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作成:2006/05/07
更新:2008/12/27

シャドウ・オブ・フェイス SHADOWS OF FAITH



 聖戦の勃発をテーマにした小説"SHADOWS OF FAITH"の第一章です。突如、ウルフ竜機兵団の本拠地"アウトリーチ"を攻撃し始めた、ワコー大佐率いる反乱傭兵部隊。中心領域の重要な瞬間が描かれています。
 "Dawn of Jihad"プレビュー(pdf)より。





ハーレフ
アウトリーチ
3067年10月18日


「グレイ・ワンから全竜機兵団員へ。ウルフ・アクチュアルは……撃墜された! ウルフ・アクチュアルは撃墜された!」小さな沈黙。そして、「セット、コンディション・フィレル(野生)」

 ハーレフの広い一帯がまだ燃えていた。都市の全ブロックが、炎とガレキに覆われ、黒く濁った煙が空を焦がし、三日間、太陽を隠していた。彼がコクピットから出ると、火で焼かれて乾燥した大気が、身体から水分を奪った。あたかも地獄がやってきたかのようだった。竜機兵団本拠地防衛隊のジェイソン・ウィリアムソン大尉は、その通信で臓物に氷が突き刺さるのをまだ感じていた。肉厚の氷った刃が彼に食い込み、それから脊髄をもぎ取った。瞬間――信じられないほど長く痛みに満ちた鼓動が耳をついた――彼は過去に戻っていた。エルジンの世界、ホロ・アイランドの寒い高原。無線で、軍曹が中継する、ひどいメッセージを聞いていた。もうひとつの敗北。

 もう一人の指揮官の死。

 鼓動一回が彼に与えられたすべてだった。油断した隙に、無法者たちが平気で攻撃してきたのだ。ギャロウグラスは、古い3U型クリントと、工場から出荷したてのアースワークス製サンダーボルトの十字砲火にさらされ、ひどく振動した。クリントの荷電粒子砲が一方の側面を削り、T-ボルトの軽ガウスライフルが右側面に強い一撃を叩き込んだ。背後から襲いかかるルビーの馬上槍と、エメラルドのダーツのレーザーが、バトルメックの装甲を深く深く傷つけた。

 ギャロウグラスはジェイソンが確保していた交差点の外に、後ろから倒れた。歩道の薄いコンクリートが割れて、足が沈んだ。

 それでT-ボルトのクロスヘアから逃れた――小さな恩恵だった。70トンのマシンが撃墜されるのを防いだのは、5階建ての駐車場である。彼はバトルメックの左手で金属製のガードレールをつかみ、コンクリートの基礎から引き裂いて、ねじれた残骸に変えた。

 身体を前に倒し、バランスを試しに取ってみたジェイソンは、グラスを戦闘に戻すべく、スロットルとペダルを探った。大きな手がバトルメックの操縦桿をひねった。すでに指はメイントリガーの上にあった。

 照準用のクロスヘアを引っ張った彼は、クリントが前進してくるのを見つけた。右から二車線道路を通ってまっすぐこちらにやってくる。目標をまさに中心に収めた。バチバチ音を立て、激しく放たれた、ギャロウグラス右腕のPPCが、クリントをとらえた。青白くねじれたエネルギーは、すでに薄くなっていた装甲を抜け、すべてを破壊した。炎上。破壊。それからジェイソンは、操縦桿の上部に取り付けられた発射ボタンを押し、右胸の両レーザーをその傷に撃ちこんだ。

 一本はクリントの右腕を深く切り裂き、傷ついた手を地上に叩き落とした。

 二本目のレーザーは、燃えさかるメックの胸の傷に飛び込んだ。クリントのジャイロ・スタビライザーを貫通。背中に突き抜けた。

 40トンの直立歩行する戦闘マシンは、多くの重要なシステムに依存している。そのシステムとは、少なくとも、優れた技量を持ちよく訓練されたパイロットのことではない。だが、メック戦士は単純なスロットル使い以上の存在なのだ。メック戦士の神経ヘルメットを通して、内耳のバランス感覚がフィードバック信号に変換され、ジャイロ内で機能し、情報を与え、重力を受け止める。

 ジェイソンはそのコードを切断したのである。クリントはよろめいて、通りに横たわり、交差点を滑っていったときに火花を立てた。敵はジェイソンのギャロウグラスの前方10メートルあるかないかのところで停止した。立ち上がろうとしている。

 ジェイソンの青い目のなかで汗が燃えた。呼吸は注意深く、浅いものとなった……メックの核融合エンジンから廃熱がコクピットに入ってきたのである。温度計は、燃えさかる都市で戦闘を行い始めたときから良い状態でなかったのに、黄色まで急上昇し、赤へとじりじり動いていた。

 "コンディション・フィレル"

 エルジン。

 ジェイソンはスロットルを叩き、マシンをクリントの頭の横に出した。彼は大きく足を上げ、それを踏みつぶした。もう一度、別の角度から「顔」を。

 二度踏みつけると、残されたのは金属、フェログラスの残骸と、(中のどこかにある)押しつぶされた肉片以外にはあまりなかった。

「右です、大尉!」

 この警告はほんの少し遅かった。そのとき、狭いコクピット内にミサイルロックの警告音がとどろくまで、ジェイソンにかろうじて一秒の時間が与えられた。だが、その一秒で多くのことをなしえた。

 ヘッドアップディスプレイを一瞥するのには充分な時間だった。背後から友軍の金色アイコンが背後からやってくるのと、敵の輝く赤アイコン(サンダーボルト)が角を曲がって、十字路を取ったのを見た。

 フットペダルを踏んで、ジャンプジェットをふかすのに充分すぎた。

 スラスターが燃えるプラズマジェットでギャロウグラスを持ち上げ、打ち上げ、通りの上にやった。このとき、T-ボルトのミサイルがフェロクリートの通りを叩き、不幸なクリントの残骸にあらたな穴をうがった。ライトガウスがもう一発のニッケル鉄製弾丸を吐き出し、街灯がなぎ倒され、駐車中の車を立ち往生させた。

 サンダーボルトにできることはそう多くなかった。スロットルを戻して、ジェイソンのジャンプを妨害することくらいである。だが遅すぎた。都市戦では、接近戦での殴り合いが有効で、違法傭兵は撃墜を望みすぎていた。

 一方に傾いたジェイソンは(彼のバランス感覚はジャイロに酷使されていた)、美しいジャンピングスピンをしていたというのに、さらにグラスを旋回させた。短い"戦闘"にタイミングをあわせた彼は、降下するためスラスターを戻した。それはあたかも、足という2本のシャベルで、クリントにしたように、Tボルトを破壊する準備を整えたかのようだった。だが、最後のジェットの一ふかしで、肩幅の広いバトルメックを6メートル飛び越えた。それから完全に火を止め、腰をかがめて、65トンの敵機の背後に着陸した。照準レティクルをT-ボルトの広い背中にぴたりとあわせる。

 ウルフ・アクチュアルが撃墜された!

 十字線が深い金色に染まるのを見た。

 "コンディション・フィレル"

 素早いボタン操作と、我を忘れた叫び声で、全兵器を主回路につなぐ。トリガーをぐいと引く。もう一度。そしてもう一度。

 エルジン。

 そしてもう一度。

 荷電粒子砲が傷ついたサンダーボルトへの最大のダメージとなった。深く、大きな裂け目が、機体背面の輪郭に作られた。破片と溶融した複合材料が通りの黒いフェロクリートに降り注いだ。

 PPCの一撃が、サンダーボルトの大型ジャイロを支える筋のいくつかを切断したのではないかと、彼は考えなかった。深紅の槍とエメラルドのダーツの組み合わせで、少なくとも1トン……1.5トンの装甲を、T-ボルトの背中から脚にかけてはぎ取った。

 その衝撃。装甲の喪失。ジェイソンが二度目の猛烈な斉射を行う前に、そのよろめいていたマシンは膝をつき、息絶えたクリントの上に倒れた。強烈な二射目で、さらなる装甲が吹き飛び、膝に食い込んで関節を残骸にした。猛攻が核融合炉を限界まで押し込み、温度計は赤まで跳ね上がった。ジェイソンはシャットダウン無効スイッチを叩いた。

 三度目(おそらく)の一斉射撃は、レーザーの一本がT-ボルトの後頭部に入った。四射目で、もがくメック右側面の弾薬庫を確かに見た。炎と煙の柱と破片が、高く吹き上がった。爆炎は特殊な爆発誘導区画を通っていた。バトルメックとメック戦士の生命を保護するものだ。そのどちらかが残されていただろうか。

 たいしたことではない。通りの向こうから、1機の強襲級アニヒレーターがゆったりした足取りでやってきた。2両のバジャー輸送車を含む、装甲車、戦車の短い隊列を率いている。

 ジェイソンが無効スイッチ(高熱でのシャットダウンを防ぐ)を打ったとき、アニヒレーターが二連砲の腕の一方を上げ、残されていたサンダーボルトの頭部を完全に破壊した。

 逆上したあとの静かな時間。ジェイソンは、ほぼ自分で手を下した2機を見下ろし、この違法傭兵たちにほとんど同情を抱いてないことに気づいた。三日間に及ぶ虐殺と後退、戦闘の後ではなかった。彼はコクピットに戻されるまで三時間しか寝てなかったことをかろうじて思い出した。休めと言われても休まなかったことだろう。彼は、カオス境界域で見捨てられ、ウルフ竜機兵団に登用された戦場の孤児だったかもしれないが、アウトリーチは新たな故郷になっていた。そして故郷が危機にさらされている。

 攻撃したのが誰だったのかすらも、もう重要ではなくなっている。第51ダークパンツァーが関わっているのを彼は知っている。スミッソン・チャイニーズ・バンディッツもそうだと一部で言われている。ワコー大佐に関しては誰もが話している……彼のバトルマスターがテンプタウンからの突撃を率いるのがROM映像に映っていたのだ。そして多くの者がワード・オブ・ブレイクの関与を疑っている。とくに〈血塗られた手〉の装備が、発電所のガレキの山から見つかってからはそうだ。だが、この2機は? このクリントとサンダーボルトは? 彼らは単純な敵だった。三日前に防衛隊の兵舎上空で燃料気化爆弾を使った奴と同じだ。最初の強襲を率いた奴と、二度目の、三度目の強襲を率いた奴と同じだ。同じなのだ。

 ジェイソンはマシンの正確な名称を思い出そうとしなかった。今日のウルフ竜機兵団員にこのような贅沢は許されない。いまだけではない。

 もう永遠に。

 彼は残骸から離れた。コクピットの焦げた空気を吸い込んで、大きくあえぐ。呼吸するごとに灼熱した石炭が肺へと送り込まれた。塩辛い汗が、上唇で燃える。目に入る。

 瞬きして、迫る敵を調べる。HUDはそれが本拠地防衛隊であるとした。アニヒレーターとバジャー輸送車の記章もそれを示していた。だが、そのメックが移動し続けていることは、何かが違うことを完全に示していた。もう一方のメック戦士が、T-ボルトを始末した腕前もまた思いがけぬものであった。

 照準システムを使えば、ああいう射撃はできる。だが、100トンの怪物は、手動で操作されたのだ。

 バジャーの一両がアニヒレーターの前につけた。ジェイソンは数名の兵士たちの鼻面に、血の赤で"Z"と描かれているのを見た。そしてジェイソンはそれを知った。

 ゼータ大隊だ! どんな機体を回収、漁り取れたとしても、彼らは戦いから離れない。

「我らはゲートウェイ・ブリッジの近くで攻撃を受けました。あの宇宙港はまだ我らの手にはありません」と女性の声が言った。先ほど警告してくれたのと同じ声だ。「ですが、テンプタウンの外で戦っている無法者に対する薄い戦線を保持しています。行ってください、大尉! 我らが続きます」

 操縦桿をどうしようと、アニヒレーターは時速30キロかそこらにしかならない。ジェイソンのギャロウグラスはその倍はでるだろう。といっても、全関節から灰色の煙が噴出しており、灼熱するメックは、ロックされている駆動装置抜きでは、その場でかろうじて旋回することしかできなかった。

 先導するバジャーが停止し、1個星隊のエレメンタル歩兵を展開させる。アニヒレーターが速度を落とすことはなかった。中にいるメック戦士は、階級がなんであれ、心臓の鼓動を無駄にする人物ではなかった。

「間違いかもしれません!」彼女は警告した。ジェイソンはその声に懇願めいたものを聞いた。通信の雑音を通してさえも、彼女が隠そうとしていても、そう聞こえた。もしくは違うかもしれない。偉大な父がそうさせた彼女の願いは間違いとなる。「ウルフのところへ! 行って、行って、行って!」

 彼の第一歩は、ギャロウグラスの制御回路の熱が起こしたトラブルで、不安定なものとなった。喉が乾ききっていた。苦痛があった。そしてこのとき、また視界がゆらいだ。冷却ベストが彼の体温を下げていなかったら、三度目か四度目の一斉射撃で意識不明になっていたことは間違いない。

 だがそうはならなかったし、指揮官が彼を必要としているかもしれない。竜機兵団は確かにどこかで彼を必要としていたのだ。ハーレフの市民――生きて残された者たち――は彼ら全員を必要としていた。

 彼の二歩目は力強いもので、速度が上がった。スロットルを限界まで激しく前に倒し、速度計が20キロメートルまで到達するのを見つめた。30キロ、40キロ。

 最高速の時速65キロ近くまで達したとき、呼吸が楽になってきた。次のブロックの終わりに到達するまでに、彼はまばたきで視界をクリアにした。次のブロック、彼は前腕部で汗が白く乾いているのを見た。

 次のブロック。そして次。都市の中央に向かい続けた。

 そこへと、見たくないものへと向かう。

 ジェイソンには少なくとも同行者がいた。ケストレル攻撃VTOLの1個小隊。上空と左手に位置している。それから2両の何とか動くパルチザン。傷ついたウォードッグ1機。左肩にあるベータ連隊の記章はまだ読める状態にある。

 竜機兵団の紋章(狼の頭)は燃えてどこかへ行っていた。その装甲の大部分とともに。

 1機のヴァルチャー、1機のハイランダーIIC。

 分散した竜機兵団の前を横切るというミスを犯したのは2機の無法者だけだった。フェニックスホークとカエサルが、巨大な商業ビルを押し開いて、中から現れたのだ。ヴァルチャーに挑戦すべく、鉄筋とコンクリートの壁を肩で押しのけて、道をつくる。6機の竜機兵団バトルメック、戦車多数、攻撃VTOL4機が、餓えた群のように、彼らに突然襲いかかったとき、それは最後のミスとなった。レーザーが切り裂き、突き刺した。砲火が新たな破壊の嵐となって都市の風景にとどろいた。

 誰も情けを求めなかった。

 慈悲を与えるという思考がなかった。

 "コンディション・フィレル"は竜機兵団の誰もが知るコードである。といっても耳にする機会があると考えた者はこれまでいなかった。竜機兵団の本拠の中心で聞くとは、確かに考えていなかったのだ。採用された孤児であるジェイソンですらも、その実行をよく訓練されていた。

 圧倒的で致死的なすべての抵抗に対するため。

 竜機兵団の記号、塗装を使っていない、いかなる軍隊をも敵として扱うため。同盟傭兵隊を含む「友軍」でさえも、後退するよう一度の警告を与えられるだけである。さもなくば、彼らは容赦のない状況下に置かれることとなる。ニューデロス、ヘパイトスで学んだ厳しい教訓。

 簡潔である……もし相手が動くなら、脅威にならなかったとしても、死が与えられる。

 ホークとカエサルが死んだ。まるで都市に殺到するマシンの単なる障害物でしかなかったかのように、竜機兵団は敵を倒した。空に開いた大きな穴に集まる。かつてはそこに、6棟(6棟!)の20階建てビルが建っていた。

 癒すことの出来ない傷。その戦いは単に、どれだけ竜機兵団が早く移動しても、どれだけ正確に撃っても、どれだけ勇敢に立ちはだかっても、勝つことができなかった。

 傭兵斡旋所。ジェイソンはその姿を思い浮かべるのに目をつぶる必要すらない。手入れの行き届いた庭園。ハーレフの高層ビルに囲まれた十階建てのドーム。それがアウトリーチの存在理由だった。ある意味において、ウルフ竜機兵団の誇りであった。全中心領域における傭兵雇用の中心にして、ハーレフという王冠の輝かしい宝石。

 それがもうなかった。

 そして、ギャロウグラスが角を曲がり、視界が開けたとき、ジェイソンはもはや何もできないものもまた見た。

 ウルフスパイダー大隊――残された部隊――は、その地域に非常線を張っていた。小隊群が東西南北に位置し、2機のメックからなるパトロール隊が広い各防衛境界線を歩いている。彼らは誰にも近づくことを許さなかった。竜機兵団のメックでさえも。

 だが、彼らが監視しているすべてが、墓地だったのである。

 数階の高さがあるガレキの山が、戦場に立ちふさがった。残骸はくすぶり続けていた。灰と埃が戦場を含むすべてに厚く積もっていた。バトルメックが虐殺された兵士のように散乱している。三日間の戦闘の証左であった。

 破片とパーツ。いくつかは形を保っている。他は砲撃で破壊されスクラップと化している。核融合エンジンの小さいが強烈な爆発で崩壊したものすらあった。そこの地区はさらに明白だった。数十メートルにわたって、地面が黒くなり、なにもなくなっていた。爆発がすべてを吹き飛ばしていたのだ。

 ジェイソンはまたバトルマスターを見た。

 2機のメックの上に倒れている。前方には多くの――本当に多くの!――たったいま撃墜された機体が、亡骸の散乱する大地の上で、いまだに燃えて煙を上げるか、くすぶっていた。灰褐色。さびた赤のアクセント。赤と青の星が、肩に塗装されているのがまだ見えた。その上に白い"W"の紋章が描かれている。ワコー特戦隊だ。名誉の戦死を遂げた者たちがいるここで、ワコー大佐のバトルメックを見るのは辛かった。彼の話をまた聞きしていたジェイソンにとってすらもそうだった。

 だがさらに悪いことはまだ終わっていなかった。竜機兵団にとっては終わってなかった。

 それは戦場にただ一機待っていたメックとともにやってきた。立っていた最後のマシン。古い型で、数多の戦いを生き抜いた古参兵である。角張った両肩にLRMランチャーが収められている。突き出たコクピットはいま粉々になっていた。

 伝統的なアーチャーの形状である。

 中心領域中で有名な――あるいは悪名高い――青と金の配色がいまだ残っている。

 その瞬間、ジェイソンは望んだ。アーチャーは結局、まだ立ったままである。その脚で立っている、唯一のマシンだ。彼はおそらく負傷した。意識不明。実際に多くが起きた。それからジェイソンはそれ見た。ウルフスパイダーが破壊された機体からわざわざ運び出した唯一の遺体。アーチャーの脚の間に横たわり、竜機兵団の紋章をあしらった旗に包まれている。彼の紋章だ。

 そこには、傭兵斡旋所を失ったのよりも深い、ハーレフ、アウトリーチの痛手があった。意図的な行為だ。誰かがどこかでとても、とてもおそろしい過誤を犯したのではなかった。

 それは真実であった。間違いはなかった。

 ジェイム・ウルフが死んだのだ。




















Dawn of the Jihad


市街地で戦闘
(3067年10月16日)

 アウトリーチ[INN] - 昨日、スミッソン・チャイニーズ・バンディッツ所属と伝えられる気圏戦闘機が、ハーレフ恒星間降下港上空を高速で通過し、爆音とソニックブームで朝の静寂を破った。傭兵機が降下港を機銃掃射し始めると、単なる訓練飛行は突如として危険な現実へと変わり、未確認の報告によると、最大で2個航空大隊分の駐機していた竜機兵団戦闘機が損傷を受けるか、破壊されたという。

 一時的に制空権を確保したバンディッツの戦闘機は、竜機兵団の住宅地域に飛来し、クラスター弾とインフェルノ弾による死の雨を振らせた。この宿舎には、戦士たちと、現在惑星上にいる竜機兵団の家族ほぼ全員が住んでいた。損害は、数ヶ所で爆発した自動車爆弾で増加した。伝えられるところによると、不特定の警報に応じて竜機兵団隊が集まった箇所で爆発が起きたという。死傷者数は不明であるが、ショスタコヴィッチ・ビルがいまだ炎上中である。本拠地防衛隊のメック戦士、その家族の多くが死亡したのではないかと懸念されている。

 これと明らかに同調して、ワコー特戦隊とスミッソン・チャイニーズ・バンディッツに率いられた雑多な無法者傭兵軍が、テンプタウンから出現し、ハーレフ刑務所とメック駐機場を襲った。同時刻、タイガー・シャークス(演習場での夜間演習から戻ってきた傭兵大隊)が、訓練用制御装置を強制解除して、同行していた衛兵を倒し、ハーレフ恒星間降下港への進撃を始めた。通りに混乱が広がり、逃げようとする市民で溢れると、そこは突如として戦場と化した。第51パンツァー・イェーガーが反乱軍に加わり、傭兵斡旋所へ向かってヘレナ通りを進んだ。

 卑劣な攻撃によって激しく揺さぶられた、本拠地防衛隊の残存兵力は素早く反応した。数で圧倒されていたが、ベータ連隊、エプシロン連隊の生き残りが武器を取るまで時間を稼いだ。その間、レムス大陸に駐留する両連隊がジェイム・ウルフ率いる逆襲を支援するために呼び寄せられたという。これら連隊は、ウルフ指揮官が集結させていた同盟軍……降下港近辺で反乱軍と交戦していた本拠地防衛隊、ゼータ大隊、ウルフスパイダー、またバトルマジックなどを増強した。

 過去24時間、激しい市街戦で、ハーレフは破壊された。両陣営の損害は大きく、民間人の死者はさらに多いと見られている。ジェイム・ウルフ指揮官は、ガレット川の北側土手で竜機兵団の陣地を安定化させたが、反逆傭兵隊(ウェイン・ワコー大佐の指揮下にあったと思われる)は、空からの調査を行い、メックでウルフホール、傭兵斡旋所の方角を攻撃した。

 ハーレフの航空優勢をかけた戦いは手詰まりのままだ。竜機兵団の数的優勢は、遠い空港、軌道上から移動せねばならないことと、都市上空で戦闘を行わず地上の死者を出さないようにすることで、相殺されている。反逆者たちは、地元のハーレフ降下港から作戦を行い、戦闘機の一部は最初の攻撃の被害を免れた竜機兵団のものを捕獲して使っている。

 傭兵評価・保証委員会は、正式に、ワコー特戦隊、スミッソン・チャイニーズ・バンディッツ、タイガー・シャークス、第51パンツァー・イェーガーが反逆部隊であるとした。




ハーレフ市、包囲中!
(3067年10月20日)

 ハーレフ、アウトリーチ[INN] - 10月15日午前3時30分、元ワコー特戦隊のウェイン・ワコー大佐率いる軍勢がハーレフ市への強襲を開始した。レポーターは不幸にも、アウトリーチ首都で解き放たれた残忍な大虐殺を見る事が出来た。

 夜明け前の攻撃の中、大規模な爆発が本拠地防衛隊の施設を破壊し、人員数百名を死傷させた。死傷者の大半は、不特定の警報を聞いて駆けつけてきた者たちだったという。その間、反逆者の戦闘機がハーレフ降下港で定期メンテナンスを行っていた竜機兵団の装備を爆撃した。最初の強襲に続いて、およそ4個連隊の戦力を持つ無法部隊がテンプタウンから出てきて、ハーレフに群がった。装甲、歩兵隊に支援されたこれらの軍勢は、都市をなぎ倒していった。

 竜機兵団指揮管制本部、傭兵斡旋所はともに攻撃を受け、斡旋所は完全に破壊された。民間、傭兵、双方の死者は、止まることなく両地点で増え続けている。ハーレフの数地区が炎上し、反逆傭兵の多くは逃げる民間人を撃ち倒している

 殺戮をとどめたのは、折良く割って入った竜機兵団ゼータ大隊であった。ウルフスパイダー隊とゼータ大隊は攻撃軍と戦い、すぐに降下港を確保した。ジェイム・ウルフ司令官は、あちこちの司令部から――有名なアーチャーのコクピットからも――作戦を調整し、反逆者の脅威を押しとどめるべく、逆襲に着手した。これにはレムス大陸から呼び寄せた、ベータ、エプシロン連隊の分隊も参加していた。

 三方向から集まった竜機兵団は、古典的な包囲でワコー軍の大半をとらえた。両陣営は激しく戦い、慈悲を与えることも求めることもなかった。戦闘のクライマックスにおいて、ワコーはメック中隊を率い、破壊された斡旋所の跡地で、ウルフ自身の小隊と戦った。ウルフ司令官と小隊は、死を与えるべく反逆隊と戦い、敵の完全1個メック中隊を撃破した。ウルフは致命傷で死亡しながらも、ワコーの部隊を倒し、独力で戦闘を終えたようだ。戦闘で破壊され、壊れたメックの中にあったウルフのアーチャーは、同盟軍が駆けつけた時にも、いまだ自分の脚で立っており、大の字に倒れたワコー大佐のバトルマスター――そしてワコー自身――の前にいた。

 ウルフ司令官の死は、竜機兵団を覚醒させたように見えた。彼らの反撃は、コントロールされたバーサーカーの怒りから力と性質を得たものだった――これは、コンディション・フィレル(野生)と竜機兵団が公式に呼んでいる、残忍で容赦ない方策である。一日以内に、竜機兵団は、氏族の破滅の神判を思い起こさせる残忍なやり方で、反逆隊のすべてをハーレフから一掃した。それ以降、反逆隊の活動は報告されておらず、荒廃の後で予測される掠奪行為はこの48時間で最小限である。

 竜機兵団の首脳部はこれ以上の報復に関してコメントを拒否している。数千の人命が失われ、都市は荒廃し、竜機兵団は壊滅した――ここ数日間の出来事はいまだ心にのしかかっている。竜機兵団と民間人にとってはつらい瞬間である。




伝説、墜つ

[キャメロン]:「スパイダー・ワン、こちらグレイ・ワン。斡旋所の施設から2ブロックのところにいます。ウルフ・アクチュアルから何かありましたか?」
[クレイヴェル]:「ネガティブ、キャメロン。最後の報告は、ワコーと連中がコンプレックス・アルファに突撃したというものだ。アクチュアルと本拠防衛隊小隊がいるところだ」
[シャッド]:「コンプレックス・アルファ? あそこは外国の高官やスタッフのためのゲストハウスですよ」
[キャメロン]:「他に本拠防衛隊は? 何も探知できないし、磁気反応はあちらこちらにあります」
[スパイダー・ツー]:「全回線が静かです」
[スパイダー・スリー]:「スパイダー・スリーです。現在、ジャコビー・ウェイ、レインストリートにいます。ワコーの3機を見ました」
[クレイヴェル]:「状態は、ポラック?」
[スパイダー・スリー]:「クルセイダーには頭がありませんでした。ステルスはうつぶせになって停止していました。最後の奴はIDがあってもわかりませんでした――ばらばらになっていたんです。スミストン・ストリート・グリルも崩落していました」
[スパイダー・フォー]:「くそったれ」
[クレイヴェル]:「黙れ、アフメッド」
[キャメロン]:「斡旋所のメインゲートに近づいてます……なんてことだ」
[クレイヴェル]:「何を見たんだ、グレイ・ワン?」
[キャメロン]:「説明できません、ジョニー。メックパーツが散乱してます。天国からの炎が立っているものすべてに振ってきたようです」
[グレイ・ツー]:「サー、アーチ道に――何か見えます……」
[グレイ・スリー]:「援護する、ツー」
[キャメロン]:「シャッド、ツーと行って、アーチ道の向こうに何があるか確認せよ。かすかな核融合炉の反応を探知した」
[クレイヴェル]:「グレイ・ワン、状況は? こいブライアン、詳しく教えろ! こっちは4ブロック後ろにいる。待てるか?」
[キャメロン]:「ネグ、スパイダー・ワン」
[シャッド]:「グロウラー・ポイント、散開せよ」
[キャメロン]:「フォー、数え終わったか?」
[グレイ・フォー]:「ワコーのメックが7機、本拠地防衛隊が今のところ2機……見たところ、ペリーとギーバーのようです」
[スパイダー・スリー]:「くそっ、俺の10コムスタービルが」
[クレイヴェル]:「リアム、口を慎め。ロバートアベニューに行って、罠がないか確認しろ」
[シャッド]:「サー、アクチュアルを見つけました」
[キャメロン]:「報告せよ」
[シャッド]:「サー……こっちに来て、ご自身で確認した方がいいかと」
[クレイヴェル]:「ちくしょう、言うんだ! 一体全体、何が起きてるんだ?」
[シャッド]:「アクチュアルのメックは動く状態です、スパイダー・ワン。メックの脚はワコーのバトルマスターの残骸に乗っています。もうどこにも行けません」
[クレイヴェル]:「ダメージはひどいのか? アクチュアルの無線は使えないのか?」
[キャメロン]:「そうは思いません、ジョニー。シャッド? アーチャーのパイロットを起こせるか?」
[シャッド]:「ポイント・ツー! アーチャー内のパイロットの状況を確認しろ! 必要ならコクピットを開けて構わない」
[数分間無音]
[クレイヴェル]:「グレイ・ワン、スパイダーコマンドは斡旋所に着いた」
[グロウラー・ツー]:「サー、パイロットは無反応であるように見えます」
[シャッド]:「無反応?」
[キャメロン]:「ライフサインは、トルーパー?」
[グロウラー・ツー]:「死んでいます、サー。腿と胴に傷があって、大量の血が流れ出しています。おそらく30分前に死んだものと推測します」
[キャメロン]:「グレイ・ワンから全竜機兵団員へ。ウルフ・アクチュアルは撃墜された! くり返す、ウルフ・アクチュアルは撃墜された! コンディション・フィレル(野生)だ。くり返す、セット、コンディション・フィレル」
[シャッド]:「グロウラー・ポイント! 広がって、生存者がいないか他のメックを確認しろ! あらゆる敵を排除せよ」
[キャメロン]:「スパイダー・ワン、ゲートウェイ・ブリッジで激しい戦闘が起きていると、ゼータからの報告です。支援に向かいましょう。グレイ・コマンド、降りて、非戦闘員のためにこの地域を綺麗にして、安全な掩蔽壕に連れて行け」
[クレイヴェル]:「了解、グレイ・ワン」[停止]「ブライアン、わかってると思うが、これをメーヴに伝えなければならない」
[キャメロン]:[停止]「その時がくればね、ジョニー。まずは我が家を綺麗にしましょう」
[クレイヴェル]:「了解、スパイダー隊! ナビポイントタンゴに移動する。ちょっと仕返ししてやろうじゃないか」

――ウルフ竜機兵団の通信より抜粋、3067年10月18日、アウトリーチ



ハーレフ市、包囲中、追加報告
(3067年11月18日)

 ガラテアシティ、ガラテア[INN] - 竜機兵団の代理指揮官ブライアン・キャメロンのすすめにより、私は最初の攻撃の直後、ガラテアに戻った。到着すると、報道陣と軍関係者たちが私を取り囲み、アウトリーチの大虐殺について質問をぶつけた。私は解答に全力を尽くし、疑惑を払拭するためと哀悼のため、この恐ろしい事件について――そしてジェイム・ウルフの死について――収録を行った。収録で追体験した時、私は彼らと共に涙を流した。

 本拠地への帰還中、アウトリーチのジャミソン竜機兵団大佐から追加の報告を受けた。被害は驚くようなものである。民間人の死傷者は約25万人と見積もられ、その3〜4倍が負傷した。ハーレフ市のインフラ、電力、水道は大きな被害を受け、疫病の蔓延を防ぐため、遺体が町中で焼却されている。

 竜機兵団は甚大な損失を被った。エプシロン連隊は事実上壊滅し、生存者はベータ(約35%の損害率と概算)に編入された。本拠地防衛軍は消滅し、ゼータとウルフスパイダーはそれぞれ35パーセント、50%の損害である。参加していたAMC部隊のうちバトルマジック傭兵団は激しい戦いで最後の一人までが戦死した。

 ウェイン・ワコーが指揮した4個バトルメック連隊、およそ同数の装甲歩兵隊のうち、竜機兵団、同盟軍と戦って生き残った無法傭兵隊(第51パンツァー・イェーガー、スミッソン・チャイニーズ・バンディッツ、タイガーシャーク等)は存在しなかった。

 メーヴ・ウルフ将軍とアルファ連隊が12月中にアウトリーチに到着する予定であり、その一方、第2ディズマル・ディシンヘリテッドとガンマ旅団が呼び戻され、現在、惑星での復旧作業を手伝っているのがこの報告では述べられている。

 INN、エミリオ・サンチェス、ガラテアより。




火星の大敗

>>ウルフネット送信 671208: ステータス TFヴェンジャンス<<
>>解読鍵 4-A-rr-2<<

シャッド大佐へ

 ほんの数時間前に地球星系で起きた災厄をあなたに伝えるため、出来るだけ早くこのまとまりに欠ける情報を収集しました。

 〈アテナ〉と〈ベイオウルフ〉は地球軌道の近くにジャンプし、すぐさま周囲にいた大規模な海軍による攻撃を受けたようです。降下船はディズマル・ディシンヘリテッドとゼータ大隊を地表に運びましたが、ベータ連隊、リンドン大隊、数個本拠地航空部隊を運んでいた船は大気圏に入る前に攻撃され破壊されました。

 何とか集めた〈ベイオウルフ〉からのHPG送信によると、機動部隊はすぐさま敵の戦闘機、降下船、少なくとも6隻の戦艦(そのうち少なくとも1隻は古代のナーガ級)に圧倒されました。しかし、これを確認するのは困難です。非常に珍しいタイプのECMがパケットデータを破損させているからです。

 この報告に添付したのは、通信が途切れる前の最後の音声通信です。あなたはこれを転送するよりも聞くのがいいと私は考えます。

ベンジロ・ディクソン少佐、AMC、ケイド


>>file opened<<

「……あのマーリンを撃墜しろ! オシリス! サヴェッジ星団隊の残存戦力を連れて、グラントトゥームの降下を護衛しろ――ベータの二の舞は駄目だ!」

「……そちらの九時方向、35度にシヴァとサンダーバード! ミサイルだ! 回避行動をとれ!」

「……撃ってきた!」[爆発音]「……第3から第8デッキまで喪失! 傾けてバランスを取れ!」

「……テナ、KFコアに酷い損傷を負った。ゼータの援護に向かう」

「……アテナを援護しろ! 一斉射撃……まずい、アテナがコントロールを失っ……」

「……速前進、あのナーガの背中を抜けろ! ……」

「……まるでハデスから来た魔神だ……」

「……損害甚大、補助バックアップオンライン。HPGネット開け、メッセージは……ベイオウルフから全竜機兵団。ヴェンジャンス機動部隊は敵の猛烈な攻撃を受けている。アテナは大打撃を受けて撃沈した。ここから離脱し――」

>>File ends<<




火星、何があったのか?
(3067年12月15日)

 ガラテアシティ、ガラテア[INN] - 私は地球星系で起きた災厄的な出来事に関し、アウトリーチの情報源から特別の報告を受けたところである。傭兵同盟軍の支援を受けた竜機兵団は、火星のワード・オブ・ブレイク基地への報復攻撃を行ったようだ。ワード・オブ・ブレイクの工作員が故ウェイン・ワコー大佐と結託し、アウトリーチの戦いに関わっていたと判明したのである。他からの情報はほとんどない。ブレイクの代表者への確認は、徒労に帰した。

 これが私の知る事実である。2隻の竜機兵団戦艦、〈ベイオウルフ〉(コングレス級フリゲート)と〈アテナ〉(ソビエトスキー・ソユーズ級重巡洋艦)が、竜機兵団のベータ連隊、ゼータ大隊からなる機動部隊を護衛した。第1ディズマル・ディシンヘリテッドとリンドン大隊が、リバティから火星への道中でこれに加わった。

 伝えられるところによれば、報復攻撃――竜機兵団が本拠地から近い敵を攻撃出来るとブレイク派に教えるのを意味する――は、最悪の結末に陥った。アウトリーチの竜機兵団司令部は、何が起きたかわからないと述べている。彼らは〈ベイオウルフ〉から以下のHPG通信を受け取ったという。「ベイオウルフから全竜機兵団。ヴェンジャンス機動部隊は敵の猛烈な攻撃を受けている。アテナは大打撃を受けて撃沈した。ここから離脱し――」

 ここガラテアの専門家は、ブレイク派がこれまで知られていなかった海軍戦力――おそらく地球星系その他でモスボールされていたものを現役復帰させた――を使ったのか、あるいはレーガン宇宙防衛システムを再起動したのだと推測している。他には、核機雷、核ミサイルを隠蔽された施設から発射したという仮説が出ており、一方、海軍戦の専門家は、ブレイク派が戦艦を片づけた後で、AMCの無防備な航宙艦に、爆発物を満載した戦闘機、降下船を自殺攻撃で衝突させたという説を提唱している。

 噂は駆け回り、地平線の向こうでカオス境界域をかけた大規模な戦争が起きているとの数多くの推測が出ている。すでに、ブレイク派に支配されたこれら世界からの難民から報告が来ている。今後ますます情報は増えるだろう。

 INN、エミリオ・サンチェス、ガラテアより。




傭兵の裏切り
(3068年1月2日)

 アウトリーチ[INN] - ウルフ竜機兵団、ケルハウンド、第12ヴェガ特戦隊など、信頼できる性向を持った傭兵団が金で動いていると感じる者たちがいる。ワード・オブ・ブレイクは、ワコー特戦隊、スミッソン・チャイニーズ・バンディッツ、タイガーシャーク、第51パンツァー・イェーガーを買い入れてハーレフに解き放ち、これを明確なまでに強調した。今、この不名誉な転落に、ブロードソード軍団を加えねばならないだろう。ウルフ竜機兵団に雇用されていた軍団は、雇い主に刃を向けた……この時、彼らはブレイク教団の第6、第10師団から竜機兵団の本拠地を守り、戦っていたのである。

 第二次アウトリーチ戦の山場で、防衛軍側が勝ちを得るかに見えた瞬間、ブロードソード軍団は後方から竜機兵団ウルフスパイダー大隊に猛烈な強襲を仕掛けた。軍団とブレイク軍ディプロマシーオブフォースIIIアルファの間に釘付けとなったウルフスパイダー(ブラックウィドウ大隊の伝統を受け継ぐ)は、隊列を整える前にほぼ全滅した。この背信行為は竜機兵団をさらに弱体化させた。ブレイク派は、この著名な傭兵隊を永遠に抹殺しようとして、軌道上から惑星に対して大規模な戦略的攻撃を仕掛けたと伝えられている。

 中心領域全体で、同じ質問がなされている。次はどこが裏切るのか? どの傭兵団が雇用主を裏切り、ワード・オブ・ブレイクの悪しき入札に応じるのか? この恐怖はすでにエプシロンインディで悲劇を引き起こしている。コムガードの第2師団がトゥース・オブ・ユミルにいわれなき攻撃を仕掛けたのである。伝えられるところによると、コムガードと傭兵の関係は、傭兵部隊が惑星にやってきて以来、緊張を増していたという。

 圧倒されたシャッドウェル大佐は打ちのめされたトゥースに賢明な命令を下した……降伏である。徹底的な調査の結果、リージス・グランディ司教は渋々ながら、トゥースとワード・オブ・ブレイクのつながりを示す明白な証拠がないと認めた。契約で規定されている戦力以下となったトゥース・オブ・ユミルは再建のためアークロイヤルに向かったとされている。その一方、傭兵隊指揮官の多くが、神経質になった雇い主がいつ銃を向けてくるかと神経質になっている。




アウトリーチ爆撃される!
(3067年12月31日)

 以下は、アウトリーチのマークネットリポーターの一人、エミリオ・サンチェスによる報告の未編集版である。

 レムス、アウトリーチ[マークネット] - 私は4年間アウトリーチに住んでいる。竜機兵団の各連隊と共にいる。本拠防衛軍の基地の多くを訪れている。私はここにやってきた人々と話をした。ここは自由の地であり、真の傭兵のメッカ、健康回復の場、交易の場、ビジネスの場であった。

 すべてが終わってしまった。

 だが、私はあのくそったれたワード・オブ・ブレイクが勝ったことを知っている。奴らがめちゃくちゃにしたのだ! 我らは勝っているところだった。だから、あのくそったれなろくでなしどもが核を基地に家に落としたのだ。奴らは正々堂々とした戦いでは勝てなかった。だから皆殺しにした! 継承権戦争以来こんな恐ろしいことをした奴はいなかった。第5連邦共和国隊は別だ! あの馬鹿どもは持ってる核を奴らに落とすべきだ! それでおしまいだ!

 どう見ても地獄に墜ちるべきだ! ワード・オブ・ブレイクに災いあれ! やつらを許すな! 奴らを皆殺しにすべきだ……さもなくば皆殺しにされる!




アウトリーチ、生存者の話
(3068年1月31日)

 ガラテアシティ、ガラテア[INN] - 先月、ワード・オブ・ブレイク海軍と地上軍による核兵器、軌道爆撃で、アウトリーチは壊滅的な被害を受け、数百万人が死んだ。竜機兵団の生存者、アルヴィン・サラザール中尉とのインタビューで、私は戦いの恐怖とアウトリーチ防衛の最後の日についてを、直接聞くことが出来た。

 前にサラザールと別れた時、彼はハーレフでウェイン・ワコーの傭兵隊を破って、楽天的で自信にあふれているように見えた。私が数時間前に会った人物は、10月末に会った人物とは似ても似つかなかった。彼の目はくぼみ、顔はやつれていた。古典的な軽度の被爆の症状である。サラザールは極度に消耗し、戦闘で疲労していた。私は話す前に休むよう言ったが、彼は拒否した。

 サラザールは詳細を説明した……どのように、ガンマ連隊のアーウィン・ティレル大佐(チコノフから到着したばかり)がアウトリーチ防衛の指揮を執り、予想されるブレイク派の逆襲に対する備えをしたのか、AMCに加わらない部隊、惑星防衛を拒否した部隊に惑星離脱を命じたのかを。アウトリーチを守るために、第2ディズマル・ディシンヘリテッド、ウルフスパイダー、ガンマ旅団、ブロードソード軍団が残り、少数の小部隊、ローンウルフの戦士たちが支援した。

 メーヴ・ウルフ将軍とアルファ連隊は数日中に到着する予定であったが、12月20日、ブレイク派が先に到着して、軌道防衛基地とローラIII級戦艦に電撃的攻撃を仕掛け、核兵器と艦船用兵器を使ってすぐに宇宙優勢を獲得した。

 ブレイク派の地上隊約2個完全師団がアウトリーチに降り立ち、すぐさまハーレフ内外の施設を攻撃した。ガンマ旅団とディズマル・ディシンヘリテッドは彼らを食い止め、その間、ウルフスパイダー大隊とブロードソード軍団が背後を攻撃した。攻撃は予定通り上手くいった……軍団がウルフスパイダーに銃口を向け、壊滅させるまでは。それからブロードソードはブレイク隊に加わったが、断固とした竜機兵団の守りに直面して、攻撃は頓挫した。

 アルファ旅団がついに到着した。〈アレクサンダー〉(メーヴ・ウルフ将軍乗艦のイージス級巡洋艦)が星系内にあらわれ、ブレイク派の封鎖を素早く突破したのである。ウルフ将軍の部隊が降下し、惑星上の均衡状態を破ると、〈アレクサンダー〉はブレイク艦隊と短時間の交戦を行い、相当数の強襲降下船を破壊して、戦艦2隻に損害を与えた(その後撤退)。

 敗北が間近に迫っていることを感じたブレイク艦隊の指揮官は、一週間近くの戦闘の後で、ハーレフ内外に軌道爆撃を命じた。同時に、ブレイク軍は戦略核兵器を投入して、レムス大陸を抹殺した。12月28日、この残虐な戦術は成功した。ウルフ将軍は全面撤退を命じ、ガンマ連隊がブレイク派の占領に対しゲリラ戦を敢行すべく残されたという。撤退を援護し、一命をなげうったのはひどく損傷した〈アレクサンダー〉だった。

 生き残った竜機兵団の戦士と家族はアークロイヤルに向かった。ケルハウンドと放浪ウルフ氏族が避難地と援助を提供したのだ。数日内に、レポーターは彼らに加わり、さらなる情報を伝えるつもりである。

 INN、エミリオ・サンチェス、ガラテアより。



(3068年3月31日)

 ガラテアシティ[マークネット] - 以下の部隊は、指名手配/無法者である。

 部隊・隊員の逮捕につながる情報の提供に対する報奨金、部隊・隊員の逮捕、殺害に対する賞金に関しては、お近くのマークネット地方局に報奨金・賞金一覧表を要請(無料)するか、記事の最後にあるリンクを参照されたし。

ブロードソード軍団
 当初、AMCに雇われていたブロードソード軍団(コムガードからの離脱者の集まり)は、アウトリーチの戦いで雇用主に刃を向け、ワード・オブ・ブレイクとの契約下にあると考えられている。いまだアウトリーチでブレイク占領軍の一部として活動している彼らは多大な損害を受けている。
 指名手配、生死問わず:人道に対する犯罪、戦争犯罪、極度の背信
 最終目撃地点:アウトリーチ

ブロンソン群団
 マリア帝国に雇用されていた際、ブロンソン群団はコンパス座連邦に寝返り、雇用主に反旗を揚げた。彼らは現在、ワード・オブ・ブレイクの仕事をしており、群団員による犯罪行為の報告が増えている。
 指名手配、生死問わず:戦争犯罪、詐欺/海賊行為、民間人への攻撃
 最終目撃地点:エプシロンエリダニ





封鎖突破
(3068年3月23日)

 アウトリーチ星系[INN] - 放浪ウルフ氏族の旗艦、ワーウルフにてこの記事を書いている。我らは、ウルフ竜機兵団ガンマ連隊の2個中隊の生存者、わずかな同盟部隊の兵士たち、何ヶ月もロムルスの基地にいた多数の民間人、兵士たちの救出に成功し、アウトリーチを発って星系外に向かっているところである。

 この救援任務は、第七奇襲部隊(独立秘密作戦チームによる援助を受けていた)が得た情報によって実現した。これはアウトリーチに1個大隊以下の戦力が残っていたことを示している。ゲリラ作戦は効果がないことが判明し、生き残った竜機兵団員たちは救出を要請した。フェラン・ケル氏族長とウルフ将軍はアウトリーチに共同作戦部隊を送り、人員を回収することで同意した。ケルはアルファ連隊との作戦を、第1ウルフ打撃擲弾星団隊(カス・ケレンスキー指揮)に任せ、ウルフ将軍が作戦部隊の指揮をとった。攻撃の名誉をかけた入札は、中心領域を巻き込む大虐殺の前に、脇に置かれた。

 我らは2月1日にアークロイヤルを出発し、8週間後の3月20日、アウトリーチから1日の距離にあるパイレーツポイントに到着した。幸い、惑星に近かったことで移動時間が短縮され、大きな損害を被ることなく、ブレイクの封鎖をすり抜けることが出来たのである。

 我が軍は上陸の一時間後に、ブレイク派部隊と接触した。第1ウルフ打撃隊が中央を守っているあいだに、アルファが両翼を押し返して、防衛区域を作り出した。一方、ワーウルフと戦闘機隊がブレイク派の封鎖を押しとどめ、空を確保し、名称不明のエセックス級駆逐艦とブラックライオン級を釘付けにした。ガンマの生存者と同盟部隊が到着し、同時に、民間人の監禁施設があるロムルス西地区から人が運ばれた。24時間後、生存者と少量の貴重な物資でいっぱいになったシャトル、降下船が離陸し、ワーウルフに向かった。運が良ければ、これらの人々――聖戦で最初にして最悪の恐怖を味わった――は、戦地を離れ、平和な世界に着くことだろう。

 INN、エミリオ・サンチェス、アウトリーチから移動中。










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