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作成:2005/06/25
更新:2007/07/29

シーフォックス氏族 Sea Fox Clan



 商業を重視する守護派氏族。クラシックバトルテックの時代には、『ダイアモンドシャーク氏族』という名前を使っていました。
 ツーリング・スターズclassicbattletech.comより。




第29回:利益、進歩、名誉――シーフォックス氏族の起源

 聞け、氏族の子らよ。ケレンスキーと汝の祖先の英知を。前に進むとき、忘れるなかれ。

――リメンバランス(全氏族)、1節、1:1-4、カレン・ナガサワに関して


 第一印象はしばしば本質をつくものである。

 ケレンスキーの子孫が3050年にあらわれたとき、彼らはそれまでにない凶暴さと残忍さで中心領域を攻撃した。継承国家の軍隊を片づけ、かつて星間連盟だった領域に深くくさびを打ったのである。数年間は、伝説の怪物か、異星人の仕業であるとされていた……もっとも正体はすぐに明らかとなった。

 氏族に対する誤解を生んだのは、彼らの軍事力、奇妙な戦術と言語の使用、あらゆる分野での優れた軍事技術(失われた星間連盟の兵器より進んだもの)である。中心領域の人々が侵攻者についてさらに学ぶと、両者に共通の歴史を発見し、氏族とは姿を消したケレンスキーの兵士たちだったことに気がついた。だが誤解は解けた一方で、他のものは残った。最後まで無くならなかったもののひとつは、もちろん、氏族の概念である。ただ一つの目的……戦争のために生まれ、育ち、死んでいくというものだ。

 他の誤解と同じように、この考え方は氏族の根幹の一部だけから生まれたものであり、侵攻軍の群れという強烈な第一印象から生まれたものだ。氏族社会では、戦士が支配し、戦いの技術を完成させるのに人生を捧げ、その一方で民間人は兵器をより強く、速く、改良するために仕えていると、かつては信じられていた。だが、今日では話が違う。今日、氏族が単なる殺人マシン以上のものであると、我らは知っている。それぞれに目標、願望、文化がある。

 そしてシーフォックス氏族も、他と大差はないのである。


 ダイアモンドシャーク氏族は、氏族内でユニークな位置を占めている。厳格な階級制社会のなかで、彼らは民主主義に近づいていった。市民は、軍事力を厳重な管理の下におき、命令系統を尊重すべきと考えている。ダイアモンドシャークは、他氏族が軽蔑するような柔軟性を用い、戦場での素晴らしい成果を収めてきた。ダイアモンドシャーク氏族は名称を変えたことのある唯一の氏族でもある。この行為は、秩序と安定性を何より重んじる社会においては、すさまじい変化であった。名称を変えた際、ダイアモンドシャーク氏族は特殊な境遇に順応した。この能力は、ダイアモンドシャークの異端的な性質をよく表している。

――ジェイム・ウルフ司令官、ウルフネット機密報告、侵攻氏族――ダイアモンドシャーク氏族、3058年(3068年1月、機密扱い解除)


 実際、シーフォックス氏族は、一時期、その名を「ダイアモンドシャーク氏族」に変えており、3050年代初頭に中心領域に来たときにはこの名で知られていた。結局、元の名前に戻ったのだが、シーフォックス氏族は新たな境遇に順応し続け、それが氏族にどのような意味を持つのかという予断を超え、発展しているのである。だが、彼らはどのようにして、いまの位置に来たのだろうか? どのように民主主義を受け入れ、変化したのだろうか?

 他の氏族のように、忠誠心溢れる戦士を核とし、2名の氏族長の下に団結するシーフォックス氏族は、カレン・ナガサワの進歩的な理想を基盤として発展した。雄弁で、哲学的な戦士だったナガサワの言葉は、ニコラス・ケレンスキーの夢に転向する者を大きく増やした――そこにはフォックスの初代氏族長ディビッド・カラサも含まれていたのだった。ナガサワはまた進歩的な思想家であり、ゼルブリゲンとして今日知られている名誉の決闘の概念に、疑問を投げかけていた。これが氏族の軍事的な方針となる前のことではあっても、他の氏族と対立することになったのだが、戦場における協調の精神を育んだのである。ナガサワの統率の下(カラサ氏族長はペンタゴンワールド開拓のあいだに死んでいた)、この協調の精神は、下層階級にまで及び、彼らに対する尊敬の念を与え、氏族の物質的な繁栄を奨励することになったのである。シーフォックスは、拡大に奔走した。商人、科学者階級は、大いなる自由に助けられ、新たな市場と可能性を開拓した。

 幅広い裁量によって、シーフォックスは、黄金期の前と最中に、科学的、商業的な革新という特質を得た。科学者たちは、今日氏族で使われている鉄の子宮を完成させ、商人――商業と同じく情報戦に習熟していた――は、全氏族間で使われている情報交換ネットワーク、チャッターウェブを開発したのである。


 公平を期すと、すべての氏族は権力と影響力を拡大しようとしている……シーフォックスのように。すべての氏族が、それぞれの階級の等しい重要性を詳細に誇示している。だが――[ヘルズ]ホースのチームワークや、[ゴースト]ベアの家族の感覚のように――協調を実践しようとしている氏族もある。フォックスはこの上を行く。商人階級、科学者階級が、なにかを制限されることはなく、限界までいくのを奨励される。[ニコラス]ケレンスキー大氏族長の死後、シーフォックスは積極的に新たな植民地を探し、友好的な氏族と情報・物資の取引をし、チャッターウェブを使って静かに隣人を見張り続けてきた。

 だがそれ以上に――もっとも批判されるかもしれないことは――フォックスが「商売第一」氏族になったことだ。他の氏族は所有の神判の神聖性を信じていた。新世代メックを得るために戦うよりも、フォックスはコヨーテの開発を助けて、交換取引した。ホースに対しては、貴重なハージェルを一部供給することで、ホースの優れた血統を得たのだ。そしていざ戦うときには、チャッターウェブで集めた情報を積極的に使い(先制の挑戦が可能になる)、成功の確率を上げる――ウルフからエレメンタルアーマーを得た挑戦がこの例である。

 この方針の良い面は、黄金世紀に富と力を得たことだけでなく、他の氏族からほとんど恨みを買わなかったことだ。もちろんこれは意識してやったことだ。商人は見込み客に不愉快な思いをさせたりはしない。

――ショーン・ラスコ博士、氏族社会政治学部教授、ソーリン大学


 だが利益と進歩がすべてではない。シーフォックスの繁栄を助けたのは、保守的な氏族への侮蔑であった。商人階級(異議に反して地位を上げた)は、フォックスの神判を取り仕切っているように見え、戦士たちが入札しているあいだ氏族に利益を誘導しているように見えた。これがスノウレイヴン氏族のリーアム・ハウェル氏族長を怒らせた。彼は、シーフォックス氏族のトーテムをストラナメクティから根絶やしにする生物を開発するよう科学者に命じた。一時は秘密にされていたこの件で、フォックスは並はずれた反応を示した。絶滅の危機に瀕していたトーテムに縛られるよりも、そして手引きした氏族と無駄に対立するよりも、単に名前を変えることを選んだのである。滅多にない投票で、市民階級までもが投票した。2985年、氏族長会議の改名阻止に対する拒絶の神判で勝利を収めた後、シーフォックス氏族は、元のトーテムを殲滅した生物の名に改名し、ダイアモンドシャーク氏族が誕生した。


 皮肉なことに、民主主義と変革に向かった数十年間は、新名ダイアモンドシャークに歓迎されざる変化をもたらした。前々から、分裂の度合いを増す侵攻派と守護派の隙間をすり抜けていたシャークは、敵を作るのを避けていた。だが決断のときが近づくなかで、ためらいは孤立をもたらした。イアン・ホーカーが氏族長になったのは、この政治的緊張が均衡を保っていたときだった。リベラルな氏族における反動保守の彼がどうやってこの地位に選ばれたかは不可解な謎である。おそらくこれは商人たちからの圧力だったろう。ホーカーの侵攻派的心情を、新市場を開拓する動きと見たのである。もしかしたら影響はなかったかもしれない。原因がなんであっても、シャークはホーカーの指揮の下で確固とした侵攻派になったのである。

――ショーン・ラスコ博士、氏族社会政治学部教授、ソーリン大学


 かつての栄光を取り戻したダイアモンドシャーク氏族の戦士=商人は、早いうちから閉じた市場をこじ開け始めた。氏族が終焉を迎えた後(大拒絶での集団敗北後)、シャークは氏族的な視点(中心領域は征服するか支配すべき敵である)から開放された。取引を、狭い氏族保有地域から広げ、中心領域の各機関と交渉を始めた。氏族製のメックさえもが、常に餓えた中心領域の市場へ出荷された。このベンチャーから得られた利益で、シャークのゆるやかな変化が始まったのである。




第30回:鮫と狐、一氏族の進化

 灼熱する巨大な太陽に灼かれる砂と嵐のこの世界は、かつてライラ共和国、タマラー協定、トレルシェア州の主星だった。だが今日では、カモラ(惑星の最大都市のひとつ)の背が低く分厚い建物が、無秩序に広がる露店を囲んでいる。ここでは、ホログラフィーのモニターとコンピュータ端末の横に、原始的な屋台が並んでいる。豪華な服を着た商人たちが商品を売り歩き、値切りの粋を見せている。近くの宇宙港では、少なくとも5棟の巨大な卵形の超高層ビルが静かに不寝番をしている。巨大な地下倉庫に絶えず荷物が搬入・搬出され、氏族製の軍需物資(金さえあれば買える)が警護されている。

 メック、降下船、兵士たち(すべての取引、商売がスムーズに行くか見ている)にさえも飾られているのは、油断ならないシーフォックスの紋章である。波頭の上で身体をねじって、獲物に襲いかかり、同時に名誉を与える。


 物的な富を追求するのは、なにをおいても軍事的栄光を求める氏族には、低く見られることだろう。彼らに名誉をもたらすのは、公正な神判での勝利だけだ。対等な相手と命をかけて戦い、自身の価値とやり方が正しいかを証明するのである。だが、何がシーフォックス氏族の商業的性質を説明してくれるのだろうか? 飽くなき商業、情報収集、富の追求は、この氏族の価値を下げるのだろうか? 戦闘で名誉の類を見せるのだろうか? ケレンスキーのビジョンを信じているのだろうか?

 ゴーストベア氏族と同じく、シーフォックスは中心領域での生活に長けているのだが、この地に辿りつく前から変革は始まっていた。シーフォックスでは、他氏族の市民よりも自由を与えられていた商人階級が、政治と政策を決めていたのだ。カレン・ナガサワ(創設氏族長の一人)の指示に沿って、フォックスはなにより物質的利益を追求した。比較的資源に乏しいケレンスキー星団で生き残り続けることを望んだ結果だった。しかし、拡大を追い求める中で、シーフォックスはニコラス・ケレンスキーの規範に抵触したりはしなかった。そうでなく、単に柔軟性をどこまで高められるかをテストし、富、資源、ついでに権力を集めたのである。しかし、ケレンスキー星団は狭かった。


 ダイアモンドシャーク/シーフォックスでもっとも皮肉めいているのは、おそらく中心領域にどのようにやってきたかである。神判より取引を好む彼らは、いつでも長い対立を避けようとしてきたが、侵攻の投票の際には、侵攻派に属していたのだ。内輪の圧力でこうなった――商人階級によるもの、トーテムが海中で血の臭いを嗅ぎつけるように、新市場の臭いをかぎ取った――とする学者もいるが、当時の指導者は戦士階級のエリート主義者だったという点で矛盾がある。従って、商人たちがようやく中心領域の未開の富に触れたとき、厳しく弾圧され、権利を剥奪されたのである。

 だが、この指導者によってもたらされたひどい結果は、最終的に成功への道を切り開いたのだ。[イアン]ホーカー氏族長の下、ダイアモンドシャークは侵攻でのお粗末な成果に苦しんだ――実際、あまりにお粗末だったために、彼は支配権を手放さざるを得なくなり、吸収を避け、再建するため、抑圧された商人階級が実権を握ったのである。

 このように侵攻に加わる決断は、事実上、ダイアモンドシャークの最大の失敗であり、最高の利益になった。その後、自らの道に泳ぎ着くまで、まだ何年もの時間がかかることとなる……。

――ショーン・ラスコ博士、氏族社会政治学部教授、ソーリン大学


 実際、氏族侵攻後に、ダイアモンドシャークの商人は突如、求めていた成長の機会が訪れたことに気がついた。中心領域の市場は、ブラックマーケットのレベルから、徐々に氏族製の商品を受け入れ始め、わりあい単純な品物を中心領域の商品と交換した。乏しい資源でのやりくりを強いられていたために、氏族の技術で作られた工具と兵器は、中心領域のライバルに比べて優秀で、従って高価だった。だが氏族の製品には、中心領域の貧しい国家が作った製品にさえある、快適さと便利さが欠けていた。貿易は開花し、バトルメックさえ取引されるまでに拡大していった。他氏族は、最先端の軍需物資を売り払うことに難色を示したのだが、侵攻が始まって以降の技術流出は避けられないと反論し、旧型兵器の取引ではパワーバランスを崩すに至らないとした。

 ほぼ同時期に、シャークは余剰航宙艦隊を使っての輸送サービスに乗り出した。最初はゴーストベア、次にヘルズホースが植民地移転するのを支援した。氏族の本拠地で緊張が高まると、ダイアモンドシャーク氏族保有地からの移住も行うようになった。これは3067年以降のことで、このとき中心領域におけるダイアモンドシャークの勢力は増大しており、他氏族占領域内の世界を奪い取って確保していたのだ。仲間の氏族人たちは何が起きたか気づくようになる。どういう観点から見ても、シャークは本拠地世界の狭い世界から抜け出して、外洋に渡ったのである。

 大規模な軍隊を戦艦に置き換え始めたのもこの時期である。この奇妙な、だが明らかにちっぽけな変化は、やがて氏族に訪れる抜本的な社会政治の変化の前兆となっていたのである。

 氏族の新世代がもたらした激変で、本拠地は放棄され、維持が困難だったと証明された。今日でさえも何があったかの一部すら明かそうとはされないが、噂と報告によると氏族本拠地は10年以上続く凄まじい戦火に包まれ、無視できないほど長く続いたとのことだ。何が起きたかにせよ、残ったダイアモンドシャークの中心領域移住は、速やかに促進されたのである。この行程が容易に進んだのは、ここ何年かで貿易同盟が結ばれており、また商人、労働者階級の移住(この時期に勝ち取った交易世界へのもの)が増えていたからである。

 ジェイドファルコン占領域のトワイクロス、ゴーストベア・ドミニオンのトロントハイム、ドラコ連合ノヴァキャット保有地のイタビアナといった世界は、ダイアモンドシャークの所領となった。これらの世界は取引所となり、軍事上の作戦基地になったのみならず、ダイアモンドシャークの使命である商売の基地となったのだ。だが、外部の者をこれらの惑星に招いて取り引きするだけでは、根無し草の氏族を養うには足りない。敵を作らずに、新しい市場を開拓せねばならなかった。各世界は神判のルールで勝ち取ったものだが、見込み客――中心領域の――は、氏族の戦士の道を受け入れないだろう。新規顧客をつかむには、征服なくして拡大する必要があった。その結果、州(Aimag)と副氏族長領(Khanate)のシステムが登場したのだ。そして最初の氏族名を使うことにもした。こうして、失敗した侵攻者という評価に傷つけられることなく、新たな顧客に高貴なシーフォックスとのつながりを誇れたのである。




 カモラに夜のとばりが訪れ、市場は閉じていった。遠方の砂嵐を赤く染めていた太陽が沈むと、次第に砂漠の風が冷たいことに気づき始める。都市は、だが眠ってはいない。ランプの下で子どもたちは遊び、大人たちの商売をゲームで真似ている。ここは商人の街であり、戦士たちでさえ干渉はしない。バトルメックは足音を鳴らして、宇宙港のまわりをパトロールしている。

 だが、そびえていた卵形のビルは減ってしまった。夜空に炎をひいて出発していき、残されているのはひとつだけだ。高性能な双眼鏡があれば、それが長方形の艦船であると理解できるだろう。金属の肌に最後の夕陽がかすかに反射していた。普通、軌道上の戦艦は侵攻の前触れであるが、トワイクロスの人々が警戒することはない。シーフォックスの箱船(ArcShips)がいつものビジネスのために停泊しているだけなのだ。そして今夜は、スケート副氏族長領の箱船が次なる「市場予備調査」の準備をしている。広大な宇宙で新たな市場を探す永遠の探究である。





第31回:空白への挑戦――シーフォックス氏族の上昇

 ペンタゴン、ケレンスキー星団の荒涼とした資源に乏しい世界で生まれたシーフォックス氏族は、物質的繁栄を求めて邁進し、富と資源は生存と同じものであると考えた。シーフォックス氏族として、神判よりも取引に頼って経済帝国を築き上げてきたのだが、必然的な対立が変化を引きおこし、ダイアモンドシャークへと発展することになった。しかしこの民主的性格を持った氏族は、戦争の情熱よりも、新規市場の開拓に導かれたのである。中心領域侵攻にともなって、振り子がもう一度ゆっくり振れ、シーフォックスの性質――残忍でなく、名誉を求めるが、畏怖される肉食魚というものを取り戻した。だがそれは想像しうる進化で、完成までに数十年を要したのだった。


 [ダイアモンドシャーク/シーフォックス氏族]が氏族侵攻の初期に何をしていたかは謎である。中心領域の市民にとって、彼らはこれまで見たことのない侵略者だった。他の侵略者にとって、彼らはサメというより、コバンザメだった。だが、シャークに居場所がなかったと言う氏族人はいない。各氏族は、5階級――戦士、科学者、商人、技術者、労働者――の団結で機能する。戦士が指導し、他が仕える。シャークでは商人がその役目を果たす。

 しかし、シャークは他氏族の軍事的な性質に比べて民主的だった。民主主義の中で、庶民でさえも発言権を持つ。それはシャークに利をもたらした。力(利益と富)を追い求めるために、生まれ、育てられ、成長する彼らは、戦闘を好む氏族の侵攻論に同じ意味を見いだした。だが、そこに至る別のやり方があったのだ。ツカイードにおける氏族の敗北は、このことのまたとない証明になった。[イアン]ホーカー氏族長のもたらした衰退が、侵攻派精神を消滅させ、新たな守護派哲学を支持させたのだ。たとえ、戦場では中心領域に勝てなくても、市場を征服することはできる。

 当然ながら、戦士的な氏族は甘やかされた子供のように、シャークの豹変に異議を申し立てたのだが、シャークはすべての神判で勝ち、すべての権利を主張できた。彼らは氏族と中心領域の顧客にサービスを売った。だが、皮肉なことに、両者との取引は、聖戦の暗い時代に、もうひとつの選択肢を産み出したのである。

――ショーン・ラスコ博士、氏族社会政治学部教授、ソーリン大学


 3060年代前半は、氏族本拠地と中心領域の双方で、度重なる戦闘が行われた。氏族のひとつが破壊され、もうひとつが吸収され、またもうひとつが中心領域の新居に完全な移住を果たした。こうして力の空白が産み出され、残留氏族が互いに角つき合わせることとなったのだ。所有戦争(として知られる)が数年に渡って続き、時を同じくして中心領域で、カペラ=聖アイヴス戦争から連邦=共和国内戦にいたるまでいくつかの戦いが勃発したのである。だが、紛争が終わったそのとき、新たな戦いが始まった。ワードオブブレイクの聖戦が3067年に始まり、戦争で荒廃した中心領域をさらに痛めつけたのだ。そして中心領域人が自らの生き方を守るために戦っていたとき、氏族もまた緊張状態にあった。

 しかし、導火線に火を付けたのは思いもかけない者だった。ヘルズホース氏族(有力な残留氏族)が侵攻派ウルフに狙いを定め、独自に侵攻を始めたのである。彼らは中心領域に持っていた占領域から追い出されたところだった。長期戦になることを認識し、かつての失敗から学んでいたホースは、軍と支援組織の少なくとも大部分を移転しなければならないとわかっていた。支援のため、宿敵のゴーストベアが10年前にそうしたように、彼らはダイアモンドシャークに助けを求めた。だが、ベアと違ってホースの移動は見逃されるほど巧みなものではなかった。そしてこの出発が氏族本拠地に混沌を招いたのかもしれない。

 氏族内戦(と歴史家に呼ばれることもあるもの)について詳細は伝わっておらず、3070年代、3080年代に何が起きたか、有力な仮説がいくつも立てられている。明らかに激変は、ホースの移住とアイスヘリオンの短期の侵攻に続いて起きた。侵攻氏族と本拠地の同胞の連絡が途絶えたのはどうやら間違いないようである。だが詳しいところについては、中心領域に対して用心深く隠されている。知られている結果のひとつは、ダイアモンドシャークが本拠地の領土を失い、またも再建せざるをえなくなったことだ。


 拠点の世界を3つだけ持ち、中心領域中が交戦中のいま、シャークには災厄の中にあっても滅多にないチャンスが与えられていた。到着した航宙艦艦隊が、中心領域の他勢力にとって即席のライフラインになったのである。補給物資を格安で販売し、この氏族が失った原材料と取引した。

 聖戦が続くなかで、安全保障が最大の懸案となると、フォックスの戦艦―――戦力強化はほとんど予言的だった―――は市場となる世界を守るために現状の配備を維持された。軍事、兵站上の必要性が、こういう変化を促進させ、今日使われている州=副氏族長領の組織を実現化させたのである。同時に、各副氏族長領艦隊を統治する副氏族長が増員され、準氏族長(ovKhan、州指導者)の階級が正式に創設されたのだ。

 ブレイク信徒の最後の一兵が中心領域同盟軍に屈服したとき、シーフォックス氏族は、今日見られるような4つの流浪する副氏族長領(宇宙艦隊)――スピナ、スケート、ティブロン、フォックス――に変化し始めた。それぞれは副氏族長が指揮し、5番目(大氏族長領)は氏族長の下にある。31世紀が終わるまでにシーフォックスは現在の姿に開花したのだが、聖戦がきっかけとなったのは疑うべくもない。本来なら1世紀近くかかったであろう変化を、数十年も進めたのである。

 新世紀が始まると、自らの新しいスタートを表明するため、また中心領域の市場をさらに勝ち取るため、3100年、氏族の指導者たちは氏族名を変える投票を行った。侵攻前(内戦からはほど遠い)とは違い、氏族長会議は反対する状況になかった。

 単なるジプシーでないかと他氏族から嘲笑されたのだが、シーフォックス氏族長は聖戦とその後の混乱に上手く対応できることを証明し、フォックスの進化が自然に拡大していることを証明したのだ。

 我らはこの教訓から学び、実践すべきである……。

――ペティリ・ノヴァキャット著『適応のサバイバル――中心領域の氏族たち』(共和国プレス、3127年)


 中心領域が聖戦の恐るべき余波に対処していたちょうどそのとき、再編成され、新しく力を得たシーフォックス氏族は、どこへ行っても新市場から招かれているように感じた。改造型戦艦(今日では箱船、貨物船として知られる)の到着は歓迎され、副氏族長領がひとつの星系に存在することを意味し、付属する5個航宙艦隊(州)が近隣の世界で商品を取り引きしていることを示す。ブレイク派の攻撃で取り残された世界をよく支援していた。聖戦の最後の期間とそれからの10年で、航宙艦隊の利益率は低いものだったが、チャッターウェブの創設以降、莫大な市場が放浪副氏族長領に開かれたのは、この氏族の経済にとって素晴らしい利益になった。こうして、州と副氏族長領は中心領域の市場に――そして辺境の市場にすらも(見つけられる市場ならどこでも)――、儲けられること、富を運ぶこと、ナンバーワンであること、そしてもちろん商業氏族としての栄光を確信させたのである。




第32回:戦士=商人――現在のシーフォックス氏族

データ表:シーフォックス氏族
創設年:2810年(当初)、3068年(中興)
首都(都市、世界):大氏族長領箱船ポセイドン、本拠地星系なし
国家シンボル:青銀のシーフォックス、水面から顔を出している
位置(地球からの):中心領域中の様々な世界・軌道上植民地
総(居住)星系数:完全保有3、部分保有14
人口概算(3130年):4億2867万人
政府:氏族(階級制、戦士/商人を頂点とする階層)
統治者:モリ・ホーカー氏族長
主な言語:英語(公式)
主な宗教:無神論
貨幣単位:フォクス・クレジット(1フォクス・クレジット=1コムスタービル)



 銀製のペンに似た、細長い船体。節くれだった指のような、4つのドッキングハッチ。黒の宇宙に咲いた反射パラソル。2隻のモノリス級航宙艦が、惑星に降りた降下船を待っていた。4つのドッキングハッチには、恒久的に降下船が取り付けられており、数千人の集合住居区画に転換する重改造が施されている。太陽帆のそれぞれには、シーフォックスの記章が描かれており、敬意と名誉の誓いを表している。各艦の船首にも同じ記章があるが、奇妙なロゴの周囲を泳ぐかのようなダイアモンドシャークのシルエットの下に、巨大なAの文字が重なっている。この船首の記章は、それらの州船がシーフォックス氏族ティブロン族長領アルファ州に所属することを表している。今日、これらの航宙艦は、ターカッドからライラの孤立世界カウムベルクまで、高解像度のホロビデオからニュースまで、すべてを取り引きしている。

 2週間以上、アルファ州船はカウムベルク星系にとどまり、シーフォックス氏族が提供する商品・サービスと、ライラ共和国で最大の輸出品である材木と最高品質の家具を交換している。いまから3日後に、すべての州降下船が利益と取引の旅から戻ると、両航宙艦は帆をたたみ、近くのコスティンブロッドに帰ることになる。そこではタイタニック(重改造されたポチョムキン級箱船)が、他のティブロン副氏族長領の州船とともに、集合するのを待っている。


 現代のシーフォックス氏族は、氏族社会と企業商船隊の奇妙な混合である。戦士階級はまだ支配権を維持しており、氏族長が氏族全体の決定権を持ち、副氏族長がその指示に従って副氏族長領と州を移動させる。戦闘を命じられたときは――訓練目的でも、戦士間、州間、他氏族との問題を解決するときでも――適切な神判と儀式が発動する。ブラッドネームはまだ崇められており、バッチェル(戦闘挑戦)、ゼルブリゲン(決闘のルール)、セーフコン(安全な到着)、ヘジラ(名誉ある撤退)はまだ尊重されている。これらは数世紀前にニコラス・ケレンスキーが定めた、氏族の特色である。

 だが他の部分では、フォックスは伝統を好む同胞たちから外れている。商人階級(戦士より遙かに数が多い)は、独自に秘密会議(コンクラーベ)を開催し、副氏族長領がどの市場を開拓するべきか議論して確認する。たとえ指導者に対して決定権がなくても、その声は重要視されるのである。実際、商人階級の多くが元は戦士の出身であり、利益を求めるという氏族の重要な責務を果たすため、自発的に降格するのである。場合によっては、副氏族長がまだ現役の戦士でありながら、商人階級よりもそれらしいこともある。シーフォックスの戦士たちは、こういう熱心なアドバイザーに加えて、他の下級階層の評議会からの支援と協力があることを知っている。労働者たちは生産を調整し、中心領域に散在する拠点世界の工場施設を最も効率的に運営している。技術者評議会と科学者評議会は、必要な氏族の設備と技術的ニーズを監督する。

 各階級の代表者がすべての降下船、航宙艦に居を構え、氏族のニーズを違えないよう広範囲に広がる艦隊を調整している。同時に各州がスムーズに行動できるよう注意を払う。驚くべきは、州がひとつの場所に集まることはほとんどないのに、宇宙に広がる各小氏族が大規模に連動していることだ。いつまで分裂が引き起こされずに済むかは不明である。戦士=商人たちの大部分は、他の栄光よりも利益と取引の粋を目的に行動するのだが、戦いを避けたりはしないのである(ただし探し求めることもない)。




 個別に行動するシーフォックスが、氏族内での協力と協調を欠くようになると考えるのはよくある間違いである。たとえば、ばらばらになったファイアマンドリル氏族などは、数世紀に渡って互いにいがみあい、ほとんど崩壊の域に達している。だがフォックスの場合、内部のストレスで分裂したりはしない。各副氏族長領を動かす思想にたいした違いはなく、新たな、より良い市場を探し続けるだけだ。相互理解が分離をもたらし、分離で素晴らしい柔軟性を得ながらも、いまだ氏族全体の目的を共有しているのである。ブラッドネームハウスは全副氏族長領に公開されたままで、定期的な神判が共通する文化と伝統を守る。その一方で各副氏族長領はある程度の自決を許されもし、戦場での勝利と同じくらい、儲かる取引で、栄光が示されるのである。

 しかし氏族自身が共通の目的のために創設されたことから――ケレンスキーは全体の価値を統一し、それから20のグループに分けた。数世紀にわたってそれぞれはそれぞれの道を行く――他氏族がシーフォックスの副氏族長領制度には欠点(弱点)があると誤解するのは自然なことかもしれない。

 もっとも顕著な例は、ウルフ氏族が3097年にシーフォックス・スイマー副氏族長領のベータ州を攻撃し捕獲しようとしたことだ。ウルフは、ベータの星団隊をいいカモと考え(特にウルフ星系のフェルトレで艦隊を護衛しているときは)、商人の小艦隊を圧倒するために重航空宇宙部隊を派遣した。しかしフォックスは自衛を得意としていることを証明し、ジャンプアウトしていった。ウルフは2隻の航宙艦と降下船群の確保に失敗しただけでなく、少なくとも2副氏族長領から素早い返答を受けた。その年の後半、フェルトレは1個銀河隊による強襲を受けた。幸運なことにフォックスは完全な占領には興味を持たなかったものの、ウルフはこの件で2個星団隊を失っただけでなく、突如、シーフォックスの商人から200%の値上げを突きつけられた。フォックスはバラバラの遊牧民以上の存在であると証明されたのだった。

――ショーン・ラスコ博士、氏族社会政治学部教授、ソーリン大学


 400年近く前に創設されて以来、シーフォックス氏族は長い道のりを歩いてきた。ケレンスキーの教えの下に集うが、放浪する小氏族に別れ、一握りの飛び地拠点を持つ彼らは、宇宙という深く暗い海を泳いできた。1〜2週間以上、自然の空気を吸い、暖かい太陽光線を浴びることはほとんどない。本拠地と呼べる世界はわずかであり、そういうシーフォックス政府に統治される世界でさえも、単に市民の要求に応えるだけだ。その一方で惑星外の人間に――たいていは地元民にさえも――氏族の商品と貨幣を扱う市場のまわりへの移民を奨励する。こうしてこの氏族は小さく、だが純粋であることを保ち、いつでも好きなときに移動できる自由を持つのだ。実際に数百万のフォックス人が本当の聖域と見なすのは、降下船と航宙艦の隔壁だけである。彼らは共通の絆と、共通の目的(生き延び、拡大し、進化する)で結ばれ続けている。そしてその手はいつでもどんな取引でも優位を保つ。

 輸送船と箱船も彼らの成功の表れである。各国と氏族占領域を自由に行き来できるだけでなく、こういう艦船を作るのに必要とされる時間と財政的安定は、フォックスの繁栄の証なのである。ワードオブブレイクの聖戦で多数の戦艦が破壊された後、フォックスは災いの前兆に気づき、今日まで続く大規模な改造プログラムに着手した。所有する戦艦――それに出来る限り回収した老朽艦――の武器と装甲を取り外し、長期航海に備え、貨物と乗客を収容するための内部ベイと住居区画を増設した。これらの専用貨物船は移動する、長期滞在・機動補給ステーションとなり、新副氏族長領と屋台骨となった。その一方で、重改造された、超大型の箱船は議場となり、全氏族の政府組織の核となったのである。フォックスはこれらの「無害な」艦船を使って、中心領域と辺境のすべての世界にアクセスできるようになった。この商売上の優位を、限界まで効率的に使ったのである。

 結局、シーフォックス(ナガサワ氏族)の遺産とは、時代に順応する驚異的な能力であり、進化の名の下に氏族・中心領域のやり方に挑戦することである。いまだ戦士階級に支配されているものの、征服より商売を求める彼らは、氏族の理想に疑問を呈しながら、氏族の父が作った法を犯すことはないのだ。そして、州、副氏族長領として、星々のあいだをゆっくりと漂っていくかもしれないが、これさえも高貴な氏族による進化と変わりゆく宇宙に適応する探究なのかもしれないと、誰が言えるのだろうか?








ダイアモンドシャーク氏族 3060 Clan Diamond Shark


ダイアモンドシャーク統計

政治派閥: 守護派
首都: ストラナメクティ
人口(氏族宙域): 6785万9000人(3060)
人口増加率: 2.8パーセント (71/50)
自給自足率: 88パーセント

指導者:
 氏族長: バーバラ・セネット
 副氏族長: アンガス・ラボフ
 ローアマスター:セミ・カラザ
 科学長官:トゥルーディ(ブランド)
 商人代表:ロレンゾ
 技術者長:ワーレン
 先任労働者:ヴァーツラフ

軍事:
 星団隊: 33
 軍艦: 18

氏族宙域:
 バビロン (24パーセント)
 バーセラ (47パーセント)
 デリオス (64パーセント)
 ルウム (18パーセント)
 パクソン (62パーセント)
 プライオリ (52パーセント)
 ニューケント (9パーセント)
 ストラト・ドミンゴ (65パーセント)
 タージス (50パーセント)
 ヴィントン (100パーセント)


 ダイアモンドシャーク氏族の創設は、論争に覆い隠されている。元々は、ストラナメクティ原産の肉食両生類から名前を取っていたシーフォックス氏族は、2985年、ダイアモンドシャークがストラナメクティに放され、食物連鎖でシーフォックスに取って代わられて以降、その名を変えた。


歴史 History

 バビロンの守備隊を過小評価しなかった唯一の氏族、シーフォックスはペンタゴン戦役から同僚たちの敬意とともに誕生した。初期にシーフォックス氏族長が行った物質的豊かさ、経済強化の促進はすぐに成果を上げた。この氏族は人工子宮技術開発の先駆けとなり、クラウドコブラと共同で遺伝子工学技術に取り組んだ。しかし、交易――商品と情報の双方――でシーフォックスは評価を築いたのである。繁栄は1世紀以上続いた。

 だがシーフォックスの成功は他氏族の嫉妬を買った。所有の神判での屈辱的な敗北後――そしてシーフォックスがチャッターウェブ上で勝利を自慢した後――スノウレイヴン氏族長は尋常でない手段に訴えた。遺伝子操作されたサメをストラナメクティの海に放流し、かたきのトーテム生物を全滅させようとしたのだ。

 シーフォックスの群ひとつが残ったものの、ダイアモンドシャークの成功はこの氏族に改名を促した。ニコラス・ケレンスキーに与えられた名前を捨てるのは異端であると見ていた彼らは、それでも、拒絶の神判に勝利したあとでそれを行ったのである。2985年9月、シーフォックス氏族は、ダイアモンドシャーク氏族と改名した。

 長年、この氏族は政治に関わるのを避けようとしてきた――結局のところ政治はビジネスに悪影響をもたらすからだ――しかし、ついに大討議(Great Debate)で屈することとなる。大部分は守護派だったのだが、中心領域帰還への欲望が、彼らを侵攻派運動支援に回らせた。中心領域の資源を利用するためであるのと同時に、ジェイドファルコン氏族、スモークジャガー氏族の残虐性を抑えるためであった。

 3048年に侵攻の呼びかけがあった際、ダイアモンドシャークは侵攻の中心の座を勝ち取れなかったが、スティールヴァイパー、ノヴァキャットに次ぐ第三の予備に指定された。氏族の地位を強化するため、イアン・ホーカー氏族長はジェイドファルコンとの同盟に動いた。侵攻が進むと、ダイアモンドシャークのオブザーバーたちが侵攻軍に同行し、艦隊、占領された世界を旅して、必要とされる物資の調査を行った。この情報は商人たちに渡り、それなりの利益が計上された。しかし、武器輸送船の一隻がクリタ反乱軍の手に落ち、スモークジャガーに対してそれが使用されると、状況が悪化した。商人たちは追放されたのである。

 シャワー大氏族長の死後、ついにこの氏族が投入されると、彼らは、基地となる世界、侵攻回廊の共有をかけてゴーストベアと戦うことを強いられた。しかし、この取り決めが実行に移される前に、ツカイードの戦いでシャーク氏族軍は壊滅し、混乱の中で退却した。ゴーストベアはすぐにニーセルタを再奪取し、ダイアモンドシャークは氏族宙域に戻るしかなくなったのだった。

 戦士階級が混乱に陥る中、この氏族の商人階級は力を付け、政策の決定に影響力を持つこととなった。アンガス・ラボフ(引退した戦士にして、商人の長)が、事実上の指導者となり、氏族の再建のために奮闘した。商人たちは、他氏族、中心領域勢力との貿易関係を確立し、常に自分たちの立場の強化に目を配っていた。収穫の神判までに、この氏族はかつての強さを取り戻し、また"大拒絶"の余波でイアン・ホーカー氏族長は辞職した。




社会 Society

 他の氏族と異なり、ダイアモンドシャークは戦士階級よりも民間階級が氏族を支えていると見て、彼らの繁栄を許している。ダイアモンドシャークの経済は氏族中で最大である。階級間の結びつきが強いのがその理由と考えられる。これは他氏族からの誹謗を引き起こした(特にツカイードの惨事の後は)が、素早い再建が可能となったのである。戦士たちは商人階級に譲歩せねばならず、問題が解決されたのはつい最近だった。

 ダイアモンドシャークはできるだけボンズマンを取る。あるスターコーネルが語るところによると「ボンズマンは扱いやすい副産物である――我らが営利に利用出来るもののひとつだ」。なんらかの譲歩と引き替えに、ダイアモンドシャークがボンズマンを元の氏族に返すのは、なんら不可解なことでもない。厄介者を送還し、その上「利益」を得られるからだ。

 ダイアモンドシャークは名誉を理解するが、適用の仕方はいくぶん柔軟なものである。他氏族との取引をスムーズにするために、名誉の上辺を見せる必要があると理解しているが、名誉の道に固執するのは氏族の利益にとって最良ではないと信じている。固執したら、機会の多くが奪われてしまうだろう。戦士階級すらそれは望まない。

 同様に、この氏族はあまりにも政治的ではない。彼らの観点は、侵攻派と守護派の間を行き来する。ツカイード、中心領域放逐以降、守護派の大儀を採用しているが、一般的に無関心であるのが好まれる。一方のグループに偏りすぎるのは、ビジネスに悪影響が出るからである。

 中心領域侵攻において、侵攻派を支援していた主な理由は、大部分が未開拓だと見なされていた中心領域の市場にアクセスするためである。彼らは中心領域との強い結びつきを得るため、ヴィクター国王の呼びかけに応じるつもりであり、うわさによるとすでに中心領域の貿易カルテルと関係を築いたという。




軍事 Military

 中心領域で戦ったにもかかわらず、他氏族の大半はダイアモンドシャーク軍を見くびっている。ツカイードで大打撃を受けたダイアモンドシャーク氏族軍は、商人階級の助けを借りて8年で再建を果たした。シャークは商業的な手段を好み、めったに暴力には訴えない。だが、彼らの商業活動への干渉は、よく破壊的な反応を引き起こす。

 多くの氏族のように、ダイアモンドシャークはフリーボーンの戦士を差別する。しかしながら、領土と商船を守る必要から、この氏族はえり好みができず、従って、これらの兵士を主に二線級市民軍で使っている。その多くは乗り込み戦を行う海兵としての訓練を受け、あるいは施設警備兵として活動する。

 珍しいことに、シャーク戦士の多くは現役を引退すると、下層階級内で地位を得る。これは不名誉なことではなく、ブラッドネームを持った引退者は年に一度の階級の神判で戦士の資格を保持してもよい。この方針から、ダイアモンドシャークはソラーマ部隊をほとんど持たない。

 長年に渡って、ダイアモンドシャークは頭の切れる入札者としての評判を築き、予想より多くの相手を負かし、計算違いさせてきた。このようなやり口は他氏族を怒らせたが、シャークはこれを、単に通常の「効果的」な手法の延長と見ている。




仲間と敵 Allies and Enemies

 特定の氏族との強い関係を持つ事は――対立であれ、その他であれ――他との関係を損なうかもしれないのを、ダイアモンドシャークは知っている。従って、彼らはほとんどの氏族と中立の道を行っている。が、いくつかの目を引く例外もある。

 最も近しい仲間は、ブラッドスピリットとファイアマンドリルである。というのも、彼らが他氏族との仲介役になってくれるからだ。また歴史的にウルフ氏族と良い関係にあった。ヴラッド・ワードのウルフとの関係は冷え込んでいるのだが、ARDCのウルフと限られた極秘の接触を続けている。同様に、ゴーストベアはシャークに敬意を払っている。中心領域撤退の際に、領土を譲渡したからだ。

 ダイアモンドシャークが唯一嫌う氏族は、改名につながる事件を引き起こしたスノウレイヴンである。ことあるごとにビジネスでレイヴンを冷遇しており、これに対するレイヴンの反応は異様なほど静かなものである。


保有領土 Possessions

世界:10(共有9、独占1)

 常に広い領土を維持してきたのだが、最近の所有の神判がダイアモンドシャークにかなりの利益をもたらした。ゴーストベアからトカーシャとパクソンの飛び地領土を進呈されたのだが、氏族長はトカーシャにダイアモンドシャーク軍を上陸させたにもかかわらず、この領土を「費用対効果がよくない」と見て、ガンマ銀河隊に実戦経験させた後で撤退し、パクソンの統合、支配強化を選んだ。しかし、ノヴァキャットの撤退に対する軍事、兵站支援と引き替えに、彼らはバーセラの飛び地領土を獲得した。もっとも、ジェイドファルコン、アイスヘリオンを相手にした多数の神判がこの世界で続いている。この氏族最大の獲得はスモークジャガーに対するものであった。ヴィントンの世界は長い間、争いの種となっており、SLDFのハントレス攻撃前から、所有の神判の用意は進んでいた。大拒絶から二週間以内に、ダイアモンドシャークはヴィントンを占領し、初めての惑星独占所有となった。








ダイアモンドシャーク氏族 3067

 ツカイード後に突如として停滞を強いられ、かつてどのトーテムも知らなかった新しい水域を恐る恐るテストしたダイアモンドシャーク氏族は、注意深く深海から浮かび上がってきた。ゴーストベアの氏族本拠地撤退を支援し、不当な放棄を受けたノヴァキャットを助ける――これらは海図のない海に乗り出した最初の大胆な冒険である。成功によって、我らは自らの力を再発見した。

 ダイアモンドシャーク氏族は我らのフィールドマニュアル(無料)に追加を加える。他氏族なら隠したり、擬装したりするものを、誇らしく公表するためにである。見返りは、ライバルたちから得られるであろう名誉だ。氏族の討論会で弁解する必要はないが、単に権利として我らのやり方を守る。

 これは水面から見える、ひれである。各自の責任において参照すべし。

 ――セミ・カラザ、ローアマスター


取引の粋 ART OF THE DEAL

 3061年の夏、流れに反し、ダイアモンドシャーク氏族は、ドラコ連合と公式な兵器売買の交渉を開始した。最初に提示されたのは、ダイアモンドシャーク製、ミサイル仕様バトルメック、ハ=オトコをおいてほかになかった。前年に議論の種となっていたものである。

 かねてよりこの機体とシャークの意図に異論を示していたジェイドファルコン氏族は、すぐさまストラナメクティでの挑戦に持ち込んだ。ダイアモンドシャークの抗弁は、単純かつ効果的だった。ハ=オトコは特殊な氏族装備を積んでおらず、中心領域の優位を進める事はない。また、たとえそうなったとしても、氏族は常に機械でなく戦士たちが違いを生むと主張してきたではないか……。これを証明するため、ダイアモンドシャーク氏族は、いかなる拒絶の神判に対しても、二線級マシンだけを使って戦うつもりだと発表した。

 技術上の優勢が必要だと侮辱されたジェイドファルコン氏族は、神判の権利を交渉し、勝ち取った。マーサ・プライド氏族長と親衛隊は「戦士になった商人」との戦いに身を落とさず、よってこの仕事はシグマ銀河隊第3戦闘星団隊の手に渡った。ジェイドファルコンは激しく戦ったが、結局、「劣った」マシンに乗る優れた戦士たちに破れたのだった。


債務の一本化 DEBT CONSOLIDATION

 激しく戦い、バーセラとパクソンの大部分を確保した後、ダイアモンドシャークは、長年の本拠飛び地領となっていたルウム、ニューケント、プライオリを手放し、多くの氏族を驚かせた。だが、中心領域の市場と世界が開かれたのに伴い、ダイアモンドシャークは本拠地の領土を財産というより負債として見るようになったのである。

 3062年、シャークはプライオリの支配権をスターアダー氏族に譲渡した。交換条件は、新兵器の技術、ポチョムキン級艦船〈レナウン〉の20年契約などだった。3064年、シャークはイーグル・クレーターの生産施設を、アイスヘリオン、コヨーテ氏族に提示した。コヨーテは入札と、その後のアイスヘリオンからの所有の神判に勝利した。トワイクロス星系を受け取る誓約と引き替えに、ジェイドファルコン氏族にルウムの権益を譲った後、ダイアモンドシャークはこの年の後半までに人員と物資を密かに移動させようとした。中心領域軍相手にトワイクロスを失い、この呪われた星系を取り返さないと誓っていたジェイドファルコンは、ダイアモンドシャークとの取引で最大の利益を得たとほくそ笑んでいたに違いない。

 ファルコンの優越感が続いたのは3065年までだった。ダイアモンドシャークがトワイクロスの中心領域防衛部隊を追い出したのである。彼らは、この世界と、トワイクロス星系内のほぼ無人の惑星、ヨナ・リーチに大規模な入植地と守備隊を構えた。ヨナ・リーチは、ダイアモンドシャーク商人の力の源泉である、貴重なハージェルの二箇所目の採掘地点だったのだ。シャークの独占をすぐにも崩せるが、名誉に縛られていることからトワイクロス星系に近づけないことで、ファルコンはシャークとチャッターウェブ上で延々とわめき、侮辱しあった。


商人世界とチャッターウェブ Merchant Worlds & the Chatterweb

 トワイクロスに腰を落ち着けて以来、ダイアモンドシャークは長期計画に基づき、いくつかの合意を結んだ。ゴーストベアドミニオン、ドラコ連合内の交易世界について商談し、これを得て、それぞれトロントハイムとイタビアナの氏族守備権を与えたのである。ウルフ氏族は同種の協定をはねのけた。もっとも、彼らは技術やサービスを中心領域に持っていき、取り引きする意志を見せている。

 中心領域にチャッターウェブをつなげるのは、諸刃の剣であるように見える。氏族の秘密はいともたやすく看破されてしまうが、下層階級による情報収集、共同事業から得られる利益を、中心領域の氏族は手放してしまうことになる。これまでのところ、ダイアモンドシャークは選ばれた世界にだけ新チャッターウェブをつなぎ、氏族本拠地のウェブからポータル(本当に信頼された士官たちだけがバーチャルキーを持つ)を切り離したままでいる。


ハージェルとマッドキャットII HarJel and Mad Cat II

 ハージェルの発見は、その軍事的影響と共に、トワイクロス周辺の領域を揺るがした。ジェイドファルコンはどうしてもこの世界を取り戻したがり、その方法を探しているようだ。一方、ダイアモンドシャークはハージェルの製品を、ライラ同盟(放浪ウルフ氏族経由)、ドラコ連合(ノヴァキャット経由)に提供している。ダイアモンドシャークの"Made in the Inner Sphere"印について、議論と論争が続いているものの、これまでのところ公式な挑戦は受けていない。

 ハージェルに対する怒りは、ダイアモンドシャークが軍事技術を中心領域に供給する計画を続けるに従い、完全な不信感と激怒の中にかき消されていった。3066年、マッドキャットII が披露された。人気のある氏族製ティンバーウルフに基づき、シャークは中心領域での名称を使い続けた。それは、主に中心領域での販売を意図していたからである。ハ=オトコとは違って、マッドキャットMkII は武装排除バージョンではなく、完全に機能する氏族技術を導入している(最高の性能を発揮出来るよう、ダイアモンドシャーク技術者の業務契約が付く)。このバトルメックは旧式の氏族技術しか使っておらず、最先端のものはないと、ダイアモンドシャークは主張している。他氏族からの挑戦を、そう長く押しとどめることはできないだろう。


海軍戦力 Naval Asset

 海軍艦隊を構成するのは、スペクトル・ダイアモンド海軍星隊(ポチョムキン級〈ポセイドン〉〈タイタニック〉〈ツナミ〉〈レッド・タイト〉〈クラーケン〉、ソヴィエトスキー・ソユーズ級〈ナガサワ〉)と、ブラック・ダイアモンド海軍星隊(フレダサ級〈スウィフト・ストライク〉、キャラック級〈スター・スイマー〉〈ブラッドレター〉〈デヴァウアー〉、エセックス級〈シャロン〉、ローラIII級〈プレデター〉、イージス級〈ブラッドラスト〉、ボルガ級〈ボールド・ベンチャー〉)と、ブルー・ダイアモンド海軍星隊(エセックス級〈トレイシー〉、ローラIII級〈スペース・ハンター〉、ボルガ級〈スペキュレイター〉、ナイトロード級〈テラー・オブ・ザ・ディープ〉)である。


ダイアモンドシャーク氏族軍 DIAMOND SHARK TOUMAN

 ダイアモンドシャーク氏族軍は精強なままにあり、増えつつある商人世界と貨物を、問題なく守ることができると思われる。ツカイード以降、比較的激しい戦いを行っていないシャークの8個銀河隊は定数を保っている。


デスストライク銀河隊(アルファ) Deathstrike Galaxy (Alpha)

 ストラナメクティ、バビロンに駐屯するアルファ銀河隊は、ダイアモンドシャーク本拠地におけるすべての神判の最前線に立っている。ここのところ、大きな作戦を行う機会を得られていないが、次の数ヶ月で状況は変わるものと予想される。マッドキャットMkII(加えてウォーハンマーIIC)プログラムに対する最初の挑戦が来るだろうからだ。


プレデター銀河隊(ベータ) Predator Galaxy (Beta)

 氏族の優先順位が、中心領域の市場を開拓し、交易世界、輸送隊を守ることに移り、2個前線銀河隊を中心領域に移す必要もまた生じることとなった。プレデター銀河隊は現在、イタビアナとトロントハイムに仕事時間を割いている。第42混合打撃隊はよく巡回中の戦艦に配備される。


スナッピング・ジョーズ銀河隊(ガンマ) Snapping Jaws Galaxy (Gamma)

 トワイクロスの重要性を考えて、セネット氏族長はこの星系を確保、保持するためにガンマ銀河隊を派遣した。惑星の防衛隊はアーチャー・アヴェンジャーズ第2連隊(支援騎兵連隊)だった。アンガス・ラボフ副氏族長は、第8強襲星団隊、第28巡航星団隊、エメラルド・スケート銀河隊の1個星団隊だけを入札した。この戦いでシャークはすぐさま勝利を収めたのだった。


ラムダ、ロー・スピナ銀河隊 Lambda and Rho Spina Galaxies

 これらのワークホース銀河隊は本拠地のトラブルシューターとして仕え続けている。各星団隊は高度な機動力を持っているか、そうなれるように訓練している(戦艦で長時間航行し、それから惑星に降下して実弾演習を行う)。巨大な戦艦の数隻には、今、最高のシミュレーターが重力デッキに備え付けられており、長旅で腕が落ちないように訓練可能である。


オメガ銀河 Omega Galaxy

 商人との強いつながりを持つオメガ銀河隊は、守備のため中心領域の新たな交易世界にすぐさま派遣された。コーラル・スケート星団隊はトロントハイムから指揮を行う。商人の利害が最重要な場所において、前線部隊は別々の軍事組織であるとうやうやしく見なすものだが、オメガの権威は行き渡っている。

 イタビアナにおいて、ダイアモンドシャークは現地のノヴァキャット氏族分隊と所有の神判を戦った。シャークは一連の神判を用意し、イタビアナに対する見返りとして、トワイクロスのハージェル産出量の2パーセントを賭けた。意外な事に、両氏族は各自の報奨を入手するに充分な神判を勝った。ダイアモンドシャークはノヴァキャットに、3年間の移住期間を与えた。その間、イタビアナの「リース」は、3066年10月ハージェルの第一次出荷と共に始まった。


シグマ銀河 Sigma Galaxy

 ここ数年で、全員が長年の駐屯地から移動させられたシグマは、ダイアモンドシャーク氏族が長き再建を進めるに従い、最も多くの調整を受けた。ニューケントでは、アイスヘリオンの申し出が遅れたことが明らかとなると、シグマのムーンストーン・スケート星団隊と第79打撃星団隊が、アイスヘリオンの所有の神判に対し防衛を行った。これによってダイアモンドシャーク氏族はコヨーテの申し出をあわただしく受けざるを得なくなったのである。コヨーテ氏族はシャークを狙ったすべての神判を先取りし、ダイアモンドシャークの人員と装備が整然と撤退するのを許したのである。


ゼータ銀河 Zeta Galaxy

 いまだダイアモンドシャーク氏族の主要な本拠地守備銀河隊であるゼータは、オメガの出発以降、足を伸ばしてさらに多くの世界をカバーしている。彼らは2個スピナ銀河隊と共に熱心に活動し、どのような強襲に対しても、素早く共同作戦できるようにしている。




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