対する者もいたが、全員が外に出て見守った。

 夜が明ける数時間前に、スタンレーのクルセイダーが、チウのアーチャーと正対した……。彼らは広大な小麦畑のなかで戦った。周囲の民間人は、遠くで拳を振る農夫だけだった。彼と家族は徒歩でその一帯から逃げだしていた。ゆっくりと2機のメックは歩調を揃えて、互いに近づいていった。その様は、古のビデオに出てくるカウボーイのようだった。

 スタンレーが先に「抜いた」。マシンガンの弾幕を浴びせ(メックの装甲に弾かれただけだった)、アーチャーの右腰にミサイルを見舞うために動いた。

 優れたメック戦士であるチウは交わした。ミサイルで応戦し、スタンレーのクルセイダーの左腕を破壊した。にもかかわらず、クルセイダーはアーチャーの右脚を破壊したのだった。

 最初は不安で固唾をのんで見守っていた観客たちは、今では大騒ぎで自分たちの指揮官を応援していた。アセチレンの炎が飛び散るなかで、観客は我が目を疑った。接近戦を行っていたチウが、スタンレーの背後を取り、クルセイダーの右膝関節の裏にジュードー・キックを浴びせたのである。

 スタンレーのメックは倒れたが、スタンレーには断固とした素質があった。クルセイダーの膝を上げ、半ダースのロケットでアーチャーの胴を吹き飛ばした。この砲撃はアーチャーの背後を叩き、胴の装甲を粉砕し、現実的にメックを丸裸にした。

 スタンレーが最後の一撃を見舞おうと脚を振り上げたとき、チウは向かってくるメックの脚を見た。アーチャーはクルセイダーの右腰関節を破壊した。そしてメックが崩壊する中で、スタンレーはミサイルの弾幕を放った。ミサイルはチウの部下たちの真ん中に落ち、そのほとんどを殺し、残りは負傷させた。バン・ディーメン・デーモンズは消滅したのだ。

 スタンレーは死んだ。チウのメックは簡単に修理でき、本人も負傷していなかったのだが、部隊を残して去り、シュレック・レックスは指揮官を失ってしまった。エゴン・バルケウィッツェ少佐(侵攻するという馬鹿げた思いつきに反対していた)が新リーダーに選ばれ、すぐカペラ大連邦国に雇用された。チウは降格した少佐として、マッカロン装甲機兵団に入隊したのだった。

――キャロル・ボドナシアン著『世界の一部、傭兵部隊と継承国家』(マーリック軍事プレス、3018年出版)より






シュタイナー家ソースブック House Steiner Source Book


ボルソン造船所 THE BOLSON SHIPYARDS

 ボルソン造船所はキョウト星系の巨大な月の軌道上にある大規模な艦船製造施設だった。箱のような組立ベイが、LCAF(ライラ正規軍)用の航宙艦と戦闘機を、それに民間用のレジャー船を製作していた。

 戦争が差し迫ったとき、シュタイナー最高司令部は、ボルソン造船所防衛のために5個コルベット分隊と第53気圏迎撃隊を送り込んだ。隊は5つの集団に分かれた。造船所の上空を守るために1部隊、側面を守るために4部隊であった。その組み合わさった火力はおそるべきものだったが、司令官のストス・ティルベルト提督はさらなる戦力を求めた。

 2月14日、マーリック家の大艦隊が、天頂ジャンプポイントに現れた。1隻の戦闘巡洋艦、2隻の巡洋艦、3個駆逐艦分隊が、ジャンプドライブ装置を切り離し、高速でボルソン造船所に接近した。3日後、交戦が始まった。

 LCSアウグストス(マコ級コルベット)が最初に損傷した。まずマーリックの戦闘機に攻撃され、それから駆逐艦リッパーとトメインに横から攻撃されたのだった。

 FWLSラサラスは星間連盟が余剰放出した戦闘巡洋艦で、自由世界同盟が5年前に購入していた。戦闘に入ってから6分後、FWLSラサラスは残っていた共和国のコルベットを振り払い、造船所に向かった。すぐにトンプソン大佐(愛機の「トレイシー」に乗っていた)率いるチペワ級気圏戦闘機1個大隊と交戦する。1分以内に、部下の12機は5機にまで減らされた。失った戦闘機の1機は、妻が乗る"ヘップバーン"だと大佐は考えた。

 次に大佐が取った行動は妻の死に突き動かされたものであったろう。残った戦闘機に、護衛のマーリック戦闘機の気を逸らすよう命令し、彼は戦闘巡洋艦ラサラスに猛進した。どうにかして巨大な戦艦のレーザーとミサイル群を交わしたトンプソンは、正確に狙いをつけ、巨船の下腹部を叩いた。そこは船のドライブ・機動エンジン用の燃料区画だった。戦艦は操縦不能となった。いかなる機動のコントロールもできなくなり、墜落する前に艦を放棄せざるを得なくなった。不幸なことに、船はボルソン造船所の施設にまともに突っ込んでいった。大規模な爆発で造船所は完全に破壊されたのだった。

 レベッカ・トンプソン中佐(共和国の気圏戦闘機"ヘップバーン"のパイロット)は怪我から回復し、戦闘機パイロットとしての輝かしいキャリアを歩んだ。彼女の戦闘機は、夫と自殺的な任務の思い出として、黒い塗装がなされたままである。

 ――レファラ・テルス著『命令を打ち上げよ 〜 第一次戦における共和国の気圏軍』(ドネガル軍事出版社、2890年出版)より





アレクサンドリア戦役 CAMPAIGN FOR ALEXANDRIA

 惑星アレクサンドリアは、第三次継承権戦争におけるシュタイナー領域での最も大きな戦いの焦点となった。しかしながら不吉なことに、当初、戦いは単なるクリタ家の襲撃として始まったのだった。

 2935年、クリタはマクギー・カットスロートを掠奪のために送り込み、アレクサンドリアの補給庫をあるていど破壊した。彼らが遭遇したのは、アークトゥルス防衛軍と有能な惑星守備隊(共和国で数少ない軌道上戦闘機基地が含まれていた)の2個大隊だった。このうち後者はカットスロートの注意から抜け落ちていたように見えた。カットスロートが降下したあと、クリタの船は惑星軌道上の待機地点に向かった。その最中、シュタイナー軌道上基地から航空大隊が来襲した。ライラの戦闘機群は、クリタの降下船1隻を破壊し、他の降下船も航宙艦に撤退させた。

 降伏の危機に直面したマクギー大佐は助けを呼んだ。数日以内に2隻目の航宙艦が、2個追加メック・航空機大隊を積んで現れた。今度はアークトゥルス防衛軍の司令官が助けを呼ぶ番だった。

 単なる小競り合いはすぐ戦役へと変わり始めた。アレクサンドリアの戦いは2年も続き、2955年に終焉するまで合計7個の異なるメック連隊が参加したのである。

 ――セロス・アウバーン著『エンサイクロペディア・レス・パブリカ』(共和国歴史通信、3022年出版)より





ローリック攻防戦 THE BATTLE FOR LORIC

 ローリック? ローリックとはどこか?
 ――ジオヴァンニ国家主席、シュタイナー家での言葉、共和国通信、ケビン・シュテンマン、2978年

 ローリックは共和国の自由世界同盟国境の真ん中に位置する、豊かな世界であった。三度の大きな戦争を通して、各種の襲撃や侵攻が試みられ、惑星の美しさが損なわれた。それでも美しい海岸線、険しい山脈、深く暗い森が残り、平和な時期か、比較的穏やかな時期に、金持ちたちが好んで遊ぶ世界となっている。

 2971年、戦車・歩兵の12個連隊に支援された、第5レグルス軽機連隊が、ローリックの東の大陸に降下した。防衛隊はディッガーズ山道でマーリック家を食い止め、全大陸を奪われないことを望んだ。強烈な嵐に助けられて、軽機連隊は防衛隊の集団をなんとか圧倒した。この大陸の防衛隊をノックアウトしたあとで、軽機連隊は北の大陸に移動し、奪取に成功した。いま彼らはローリックの半分を所有していた。

 ローリックを失うといくつかの世界を効果的に分断されてしまうことに、シュタイナー最高司令部は気がついた。ポルスボ、デネボラIV、テウクロス、ボブルイスクが侵攻の危機に瀕していた。ローリックの再攻略が、国家主席の最優先事項となった。近ごろ補給が不足しており、ローリック周辺のメック連隊は力を弱めていた。さしあたって、部下の将軍たちは、ローリックの戦いを助けるのに、クリタと戦ってる兵を引き抜くのを望まなかった。こういった障害に面した国家主席は、ローリックを勝ち取るためにメック傭兵隊と契約することに決めた。

 第12スターガード第2連隊(オーヘルヘビー)と、エリダニ軽機隊から第11、第17偵察大隊が、10個通常連隊を率いてローリック奪還を目指した。この重要な任務に傭兵部隊を選んだという事実は、最高司令部が彼らの技術を信頼しているということだった。

 計画はシンプルだがリスクの高いものであった。(エリダニ軽機隊の)2個偵察大隊が、マーリック軍に嫌がらせ攻撃をするために、敵が支配しているど真ん中に危険な降下をした。オーヘルヘビー隊は、重要なディッガーズ山道を強襲した。共和国はこの2部隊でマーリック軍に勝つことを望んでいた。

 結果はシュタイナー家の勝利であった。しかし4ヶ月を超えるゲリラ戦で、2個偵察大隊は消耗しきっていた。山脈の支配権をはぎとられたマーリック軍は、撤退することになった。数ヶ月の追撃戦ののち、ついに彼らはローリックから撤退した。





ヘスペラス再来 HESPERUS REVISITED

 どういうわけか、そういう魅力的な目標は、当軍にとって有利になりがちである。誰かが強奪しようと手を伸ばすときはいつでも、我らは必死になってその腕を切り落とせるのである。

――アレッサンドロ・シュタイナー著『急進的な戦略:今日の戦場における減少したバトルメック隊の利用法』(共和国歴史プレス、3005年出版)より

 2997年までに、再び、疲弊が共和国中に広がった。第三次継承権戦争は、信じられないことに131年も続いていた。クリタ家に攻勢をかけ続けようとする共和国の努力は、とくに王国中から資源とスタミナを奪い去った。フリーダム作戦(84年前に始まった)は成功を収めた。バクスター、ラ・ブロン、リヨン、スカンディアなどの世界をもぎとったのだが、長い戦役で資源を浪費していた。

 兵士たちが疲弊しているのを見て取ったシュタイナー最高司令部は、クリタへの攻勢を緩め、彼らにちょっとした休息を与えることにした。それを国家主席に進言すると、彼はきっぱりと拒絶した。LCAFは自分の在職期間中ずっと前進し続けるだろうと言い放った。アレッサンドロはそれから、野心的なカリダーサ侵攻の計画を彼らに披露した(マーリックの世界カリダーサにはいくらか重要なメック製造施設がある)。この作戦によって、5個メック連隊(ヘスペラスのメック工場を守るために予備となっていることが多い)のうち3個が必要になるのだが、国家主席は気にとめなかった。

 その年の前半、第十次ヘスペラスII戦が始まった。マーリック家は惑星上の孤立した補給廠を攻撃した。この攻撃は、カトリーナ・シュタイナー大佐(国家主席の姪)率いる第15ライラ防衛軍によって妨げられた。第15隊は、工場近くで降下船に乗り込み、準軌道弾道飛行を開始した。そしてシュタイナー大佐は非常に危険な敵軍への低空降下を敢行した。この難しい機動は成功し、第15ライラ防衛軍はより小規模なマーリック軍を容易に敗走せしめたのである。

 アレッサンドロ・シュタイナー国家主席はこの勝利から、今後すぐにヘスペラスIIが再度攻撃されることはないと分析した。従って、安心してヘスペラスの3個連隊をカリダーサ攻撃に加えたのである。その上、防衛隊の不在をカバーするために、エリートのエリダニ軽機隊第21打撃連隊と他2個大隊を送り込んだ。

 楽観と分別が混ざり合っているように見えたが、これはうまくいかなかった。国家主席のカリダーサ攻勢が行き詰まる一方で、マーリックの偵察小隊がヘスペラスIIに降下した。無能な共和国の大佐に従うよう強制されたエリダニ軽機隊は、これら偵察隊のメックを惑星中で追いかけなければならなかった。そのときマーリックの偵察員はヘスペラスの防備が手薄だという良いニュースを送り返した。マーリックはこの機につけ込むと決めた。

 数週間以内に、マーリック家は惑星上に4個連隊を降下させた。共和国にとっては幸運だったことに、第21打撃連隊の司令官は、特別な意志を持って、共和国上級士官の命令を無視した。前進するマーリック軍の懐に飛び込むかわりに、軽機隊は山岳部に展開することを選んだ。古典的な地形利用と武装併用によって、エリダニ部隊は、メック工場につながる狭い谷でマーリック攻撃軍を粉砕した。

 この攻撃はシュタイナー最高指令部にショックを与えた。全バトルメック工場を失う直前だったことに気がついたのである。カリダーサへの攻撃が共和国を危機にさらしたかについて、彼らがどう国家主席を追求したとしても、馬耳東風であった。

 ヘスペラスが陥落の間際にあったのを聞き及んだカトリーナ・シュタイナー(カリダーサで行き詰まっていた)は青ざめた。彼女にとってカリダーサへの攻勢が失敗なのは明白だった。……もし今すぐとりやめねば、災厄に見舞われる。1年半後、なんらの変化もなく、シュタイナー軍はカリダーサで泥沼につかっていた。戦いが数年間行われたあとでも、共和国の兵士はいまだマーリックのメック製造施設を見ていなかった。士気は低下していった。……国家主席はロバ並みの頭しか持っておらず、現実を直視して、撤退を命令できない……そう考える兵士の数は増えていった。

 新たな千年紀の最初の年に、クリタ家は、3個メック連隊と支援隊でもってヘスペラスIIを攻撃し、共和国防衛隊をすばやい機動で翻弄した。このあいだ、エリダニ軽機隊の第1支援中隊を宇宙港確保に残していたため、シュタイナー家連隊は戦いに間に合い、工場防衛の一端を担えたのである。攻撃隊は惑星から追い出されたが、政治的な反響は多かった。

 エリダニ軽機隊の司令官はもはや無能揃いのシュタイナー士官にたえられなかった。彼らによって多くの人命と装備が失われたのである。このエリート部隊は、3000年の後半に契約延長の時期が来たとき、ライラ共和国との再交渉を行わないことに決めた。さっさと荷物をまとめ、恒星連邦に行くというのが、おおかたの哀しい見方であった。





クリタ家ソースブック House Kurita Source Book

チェインギャング作戦 CHAIN GANG MISSIONS

 ドラコ連合がいかに多くのメック(ただし状態の悪いものが多数)を喜んで手放したかで、チェインギャング作戦の重要度がわかる(チェインギャングとは鎖につながれた囚人のこと)。ジンジローは、この作戦によって隣国の再建を深刻に遅らせ、損害を与えることを意図していた。部隊の大部分が罪人、無能力者、はみ出し者の士官の3個連隊で、これらの男女は基本のメックトレーニング(数個小隊の編隊と機動の演習)を受けただけだった。その多くは規律を持っていなかったので、作戦が行われる前に、パイロットたちはバトルメックに縛り付けられ、大量の戦闘高揚剤(クリタが好む刺激物質)を投与された。

 チェインギャング作戦に参加した隊員の多くは、自由、市民権、金といった報酬を欲していたのにもかかわらず、シュタイナー、ダヴィオンのメックを見た瞬間に降伏した。一方で、不十分なメックに乗った、不十分な訓練を受けた社会不適合者の多くが、使命を達成し、産業を荒廃させたのだった。

 ダヴィオン、シュタイナーの両境界線で、敵軍は再建の努力を停止した……重要な目標地点の防衛を新しく案出するためだった。その過程で、ライラ共和国は四ヶ月を失い、恒星連邦は二ヶ月を失った。クリタは多くのバトルメックパーツを失ったにもかかわらず、これを勝利と考えた。

 上層部はチェインギャング作戦の参加者に多額の報酬を約束していたのだが、クリタ人は生存者たちを救出する意志をほとんど見せなかった。クリタの降下船と航宙艦は、隊を運んだあと、すぐに星系を立ち去ったのだった。


ミネソタトライブとチャハルプロフィット THE MINNESOTA TRIBE AND THE CHAHAR PROFIT

 2825年の後半、ミネソタトライブが初めてドラコ連合に姿を現した……スヴェルヴィークを襲撃したのだ。この正体不明のメック部隊(1個連隊近い戦力)は、惑星の貧弱な守備隊を叩くなかで、驚くべき腕前を見せつけた。いかなる通信をも拒絶し、必要なものを単に持ち去っていった。そしてさらなる血を流すことなくスヴェルヴィークを後にした。この謎の部隊に関する報告で、ジンジローの好奇心をそそったのは、申し分なく整備されたメックが(SLDF)正規軍のカラーに塗装されていたことだった。連隊記章が、ミネソタ(地球北アメリカ地方の領域)を縁取ったものであることに、最初に気づいたのはザブだった。ジンジローが報告書からさらに読み取ったのは、連隊が輸送船、商船、客船の航宙艦隊を護衛していたことだ。エリート隊の護衛を受けたこの艦隊は、見たところ確固たる目的地を持っており、着実に無人の星系を進んでいった。

 この謎の集団(今ではミネソタトライブとして知られている)は、次にトロントハイムを攻撃した。そこは管区首都惑星だったので、第20ラサルハグ正規隊が駐留していた。続いて起きた戦闘で、謎のメック隊は、厳密な(SLDF)正規軍の編隊と戦術を用い、クリタのメックをあしらったのだった。再び、謎の集団はあらゆる通信を拒絶し、破壊されたメックのパイロットは捕虜となるのをさけるため自害したのだった。謎の艦隊はそして星系外にジャンプした。トロントハイム近くの無人星系に向かったと思われた。

 このときまでに、クリタ人はミネソタトライブが(SLDF)正規軍の部隊であると信じていた……正規軍の戦闘序列に彼らはリストアップされていなかったのだが。ミネソタトライブが先行偵察隊である可能性は、怒れるケレンスキー将軍(もしくは後継者)の帰還を思い返させた。ジンジローは明らかに神経質になった。恐怖に駆られた彼は、ラサルハグ軍管区、ペシュト軍管区に最大級の警報を出した。また辺境の国境線にこれらの管区の軍を動かした。そのあいだに、ミネソタトライブは、ジャレットを攻撃し、移動する前に必要なものを持っていった。このときトライブは侵攻を食い止める試みの裏をかいた。気圏戦闘機の大規模な集団が、クリタメック2個大隊を迎撃し、つなぎ止めたのだった。

 クリタ家の注意がミネソタトライブに向いていた一方で、ライラ共和国軍は完全にクリタ軍の不意を打ち、電撃的襲撃を仕掛けた。連合がチャハルプロフィットと名付けられた共和国の貨物船を拿捕した件で、襲撃がうながされたのである。飢えた民衆のため、シュタイナーの世界チャンドラーに向かっていたこの穀物輸送船は、ミスジャンプでダリウスに現れ、クリタ戦闘機に包囲された。輸送船と乗組員を取り戻すため、ライラ共和国のマルクス国家主席は、高名なステルスメック連隊の残った隊員を差し向けた。クリタ家の注意が辺境に分散するなか、ステルスの救出作戦は魔法のように働き、DCMSを当惑させたのだった。

 ミネソタトライブは最後に、クリタ居住惑星を攻撃した。シュタイナー軍がチャハルプロフィット救出に成功してから約一週間後、ミネソタトライブ連隊が復讐心とともにクリタの世界リッチモンドを叩いた。トライブは惑星上に大規模な刑務所と奴隷収容キャンプがあるのを知るべくもなかったはずなのに、彼らのメックはそこにまっすぐ向かったのだった。軽く護衛隊を圧倒し、すぐ数千の囚人を解放した。それから数隻の降下船が、監獄施設群のまんなかに着陸し、クリタのメックがやってくる前に、囚人を乗せ、惑星を離れた。しばらくそのことに気づいた者はいなかったのであるが、リッチモンドで囚人、奴隷を解放したあと、ミネソタトライブは二度と中心領域に姿を見せなかったのだ。

 ミネソタトライブ、チャハルプロフィット救出撃退失敗の双方が、市民の思想を支配するクリタ人の能力に重い打撃を与えた。政府はミネソタトライブの記事を抑えるのにベストを尽くしたのだが、話は特に下級階層にまで広がっていった。復讐の天使のように、トライブは政治犯と下級階層の人々を自由にしたのだ。彼らが正規軍であるのを誰もが信じたという事実は、神が正義の人々、貧しい人々を助けたという神秘的な雰囲気を付け加えただけだった。これらの話は、すぐ共和国によるチャハルプロフィット救出と結びついた。ドラコ連合が中心領域を支配するという教理は、遅発型ウイルスのように内部から浸食のサインを見せ始めたのだった。




惑星跳びと日射病 PLANET-HOPPING AND SUNSTROKE

 丸一年かけて将軍たちと計画を話しあったのち、ヨグチは惑星跳び戦術(第一次戦で有効と証明されていたもの)の新しいバージョンを考案した。ヨグチバージョンでは、敵領域深くへの侵攻を行わないが、よりゆっくりと、より規則正しく、連合に近い敵惑星を奪っていくのだった。この安定した戦力の行使における唯一の例外は、主目的から目をそらすために行われる一連の深襲撃になるだろう。ヨグチと部下の将軍たちは、トウモロコシから芯を抜くがごとく、ドラコ連合がすぐに敵から世界を刈り取るだろうと考え笑った。

 攻撃は2840年、ライラの世界(国境すぐのカレドニア、ランブレヒト、ハーベスト)に対して始まった。1ヶ月後、LCAFがちょうど即応軍を招集したとき、龍の軍隊はソーリン(地球の近くで国境の反対側)に重襲撃を加えた。ソーリン襲撃は、襲撃した側のクリタに牙をむいた。より多く、より重いシュタイナーのメックが、クリタのメックのスピードを殺し、なすがままにしたのである。襲撃はその目的を果たした。共和国の将軍は、辺境側の国境に援軍を送るのをためらい、行動が遅れてしまったのである。

 ダヴィオン前線では、それほどうまくいかなかった。連合はタンクレディ、アンギラ、スタージスを奪い取ろうと試みたが、防衛隊(シュタイナー軍よりも柔軟で反応がよかった)にぶつかった。これら3惑星への援軍を妨げるために、クリタはロビンソンに重襲撃を行い、手強い抵抗に遭遇した。襲撃者は思ったよりも早く撤退させられたのだった。

 ダヴィオン前線での状況はますます悪化していった。ダヴィオン家は援護のため、押し寄せる援軍を利用して、予備戦力を前線に移動させた。2841年の後半、恒星連邦軍は大攻勢を始めた。

 最初、ダヴィオンの攻撃は国境線で行われたが、ふたつの宙域への集中が、突如、クリタの将軍を窮地に陥れた。そのうちのひとつは、ケンタレス宙域で、世界を取り戻そうと意図されたものだ。もうひとつは、迂回し、それから包囲しようというものである。その目標は、辺境付近でダヴィオンの世界を奪おうしているクリタの軍勢だった。

 ダヴィオンは成功をつかんだものの、クリタ軍の兵士たちは第一次戦よりもはるかに整然と退却していったので、クリタの将軍は安心した。こうして、DCMSは撤退でき、よく練られた逆襲を開始できたのだった。


ロウェナ・クリタ ROWEENA KURITA

陽の下で
小蜘蛛を恐れよ
死を運ぶ

 ――ロウェナ・クリタの所持品から見つかった詩

 ロウェナ・クリタはヨグチの妹である。知的で活動的な彼女は、ISFを軍の下に置いたらどうなるかはっきりとわかっていた。野望を抱いていたロウェナは、プライドを傷つけられたメツケたちを利用し、彼らの機嫌を取りはじめた。

 2841年、兄から人民再建委員会(PRE)の調整官に任命されると、彼女はその権力を使って、ISFを援助した。はじめはほとんど見返りを求めなかった。しかしながら、2842年以降、彼女はISFの助けを求め始めた。ISFの指導者はこれに応じた。なぜならロウェナは権力よりも財産の蓄積に目を向けていたからだ。彼女はぜいたくが好きで、また珍しい美術品のコレクションに執着していた。

 代わりに、ロウェナはPREの広大なネットワーク(第二の官僚的な通信システムになっていた)にアクセスする権限を与えた。ISFがPREの活動に関する詳しい情報をもっていたことに、PREの人々が気づくと、ドラコ連合の改革は以前よりも効果的に動き始めたのだった。


神への捧げもの DIVINE SACRIFICE

 ひとつの人生を終わらせる最良の方法は、敵の銃剣を喉に押し上げることである。背後に控える我が戦友は、私の死に復讐する準備ができているだろう。そして私の目前には楽園が広がっている。私は天国のマナをごちそうになり、「最も偉大な彼」の御前に座るだろう。
 ――ヨグチ・クリタ大統領によるアザミ戦士団への演説、2843年

 2849年の前半、ダヴィオンはどうにかしてクリタの世界4つを獲得した。予想していたよりも激しい抵抗にあったのだが、ダヴィオン最高司令部は計画が素早く進行するだろうと確信していた。

 一方、ヨグチ大統領は我を忘れて怒っていた。恒星連邦の大胆な戦闘によって、攻勢が妨害されたのを見るのは、当惑を超えるものがあった。それは彼の一族に対する侮辱だったのである。息子のフガイがエリートライラバトルメック連隊を殲滅するなど、共和国前線で勝利を得ていなかったら、ヨグチは自殺を真剣に考えていたかもしれない。代わりに、ヨグチはダヴィオン家の次の目標がティショミンゴであるという報告を読んだとき、自身で惑星防衛を指揮しようと決めた。

 ティショミンゴは第一次戦争での破壊を免れた世界のひとつであった。なぜなら重工業が発達していなかったからだ。惑星の価値は農業にあった。その温暖な気候、豊富な水、良質な土壌は大規模な農業生産に理想的だった。第一次戦争で多くの水質浄化プラントが破壊され、その残りを今戦争で破壊しているところだったために、ティショミンゴとその豊富な真水は、急きょ価値ある目標となっていたのである。

 また第一次戦争の影響で便利な農業機械が不足するなかで、ティショミンゴは農業世界にふさわしいような比較的高い水準まで人口が増加していた。いくつかの大規模な一族がクリタの支援者であり、多数のISF工作員が忠誠心を維持していた。結果、市民軍部隊(相当数がDCMSの古参兵であった)は、武装が充分でないにせよ、よく組織されていた。ここに3個装甲連隊と、さらに3個歩兵連隊が加えられた。

 ティショミンゴに降り立ったヨグチ・クリタは、第4〈光の剣〉と3個通常連隊を連れていた。将軍たちは連隊の数が充分でないと考えていたにもかかわらず、ヨグチは自信満々であった。彼は気づかなかったのである……ダヴィオン一帯において、食料と水が不足しつつあり、ティショミンゴが恒星連邦の主要な攻撃目標になっていたことに。この大規模な攻撃を達成するために、ダヴィオンは喜んで合計20個連隊(そのうち4個がメック連隊)を用意した。

 典型的手法で攻勢は始まった。やってきた降下船は惑星の航空防衛隊と戦った。その後、ダヴィオンのメックが惑星に降下した。戦役は3ヶ月続いたのであるが、結果は最初の瞬間に運命づけられていたかもしれない。世界上に降下してすぐ、メック1個大隊がヨグチ大統領の司令本部を分断し、大統領を深い森に追いやったのである。

 ダヴィオンのメックにとって、惑星の掃討が翌月の主な関心事となった。最後のクリタメックを片づけると、ダヴィオンの4個メック連隊のうち3個がティショミンゴを離れた。この間違いは致命的なものだったと実証された。もしダヴィオンの指導者が、ドラコ連合の大統領を殺しかけていたことに気づいたら、ティショミンゴに1個連隊だけを残したりはしなかったろう。

 クリタ軍部は、副司令官からの報告を受け、大統領は死んだものと考えていた。彼らの指導者が生きており、そして、ティショミンゴで怒りに震えていたことに、しばらくは誰も気づかなかった。救出を待つ一方で、ヨグチ・クリタは、征服者に抵抗する市民を組織した。

 最初の数ヶ月間、ダヴィオンの全守備隊は、狙撃、爆破、毒殺を畏れて、軍事基地へと撤退せざるを得なかった。喜んで自分の生命を投げ出すような地元市民の熱狂にダヴィオンの兵士はショックを受けた。ゲリラを操るヨグチ・クリタの存在は、クリタ家の指揮の才能が遺伝することを証明しているように見えた。星系を逃げまわる者を通して、戦闘司令官たちに彼の命令を伝えた。

 ロウェナ・クリタが、PREの長という地位によって、ザブのように連合の実質的な指導者となっていた。ティショミンゴ市民が組織的にダヴィオンの侵略者に抵抗しているのを見て、これは兄の賢いやり口なのではないかと疑い始めた。直感した彼女は、ダヴィオン兵の殺害を監督している者を救出する作戦を打ちだした。

 話をティショミンゴに戻す。ダヴィオンの哨戒部隊は、森林の隠れ家を掃討していたときに、突如、ヨグチ・クリタを発見した。彼はなんとか逃げ出したが、ダヴィオンの侵略者は彼がドラコ連合の指導者であることと確認した。ヨグチはウラドに逃げた。

 彼が来ると通達されたウラドの地下軍事組織は、宗教上の祭りを主催した。これを隠し蓑にして、街の人口は突如通常の2倍にまで増えた。都市近郊の農夫たちがやってきたのである。ウラドのダヴィオン守備隊が気づかぬなか、地下組織の指導者は惑星侵攻前に備蓄し隠していた武器を配分するのに忙しかった。

 大統領がウラドに入ったとき、民衆は蜂起し、ダヴィオン守備隊が位置に付く前に殺した。それから彼らは都市に入ってくる車両を防ぐバリケードを建設し、戦略的なビルを即席の城壁に変えた。瞬く間にウラドは要塞になった。都市を奪取しようというダヴィオン兵の最初の試みは無惨にも失敗した。また彼らは兵糧攻めが役に立たないと知っていた。地下に食料・水の倉庫がいくつかあったのだ。

 包囲した都市を攻撃するバトルメック大隊編成に一週間かかった。ダヴィオン軍が打って出ると、絶望的なゲリラ作戦を実行に移す市民と遭遇した。ウラド人の勇気と統治者を守るすさまじい決意があったにもかかわらず、ダヴィオン家によるヨグチ捕縛を防げないのは明白であった。

 ちょうどそのとき、ロウェナ・クリタの送った救援軍が着陸して、ヨグチの生命を救った。惑星上で大規模なクリタ軍と面したダヴィオンの防衛隊は、引き返して援軍を待った。結局、300万のクリタ市民がダヴィオン家による惑星占領に対する戦いで犠牲になった。そのうち5万人がウラドの戦いで死んだ。ヨグチ・クリタはスピーチで彼らの勇気に言及し、最高の名誉を与えた。


雪火の罠 THE STING OF SNOW FIRE

 ヨグチにとってはつらい日々であった。彼はルシエンに戻り、雪火に会うのを楽しみにしていた。外見上タフな男であったにもかかわらず、ヨグチ・クリタは女性に弱かった。おそらく父のザブから受け継いだものだろう。ロマンチックな愛は理想化されないか、もしくはドラコ連合の文化の中で奨励されなかったのだが、ヨグチは美しい新たな女性が目にとまるたび、恋に落ちるのを楽しんだ。すでに多くの妾がいたが、そのときは雪火が最初の選択だったのである。

 彼はラサルハグ管区のウキヨで初めて彼女を見つけ、他の誰にも取られぬよう、彼女を所有せねばならないと感じた。彼女の契約を買い取り、ルシエンの皇宮に連れて行った。さあ、このとき彼の身に戦いが迫っていた。彼はすぐ宮殿に戻り、彼女との長い夜を過ごそうと楽しみにしていた。のちに、ヨグチが眠りに落ちたときに、雪火は所持品に隠していたナイフを握り、ヨグチ・クリタ卿の喉をかき切った。その後、ベッドに倒れている大統領の身体の上に記章を置いた。最終的に彼女は毒を仰ぎ、クリタの横で死がやってくるのを待った。


神罰 DIVINE RETRIBUTION

 私の兄はシュタイナーのスパイの売女に殺された。シュタイナー家が本当に愛するものを攻撃し奪いとるまで休むつもりはない。  ――ミヨギ・クリタの言葉、ヨグチ・クリタの弔辞にて、2850年

 ヨグチ・クリタの暗殺に対する公式な反応は様々なものであった。(ドラコ)連合の宣伝官は、ヨグチが大規模な暗殺者の集団にやられたという話をでっち上げて、英雄的な死だったと説明した。真実を知る人々は、大統領が卑しいシュタイナーの女に殺されたことを深く恥じていた。この不名誉への反応として、連合最高司令部は、急きょ、戦略家たちの全勢力をかけて計画を推進すると決めたのだった。この作戦はライラ共和国のまさに心臓を叩くものだった――ヘスペラスIIのバトルメック製造施設である。

 計画は二つのパートに分けられた。最初に、シュタイナー防衛を克服し、それからヘスペラスII星系内の両ジャンプポイントを封鎖するために、クリタ海軍に残った戦艦を、降下船、戦闘機とともに使う。次の段階は、大規模な地上戦に続いて、惑星防衛隊を兵糧攻めにするというものだ。

 歴史上のこのとき、ライラ共和国は社会と政治に弱点を抱えていた。ライラはジンジロー(クリタ)に似たタイプの指導者によるサディスティックな支配からちょうど脱したところでありショック状態にあった。いま、共和国はシュタイナーの正統な後継者が成人するまで、三人の指導者のあやふやな委員会で重要な決断を下していた。

 ヘスペラス攻撃はスムーズに始まった。両ジャンプポイントへの攻撃が成功し、クリタの艦船がすぐに包囲した。クリタ軍は援軍と補給がやってくるのを待ちかまえていた。ヘスペラスのシュタイナーメック連隊は補給を食いつぶしていると、彼らは知っていた。6個クリタ連隊と15個通常連隊が、ヘスペラスIIの防御が薄い部分に降下した。防衛しているシュタイナー3個メック連隊と5個通常連隊との正統的な消耗戦がゆっくりと始まった。戦略全体のポイントは、メック工場を直接叩くことではなく、防衛隊をすり減らすことであった。

 数ヶ月後に、クリタメック連隊は、ディファイアンスバトルメック工場に続く谷の入り口から、共和国の防衛隊を追い払うことに成功した。大いなる期待と栄光の予感を持ったクリタのメックは、巨大な工場のドアに前進していった。勝利が目前に迫ったと信じていたクリタ人は不意を打たれた。ドアが開け放たれると、新品のシュタイナー重メック完全大隊が現れたのだ。混乱したクリタのメック戦士たちは、メックから放たれるレーザー砲、キャノン砲、レーザーボルトの雨あられから逃げ出した。それらのメックはまだ塗装すらされていなかったのだ。

 工場のある谷の入り口にまで押し戻されたクリタのメックは、すぐシュタイナーメック連隊の残存兵力に叩かれた。この思いもかけない出来事で、クリタの攻勢は二週間という時間を失ってしまったのだった。

 ジャンプポイントでも問題がさらに悪化した。ジャンプポイントを突破しようと幾度か試みていたライラ人は、戦ってクリタの軍艦の輪を抜くために、ある大規模な攻撃を行うことに決めた。突撃を率いるのはLCSインヴィンシブル。星間連盟期の戦闘巡洋艦だ。この船は、共和国首都世界ターカッドの軌道上で、単なる物珍しい博物館に成り下がっていた。

 LCSインヴィンシブルがヘスペラスのジャンプポイントに実体化すると、クリタの戦艦は完全に萎縮してしまい、恐慌状態で逃げ去った。ジャンプポイントを確保したシュタイナーの司令官は、他の共和国援軍を整列させ、ヘスペラスIIに向かった。

 クリタ地上軍はどうにかしてなんとか共和国メックのほとんどを破壊し終わり、工場のドアで彼らの邪魔をしたメック戦士たちをいたぶるのを楽しみにしていた。彼らは知らなかったが、輝くようなニューマシンに乗っていたのは、ごく普通の男女(一部はとても老齢で、一部は非常に若かった)で、工場で働いていた者たちであったのだ。彼らは施設を守るため志願し、メック操縦の訓練を急造で積んでおり、「最後の切り札部隊」として知られることとなった。だが、クリタのバトルメックに対する最初の勝利は、まったくビギナーズラックに過ぎなかった。

 二度目の遭遇でクリタのメックが砲火を開いたとき、初心者部隊はパニックに陥って撤退した。クリタのメックが工場地帯に進入し勝利を得るのは目前に見えた。まさにそのとき、LCSインヴィンシブルから放たれた砲弾とミサイルが、クリタのメックに向け、雨のように降り注ぎ始めた。1分以内に、連合の攻撃隊のほとんどをバトルメック工場近くでなぎ倒した。

 しかし、指揮していたクリタの将軍は、ヘスペラス攻撃を限定的な勝利と考えた。なぜなら、バトルメック生産ラインのひとつをなんとか破壊していたからである。ミヨギ大統領をなにより満足させたのは、攻勢が成功しようとしまいと、ライラ共和国に高価な代償を支払わせたことだった。DCMSが地上軍の50%を失った一方で、共和国は古参兵2個メック連隊を含め、少なくとも大勢の兵士を失っていた。両軍はさらに残ったわずかな戦艦のうちほとんどを失っていた。共和国の恐るべきLCSインヴィンシブル(中心領域に残った最後の大型戦艦である可能性が高い)は、ジャンプ中にドライブに失敗し、二度とヘスペラスIIから戻ることはなかった。



謎につながる鍵 KEYS TO THE MYSTERY

 雪火がシュタイナーの暗殺者であったことは間違いない。彼女は情報を収集し、究極的な暗殺を準備するため、何年も前にライラ情報部の手によってラサルハグ管区に潜入した。彼女が持っていた多くの技術が非常に役立った。

 明らかに彼女は個人的な理由でもクリタ卿を暗殺したがっていた。彼女の恋人は第4王室親衛隊の隊員で、部隊はクリタ人の手により破壊された。彼女が大統領の身体に置いた連隊記章は第4親衛隊のそれだったのだ。

 どうやって雪火が、すべてを見通すISFの目をかいくぐって、ヨグチに近づいたのか、激しい議論の種となった。最も妥当性のある説明は、連合政府上層部の誰かが雪火のことを知っており、見て見ぬふりをしたということだ。当時のISF長官はマルコム・カツヨリであった。彼はISFが軍の支配下に置かれるという大統領の決定に激しく怒っていた。大統領を殺せという命令を手下に命じることはできなかったものの、すべて(スパイで暗殺者であるということ)を知りながら雪火が大統領の愛人になるのを許したというのはありえる。

 ロウェナ・クリタは、もうひとつのありうる謎につながっている。PREの調整官、マルコム・カツヨリの親友として、彼女も雪火の真の職業に気づいたかもしれない。妾の作戦遂行を許すような彼女の動機は複雑だったろうが、政治的なものではなかった。ロウェナは権力を求めなかった。確かに彼女はヨグチの死後、連合の統治権を得るのを拒否した。

 プライベートな手紙と日記に記された証拠から、ロウェナが無名の幾人かと深い関係にあったのを、我々は知っている。収集された他の証拠とあわせて、彼女の愛情の対象が雪火だったことは充分にありうるのである(このような愛の形は、クリタ社会では不適当とされなかった。名誉の掟に触れない限りは、認められていた)。ロウェナの名も無き恋人は進展を拒絶した。もしこの人物が雪火だったら、傷つき怒ったロウェナは、女がすぐに自分の手で死ぬのを知って、妾に関する意見を秘めておくことができたろう。

――「ヨグチ・クリタの死に集められたいくつかの証拠」コムスター内部告示



マラソン攻勢 THE MARATHON OFFENSIVE

 兵士たちがどれだけ疲れてようと関係ない。我らの敵両者は崩壊の間際にある。我らを特別な存在にしているものがあれば、敵は我らのものになる。
 ――ミヨギ・クリタ、最高司令部からマラソン攻勢を緩めるよう要請されたときの答え

 ミヨギ・クリタ大統領は敵を学ぶべきだと強く信じていた。そうするために、他の継承国家の情報を集める工作員を増やした。彼はまたコムスター代表と話をして相当な時間を過ごした。他の勢力の性質と意欲にかかわる詳細を得る助けになることを望んでいた。

 ヘスペラスIIへの半分成功した攻撃の後で、ミヨギは分析(シュタイナーとダヴィオンの政治に対する)によって、いまがもう一つの大規模な攻勢をかけるべき時期だと信じた。両王家は政治問題に手間取っており有効に反応できないと確信したミヨギは、強力で決定的な推進に集中する攻撃を計画した。前任者の「惑星跳び」戦術を有効と見なしていたにもかかわらず、彼はそれが資源を食いすぎると信じた。また、ダヴィオン家によるゲイルダン区前線への攻勢が、終わることを望んでいた。

 しかしながら、DCMSの将軍たちは、大統領の計画に多少の疑問を抱いた。確かに惑星跳び攻勢は資源を食うのであるが、大統領の計画はさらにコストが高いものになるかもしれなかった。さらにふたつの浸透作戦に補給が維持できるかが重要な問題だった。

 にもかかわらず、クリタ軍部は2854年の後半に攻撃を始めた。シュタイナーへの攻勢は、ライラの世界デーゴラン・ケレンフォルトを軸に集中させた。恒星連邦での軸は、ロチェスター・ソーネミンだった。


初期の成功 EARLY SUCCESSES

 ミヨギ大統領の攻勢は最初の5年間に相当な成功を得た。共和国の前線、デーゴラン、ツカイード、グルミウムに対するものはすべてが成功した。ただしグルミウムのシュタイナー要塞を砕こうとした特別強襲中隊は破壊された。

 ダヴィオン前線での成功はそれほど刺激的なものにはならなかったものの、DCMSはなんとか恒星連邦の防衛軍を撃退した。そのためダヴィオンはクリタの世界を勝ち取ると言う目標を棚上げせねばならなかった。この方面で、クリタ家はなんとかひとつの世界を勝ち取ったが、それは重要なひとつであった。ロビンソンはドラコ境界域の首都惑星であった。クリタのバトルメックが現れるだいぶ前に重要な人員や記録はすべて疎開していたのだが、両者にはっきりと心理的な効果を与えたのだった。

 ダヴィオン軍部は、小さな農業世界に過ぎないロビンソンを保持するために猛烈な戦いをしたのがその理由である。3個メック連隊と10個装甲・歩兵連隊が惑星の防衛を担った。侵攻者は4個メック連隊(すべてが熱狂的な〈光の剣〉連隊だった)と10個通常連隊だった。大統領自身が攻撃を率いた。ダヴィオンの防衛隊は4個エリートクリタメック部隊の重量に押しつぶされ、ぼろぼろにされた。ブリアーソン十字路の極めて重要な戦いでは、クリタの強襲大隊が、決定的な山道を守っていたダヴィオンの要塞をなんとか粉砕した。要塞が消え去ると、クリタ軍は道を通って吐き出された。ダヴィオン司令官には惑星どころか自身を守る軍すらなかった。



光の剣 SWORD OF LIGHT

 仏教の伝説によると、ミョウオウ(不動明王)とは、未練の残った魂を救済する怒れる神である。両ミョウオウは、ブッダの教えを表す燃える剣を携えている。初期クリタ家のメンバーは、怒れる神による救済の奇妙な意味が気に入った。それは敵対する隣人から身を守るのを正当化した。DCMSのエリートとして〈光の剣〉は常に明王の燃える剣に例えられた。

 〈光の剣〉連隊に受け入れられるために、候補生は少なくとも下位の連隊で5年を過ごし、厳しい政治、宗教、軍事のテストで上位5パーセントの成績に入らねばならない。どうにか〈光の剣〉連隊に歩を進めた隊員は、クリームのなかのクリーム(最高級品)である。もし彼が退役するまで生きていれば(容易でないが)、〈光の剣〉の戦士は快適で栄光に溢れた人生を期待できる。DCMSの歴史上、12個の異なる〈光の剣〉連隊があった。現存するのは5個である。

 ――マルファス・シュタインベルグ将軍(元LCAF)著『継承国家軍の独特な連隊』より



息切れ SLOW DOWN

 2862年の後半、ドラゴンの軍勢は本当の障害に直面した。両国境線での積極的な戦役で、補給線が伸びすぎ、混乱していたのである。すでにエンポリアでは、ラサルハグ正規隊の軽量級メック大隊が、重要なパーツと補給の欠如によって痛めつけられていた。さらに悪かったのは、多くのパーツが見つからないとのニュースであった。パーツの共食いが容認され、実行された。またメック連隊のあいだで不服従が広まった。メック戦士たちは徹底的に目標(使えるパーツと補給)を探すべきだと主張した。

 DCMSの将軍たちは、ミヨギ大統領のもとに赴き、攻勢を止めるか、弱めることをへりくだって請うた。驚くべきことに、ミヨギはそれを飲んだのだ。

 こうして第二次継承権戦争は終わりを迎えた。彼らの地位を評価するに、両前線で得たもので再びトップに立ったと、大統領と軍上層部は信じた。共和国国境では、連合はなんとか7つの惑星を取った。オレステス、アル・ヒラ、カルバラの線がふくらんで、新たな国境となった。ダヴィオン国境に沿って、連合はダヴィオンの攻勢を止めるのに成功し、かつての世界をすべて回復したのだった。彼らはなんとか三つの世界を勝ち取った。ルツェルン・フランクリン、それが征服の限界だった。





ハルステッド・ステーション事変 THE HALSTEAD STATION AFFAIR

 我が敵、多くの敵のなかから、ハンス・ダヴィオン国王に最大の名誉を見る。奴は災害のなかで光明を見いだし勝利できる男だ。
 ――3019年、立ち聞きされたタカシ・クリタ大統領とサブハッシュ・インドラハアの会話

 ハルステッド・ステーションの戦いは、タカシ・クリタがダヴィオン家の危機に直面した最初の出来事のひとつである。数ヶ月に及ぶ戦闘で彼は功績を示し、タカシ・クリタは恒星連邦の新リーダーを高く評価するようになったのだった。だが、この戦いの歴史は3012年にさかのぼる。一年前にイアン国王が死亡し、ハンス・ダヴィオンに王冠が渡った。同年、クリタ家が平穏なハルステッド・ステーションの世界に大規模な軍用倉庫を築いていることに、ダヴィオン軍部が気がついた。調達部から前線隊へのスペアパーツ受け渡しが遅れていることに怒ったタカシが、素早い補給のため、ダヴィオン国境のそばに補給庫を作るよう命じたのである。

 連合軍の建設担当者は、すぐ惑星地表に巨大な穴を掘削し始めた。この地下に大規模な倉庫が造られる。間接砲と爆弾の重爆撃に耐えうるよう、コンクリート、鋼鉄、装甲で造られることになる。砲で満たされた強化陣地の環がこれらの倉庫を守り、地上から上空からのいかなる敵の攻撃をも防ぐ。

 連合軍部は補給センターを極秘で建設しようとし続けたのだが、計画の話がイアン・ダヴィオン国王の耳に届いた。クリタが交換パーツと補給にすぐアクセスできるようになると、自軍が危機に陥ることに、ダヴィオンは気がついた。国王はこれを最重要事項と考え、個人的に惑星、建設地点の強襲を計画し始めた。

 3013年の終わりまでに、イアン・ダヴィオンの計画はほとんど完成し、攻撃部隊をほとんど整列させていた。将軍たちに計画を説明しようとしたまさにとのとき、クリタ家がマローリーズ・ワールドを攻撃したとの一報が届いた。ちゅうちょなく、イアン国王は惑星の防衛に直接向かった。その後、彼がマローリーズ・ワールドで死んだときに、ハルステッド・ステーション攻撃計画もまたほとんど死んでしまったのである。

 ダヴィオンの将軍たちは新国王に計画を延期するか中止するよう助言したが、ハンスは侵攻計画の続行を決断し、彼らを驚かせた。将軍たちは知らなかった。ハンス・ダヴィオンはハルステッド・ステーションからの重要なニュースを聞いていたのである。クリタの建設作業員は惑星を掘る一方、大規模な建物群の廃墟に手を焼いているという。ほどなくクリタ人は巨大な大学の跡地を掘っていることに気がついた。最大の発見物は部屋サイズの金庫である。掘削機のバケットが破壊されてしまったのだった。

 金庫を地上に引き出すまで二週間もかかり、また安全に開けるのに一週間を要した。だが、何が入っているか、ハンス・ダヴィオンは薄々感づいていた。もし彼が正しければ、その貯蔵物はクリタ卿の軍需倉庫よりはるかに重要なものであろう。

 3014年1月4日、ハンス・ダヴィオンは3個メック連隊を率いた。惑星を攻撃する兄の曖昧な考えに基づいて、彼は即座に自身の計画を立てた。彼の戦略は電撃降下に依存しており、それから倉庫建設と重機の破壊を狙った一連の攻撃を仕掛けることになっていた。それが行われているあいだ、ハンス・ダヴィオンは第一近衛隊を率い金庫を探す。あらかじめ打ち合わせていたポイントに降下船が着地し、全襲撃隊を回収し、それから出発する。

 タカシ・クリタもまた大学の廃墟から発見された謎の金庫に何が入っているかを悟った。それが開封され、中身を保存するまで動かせないことを聞き及ぶと、大統領は惑星に援軍を送り込んだ。ダヴィオン襲撃の日、1個追加メック連隊と多数のクリタ気圏戦闘機が到着した。惑星にあるメック連隊と数個通常連隊を支えるためである。

 降下と襲撃は、攻撃側のダヴィオンが企図したように進んだ。ハンス・ダヴィオンと部隊は、増加したクリタメックの数に驚かされ、にもかかわらずなんとか金庫に到達した。ダヴィオンのメックは何度もパンチを加え金庫を開けた。

 国王の疑いは正しかった。メックの巨大な手が金庫の中で見つけたのは、何百冊もの貴重な本であった。

 本を丁寧に梱包する時間はなく、従ってダヴィオンのメックは一束を取り上げ、大きな袋に詰め込んだ。ふくらんだ袋を持ったメックは、それから残りの巻を燃やした。それはハンスの大きな心の痛みとなった。いま恒星連邦のメック隊は降下船の降下地点に向かう途上であった。

 だがそこに船はなかった。ハルステッド・ステーション上空の宇宙空間で、ダヴィオンの降下船はクリタの戦闘機と戦いを繰り広げていたのだ。ダヴィオン海軍士官の多くは期待していなかった。国王とメック連隊を拾い上げるのは不可能だった。いまダヴィオンの降下船にとって生き残りが主題となっていたのである。

 そうして惑星の地上と空で追いかけっこが始まった。5度、ダヴィオンの降下船は国王、メック隊との合流を試みた。そのたび、クリタ地上軍か気圏戦闘機が計画を嗅ぎつけ妨害したのである。

 ダヴィオン国王がハルステッド・ステーションに足止めされているのを聞きつけると、タカシはすぐ第2〈光の剣〉を率いて狩りに向かった。

 恒星連邦の援軍(死活的に必要とされていた気圏戦闘機含む)が、最終的になんとか惑星の地表への道を切り開いた。多くの出来事が両陣営に起きた。ダヴィオン国王は三度、部下を守るために命をさらした。そのうちのひとつは、敵の勢力下で指揮大隊が大河の橋を守り、砲火にさらされたものである。そのあいだに落伍者たち(打ちのめされたダヴィオンの中隊)が川を渡っていった。

 気圏戦闘機に護衛されたダヴィオンの降下船がハルステッド・ステーションを去ると、タカシ・クリタ大統領は、薄汚れた顔に浮かんだ冷酷な称賛の笑みを消さざるを得なかった。

 本のバッグ(戦闘のあいだ恒星連邦のメックが守ってきたもの)は、クリタ倉庫の破壊よりはるかに重要になっていた。本は大学が収集し、金庫で守ってきた貴重な骨董品だった。多くは文学、経済学、心理学の内容だったが、技術に関するもの(水浄化、マイアマー生産、コンピュータ設計など)がハンス・ダヴィオンを興奮させた。

 ハルステッド・コレクション(これらの本はそのように知られることとなった)はいま特別な書庫(本を守るため空気が調整されている)に収蔵されている。これらの本はニューアヴァロン科学大学(本が今日収容されている)のカリキュラムの元となった。




indexに戻る
inserted by FC2 system