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作成:2016/11/10
更新:2016/12/28

ローニン戦争 Ronin War



 3028年から始まった第四次継承権戦争において、ドラコ連合はラサルハグ管区に属する惑星を多数失いました。
 中心領域の第三勢力たるコムスターは、恒星連邦=ライラ共和国の拡大に脅威を抱き、ドラコ連合にとある大胆な案を持ちかけます。それは、ライラとドラコの間に「自由ラサルハグ共和国」を作り、緩衝国にするというものです。失うものの少ない軍事の管領セオドア・クリタはこれを了承しました。
 しかし、地元ラサルハグ管区のDCMSはこれを受け入れず、マーカス・クリタとヴァシリー・チェレンコフを中心に反旗を翻し、ルシエンのクリタ家に挑戦します。ローニン戦争の始まりです。
 この文章は、サン=ツァン兵学校の名誉教授であるクリス・ウィーラー大尉(元第5ゲイルダン正規隊)の授業という形式で書かれています。






中心領域のサンプル抽出 A SAMPLING ACROSS THE SPHERE



 3034年、今現在は自由ラサルハグ共和国となっている世界のいくつかで、大いなる悲劇が我らが教団を襲った。この小国がドラコ連合からの独立を宣言したとき、DCMSのならず者部隊(マーカス・クリタ元帥、ヴァシリー・チェレンコフ元帥指揮下)が、DCMSからの直接的な警戒解除命令に従わず、反逆を犯したのである。クリタ元帥指揮下の部隊いくつかが教団のHPG基地を奪い取り、一部のケースでは職員を完全に皆殺しにした。

 この事件があったので、首位者ミンド・ウォータリーは恒星連邦だけでなくすべてのHPG基地にコムガードの兵士が必要だと疑問の余地なく第一回路に実証することができたのである。従って、3034年の後、コムガードの守備隊が、ドラコ連合、ラサルハグ共和国、自由世界同盟、カペラ大連邦国に現れた。もうHPGのスタッフたちが、処刑スタイルの攻撃や力尽くの強要におびえることはなくなったのだ。3034年までに、HPG基地の多くが、武装した歩兵と選ばれた車両支援を持ったが、ローニン戦争の悲劇から、首位者はバトルメックを重要なHPG基地に派遣し、中心領域は我らの真の力をちらりとのぞくことになった。

 聖ウォータリーはドラコ連合にラサルハグ共和国を作らせるという神業を見せた。セオドアに二線級の星間連盟マシン(安全のために有害な武器を取り外した)を供給し、自力で中心領域をダヴィオンの帝国主義から救済したのである。即座の再補給で、ドラコ連合は3039年のダヴィオンによる戦争から救われたのだった。

 ――『教団の関わり』より、サンドハースト軍事論文、ロンドンデリー・プレス、3062年発行



 この時期で注目すべきは、多くの正規部隊が軍事の管領セオドア・クリタからの直接命令に背いた後の反応である。これら兵士たちを裏切り者と宣言し、情け容赦なく処刑することで、セオドアは彼がもたらした新しい軍事ドクトリンと理想に対する異議を許さないことを示したのである。このように、セオドアはまさしく彼の父、大統領のように行動した。

 ラサルハグ共和国からの支援要請を待つ一方、補給拠点を反逆者たちから即座に切断することで、セオドアは中心領域に名誉ある敵(まったくもって冷酷であるにせよ)であることを示して見せた。助けを求められてすぐに行動したことは、セオドアが兵士たちに叩き込んだ情熱を表している。単独でそれをなすことで、セオドアは諸外国に、DCMSがいまだ恐るべき軍隊であることを示したのだ。だが、連邦共和国の軍隊が頭の固さを克服し、特別な教訓を学ぶのにはまだ数年がかかったのだった。

 ――『龍の戦術』より、マーズ軍事養成校の課題図書、ジュネーブ出版、3053年



 ノックスで傭兵2個部隊を相手にした第11ヴェガ軍団ほど、優れた訓練を積んでいるが、数で劣る軍隊が上手くやった例は他にない。3対1に近い数的不利で、グルミウムでの交戦で損害を被っていたヴェガ軍団は、それにも関わらず、2個傭兵連隊から主導権を保ち続けた。自分たちが選んだ地形で戦うようコラジン・コロナードとブルソン軽機兵隊の両方に強いた彼らは、すでに半分勝利を得ていたのである。弱点を隠すために強みを使ったヴェガ軍団は、それぞれの部隊を半分に分断し、それから粉砕して、シン軍団が救援に駆けつけるまで両傭兵部隊をノックスに足止めするのに成功した。最終的にコラジン・コロナードは生き延びた……かろうじて。だが、ヴェガ軍団はそこそこのダメージを負っただけで、新しい戦術、ドクトリン、そして管領のヴィジョンが古いやり方に大きく勝っていることを証明して見せたのだ。

 ローニン戦争はDCMSを鈍い巨獣から研ぎ澄まされた剣に変えた。

 ――『過去の教訓』より、アウトリーチ傭兵訓練コマンドで使われているマニュアル、ハーレフ・コミュニケーションズ、3056年



 3033年、レスパブリカ・ドゥア・フリー・ラサルハグが誕生した。3034年、外交が破綻した後、隣国のドラコ連合が新国家を力ずくで取り戻すべく極秘部隊で侵攻した。75個連隊以上がこの小国家に襲いかかり、ライラ同盟が介入して龍のエリート兵たちを追い返すことで、かろうじてレスパブリカの生存が果たされた。面子を保つため、クリタ大統領は参加した連隊の指揮官たちの多くを処刑した。3036年、オベロン連邦の海賊に偽装したドラコ連合兵が再び世界を奪おうとしたが、ライラの創設した第1サンダー連隊が調査攻撃を撃退して、失敗に終わった。現状を維持するため、ドラコ連合は3050年代までレスパブリカから距離を取り、氏族がドラコ連合でなくレスパブリカを叩くようそそのかしたのだった。

 ――『連合の歴史』より、コレギウム・ベロラム・インペリウム(マリア帝国軍事大学)の新入生向けテキストより抜粋、アルファード・リミテッド・プレス、3064年






ローニン戦争の人物


ハーコン・マグヌッソン
称号:自由ラサルハグ共和国選帝公
出身:ラサルハグ
年齢(3034年時点):43歳

 自由ラサルハグ共和国の自称選帝公、マグヌッソンは大学の非暴力的な抗議グループに入ることで反乱軍としてのキャリアを始めた。平和的なデモが政府の支援する暴力でつぶされると、マグヌッソンはスカンナジビア人民軍(SPA)に入った。ハーコンは刑務所の内外で、まずSPAの、次にティール運動の作戦を多数成功させた。マグヌッソンを捕まえる企みがまたも失敗した後で、怒り狂ったソレンソン元帥は、その狡猾なやり口から、「シルバーフォックス」のニックネームを与えた。

 3030年、コムスターとドラコ連合の高官がマグヌッソンに接近した……ドラコ連合がラサルハグの民衆に独立を与えるという新しいスタンスを示したのである。この申し出が本物であると気づいたマグヌッソンは、次の数年間を上手く使い、他のティール・セルに連絡を取り、独立の名の下に他のグループを引き入れた。警鐘派(Motpart)に放漫な支出を批判されたが、最も強硬な反対派でさえも、時が来たとき権力の座につくためティールの準備を行うというマグヌッソンがなしてきた途方もない仕事について否定することは出来なかったのである。

 [素晴らしい概要だ。だが、当初、マグヌッソンがコムスターへの支援を断ったのは忘れてならない……彼が選帝公に任命されない限りは。割り当てられた10年の期間を使った彼は、政治マシンとして活動し、3044年に再選を果たしたのである。彼がとても成功し、指導者として敬われたので、民衆は息子のラグナーを亡命王子として選出した。いつの日かフォックスの息子が父と同じだけの手腕と眼識を持って戻ってきてくれることを望んでいるのである。 -CW]






マーカス・クリタ
称号:ラサルハグ元帥
出身:カゴシマ
年齢(3034年時点):58歳

 タカシのいとこであるマーカスは、大統領暗殺の試みが再び失敗した後、ラサルハグ元帥として左遷された。マーカスが民衆と親しくなりすぎたことを懸念したタカシ・クリタ大統領は、マーカスをルシエン近くに移し、最終的にボディガード部隊のオトモ指揮官の座に据えた。近くに置いておけば、監視して野心を阻止することが出来るとタカシは信じたのである。

 緊張が高まり宮廷での陰謀がはびこる数年の後、タカシはマーカスをペシュト元帥の地位につけた。マーカスが宮廷での策謀に疲れ果てたと信じた大統領は、マーカスを辺境沿いの管区で元帥としてドラコ連合に仕えさせるのがベターだと考えたのである。だが、マーカスは戦略と戦術に関して鋭さを保ち続け、遠い将来に不測の事態が起きたときのための計画を作り上げた。従って、ラサルハグ共和国が作られ、ラサルハグで逮捕されたとき――ペシュトにいるはずだった――マーカスは迅速に権力基盤を築いて、自分の国家を作るか、あるいは大統領に挑戦することになる計画を動かした。それは内戦にきわめて近いものだった。

 [この男と動機について、ほとんどわかっていないのは残念なことだ……彼はISFに見つかって利用されるのを恐れて、まったく何も記録せず書き残さなかった。今になってみると、それは当然の懸念だった。君が見事サマリーにまとめてくれたのは、我々が寄せ集めることが出来るものだ。セオドアの行動がマーカスの計画を鈍らせることが出来たのは、確かに幸運だろう……さもなくば、現実は今日とまったく違ったなものになっていただろう -CW]






ヴァシリー・チェレンコフ
称号:ディーロン元帥
出身:チャパデロ
年齢(3034年時点):54歳

 暴飲暴食と友情を馬鹿にすることで知られている大男、ヴァシリー・チェレンコフは、それにもかかわらず、DCMSのトップまで彗星のごとく駆け上っていった。第四次継承権戦争のマーフィクで勝利した後、ディーロン管区の元帥に任命された彼は、特別な手腕や際だった特質というものを持っていなかった。彼の強みは、軍の規定、規則、協議の徹底にある。従って、チェレンコフがラサルハグ共和国の反乱を宣言し、惑星を奪還する計画を立てても、管領はまるで驚かなかった。ラサルハグ建国宣言の後に、管領が素早く対応したことを考えると、チェレンコフの反応はまさに管領が予想・計画していた通りのものだったことがうかがえる。ワイルドカードとなりえたのは、マーカス・クリタの行動であり、戦争を長引かせる可能性があった。

 チェレンコフはオレステスでラサルハグ共和国軍と交戦する準備をしていた早朝に殺された。だが、広く信じられているのは、この爆発が実際にはデレク・キングスレー少将による暗殺だと言うことである。このチェレンコフの側近は野心を抱いていたのだ。

 [現在でも論議の対象になっているのは、チェレンコフの死が陰謀なのか、単純な戦闘に関係する事故なのかということである。タカシへの献身ぶりはよく記述されているところであり、管領によるDCMSの改革を嫌っているのもそうである。チェレンコフは自らの案(傭兵部隊を手荒く扱い、破滅させるか、直営店モデルに吸収して、ディーロン管区の予備戦力を維持するなど)を採用していない。 -CW]






クリスチアン・マンスドッター
称号:大佐、第1ティール連隊
出身:モジリェ
年齢(3034年時点):39歳

 ライラ共和国でラサルハグ難民として生まれ育ったマンスドッターは、第1ティールが創設されたときにはLCAFに勤務していた。第四次継承戦争のキルヒバッハで能力を証明した彼は部隊の指揮官となり、惑星解放後でティール運動に忠誠を誓わないかと勧誘を受けた。ティール指導部の中で尊敬されていた彼は、ハーコン・マグヌッソンがコムスター・ドラコ連合と取引したことを発表すると、初代の選帝公として育成された。マグヌッソンの政治的立場のすべてに同意しなかったマンスドッターは、それにもかかわらず、脇に退いて、マグヌッソンが新しい国家の指揮をとることを許した。第1ティールの指揮官として残ったマンスドッターは、マグヌッソンの幕僚長、王家軍トップに指名されることで、その業績に栄誉を与えられた。

 クリスチアンは第1ティールを率いて何度かローニンと交戦を行い、トール・ミラボーグがメックから緊急脱出した(ライラの怒れる政治家が雇った小規模な戦車部隊、ゲッテルデンメルング・ソサエティの分隊に囲まれた)際にはギュンツブルクにいた。彼が信用していたドラゴンブレス(第1ティールを支援するために雇われた傭兵部隊)は交戦に参加しないという信義に反する行動をとったが、ラサルハグ人の大半のように傭兵に対する激しい憎悪を持たなかった。これは氏族戦争を通じて、ミラボーグの態度に表れた。

 ローニン戦争が終わったあと、マンスドッターは警鐘派の党首に選ばれた。この政党は、マグヌッソンの共和国人民党に対する第一野党である。

 [この未来の第一君主は、何においてもまずラサルハグの愛国者である。プレドリッツにおいて、彼がいたことで、第1ティールは第8正規隊と同伴するサンツァンの部隊を撃破することが出来たのだ。マンスドッターはいまだにラサルハグでマーカス・クリタを捕まえられなかったことを自身の失策と考えている。これによって、数千人が無駄死にしたのである。 -CW]






トール・ミラボーグ
称号:中佐、第1ティール連隊
出身:ギュンツブルク
年齢(3034年時点):40歳

 ハーコン・マグヌッソンの古い友人であり、マンスドッターの副指揮官であるトール・ミラボーグは、第1ティールがいくつかの惑星で分裂したとき、ほぼ半分を指揮した。ティールは戦争の間、暴力的な抵抗を示し始めた小規模なローニンの集団と戦闘して過ごした。9月、戦争が終わりに近づくと、ミラボーグの指揮メック小隊は残った第211機械化強襲部隊による伏撃を受けた。側面を突かれ、トラブルに深くはまったミラボーグは、近くの傭兵部隊、ドラゴンブレスに支援を求めた。だが、この傭兵は大きなダメージを負っており、契約条項を指摘して、戦闘の外に残ったのである。

 ミラボーグのグラスホッパーが最後に倒され、彼が射出座席を発火したそのとき、打ち上がるシートに第211のフォン・ラックナーから放たれた曳光弾の奔流が直撃し、ミラボーグは雑木林の中に突っ込んだ。数時間後に目覚めると、彼はMASHのベッドにつながれており、脊髄に損傷を負い、左目のすぐ近くに恐ろしい傷が走っていた。ミラボーグの愛国心と献身に報いるため、マンスドッターはマグヌッソンを説得し、彼を故郷ギュンツブルクの主席の座に就けた。

 1年におよぶリハビリによって脊髄の傷は完治したが、3036年、ギュンツブルクで活動するゲリラ部隊(後に、壊滅した傭兵部隊、ゲッテルデンメルング・ソサエティの残存戦力と判明)との短い撃ち合いの最中に、オートキャノンの流れ弾が彼のメックの頭部に命中した。跳ねる破片が脊椎の三箇所を砕き、下部脊椎を切断した。

 車いすに縛り付けられたことが、「鉄のヤール」の民族主義的誇りを奪うことはなかった。マンスドッターはミラボーグと異なる政治的見解を持っているが、彼をラドスタット管区将軍に昇進させるよう選帝公マグヌッソンに推薦した。

 [よくやった。ミラボーグの傭兵に対する敵意は、時を経るにつれて深さを増すばかりである。彼は氏族侵攻期にラサルハグ共和国の惑星多数で採用されていた「傭兵保留地」システムの提唱者の一人である。死の数年前になってようやく、彼は傭兵に対する態度を変え始めていた。 -CW]








背信と反逆(3034年3月) TREACHERY AND TREASON (MARCH 3034)


ポルチェニーゴ

ウィーラー「ポルチェニーゴはローニン戦争が始まったかもしれない惑星だが、3064年にISFが事件に関する資料を開示した後でさえも、詳細は不確かなものである。どうやら、あるISFのエージェントが休暇中の3034年1月、辺鄙な荒野でウリゼン2世時代の地下壕に出くわしたようだ。中には、弾薬、予備部品、戦場支援車両の山があったとエージェントが書き残している――エージェントは、そのすべてが輸送中に失われた装備で、紛失したものか、海賊が盗んだものと認識した。ちょっとした調査と監視の後、ISFはこの場所を運用しているのは、マーカス・クリタと関係のあるビジネスマンと2名のDCMS指揮官であると断定した」

ウィーラー「この発見は、ISFが入手したマーカスの陰謀に関する最初の明白な証拠――ただし状況証拠――になった。この補給基地の物資がローニンに行くのか、私兵部隊に行くのかはわからなかった。なぜなら、3月後半に、地下壕でガス管の不具合が発生し、業火が三週間にわたってヨミタ草原で荒れ狂ったからだ」




ラサルハグ

ウィーラー「公式に紛争が始まったのは、3034年3月14日の早朝、DCMSからの退却命令が、第8ラサルハグ正規隊と第20サン=ツァン兵学校候補生隊に届いたときのことだった。この命令は、単純にマーカス・クリタを拘留してルシエンに送還し、翌日に公式の発表が出たら別の部隊(新しく作られた第1ティール連隊と後で判明)が新国家の首都を守るというものだった。問題は、第8ラサルハグ正規隊と第20サン=ツァン兵学校候補生隊の両方が、王座を奪うというマーカスの計画に深く関わっていたことだった」

ウィーラー「ティールの歩兵部隊が夜明けにマーカス・クリタを地所の宮殿で逮捕した。ISFの拘留下に移送する最中に、第8ラサルハグの装甲部隊が奇襲を仕掛けて、この貴人を救出した。ISFは近くの第20サン=ツァン兵学校候補生隊に何度も支援を求めたが、小規模な移送隊は第8ラサルハグに殲滅させられた。第1ティールのメックが支援の準備を始めると、第20サン=ツァンは小さな展開地点を強襲することで自らの意図を示した。流れ弾が燃料トラックに命中し、火災が発生して数名の民間人が死亡した。爆発によって、この日の午後に予定されていた特別な行進を見る小さな特別観覧席は破壊された」

ウィーラー「同胞たるラサルハグ人が理不尽に死んだことに激高したティールの戦士たち――死者の大半は新設されたドラコ連合大使館の職員たちと後に確認された――は、怒りにまかせて襲いかかった。突然の逆襲で候補生隊は分断され、ティールの戦士たちは突破して宇宙港に向かうことが可能になった」

ウィーラー「第8ラサルハグはマーカス救出後に退却を始め、マーカスが不測の事態のために雇っておいた降下船数隻に整然と後退した。第8ラサルハグは、境界線の外部まであふれてきた第1ティールの勢いに驚かされたものの、残った候補生たちの約半数を救出するために頑強な抵抗を行った。残った第20サン=ツァンと第8ラサルハグ――「5分で離陸可能」だった降下船1隻の酸素シールが破れて取り残された――は、第1ティールが宇宙港を確保すると、周辺の田園地帯に散っていった」

ウィーラー「空に上がると、マーカス・クリタは行動に移るのならこれ以上時間を無駄に出来ないと感じたようだ。天頂点からジャンプする前に、クリタは自身に忠誠を向けている部隊に対して命令を発した――何かの弾みで、ソレンソン元帥に忠誠を誓う部隊にも命令は届いた。ライバルの兵士を引き抜くことで、マーカス・クリタはソレンソン元帥の管区内で権力基盤をいくらか奪うことを望んだようだ。マーカスは航宙艦を使って(密かに軍備を進める中で14隻を手中にしていた)、兵士が駐屯している重要な世界に命令を渡していった。HPGネットワークを通して最初の命令を出さなかったことから、彼はこの時点でコムスターを信用してなかったようだ」




エンガディン

ウィーラー「トクガ君、3034年3月にエンガディンで起きた出来事についてクラスに説明してくれたまえ」

トクガ「ハイ、教授。第9ラサルハグ正規隊は、3月20日、フェルレイテンでマーカスの命令を受け取りました。3月31日、第9ラサルハグはエンガディンの近くにジャンプインし、惑星強襲を開始。2日の高速移動と奇襲降下の後、第9ラサルハグはエンガディンのHPG基地を占領して、その過程でコムスター職員の半数を殺しました。第3大隊はそれから首都に移動し、コンベンションセンターを狙いました。ここでは、新たに指名されたヨルゲス・ハーコン主席が演説を行っていました。第9ラサルハグが中止を求め、ハーコン主席が回答を拒絶すると、パーシング大将は部下にビルを撃つよう命じたのです。コンベンションセンターは倒壊し、新しい惑星政府の大半が死亡しました。パーシング大将はエンガディンに戒厳令を宣言し、首都ヨンカーズに夜間外出禁止令を出しました」




トロントハイム

ウィーラー「ベリーグッド、ミス・ロバーツ。あー、なぜトロントハイムがこの時点で重要なのか? ベーカー君?」

ベーカー「反乱部隊による最初の大規模な残虐行為が起きたのです。トロントハイムはスカンナジビア文化にどっぷり浸かっていたことから、第25ラサルハグ正規隊と第2アンティンのあいだの衝突から悲劇が発生しました。ドラコ連合が日本文化でないものを軽視している表れに見えます」

ウィーラー「どのような悲劇が起きて、どのように発生したか?」

ベーカー「『自由の宣言』の直後、第25ラサルハグが第2アンティンの兵舎を攻撃しました。どうやら第25ラサルハグを逮捕し、裁判のためペシュトに移送するというような命令が第2アンティンに出ていたと彼らは思いこんでいたようです。後に判明したところによると、第25ラサルハグの指揮官は、そのような命令があったことをねつ造し、管領と対立していた部隊内で中立派になるのに成功しました。よく組織された多方面攻撃で、第25ラサルハグは第2アンティンの兵舎と駐機場を殲滅すると同時にHPG施設を占拠しました。連邦地区が武装した小規模な歩兵部隊による素早い攻撃を受けたそのとき、地下に不適切に仕掛けられた爆弾が起爆しました。この爆発によって、議事堂の数階分が崩落し、新たに就任した主席と地域代表のほとんどが殺されました」

ベーカー「ウチ・チキドモ大将は部隊にこの惑星の公式な軍事法廷を開くと宣言しました。彼らは必要な夜間外出禁止令を発布し、「ラサルハグ反乱軍」と呼んだ者の処刑を始めました――連邦地区への攻撃で捕まえた新しいラサルハグ政府の正式なメンバーたちでした」

ベーカー「第2アンティンは、首都ミスビーフラッツの外に戦力を結集し、2日後、真夜中の攻撃で第25ラサルハグの非常線を破ろうとしました。残念ながら、第25ラサルハグは、近くに砲兵陣地を構えており、第2アンティンに数百発の砲弾を降らせ、数百の建物を破壊し、地域に多数の火災を発生させました。市民への配慮は一切ありませんでした。第2アンティンは撤退し、援軍を求めました」

ベーカー「第25ラサルハグによる6時間の砲撃で3000名以上が死亡しました。トロントハイム市民軍の入隊が殺到し、残った閣僚たち――残虐な処刑を免れた少数――はラサルハグ共和国の新政府に窮状を告げるメッセージを送ろうとしました」

ウィーラー「ベリーグッド。第25ラサルハグがこのような古都を破壊し、政府の閣僚を残虐に殺したことから、トロントハイムの市民たちは反乱軍と戦う決意を固めた。海賊放送が他のラサルハグ共和国の世界へと密輸され、反ドラコ連合感情が煽られ、新設された王家軍の募兵センターに希望者が殺到した。トロントハイムの悲劇もまたマグヌッソンが反乱軍を倒すのにドラコ連合の支援をついに求める触媒となった」




カンディス

ウィーラー「サカモト君、カンディスがなぜ重要なのか説明してくれたまえ」

サカモト「カンディスは、シュタイナーの下にあった数少ないラサルハグ共和国世界のひとつで、セルヴィン・ケルスワ公爵がライラ共和国のタマラー協定地区での権力維持を目指す上で中心地となりました。強硬なライラ派だった知事、ブレンダ・リチャートはラサルハグ共和国が任命した高官たちに権限を明け渡すのを拒否し、政府庁舎の周囲をドラゴンスレイヤー傭兵部隊で固めました。自分の権利に固執するウラー・グレッドソン――マンスドッター直々に任命された正統な主席ですが――小規模で不運な傭兵中隊、インセクト旅団を雇用します。ふたつの傭兵部隊は15時間にわたってにらみ合いましたが、旅団のワスプのパイロットが発作を起こして、メックのマシンガンから偶発的に数百発をばらまき、ライラの抗議者グループを撃ち倒しました」

サカモト「ライラ市民の人命を軽視したことにショックを受けたリチャートは、全力で雇われの虐殺者に抵抗するようドラゴンスレイヤーズに命令を下し、建物の周囲で残虐な撃ち合いが発生しました。悲劇的なことに、ドラゴンスレイヤーのエンフォーサーが、リチャート知事の乗ったアヴァンティ・エアカーにつまずいて、知事は殺されました」

ウィーラー「ベリーグッド。ミス・マコニン、次に何が起こったのか教えてください」

マコニン「次の数日、暴力はエスカレートし、分裂した市民が互いを攻撃しました。群集心理が支配し、ライラ派のリーダーも、ラサルハグ派のリーダーも暴動を収めようとはしませんでした。雷雨によるショートでこの地域に火災が発生し、送信所ではないHPG施設が完全に燃え尽きました。熱狂的な暴徒に邪魔されて、消防隊が現場にたどり着けなかったのです。その時点で、カンディスは宇宙から切り離されました」

ウィーラー「エクセレント。カンディスは一時的に生まれたてのラサルハグ共和国から切り離されたが、ライラの避雷針になった――ほとんど文字通りに。これが、ケルスワ公爵が第四次継承権戦争で苦労して勝ち取った世界を手放すのを拒否する決意の深さの表れだ」








竜機兵団の噛みつき(3034年4月〜5月) THE DRAKON’S BITE(APRIL - MAY 3034)


ラサルハグ

ウィーラー「第8ラサルハグ正規隊と第20サン=ツァン兵学校候補生隊が迅速に撤退した後、第1ティールは首都周辺の戦略地点に後退し、残った反乱軍部隊の集中攻撃に備えて、新しいラサルハグ共和国の政府を守ろうとした。だが、組織崩壊したローニンは素早く再結集することができず、3つのゲリラ軍に分裂することとなった。一つ目は、サン=ツァン候補生隊の2個中隊で、ハッコン鉱業地区に行くため陸路退却した。そこには大規模な降下港があり、大量の鉄鉱石を輸出するための巨大な輸送船があった。トリマ・クーンツ中佐はハッコンのミュール級の1隻を借用すれば、惑星から脱して、プリドリッツの戦友たちに合流できると考えたのだ」

ウィーラー「二つ目のゲリラ軍は、第8ラサルハグとサン=ツァン候補生隊のメック・歩兵2個中隊からなる。兵士と装備の寄せ集めは、ラサルハグから40キロメートルしか離れていないスカンドの深い森に退却した。再結集、再武装しようとしたゲリラたちは、鬱蒼とした森の中に消え、当面、ティールの上空偵察から身を隠した」

ウィーラー「三つ目のゲリラ軍は、第8ラサルハグの副指揮官、ハリー・ヴォラーレ中佐に指揮され、5月11日、首都を電撃的に攻撃しようとした。大規模なスコールを隠れ蓑に使ったこの小規模な車両中隊は、ヴォラーレ中佐のメック小隊に支援され、民間の警察官に見つかって報告される前に、旧工場地域に2キロメートル侵入した。彼らは発見されたことに気づいておらず、第1ティールのバトルメック重大隊に包囲されて驚愕した。PPCの流れ弾がヴォラーレ中佐のコクピットを分解し、彼のチャージャーが倒れた後で、彼らは第1ティールに降伏した。彼らは郡刑務所に投獄され、二週間後に起きた刑務所暴動で半数が死亡した」




トロントハイム

ウィーラー「ありがとう、ミス・ローザン。集中力して。クウィラー君、トロントハイムについて最後までよろしく」

クウィラー「5月の半ば、ドラゴンブレス傭兵団が到着したのに伴い、第2アンティンは第25ラサルハグ正規隊の殲滅を図りました。自らが囮になって、第25ラサルハグを都市から引きずりだそうというのです。極端に傲慢で、権力に酔ったチキドモ大将は、第25ラサルハグの大半に第2アンティンを仕留めるよう命令し、傭兵の待ち伏せを受けることとなりました。壊滅したローニンのメック戦士たちは降伏しました。大規模な敵に勝利したことに浮かれた傭兵たちは、クールメイアー少将が繰り返し後退命令を出したにもかかわらず、残った第25ラサルハグと戦うため都市に身を投げました。都市での戦いになれていなかったドラゴンブレスは古参兵の第25ラサルハグに叩きのめされました。性急な撤退で数ブロックの住宅が炎上し、民衆は怒りました」

クウィラー「勝機を見いだした第25ラサルハグは混乱する傭兵を追撃し、都市の外で第2アンティンの待ち伏せを受けることになります。クールメイアー少将が自らストーカーでチキドモ大将を殺すと、第25ラサルハグは降伏しました」




ブルーベン

ウィーラー「ミス・イササキ、なぜ5月2日がブルーベンの国民の休日か教えてください。それから、なぜまた遅刻したかも」

イササキ「謝罪します、名誉教授。2つの出来事が3034年5月2日に発生しました。ひとつは他の共和国世界で見たようなローニンの攻撃のパターンです」

ウィーラー「それは?」

イササキ「現地にいたローニン軍がコムスターの施設を奪おうとしました。コムスターの記録で、コルヴィン・マンティリウス准司教が書き記したことによると、5月2日の朝、歩兵が8両の重ホバークラフトに乗って小規模な攻撃を仕掛けました。傭兵部隊のキャメロン軍団と市民軍がタイミング良く介入したことで、攻撃は阻止されました。どうやら、エリック・ディヴィッドソン主席とマンティリウス准司教は仲が良かったので、施設を守るための追加の戦力を得ることできたようです。攻撃した部隊は、DCMS駐屯軍の第937戦車連隊と第3592歩兵連隊の分隊であると後に特定されました」

ウィーラー「しかし、DCMSの指揮官、ミアト・ケッコネン中佐は、ラサルハグ共和国の新しい独立に賛意を示していたのでは?」

イササキ「ケッコネン中佐と士官団の3名は4月後半に交通事故で死亡しました。マーカス・ヒリマツ大尉がこの2つの部隊の最高司令官として後を継ぎました。彼は第二の事件、ナイスタッドのダウンタウンで起きたより悲劇的な事件に責任があります。回顧録によると、彼は欺瞞行為を計画し、ドラコ連合が奪還するまで、ブルーベンを奪って、独立世界として支配するつもりでした」

ウィーラー「説明しなさい」

イササキ「DCMSの駐屯部隊は都市を通ってパレードし、ヒリマツ大尉の承認要求を主席に届けようとしました。民衆に放送した宣言では、この撤兵の日を「悲しみと黙想の日」と呼び、ブルーベンで失われた兵士と市民への目に見える思い出として行進を行うことを求めていました。コムスター施設への攻撃があったそのとき、部隊の重戦車隊は主席の地所を通っているところでした。決められた信号を受け取った戦車隊は、隊列を崩し、パレード観覧席に向かい、主席の随行員を撃ちました。群衆警備任務についていたキャメロン軍団の2個小隊が主席を守るために立ちふさがり、近くの降下船に隠れていたローニンのメック1個小隊に叩かれました。3時間にわたるナイスタッド市中での熾烈な砲撃戦の後、両軍は離脱し、ローニン軍は要塞に退却、傭兵は主席と閣僚を守るために後退しました」

ウィーラー「良い情報だが、なぜ5月2日が国民の祝日であるかに触れてないようだ」

イササキ「493名の市民が砲撃戦で死亡し、そのうち約1/4が子供でした。どちらの側も自制することがなく、数十億Kビルの損害が都市に与えられ、大勢の負傷者が出ました。1年後、ディヴィッドソン主席は第52法案を提出し、5月2日を「自由の日」であると宣言しました。市民たちは自由をかけたローニン軍との戦いの中で死亡した被害者を忘れず敬意を払うよう奨励されます」



 我らが受けた壊滅的な損害の大半は、駐屯していた反乱軍の兵士たちによるものだけではなく、キャメロン軍団の傭兵によるものもあった。雇われた共和国の「防衛軍」は、都市中央部で勃発した戦闘において、一切の自制を見せることがなかった。ローニンの戦車との戦いを通して、強引な力が使われたのである。

 戦闘の後には493名の犠牲者が残された――大半は撤退の列を見に来た野次馬か、午後に予定されていた解放の祝いに早く来すぎた者たちだった。最も悲劇的な事件は、ガンダーソン・アリー地区のプライオールソン・スクールが破壊されたことである。噂によると、キャメロン軍団のマローダー・パイロット、ロン・デクスターが後に中規模の建物が「道の真ん中」にあったと言ったとされている。

 ついに砲撃戦が終わると、ナイスタッドの中心部はくすぶるビル、ひしゃげた金属、燃えさかる火災の光景となっていた。それを見る限り、このひどい戦いに誰が勝ったのかを判断することは出来なかった。数週間後、駐屯部隊を直接攻撃することによって、ブルーベンの戦いは決着を見たのだった。

 だが、ブルーベンの闘争において、最大の敗者は市民それ自身である。平和を愛する我らが市民たちは、通り過ぎていった戦争によって美しい惑星が荒廃したのを目撃したのである。大いに賞賛されることに、ディヴィッドソン主席は5月2日を「自由の日」と宣言することで、共和国と市民に対するまことの精神と忠誠心を示したのだった。誰も自由の墓地とつらい代償を忘れることがないだろう。

 ――カール・ソングシュトロム著『目覚めよ、ブルーベン!』より、ナイスタッド・プレス発行、3037年









竜の怒り(3034年5月〜7月) THE DRAGON’S ANGER (MAY - JULY 3034)


ラサルハグ

ウィーラー「ベリーグッド、シェール君。ラサルハグの状況について教えてください」

シェール「第20サン=ツァン兵学校候補生隊の残存兵力は、ようやくハッコン鉱業地区にたどり着き、第1ティールが待ち構えているのを見ることになりました。衛星画像によって夜の砂漠を進む候補生隊が発見され、スーザン・プランテ大尉がローニン・ゲリラの目標地点をピンポイントで特定したのです。第20サン=ツァンが高地にたどり着き、エリートたる第1ティールの傷一つないメックを発見すると、彼らは一発も撃つことなく降伏しました。生き残ったローニンのうち4名が切腹した一方、残りはルシエンに送還され、『不名誉な行為』で有罪となった後で処刑されました」

シェール「残った最後のゲリラ軍は、安全なスカンドの森を離れるのを拒否しました。3034年7月、ついにハシコポリス中佐がラサルハグ共和国の捜索隊に連絡を取り、寄せ集め部隊の亡命を要請しました。求めは拒否され、DCMS連絡士官がその場でハシコポリス中佐を処刑しました。共和国の高官たちはショックを受けましたが、ほとんど抗議はしませんでした」

シェール「指導者もなく、レーションもなく、怠慢によって装備不良となった反乱軍兵士たちは、キャンプを脱走し始め、正規隊のうち7名だけが残りました。脱走したローニンたちは、森の中で共和国の捜索隊に連絡を取り、捕虜となりました。繰り返された尋問の後で、DCMS兵たちはラサルハグ政府に手を貸し、最終的に4キロメートルの範囲にまでゲリラのキャンプが特定され、複数回の空襲による焼夷弾爆撃が行われました。一週間後、復旧チームは炎で駄目になったローニンの装備とメックの大半を発見しましたが、死体は2人分だけでした。残り5人は不明でしたが、この時点でラサルハグの抵抗は終了しました」

シェール「主星が反乱という穢れから開放されたのに伴い、新しい政府は他の世界に集中できるようになりました。第1ティールの約2/3が降下船に乗り込んでプレドリッツに向かいました。この惑星には、第8ラサルハグ正規隊と第20サン=ツァン兵学校候補生隊が、マーカス・クリタと共に退却していました」




プレドリッツ

ウィーラー「この時点で、マーカス・クリタはプレドリッツに立てこもった。プレドリッツの親日派市民は、新しい共和国を拒絶し、放り出した大統領に怒りを感じていた。自分の国を切り取るため、そして彼自身とヴィジョンに忠実な部隊を集結させるため、マーカスはプレドリッツを活動拠点として使うことができた。それで、マーカスの計画は成功したのか? ミス・フーナン、この先をお願いする」

フーナン「なぜマーカスの計画が成功しなかったのか、3つの理由があります。一つ目は、マーカスが第8ラサルハグ正規隊、第20サン=ツァンと共に到着した直後、ロキのエージェントに殺されたことです。マーカスは、5月24日、野戦司令部で死んでいるのを発見されましたが、加害者を負傷させた痕跡がありました。しかし、正体不明の暗殺者は逃走しました」

フーナン「どうやらカトリーナ国家主席がラサルハグ共和国創設の背後におり、国家崩壊の可能性を妨げるべくドラコ連合を支援したようです。ISFがどこかの時点でマーカスを始末したでしょうが、ロキが最初にやったのです」

ウィーラー「筋の通った仮説だ。続けて」

フーナン「反乱軍の計画が失敗した二つ目の理由は、第1ティール連隊が到着したことです。彼らは仕事にけりをつけるために、退却する第8ラサルハグと第20サン=ツァンの後を追いました。鈍足なマシンでの追撃は時折困難をもたらしましたが――第1ティールは強襲部隊でした――ローニンの各大隊は明確に火力で劣っていました。彼らは重い機体を主星に残し、これまでに話していただいたような問題に対処しました」

フーナン「三つ目の理由は、7月末にやってきました。第2〈光の剣〉連隊がプレドリッツに到着し、ローニンの部隊を撃破するため、ふらふらになったティールをアシストしたのです。この戦いは、この時点で、元連合の世界で行われた最初の戦闘となりました。第2〈光の剣〉はローニン戦争に参加した数少ないDCMS正規部隊でしたが、一度に複数の星系に対処するため多数の小規模な任務部隊に分割されていました。これは第1ティールも後で真似ることになります」

ウィーラー「ゴルブノーフ君、この交戦の詳細について説明してください」

ゴルブノーフ「第1ティールは6月の始めに到着し、それから3週間、ローニンの部隊に対し決定的な交戦を行うのに成功しませんでした。ティールのメックは強襲級であったことから、ローニンの足が速いメックに機動で負け、距離を離されたのです」

ゴルブノーフ「第2〈光の剣〉の到着がプレドリッツの勢力均衡を変えました。第2〈光の剣〉はまずカラカウ(惑星で唯一の衛星)の鉱業基地を強襲し、駐屯していた小規模な市民軍をしたたかに破った後、作戦拠点を築きました。状況を理解し、ティール連隊と連絡を取ると、第2〈光の剣〉はカリッツ宇宙港近くの交戦地区に戦闘降下を試みました」

ゴルブノーフ「ローニン軍はティール戦線の弱い部分を突破して、〈光の剣〉の降下船オーサカにダメージを与えることが可能になりました。第2〈光の剣〉の猛烈な逆襲があったにもかかわらず、マンスドッター将軍はオーサカを守るためにティールと第2〈光の剣〉を退却させました。将軍の日記の記述によると、彼は降下船の機動力を失うのを大いに恐れ、プレドリッツの戦いを必要以上に引き延ばすのを望まなかったということです。カリッツ宇宙港を賭けた戦いにローニン軍のほぼすべてが参加しており、逆襲によって崩壊する寸前だったことを彼は知りませんでした」

ウィーラー「それでマンスドッターは賢かったのか? 間抜けだったのか?」

ゴルブノーフ「間抜けでした。勝利に向かって突き進んで、戦いを終わらせるべきだったのです!」

ウィーラー「ああ、しかし、君は後知恵でものを見ている。マンスドッターはそのとき彼が持っていた情報に基づいて行動した。兵を前進させなかったことによって、将軍は部下たちとDCMSを無意味な破壊から救ったのだ。彼は部下と友軍を尊重していた。後退して、休息の時間を取ることで、良いタイミングかつ良い場所でローニンを殲滅することが出来たのだ。カリッツは他の宇宙港より戦略的に重要というわけではなかった。だが、降下船を救出することで、敵よりも機動力と有利を維持した。もし、攻撃を続けていたら、オーサカは失われ、戦いは長引くこととなっただろう」

ウィーラー「ドラコ連合の良き兵士は、個人の名誉の感覚よりも、部下たちへの義務に重きを置く。名誉は肥大化した自意識によって汚され、曇らされてしまう。個人に価値を与えることが出来るのは、唯一ドラゴンだけで、その者ではないのだ。これを心に留めなさい、アナトリー」

ゴルブノーフ「ハイ、教授」




エンガディン

ウィーラー「エンガディン。スティーブンソン君、わかるかな」

スティーブンソン「6月の第一週、第2ゲンヨウシャはエンガディンに電撃的な攻撃を仕掛け、第9ラサルハグ正規隊の不意を打ちました。無線を使わずに行動した第2ゲンヨウシャは、『関係するビジネスマン』から商人の降下船を借り受けて降下しました。第9ラサルハグがゲンヨウシャの到着に気づくことになる最初の合図は、兵舎を倒壊させた長距離砲撃でした。意表を突かれた第9サラルハグは、空爆に指揮統制本部を破壊される前に、かろうじて動員する時間があっただけで、部隊の残りは混乱しました。いまだ無線を使わずに行動していたゲンヨウシャは、分散した第9サラルハグをゆっくりと摘み取り、慈悲を見せることなく、逃走したすべての部隊を追い詰めていきました。週末までに、第9サラルハグはひとつの部隊として破壊されており、コムスターの施設は開放されました。第2ゲンヨウシャは、新しい共和国の主席が就任して、新結成された第2自由兵団の1個連隊が到着するまで、エンガディンに残りました」




ブルーベン

ウィーラー「ミス・イササキ、この時点のブルーベンについて、クラスのみんなに説明を続けてください」

イササキ「第937戦車連隊と第3592歩兵連隊の生き残りは、ナイスタッド南の要塞に退却しました。フォート・タナカはキウド式……DCMS内で名声を勝ち取り始めたばかりの安価に作られたプレハブ設計の要塞でした。加えて、残った最後のDCMS降下船、タイイダンが要塞に支援射撃を提供できる位置に移動しました。タイイダンは装備を取り外されたユニオン級に過ぎませんでしたが、惑星市民軍と雇われた傭兵の強襲を止めるに足るだけの火力を残していました」

イササキ「問題を複雑にしているのは、ディヴィッドソン主席が出した命令でした。ブルーベンでの作戦の間、全民間人の生命と健康を守るように指示されていたのです――彼らの忠誠心にもかかわらず。もしそれに失敗したら、傭兵は刑事告発され、共和国の法律によって裁かれることになります。ディヴィッドソン主席はナイスタッドの虐殺の再来を避けたがっており、さらなる民間人が殺されたら、傭兵を不利な立場に置くと明言したのです」

ウィーラー「それで何が起きた? 傭兵は抜け穴を使って、星系を離れたのか?」

イササキ「ノー、教授。彼らはこの時点で名誉ある数少ない部隊のひとつでした。ローニンは要塞の周囲に忠誠派の難民キャンプを置いて、攻撃が始まったら即座に被害を受けるようにしていました」

イササキ「キャメロン軍団は市民軍の支援を受けて6月15日に要塞を強襲しました。難民が近くにいたことから、長距離砲撃を行えず、彼らは苦難に直面したのです。キャンプを縫って進むと、遠距離からの攻撃が始まりました……ローニン軍は民間人の安全に関心を払わなかったようです」

イササキ「要塞の壁にたどり着くまでに、傭兵は大きなダメージを負っていました。傭兵のジェンナーとスティンガーが壁を飛び越え、充分な混乱を引き起こすことに成功しました――この2機の犠牲により、トーマス・キャメロン大佐とウォーハンマーは唯一の城門を叩くことが出来ました。門が破られると、他の重メックが北面を守っていた砲塔とガレオン2両を破壊するのは時間の問題となりました」

イササキ「日暮れまでに、基地は攻撃側の手に落ちました。代償となったのは、メック6機(他に2機が重い損傷を負った)と惑星市民軍の半分でした。不幸にも、ローニンのヒリマツ大尉と指揮小隊は発見されませんでした」

「傭兵に何が起きたのか? なぜ他とは違ったのか?」

イササキ「ディヴィッドソン主席はキャメロン軍団の生存者たちに、ブルーベン市民軍の指導部の地位をオファーしました。キャメロン大佐が死亡し、装備の大半が修理できる限界を超えて損傷していたのを考えて、傭兵たちはこのオファーを受けました。この時期の他の傭兵部隊と違って、キャメロン軍団の隊員たちは命令を実行する上でニンジョーとギリを見せました。これはラサルハグ指導部にとっても明らかでした。彼らは共和国の議決によって叙勲されました」




カンディス

ウィーラー「カンディスでは、両陣営が戦力を強化すべくさらなる傭兵を持ってくるごとに……大半はメック小隊規模の小部隊だったが、民間人の死者数が積み上がっていった。HPGは勤勉なコムスター職員の手で一ヶ月以内に修理され、カンディスはライラ共和国、ラサルハグ共和国と再接続された。残忍な戦闘のニュース、インセクト旅団がドラゴンスレイヤーに最後の一人まで殲滅されたことなどがターカッドに届いた。カトリーナ国家主席からの個人的なメッセージがいくつかタマラーのケルスワ公爵のところに届いたが、カンディスの戦いは衰えることもなく荒れ狂った。元タマラー協定の各地で不満が高まっていたが、カンディスのように暴力が爆発したところはなかった。第3ライラ防衛軍の到着が迫っているという噂があってもなお、ジュリアン・マリス主席代理を思いとどまらせることは出来なかった」

ウィーラー「ラサルハグ共和国のグレッドソン主席は管領クリタに個人的に頼みを求めたが、最初は拒否された。管領はライラ共和国との新しい戦争が始まるのを憂慮し、到着したライラ軍とぶつかるかもしれないリスクを望まなかった。そうする代わりに、管領はこの世界に平和をもたらすため、新しくやってきたシン軍団に任せることにした。この元リャオの部隊はDCMSに加わることになっていたが、合意は公にされていなかった。よって、セオドアは亡命カペラ人たちが龍に対し自身の価値を証明するチャンスになると見たのである。もし、失敗したら、彼らは龍にとって単なる傭兵部隊となる。しかし成功したら、彼らは龍に組み込まれるのである」

ウィーラー「蓋を開けてみると、シン軍団は第3ライラ近衛隊がジャンプインする二日前にカンディスに到着した。通常の2倍のGで進んだシン軍団は新しい主君に自分たちの献身を証明したがっていた。高精度な戦闘降下を行った第1シン軍団は、傭兵のドラゴンスレイヤーとメリアドック・マルコンテンツを釘付けにし、そのあいだ第2シン軍団が首都の守りを固めた。ティベリア川沿いの4時間に渡る熾烈な戦闘の後、ドラゴンスレイヤーはシン軍団に降伏した。熾烈な砲撃戦の後でも元気だった第1シン軍団は、第2シン軍団とメリアドック・マルコンテンツを挟み撃ちにした。繰り返される降伏勧告を拒否したマルコンテンツは(ラサルハグ軍かクリタ軍に降伏したら、ケルスワ公爵に装備を没収される契約だった)、最後の一人までが殲滅された。指揮官のバンシーが破壊された後、カンディスの世界はラサルハグに加わった。マリス主席代理とスタッフたちは、900人以上に及ぶ殺人への凶暴で、捕らえられ、投獄された。それはカンディス・シティ周辺の残虐な戦いでの最終的な死者数だった」

ウィーラー「管領に自分たちの価値を証明し続けたいと熱望したシン軍団は、荷物をまとめて、スカンディアへと移動し、ドラコ連合宙域に呼び戻される10月まで駐屯した。その名誉ある意思は非難されることなく、シン軍団は管領によってDCMSに歓迎されたのだった」




ケンプテン

ウィーラー「3034年の6月、ケンプテンで何があったのか? ミス・ハリス?」

ハリス「3034年4月、ケンプテンは星系を守るために、ヴィンソン自警団の一部を雇用しました……自警団の別の大隊はラートシュタットに陣取りました。このとき、第1サン=ツァン候補生隊が駐屯部隊として惑星上におり、4月の後半、チェレンコフ元帥の呼びかけに応じて、龍が盗んだ惑星を奪還するため、反乱を起こすところでした。イソロク・クリタ大佐と上級幕僚を営倉に閉じ込めた後、候補生隊のローニンたちは首都を占領する準備を行い、4月30日、ヴィンソン自警団と交戦しました。何度かの小競り合いで両陣営が重い損害を負った後、第1候補生隊は惑星で随一の石油・エネルギー供給業者であるラマポート石油化学工場を占領しました。大規模な燃料工場を爆発させるリスクを負いたくなかったヴィンソン自警団は、第1候補生隊を包囲し、膠着状態を生み出しました。第1候補生隊はドラコ連合による支配を再開して、ケンプテン市民に押しつけることを望んでいました」

ハリス「6月4日、惑星主席の支援要請に応えて第2機兵隊がケンプテンに到着しました。候補生隊の後方に戦闘降下した彼らは、ヴァンセンヌ・ムリタ大将と幕僚の大半を殺し、混乱を引き起こしました。候補生隊は撤退し、ヴィンソン自警団が後を追いました。トップを失い、圧倒的な敵軍に直面した候補生隊はカンティス山脈の近くに立て籠もり、降伏を拒否しました。状況を抑えたケンプテンは、平和を宣言しました……第2機兵隊の指揮官は、ローニンを早晩根絶できると固く信じたのです」

ハリス「ヴィンソン自警団は修理のため営舎に戻り、契約が完了したとケンプテン政府に通告しました。彼らは6月が終わるまでにケンプテンを発って、戦友たちに合流するべくラートシュタットに向かいました」




ツカイード

ウィーラー「ローニン紛争に参加した唯一のダヴィオン忠誠派部隊について誰か知っているか? ああ、ミス・オミコ」

オミコ「ツカイードにおいて、フォックスティース独立中隊が第1竜機兵団の訓練を支援していた6月、アルテンマルクト市民軍が物資襲撃を仕掛けました。チェレンコフは穀倉世界の食料を大量に必要としていたのです」

オミコ「フォックスティースは二手に分かれており、片方はベースキャンプを守り、もう片方は第1竜機兵団との訓練で不在でした。アルテンマルクト市民軍は、ダヴィオンの基地近くの大規模な穀物サイロに大きな戦力を送り込み、フォックスティースの小規模なバトルメック部隊を倒しました。陽動グループは第1竜機兵団とフォックスティースの指揮小隊に叩きのめされました」

オミコ「拡大する紛争に参加したいとの要請を繰り返し受けたにもかかわらず、ラサルハグ共和国の指揮官はダヴィオンの部隊を報復攻撃に解き放つのを拒否し、持ち場に残って第1竜機兵団の訓練を終わらせるように主張しました。紛争の間、彼らはそこに残りました」








名誉の終わり(3034年8月〜10月) END OF HONOR (AUGUST - OCTOBER 3034)


プレドリッツ

ウィーラー「ゴーマン君、プレドリッツに関するディスカッションを終わらせてください」

ゴーマン「8月5日、第2〈光の剣〉連隊が、ぼろぼろになった第8ラサルハグ正規隊と第12候補生隊の背後に移動するのに成功しました。ローニンたちは目の前の第1ティールに動きを制限されていたのです。マンスドッターが合図を送ると大量の砲弾が降り注ぎローニンの不意を突きました……ローニンの貧弱な諜報では、どちらが間接砲を持ち込んだかはわかりませんでした。第2〈光の剣〉連隊が後方に群がり、ローニンを第1ティールの前に押し出すと、混乱は増大しました。最初の交戦から3時間以内に、ローニンのメック戦士最後の7人が降伏しました。三週間後、回収チームが戦地を耕していた際に、スヴェン・ヨハンセン少将と他のローニン戦士3名がこの地域からいなくなっていたことが判明しました」

ゴーマン「第1ティールの半数がギュンツブルクを落ち着かせるためマンスドッターと共に送られ、残りはシロー山脈で第2〈光の剣〉と行方不明になったローニンを追いました。残念ながら、ローニンの残りは隠された降下船まで退却することが出来ました。スヴェン・ヨハンセン少将はカラカウの月に向かい、第8ラサルハグ正規隊の残りと合流しました」

ゴーマン「幸運なことに、新しく結成された第2竜機兵団が第1ティールを救援するために到着しました。この部隊はラートシュタットに向かうようマンスドッターの命令を受けていましたが、カラカウの月に方向転換しました。ここで起きた激しい戦闘はクリストフ・マルテンス中尉(第2竜機兵団バトルメック中隊指揮官)とスヴェン・ヨハンセン少将の狂ったレースの中で終わりました。背信者のヨハンセン少将は鉱業コロニーの地下に埋設した核融合リアクターを爆発させると脅しましたが、彼のバトルマスターは最適な射撃範囲からわずか数メートルのところで破壊されました。マルテンス中尉が洞窟の天井を撃って、チャージャーがローニン指揮官の真上に転落したのです」

ゴーマン「プレドリッツの大虐殺を生き延びたのは第8ラサルハグ正規隊のうち4名だけでした。第2竜機兵団は点在する抵抗グループを掃討するためプレドリッツに残りましたが、どの点から見てもこの世界は平定されたのです」




コー

ウィーラー「シツ君、コーの事件について完結に説明してくれたまえ」

シツ「チェレンコフ元帥が死んで、ミチ・ノケツナが新たなディーロン元帥になったというニュースが第22ディーロン正規隊に届くと、タチアナ・ソビロフ少将は管領の選択に難色を示しました。ノケツナのような価値のない犯罪者の下にはつかないと宣言した彼女は、意見を同じくする者たちを率いてどこかに消えようとしました。幸運にも、ジェイソン・オヒロ中佐は脱出プランに気づき、地元の治安部隊の力を借りて、ことが起きる前に共謀者たちを捕まえました。15名の男女がディーロンに送られて、審問官の前に並びました。15名全員が反逆と龍の安全を脅かそうとした罪で有罪となりました。その先見の明と行動から、オヒロ中佐は第22の大佐に昇進しました」

ウィーラー「この規模の事件はDCMS内では珍しいものだった。各自の理由から、兵士たちの小規模なグループが部隊から無許可離隊し、場合によっては装備を一緒に持っていった。DCMSの指揮官たちが大声で不平を述べるのはそれよりも少なかった。一例としては、第16ゲイルダン正規隊フラシスコ・ベヴィエー大佐による抗議がある。チェレンコフ元帥が背後にいるのではないかという小さくない示唆によって、部隊はブラックリストに入れられた。彼は4年後に恥辱の中で死んだが、部隊は3060年代まで彼の礼儀知らずと不名誉に苦しんだ」




ケンプテン

ウィーラー「ミス・ハリス、ケンプテンについて続けてください」

ハリス「6月末にヴィンソン自警団が出発すると、ケンプテン政府は小規模な傭兵戦車部隊、テリブル・トレッドを雇用しました。第1サンツァン候補生隊が突如として現れた場合に備え、首都ケンプティナスの守りを任されたこの新兵傭兵部隊は、都市周囲のあちこちに塹壕を掘って立て籠もりました」

ハリス「8月には、第1サンツァンの戦力は1/4にまで低下していました。第2機兵隊に包囲され、追い詰められた彼らは、それにも関わらず、やる気を保ち、死ぬそのときまで自らの正しさを主張しました。惑星上のラサルハグ共和国軍が知らなかったのは、第17ラサルハグ正規軍が状況を把握するためパイレーツポイントに到着したことでした。仲間のローニンが封じ込められていることを聞き及ぶと、彼らは惑星グリッドのセンサーの穴を使って気づかれないように接近しました。8月10日の日暮れに、第17ラサルハグ正規軍は第2機兵隊の後方に戦闘降下しました。迅速に候補生隊と連絡を取ったボリス・ユキノフ大佐は正面から第2機兵隊を叩くよう、指揮官のいない候補生たちに指導しました。ラサルハグ共和国の新兵部隊を挟み撃ちにして、つぶそうとしたのです」

ハリス「第2機兵隊はテリブル・トレッドに支援を繰り返し要請しましたが、無視されました。ケンプテンとの契約によると、テリブル・トレッドは首都を守るために雇われただけであり、惑星上の部隊を支援して敵ゲリラと戦うためではないと、コルバインダー大佐が後に証言しました。懸念されていたように、彼らは契約の文言を履行していました。彼らはMRBによる契約不履行の刑事責任を免責されました。皮肉にも、わずかに3年後、4つの企業グループが、契約不履行でテリブル・トレッドを集団提訴しました。争点となっているのは、第1サンツァン候補生隊と第17ラサルハグ正規隊が材木・鉱石倉庫に回復不能の損害を与え、ケンプティナスを大規模な不況に陥れ、政府が首都を他に移転せざるを得なかったということでした。従って、訴状によるとテリブル・トレッドは契約を破っていることになります。法廷はこれに同意し、テリブル・トレッドは160億コムスタービルの損害賠償を命じられて解散しました」

ハリス「第2機兵隊はテリブル・トレッドの支援を受けられなかったのでナイストールに後退しました。速度に勝っているのを利用して、彼らはドラコ連合軍を突破するのに成功しましたが、おそろしい損害が出ました。この新しい部隊の半数以上が交戦で破壊されました」

ハリス「第2機兵隊に撤退を許した後、ラサルハグ正規隊は候補生隊を吸収して、野戦修理に用い始めました。8月12日、第2〈光の剣〉の一部が星系内に到着した時にも彼らはその最中でした。疲労しておらず、エリートのDCMS正規部隊と戦うには準備不足だと知っていたラサルハグ正規隊は、第2〈光の剣〉が惑星降下すらする前に降伏しました。部隊の半数以上が切腹し、残りは刑務所行きを選んで、最終的に反逆罪で処刑されました」

ハリス「イソロク・クリタ大佐と投獄された幕僚たちは、第2〈光の剣〉が惑星降下した直後に解放されました。鼠と雨水でかろうじて生き延びた6名の男たちは、次の一年間を回復に費やしました。3036年、クリタ大佐は新しく結成された第1サンツァン候補生隊の指揮に戻り、3042年退役しました」




ラートシュタット

ウィーラー「ラートシュタットに関する議論で今回の話を終えよう。ラートシュタットは大規模な生産拠点であったが、ローニンは全力でこの惑星を奪おうとはしていなかった。だが、ドラコ連合内の補給基地が失われたことで、小規模なローニンの集団が補給を得るために各種の施設を襲撃し、よってヴィンソン自警団が2つの大規模な倉庫地帯の警備を任された。第17サラルハグ正規隊がとりわけ野蛮な襲撃を行い、石油精製所を破壊して惑星の石油生産力を損なった後の9月、星系の防衛を強化するために第1機兵隊もまた到着した」

ウィーラー「消耗品と補給が不足し、龍が間違っていると証明したがっているローニン部隊、第49機械化戦車連隊、第603機械化戦車連隊が、8月、ラートシュタットを叩いた。最初は第1機兵隊に跳ね返され、第49機械化と輸送部隊が破壊されたのだが、第603機械化が待ち伏せを成功させ、第1機兵隊戦車部隊の突破にどうにか成功すると、ローニンは敵を迂回して、首都への突撃が可能となった。ローニンの猛ダッシュを止めるため、第1機兵隊は必死になってヴィンソン自警団を呼んだ――彼らは近くに駐屯し、ワカザシ・エレクトロニクスの工場を守っていた。ヴィンソン自警団は、契約上のいかがわしい条項を引用して、任された地域への侵攻がない限りは中立でいることができると拒否した。第603機械化戦車連隊は、都市の外部を突破し、第1機兵隊が追いつく前に大規模なパニックを起こした。都市の商業地区、住宅地区の中で、34時間にわたる熾烈な市街戦を繰り広げた後、第1機兵隊はどうにかローニンを退却に追い込んだが、戦力のおよそ3/4が犠牲になったのだった。

ウィーラー「10月に第1ティールが到着し、残ったローニン軍を撃破した」




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