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作成:2004/04/26
更新:2011/02/05

スモークジャガー氏族 Clan Smoke Jaguar



   スモークジャガーは侵攻派の中でも強硬派に位置づけられる氏族です。氏族侵攻においては二名の大氏族長を輩出し、残虐な悪役としての役回りをこなしていました。その強さと凶暴さのゆえに、中心領域による逆襲のターゲットとされ、氏族ごと滅亡する末路を迎えています。






背景 Background

 多くの氏族戦士があらわしているように、捕食獣であるスモークジャガー氏族の名は、自然を科学でいじったものから来ている。地球のジャガーの遺伝子が、厳しい環境に耐えられるよう研究所で操作されている。アレクサンドル・ケレンスキーの同行者たちがストラナ・メクティに持ち込んだスモークジャガーは、獲物の豊富なジャングルで繁栄した。

 スモークジャガー氏族のメンバーはその名(氏族の尊敬される創設者ニコラス・ケレンスキーがつけたもの)の通り、猛烈なプライドを持っている。ニコラスが氏族社会のモデルをスモークジャガーから取ったと、彼らは信じており、ニコラスがジャガーの美徳を褒めた記事を自慢げに指し示すのだった。現代のスモークジャガーはよくこういった記事から引用する。氏族の叙事詩リメンバランスにすべての文章を収め、崇めているのである。

 スモークジャガー氏族の歴史は、確かに氏族でも猛烈なもののひとつである。遺伝子改良した地球のジャガーから名をとったこの侵攻派氏族は、同名の獣と同じく、すみずみまで凶暴なのだった。氏族で最良の戦士となるべく駆り立てるスモークジャガー人は、大氏族になるという欲求にたいして容赦はしない。

 強く叩き、他氏族に弱みを見せないスモークジャガーは、すぐさまもっとも残忍で行動的な氏族になった。初代のフランクリン・オシス氏族長に率いられたスモークジャガーは、戦士階級に厳しい規範を置いている。オシス氏族長は戦闘を渇望し、初期に多くの勝利を勝ち取った。ジャガーに対する彼のビジョンは究極の戦士氏族となることで、部下に戦場で勇敢な行為をするよう促し、事実上、氏族中の優位を保証したのである。

 〈脱出戦争(エクソダスウォー)〉のあいだ、フランクリン・オシスの残忍さと純粋な勇敢さは、その後のスモークジャガーのパターンとなった。しかしながら、戦士階級が氏族社会の代表であり、他の者はそれ以下であるという彼らの見方は、数世紀のあいだ下層階級とのあいだに多数の問題を引き起こしたのである。遺伝子資産からオムニメック設計まで、あらゆる所有の神判を宣言することで、スモークジャガーは氏族内の実力を維持することができた。戦士階級によって維持された厳しい規律は、下層階級によるいかなる犯罪も厳しく扱われることを意味する。この姿勢はジャガーに多数のネガティブな影響をもたらしたのだった。


侵攻 Invasion

 最初に侵攻が動議されたとき、スモークジャガーは中心領域への即時強襲を求める先頭に立った。捕獲したコムスター艦(アウトバウンドライト)のデータを使い、スモークジャガー氏族長レオ・シャワーは侵攻の決定と大氏族長の座を勝ち取った。3049年、辺境で氏族は道に立ちふさがるすべてを破壊していった。戦士たちは中心領域の典型例に面したと確信し、氏族は侵攻を続けたのだった。

 中心領域への侵攻はスモークジャガーにとっていいことずくめではなかった。エリートのジャガー星団隊は熱いナイフのようにDCMS(ドラコ正規軍)を切り取っていったが、クリタのパルチザンに対処するには無力で、いまだ苦しんでいたのだった。この特徴が明白になったのは惑星タートルベイをおいて他にない。ジャガーは知らずにホヒロ・クリタ(セオドア・クリタの息子)を捕らえたのだが、脱獄で逃がしてしまった。数週間にわたって終わりのない暴動が続いたあとで、当地のジャガー司令官は、戦艦のフルパワーをエド・ベイ市に放ち、完全に破壊し、百万近い市民を殺したのだった。ウォルコットにおいては、最初の完全な敗北に直面した。ホヒロ・クリタがジャガーを騙して攻撃させたのだった。結果、ドラコ連合は数機のオムニメックと2ダースのエレメンタルアーマースーツを獲得した。

 この敗北による衝撃も、大氏族長レオ・シャワーがラドスタットの戦いで殺されたことに比べれば色あせる。新たな大氏族長を選ぶため、本拠地に戻ることに対し、ジャガーは抗議したのだが、結局それは行われた。本拠地への帰還で氏族が時間を費やしているあいだ、スモークジャガー氏族長と他の氏族長たちは策謀して、ウルリック・ケレンスキーを大族長に選び、物事を望む方向に動かそうとした。ウルリックは侵攻軍にスティール・ヴァイパーとノヴァキャット氏族を加えることで、彼らより上手だと証明して見せた。その次にウルリックは、憎しみあうノヴァキャットとスモークジャガーを組み合わせ、さらに補給線確保のためノヴァキャットに世界を譲るように命令して、フューレイ族長、ウィーバー族長を激怒させたのだった。

 中心領域に戻ってすぐに、ウルリック大族長はある計画(継承国家にショックを与えたもの)を承認した。混成軍をもって、ノヴァキャットとスモークジャガーは、ルシエン(ドラコ連合首星)への大規模な攻勢を開始したのである。(ドラコ)連合軍は、絶望的な戦力差にさらされたが、大規模な援軍を受け取って、それが戦いの流れを変えたのだった。

 ハンス・ダヴィオン(連邦=共和国の国王)は、AFFS軍を(ドラコ)連合へ侵攻させないと、セオドアクリタに誓った。氏族がルシエン侵攻を計画していることを知ると、ハンスはジレンマにさらされることになる。セオドアへの約束を破らずに、連合を助ける別の方策を見つけた。ハンスは、エリート傭兵隊のケルハウンドとウルフ竜機兵団連隊に対し、来るべき戦いに参加すべくルシエンへ向かうよう命令した。このふたつのエリート傭兵部隊が戦争の流れを変えた。ハウンドと竜機兵団は長く連合と険悪な関係にあり、ルシエンで不承不承戦った。

 ルシエンの戦いは、いくつかの意味で、ジャガーの未来の先駆けとなったのである。全部で5個氏族銀河隊(ノヴァキャット2個、スモークジャガー3個)が、3051年の12月ルシエンに降り立った。連合軍は傭兵を含めて、全部でおよそ1300機のバトルメックがあった。氏族は800機近くのオムニメックが着陸した。続いて起きた三日間の戦いは、野蛮さで特筆すべきものとなった。傭兵軍が加わったことで、確かな敗北は辛勝に変わった。連合氏族軍の1/3以下がルシエンより退却した。

 敗北に失望したスモークジャガーは、ノヴァキャットの世界を襲撃し、下層階級の権利のさらなる制限をすることとなった。問題をさらに複雑化させたことに、ジャガーは損失を回復する一方でタイムテーブルを遅らさざるを得なくなったのである。しかしながら時間はジャガーの味方にならなかった。3052年の前半、ウルリック・ケレンスキー大族長は、戦司教アナスタシウス・フォヒトと会談し、中心領域の命運を決める決断を下したのだ。フォヒトは地球をかけた戦闘を提案した。もし氏族が勝てば、地球とコムスターは彼らのものとなる。コムスターが優勢であれば、氏族は前進を15年中止する。コムスターは50個メック連隊と支援部隊を戦いに投入した。

 コムスターと戦うと決めたウルリックの言葉は、氏族内に多くの衝撃を与えた。まだ傷ついていたスモークジャガーは、事態の推移に激怒した。しかし他の侵攻氏族をなんとか説得し、ウルフが最も可能性のない目標になるようにしたのである。それからフューレイ、ウィーバー氏族長はなんとか最初に上陸する権利を勝ち取った。


ツカイード Tukayyid

 ツカイードの戦いに対する入札は4月18日に始まった。すべての侵攻氏族は、大いなる栄光をもたらすと思われていた上陸順と目標都市を競ったのである。スモークジャガー氏族に率いられ、他の侵攻氏族の氏族長たちは、ウルフ氏族が好ましい戦闘状況を勝ち取るのを妨げるのに集中した。この共謀は一見成功した。ウルフ氏族は結局、他の氏族に遅れること丸5日後に上陸することになり、最も小さくほとんど守備されていない都市ブロゾとスクポを攻撃する権利を得たのだった。

 スモークジャガー氏族のオシス氏族長はウルフをいたぶったことと、ツカイードに最初に足を踏み入れる名誉を勝ち取ったことを喜んだ。彼はコムスターのコムガードを簡単に始末できると信じていた。コムスターは氏族にその平和的な側面しか見せていなかったからである。ジャガーの目標都市は、勝利の際には、この氏族に大きな栄光を約束していた。両都市とも守りやすい堅固な地形に位置していたのである。ディンジュ・ハイツはディンジュ山脈に寄り添い、ポート・レイシスは荒ぶるレイシス川デルタの近くにあった。乏しい補給に関する大氏族長の警告を聞くのを拒否して、ジャガー氏族長は着陸した。悲惨なことに彼らがすぐ直面した包囲に対する準備をしていなかった。ジャガー氏族長は、銀河隊の能力(素早く移動し、残忍に叩き、全ての敵を圧倒する)に信頼を置いていたのである。

 オシス族長はアルファ銀河隊(エリートの第6ジャガー竜機兵団とジャガー擲弾兵隊が含まれていた)を率い、ディンジュ山脈に入った。そのあいだに、ウィーバー副族長とミストウィーバー銀河隊はレイシス川デルタの湿原に着陸した。両氏族長とも楽勝を予期していた。両者ともそう思うべきではなかった。

 ディンジュ戦役は氏族にとって有利に始まった。第6ジャガー竜機兵団はコムガードの新兵第50師団を切り裂き、アルファ銀河隊の降下地点を確保したのである。竜機兵団とジャガー擲弾兵隊がディンジュ・ハイツに行軍していたあいだは、第50隊の生き残りによるちょっとした抵抗にあったのみだった。これらの襲撃はほとんど意味をなさなかった。氏族の戦士たちは、守られていないように見えるディンジュ山道に進み、その向こうに横たわる都市の早期奪取を予感した。ジャガーは気づかなかったが、彼らは山道に潜むコムガード第299師団の重分隊のなかにまっすぐ突き進んでいたのである。

 ジャガー擲弾兵隊を殲滅から救ったのは、スターコーネル・ブランドン・ハウェルによる氏族的でない注意深さであった。山道が防御されてないというのはあまりに都合が良すぎたので、ハウェルは擲弾兵隊の2個星隊を先行させ、隠れたコムガードを暴こうとした。彼は、それから、残りのオムニメックを山道の壁にとりつかせ、その一方で巡航速度で進ませた。第299隊が罠を発動させると、擲弾兵隊は重大な損失を負ったのだが、部隊の残存兵力はコムガード軍を突破し、ディンジュ・ハイツ入り口の第323師団に直面した。

 部下のスターコーネルに手柄を持っていかれるわけにはいかないと、オシス氏族長は第6ジャガー竜機兵団を率いて似たような突撃を試みた。竜機兵団にとっては不幸なことに、第299、第323師団の残ったメックが、山道の隅から隅までに群れていたのである。竜機兵団は重大な被害を受け、コムガードのメック戦士はオシス氏族長を狙い撃ちにした。良い位置からオシスのエレメンタルをレーザーで撃ったのだ。

 そのとき、ウィーバー副族長とミストウィーバーのメック隊は、降下地点に接近しすぎて身動き取れなくなっていた。最初の降下はうまくいった。レイシス・デルタの沼と湿原が、スモークジャガーのメックとエレメンタルをやわらかく受け止め、通常のこういう戦術的展開より被害を少なくしたのである。しかしながら、湿地を抜けるには非常に遅い速度にならざるを得ないことに、ジャガーは気がついたのだ。コムガードのメックはデルタの深い沼と、よどむ川底に身を隠してジャガーを繰り返し待ち伏せし、氏族の長射程と優れた放熱技術を無効化した。降り注ぐ砲撃は氏族のメックをデルタのさらに奥深くへ追いやり、そこではまださらに多くのコムガードのメックが待ち伏せしていた。ポート・レイシスへの進撃の3日目が終わりにさしかかったとき、コムガード第207師団のメックが、銀河隊司令星隊を取り囲み、整然とした攻撃を開始したのである。サラ・ウィーバー副族長はこの戦いで死んだ。ウォーホークの核融合エンジンが致命的な損傷を負ったのだった。

 指導者を失ったスモークジャガー氏族は、コムガード第2軍の元気な兵士たちに直面した。ウルリック・ケレンスキー大族長はジャガーにツカイードからの撤退を命じた。ミストウィーバー銀河隊の落胆した戦士たちは、従順に降下地点へと戻ったのだが、アルファ銀河隊の数部隊が命令を拒否した。第6ジャガー竜機兵団は、ケレンスキー大族長の命令を、ジャガー擲弾兵隊の犠牲とオシス氏族長の敗北によって彼らの名誉を消し去る意図があると見たのである。誇り高く、挑戦的な彼らはディンジュ山道への進軍を続けた。アルファ銀河隊の生き残った星団隊から数人の兵士が同行した。だが、コムガード軍の確実な数的優勢が、結局は彼らを圧倒したのだった。

 もがく仲間を救うのに戻ることができなかったジャガー擲弾兵隊の生き残りは、ディンジュ・ハイツへの「栄光か死か」攻撃を開始した。この強襲が成功するチャンスはなかったが、コムガード第82師団と第322師団を都市に押し戻した。コムガードの退却により、擲弾兵隊の少数がなんとか降下地点へと撤退できたのだった。

 ツカイードの戦いはスモークジャガーの歴史上、最大の敗北のひとつとなった。キンケード・フューレイ、サラ・ウィーバー氏族長はコムガードに対する全面戦闘を指揮したが、敵に打ちのめされただけだった。火力と兵数で劣っていたエリート・ジャガー星団隊はコムガード軍の無慈悲な怒りに撃墜されたのだった。両氏族長が戦闘で殺されると、アルファ銀河隊の分隊は惑星を離れるまで戦わざるをえなくなった。ベータ銀河隊の一握りと、アルファ銀河隊のさらに少数が敗退から生き残った。戦争が終わってすぐあと、リンカーン・オシスとブランドン・ハウェルが、氏族長と副氏族長に選ばれた。


ツカイード後 Post-Tukayyid

 ツカイードの戦い以降の中間期に、スモークジャガーは中心領域軍、氏族軍による絶え間ない襲撃にさらされた。ノヴァキャットとウルフの襲撃は、ジャガーの強い憎悪をかき立てた。一方で、ドラコ連合はこの数年で、スモークジャガー占領域内の惑星におびただしい襲撃を行った。

 スモークジャガーはツカイードでコムスター軍によって甚大な人的、物的損失を被っていたのだが、他の氏族とは違って、中心領域でいかなる軍事作戦をも行える力を回復しようとはせず、防御的な姿勢をとり続けた。

 クリタはここ数年、スモークジャガーにほぼ一定の襲撃を行った。この襲撃は、ジャガーがツカイードで負った重い損失の回復を効率的に妨げた。ノヴァキャットは同様に嫌がらせ攻撃を行い、再建の試みをそれ以上に食い止めた。結果、スモークジャガーは氏族の指導力に対する挑戦をゴーストベアに行いそうにないように見える。スモークジャガーの弱さは、戦士たちに欲求不満を募らせ、彼らがまだ考慮に値する力を持っているのを証明したいと強く願わせた――それがジャガーを、氏族の同胞と中心領域の勢力にとって、潜在的に危険な敵とする。

 スティール・ヴァイパーもノヴァキャットもゴーストベアに挑戦する力を持たなかったが、両氏族は無害からはほど遠かった。ヴァイパー氏族長ペリガード・ザールマンは、氏族を再建して、用心深く危険な指導者であることを示す一方で、自制心を見せていた。他方のノヴァキャットはルシエンとツカイードでの損害を回復し続けた。しかしながら、彼らは弱い状態にあっても、停戦ライン上にある世界を襲撃するのをやめたりはしなかった。

 ジェイドウルフ(当時)は、ジェイドファルコン氏族との拒絶戦争から回復する時間を稼ぐべく、ゴーストベアとスモークジャガーの力を弱めようとするなかで、複雑な計画を動かし始めた。陰謀と嘘の情報によって、ゴーストベア氏族創設者の遺伝子を盗んだのは、スモークジャガー氏族とフェラン・ケルの放浪ウルフ氏族軍の仕業としたのである。ゴーストベアは一連の襲撃・情報収集作戦を通じて、この策略の本質に気がついた。

 これはジェイドウルフによる嘘であり、責任がスモークジャガーにないとわかっても、スモークジャガーの力が相対的に弱いことによって、襲撃の再開やゴーストベアによるおそらくは吸収の神判はなかったのである。ゴーストベアがこの機会の優勢を取ったか否かは見られなかった。

 リンカーン・オシス氏族長は、本拠地からの増援によって、ベータ・デルタ銀河隊をすぐに再建することができた。しかしこの2個銀河隊は、DCMS、ウルフ氏族、ノヴァキャット氏族が行う度重なる襲撃との戦いに、ここ数年間を費やしたのである。星団隊が重い損失を負うやいなや、別の星団隊を補充し補った。

 失った名誉を取り戻そうとするなかで、リンカーン・オシス氏族長は資源を裂いて、アルファ銀河隊を再編成し、タウ銀河隊を作るよう命令した。アルファ銀河隊とその中核部隊(第6ジャガー竜機兵団)の再生は、オシスの個人的な名誉にとって重要だった。タウ銀河隊は、中心領域でノヴァキャット軍を破壊するために作られた。最近の損失に対し、ジャガー自身の手で報復を行うためである。

 しかしながらタウ銀河隊は失われた。ノースウィンド・ハイランダーズのスターリング機兵連隊が惑星ウェイサイドVに着陸したときのことだ。この星にはタウ銀河隊がノヴァキャットの中心領域の世界を侵攻する準備のために配備されていたのである。タウ銀河隊の3個銀河隊は、機兵連隊の主力をウェイサイドV中に渡る戦いで追い回した。ジャガーは気づいてなかったが、機兵連隊は切り札を隠し持っていたのだ。機兵連隊はスモークジャガーに扮した小部隊を送り込んでいた。ノヴァキャットに数度の攻撃を行い、ノヴァキャットをウェイサイドVに連れてくるよう刺激するためだった。こういった4度の攻撃のあと、ノヴァキャットは2個銀河隊をウェイサイドVに送り込んだ。そこでタウ銀河隊を発見し、スターリング機兵連隊の残りとともに継続的な戦闘を行ったのである。死ぬまで行われた猛烈な戦いで、ノヴァキャットはタウ銀河隊の残った部隊を破壊したのだが、機兵連隊は生き延びた。タウ銀河隊の損失はノヴァキャットへの憎悪をさらに募らせたのである。
















リバイバル作戦 Operation Revival

 族長会議は中心領域に侵攻するというシャワーの提案を支持した。この提案には、主要侵攻四氏族のうちひとつをウルフ氏族にするという条項が加えられていた。守護派たちは五番目の氏族を追加するよう会議への説得を行った。侵攻軍がバックアップを必要とするような、ありそうもない状況になったときの予備戦力としてである。17の氏族が侵攻する氏族を決める一連の神判で交戦した。スモークジャガーの戦士たちを喜ばせた事に、彼らの働きは侵攻氏族の座を占めるのに充分なものだった。戦闘部隊を選び終えると、会議は侵攻の詳細な計画を策定するのに注意を向けた。

 ジェイドファルコン氏族のエリアスクリッチェル氏族長と共に、シャワーズ大氏族長は、族長会議が最終的に選ぶ事になる計画を考案した。リバイバル作戦として知られるものだ。主要侵攻四氏族は、辺境の一番外側から地球へと続く四本の「侵攻回廊」をかけて入札を行った。クリッチェルとシャワーズは、ニコラス・ケレンスキーの日記の不明瞭な一節を引用し、地球を獲得した氏族が氏族を統べる大氏族になることを提案した。

 リンカーン・オシス氏族長は、大胆にも3個銀河隊を入札し、ドラコ連合を通る回廊を勝ち取った。スモークジャガーは勝利に有頂天となった。連合のクリタ家は、憎きステファン・アマリスの星間連盟を支援していたと、彼らは信じており、このような敵を倒す機会を歓迎した。準備は整い、侵攻氏族――スモークジャガー、ゴーストベア、ジェイドファルコン、ウルフ、スティールヴァイパー(予備)――がストラナメクティ上空に軍をあつめた。大軍に向けた最後の演説の中で、レオ・シャワーズ大氏族長は迅速な勝利を約束し、スモークジャガーが一年以内に地球の地に降り立つと自信を持って予言した。


虚空へ Into The Void

 スモークジャガーはサンタンダーワールドで、中心領域の敵と初めて遭遇した。サンタンダー・キラーズの名で知られる、悪名高き辺境の海賊の本拠地である。キラーの首領ヘルマー・ヴァラセックは、残酷で狡猾との評判があり、サラ・ウィーバー副氏族長は海賊王を殺す名誉をスモークジャガー氏族が勝ち取ると決意した。

 ウィーバーはサンタンダーワールドの激しい競争入札に自ら臨んだ。相手はゴーストベア氏族のスターコーネル・ケリン・マッケンジーだった。両戦士はそれぞれ1個三連星隊まで応札したが、自分のメックを戦いから省く事で、最終的にウィーバー氏族長が入札に勝利した。マッケンジーは応札を拒否し、よってウィーバー氏族長は、メック9機とエレメンタル1個星隊で惑星を奪う権利を獲得したのである。自らのメックを犠牲にするのは、ウィーバー副氏族長が兵士たちと共に地表で戦えないのを意味したが、指揮降下船から戦闘の調整を行うと力説した。

 ウィーバー副氏族長は形式的にバッチェル(挑戦宣告)を行い、返答は期待しなかった。副氏族長を驚かせたことに、ヘルマー・ヴァラセックは儀式的な挑戦に応じ、海賊本部基地から南に約10キロメートルのジラルド平原でサンタンダーキラーズの1個大隊がスモークジャガー軍に応戦すると語った。

 「中心領域の野蛮人たち」に感動したウィーバー副氏族長は、侵攻軍のリストを提供し、それから指定の戦場に降下するようシュラウド親衛隊のメック9機に命じた。シュラウド親衛隊はジラルド平原に降り立ち、予想されたメックではなく、3機の降下船が待っているのを発見した。地上の降下船はうまく隠されており、オムニメックのスキャナーには反応しなかった。

 ウィーバー副氏族長は、周囲を走査し、船を調べるよう、エレメンタルたちに命じた。エレメンタルたちは、三隻の降下船に何事もなく接近し、手前の一隻に乗り込んだ。中は空っぽであった。この船は、船殻がむき出しになるまで、装備をはぎ取られていた。

 戦うべき敵を探そうと、いらだつ親衛隊のメック戦士たちは、キラーズの基地にオムニメックを進めた。彼らが降下船の近くを通ると、サンタンダー・キラーズは船殻に並べた爆薬を起爆させた。船は蒸発し、破片の雲の中でメックの半数以上が破壊された。

 爆煙が晴れると、生き残った親衛隊員たちは、1個中隊のバトルメックと直面した。ヘルマー・ヴァラセックは先頭に立つメックから遅参を詫びた。氏族軍が降り立った際、夕食を取っていたとしたのである。短く、だが猛烈な戦闘で、キラーズは残ったオムニメックを破壊し、4機をその過程で失った。

 「中心領域のフリーバースのクズ」による屈辱的な損失に怒ったウィーバー副氏族長はヴァラセックによる裏切りを非難した。最初の入札を破る権利を得た彼女は、第362ジャガー強襲星団隊を展開し、サンタンダー・キラーズを圧倒しようとした。この時、ウィーバー副氏族長が直々に攻撃を率いていた。戦いは一週間続き、ヴァラセックと海賊たちはやれる限りのことをやった。地形の知識、それに少しの上手い罠が、スモークジャガーのメック1個三連星隊分を破壊させるのを可能とした。だが、最終的にジャガーの高性能な兵器と、完全な熱狂が、勝利をもたらした。

 最後の戦いで、ヴァラセックは自身のバトルマスターで、ウィーバー氏族長のティンバーウルフに正面から挑んだ。副氏族長とスモークジャガーは海賊のマシンを短時間で始末し、バトルマスターを操縦していたのはヴァラセックではなかったことを知った。最大の努力を払ったにもかかわらず、スモークジャガーはぺてんにかけた海賊王を発見出来ていない。ジャガーは辺境で数多の戦いを行ったのだが、サンタンダーワールドでの戦いほど激しく、犠牲を払ったものは他になかった。スモークジャガーは辺境の掃討を予定通り3050年1月に完了した。目標とした全世界を攻略し、その過程で失ったメックはほとんどなかった。ひとつの小さないらだちだけが、この氏族の満足を損なった――憎きウルフ氏族にこれまでのところ負けていたのである。

 レオ・シャワーズ大氏族長(人生の大望がもうすぐ達成されることに満足していた)は、ウルフ竜機兵団を長らく嫌っていたにもかかわらず、「野蛮人の隠れ家にいる、我らが勇敢な戦士たちを家に戻す」と、正式な召還命令を出した。この召還命令は、実際のところウルフ竜機兵団が氏族に背を向け、もう信用できないことを証明するためのものだった。これによってウルフ氏族に疑いの目が向けられることもまた望んでいた。竜機兵団で唯一生存しているブラッドネーム戦士、ナターシャ・ケレンスキーだけが召還に応じて戻ったのは、大氏族長の主張を立証しているように見えた。


第一波:挑みかかるジャガー First Wave: The Jaguar Pounces

 辺境での成功で野心を刺激されたスモークジャガーは、最初の強襲で連合の世界を目標とした。ウルフ氏族の侵攻速度を超えられることを証明するため、二ヶ月以内でこれらの世界を征服する計画を行った。リンカーン・オシス氏族長はスモークジャガーの三個銀河隊を分割し、それぞれの銀河隊指揮官に三つの世界を獲得する責任を負わせた。残った世界を落とす名誉は、最初に目標を達成した銀河隊に与えられる。

 スモークジャガー軍は、エリートのDCMS軍は辺境の防衛隊より価値がある相手だと考え、最初の衝突を楽しみにした。彼らを激しく落胆させたことに、クリタ家の"勇敢な"戦士の大半は、氏族の強襲の下で耐えきれず、逃げだした。不思議な事に、スモークジャガーは敵に騙されていると感じた……彼らは迅速な勝利を期待していたが、同時にある程度の抵抗を望んでいた。というのも、勝利が甘美なものとなるからだ。ジャガーが第一波で直面した、唯一の意味ある反抗は、惑星リッチモンドの第1アルシャイン正規隊がもたらした。

 正規隊指揮官ドナルド・アシラ大佐は、オシス氏族長のバッチェルに対し、氏族が名誉と考えるもので応じた。正規隊と戦うため、オシス氏族長は2個星隊を展開した。アシラは戦場として、峡谷の岩場を選んだ。クリタ軍は激しく戦ったが、スモークジャガーは兵器とメックの優位を用い、4日間、正規隊の大軍と戦った。かなわぬ敵に立ち向かってることを知ったクリタ兵たちは、降伏しない事を誓い、峡谷の北の壁のオルダーソン山道で最後の抵抗を行った。スモークジャガーは、後に悪名高いものとなる正面強襲戦術を取り、リッチモンド防衛隊を叩いて、正規隊を抹殺した。DCMS兵のうち、生き残ってスモークジャガー氏族のボンズマンとなったのは5パーセント以下だった。


アイドルウィンド IDLEWIND

 第1アルシャイン正規隊の生存者は、スモークジャガーと戦い、生きて話を伝えられた、幸運な少数派であった。アイドルウィンドの防衛隊は遙かに悲惨な運命を迎えた。スターコーネル・ポール・ムーン率いる、第3ジャガー機士団強襲三連星隊が3050年初頭、防備の薄い連合の世界に降り立った。現地市民軍の1個装甲大隊が侵攻軍を撃退しようとしていることに気付いたムーンは、入札を行い強襲三連星隊内の者が惑星奪取の先導に立つと宣言した。この名誉はスターコマンダー・ジョアル率いる2個エレメンタルポイントの手に落ちた。スターコマンダーは守る市民軍にバッチェルを行い、アイドルウィンド首都から約2キロの森林地帯でエレメンタルと交戦する同意を受けた。エレメンタルたちは歩兵輸送船から森林内に降下した。数分後、市民軍の仕掛けたナパーム弾数ダースが爆発し、周囲にインフェルノが荒れ狂った。

 市民軍にとっては不幸な事ながら、ナパーム戦術はエレメンタルたちを怒らせただけだった。彼らの装甲スーツが炎を無効化し、2個ポイントは不発に終わった死の罠から現れた。敵を探し、スターコマンダー・ジョアルと部下たちが第3機士団強襲三連星隊を先導した。市民軍がおそらく首都近くの地下に潜伏していると推論したスターコマンダーは、反則抜きで何をしても良い目標であると宣言した。罠を仕掛けてくるような不名誉な敵は、慈悲をかけるに値しない。三連星隊のメックとエレメンタルは、次々と通りを掃討し、建物を破壊し、戦うのを拒否した"臆病な"市民軍でさえも、道路を根こそぎにして探し出した。

 都市の住人は果敢な抵抗を持って応え、侵略者と戦うために見つかった全ての武器を手に取った。アイドルウィンド市民にとっては不幸な事に、ショットガンやライフル、旧式歩兵輸送車では、怒ったスモークジャガー氏族の1個三連星隊にはかなわなかった。ジャガーは目にした全防衛隊を狩り立てた。三時間以内に、首都住人の半数が虐殺され、建物は瓦礫と化したのである。氏族長会議の前に、兵士たちの行動を擁護せざるを得なくなったリンカーン・オシス氏族長はこう指摘した……アイドルウィンドの事件は、中心領域兵が不名誉にスモークジャガーを騙した二度目の事件であり、中心領域の人々に明白な教訓を与える必要があった、と。ジャガーは別の世界で、さらに生々しい教訓を見せる事になる。


タートルベイ TURTLE BAY

 タートルベイは、ミストウィーバー銀河隊(ギャラクシーコマンダー・コーデラ・ペレス指揮)の侵攻路に位置していた。この世界を守っていたのは、第14ヴェガ軍団である。軍団の隊員には、連合の玉座の継承者であるホヒロ・クリタ王子がいた。スモークジャガーはパイレーツジャンプポイントを通ってタートルベイ星系に入り、通常のバッチェルを行った。軍団指揮官の返答は、ホヒロ王子が指揮する大隊を除き、全メックが氏族に立ち向かうというものだった。王子の怒り狂った反対を聞き流し、タルキト・ニイロ大佐は、ホヒロの部隊に対し、エド市内の防御陣地に入るよう命じた。

 第14ヴェガ軍団は、エドの真北にある牧草地で、2個超新星三連星隊、1個気圏戦闘機三連星隊と対面した。ニイロ大佐は兵士を分散させて戦場に広い弧を描き、中央を取り囲めるようにした。彼の望み通り、氏族軍は危険な戦場の中央に上陸した。ニイロ大佐は、氏族の機体が射程に入り次第集中砲火を浴びせるのを望んだが、オムニメックは長射程を持って、先制攻撃を始めた。その一方で、スモークジャガーの気圏戦闘機はDCMS重戦車の縦隊を機銃掃射し、一度の攻撃で戦車の大半を破壊した。ニイロは麾下の気圏戦闘機隊に迎撃を命じたが、氏族の戦闘機にはかなわなかった。最後の、絶望的な作戦として、歩兵部隊が投入された。塹壕の深くに潜っていた歩兵隊は地面から這い出て、背後から通り過ぎたオムニメックを強襲した。しかしエレメンタルに襲われるまでに、わずかなダメージを与える時間があっただけだった。

 軍団は数時間持ちこたえたが、戦線はぐらつき、崩れた。DCMSはエドに撤退し、そこではホヒロの連隊が軍団の降下船に無線で連絡を取っていた。軍団が氏族にかなわないと悟るとすぐ、ホヒロは宇宙港の施設を徴発し、惑星の通信衛星を介してタートルベイの差し迫った状況をDCMS最高司令部に伝えようとしたのである。それからホヒロはエドの狭い通りに出来る限りの罠を設置した。ジャガーが第14を追って都市に入ってくると、ホヒロ大隊は隠れた陣地から氏族のメックを狙い撃ちにした。クリタの王子はジャガーが撤退、再編成するのを期待していた。そうはせず、彼らは都市内を暴れ回り、DCMS軍を残忍に追い回しながらビルを破壊して、無数の市民を殺した。ぼろぼろになった第14軍団はようやく降伏した。生存者たち(ホヒロ・クリタがその中にいた)はエドの厳重なクルシイヤマ刑務所に捕らえられた。

 勝利したスモークジャガーを当惑させたことに、地元のヤクザがクルシイヤマ刑務所を破り、ホヒロ・クリタと残った軍団員を解放したのである。この脱獄があるまで、スモークジャガーは捕虜の中に連合の王子がいた事実を知らなかった。失ったものの大きさに気付くとすぐに、スモークジャガーは逃亡者の徹底的な捜索を命じた。エドのヤクザ工作員は出来うる限り爆弾を仕掛け、氏族の戦士たちを殺し、ことあるごとにスモークジャガーを悩ませた。ギャラクシーコマンダー・コーデラ・ペレスが部下たちにエドからの撤退を命じた時、ヤクザとエド市民たちは大いなる勝利を得たと信じた。ここに大きな間違いがあった。

 ペレスは戦艦〈セイバーキャット〉に対し、タートルベイの低空に入るよう命じた。エド市の上空に入った時、ペレスは巨大な艦船用レーザー、オートキャノン砲を、かつての誇りある都市がくすぶる残骸になるまで撃ちまくった。この規模の野蛮な破壊行為は、他氏族を心胆を寒からしめさせ、ペレスとその他の責任者に対する反発が巻き起こった。守護派的心情を持つ者たちは、「遅れた中心領域の従兄弟たち」の完全な壊滅は、犯罪的無責任であると宣告し、最も強硬な侵攻派でさえも臆病の現れとして軽蔑した。スターコーネル・ディートル・オシスは、ギャラクシーコマンダー・コーデラ・ペレスに挑戦して、ミストウィーバー隊の指揮権を勝ち取り、ウルフ氏族は今後の戦闘で海軍戦力をすべて取り除くつもりだと発表した。名誉を守るため、他の氏族もこれに従うしかなかった。


第二波:静かなる怒り Second Wave: Silent Fury

 攻略した惑星の反乱を抑えるために、予想より多くの兵士を使わされたスモークジャガーは、第二波で遙かに少ない世界を征服した。タートルベイでの大失態の後、ジャガーは軌道上から反乱を潰そうとはしなくなった。その代わり、コムスターの管理と、小さな反抗に対しても厳しく罰することに頼った。鉄の支配にもかかわらず、異議は上がり続けた。なぜなら、かつて自由だった中心領域市民は、ジャガーの独裁的な管理態勢を嫌悪したからである。

 当然ながら、スモークジャガーの守備隊は、氏族宇宙の入植世界でしているように征服した世界に残り、市民を統治しようとした。氏族の基準によって重要でないと見なされた占領地の人々は、ジャガーの先細る補給を支えるため、軍需物資の製造を強要された。氏族の伝統に忠実だったスモークジャガー当局は、労働者たちに補償をしなかった。報酬は戦士階級に仕える名誉で充分と考えたのである。ますます貧しくなり、飢え、他に選択肢のなくなった、少なくない市民たちが新たな統治者に対して暴動を起こし、コムスターの外交的介入でも反乱を完全に鎮圧することはできなかった。

 さらに力を入れたスモークジャガーのペースは、またもウルフ氏族に後れを取った。「根性無し」の守護派に負けている事に怒ったスモークジャガー戦士の多くは、本来得られるべき栄光を得られなかったとして互いを非難しあい、訓練戦を殺し合いに変えた。エドモンド・ホイト氏族長が訓練戦をやめるよう命じると、欲求不満を持った氏族の戦士たちは攻略した世界の民衆に怒りを向けた。無辜の一般市民に対する攻撃は反乱に火を注ぎ、また氏族は反乱軍を隠れ家から洗い出すのに異様な困難を味わった。この時彼らは気付いていなかったが、ドラコ連合のセオドア・クリタ元帥は全惑星の反乱勢力に出来る限りの武器を密輸していたのである。この大半はヤクザの築いたネットワークを通したものだった。

 地元の抵抗運動と戦うため、ウィーバー氏族長は臨時守備星団隊(PGC)を氏族宙域から持ってくる許可を、シャワー大氏族長から受けた。守備隊を配置したスモークジャガーは、銀河隊群を次の征服に振り分けることができた。


第三波:ウルフを追って Third Wave: Chasing The Wolf

 ウルフ氏族長が侵攻速度を加速させるつもりだと発表すると、スモークジャガー氏族は怒りを持って反応した。憎きライバルに追いつくと決意したウィーバーとオシスは侵攻予定の拡大を計画した。治安維持をPGCに頼るジャガーの氏族長は、集団で次の三つの世界を攻撃する計画を立てた。こうして容易に惑星を攻略出来たのだが、大兵力が別の問題をもたらした。いわゆる楽園症候群である。

 スモークジャガー戦士たちの多くは、ここに来てはじめて戦闘から離れ休息を取り、奪った世界の美しさに心奪われた。結果、少なからぬ戦士たちが、望む地所を得るために仲間内で入札を始めたのである。所有の神判の数は激増して、多くの戦士の気を逸らし、生命を犠牲とした。占領された世界の地元住人たちは、この注意散漫をフルに活用して、氏族の補給備蓄に対する破壊活動を行った。

 二線級の戦士に粗悪な装備の守備星団隊は、当初、猛烈な反乱活動に対する準備が出来ていなかった。惑星ターンバイでは、ペシュト正規隊の残存兵力が宇宙港を奪取して降下船に乗り込んだ。ジャガーの守備隊長は航空隊を呼んで、惑星から離れる前に船を破壊せねばならなかった。スモークジャガーの管理当局が次々と支配を失っていくと、レオ・シャワーズ大氏族長は直々に問題に対処する必要に迫られた。大氏族長は地所に対する所有の神判をすべて無効とし、それから商人階級に対し、各地の労働者を静める方法を考えるように命じた。商人たちは地元住人をボンズマンとし、おとなしくしている限り、労働に対する対価を支払った。さらにこのボンズマンたちを補給庫の近くに住まわせた。ゲリラたちは破壊活動によって大勢の市民を殺したがらないだろうと、正確に推測したのである。

 反乱の波を静めた大氏族長は、氏族に課された四つの世界を奪うべく、自らデルタ銀河隊を率いて戦闘に突入した。大氏族長の積極的な戦術と、圧倒的多数の重強襲級オムニメックの前に、これらの惑星はすぐさま陥落した。悪く始まったにもかかわらず、スモークジャガー氏族は、ゴーストベア氏族、ジェイドファルコン氏族より早く、第三波を終えたのである。ウルフ氏族よりも先に終えていたのだが、ウルフたちは自由ラサルハグ主星を含む、より多くの世界を征服していた。オシス氏族長は決断した……スモークジャガーも主星を奪いとってみせると。


第四波:ジャガーのつまづき Fourth Wave: The Jaguar Stumble

 第四波で、スモークジャガーはDCMSの兵士たちによる最も激しい抵抗に直面した。氏族が侵攻している間は連合領内に侵攻しないというハンス・ダヴィオンの約束を受けたセオドア・クリタは、連邦共和国の国境から兵士を引き抜き、スモークジャガーとの戦いに投入した。すべての世界で、ジャガーは装備の良い断固とした敵を見つけ、しのぎを削ることになった。DCMS兵は一騎打ちを拒否し、その代わり、敵に集中砲火を浴びせ、神出鬼没の一撃離脱襲撃を行った。一度ならず、氏族の指揮官たちは部隊を引かざるを得なくなった。なぜなら、彼らは惑星を奪取するのに必要な戦力より大幅に少ない入札を行っていたからである。第四波はスモークジャガー氏族に侵攻で最初の真なる災厄をもたらした。それは連合の惑星、ウォルコットでのことである。


ウォルコット Wolcott

 たとえそれが、氏族は人間であることを国民に対し証明するだけのものであったとしても、とにかく氏族への勝利がどうしても必要であることがわかっていたセオドア・クリタは、注意深くウォルコット攻防戦の計画を練った。多くの意味でこの惑星は理想的だった……高温の低湿地が深い霧をもたらし東の大陸を覆い、そして大量の樹木がこの地域にすばらしい遮蔽を生み出す。氏族の技術的優位をさらに弱めるため、セオドアは大きな金属製の反射板を樹木からつり下げるように命じた。湖沼から立ち上るガスと、深い木々と、反射板に囲まれたオムニメックのスキャナーは、事実上、使用不能になってしまうはずであった。密集する幹と枝もまた氏族に接近戦を強い、射程の優位をうち消すことだろう。

 次にセオドアはエリートの両ゲンヨウシャ連隊をウォルコットに移し、「ユウウツ」の名前を与え、メック戦士たちの熟練度を新兵とした。スモークジャガーのミストウィーバー銀河隊がウォルコットに到着し、ギャラクシーコマンダー・ディトール・オシスがバッチェルを惑星に対して宣告すると、セオドアの息子、ホヒロは挑戦に応え、スモークジャガー指揮官に対して戦闘の条件を通告した。もしジャガーが勝ったらウォルコットは彼らのものになる。もしユウウツが勝てばジャガーはオムニメック4機とエレメンタルスーツ2ダースをドラコに与えねばならない。それに加え、ウォルコットを二度と攻撃しないという制約が必要だった。

 予想された通り、オシスは最初この条件を蹴った。ホヒロはこの惑星を守るのが新兵だけであり、スモークジャガーにきわめて有利であることを指摘した。スモークジャガーの指揮官が戦闘を怖がっているというホヒロの巧妙な揶揄にいらだったオシスはその条件をのみ、自ら部隊を率いて惑星に降下していった。

 ジャガーのメックは敵が選んだ戦場、悪臭の立ちこめる霧に囲まれた沼に上陸した。高度な走査装置を使えなくなった氏族軍は、厚い下生えの下にサバンナマスター・ホバークラフトが隠れているのを発見するのに失敗したのである。ホバークラフトは完全に氏族オムニメックの不意を打ち、側面を攻撃して、敵を密集させた。氏族メックが固まって前進し始める前に、ゲンヨウシャの重メック大隊が氏族マシンに長距離ミサイル砲撃を浴びせた。死のシャワーがジャガー軍を沼に足止めし、中心領域の軽量級メックによる一撃離脱攻撃の餌食となったのだった。ゲンヨウシャが高速攻撃、離脱で氏族隊を削り取っていくという厳しい数時間の後で、ギャラクシーコマンダー・オシスはついに降伏した。その条件は生き残った氏族のメックが離脱しても良いというものだった。ホヒロは降伏を受け入れ、ゲンヨウシャは氏族降下船の離陸を監視した。だが、ギャラクシーコマンダーは部下と共に発つはなかった。部下の一人が失敗の責任を取らせて彼を処刑したのである。

 第四波はスモークジャガーが四つの世界を獲得したところで終わった。この数字はウルフ氏族に遠く及ばないものであった。恥辱とウォルコットのショックに傷ついたレオ・シャワーズ大氏族長は氏族の栄光を取り戻すために影響力を使うことを選んだ。ウルフの前身をゆるめることを渇望した大氏族長は大軍議を招集し、それは彼の生命を奪うものとなったのである。


災害的打撃 Catastrophe Strikes

 通常の手順を省いた大軍議の開催を正当化するため、シャワーズ大氏族長は、ウルフ氏族の前進速度が全侵攻を危機にさらしていると主張した。それまでに二度、ウルリック・ケレンスキー氏族長はウルフの進撃を弱めようとする試みを退けてきたが、ウルフの成功は他の全侵攻氏族が大氏族長の支持に回るのに充分なものだったのである。ウルリック氏族長は大軍議をウルフ前線に近いラドスタット星系の旗艦〈ダイアウルフ〉上で行うことを求めた。現在、ラドスタット上に他の戦艦はなかった。大氏族長はこれを認め、ラドスタットに向かい、到着するとすぐ幕僚たちを〈ダイアウルフ〉に乗船させた。

 数時間内に災害的打撃が起こった。自由ラサルハグ共和国のエリート気圏戦闘機部隊、第1竜機兵団(Drakons)が、選定公ハーコン・マグヌッソンを護衛して星系内に姿を現したのである。氏族戦艦の攻撃を受け、選定公を捕らえるのを恐れた竜機兵団は〈ダイアウルフ〉への全面攻撃を行った。ウルフ氏族長親衛隊(Golden Keshik)はラサルハグ軍の戦闘機の大半を撃墜したが、一機のシロネが氏族の封鎖を突破した。狙いを定めた第1竜機兵団のティラ・ミラボーグは、壊れた機体を〈ダイアウルフ〉の艦橋に衝突させた。この衝撃と続いて起こった爆発はレオ・シャワーズ大氏族長の命を奪い、ウルリック氏族長を殺しかけた……ボンズマン、フェラン・ケルが彼を安全なところまで引きずっていったのである。

 大氏族長の死は氏族、とくにスモークジャガー氏族を愕然とさせた。直ちに大氏族長の死の責任を中心領域に取らせるか否か、激論が交わされる中、スモークジャガーの氏族長たちは奇妙な沈黙を守った。侵攻を再開する前に、氏族宙域に戻り、新たな大氏族長を選ぶ投票がされた時、オシス、ウィーバー氏族長は棄権した。ジャガーとその指導者たちがショックと悲運から立ち直ったのは、ジェイドファルコンのチストゥ氏族長がそのやり場のない怒りのぶつけ先を示した時だった。ウルフ氏族である。

 氏族世界に戻る数ヶ月のうちに、ジェイドファルコンのチストゥ氏族長はスモークジャガーとその他の侵攻派氏族長たちに対し、シャワーズ大氏族長の死の責任をウルリック・ケレンスキー氏族長に押しつける策略を提案した。これが成功したら、氏族長会議は戦場で彼を処刑する許可を彼らに与えるだろう。もし失敗したら、もっと巧妙なやりかたで彼を破滅させることになる。彼を大氏族長に選んで、侵攻の指揮をさせるのだ。

 ストラナメクティの氏族長会議で、スモークジャガーの氏族長たちはケレンスキーに殺人の罪を着せようと、〈ダイアウルフ〉の艦橋にいた戦士たちを呼び出し証言させた。ウルリックの「中心領域のフリーバースの下僕」、フェラン・ケルが主人を裏切りそうだと信じていたリンカーン・オシス氏族長はケルに発言を許した。そのまちがいに気づくのは遅すぎた。ウルリックを裏切るはずもなかったフェラン・ケルはジャガーの言い分をうち砕いたのである。オシス氏族長はそれからウルリックを大氏族長として推薦し、侵攻派の復讐の第二弾に取りかかった。この策謀は成功し、ジャガーは喜んだが長くは続かなかった。

 ウルリックの大氏族長として最初の行動は、ナターシャ・ケレンスキー(「裏切り者」のウルフ竜機兵団から氏族宙域に帰還した唯一の戦士)をウルフ氏族の氏族長に任命したことだった。次に彼は、氏族がペースをあわせて侵攻を進めるべきだという主張に返答を行った。ウルフが侵攻をゆるめる必然性は何もないと。その代わり、彼は他氏族のタイムテーブルをスピードアップするため、ノヴァキャット氏族とダイアモンドシャーク氏族を侵攻に加え、予備とされていたスティールヴァイパー氏族を完全な侵攻氏族にすることを提案した。スモークジャガー、ジェイドファルコン氏族のペースが遅れているのは援軍が必要であると論評したウルリックは、ノヴァキャット氏族をスモークジャガーの支援に、スティールヴァイパー氏族をジェイドファルコンの支援に回した。ダイアモンドシャークは予備としてスティールヴァイパーと交代させた。

 スモークジャガーの氏族長たちはこの処置に激しく抵抗したのだが、ジャガーとジェイドファルコンは、ダイアモンドシャーク、スティールヴァイパー、ノヴァキャット、ウルフの投票にかなわなかったのである。ゴーストベアまでもが新氏族長の決断を支持した。ベアは望まぬパートナーを押しつけられておらず、よってウルリックに反対する理由はなかったのである。目的を達するため、ウルリックは最後のひとひねりをくわえた。彼は、新しく加わった侵攻軍が独自の補給線を構築せねばならないと宣言したのである。これによって、ノヴァキャットとスティールヴァイパーは「パートナー」氏族から少なくともいくつかの世界を奪う必要が出た。大氏族長は新侵攻氏族に対し、取りたい世界への入札を行うよう布告した。「ジュニアパートナー」はごく少数の防備が固い世界を選んだ。その多くは、前線のもので、一部は氏族宙域に近いものだった。

 ケレンスキーの政治的な策謀は部分的な成功しかなかった。スティールヴァイパー氏族とジェイドファルコン氏族は次の侵攻波を互いの喉元で浪費したが、スモークジャガーはノヴァキャットと早い段階で折り合いを付けた。助けが必要だという言外の含みと、憎悪するノヴァキャットから助けを得るであろうことで侮辱されたスモークジャガーは拒絶の神判に頼るしかないことに気が付いていた。このような神判は侵攻の再開前に貴重な戦士たちを代償とすることになる。そのような代価を望まなかったオシス、ウィーバー氏族長はもっと賢い報復に走った。彼らはノヴァキャットに抵抗の温床となっている六つの世界を渡したのである。これらの世界の平定から解放された兵士たちがジャガーの主力侵攻軍に加わり、連合の首都、ルシエンを強襲する準備を始めた。


第五波:全面戦争 Fifth Wave: All-Our War

 3051年11月の前半、スモークジャガー氏族軍は連合の惑星4つに対し同時に強襲を行った。素早い勝利を予期していた彼らは、氏族不在の間に連合が国境世界の多くを要塞化したのを発見して狼狽した。4つの惑星のうち3つで、スモークジャガー軍は断固たる防衛隊との激しい戦いに引きずり込まれた。ラブリアのみが予定通り一週間以内に陥落したのだった。惑星ハイナーでスモークジャガーは憂慮すべきレベルの抵抗に遭遇した……星間連盟時代のバトルメックで激しく戦う第2アーカブ軍団の1個大隊である。これらのメックはそれまで中心領域軍が使っていないものであった。最終的にスモークジャガーは惑星を得たが、アーカブは見事に真夜中の脱出を成功させてみせた。

 最初の攻撃で4つの世界を征服したスモークジャガーは惑星エイボンを次の目標に選んだ。ノヴァキャットもこの世界を狙ったが、スモークジャガーの氏族長たちは氏族内の戦いで資源を浪費するのを望まなかった。ふたつの氏族が協力してエイボンを獲得し、両者で支配することが提案された。ノヴァキャット氏族長のルシアン・カーンズ氏族長は拒否しようとしたが、スモークジャガーの提案を支持したケレンスキー大氏族長の前に屈した。大氏族長はスモークジャガーの要請に応じてルシエンの強力な防衛網に関する情報を入手しており、犠牲を払ってもこのような重要な目標を得なければならないと考えていた。エイボンを共有することによって、スモークジャガー氏族とノヴァキャット氏族は、所有の神判で価値ある資源を浪費するのを避けるだけでなく、連合の主星に有効な攻撃を仕掛る準備になるだろう。

 スモークジャガーとノヴァキャットのそれぞれ1個星団隊がエイボンに降り立ち、第2アンフィジーン軽強襲団と対面した。氏族軍の優れたマシンと正面から戦えないことがわかっていた彼らは、氏族の補給物資を出来るだけ破壊することを狙い、短く熾烈なゲリラ戦を選んだ。夜陰に紛れたクリタメック中隊群が補給庫を襲って氏族の注意を逸らし、コマンド部隊が爆薬を仕掛けた。「欺くような」夜間襲撃が行われたとしてスモークジャガーの指揮官は第2の指揮所に「ヘッドハンター」星隊を送り込んだ。ヘッドハンターが第2アンフィジーンの高級士官たちを情けない容赦ない攻撃で皆殺しにして初めて、中心領域軍は足を止めたのである。指揮官たちが殺されてからわずか数日後に第2アンフィジーンは崩壊し、ミストウィーバー銀河隊の1個部隊を前に息の根を止められたのだった。

 12月中に、スモークジャガー氏族は攻撃を行わなかった。その代わり、彼らはルシエンへの強襲の準備をした。11月の終わり頃、セオドア・クリタはスモークジャガー氏族、ノヴァキャット氏族連合軍による首都への攻撃が差し迫っていることを知った。この情報は確認されていなかったが、もっともらしい噂によると、スモークジャガーの氏族長たちは計画的なリークによって侵攻計画を公にしているという。もしこれが真実なら、スモークジャガー氏族は中心領域から少なくともひとつの教訓を学んだことになる。心理戦の優位性である。連合のまさに中枢を叩くという意志を見せることによって、スモークジャガー氏族は敵の戦意をくじこうとし、さらには大いなる挑戦のために戦力を集めようとしたのかもしれない。

 ルシエン戦役の準備がほぼ完了したのに伴い、大氏族長はスモークジャガーのオシス氏族長に全面的な指揮権という名誉を与えた。オシスはこれに狂喜した。戦士たちがついにその勇気を試すに足る試練を受けられるだけでなく、大氏族長の地位をかけてケレンスキーに挑戦する政治的、軍事的影響力を得られることになるであろう。


ルシエン Luthien

嵐来る
雲は恐怖と
雨運ぶ
――シン・ヨダマの俳句、ルシエン争奪戦の直前に詠んだもの

 ルシエン争奪戦は氏族侵攻で最大の交戦のひとつであった。これを超えるのはツカイードの戦いのみである。スモークジャガー3個銀河隊、ノヴァキャット2個銀河隊に対し、ドラコ連合はDCMS最高の5個連隊、3個市民軍連隊、大統領のボディガードと古参兵メック戦士からなる予備部隊を投じた。タカシ・クリタ大統領はこの部隊、ドラゴン・クロウを率いた。それに加え、ケルハウンドの2個連隊とウルフ竜機兵団の5個連隊がDCMSを支援すべくルシエンに上陸した。これは救援を要請された連邦共和国のハンス・ダヴィオン国王が送り込んだものである。どちらの氏族もこの有名な傭兵部隊の参加を予想しておらず、よって勝利をつかむのは容易なことだと考えてしまったのである。

 氏族の慣例に沿って、スモークジャガーはバッチェルの際に、戦場を選ぶ権利を敵に与えた。セオドア・クリタは帝都から50キロ離れたタイラカナ平原と周辺の丘陵を選んだ。氏族の気圏戦闘機が戦端を開いて、ルシエンの大気圏内に入り、オムニメックを満載する降下船を援護した。ウルフ竜機兵団とケルハウンドの航空隊が最終的に航空優勢を氏族から奪ったが、スモークジャガーとノヴァキャットは大きく開けた平原への上陸にどうにか成功した。

 上陸から数分内に、氏族のメックは第1〈光の剣〉気圏戦闘機大隊による機銃掃射を受けた。氏族隊のゆっくりとした前進をとどめることは出来なかったが、クリタの戦闘機は相当のダメージを与えた。さらに重要なのは、彼らが氏族の隊列をベイスン湖に押しやったことである。ここでは第1〈光の剣〉の地上部隊が、ゲンヨウシャ、エリートのオトモメック1個連隊と共に待ちかまえていた。スモークジャガーのメックはいつもと違う戦術を選び、一対一で戦う変わりに、長距離集中砲火を待ちかまえるクリタ機に浴びせた。氏族は重い損害を与えたのだが、DSMS部隊は氏族の予想とは異なりすぐさま陣形を崩すことはなかった。

 オトモ連隊が最初にぐらついた。彼らはクリタの隊列の中央を占めており、スモークジャガーの強襲の矢面にたったのである。オトモのメック戦士たちはジャガーがエリート部隊に期待していたよりも遙かに劣る戦いぶりを見せ、ついに部隊が崩壊すると、氏族のメックはクリタ戦線に空いた穴を押し通っていった。指揮官たちが罠にかかったことに気づくのは遅すぎた。先頭にいたスモークジャガーのメックがオトモメックの第三最終戦線にたどり着くと、振動地雷が起爆し、爆発の中に沈んでいった。倒れたメックはクリタのアーチャーを引っかけ、アーチャーは倒れるとすぐに爆発した。まるで爆竹のように残ったオトモのメックもまた爆発していき、ジャガーのメックに危険な破片の雨を浴びせた。

 氏族軍が混乱すると、本物のオトモと第2ヴェガ軍団が彼らの隊列に突撃した。ジャガーは後退し、それから再結集し、側面を叩く第1〈光の剣〉を切り裂き始めた。応じて第1〈光の剣〉は後退したが、それから停止し、失われた分をじりじりと取り戻し始めた。折良くノヴァキャットのメック、航空隊1個ファランクスが到着し、スモークジャガーはクリタの戦線を突破することが出来、帝都を隠す丘に向かったのだった。

 第2ケルハウンド連隊の第3大隊はベイスン湖の畔で第336ジャガー戦闘星団隊に追いつき、氏族がルシエンの首都にたどり着くのを阻止すべく全面強襲を開始した。傭兵部隊はすばらしい戦術を発揮したにもかかわらず、そのメックの大部分が氏族の数的優勢の前に屈服した。第1〈光の剣〉の到着がケルハウンド大隊を破滅から救ったが、重大な被害が出ていたために、部隊は事実上戦闘から取り除かれた。オシス氏族長は傭兵大隊を倒したことにかなりの満足感を得た……事実上戦場のすべてで、スモークジャガーは迅速にすべての敵を粉砕する代わりに、残忍な殴り合いに引きずりこまれていた。

 戦役の二日目までに、残ったスモークジャガー軍はカドグチ谷に到着した。谷の向こう側は、容易に超えられる峡谷を挟んで帝都であった。勝利を待ちきれなくなったオシス氏族長は残った中心領域軍を撃破するであろう大規模な強襲を氏族軍に命じた。長大な2本のメック戦士の戦線が大規模に激突したが、氏族軍はルシエンの強情な防衛隊を圧倒するのに失敗した。氏族隊の一部は驚異的な敗北を被った……第145ジャガー正規隊がウルフ竜機兵団デルタ連隊の餌食となったのである。彼らはジャガー本体から切り離され、最後の一兵までが虐殺されたのだった。

 スモークジャガー第315戦闘星団隊が、第1ゲンヨウシャ、ケルハウンド第1大隊の断固たる強襲を受けて崩壊すると、氏族戦戦はついに崩壊した。中心領域軍は容赦なく氏族を痛めつけ、多大な損害を与えたことから、オシス氏族長はすぐに撤退を考えた。だが、命令を与える前に、第22ジャガー正規隊は防衛線の弱い部分を突いて突破した。第22はこの穴に殺到したが、オトモと第2ヴェガ軍団の残存戦力の恐るべき十字砲火にとらえられただけだった。氏族は数の力で勝つのを期待して、オトモのメックに突撃を仕掛けた。立ち止まって戦う代わりに、オトモのメックは道を開け、第22正規隊がウルフ竜機兵団のアルファ連隊に突っ込むのを許した。第22のわずかな生存者は狩り集められ、帝都の収容所に入れられた。

 2日間のルシエン争奪戦でスモークジャガーは苦々しい完全敗北を被った。参加した3個銀河隊のうち半分が氏族の降下船に乗り、惑星を離れることが出来たのだった。スモークジャガーは損失と激しい屈辱から回復するのに一ヶ月以上を要し、占領した世界の反乱に対する弾圧を増やしてわずかな満足を得たのだった。またスモークジャガーの指揮官は、ノヴァキャットの商人がスモークジャガーが保有する世界の反乱軍へ武器を密輸しているとして非難し、ノヴァキャットと対立し始めた。このような活動の噂は、氏族の守備隊だけでなく抵抗グループにも素早く広まっていった。だが、戦場での敗北を埋め合わせようとするスモークジャガー氏族の傾向を考えると、この非難は単純に不平の神判の口実に過ぎなかったかもしれない。いずれにせよ、神判が争われることはなかった。……ケレンスキー大氏族長は氏族の戦闘力を保持することを望み、浪費を許さなかったのである。

 連合が華々しい勝利をあげてからそう遅くないうちにDCMSの最高司令部は、ウォルコットのリュウケン諸連隊に命令を下し、スモークジャガーの補給庫を破壊し、地元民の武装を実行すべく、周辺の氏族世界に対する電撃的襲撃を行わせた。これに対し、スモークジャガー政府は、破壊活動に関わったと疑われた者、容疑者と間接的にでも関わっている者を無制限に投獄することで応じた。加えて、ジャガーの人員と地元民の接触を全面的に禁止し、破った者には即座の降格が言い渡された。

 ルシエンから約二ヶ月後、スモークジャガーは第五波を再開し、5つの世界を奪った。最終的に成功したのだが、これらの世界の征服による損害はスモークジャガー軍が予想していたより遙かに大きいもので、彼らはウルフ氏族に追いつくという全ての希望を断たれたのだった。二度の敗北で意気消沈したスモークジャガーは、大氏族長が発表した僻地の惑星ツカイード(自由ラサルハグ共和国の残った世界)での代理戦争を歓迎した。ジャガーの氏族長たちはウルリック・ケレンスキーが準備したものすべてを自動的に疑い、またもし負けたら15年の和平を結ばねばならないのを嫌がっていたのだが、それでも同胞たちの前で犯した過ちを取り戻すチャンスを切望していたのである。




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