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作成:2019/08/18
更新:2020/01/19

シャッタード・フォートレス Shattered Fortress



 ダークエイジ。
 HPG網が謎の機能停止を引き起こしてから10年以上経っても、中心領域は破壊的な戦争と混乱の中にありました。
 スフィア共和国はフォートレス内に立てこもり、ドラコ連合はクリタ一族の主流血統断絶、ライラ共和国は氏族の侵攻で崩壊寸前、恒星連邦はニューシルティスとロビンソンを落とされ、主星ニューアヴァロンまでドラコ軍が迫っています。
 そんな中、コールドスリープから目覚めとうとう姿を現したデヴリン・ストーンは、恒星連邦の新国王ジュリアン・ダヴィオンとの同盟を選びます。






3146年: 基礎にひび 3146: CRACKS IN THE FOUNDATION


恒星連邦国王、味方か日和見主義者か? THE FIRST PRINCE: ALLY OR OPPORTUNIST?

[begin transcript]
タッカー・ハーウェル「話をはっきりさせましょう。我々は通り抜け不能なフォートレスの後ろに座っていて、あなたは1通だけでなく3通もベリグラフの招待状を送った。『遠慮なく中でワルツを踊って下さい』とね。いったいどんな得があるんです?」
デヴリン・ストーン「我々にはジュリアン・ダヴィオンが必要だ。彼は私の計画に組み込まれている。彼が最初にどの惑星に姿を現すのか知るすべはない」
ハーウェル「招待状が強奪されたら? ジュリアン・ダヴィオン以外がフォートレスの壁を通ってきたら? 何人もやってきたら? この種の機密保護違反を受け入れる余裕があるのか?」
ストーン「心配する必要があるとは思わないな。確実にジュリアンだけが来るように対策を施している」
ハーウェル「よろしい。全知全能のデヴリン・ストーンと話していることを忘れていたようです」
ストーン「その言い方はやめてくれ、タッカー。たとえ、誰かがフォートレスをすり抜けるのに成功しても、私のやり方でジュリアンが安全に到着できるなら、被害は受け入れられる」
ハーウェル「オーケー。でも、なぜジュリアン・ダヴィオンなのか? なぜほかの大王家ではないのか? なぜ氏族の氏族長を招待しなかったのか? お気に入りと遊ぶ余裕があるのか?」
ストーン「共和国と恒星連邦は長い歴史を共有してきた。ダミアン・レッドバーンとハリソン・ダヴィオンは危機の際に同盟を結んだ。ハリソンの従兄弟は恒星連邦の約束の半分を守る以上のことがあるだろう」
ハーウェル「(鼻で笑い)それで? AFFSの全軍がやってきて、2方面で戦い続けながら、この穴から掘り出してくれるというのです?」
ストーン「(くすりと笑い)それは私が考えていることではないな」
ハーウェル「それであなたの壮大なマスタープランとはなんなのです?」
ストーン「現時点では君が気にするところではない」
ハーウェル「戯言を。なぜあなたがそうするのかを尋ねているんです。あなたはデイヴィッド・リーアの墓に、私が知るべきことすべてを話すと誓ったはずだ。そうではなかったのか?」
ストーン「そうだ。君は私の計画のあらゆる側面を知る必要はない。少なくとも今はまだ」
ハーウェル「(ため息をついて)私が望んでいるのは、マジックミラーを反対に見せるような恐ろしいリスクを冒しているとあなたに知って欲しいということです。つまり、ジュリアン・ダヴィオン国王があなたの望む勇敢なる騎士などではなかったらどうするのか? 彼が裏切って、フォートレスを下ろす方法を我らが準備する前に探したらどうするのか?」
ストーン「もしそうなったら、タッカー、我々はこの宇宙で本当に一人なのかもしれないね」
[end transcript]
 ――ストーンの非公式会談、書き起こし #B125-F、3146年1月2日






混沌の種をまく SOWING THE SEEDS OF CHAOS

 3146年6月、ジュリアン・ダヴィオンと側近たちは地球に到着し、即座にジュネーブの政府庁舎内にある極秘のオフィスに案内され、待っていたデヴリン・ストーン総帥と面会した。

 [3145年4月にストーンが冷凍睡眠から起きた後、ヨナ・レヴィンは総帥の官職を明け渡していた]

 数度の会合の中、ふたりは共和国と恒星連邦の未来について話し合った。最初の会議で、ストーンはジュリアンに元総帥ダミアン・レッドバーンとハリソン・ダヴィオンが3135年の聖騎士ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンの葬式の際に協定が結ばれたことを思い起こさせた。この口約束が文章で公式化されることはなかったものの、レッドバーンとハリソンは外部の危機に対する相互防衛条約に同意したのである。ストーンの冷凍睡眠中にフォートレスリパブリックの壁の後ろで安全だったRAFは、カペラ大連邦国とドラコ連合の侵攻に対して恒星連邦を助けることが出来なかった。

 ストーンは、恒星連邦を支援するためにRAFのタスクフォースを派遣して、ニューアヴァロンへのDCMSの脅威を和らげると約束することで、両国間の同盟に敬意を払った。このタスクフォースはフォートレス・ウォールが降りたら送られることになるが、そうすると全共和国が危機にさらされるため、今すぐというわけにはいかない。援助と引き換えに、ストーンはジュリアンに使える戦力のすべてを使って、恒星連邦宙域に戻る間、カペラ大連邦国をかき回し続けることを要請した。恒星連邦がドラコ連合相手に暫定的に失った領土は、ウォールが降りて、RAFが姿を現した時に回復される。ジュリアンが大連邦国を苛立たせ、帰国するのに必要な戦力を与えるため、ストーンは1個連隊分の兵士と物資を提供した。この中には、ストーンからジュリアンへの個人的な贈り物であるテンプラーIIIが含まれていた。新しい装備の大半は地球の生産ラインから出荷されたもので、いまだ共和国のパレード用の塗装と装いであり、バトルメックと装甲車両の一部はフォートレス・リパブリックの外には存在しない新型モデルであった。ストーンはジュリアンに恒星連邦=ドラコ連合前線の最新情報を見せた(ニューアヴァロンがドラコ連合の次の目標であることが示唆されていた)。

 ドラコ連合が恒星連邦にとって差し迫った脅威なのだが、ストーンの諜報によると、カペラ軍は共和国と恒星連邦の両方にとって危険になるほど強力なのである。ニューアヴァロンの不安定な立場はジュリアンにとって大いなる苦痛の種であったのだが、ストーンの戦略は合理的であると彼にはわかっており、部下たちを大きなリスクに晒すことなくCCAFの後方と展開地点に相当な損害を与える機会はまたとないものであった。心ならずも、ジュリアンは新戦力が移動可能になるやいなや大連邦国宙域に向かった。エリック・サンドヴァルとの合流は時を待つ必要があった。





裏庭で跳ね回る A Backyard Romp

 6月7日、ジュリアン・ダヴィオンの儀仗兵と新戦力タスクフォース・パノプリーは、大連邦国宙域のアカマーに再び姿を現した。ジュリアンは、襲撃に第1ダヴィオン近衛隊の中隊を参加させず、共和国に提供された連隊の腕試しを選んだ。命名ドーンガード(ニックネームはストーン・コヴナント)は、第1カノープス槍機兵団の監視所、宿営地、メックハンガーを叩き、カノープス槍機兵団が撃退しようと無益な行動に移った時には破壊の跡が残されていたのみであった。槍機兵団の指揮官、セントレラ=トムキンス大佐はCCAFの連絡士官に襲撃部隊は共和国であると報告した。このニュースは首相と戦略局にとって据わりの悪いものであった。

 ドーンガードが大連邦国の内側の目標に向けて出発する前に、MIIOの諜報部員がジュリアンにエリック・サンドヴァルのマーレッテ補給庫を使った欺瞞キャンペーンについて知らせた。ここからジュリアンは攻撃の計画を立案し、諜報部員はジュリアンのタイムテーブルをタスクフォース・ナヴァレと南十字星境界域の部隊に伝達した。

 タスクフォース・パノプリーはアカマーからリムワードのニンポーにジャンプし、郷土防衛軍の小規模な弾薬庫いくつかを破壊した。ニンポーの市民軍は大損害を被ったが、共和国/恒星連邦の共同襲撃部隊と思われるものへの降伏を拒否した。目的を達成したパノプリーは降下船に戻ろうとしたが、厳格な命令に沿って行動していた郷土防衛軍の残存戦力は退却する攻撃部隊の妨害に動いた。パノプリーから何度も一時停戦の申し出を受けた後、郷土防衛軍は立ちはだかり、迫るメック中隊に一斉砲撃を行った。この弾幕でドーンガードの副指揮官であるネイル・グラント中佐が戦死し、パノプリーは郷土防衛軍を倒すしかなくなったのだった。





挑戦 THROWING DOWN THE GAUNTLET

 3140〜3141年のメリッサ・シュタイナー国家主席に対するウルフの反乱はライラ共和国の劇的な縮小の始まりとなった。3141年から3146年半ばまでの間、共和国は軍事クーデター、シュタイナー国家主席の死、有名なケルハウンドの潰滅に見舞われた。ウルフ氏族によるリムワード国境沿い侵攻、ジェイドファルコン・ヘルズホースによるドネガル州、コベントリ州収奪(ウルフとジェイドファルコンによる主星強襲含む)、自由世界同盟による領土侵犯に苦しんだ。わずか6年で、共和国はかつての栄光の残骸となったが、岩盤にまで落ちるには長い道が残されていたのである。





忠誠心のテスト A TEST OF LOYALTY

 シュタイナー家にとって状況がさらに悪化するサインのひとつは、3146年6月後半にやってきた……ジェイドファルコンの第11ファルコン軽装隊がドネガル軍事管区のキャメロンを調査襲撃したのである。軽装隊はこの地域のライラ兵の戦力を見積もるために上陸したのだが、ウルフハンターズ傭兵連隊が惑星上におり、ファルコンとは交戦しようとはしなかった。スターコーネル・ブレンダがキャメロンの自然資源に対する公式なバッチェルを出すと、アルファ・ドラガン・フレッチャーは素早く返答した。「この惑星はすでに我らが関与するところではない」。それからウルフハンターズは星系を出立し、キャメロンの市民軍に貧乏くじを残していった。ファルコンにこの世界を占領する意思はなく、ウルフハンターズが放棄するとすぐに星系を離れていった。

 ライラ諜報局の報告によると、アナスタシア・ケレンスキー、ウルフハンターズの元アルファは、最近ウルフ氏族の副氏族長の地位に昇っていた。氏族で二番目の地位に任じられたのに際して、ケレンスキーは出身傭兵部隊にウルフ氏族の正しい地位に加わることを単刀直入に求める寸前の招待状を差し出した。ウルフハンターズは満場一致でアナスタシアの求めを受け入れ、いまだライラ共和国との契約下にあったにも関わらず、ウルフ帝国へと向かっていった。ウルフ帝国が彼らを傭兵として雇ったのか、ウルフ氏族軍に吸収したのかは不明である。





猟犬の群れの中へ SEND IN THE HOUNDS

 さらなる苦悩が、9月5日、ライラ共和国の玄関口にやってきた。攻撃の計画を数週間練った後、ジェイドファルコンがアークロイヤル戦域とドネガル軍事州で最大の軍隊を持つ惑星、アークロイヤルに襲いかかった。マルヴィナ・ヘイゼン氏族長と麾下のラプター親衛隊が強襲の先陣に立った。放浪ウルフは長年にわたってアークロイヤルの防衛を努めており、ファルコンの側面の棘となっていたが、この数十年間、ライラ人民はこの地域の揺るがぬ守護者として彼らを頼るようになっていた。もし、放浪ウルフを事実上の主星から追い払うことが出来れば、アークロイヤル戦域とドネガル州は即座に陥落するとマルヴィナは気がついていた。

 9月5日、5個ファルコン星団隊が入札され、惑星に上陸した。放浪ウルフは惑星上の3個星団隊を動かした。アークロイヤルのケルハウンド(大半はいまだ訓練中)と地元の雇用ホールから数個傭兵団が放浪ウルフの横に立って戦うことを選んだ。ガットハイム大陸、グルンヴァルト大陸、ジェレットラント大陸の上陸地点は激しく争われた。降下船を出たファルコンは激しい砲撃にさらされ、多くの三連星隊が輸送船を守るために戦闘降下を実施せねばならなかった。

 マルヴィナ・ヘイゼンは放浪ウルフを追放された氏族と見て、よってゼルブリゲンの価値がないと見なした。ファルコンの部隊はことあるごとに砲撃を集中させ、ウルフも同じやり方で返した。だが、マルヴィナは最も残虐な攻撃をケルハウンドに向けた。彼女は3142年にティムコヴィチを軌道爆撃して、ケルハウンドをほぼ潰滅させたと見ていたが、長きにわたりカランドラ・ケルの妨害攻撃を受けて、残ったハウンドの根絶を個人的任務としたのである。傭兵に対する彼女の復讐は、ケルハウンドの隊員を一人残らず追い立てて、シュライクで倒すことだった。

 第一週が終わるまでに、ウルフはオールドコンノートとウルフシティの周囲を固守していた。マルヴィナはウルフ前線に次から次へと戦士を送ったが、防衛側が揺らぐことはなかった。二週目に、第53ファルコンタロンがオールドコンノートの占領に成功し、マーチン・ケル大公は、ウルフが都市からの脱出を援護していた際に殺された。惑星高官数名が捕らえられ公共放送で処刑のシーンが流されたが、ウルフはいまだウルフシティを守っていた。

 戦闘の第三週、マルヴィナは持てる手をすべて使うと決めた。攻撃に先駆けて氏族ウォッチのエージェントが集めた情報を使って、マルヴィナは1個星隊のエレメンタルをウルフシティに潜入させた。侵入者たちは放浪ウルフのシブコ施設のひとつを探り当て、発見した胚(懐胎済み)をすべて破壊した。それからキャンパス中で暴れて、年齢や血統にかかわらず、挑んでくる候補生と教官を皆殺しにした。ウルフ歩兵が侵入者を撃ち倒すまでに、ダメージはすでに与えられていた……放浪ウルフは5個シブコ分の胚と候補生を失ったのである。

 放浪ウルフ氏族長パトリック・フェトラドラルは当然ながら怒り狂った。3日後、戦闘が凪いだ時、彼は前線に出て、マルヴィナに戦うよう呼びかけた。マルヴィナは放棄されし氏族の氏族長など自分が出る価値もないと考えた。彼女はパトリックの挑戦を受ける代わりに、ウルフ氏族と護衛のエレメンタルにミサイルの雨を集中させるよう命令した。パトリック・フェトラドラルが死ぬと、ウルフは狂乱したが、ミリアム・ショー副氏族長はウルフシティに後退するよう命じた。副氏族長はパトリックの死への復讐を望んだが、放浪氏族が生き残るなら時間が重要になると理解していたのである。ファルコンは数と火力でウルフに勝っており、副氏族長はヒジュラを求めることなく(どうせ与えられないと思っていた)、第1ウルフ軍団に出来る限りの時間を稼ぐよう命じた。

 放浪ウルフは、遺伝子サンプル、シブコ候補生、予備物資、民間階級の最も重要なメンバーなど、移動出来る資産をすべて集めた。第1ウルフ軍団がマルヴィナ軍を阻止する間、多数のウルフ降下船が放浪ウルフ氏族の中枢を運んで、ドネガルへと向かっていった。さらに降下船数隻がケルハウンドの一族郎党多数を積んで、カランドラ・ケルに合流した。残された第1ウルフ軍団のうち生き残った戦士はごくわずかだった。生き残ってボンズマンとなったのはさらに少なかった。

 アークロイヤル潰滅の一報がアラリック・ウルフに届くと、彼は放浪ウルフに申し出を行った。「帰還せよ、すべては許される」。ドネガルにいる放浪ウルフの多くが、ウルフ氏族に帰るというアラリックの申し出について考えたが、ジェイドファルコンがいまだライラ共和国に脅威を与えていたことから、大半が拒絶した。


作戦後報告 After Action Report

日時: 3146年9月19日
人物: メック戦士チアーナ・ウルフ
作戦: ウルトラの脱出
場所: アークロイヤル

 証言: 我らの任務は、ファンデルワールス地区を通って、アセット"ウルトラ"を脱出させることでした。ジェイドファルコンは最終的にオールドコンノート周辺の防衛を深く押し進んできたため、我らは船を使い海を通ってウルトラを護衛するつもりでした。私は星隊の左側面で、ウルトラはノックス装甲トラックにあり、スターキャプテン・トゥコがティンバーウルフで同行していました。フレッド・T・バリー海軍基地から2クリックの地点で、ベイリーが陣形の前で接触を報告してきました。その数秒後、150メートル先に私はシュライクを目視しました。シュライクがジャンプすると、私はラインバッカーの重大口径レーザー両方を放ち、直撃させました。大量の装甲を失い、空中でバランスを崩したシュライクは近くの通りに墜落しました。私は再び砲撃し、シュライクはオートキャノンとレーザーを私に浴びせました。

 急上昇する熱が私のメックの移動力を下げました。私はジャンプジェットを吹かして、1ブロック向こうに着地しました。私は空の倉庫に入り、シュライクは30秒後に着地しました。シュライクは私を探し、私はシュライクが背中を向けるまで待ちました。私はすべての武器を解き放ち、弾薬にヒットさせ、ファルコンの右胴体を吹き飛ばしました。そのパイロットは再びジェットを使いましたが、パーシャルウィングがもうないことに気づきませんでした。シュライクは建物に接触し、視界から消えました。

 私はシャットダウン警告が収まるのを待って、脱出路に戻りました。私はウルトラの乗ったノックスとフランベルジュAの間に、スターキャプテン・トゥコがいるのを目撃しました。彼のティンバーウルフはインフェルノジェルで燃え上がっており、ファルコンはさらに斉射を浴びせました。十数発のミサイルがオムニメックの全身で爆発しましたが、ファルコンPPCは外れて、たまたまノックスに命中し、ノックスは回転しながら店頭に突っ込みました。それはゼルブリゲンに抵触したので、私はファルコンに中口径レーザーを撃ちました。フランベルジュは私の方を見て、スターキャプテン・トゥコに向き直り、玩具にするかのようにティンバーウルフを破壊し尽くしました。私はフランベルジュと砲撃を交わしました、スターキャプテン・アンセラ・ワードからの撤収命令を受けて戻り、フランベルジュを撒きました。

 作戦追加: ウルトラはノックスの残骸の中で死亡しているのが発見された。検死によると鈍的外傷およびPPCによる大規模な火傷が見られた。死因は横隔膜の組織損傷による窒息である。

 結論: 通信と情報分析のミスにより、ウルトラの脱出は遅れた。この護衛タスクフォースは、敵軍の作戦妨害を考慮に入れると、目標達成に必要な資源を欠いていた。

 [エージェント・フーリーチンによる3146年9月29日補遺:コードネーム"ウルトラ"はマーチン・ケル大公と確認された]






ドラゴンの攻撃 THE DRAGON STRIKES

 エリック・サンドヴァルは考えた……MIIOとDMIの報告を見る限り、恒星連邦中枢への侵攻は、起きるかどうかでなく、いつ起きるかの状態にあると。諜報部員たちは既知のDCMSの陣地を把握し続けたのだが、クーリエ・ネットワークに依存せねばならないことは、報告の伝達が極めて遅くなることを意味していた。

 3146年の第一四半期に、ドラコ連合軍はパルミラ・サムに移動し集結した。その後の4月後半、そこにいたDCMSの2/3以上が未知の目的地へと向かっていった。AFFS最高司令部はこれらの連隊群がどこに行ったかを決めるために緊急集合したが、元帥たちはどこが攻撃されるのか察しが付いていた。メイナードとレミントンで小競り合いが発生しているとの噂は根強かったが、真の目標がニューアヴァロンのフォックスデンに届くのは手遅れになってからだった。

 3146年7月8日、恒星連邦最悪の恐怖が現実となった。ドラコ軍がニューアヴァロンに到着したのだ。AFFSの航空宇宙戦力がDCMSの上陸を阻止するために分厚い機動防衛を展開したが、管領トラナガが攻勢に参加させた大量の降下船、ポケット戦艦はダヴィオンの機動防衛をほとんどそのまま突破した。3日にわたってDCMSの気圏戦闘機は、戦略拠点と判明しているAFFSの集中地点を爆撃し続けた。4日目、3個DCMS連隊と3個ウルフ竜機兵団分遣隊は重要な陣地のいくつかに統制された上陸を行った。第5〈光の剣〉、第2ゲンヨウシャ、リュウケン=ハチがAFFSの戦線を深く押しこむなか、竜機兵団は突撃隊として使われた後で後退し、後方守備と掃討任務についた。

 2週間以内に、連合兵は重要な戦略拠点を占領したが、ニューアヴァロンを巡る戦いは終わりからほど遠かった。長く争われたドラコリーチとまったく同じように、DCMSとAFFSは一進一退を繰り返した。第1アヴァロン装甲機兵隊、ダヴィオン強襲近衛隊、ニューアヴァロン南十字星境界域市民軍は受けたのと同じくらいの打撃を与えたが、DCMSと侮りがたい竜機兵団の連係した力をはねのけることが出来なかった。最高司令部は膠着を打破するために援軍を呼んだ。ニューアヴァロンの防衛部隊が、救難信号を聞いた者がいたかどうか知るまで6週間が経過したのだった。





ドラゴンの締め付け THE DRAGON CONSTRICTS

 ニューアヴァロンの戦いの三ヶ月目に入ったドラコ連合軍は、AFFS防衛部隊のファイティングスピリッツを折ろうともくろんだ。戦場での交戦に加えて、DCMSはプロパガンダキャンペーンを始めて、民衆に(そしてAFFS)にジュリアン・ダヴィオンがニューシルティスでカペラ大連邦国との戦闘で殺され、政府高官たちは秘密裏にニューアヴァロンから逃亡し、惑星は失われたと思わせようとした。これらの噂が真実だという可能性はダヴィオンの士気に壊滅的な影響を与えた。AFFS軍は戦術的なミスを犯すようになり、DCMSはそれぞれを最大限に活用した。

 10週目、第2ロビンソン特戦隊がパイレーツポイントに到着し、惑星に進む一方、航空大隊がDCMSの航空宇宙網を突破した。この機動で数隻の小型降下船と少なくとも1/3の航空宇宙支援が犠牲になったが、ニューアヴァロンの防衛部隊に新たな活力をもたらした。この新しい戦力はコネマラ平原で第5〈光の剣〉の第2大隊を釘付けにして撃破し、DCMSの陣地に対する積極的な強襲が再開された。応じて、トラナガはウルフ竜機兵団が戦闘任務を求めるのに折れて、前衛任務を任せた。ここまで竜機兵団は活用されていなかった。傭兵がドラコ連合最大の栄誉を盗まないように管領が温存していたのである。任務変更から数時間以内に、竜機兵団はロビンソン特戦隊の哨戒線を突破した。ニューアヴァロンの救世主は11時間で崩壊して戦場から逃げ出し、惑星の組織的抵抗が終わる弔鐘が鳴り響いた。

 10月3日、AFFS最高司令部はニューアヴァロンからの全面的な撤退を通知した。16時間後、最高司令部と重要な政治家たちはドラコ連合の哨戒を逃れ、恒星連邦の残った境界域主星ジューンに逃亡した。生き残った惑星防衛部隊の大半も逃げ出したが、ダヴィオン強襲近衛隊の頑固で粘り強い少数がゲリラ戦を実施するために残った。

 ドラコ連合がニューアヴァロンを得てからすぐ、DCMS兵はここがドラコ領であるのを思い起こさせるために手を打った。彼らはダヴィオン家関係の彫像や記念碑を引き倒した(そのうち一部は数世紀にわたって建っていた)。恒星連邦を特に賛美する芸術や建築物は破壊され、焼かれ、倒された。

 この感情は、兵士たちが治安妨害と考えたもの、連合の教えに反するとされたものにまで広がった。占領の第一週には、ニューアヴァロンカソリック教会の教皇ベネフィセント17世が発見され、「反乱誘発」と「ドラコ連合内で許可されてない宗教の公然とした活動」によって枢機卿団と共に殺された。教会の上層部の生き残りは龍の爪を逃れ、地下に潜って強襲近衛隊の抵抗活動に加わった。








3147年: 嵐の前の静けさ 3147: THE CALM BEFORE THE STORM





円卓結成 FORMING THE ROUND TABLE

 3個連隊分の各種傭兵団がゴシェンに到着するに従い、ジュリアン・ダヴィオン、エリック・サンドヴァル指揮下の戦力は膨れあがり続けた。マーレッテからゴシェンへの進軍中に、ジュリアンが雇った新たな兵士たちは、現在惑星上にいるAFFS連隊群から作られた2個タスクフォースを大いに補った。傭兵たちは中隊、小隊規模のまま置かれることはなく、来たるべき戦役の兵站・指揮の統制を効率化するため、連隊、大隊規模のパッチワーク編成に組織化され、フォーチュン・エーブル、フォーチュン・ベータ、フォーチュン・チャーリーと名付けられた。この戦力組織に同意しなかった少数の部隊はただちに解雇され、契約の解約条項に従って補償された。

 一番目のタスクフォースは、DCMS軍を元ドラコ境界域世界から駆逐する、パーシヴァル作戦に割り当てられた。二番目のタスクフォースは、ケルベロス作戦に指名され、戦力は大部分が雇用された傭兵団からなった。彼らの最終的な目的地は、傭兵たちの中に潜んでいると考えられるマスキロフカの工作員を妨害するために公開されなかった。1月末までに、計画はすべて策定され、2個タスクフォースは目的地に向けて旅立った。だが、国王は第1ダヴィオン近衛隊の儀仗兵を伴い、公式の戴冠式について恒星連邦の亡命政権と会談するためジューンへと向かった。

 タスクフォース・ケルベロスは3月前半にゴシェンを経ち、本当の目的地の詳細は必要に応じて知らされた。最初のジャンプ目標はアカーラへの補給移動であった。タスクフォースがジャンプし、数個傭兵部隊が補給積み込みのため惑星に送られると、フォーチュン・エーブルにまとめられた1個中隊、タイガーハントがAWOL(無許可離隊)した。空中偵察を行ったケルベロスの総司令官、ライアン・ダヴィオン=コールズIII世提督(第5南十字星部隊)は傭兵中隊が惑星上で活動しているカペラのアジテーターに合流しようとしていることに気がついた。だが、タイガーハントの指揮官はタスクフォースがアカーラでなく実はアクストンに降下したことに気づいておらず、よって傭兵を支援する者はいなかった。実際、この補給任務は部隊内の裏切り者をいぶり出すための偽装だったのである。

 このような著しい契約違反に怒ったダヴィオン=コールズ提督はタイガーハントを裏切り者と糾弾し、第1ダヴィオン補助隊を送り込んで追わせた。アクストンの地形について適切な説明を受けていた第1補助隊は、地方部でタイガーハントを追い回し、通り抜けできない山脈に追い詰めた。タイガーハントは最後のひとりまで戦ったが、補助隊は傭兵を殺さないという厳格な命令を受けていた。ダヴィオン兵はタイガーハントの装備をすべて破壊し、山の斜面に彼らを置き去りとした。それからダヴィオン=コールズ提督は惑星政府にハントの裏切りを伝え、惑星政府は地元市民軍に対し、発見し次第殺すよう即座に命令を下した。立ち往生し、身を守るもののなかったタイガーハントの隊員たちは、山の斜面で死亡するか、惑星をかけたマンハントの目標となったのだった。





ステュクス川を渡る CROSSING THE RIVER STYX

 ケルベロスの目標のほとんどを達成した3個タスクフォースからの支隊は、作戦の最終段階に向けてタイゲタに集合した。国王の直接指揮下にあるタスクフォース・ステュクスは7個連隊……AFFS4個連隊、傭兵3個連隊で構成されていた。フォーチュン・チャーリーに加えて、ジュリアンは第12ヴェガ特戦隊とアイリシアン槍機兵団第59打撃連隊(共に恒星連邦が長期雇用している連隊)を参加させた。

 12月4日、タスクフォース・ステュクスはニューシルティス星系のパイレーツポイント2箇所に到着した。マウレドッグ大陸中で熾烈な上陸戦を繰り広げた後、第5南十字星部隊がステュクスの先陣を率いて惑星首都サソーに向かった。

 武家ヒリツの哨戒部隊、第4マッカロン装甲機兵団の哨兵に遭遇したのに加え、ジュリアンは王朝親衛隊と武家カマタが存在することに気づいた(両部隊ともにタスクフォース・キメラから逃げてきた)。首相からの直接命令を受けて、王朝親衛隊と武家カマタの生存者たちは、修理と再武装のあと、ニューシルティスの守備隊を増強するために後退していたのだ。

 それからステュクスは重要な戦略目標を占領するために分割された。第1ダヴィオン近衛隊とフォーチュン・チャーリーはケーブ(境界域主星の地下司令部)を奪取すべく配された。第5南十字星部隊と第1ダヴィオン補助隊は、第二司令部にして士気強化の役割を果たしていたハセク家公爵館の確保を任された。第59打撃連隊と第2補助隊はサソーの第一宇宙港を狙い、第12ヴェガ特戦隊の目標は境界域主星政府ビルと行政事務局であった。

 第5南十字星部隊はトラブルもなく、赤道の砂漠近くにあるハセクの地所にたどり着いた。撃ち合いが始まった直後、王朝親衛隊のエリザ・ザオ上校は完全な2個バトルメック連隊相手には持ちこたえられないことに気づいて、部下たちに第5南十字星部隊を足止めするよう命令を出し、麾下の指揮中隊は邸宅にいたカペラ士官、貴族、その他の重要な人員を脱出させた。脱出が完了すると、王朝親衛隊は戦闘退却を実施し、それから邸宅に間接砲を撃ち込んでがれきへと変えた。

 第59打撃連隊によるサソーの宇宙港奪取を妨害する第1MACは傭兵を航空攻撃で足止めした。第59打撃連隊が第1MACの哨戒線を突破しようとするたび、結果は災厄となった。それは第1MACが1メートルごとに身をなげうったからだ。アイリシアン槍機兵団は援軍を求めたが、ジュリアンは第2補助隊を予備のままとした。

 第12ヴェガ特戦隊もまた目標を目指す上で困難に足を突っ込んでいた。武家ヒリツの戦士たちは、サソーの通り1本ごとに足止めしようとし、特戦隊は何度か完璧に計画された待ち伏せに突っ込んだ。特戦隊の後衛に突如として王朝親衛隊が到着すると、傭兵は退却に追い込まれた。

 ジュリアンは直々にケーブへの強襲を率いた。サソーの地下深くに掘られたトンネルの複雑なネットワーク内に位置するケーブは、CCAFが惑星を保持する主軸となっていた。都市外の隠された入り口に向かう途中、第4MACと武家カマタの支隊は第1近衛隊の側面を突こうとした。ジュリアンはフォーチュン・チャーリーにカペラを出来る限り食い止めるよう命令し、そのあいだ彼は第1近衛隊を率いてケーブの中へと向かった。彼は信頼できる地図を持っていたが、カペラはトンネルを崩落させ、地雷原を設置した。近衛隊のメック数機は落とし穴やその他の罠で手足を失った。20分後、フォーチュン・チャーリーはトンネル内の第1近衛隊に追いついた。

 ジュリアンは傭兵のメックがわずかに傷ついている程度なことに気づいた。直後、チャーリーの一部が至近距離でジュリアンの部隊に向けて発砲した。国王の指揮中隊はジュリアンのテンプラーIIIを守り、核融合エンジンのある背面への砲撃を受けて多くが犠牲となった。残虐な砲撃戦がトンネルをゆるがし、ジュリアンは部下たちがフォーチュン・チャーリーの裏切り者を押しとどめる間、ケーブを進むしかなかった。

 1時間以内に、チャーリーの部隊は突如追跡をやめた。ジュリアンが後で知ったことでは、第5南十字星部隊が破壊されたハセクの地所を放棄して、助けに駆けつけ、トンネルネットワークの中でチャーリーと第4MACを足止めしたのである。後衛が安定すると、ジュリアンの指揮中隊はケーブの中に押し入り、抵抗拠点をすべて掃討した。

 ケーブが陥落すると、カペラの防衛部隊は作戦を統制する確かな手段がほとんどなくなってしまった。少しずつCCAF連隊群は後退し始め、退却を援護するため民間の施設、居住地に火を放ちさえした。CCAFはまだ惑星上に残っていたものの、タスクフォース・ステュクスは12月21日までにすべての目標を支配下に置いた。4日後、国王はニューシルティスの解放を宣言した。カペラの抵抗勢力は3148年2月に退却するまで、二ヶ月にわたって小規模な襲撃とゲリラ攻撃を続けることになる。

 終わってみると、ステュクスの傭兵部隊はカペラと同じくらいの損害を被っており、AFFS連隊に比べると50パーセント近く多かった。損耗率が高かったのは、ジュリアンがダヴィオンの正規部隊を温存するために傭兵の命を犠牲にしたからだとは、傭兵の多くが主張したところである。この損害率は彼が野戦指揮官として欠点がある証拠だと信じた者たちもいた。一部はジュリアンが部下たちよりも傭兵のほうが上手く仕事をやってのけると信じていたという意見を述べた。ニューシルティスで勝利したにもかかわらず、AFFSと傭兵たちの国王に対する信頼は徐々に弱まり始めたのである。


謎の襲撃者 MYSTERY RAIDERS

総統へ

 ジェイドファルコンの惑星、チャハル、ロードサイド、ブラックアースなどが、小規模だが熟練の戦力による襲撃を受けました。この襲撃中隊は、PGC(臨時守備隊)を出来る限り避けて、非軍事の食料、医療の倉庫をきれいにさらっていきました。それぞれのケースで、地元のHPGは一時的に占領されましたが、メッセージは送られてないことを技術者が報告しています。しかしながら、各HPGが次の送信作業を行った後、施設は爆発し、500メートル半径の建物が倒壊しました。そのときまでに襲撃部隊はどこか遠くに去っています。

 この襲撃部隊の正体は不明です。彼らのメックは余計なものを取り払い、連隊の記章をつけていませんでした。メックの修理状況から見て、彼らは正規のパーツや工場を使えていません。手足はシャーシと別々で、武装は本来とは別の場所に押しこまれています。戦闘から逃れようとしていたとしても、このような部隊がソラーマやPGCを圧倒したのは注目に値します。

 この襲撃のより興味深い側面は、正体不明で応答装置を使わない航宙艦の小艦隊が同行していたことです。各船が最大数の降下船を接続していましたが、襲撃部隊を展開するためにボロボロのフォートレス級降下船1隻だけを使っていました。積載していたメックと同じように、降下船は所属を示すものを付けていませんでした。それぞれの襲撃が終わると、フォートレス級が戻ってき次第、全艦隊はジャンプして行きました。

 これら襲撃部隊の最終目標は現時点で不明です。

[サイン]
エージェント684-991-302
3147年11月19日



ハウンド地下へ HOUNDS GO TO GROUND

[総帥へ: ジェイドファルコン宙域から発信されたHPG通信のすべてに、以下のメッセージが暗号化され添付されているのが発見されました。このニュースは特にジュリアン国王にとって打撃になるでしょう。さらなる送信は出来る範囲で検閲することをおすすめします。-レイクウッド]

To: ケルハウンドの生存者たちへ
From: カランドラ・ケル大佐
Date: 3147年11月24日

 どこでこのメッセージを見つけたにせよ、あなたが生きてこれを読んでいることを嬉しく思う。ファルコンの目標は単なる征服ではなかった。彼らはケルハウンドに対する殲滅の神判を宣言したように見える。それを許すことは出来ない。

 我が隊の戦力は半数以下になっている。あなたの支援はいかなるものであれ歓迎されるが、現在の優先順位は我らの民間人を守ることにある。ハウンドに属する家族と罪なき人々の全員が残ったわずかな降下船に詰め込まれた。周囲でライラ共和国が崩壊していることを考えると、選択肢は数少ない。我々はすべてが失われる前に出来る限りを守らねばならない。よって、指令KH-09を発動する。

 現役か退役かに関わらずケルハウンドの全員、そして全家族は、すべてが始まりし場所(Where It All Began)に全力で急ぎ合流するように。我々の到着時刻は、このメッセージから9週間後となる。我々はそこで4週間待つ。合言葉はハウンドコード1-A-1である。もしこの時間にたどり着けないならば、メッセージカプセルを第一遭遇地点(First Encounter)に埋め込んでおく。我々の最初の目的地はここにある。

 急いで。我々には待つ余裕がない。

 [サイン]

 カラミティ









3148年: 訪れる影 3148: THE COMING SHADOW





ファルコン進撃 THE FALCONS ADVANCE

 ライラ共和国がついにブエナ・コレクティブという本を閉じてから数日以内に、よりひどい脅威が国家主席の膝に落ちてきた。

 3146年後半にアークロイヤルを失って以降、トリリアン・シュタイナーはLICの諜報員がジェイドファルコンの兵力移動をより厳しく監視するようにした。もう二度とジェイドファルコンに不意打ちされないことを誓っていたのである。3147年12月までに、LICはなぜマルヴィナ・ヘイゼンがヘルズホースのノヤン作戦実行をほとんど無視しているのか知ることとなる。諜報によると、少なくとも1個のファルコン銀河隊がウパノに集結し、おそらくさらなる星団隊が向かっていると報告された。国家主席の顧問たちは、攻撃範囲内に2つの目標候補があると見た。それはドネガルとコベントリであり、双方共に州の主星であり、双方共に共和国の長期的な生存に不可欠だった。両世界を適切に戦力強化するだけの兵士がなかったことから、最高司令部は出来る限り多くを予備としてとどめ、ファルコンが攻撃してくるのを待った。

 2月15日、ジェイドファルコン2個銀河隊の分遣隊がコベントリに降り立った。デルタ銀河隊のギャラクシーコマンダー・ステファニー・チストゥはバッチェルを宣告することなく、デルタ銀河隊の5個星団隊とガンマ銀河隊の2個星団隊が惑星上の戦略地点に上陸した。第17アークトゥルス防衛軍RCTのフランシーヌ・ロス准将は偵察隊にファルコン氏族長のいる徴候を探らせたが、マルヴィナ・ヘイゼンはこの打撃部隊に同行していなかった。彼女はギャラクシーコマンダー・チストゥに全作戦指揮権を与えており、コベントリの戦いの実施方法について具体的な指示を行っていた。

 最初の上陸は、ポート・セントウィリアムズ宇宙港に対するもので、ライラ軍全体に不気味なデジャブを生み出した。LCAFを不安定にするために、ギャラクシーコマンダー・チストゥが3058年のジェイドファルコンによるコベントリ侵攻を真似しようとしていたかは議論の種となっている。しかしながら、この戦役を通して、両軍の士官たちが軍養成校かシブコにおいてコベントリの戦いのホロヴィッドと教科書の分析を広範囲に学んでいたことは明白となった。実際、ジャイルファルコン銀河隊が降下地点を確保した後、ギャラクシーコマンダー・チストゥは小規模なビーク二連星隊をクロスディバイド山脈に送り込んだ。二連星隊は鉱山(一世紀近く前にライラ軍はこれをフル活用した)の知られている入り口をすべて特定し、崩落させた。バトルROMの映像はロス将軍に送られ、単純なメッセージが添付されていた。「昔のやり方はもう使えない」

 ライドズイン峡谷で第17アークトゥルス防衛軍と粘り強いファルコン3個星団隊が戦っている間、ギャラクシーコマンダー・チストゥは別の特別分遣隊を秘密の任務で地方に送り込んだ。ホイッティングの町で、第1ファルコン打撃三連星隊は記念碑の近くでコベントリ州市民軍の1個中隊と遭遇した。記念碑は3058年のジェイドファルコンに対する勝利と、第1回ホイッティング会議(第二星間連盟が誕生することになった)の開催を祝うものだった。コベントリCPMの兵士たちはファルコンをとどめるために手段を尽くして戦ったが、ファルコン三連星隊はホイッティングの防衛部隊を圧倒し、生存者を残すことはなかった。第1ファルコン打撃三連星隊は、町を占領する代わりに、チストゥの直接命令(ヘイゼン氏族長自身から下されたもの)の下に行動し、目につくものすべてを倒壊させ、記念碑、カラドック・トレヴェナ大尉がマーサ・プライドにヘジラを申し出た広場、合同タスクフォースのリーダーたちが中心領域の運命を決めた議事堂を消滅させた。数時間以内に、ホイッティングは完全な廃墟となり、数千の民間人が死亡した。

 ジェイドファルコンによると、ホイッティングで生まれた第二星間連盟は、アレクサンドル・ケレンスキーの子孫の指導なく作られたまがい物であった。ファルコンにとって、氏族の運命を辱める大王家の物理的な記念碑を排除するのは、リバイバル作戦から一世紀経っていたとしても、氏族こそが人類に次の黄金時代をもたらすことを中心領域に思い出させるために必要であった。このため、ギャラクシーコマンダー・チストゥは第1打撃三連星隊にホイッティング破壊を記録させ、ロス将軍に映像を送りつけたのである。映像にはチストゥからのメッセージが添付されていた。「新たな星間連盟が誕生する時、ジェイドファルコンが大氏族となるであろう」

 ライラ前線の士気は急落した。2月27日、ロデリック・シュタイナー総司令官(第2親衛隊)とヤセク・ケルスワ=シュタイナー(第15アークトゥルス防衛軍)が到着してようやく、ライラ人はやる気を取り戻したのである。

 2個連隊戦闘団がコベントリの防衛に加わって、ライラの戦線は大きく強化された。コベントリ軍養成校、コベントリ・メタルワークス、リートネートン市の近くで大規模な戦闘が発生し、ファルコンとLCAFは数日間一進一退を繰り返した。最後の一押しは3月11日にデールズで発生した。リートネートンへの攻勢の最中、ジェイドファルコンは側面機動を妨害しようとしたヤセク・ケルスワ=シュタイナーの指揮中隊に遭遇したのである。長引く戦闘でケルスワ=シュタイナーのテンプラーと第15アークトゥルス防衛軍のメック数機が破壊されたが、彼らの犠牲がファルコンを戦略的撤退に追い込んだのである。

 LCAFの兵士たちは共和国の英雄の死に心を痛めた。シュタイナー将軍は知っていた……3058年のコベントリ侵攻とは違って、今回は惑星の救援に駆けつける合同タスクフォースはおらず、氏族の伝統を利用するたやすい手段はない。よって彼はライラの防衛部隊に食うか食われるかの精神を叩きこんだ。ゆらぐ戦線のいくつかで、ライラはファルコンを押し返し始め、交戦に勝利したが、かろうじてであった。


作戦報告 AFTER ACTION REPORTS

Date: 3148年4月27日
To: メートヘン・グプタ将軍、王家連絡士官
From: ミリアム・ショー氏族長、(放浪)ウルフ氏族

 防衛協定の一環として、最近のファルコンに対する作戦行動の概要を送る。

 ウパノ: 第1ウルフ打撃擲弾星団隊は、第53ファルコンタロンの撃退に成功し、修理と再装備を実施している。アウクレイクから展開した第1ウルフはシモニーの駐屯部隊にまっすぐ突っ込んだ。ファルコンの再結集中に、我が方の偵察部隊がファルコンを執拗に妨害し、他の部隊はドミエール・ステーションでファルコンの残りを攻撃した。ファルコンは持ちこたえようとしたが、我が軍の重量にはかなわず、降下船に引き返すこととなった。我が軍の2部隊がシモニーから退却する敵に向かうと、ファルコンの残りは殲滅されるか、ボンズマンとなった。

 インチュカルンス: ウルフスパイダー親衛隊の上陸に立ち向かったのはファルコンの戦闘機のみならず降下船もであった。補給を運んでいたミュール級1隻が失われ、ユニオンC級パックズ・ブラッドが交戦で損傷を負ったが、ファルコン軍は片付けられた。上陸に際して、ウルフスパイダー親衛隊は、ロレーヌの森に配備されたソラーマと戦っていることに気がついた。親衛隊は用意された陣地に突撃するのを避けて、森の中への戦闘降下を敢行し、1機のみを失った。ファルコンは建て直せなかった。半数が森で撃破され、残りは撤退したが、隠れるもののないところで捕らえられただけだった。

 ポベダ: ファルコンは我が方のブロンズ親衛隊が抵抗なく上陸するのを許し、ギャラクシーコマンダー・ステファニー・チストゥの第1ファルコン打撃星団隊とコベントリの生存者いくらかが戦場でギャラクシーコマンダー・アニー・ワードの勢力と相まみえた。最初のファルコンの強襲はブロンズ親衛隊に大きなダメージを与え、ブロンズ親衛隊はゆっくりと宇宙港へと戻った。ウルフの戦闘機は迫ってくる降下船を発見した。降下船から出てきたのはファルコンの第5戦闘星団隊で、コベントリで負った損傷を緊急で修理した跡が残っていた。ギャラクシーコマンダー・ワードの戦士たちはブラックバレー地方に後退したが、まだ惑星から退却することは出来なかった。

 ポベダへのさらなる支援は、多大なる感謝をもたらすものであり、両国の利益にかなうものである。現時点で戦闘リソースを追加するのは困難かもしれないが、物質的支援と情報ブリーフィングは戦場にいる我が軍にとって有益であろう。


 ポート・セントウィリアムズ宇宙港奪還への攻撃の中で、第2親衛隊は上手を取って、第1ファルコン打撃星団隊を押し返した。第53ファルコンタロン星団隊は、ギャラクシーコマンダー・チストゥがウパノ(コベントリタスクフォースの展開地点)に修理のため戻るよう命令するだけの損害を負った。チストゥはすぐに数の面で劣勢であることに気づいた。もしチストゥが過激な手段に訴えなければ、シュタイナー将軍はすぐにファルコンを最も戦略的な拠点から追い出すだろう。マルヴィナの命令によると、状況が適切であれば、デルタ銀河隊の核弾頭を投入することになっていた。当初、チストゥはコベントリを取るのに戦術核は必要ないと思っていたが、万一に備えて備蓄を持ってきていた。数発の戦術核は流れをすぐにファルコンの側に返るだろうが、ファルコンが激しく戦い続けるのに必要な宇宙港のかなりの部分を破壊してしまうリスクがあった。心の底からの伝統主義者であるギャラクシーコマンダー・チストゥは、核弾頭を避けて、公平で名誉ある戦闘をすることで、マルヴィナの命令に背いたのである。

 ロデリック・シュタイナーはファルコン指揮官からの個人的な挑戦を受けると、2年前にアークロイヤルで起きたマルヴィナ・ヘイゼンとパトリック・フェトラドラルの事件を思い出した。側近たちの助言に反して、LCAF総司令官はファルコンの不安定な戦線の前でファルコンのギャラクシーコマンダーと会った。ライフルマンIIC3に乗るロデリックは、残虐な戦いでチストゥのソアを行動不能としたが、彼女を殺すことはなかった。代わりに彼はヒジュラを持ちかけた。それは3058年7月16日のカラドック・トレヴェナの再現であった。

 ギャラクシーコマンダー・チストゥはこれを受けて、戦場にいた全戦士を呼び戻した。チストゥの部下たちの多くがマルヴィナの命令に従わなかったことで公に非難したが、挑戦する者はなかった。

 ファルコンがコベントリから退却する前に、放浪ウルフがOZ内のファルコンの領土を攻撃したとの一報がチストゥの耳に届いた。ウルフはすでにウパノとインチュカルンスをファルコンの駐屯部隊から奪っていた。マルヴィナの要請で、チストゥは即座にタスクフォースをポベダにジャンプさせ、放浪ウルフのさらなる攻撃を未然に防ごうとした。彼女の行動は思いもかけない幸運に見舞われた。ウルフはファルコンがコベントリに釘付けとなっており、すぐには対応出来ないと考えており、ブロンズ親衛隊だけをポベダに送っていたのである。12時間以内に、ファルコンの2個星団隊はウルフを圧倒した。ウルフを皆殺しにする代わりに、チストゥはギャラクシー・コマンダー・アニー・ワードにヒジュラを持ちかけた。これはワードを驚かせた……彼女はアークロイヤルの戦闘に関する報告を読んでいたのである。なぜヒジュラなのか尋ねられると、チストゥは答えた、「私はマルヴィナ・ヘイゼンではない」。ウルフは惑星を辞して、新領土を統合するためウパノに戻った。

 統合が完了すると、コベントリ州にいるLCAFのリーダーたちは放浪ウルフから、出来る限り早くウパノとインチュカルンスに駐留するべしという奇妙な要請を受け取った。ウルフは共和国兵に対する真の管轄権を持っていなかったものの、コミュニケのトーンは助言というよりは命令の色を帯びていた。最近のファルコン侵攻におけるウルフの支援を鑑みて、地域の高級将校たちはこの要請を受け入れ、出来る限りの駐屯部隊、市民軍支援をこれらの惑星に送り込んだ。

 新たな守備隊が配置についてから数日以内に、放浪ウルフは両惑星から出発した。数週間以内に、ライラ共和国内のその他の放浪ウルフ部隊も荷物をまとめ出発した。一部は地元民の間でちょっとした騒ぎとなり、他の場合は静かに惑星を退却して、氏族の降下船が軌道に上がるまで彼らがいなくなったことに気づかれなかったのである。





高価な犠牲 COSTLY SACRIFICES

 2月後半にニューシルティスでのCCAFの抵抗は公式に終わったが、カペラ大連邦国は完全に放棄するのを拒否した。この境界域主星はAFFSによる大連邦国への強襲で政治的中枢になり続けていたのである。カペラがニューシルティスを占領して、アマンダ・ハセク女公を処刑したことは、もしAFFSがカペラ境界域から出撃したいのならば、別のところから進撃命令を受ける必要があることを意味していた……ニューシルティスが解放されたことは大連邦国の脇腹の棘が復活したことを意味していた。これを妨げるため、ダオシェン・リャオはいかなる犠牲を払ってもこの世界を取り返そうとした。

 CAAFの正規部隊は3月初めまでにこの惑星から退却していたが、カペラ扇動家のセルはいまだ力を持っていた。AFFSの検問所、基地、公共施設への爆破テロは、ほぼ定期的に発生した。テロ攻撃は一度に数十名程度を殺害した。最大の攻撃はAFFSの兵士を乗せていたリニアモーターカーへのもので、500もの人命が奪われた。恒星連邦の諜報工作員たちがニューシルティス周辺のカペラ占領世界への反乱を煽り始めると――ワールウィンドとコードネームを付けられたMIIOの作戦――カペラのテロセルは賭け金をつり上げた。

 7月18日の1800時、サソーのダウンタウンで巨大な爆発が惑星政府オフィスを揺るがした。爆発自体は数名の人命を奪っただけだったが、ばらまかれた神経ガスがおよそ5万人を殺した――被害者の中には惑星の新知事が含まれていた――毒物は風に乗って都市の郊外にまで広がった。不幸なことに、神経ガスは薄まることなく、民衆は死に続けた。サソー全土が検疫下に置かれ、AFFSの野営地は出来る限り遠くに移動した。最初の爆発から一週間以内に、推定犠牲者数は20万人近くにまで及んでいた。

 当初、惑星高官は爆破犯をカペラのゲリラグループと考えたが、今回の爆破はそれまでのやり方と違っていた。これまでは通常の爆弾をAFFSに対して使っていたのである……今回は民間人を狙ったもののように見えた。さらなる調査により、爆弾と神経ガス散布装置は広場の記念碑の中に設置されていたと判明したが、それ以上は跡をたどれなかった。

 爆破から2週間後、2万人が住むスノウデン大陸の小都市ロスから不穏な報告が届いた。この日目覚めた小都市の住人たちは通りで数百の死体を発見した。その大半が睡眠中に殺されて屋外に引きずり出されたように見えた。その時点で、AFFSと惑星政府は相手が通常のゲリラ活動ではないことに気づいていた。ロス事件から2日後に、コップリン大陸の外れにある名もなき小さな町が同じ運命に見舞われた。今回は選ばれた一握りの目撃者をのぞく全員が殺された。

 サソーで使われた神経ガスの分析によって、AFFSの恐れていたことが事実となった……3062年のブラックメイ攻撃でサン=ツー・リャオ首相の妹カーリー・リャオと狂信的なサギーカルト教団が使ったのと同じ物質だったのである。カーリーのサギーカルトは聖戦で潰滅したと信じられていたが、似たようなサギーカルト信者がテロ攻撃を仕掛けたという兆候があった。彼らが引き起こした民間人の死は、カルト信者の神に捧げられた血の生け贄を意図していたのである。

 加害者を捕らえるべくAFFSとニューシルティス警察軍が勇敢に奮闘したにも関わらず、数日以内にシリトレン大陸の2箇所で神経ガス攻撃が行われた。より小さな町も真夜中の殺人に見舞われた。民衆が騒いで副知事を動かし、戒厳令と惑星規模の厳密な夜間外出禁止令が出された。AFFSの兵士たちが都市をパトロールしてもなお、ニューシルティスの市民たちは武器を取り、外出禁止時間にうろついている怪しい人物を撃った。一週間以内に不当な死が激増した。また最初の爆破テロでは無事だったサソー郊外で少なくとも一件の爆破事件が発生し、犯人はカペラの二重スパイだったAFFS兵士と思われた。

 8月の始めまでに、第1ダヴィオン近衛隊と第5南十字星部隊は状況を収めようとして完全な混乱状態に陥っていた。問題に対処するためニューシルティスに戻ってきたジュリアンでさえも解決することは出来なかった。8月3日、メックの一団がサソー宇宙港近くに野営していた第5南十字星部隊を強襲した際、ジュリアンは守られた安全な場所にいた。当初、攻撃したのはデスコマンドと特定されたが、彼らの黒いメックはリャオの緑ではなく深紅に縁取られており、通常の骸骨の記章の下に、ヒンズーの女神カーリーのイメージがペイントされていた。第5南十字星部隊はデスコマンドを止めようとしたが、連携を欠いていたことから、戦線を切り裂かれた。ジュリアンは第1ダヴィオン近衛隊を率いて、失敗した第5を助けに向かった。

 第1ダヴィオン近衛隊は戦場に出るとすぐ、カペラ航宙艦の大規模な艦隊が衛星近くのパイレーツポイントに出現した。惑星軌道上に到達すると、第2マッカロン装甲機兵団、王朝親衛隊、タウケチ槍機兵団がニューシルティスに軌道降下した。ジュリアンは迅速に防衛戦略を組み立てたが、3個メック連隊の合計重量は最初の交戦で恒星連邦の防衛部隊を撃破しかけた。

 フォーチュン傭兵連隊群の大多数がケルベロス作戦で得たシーアン共和区に駐屯していたことから、ジュリアンには使える援軍がわずかしかなかった。CCAFが近隣の世界を攻撃しているのかも知らなかった彼はジャンプ数回内にいるすべてのAFFS部隊に伝令を派遣し、ニューシルティスの守りが堅い陣地に後退した。

 8月半ばまでに、AFFSはかなりの土地を失った。ジュリアンはニューシルティスがカペラの手に戻ってしまうことを心配し、自身が死の結末を迎えるかとらわれの身になってしまうことを懸念した。だが、惑星の市民たちが自分の武器を侵略者に向け始め、ダヴィオン部隊を捜索するために都市を行進しているカペラ兵を陰から攻撃した。数度のこういった独立ゲリラ攻撃で、王朝親衛隊とタウケチ槍機兵団は重要人物を失った。この時点から惑星上のCCAFは進軍に際して細心の注意を払うようになった(特に民間人の多いところでは)。この用心は戦場にまで広がり、カペラはダヴィオンの戦線に対して激しい全面的攻撃よりも素早い攻撃を仕掛けるようになった。戦役が長引くと、カペラ兵は(特に神経ガス攻撃で狙われた地区の周辺では)さらなる注意を払うようになった。

 8月17日までに、両陣営は陽動と逆陽動による一進一退の手詰まりに達した。シリトレン大陸外周部における第1ダヴィオン近衛隊と第2MACの戦闘中に、ドーンガードが戦場に戦闘降下を行った。タイゲタの駐屯任務から新たに到着したばかりのドーンは、恒星連邦の紋章を帯びて、RAFの配色ではなくオリーブドラブの迷彩に塗装していた。ドーンガードは第2MACに切り込んだが、デスコマンドの逆襲がドーンの帆に当たる風を盗み、食い止めた。ジュリアンは第1ダヴィオンを配置につかせ、ドーンに何らかの救援を行おうとした。

 このとき、第2MACの指揮官ダナイ・セントレラ・リャオ上校が迫る第1ダヴィオン近衛隊に空爆と砲撃を要請した。マッカロン装甲モスキートと第2間接砲中隊は砲撃の雨を浴びせ、そのほとんどがジュリアンの指揮中隊を叩いた。砲煙が晴れると、ジュリアンのテンプラーIIIは倒れ、どのチャンネルにも応答しなかった。

 国王のメックにたどり着く時間を稼ぐために、第1ダヴィオンとドーンガードの両方が広がった。救援隊が到着するとジュリアンは生きていたが意識不明だった。メックの内部構造を支えるエンドースティールの梁が、ジュリアンの左足を押し曲げて粉砕していた。ドーンガードが敵を撃退すると、ジュリアンは安全な場所まで空輸され、主治医が緊急オペを行った。この事件から1週間以内にジュリアンは意識を取り戻したが、しばらく経たないと戦場から指揮をとるのは不可能だった。左足が膝の下から切断され、指も何本か失っていた。しかし、ホロヴィッドを通して出来る限り兵士たちに話しかけ、国中を安心させた。

 国王が回復したと知って、AFFSと民間人市民軍の両方が拍車をかけて出来る限り強くカペラ軍を叩いた。ダナイと部下たちは惑星侵攻を続けていたものの常に守勢に回るのを余儀なくされた。ダナイの敗北は積み重なり、8月30日、ついにAFFSの猛攻は報われた。ダナイ・セントレラ・リャオ上校は、ニューシルティス・タスクフォースの指揮官にして首相の使節としての立場を使って、国王に中立地点での会談を持ちかけたのである。それは2年前のマーレッテで行われたこととよく似ていた。ダナイは知っていた……たとえ弱体化した兵士たちがAFFSの防衛軍を撃破出来たとしても、恒星連邦の逆襲から惑星を守れないであろう。そしてスフィア共和国がすぐにも襲いかかってくるのなら、その流れを食い止めるために残った戦力を使ったほうが良い。AFFSに対する戦役がどのように進展してきたかを考えると、スフィア共和国に対処するまでニューシルティスは待ってくれると彼女は信じていた。

 ジュリアンは会談に応じたが、怪我の具合を偽装した。会議中に、ダナイはテロ攻撃を非難して関与を否定し、両指揮官は最終的に一時的な停戦に合意した。ジュリアンは公式な休戦のため条件を膨らませた。数時間以内に妥協に達し、カペラの全軍がニューシルティスを出るために準備を開始した。


少しの信頼 A LITTLE FAITH

[begin transcript]
タッカー・ハーウェル「それで最新の報告はご覧になったでしょう。輝く鎧をまとった我らが騎士様は大けがを負った。どうするんです?」
デヴリン・ストーン「彼は生きている。最初の計画通りに行く」
ハーウェル「ええ、でも最高の健康状態ではない」
ストーン「[思案]ジュリアンが死んだらプリンスズ・チャンピオン(AFFS最高司令官)は支援を続けてくれるだろうか?」
ハーウェル「本音で? 考える手がかりがない。ニューアヴァロンが占領されていた時期に、エリック・サンドヴァルはAFFSのプリンスズ・チャンピオンにするようジュリアンに働きかけた。そこに何らかの意味がある」
ストーン「おそらく」
ハーウェル「しかし、他の同盟相手を探すべきではありませんか? ジュリアンが死んだり、サンドヴァル――か誰か玉座を継いだ輩――が我らを支援しなかった時に備えて」
ストーン「誰にするべきだろう? 大連邦国はウォールが下りたらすぐに私たちを滅ぼすと誓っている。(ライラ)共和国は敵を封じ込めていない。連合は中心領域全土を支配しようとしている」
ハーウェル「オーケー、ニコル・マーリックはどうですか? 分別があるように見えます」
ストーン「自由世界同盟はこれまでスフィア共和国の友人ではなかった。ウォールを落とす時は、そちらからの攻撃がないか密に監視する必要があるだろう」
ハーウェル「[鼻を鳴らす]それではジュリアンが我らの前で死なないように祈りましょう」
ストーン「きみはいつもそんなにシニカルなのか?」
ハーウェル「失礼、私の楽天的な部分はルイテンで脳にダメージを負った時に燃え尽きてしまったようで」
ストーン「[思案]安心してくれ、すでに地球で一番の整形外科医と義肢技術者を国王のところに送っているよ。氏族技術以外では最高の医療チームだ」
ハーウェル「それで、すべてのメックを1隻の降下船に乗せるというんです? 失礼ながらうまくいくとは思えませんね」
ストーン「もしかしたら、大王家以外の同盟者について考える必要があるかもしれない」
ハーウェル「当てましょう。すでに支援の相手に心当たりがあるんですね?」
ストーン「もしかしたら。少しは信じてくれ、タッカー」
ハーウェル「信じる? [乾いた笑い]それがまさに私の恐れてることですよ。ブレイク派は信じる心を持っていました。それが中心領域全土に火を付けたのです」
[end transcript]
 ――ストーンの非公式会談、書き起こし #D179-A、3148年9月5日






交戦の停止 CESSATION OF HOSTILITIES

 最初、ダオシェン・リャオは恒星連邦との公式な停戦に至るのを公然と拒否した。すでに国王は休戦協定にサインして1年もしないうちにそれを破っていた――もう一度そうしないと言えるのか? ダナイがジュリアンの条件を持ってシーアンに帰ると、ダオシェンはいまだニューシルティス奪還に固執しており、天帝の許可なくジュリアン・ダヴィオンと交渉したとしてダナイを公式に譴責すると脅した。だが、ダナイは交渉の利点を彼に納得させようとした。恒星連邦の国境が支えられれば、ニューシルティスを失おうとも、CCAFは共和国に資源を集中させられる。ジュリアン・ダヴィオンとの休戦協定が続く限り、これは有効である。デヴリン・ストーンがついにフォートレス・リパブリックのウォールを下ろす時が来たら、休戦協定の続いた分だけカペラは共和国の軍事力に勝つチャンスが増えていくのである。ダオシェンはダナイの主張にメリットを見たが、最終的な決断はこの件に関する諜報報告をすべて評価出来るまで待った。そして、ジュリアンは何かを隠そうとしていると判断したのである。CCAFはもう一度「マーレッテの欺瞞」に引っかかることは出来なかった。

 ダオシェンの従姉妹であるキ=リン・リャオは、恒星連邦にニューシルティスを渡すという考えにすら怒り狂った。3144年の対恒星連邦戦の最大の支持者である彼女はじっと座って何もしないのを拒否した。デスコマンド内にいるサギー支持者でさえも、ニューシルティスで流れを変えることは出来なかった。キ=リンが過激で狂気に満ちた行動を好むのは、曾祖母であるカーリー・リャオの血を何らかの形で引いているからだと、シーアン宮廷内の大勢が信じていたのだが、恒星連邦の凋落を確実にするために身を捧げてみせるとの脅しが遂行されると信じた者はほとんどいなかった。

 9月7日、キ=リンは否定派が間違っていたことを証明した。彼女は最も忠実な召使いたち7名を集め、首相の夏宮殿の階段に立って、群衆の政治家や民間人に大連邦国が勝利するのを見ることになるだろうと叫んだ。それからキ=リンは灯油をかぶって自身に火を付け、随行者たちもそれに習った。彼女は死の叫びの中で、ダヴィオン家を呪った。

 キ=リンの自殺で、ダオシェンは心胆を寒からしめた。彼はキ=リンの脅しを下らぬもの、実行する勇気がないと見なしていた。これで彼は休戦に対する姿勢を逆転させた。和平につながるすべてを非難したキ=リンへのはなむけとして、一時的にではあるが、首相はジュリアン・ダヴィオンと恒星連邦との公式な停戦はないと公に宣言したのである。

 ダオシェンが反ダヴィオン的な大演説をぶったにも関わらず、カペラ境界域国境沿いの戦争が続くことはなかった。ニューシルティスが恒星連邦の手に戻ったのに伴い、首相と戦略局はジュリアンが大連邦国沿いの軍事行動を大きくスケールダウンさせ、裏口の脅威に集中するだろうと判断した。龍はニューアヴァロンの上に座していたのである。ジュリアン・ダヴィオンとエリック・サンドヴァルが連合に気を取られていたことから、ダオシェンは条約破りの敵と公式に停戦合意することなく、差し迫った共和国戦線注意を向けることが出来たのである。

 習慣的な情報収集襲撃は別として、シーアン共和区とカペラ境界域は静かであった。首相と国王は双方ともに、まったく違う理由で沈黙の共和国を監視し続けていた。ダオシェンは共和国の侵攻が今にも始まるのではないかと恐れた。ジュリアンはストーンの約束した支援が遅すぎるかもしれないと恐れた。








3149年: ダム決壊 3149: THE DAM BREAKS





角笛を吹き鳴らす BLOWING THE RAM’S HORNS

 共和国の公式記録によると、デヴリン・ストーンは3149年1月6日の地球標準時間1600に、フォートレス・リパブリックのシステムを解除したという。なぜこのタイミングでウォールを下ろしたのか様々な意見が出る一方で、ストーン自身からの最も正確な推論は、このタイミングが正しかったということだ。中心領域の状態は、彼が動く必要があるところまで衰退していた。理想的には、共和国はウォールを落とす前に、もっと多くの連隊を立ち上げておくべきだった……だが、これ以上待ったら手遅れになってしまうとストーンは信じたのである。

 フォートレス・ウォールが下ろされる前に実行された数多の計画の中で、ショーファー作戦は共和国の居場所を固めるために始められた。自由世界同盟、ヴェガ保護領、ジェイドファルコン占領域に外交官、秘密工作員、RAF兵士を送り込んで、ストーンは元共和国の世界に共和国への再加入を説得、買収、恐喝、脅迫することが出来た。ウルフ、ファルコン、カペラ大連邦国、ドラコ連合がスフィア共和国に最大の脅威を与えていた中で、ストーンは兵士を犠牲にすることなく出来る限りのバッファーを得ることが必要だったのだ。だが、バッファーを得るには、氏族たちから要地となる世界を奪う必要があった。

 リヨンでは、第3ファルコン軽装隊が第11ハスタティセンチネルスと直面した。ファルコンはこの連隊について知らず、ということはフォートレスの外に放棄されたRAF部隊ではなかった。ファルコンの戦士たちは完全な不意打ちを受けた……RAF兵に侵略を受けたのみならず、第11ハスタティは単なる襲撃でなく惑星侵攻を行ったのである。ファルコンは全力の防衛を行ったが、3日後に惑星を出た……スフィア共和国が13年の眠りから目覚めたことをチンギスハーンに伝えるためだった。似たようなことがメンケントの第16ハスタティ(それまで知られなかったRAF連隊)と第12ファルコン装甲機兵団の間で発生した。第12ファルコンは共和国の活動を報告せよという継続的な命令を受けており、軽い損害を被った後でヌーサカンに退却した。

 1月18日にショーファー作戦の最後のフェーズが開始された。第15ハスタティがキャスターに戦闘降下を行い、第328ウルフ強襲星団隊を追い払った。ウルフ帝国はウォールが無効化されたとまだ知らなかったので、第15ハスタティはウルフの不意を打ち、それを積極的に利用した。第328は帝国に一番近い世界を諦めるのを拒否して激しく反撃し、最終的に第15ハスタティを守勢に回した。1週間以内に、RAFは援軍を送りこんだ。それは共和国国境の周囲に発生した謎の戦力であった。近年の噂になっていた先進の武器と装備を持つ第5フィデス防衛隊が惑星降下し、ウルフを混乱に落とし入れた。第328の1個三連星隊が身をなげうち、ウルフが撤退してフォートレスリパブリックがもう存在しないことをアラリック・ワードに報告するだけの時間を稼いだのだった。

 キャスターを得たことで、共和国は元総帥ダミアン・レッドバーンのリパブリックレムナントがまだ保持している世界と再接続することが可能となった。ストーンはレムナントとレッドバーンに働きかけたが、レッドバーンと部下たちは離れたままだった。

 ショーファー作戦が終わった直後、RAFのタスクフォースが長年の約束を果たすためアルタイルに集結した。それからRAFの残りは氏族とカペラ大連邦国からの避けられぬ攻撃に備えて、持ち場へと移った。


タイミングの問題 A MATTER OF TIMING

[begin transcript]
タッカー・ハーウェル:「それであなたはやるつもりだと聞いてます。本当にウォールを下ろすつもりだと」
デヴリン・ストーン:「ショーファーの予備段階はすでに実行に移されている。7日後には、各星系がオフラインになる。永遠に」
ハーウェル:「そして誰もが私たちを撃ち始める…」
ストーン:「ショーファーがその心配の助けになるはずだ。この日のために準備してきたことにはすべて、それだけの価値がある」
ハーウェル:「あなたの自信を分けてもらえればいいんですがね。[思案]でも……なぜ今ウォールを下ろすんです? なんで今年の前半ではなかったんです? なぜ5年後では? 5年後なら確実に充分以上の兵力を持てるのでは?」
ストーン:「このタイミングはベストだよ。ライラは穴から這い上がろうともがいている。クリタは戦力を薄くのばしすぎた。自由世界同盟はリーダーの喪失と大きな紛争を切り抜け、いまは辺境に注意を向けている。恒星連邦の士気と経済はどん底で、大連邦国はブギーマンを刺すこと以外は何も望んでいない……それが暗闇で刃を振り回すことを意味していたとしても。もしウォールを下ろすのが6ヶ月でも遅かったなら、こういった状況はどれも変わっていただろう。ウォールは動かなくなったはずだ。こちらにとって不都合なタイミングで動かなくなるよりは、こちらが選んだタイミングで下ろしたほうがいい」
ハーウェル:「理想を言えば、氏族を撃退して、カペラを叩き、連合をダヴィオン領から追い出すのに充分な兵士を集めるまで待ったほうがよかったですか?」
ストーン:「理想なんてないことを今ここで知っておくべきだな」
ハーウェル:「[うつろな笑い]今はだれがシニカルです?」
ストーン:「ポイントを見失ってるぞ。来るはずのない理想のタイミングを待ったりしたら、手遅れになる」
ハーウェル:「なにが手遅れになるんです? あなたは計画があるとおっしゃるが、そんなもの見たことがない」
ストーン:「君に見せないのは、間違った方向から問題に当たってきたからだ。君は、どんなときでも我らが共和国を維持しようとしていると信じているか? 共和国を元の状態に戻せないと言ったらどうする? 共和国を新しい形に作り替えるのが最良の方法だと言ったら?」
ハーウェル:「もう諦めているということを私に伝えたいんですか? あなたは諦めて、みんなを無駄死にさせると? [眼鏡を壁にぶつけて壊す]。[呼吸困難] 臆病者め。おまえは幼いころから聞かされていたデヴリン・ストーンではない。停滞チューブの中で腐らせておくべきだった」
ストーン:「聞いてくれ、タッカー。[思案]君が望むなら、私が臆病者だと考えればいい。逃げ出して、君の頭の中身を欲しがる連中に捕まるか殺されればいい。だがこれを知っておくべきだ……君が私の計画を見てないからといって、私を臆病者扱いしたり、あらゆる不測事態を考慮に入れてないなどと考えないことだ。ここから抜け出す道があると約束しよう。私が求めるのは、ただ忍耐を持ってほしいということだ」
ハーウェル:「忍耐は尽きましたよ。それから私の前で二度と『信じる』などという言葉を出さないことです」
ストーン:「わかったよ。歩きながら話そう。どうしても聞きたいというのなら教えるが、内密にしてくれ」
[end transcript]
 ――ストーンの非公式会談、書き起こし #F287-C、3148年12月30日






守られた約束 PROMISES KEPT

 デヴリン・ストーンはアルタイルに集めたRAFタスクフォースを、聖騎士マックス・エルゲンの指揮下に置いた。第10ハスタティで勤務する有望な遍歴騎士だったエルゲンは共和国戦略戦闘研究所所長の弟であり、ストーンは目覚めた直後から彼の職務履歴に目を留めていた。生まれついてのリーダーにして忠実な兵士であるエルゲンは、3146年、ストーン自身から聖騎士評議会の一員として任命され、3147年にはエルプティオ作戦の指揮と計画立案に選ばれたのだった。ストーンはこの作戦の裏に広範囲な戦略を込めていたが、聖騎士エルゲンが細部のほとんどを担当した。





ディーロン DIERON

 エルプティオは3149年3月5日、ディーロンへの重強襲と共に発動した。RAF4個部隊からなる第1軍集団がサン・マーティン近くに上陸した。聖騎士エルゲンはお決まりの戦略的な目標を狙うことなく、惑星上のDCMS自体に照準を定め、全力を持って攻撃した。第1、第2ディーロン正規隊は完全に不意を打たれた……フォートレスが上がって以来、ディーロン軍管区で共和国軍が目撃されたことはなく、第II、第III宙域は龍の支配に戻り、DCMSにはウォールが下がるだろうという確かな証拠がなかったのである。AFFSの情報収集襲撃は別として、ディーロンでは15年近く激しい戦闘が見られなかった。ディーロン正規隊はRAFの前進を止めようとしたが、第1軍集団は3対1近くで数的有利にあり、勢いで優位に立っていたのである。

 ディーロン元帥、太守カンベイ・オカモトはドラゴンルーストの司令本部(聖戦で破壊された後再建されていた)から第2ディーロン正規隊を立て直そうとしたが、第10ハスタティセンチネルスと第1フィデス防衛隊に限界点まで押しこまれた。惑星が陥落の瀬戸際に立っていることに恐怖した第2正規隊の生き残りはディーロン要塞に立てこもった。太守オカモトは第1ディーロンをイズナッキ恒星間宇宙港に送り、戦力補強して、ディーロン要塞の包囲を破ろうともくろんだ。だが、エルゲンは元帥の計画を読んでおり、聖騎士の指揮中隊と第10トライアリプロテクターズが太守オカモトと第1を移動中に迎撃した。サムライの真の伝統として、太守オカモトと指揮中隊は戦線を守り、連隊が降下船にたどり着く時間を稼いだ。戦闘のさなか、マックス・エルゲンのドロワールは太守オカモトのシローを発見し、両者は決闘を行った。最初はオカモトが上手を取ったかに見えたが、第1ディーロンの降下船が離陸すると、ディーロン元帥はエルゲンに突撃してドロワールの腕一本を切り落とし、至近距離からガウスライフルのスラッグ弾をコクピットに受けて地に伏したのだった。

 宇宙港で戦いが起きていたそのとき、第1フィデスのバトルアーマー歩兵がディーロン要塞に侵入し、第2ディーロン正規隊を施設から追い出して、RAFの砲門の列に突っ込ませた。ディーロン住民はRAFのタスクフォースが公式に惑星を奪還したと宣言するのを予想した。そうはせず、エルゲンと第1軍集団は3月29日に星系を発って、エルプティオの次の目標に向かったのである。





レムナントとの再会 REUNITING WITH THE REMNANT

 3149年半ばまでに、ダミアン・レッドバーンのリパブリック・レムナントは共和国からのメッセージに応答していなかった。レムナントと直に連絡をとるため3月に送られた小規模なタスクフォースは戻ってくることがなかった。さらに悪いことに、ウォールが本当に下りたのかどうかテストするためウルフ帝国が共和国宙域に注意深い調査を実施し始めており、ウォールが実際に下りたとアラリック・ワードが確認した場合に備えて共和国の防衛の穴を探そうとしていた。残念ながら、こういった調査はレッドバーンのレムナントにも及んでおり、ウルフとファルコンがやってきた時にはレッドバーンとタラ・キャンベル女伯率いる兵士たちが共和国の防衛に重要になるとストーンは知っていた。





消えたレムナント THE VANISHING REMNANT

 さらなる調査で、レムナントはフォートレスが機能停止して以来、何もしてないわけではないことが判明した。ウルフ氏族の調査に続いて、レムナントはアルヘナと第8トライアリ・プロテクターズのほとんどを失っていた。第103ウルフガード打撃星団隊が5月半ばにこの世界を攻略したのである。約2週間後、チェルタンで第9ウルフ強襲星団隊が第3プリンキペスの第1大隊を追い詰め、殲滅した。第1大隊が行き詰まりを見て取り、ヒジュラを求めたのにもかかわらずだ。

 7月9日、大規模なウルフ艦隊がドゥーヘ星系の天頂点に到達すると、ウルフ帝国がレムナントを惑星ごとに撃破しようとしていることが明白となった。ウルフからの激しい攻撃を予想したレッドバーンは、レムナント唯一の戦艦、フィデリスが乗る〈フラタス〉にドゥーヘ星系のパトロールを命じていた。第4ウルフガード強襲星団隊の降下船が軌道に向かうと、ウルフの強襲降下船1個連星隊が〈フラタス〉に群がった。このダンテ級フリゲートは、ウルフ船が近づく前に2隻を斉射で破壊したが、残った船が集中砲火を仕掛けて、K-Fドライブに致命的ダメージを与え、星系からジャンプするのを阻止した。〈フラタス〉はさらに数隻を落とした後で兵器システムに供給する電力を失ったが、ウルフは撃沈しようとはせず拿捕しようとした。他に選択肢のなかった〈フラタス〉搭乗員たちは接舷攻撃に備えた。〈フラタス〉のデッキのあちこちで熾烈な接近戦が発生し、ウルフは1メートル進むたびに血の代価を支払った。ウルフが艦橋にたどり着くと、フリゲートの艦長は艦のPAシステム全体にメッセージを送った。「遅すぎだ!」

 〈フラタス〉の全長に沿って、自沈爆薬が艦を引き裂き、ウルフの切り込み兵を殺し、近くにいたウルフ降下船の多くにデブリが致命的な損傷を与えた。だが、レムナントの降下船はデブリ帯の近くで一団のエスケープポッドを発見していた……〈フラタス〉の乗員たちは爆薬を取り付けてから艦を放棄したのである。

 そのあいだ、第4ウルフガードが惑星上で見つけると予想していたレムナントの防衛部隊は、天底点まで全力で急いでいた。レッドバーンの兵士たちは〈フラタス〉の犠牲に感謝していた……彼らのおかげで脱出する時間が稼げ、差し迫った危機の警告を受け取れたのである。





消火作業 EXTINGUISHING THE FLAME

 ウルフ帝国の素早い残忍な攻撃で、リパブリック・レムナントに残された世界は2つだけとなった。生き残ったレムナント軍は、臨時主星のカリソンで再組織し、ウルフからの強襲に備えた。ウルフは来ず、攻撃はまったく別の方向からやってきた。ヨナ・レヴィンの公式な副官を務める聖騎士ジャネラ・レイクウッドが、レムナントとコンタクトを取るため、別のタスクフォースを送り込んだのである。第2フィデスの1個大隊からなるこのタスクフォースは、8月初旬、星系内に到着し、惑星降下に際して、友軍のIFFトランスポンダーを発した。

 第2フィデスは両手を広げて迎えられることはなく、武装した第7ハスタティのメックにファローシャの宇宙港で声をかけられた。第7ハスタティは第2フィデスの指揮官セティナ・ローレンティス大佐と上級幕僚をダミアン・レッドバーンとタラ・キャンベルとの会見にエスコートし、そのあいだタスクフォースの残りは監視下に置かれた。フォートレス・リパブリックが立ち上がってからの時間は、レッドバーン元総帥に優しいものではなく、彼は体調を崩し、疲れているように見えた。

 会談中、レッドバーンは共和国がレムナントを15年近く放置してきたとローレンティス大佐に印象づけた。それに加えて、共和国は他の9宙域を見捨てて、忠実なる共和国の兵士たちと市民たちを近隣国による虐殺や隷属に追いやったのである。共和国の愛玩犬である恒星連邦もその一味であった。レッドバーンは彼の知るデヴリン・ストーンが――レッドバーンに聖騎士の階級章を与え引退後にスフィア共和国を指導するよう選んだ友が――共和国の90パーセントを望んで放棄するはずがないと主張した。ストーンが再び共和国総帥になった(レヴィンがまだ首長を務めていたが)ことをローレンティス大佐が伝えると、レッドバーンはさらに怒りを募らせた。

 「共和国は死んだ」レッドバーンはローレンティス大佐にいった。「レムナントよ永遠なれ」

 それから彼はフィデスの指揮官に銃を向け、最後通告を行った。彼女と麾下の部隊はレムナントに加わり、元の共和国、「ブラックアウト前のデヴリン・ストーン」共和国の夢を抱き続けるか、あるいは無期限に収監されることとなる。共和国が送った前のタスクフォースがどうなったかについてローレンティス大佐が尋ねると、レッドバーンは大半がレムナントの十字軍に加わることを選んだと伝えた……抵抗者は逃げだそうとして殺されたか、収監中である。

 ローレンティス大佐はそれから〈フラタス〉の轟沈を生き延びたフィデリスについて聞いた……彼らはスフィア共和国に血の誓いを立てたが、どの共和国につくのであるか?

 レッドバーンの返答、「フィデリスはこちらについている」は聞き流された。ローレンティス大佐はレッドバーンの要求には応じず、拘禁を選んだ。第2フィデスにレムナントと戦う望みはなかった……例えそうしても、カリソンにはレムナント兵が集まっており、第2フィデスの潰滅は確実であろう。数週間にわたり、レッドバーンはローレンティス大佐と幕僚たちを説得して、共和国の炎を守るため彼の十字軍に入れようとした。レッドバーンの情熱的なスピーチに動かされたのはごく少数で、大半は拘束下に残った。

 8月22日、カリソンの天頂点で複数のK-Fドライブシグネチャが探知された。レッドバーンは全レムナント兵を最高警戒態勢に置いた……彼はここでウルフ帝国の進撃を止める決意をしていた。直後、トランスポンダー信号は、やってくる降下船がRAF所属であると認識した……しかし、レッドバーンは警戒解除を命令しなかった。やってくる兵士の数が意味するところは、レムナントと共にウルフを抑えるのを計画しているか、あるいはレムナントを力ずくで押さえつけるというものであった。

 RAFの降下船が軌道上にたどり着くと、艦隊はレッドバーンに個人的なメッセージを発信した。彼を驚かせたことに、ヨナ・レヴィンその人がタスクフォースに同行していたのである。レヴィンはレッドバーンに共和国が戻ってきたことを伝え、レッドバーン、キャンベル、レムナントの全員をRAFに復帰させ、フォートレス・リパブリック中の功労に見合う完全な軍事的名誉を授与した。レッドバーンはじっくりと話を聞いた。返答する代わりに、彼は会話中に回線を閉じて、兵士たちとともにレヴィンが上陸するのを待った。

 ニューオスロの宇宙港に降り立つ直前、レヴィンは一般チャンネルでメッセージを送信し、レムナント兵に共和国との和解を懇願した。タラ・キャンベルとダミアン・レッドバーンの長年の仲間たちはメッセージを無視し、待ち構えている緊張した対決に備えた。

 レヴィンの到着を歓迎するために、第7ハスタティ、ハイランダーズ、フィデリスのメック数機が舗装エプロンで待った。上陸してすぐ、ストーン・ディフェンダーズのメックが総帥の降下船からこれ見よがしに出てきた。レッドバーンは怒りを募らせた。ストーン旅団の部隊がいるということは、ストーン自身――かつての親友――がこの行動を認可したということだ。レヴィンはレムナントに武器を置くよう最後の情熱的な請願をしたが、レッドバーンは顧みなかったであろう。彼は、ストーン、共和国、レヴィンさえもが彼に立ち向かい、真の共和国を裏切ったと信じていた。

 警告もなしに、レッドバーンのブラックナイトがレヴィンのアトラスにアルファストライクを見舞った。ストーン・ディフェンダーズがレヴィンを守りに動くと、舗装エプロンにカオスが降り立った。砲撃戦のさなか、レヴィンはレッドバーンの軍にいるフィデリスたちに通信を送った。彼は共和国への血の誓いを思い起こさせることで彼らの義務と名誉の感覚に訴えかけ、「共和国の遺産の詐称者」よりもデヴリン・ストーンと「真のスフィア共和国」を支持するよう嘆願した。

 この戦いの決定的な瞬間、カストス(フィデリスのリーダー)はレッドバーンのブラックナイトに襲いかかり、フィデリスに命令を出した……レッドバーンに砲撃を集中させ、レヴィンの側に立って戦え、と。一瞬の後、ダミアン・レッドバーンは撃墜され、レムナント軍はためらった。ストーンから迅速に状況を沈静化させるよう命令を受けていたレヴィンは、優位を活かして、レムナントを守勢に追い込んだ。タラ・キャンベルとアリアナ・ゾウがメックから脱出した後、残ったレムナントはレヴィンの権威に降伏した。レッドバーンは戦闘で重傷を負ったが、RAF士官一名への暴行を含む一連の罪を地球で裁くため、拘束された。

 いつやってくるともしれないウルフ帝国の攻撃に備えて、カリソンとマーカスのレムナント兵は直ちにRAFへと再編された。吸収されたレムナント兵をなだめるため、第7ハスタティとハイランダーズはキャンベル女伯とアリアナ・ゾウの指揮下に置かれた。聖騎士評議会に空きがなかったため、二人は騎士としてRAFに復帰した。





ドラコ境界域の中心 THE HEART OF THE DRACONIS MARCH

 10月前半、第2軍集団がルツェルンにジャンプすると、DCMSはついにRAFタスクフォースの最終目的地を特定した。ニューサマルカンド元帥、太守アンマー・キュズは、ニューアヴァロンではなくロビンソンに援軍を送れというトラナガの命令に従い、すでにロビンソンにいたDCMS連隊群は重強襲に備えた。

 10月18日、タスクフォース・エルプティオはロビンソンにジャンプし、2個軍集団はそれぞれ反対側のジャンプポイントに到着した。惑星降下中、連合の航空宇宙攻撃は第2軍集団に集中し、第2フィデスの主力降下船1隻を撃墜した。上陸に際して、タスクフォースは軍集団ごとに分かれ、それぞれが別の目標に向かった。

 第1軍集団はカナーン大陸に上陸し、ロビンソン戦闘養成校の本拠地にして、ロビンソンスタンダードバトルワークス(RSBW)の工場施設群に近いスプロール都市、ティベリアに向かった。

 第1フィデス防衛隊は養成校の練兵場攻撃を任され、この5年に及ぶDCMSの支配でキャンパスは若くて影響を受けやすい連合シンパの養成所に変わり果てていたのを発見した。学校の訓練部隊に加えて、リュウケン=ナナがこの地域を守っていた。第1フィデスは正面からの強襲を行う代わりに、特殊作戦大隊を学校に侵入させ、多数の恒星連邦シンパに暴動を引き起こすよう説得した。リュウケン=ナナがキャンパス中の大規模な騒乱に注意を向けると、第1フィデスが学校に降り立ち、リュウケンを敗走に追いやった。

 第1軍集団の中核、第10ハスタティ、プリンキペス、トライアリは、2週間かけて注意深くRSBW工場施設群の周囲に陣取り、そのあいだ、リュウケン=ニからの調査攻撃を受け流した。工場施設群外部を守る第8〈光の剣〉に3日間の空爆を続けた後、マックス・エルゲンは兵士たちに交戦を命じた。リュウケン=ニは全方位から攻撃を受けているのを見ると、すぐさま圧力に押されて後退した。だが、第8〈光の剣〉は大統領その人が視察しているかのごとく戦い、聖騎士エルゲンがリンカーン・マロビッチ大佐のテンシを撃墜するまで持ちこたえた。第8〈光の剣〉は戦闘退却を開始し、第10プリンキペスにかなりの損害を与えるのに成功した……正確な射撃がRISC兵器に致命的故障を引き起こして暴発させたのである。

 第2軍集団の主任務はロビンソンの首都ビューラー占領であった。第11、第12プリンキペスが、首都への進撃中に第7〈光の剣〉を封じ込め、その間、第2フィデスが都市内へと侵入した。ビューラー戦役を短期間で終わらせる望みをかけて、12名のフィデス工作員は大名アダム・オガタ(ヨリ・クリタが据えた惑星知事)を誘拐する計画を6日間練った。各チャンスは頓挫し、大名の護衛への最後の攻撃は、フィデス工作員の内2名だけが生き残って脱出するという顛末を迎えた。

 ニューサマルカンド元帥自身が率いているとされる第7〈光の剣〉は、第2軍集団を相手にした絶望的な戦闘で幾度か持ちこたえてみせた。フィデスの作戦が失敗した直後、トラナガの予備戦力が惑星降下した。やってきたリュウケン=ゴと第1ゴースト連隊の降下船に対してRAFの気圏戦闘機が出撃したがほとんど効果はなく、両DCMS連隊はすぐに第7〈光の剣〉を助け、第2軍集団を押さえつけた。両予備連隊はどちらもタスクフォース・エルプティオとの戦いから完全に回復していなかったのだが、休息と再装備を済ませた兵士たちは連合の防衛にとって明らかな増援となったのである。第1ゴーストは側面機動で第11プリンキペスに近づき、第7〈光の剣〉は拘束を行った。第12プリンキペス、トライアリは機動性を活用して第1ゴーストを包囲し、撃退する一方で、第2フィデスの通常大隊群が都市に滑り込んだ。2時間以内に、第2フィデスは政府庁舎を占拠したが、大名オガタはすでに安全な場所に逃げ去っていた。都市がRAFの手に落ちたのに伴い、第7〈光の剣〉とリュウケン=ゴは第11プリンキペスに押し寄せた。第1軍集団からの援軍が連合兵の攻勢を打開し、第2フィデスは都市の境界線上で第7〈光の剣〉を挟撃で撃破した。

 太守キュズは、大統領に直接敗北を認めるのを余儀なくされるよりも、捕らえられるまで出来る限り長く共和国軍を押しとどめることを選んだ。第7〈光の剣〉が崩壊した後、残ったロビンソンの防衛部隊は力なく首都を出て、見つけられた降下船に乗り込んだ。

 11月25日、マックス・エルゲンは、恒星連邦国王の名においてドラコ境界域主星が解放されたことを宣言した。共和国が公式に恒星連邦の旗をロビンソンに立てた後でもなお、大名オガタは勝利した共和国の兵士たちへの地下活動を開始した。ドラコ連合の特殊工作員がエルゲンを含む大隊・連隊の指揮幕僚メンバーを目標にしたのである。攻撃のほとんどは失敗したが、暗殺者の銃弾は聖騎士を病院に三週間送り込んだ。任務に復帰した後、エルゲンはオガタの隠れ家をしらみつぶしに探した。第1フィデスがビューラーから数百キロメートル離れた隠し掩蔽壕で大名を見つけ出し、ロビンソンでのクリタの抵抗活動は終わった。

 聖騎士エルゲンはニューサマルカンド元帥にヨリ・クリタへの公式な要請を送る許可を出し、ここでキュズは平身低頭してセップクの免責を嘆願した。3150年に入っても、ルシエンから返答はなく、太守はロビンソンの収容所で痩せ衰えていく運命に堕した。

 この年の終わりに、エルゲンはロビンソンは出立し、第1軍集団をすべて連れて行った。AFFSの兵士たちが到着して駐屯任務を引き継ぐまで、第2軍集団は解放された境界域主星を守るために残ったのだった。








3150年: 肉食獣の攻撃 3150: THE PREDATORS STRIKE





狩りをするウルフ WOLVES ON THE HUNT

 3149年半ば、ウルフ帝国によるリパブリック・レムナント強襲後、アラリック・ワードが次にどう動くのかを確認するため、多くの目がウルフ氏族に注がれ続けた。共和国DMI、LIC、SAFE、ジェイドファルコン氏族とラサルハグ・ドミニオンのウォッチすべてがウルフの動きに張り付き続けた。当初の情報分析では、アラリックがスフィア共和国の中心部にまっすぐ突っ込むであろうと結論づけられた。だが、ウルフ帝国のウォッチは最終的な目的地をわかりづらくするために、ウソをばらまいたのである。

 3149年半ばから3150年の前半にかけて、ウルフ帝国はフォートレス・ウォールの無効化とHPGブラックアウトの混乱を最大限に活かす戦役を計画した。いくつかの候補が公に議論されたが、アラリックの最も信頼する指揮官たちのみが真実を知っていたのだった。





スカイア強襲 THE ASSAULT OF SKYE

 3150年3月2日、ウルフ帝国はファルコンの支配する星系スカイアに到着し、観測者全員を驚かせた。ベータ銀河隊の3個星団隊が惑星に向かうあいだ、アラリック・ウルフ自身が個人的なバッチェルを発した。ファルコン副氏族長ライアン・プライドはこの挑戦に応じ、ターキナ親衛隊と第124ファルコン打撃星団隊をスカイア防衛に参加させた。

 ウルフの進撃を抑えるため第124ファルコンはニューロンドン宇宙港の陣地に動き、ターキナ親衛隊の支隊が一撃離脱戦のために移動した。第13ウルフガード打撃星団隊は正面から近づかずに、ニューロンドン市に戦闘降下を行い、都市の破壊された区域に上陸した。第13ウルフはニューロンドン議事堂の占領に向かい、そのあいだ第19ウルフ打撃星団隊は元サングラモア軍養成校のキャンバスを目標にした。

 ニューロンドンの通りで第124ファルコンの前衛が第13ウルフとぶつかり、ギャラクシーコマンダー・ノリトモ・ヘルマーはウルフを撃退するために都市のレイアウトに関する知識を使った。ファルコンは何も禁じ手にせず、ウルフにダメージを与えるため、しばしば都市の全ブロックを爆破した。第9ウルフガード打撃星団隊が第124のほとんどを釘付けにすると、この戦術は裏目に出て、崩壊したビルがノリトモ・ヘルマーのジャイルファルコンを莫大ながれきの下に閉じ込めた。残った第124はノーフォークに撤退して、プライド副氏族長のサングラモアにある指揮所を強化しようとした。

 雑多な報告が示すところでは、アラリックのシルバー親衛隊もまた惑星上に存在した。これはファルコン内に不確実性をもたらした。これまでアラリックが戦闘で負けたのはただ一度きりで、勝ったアナスタシア・ケレンスキーは今や彼の副氏族長なのである。報告に基づき、ターキナ親衛隊はさらに残忍の度合いを上げ、アラリックが姿を現すのを期待して、やってくる第19ウルフに圧倒的な火力を注ぎ込んだ。

 プライド副氏族長の基地を守るため、ターキナ親衛隊が第19ウルフの側面を突くまで、2個三連星隊が囮機動を行った。ウルフの通信が多いことは、アラリックとシルバー親衛隊の到着が近いことを認めており、よってターキナ親衛隊は第19に向けて突進した。そして第9ウルフガード星団隊がファルコンの後方という死角を突き、第19を金床としてターキナ親衛隊を粉砕した。断固たるファルコンの数名がアラリック・ワードに二度目の敗北をお見舞いするのを望んで後退を拒否したが、アラリックは現れず、戦い続けたファルコン戦士は撃破された。

 ターキナ親衛隊の敗走後、バッチェルのさらなる分析によって、アラリックは星系内にすらいないことが明らかになった。彼の挑戦は実のところ、アラリックその人に挑戦する望みを持たせて、ファルコンがやり過ぎることを狙った入念な記録済みメッセージだったのである。このような欺瞞的戦術を使ったアラリック・ワードのことをライアン・プライドは呪った。マルヴィナ・ヘイゼンと前線星団隊の大半がコベントリ、ターカッド、ドネガル方面に展開する中、支援を待って持ちこたえるのは破滅の元になるとプライドは知っていた。必要な時に援軍が来ないリスクを取るよりも、彼は3月12日、スカイアからの全面的な撤退を命じた。

 ターキナ親衛隊と第124がスカイアを放棄した後、ギャラクシーコマンダー・ヘルマーはニューロンドンのがれきの中から生きて見つかり、第13ウルフガード戦闘星団隊のスターコーネル・ドン・クーパーが彼をボンズマンとした。最初、ヘルマーはファルコン最大のライバルのボンズコードに苛立った。だが、ウルフ帝国の氏族軍はマルヴィナ・ヘイゼンを滅ぼす唯一の手段になるかもしれないことに彼は気がついた。ヘイゼンはファルコンを――ひいては中心領域全体を――破壊してしまうと彼は信じていたのである。もし、ウルフ氏族と組めばマルヴィナが地球に足を付けるのを防げるかもしれない。ヘルマーはアラリック・ワードに取り入る決心をした。2週間以内に、スターコーネル・クーパーはノリトモ・ヘルマーのボンドコードを切った。





群れを追う CHASING DOWN THE HERD

 スカイア陥落から数日もしないうちに、別のウルフ部隊がゼベベルゲヌビに降下した。この第93ウルフ打撃星団隊は素早くファルコンのソラーマ守備隊を殲滅し、ファルコンはスカイア周辺の星系の強化に動いた。デヴリン・ストーンとRAFはスカイア地方を興味の目で監視した……なぜなら、ウルフはわずか数個の世界を奪えば、ファルコンの地球への道を断つことが出来るからだ。

 ゼベベルゲヌビに第7ファルコン打撃星団隊の支隊が到着すると、スターコーネル・ランディ・ブハーリンは第93ウルフ打撃星団隊がすでに惑星を発っているのを知って驚かされた。ファルコンはウルフによるヌサカン、アルカロップス、スコンディア、およびアルペッカへの強襲に備えて再配置したが、攻撃が来ることはなかった。





レムナントの崩壊 Collapse of the Remnant

 ファルコンに対するさらなる作戦行動をする代わりに、アラリック・ワードは元リパブリック・レムナントの世界2つを奪うため、ウルフ帝国軍を送り込んだ。

 3月25日、第5、第9ウルフ戦闘星団隊がカリソンに降り立った。騎士アリアナ・ゾウの指揮下で第7ハスタティは第9星団隊をニューロルソ宇宙港から押しのけて、第5星団隊がファローシャにたどり着くのを阻止したが、ウルフは結集し、RAFは劣勢になり始めた。第7ハスタティが戦略的撤退をしている最中、第5ウルフ戦闘星団隊のスターコーネル・クリスタル・ヴィッカースがゾウと一対一の戦闘を行った。ゾウのグリフィンはすでに損害を負っていたにもかかわらず、ヴィッカースの前進を止めようとした。熾烈な戦いの後、ヴィッカースは元パラディンのメックを撃墜し、ゾウをボンズウーマンとした。ゾウが破れると、第7ハスタティは出来る限り持ちこたえてから、重い損害とともに惑星から退却した。

 カリソンで戦闘が巻き起こる中、第9、第328ウルフ強襲星団隊がマーカスに上陸した。他のRAF兵は重要な星系を増強するために共和国の中枢深くへと移動したため、第8トライアリの残存戦力と第3プリンキペスの唯一残った大隊だけがこの星系を守っていた。ショーファー作戦でキャスターから追い出されたことをいまだ苦々しく思っていた第328強襲星団隊は第8トライアリに激しく早くぶつかって、最初の突撃でほとんど潰滅させた。第9ウルフ強襲星団隊は、首都ゾティコスに動き、第3プリンキペスを3時間以内に破壊した。ウルフの上陸から45時間以内に、RAFはレムナント最後の世界を放棄して、ウルフ帝国に渡したのである。





飛びかかるウルフ The Wolf Pounces

 共和国の諜報分析の多くが、ウルフは立ち止まって新たに得た領土を統合するか、ジェイドファルコンOZに向かっていくと考えたが、アラリック・ワードには別の計画があった。部下たちがレムナントの世界を掃討する間、アルファ、ベータ銀河隊が共和国のアンチスピンワード国境に襲いかかったのである。

 ウルフ帝国の主要攻勢2つは、デネボラとキャスターを狙ったものだった。デネボラでは、ウルフ氏族戦士内で飛び交っていたアラリック・ワードが参加しているとの噂が真実だと判明した。アラリックのシルバー親衛隊が第9ウルフガード星団隊と第79ウルフ戦闘星団隊を率いて、第15プリンキペス防衛軍と戦った。ウルフがパイレーツポイントに到着してから、第15の通常戦力はセントキャメロンへの唯一の道に沿って適切に塹壕を掘る時間がなかったことから、RAFは移動しながら戦うか、分散するリスクを冒すかを迫られた。アラリックは網を広く投げて、第15プリンキペスと支援部隊を包囲した。セントキャメロンに向けて行進しながら、ウルフはシステマチックに組織されてない防衛部隊を撃破していった。現場にいた星団隊、三連星隊の指揮官により、これら降伏したRAFの兵士たちはウルフ帝国の氏族軍に吸収されるか、民間階級の一員となるか、処刑された。

 キャスターでは、ウルフ帝国が共和国侵攻で最もタフな挑戦に面していた。第15ハスタティと第5フィデスの支隊がこの惑星を守っており、アナスタシア・ケレンスキーはゴールデン親衛隊、第4ウルフガード、第3ウルフガード戦闘星団隊にいかなる犠牲を支払っても惑星を奪い取るように命じた。第15ハスタティと支援部隊は相当な障害であることを証明してみせたが、ケレンスキーの予期せぬ強襲の素早さと凶暴さを受けて、前進基地に対する突進への準備が不足していたことに気がついた。最初に、第5フィデスのRISC兵器が第3ウルフガードに相当な打撃を与えたが、ゴールデン親衛隊と第4ウルフは極度の嫌悪を持ってしてRISC装備のメックを追い詰め破壊した。どうにか回収に成功した少数の装備は、元の持ち主に多大な出血をもたらした……多くの場合、元フィデスのメックは何発か強烈な射撃を放った後、激しく爆発して、攻撃した敵を破壊し、近くにいた者たちに損害を与えたのである。圧力をかけ続けた後、ケレンスキーの強襲部隊は共和国兵を惑星から追い出した。キャスターを得たことに加えて、副氏族長は無傷のRISC兵器を保存すること選んだ。彼女はこれらを科学者階級の研究用にギナに送り、最大の注意を払って試験を行うよう警告するメモを付けた。

 ウルフがデネボラとキャスターを得た直後、守りの甘い共和国世界5つがウルフ帝国の手に落ちて、地球に飛びかかれる距離までたどり着いた。RAFとジェイドファルコンはウルフの強襲に対処するべく急行したが、アラリックの勢いを止めるものは何もないかに見えた。





群狼の後方 The Rear of the Pack

 3月後半、ウルフによる共和国侵攻の最終段階の時期、相当な規模のタスクフォースが帝国のシロー星系にジャンプし、惑星へと向かった。ウルフの国境の背後に位置するシローは守りが薄かった。マックス・エルゲンの指揮の下、RAFの第1軍集団がソラーマの守備隊との短い小競り合いの後、惑星を手にした。

 3149年後半のロビンソン戦から戻ったエルゲンと第1軍は、一時的に地球で足を止めて再武装し、地球の訓練所と養成所が許す限りの兵力補充を行った。それから無人星系を使って、タスクフォースはシローに向かった。シローが共和国の支配下に入ると、エルゲンはここを第1軍の作戦基地、ウルフの脆弱な後方地域に対する橋頭堡として使った。

 そして第1軍団はギャクラックスを叩き、ブロンズ親衛隊と第271ウルフガード強襲星団隊を、数の暴力と共和国製の先進装備で圧倒した。4月半ば、再装備した第2軍集団がシローでエルゲンに合流し、ここを展開地点として使って、4月18日にフェクダを攻撃した。4日にわたって続いた残虐な戦闘の後、第11戦闘星団隊はワイアットに退却した。2日後、エルゲンは第1軍を率いてウィングに赴き、スティール親衛隊と第19ウルフガード戦闘星団隊をウルフ帝国のスピンワードに押しこんだ。これら4つの世界を手にすることで、聖騎士エルゲンはウルフの補給線の大半を共和国前線から切り離すことに成功したのである。

 ウルフ帝国からの兵站支援を使えなくなったアラリックは、共和国への攻勢を止める以外に選択肢がなくなった。次の侵攻波に備えて、あるいは帝国の奥深くに二線級星団隊を置くため、アラリックとアナスタシアは直ちに戦士たちを再配置した。

 アラリックの最初の命令は、RAFが展開地点を使えないようにすることだった。4月後半、ウルフ軍は背後からシローに到着した。地上部隊が惑星降下する前に、ウルフの降下船と気圏戦闘機はすべての兵舎、野営地、前進基地、補給庫を爆撃した。この爆撃は2週間にわたって続いた……それから、第7ウルフガード戦闘星団隊とシータ銀河隊の2個星団隊が惑星上に降下して、第1軍集団分遣隊の残りと直面した。第9ウルフ機兵隊は足を引きずる第10プリンキペスを引き裂き、コンシクレーテッド砂漠に追いやった。第9ウルフは第10プリンキペスの残存兵力と交戦する代わりに、厳しい砂嵐という慈悲に任せた。その後の報告では、最後の第10プリンキペスが野ざらしか脱水で死んだとされている。第7ウルフガード戦闘星団隊と第23ウルフ守備星団隊は第5フィデス防衛隊をランダースビルの郊外まで追撃して、尻尾を巻いての退却を強いたのだった。

 ギャクラックスでは、ブロンズ親衛隊と第271ウルフガード強襲星団隊が、共和国の侵入者への復讐を求めて戻ってきた。グリーン親衛隊と第93ウルフ打撃星団隊を同行したウルフは、第12トライアリと戦う簡単な任務に直面した。夜の攻撃で、ウルフはRAFの陣地を蹂躙し、ノリシゲ・シロヤマ大佐の死によって、第12トライアリの退却は敗走へと変化した。ウルフはそれから共和国兵の逃げ道を断ち、ギャラクシーコマンダー・エリーゼ・ワードが最後の一人まで抹殺する命令を下したのだった。

 5月に行われたフェクダへの逆襲は、ウルフのタスクフォースが上陸しさえする前に、意外な結末を迎えた。共和国が攻撃を行った際にウルフ派の民間人が残り、階級制度を守ったままRAFの戦争遂行を妨害するイニシアティブを取ったのである。労働者階級と商人階級が兵站輸送を「行方不明」にする間、テックたちは修理工場を破壊し、武器を許可なくいじった。ウルフが到着すると、第12プリンキペスと第2フィデスはこのような混乱状態にあり、3個前線ウルフ星団隊に対してかろうじて防衛を実施出来ただけだった。RAF兵は出来る限り持ちこたえて、それから共和国に撤退した。





ポート・ワイバーンの戦い The Battle of Port Wyvern

 奪還された3つの世界に、聖騎士マックス・エルゲンのいる徴候はなかった。アラリックがウィング奪還を計画すると、アナスタシア・ケレンスキーは攻撃の指揮権をかけた熾烈な入札を勝ち取った。もしこのRAF指揮官がまだウルフ宙域にいるのなら、彼と第10ハスタティセンチルネスはウィングに移動しているはずであり、アナスタシアはウルフ帝国の足に刺さった棘を抜く名誉を切望した。

 ゴールデン親衛隊、第3ウルフガード戦闘星団隊、第103ウルフガード打撃星団隊は6月12日に到着した。アナスタシアはこの惑星に襲いかかることはなく、守るRAF軍にバッチェルを出し、自分自身だけを入札して、聖騎士エルゲンに所有の神判を挑戦したのだった。氏族戦術に精通しているエルゲンはポート・ワイバーン宇宙港施設群の外周にあるドレイク・ライムランドを戦場に選んだ。ゴールデン親衛隊とエルゲンの指揮中隊は雪の中で大規模な対等の輪を形作った。

 エルゲンのドロワールは、アナスタシアのサベージウルフに最初のクリティカルヒットをお見舞いし、戦いは聖騎士の側に傾いた。アクチュエーターのダメージで足を引きずるウルフ副氏族長はエルゲンが直接見える位置に移動した。エルゲンはアナスタシアの損傷につけ込もうと飛び込んで、それは不意を打つためのフェイクであったことを知った。アナスタシアはフルスロットルで駆けだし、聖騎士の背後に回り込み、ミサイルで後方から叩いて、メックを雪の中に沈めた。ドロワールは立ち上がることはなかった。

 指揮官の敗北に激怒したハスタティ中隊は、ウルフの副氏族長を殺そうとゴールデン親衛隊に激しく襲いかかった。ゴールデン親衛隊はRAF兵を撃退し、1時間以内に、軌道上にいたアナスタシア勢がポートワイバーンに上陸して、ツンドラの中に躍り出た。続く戦闘でウルフは第10トライアリを蹂躙し、生存者をほとんど残さなかった。第10ハスタティはもう少し持ちこたえたが、日が変わる前に脱出した。

 共和国軍が軌道に登った後、アナスタシアが聖騎士エルゲンの撃墜されたメックを発見することはなかった。





地球へのレース THE RACE TO TERRA

 後方への危機に対処したアラリック・ワードは、自分の計画を進めた。アラリックと地球の間には、ほんの一握りの星系があるだけだった。彼は人類の故郷のすぐ近くまできたが、慎重に進めという特別な命令を指揮官たちに出し、共和国の罠を警戒した。

 ウルフによるスフィア共和国への強襲第三波は3150年10月3日に始まり、ウルフ氏族長ですら予測できなかった形で終わった。





閉じる顎 THE JAWS CLOSE

 グラハムIVでウルフが遭遇したのは第1フィデス防衛軍――あるいは4月にシローから逃げ出した連隊の残りであった。第1フィデスはキーストン市に後退したが、ギャラクシーコマンダー・タイラー・クーパーは、罠に引きずりこまれるのを恐れ、追撃はしなかった。1個偵察星隊はそのようなRAFの奇襲攻撃を引き起こすのに失敗し、第4ウルフガード強襲星団隊、第9ウルフ強襲星団隊が都市に入る先陣となった。ウルフは共和国兵への砲撃に細心の注意を払い、近くの建物への付随被害を最小限にしようとした。第1フィデスが2個メック中隊にまで減少すると、ウルフは彼らを都市から追い出し、降伏を迫った。抵抗を選択しなかった者たちはボンズマンとなり、氏族軍に吸収された。反撃した者たちはなぎ倒された。

 10月10日のポルックス強襲は似たような顛末に落ち着いた。アナスタシア・ケレンスキーはアルファ銀河隊の一部を率いて、第2フィデスと第12プリンキペスの残りと戦った。アラリックの指示を守って、アナスタシアは戦士たちに整然とした攻撃を命じ、生存者たちに残忍な暴力を叩きつけるのではなく正確な攻撃を行わせた。グラハムIVと同じように、ウルフは共和国兵士の中で最も腕の立つものたちをアイソーラとし、残りを価値のない役割に追いやった。

 2度の攻撃の報告を受けてアラリックは考えた……共和国は彼が予想していたような勇壮なるRAFではなく張り子の虎に守られているかのように見えた。これを胸に止め、彼は次の目標アルラ・アウストラリスに注意深く向かった。アラリックはこの惑星を地球侵攻の展開地点として使うつもりだった。彼は直属のアドバイサーたちの助言を無視して、10月19日、惑星に対する公式なバッチェルを布告し、第11プリンキペスのランドルフ・アバシ大佐が挑戦に応じた。遙かに少ない敵からの罠を疑ったアラリックは、当初の入札から削減するのを拒否し、全軍で上陸した。

 第11プリンキペスの指揮官が選んだ戦場は、ニューホライズンシティのすぐ外にあるオーロリア鉱山だった。露天掘りの穴と予期せぬシンクホールだらけの鉱山には、待ち伏せ側が隠れられる多数のポケットがあった。それにも関わらず、アラリックのシルバー親衛隊は戦闘に突入した。

 始まってから数分以内に、激しい間接砲の弾幕がシルバー親衛隊の陣地に向けて降り注いだ。弾薬が爆発して、ウルフのメック数機の下の古いシンクホールが崩壊した――夕方にはこの戦術は効果が薄いと証明された。アバシ大佐はアラリックのサベージウルフに弾幕を浴びせ、ウルフの侵攻が終わることを望んでいたのだが、ウルフ氏族長を怒らせただけだった。

 シルバー親衛隊は不誠実な戦術を使った第11プリンキペスの指揮中隊を追い詰め、アラリックが一対一の戦いでアバシ大佐を殺した。第9ウルフガード打撃星団隊と第79ウルフ戦闘星団隊は、指揮官の運命を知って動揺する第11プリンキペスの残りを相手にした。ウルフは慈悲を示さなかった。だが、この戦いを生き残ったRAF兵士はウルフ氏族に吸収され、アラリックの戦力はさらに膨張した。

 アルラ・アウストラリス征服が完了すると、アラリック・ワードとウルフ氏族は最終目的地、地球からジャンプ1回のところにいた。

 11月の始め、アラリックは先触れとして1隻のクーリエ航宙艦の準備をして、地球星系をかけた公式なバッチェルを宣言しようとした。それから彼は使える戦力をすべて結集し、セーフコンを求めなかった。クーリエは地球に向けてジャンプしたが、数時間以内にアルラ・アウストラリス宙域へと戻ってきた――このミスジャンプはフォートレス・ウォールが残ってることを示していた。

 戦士たちを集結させながら、アラリックは例え全航宙艦艦隊を犠牲にしようともウォールを突破する方法を見つけると誓った。





襲いかかるファルコン THE FALCON STORM

 ドネガル攻撃を計画するわずか数週間前、マルヴィナ・ヘイゼンはアラリックがどれだけ地球に近づいているのかを知った。メッセージを持ってきた通信テックを撃った後、彼女は自分の宿舎に駆け込んだ。シンシアですら彼女の怒りを収めることは出来なかった。3時間後、彼女は出てきて、戦士たちにすぐ船を出すよう命じた。

 「ウルフ氏族に大氏族の宣言をさせてはならない!」彼女はそう述べた。「我らが地球を手にして、創設者が選んだ氏族が惨めなことを未来永劫知らしめてやるのだ!」

 ファルコンはキャメロンとウェスターステッドで集結し、ドネガル州を横切ってジェイドファルコンOZの反対側に出現し、出来る限り早く地球回廊に移動するため、商人の航宙艦を徴発した。

 11月11日、マルヴィナ・ヘイゼンは戦士たちを3つのタスクフォースに組織し、地球に向けてひた走った。チンギス・ハーンことヘイゼンは、第一波の各目標について具体的な指示を与えた。指揮官たちは命令に従いたくなかったが、ジェイドファルコンが大氏族長になるという夢を見るために応じた。メンケントとリヨンとゾリコフェンで、アルファ、ガンマ、デルタ銀河隊の支隊が人口密集地帯に降り立ち、目に見えるものすべてを無差別に焼き始めた……民間の工業地帯、農業地帯、その他のインフラストラクチャも区別がなかった。間違いなくこの戦術は共和国軍を引きずり出して市民を守らせるものであり、RAFの保護を優先した規律の取れてない素早く激しい打撃による突撃をファルコンは悪用した。

 11月後半、マルヴィナのタスクフォースは共和国攻撃の第二波でゾーリンにジャンプした。第11ハスタティと第11プリンキペスが地上でファルコンの地上軍と遭遇し、その場に足止めしようとしたが、一時的に成功しただけだった。マルヴィナが自由になると、一部破壊されたSLDFのキャッスルブライアン、ライアコーナ要塞から2個部隊の援軍が現れた。マルヴィナはこのような要塞の存在を予期していたが、防衛部隊が緊急で地下へのアクセスをさらけ出してしまうまでは、その場所を特定することが出来なかった。マルヴィナはCJF〈ジェイドエリー〉に命じて、ライアコーナ要塞を隠す山を爆撃させた。引き起こされた地滑りによって、キャッスルブライアンの唯一機能していた出入り口は、膨大な量の岩とがれきに埋められ、残った敵兵は地方に分散するを余儀なくされた。

 追加の航宙艦が星系内に到着したが、マルヴィナを驚かせたことに、やってきたのは共和国ではなくウルフ氏族であった。惑星降下の最中、第79ウルフ戦闘星団隊はファルコンにアラリック・ワードその人が記録した個人的なメッセージを発信した。「ここにいる氏族が大氏族となる、愛しのマルヴィナ。でも、それは君の氏族ではない」。ファルコンがRAF防衛軍を追い詰めるのに集中する間、ウルフは素早く惑星の機能するHPGを占領した。だが、支援から切り離された共和国兵の残りはすぐに倒れたので、マルヴィナはウルフに全力を傾けることが出来た。ファルコンの戦士たちは無慈悲な正確さで第79ウルフ戦闘星団隊を切り刻み、ボンズマンも捕虜も捕らなかった。だが、最後のウルフが撃墜される前に、どこかの方向へ1通の送信を果たしていたのだった。

 アラリックの挑発は、ウルフ氏族長が地球の入り口に近いことを語っており、よってマルヴィナはニューアースを脇に置いて、12月15日、タスクフォースをリギルケンタウルスにジャンプさせた。地球への最後の移動のために、ここを作戦基地にするのが目的だった。惑星では、ラプター親衛隊とアルファ銀河隊が再び共和国兵と遭遇した……どうやらウルフ帝国の戦士たちと肩を並べで戦っているようだった。第4フィデスと両ウルフ星団隊(第4ウルフガード星団隊と第7ウルフガード戦闘星団隊)は、協調して機動することさえなかったものの、互いを撃つこともなかったのである。地球と大氏族の座が危ういことを知ったマルヴィナは、抑制も容赦もなく両グループと激突した。倒れた共和国とウルフのメックは原形をとどめないスラッグの塊となり、コクピットは踏みつぶされるか、至近距離から撃ち抜かれた。ファルコンが捕まえたごく少数の敵兵は、尋問・拷問され、それから処刑された……大多数がマルヴィナ自身の手で。チンギス・ハーンは正しい運命と信じているものを誰かに否定されるのを拒否したのである。

 フォートレス・ウォールに隠れているデヴリン・ストーンだけが彼女の行く先に残された。





クラリティ作戦: ノースウィンドの戦い OPERATION CLARITY: THE BATTLE OF NORTHWIND


聞こえますか? CAN YOU HEAR ME NOW?

 ノースウィンドは単なる軍事目標ではなく、タッカー・ハーウェル率いるプロジェクト・サンライト(中心領域のHPGの大多数を蝕む問題を診断し特定する)にとっても特別な場所であった。ノースウィンドのHPGは、他の共和国で稼働しているHPGよりも古い機材で動いていおり、研究するサンライトの技術者たちにとって謎となっていた。グレイマンデーの後でもなぜか送信・中継能力を保持しているHPGの大半は、もっと新型でアップデートされた技術を使っているのだ。まだ動いているHPGはこれらのアップグレードでブラックアウトの悪影響を逃れていると信じられていた。ノースウィンドのHPG基地はグレイマンデーで他のHPGの大半と同じく通信不能となったが、ずっとそのままではなかった……3135年、いくらかの信号ノイズが混じっていたものの、HPGは不可解にも伝達を再開したのである。プロジェクト・サンライトの主目標はなにがHPGの問題を自己修復したのか確かめること、そして見つかったものを他の誤作動する旧型HPGに適用することに主眼が置かれていた。

 マスキロフカはノースウィンドがプロジェクト・サンライトに関わっていることを知っていたものの、現在までに成果が上がってないことから、ダオシェンと顧問たちは研究にほとんど関心を持たなかった。ノースウィンドが大連邦国の手に落ちたら、カペラのインテリゲンチャは自分たちのやり方でHPGの研究に臨むことが出来るだろう。ダオシェンは稼働するHPGをもうひとつ手に入れることに主眼を置いていた。


カペラの脅威 THE CAPELLAN THREAT

 ストーンが地球に向かう氏族に集中していたことから、ストーンのアドバイザーたちはカペラが地球に近づいてることに気を止めるよう警告した。氏族は全中心領域の政治、社会、軍事的な環境を作り替える狂信的な文化を持っているのだが、多くにとって、カペラによる地球征服の可能性はもっと悪い選択肢だった。もしカペラが前線の近くで稼働するHPGを得たら、氏族の強襲に先駆けて地球を攻撃するのに必要な兵站の統制を達成することが出来るだろう。

 ストーンはカペラの戦争機構にノックアウトパンチをお見舞いする必要があったが、そうするのに必要な兵士の余裕がなかった。最高司令部の予測によると、RAFは地球に対する2つの切迫した危機を止めることが出来るが、3つの危機に対処するため部隊を動かすと戦力が薄く広がりすぎるリスクがあった。それはひとつかそれ以上の戦線を崩壊させるかもしれない。ストーンはダオシェンが氏族の猛攻の前に直接地球を叩くほど大胆ではないと信じており、よってRAFの資源を氏族の脅威に配分し、カペラ軍には自分の首を吊るのに充分なロープを渡したのである。さしあたって、CCAFの追加目標になった世界は、惑星上にある戦力だけで身を守らねばならなかった……援軍の約束はなされていなかった。

 ノースウィンドへの侵攻迫るという噂はカペラの民衆に広まり、入隊希望者の増加を含め民衆の支持が盛り上がった。ノースウィンドは恒星間通信可能な惑星がひとつ増える以上の存在であった……カペラ大連邦国の最も恥ずべき軍事的失敗のひとつであり続けていたのだ。3029年の前半、第四次継承権戦争のさなか、ノースウィンド・ハイランダーズはカペラ市民を裏切り、先祖代々の故郷と引き換えに恒星連邦に寝返った。それ以降の一世紀以上にわたって、大連邦国はこの世界を奪還する機会に恵まれなかった。地球侵攻に先駆けてノースウィンドを占領するのは、稼働するHPGを手に入れるだけでなく、過去の失敗を取り返すことにもつながるのだ。ノースウィンドを征服すると考えただけでも市民たち、特に攻撃を実行するCCAFの兵士たちは盛り上がった。もし、CCAFが地球を勝ち取り、ダオシェン・リャオを新星間連盟の第一君主に据えたいのなら、ノースウィンドは最初に落とす必要があった。この目標のため、ダオシェンと戦略局は惑星を奪うのに充分な戦力の投入を計画し、カペラの手に残るのを確実にするだけの追加の駐屯兵を用意した。マスキロフカの諜報によると、惑星上の防衛部隊は、第12ハスタティセンチネルス、ノースウィンド軍養成校の訓練部隊、少数の地元市民軍志願兵からなっており、よってダオシェンはノースウィンドの防衛を圧倒してHPGの支配権を奪うために3個CCAF連隊と武家イマーラを送り込んだ。

 クラリティ作戦の実施を任されたカペラのタスクフォースは、3150年11月13日、ノースウィンド宙域に到着して惑星に全力で突進し、防衛部隊が組織に使えた時間を一週間以下とした。第12ハスタティの航空戦力による前衛がいくらかの時間を稼いだが、カペラのタスクフォースの上陸を防ぐのに充分なダメージを与えることは出来なかった。CCAFは比較的無傷でカーニー大陸、ニューラナーク大陸に降り立った。

 カペラの降下船が惑星降下を開始したそのとき、ノースウィンドの長老たちは地球にメッセージを送り、CCAFから惑星を守る助けを求めた。残念ながら、RAF最高司令部からの返答は悪い知らせだった……氏族が地球に向けて押し寄せるなかで、ストーンは地球防衛のため出来る限り多くの予備を必要としている。このメッセージは明白だった。ノースウィンドは独力でなんとかせねばならない。

 11月19日、ノースウィンド強襲が本格的に始まった。この戦役にはふたつの戦略目標があった。惑星首都、タラを占領すること。そして第12ハスタティの主作戦基地フォートバレットを無力化することである。だが、ニューラナーク大陸での作戦は、首都の星間連盟時代の要塞、ザ・キャッスルを無力化すること、ノースウィンド軍養成校を占領することもまた要求されていた。そして最も大切なのは、HPG施設を確保し、守ることであった。第4マッカロン装甲機兵団と第1カノープス槍機兵団がタラとその周辺への強襲の急先鋒となり、武家イマーラとローレル軍団はバレット要塞の攻略を任された。

 両陣営の斥候同士の前哨戦は教科書通りのやり方で進み、カペラの側が圧倒して、すでに高いCCAF兵士の士気を過去最高の状態にした。クラリティ作戦の参加部隊は第12ハスタティとほぼ3対1の戦力差で、現場の指揮官たちに大きな自信を植え付けた。第12ハスタティの第1、第3大隊はニューラナークで持ち場を守り、第2大隊はバレット要塞を出来る限り最高の方法で守った。ノースウィンドの惑星市民軍は揺らぐ防衛にわずかに寄与した。

 次の三日間、タラの外周部で激しい戦いが発生した。第1カノープス槍機兵隊はハスタティ第3大隊の一部と交戦する一方、第4MACの足が速い部隊がRAFの警戒線に潜り込んですり抜けた。第3大隊は都市の奥深くに後退して、ザ・キャッスルにいる第1大隊と合流しようとした。第4MACのリンゼー・バクスター上校は第3大隊を追って都市に入る決意を固めたが、ローレル軍団の指揮官、シャオ・ジュリー・チャオ上校は細心の注意を払うように忠告した。最初の第12ハスタティは元ノースウィンド・ハイランダーズ隊員で構成されており、そしてチャオ上校はハイランダーズの戦術に精通していた……3014年、ローレル軍団は退役したハイランダー隊員たちにより結成され、チャオ上校は伝統としてハイランダーズの歴史を広範囲に勉強していたのだ。ハイランダーズのルーツから数世代離れていたものの、チャオ上校は第12ハスタティがどんな手段(非正統的戦術含む)を持ってしても都市と市民を守ることを知っていた。バクスターはチャオ上校の助言を受けてタラに入り、罠を警戒して一度に1ブロックずつ進んだ。

 カーニーでは、ローレル軍団とイマーラ家がより伝統的なやり方でバレット要塞を強襲した。第12ハスタティの第2大隊は大規模な敵に対して見事な防衛を実施し、ノースウィンド軍養成校(NMA)気圏戦闘機分校の教官と候補生たちがアーガイル島から出撃し、カペラの侵略者たちを出来る限り爆撃した。航空支援は重要な場面で敵を足止めしたが、避けられないものを遅らせただけだった。ローレル軍団はハイランダーズの戦術になれているのを利用して退却する第2大隊の分隊を切り裂き、イマーラ家が側面攻撃で掃討した。バクスター上校とチャオ上校によれば、ノースウィンド征服は時間の問題だった。


予期せぬ助け UNEXPECTED HELP

 11月23日、バクスターが予想していた罠はノースウィンドの首都からではなく外からやってきた。灰色の防錆塗装を施した正体不明のメック(未知のタータン記章を付けていた)が周囲の丘に現れ、カペラ兵の背中に突撃を仕掛けた。この新参者は連係していたが、大きな部隊ではなくメック小隊単位で行動した。キャッスルに立て籠もるハスタティ大隊群が打って出てバクスター軍を挟撃し、CCAFは都市を通って横に退却するのを余儀なくされ、再編成と状況の確認のため最終的に都市の外まで出た。

 バレット要塞攻略戦を妨害すべくカーニーにも姿を現したこれら新たな防衛部隊は、より組織化され、より体系化されていることが証明され、平均的な惑星市民軍やゲリラ軍よりも装備がよく訓練を受けており、チャオ上校は彼らがノースウィンド・ハイランダーズの古典的戦術を使って行動していることに言及した。諜報活動によって、彼らはグレイウォッチ、すなわちノースウィンドの氏族長老たちが侵攻を撃退する最後の手段として現役にした、退役ノースウィンド・ハイランダーズ隊員の緊急連隊だと特定された。グレイウォッチの装備は惑星中の小隊単位の倉庫に隠されていた……3080年代初期、連隊の各メックは失われたかサルベージ不能とストーンの軍需物資償還プログラムに嘘の報告がなされていた。

 グレイウォッチの突然の登場はカペラを躓かせ、バランスを相当戻したが、完全に流れを変えるには不十分だったのである。11月25日までに、カペラはタラとHPG施設を占領した。バレット要塞の防衛もまた失敗し、第12ハスタティの大隊はカーニー市に逃げていった。グレイウォッチと第2、第3大隊の生き残りは再武装と再結集のため丘へと戻っていった。キャッスルだけがノースウィンドで唯一の抵抗拠点となり、バクスター上校は占領したHPGと惑星リャオへのクーリエネットワークを使ってダオシェンにメッセージを送った……ノースウィンドへの侵攻は結実し、数日以内に大連邦国のものとなろう。

 11月26日の早朝、第4MACと第1カノープス槍機兵団がキャッスルに大攻勢をかけるわずか数時間前、航宙艦数隻がグラスゴー(月のひとつ)軌道上のパイレーツポイントに到着した。IFF応答装置によるとそれはスフィア共和国軍だった。

 到着した援軍の主力は、タラ・キャンベル女伯指揮するハイランダーズだった。ノースウィンドが攻撃され、ストーンが援軍を送っていないことを知ったキャンベルは、許可が出ようと出まいとノースウィンドに支援を送ることを誓った。彼女と指揮下の一団はノースウィンドを故郷と呼んでおり、14年前にウォールが上がってから帰還は出来ていなかった。「もし、ノースウィンドをカペラに明け渡したら、そのときはすでに敗北している」、タラ・キャンベルはストーンに語り、それからすぐさま荷物をまとめて地球に向かった。キャンベルが正しいと気づいたストーンはカペラと戦うのに充分な兵士を展開する許可を与えた。時間内に37光年の旅を済ませるため、キャンベルはまずカフに航宙艦をジャンプさせ、それから故障のリスクを冒してK-Fドライブへの急速充電を行ってノースウィンドにジャンプした。このギャンブルは報われた。日没、RAF4個メック大隊がタラとカーニー周辺の激戦地に戦闘降下して、スコットランドのバグパイプを外部スピーカーと全通信回線で流しながら、カペラの強襲に混乱を振り撒いた。

 カーニーでは、ストーン防衛軍の第1大隊と新たに到着したハイランダーズ大隊が、分散したグレイウォッチと第12ハスタティ第2大隊の残存戦力に合流した。共に彼らはグレイが持つ地域とバレット要塞の知識を活かして戦場を支配し、ローレル軍団にバレット要塞を放棄するか蹂躙されるかの選択を強いた。

 ニューラナークでは、第6フィデス防衛隊の2個メック大隊がそれぞれの目標を攻撃するために分割された。カノープス槍機兵団は首都で持ち場を守ったが、HPG施設の防衛では、第4MACは第6フィデスの第1大隊と激しくぶつかった。イマーラ家(戦闘が小康状態になったあと、カーニーから呼ばれた)が折良く到着してようやくHPGの陥落が妨げられたのである。戦闘中にHPGアレイが事故で失火したが、可動を続けていた。

 バクスターはタスクフォースが惑星を手にすることが出来ると自信を持ち続けていたが、それにも関わらず、カペラの成功を確実にするため、HPGを通してすべての友軍惑星に援軍を求めた。この呼びかけに応じるのが誰か、彼女は予想していなかった。


影の到来 THE SHADOW ARRIVES

 12月5日、完全な2個連隊を載せた航宙艦がダブリン(ノースウィンド2つ目の月)のパイレーツポイントに到着した。降下船のすべてには、ドラコ連合のマーキングがされていた。

 ヒカゲはイングレスでバクスターのHPG通信を受け取り、連隊指揮官のヒサオ・イケダ少将はドラコ連合に有利な方法で現状に対処するため自由裁量権を使った。管領トラナガからの許可を受けたイケダ少将は第4ディーロン正規隊を指揮下に置いて、ノースウィンドにジャンプした。

 ドラコ連合兵が到着すると、バクスターは安心というより不安になった。大連邦国と連合は同盟しているのだが、共同協定に相互防衛の規定はなく、共同軍事作戦の規定だけがあった。これはクラリティ作戦が始まる前に計画され、同意されたものだった。連合はクラリティ作戦に参加する計画がなかったので、新たな援軍はバクスターの戦役に直接の支援をしそうになかった。さらに不安をかき立てたのは、管領トラナガがTIAMATで当初計画されていたよりも共和国宙域深くに侵入する意図があると地元の諜報報告に示されていたことだった。だが、これらの報告は、リャオとクリタの関係を弱めようというRAF情報工作員が流したデマの一端だったのである。バクスターがイケダ少将にノースウィンドでの目的を決めるように要求すると、イケダ少将は「義務」と「警戒を怠らない」ことに関して、抜け目なく無回答を返したのみだったのである。

 同盟相手だったことから、バクスターの航空宇宙前衛はDCMSの降下船を軌道上まで通した。だが、降下船は配置につくと、惑星に下りてカペラの強襲を助けることはなく、軌道上にとどまった。バクスターがタラとHPGの防衛に介入するようイケダ兵に求めると、返ってきたのは素っ気ない即答であった。「あなたに命令権はない」

 グレイウォッチが、ハイランダーズ、第12ハスタティと協調すると、首都周辺の戦闘は熾烈なものとなり、カペラは都市の広い区画を破壊して少しの時間を稼ぐようになった。そのあいだに、バクスターはイケダ少将に何度か通信を送ったが、さらなる侮蔑と沈黙が戻ってくるだけだった。RAFのデマによって、バクスターは連合兵が戦闘がどのように進展するのか傍観し、チャンスを待っていると信じた。イケダ少将とヒカゲはカペラの惑星占領を助けることなく、戦利品を求めて勝った側と戦い、共同協定を台無しにすると、信じるようになったのである。HPGを通して受け取った追加の偽情報では、管領トラナガが首相と同じ興味を持っているとされていた――つまり稼働するHPGの入手だが、管領はドラコだけで独占するつもりだった。もしバクスターが作戦に対する予想される脅威を無視したら、クラリティのタスクフォースは二方面の防衛戦を戦う羽目に陥り、首相が彼らに課した報償を失うリスクがあった。

 再び、バクスターは介入するよう懇願した。返ってきたのは完全な静寂であった。

 それに応じて、バクスターは気圏戦闘機に軌道上のDCMS降下船を撃つように命じた。彼女は連合兵が作戦に脅威を与えると信じており、惑星降下前に出来る限り多くの兵士を排除すれば、CCAFが地上の戦闘で勝つチャンスを大きく増やすはずであった。

 突然の攻撃で連合の降下船数隻が失われ、首都から数百キロ離れたニューラナークの荒野に緊急着陸を決行した。仲間だと考えていたカペラからの扱いに怒ったイケダ少将は、ヒカゲをタラに差し向けた。ヒカゲ連隊は迎撃に出たグレイウォッチ小隊と第5フィデス中隊を容易に切り裂き、その間、第4ディーロン正規隊はDCMSの後衛となって、修理中の降下船を守った。


歴史の正しい側で ON THE RIGHT SIDE OF HISTORY

[begin transcript]
タッカー・ハーウェル「それで、試験はパスしました」
デヴリン・ストーン「ある意味では。これは単なるリトマス試験に過ぎないし、結果は2つだけだった。この段階でもっと複雑な査定を行う予定はない」
ハーウェル「今でもこれが最適の行動だと信じていますか?」
ストーン「信じているとも。疑う余地もなく」
ハーウェル「でも奴らはあまりに、あまりに多くの共和国世界を占領した。多すぎる。あまりにも多くの人命が失われた……」
ストーン「"共和国の世界"ではないよ。ウルフの世界だ。あるいは少なくとも彼らにそう信じさせている」
ハーウェル「そう――"認識しているのは現実のうち十分の九だけ"。誰の言葉でしたか? ジェローム・ブレイク? 死んだロシア人作家の誰か? [思案]それは問題じゃない。問題は――私たちは恐ろしくもっともらしい嘘になるかもしれないものに、未来を託してしまったのではないか? 嘘が明らかになったらどうなってしまうんでしょう?」
ストーン「もっといい解決策があるというのなら、残念ながら5年遅かっただろうね」
ハーウェル「まず、第一に、我々が壁を上げたままなら――」
ストーン「誰がなぜウォールを使ったにせよ、長期のオプションを意味しない。もしフォートレスを長期にわたって維持したのなら、民衆は革命を起こすだろう。君に賛成することは出来ないが、槍の先に頭を刺されるのも御免だ。私はこのときまでにこのやり方であまりに多くを犠牲にしてきたが、犠牲を無駄にすることも出来ない」
ハーウェル「しかし、この二択でもっと上手くやれたのでは? あなたは悪魔を別の悪魔と交換しただけなのでは?」
ストーン「我らの後継者だけが私を正しく裁くことが出来るだろう、タッカー。そして彼らが歴史の正しい側から私を裁くことを熱望しているよ。いま、我々は待って、正しい選択をしたことを信じることしかできない」
ハーウェル「わかってます、わかってます。"辛抱して、信じて"[ぼやき]。でも、あなたが間違っていたら? あなたが悪魔を別のもっと悪い悪魔と交換したのなら?」
ストーン「……」
ハーウェル「デヴリン?」
ストーン「[ため息]私は死ぬまでその決断に苦しむことになるだろう」
[end transcript]
 ――ストーンの非公式会談、書き起こし #G379-F、3150年12月27日



切れた通話 DROPPED CALLS

 12月9日、ヒカゲはタラに到着すると、RAFとノースウィンド兵を無視して、目についたカペラ部隊に砲火を開いた。ヒカゲと第4ディーロン正規隊は惑星防衛部隊と連係することはなかったが、CCAFを罰して首都から追い出すため事実上共に戦った。イケダ少将はノースウィンドのHPGをクリタ家のものにして、DCMSの援軍に連絡がつくまで守るつもりだった。

 ヒカゲの鋭い刃はバクスター兵をHPG施設の奥深くまで切り裂き、カペラの戦線に突破口を開いて、イケダ少将はそれを最大限に利用した。連合の数個小隊が施設の壁を突破し、第4MACが奥深くに退却するのを妨害し、グレイウォッチとハイランダーズによる攻勢が突破口をさらに広げて、カペラの防衛線に流れ込んだ。

 バクスターは勝ち目のない戦いを避けてカペラ全軍に施設からの一時撤退を呼びかけた。だが、退却中にHPGアレイが火球に包まれ、施設全体を飲み込んだ。第4MACとグレイウォッチのメック数機も爆発に巻き込まれるか、飛び散る破片で破壊された。イケダ少将はカペラが意図的にHPGを破壊して、他人が使うのを子供っぽく拒否したのだと信じて、両国の関係はさらに悪化したが、この爆発はバクスターにとっても晴天の霹靂だった。実際、グレイウォッチの工作員が前夜に侵入して爆発物を仕掛けていたのである。侵略者の目的を破壊してしまったら、両者はノースウィンドからいなくなると信じてのことだった。

 ゲームの賞品がなくなってしまったことから、イケダ少将はヒカゲと第4ディーロンに降下船へ戻るよう命令を出した。共和国兵は追撃をほぼしなかったので、連合兵はそれ以上なにもなく惑星を発つことが出来た。だがカペラ兵は残った。HPGは破壊されてしまったが、この惑星には手に入れる価値が残っており、バクスターとシャオは双方ともに出来る限り侵攻を続ける決意を固めた。RAFの逆襲はことあるごとにカペラを妨害し、1週間以内に連合兵と地元防衛軍との交戦で被った傷はあまりに深いものとなった。

 12月15日、クラリティ作戦のぼろぼろになった生き残りは降下船に後退し、敗北を抱いて大連邦国へと帰っていった。

 共和国が勝利したのに加えて、ノースウィンドの紛争は大連邦国と連合の同盟に亀裂を生じさせた。バクスターはクラリティが失敗したのをヒカゲが直接的な軍事支援を拒否したせいにした。これによって共同協定が真のパートナーシップではなく都合のいい同盟に過ぎないことをダオシェンに証明してみせた。

 イケダ少将の公式作戦後報告は、カペラ首相が共同協定の精神に則り両国の相互利益のために惑星の共同管理をすると仮定した上で、カペラとの共同作戦を計画していたことを示した。イケダ少将は戦略的状況を評価するために軌道上にいたのである。彼はカペラ指揮官の気まぐれに付き合うのではなく、最も必要な時に必要なタイミングで、正確な精密攻撃を敢行するつもりだった。

 カペラが仲間を撃った原因がなんであれ、すでに損害は出てしまった。ノースウィンドの戦いは、カペラ大連邦国が地球回廊において大きな通信優位を得るのを妨げただけでなく、大連邦国と連合の暖かい関係を終わらせる死の鐘を響かせた。

 だが、両国が知るよしもないことだが、ノースウィンドのHPG破壊は最初に信じられていたほど完全なものではなかった。潜入工作員が注意深く仕掛けた爆薬は施設の地上部分を吹き飛ばしたが、設置の際の多大な苦労によって地下にあるHPGシステムのコアは完全な形で保たれたのである。これは再建を容易にし、プロジェクト・サンライトの重要な研究を守るためだった。侵攻後の控えめな推定によると、HPGは2〜3年で完全に復旧すると結論づけられた。


フォールアウト FALLOUT

 カペラ大連邦国による地球への差し迫った脅威は一時的に無力化されたが、ふたつの大きな危険が残った。ジェイドファルコン氏族は、マルヴィナ・ヘイゼンの残酷で終末論的なビジョンを人類発祥の地に与える準備を整えた。アラリック・ワードとウルフ氏族はジュリアス・シーザーの亡霊が嫉妬する黄金の征服のように到着することを夢見ている。

 スフィア共和国の一番近い同盟国であるダヴィオン家は領土的に切り離されており、支援をするには自分たちの政治・軍事的闘争にはまり込み過ぎていた。助けは来なかった。デヴリン・ストーンと共和国軍は共和国最後の痕跡を消し去ろうとする敵意に満ちた2氏族の力に独力で立ち向かわねばならなかった。

 だが、ウォールは地球の周囲に残っていた。地球へのアクセスが不能である限り、氏族は真の勝利をつかめない。地球の大地を踏めない限り、大氏族になれる氏族はないのだ。

 残ったのは待つことだけだった。だが、地球の工場がどれだけ多くのメックを生産しようとも、どれだけ多くの戦士、士官、英雄たちが養成校で訓練され卒業しようとも、時間は生産することも伸ばすことも出来ない資源であった。崩壊したフォートレス・リパブリックに残された最後の星々には時間がなかった。

 3151年1月1日、氏族の1個艦隊がどういうことかウォールに妨害されず地球宙域に到着した。旗艦が通告した挑戦は、中心領域の運命と人類全体の行く先を決めることになる。








新部隊プロファイル NEW UNIT PROFILES


ヒカゲ [ドラコ連合] HIKAGE [DRACONIS COMBINE]
指揮官: ヒサオ・イケダ少将
平均経験: エリート/狂信的
部隊構成: 1個強化重メック連隊、1個重気圏戦闘機大隊、1個バトルアーマー大隊、1個中車両連隊、1個間接砲中隊

 コマンド隊員の精神を持つメック戦士たちの部隊、ドラゴン・シャドウは戦場の内外で複数の役目を果たしている。まず第一に、彼らは大統領から管領トラナガへのメッセージであった――大統領への影響力行使は終わっており、野心を抑えて、部下としての正しい地位につく時が来たというあからさまな警告なのである。だが、ヒカゲは贈り物でもあり、トラナガの奉仕と成功への信頼と、大統領に彼がいるのを高く評価する証であった。

 ヒカゲはDCMS内でユニークな存在である。この連隊は、元DESTコマンド隊員と、DESTがメック戦士としてクロストレーニングした人員がほとんどとなっている。戦場において、ヒカゲは冷酷なまでに効率的であり、数世代にわたる正統派のメック戦士たちが予想もしていなかった行動によく出る。小隊規模の部隊は、直接の戦術的監督なしに行動を許可されることが多く、彼らがもっとも効果的だと感じた方法で戦略的な目的を目指す自由が与えられる。

 同様に、部隊は全体としてトラナガの指揮下にあるが、管領が戦場で指揮することはなく、彼から直接命令を受けるのは時折のことである。その代わりに、特定の指示を受けないヒカゲは、「龍のために行動する」という確固とした命令を受けており、イケダ少将が適当と見た目標を選択し行動に出るのを許されている。この自由裁量は、他のDCMS連隊を指揮し、目標を追求するのに投入する権利もまた与えている。

 イケダ少将は大統領に絶対的忠誠を向けているが、トラナガが龍にもたらした大いなる栄誉に敬意を払っており、ふたりの頑固なリーダーのあいだに架かる橋となっている。それにも関わらず、ヒカゲの指揮官が大統領といつでも自由に話せて、トラナガの不忠を表す各種命令を迅速に報告しているのではないかと管領は疑っている。




フィデス防衛隊 [スフィア共和国] FIDES DEFENDERS [REPUBLIC]
指揮官: ララ・デ・クラーク准将
平均経験: 古参兵/信頼できる
部隊構成: 12個中メック大隊、6個バトルアーマー大隊、6個気圏戦闘機大隊、6個重車両連隊、6個歩兵連隊

 フォートレス・リパブリックの開始後、ヨナ・レヴィン総帥の最も火急な任務は明白であった……新しい戦力を立ち上げ、ウォールが下りる日に備えて共和国装甲軍を再建するのである。新しくハスタティ、プリンキペス、トライアリ部隊を立ち上げるのに加えて、レヴィンはまったく新しい旅団を構想した。この旅団は、ダミアン・レッドバーン元総帥が出発する前に始動した秘密集団、フィデリスの専門技能を当てにしていた。

 求めるインパクトを与えるにはフィデリスの数が少なすぎることを知っていたレヴィン総帥は、RAFの古参兵からなる新旅団に規律と手法を叩き込むことでデヴリン・ストーンへの誓いを果たす役割を与えた。本物のフィデリスくらい伝説的に効果的ではなかったのだが、これらのフィデス部隊は最も重要な技能を連隊規模の部隊に吹き込んだのである。

 平均以上の脱落率であることから、6個フィデス連隊のそれぞれはプリンキペス部隊のラインに沿って組織されており、2個メック大隊と、通常規模の装甲、歩兵、支援連隊を持つ。各フィデス小隊は異なった重量等級のメック2機からなり、メック戦士たちはベストのペアリングを活用するために各小隊を迅速に変更・再編する広範囲な教練を受けている。慣れるのは難しいのだが、この戦術は破壊的なまでに効果をもたらすため、フィデスが柔軟性と即興性に力を入れていることを強調している。2個メック大隊に加わる3番目の大隊は特殊作戦歩兵で、ヘッドハンティングを専門にする1個中隊、浸透と破壊工作を専門にする1個中隊、直接戦場支援を専門にする1個中隊とそれぞれ均等に分割される。

 ほとんどすべてのフィデス兵はフィデリスのトレーナーに心からの敬意を抱いている。最初の調整期間の後、初期のフィデス兵の大半は教師役をあまりに詳しく真似し始め、フィデリスの儀礼的な儀式いくつかを受け入れた。デ・クラーク准将はこの傾向を奨励している……フィデス防衛隊はフィデリスのように振る舞うだけでは不十分であり、可能なあらゆる方法でフィデリスになろうとするべきだと信じているのだ。




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