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作成:2019/06/09
更新:2020/04/12

ライラ共和国 Lyran Commonwealth



 ライラ共和国は、ドイツ系のドネガル保護領、スコットランド系のスカイア連邦、パキスタン系のタマラー協定が合併して出来た中心領域国家です。
 国家の中心となっているのは主星ターカッドを擁するドネガルで、スカイアは反乱と独立運動が頻発し、タマラーは侵略や併合でほぼ存在を終えています。
 ライラといえば経済的に成功していることで有名ですが、軍事的には重メック偏重主義で失敗を続けています。
 3000年代には恒星連邦との合併が失敗し、大規模な内戦を経験しました。






創設家 Founding Families

 シュタイナー家は、彼らが支配する共和国と長年同一視されているのだが、国家創設には何ら関与していない。その功績は、当時の遙かに力を持った3つの一族の手に落ちる。マッキストン家、マーズデン家、タマラー家である。マッキストン氏族はスカイア連邦(高収益の商業コングロマリットであるスカイア貿易を基盤に作られた星間国家)を主宰していた。マーズデンも同じくドネガル保護領(ドネガル運輸、グッズカンパニー社の商船が保有する資源豊かな惑星の集まり)を支配していた。タマラーはその名を自分たちで作った領域に与えた。タマラー協定は肥沃な農業惑星に恵まれ、盗賊による惨劇からこの宙域で最高の訓練を受けた兵士に守られていた。

 これらの国々は、23〜24世紀に生まれた他の中心領域国家群と同じく、人類の故郷、地球に対する混乱を背景にライラ共和国となった。他の諸国とは違って、この地域の人々は地球の軍事的征服を恐れてはいなかった。彼らが感じた脅威は経済的なものだったのである。タマラー協定が誕生したのは2235年、政治的動乱が起きて地球の植民地勢力圏が激減するわずか2年前のことであった。

 経済的に彼らを富ませることも潰すことも出来る政治的潮流に敏感だったタマラー世界の商人たちは、地球が衰退すると見て、突如不確かになった宇宙で生き延びるのを保証するための措置をとった。2299年と2301年に結成されたスカイア連邦とドネガル保護領は、地球同盟の黄昏の時代に生まれた――同盟政府が暴力的に崩壊するまで10年余りであった。地球によるゆるやかなネグレクトの下で生きてきたこれら若き国家の指導者たちは、前向きな変化が見込めないことを知っており、その間も同盟の状況は悪化を続けた。彼らの世界が繁栄するには共に手を結ぶ必要があった。

 24世紀前半に生まれた地球帝国は、スカイア、ドネガル、タマラーに軍事的な脅威を与えなかった。後者の2国は地球から離れていて容易な目標とはなり得ず、地球に近いスカイア支配下の惑星は地球帝国の最初の征服方向とは真逆だったのである。2330年代までに、帝国の指導者ジェームズ・マッケナは全人類居住惑星を強制的に併合するのは無益と考えはじめ、外交に目を向けた。ライラの3国は地球の注意から大きな恩恵を受け、健全な貿易から得られた資金を開発と植民に投じた。タマラー協定とドネガル保護領は国境を大きく拡大させ、スカイア連邦は既存の惑星の開発によって工業国家となった。

 2330年代を通して、3ヶ国は結びつきを互いに強めた。各国が各国にとって有益な資源や能力を持っていた――スカイアの工場群はドネガルの豊富な鉱物資源への依存をさらに強め、両国はタマラー協定の食料に頼った。タマラーは引き換えにスカイア連邦から製品(ほとんどがドネガルの資源で作られた)を買い求めた。軍事的な懸念もまた、特にタマラー人には役割を果たした。タマラーはドラコ連合に一番近く、ドラコは2330年にラサルハグ公国を侵略することで、拡張主義的圧力をかけていたのである。次の犠牲者になることを避けるため、2339年、ケヴィン・タマラーはドネガル保護領のロバート・マーズデンとドネガル保護領のトーマス・マッキストンに3国の合併を呼びかけた。3人の指導者は2340年にアークトゥルスで会合を持った……年末近くに、彼らは3つの領域をひとつの国家にまとめた。2341年1月、地球帝国の総裁は公式にライラ共和国を承認し、恒星間国家ファミリー入りを歓迎した。





完璧な連合未満 A Less than Perfect Union

 ライラ共和国の創設者たちは、国家を自分と国民を繁栄させる手段として考え、経済の統合と9人の共同統治者地によるバランスの取れた政治システムの計画を苦心して作り上げた。ところがそうはならず、共和国創設から数十年間は経済的混乱と政治的腐敗の時代であった。3つの星間経済を統合する青写真は、理論上見事に機能するかに見えたが、実際には災厄であると証明され、惑星経済は乱高下した。統治者たちはこの変動を利用して個人的に得をする独自の地位にあった。彼らの多くは長い間小規模な額のビジネスになれていたが、大規模な額を動かすという誘惑に抗することはできなかった。彼らが財産を殖やした一方、ライラの大衆は苦しんだ。統治者たちは状況を変えたがらず、共和国の経済問題はさらに拡大した。ロバート・マーズデンは通貨投機、インサイダー取引、その他の腐敗に関わらなかった唯一の統治者で、国がゆっくりと崩壊に向かっていくのを見つめる以外に出来ることはほとんどなかった。同僚の統治者たちの協力なしには、彼は変化をもたらす力を持たなかったのである。

 2360年代後半、依然としてライラ経済が好況と不況を繰り返すなか、隣のドラコ連合は大規模な工業発展プログラムに着手した。2373年までに、この活動が実を結んだことで、連合=共和国国境の兵力はゆっくりとだが着実に拡大し始めた。ライラの中央政府が兵力増強をまかなうために税金を上げると、政治的な地獄が切って落とされた。数多の惑星で街頭に抗議者があふれ、山猫ストライキと業務停止が新たな経済的苦境をもたらしたのである。タマラー協定の一部の活動家は、共和国を離れ連合との協定を結ぶことすら示唆した。共和国は破滅するかに見えた……統治者ロバート・マーズデンが行動に出るまでは。

 ドネガル保護領のリーダーにして共和国条約への署名者である統治者マーズデンは、創設に携わった国家の崩壊を取り仕切るのを拒否した。2375年前半、彼は職務上の資源を同僚たちの汚職の証拠を集めることに向けた。そのあいだ、彼は共和国の惑星を巡る長期外遊に乗り出した。表面的には次の経済開発会議の調査任務としたマーズデンは、この外遊を惑星政府指導者から政治的支援を求め、固めるのに使った。彼はまたドネガル軍時代の古いコンタクトを復活させ、共和国軍隊内で忠実な部隊のネットワークを築き上げた。2375年8月までに、マーズデンには動く準備が出来ていた。

 その月、いつものように9名の統治者たちがアークトゥルスで会合を持った。この会議の成果はほとんどなく、マーズデンは自分が正しいことを確認するだけに終わった。他の統治者たちがアークトゥルスを発つと、マーズデンは後に残った。統治者たちが故郷に向かい、よって私兵部隊や隠れ家から離れると、マーズデンは共和国中に彼らの汚職活動について放送した。それから公式に彼らの権力を奪い取り、マーズデンがこの国で唯一の権力者であると宣言した。彼は特別放送の終わりに、暴君にはならず、過去三十年の不行き届きと公然とした窃盗行為を続けさせないと個人的な誓いを行った。代わりに彼がライラ市民に約束したのは、相当な自治権と政府に対する発言権、長年にわたり妨げられてきた繁栄であった。市民の支援と引き換えに、彼はまっとうな生活と輝かしい未来を保証したのである。

 マーズデンは、統治者たちの権力乱用に対する怒りに後を押され、望んでいた権限を得た。誠実な取引をするという評判もまた、民衆へのアピールに力を貸した……マーズデンの兵士たちが他の統治者たちを逮捕し、終身刑に追いやっても、抗議の声はほとんどなかったのである。2375年12月に三部会が結成されたことは、残った一人の統治者を支持するという大勢のライラ人の正しさを確認してみせた。この議会に似た団体は、共和国の惑星半数以上から来た代表者で構成され、各惑星は初めて政府に対して公式な発言権を得たのである。三部会の最初の行動は、ロバート・マーズデンをライラ共和国全体の国家主席(Archon Basileus)に任命することであった。

 就任してから最初の一週間で、マーズデンは新しい憲法を起草し、共和国の各世界に公布した。受諾条項は事実上所属世界の自治権を認めていた。各世界は相互防衛のために合理的な軍事的要求をすべて尊重し、惑星の総収入の一部を常備軍の維持に支出することを受け入れる。この条項はまた国家主席がライラ共和国装甲軍と共和国内に存在するあらゆる私兵部隊の上級司令官であることを示していた。惑星の大半は前者に異議を唱えなかったが、後者は少数からの激しい反対を受けた。2376年から2378年にかけて、22の惑星をのぞくすべてが調印した。反対派の一部は共和国からの独立を欲した……そうでない者たちは国家主席への権力集中を恐れた。マーズデンによる軍事支配を指摘した彼らは、三部会では軍事独裁者の権力をチェックするには不十分であると主張した。

 マーズデンのその後の行動は彼に対する見方を補強するものであった。彼に逆らった政府の惑星は、すぐに共和国海軍の艦船による封鎖を受けたのである。ゆっくりとした飢餓の中で、8つをのぞくすべての世界が屈した。残った惑星は自給自足可能で封鎖にいつまでも抵抗することが出来た。しかし、国家主席はそのチャンスを与えなかったのである。2378年の残り、共和国装甲軍はタマラー、スカイア、その他6つの世界に侵攻した。激しく血塗られた戦役で、ライラ共和国はついに統一された一方、分裂の種は蒔かれたのである。惑星スカイアは最も熾烈な戦闘に直面した……その市民たち(大部分はアイルライド系とスコットランド系の子孫)は故郷になされた暴力を忘れないと誓ったのである。その子孫たちは何世紀にもわたってこの誓いを持ち続け、しばしば悲劇的な結果を招くことになる。





時代の到来 Coming of Age

 政府の突然の転換で、経済はほとんど奇跡的に回復し、さらにライラの商業を活性化させる国家主席の政策に後押しを受けた。ライラ共和国は、ほぼ崩壊してから15年後、中心領域に輸出する商品を生産し、地球帝国軍に装備を供給する利益の大きい契約を勝ち取った。帝国とのコネクションによってLCAFは地球の最先端軍事技術を利用可能になり、拡大する自軍を武装するためにそれを使った。だが、ライラ軍の物質的豊富さは、今後何世紀にもわたって繰り返し国家に犠牲を強いる欠点を覆い隠したのである。

 貴族階級を持つ中心領域国家のすべてで、高い階級に無能な貴族が混じっているものだが、これに加えてLCAFは「社交界将軍」と呼ばれる曖昧な階級の存在に苦しめられた。共和国の初期、将軍の階級は政治的パワーブローカーや成功した財界人、銀行家など影響力を持っているが肩書きのない人物への儀礼として与えられるものだった。やがてこれらの疑似将軍たちは彼らの「軍事」配置に見合った装身具を求め、実物を使うようになっていた。次に本物の将軍たちのごく一部が、社交上の同僚から上流の生活を学んだ。24世紀の最後の10年間、ライラの将軍にとって、エレガントな会話とファッショナブルなカードゲームのノウハウが、戦場でのスキルと同じくらい重要になったのである。このような非軍事的分野の追求は、最初の数十年間は問題にならなかった。兵器の質が高かったことと他に目標があったことで、隣国の軍隊はよそで忙しくしていたのである。だが、2390年代、全中心領域の軍事化が飛躍的に進んだ。〈戦い〉の時代が頭をもたげ、ライラ共和国は上層部の社交的な優雅さのために高い代償を支払うこととなる。

 2407年、ドラコ連合の部隊がスカイア、タマラー州の間の国境地帯を蹂躙し、〈戦い〉の時代がライラ宙域に到達した。ドラコ連合の先陣がライラの首都アークトゥルスに向けて進撃し、LCAFを致命的なまでに刈り取った。侵略軍より遙かに装備の良かったライラ軍は、一貫した戦闘計画を欠いていた。軍事戦略よりも社交の得意な指揮官たちは、絶望的な最後の抵抗、あるいは無益な「栄光か死か」の強襲を命令するか、部下たちが混乱を収めようとする間、呆然と立ち尽くした。流れが防衛側に傾いたのは、アリステア・マーズデン国家主席(自身も有能な軍事指揮官)が将官を罷免し、自ら指揮権を握ってからである。2407年の夏、アリステア国家主席は兵士を率いて、惑星モーニングサイドで大きな勝利を収めた。

 だが、ドラコ連合の数個部隊が主星のすぐ近くの惑星に残っていた。三部会の許可を得て、国家主席は政府を出身地である冬の惑星ターカッドに移した。移動の直後、2408年の第一週、LCAFはドラコ連合の惑星ヴェガを叩き、ここに終結していた第2侵攻戦力を撃破した。この勝利は国家主席が失われたことですぐに輝きを失った……砂漠の惑星メンケントで立て籠もるドラコ連合の陣地に正面強襲を仕掛けて戦死したのである。ライラの指導者が死亡し、ドラコの侵攻軍が潰滅したことで、2407〜08年の危機は突然の終わりを迎えた。しかし、平和はつかの間であった。

 次の35年間で、ドラコ連合の軍隊が絶え間なく共和国宙域に侵入し、終わらない小競り合いを繰り広げた。いまだに大勢の無能な指揮官たちがいたLCAFは、先の戦い以上に負けが込んでいった。2445年までに、連合は元タマラー協定の1/5を吸収していた。共和国は新しい敵である自由世界同盟相手にも世界を失った。領土のゆっくりとした喪失を食い止めるためにライラ共和国は奇跡を必要としていた。

 2445年、それはついにやってきた。二十数年前、地球帝国は戦争の様相を一変させる兵器、バトルメックの開発を始めていた。2439年、最初のメックが披露される前に、地球帝国に商品を供給していたライラの一流軍需業者が、最高機密プロジェクトの存在を疑うようになった。ライラの良き愛国者であった彼らは、キャサリン・シュタイナー国家主席(当時)に知っていることと疑っていることを報告した。初のシュタイナーである国家主席は、バトルメックが生産されているとおぼしき最も近い地点、ヘスペラスII(当時は帝国領)に浸透するようライラ諜報部に命じた(皮肉にも、この惑星はその後、ライラのメック生産における王冠の宝石となる)。しかし、LICの成功は限定的なものだった。キャサリン・シュタイナーの息子、アリステアの代まで、ライラ共和国が人類の武器庫で最高の兵器を得ることはなかったのである。

 国家主席になる前に、アリステア・マーズデン=シュタイナーは精鋭のLCAFコマンド部隊を率いていた。2455年の前半、ドラコ連合と自由世界同盟がライラの土地を手に入れ続けているあいだ、国家主席は特殊部隊隊員による最高のチームを集め、ヘスペラスIIに送り込んだ。古典的なトロイの木馬戦術を使って、LCAFのコマンド隊員たちはバトルメック工場に入り、事実上、稼働するメックを設計するのに必要な情報すべてをコピーしてのけた。4年後、LCAFは襲撃の成果を惑星ローリックの熾烈な戦闘に投じた。自由世界同盟の侵攻軍は装甲化された巨獣を前にガラスのように砕け、同盟の総帥はぺちゃんこに踏みつぶされたのである。ライラ軍は初めて本物の勝利を得た――それは戦術的な巧妙さや戦略の輝きではなく、圧倒的な技術的優位がもたらしたものだった。

 戦場での優位は三年以内に終わった。中心領域のすべての国がバトルメックを入手したのである。2457年、商人志向のシュタイナーは、盗んだデータを恒星連邦のサイモン・ダヴィオン国王に高値で売り飛ばし、見事に利益を得て見せたのである。

 歴史の皮肉の一つとして、共和国に平和をもたらすビジョンを持ち、そのビジョンに携わる王朝を作り出す女性が、戦争のさなかに国家主席となった。キャサリン・シュタイナー(アリステア・シュタイナーの未亡人)が、2408年、夫が戦闘で死んでからわずか数ヶ月後、共和国の玉座についた。彼女が受け継いだ国は、3つの構成国のあいだで緊張が高まっており、続く軍事的敗北で状況が悪化していた。タマラー協定では、ロバート・マーズデンのクーデター以来、分離のざわめきが完全に消えたことが一度もなかった。ドラコ連合の忍び寄る領土獲得で、この感情に新たな刺激が加えられた。タマラーの指導者たちは自分の権力を強化するためにこれを利用したのである。スカイアもまた潜在的に反抗的であり、人々は30年前の強襲にいまだ騒然としていた。連合と自由世界の攻勢に直面して、両地域ともに公然とした独立の準備をしていなかったが、指導者たちは中央政府内でより大きな権力を得るため分離主義的な感情を大いに利用した。キャサリン・シュタイナーは、影響力のある地位と政策への大きな発言権を提供することで、抜け目なく潜在的な敵を取り込んだ。タマラー公爵とスカイア公爵はキャサリンの共和国評議会(8人のアドバイザーからなる団体。新国家主席が頼るとほのめかした)に任命されたメンバーとなった。

 この二人の潜在的ライバルに一時的勝利を収めたキャサリン・シュタイナーは、巧妙に感情的な操作を行い、それは政治的な才能を持ったシュタイナーたち(ライラ同盟の現在の支配者含む)の目立った特徴となった。キャサリン・シュタイナーを国家主席と確認したまさにその三部会において、キャサリンは経済成長を阻害し地域の緊張を高めてきたスカイア、タマラー、ドネガル間の貿易制限を合理化あるいは撤廃する意思を公表した。このとき、看護師がキャサリンの小さな息子を部屋に連れてきた。この少年は兵士の制服を着ていた。死んだ父が着ていたものの小さなレプリカであった。キャサリンは幼いアリステアを両手で抱きしめ、ライラ共和国を平和な手段を持ってして力強い国家にする手伝いをしたいと感動的に語った。「息子は兵隊さんごっこをしているが、兵隊になる必要はないのです」

 美しい未亡人が子供を抱きながら平和を語るという図(ビデオテープによって共和国中にすぐ広まった)によって、キャサリン・シュタイナーは市民の忠誠心以上のものを勝ち取った。戦争で疲弊した世界を再建するための大規模な政府プログラムは、この忠誠心を本物の愛情へと変貌させ、それはキャサリンの37年間の治世で深まるのみであった。2413年、共和国偵察隊が創設されたことに端を発する植民地の拡大は国家をさらに富ませた一方、人口過剰のライラ惑星に安全弁を提供した。2445年にキャサリン・シュタイナーが退位した時、後に残したのはより豊かで統一されたライラ共和国であった。ドラコ連合と自由世界同盟による侵攻は続いていたものの、ライラの人民は希望と国家的プライドを持って軍事的敗北に直面したのである。

 いつか状況は好転するという確信はわずか14年後に事実となった。LCAFは地球帝国以外でバトルメックを配備した最初の軍隊になったのである。この巨大な戦闘機械を独占したことで、2460年代には占領された世界のほとんどから侵略者を追い出すことが可能となった。戦前の国境はほぼ回復し、領土は植民を通して大きく拡大し、民衆は活発な国内取引によって豊かになった2468年のライラ共和国は、キャサリン・シュタイナーのビジョンを体現したかのように見えた。戦争ではなく平和的貿易の力に傾倒する豊かな国家というビジョンは、紛争と政治的陰謀な数世紀に渡って続くことになる。近年、キャサリン・シュタイナー=ダヴィオンはライラ同盟を作ることでこれを思い起こさせた。同じ名前の国家主席が初めてそれを実現してから650年後のことであった。

 残念ながら、共和国が新たに見つけた平和と繁栄は、人類が達成してきたすべてと同じく破滅的な事件に対して脆弱であると証明されてしまった。2468年、アリステア・シュタイナー国家主席は、不満を持ったタマラー協定の貴族が放った刺客に暗殺された。これは力を持ったタマラー公爵を破滅に導く陰謀であり、最終的に失敗した。3年後、ターカッド・シティの大地震で、マイケル・シュタイナー国家主席の妻と、三部会の議員67名が死亡した。悲しみに打ちひしがれたマイケルは、弟のスティーヴンに玉座を譲り、軍の勤務に戻った。数ヶ月後、彼は惑星ノックスに侵攻したドラコ連合軍と交戦し、戦死した。もし、スティーヴン・シュタイナーが影響を受けにくい統治者であったのなら、彼は国家が死活的に求めていた安定を回復させ得たかもしれない。彼はそうではなかった。この意志の弱い国家主席は内部の策謀が蔓延っていく25年間在位した。キャサリン・シュタイナーの時代の初期から事実上消滅していた地域間の権力闘争が、スティーヴンの無力な政府が生み出した真空に入り込んだ。それと共に、分離主義の雰囲気が高まり、すぐにも共和国は内戦へと突入することとなる。





一族分断: スカイアの反乱 A House Divided: Rebellion in Skye

 スカイア連邦の惑星いくつかがロバート・マーズデンの権力掌握と戦ったライラ共和国初期の数十年以来、スカイア地方はライラの支配王朝にとって政治的動乱の尽きることない源泉となってきた。スカイア分離主義者の熱狂が最悪の形で加熱し、26世紀の変わり目には完全な内戦へと結びついた。それはスカイア公爵とタマラー公爵が、甥であるロバート・シュタイナーの代わりにスティーヴン・シュタイナーの妻マーガレットを後押ししたことで始まった。最終的にマーガレット派は敗北したが、争いの代償は共和国に重くのしかかった。その最悪の遺産は、スカイア地方全体で憎しみに満ちた分離主義が再生したことであり、ターカッドのシュタイナー一族に対する憤慨の暗流は、権力を追い求める者たちに繰り返し利用されることになる。

 統合失調症の疑いが極めて濃いマーガレット・オルソン・シュタイナーは、声を聞き、神秘的なヴィジョンを体験していると長年にわたって主張していた。決断力に欠け、依存心の強い国家主席の配偶者として、マーガレットはただちに影の権力者となった。2501年にスティーヴンが死亡した後、マーガレットは自らが後継者だと宣言した――これは共和国の貴族たちにとっては大きな喜びだった。彼らは戦争の不当利得で金持ちになり、スティーヴン・シュタイナーの精彩を欠いた治世において軍事力を拡大させたのである。私利私欲の驚くべき例としては、タマラー公爵とスカイア公爵がスティーヴンを説得して、貴族が自世界の私兵隊をLCAF駐屯部隊より大きくしてはならないという法律を撤廃させたというものがある。廃案になると、軍拡競争が始まった。そのうち、貴族たちの何人かがバトルメック部隊すら持つようになったのである。マーガレットを支援することはこの状況を保つことで、国家主席をお飾りにする一方、貴族は自分たちの得になるよう国家を運営できるのだ。

 ロバート・シュタイナーは対称的に正気で知性が高いように見えた。スティーヴンの妹タチアナの私生児であるロバートは、惑星ポールスボーに駐屯するエース気圏戦闘機パイロットになった。最初は玉座を賭けて叔母と戦うのに乗り気でなかったものの、彼はすぐに考えを変えた。2年間で国家が急速に衰退し、ターカッドの宮殿が痴呆のカーニバルに堕したことは強い印象を与え、LCAF士官の一団がポールスボーを訪れてロバートに無条件の支持を捧げた。彼らは、手遅れになる前に正統な地位を求めて、ライラ国家を救うように嘆願したのである。

 2503年、ロバート・シュタイナーは7個師団を従えてターカッドに到着した。マーガレット・オルソンといくらかの支持者たちは数日前に惑星を脱出し、最終的にスカイア連邦で地下に潜った。解放された三部会はロバートの国家主席就任を承認し、戦端が開かれた。翌年にかけて、ロバート・シュタイナーは忠誠派を率いて、スカイア兵と小競り合いに次ぐ小競り合いを繰り広げ、マーガレットとスカイア公爵が最期の地として選んだ地域主星へと近づいていった。シュタイナー軍が迫ったそのとき、タマラー公爵に忠誠を誓う部隊が反乱軍の救援に駆けつけた……彼らの残忍な攻撃はマーガレットとスカイア公爵が逃げ出すだけの時間を稼いだ。二人はタマラーに逃亡し、ここでロバート・シュタイナーの疲弊した兵士たちと最後の戦いを行った。ファティマから惑星公爵率いる軍勢がタイミング良く到着し、疲れ切った忠誠派軍に勝利をもたらした。タマラー、スカイア公爵は最終的に反逆で処刑され、一族は爵位を剥奪され、両世界は新たな統治者たるケルスワ、レストレード氏族に与えられた。両家はシュタイナー正統への非の打ち所がない忠誠によって有名であった。

 内戦最後の戦闘はタマラーで戦われたものの、スカイア連邦はより大きな被害を被った。戦闘の大半はスカイアの世界で行われ、多くが愛すべき家族を失ったのだった。その後、ロバート・シュタイナーは戦闘での損害に自ら賠償を行ったのだが、スカイア現地民の多くは彼の寛大さをすぐにも忘れ去った。すでにターカッド政府への不信感を抱いていたスカイアの平均的市民は、スティーヴンの奇妙に行きすぎた統治とロバート・シュタイナーの戦争における大量殺戮の後、シュタイナーの者たちをひどく嫌うようになっていたのである。それからの長きにわたって、分離主義を抱いたスカイアの住人たちは、内戦の記憶を心に留める一方、だれが平和に融資したのかは都合良く忘れ去った。5世紀と少し後、紛争に対するこの見方は、あるシュタイナーの別のシュタイナーに対する陰謀に貢献することになる。





分離主義の後継者 Successors to Separatism

 31世紀半ばまで、スカイア連邦の分離主義運動は大規模に組織されておらず、反共和国・反シュタイナー感情はまとまりを欠いていた。国家主席たちの行動が分離主義者に火を付けることはあまりに多すぎた。ヴィオラ・シュタイナー国家主席(共和国を星間連盟に加入させ、再統合戦争に兵を導いた)はスカイア公爵が息子ケヴィンの誘拐に関与しているとの根も葉もない噂を聞いて猛り狂い、第25スカイア特戦隊を潰滅に追いやった。3世紀後、エリザベス・シュタイナー国家主席はドラコ連合の侵攻を阻止するのに失敗してスカイアの惑星いくつかを失い、あやうく連邦主星が犠牲になるところであった。連邦市民数十億の精神的な故郷であり、地元民の文字通り故郷である惑星スカイアが占領されそうになったことで、シュタイナー氏族がスカイア地方と民衆を完全に無視していると多くが確信したように見えた。

 さしあたり不満がない時、分離主義者のリーダーたちはシュタイナー家のドイツ血統を強調し、スカイアで圧倒的に多いスコットランド、アイルランド、イングランドの血統と鋭く対比させた。また、スカイアの平均的市民が抱いているターカッド政府への本能的不信にアピールした。ターカッドといえば、税金を徴収し、苛立つような規制を導入する何光年も離れた権威なのである。だが、31世紀の初期にいくつかの事件が発生し、スカイアの分離主義はシュタイナーを頂点とする有力な政治勢力へと変貌を遂げるに至った。

 変化は、戦術的天才だが戦争第一の傲慢な男、アレッサンドロ・シュタイナー国家主席とともに始まった。最初の大規模な勝利(2987年の自由世界同盟6惑星に対する深襲撃)で彼は最高司令部の信頼を失った。なぜなら、作戦の真の範囲を伝えるのを怠ったからである。10年後、アレッサンドロは自身の判断を過信して、バトルメック大工場がいくつかあるヘスペラスIIを失いかけた。国家主席は危険なほどに頑固な愚か者で、国家を犠牲にするほどに傲慢であるとLCAFの多くが確信した。

 3002年、国家主席は内部の惑星から駐屯兵を引き抜いて自由世界国境を強化する決断を下し、これがさらに不信を深めた。誰も表だって反対しなかったのだが、国家主席の「弱点の集中化」戦略には軍事的破滅が待っているのではないかと、個人的な恐怖を抱いた上級士官たちが存在した。アレッサンドロの姪にしてLCAF戦略戦術部門の将軍、カトリーナもその一人だった。だが、自由世界同盟とドラコ連合による攻撃の脅威にさらされるなか、表だって行動を起こすことを望む者は最高司令部内にいなかった。

 3006年、弱点の集中化政策は、自由世界同盟の大胆な強襲の下で崩壊した。同盟軍は守りの堅い国境世界を迂回して共和国内部の深くを攻撃し、駐屯部隊が国境まで移動した惑星を叩いたのである。愕然としたカトリーナ・シュタイナーは素早く動いた。過去数年間、各所から静かに支持を集めていた彼女は、「国家のため」アレッサンドロを廃位させる意思を発表した。カトリーナの側に立った三部会は、断固として現国家主席に対する不支持に票を投じた。LCAF最高司令部も同様にカトリーナについた。事実上すべての政治的・軍事的な支持を失ったアレッサンドロ・シュタイナーは、3007年7月、軽挙妄動に走らず辞任した。だが、彼はいつか権力の座に返り咲く夢を捨てなかったのである。

 アレッサンドロはそれからの20年間を故郷のフリーロで静かに過ごす一方、カトリーナの敵から役に立つ潜在的な仲間を慎重に探し求めた。彼が見つけたのは、アルド・レストレード、スカイア連邦にあるサマーの公爵であった。活気のない後背地であるサマーは、レストレードの思い上がった野心を描くには小さすぎるキャンパスであった。彼は権力を追い求め、手近にあった道具に目を向けた――スカイアの分離主義者たちである。3024年までに、アルド・レストレードは分離主義先導者たちのバラバラな集団を真に団結した運動へと作り替えて見せた。こういう絶対的な支持者たちの中核は、まさにアレッサンドロ・シュタイナーが必要としていたものだった――ただしスカイア分離主義者たちがシュタイナーを仲間として受け入れるよう説得できるのなら。元国家主席は3020年代に幾度かの訪問を行い、野心的な公爵を説得し、共通の利益と共通の敵が存在すると納得させた。レストレードと彼の運動を後援するのと引き換えに、アレッサンドロが共和国の王座に返り咲いたのなら、スカイア積年の夢である独立を与えると約束した。暗黙の内であったが、解放されたスカイアはアルド・レストレードに属するものであると両人は理解した。

 レストレードの助けを借りて、権力の奪還に自信を持った子なしのアレッサンドロは若い親類の中から後継者を探した。彼が見つけたのは、LCAFの若き戦闘機パイロットで最近政府の地位を得たライアン・シュタイナーであった。野心的で覚えの早いライアンは、すぐにスカイア分離主義運動の重要人物となった。アルド・レストレードとアレッサンドロ・シュタイナーが死んですぐ(前者は息子に殺され、後者はガンで病死)、ライアンが空いた穴を埋め、最初の機会にそれを利用したのである。

 ライアンにチャンスが訪れたのは3034年、ラサルハグ自由共和国が公式に承認され、スカイア地方に市民の騒乱が広がった時のことだった。問題の世界に駐屯していた部隊(多くが元は恒星連邦装甲軍所属)は、反対意見を厳しく取り締まった。ライアン・シュタイナーはミニ暴動に平和的な解決策を持ち込むのに成功した――この賢い政治的行動によって、分離主義工作員の支配権を奪還し、運動における彼の信用を強化し、関与したダヴィオン兵をスカイアとライラの利害の敵であると表現してみせたのである。スカイアの歴史上初めて、ライアン・シュタイナーはそれとなく分離主義者の利益をライラ全体の利益と結びつけ、ターカッドのシュタイナーが両方を無視しているように見せた。連邦=共和国結成による一般的な不安を巧みに利用したことで、ライアンは新しい国家の安定に対する大きな脅威となり、自由スカイア運動に新たな生命を吹き込んだのである。

 それから20年、分離熱はスカイア中で沸き立ったが完全に沸騰することはなかった。反連邦共和国感情とスカイア独立を結びつけたことは、ライアン・シュタイナーの利益にも害悪にもなり始めた……彼の側に立つ新人が集まったのみならず、活動家たちの多くはライアンのライバルであるメリッサ・シュタイナー(3039年にカトリーナ・シュタイナーがこの世を去ったあと統治を始めた)ではなくハンス・ダヴィオンに怒りを向けたのである。3049年、氏族がやってきて中心領域全体を混乱に落とし入れると、ライアンは侵攻をどう利用できるかわかるまで計画を棚上げせざるを得なかった。3052年にハンス・ダヴィオンが心臓発作で死亡すると、メリッサが両国唯一の統治者として残されたが、ライアンはメリッサの長年にわたる全国的な人気を落とすのは難しいと気がついた。3055年代半ば、メリッサは暗殺者の手に倒れた……1年以内にライアン・シュタイナーもそうなった。指導者を失った自由スカイア運動はまごついた。運動の参加者たちは激しい暴力の発作に怒りをぶつけ、連邦共和国の新指導者は兵士を送らねばならなかった。政治的な火災旋風を落ち着かせることができなかったヴィクター・シュタイナー=ダヴィオン国家主席=国王は、妹のキャサリンを連邦共和国ライラ側の摂政に任命し、スカイアの混乱の解決を委ねた。後にこれは、スカイアの独立ではなくライラ同盟の創設へと続く第一歩となる。





ライラの社会 Lyran Society

 忍び寄る内戦の影やその他進行中の内的ストレスがあるにも関わらず、ライラ同盟は前進国のように多くを持っている……豊富な資源、働き者の市民、そしてある程度の政治的・経済的自由がいまだ恐るべき商業力を生み出すのだ。ジェイドファルコン氏族とウルフ氏族がタマラー協定の世界いくつかを奪ったことは、最初ライラ経済に衝撃を与えたが、ビジネス界は過去10年でだいたいにおいて調整をしてみせた。ライラ市民は回復がいくらか遅いようだ。ライラ同盟の結成は近年の困難を乗り越える助けとなったが、氏族戦争による経済的困難を受けて、ライラ市民の多くが自国の力の源泉に初めて疑問を抱くようになったのである。平均的ライラ人の日常生活は、古きライラ共和国の時代とたいして変わっていない……変化したのは、平均的市民の国家と宇宙における居場所の認識である。





日常生活 Daily Life

 たまの戦争はさておき、たいていの同盟市民の日常生活は、ライラ共和国時代とほとんど違いがない。経済は氏族戦争の衝撃をほとんど吸収した……貧困はライラの歴史的水準よりもいくらか多いものの、大衆の大半は豊かなままである。自由世界同盟、カペラ大連邦国との関係強化で、ライラの消費財、農産物の市場は広がり続け、氏族侵攻による経済的変化を相当に補っている。内戦でさえも、ある種の経済成長を約束している……マーリックに浸食されている軍事製造業者が生産数を増やし利益を上げる準備を整えている(ヴィクター軍との紛争が長く続くのなら)。

 この物質的な快適さは不確かな未来(公には否定されているが、同盟中の市民がよく口にするもの)を埋め合わせる手助けとなっている。氏族国境や縮小するカオス境界域のようなホットスポットから離れている内部の市民たちは、戦争が彼らの整然とした生活をたいして乱すことなく、過ぎ去るだろうと本気で考えている。このような惑星の典型的中産階級はそう思う証拠をいくつか提示可能である。配管は機能し、電灯はともり、高速マグレブ列車は定刻で運行し、給料を受け取っている。活気のある街では、市民たちがカフェやバーに詰めかけ、商売や地元のスポーツチームの話に花を咲かせている。戦争についてはたまに出てくる程度だ。小さい街やそれほど開発の進んでない世界でも、ゆったりと流れる地元の生活が続いている。昔のライラ共和国と同じように、これらの世界は貧しい中心領域国家の羨望の的であり、ライラの国境を越えたあちこちでライラの生活の特徴である物的な豊かさに恵まれているのだ。

 ジェイドファルコン占領域近くの惑星や、スカイアやタマラーの残りなど騒がしい地域の内外では、人生への見方は厳しいものであるが、実際は違うということがよくある。ここでも街はきちんと機能し続けている。しかし、民衆は未来を悲観しているので、日々のちょっとした混乱でも計り知れない重みがある。一例を挙げると、輸入もののドネガル梨が市場から一時的に姿を消すと、チャハルの首都ではドネガルがダヴィオンの電撃的強襲の前に陥落したという噂がパニック的に広まった。実際には、この貴重なフルーツは、時季外れの寒さで初期生産分の多くが駄目になっただけなのである。数週間後、ドネガル梨がやや高い価格で市場に出回り、一緒に政府のプレスリリースが保証すると、まもなく間違った話は収まった。解放的政治という長い伝統に支えられるライラ人たちは、リーダーを信頼する習慣がある。それでも、不安は残り、それを表に出すための小さな事件を待つのみである。











LAAF 3067


同盟防衛軍 ALLIANCE GUARD

 ライラ同盟が連邦=共和国から離脱してからの数年で、同盟防衛軍(元連邦共和国軍団)は国家主席への忠誠心で有名になっていった。連邦共和国内戦の勃発時、防衛軍の全員がキャサリンに忠誠を誓っていたのではないのだが、紛争中の何段階かで全員が彼女のために戦った。消滅した連邦共和国へのわずかな忠誠心は、内戦によって死に絶え、ターカッドと国家主席に身を捧げた。どっちつかずの第4防衛軍でさえキャサリン派として戦争に引きずり込まれたが、第3防衛軍の勇敢な犠牲や第5防衛軍の第4ダヴィオン近衛隊に対する「十字軍」に比べると、関与はぞんざいなものであった。

 イサドラ・アグラヴェイン少将は、元国家主席との関係があったにもかかわらず、同盟防衛軍司令の座に残り続けている。職を解かれなかった親キャサリン最上級士官の一人である。ピーター国家主席が調査したところ、少将は戦争において不法行為を働いておらず、職務を続けているのはLAAF内の親キャサリン士官に対する和解の証であると見られている。アグラヴェイン少将は事実上の恩赦に対して慎重に振る舞っており、部隊の再建に力を尽くす(補給状況は最悪だが)一方、ピーター・シュタイナー=ダヴィオンとの付き合いを最小限としている。他のLAAF士官たちと違って、彼女は新国家主席との友好関係を模索していないのだが、敵対者の側に立つ意向も示していない。アグラヴェイン少将の忠誠心はキャサリンにある……この元国家主席が廃嫡になったことで、彼女は政治的な荒野に残されてしまった。





同盟猟兵隊 ALLIANCE JAEGERS

 3057年、同盟猟兵隊の創設に伴い、キャサリン国家主席は彼女自身に忠実な兵士たちを選んだ。従って、猟兵隊が連邦共和国内戦で重要な役割を果たしたのは不思議ではない――最も有名なのは、ライラ同盟と恒星連邦の両方で戦ったアラリオン猟兵隊と、そしてコベントリ猟兵隊である。コベントリ猟兵隊はコベントリCPMを殲滅した後、頑強に持ち場を守り、それから傭兵のクリステン・クラッシャーズに向かった。これがヴィクター国王軍を招き寄せ、全滅に結びついたのである。戦後のコベントリ戦役再調査は、ジェイソン・ウォーカーの指揮を非難しており、コベントリ猟兵隊を再建する計画は今のところ存在しない。

 猟兵隊の指揮官、クリスチアン・キャンベル中将はこの決断に反対しているが、内戦以来、彼のLAAF内での影響力は大きく低下し、いまやキャリアと地位をかけて戦わねばならないことに気づいている。前国家主席と親密だったわけではないのだが、キャンベルは宮廷との関係を悪用して快楽主義的なライフルスタイルを追求しており、ターカッド戦の後、汚職と怠慢の嫌疑が彼にかけられている。少なくとも義務に従ったと主張できる他の士官たちと違って、キャンベルの自己中心的なライフスタイルはヴィクターとキャサリンの支持者の両方から不興を買っている。ピーター国家主席がキャンベル中将を解任しないのは、ひとえにLAAF再建中に安定が必要という一点のみであるが、最高司令官は出来る限り早く交代させることを口にしている。





親衛隊 ROYAL GUARD

 親衛隊を同盟の「青き血」と表現することは、ライラ国内の軍事的・政治的知識の不足を意味する。親衛隊はLAAFで最も誇り高い職域であり、従って相当数の上流階級出身者が配属されている。だが、そのような配属者の全員が、最高の兵士であることを確実にするため包括的な審査を受けねばならないのだ。このことと、最先端の装備が組み合わされ、親衛隊は有力な軍事部隊となっている。あいにくにも、部隊はターカッドとダルキースの戦闘のただ中に立たされて、同盟軍の手で親衛隊旅団は事実上全滅した。ピーター国家主席は壊滅した部隊を親衛隊の名簿から外すことを拒否し、部隊を戦場に残すための応急プログラムを認可した。各部隊はわずか1個メック中隊とそれに見合った支援部隊を持ち、RCTどころかかろうじて1個諸兵科連合連隊と呼べるだけの戦力である。さらに親衛隊の現隊員たちは、緊急の再建プログラムで親衛隊の練度と成功の評判が疑問に晒されることを懸念している。

 常のごとく、親衛隊の指揮権は国家主席にあるが、ピーター・シュタイナー=ダヴィオンは旅団の日常業務に異例なほど深く関わっている。姉と違って、ピーター国家主席はメック戦士にして軍事指導者であり、これが親衛隊に関心を示す説明となっているかもしれない。中にはこれを第1と第2をターカッドで潰滅させたことに対する贖罪の一種であると示唆する者もいる。親衛隊に残った一部隊員たちは「破壊者」が主君となったことに憤慨しており、この態度はそれまで考えられなかったものである……親衛隊旅団が国家主席に狂信的な忠誠を誓っていないのである。もしこれを正しく処理できなかったら、部隊は国家主席の不倶戴天の敵にすらなるであろう。





地域市民軍 REGIONAL MILITIAS

 ダヴィオン家との同盟後、ライラ軍アップグレードの一環として創設された市民軍は、当初、惑星規模の市民軍部隊を好むライラ人に冷ややかな目で見られた。だが、これら簡易RCTは氏族侵攻と内戦で真価を発揮し、前線部隊のような攻撃力には欠けていたものの、戦闘で引けを取らないことを示して見せた。















ライラ同盟 Lyran Alliance 3075


指導者: アダム・シュタイナー
政府: 立憲君主制(ドイツ風封建主義スタイル)
首都、主星: ターカッド・シティ、ターカッド
主要言語: 英語(公用語)、ドイツ語(公用語)、スコットランド・ゲール語、イタリア語、フランス語
主要宗教: キリスト教(プロテスタント)、ユダヤ教、イスラム教
居住星系: 330
創世年: 2341年
通貨: クローナー



アダム・シュタイナー Adam Steiner
称号/階級: ライラ同盟国家主席、3073年〜
生年: 3024年(3075年時点で51歳)

 中心領域の統治者の中で、プロパガンダアニメヴィッドの題材になった者はそう多くないだろうが、アダム・シュタイナーはまさにその一人である。氏族侵攻の初期に有名になったアダムは、シュタイナー王朝の傍系にあたり、遠く離れたサマーセットを故郷と呼んでいた。戦争で手柄を立てた彼は、昇進を重ね、ワード・オブ・ブレイクの聖戦が勃発する直前には、最高司令官に任命されていた。

 ピーター・シュタイナー=ダヴィオン国家主席がブレイク派の占領でターカッドに閉じ込められたのに伴い、アダムはライラ国家をまとめるため指導的地位に立った。ピーター国家主席が暗殺者の凶弾に倒れるとアダムは後継者に選ばれ、かつてのメディアスターはそれを受け入れたのである。


第3ライラ防衛軍 Third Lyran Guards

 ライラ防衛軍はシュタイナー軍の中核である。最高の人材が選抜されてこのエリート部隊グループに加わり、最高の指揮官だけがその指揮を許される。隊員になれるのは、国家に忠誠を誓う兵士のみだ。同盟にとっては残念なことに、ライラ防衛軍は限界を超えて戦闘に投入された。

 ターカッド解放の先頭に立ったのは、第3ライラ防衛軍である。撃ちまくりながら、彼らは残ったトライアドに突入し、立ちはだかるブレイク派部隊を抹殺していった。敵の命のみならず、自分の命さえも省みず、無慈悲に戦ったことで、アダム・シュタイナーから「アヴェンジング・ゴースト」の新しいニックネームを授けられたのだった。


第7ドネガル防衛軍 Seventh Donegal Guards

 ドネガル防衛軍は、他のシュタイナー部隊と同じく、国家主席への忠誠を誓っている。よって、連邦共和国内戦が始まると、彼らは全員がカトリーナ・シュタイナー=ダヴィオンの側に立った――そして大きな代償を支払ったのだった。彼らは聖戦が始まるまでに再建を完了することが出来ず、再び戦争のただ中に投入されることとなった。

 第7ドネガルはコベントリへの大成功した攻撃に参加し、ワード・オブ・ブレイクから惑星を解放した。この戦役はわずか4日で終わり、第7ドネガルの損害は軽いものだった。それ以降、彼らはワードのさらなる攻撃に備えて、この世界を守っている。


第20アークトゥルス防衛軍 Twentieth Arcturan Guards

 アークトゥルス防衛軍は誇りある歴史を持ち、ライラ共和国それ自体と同じくらいに古い部隊である。アークトゥルスがまだライラ共和国主星だったころに創設された防衛軍は、共和国が関わったほとんどすべての戦役で戦ってきた。

 第20アークトゥルスはターカッドを解放した攻勢に深く関わった。戦役が成功し、ターカッドが再び自由になると、第20はアトコンガに送られ、休養と再建を行った。残念ながら、ワード・オブ・ブレイクは復讐に動き、1個シャドウ師団を送り込んだ。第50シャドウ師団が退却した時には、第20アークトゥルスはほぼ潰滅し、装備の損失は75パーセント以上、戦死者は半数以上であった。


ディファイアンス工業 Defiance Industries

 ディファイアンスはこれまで体験したことのない状況に置かれている……再建である。ヘスペラスIIへの攻撃で広大な工業地区の一部に損害が及び、全ラインが停止しさえしたが、それまで敵に占領されたことはなかった。ヘスペラス解放作戦は甚大な被害をもたらし、脱出したブレイク軍による妨害攻撃で状況がさらに悪化して、経済的な打撃が与えられた。ディファイアンスの将来における最大の問題は企業の所有権である。ブリューワーズ家が経営権を握っていることは間違いないものの、株価の変動によって取締役会の構成や各種の提携関係が変化するかもしれない。


コベントリ・メタルワークス Coventry Metal Works

 ライラ同盟において、コベントリ・メタルワークスほど問題を抱えている大企業は他にないだろう。かつては同盟でナンバーツーのバトルメック製造業者であった彼らは、ブレイク派がヘスペラスIIを占領するとディファイアンス工業の影から出られると確信した。だが、「ナンバーワン」を喧伝する広告キャンペーンは控えるべきだったかもしれない。カルマは彼らに聖戦という現実を突きつけた……ブレイク派がコベントリに侵攻したのである。他社が苦しむ中で、CMWは本社がブレイク派の拠点と化し、工場を占領する敵にメックを生産する一方、他にキャッシュフローをもたらす工場がなかったことから手元資金が枯渇した。

 どう考えても、この企業は破産するはずだが、酌量すべき状況とライラと共にあった長い歴史を鑑みて、政府は何らかの形でCMWを救済することなりそうである。コベントリ工場の復旧が最優先である一方、生産を通常レベルに戻すためには、信用と評判の立て直しが必要になっている。


ナシャン・ダイバーシフィード Nashan Diversified

 ライラの兵士にライラ同盟で最大の会社はどこかと尋ねれば、おそらくディファイアンス社だと返ってくるだろう。これは完全に間違っている。ナシャンをライラ同盟とすれば、ディファイアンスはマリア帝国である。多数の部門を持つこのコングロマリットは、ほとんどすべての産業分野に手を伸ばしている。近ごろ、ライラの諸惑星が外国軍に占領されて、市場が縮小したことから、売り上げにいくらかの打撃があったが、ナシャン社は他の企業よりも巧みに難局を逃れて見せた。CEOのマーガレット・ドゥーンズは、リソースを移動させ、ベンチャーに資金を注ぎ込んでいる。実のところ、この企業の株価は上昇している。




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