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作成:2012/06/27
更新:2015/10/01

クロンダイク作戦 - Operation Klondike



 中心領域で第一次継承権戦争が荒れ狂っていたのと同じころ、遠くペンタゴンワールドに移住したSLDFも血で血を洗う内輪もめを始めていました。いわゆるエグゾダス内戦です。
 鎮圧に失敗したアレクサンドル・ケレンスキーが死ぬと、息子のニコラスは戦乱のペンタゴンワールドからエグゾダスを決行します。
 新天地で彼の作った新たな社会こそ、氏族。国家や人種や文化を超えた新秩序です。
 そして、2821年。ニコラス・ケレンスキーは氏族軍を引き連れて戻ってきます。
 ペンタゴンワールド奪還作戦――クロンダイク作戦の始まりです。




名を残さず、名を知られず Unblooded and Unknown

 一般的な氏族の言い伝えによると、ケレンスキーの戦士800名が、ペンタゴンワールドを独力で征服し、残忍な軍事支配者に正義をもたらしたということになっている。虐げられ、腹を空かし、権利を奪われた人々は、立ち上がって、ケレンスキーと氏族を救世主として受け入れたのである。だが、たかが20個大隊分のエリート兵士が、5つの星系全体を征服したというのは本当なのだろうか?

 間違ってはない。だが、氏族人でない者にとって、いや軍事史の研究者にとってさえも、ケレンスキーが軍隊と支援組織のあいだに引いた線を理解するのは理解しがたいもになりがちなのである。おそらく、完全に理解されてないまでもよく知られているのは、海軍に関する区別である。中心領域では、兵士を輸送し宇宙を守る戦艦、航宙艦、降下船は、たいていの場合、軍事の範囲内である。事実、軍人によって大半の船は動かされ、指揮される。しかしながら、氏族内では、直接的な戦闘というケレンスキーのパラダイムに適合しないものはすべて、支援機構と考えられるのだ。よって、戦艦と降下船は、敵艦と(そして地上軍と)交戦を行うという可能性があるというのに、そして実際に戦っているというのに、独力で戦う(または他の騎士たちを率いる)ハイテクな氏族の騎士という理想から外れているのである。最終的に、これら艦船を指揮するためにそれぞれ一人の戦士が配置され、クロンダイク作戦のあいだ、戦艦や降下船を指揮するのに一人の戦士が必要とされた。だが、最初の数十年間で、これらの任務は不名誉であり、他の氏族戦士より下と見なされたのだ。

 同様に、歩兵と通常装甲車両さえも高く評価されることはなかった。メック戦士たち、そしてメック戦士ほどにないにしても気圏戦闘機パイロットたちが、究極のハイテク騎士なのである。彼らだけが栄光をつかみ、訓練とケレンスキーの信頼により氏族の敵との戦いに運ばれ、破壊をもたらす大量の武器を操る。チームワークは氏族内に存在するが、各戦士の腕と功績がすべてに勝るのである。結果、通常装甲車両の戦車兵と歩兵たちのチームは、たいていの場合、「究極の戦士」というケレンスキーのヴィジョンの外に置かれてしまうのだ。

 クロンダイク作戦で彼らに居場所がなかったとは言うことはできず、氏族内ですらたいていはそうなっている。しかし、彼らは支援役に追いやられてしまった。装甲部隊はたいがい守備用に使われ、歩兵はメックと戦闘機が作戦を終えた後に呼ばれた。歩兵はケレンスキーの究極の戦士たちが達することのできない狭い空間を掘り進めるか、あるいは警察任務を託された。もちろん、氏族最初の軍事作戦が進む間、氏族は歩兵と装甲車両の支援なくしては、何事もなすことができなかった。それにもかかわらず、彼らはペンタゴンの征服者として賞賛を受けることがなく、真の評価を受けるまで、数世紀とは言わずとも、数十年の時間がかかったのである。現在でさえも、装甲部隊、通常歩兵部隊への配置は名誉なきものと見られる一方、海軍はいまだ民間人の技術者と商人にしめられている。彼らが船を動かし、少数の氏族戦士が、軍事作戦の監督と指揮を行うのである。バトルアーマーの開発だけが、装甲歩兵の役割を真の氏族戦士として価値あるものとした。

 「補助(Auxiliaries)」もまた、氏族の初期に存在した疑似軍隊のカテゴリである。事故により稀少かつ貴重な戦士の命が奪われるかもしれない(戦闘中に不運で頭を撃ち抜かれる可能性は言うまでもない)という認識から、各氏族はペンタゴンに同行する補助部隊を作り上げた。これらの補助は、古い時代の見習い騎士によく似ていて、技術者、職員を監督し、訓練、演習中の戦士を手伝い、戦士の関心外にあるその他の雑務を引き受けた。だが、仕える戦士が戦闘で死ぬと、補助が昇進し、穴を埋めることができる。こうして補助を使うことで、各氏族はペンタゴン帰還に死活的な予備戦力のようなものを受け取ったのである。

 補助は、いずれの場合も、最初の神判に参加したが、ケレンスキーの選んだ800名に入るだけのスコアを残せなかった者たちである。彼らは、クロンダイク作戦の前に事故死であいた席を埋めるために争った者たちであり、大半がクロンダイク作戦遂行後に正式な氏族の戦士として受け入れられた。

 それでも、氏族の公式な――あるいは非公式な――歴史のなかで、これら補助について触れられることはほとんどなかった。彼らは名誉を持って仕え、多くがペンタゴンで戦闘に参加したのだが、賞賛を受けることはまずなかったのだ。氏族に命を捧げた者たちは、せいぜい記念板か小さいなモニュメントで追悼されるのみであった。生き残った者たちは、氏族に仕え続ける名誉を得て、おそらくは成長する氏族軍内で指揮官の地位に就くことさえあった。なぜなら、ペンタゴン戦役の際に捕らえたボンズマンと、人工子宮から生まれた新戦士で、氏族軍が拡大していたからである。











ペンタゴンへの帰還 Return to the Pentagon

幸運の女神は、準備ができている者のもとを訪れる
 ――ルイ・パスツール

運命が訪れるまで、避けられぬ宿命は先延ばしにされる
 ――ゼブロン・フランコ・ルシウス・スーレSLDF将軍

 地球解放からクロンダイク作戦までの42年間で、ニコラス・ケレンスキーは氏族から星間連盟の文化の大半をはぎ取った(もしくは旧世代が死んで行くにつれ忘れられていった)。これはもちろん、意図されたものであり、氏族の市民たちが新しい社会を受け入れ、新たな仲間たちへの忠誠を形作るのを助けるものであった。その途上で、氏族の指導者たちは、SLDFが人類史上最も困難で最も損害の多い戦闘を成功させてきた組織的な知識の多くを失っていることに気がついた。


 戦闘教義と美辞麗句では戦闘に勝つことはできない。経験を元に考えたところで、戦役に勝つことはできないだろう。戦役に勝つことができるのは、経験豊かで勇敢な戦士たちが、優秀で大胆不敵な指揮官に断固として用いられ、柔軟かつ強靱な兵站線に支援された場合である。そのひとつでも欠ければ、あまつさえふたつが欠ければ、戦闘には勝ったとしても、戦役に負けるだろう。

 我が戦士たちは経験があり勇敢で、我らが指揮官たちは確かに大胆不敵である。兵站こそ我らが失敗し続けている分野である。新たな社会を作り、軍隊を変換する中で、私が恐れているのは戦士たちが戦役を戦い抜くのに必要な支援に関する経験を失ったのではないかということだ。

 ――アブサロム・トラスコット氏族長の日記より、2817年4月17日


 トラスコット氏族長は間違っていなかった。氏族の軍隊は本質的に、若さと戦士たちを好む――衰えたにせよ訓練を受けてないにせよ、戦えない者にその居場所はなかった。将軍と戦争指揮官たち、つまり、軍隊を率いて勝利するのに必要な数十年の経験を持つ者たちはほとんどいなかった。初期の氏族戦士たちの平均年齢はおよそ38歳であった(黄金世紀の半ばまでこの数字は減り続け、22〜24歳の間で安定した)が、最年長の戦士たち(通常は氏族長、上級副官)でさえも、実戦が行われていた時期にはせいぜいが大隊、連隊指揮官に過ぎなかったのである。これら士官たちの数名は、エグゾダス期の後に将軍・提督になっている。だが、戦争を経験せず、大規模な演習も行わなかったこれら指導者たちは、戦争に勝つのに必要な技術を身につけることがなかったのである。さらに悪いことに、戦士たちに補給を行い武装させるのに必要な兵站家たちは、退職し、最終的に氏族内で商人、技術者となっていたのだった。

 幸運にも、氏族はいくらかを呼び戻すことができたが、彼らのアドバイスに耳を傾けた者は比較的少なかったのである。


 我々が何ができて何ができないのか、商人たちが教えてくれた。我らは氏族である。我らは選ばれしものである。戦士たちは我らに勝利をもたらし、必要なものを得ることができるだろう。

 ――ローラ・ペイン副氏族長からアブサロム・トラスコット氏族長へのメッセージ、2817年5月30日











ペンタゴンへの帰還 Return to the Pentagon

幸運の女神は、準備ができている者のもとを訪れる
 ――ルイ・パスツール

運命が訪れるまで、避けられぬ宿命は先延ばしにされる
 ――ゼブロン・フランコ・ルシウス・スーレSLDF将軍

 地球解放からクロンダイク作戦までの42年間で、ニコラス・ケレンスキーは氏族から星間連盟の文化の大半をはぎ取った(もしくは旧世代が死んで行くにつれ忘れられていった)。これはもちろん、意図されたものであり、氏族の市民たちが新しい社会を受け入れ、新たな仲間たちへの忠誠を形作るのを助けるものであった。その途上で、氏族の指導者たちは、SLDFが人類史上最も困難で最も損害の多い戦闘を成功させてきた組織的な知識の多くを失っていることに気がついた。


 戦闘教義と美辞麗句では戦闘に勝つことはできない。経験を元に考えたところで、戦役に勝つことはできないだろう。戦役に勝つことができるのは、経験豊かで勇敢な我らが戦士たちが、優秀で大胆不敵な指揮官に断固として用いられ、柔軟かつ強靱な兵站線に支援された場合である。そのひとつでも欠ければ、あまつさえふたつが欠ければ、戦闘には勝ったとしても、戦役に負けるだろう。

 我が戦士たちは経験があり勇敢で、我らが指揮官たちは確かに大胆不敵である。兵站こそ我らが失敗し続けている分野である。新たな社会を作り、軍隊を変換する中で、私が恐れているのは戦士たちが戦役を戦い抜くのに必要な支援に関する経験を失ったのではないかということだ。

 ――アブサロム・トラスコット氏族長の日記より、2817年4月17日


 トラスコット氏族長は間違っていなかった。氏族の軍隊の本質は、若さと戦士たちを好むものである――衰えたにせよ訓練を受けてないにせよ、戦えない者にその居場所はなかった。将軍と戦争指揮官たち――軍隊を率いて勝利するのに必要な数十年の経験を持つ者たち――はほとんどいなかった。初期の氏族戦士たちの平均年齢はおよそ38歳であったが(黄金世紀の仲間ではこの数字は減り続け、22〜24歳の間で安定した)、最年長の戦士たち(通常は氏族長、上級副官)でさえも、実戦が行われていた時期にはせいぜいが大隊、連隊指揮官に過ぎなかったのである。これら士官たちの数名は、エグゾダス期の後に将軍・提督になっている。だが、戦争を経験せず、大規模な演習も行わなかったこれら指導者たちは、戦争に勝つのに必要な技術を身につけることがなかったのである。さらに悪いことに、戦士たちに補給を行い武装させるのに必要な兵站家たちは、退職し、最終的に氏族内で商人、技術者となっていたのだった。

 幸運にも、氏族はまだいくらかを呼び出すことができたが、彼らのアドバイスに耳を傾けた者は比較的少なかったのである。


 我々が何ができて何ができないのか、商人たちが教えてくれた。我らは氏族である。我らは選ばれしものである。戦士たちは我らに勝利をもたらし、必要なものを得ることができるだろう。

 ――ローラ・ペイン副氏族長からアブサロム・トラスコット氏族長へのメッセージ、2817年5月30日











アローン・イン・ザ・ダーク Alone in the Dark

 兵站はトラスコット氏族長とクロンダイク作戦を策定するグループの懸念のひとつに過ぎなかった。情報がもうひとつだ。


 トラスコットはマッケナと私を選び、ペンタゴン星系のそれぞれに侵入する情報収集部隊の組織と運営を任せた。なにかがマッケナを動揺させたようだが、それはスターアダーがこの任務の全権を握るとトラスコットが言ったからか、それともニコラスが指揮権を放棄するよう強要しなかったかはわからない。いずれにせよ、我々は前進した。我が軍の艦長たちはまだ自分の船の指揮権を持っている。だから、彼らがスターアダーに従ったらどうなるのだろう? ペンタゴンに攻め入ったのなら、そこには栄光が待ち構えているだろう――そして我が氏族の船と船員たちが最初の実戦を味わうのだ!

 ――ラフェ・カルダーン副氏族長の日記、2817年2月27日


 ケレンスキーの氏族がペンタゴンに戻ってから15年が経ったが、これら5つの世界の状況は不明であった。最初の数年間、ペンタゴンからの難民が日常的にストラナメクティにやってきては(多くはケレンスキー星団の植民地世界経由で)、ニコラス・ケレンスキーの命令で強制的に移住させられた。彼らはストラナメクティの新社会に同化する前に、ペンタゴンでの戦争と紛争の恐ろしい逸話を伝えた。

 難民の洪水はやがて勢いを失い、やがて戦争の最初の数年間が過ぎると、ほぼ止まった。だが、それに変わるのが、新しい情報源である――貿易商人たちだ。ペンタゴンワールドが絶え間ない内戦という状況に落ち着くと、新世代の宇宙民貿易商たちが登場した。これら交易商人たち(その性質からすでにアウトサイダーだった)は、ペンタゴンで稼働している航宙艦の大半と、降下船の大多数を手にしていた。加えて戦艦数隻さえもがあったのだ。元の国家や人種よりも、宇宙に暮らす兄弟・姉妹として互いに忠義を負っていた彼らは、たいてい戦いからは離れたままであった。多くが各星系で団結し、一部は離れた衛星や惑星に植民する一方、航宙艦や降下船をジャンプポイントに持ち寄って事実上の宇宙植民地を作る者もいた――エアロックをチューブや通路でつないで一緒になることさえよくあったのだ。水耕菜園によって生き延びることができた一方、他に必要なものを得るため、ペンタゴンワールドに住む人々とスペアパーツを取引したり、業務を引き受けたりした。

 すぐに、これらの貿易商人たちは、定期的にケレンスキー星団へやってきて、せっせと仕事に励んだ。彼らはすぐさまストラナメクティを避けることを学んだ。ここでは、望むか望まざるかに関わらず、生まれたばかりの氏族社会に引き入れられてしまうのである。星団の他の場所(氏族が充分な軍事力を持ってないか、海軍戦力のない場所)は、より安全に取引ができるところであり、ペンタゴンでの話が語られることになった――少なくとも氏族内の一部が注目することになる話が。

 トラスコットと計画立案者たちは、これらの報告に重きを置いたが、安全にクロンダイク作戦を開始するには、より有用で正確な情報が必要であった。

 サーブル・サン作戦は、2817年5月に開始された。5つのペンタゴン星系それぞれに、航宙艦が2隻ずつ派遣された。各航宙艦は1、2隻の降下船を積んでおり、戦艦1隻に支援されていた(そのうち3隻はバグ・アイ)。特別に電子偵察パッケージを装備したこれらの船は、ペンタゴン星系の一番遠く――通常のジャンプポイントから充分離れた場所――にジャンプし、数週間その場に居座って、視覚的・電子的な受動偵察を行った。彼らは最善を尽くし、植民化された小惑星、衛星、小惑星帯のすべてでいまだ活動している全艦の位置を確認した。

 最初の段階が完了すると、各チームはさらなる情報収集のために降下船を星系に送り込んだ。惰性で進んだ降下船は、植民地と運行している船を探せるような電子情報を収集した一方、航宙艦と戦艦は完全に星系を調査した。最終的に、追加の船数隻が各星系に派遣された……その船員たちは居住世界に近い小惑星と衛星に聴音哨を設置した。可能な場合は、放棄された船に。


 サーブル・サン作戦は非氏族的であるかもしれないと報告を読んで思ったが、被害を少なくするためには小さな代償だろう。両陣営にとって。

 ――ジョン・フレッチャー氏族長の日記、2818年4月4日


 なんで間抜けな使い走りどもを待たないとならないんだ? 氏族は攻撃できるときに、座して待つなんてしないはずだ!

 ――スター・キャプテン・カール・イカザの日記、2818年5月13日


 同時期、別の船がペンタゴンと星団の直線経路にある全星系を偵察した。その過程で彼らはまさに求めていたものを発見した――それは少数の孤立した船であり、植民地さえもがあった。すべてペンタゴン内戦の避難民たちによるものであった。その全員がストラナメクティに移送され、氏族に吸収された。

 サーブル・サン作戦は約4年間続き、クロンダイク作戦の艦隊が各ペンタゴン星系に到着すると公式に終了した。全氏族の船(大半は航宙艦と降下船)がサーブル・サン作戦に参加したが、大多数はたった2つの氏族のものであった……クラウドコブラとスノウレイヴンである(スターアダーが大きく離された三番手であった)。










地勢 The Lay of the Land

 サーブル・サン作戦で受け取った報告によって、氏族はペンタゴン各星系の詳細を描き出すことができたのみならず、世界を飲み尽くすことになる戦争の行く末を正しく表すことが可能となった。


 人間の持つ本性は、かつて宝石だったものを傷つけ、触れたものを腐らせてしまう。美と繁栄は、破壊と苦しみを産むことになる。同情に値する。彼らが罪に対して支払った代償は充分なものであろう。

 ――フィリップ・ドラムンド氏族長の手紙、2820年7月22日











状況報告: 宇宙 SITREP: Space

 ペンタゴンワールドの世界5つすべてが、この20年を覆い尽くした内戦によってひどい損害を受けていた。サーブル・サン作戦時点までに、5つの星系間の移動はほとんどなくなっており、宇宙民による最低限の量の交易だけがあった。恒星系内の交通はもっと多かったが、それほどではなかった……惑星上の勢力が使っていた降下船と航宙艦はすでに無力化されるか破壊されており、さもなくば中立化していた。一部は深宇宙に逃げて、宇宙に住む集団の兄弟・姉妹たちに加わった。

 その結果、宇宙民たちが、まっとうな宇宙資産――降下船と航宙艦を持つペンタゴンで唯一の勢力となったのである。ほとんどの場合、宇宙民たちは引っ込んでいたが、食料や原材料を得るため定期的に上陸し、平和的な仕事を請け負った。次に彼らは獲得した余剰物資を、他のペンタゴン星系にいる宇宙民と取引した。こうしてごくわずかな恒星間交易が維持されたのである。

 氏族にとって最高のニュースは、おそらく海軍キャッシュが比較的略奪されることもないまま残されていたことである。ペンタゴン星系でまだ活動している戦艦はほんの一握りであった……大半が人手不足でかろうじて稼働するのみであり、本拠地の軌道上に置かれていた。実際、戦艦は通信と偵察支援を行う以上のことをしなかったのである。

 だが、戦艦キャッシュは(ひとつを除いて)完全に隠されていたわけではなかった。宇宙民はキャッシュの大半を発見しており、その中に居住して、重力デッキと菜園(とほぼ確実に兵器システムの一部)に電力供給するに充分なだけのシステムを再稼働させていた。


 ペンタゴンワールドへの進入にまったくの問題はないと見る。ここに固定防衛はない。面倒なのは戦艦キャッシュだろう。どれだけの人員が配置されていて、どれだけの戦艦システムが稼働しているのかは不明である。防衛のために少なくとも一部の武器を動かしていることだろう。なんとしても、最初に対処する必要がある。地球解放作戦の再現にならないことを祈るのみである。

 ――スティーブン・マッケナ氏族長の手紙、2820年10月11日











状況報告: 地上 SITREP: On the Ground

 ペンタゴンの5つの世界の状況は深刻であった。約450万人の人口は、第二次エグゾダスのあと、20年間で半分以下のおよそ200万人にまで減っていた。多くが血塗られた初期の戦闘で殺され、残りは18年間におよぶ争いと惑星の危険な生態系の犠牲となったのだ。工業はほとんど消滅し、技術もまた同様である。両者は軍事作戦の目標になるか、交易品となったのである。

 中央政府の助けを得られぬ生存者たちの大半は、身を寄せ合って、保護と物資を供給することのできた軍事支配者に忠誠を誓った。牧畜、漁業、農業が残った産業の柱であり、生存者たちを生きながらえさせるものであった。しかし、それはかろうじてなのである。友好的な(あるいは同盟した)グループの間での交易はあったが、もっとも裕福なグループを除き、略奪行が生き残るための鍵だったのだ。

 これら権力を奪い、維持している者たちは、比較的少数のバトルメックと戦車によってそれをなし、内戦の初期を乗り切っていた。これらの機体を新しく生産する能力は遙か昔に失われたことから(ましてやスペアパーツですらも)、ペンタゴンの生存者たちはこれらのマシンを寄せ集めの応急修理と祈りによって動かしているのだ。

 それでも、ペンタゴンワールドの嘆かわしい状況は、ゆっくりと好転していたのである。初期の無軌道な戦争は、長い時間をかけて襲撃と単なるポーズへと変わっていった。少数の大規模な勢力が各世界で成長し、大規模で繁栄したグループの下に小領主が集いつつあった。放浪するギャングと襲撃者がもっとも危険な脅威となり、10年前にあった出身国間の戦闘に取って代わったのである。

 地上がこういう状況にあってもなお、ニコラス・ケレンスキーの氏族は完全に数と火力で劣っていた。しかし、サーブル・サン作戦のおかげで、少なくともこれらの敵に遭遇するであろうことはわかっていた。そして氏族は腕と支援の面で優位を持つことがわかっていた。さらに氏族人たちは最も重要なアドバンテージを持っていることを知っていたのだ。それは正統性である。


 「我々の前に立ちふさがるものは、打ち負かされることになる。我々は敵を切り裂き、亡骸を後に残していく……そうすれば、民を絶望から救い出すため、ケレンスキーの選ばれしものが戻ってきたと誰もが知ることになるだろう」

 ――ハンス・ヨルゲンソン副氏族長、ゴーストベア氏族への演説、2821年7月1日











ジャンプ・イン The Jump In

 宇宙民がいなかったら、ケレンスキーの氏族がペンタゴン星系への侵入と上陸に懸念を示すことはなかっただろう。サーブル・サン作戦によって、宇宙民は地上の勢力とさほど接触を持たず、忠誠を持たないことがあきらかになった一方、宇宙民の存在は戦役を計画する上で大きな変数となったのである。氏族は5つの星系でこの要素に対処せねばならなかった。


アルカディア

 アルカディアには他のペンタゴンの星系と同じく、航宙艦、降下船からなる宇宙領土が存在した。アルカディア星系の場合、宇宙民は通常の両ジャンプポイントにコミュニティを作っているのみならず、第四惑星の軌道上にSLDFがモスボールした海軍キャッシュの船内にもコミュニティを作り上げていた。

 宇宙民に対処する計画はかなり単純だった。ジャンプポイントの各宇宙領土には航宙艦と降下船が自衛のために固まってるが、戦艦はなく、保安パトロールもなかった。戦艦1隻に率いられた氏族航宙艦のグループが、強襲降下船の1個中隊を運んで、星系の各ジャンプポイントに入り、宇宙領土を取り囲んだのだ。各ポイントの降下船と航宙艦が逃げようとしたが、数発の警告射撃を鼻先、あるいは機関部に受けると、降伏した。5隻の航宙艦が緊急ジャンプを実施した――3隻がアルカディア星系内の他のジャンプポイントに、そしてバビロン、エデン星系に1隻ずつである。氏族がすでに支配しているポイントにジャンプしてしまい、5隻すべてが降伏するほかなくなったのだった。


武力

 アルカディアの海軍キャッシュにやってきたアブサロム・トラスコット氏族長はまるでチャンスを与えなかった。氏族戦艦4隻と、戦闘降下船16隻がキャッシュに殺到し、アクティブセンサーを起動した船や、キャッシュから出ようとした船に乗り組み兵を接舷させ、即座に艦橋とエンジンに向かった。アルカディアのキャッシュを巡る戦いは11分間続いた。キャッシュにいた船5隻が無効化された一方、1隻が艦載級オートキャノンを発射することに成功した――当たったのは1発だけだった。キャッシュ全体を確保するのにもう2日必要となったが、最初の15分で危機は終わっていたのだった。

 Hプラス6時間、キャッシュの無力化を任された氏族戦艦2隻と、ジャンプポイントを任された氏族戦艦2隻が、この世界を守っているらしき反乱軍の戦艦2隻に対処するためアルカディアのパイレーツポイントにジャンプした。2隻ずつに分かれた氏族戦艦がそれぞれ敵艦1隻に近づくと、反乱軍の船は軌道上で待ち受けた。両艦は氏族艦に警告を発したが、テキサス級〈パース〉は、氏族の砲兵が警告射撃を放つと即座に降伏した(後に氏族の技術者が乗り込み、稼働する艦砲はごくわずかだったと報告した)。これによってリガ級駆逐艦〈アドミラル・ショーン〉が残された。この船は当初降伏を通信していたが、乗り込み兵を運ぶ降下船を破壊し、その過程で軌道を脱して、氏族戦艦を撃つために移動した。〈アドミラル・ショーン〉は氏族戦艦に数発を当てたが、艦載オートキャノンの射程まで充分に近づくことはできなかった。2隻の氏族戦艦は降伏を拒絶した〈アドミラル・ショーン〉を手早く片付けた。減圧し燃えさかる船体は、アルカディアの大気圏に落ちていき、燃え尽きなかった破片は、2000キロメートルの幅に渡って惑星南部の海洋に落下した。二世紀を経てなお、〈アドミラル・ショーン〉の破片が、時折、浜に打ち上げられたり、漁師の網にかかるのだった。





エグゾダス内戦

 継承権戦争の基準に比較しても、ペンタゴン内戦は残虐で破壊的なものだった。「ドシェヴィラーの虐殺」のニュースが広まるとすぐに、ペンタゴン全域で内戦が勃発した。そして、ニコラス・ケレンスキーと第二エクソダス艦隊が出発すると、際限のない全面戦争を止めるものはなくなった――皮肉であるのは、15年前に中心領域で始まった第一次継承権戦争と状況が様々な部分でそっくりなことだ。

 だが、継承権戦争と違って、ペンタゴン内戦はひとつの世界における6つの派閥の戦闘から、さらに分裂した状況に発展した。大都市が最初の破壊目標となった……すでに細くなっていた命令系統を破壊する中でそうなったのだ。1年以内に、6の主要派閥(むろんのことそれぞれが星間連盟時代の所属国家に対応)は崩壊した。似非封建的な軍事支配者が率いる数十の異なったグループがペンタゴンワールドの各所に現れた。これらグループの大多数が、国家的、文化的結びつきに基づいていたが、すぐさま国籍よりも誰に忠誠を誓っているかが生存に重要なことのひとつになった。

 この考え方は、最初の数年間でますます優勢なものになっていった。ペンタゴンの生き残りたちは、自分たちを文字通り中世へと吹き飛ばしていったからだ。軍人たちは敵の力を殺ぐ戦略をとったことから、この戦争では軍事施設が最初のターゲットとなり、次に技術拠点、開発拠点が続いた。求めていたのは、もちろんのこと、敵が戦争(少なくともハイテクな戦争)を執行する能力を排除することだった。だが、彼らが予想してなかったのは、だれも大規模な戦争を実行できる立場になかったことである。その責務を負う強力なリーダーが出てこなかったことから、またどの勢力も真の権力基盤を持たなかったことから、ペンタゴンでの状況は半永久的に続くギャング戦争と表現するのがせいぜいだった。結局のところ、比較的小規模なグループが、遺恨のためか、領土を小さく切り取るためか、あるいは強すぎたか弱すぎたために、互いに戦ったのである。都合によって同盟が結ばれ、同じくらい容易に破棄された。支配するのは混沌であった。

 皮肉にも、ケレンスキーがペンタゴンワールドの各地に各国グループを分散させず、大陸全土に植民することを許していたら、状況は大きく変わったと言えるかもしれない。そうなれば、大きな勢力がすぐに作られ、それぞれがもっとまともな攻勢・防衛能力を持てたことであろう。各陣営はある程度のレベルの技術と製造能力を守り、維持することができ、5つの世界の生活水準はもっと高いものとなっだろう――そしてペンタゴンの市民はもっと生き残ったはずだ。もちろんこれがもたらすのは、同時期の中心領域のコピーに近いものであり、おそらくニコラス・ケレンスキーの氏族はペンタゴンを解放するのに苦戦することとなったはずだ。失敗した可能性もある……氏族が二世紀後の中心領域侵攻に失敗したように。

 おそらくもっと悪いのは、混沌の中で、自然が強烈で壊滅的な反撃を実施したことである。星間連盟技術が崩壊すると、ペンタゴンワールドの環境を安定した状態に保つことはできなくなったのだ。汚染された大気、伝染病の感染、致死的な微生物、危険な固有種が一体となって生存者たちに襲いかかったのである。内戦の最初の数年間で100万人以上が死亡し、数百万人が病気、感染症、飢餓によって死んだ。さらに、最初の二週間で、人口が増加できないところにまで出生率が下がったのである。

 氏族がペンタゴンに戻ったとき、見たものは最悪であった――絶え間なく続く戦争、苦難、疫病、混沌だ。しかしながら、この二世紀間、ほとんど誰も考えてこなかったのは、ペンタゴンが折り返し地点になったということである――それが完了するまで一世紀以上かかったのではあるが。なにが起きたえたかについては、もちろん、議論の余地がある……氏族は報復のために戻り、崩壊して技術的に劣った敵を征服するのに邪魔であろうものはすべて排除したのである。






バビロン

 バビロンはおそらく氏族に最大の海軍的脅威を与えた。20年前にこの星系にはSLDFが創設した最大の海軍キャッシュがあったのみならず、ペンタゴン星系で最も多くの宇宙民が活動していたからだ。バビロンVI(地元民からはシンクレアと呼ばれていた)と7つの月は、比較的洗練された資源採掘の中心地であった。シンクレアには氷が豊富にあった。それは、宇宙民にとって、水を得るのと、酸素、水素への分解に必要なものである。彼らは地上でも採掘活動を行い、工業降下船を使って資源を抽出し、食料やその他必要な資源と交換した。

 氏族にとってはあいにくにも、この活動によってバビロン星系での降下船の往来は比較的多いものであり、ジャンプインしたら探知される可能性が非常に大きかった。一方、侵略からさかのぼること数ヶ月前、クラウドコブラの大胆なシャトルパイロットが、気づかれずに小規模な乗組兵の一団を海軍キャッシュ(第5惑星を回る小惑星帯の中に隠されていた)に送り込むのに成功して、宇宙民の活動を観測し、キャッシュ奪還の強襲を計画する特別な機会を氏族に与えたのだった。

 クラウドコブラ副氏族長のラフェ・カルダーンがバビロン星系での海軍作戦の責を負い、クラウドコブラ氏族、アイスヘリオン氏族、シーフォックス氏族による連合艦隊を指揮した(コヨーテ氏族は数個星隊の歩兵という形で支援しただけだった)。シーフォックスのスターコマンダー・ヒントア・ソロモンと、アイスヘリオンのスターコマンダー・ブローダ・モントーゼが、ふたつのジャンプポイントにある宇宙民の飛び地領を平定する艦隊をそれぞれ率いた。アルカディア星系での戦闘と同じく、突如として艦隊が現れたことと、数発の正確な射撃によって、船の大半は戦う気を失った。わずかな航宙艦が緊急ジャンプを実行し――氏族船が占領したペンタゴンのジャンプポイントにたどり着いた。例外は3隻だけだった。


シェリダンの戦い

 スターキャプテン・ブルカルター・シェリダンが、バビロンVIの採掘コロニーへの攻撃を率いた。氏族のイージス級〈インクイジター〉が放った警告射撃を受けて、宇宙民たちは緊急発進した。惑星上にいた船と軌道上の船の両方が襲いかかってくると、〈インクイジター〉はすぐに圧倒された。スターキャプテンは降下船艦隊を送り出して、できるだけ多くの船を追いかけさせ、そのあいだ、採掘コロニーの真上に陣取る〈インクイジター〉は他と争った(リチウム核融合装備の航宙艦群は、降下船を切り離した後すぐに、ラグランジュパイレーツポイントにジャンプで戻った)。不運なことに、〈インクイジター〉が放った警告射撃のうち2発が採掘コロニー近くに着弾し、地下施設を部分的に崩落させてしまった。これによって生存者たちは怒り狂ったのである。軌道に残っていた全降下船と、地上から宇宙に上がった1ダース以上の降下船が、手にしたすべてを持ってしてシェリダンの戦艦を狙った。

 当初、シェリダンは砲兵たちに立ち向かってくる降下船を航行不能にするよう指示を出していたが、圧倒されるとすぐに、すべての武器を使用して攻撃するように命じた。〈インクイジター〉の艦載級ヘビーオートキャノン群が砲門を開き、宇宙民の降下船を手早く片付けた。2隻が破壊されたあと、粉々になったデブリを見て、生存者たちの多くが勇気を失ったが、全員というわけではなかった。1隻が懐に入り込んで、破壊される前に、〈インクイジター〉の軌道スラスターに甚大な被害を与えた。2隻目の船、鉱石を満載した輸送船がほとんどすぐにやってきた。〈インクイジター〉はこの船を航行不能としたが、完全に破壊したわけではなかった……1万トン以上の降下船と鉱石が〈インクイジター〉の側面に突っ込み、船艦の背面をほとんど引き裂きかけたのである。大気、燃料、船員までもが宇宙に吸い出されるなかで、シェリダンの砲兵たちはそれでもなお戦い続け、残りを破壊するか屈服させるかした。だが、訓練と経験を欠いたダメージコントロール要員は船を保てず、海軍予備の応援を呼んだ後で、シェリダンからの退艦命令が出た。

 海軍予備がバビロンVIを占領し、〈インクイジター〉にダメージコントロールチームを送り込んだ。彼らの奮闘が船を救った(後に船を修理して現役に戻すまで数十年を要した)が、この攻撃で200名以上の船員が戦死したのだった。


キャッシュ解放

 サーブル・サン作戦で得られた情報、特にキャッシュ内で活動していた工作員からの情報によって、宇宙民がバビロン海軍キャッシュに守りを置いておらず、巡回パトロールもしてないことをカルダーン副氏族長は知っていた。それにも関わらず、キャッシュ内の船の多くが宇宙民の住居となり、生活の手段を提供していた。そして少なくとも数隻のセンサーが稼働中だったのである。さらに、キャッシュ内で活動する氏族チームがすでに砲塔(すぐに配置について射撃出来そうなもの)をいくつか無効化していた。100隻以上の艦船――戦艦、航宙艦、降下船――がキャッシュ内にあり、その多くが互いに鎖でつながれるか、柔軟性のある通路でセントラルステーションにつながれていた(または、降下船の場合はドッキングしていた)。住人たちは、船の間をすぐに移動可能で、そのうち1隻を起動することができた。

 自ら攻撃を率いたカルダーン氏族長は、キャッシュに対し二方面攻勢を仕掛けた――ひとつは、キャッシュ内ですでに活動していた工作員たちができるだけの混乱を引き起こし、センサーシステムを無効化する。もうひとつは、小艦隊がジャンプインし、できるだけ多くの兵士をキャッシュと船に送り込む。

 当初、作戦は計画通りに進んだ。クラウドコブラのチームがキャッシュ内で稼働している船の1/3以上を電力停止させるのに成功し、2隻からの強力なジャミングで残りを混乱させた。さらに、人口の多い船から残りを切り離すことさえも成し遂げ、最終的に一発も撃たず降伏させたのだった。切り離され、逃げようとした降下船数隻は、2つのパイレーツポイントから進んでくるカーダーンの小艦隊を見て立ちすくんだのだった。

 海兵(実際には基本的なゼロG訓練を積んだだけの地上警備部隊がほとんど)を送り込む作戦は、計画から外れ始めた。クラウドコブラ、アイスヘリオン、シーフォックス兵は、たいてい計画に沿って行動した。だが、コヨーテ氏族の送り込んだ兵士たちは、ダナ・クファール氏族長に叩き込まれた征服と栄光への情熱に突き動かされ、栄光を勝ち取るチャンスと見て、接触したすべての宇宙民への挑戦を始めたのである。まもなく、コヨーテに託された船は銃撃戦に陥った。氏族人よりもはるかにゼロG環境に習熟していた宇宙民たちは、8隻の船でコヨーテの前進を効果的に食い止め、砲塔を再稼働させ始めさえしたのである。

 カルダーンは、何が起きているか、なぜ起きたかに気づくと、それをすぐに終わらせようとした。マッケナ級〈セカンド・カミング〉からの正確な射撃が、再起動した砲塔をすぐに始末した。カルダーンはコヨーテに脱出を命じ、命令を無視して宇宙民と運命を共にしようとする者たちは放っておいた。彼は手ずから交戦中の船を黙らせた。住民たちを降伏に追い込んだのは、使えるだけの最大火力による脅しと、船のシステムに関する詳細な知識である。拒絶した船は1隻のみであり、艦載級PPCによる一斉射撃で大炎上した(いまだ船内で戦っていたコヨーテの海兵も巻き込まれた)。キャッシュ内の残った船は平和裏のうちに降伏したのだった。バビロンの戦いにおいて、コヨーテ氏族の戦士が引き起こしたトラブルはこれだけにとどまらなかった。


狐狩り Fox Hunt

 この星系内での主要目標4つが確保されると、氏族の海軍はバビロン星系の平定に資源を向けることができた。カルダーン副氏族長は、友軍に合流するため、目標世界にジャンプし、任されていた掃討任務については残った艦長たちに託した。

 技術者と衛兵たちが拿捕した各船を監視し、バビロンVIの鉱山施設内のステージングエリアに輸送し始める一方、氏族の戦艦と降下船の船長たちは、逃げ出した船、星系内を移動する船を一隻ずつ追い詰めていった。逃げていた航宙艦の1隻と2ダース近い降下船は氏族に捕まったが、少なくとも航宙艦2隻と降下船4隻がバビロン星系から脱出し、氏族の作戦後報告で触れられることはなかった。





エデン

 エデンは、攻略を任された氏族の船乗りたちにとって、本当に楽勝といえる場所だった。サーブル・サン作戦によって、エデンのSLDF海軍キャッシュは宇宙民に見つかってないと思われることが判明した……エデンIIで一番小さい月の一つ(実際には、軌道上に入ってしまった大きな小惑星に過ぎないもの)内部の巨大洞窟群に隠されていたからだ。サーブル・サンのチームは、直後、キャッシュに入り、ここを展開地点として使い始め、エデンIIの数多のパイレーツ・ポイント(特に不安定だったとしても)にジャンプで出入りした。氏族が密かにキャッシュを聴音哨として使った数年間で、航宙艦1隻と戦艦1隻が失われ、これらポイントへのミスジャンプでK-Fドライブ2基が失われた。当然、キャッシュに入っていたのは、失われた分より遙かに多かった……それでも、エデンIIのパイレーツポイントは、クロンダイク作戦の開始まで閉じられた(立ち入り禁止が命じられた)。

 キャッシュがすでに氏族の手にあったので、残されたのは宇宙民(この場合は天底点にある飛び地領ひとつ)を処理することだけだった。ほかと同じように、エデンの飛び地領は、氏族合同グループの艦船が警告射撃を浴びせるとすぐに陥落した。航宙艦5隻が脱出を試みた……3隻はペンタゴン内の他ポイントへのジャンプを成功させて後に拿捕され、1隻はジャンプに失敗して(あるいはK-Fドライブが作動せず)占拠された。5隻目は氏族の突入チームを積んだシャトルが近づいていたまさにそのときにジャンプした。この航宙艦は数年後に17光年離れたところで発見された。生存者はおらず、K-Fドライブは、氏族乗り込み兵と船員の間の戦闘で使用不能となったようだ。











バビロン

 いま優れた計画を実行することは、来週の完璧な計画に勝る。
 ――ジョージ・S・パットンJr.将軍

 バビロン、闇の中の輝ける宝石
 コブラの熱意
 コヨーテの手腕
 ヘリオンの勇気
 フォックスの激怒
 ――リメンバラス、23節、2節、8〜12行

 宇宙から見て、バビロンは紛れもなく美しい世界である。輝く黄と緑が、深い青と赤を相殺する一方、かすかに青みがかった白が世界を一周するのが対比となっているのだ。バビロンは一見してその名がふさわしいかのように見える。そして実際に――一度は危険な環境を克服することができたのだ。巨大な砂漠が5つの大陸を覆い尽くしている。氏族の科学者たちが信じているのは、数百年前に巨大な隕石が衝突し、気候だけでなく、惑星地表を大きく変えてしまったということだ。これは単なるひとつの学説なのだが、バビロンの軌道が、37年に一度、ブーン・シャドウ小惑星雲と交差することは学説に説得力を与えている。最後に小惑星と交差した9年前には、小惑星の雨が地表に降り注いだ……少なくともひとつが町に衝突し、燃やし尽くし、数十名を殺した。

 エグゾダス艦隊が最初に植民を始めたとき、その居留地は、自然と植物のある地域に――青々とした平原、肥沃な谷、三角州に誕生した。探検を行い、新たな故郷について知っていくに従い、入植者たちは砂漠や山間部に入って、バビロンの豊かな資源を採掘し始めた。だが、この世界には、人を死に至らしめることが証明されたバクテリアもまた存在し、これをコントロール下に置くためケレンスキー艦隊は最大の努力を払ったのである。

 エグゾダス内戦は、当然のことながら、バビロンに犠牲をもたらした。戦争が始まったとき、惑星に強力なリーダーは存在しなかった……残されたSLDF軍は分裂し、立ち上げられた数多の勢力に加わった。惑星に散らばったこれらの小勢力は、同じ志を持つ他のグループと組むチャンスがなく、隣国と戦うことになったのである。この戦争は数十万を殺したが、環境を破壊することはなかった。

 氏族の戻ったバビロンは、20年前に発った世界の崩壊した残りに過ぎないものであった。この惑星上に、何らかの支配を打ち立てた勢力は存在しない。実際、独立した町々は例外というより常識なのである。こういった町のうちの多くに、「シェリフ」……ライフルか旧型車両で武装した一人の老人以上の存在がいないのである。本物の軍事的能力を持っている都市はごくごくわずかであった。

 バビロンは単純に幽霊世界だった――少なくとも氏族の計画立案者にとっては。入植地の大半は、詳細な画像が再制作されるまで、軌道上からでは探知できなかった。侵攻4氏族に残されたのは、侵攻計画というより簡単なアウトラインであった。氏族長たちは、移動中に詳細を詰め、作戦の一番有利なコースに合意し、この世界を平定するため強調して取り組む必要があった――特に、4氏族の各自が特定の専門分野を持っており、真に強力な敵を克服するには協力せねばらならなかったので。

 そこに、彼らが地表で直面することになる、最大の問題があったのである。


黙示録の四騎士 The Four Horsemen

 バビロンには大規模な勢力は存在しない一方、大規模な都市が多数あり、それぞれがいくらかの軍事的な戦力を持っていた。4氏族の指導者たちは、最初にバビロンで最強の勢力を圧倒的な戦力で粉砕して、他の勢力をおびえさせることに同意した。そこから、彼らはそれぞれが準備して別の地区を平定していき、ひとつの氏族だけでは安全に処理できないときにだけ共同作戦を行う。

 それはもちろん、妥協(とエゴ)による戦略だったが、全体の指揮をとる氏族長が存在しないことから、そうせねばならなかったのである。しかしながら、最初のターゲットは全会一致で決定した……カムラン、軍事的に最も強いことが明白であり、惑星で最大の人口を持つ場所の一つであった。これにより、侵攻軍はバビロンで最大かつ最多の人口を持つ大陸に赴くこととなり、各氏族に栄光を勝ち取る最高のチャンスをもたらしたのだ。

 各氏族長は、当然のことながら、上陸前に仲間たちへのアドバイスを送った。クファール氏族長は名誉ある戦闘の美徳を賞賛した――この理想は後に氏族の伝統の中でゼルブリゲンとして地位を得ることになる。カラザ氏族長は、敵を圧倒し撃破する戦術で対抗し、素早く決定的な作戦を好むケージ氏族長に一部支持された。カティブ氏族長(戦士にして従軍牧師)は、この任務が取り残された不幸な魂を恐ろしい存在から救い出すものであり、だからこそ選ばれし者になれたことを思い起こさせた。

 戦士たちはそれぞれが自分たちの戦い方に響く言葉を受け入れた一方、他の3氏族のアドバイスを受け入れて胸に納めることはなかったのである。


電撃戦 Blitzkrieg

 ソラス大陸の南西部に位置するスネーフェル山脈の深い谷に囲まれたカムランは、豊かな農地と鉱物資源のおかげで、植民開始後すぐに成長することとなった。大陸内部、山岳地域社会、沿岸地方の交差点としても機能していた。内戦によって、この都市はおびただしい被害を受けたが、惑星の文化、経済、軍事のリーダーであり続けていることは明白だった。

 4氏族はすべて、谷の近くに上陸し、都市に進軍するため陣形を組んだ。それは疑いようもなく目を引く光景であった(氏族リメンバランスの「選ばれし者たちが4×10キロメートルの陣形でひとつのように出撃した」という記述が個人の日誌により確認されている)。都市まで20キロメートルかそこらのところで、クファール氏族のコヨーテは、すべての周波数で挑戦と警告を送信した。「我らは氏族、ケレンスキーの戦士たち。降伏して、ニコラス・ケレンスキー大氏族長の寛大さを受け入れよ。もし立ち向かう気なら、背きし者への凍るような鋼に触れることとなろう」。

 この発表と、あまりにも多くの戦闘降下船が近くに上陸したことと併せて、カムラン市民軍には移動するだけの十分な時間があった――援軍を呼ぶだけの時間も。都市内の数多くある持ち場についた歩兵たちは、容易に前進するメックの壁を足止めし、味方のメック、車両部隊が都市から攻撃する時間を与えた。さらに、都市内の砲撃部隊がほとんど絶え間なく、きわめて正確な弾幕を氏族に浴びせた――少なくとも、クラウドコブラの戦闘機が沈黙させるまでは。

 カムランの防衛部隊は、熟達しており決意に満ちていたが、独力では氏族の進撃を止めることができなかった。しかしながら、あらゆる方角から援軍が現れたのである。クラウドコブラのパイロットが最初に発見した……南東から敵軍がやってきて、コブラとアイスヘリオンの降下船に危機をもたらしたのである。2氏族は予想される逆襲を弱めるためにカムランから離脱し、足の速いヘリオン地上部隊が敵とぶつかるまでコブラの戦闘機が機銃掃射を繰り返し浴びせ、そのあいだコブラのメックが支援できる位置にまで急いだ。

 コヨーテとシーフォックスはカムラン内の戦闘に残り、防衛戦を突破し、カムラン市民軍を後退させ続けた。だが、西と北からもバビロン人の援軍がやってきて、氏族軍を包囲の危機にさらしたのである。スターコーネル・カレン・ナガサワと指揮下の戦闘機部隊だけが、対応できる位置にいた……シーフォックスの両戦闘機星隊は大部分において戦闘から離れており、巻き添え被害を最小限に抑えるため、時折、反乱軍の防衛陣地に精密な攻撃を仕掛けるだけだった。友軍の氏族が危険だと即座に察した彼女は、前進する援軍を破壊すべく爆弾と機銃を使っての無差別攻撃を命じた。ナガサワの視点からは、反乱軍戦線の弱点もまた見えたため、地上にいる全氏族人に対してこれら弱点を攻撃するようにも命じた。

 ナガサワの厚かましさはコヨーテ氏族長のクファールを怒らせた……シーフォックスが集中砲火という不名誉な戦術をとったからである。クファールは自らの氏族に戦闘をやめるよう命じた。コヨーテは停止し、都市を広く見下ろす丘に防衛境界線を作った。現在では、クファールのプロムナードとして知られている場所である。彼らは攻撃されたときだけ、応戦した。これによって、シーフォックスだけがカムラン攻略に残され(非氏族的な態度に対する「償い」とされた)、支援するのは燃料不足の自軍戦闘機のみとなった。そこに、支援することのできた若干のクラウドコブラも加わった(惑星上にいたのはコブラの戦闘機戦力の半数のみであり、同じく燃料が不足していた)。

 シーフォックスのカラザ、セネット両氏族長は、見る間にやせ細っていく三連星隊をそれぞれ率いて、カムランの防衛部隊を激しく押した。カラザの三連星隊がハンターキラーの役割を果たし、敵軍をセネットの「ハンマー」に(あるいは、できるときはコヨーテの方に)押しやった。カラザは突撃に次ぐ突撃を仕掛け、テンプル・ヒルに上がった。ここでカラザと2名のメック戦士は、11のメックと戦車を破壊し、城壁に囲まれた施設群を見下ろす丘に立った。ここでカラザのフラッシュマンは敵の砲撃を受けて消滅した(現在ではこの場所はディヴィッド・ポイントと呼ばれている)。スターキャプテン・ソラ・ロドリゲスが後を引き継いだ……彼女のメックが倒されるまで。その後、彼女は徒歩でシーフォックスのグループを組織して、指揮し、4時間で反乱軍の陣地をさらに11破壊した。

 カムラン攻防戦は合計9時間続き、シーフォックスはそのうち5時間をほぼ単独で戦った。この日、ナガサワは4回の出撃を率いて、67のメック・戦車を破壊するか損害を与え、都市の広い地域をがれきに変えた。だが、シーフォックスは勝利を手にしたのである……メックの半数、戦闘機2機を犠牲にし、合計7名の戦士が死亡した。この中にはディヴィッド・カラザ氏族長がいたのである。同じく、クラウドコブラとアイスヘリオンは、援軍に来た13個中隊を殲滅した。

 バビロン戦役を進める準備は整った。シーフォックス氏族は、他の3氏族を非難した……彼らはフォックスを放棄して、さらに血の代価も払ってないカムランの広大な地域を確保したのである。だが、シーフォックスが特に憎悪を向けたのは、コヨーテに対してだった。コヨーテは道徳的に正しかったと主張したが、同胞から直接的な援助を受けることはなくなった。その一方、クラウドコブラとアイスヘリオンは敬意をはぐくみ、それはバビロン作戦のあいだ続くことになる。


呵責なく No Remorse

 カムランでの損失に苦しみ、他氏族の裏切り(事実と思い込みの双方)に激怒したシーフォックスは、自力での行動を開始した。復讐を必要とした彼らは、次々と居留地を攻撃し、攻撃前に降伏するチャンスを与え、武装した敵をすべて無力化する(死ぬのが望ましい)まで止まることがなかった。だが、彼らの残虐行為は軍事作戦の枠を大きく超えていった……シーフォックスは武装しているか否かにかかわらず、名目上は民間人の民衆による抵抗を手荒につぶしていった。軍事、民間の指導者たちは、ケレンスキーの統治に逆らうと処刑されるのではないかと疑いさえした。平和的なデモ活動でさえ、軍隊に鎮圧されたのである。その一方で、シーフォックスは従う者には、食料と医療ケアを迅速に提供した。

 シーフォックスの評判は、彼らが進撃する遙か先にまで広がり、敵の多くは単純に武器を置くか、わずかな駐屯部隊を入植地の外に追い出した。道中、フォックスはスネーフェル山脈渓谷の南と西に広がり、わずか2週間で海岸平野に達し、それからソラス大陸を完全に離れて、西のヴァランス大陸へと飛んだ。ヴァランス大陸は砂漠に覆われており、諜報によると比較的少数の居住区があるだけだった――他の氏族の援助が必要なはずはなかった。

 戦闘の計画は、ソラス大陸でのものとほとんど変わりがなかった――フォックスは大陸で最強の勢力を特定し、狙ったのである。サムラル・カルタはほぼ1ダースの入植地を持っており、10年にわたってひとつの旗の下に集い、バビロンで三番目に大きい軍隊を保有していた。セネット氏族長はロジェンの町の文字通り真上に降下して占領し、空港を作戦拠点とした。次の5週間、スターコーネル・ナガサワと麾下の戦闘機部隊はすべての軍隊、建物を爆撃した……サムラル・カルタの兵舎や武器庫にはほとんど見えない建物や、明白に民間の施設さえも破壊したのだ。三週目、セネットは首都サムラの外辺部にメック戦士を集め、二度の断固たる攻撃を撃退した。最初の攻撃は、ふらついて、都市を出るところでちょうど止まった。二度目は、かつてストリートの犯罪者だったジェネック・タオが率いており、ナガサワの戦闘機部隊を30分間近寄らせなかった。彼らはセネットのメック隊から砲撃を受けながら進み、150メートルのところまで近づいたが、その後後退した。

 この前進はサムラ軍を深く傷つけたが、最後の週に行われた空爆がとどめを刺したのである。サムラは33日間の包囲の末に陥落した……残ったカルタは一週間もっただけだった。この臆面のなさと総力戦は、シーフォックスのバビロン戦役を代表するものとなった――致死的で、破壊的で、後には独立心の失われた人民を残すのである。


シーク・アンド・デストロイ Seek and Destroy

 シーフォックスが単独での焼き畑作戦に乗じているあいだ、残った3氏族は別のアプローチをとっていた。コヨーテ氏族は自分たちの姿勢が正しいと信じていたが、仲間の他氏族にそれを信じさせることができず、独力での戦闘計画が必要となった。コヨーテは北に進み、スネーフェル山脈とそこに隠された多数のコミュニティをゆっくり通っていった。

 だが、クラウドコブラとアイスヘリオンは協力関係を続け、ソラス大陸の残りにエネルギーを向け続けた。スネーフェル山脈周辺の残りを確保した彼らはホープ市に狙いを定めた。ソラス大陸の東海岸に位置するホープは、山脈とショシ・イ海に囲まれた特に肥沃な地域のハブであり、一時は海洋交易・宇宙交易の主要港であった。この2氏族に立ち向かうホープは、ほとんど驚異を与えられなかった。ホープの連合した市民軍は、エリートの氏族戦士に対して、たった11分しか持たなかったのである。

 ホープを活動拠点として使ったコブラとヘリオンは、海岸沿いと水路を氏族の支配下に入れるために散開した。遭遇したのは軽い抵抗のみであったが、この地域を統合するのに時間を要した。そのあいだ、コブラの戦闘機星隊群が、ヘリオンの戦闘機1個星隊に支援され、大陸を交差して地勢をマッピングし、できるときは反乱軍のパトロールを撃破した。コブラのカルダーン副氏族長は、バビロン海軍キャッシュ奪取時に指揮した2個星隊と共に惑星上におり、麾下のパイロットたちは素早く反乱軍の拠点を特定し評価した――この際、今は軌道上にいる〈セカンド・カミング〉からの支援を受けた。

 ニュー・ドラインシェーン(約300キロメートル離れたクァラ川沿いの都市)は、明白に大陸のこちら側における反乱軍活動の中心地だった――闇や天候に紛れて移動を隠そうとはしていたのだが。2氏族は真夜中に攻撃を仕掛け、反乱軍のメックと車両が隠れ家から這い出て氏族と衝突すると、カルダーンの戦闘機部隊が騒ぎに加わった――反乱軍のわずか4個中隊を手早く片付けた。この朝、ヘリオンの地上戦力が周辺の田園地帯で反乱軍を探す一方、カルダーンの戦闘機はパトロール、偵察ルートに戻った。クラウドコブラ地上戦力の残りは都市にとどまり、修理、再武装と、住民の統合を行った。ヘリオンの出発から2時間後、反乱軍は攻撃を仕掛けた。

 争っていた3人の反乱軍指導者――ヴェンス・メンベック元帥、アストリッド・ホン大佐、ニコラス・ワトソン将軍――は、氏族の侵攻を食い止めるため一時的に同盟を結び、いわゆる「ケレンスキーの戦士たち」に対して罠を仕掛けた。彼らは近くの都市に集い、ニュー・ドラインシェーンの下水道、地下貯水池に隠れて、都市そのものには比較的小規模な戦力だけを残したのだ。氏族地上戦力の半数以上が数時間の距離に離れ、戦闘機が他と交戦を行い始めると、彼らは下水道から出て激しく攻撃した。

 地上のコブラは完全に不意を打たれたが、迅速に守備体勢に入り、支援を呼んだ。5分以内にパトロール中の戦闘機1個星隊が反乱軍を叩いたが、戦闘機5機とバトルメック20機たらずでは、1個連隊以上のメックと戦車、無数の訓練された歩兵(群衆の中に紛れていた)による支援を相手にできることはほとんどなかった。コブラの戦闘機は低空を低速で飛行し、上空通過するたび機銃掃射を浴びせたが、代償は死を伴うものだった――反乱軍は最終的に戦闘機全5機を撃墜したのである。

 カルダーン副氏族長の救援戦闘機部隊が20分以内に到着した一方、ヘリオンがその20分後に都市へと入った。反乱軍はいまだ氏族に数と重量で勝っていたが、氏族に匹敵するような技量もチームワークも持っていなかった。壊滅的な機銃掃射が続くと、反乱軍の連携は崩壊し、ヘリオンと戦闘機が粉々にした。ホン大佐のメック部隊が最初に倒された……何が起きているか気づく前に、ヘリオンに包囲、撃破されたのだ。ワトソン将軍の兵士たちは都市を逃げようとしたが、行動の早いヘリオンに分断され、コブラの戦闘機と生き残ったメックに切り刻まれた。残されたメンベック元帥の部隊は次から次へと下水道に戻っていった……都市を抜けるのに成功したが、元の戦力の1/3以下になっていた。コブラはもう少しいい状態だった。マシンの半数が破壊されるか損傷を負い、戦士の1/4が戦死した。

 メンベック元帥は、ヘンドラー、ゴシェン、ブーゲンビル、ローニッヒを通過して撤退し、そのたび兵力を補充していき、氏族が来る前に明け渡していった。彼らは約400キロメートル後退し、ついにニュー・アテネで停止した。ハティブ、ケージ氏族長は、反乱軍の延々と続く陣地に氏族を率いた。丘の上にある3つの火砲基地(ひとつはメンベック元帥直々の指揮)は、前進する氏族に砲弾の雨を降らせた……氏族がそれぞれの火砲基地にメック1個星隊を降下させるまで。ヘリオンのスターキャプテン・アベル・クリエンがメンベック元帥の火砲基地への攻撃を担当し、損害の大きい防衛戦役の首謀者を終わらせた。これによって抵抗はほとんど終焉したのである。メンベック元帥の指導を失った反乱軍はばらばらになった。

 バビロンのヴァランス大陸は13週間以内に、ソラス大陸は17週間以内に、氏族の手に落ちた。残された陸地は3つだった。


容赦なく No Quarter

 コヨーテと、同盟するコブラとヘリオンは、ソラス方面戦役の大部分が終わると、他の大陸に足を向けた。この惑星上にもう大きな脅威がないのは明白であったが、氏族が戦うべき密集した飛び地領が一定数あったのである。

 さらに、戦闘での損害が氏族にのしかかり始めていた。とくにクラウドコブラとシーフォックスは、戦いで大きなダメージを受けていた。アイスヘリオンはそれより少しましであった。重量を持つコヨーテだけが、いまだ完全に作戦可能な状態にあり、損害を予備で埋めたのは数回のみであった。


海岸線まで下る Down by the Seaside

 ソラスの東部を支配下に置いたコブラ/ヘリオンの合同軍は、コーセン大陸に注意を向け、ショシ・イ海(ショシ・イ諸島含む)を渡った。ふたつの大陸の間の比較的狭い海に位置するこの火山諸島には、豊富な鉱脈と最高の漁場があった。数千人がここを故郷としており、両大陸の人間と大規模な取引をしていた。氏族にとっては、コーセン大陸に移動する前に情報を得る大きなチャンスだった。

 16の大きな島と、数百の小さい島に人が住んでいたが、本物の居留地があったのはいくつかだった。5つの島が初日に陥落し、5つが4日に1つずつ陥落していった。三週間後に氏族はコーセン大陸にジャンプした。進撃して二週間目にショシ・イ諸島は爆発した――文字通りに。ランドラー島とルーヘヴン島の火山は三年以上にわたって噴火と収束を繰り返しており、前兆にはだれも気づかなかった。三回の噴火と、連続した小規模の後で大規模な地震が発生し、ふたつの島から半径200キロメートルにあるショシ・イ諸島の植民地を破壊して、海岸線に津波が押し寄せた。

 ウィンダム・ハティブ氏族長はただちに捜索と救援の支援、災害援助作戦の実施を命令した。メックが数十の島でがれきを掘り返しながら進む一方、降下船が被害者を被災地域から搬送し、医療チームが負傷者の治療を行った。ホープ市(そのものが被災していた)が救援活動の中心地となり、その一方、重体の患者は治療のため〈セカンド・カミング〉に運ばれた。ハティブの行動は数万人を救い、クラウドコブラ氏族は被災した多数の忠誠心を勝ったのだった。

 アイスヘリオン氏族もまた救援活動に後方支援を提供したが、(カルダーンの戦闘機の支援を受けて)コーセン大陸での戦闘を続けた。両氏族は2821年の間、独自に戦闘を続けて、ショシ・イの沿岸部をケレンスキーの盾の下に置いた。

 コーセン大陸で氏族にそれなりの脅威を与えたのは2グループだけだった――グレーレン、オッペンライヒの2都市である。グレーレンはほとんど戦力を持たなかったが、守りやすい場所にあり、戦略的に重要な海峡を占めていた。この海峡は、大陸で最大の水路網と淡水の供給源を守っていたのである。2氏族と強力な戦闘機星隊群に立ち向かったグレーレンの防衛部隊は、わずか6日間の容赦ない空爆に苦しみ、降伏を通告した。

 オッペンライヒはより大きな挑戦となった。オッペンモンスの内側に位置するこの小国は、相当な軍事力を保有しており、険しい地形から恩恵を受けていた。険しい山肌と深い渓谷が、定期的にやってくる嵐(一度に数メートルの降雪がある)、ほとんどいつも曇っていること(山のほとんどが雲に覆われる)と組み合わされ、氏族の航空優勢は相殺されたのである。

 両氏族はケージ氏族長率いる従来型の戦役に打って出たが、カルダーン副氏族長は袖の中にまだトリックをいくつか隠していた。パイロットの半分をコクピットから出した彼は、ローテーションで前線航空管制官に起用して、精密な空爆の要請とスマート爆弾で攻撃する敵の目標の指定をさせた。地上に戦友の目と耳を得たコブラのパイロットたちは、地形に隠れて見えない目標を叩くことが可能となったのである。

 それでもなお、オッペンライヒ戦役は、戦闘によって発生する雪崩と天候によって行き詰まったのである。山に入った氏族のメックは(特に前衛となったヘリオンは)すべて雪に関連した損害を受けた。オッペンライヒ防衛部隊は、ケレンスキーの戦士たちを破壊するために、二度、大規模な雪崩を起こしたが、運命を先延ばしにしただけだった――雪崩で死んだのは、2名の氏族戦士のみであり、100名以上のバビロン人もまた死亡した。この中には、防衛戦の立案者である元SLDF軍曹ティアン・ハームスがいたのである。

 オッペンライヒは公式には2822年3月に陥落し、すぐにコーセン大陸の残りも続いた。


丘を越えて Over the Hills

 アビシニア大陸は、栄光を得る機会をほとんどもたらさず、得られる資源もさらに少なかったが、ソラス大陸での作戦を完了したコヨーテのダナ・クファール氏族長には、戦士たちに与えられる選択肢が他になかった。だが、アビシニア大陸には、目標にできる大規模な居留地がいくつかあり、その大半がこの世界の危険なバクテリアから住民の身を守るため山がちな大陸の凍結線の上にあった。

 クファールは氏族を三手に分け、最初の2つは氏族長と副氏族長が指揮し、三番目をスターキャプテン・グレック・トチェルノフコフの指揮下に入れた。各指揮官は山と丘を通って進み、数十の小さな居留地をコヨーテの外套の下に納めた。コヨーテが集合したのは、大陸南部最大の都市、ルイデン、ポノミアに対する共同作戦のとききみであった。前者と戦ったのはジェリコ副氏族長で、23人の戦士を率いて、ほぼ倍の数を抹殺した。後者の都市では、クファール氏族長が17名のコヨーテ戦士だけを投入して、入札と都市の両方を勝ち取ったが、戦闘自体は血塗られた長引くものとなった。

 スターキャプテン・トチェルノフコフは、氏族長たちが達成した偉業よりも大きな運命がもたらされるとは思ってもいなかった。


祭日 Celebration Day

 ポノミアと周辺での戦闘後にコヨーテが修理を行っていたあいだ(ぼろぼろの4個メック星隊だけが残された)、トチェルノフコフは次の大規模な目標である都市ヴェルサイユからのメッセージを受け取っていた。メッセージを受け取るのは、もちろんのこと珍しいことではなかった――事実、コヨーテはバビロンで交渉や慈悲を求める懇願を多数受けていたのである。普通でなかったのは、都市の代表が、トチェルノフコフとの面会を求めたことである。興味を引かれたが、最悪を予想したコヨーテのスターキャプテンは指揮下の二連星隊と共に都市を訪れ、交渉担当者が何を言うか聞こうとした。

 ヴェルサイユにたどり着いたトチェルノフコフは単純に仰天した――兄のリチャードがいたのだ。二人は20年前に袂を分かっていた。グレックがニコラス・ケレンスキーの第二エグゾダスに同行し、リチャードは後に残ったのである(コヨーテの資料によると、リチャードは単純に「降下船に乗り遅れた」ということになっていたが、彼は氏族の理想に同意しなかったとの報告が充分に残っている。なので一部の歴史家たちは、リチャードがケレンスキーの求めを無視したと考えている)。ペンタゴン内戦が活発化すると、科学者であるリチャード・トチェルノフコフと、部下の研究者たちの多く、それに学術集団がヴェルサイユに平和的な飛び地領を作り上げた。山の高地、奥深くに隠れた彼らは、バビロンを覆った破壊と混乱の多くを避けることができたのだ。最終的に彼らは、都市を襲撃者や征服者もどきから守るために小規模な幹部団を徴募した。

 兄弟は当日から翌日にかけて、話し合いを続けた。そして三日目が始まると、スターキャプテン・トチェルノフコフは氏族長に単純なメッセージを送った。「都市ヴェルサイユ確保のため、バトルメックおよびその他車両に乗らない戦士一名を入札す」。翌日、トチェルノフコフはクファール、ジェリコ氏族長を都市に招待した――そこはこの惑星における(ハイテクでなくとも)科学・医療最後の砦だった。


最後に In the End

 ヴァランス大陸(比較的小さいが人口が分散している)は、シーフォックス氏族に実際の死傷者、物的損耗よりも遙かに大きいフラストレーションと時間の損失という代償をもたらした。だが、傷を癒やし、戦術を洗練させる機会もまた与えられた。それがバビロン戦役最後の行程の準備となった……カランドラ大陸だ。

 一見したところ、赤道の大陸カランドラは不毛な荒野に過ぎない。半径数百キロメートルにおよぶ砂嵐が定期的に吹き荒れ、一年を通して厳しい太陽が地表を焼き焦がし、さらに春と秋には嵐がやってくる。山岳地帯ですらもこれらの要素から守られることはなかった――アビシニア大陸から乾燥した空気がやってきて、二つの大陸のあいだにあるマーラ・カランドラ海峡を越えるときに十分な水分を吸い上げる機会がなく、バウンダリー山脈に乾いた風のトンネルを作るのだ。北東からの冷気だけがこの大陸に雨をもたらす。その大半は、北部に雪の形でもたらされる。

 荒れ果てているのだが、カランドラ大陸はいくらかのユニークで価値のある資源を提供している。中でも一番価値があるのは、あちこちに散らばった多数の小さなオアシスである――より正確には、これらオアシスの植物相だ。このいわゆる「命の花」は、バビロン原産の致死的なバクテリアと戦う薬物の重要な成分であり、従って、価値ある必需品となっていた。この花は、一年間に一度か二度、数日か数週間しか咲かないのである。


戦化粧 War Paint

 カランドラ大陸の「マウンテン・ピープル」(大半がケレンスキーと共にやってきた元自由世界同名人からなる)は、元々はこの山に街を作り、野営地を作り、採掘を行い、この地域の乾燥した大気の中でも育つ若干の丈夫な作物を育てた。彼らはまた、SLDFが山脈にブライアンキャッシュを作るのも支援し、ケレンスキーの息子たちが退却すると、キャッシュと中身の責任を負うことになった。

 セネット氏族長のシーフォックスが招集を行うまでに、マウンテン・ピープルは任された物資の大半を失うか取引するかしていた。そして分散していた多数の小規模な居留地は、氏族の侵攻に対して相互支援する立場にはなかった。ナガサワの戦闘機部隊が渓谷の中で使いづらかったことから、フォックスは戦術をいくらか調整せねばならなかったが、それにもかかわらず包囲戦術を使い続けた。

 最初の数週間のうちはそれも上手くいったが、すぐに予期せぬ敵と出会うことになったのである。


虚勢 Bravado

 山の兄弟たちを支援するために砂漠からやってきた遊牧民たちは、まもなくセネットの氏族戦士たちにとって重大な脅威に他ならないと証明された。

 内戦と第二エグゾダスの前に、新バビロン人はカランドラの砂漠に都市をいくつか建設していたが、整備と星間連盟技術の支援を失い、都市は砂の中に埋もれていった。これによって数千の人々が、日々の生存に必要なものを持って、砂の中に消えていった。彼らは維持できないものだけを守られたキャッシュに隠していった。彼らは必要な食料の大半を狩猟か牧畜で入手し、他に必要なものを得るためにオアシスからオアシスへと移動した。オアシスの産出物のおかげで、彼らは惑星で一番健康かつ頑健な人々でもあった。

 そして、バトルメックを保有している上に、熱烈に使いたがっていた。

 カランドラ方面作戦の四週目に、すべての遊牧民部族が氏族侵攻軍の話について聞いていた。2名の族長が遊牧民を率いて、セネットのフォックスに対するゲリラ戦を実行した。ヤディアー・ノソフとルチアナ・ビードである。

 遊牧民は一撃離脱戦術を使って大きな成功を収めた……一度に1人か2人の氏族戦士を選び、マシンを破壊ないし行動不能にさせてから、砂漠に消えていくのである。これら初期の襲撃があったのは、バレントの街への移動を準備している際であり、最終的に氏族を2つの違った方向に向かわせた。シーフォックスの包囲は最終的に成功したが、予想していたよりも遙かに多くの代価を伴ったのである……さらに悪いことに、バレントの兵士1個中隊近くが逃げるのに成功し、山と砂漠に消えていった。

 最悪だったのは、機械的な故障が通常より5倍発生し、通常の整備に三倍の力が必要になったことである――これらはすべて砂と破片の汚染によるものである。

 セネットと戦士たちはこの戦役を続け、普段よりもさらに注意を払いつつ進んだが、遊牧民による被害は出続けた。まるで好きなときに現れ、消えることができるかのようだった。鍛え方が足りず、状況の悪い者たちならば、こういった攻撃を受けて崩壊してしまったことだろう……氏族の戦士たちは単純に欲求不満を募らせに募らせただけだった。

 遊牧民問題の解決法は、数ヶ月後に、誰も思ってもみない方向からやってきた。山岳戦であったことから、ナガサワの戦闘機部隊は遊牧民に対して非効率だったが、シーフォックスの科学者たちに自力では収集できない情報を与えた。気象予報士と動物学者の偶然の出会いが、問題の解決法をもたらした。この二人の科学者が、動物の群れの移動を砂漠で追いかけて、遊牧民部族の移動との相関関係に気づいたのだ。

 この発見を聞きつけたスターコーネル・ナガサワは、遊牧民問題を終わらせることになる任務に着手した。彼女は戦闘機を使って、部族の移動を追跡し続け(いまや何を探すかがわかっていた)、専門の2個ハンターキラー星隊が担当区域で遊牧民を叩いた。

 ノソフ族長は戦闘機を引き上げさせて自部族の護衛を支援し、ビード族長の戦力も崩壊したことで、解放されたシーフォックス氏族の大多数がマウンテン・ピープルの居留地を行き来し、時折、遊牧民に対して電撃的な攻撃を仕掛けたのである。





魔女狩り Witch Hunt

 2821年から2822年の冬、シーフォックス氏族の戦士たちは、カランドラの砂漠と山での経験から、信じられない噂やとんでもない話を互いに語るようになった。そして、兵士の常として、彼らは他氏族の戦士たちと同行したときに、喜んで何度も何度も話を誇張しつつ繰り返し、伝説を生み出したのである。これは時間をかけて戦士階級全体に広まっていった。

 カランドラの魔女の伝説は、バビロンの砂漠の遊牧民がシーフォックスに対して報復攻撃を始めたその時期から来ているのは間違いない。物語が進むと、遠距離から人影を見たカレン・ナガサワ氏族長は山中の都市を攻撃するために準備を行った。この踊る遊牧民の魔女(砂漠の儀式用装束をまとい、動物と人間の骨で作られた神秘的な装身具で着飾っていた)は、骸骨の杖を振り、フォックスに呪いのたぐいをかけているのは明白であった。

 突如として、この人影は巻き上がった砂の中に消え、代わりに人の頭蓋骨と骨で装飾されたぼろぼろのサンダーボルトが現れ、オストソルとハンチバックを率いて攻撃を仕掛けた。この部隊は2機の氏族メックを行動不能とし、シーフォックスの支援がやってくる前に、1機を砂漠に引きずっていった……メック全4機が砂塵の悪魔の中に消えた。消える前に、一瞬、魔女の姿が見えたのである。

 カランドラの魔女は、2822年が始まってから数ヶ月で幾度も姿を現し、1ダースから23名の氏族戦士、バトルメックと遭遇しているが、対峙した氏族戦士の大半は砂漠から野営地にさまよい戻ったようだ――しかしながら、杭に縛られた少数の死体が野営地の外で発見された。首を切り落とされて。

 多くの伝説と同じように、面白い話かもしれないが、論理や事実には欠けるところが大きい。もちろんのこと、ナガサワはこのときまだ氏族長ではなかった。そして、魔女はシーフォックス氏族星団隊の25〜50%を一人で倒したことになってしまう。砂でカモフラージュしたサンダーボルトは、遊牧民の襲撃で複数回目撃されており、操縦するメック戦士は恐ろしく腕が立った。そして、遊牧民の歩兵は拳を振って挑戦(あるいは不満)を表すことがよくあったのだが、人間や動物の骨をつけることはなかったのだ。皮をまとっていたくらいである。

 それにもかかわらず、伝説は現代まで伝わっている。魔女は黄金世紀の間、現れたり消えたりしたが、氏族間の戦闘があまりに増えすぎると、魔女は復讐のため帰ってきた。不滅に見えるサンダーボルトをいまだ使っている魔女は、過去10年間で、19機のメックと3個ポイントのエレメンタルを破壊した。



カウントダウン Countdown

 シーフォックスがカランドラの遊牧民を守勢に追いやると、セネットと戦士たちがこの大陸の領土をまとめるのは時間の問題となった。2822年3月が始まるまでに、山岳の居留地は陥落するか、少なくとも驚異ではなくなっており、シーフォックスは遊牧民に全力投入することができた。3週間以内に、シーフォックスは遊牧民のキャッシュのうちのひとつ――ゲリラ戦における遊牧民の秘密兵器――を確保し、これが遊牧民の終わりの合図となったのである。

 各部族は、もちろんのこと、砂漠に点在する数十のキャッシュを持っており、食料、水、衣服、そのほかの生存に必要な物資を、必要なときに備えて備蓄していた。だが、バトルメックを扱えるほど大きく、大々的に修理を実行し、砂漠で運用するのに必要な整備を行えるようなキャッシュは少数だったのである。最初に捕獲したアージェイ・キャッシュの中で、シーフォックスは遊牧民のメックだけでなく、他のキャッシュ7つの地図を発見した。

 シーフォックスは遊牧民を追い詰めるのにもう4週間を費やした――このうちの9日間は砂嵐が通り過ぎるのを待った。ルチアナ・ベーダの反乱軍が、ヌーゴ・キャッシュで勇敢な最後の抵抗を行ったが、地形にも天候にも頼ることができず、一団となったシーフォックスのメックと戦闘機の前に陥落したのだった。

 この時点から、問題は残ったわずかな反乱軍を片付けるだけになった。


戦後 Aftermath

 バビロンは、いかなる展望があったにせよ、タフな戦いになった。すべての氏族が冷酷で苦々しい戦闘を味わい、あるときには完全に予期していなかった戦役を戦わねばならなかった。この世界の市民たちは、氏族侵攻軍の手で大きな被害を受けた。おそらく彼らは、ペンタゴン内戦の生存者の中で最も大きい自由を味わっただろう。

 それは驚くようなことではないかもしれない。バビロンの民衆は、氏族の一部になるのに最も努力が必要とされ、ケレンスキーの社会に組み入れられるまで長い時間がかかったのだ。ケレンスキーが20の氏族に対し、ふさわしい市民を仲間(特に戦士階級)に入れる許可を出すと、このプロセスはより簡単なものとなった。それにも関わらず、バビロンの独立的な傾向は、そう簡単に死んでいくことがなかった。それは、当然ながら、この世界を任された4氏族がバビロン人全員を発見したと自信を持った後での話である。

 その一方で、4氏族はそれぞれバビロンの莫大な富から大きな利益を得ることになるが、それはクロンダイク作戦が集結した後でのことだった。この惑星が工業の中心地となり、飛躍的に成長し始めるのは、遠くない話である。











エデン

 怒りは嘘をつけない。
 ――マルクス・アウレリウス

 血塗られた復讐がエデンに降りかかる
 暗闇の中心地
 待ち受ける災厄
 ケレンスキーの子らにとって
 容赦なく無慈悲であった
 ――リメンバラス、26節、2節、4〜8行

 生まれたばかりの氏族にとって、エデンはソドムとゴモラだった。エグゾダス内戦が始まったのがここなのだ。この場所でドシェヴィラーが殺され、偉祖父が死亡した。他のペンタゴンワールドで、氏族は民衆を解放し、圧制者を殲滅し、新しい社会を作り上げるために戦った。

 エデンでは復讐を求めた。

 戦役の見通しはよくないものであった。エデンには、混乱と惑星防衛の中から生まれた、最も組織され、技術的に洗練された二つの原始国家があった。少なくとも、ペンタゴンの他世界よりも組織されていた。

 それにも関わらず、あるいはだからこそ、エデン強襲に参加したいという要求は多かった。初期の草案では、5氏族ずつが他の4つの世界を強襲して、最も優秀だった氏族にエデン攻撃の栄誉が与えられることになっていた。このコンセプトは、エデンの勢力が前もって強襲を警戒するリスクがあったことから、最終的に放棄された――ペンタゴンに設置されたHPGの状況、星間連盟時代の移動式HPG受信機の配置について、情報はほとんどなかったのである。世論を満足させるため、何らかの形でエデンへの参加を争わせる必要があった。大氏族長は軍事的な神判を布告し、各氏族の1個星隊がこの名誉を争った。

 ウルフがスターアダーに勝ったのはほとんど当然であり、スモークジャガーがコヨーテに勝ったのもそうだったが、ファルコンのバーロックに対する勝利は僅差であった(バーロック氏族長たちを悔しがらせた)。だが、一番の驚きは、ヘルズホースがゴーストベアに意外な勝利を収めたことであり、もう少しでフレッチャー氏族長とヨルゲンソン氏族長の殴り合いを引き起こしかけた。この結果はニコラスの計画から外れるものであった――すでにゴーストベアで会議を進めていた――のだが、妻のジェニファーは、怒るベアをなだめただけでなく、作戦計画の改訂を助けたのである。

 エデン周回の宇宙を氏族海軍が支配したことから、惑星への移動、上陸作戦はつつがなく進行したのだが、氏族にとって戦術的奇襲を保ち続けるのは重要なことであった。エデンはケレンスキーによる亡命星間連盟の心臓部であったが、内戦初期の厳しい戦いによってSDS施設はほぼ破壊され、ノーヴィ・モスクヴァ(レヴィック・アセンダンシー領地)周辺のSDS砲台だけが稼働しており、氏族船にとって脅威となった。ニコラスの強襲計画では、父の首都を開放するのは、地上戦で他の国を制圧した後のクライマックスとされていたが、スモークジャガーのオシス氏族長は都市に対する一気呵成な直接的強襲を提唱した。ニコラスはそのような電撃強襲の可能性を見ていたが、リスクが利益を遙かに上回ったのである。よって、より慎重なアプローチの命令が下され、各氏族はレヴィック・アセンダンシーに集まる前に各目標に対処することになった。


ペトログラード・ベイ: ファルコンの急襲 Petrograd Bay: the Falcon Stoops

 ペトログラード・ベイ周辺のうねるような地形は、内戦開始前にはヤクート大陸の穀倉地帯であり、内戦で常に争奪戦となっていた。クロンダイク作戦までに、支配権はふたつのグループ、ライラ系の「マクドナルド共同体」と「人民代表大会」で分割されていた。どちらも重大な軍事的な脅威とならなかったが、「サルバット汗国」(ヤクート大陸の主要勢力であり、エデンで二番目の勢力)を攻撃する前に無力化せねばならなかった。サルバット汗領は、一時期ペトログラード・ベイ地域を直接支配していたのだが、農業経済の細部に興味を持たず(人口を維持する食料にのみ興味があった)、よって農場を維持するため傀儡政権を樹立し、農産物の流通を監督していた。

 マクドナルド共同体の社会は、家族の延長であり、各家族が広大な牧草地を担当する。防衛は汗国頼みであり、よって軍事力自体を持っておらず、害獣駆除用のショットガン、ライフル以上の兵器はほとんどなかった。ファルコンは最小限の労力で領土を得る責務を与えられており、無条件降伏を勝ち取るのに必要だったのは火力のデモンストレーション一回だけだった。人民代表大会は少しだけましであった……小規模で装備の悪い市民軍を持っていたが、効率的な統率は見られなかった。ファルコンは反撃しようとした唯一の市民軍を殲滅し、一日足らずで圧勝した。この戦役には合計三日かかったのだった。

 ファルコンの戦士の一部は、農民たちを駆り集め、食料をまとめることに不満を示したが、ヘイゼン氏族長は食料供給を支配するのがヤクートでの戦争に重要であること、サルバット汗国が権威への挑戦を許さないことを知っていた。実際に彼女はそれを見込んでいた……サルバットの要塞への強襲は血塗られたものになりそうであり、機動部隊を足止めするのは面倒だろう。そうするかわりに、ペトログラード・ベイをとることで、戦う時間と場所を相手に押しつけたのである。それが合図だったかのように、汗国の分遣隊がこの地域の外部に到着し、住人からの警告を受けたファルコンは離脱することが可能となり、侵略者を撃退するために移動した。

 捕獲された記録によると、汗国は当初、氏族軍のことを当時敵対していたレヴィック・アセンダンシーの使節だと考えたようだ。だが、ヘイゼン氏族長は2個星隊のメックを率いて中隊規模の汗国軍と戦うことで誤解をただした。エデンの標準よりも装備がよく、統制のとれた戦闘部隊であるサルバット兵たちには、チャンスがほとんどなかった……彼らはたたき伏せられ、8機のメックを失い(氏族は3機)、残ったメック小隊は国境へと逃げていった。ヘイゼンは逃げるに任せた。汗国が氏族軍を恐れることを望んだのである。相手が恐れ、怒ったとしても、彼女には鋼の規律の戦士たちという大きな利点があったのだ。

 次の一週間でさらなる偵察隊がやってきたが、そのたびファルコンは撃退し、常に数で劣る戦力を展開しながら敵に深刻な損害を与えたのである。皮肉にも、汗国の行った最初の大規模な交戦はこれでなく、ヘルズホースとのものだった。大氏族長はファルコン軍の増援にホースの2個星隊を送ったが、これはファルコンとホースにとって座りの悪いものであった。ファルコンにとっては、兵力が足りないか戦術的な欠陥で作戦を遂行できないという侮辱になった。ホースにとっては、独力では任務を遂行できず、せいぜいが他部隊の予備になるということであった。

 7月19日、汗国は氏族の陣地に調査攻撃を仕掛け、ファルコンとホースが迎撃に動いた。これはレースと化し、互いに邪魔をしようとした。しばらくは軽量なホースが先んじたように見えたが、交戦する前に、ファルコンの正確な射撃が汗国の編隊に突き刺さった。汗国軍は大規模な氏族軍に攻撃されていると思い込んで、急旋回した。だが、ホースはファルコンの戦士たちに攻撃されたと考えてしまい、直ちに友軍に向いたのである。両氏族のメックは格闘で殴り合い、散発的に砲火を交わして名誉心を満たそうとした――血に飢えていたが、ニコラスから処罰を受けることには気づいていたのだ。2キロメートル離れたところでは、汗国軍は足を緩めて、敵が互いののど元を狙い合ってることに気づき、攻勢に戻って、ファルコンの側面に突っ込んだ。突然の強襲は規律のない部隊を崩壊させるものだったかもしれないが、氏族はこの一撃を吸収し、連携を保つために戦線を動かした。地元軍の指揮官たちからぶっきらぼうな言葉を受けた後、ホース軍は離脱し、安全なところまで下がった……ファルコンを攻撃することによって、汗国軍はどちらが内輪もめに勝ったのかを決定したのだ。他の衝突と同じように、結末は疑わしいものとはならなかったが、ファルコンの損害はそれまでの交戦よりも著しく高いもので、ヘイゼン氏族長は不確かさのない言葉で気持ちを明らかにした。もう「アマチュア」部隊とは一緒に行動しないということだ。

 皮肉にも、ホースとの衝突はファルコンの利益となった……打撃を受けたにもかかわらず、汗国軍の指導部は氏族が規律に問題を抱えていると信じてしまった。記録によると、氏族が別々だったことに気づくのが遅すぎたのである――そして、かさにかかって強襲するのが、敵を破るチャンスだということに。

 およそ連隊規模のサルバット汗国諸兵科連合部隊が7月24日に攻撃を行い、ファルコンの野営地に直接突っ込んだ。彼らの記録では、氏族の戦力はかろうじて2個中隊と見積もられており、すぐに侵略者を海に追い落とせると血気盛んであった。海岸に対して垂直に陣取ったファルコンの戦線は、数で劣っていたにもかかわらず、激しい弾幕を浴びせ、相手を尻込みさせた。汗国指揮官は部隊の尻を叩いて、メック大隊を戦線の中央に置いて、装甲大隊群を左右側面に配置した。氏族兵はゆっくりとだが着実に後退していった。勝利を感じた汗国戦線の規律は不安定になり始めた……そしてそのとき、ファルコンの予備がベイの深海から現れ、すでに分裂していた汗国軍の側面に突撃した。勝利は敗走へと変わり、ファルコンはシステマチックに敵を撃って、だれも逃さなかった。

 8月5日、ファルコンは汗国の首都、ルバートを占領し、事実上、戦役を終わらせた。この戦役で、戦士の1/4が死傷し、メックと車両の1/3以上が損傷を負うか破壊された。それにも関わらず、ファルコンは有効な戦闘部隊であり続け、8月後半の静かな時間を使って休息と修復を行い、大戦役が始まるまでに、85パーセントの戦力に戻った。ニコラスは最もよい戦果を残した氏族にニコラスのブラッドラインを加えるという約束をしていた……ファルコンには自分たちに加わると考える理由があったのである。


ペニンシュラ方面戦役: ホースの駈歩 The Peninsula Campaign: the Horse Canters

 ヘルズホース氏族に戦闘能力があるのかどうかを警戒していたニコラスは、エデン作戦の最初の数週間、ホースを予備戦力とし、分割して配備して、他氏族の戦力増強か、後方の保安にあてた。ジェイドファルコンとの衝突の例が示すように、ホースは友軍から低く見られることがしばしばであった。フレッチャー氏族長はこれを些細なこととはしなかったが、7月半ばまでに、彼とホースは他氏族の成功のニュースがニコラスの本部に届くのを見ていた。ホースが置いて行かれることを恐れた彼は、大氏族長に戦闘任務を誓願し、挑戦的な任務を与えられて驚いた……パーガトリー・ペニンシュラ(半島)の都市国家を掃討するのである。ニコラスはホースにこの作戦の半分を与えた。相手よりも戦力は小さかったが、他の3氏族と同様、それは挑戦というほどではなかった。不幸にも、情報の不足により、作戦は冒頭から崩壊しかかったが、フレッシャー氏族長の機転によって克服したのである。

 集められた都市国家群に関する情報によると、ライラ、地球帝国、自由世界出身者たちが大規模な内輪の争いをしており、ホースは個別に相手をして、軍を殲滅することになった。だが、ペニンシュラの都市国家群には別の視点に立った。互いに軽蔑していたというのに、共通の敵である氏族に対しては協力することを決めたのだ。その結果は、連続した罠と連携のとれた待ち伏せであり、ミノタウロ・シャッターズ(バンランの森の一部。かつてイージス級〈ミノタウロ〉が軌道爆撃を浴びせた箇所。これによって、2801年最後の日に、ニコラス兵が脱出できたのだった)を通ろうとしていたホース軍の前衛部隊に打撃を与えたのである。ホースは幸運にも大規模な損失を免れた。

 引き返したフレッチャーは、敵の集中している箇所を探り出すため、数回の調査攻撃を命じ、敵ドクトリンの突然の変更を理解しようとした。意外性という要素のなくなった戦闘は、数で劣っていたにもかかわらず、氏族の方向へと進んでいった。フレッチャー氏族長の気づいた鍵となる部分は、敵が攻撃するメックに集中して、ホースと歩兵と車両を自由にすることであった。結果として、氏族のメックは囮となり、敵をキリングゾーンにおびき寄せるために使われた。ここでホースの歩兵と戦車が敵メックを行動不能にするか――時折は破壊したのである。このハイテクゲリラ戦争で氏族の損害は最小限のものとなり、敵がテーブルを返したレアケースにおいても、氏族は単純に離脱し後退したのだった。

 二週間後、敵メックと装甲車両の大半が氏族に破壊されるか鹵獲されるかして、注意を都市群に向けることになった。小規模な居留地が各所にあったが、氏族にとって重要なのは三カ所(アラー、ダンテ、ベスタ)だけであり、それぞれ遠い位置にあった。この方面作戦の最中、ホースは広域スペクトルジャマーを使い、敵軍の通信を妨害し、連携を乱そうとしたが、都市に近づくと妨害を中止した。

 アラーが最初に攻撃を受けた都市となった。コブ副氏族長指揮下の断固たる歩兵と装甲車両が都市の城壁を破壊し、歩兵たちがメインゲートを占拠すると、メックが突撃して仕事を終わらせた。防衛側にチャンスはほとんどなく、血塗られた3時間の戦いのあと、アラーは降伏した。援軍の要請と、陣地が次々と蹂躙されていく混乱が、他の都市に通信された。

 ダンテはアラーよりも抵抗できず、やる気のない城壁防衛のあと、氏族兵が侵入してくると降伏した。ベスタは別の問題であったが、行政地区での粘り強い防衛の後で陥落した。この最後の衝突において、熾烈な部屋から部屋への戦闘が発生し、氏族は抵抗を抑えていったが、ベスタに入ってから十数時間で、都市は氏族の手に落ちたのだった。

 氏族による血塗られた罰を恐れたパーガトリー・ペニンシュラの都市群は、フレッチャー氏族長の宣言に驚かされることになる。民衆の中で軍事的な神判を行い、最高の戦士たちを歩兵、車両予備に入れるというものだ。これによって、ホースはエデン戦に参加していた他氏族よりも遙かに早く完全な戦力に戻すことが可能となった。これとペニンシュラ方面作戦の成功によって、ホースはレヴィック・アセンダンシーに対する大戦役で有利なポジションに着くことができたのだった。


暴力の遺産: ジャガーの飛びつき A Legacy of Violence: the Jaguar Pounces

 恒星連邦出身の両親にエデンで育てられたフランクリン・オシスは、社会の分断を直に体験し、植民地を引き裂いていた恒星連邦とカペラの民族不和の中で、恒星連邦系ギャングに加わり、それからサーシアンの懲罰キャンプに収監された。彼は愚かな暴力を憎んでいたが、暴力の文化の中に身を浸すこととなり、最も残虐な氏族創設者の一人となったことに疑問の余地はなかった。ニコラスのストラナメクティへのエグゾダスに加わった彼は、すぐに戦士として、リーダーとしての価値を証明して見せた。一見して他氏族のような規律を欠いているように見えるが、最初のジャガーたちは恐るべき戦士たちであり、それぞれが最高の戦士で、氏族長の人となりによって部隊として固まっていたのである。

 アンドリューが基準に達していると保証したにもかかわらず、大氏族長はジャガーの力をいくぶん警戒しており、挑戦的だがリスクの少ない役割をジャガーに与えた……西ヤクート、小規模なアムール大陸、イルクーツク大陸の軍国主義的な都市国家いくつかを平定するのである。

 ジャガー氏族軍の先陣は、7月2日、アムール大陸に上陸し、ほとんどすぐ地元市民軍に囲まれた。橋頭堡への攻撃の激しさにより、氏族は抱いていた慢心を捨て去り、任務遂行に全力投球したのである。それからの数週間で、ジャガーという規律のない烏合の衆は、熟達し規律ある戦闘マシンへと姿を変えた。彼らは訓練の通りに行動した。生まれた通りに行動した、などと言う者もあった。アムール大陸の都市と村落は、ジャガーの猛攻の前に容赦なく陥落し、イルクーツク大陸の都市国家を移動することが可能となった。オシス氏族長はイルクーツク大陸でも似たような戦役になることを予想したが、問題はすぐにスパイラルに陥り制御不能となった。

 アムール方面作戦のあいだ、ジャガーはヘルズホースの補助を使って、占拠した領土の確保と、捕虜の警備を行った。イルクーツク大陸では、ホースがパーガトリー・ペニンシュラでの戦役に参加していたことから、それは無理であった。後方地域の安全を確保する必要があったことから、ジャガーの進軍ペースは落ち、氏族内の多くがフラストレーションを抱えることになった。カリングラード市内で、問題はオシス氏族長にとって大きな問題となった。労働者のグループが氏族衛兵の命令を拒否し、手ひどく殴られ、虐待されたのである。この事件のニュースは広まりはじめ(一部のジャガーによる拷問と強姦の話を含む)、都市の民衆は立ち上がって暴動を起こしたのである。ジャガーの戦士数名が暴徒に殺され、オシスは兵を町の外周部にまで引っ込めた。暴動鎮圧の経験がなく、暴れる市民とイルクーツク市民軍の区別がつかなかったことから、オシスは一つのやり方しかないと考えた。彼はこの都市にいる人間全員を敵の戦闘員と見なし、気圏戦闘機部隊と間接法部隊に都市を倒壊させるよう命令した。数百名が死亡したが、カリングラードのビルが全部倒壊するまで爆撃するよう命じた。生存者たちは惨めな状況に置かれ、処理が容易となり、ジャガーは次の目標に進むことが可能となった。大氏族長がジャガーのとった戦術に対して何も言わなかったとき、オシス、イスミリル氏族長は古いことわざの「毒を食らわば皿まで」に従うことを決め、今後の作戦にもこの戦術を採用した。

 敵の居留地にたどり着くと、ジャガーは自らを「カリングラードの破壊者」と宣言し、抵抗した町や村には同じことをすると約束した。驚くべきことに、多くが最初はジャガーに抵抗したが、氏族が喜んで総力戦戦術をとることが明らかになると、その数は大きく低下した。ジャガーはこの戦術をほどほどに使い、居留地が破壊される前に逃げる時間を与えたが、武器や軍事装備を持つ者には誰でも力で応じ続けたのだった。

 8月半ばまでに、ジャガーの目的は完遂された――実際スケジュールより1週間前倒しであった――そしてその代償は大きかった。ジャガー自体は損害が少なく、物質的な損害はそこそこであったが、2大陸の民間インフラストラクチャに広大なダメージが与えられたのである。大勢が悲惨な状況のまま残され、占領地では疫病が広まったが、ジャガーはほとんど同情を見せることはなかった。「最初の実例の後で降伏すべきだった」とは、オシスがこの問題の後で唯一残したコメントである。ニコラスは公には何も言わなかったが、日記によるとジャガーが与えた損害と生み出した憎悪に激怒したようだ。彼はその後の戦役でジャガーに与えるべき役割と自由に関して慎重になった。エデン戦役はジャガーを規律ある戦闘部隊としたが、ジャガーの見せた気まぐれな残忍性はニコラスの望んでいたものではなかった。しかし、実利主義者として、武器庫にある道具を捨てることは望まなかったのである。


アバドン高地: ウルフの徘徊 Abaddon Heights: the Wolf prowls

 疫病蔓延地域(脳炎を引き起こすウィルス性の病原体カース・オブ・エデンが風土病)と呼ばれる初期植民地に位置するアバドン高地は、黙示録の破壊の天使にちなんで命名された。ウィンソン氏族長と兵士たちにとってはありがたいことに、氏族の科学者たちは抗原性薬剤を開発しており、薬の備蓄は戦役の中で有用な切り札になりそうだった。高度の高い地勢と疾病の組み合わせによって、ウルフは最も人口の少ない地帯で戦うことになるが、鉱物資源(エデンで唯一のウラニウムがある)とそれを守る兵士がいることは、ウルフが無視できないことを意味していたのである。

 鉱業地区の多くは孤立し、独立しており、フロンティアの街に他ならないものであったが、そのうち一部はサルバット汗国やレヴィック・アセンダンシーのような工業化された原始国家への輸出代金で裕福になっていた(そして堕落していた)。この富の多くは支配者のポケットに入っていたが、かなりの金額が防衛と私兵の創設に向けられていた(結局のところ、金持ちになる単純なやり方は、他の誰かから富を奪うことなのだ)。これらの都市は一筋縄でいかなそうだったが、鞭を使うジャガーとは違って、ウルフはまず薬というニンジンを試してみた。

 7月5日にウルフの作戦が始まった直後、小規模な居住地の大半は戦わずに降伏したのだが、住民の間でアルコールが蔓延していたことから、住民とウルフの衛兵との喧嘩や衝突が至る所で発生した。多くの地域で夜間外出禁止令が出たが、ウルフは法を厳格に、しかしフェアに適用したことから、民衆はいやいやながら敬意を示したのである。軍事的な行動が必要になったところでは、民間の被害と損害を避けるよう用心し、ジャガー戦役のアンチテーゼとなった。だが、戦役が進むにつれ、一部の残虐な敵たちがウルフの配慮を弱点とみて、利用としようとした。民間人(特に女子供)を使って、爆発物を運んだり、テロ攻撃を仕掛けたのである。ウルフは当初ターゲットとなったが、これらの事件はすぐに点数を稼ぐ手段となり、ウィンソンの兵士たちは占領者というより平和を守る役を与えられていることに気づいた。ウルフが人気になることはなかったが、公平性によりわずかばかりの敬意を受け取った。

 一部の居住区は激しく抵抗し、レーザードリル、鉱山用爆薬から、ぼろぼろの工業用ウォーカーまで使えるものはなんでも使い、時折はバトルメックを使った。このような交戦は完全に一方的なものとなったが、一部ではウルフが軍事力を見せつけた。このような衝突のひとつが、アフラで発生した。装備の優れた市民軍が要塞化した製油所の内外でウルフと追いかけっこを行ったのだ。ウルフは防衛側のやり口に引きずり込まれるのを拒否し、その代わり距離をとって、敵のバランスを崩し続けるために電撃的な襲撃を行った。ウルフは敵部隊を孤立させ降伏させる名人であると証明され、ゆっくりとだが確実に防衛側の戦力をそいでいったのである。迅速な戦略ではなかったが、有効であった。ジャガー氏族長はこのスローペースが気に入らず、ウルフの平和維持活動について話し合っていたときに、こう訪ねた、「これは狩りを行っているウルフの群れなのか? それとも草を食む羊の群れなのか?」。ウィンソン氏族長はただ笑っただけだった。彼の氏族はすぐにも腕を証明することになる。


大戦役 The Grand Campaign

 8月24日、氏族創設記念日、氏族はレヴィック・アセンダンシーへの多方面からの強襲に着手した。この作戦は、大戦役(グランドキャンペーン)と呼ばれるようになった。エデンにおける個別の戦役は、エデンで(もしかしたらペンタゴンで)最も技術的、軍事的に洗練された勢力、レヴィック・アセンダンシーに対する大戦役のためのウォームアップに過ぎないものであった。氏族が近隣国を蹂躙していたあいだ、レヴィックが何もしていなかったわけではなかった――彼らはウルフとジャガーを苦しめていた事件を扇動し、パーガトリー半島の都市国家に同盟を促した――しかし、これが最初の直接的な衝突になった。

 アセンダンシーは相当な軍備を行っていた……メック2個大隊、2個歩兵装甲混成連隊、かなりの航空宇宙戦力(サルバット汗国への嫌がらせに長年使用されていた)である。氏族軍がノラフ大陸に渡るやいなや、彼らは持続的な空爆を受けることになった。氏族は橋頭堡での戦闘が起きると予想したが、地上強襲はなかった。敵の指揮官たちは気づいていたのである……何カ所かで上陸を阻止できるかもしれないが、そうしたら防衛を弱めることになり、他氏族の攻撃に対して無防備になってしまうと。代わりに彼らが行ったのは妨害作戦であり、偵察機とホバー偵察車で氏族兵を追いかけ、空爆を要請し、進撃路に待ち伏せを仕掛け、氏族の重要な目標を特定するために信号を傍受した。だいたいにおいて氏族が航空優勢を得たエデンの他の戦いと違って、8月後半、ノラフ大陸上空ではドッグファイトが発生し、9月前半ついに氏族が勝利し、アセンダンシーの航空部隊は中心地を守ることに力を傾けるようになった。

 アセンダンシーと氏族の最初の大規模な衝突はキャセイ地区で行われた。ここで20年前に亡命星間連盟に対する反乱が発生し、新カペラ帝国の創設が宣言されたのである。ジェイドファルコン兵はヤン・バザールで敵の偵察兵を追い詰め、短い撃ち合いのあとで降伏に追い込んだが、地元のアセンダンシー軍事財団(AMF)指揮官は、部下を奪い返すために勇敢な特殊部隊襲撃を行った。失敗したのだが、もう少しで捕虜を逃がし、ファルコンの指導部を殲滅しかけたこの精密な襲撃という衝撃により、氏族は一時停止して現状を吟味することになった。この作戦の初期段階で彼らが感じていた「楽勝」のムードは消え失せ、断固たる決意と置き換えられた。

 スモークジャガーとウルフは、似たような秘密作戦攻撃に面したが、ジェイドファルコンの前例を受けて、簡単に跳ね返すことができた。ニコラス、アンドリュー・ケレンスキーにとって、このような攻撃は苦々しいペンタゴン内戦の初期を思い出すものであった。父親に対する秘密攻撃が行われたのである。皮肉にも、アレクサンドルの幕僚として勤務していた者たち(そしてニコラスがSLDF司令官になるのを拒否した者たち)の相当数が、AMF軍を指揮する中にいたのである。


ツークツワンク Zugzwang

 9月19日までに、氏族はノーヴィ・モスクヴァ(ニュー・モスクワ)まであと50kmのところにまで迫っていた。スモークジャガー氏族は進撃の間、いくつかの都市を接収したが、民衆はジャガーの主力が出発したあとで占領軍に反旗を翻すのみだった。これは予想された通り、オシス氏族長による血の報復を引き起こし、小規模だがエリートの氏族軍に特有の弱点をさらけ出した――氏族の戦士たち(全部で160名、ヘルズホースはいくらかルールをねじ曲げている)は一度に複数の箇所にはいられないのだ。氏族は、319高地やグローヴァンなど集結できる場所では、AMF兵士を手際よく破ったが、そうでない場所ではAMFの数に圧倒され被害を被ったのである。

 AMF指揮官たちはすぐさまこれに気づき、理解するようになった……勝利を得る(あるいは少なくとも有利な条件を勝ち取れる)最高の望みは、氏族がもってないものを犠牲にしてやることだ……すなわち、人的資源。敵を殺すのは常に戦争の中心的な教義であるが、それが戦略的な目標に変わったのである。アセンダンシー兵は最初から数の面で有利であり、(技量で劣るが)断固たる市民軍に増強され、氏族を大幅に上回っていた。アセンダンシーは首都ノーヴィ・モスクヴァに退却した……ニコラスが立ち止まって考え直すくらい氏族が多大な損失を出すことを期待したのである。

 AMFのノーヴィ・モスクヴァ退却は、氏族にとって考え得る中で最悪の結末であったが、ニコラスが予想していたものでもあった。彼は退却するAMF兵の迎撃をウルフとジャガーの高速メック星隊群、気圏戦闘機部隊に命じたが、迎撃はほとんど成功せず、戦線を引き延ばして戦力を失うリスクを冒すよりはと呼び戻す命令を出した。その後の戦略会議で氏族の苦境が浮き彫りとなった……このような状況に置ける通常の戦略は包囲して兵糧攻めにするか、あるいは空爆を行って脱出を阻止することであった。氏族は効果的な包囲を行うだけの兵数を欠いていたが、航空偵察と阻止攻撃はAMFを苦しめた。フランクリン・オシスが「ベンチェ」という問題解決策(「いずれ破壊することが必要となる街を救う」。古代の戦いを参照にした)を提示したものの、ニコラスは父の首都を荒廃させるのを望まなかった。唯一実行可能な選択肢は、都市に兵を送ることだったが、そのような戦いは最も血塗られたものになることを歴史は示している。スターリングラード、グロズヌイ、ユニティシティは、軍指揮官たちに対し、実例として名をとどろかせているのである。だが、ニコラスは氏族に破滅をもたらすリスクがあると知りながら、そうせねばならないと知っていた。


ノーヴィ・モスクヴァの戦い The Battle of Novy Moscva

 政府中枢から巨大なホイールのように街が作られており、東西南北に幅の広い大通りを持つノーヴィ・モスクヴァは、新社会にふさわしい首都を亡命星間連盟に与えるべく建設された。それは成功と失敗をない交ぜにしたものだった。一部は胸を打つもの(星間連盟を記念したキャメロンパークなど)で、一部はプレハブキットから作られた実用本位で飾り気のないものだった。中心の政府管区は、この二面性の縮図である……地球の19世紀後半から20世紀前半の植民地時代を彷彿とさせる大規模な建物があるが、本当の特色といえるものはなにもないのだ。戦争の20年は都市に荒廃をもたらし、内戦の傷跡を残した。第二エグゾダス後の最初の数年間、特にアセンダンシー、汗国、その他勢力(氏族の到着前に崩壊)のあいだの激しい衝突中に、建物の多くに防空壕が作られた。氏族軍が都市内に入ると、民衆の多くが逃げるよりもこれらのシェルターに入った。

 ノーヴィ・モスクヴァへの四方面強襲は、市民にとって最初の戦争経験ではなかった。空爆に加えて、地上部隊に三回攻撃されたことがあり、そのうち一回は、ニコラスの第二エグゾダスから二ヶ月後、軌道爆撃によって北西部工業区の大半が壊滅したのである(SDSシステムがこの危機を終わらせた)。

 都市内での殴り合いは氏族に不利だとわかっていたニコラスは、電撃的な進撃によって重要目標を確保し、作戦拠点となる城塞を築くのを考案した。ジェイドファルコンは北部方面攻勢を担当し、都市の工業区を確保して大規模な工場群を設置する。スモークジャガーは都市の南東、元商業区で今は崩壊しそうなスラム街を任された。三番目の攻勢は北部、ウルフが都市中心の政府地区への陽動を仕掛け、それから西に転じてエデン軍学校を占領する。それぞれの攻勢で、ヘルズホースの車両と歩兵が先導するメックを支援する。10月15日に開始される予定だったこの作戦は、AMFの偵察部隊がウルフの展開地点に出くわしたことで、数時間前倒しとなった。

 ファルコンによるステファニー・ウリーツァ(ステファニー通り)への強襲はすぐさま泥沼に入り込んだ……立てこもったAMF兵と市民軍が弾幕の雨を放ったのである。通りの両側に建つビルの各所に分散したAMC分隊は、大規模な巻き添え被害なしに排除するのが難しいものだった。市民軍は多くが携帯PPCと対装甲兵器を装備していたことから、かなりのダメージを与えることができた。ビルを破壊すること――ニコラスは許可してなかったが、マシンガンとレーザーでかなりの損害が出ていた――なくして、唯一の選択肢はビルを歩兵で確保することであった。それは危険で血塗られた任務であった。AMC兵はたびたびビルにブービートラップを仕掛けたが、ファルコンは臆することなく前進を続け、二日目の午後に工場に達した。

 比べると、ジャガーは幸運であった……目標に近づくまでにまばらな抵抗にあっただけだったのだ。ファルコンが戦っているような強化工業地帯とは違って、ジャガーはプレハブ・フェロクリート建造物(最上階が趣味の悪い色のタイルになっていた)の海の中に投げ出された。待ち伏せを仕掛ける側はこれらの建物で身を守ることができなかったが、身をさらしている氏族戦士を狙撃するスナイパーたちが隠れる場所は数多くあった。最初の真剣な抵抗は、キャメロン・モスト(キャメロン橋)への強襲時にやってきた。ジャガーが狭い橋を渡っているときに、AMFの砲座陣地とメックが射撃を集中させたのだ。ジャガーの軽部隊が川をジャンプして、AMFの陣地を打つまでに、数機のメックが倒された。危険を感じたAMC兵は退却した。このとき、AMFはキャメロン・モストに仕掛けた爆薬にスイッチを入れたのだが、ホースの戦闘工兵が砲撃戦のさなかに爆薬を取り除くのに成功していた。安全に川を渡れるようになったジャガーは、ノーヴィ・モスクヴァ証券取引所と、プロシャチ・ケレンスキー(ケレンスキー広場)のマーケットを占領すべく移動した。

 ウルフはAMFの偵察部隊と射撃戦を行い、これは追撃に変わった。ジャミング装置を装備したウルフの高速メック1個星隊が追いかけて、氏族の動きを敵が上官に報告できないようにした。ウルフの主力はノーヴィ・ゼムリャ・ブルバル(ニューアース大通り)を下って、キャメロンパークにゆっくりとだが着実に向かった。到着したら、ウルフは軍学校に転進することになる。状況は流動的であり、強襲計画は大幅に改訂され、AMFの抵抗が特に強固なところを避けることが可能になった。0300時、攻勢が始まってから6時間後、ハンターたちは突如として自分たちが狙われた側になっていることに気がついた――AMFの偵察部隊を追っていたウルフ軍は、敵の過ちを繰り返し、AMFの集結地点に飛び込んでしまったのだ。ウルフは分断され、歩兵の支援もなく、非常に無防備な状態になってしまった。閉じ込められた部隊の脱出路を切り開くために、ウィンソン氏族長は分遣隊を出した。アンドリュー・ケレンスキーがこの作戦の指揮を執り、0700時までにはぐれた戦士たちを奪還した。稼働状態にあるメックは1機だけであったが、星隊員のうち4人がメック撃墜の後も地上に降りて戦い続けていた。そのうち2名は後に負傷で死亡したが、彼らは優れた戦果を残していた――回収されたバトルROMによると、数十名のAMF兵を殺し、1個小隊分の車両・メックを破壊するか擱座させていたのである。10月16日の正午までに、ウルフは軍学校の練兵場に到達したが、激しい抵抗に遭遇した。空爆と砲撃は固まっていた一部の兵士には有効だと証明されたが、大半はこのような攻撃に備えて強化陣地に入っており、地上戦力による力押しを持ってのみ防衛側を駆逐することができたのだった。この過程に数日がかかり、そのあいだ、他の3氏族すべてが長引く攻撃を受けていた。

 戦場から離れた安全なところにいるのを嫌ったニコラスは、10月21日、指令本部をノーヴィ・モスクヴァに移し、父親のSLDF司令バンカー(前日にホースの歩兵が掃討済み)に陣取った。フレッチャーの戦士たちはこの強襲で多量の血を流していた……AMFはノーヴィ・ゼムリャ・ブルバルで、ホースの輸送車列の先頭車と最後尾を狙い、中間の車両をすべて閉じ込め、それから即席の処刑場を砲撃したのである。最終的に、ウルフのメックがAMFの要塞をいくつか破壊し、ホースの戦車とAPCの脱出路を切り開いたのだが、それまでに数十名のホース戦士と補助が死んでいたのだった。

 新しい拠点をしっかり確保した氏族は、AMFをつり出すために積極的なパトロールを行ったが、AMFに行動を読まれて待ち伏せを食らわないように気を配った。これは成功と失敗があった。工業地区では戦闘が続いたが、初期の強襲ほど激しくなることは珍しかった。だが、ジャガーは「ブヨ」に悩まされた。小口径兵器で武装した市民軍の襲来が、驚異というよりは迷惑だったのである。正面からぶつかるのを避けられたジャガーは、フラストレーションを募らせ、暴力を爆発させた……市民軍のあるグループがジャガーのパトロールに待ち伏せを仕掛け、失敗したらアパート群に逃げ込んだときのことである。「テロリスト」が降伏を拒否すると、ジャガーはそのブロックをシステマチックに爆撃しはじめ、崩壊させた。80名以上の民間人が死亡した。大氏族長に説明を求められたオシス氏族長は「敵が文明化された戦争のルールを無視するのなら、我々も同じ戦術を持って反撃せねばならない。仕掛け爆弾で我が軍の1名を殺せば、奴らの20名を殺す」と述べた。

 軍学校から出撃したウルフは、対処すべき民間人が少なく、長引く狩りに関わることとなった。彼らの獲物はAMF最高司令部であった。司令部の場所は判明しておらず、侵略者に対する抵抗を統制し続けていた。彼らは作戦可能な状態にあった一方で、氏族には都市を占領する望みがなかったが、亡命星間連盟の地下壕からアパートメントやオフィス街の地下に作られた新造の疑似要塞まで、数十の予想地点があった。それぞれを隔離して調査する必要があった……場合によっては繰り返し。なぜなら、AMFの指揮官たちは定期的に移動しているとの噂があったからだ。

 変化は11月11日にやってきた。ユニティ・ステーション(ノーヴィ・モスクヴァの未完成に終わったリニアーモーターカーのターミナル駅)からの高速バースト信号を受信したのである。この建物は未完成だったが、建設現場は地下壕を作るのに理想的だった。AMFにとっては不幸なことに、信号が探知された際に、ジェイドファルコンのパトロール隊が150メートルのところにおり、素早く現場を取り囲んだ。猛烈な抵抗が始まったことで、スターコマンダーはここが重要地点だと確信し、各氏族地域から援軍が向かってきた。すぐに全4氏族からなる臨時部隊が現場を取り囲み、ウルフ副氏族長エリス・フェトラドラルが作戦の指揮をとった。偵察写真によってかなりのAMF戦力がここに集まっていることが判明すると、アンドリュー・ケレンスキーは迎撃する二番目の分遣隊を指揮した。夜通し戦いが荒れ狂ったが、夜明けまでにアセンダンシー兵は撤退し、地下壕と中にいた者たちは氏族の手中に落ちた。捕虜の中で最上級士官は、マチュー・ティラム少将だった。アセンダンシーのトップであり、20年前に個人的な野心でニコラスが父の座を継ぐのを妨げた人物の一人であった。

 上層部が失われたことで、AMFの抵抗は崩壊し、孤立地帯が残された。そのうち目立つのは、司法宮と財務省庁舎であった。ぼろぼろになった都市の支配権を手にするにつれて、残ったわずかな反乱軍をやり過ごし、AMFの防衛拠点を遮断するだけの余裕ができた。勝利は手にあるかのように見えた。だが、血の代償はいまだ不足していたのである。

 12月1日、都市から脱出しようとしたAMFメック強化小隊が、キャメロンパークで1機だけの氏族メックに遭遇した。ささやかな報復のチャンスとみた彼らは、無慈悲に攻撃を仕掛け、大きなダメージを負いながらも、このメックを倒し、意図的にメックのコクピットを破壊した。

 乗っていたパイロットはアンドリュー・ケレンスキーだった。彼の死はウルフ氏族を激怒させ、逃げていった殺人犯は追い詰められ、殺された。

 12月3日、司法宮の陥落で、大氏族長はエデン戦役の終結を宣言し、月末までに散発的な衝突があっただけだった。だが、勝利はほろ苦いものだった。アンドリュー・ケレンスキーの死が氏族中に衝撃波のように広がったのである。ニコラスの嘆きは大きかったが、戦役はいまだ終わりつつあるところであり、仕事に没頭した。ウルフ氏族(アンドリューを自氏族の一員と考えていた)の悲しみを紛らわす必要があったニコラスは、ダグダ戦役の行き詰まりを打破するため、ウルフをジェイドファルコンと共にダグダに再配置した。
















人物 Personalities






ニコラス・ケレンスキー
階級/地位:氏族大氏族長
生年月日:2764年5月4日(クロンダイク作戦開始時57歳)

 ニコラスのモスクワでの幼年期は挑戦的なものであった。彼がアレクサンドルの息子だという事実を知る者は少なかったが、アマリスの占領(2歳の時に始まった)は、彼を大変危険な状態に置いた。ニコラス、アンドリュー、母親の救出はリベレーション作戦の中でも極秘部分となったが、アレクサンドルの結婚とニコラス、アレクサンドルの出生は艦隊が中心領域を出るまで隠された。ニコラスはエグゾダスの直前に軍事教育をうけはじめ、長い航海の間、それを続けた。ペンタゴンに艦隊が辿りつくまでに、若きケレンスキーは昇進し始めた。だが、2790年、悲劇が襲った。エデンの初期入植者たちと同じように、ニコラスは「カース・オブ・エデン」(感染者の75パーセントが死ぬ脳炎)に侵されたのである。数年後、母は脳炎で死んだが、ニコラスは生き残った幸運なひとりだった。

 常に自信家で精力的な彼は、死の危機によってさらに強くなり、すぐさま第146親衛バトルメック師団の指揮官となった。常にアレクサンドルのお気に入りだった(それゆえアンドリューとの摩擦もそれなりに生まれた)彼は、父の足跡を踏んでいたように見えた。だが、2801年、将軍が司令部で死ぬと、事態は悪化した。旧SLDF士官たちは、彼の経験不足を指摘し、ケレンスキーの後継者の下に終結するのを拒否して、自分たちの亡命星間連盟指導者を擁立したのである。これはニコラスの自我に取って大打撃だったが、強引に主張を押し通すよりも、支持者たちが勧めたように、父と同じく新しいエグゾダスを実行することを選んだ。

 ストラナメクティに腰を落ち着けたニコラスは権力基盤を確立し、暴力の連鎖が後世に残るのを防ぐため、社会をつくり直そうとした。彼はそのような改革が人類の唯一の希望だと確信し、その熱意と決意は多くの転向者を引き入れた。歴史上の様々な社会から発想を得た彼の努力は、最終的に氏族の創設に結びついた。反対する者はほとんどなかったが、ニコラスはおべっか使いたちを遠ざけ、代わりに忠実な同調者たちをまとめあげ、それが氏族の幹部となった。このうち主要メンバーがジェローム・ウィンソンとアンドリュー・ケレンスキー(両者はニコラスの計画に共鳴した)、そしてジェロームの妹、ジェニファー・ウィンソンであった。彼女は後にニコラスの妻となった。

 ニコラスはストラナメクティでの亡命を永久的なものとはしなかったが、それは20年にもおよんだ。ペンタゴンへの帰還(クロンダイク作戦になるもの)は、常に彼の計画の一部であったが、それ以上の意図については不確かである。知られているのは、彼は氏族社会の改変を、ペンタゴンの生存者を取り込み、亡命文化をさらに改良する過程とみなしていたということである。そして彼は目標を達成するために力と無慈悲さを見せた。2834年、ウィドウメーカー氏族の手で予期せず死亡すると、彼の仕事は未完のままで残され、現代の氏族社会の種が蒔かれた。彼は氏族を永続的なものとするつもりだったのか? それともより軍事的でない社会を作る途上であったのだろうか? 彼は部下たちを分裂してしまった人類の保護者とするつもりだったのか?(守護者哲学の主張) 中心領域に対してクロンダイクを大規模に繰り返すつもりだったのか?(3040年代末に侵攻派が試みたこと)






アンドリュー・ケレンスキー
階級/地位:スターコーネル/大氏族長ニコラス・ケレンスキー補佐官
生年月日:2766年11月9日(クロンダイク作戦開始時55歳)

 アレクサンドルの次男はほとんど鏡に映った兄である。ニコラスが社交的で自信家であるところ、アンドリューは内向的で無口である。アンドリューは兄が楽しんでいた目立つ人生を求めてはいなかった(父の愛情が二番目であることに傷ついたのだが。特にカチューシャ・ケレンスキーの死後は)。それにも関わらず、アンドリューはエデン軍事学校で良い成績を残し、2800年前後にペンタゴンが混沌に落ちるまでに1個大隊を指揮していた。アンドリューは父と兄から距離をとった(不服従により拘留しさえした)が、社会の崩壊とアレクサンドルの死により兄弟は再びストラナメクティで結集した。彼らの関係は最初、刺々しいものであったが、温かいものになることはなかった一方で、数十年が経つにつれ、尊敬を持ったものにかわった。アンドリューは兄に立ち向かうことのできた数少ない一人であった――もっとも口論が白熱しないことはなかったのだが――そしてそれがニコラスの計画に結びついたと広く信じられている。インストラクターを務めていたことは、黎明期の氏族に関する異なった視点をアンドリューに与えた。気がつくと彼はニコラスの目となり耳となり、準備に対し信頼できる批判的な見方を提供していた。クロンダイク作戦の開始時、アンドリューは幕僚の役割を与えられたが、課せられた制限に苛立ち、エデンのウルフ軍の立会人となった。現場となったのはここだった……戦役が終わりに近づいたとき、大規模な敵軍の待ち伏せを受け、ニコラスの弟は死んだのである。彼の死にまつわる数多くの噂が駆け巡り、そのうちで最も一般的なのは、大氏族長への影響力を排除するために彼が殺されたというものだ。皮肉なことに、彼の死は氏族社会に広範囲なインパクトをもたらした――弟を殺した臆病な攻撃を繰り返さないために、ニコラスは氏族の戦いを儀式化し、氏族戦士の行動を抑制するゼルブリゲンの掟を定めたのである。

 アンドリューは結婚しなかったが、コヨーテの氏族長となったダナ・クファールと長く関係を持っていた。アンドリューの血統は氏族内に残り、ウルフ氏族の中でニコラス、ジェニファーと共にある。厳密に言えば、ウルフの独占ブラッドネームなのだが、アンドリューの遺伝子とダナ・クファールのものを限定的に組み合わせることを大氏族長は許可した。彼らの愛を記念し、ふたつの氏族の結びつきを表すためにである。






ジェローム・ウィンソン
階級/地位:ウルフ氏族長
生年月日:2755年6月9日(クロンダイク作戦開始時66歳)

 ライラ共和国の惑星ギャラリーに生まれたジェローム・ウィンソンは、知性と運動神経の組み合わせにより、人員不足のSLDFがステファン・アマリスとの長い戦争を戦う間、素早く昇進していった。2780年前半までに、彼は少佐の階級となり、ケレンスキーの幕僚の地位を獲得した。戦争の最終局面において、彼はカチューシャ・ケレンスキーと息子たちを救出する分遣隊の一員となり、将軍と関係が深かったことから、エグゾダスとペンタゴンの初期に少年たちと近いままでいた。将軍に従い亡命するという決断は彼にとって難しいものだった――アラリオン生まれの妻、ジェシカは彼と同行しないことにしたのだ――が、それが正しい決断だと彼は知っていた。ニコラスとアンドリューの兄替わりとされるジェロームは、ニコラスのカリスマに魅せられ、若きケレンスキーと共にストラナメクティへと赴くのに迷いはなかった。妹のジェニファーと共に、彼は新しい氏族を形作るのを助け、ストラナメクティ狼から名前をとった氏族を授けられ、最初に戦闘準備を整え、氏族史上群を抜く軍隊のひとつを作り上げた。ジェニファーとニコラスの結婚は、ウィンソン家とケレンスキー家の結びつきを強固な物とし、ニコラスの遺伝子をウルフ氏族に入れるとの決断は、二つの一族の絆をさらに強めた。静かで思慮深いが、必要な時には決断力に富むジェロームはこの上ない氏族長であり、彼の指導の下、ウルフはクロンダイク作戦において複数の世界で戦ったふたつの氏族のうちひとつとなった。ニコラスがウィンドウメーカーに殺されると、ウィンソンは自然と後継者候補となり、着実な彼の下で氏族は黄金世紀(Golden Century)に入った。

 妹にまつわる謎もまた、ジェロームの信任にいくらかの疑いを投げかけるものである。氏族の二番目の大氏族長となった男は、本当にライラ生まれの士官なのだろうか? ジェニファーは本当に彼の妹なのか? そして違うなら、なぜそう見せかけたのか? なぜ彼女は、ケレンスキーの新しい社会に「隠れる」必要があったのか? なぜ、ジェロームは彼女を守る必要があったのか? 歴史が勝者によって書かれるという事実は、氏族の初期数十年ほどふさわしいものはない。よって、真実は決して知られることがないかもしれない。






ジェニファー・ウィンソン
階級/地位:スターコーネル/大氏族長ニコラス・ケレンスキー補佐官
生年月日:不明(推定2770年。クロンダイク作戦開始時約40歳)

 兄と違って、ジェニファー・ウィンソンは取るに足らない人物である。中心領域での彼女の人生に関する記録はなく、氏族が作られる前のペンタゴンでの生活についても最小限の情報しかない。我らが知っているのは、彼女が戦士として訓練され、第二エグゾダスの前はニコラスの下におり、ストラナメクティに同行して氏族の一員となったことである。ニコラスとの関係は激しいものであったがロマンスに発展し、やがて二人は結婚した。落ち着いていて、カリスマ的なジェニファーは、氏族を形作り、クロンダイク作戦を計画する上で重要な役割を果たし、彼女の外交力は氏族長になる者たちの強烈な自我を円滑な物とした。だが、戦闘に彼女が加わったという記録はほとんどなく、一般に夫の幕僚として仕えていたと考えられる。

 彼女の最期は出生と同じく謎であり、ニコラスとジェローム(ニコラスの後継者で、ジェニファーの兄)が故意に記録を分かりにくくさせたかのようだ。ウルバリーンの裏切り後、記録が大幅に書き換えられたという疑惑を考えると、これは大きな驚きではない。だが、論理的根拠が欠けていることは、様々な推測を呼んでいる。ニコラスが単に愛する者を注目から守りたかったというものから、ジェニファーとは偽名であり本当はキャメロン家(話のバージョンによってはアマリス家)の子孫であったというものまでがある。






ステファン・ケイジ
階級/地位:アイスヘリオン氏族長
生年月日:2754年8月3日(クロンダイク作戦開始時66歳)

 エグゾダスの前、アマリス内戦のほぼ全期間を、ステファン・ケイジ少佐はSLDF第200竜機兵連隊の第3大隊で勤務し、地球奪還作戦最後の16ヶ月間は指揮官を務めた。それ以前の彼はライラ共和国でアマリスの帝国内での戦争犯罪とSLDFの対アマリス戦役のニュースを見て育っていた。彼と部下たちは地球復興、再建で重要な役割を果たし、すすんでエグゾダスに加わった。SLDFが大量削減された後、彼は第146親衛バトルメック師団の1個連隊を指揮し、数年後、氷の世界、ヘクターに近年作られた植民地指揮官の地位を受けた。

 そこで彼と小規模な軍幹部たちは新しい植民地の建設を助け、革命がペンタゴンまで達したときにはニコラス支持に回った。彼らはストラナメクティに赴き、ニコラスの新しい社会に参加して、ケレンスキーの政府と植民地の連絡係となった。ケレンスキーはすぐにケイジとヘクターの戦士5名をアイスヘリオン氏族に入れ、ケイジを氏族長とした。ケイジの指導の下、彼らと氏族の兄弟たちはトーテム(ヘクターの原生動物)を見習い、その性質によって他氏族から距離を置くこととなった(それが彼らの行動を特徴付け続けている)。






フィリップ・ドラモンド
階級/地位:ノヴァキャット氏族長
生年月日:2746年5月20日(クロンダイク作戦開始時75歳)

 ポリチェク兄弟のように、フィリップ・ドラモンドは、簒奪の時期、アマリス軍に仕えており、君主の行動に愕然とした。しかしながら、ドラモンドのアマリスに対する反乱は有名である。彼はアポロに上陸すると同時にケレンスキーに与し、密かにケレンスキーの司令本部に赴いて将軍に自己紹介した。決断力と臨機応変によってこの辺境世界共和国人はケレンスキーに受け入れられ、諜報部門に回された。ここでフィリップの辺境世界共和国と共和国軍の知識は有用だと明らかになった。ケレンスキーが中心領域を離れることを選んだ時、フィリップは喜んで追従し、動員解除の後、キルケで新妻のアンナ・ロッセと新しい人生に乗り出そうとした。社会構造が崩壊し始めたとき、フィリップは親ケレンスキー忠誠派に加わり紛争に関わることとなった。だが、結局、彼はペンタゴンでニコラスの亡命に参加することを選んだ――派閥闘争でふたりの子どもが死んだことが決定的な要素となったようだ。三番目の子供、サンドラは短期間であるがノヴァキャットの副氏族長になった。ドラモンドは、ニコラスの父と昔からつきあっていたことと広範囲な軍事上の経験により、自然と氏族・クロンダイク作戦に参加することとなった。彼のキルケへの帰還はほろ苦いものになる。






サイラス・エラム
階級/地位:ゴリアテスコーピオン氏族長
生年月日:2750年10月21日(クロンダイク作戦開始時71歳)

 氏族に選ばれた老戦士のひとり、サイラス・エラムは、アレクサンドル・ケレンスキーの亡命に同行する以前、長きに渡るSLDF工兵部門でのキャリアを持っていた。彼の妻と子供たちはアマリスの反乱の際に殺され、彼はエグゾダス作戦を地球戦役の恐怖から逃れるための道と見た。彼は亡命星間連盟のSLDFに仕え続け、彼の技量は新しい居留地とインフラを作るのに役立てられた。そしてペンタゴンの社会が崩壊すると、ニコラスとストラナメクティに同行した。新社会の仲間たちから「親父」と呼ばれていたエラムは、当初、年齢の問題で氏族には入れないこと、教官をやらされることを予期した。だが、彼の非正統的戦術(戦闘工兵だったことの産物)は、特に有効であることが証明され、高齢にも関わらずニコラスは彼を800名に入れた。ゴリアテスコーピオン氏族の長を任された彼は、若いジェンナ・スコットと組んだ。彼はゴリアテスコーピオンの頭脳となり、彼女は利き腕だった。といってもエラムが戦いから逃げることはなかった――2834年、彼はウィンドウメーカー副氏族長カイル・ヴォルダーマルクとの戦いで死んだのである。






ジョン・フレッチャー
階級/地位:ヘルズホース氏族長
生年月日:2744年8月31日(クロンダイク作戦開始時76歳)

 ニコラスについた最上級士官のひとり、ジョン・フレッチャー将軍は地球戦役の際には第35歩兵師団を指揮しており、その後、中心領域に未来がないと見て、残存戦力と共にケレンスキーのエグゾダスに加わった。だが、ペンタゴンに到着すると、SLDFの大量動員解除で彼の部隊は解散し、彼自身はエデン市民軍の訓練を任された。アレクサンドルが死亡すると、ジョンはニコラスの亡命星間連盟指揮官就任を支持したが、「下級歩兵指揮官」である彼の意見は仲間たちから軽視されたのである。他方で、ニコラスは古参士官の意見を評価し、ストラナメクティで建設中の新しい社会に加わるよう勧誘した。経験豊かなバトルメック指揮官、トリシア・コブと組んだフレッチャーのカリスマ、洞察力、決断力は、ヘルズホース氏族の指揮権を彼にもたらした。彼はホースをニコラスの武器庫で最も優れた諸兵科連合部隊のひとつをつくることになる。






エリザベス・ヘイゼン
階級/地位:ジェイドファルコン氏族長
生年月日:2741年4月5日(クロンダイク作戦開始時80歳)

 地球の北アメリカで生まれたエリザベス・ヘイゼンは、アマリスが帝国を奪い、星間連盟を戦争に追いやったとき、25才だった。親衛ブラックウォッチ連隊の中隊指揮官だった彼女は、アマリスの攻撃を切り抜けた数少ないひとりであり、簒奪に対して戦い続けたゲリラ「ゴースト・オブ・ブラックウォッチ」の中核メンバーだった。2779年にケレンスキーが地球を解放するまでの13年間、彼らは苦しい戦いを実行し、英雄となった。将軍より叙勲されたのだが、エリザベスは軍を辞めることを選び、魂の平安を求め一年かけて地球を放浪した。アレクサンドルがエグゾダス作戦の実行を決めると、ヘイゼンはアーロン・ドシェヴィラーに促されて物乞いのような生活を捨て去り、SLDFに少佐として再入隊して、ケレンスキー将軍の幕僚となった。10年以上後、ペンタゴンで社会の分裂という恐怖が再現され、ドシェヴィラー将軍(恋人であったとされる)が反乱軍に殺された。高齢にも関わらず――アレクサンドルが死んだとき60歳だった――ヘイゼンは立場を明確にするのをためらわず、ニコラスのエグゾダスに加わり、氏族創設の重要人物のひとりとなった。80歳の彼女はクロンダイク作戦時に最も高齢な氏族長であったが、彼女とファルコンの活躍は、年齢による悪影響がほとんどなかった。だが、彼女はリサ・ブハーリンを副氏族長とすることでジェイドファルコン(ニコラスのひいきを勝ち取れず憤慨していた)の指導を分割したほうがよいと悟ったのだった。






ディヴィッド・カラザ
階級/地位:シーフォックス氏族長
生年月日:2766年3月15日(クロンダイク作戦開始時55歳)

 カペラの世界セント・アイヴスに生まれディヴィッド・カラザは、中心領域の同世代が抱いていたのと同じ夢を抱いていた。星間連盟のメック戦士になって、地球帝国の簒奪と戦うケレンスキー将軍に加わるのである。だが、それはかなわなかった……彼はエグゾダスの直前にSLDFの訓練を終え、任官したからだ。彼はSLDFの動員解除の際に良い成績を残し、他の古参兵多数が除隊する中で制服を着続け、ペンタゴン内戦の初期数ヶ月、反乱軍相手に激しく戦った。彼はニコラス・ケレンスキーの第ニエグゾダスに従い、かつての貢献により――特にメック戦士としての手腕で――シーフォックス氏族長の地位を勝ちとった。

 彼はシーフォックス氏族の初代氏族長になったかもしれないが、最も影響力があったというわけではなかった。彼と副氏族長、ダイアナ・セネットは見事にクロンダイク作戦の準備をしてみせたが、カラザの任期は短く終わった……バビロンの緒戦で戦死したのである。ダイアモンドシャーク(旧シーフォックス)の間でさえも、彼の遺産は弟子であるカレン・ナガサワに覆い隠されている(バビロンで指揮をとっていたときもそうだった)。






ラフェ・カルダーン
階級/地位:クラウドコブラ副氏族長
生年月日:2764年1月22日(クロンダイク作戦開始時57歳)

 ケレンスキー将軍が地球を開放したとき、ラフェ・カルダーンはわずか15歳だったが、すでにSLDFの訓練パイロットだった。彼は常に気圏戦闘機パイロットになることを夢見て(実際、若すぎるにも関わらず数機種分のライセンスを取得している)、さかのぼること二年前に、ニューアースまでヒッチハイクし、年齢を偽って訓練部隊への受け入れを認めさせた。記録的な時間で彼は卒業し、エグゾダスまでにはすでに航空中隊を指揮していた。

 エグゾダス後の軍備削減まで、彼は昇進に昇進を重ね、ついには海軍本部を指揮し、ステファン・マッケナと共に、事実上SLDF海軍の指揮権を共有したのである。クラウドコブラ氏族の副氏族長に選ばれた彼は氏族にエネルギーを注いだのみならず、飛行への愛を注いだ――気圏戦闘機部隊を作り上げ、それに匹敵するのはマッケナのスノウレイヴンのみだった。カルダーンは自然と戦士の訓練と演習を担当し、そのあいだウィンダム・ハティブが氏族の精神性、特に道徳に心血をそそいだ。クロンダイク作戦の後、カルダーンは、弱体化し傷ついた氏族を再建し、さらに航空宇宙、海軍力を強化し、ハティブの引退後、黄金世紀に向けてクラウドコブラを率い続けた。






ジェイソン・カリッジ
階級/地位:ウィドウメーカー氏族長
生年月日:2669年1月3日(クロンダイク作戦開始時52歳)

 ニューシルティスで中産階級のダヴィオン人として生まれたジェイソンの幼少期は、父ナイジェル(SLDF兵站士官)の影響で絶えず変化を続けた。アマリスの包囲が狭まり、補給線が移動したことから、絶えず移動していたのである。エグゾダス熱に浮かされたカリッジはケレンスキーの艦隊に加わった。しかし、約束された土地で新しい人生を始めるというナイジェル・カリッジ大尉の夢は、影響されやすい部下の士官が〈プリンツ・オイゲン〉の反乱に組すると打ち砕かれた。艦隊がペンタゴンに向かうと、彼の妻と息子は、父の処刑という烙印に対処せねばならなくなり、若きジェイソンは自身の運命を自分で切り開くと誓った。無常で決意に満ちた少年となった彼は新植民地バビロンで育ち、エデン軍学校の入学を勝ちとった。2793年、ジェイソンは父の階級を超えてSLDF少佐となったが、それ以上の昇進はガラスの壁に阻まれた。反乱兵の親族に対する根強い偏見が残っていると思われた。父の士官たちと違って、ニコラス・ケレンスキーはそのような表面上の出来事を気にしなかった。ジェイソンの決意と情熱はまさに彼の氏族が必要としていたものだった。ジェイソンが氏族軍の地位を得るのに成功し、その後、ウィドウメーカー氏族指導者の地位を得たのは不思議ではない。だが、氏族長の地位はカリッジ氏族長にとって充分ではなく、彼は野心に負けた。さらなる影響力を求めた彼は、氏族評議会内で派閥を作り上げようとすることで氏族政治に巻き込まれることとなった。最終的に彼の計画は無に帰した――クロンダイク作戦の一年後、カリッジ氏族長はウルバリーン氏族の手で死んだのである。

 公式には。

 彼の遺伝子遺産の喪失と血統の終焉(氏族の記録によると保管庫の突発的な事故による)は、カリッジの運命について憶測を呼ぶものである。彼はウルバリーンに殺されたのではなく、彼らの側についたために、究極の代償を支払ったことが示唆されている。サンドラ・ロッセのような他の殺されたシンパの遺産が残ったことを考えると、カリッジの行動に関する何かは氏族にショックを与えたに違いない。ウィドウメーカー氏族長と遺産の運命は、氏族の公式記録が主張する「名無し氏族について記録から削除した」とするものより、ウルバリーンの裏切りにまつわる氏族史の改ざんが大規模だったとの証拠としてあげられる。






ウィンダム・ハティブ
階級/地位:クラウドコブラ氏族長
生年月日:2755年11月3日(クロンダイク作戦開始時65歳)

 ニコラス・ケレンスキーに加わるのを選んだ忠実な戦士たちのなかで、ウィンダム・ハティブは最も風変わりである。彼はプロキオンの復活大聖堂で育った。父はアスティン・ハティブ司祭で、祖父は十字架教会の指導者、ラナイ・メイドン教皇(そうなる前はウルスラ・ハティーブ枢機卿)であった。アマリスと手下の人殺したちが地球帝国を奪ったとき、彼はそこで侍祭として学習していた。彼はアマリス兵たちが祖母と父(そして他の教会幹部)を逮捕するのと、大聖堂から計り知れない価値を持つ宝物を盗むのを目撃した。そして簒奪者の秘密警察が祖母を処刑すると打ちのめされた。

 生き残った教会の職員はどうにか彼を惑星から脱出させ、ライラ宙域の修道院に送り届けた。そこで彼は学習を終え、叙階され、募兵ステーションを見つけるとすぐに従軍司祭としてSLDFに入隊した。彼は最初、第335バトルメック師団に配属されたが、その壊滅後、部隊から部隊を飛び回り、後にアーロン・ドシェヴィラー将軍が直々にSLDF指令群に配属した。

 彼はケレンスキー将軍のエグゾダスに従い、後にその息子による第二エグゾダスに従った。それはすべて、兵士たちと民間人の双方が精神的なものを求めていたからやったことだ。だが、彼は兵士でもあり、市民たちや「神の戦士たち」の命が脅かされたときには、戦うのをためらわなかった。ニコラスはそれを覚えていた。とくに戦場、聖職者の職務上を問わず、悪と考える者に対して戦うときのハティブの凶暴性を。よってニコラスは彼をクラウドコブラ氏族長としたのだった。

 彼は与えられた役割を羊飼い、預言者であると理解し、副氏族長に戦闘で戦士を率いる役割を与える一方、自身は常に大きな計画を練り続けた。クロンダイク作戦の終結後、彼は氏族長職を引退し、大半が反宗教的な社会における精神的な欲求に応え続け、それにより最終的にいくつもの精神的な集団が生まれ、氏族に精神主義の深い感覚を埋め込んだのである。それは〈道〉と呼ばれるものだ。






エリー・キニスン
階級/地位:スティールヴァイパー氏族長
生年月日:2785年6月4日(クロンダイク作戦開始時36歳)

 エリー・キニスンの身の上は、悲劇と暴力で満ち溢れている――両親はふたりともアントニウス・ザールマンの下で活動したレジスタンスだった(そして彼の元生徒だった)。彼女は運命的な反乱の一ヶ月前に〈プリンツ・オイゲン〉で生まれ、第二エグゾダスでは、脱出するために殺到するダグダの反逆者たちと戦った。彼女は出来うる限り早くドシェヴィラー軍学校に入学し、ニコラス・ケレンスキーがSLDFを完全に解散して、氏族内に入る公開競争を行うほんの数カ月前に、減少した第131バトルメック師団に一中尉として入隊した。

 キニスンはケレンスキーの理想の「忠実なる支持者」であり、熟達したメック戦士である。彼女は容易にケレンスキーの800人の座を勝ち取ったが、最大の名誉は20名の氏族長のうちでもっとも若かったことである。これは友人にして師匠――アントニウス・ザールマンのおかげだった。引き換えに、彼女はザールマンを副氏族長に選び、そして両者はすぐにスティールヴァイパー氏族を我が物とした。もっともそれはキニスンがひとりでやったことで、戦士たちにアルカディア侵攻作戦で見られたような理想と熱狂を注ぎ込んだのである。残念ながら、彼女の熱狂はクロンダイク作戦の後で妄想に変わった。ニコラス・ケレンスキーと恋仲であると思い込んだ彼女はジェニファー・ウィンソンを殺す計画を立てた――この計画は最後の瞬間、スティーヴン・ブリーン副氏族長(当時)によって妨げられた。彼の行動のおかげで、この犯罪行為で犠牲となったのはキニスンの遺産だけで済んだのである(ブラッドネーム剥奪の形式によって)。






ダナ・クファール
階級/地位:コヨーテ氏族長
生年月日:2772年11月7日(クロンダイク作戦開始時48歳)

 地球保安軍の下士官から転じてレジスタンスとなったふたりの間に生まれたダナ・クファールはアマリスの待ち伏せによって0歳で孤児となった。部族"スピリット・オブ・ザ・コヨーテ"(北アメリカ南西部の砂漠の先住民)に拾われた彼女は、邪悪な占領軍兵士と戦う方法を学んでいたその時にさえも、精神的な道を学んで育った。彼女は、育ててくれた部族の一グループ(それにコヨーテの群れ)とともにエグゾダスに同行し、最初の公的な教育を受け始めた。彼女はペンタゴンにたどり着くまでそれを続け、新設された軍養成校に入学した。ここで教官を務めていたのがアンドリュー・ケレンスキーだった。ふたりはすぐに親密な関係を持ち、ついには恋人同士となった。

 第二エグゾダスまでに、彼女はニコラス・ケレンスキーの「個人崇拝教団」の中で確固たる地位を確立した(多数の日記の記録によると、これはアンドリューとの喧嘩の種になったという)。こうして彼女はコヨーテ氏族長に任命された――過去を考えると自然な選択であった。職務を通して、彼女は部族の慣習、とりわけビジョンクエストを続けた。だが、彼女は、ニコラス・ケレンスキーの理想および思いつきに基づく独自の慣習も始めた。これら慣習の多くはコヨーテ氏族のみならず氏族社会全体を形作った――コヨーテとウルフの強い同盟から、ゼルブリゲンが形式化される過程まで。しかしながら、アンドリュー・ケレンスキーの死は彼女にとって大打撃となった。彼女は氏族長の座から外され、心の傷を癒す時間を与えられた。晩年はコヨーテとウルフのアドバイザー、大使として過ごした。






デヴォン・ルファーブル
階級/地位:スターアダー副氏族長
生年月日:2772年3月12日(クロンダイク作戦開始時49歳)

 デヴォン・ルファーブルは、ケレンスキーがアマリス占領下にある地球帝国に進んでいたその最盛期に、辺境世界共和国の父親とライラの母親のあいだに生まれた。彼らはSLDFに占領された辺境世界共和国で出会い、ついにはケレンスキーのエグゾダスに同行することを選んだ。デヴォンはペンタゴンワールドに向かうエグゾダス艦隊の長い移動時間中、最初に訓練が始まったクラスに志願し、第342親衛バトルメック連隊に技術者として配属された。メックの修理と操縦、双方の技術により、彼は大幅削減されたSLDF内に残った。だが、リーダー、管理者としての才により彼は注目されるようになったのである――第二エグゾダスまでに、彼はニコラス・ケレンスキー第146親衛バトルメック師団の曹長、再先任下士官となっていた。

 彼はメック戦士でも士官でもなかったが、天性のリーダーであり、アブサロム・トラスコットの理想的な副氏族長となった。トラスコットが降下時に戦死すると、ルファーブルがその代わりとなってアルカディア戦を勝利に導き、もっとも重要な数年間、氏族を率いた――彼らは数十万の市民と、数百人の戦士を氏族に統合したのである。






ミッチェル・ロリス
階級/地位:マングース氏族長
生年月日:2765年4月11日(クロンダイク作戦開始時56歳)

 チコノフに生まれたミッチェル・ロリスの少年時代はアマリスとの戦いだった。戦闘員になるには若すぎたのだが、若きミッチェルは戦争に魅了され、そのカリスマによって地元のSLDF補給庫に取り入った。ここで孤児だった彼は兵士たちの養子になったという(事実は不明である)。新しい家族とともにエグゾダス艦隊に加わったロリスはその場に馴染み、艦隊がエデンについて公式に兵站部門に入隊する前に、マスコットにして並外れたたかり屋・居候となっていた。彼の組織力と外交力は素早い昇進をもたらし、亡命星間連盟が崩壊すると、野心的なロリスはニコラスの亡命についていった。

 大佐だったにもかかわらず、ミッチェルは容易く氏族に入れられたわけではなかった。軍事的な経験の不足が不利となったのである。だが、彼の外交、管理能力が大氏族長の決断を勝ちとった――ライバルたちは悔しがり、後に弁舌で地位を得たのだと声を上げた。キルケの作戦を任されたミッチェル・ロリスは、ライバル氏族長たちの間で避雷針の役割を果たし、指揮官たちの間の緊張を和らげ、ダグダであったような批判の応酬なしに作戦を進めることが可能になった。日常の業務はサイス副氏族長の手に託され、彼の電撃的襲撃はマングース氏族軍の十八番となった。それはロリスの外交的、政治的駆け引きによって強調され、クロンダイク作戦後と黄金世紀初期のマングース氏族を形作り、戦友たちからの恨みを買って、スモークジャガー氏族による殲滅につながったのだった。






サラ・マクイヴディ
階級/地位:ウルバリーン氏族長
生年月日:不明(クロンダイク作戦開始時40代前半と思われる)

 ウルバリーン氏族長は謎である。殲滅の神判のときには四十代であり、これはエグゾダスの前後、あるいは直後に生まれたのが示唆されているが、父親と信じられている男――第331親衛バトルメック師団指揮官、ジェイムズ・マクイヴディ――は、家族がいなかったとされる。第二エグゾダス前のペンタゴンでの人生については不明だが、アレクサンドルが死ぬ前に戦っていた反乱軍の一員だったとのちょっとした暗示がある。サラの名前は、ストラナメクティへの第二エグゾダス後、たいていはアンドリュー・ケレンスキーとともに様々な記録に現れる。アンドリューとダナ・クファールの関係を考えると、ケレンスキーの弟とマクイヴディが恋愛関係にあったことはなさそうだが、ケレンスキー一族と長い間つながりを持っていたように見える。ニコラスとの関係はクロンダイク作戦後にこじれたようだ。ニコラスの権威主義的行動にマクイヴディが反発した、恋に敗れた、(最も突飛な陰謀論である)ニコラスが弟を殺したと信じたなど理由は様々に語られている。最も可能性が高そうなのは、軍事作戦後の政治的・社会的な激震の中で、深い悲しみと外傷後ストレス障害が組み合わされたというものである。マクイヴディはウルバリーン氏族をニコラスの社会から離脱させようとして氏族を引き裂くことになるが、これがニコラスの行動への直接的な反応であるのか、それとも小さな対立がエスカレートしたのかは、永遠に謎のままであろう。






ステファン・マッケナ
階級/地位:スノウレイヴン氏族長
生年月日:2744年11月21日(クロンダイク作戦開始時76歳)

 伝説的なマッケナ王朝(帝国の最も高名な一族のひとつ)の遠縁の末裔としてタマラーに生まれたステファン・マッケナの幼少期は有名な祖先とはまるで違うものだった。彼の家族は貧しく、彼はどの段階においても勤勉に活動した。パイロットとしてSLDFに入隊した彼は地球解放に参加し、わずか24歳で大佐の地位を勝ちとった。あらゆる意味で上を目指す人間として有名だった彼はSLS〈マウントバッテン〉の航空大隊指揮官となり、2784年、エグゾダス作戦の最初のブリーフィングに参加した一人となった。マッケナはペンタゴン到着後もSLDFに残り、亡命軍探査部隊の長となった。彼と部下たちはケレンスキー星団を踏査し、各惑星を調査して最初の科学調査前哨地を創設した。これは後に氏族本拠地として花開くことになる。彼がニコラスを亡命星間連盟の指導者候補として支持したことは無意味であると判明し、マッケナは臨時エグゾダス艦隊を組織し、アレクサンドルの死後に現れた派閥による攻撃を撃退することになった。彼の忠誠心と年功、戦闘機パイロット、軍艦指揮双方の技量によって、彼は氏族内での地位を勝ちとったが、ニコラスは彼が地上戦の経験を欠いていることを知っており、よって第183親衛機械化歩兵師団のジョイス・メレルと組ませた。困難な作業だったにもかかわらず、ステファンとジョイスは新しい氏族を創り上げたが、クロンダイク作戦でそれがぼろぼろにされるのを見ることになった。ステファンは怒りと共に紛争を終えた。航空宇宙戦力に目を向けた彼のスノウレイヴンは、陰謀的な情報業者となり微笑の後ろに辛辣な性質を隠した。ステファンの敵意はキルケで共に戦ったウルバリーン氏族に向かい、それがウルバリーンの裏切りに繋がったと噂されている。






カレン・ナガサワ
階級/地位:シーフォックス氏族スターコーネル
生年月日:2770年9月9日(クロンダイク作戦開始時50歳)

 アマリスの地球帝国占領の最盛期にディーロンで生まれたカレン・ナガサワは、生まれてからの6年間をキャッスルブライアンの内側で、両親、SLDFの幹部集団と共に過ごした。アマリス内戦が終わった後、ナガサワの家族(父はSLDFの下士官だった)はカペラ辺境に送られたが、すぐにエグゾダスに加わった。幼年期のほとんどを本に埋れて過ごしたカレンは、最初の公的な教育をエグゾダス艦隊で受け、アルカディア降下後もそれを続けた。卒業した彼女はジャーナリストとなり、すぐにペンタゴン居留者のあいだで高まり続ける不和を報告した――常に燃え上がる炎を冷ますことに目を向けた。彼女がニコラス・ケレンスキーと面談し、支援を始めたのはこの能力がゆえだった。ニコラスは暴力を終わらせるアピールのため彼女に頼るようになり、後に彼のスピーチ執筆を助けるようになった。

 第二エグゾダスの後、彼女は小規模だがエリートの軍幹部団をつくるというニコラスの呼びかけに耳を傾けた。彼女はドシェヴィラー軍事学校に入り、気圏戦闘機パイロットとして卒業したが、ニコラスに求められたときにはペンを貸し続けた。彼女は安々と800名に選ばれ、シーフォックスの上級パイロットとなった(しかしケレンスキーとの深い関係からスターコーネルの地位を与えられた)。彼女は氏族内で声高であり続けたが、比較的軍事経験が欠けていたことから、シーフォックス外では尊敬されることがなかった。そういった偏見はバビロン戦役のあいだ続き、クロンダイク作戦の終わりに、ダイアナ・セネット副氏族長の承認に先駆けてニコラス・ケレンスキーが彼女をシーフォックス上級氏族長として任命した後でさえも、偏見に悩まされたのだった。






フランクリン・オシス
階級/地位:スモークジャガー氏族長
生年月日:2778年6月8日(クロンダイク作戦開始時43歳)

 アマリス戦争とエグゾダスの間に生まれたフランクリン・オシスと弟のサイモンは、SLDF第238装甲師団の恒星連邦戦車指揮官の子供である。彼らの本当の生家となったのはエデンで、急成長する植民地の中で育った。だが、ニコラスがエグゾダスする原因となった社会の崩壊の前でさえも、植民地の状況は悪くなり、派閥に分かれたギャングは日常的であった。サイモン・オシスはギャング団に入ったが、フランクリンは長い間拒否し続け、最後には圧力に屈した。彼はその決断をすぐに後悔することになる……ギャング団の関わった放火が殺人に結びつき、共犯者はキルケの流刑地に送られたのである。そこでの暮らしはエデンのギャングとしての生活よりもさらにひどいもので、オシスの生活は力と脅迫によるものとなったのである。ニコラスが第二エグゾダスを決行すると、収容所から解放されたオシス兄弟は彼と氏族に加わった。サイモンは狩りの途中で一匹のスモークジャガーに殺され、弟の死によりフランクリンは新たな高みへと上がった……スモークジャガー氏族の指揮と、クロンダイク作戦での重要な役割を与えられたのである。オシスはエデンとキルケでの残虐性と暴力から逃れることはできず、結果として、彼の氏族は似た性質を持ち、ケレンスキーのしもべの中で最も暴力的かつ残虐となったのである。






ローラ・ペイン
階級/地位:ファイマンドリル副氏族長
生年月日:2790年1月11日(クロンダイク作戦開始時31歳)

 エグゾダス艦隊がペンタゴンに到着した後に生まれた新世代であるローラ・ペインの幼少期は、エデンのカペラ宿営地で、母のアマリス内戦での功績と共にあった。彼女は星間連盟を尊重すること、残った星間連盟を平らげようとした中心領域の勢力を軽蔑することを学んだ。ニコラスは先の戦争で父に仕えた者たちを使うことにそれなりの利点があると見ていたが、その全員が少なくとも五十代であり、よって中心領域での古い生活とペンタゴンでの新しい生活をつなぐために若い世代を参加させるのが重要であると考えた。絶対的な親SLDF一家で育ったローラは、自然と氏族の候補者となった。その手腕は彼女にファイアマンドリル上層部の地位をもたらした。彼女の軍事、管理スキルは氏族に貢献したが、若さと勢いはセインツ氏族長との対立を生み出し、ダグダ戦役を密かに危機に晒すほど関係は悪化した。ペインの決断力は氏族の勝利を助けたが、セインツへの敵意によって大氏族長の信頼は失われ、公的には表に出なかったものの、マンドリル上層部に対する彼の不満は明確なものであった。






エルヴ・ポルチェク、ナイジェル・ポルチェク
階級/地位:バーロック氏族長
生年月日:2753年3月19日(クロンダイク作戦開始時68歳)

 地球解放の後、かなりの元辺境世界軍兵士がケレンスキーのエグゾダスに同行し、その中にはアポロ戦役を戦った双子の兄弟がいた。彼らは指導者の政治に幻滅し、SLDFに加わることを選んだ。新しい生活という夢は、古い偏見が燃え上がるまでのわずか10年しか続かず、辺境世界出身者の多くは悪魔として見られていることに気がついた。エルヴとナイジェルにとって、ニコラス・ケレンスキーは希望の光であった。彼は過去の出身を重視せず、現在の能力に注目したからだ。彼についてストラナメクティに行くのは、間違いのない行動であり、双子はニコラスの新しい社会で居場所を得始めた。彼らは決断力によってケレンスキーの戦士団(やがて氏族軍になるもの)に加わったが、大氏族長に新しい氏族の指揮をとらせてもいいと確信させたのは、彼らの指導力と、完全に一体化して働く能力だった。この信頼に彼らはダグダで応えたのだった。






レイモンド・セインツ
階級/地位:ファイマンドリル氏族長
生年月日:2760年3月19日(クロンダイク作戦開始時61歳)

 ニューサマルカンドのDCMS(ドラコ軍)再充填ステーションの一士官だったレイモンド・セインツがなぜエグゾダス作戦に参加したのかは不明である。一部の歴史によると、〈マッケナ・プライド〉の点検をニューサマルカンドでしているときに本人も知らないままケレンスキー艦隊に連れて行かれたのだという。彼がファイアマンドリル氏族を率いる地位に登ったことを考えると、間違いがあったというのはありえなさそうに思える。それよりも、エグゾダス計画の秘密を守るためにSLDFに捕まったか、意図的に密航したように思える。これを解明する資料はないが、セインツはアレクサンドルの理想の強力な支持者となり、ケレンスキー兄弟、ウィンダム・ハティブとの関係を築いたことが示されている。サムライの伝統は彼に自分自身への強い信念を与え、彼を鍛え上げた。それは氏族内で役に立つだろうとニコラスが考えたものだった。最高を求めることでファイアマンドリルは駆り立てられたが、大きな弱点もまた埋め込まれた……彼らの派閥主義である。セインツには新たな友誼を育む余地が殆ど無かった――マンドリル内のあらゆる者が、ローラ・ペイン副氏族長でさえも、潜在的なライバルだったのである――それはマンドリルの中心的な教条になった。健全な競争は怒りっぽい対立に変わり、ペンタゴンでの努力を台無しにした。それは現代まで続いている。






コリーン・シュミット
階級/地位:ブラッドスピリット氏族長
生年月日:2756年10月13日(クロンダイク作戦開始時64歳)

 親衛ブラックウォッチ連隊(星間連盟第一君主の個人的な護衛)指揮官の孫娘として、コリーン・シュミットは早いうちから忠誠心と誠実の原則を学んだ。彼女はまた人類がどこまで落ちぶれるかも学んだ。祖母が死んだ後(指揮官と連隊の残存兵力はアマリスの核攻撃で死んだ)、コリーンと家族は地下に逃れた――カスケード山脈に避難して、地球の抵抗軍に加わった。彼女はSLDFに入隊したが、ケレンスキーがエグゾダスを発表した時、選択に引き裂かれた。もし彼女がケレンスキーに加わったら、アマリスの手で傷つき助けを求める数十億人を見捨てることになると感じた。一方で、将軍と兵士たちに借りがあるとも感じていた。

 シュミットはもちろんエグゾダスに加わったが、ペンタゴン内戦によりニコラス・ケレンスキーが第二エグゾダスを発表せざるを得なくなるまで、職務に没頭することはなかった。彼女はケレンスキーの理想――とりわけ新しい社会の理想――に挺身し、星間連盟が失敗したことに同意した。彼女の固い支持と引き換えに、ニコラスはブラッドスピリット氏族の支配権を与えた。腕前と栄光をなにより重視した他の氏族長たちと違って、シュミットはチームワークを提唱した――特に氏族間の。






アブサロム・トラスコット
階級/地位:スターアダー氏族長
生年月日:2755年7月26日(クロンダイク作戦開始時65歳)

 アブサロム・トラスコットと6人の兄弟たちは、数世紀にわたって軍と政府で活躍してきた一族に生まれた。アマリスが地球帝国を占領した後、上の兄弟二人(長男は帝国の外交官で、姉は地球で勤務する戦闘機パイロットだった)は音信不通となった。両親もまた政府の仕事をしていた――父親は第146親衛バトルテック師団の旅団長であり、母親は星間連盟総務部長だった。

 彼と残った兄弟たちは、ケレンスキーが辺境世界共和国への進撃をしているあいだ、母と共に残った。しかし帝国奪還作戦が始まると、彼は父に同行し、助手整備兵(後に正規の整備兵)、通信兵として働き、その後、年齢に達すると軍の訓練を受け始めた。常に学ぶ機会を求めた彼は、訓練中でさえも様々な任務に志願した。トップの成績で卒業すると、彼は容易にメック戦士の座を勝ちとり、すぐ第14親衛CAAN連隊に加わった――曽祖父であるダミアン・トラスコット将軍が創設し初代指揮官となった部隊である。

 地球上陸で連隊が壊滅するとトラスコット中尉(当時)はケレンスキーの最高司令部に吸収されて情報士官、作戦士官を交代で務め、ケレンスキー将軍の副官、護衛となった。職務中、彼はケレンスキーが戦った戦闘のすべてに参加したのみならず、モクスワ解放後にはケレンスキーの息子二人の兄代わりとなった。以来、彼の未来は確かなものとなった――将軍が死ぬまでには第149師団の指揮官に昇進し、第二エグゾダス後には、スターアダー氏族を好きなように形作る自由を与えられたのである。

 ケレンスキーの司令部で学んだ技量は、数十年にも渡る読書(最も成功したトラスコット将軍たちの日記含む)と組み合わされて、クロンダイク作戦を練るのに必要な背景を与えた――この計画は避けられない破壊から彼の氏族を救うことにもなった。彼は戦士として死んだが、彼の遺産は生き続け、子供たち(5人のうち3人がスターアダー戦士となった)をもうけたのみならず、彼が残したほとんど無限の戦闘計画は、多くが現代でも通用するものなのである。






サンドラ・ツェン、ハンス・オレ・ヨルゲンソン
階級/地位:ゴーストベア氏族長、副氏族長
生年月日:2762年10月29日&2762年8月9日(両者ともにクロンダイク作戦開始時58歳)

 サンドラ・ツェン、ハンス・ヨルゲンソンはそれぞれアマリス内戦の子供たちである――第一君主リチャード・キャメロンが暗殺される直前に生まれたのだ(ツェンはカペラ大連邦国で、ヨルゲンソンはドラコ連合のラサルハグ地区)。彼らはそれぞれ、アマリスの悪と、ケレンスキーの兵士たちの英雄譚を聞いて育ち、星間連盟のメック戦士になることを夢見た。彼らは同類たちと同じように、自国内で軍事訓練を受け、卒業すると同時に持ち場をそっと離れてケレンスキーのSLDFに加わった。ツェンとヨルゲンソンは地球強襲に交代要員として加わり、戦役の最後の数カ月を戦った。二人は戦争が終わる二日前に出会い、恋におちて結婚した。

 当初、二人はケレンスキーのエグゾダスに従うつもりはなかったが、感情と情熱に揺り動かされて、最後の瞬間に加わった。彼らは気づくと〈プリンツ・オイゲン〉にいたが、反乱に抵抗した少数派であった。バビロン上陸後、彼らはSLDFを離れ、新しく生まれた息子を育てたが、惑星上の暴力により子どもが死ぬと、「将軍」を助けるため二人とも軍務に戻った(ニコラス・ケレンスキーの第146師団)。彼らは将軍の息子の表立った支持者であり、望んで第二エグゾダスに同行した。だが、彼らの忠誠心は揺れ動いた……別々の氏族に割り当てられたのである。彼らは離れて暮らすことになるよりも、ストラナメクティの凍ったツンドラに逃げることを選んだ――その過程で、ゴーストベアの伝説が生まれた。

 もちろんケレンスキーは屈して――妻からのアドバイスもあった――彼らがともにいることを許し、ゴーストベア氏族(屋外でトーテムに守られたという伝説を持つ)の氏族長とした。しかしながらそれと同じく伝説的なのは、彼らの用心深さと頑固さで、氏族の者たちはそれを真似たがった――これが彼らにトラブルをもたらし続けた。それゆえ、実際、ベアは長年の間、ケレンスキーの氏族内に本当の仲間は一氏族しかなかった……ウィドウメーカー氏族である(ハンス・ヨルゲンソンの弟は最終的にウィドウメーカー氏族長となった)。






アントニウス・ザールマン
階級/地位:スティールヴァイパー副氏族長
生年月日:2727年1月14日(2809年1月16日死亡)

 ほぼ一般人であるアントニウス・ザールマンは地球の中流階級に生まれ、大学教育のためにSLDFの予備士官となった。民間人としては、サンパウロの中学校で子供たちに歴史と文学を教えていたが、SLDFに籍を残し続けた。アマリスの攻撃があったとき、彼は予備大隊を指揮する少佐だった。アマリスの罠は彼の部隊を壊滅させ、逃れ得たのは彼と数名の兵士だけだった。ザールマンとわずかな生存者たちは6年間におよぶゲリラ戦を行い、その後、アマリス兵たちがケレンスキーの進軍をとどめるために人間の盾を使うとの計画を聞き及んだ。ザールマンと小部隊(伝説によると三名だが、生き残った家族もいたようだ)は、ヨーク行きの船に潜り込み、簒奪軍の作戦を妨害して、最小限の民間への損害でSLDFが降下して地球を再奪還できるようにした。

 ケレンスキーは個人的にザールマンを叙勲し、昇進させた。彼は将軍の護衛部隊を引き受け、地球強襲まで部隊を率いた。彼は再び昇進し、直接の経験とレジスタンスとの多数のコンタクトを使って、地球の南アフリカ大陸での作戦立案を助けた。彼は戦争が終わり、エグゾダスし、将軍が死ぬまでケレンスキー将軍のHQに残り、その後、ニコラス・ケレンスキーの第二エグゾダスに同行した。長年の貢献を知るニコラスはスティール・ヴァイパー氏族の指揮を任せようとしたが、高齢と健康を理由に辞退し、代わりにエリー・キニスンを推薦した(この選択は、後にほとんど災厄だったことが証明される)。彼は約2年後に死ぬまで、彼女の副氏族長として仕えた。彼の孫娘、サンドラはクロンダイク侵攻軍の中で彼の地位を埋める名誉を勝ちとり、クロンダイクの終結から2年半後、副氏族長となったのだった。










新型戦闘装備




アニヒレーター ANH-1X Annihilator
重量: 100 トン
シャーシ: スターリーグMN-01
パワープラント: ニッサン200
巡航速度: 21 キロメートル/時
最高速度: 32 キロメートル/時
ジャンプジェット: なし
 ジャンプ能力: なし
装甲板: ダグダマインニング・スターシールド・スペシャル-b(CASE付)
武装:
 ミドロンエクセルLB-10Xオートキャノン 4門
 マグナ400P中口径パルスレーザー 4門
 スターフラッシュプラス・小口径パルスレーザー 2門
 エグゾスター小口径レーザー 1門
製造元: バビロン・バトルメック・コンソーシアム、ストラナメクティ・メックワークス
 主要工場: バビロン、ストラナメクティ
通信システム: キルケテック・ガレットT19-G
照準・追尾システム: エデン・マイクロエレクトロニクス・ワセット・アグレッサー・タイプ5




概要
 地球への侵攻の最終年に考案されたが、製造されたのは第二エグゾダスの数日前にようやくだったアニヒレーターは、新SLDFの都市強襲と防衛バトルメックの要求に応えたものである。元々はアマリスとアマリス兵にSLDFの力を見せつけるべく設計されたのだが、ケレンスキーは、エグゾダス後の時代に民衆の緊張が高まるなかで力のシンボルになることと、マシンと歩兵の溢れる都市部の戦場で機能する兵器になることの両方の意味を与えた。来たるべき内戦の抑止力になるには遅すぎたのだが、本機種はニコラス・ケレンスキーが20年後ペンタゴンに戻ったとき、氏族の力強いシンボルとなった。



性能
 最初に登場したアニヒレーターの唯一の任務は、どんな種類の敵からも固定した陣地(都市や基地など)を守ることである。その結果、速度はたいした問題ではなくなった。問題になるのは火力である。4門のLB-Xがアニヒレーターの主砲であり、通常弾薬が強い打撃を与えるのみならず、クラスター砲弾の射撃は車両、空中目標、歩兵に対しても同等に危険である。4門の中口径レーザーは装甲化された目標に強い近距離打撃を与え、両腕の小口径パルスレーザーは主に対人歩兵に役立つ。

中心領域内でよく知られているアニヒレーターと違って、初期氏族バージョンはきわめて固く防護されており、19トンの装甲を積んでいる――ウルフ竜機兵団が配備しているアニヒレーターの50パーセント以上はある。さらに各胴の弾倉はCASEに守られ、また高性能放熱器も使っている。



配備
 ペンタゴン内戦が勃発する直前に生産が始まったアニヒレーターは、少数のみがバビロン工場破壊前に実戦に参加した。氏族が再生産するまで15年かかったが、クロンダイク作戦前に少数が生産され、氏族軍全体につつましく割り振られた。その一方で、アニヒレーターは黄金世紀に向けて強化された氏族守備重二連星隊群の礎となった。しかし、29世紀の終わりまでに、ほぼ全機が現役を退き、ごく一部だけが(大規模にアップグレードされて)使われている。だが、ウルフ竜機兵団は中心領域での任務に備え、1世紀前のウルフ氏族によるモスボールから数機を持ち出した。



派生型
 コヨーテ氏族とスターアダー氏族の両方が、ペンタゴン戦役で学んだ教訓から改造型アニヒレーターを配備した。ANH-1Gと型番を振った技術者たちは、すべての武器と装甲0.5トンを取り外し、ERPPC1門とガウスライフル3門を載せた。

 氏族の技術が飛躍的に発展すると、ケレンスキーの子供たちは現用として使われているわずかなアニヒレーターをアップグレードして、新しい標準型とした。単純にアニヒレーターCと呼ばれる最も一般的なバージョンは、エンドースティールのフレームを使っているが、装甲が3トン分減らされており、代わりにより高出力のエンジンが載せられている一方で、LB-Xオートキャノンがウルトラ・オートキャノンにアップグレードされ、通常型中口径レーザーをER型に交換している……しかしこの派生型はパルスレーザーと頭部のレーザーを失っている。これよりあまり一般的でない派生型、C2は原型機と同じ速度を保っているが、装甲が3トン少なく、4門のガウスライフルと1門のERPPCを搭載し、1門の小口径レーザーでバックアップする。

 いわゆる竜機兵団派生型は、利用可能な技術に制限されたアニヒレーター原型機の劣化型に過ぎないものである。-1Aと-2Aの両方は一般的な中心領域技術に依存しているが、最近の-3Aと-4Aは最新技術を使って中心領域で新たに生産されており、そのメックの名に恥じないものである。



著名なメック戦士

スターコーネル・ブライアン・カブリンスキー: 生物学的祖父と同じ名前を持つスターコーネル・カブリンスキーはこの時代の伝説であった――率直で革新的な彼は黄金世紀に勝利を積み上げ、オムニメック数機種と遺伝子資産多数をゴーストベアにもたらした。だが、より伝説的なのは、最も重要な神判で彼が乗ったアニヒレーター、「ガウスジラ」である。この機体はどうにかして、驚異的なガウスライフル5門を搭載している。このメックは歴史の中に消えていったが、このメックに乗った彼の功績は氏族本拠地とゴーストベアドミニオンで話に尾ひれが付き続けている。





タイプ: ANH-1X アニヒレーター
技術ベース: 中心領域
重量: 100トン
戦闘価値: 1926

                            装備重量
内部中枢:                       10
エンジン:         200               8.5
    歩行:         2
    走行:         3
    ジャンプ:       0
放熱器:          10[20]            0
ジャイロ:                        2
操縦機器:                        3
装甲板:           304             19


        内部中枢    装甲
頭部:      3         9
胴中央:    31        46
胴中央(背面):          15
左/右胴:    21        32
左/右胴(背面):         10
左/右腕:    17        34
左/右脚:    21        41

武器・装備       配置      装備欄数    重量
LB 10-X           右腕       6      11
中口径レーザー       右腕       1       1
小口径パルスレーザー    右腕       1       1
弾薬(LB-X)20       右腕      1       1
LB 10-X           左腕       6      11
中口径レーザー       左腕       1       1
小口径パルスレーザー    左腕       1       1
弾薬(LB-X)20       左腕      1       1
LB 10-X           右胴       6      11
弾薬(LB-X)20       右胴      2       2
CASE            右胴      1       .5
LB 10-X           左胴       6      11
弾薬(LB-X)20       左胴      2       2
CASE            左胴      1       .5
2 中口径レーザー      胴中央      2       2
小口径レーザー       頭部      1       .5




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