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作成:2004/02/26
更新:2010/12/03

ジェイドファルコン氏族 Clan Jade Falcon



 侵攻派氏族の代表格。スモークジャガー亡きあとは、まさに侵攻派の中心になります。ウルフ氏族が永遠のライバルです。
 ツカイード戦で、ファルコンガードを指揮していたエイダン・プライドは、ファルコン氏族随一の変わり者でこのときまでは軽んじられていました。その後、伝説となります。






背景 Background

 ジェイドファルコン(侵攻派でもっとも力を持つ氏族のひとつ)は、その哲学と勇敢さの多くを、四人の創設者から学んでいる。エリザベス・ヘイゼン、ダニエル・マトロフ、カール・イカザ、リサ・ブハーリンが、それぞれの分野で貢献したのだった。この人生と戦いに対する結合した姿勢が、数世紀のあいだ、生きる道を遵守する恐ろしい戦士の集団を作り上げた。

 第二次〈脱出〉戦争のあいだ、ジェイドファルコンは全氏族のなかで最良の分類に入る戦闘記録をうち立てた。ウルフだけが同程度に成功した。ファルコン氏族長は楽観視していた……ニコラス・ケレンスキー大族長は我が氏族に遺伝子資産を残すだろう、と。ウルフに加入するというケレンスキー大族長の決定は、ファルコン全体にショックを与えた。多くの戦士が激しい不満を表した。ファルコンは戦中に少なくともウルフと同等の成果をあげたではないか――それが共通する思いであった。大族長がファルコン領土への視察をするというニュースが届くまでに、状況は反乱に近いものまでに逼迫していた。ファルコン氏族長が見せた対応は、特徴的な残忍さと性急さを持ったものだった。現在では「より分け」と言及されるものによって、反乱活動のリーダーは検挙され処刑されたのだった。

 ケレンスキー大族長の死後、〈黄金期〉のあいだ、ファルコンの指導者は他氏族との対話から手を引いた。結果、起きたのがカースト間の紛争である。氏族長は他氏族に民間艦隊のほとんどを売り払ってしまった。この行動は未来に影響を及ぼすこととなる。ジェイドファルコンの通商崩壊を防いだのは、数名の商人だった。彼らが中間業者、銀行家になったことで、ファルコンの商人は(多くの制限があったにもかかわらず)氏族を豊かにできたのだった。

 ファルコンはもっとも保守的な氏族のひとつとなった。下層階級は氏族の出来事に口出しさせない。単一性による団結、そして力への執着は、彼らの偉大な財産である。


侵攻派への呼びかけ Call to Crusaders

 中心領域奪還の呼びかけが高まったとき、ジェイドファルコンは侵攻の最も強い提案者のひとつだった。多くの戦士が侵攻派の大儀を伝えるため、ペンタゴンワールドに旅だった。ウルフ、コヨーテ氏族は優勢を利用し、族長会議で侵攻のどんな投票でも妨害した。ゴーストベア氏族長ナディア・ウィンストンがもう一度侵攻を提案したとき、潮は満ちた。侵攻派氏族が投票で有利だった。しかしウルフ氏族のケルリン・ワード氏族長が賢い計画を提案し、侵攻を妨げた。

 継承国家の状況を知るために遠征軍を送るというワードの計画は、多くの氏族が受け入れるほどに説得力のあるものだった。しかしながら、部隊はトゥルーボーンで人選され、率いられるべきだとされ、議論が紛糾した。フリーボーンはこういった作戦に適さず、信用できないとされたのである。だが、そういった動きはすぐに負かされた。3005年、ウルフ竜機兵団がダヴィオン家に仕えた。

 次の30年にわたって、竜機兵団からの報告がぽつぽつと届いた(3030年代の初期に止まった)。侵攻派はかねてから言っていた通り、フリーボーンの部隊は信用ならないと証明するためにこの件を用いた。侵攻派、特にファルコンのリスター(ホープ)、エリアス・クリッチェルは、侵攻のときが来たと雄弁に主張した。結論が出るまでに15年……コムスター艦アウトバウンド・ライトの偶然の到着を待たねばならなかった。

 3047年、スモークジャガー氏族長レオ・シャワーは族長会議に証拠(アウトバウンド・ライトの乗組員から得たもの)を提示し、最悪の事態が起きたことを見せたのだった。彼らが信じていたことからかけ離れていたことに、継承国家は回復の途上にあり、技術の頂点に素早く戻っていたのだ。中心領域で長らく見られなかった技術は、大部分が再発見・再生されていた。全分野での技術進歩(特に軍事関連)は最優先事項であり、連邦=共和国がライバルたちに勝つように見えた。


侵攻 Invasion

 中心領域への侵攻は、ジェイドファルコンに大いなる名誉と恥の両方をもたらした。辺境への進入で悪い面を見せ、中心領域軍との戦いで(有名なケースいくつかで)良い面を見せた。外縁世界の多くは貧しすぎて適切な防衛力を用意できなかったので、ジェイドファルコンの辺境征服の多くは、中心領域から離れた戦士たちとの戦いになった。ファルコン社会を驚かせたことに、戦いの多くが予想していたような一方的なものとはならなかった。

 しかしながら惑星ストラングの戦いはファルコンにとって、災厄に近いものとなった。惑星ストラングは、氏族の歴史で長いこと非難されていたグンダー・フォン・ストラング男爵(ステファン・アマリス配下の最もサディスティックな指揮官のひとり)が本拠地としていた。クリッチェル族長は自らターキナ・ケシーク(親衛隊)を率いて惑星を強襲した。すぐに防衛隊を破壊できると確信していた。幸運が防衛隊に微笑み、ストラング軍はなんとかファルコン軍の接近を遅延させた。ファルコンは接近を続け、地形調査のため偵察戦闘機を飛ばした。ファルコンは前進し、雨の夜に戦闘を始め、立ちふさがったフォン・ストラングの城塞に突進した。このとき流れが変わった。燃料補給のため帰還していたファルコンの戦闘機が、ケシークを横から待ち伏せするストラング軍の残存兵力を発見したのだ。警告がターキナ・ケシークを救った。ファルコンは向きを変え、フォン・ストラングの軍と接近戦を行った。フォン・ストラング軍最後の一兵が強襲で倒れるまで、戦いは猛威を振るった。勝利したファルコンは首都の名前を変更し、そして侵攻の次の段階へと移った。

 未警戒の連邦=共和国を攻撃した第一波が、両社会の違いを明るく照らし出した。強く叩くファルコン星団隊(ターキナ・ケシークとファルコン・ガードに率いられていた)は、立ち向かう連邦=共和国の全部隊を無慈悲に打ちのめした。ファルコンの正面強襲戦略は多くの場合有効だった。なぜなら、連邦=共和国の兵士たちは、それを除くすべての戦略で訓練されていたからである。完全な正面強襲というのは中心領域の戦略家にとって前代未聞だった。補給と損耗率がこのような戦い方を許さなかった。ファルコンはそういった概念をうち砕いた。そして惑星の防衛隊は小規模な一撃離脱戦術でしか生き残れないことに気づいた。こういった努力はたいていうまくいかなかったが、防衛隊の多くを安全に撤兵させられたのである。

 ファルコンは3051年にトワイクロスで最初の敗北を被った。ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオン国王がエリート部隊を率いて世界を奪還しようとしたときのことである。精鋭ファルコンガード星団隊がまだトワイクロスにいるのが判明すると、計画はほぼ全面的に崩壊しかかった。ファルコンPGCとファルコンガードに挟み撃ちにされた連邦=共和国軍は、PGCの方を通って活路を開こうとした。連邦=共和国後方を叩こうとするファルコンガードを防いだのは、カイ・アラード=リャオであった。

 レオ・シャワー大族長が死に、侵攻派氏族は新たな氏族長を選ぶために、一年間、本拠地へと戻った。クリッチェル、チストゥ族長は他の侵攻派氏族と共謀して新たな大族長を選んだ。ともにウルフ氏族長ウルリック・ケレンスキーを大族長のポストに指名した。彼らの計画はウルフ氏族長を彼らの欲望の方にねじ曲げ、ウルフを足止めし、彼らの氏族が追いつくようにすることだった。多くの者を驚かせたことに、ウルリック大族長はゲームを拒絶した。かわりにスティールヴァイパーとノヴァキャットを侵攻軍に加えた。ノヴァキャットは長いことライバルだったスモークジャガーとチームを組んだ。憎むべきスティールヴァイパーと組まされたファルコン氏族長は苦々しく思った。だがウルリック大族長が「パートナー」に世界を譲れと、ジャガーとファルコンに命令すると、事態はいっそう悪くなった。スモークジャガーとノヴァキャットは、世界の交換に関してすぐに調整したが、ジェイドファルコンはヴァイパーとすべての世界で所有の神判を争った。それでも、3052年に、6氏族のトゥルーボーンは侵攻を再開し、紛争を新たに始めた。

 戦争の再開はジェイドファルコンにさらなる新たな戦いをもたらした。しかしながら、3051年11月、アリイナでヴィクター・シュタイナー=ダヴィオン国王の罠を第2ファルコン猟兵隊がかろうじて交わすと、ファルコンは敗北の痛みを再び感じたのだった。このわずかな後退は、連邦=共和国に対する印象的な連勝の償い以上のものであった。

 地球をかけた戦いが惑星ツカイードで行われる、そうウルリック・ケレンスキー大族長が発表すると、ファルコン氏族長は他の氏族よりも熱狂した。ツカイード攻防戦は、氏族による戦いでおそらくもっとも熾烈なものとなった。ジェイドファルコンは勇気と手腕を持って戦ったが、最終的に、コムガードの数的優勢と狡猾さにしてやられ、引き分けとなったのである。


ツカイード Tukayyid

 ウルリック・ケレンスキー大族長はコムスターの条件(ツカイードで地球を賭けた戦いをする)を飲んだが、他氏族に計画を表明すると、ちょっとした抵抗にあった。しかしながら、氏族のほとんどは簡単に勝利できると感じて熱狂した。また〈ダイアーウルフ〉でクリルタイ(氏族戦争評議会)が開催され、ツカイードの交戦入札が行われると、熱狂的に入札したのだった。クリッチェル、チストゥ氏族長は強襲の予定表で良い部分を勝ち取り、ウルフ氏族(大族長はジェイドファルコン氏族に恥をかかせる多くの決定をした)に復讐できると考えた。ファルコンはオラーラとヒュームチュリップスを強襲することになった。

 以下の抜粋は、ジェイドファルコン銀河隊司令官マー・ヘルマーによるツカイードの戦いの報告である。

 「氏族長、これが報告書です。ガンマ、デルタ、ヴァウ銀河隊の降下船は、何事もなくツカイードの大気圏に入り、妨害されずプリズノ平原に着地しました。スターコーネル・エイダン・プライドはファルコンガードを率いて、我々の前進の右側面をカバーし、デルタ銀河隊の第2ファルコン猟兵隊が左側面をカバーしました。また第1ファルコン猟兵隊と第12ファルコン正規隊が、〈ロビンの渡し〉とプラウ橋を奪おうとしました。この二箇所はプリズノ川を渡るのに重要だったのです……」

 第1ファルコン猟兵隊は、〈ロビンの渡し〉から2キロメートルのところで重強化陣地に遭遇した。スターコーネル・ラード・ホイトは、コムガード第403師団を縦射するために星団隊の高速メックを送り込み、一方で重オムニメックが敵陣地に直接攻撃を開始した。戦闘は長く熾烈なものだった。しかし、第403隊は戦闘機の機銃掃射とアローIVによる爆撃に直面しながらも、陣地を守った。エレメンタル1個星隊がなんとかコムガードの戦線をすり抜け、第403隊の司令部を攻撃しようとしたときに、ファルコンは初得点を奪った。この「ヘッドハンター」攻撃でロバート・マイガッター(第403隊指揮官)を殺し、貴重な補給物資と通信装備を破壊したのである。コムガードの兵士たちは総崩れとなり、ジェイドファルコンは戦線に進入し、第403隊の70パーセントを抹殺したのである。同時攻撃で、第305強襲星団隊(第124打撃星団隊にバックアップされていた)は、プラウ橋を守っていた第214師団に突進した。第214隊はジェイドファルコンの重火力の下で破壊されバラバラになった。

 そのあいだ、スターコーネル・センザ・オリエガは〈ロビンの渡し〉橋の入り口への強襲を始めた。コムガード第388師団(ホワイトバンシー)はとって返し、第403師団の残存兵力を拾い上げ、間接砲を設置し、戦車と歩兵のためにコンクリートを築いた。第12ファルコン正規隊は、この断固とした防衛に阻まれた。ファルコンガードのスターコーネル・エイダン・プライドは、ジャンプ可能なオムニメックとエレメンタルの数個星隊を率いて、予期できない側面攻撃を行い、この行き詰まりを打破した。コムガード(四方八方からの砲撃にさらされていた)は、激しく戦ったが無駄であった。特にファルコンガードのスターキャプテン・ジョアンナは、コムガードを薬箱から追い出して無慈悲に破壊するのを楽しんでいたように見えた。20分後、戦いの流れは変わり、ジェイドファルコン氏族が〈ロビンの渡し〉を支配した。第124打撃星団隊と第305強襲星団隊がプラウ橋を得るのと同時に、ジェイドファルコン氏族はプリズノ川を渡る準備を始めた。

 チストゥ族長は最初に橋を渡る名誉をスターコーネル・センザ・オリエガと第12ファルコン正規隊に与えた。この決定にファルコンガードは抗議した……我らの強襲で橋を奪えたのだと。そのような抗議に効果はなかった。ファルコンガードの戦士は、族長の決定が部隊の汚れた歴史にさらなる恥を加えたこと、また非正統派の指揮官に不名誉を与えたことを知っていた。だが、拒絶の神判をする時間はなかった。ウルフ氏族とゴーストベア氏族はすでに作戦区域に素早く進んでおり、ファルコンの全戦士はウルフを叩きたがっていた。エクシキューショナーに乗っていたスターコーネル・センザ・オリエガは、第12隊を率いて橋を渡った。彼女がちょうど真ん中まできたところで、爆発が橋を引き裂いた。コムガードが密かに爆弾をしかけ倒壊させたのだ。金属を引き裂く音とともに、橋は崩壊しプリズノ川に没した。第12星団隊の2個三連星隊が巻き込まれ、センザ・オリエガと他の者が死んだ。ほとんどすぐに、コムガードの戦闘機と間接砲がファルコンの陣地を砲撃しはじめた。同時に第111、第201コムガード師団のメックと戦車が、川の両側を奪い取った。

 第5、第14戦闘機三連星隊がコムガードの戦闘機を一掃し、続けて第201師団の砲撃陣地と地上軍を攻撃した。そのあいだに、ファルコンガードと第2ファルコン正規隊がジャンプ可能なオムニメックを使い、急流プリズノ川の狭い部分を跳んで渡った。この過程で11機のメックとエレメンタル1個星隊が失われた。渡りきると、部隊は分かれた。ファルコンガードは〈ロビンの渡し〉を確保するために、第2ファルコン正規隊はプラウ橋を取るために移動した。第111、第201師団は遅延作戦で勇戦したが、戦闘機の集団攻撃と、それに連携した予期せぬ速度の二方面攻撃で被害を受け、オラーラに撤退させられた。破壊された橋の両側が確保されると、工兵部隊が浮き橋を造る建設物資を持ってきた。氏族軍の大多数はプリズノを渡れたのだった。

 ファルコンガードと第2ファルコン正規隊は、そのあいだ、オラーラに接近していった。第77師団の戦車と軽メックによる弱々しい抵抗は、コムガードの死を引き起こしただけだった。スターコーネル・エイダン・プライドとマーサ・プライドは、オラーラ周辺に部下を導いた。都市の位置が入札のときの情報と違うことにはまだ気づいていなかった。罠を悟ったスターコーネル・エイダン・プライドは偽都市の外に出るよう命令した。だが命令を与えたまさにそのとき、第111、第201師団が第77師団の本隊とともに、隠れ家から飛び出してきて、ファルコン軍と交戦したのである。

 アルファ三連星隊の重星隊が猛烈な戦いの矢面に立ったものの、コムガードは最初の小競り合いで多量のメックを失った。クロケットを操縦していたコムガード第201師団第2大隊の司令官が最初に撃墜された。スターコマンダー・ユーラ・ハドックスのエクシキューショナーから、頭部にER-PPCの直撃を食ったのだった。コムガードは報復で、マッドドッグにレーザーを集中して破壊し、脱出したパイロットを処刑した。アルファの重星隊(包囲され、他のファルコンガードから分断されていた)は、コムガードの1個中隊を完全に殲滅し、その後、敵の大軍に押しつぶされた。最終的に、スターコマンダー・ハドックスのエクシキューショナーは撃墜され、壊れたコムガードのメックが散乱する大地に横たわった。航空支援によって、ファルコンガードはコムガードの罠から逃れた。その過程で、最後に残った第201隊と第77隊は、アルファ重星隊の勇敢な戦士を無慈悲に処刑するのと引き替えに、一掃されたのだった。

 第89、第94ファルコン星団隊、第1ファルコン軽装隊は浮き橋を渡り、速やかにファルコンガード・第2ファルコン正規隊と合流した。連合氏族軍はコムガードを追い立て、容赦なくオラーラに移動した。ファルコンが都市を支配したかに見えたまさにそのとき、コムガード第3、第11軍(6個師団の戦力)が降下船に乗ってヒュームチュリップスから到着した。これら新鮮な部隊はすぐに、前進するファルコン軍を強襲した。その一方で、コムガード第4軍(第388隊、第214隊の残存兵力で強化されていた)がファルコンの橋頭堡に全面攻撃を始めた。チストゥ族長は、ペレグリン銀河隊で〈ロビンの渡し〉を支援し、またジャイルファルコン銀河隊をプラウ橋に送った。スターコーネル・エイダン・プライドには援軍を送らず、放っておいた。

 ジェイドファルコン軍が橋で釘付けにされていたときに、第二の降下船強襲(キャサリン・ルアルカ司教率いるコムガード第1軍を運んできた)がオラーラで始まった。コムガード戦闘機が幸運にも、〈ロビンの渡し〉にあったジェイドファルコン銀河隊の弾薬庫を、空爆で破壊し、のちにこれが戦役のターニングポイントだったと分析された。第89、第94ファルコン打撃星団隊、第2ファルコン正規隊で、弾薬が不足し始めた。ファルコンガードはほとんど気にしなかった。スターコーネル・プライドは、ガードのメックをほぼエネルギー兵器に換装していたのだ。クリッチェル、チストゥ族長は気がついた……たとえこの強襲を跳ね返したとしても、ふたつの目標を得るには、弾薬と補給物資が足りない、と。彼らは渋々、撤退を命じた。

 第5戦闘機三連星隊に援護されて、ファルコンガード、第2ファルコン正規隊、第1ファルコン軽装隊は橋頭堡への撤退を開始した。軌道上にあった氏族の監視船によると、コムガード第309師団がファルコンの退却を遮断する位置に入っているとのことであり、スターコーネル・マーサ・プライドは、配下の第2ファルコン正規隊を迎撃コースに入れた。この戦いはツカイードでもっとも血塗られたものとなった。これを凌ぐのは、コムガード第7軍による、ノヴァキャットアルファ銀河隊の殲滅だけである。第2ファルコン正規隊は70パーセント近い損害を受けたが、第309師団を二度と再建できぬほど完全に抹殺したのだった。マーサ・プライドはひとりでコムガードのメック9機を破壊した。そのうちの1機は、第309師団の司令官レナード・ソーダソン司教が乗るアトラスだった。

 撤退するジェイドファルコン星団隊は〈ロビンの渡し〉の橋を渡り、降下船(元のファルコン降下地点にあった)に辿り着くため、コムガード第90師団を粉砕した。ツカイードから逃げるファルコンを止めろとの命令に応じて、コムガードはなんとかオーバーロード級降下船2隻を着陸させ、ジェイドファルコン戦線の後方に第104師団を運んだ。この作戦は、退却するファルコンへの全面後方強襲と、タイミングをあわせて設定された。ふたつの軍勢でジェイドファルコンを挟み撃ちにしようというコムガードの作戦は失敗した。コムガードが降下地点にメックを展開する前に、ジェイドファルコンの1個エレメンタル三連星隊(エレメンタルスターコマンダー・セリーマに率いられていた)が攻撃を加えたのだ。スターコマンダー・セリーマはコムガードのハイランダーにダメージを加え、降下船のメックベイに押し戻し、爆発させた。爆風の連鎖反応が引き起こされ、巨大船を燃える破片にかえた。エレメンタルたちは、二隻目の降下船がショックから回復する前に撤退した。また、エレメンタルの逆襲(そこに戦闘機の機銃掃射と強力なアローIVミサイル攻撃が加わった)によって、ジェイドファルコンのほとんどは無事降下船に戻り、惑星を離れることができたのだった。スターコーネル・エイダン・プライドは、最終的にほとんど独力で、コムガードのメック1個中隊以上を破壊し、コムスターの絶望的な撤退妨害を食い止めた……そして死んでいったのだった。







ジェイドファルコン氏族 3067


マーサへ

 シュタイナー=ダヴィオン兄妹の不平の神判は決着を見ました。アダム・シュタイナー、アーチャー・クリスティフォーリ(我らの侵攻に対し防衛を行った)、両名ともにこの紛争で名をあげたように見えます。できることなら、彼らをボンズマンとしたいものです――この指揮官たちは我ら氏族に益をもたらすでしょう。彼らの出世と同じように、我らが氏族はライラとウルフ氏族に対する神判で利益を得ました。コベントリ戦役のように、新世代の戦士に実戦を経験させ、さらなる世界を得たのです――トワイクロスの件は……残念でしたが。

 あなたの指揮した二年で、ファルコン氏族軍は修復され、拡大し、再組織されました。この報告書は今月初めの軍の概況です。

――副氏族長サマンサ・クリーズ



概要 OVERVIEW

 3057年、ウルフ氏族に対する拒絶戦争で、ジェイドファルコンが犠牲に値しない勝利を収めた後、自分たちの将来に大きな期待を抱いた者はほとんどなかった。なぜなら、最初に軍事的な、次に政治的な激変が、ジェイドファルコン氏族を苦しめたからである。だが、マーサ・プライド氏族長のダイナミックな指導の下で立ち上がったファルコンは、ツカイード戦以来、氏族を覆っていた閉塞感からいち早く抜け出した。我らファルコンは、中心領域との条約の狭い解釈で言動を縛られることがなかったし、政治ゲームにこっそり参加して陰謀を企てることもなかった。その代わりに、我らは動いた。力を証明するため、ライラ同盟のコベントリに侵攻し、新世代の戦士たちに実戦を経験させ、敵から仲間へと変わったウラジミール・ワードのウルフ氏族よりも早く軍を復旧させたのである。

 大拒絶でのコムガードに対する勝利は、ジェイドファルコンの勇気と、侵攻派であり続けることを実証した。と言っても、我らはウルフと違って、神判の条項をごまかす詭弁と言葉遊びには加わらなかった。氏族による大々的な侵攻が終わったことは分かっているが、我ら自身の氏族としての成長は妨げられない。相も変わらず不誠実なスティール・ヴァイパーは、大拒絶後の政治的余波を利用としようとたくらみ、我らが意気消沈し容易に倒せるものと誤解した。そうはならず、我らを中心領域から追い出すどころか、一転、潰走し、3061年7月4日、スティール・ヴァイパーのペリガード・ザールマンが氏族を代表してヘジラ(撤退)を受けることとなった。三ヶ月続いたこの戦役で、我らは占領域を相当に増やし、文字通り懐からヴァイパーを排除したのである。にもかかわらず、それは高く付いた勝利であった。我々は数年を物的損害回復のために費やした。

 シュタイナー=ダヴィオンの紛争で、占領域沿いの敵戦力が弱体化し、3063年の中ごろ、プライド氏族長は今一度、同盟に対する「経験を積ませる攻勢」を行う準備を命じた。今回の目的は単純で、新世代の戦士たちに戦争を経験させることだった。目標は、領土を刈り取り、占領域を広げることだ。最初の強襲は3064年5月後半に行われた……9月までに我らはかなりの成功を収めた。10月以降はやや進度が鈍ることになる。反目しあっているシュタイナー=ダヴィオンの将軍たちが、問題を脇に置いて、我らの挑戦に応じ、我らが支配している一帯への逆襲を行ったのである。ここでの問題は最終的に解決を見た。我らの意志でそうしたのだが、もしアダム・シュタイナー、アーチャークリスティフォーリ、フェラン・ウルフに忠誠を誓う反逆ウルフの介入がなかったとしても、こうなっていたであろう。敵軍は、我らを破り、ボンズマンとするチャンスがあったのだが、驚くべきことに、装備と交換で身柄の返還を申し出た。このことは、「守護派ウルフ」が中心領域に来てからどれくらいたったかを示している。真のウルフ氏族もまた、我らが同盟と戦っている間に自らの地位強化を模索し、我らの占領域への強襲に着手した。だが、我が軍の戦力と決意を考慮に入れていなかった。ウルフが我らから3つの世界を得た一方で、我らは4つを取ったのだ。

 ファルコンガードがトワイクロスで再び壊滅すると、プライド氏族長はもうこの世界を再征服しないと誓い、同盟の手に残した。氏族長の考えでは、この星は呪われた世界で、すべての権利を、ダイアモンドシャークの工業化された本拠地ルウムの領土と交換した。しかしながら、ヨナ・リーチ(トワイクロス星系内の小惑星)に、ハージェルとよく似た物質があるとの話が広まったのである。プライド氏族長は、同盟の将軍たちに対しての発言が、もうこの世界を奪還しないことを意味していると分かっていたので、攻撃を行う代わりに、前もっての合意無しでジェイドファルコンの世界に入ってきたダイアモンドシャークの艦船に対し、所有の神判を行う権利を戦艦に与えた。シャークの貿易は止められないかもしれないが、ジェイドファルコンの利益にはなろう。ファルコンの商人階級は氏族階級内で最大のものである。



ジェイドファルコン氏族軍 JADE FALCON TOUMAN

 8年前の調査では、我が軍の戦力は3個銀河隊が不足しており、多くの部隊では真の戦闘能力が公式のものと大きく違っていた。同盟、ウルフとの紛争で、軍の損害は一段階悪化したが、その大部分は補修済みである。


司令、海軍戦力 Command and Naval Assets
 氏族長の個人部隊であるターキナ親衛隊は、同盟との戦争で重要な役目を果たした。この紛争中に、7つの世界で戦っている。部隊は大量の新装備(新たに改装されたパンドラで組み立てられた物資を含む)で損失を補った。
 艦隊は、コングレス級〈グリーン・ランタン〉〈ケレンスキーズ・プライド〉、キャメロン級〈ターキナズ・プライド〉、ナイトロード級〈エメラルド・タロン〉、ブラックライオン級〈ジェイド・エリー〉〈ブルー・エリー〉〈ホワイト・エリー〉、イージス級〈ジェイド・タロン〉〈ジャニス・ヘイゼン〉〈フロスト・ファルコン〉〈ゴールド・タロン〉〈レッド・タロン〉〈ブルー・タロン〉〈ホーク・アイ〉、リベレーター級〈ガントレット〉、キャラック級〈アイアンホールド・プロバイダー〉、ワールウィンド級〈エメラルド・トルネード〉、ヴィンセントMk42級〈ライトニング・ストライク〉、ソヴィエツキー・ソユーズ級〈ホーカー〉、フレダサ級〈ケレンスキーズ・ブルース〉、テキサス級〈ファルコンズ・ネスト〉である。


ガンマ銀河隊 Gamma Galaxy: Jade Falcon Galaxy
 前線部隊であるにもかかわらず、ガンマ銀河隊はライラ同盟との戦争中、防衛的な作戦に回され、予期されたウルフ、中心領域人の反攻に対応した。それは部分的な成功となった――ファルコンガードはトワイクロスで壊滅し、他の部隊も最初の陣地から撤退せざるを得なかった――のだが、最終的に任務を達成した。任せられた世界をほぼ全て解放するか、守ったのである。トワイクロスでの敗北は、ガンマ銀河隊の最も有名な敗北となったが、彼らの責任とはされなかった。ファルコンガードをもう一度再建すべく、プライド氏族長は、スターコーネル・ダイアナ・プライド(伝説的なエイダン・プライドの娘)に権限を与えた。


デルタ銀河隊 Delta Galaxy: Gyrfalcon Galaxy
 サマンサ・クリーズ副氏族長に率いられ、オメガ銀河隊に支援されたジャイルファルコンは、二線級、候補生中隊による「実地訓練」強襲実行のため、同盟への攻撃の尖兵となり、降下地点を確保した。デルタ銀河隊は同盟と見事に戦い、数個星団隊がコルマーでウルフと戦って役目を果たした。


カッパ銀河隊 Kappa Galaxy
 暫定的な部隊として、オメガ銀河隊の一部と新部隊いくつかを組み合わせて作られたカッパ銀河隊は、最近の紛争で良い成果を残せず、同盟相手にブラックジャックとグラウスを失った。にもかかわらず、プライド氏族長は部隊の編成を永続的なものとし、部隊を鍛え上げるためセリンディン・プレンティス(第1ファルコン軽装隊、元指揮官)を任命した。


オメガ銀河隊 Omega Galaxy
 カッパ銀河隊の創設で弱体化してしまったのだが、オメガは新たな2個エリー部隊を受け取り、守備、訓練銀河隊としてよく働いた。だが、人員増加で、オメガ全体の経験レベルは他の部隊よりも著しく低下した……ファルコン軍内で、兵士と装備の完全な定数がほぼ保証されている唯一の部隊ではあるのだが。


ロー銀河隊 Rho Galaxy
 二線級部隊であるものの、ロー銀河隊は同盟への攻勢において重要な役割を果たした。オメガ銀河隊と同じく、その重要な任務は、新兵たちに実戦を経験させることだった。エリー星団隊が1個しか所属してない状況で、経験ある人員の損失はそれほど痛手とならず、攻勢部隊として犠牲的に機能するのを可能にした――バーバー・マローダーIIsの殲滅と、ウルフ占領域への反撃で実証されている。


イオタ銀河隊 Iota Galaxy
 スティールヴァイパーを「処理する」というギャラクシーコマンダー・グラン・ニュークレイの野心は焦点を失ったように見える。数ヶ月以内に何らかのテストを行うのではないかと見られている。


イプシロン銀河隊 Epsilon Galaxy
 イプシロンは同盟の反攻を防ぐ重要な役割を演じた。型破りな戦術でホットスプリングスを守ったことで、スターコーネル・ダイアン・アヌには、称賛と、同程度の軽蔑がもたらされた。部隊は最後の局面でバトラーを奪還し、ダークネビュラからの脅威を最終的に終わらせた。


ミュー銀河隊 Mu Galaxy
 ウルフ相手にクォレルを失ったにもかかわらず、ミュー銀河隊はなんとかラ・グレイブに対する強襲をはねのけ、反撃を率い、激戦の末ドメインを抑えた。だが、最高の野戦士官がカッパ銀河隊の指揮官となってしまったことで、部隊の有効性は土台を崩されたのだった。


ラムダ銀河隊 Lambda Galaxy
 過去十年で、氏族本拠地と中心領域の通過地点警護を任せていたプライド氏族長は、同盟への強襲に先んじて、戦力強化のためラムダ銀河隊を中心領域へと持ってきた。彼らが見事に仕事を遂行した後、元の任務に戻される徴候はまったくない。


シグマ銀河隊 Sigma Galaxy (Turkina's Eye)
 前副氏族長ティムール・マルサスの部隊は、ここ5年で散発的な戦闘しか行っていないが、拡大した本拠地世界の領地(ジャガーの元主星が筆頭)を上手く守れるように改編された。これは珍しいやり方であるが、プライド氏族長はマルサスをストラナメクティ氏族評議会の公式な代理人に任命し、事実上、彼を第二の副氏族長としている。


ゼータ銀河隊 Zeta Galaxy (Turkina's Beak)
 第74戦闘星団隊の配置転換(現在は新たに獲得したルウムの領地を守備している)は、ゼータ銀河隊を強化した……と言ってもファルコン前線部隊で最弱である。







氏族創設者


エリザベス・ヘイゼン ELIZABETH HAZEN

 ジェイドファルコンの歴史が真に始まったのは、地球の北アメリカ大陸、バージニア州、アレクサンドリア市で、エリザベス・シンシア・ヘイゼンが生まれたときのことである。法律上の成人に達すると、エリザベスは星間連盟防衛軍に入隊し、すぐにメック戦士、リーダーとしての優れた力量を示し始めた。アマリスのクーデター時にはわずか25歳だったのだが、ヘイゼンはすでに、キャメロン一族のエリート儀仗兵隊である親衛ブラックウォッチ連隊の中隊指揮官であった。

 ヘイゼン大尉は、簒奪者がリチャード・キャメロンを暗殺し、兵士たちがブラックウォッチを殲滅したその日、中隊にいなかった。彼女は墜落事故を起こした兄、ライオネル(ブラックウォッチの気圏戦闘機パイロット)のところにいたのだ。アマリス兵がヘイゼンの兄がいる病院を急襲し、患者たちを駐車場に出し、歩けなかった者(ライオネル・ヘイゼン含む)を置き去りにした時、エリザベス・ヘイゼンは非常に悪いことが起きていることに気が付いた。アマリスが示した残虐性の典型として、彼はおびえる傍観者の前で病院を爆撃した。

 エリザベス・ヘイゼンと他数名は続く混乱の中、どうにか魔の手を逃れることに成功した。その後の数ヶ月間、そして数年間、エリザベスは抵抗を切望する兵士、市民を集めた。彼らは、ペニンシュラ半島の山と森で活動するゲリラ部隊、ゴースト・オブ・ブラックウォッチ(GBW)を結成し、すさまじい技量と怒りをもってアマリスの戦略拠点を叩いた。

 クーデターから10年後の2779年、ケレンスキー将軍の部隊が地球をアマリスの支配から解放した。エリザベス・ヘイゼンと仲間たちは隠れ家から這い出てきて、ケレンスキー将軍から「飢えた狼の群れのようだ」との言葉を受け取った。星間連盟はエリザベス・ヘイゼンに絶え間ない忠誠の報償として星間連盟名誉勲章を授与し、オーダー・オブ・ソードに向かい入れた。彼女はこのような栄誉を得た最後の一人となった。

 ゴースト・オブ・ブラックウォッチは10年間におよぶ抵抗の中で、多大な肉体的、精神的苦痛を被った。エリザベス・ヘイゼンは最も苦しんだ一人かもしれない。ケレンスキーが幕僚の地位を申し出ると、彼女は代わりにSLDFからの除隊を要求した。1年間、彼女は地球を放浪し、旅費のため時々英語を教え、最後には語学教師としてブダペストに腰を落ち着けた。丘の上にあったカソリックの修道院がエリザベスに鷹狩りを教えた。

 ケレンスキーはステファン・アマリスを打破した後の3年間、五大王家の指導者たちが新たな星間連盟の第一君主を選び出すのを待った。議員君主たちが新しい第一君主を選ぶのに失敗し、さらなる権力を求めて星間連盟を解散したとき、ケレンスキー将軍は来るべきハルマゲドンに直面するよりも、兵士たちに脱出命令を出すことを選んだ。どうしたものか、エリザベス・ヘイゼンは何が起きたかを知っていた。ジェイドファルコンの詩集とローアマスターの多くは、ドシェヴィラー将軍がブダペストにおもむき、話したと信じている。この話は我らの歴史家が確認したものではない。この話は、エリザベス・ヘイゼンとアーロン・ドシェヴィラーが一時的な友情以上のものを持ったとの未確認の意見に説得力を与えている。

 残された事実は、エリザベス・ヘイゼンがエグゾダスに加わり、ケレンスキー将軍自身によって少佐の階級と、ドシェヴィラー将軍の幕僚の地位を与えられたことである。

 記録された歴史では、ヘイゼン少佐がエグゾダスでどのような役割を果たしたかについてほとんど語られていない。おそらく彼女は〈プリンツ・オイゲン〉の反乱まで自分の時間がほとんどなかったと思われる。エグゾダス艦隊の戦艦9隻がケレンスキーに逆らい、地球に戻ることを決めた時、ケレンスキーは逃げる反逆者たちを捕らえるため、ヘイゼン少佐を含む大規模な部隊を送り込んだ。追撃隊が9隻の反乱船とともに戻ると、ケレンスキー将軍は指導者たちの処刑を命じ、ヘイゼンを銃殺隊の指揮官の一人としたのだった。


ターキナの伝説 THE LEGEND OF TURKINA

 地球から離れる行程の中で、ケレンスキー将軍と仲間たちは、かろうじて住むのに適した星系の星団(1回のジャンプ距離内にある)にたどり着いた。兵士たちと、地球から遠く離れるという計画に同調した民間人たちは、これら5つの世界に入植し、アルカディア、キルケ、ダグダ、エデン、そしてバビロンと名付けた。

 数年間のうち、将軍の信奉者のあいだで平和が広がったが、生活は危険なしでというわけにはいかず、入植者たちは新しい故郷に慣れるために戦い、努力した。この仕事を達成するために、ケレンスキーは部下たちの武装解除が必要なことに気づき、戦力の75パーセントを削減した。一連の厳しいテストをパスしたのは、最も熟練した兵士たちのみだった。エリザベス・ヘイゼンは簡単にパスしてその地位を守り、ダグダの駐屯部隊を指揮した。ここで彼女は、作られたばかりの文民政府に没頭するようになった。

 この平和な数年のうちに、エグゾダスした科学者たちは、遺伝子工学の分野で最初の大きなブレイクスルーを達成した。その初期において、特に植民者たちを脅かしている原生生物を狩るために設計された、補食動物が生産された。おそらく、それら人造生命体の中で最も美しかったものが、ヒスイハヤブサ(ジェイドファルコン)だろう。ハヤブサとシロハヤブサの遺伝子から作られたヒスイハヤブサは、地球で最大サイズの猛禽類である。鋭いかぎ爪を持つヒスイハヤブサは、惑星エデンの原生生物、大型で毒と羽根を持つエデン・サーペントを狩った。ヒスイハヤブサはすぐさまダグダに輸出され、似たような脅威に対処することになった。この惑星でのヒスイハヤブサの獲物は、植民者がダグダーと名付けた家畜を襲う巨大な鳥類に似た生物である。

 氏族の口伝によると、エリザベス・ヘイゼンはヒスイハヤブサを飼い慣らし、訓練した最初の一人となった。彼女はこの宝物にターキナと名付けた。由来は特に力を持っていた、地球の古代モンゴルのハーンの妻である。ペンタゴン中でヘイゼンとターキナの姿はおなじみのものとなった。話によるとターキナは女主人の心を読んだとさえ言う。

 そのような話のひとつで、エリザベスは土地に途方もなく高い根付をしていると感じた開発業者に挑戦した。彼女が嫌疑を突きつけた時、彼は「事故」が起きると彼女を脅した。他に誰もいなかったので、その後何が起きたのか知るものはいない。彼女は身を守る方法があると答え、快晴の空に浮かぶ小さな点を指さした。直後、ターキナは激しい金切り声を上げ、羽根を畳み、驚く開発業者にまっすぐ急降下した。ターキナがターンしたのは、彼の顔からかぎ爪がわずか数センチのところだったのである。

 ヘイゼン少佐とターキナは望んでもいないのに有名人となったが、彼女らの名声は、食糧と重要な物資の不足でダグダやその他のペンタゴンワールドの世界に緊張が高まると、すぐに忘れられたのだった。この緊張は文化の違いに根ざす古い確執を燃え上がらせ、非常に素早く、暴力的に発展した。星間連盟の守護者の称号を再び得たケレンスキーは、状況を緩和し、内戦を避けるための外向的軍事使節を派遣する準備を行った。彼はドシェヴィラー将軍と次席指揮官のヘイゼン少佐に、リャオの分離主義者の武装解除を命令することからはじめた。エデンの南方大陸にいた彼らはすべての平和的な提案を拒絶したのである。

 この命令を受けたとき、エリザベス・ヘイゼンはウィルスに冒されたターキナの世話を行っていた。ヘイゼンがエデンに発つ二日前、伝説のターキナは死亡した。ファルコンの仲間を失ったエリザベスは打ちのめされ、心痛を抱えたままエデンに向かった。

 10日後、ドシェヴィラーとエリザベス・ヘイゼンはメックを使って歩兵隊をうっそうとしたポキール・ジャングルに導いた。赤みを帯びた真昼の太陽の下、この部隊は入植地に入り、待ち伏せを受けた。

 エリザベス・ヘイゼンのメック、ブラックナイトが最初に撃墜された……油で満たされた落とし穴に足を踏み入れたのである。メックがつんのめり、胸まで黒い液体に埋まるとエリザベスは緊急脱出し、次の瞬間、爆発が起きた。焼死を免れたもののすぐに次の危機は迫った。固い地面に着地すると、弾丸が彼女のヘルメットを叩き、昏倒させたのである。

 ヘイゼンが目覚めると、見たのは絶望的な戦いだった。ドシェヴィラーのメックもまた落とし穴に落ち、押しつぶされた右脚を引きずっていた。だが、将軍はベイルアウトする代わりに危険を顧みず武器を撃ち続けた。リーダーを守ろうと兵士たちはメックの周囲を守り、猛烈な射撃の段幕を浴びせはじめた。

 エリザベス・ヘイゼンがコクピットのハーネスを外して、戦いに加わろうとすると、ジャングルから携帯ミサイルが発射される音を聞いた。ミサイルの一部は目標を外し、木を炎上させた。他は歩兵のあいだに落ち、死ぬまでの数秒間、燃えるゼリーが彼らの肉体を生きながらにして焼いた。

 だが、ミサイルの大半はドシェヴィラーのメックに命中し、燃える石油化学製品を塗りつけ、油のプールに火を付けた。エリザベスにはメックの中で熱が上昇し、危険な水準にまで達するするのを想像することができただろう。彼女はドシェヴィラーが脱出したことを祈ったに違いない。

 メックのハッチが開放され、つかの間、エリザベスの祈りは届いたかのように見えた。直後、ジャングルからメックに向かって次のミサイルがやってきた瞬間、将軍の射出座席が燃えさかるメックから飛び出した。ミサイルのうち一発が将軍に直撃し、火球、煙、破片を作り上げた。

 「ファルコンのヴィジョン」と呼ばれる物語は、ドシェヴィラーの死とその後の出来事からできている。エリザベス・ヘイゼンが死んだ直後に書かれたというこの物語の華美な文章は非常に長いのだが、きわめて美しいものである。すべてのジェイドファルコン訓練生は、訓練中にこの物語を記憶し、卒業の際にそれを暗唱する。

 この物語は、エリザベス・ヘイゼンが戦いに戻り、特に激しい暴力と残虐なやり方で多くの敵兵を殺し、それから残った兵士を率いて分離主義者の要塞への攻撃を成功させたところで締めくくられる。

 暴動と反乱は他のところで続いた一方で、全面的な内戦がエデンで勃発した。おそらくそれは古き戦友であるドシェヴィラーの死で、おそらく別の内戦に直面したことへの絶望かもしれないが、アレクサンドル・ケレンスキー将軍の死後からそう遠くないうちであった。息子であり後継者のニコラスは暴力の連鎖を止められないことに気づき、戦い続けるよりも炎をさらに燃え上がらせ、すぐに燃え尽きさせることを決めた。

 仲間を集めたニコラスは、再びエグゾダスを実行した。このときはストラナメクティから近くの球状星団までである。彼の戦艦がペンタゴンを離れた時、エリザベス・ヘイゼンはその横にいた。

 もちろん、ハヤブサのターキナがその死、距離、自然法則を超えて、元の飼い主のところに現れたというのは滑稽であるが、ジェイドファルコンの者たちはある種の宗教としてこの話を支持している。




ダニエル・マトロフ DANIEL MATTLOV

 戦闘機パイロットとしての相当な能力と同じく、ケレンスキーへの忠誠心で知られる兵士、ダニエル・マトロフはニコラス・ケレンスキーの第二エグゾダスに加わった。

 帝国の世界、カフで、カフ公爵の次男として生まれたダニエル・マトロフは、地球帝国で最も裕福かつ影響力を持った一族の一員であった。成長した彼はビジネスか政治の場で活躍するという家族の期待を裏切って、星間連盟防衛軍に入隊することで反抗した。彼はグラハム飛行学校で戦闘機パイロットの訓練を受け、優等で卒業し、第11親衛バトルメック師団(オリオン師団)のエリート戦闘機大隊に着任した。

 彼の軍でのキャリアは矛盾に満ちている。戦闘機パイロットとしては優秀かつ勇敢なのだが、横柄で高慢な態度と短気によって何度も懲戒され、中尉より上に昇進するチャンスが失われた。これらの事件(全部で29回)は、SLDF、彼の部隊、指揮官のうちいずれかを侮辱した者に対する暴行であると報告されている。彼の強烈な忠誠の感覚は彼の人生を支配した。なぜジェイドファルコン氏族の戦士たちが忠誠を何より重んじるか、その理由になっているかもしれない。

 問題はあったが、マトロフは優れた兵士であることを証明した。彼は2765年に始まった辺境の反乱鎮圧と、地球帝国を奪取したステファン・アマリスとの戦いで素晴らしい活躍を見せた。彼はエース10回分以上の撃墜を記録し、5回負傷した。最後の1回は、カフで炎上する戦闘機をアマリスのメック縦列につっこませた時のことである。このクラッシュの傷は深かったことから、医者はもう助からないと心配した。

 だが、彼は生き延び、ケレンスキー将軍がエグゾダスを呼びかけた時には、かろうじて歩けるだけだったものの、最初にケレンスキーを支持したグループの中に入っていたのである。同行する決断を下すのは簡単ではなかった。彼の家族全員が、アマリスのカフ侵攻か占領の際に死亡し、マトロフに公爵の称号と一族の富が残されていたからだ。

 ケレンスキー将軍とSLDFへの忠誠が勝った。ダニエルは一族の未来と富を遠縁の従兄弟に託し、エグゾダスに加わった。エグゾダスとペンタゴンワールド植民におけるダニエル・マトロフの活動は大部分が不明であるが、短い数枚のカルテによると、兵士生命は終わったという医師の判断に逆らって、気圏戦闘機パイロットを続けていたようである。

 アレクサンドル・ケレンスキーがエデンの反乱を鎮圧しようと準備している最中に死ぬと、ダニエル・マトロフはニコラスに忠誠を誓った最初の一人となった。おそらくケレンスキー星団近くのストラナメクティへエグゾダスした最中に、支持者仲間のエリザベス・ヘイゼンに会ったのだろう。両者がニコラス・ケレンスキーの理想への献身を同じように抱いていることを認識したとき、屈託のない友情が二人の間に生まれた。

 ニコラスがペンタゴンワールドにはびこる内戦を終わらせる名誉を与えられた20氏族の予備名簿を発表したとき、そこにダニエル・マトロフの名前はなかった。怒り狂ったダニエルはニコラス・ケレンスキーと幕僚たちに立ち向かい、この侮辱の理由の説明を求めた。健康状態を理由に名簿から外したと説明されると、マトロフは反論した。もう気圏戦闘機を操縦することはできないかもしれないが(最後の墜落で彼の肺は治療不可能なまでに損傷した)、「どの馬鹿共より上手くメックを操縦できる」だろうと。

 今回だけは、彼の不作法は懲戒ではなく尊敬をもたらした。ダニエルはメック戦士としての訓練に没頭し、戦闘機と同じくらいメックの操作に熟達したことを証明したのである。

 ニコラスの20氏族の最後の名簿はダニエルに大いなる誇りを与えたに違いない。彼の名前は参戦する戦士の一部に加わっていたのである。そしてジェイドファルコンの上官は、友人のエリザベス・ヘイゼンだったのだ。




カール・イカザ CARL ICAZA

 ニコラス・ケレンスキー最後の名簿は、カール・イカザをジェイドファルコン氏族歩兵の指揮官とした。氏族の伝承はカール・イカザの話で満たされている一方、彼の前半生は我らの研究者にとってつかみ所のないものだった。

 カール・イカザのルーツをたどるのが難しいのは、イカザが本名でないからであると我らはついに突き止めた。発見したところによると、彼はライラ共和国、スカイアにカール・ベンノとして生まれ、さらには3年間服役していたという。かなりの体格と体力を持つカール・ベンノは、きわめて伝統主義的な惑星スカイアの階級システムに激しくあらがった。若い頃の彼は設備作業員たちの労働組合を作ろうとしてサングラモア軍養成校を二度追放された。養成校長にしてリベラル的な思想を憎悪するヴィモンズ・ドナコゥスキー伯爵との長き対立は、その後彼を刑務所に送ることになる。

 彼らの絶え間ない小競り合いは、コカブ公爵の長女で後継者、ジーナ・ドラリスがキャンパスに姿を現した時に大きく変化した。突然のドラマチックな情熱がカールとジーナの間に燃え上がり、ジーナはドナコゥスキー伯爵をあしらった。ドナコゥスキーは自らの持つ政治的、社会的影響力のすべてを使って若い二人の人生を台無しにする決断をした。

 もしそれが失敗していたら、カールはのちにライラ共和国に対する反逆で告発されていただろう。主任検察官となった伯爵は、カールが重要な生徒に関する情報を地球帝国の工作員に渡したとして起訴し、物的証拠を提出した。一見したところ、告発は嫉妬した伯爵が作り上げたものであるように見えた。ところが、より詳細な調査によると、彼がカールを陥れた、証拠をねつ造したという確証はないのである。

 刑務所で過ごした時間はカールの人生を一変させた。裁判関連で辱められたジーナはカールとスカイアを離れ故郷に戻り、カールに残されたものはライラ共和国にほとんどなかった。仮釈放の直後、カール・ベンノはスカイアを離れ、カール・イカザの名を使って地球帝国に向かった。そこでSLDFに入隊した。(出獄後、彼が伯爵の監視を交わすのに成功したことは、カールが本当に帝国の諜報部との強い関わりを持っていたことを証明するものである)

 新しい名前で、カールは地球にあるウェストポイント陸軍士官学校の士官候補生となり、3年後、歩兵中尉として卒業した。彼は優秀な成績で各部隊に勤め、アマリスの反乱の時には、第17ジャンプ歩兵師団(ゴールデンタロン)の第889ジャンプ歩兵連隊を指揮していた。

 クーデターの際、帝国のすぐ外に駐屯していたゴールデンタロンは、簒奪者を倒す上で重要だがほとんど忘れられた役割を果たした。彼らは帝国世界の近くに駐屯していたSLDFの生存者たちが脱出するのを助け、それからアマリス軍の気概を試すために調査攻撃を仕掛けた。これらの激しく、時に残虐な戦いは、SLDF軍にとって多大な犠牲を伴った。彼らがカペラ大連邦国から受け取った兵站支援は最も基本的な部分だけであった。

 イカザの第889(ヘッドハンターズ)は、帝国の世界、エプシロン・エリダニへの破滅に終わった攻撃で先陣をつとめた。彼らが命じられたのは、南方大陸、ダイアモンド山脈に隠れていると噂されていたSLDFの兵士たちを探し出し救出することである。救援任務はアマリス軍による策略であると判明し、多くのSLDF兵士たちが罠にかかった。続く虐殺で第889は戦闘部隊として終わった。

 イカザ大佐はアマリス兵に捕らえられ、ゴールデンタロン率いるSLDFがこの世界を解放するまでの9年間、日常的に拷問を受け、辱められた。イカザはそのようなひどい状況でどうこれほど長く生き延びたか語らないが、おそらくそれは純粋に強情さによるものだったろう。ケレンスキーがエグゾダスを呼びかけたとき、イカザが志願したのは当然だろう。彼は人類史上で最悪のものを目撃し、おそらく中心領域との距離をできるだけ置きたがったのだ。

 ペンタゴンワールドでの内戦が避けられないものとなると、ダグダの連隊指揮官だったイカザは、守護者アレクサンドル・ケレンスキーとその息子に対し、即座の厳格な軍事行動の許可を求めた。ウルフ氏族とスティールヴァイパーのローアマスターによると、この時期、イカザの精神状態が疑われはじめたという。部下に過度な暴力をふるうこと、民間人を手荒に扱うこと、その他の奇妙な振る舞いから、同僚たちは彼の解任を口にした。ニコラスはきっぱりと拒絶した……彼とイカザはエグゾダスの際に親友となっていたのである。

 アレクサンドルの死と、ニコラスが新しいエグゾダスを呼びかけたことは、この年老いた兵士を新しい人生に投げ込んだ。20年におよぶストラナメクティでの自発的亡命は、彼をむしばむ悪魔の呪縛から逃れる時間と機会を与えた。ニコラスは戦士800名からなる打撃部隊を作り、イカザに新しい歩兵部隊組織、戦術で訓練する任を与えた。その一方で、ニコラスは部下たちを我々が現在見ている氏族のシステムに基づく新秩序に組織した。この新秩序はあまりに多くの内戦を生み出した人々の欠点を取り除くことになるものだ。また、ペンタゴンの交戦中である世界を征服するのに必要な部隊を訓練することも可能になった。

 ついに準備が完了すると、ケレンスキー大氏族長はジェイドファルコン氏族を、ヘルズホース、ウルフ、スモークジャガーとともに、エデン解放を担当させた。エリザベス・ヘイゼンはこれをドシェヴィラー将軍の死に対する復讐のチャンスと捉えた。カール・イカザはこの任務を、民衆にいくらかの秩序と規律を与えるのに利用するつもりだった。

 4つの氏族はペアになって降下した。ジェイドファルコンはウルフと組んで、惑星で最大かつ最も重要な大陸を奪い取り、統制することになった。エデンにたどり着く前から、ふたつの氏族の間には強いライバル心が燃え上がった。ニコラス・ケレンスキーは士気を挙げるのにいいと考え、競争を助長した。

 数週間後、カール・イカザの歩兵ポイントが、ウルフのメック星隊とほぼ同時に敵歩兵を発見したそのとき、士気のためのライバル心は完全な対立へと変わった。礼儀正しく戦闘の権利を主張したカールと兵士たちは、敵と交戦するために動いたが、ウルフのメックが追い抜き、敵の隊列につっこんで、大半を抹殺し、残りを追い散らしたのである。怒ったカール・イカザは、ウルフの指揮者、スターコマンダー・フランクリン・ワードがメックを下りるやいなや殴りつけた。これは乱戦の開始の合図となり、ウルフのメック戦士5名が敗北した。ヘイゼン氏族長とウルフ氏族長フェトラドラルの到着によってこの戦いは終わった。戦いの理由を知ると、両氏族長はカール・イカザたちの戦う権利に侵害したとがでメック戦士たちを鞭打ちするよう命じた。




リサ・ブハーリン LISA BUHALLIN

 ウルフのメック戦士が罰せられたにもかかわらず、ジェイドファルコン氏族とウルフ氏族のわだかまりは続いた。エデンを奪取する戦役の間、このふたつの氏族は繰り返し重要な目標を強襲する権利を争った。これらの論争が解決できないと判明した時、氏族長たちは両氏族の破滅的な戦闘を防ぐための唯一の方策として、意見の相違を解決するための厳密に管理されたルールを作り出した。これらのルールの一部は、氏族の神判に組み込まれ儀式化された。

 ジェイドファルコン氏族はエデンの大部分を征服した。その理由の大部分は、ヘイゼン氏族長が、彼女とニコラス・ケレンスキーに反抗したかもしれない者を皆殺しにすることで、ドシェヴィラー将軍の死に容赦ない報復を加えたからである。エデンが征服されると、ジェイドファルコン氏族とウルフ氏族はダグダに向かい、この特に反抗的だった世界の制圧を支援した。

 ニコラス・ケレンスキーが氏族を作ったとき、彼はかなわぬ敵と戦うことで栄誉を勝ち取れると強調した。しかし、ペンタゴン再征服が終わりに近づいたとき、ケレンスキー大氏族長はひとつの発表を行った。戦役中、最も優秀な戦果を残した氏族を彼自身の氏族として選ぶというものである。これは代価を超えた報償であった。その氏族は大氏族長が指揮する筆頭氏族となり、そしてケレンスキーの血統の権利を持つことで、その氏族の戦士たちは、ニコラスと父親のケレンスキー将軍と同じだけの技量と才覚を事実上保証されるのである。

 ジェイドファルコン氏族は選ばれるという確かな自身を感じた。彼らは多数の交戦を行い、偉大なる勝利を得た。大氏族長が直々に5回指揮したりもした。この5回すべてでファルコンの戦士たちが決定的勝利を得た。ウルフ氏族だけが同じくらい戦った。

 いわゆるブラックブライアン包囲戦は、ジェイドファルコン氏族が選ばれるのに決定的な役割を果たすかと思われた。ブラックブライアンはかつて地球帝国が建設したキャッスルブライアンに似たサイズの要塞だった。ダグダの東方大陸に位置するブラックブライアンは、ゾーリン山脈につながる唯一の経路であった。エグゾダス内戦の初期に、ライラ共和国のやり方に殉ずると主張する、強力でよく訓練された部隊がこの要塞を占領した。要塞の名前は、内戦中の様々な戦いで防壁が黒ずんだところから来ているが、ブラックブライアンの防衛隊はいまだ侮りがたい敵だった。惑星上のこの地域を奪ったと主張するためには、残った抵抗軍を掃討する必要があった。よって、大氏族長自身がジェイドファルコン兵士の指揮を執り、特に血塗られた運命的な戦闘の準備を行った。

 この戦闘の記録ではじめて、リサ・ブハーリンの名がジェイドファルコンの年代記に現れる。ブラックブライアン戦で彼女は1個指揮星隊を指揮したが、彼女の名前はエグゾダスの参加者とSLDFの名簿には載っていない。

 我らの古文書係は、何時間もかけてその名前を調査し、ついにジェイドファルコン氏族を作るのを助けたリサ・ブハーリンと思われる人物を発見した。彼女はクリタの世界、トロンハイムの貧しい農家で生まれた。

 私立高校の卒業に際し、リサはパシフィック・ルセラン大学の奨学金を受け取った。この学校はユニティシティからわずか数キロの評判が高いリベラルアーツカレッジである。彼女の経歴のこの部分は、氏族に果たした役割からみると幾分驚くべきものである……氏族に入るまで、リサ・ブハーリンは職業軍人への興味を示さなかったようなのだ。大学でリサは初志を貫徹し、創作文芸プログラムの愛される一員となった。

 リサがアマリスの治世をどう生き延び、どうケレンスキーと正規軍に加わったかは不明である。彼女はヘイゼンのゴースト・オブ・ブラックウォッチに加わったか、もしくはその隊員との関わりがあったとの状況証拠がある。しかしながら、ゴーストの一員だったとしても、軍事・実務の技術を持たないものがどうやってエグゾダスに加わったのか説明は付かない。ケレンスキー将軍は彼女よりも軍事・民間の専門知識を持っていた者たちを置いていったからだ。

 彼女がどのようにニコラス・ケレンスキーが作った氏族のエリート戦士のひとりとなったのか、そしてどのようにメック戦士になったのかも謎のまま残されている。ファルコンのローアマスターでさえも、彼女の登場について満足な説明をできないままでいる。氏族のアーカイブは我らの疑問に答えてくれるかもしれないが、ニコラスは過去から解放され新しい社会を作るために、エグゾダスに加わった人々に関する多くの記録を意図的に抹消したのである。

 我らのわずかな洞察の一部は、リサ自身から来ている。彼女はリメンバランス以外に氏族創設にまつわる数少ない記述を残しているのだ。『ジェイドファルコン氏族初期の忠実で正確な報告』は、氏族初期の詳細な報告を求めているものにとって必読書である。だが、この本でさえ、著者自身に関する言及はわずかなのだ。

 個人的な見解を述べてある段落は数少ないが、リサ・ブハーリンは初陣についてこう書き残している。「私の人生で最も高揚し、解き放たれた瞬間。かつての私はワードプロセッサーかペンと紙で自分自身を書き残せただけだったが、そのとき、突如としてアトラスを乗り回す喜びに声を上げた。まるで春の花畑で飛び跳ねる軽薄な女学生のように。私が人殺しであったことは重要ではなかった」

 彼女がメック隊を率いてダグダのブラックブライアン要塞を攻撃したとき、それほどの喜びを得ることはできなかっただろう。ケレンスキー大氏族長は巨大な武器砲台のひとつを制圧するよう彼女に命じ、最低限の支援のみを与え、それから強襲を見守った。彼女の星隊は目標を達したが、勝利に高い代償を支払った。彼女は重傷を負い、ジェイドファルコンでの短いが輝かしい軍人としてのキャリアは終わった。

 リサ・ブハーリンは回復し、氏族の副氏族長、初代ローアマスターの地位を得た。彼女は最後の数年を氏族史の著述に費やし、リメンバランスのために文章を作成した。またケレンスキー大氏族長の信頼できる顧問となり、氏族社会に対する彼のビジョンを法と秩序に変換する作業を助けたのだった。













リバイバル作戦 3049-3052 Operation Revival

 太った鳩に対するファルコンの目にも見えない攻撃。同じやり方をリバイバル作戦で採用する。身をすくませる奇襲、すさまじい勢い、止められない力。血のもやと羽根のつむじ風だけがそこに残されるのだ。
――エリアス・クリッチェル氏族長、士官たちへのスピーチにて

 クリッチェル氏族長は、新任の大氏族長の最も信頼できるアドバイザーとなった。侵攻に関するビジョンを共有していたからだ。共に二人は、協力して「リバイバル作戦」、中心領域を深く穿ち、地球を奪い取る計画を作りだすこととなる。大戦争評議会で計画が話し合われた際、細かい部分はわずかに変更されたのであるが、リバイバル作戦は最終的に存続した。作戦の戦略的目標は、充分な量の中心領域星系を占領して、安全な作戦基地とし、そこから継承国家に対するさらなる強襲を行うことだった。

 だが、氏族長たちがエリアス・クリッチェル氏族長のある提案に賛成すると、この目標ですらもちっぽけなものに見えた。ケレンスキー・アーカイブの一節を元に提案を行ったクリッチェルは、地球を征服した氏族が大氏族となり、大氏族の最上級氏族長が自動的に大氏族長になることを持ちかけた。さらには、同じ文章内にある通り、大氏族がフリーギルド(商人、技術者、科学者、その他の下位階層。ひとつの氏族でなく氏族社会に帰属している)の支配権を得ることも提案した。全氏族が熱烈にこの挑戦を受けた。

 とどめの一撃であると彼らが感じたのは、中心領域に帰還するという氏族の夢に反対したウルフ氏族への罰として、彼らを侵攻に加えるのを侵攻派の指導者たちが決めたことだった。

 侵攻計画が単純なものになったのは、氏族の予想を反映している。中心領域内では、たいして組織化されていない敵と遭遇することになるだろうと考えていたのである。四つの氏族が、四つの異なる回廊を使い、強襲を仕掛け、自由ラサルハグ共和国、連邦=共和国、ドラコ連合を切り裂いていく。全四回廊は、最重要にして最後の目標である、地球に辿り着く。侵攻の権利をかけて、全氏族が神判に参加した。特別ルールとして、過剰な流血を避けるために、各氏族とも兵力を3個三連星隊までに制限した。侵攻における地位を勝ち取るために、リスクを犯す氏族が出ないことを確実にしたのである。

 ウルフ氏族は参加を強制されていたので、神判は残った三つの座を選ぶために行われた。驚く者はなかったが、ジェイドファルコン氏族とスモークジャガー氏族が二つを勝ち取った。もうひとつの強力な侵攻派氏族であるゴーストベアが、最後の席を勝ち取った。

 その次の神判で、どの氏族がどの回廊を使うかが決まった。アルファ回廊、デルタ回廊は、中心領域でも強力な軍隊を誇る、連邦=共和国、ドラコ連合を通り、栄誉を得る最高の好機をもたらした。大氏族長はウルフ氏族をベータ回廊に配置した。守護派的心情を持つ彼らへの露骨な侮辱であった。

 ジェイドファルコン氏族は名誉あるアルファ回廊を勝ち取り、全ファルコン領土で一週間に渡る祝賀祭が行われた。

 中心領域へのジャンプに向けて侵攻軍が集結する二週間前まで祝祭が行われたことは、この氏族がいかに楽観していたかを示している。ウルフ氏族が最悪に備えていた(壊滅した第3大隊の再建に奮闘した)一方で、ジェイドファルコンは中心領域が連携の取れてない抵抗を行うだけだろうと考えた。侵攻の第一波で何かが起きる可能性を完全に無視したのである。

 ジェイドファルコンの全員がこうではなかった。イオタ銀河隊指揮官ジェシカ・ブハーリンと兵站責任者タナー・カルボットはクリッチェル氏族長の要求した補給物資の量が不十分であると考え、また氏族長の提案した補給計画と消費見積もりに首を振った。氏族長とアドバイザーたちが、来るべき侵攻を、神判のような交戦の連続とたいして変わりないものと見なしていたことに、ブハーリンとカルボットは気がついた。また、万一敵が形式以上の抵抗をした場合に備えての補給の予備が、ほとんど、もしくはまったく計画されていなかった。さらに、頑なに探検を無視していたファルコンは、乏しい予定量の物資を時間通りに輸送する軍用、民間輸送船すら持っていないと評価した。

 クリッチェル氏族長はこれらの懸念を脇に置き、物資輸送を断じて拒否した。使われることがないと、彼は確信していたのである。「空の輸送船を同行させて、報奨を飛び地領に持ち帰ったほうが良かろう」。彼はファルコンの銀行家に命じ、フリーギルドから追加の輸送船を若干借り受けただけで、懸念に応じた。ファルコンが下位階級を蔑視していたことから、途方もない料金が請求された一方で、他の氏族には遙かにまともな相場で船が提供された。

 一般の戦士たちは、侵攻に対する態度を氏族長と共有した。大部分は行進すると同時に敵の尻を見ることになるのを予想していた。一般的な期待がジェイドファルコン氏族の下位階層に広がり、多くの人々がすぐにも中心領域に旅して最初の入植者となるのを夢見た。

 3049年の6月、氏族侵攻船団が中心領域に向けた最初のジャンプを行った。氏族の放浪は終わりを告げ、豊かさと驚異に満ちあふれた故郷に帰るのを彼らは待ち望んだ。



辺境での作戦行動 Periphery Action

 あの野蛮人どもより、初級メックシミュレーターのコンピューターの方が価値がある!
――辺境世界ラストチャンスでの活動後、ジェイドファルコン戦士のコメント

 中心領域へと突き進む氏族が最初に遭遇した人類居住世界は、中心領域をとりかこむ辺境の外れにある小規模な植民地だった。突如現れた氏族軍に対し、これらの世界とわずかな居住者は、まったく、もしくはほとんど戦うことができなかった。唯一防衛を受け持ったのは、エラントたち、北アメリカの保安官や古代オリエントで共同体を守った剣の達人のような、住人たちを守るために雇われた個人の戦士たちであった。エラントの中には熟達した闘士がいた一方で、彼らの武器の総合的なコンディションは芳しくなかったので、氏族の戦士との決闘は大部分が当然の結果となったのである。

 ジェイドファルコン氏族における例外は、オベロン連邦からジャンプ二回の外部にある、通称トワイライト、草に覆われた岩石の塊で起きた。ジェイドファルコンは教化と呼ぶものを使ってこの惑星にアプローチし、示威のためにジャイルファルコン銀河隊を送り込んだ。メック、エレメンタル諸星隊は、ありとあらゆる村の中心をパレードし、拡声器を使って、この惑星はジェイドファルコン氏族の「氏族支配領域」に吸収されたとアナウンスした。通常、このような行進が引き起こす恐怖は、いかなる反攻をも沈めるのに役立つ。

 立ち並ぶ仏教僧院のあいだをぬって歩いたファルコン軽メック星隊はショックを受けた。その修行僧コミュニティの中には、ドラコ連合〈光の剣〉連隊の高名な大隊指揮官にして、名誉あるメック教官の一人、サラ"キャット"カトリンがいた。連合軍を辞め現役引退した彼女は、心の平穏を追い求め、多数の世界の僧院に赴いた。彼女は常にセルフ・ディスペション(クリタ家より感謝の代わり贈られたメック)と共に旅していた。私は放浪中の彼女と会う名誉を得たことがあり、彼女の技量とユーモアに感銘を受けた。

 ジャイルファルコン銀河隊の戦士たちは混乱した。修行僧たちは恐怖のあまり逃げることもなく、寺を壊しても顔色一つ変えなかったからだ。戦士たちは何らかの反応を得るため、僧長の拷問に訴えた。この暴挙に、59歳のサラはするりと僧衣を脱ぎ捨て、スターコマンダーのメックに歩み寄り、風と煙が吹きすさぶ中、白髪をなびかせながら、連合の由緒ある伝統に乗っ取り、個人的な挑戦を行った。第2ファルコン打撃星団隊のブリガンは、笑ったが挑戦を受けた。

 ウラーAに乗ったブリガンと、フェニックスホークに乗ったカトリンの戦いをテープで見て、私はなぜファルコンの一部戦士たちが驚いたかを理解した。カトリンは実戦から遠ざかっていたのだが、自信を取り戻すまでなんとか危険を避けた。つかのま、敵の技量に驚いたブリガンは、慎重に接近して、カトリンに再学習する時間を与えた。

 暖まってきたカトリンは、攻撃の雨と素早い反撃を使って、ウラーの武装の弱点を探そうとした。ほとんど何も見つけることができず、敗北の一歩手前まで追いつめられたとき、ブリガンが温存していたガウスライフルの一斉射撃を放った。カトリンは直撃を避けるため素早く動かざるを得なかった。かなりの技量を持っていたにもかかわらず、装甲がすべて吹き飛び、メックは加熱し、酷いことに全レーザーを失った。だが全ての武器を失ったわけではなかった。ウラーの懐に飛び込み、膝の外側にキックを浴びせ、脚部をどうにか破壊したのである。膝はすぐに歪んで動かなくなった。

 メックが崩壊しかけ、選択肢の尽きたカトリンは、これまでのキャリアでよく見せてきた冴えたやり方で戦いを終わらせた。フェニックスホークを高く舞い上がらせ、ウラーのコクピットを脚で狙い急降下したのだ。狼狽してウラーの肩を捻ったのが、スターコマンダー・ブリガンの命を救った。カトリンのフェニックスホークは地面にクラッシュして、脚が損壊した。

 元大隊指揮官は慈悲を与えることがなかったし、求めることもなかった。スターコマンダー・ブリガンは彼女の期待に応え、すぐに脚を引きずって敵に向かい、左腕のレーザーをフェニックスホークのコクピットに連射した。この吐き気を催すような瞬間はいっそう悪いものに見えた。というのも、氏族の戦士数名がコクピットへの射界を妨げず、サラ・カトリンの死体を担ぎ出し、誇らしげに掲げたからだ。

 このテープとファルコン戦士の反応について、ウルフ氏族の戦士たちと議論した時、氏族がこのようなおぞましい祝賀をよく行うのを知らされた。戦士の一人は、似たようなことをしたと認めさえした。彼女はとある盗賊階級の一員との戦いについて説明してくれた。その盗賊は、氏族の戦士によって敗れ去った後、今際の際に、彼女がもう少しでフリーボーンの老人の手によって破滅させられるところだったと罵った。明らかにこの侮辱は、氏族の戦士の優勢を示す血塗られたデモンストレーションを行うにふさわしいものだったのだ。



ストラング男爵領 The Barony of Strang

 我、ストラング男爵は汝らの新名に関心を持たない。氏族? ジェイドファルコン? 汝らを真の名で呼んでやろう。自由を愛する人々を支配しに戻ってきた、星間連盟のクズ、自由意志の反逆者、辺境の迫害者である。かかってくるがいい、鋼鉄の目のロボットたちよ! 団結した百万の人々が貴様らと氏族どもをどう思っているか知るがいい。
――ステファン・フォン・ストラング男爵、ジェイドファルコンの挑戦への返答

 氏族侵攻路にある辺境の世界は、四本の強襲回廊のいずれにも属していなかったので、各氏族長はこれらの世界を侵攻する名誉をかけて入札することができた。フォン・ストラング・ワールドの入札は、二つの理由から激しいものとなった。氏族はこの世界を最初の挑戦と見なした……1個メック連隊が惑星を守り、アマリス・シティ(惑星の首都にして唯一の大都市)の周囲に大規模な防衛陣地が存在している。

 歴史が、激しい興味を引き起こす二つ目の理由を提供した。フォン・ストラングの名は氏族にとって悪名高いものだった。それもアマリス反乱を学んだ者にはそうだ。背が高く、痩身で、徹底的に邪悪なガンサー・フォン・ストラング(ヴァンパイア・フォン・ストラングとあしざまに言われる)は、デス・ハンド連隊として知られる、嫌われ者の第18アマリス追撃隊を指揮していた。ステファン・アマリスは、フォン・ストラングと部下のサディスティックな兵士たちに、北アメリカ大陸北部の運営管理を任せ、維持、利用させた。それがフォン・ストラングにふさわしいと考えたからである。フォン・ストラングと兵士たちは都市から商品を奪い去り、倒錯したスリルのため大勢の市民を殺し、生存者たちから最も基本的な人権でさえも奪った。すぐに市民たちはアマリス部隊をもっとも憎むことになった。フォン・ストラング将軍と第18隊は、地球解放戦の最後に、痛烈で、暴力的な末路を迎えた。ラ・ガーディア宇宙港から地球を脱出しようとする第18隊を、ケレンスキーの第146親衛バトルメック師団(ジョージ・S・パットン師団)が粉砕したのである。

 明らかにヴァンパイア・フォン・ストラングの名を冠した世界が発見されたとき、全氏族長が吸血鬼の子孫に対する報復を求めた。

 ジェイドファルコン氏族は入札に勝った。すぐさまエリアス・クリッチェル氏族長は「呪われた名前を人類から消し去る」ために、自らがターキナ親衛隊を率いて強襲することを発表した。

 ヴァンパイア・フォン・ストラングの子孫に会うというほのかな期待は、クリッチェル氏族長がバッチェル(惑星の防衛軍の情報を求める伝統)を行った際に現実となった。惑星の若き指導者にして、フォン・ストラングの直系であるステファン・フォン・ストラングが、脅しと呪いを持って返答したのである。

 若き辺境の君主は領土に対する脅威を認識した。彼は父や祖父のように、星間連盟と、その辺境を踏みにじったやり方を憎悪していた。戦艦が惑星の周囲を取り囲んでいるのを見たとき、星間連盟に関するものへの本能的な憎悪が、驚くべき直感に結びついた……エクソダスしたケレンスキーの子らと直面しているのを知ったのである。

 ルールを守らないことを、フォン・ストラングが明らかにすると、ターキナ親衛隊の降下船は、アマリス市の北、辺境世界共和国平原の降下地点に向かった。決意を秘めたフォン・ストラングの気圏戦闘機が惑星上で迎え撃った。氏族の護衛戦闘機を無視して降下船を攻撃し、航行不能にするのを試みたのである。だが、フォン・ストラング軍は力及ばず、氏族の火力の前に空から叩き落とされたのだった

 一度降下すると、ターキナ親衛隊はより侮りがたい敵と遭遇した。アマリス市への道は、トンネルでつながった砲塔群で重要塞化されていた。星間連盟の要塞よりは効果がないものであったが、親衛隊の前進速度を抑えた。唯一、エレメンタル・ポイントがトンネルへの通路を見つけ、残忍な回廊掃討戦を行った時にのみ、砲塔を沈黙させられたのである。

 それから、フォン・ストラング親衛師団のメックと戦車は、谷の袋小路で一連の待ち伏せを試みた。氏族軍に小さなダメージを与えることしかできなかったが、ファルコンの進軍を遅くすることにもなった。氏族の戦士たちは隘路を通って出現し、夕方の薄暗がりの中にアマリス・シティの塹壕線を見た。視界はすぐに雷混じりのすさまじい嵐でふさがれた。刻一刻とクリッチェル氏族長が目標を視認するのは難しくなっていった。

 クリッチェル氏族長は予定通り、全速での前進を命じたが、1個飛行隊(地上偵察用の赤外線装備、電子機器、その他のセンサー装置を搭載)を派遣した。

 これは賢い決断だったと判明した。フォン・ストラングは、氏族が技術的優位を信じて夜間強襲のリスクを取るのではないかと見込み、地下に大規模な地上師団を隠していたのである。氏族は食らいついた。エレメンタル工兵の前衛斥候に頼って塹壕と要塞の輪を切り開き、都市の心臓部に侵入した。氏族の戦士たちがフォン・ストラングの宮殿に達すると、近衛隊のメックが後方から攻撃すべく出てきた。

 ファルコン軍が危機に気がついたのは、ちょうど給油からもどった氏族の戦闘機が、近衛隊を観測し、警告を出したときだった。クリッチェル氏族長は脅威に立ち向かうべく隊を動かした。両陣営は衝突し、激しい雷雨の中で一時間熾烈な戦いを繰り広げた。フォン・ストラング軍は、決意が固く、それなりの腕を持っていたのだが、ターキナ親衛隊の優れた技術にはかなわないと気がついた。たとえ辺境軍の方にハンディがあったとしても、彼らは氏族の戦術、装備に、突くべき弱点を見いだせなかった。氏族が明らかに不死身だとわかったとき、フォン・ストラング軍は瞬間、たじろいだ。エレメンタルはこれに乗じて、おぼれる牛に群がるピラニアのように、近衛隊のメックにとりついた。

 ついにフォン・ストラング男爵のバトルマスターは、クリッチェル氏族長のソアに撃墜された。氏族長はメックの手に死体を握り、王宮の周囲をパレードしたのである。わずかな残存勢力は離脱して、闇に紛れようとしたが、ファルコンたちに追い立てられ、殺された。降伏した者や、慈悲を請うた者もまた殺されたのだった。

 親衛隊は夜明けまでに、残ったわずかな孤立した抵抗を潰し、クリッチェル氏族長はアマリス・シティの名を、前星間連盟首都にちなんで「ユニティ・シティ」に改名した。加えて、ステファン・フォン・ストラング男爵の死体を、腐り落ちるまで、星間連盟旗、ジェイドファルコン氏族旗のすぐ下に掲げるよう命令した。

 伝説によると、コムスターがツカイードで勝利を収めたその日に、死体が落下し、市民たちはステファン・フォン・ストラングの高笑いを聞いたという。



辺境征服 Conquest of the Periphery

 常軌を逸したものです。ただの気まぐれで、規則性のない例外であることを保証いたします。
――スターキャプテン・ジン・ブハーリン、フォン・ストラング・ワールド攻防戦に関する戦争評議会への報告で

 フォン・ストラング・ワールドでの戦いは、損害が最小限だったにせよ、クリッチェル氏族長に現実の厳しさを思い知らせた。防衛側の激しい抵抗と足止め戦術は、それまで辺境で経験したものと違っていたが、このことがたとえファルコンに懸念を引き起こした(来るべき戦役でもっと強力な連邦=共和国と戦うことになる)としても、彼らは懸念をいつもの傲慢さの下に沈めてしまった。クリッチェル氏族長は戦いの激しさを、雷雨がもたらしたものとして、念頭から追い出した。フォン・ストラング兵の技量を評価せず、雷雨で敵を発見する能力が落ちたのだとしたのである。親衛隊はこの視点を完全に支持し、戦いはまぐれであったと記録した。氏族長とアドバイザーたちは、にもかかわらず、戦いの詳細を秘密にし(特に親衛隊が気付かぬうちに捕まりそうになっていたことは)、事実に近い記録を制限し、他の氏族には一般的な情報のみを提供した。

 もう二回、ジェイドファルコン氏族は、本格的なメック隊と交戦した。ラストチャンスとゴッターデンメルングで、レッドジャック・ライアン連隊の第2メック大隊、第3メック大隊と対面したのである。

 ジェイドファルコンは、9月の第一週、ラストチャンスでライアン軍と出くわした。第3強襲星団隊のアルファ三連星隊、ブラボー三連星隊はやっとのことでライアン第2大隊をうち負かした。この辺境軍が惑星を脱出しようとしたとき、ファルコンの戦闘機が逃亡を阻止し、彼らは降伏したのである。氏族戦士は虜囚の多くをボンズマンとし、一部を投獄、残りを処刑した。

 ゴッターデンメルングでは、ファルコンはライアン第3大隊に直面した。この時、防衛部隊はより優れた戦いぶりを見せたのである。第3大隊を岩だらけのミシャップ・クレーターに追いつめ、殲滅するのに、ジャイルファルコン銀河隊の2個三連星隊が必要となった。

 双方の勝利が達成されたのは、ウルフ氏族がザ・ロックと呼ばれる小惑星で残りのレッドジャック・ライアン軍、ケルハウンドの一部隊と遭遇した後でのことだった。この一帯でライアン軍を狩っていたウルフ氏族は、敵の技量に感銘を受けた(特にケルハウンドには)。ウルフ氏族のウルリック・ケレンスキー氏族長は、この小競り合いのテープを他氏族に配布し、来るべき中心領域との戦いは予想より挑戦的なものになる証拠であるとした。だが、ファルコンがライアン連隊の残りを容易に撃破したことは、ウルリックの評価と矛盾した。ファルコン、スモークジャガー氏族長は、ウルリック氏族長の警告をはねのけ、彼のしつこい不吉な発言と、族長会議の意志実行をためらってることに対する非難を新たにした。

 最後の辺境世界は3049年の終わりに陥落した。侵攻軍は、この年の残り二ヶ月を使って保有地を統合し、最小限の民間輸送力で基礎的な業務と物資の備蓄を確立した。クリッチェル氏族長は惑星ラックホーブへの物資荷下ろしを命じた。次の連邦=共和国攻撃に備え、できるだけ航宙艦に余裕を持たせるためである。

 レオ・シャワー大氏族長は3050年2月18日、ウルフ氏族旗艦ダイアウルフで族長会議を招集した。集まった氏族長、幕僚たちへの開会スピーチで、彼らの努力を称賛し、侵攻の輝ける未来を予言した。とりわけ、これまで行われた戦いが、中心領域の力を示している場合にはそうなるだろうとしたのである。フォン・ストラング・ワールドでの戦いがどれだけ激しいものになったかを考えると、クリッチェル氏族長と幕僚たちが大氏族長の言葉に不安を感じたかどうかは推測する他ない。だが、我らはひとつの事実を知っている。ファルコンは会合の結果、初期の侵攻案を見直し、わずかに変更を加えたのである。

 氏族たちはまた、会議でコムスターについて討議した。この前月、我らが結社は氏族との最初の公式なコンタクトを取っていた。我らのメッセージを広げる(そして中心領域で大きな影響力を持つ)機会であると見た首位者ウォータリーは、結社と氏族の同盟を結んだのである。同盟の最終条項によると、コムスターは氏族に侵攻が計画される世界の詳細な情報を提供することに合意した。引き替えに、コムスターは征服した世界の人民に対する少なくとも名目的な支配権を受け取る。

 ジェイドファルコン氏族は、大氏族長が請け負ったいかなる交渉も、氏族の問題を解決するだろうと信頼していたが、氏族の多くはコムスターとの協定を不快に感じた。クリッチェル氏族長もこの一派であった。ほとんど情報がなく、意図が知れないのに、中心領域の組織を信じるのはどうかと疑問を持ったのである。偉大なるケレンスキーが予言した「予期せぬ同盟者」のことを思い出した時でさえも、ファルコンはためらった。一個人として、クリッチェル氏族長は我が結社のことを、信頼に値しない堕落した野蛮人の組織と考えたのである。

 責任の一端は私にあると思う。氏族と初めてコンタクトを取ったときに私はクリッチェル氏族長と会合し、この男と上級士官たちに感銘を受けたのだが、彼が嫌いになったのである。クリッチェル氏族長に対するこの不合理な用心を、私はまだ理解できていない。しかし、彼とその部下たちは明らかにそれを察し、似たような態度を取ってきた(冗談のやりとりくらいはしたのだが)。

 クリッチェル氏族長のコムスターと私に対する感情は、ジェイドファルコン氏族内に広がっていき、我らの代表とこの氏族の間にあった緊張をさらに強いものとした。特にJFOZ(ジェイドファルコン占領域)の世界で、我が軍の隊員たちは厳しい調査を受けた。兵士たちに対する嫌がらせは、ファルコン指揮官の命令によるものか、自発的なものか、常態化し、時々悲劇に結びついた。この全般的な不信によって、ファルコン上層部はコムスターから目を離さぬよう、征服した世界の軍備を増強し、後の強襲で必要な兵士が使えない事態になったのである。



第一波:空を舞うファルコン First Wave: Falcon in Flight

 ジェイドファルコン氏族は3050年3月20日、10個の連邦=共和国世界への同時攻撃に着手し、中心領域侵攻を始めた。氏族の指導者たちは第一波に二つの意図をこめていた。勝利すること、そして彼らの技量と残忍さと外見によって、継承国家の勇気を完全にくじくことである。

 ファルコンはその外観を出来るだけ恐ろしくするように尽力した。驚くべきカモフラージュパターンからほとんどサイケデリックな配色・デザインまで、メックの外装をめちゃくちゃなバラエティで塗装した。エレメンタル・アーマーもまた特別な配慮を受けた。銀河隊のファルコン紋章が、ヘルメット、肩、背中のほとんどに描かれた。一部の指揮官は、アーマーに羽根を付けすらした。

 侵攻の第一波での攻撃は、すべての世界で似たような歴史的事件となった。中心領域の電子網をかいくぐるのに長けていた氏族の艦船は、首尾良く通常の氏族軌道(.75IDスタンダード)に入り、それから氏族の指揮官がバッチェル、もしくは挑戦を、眼下の気付いていない防衛隊に行った。

 各氏族は独自の文面でバッチェル(挑戦宣告)を始めた。ウルフは「ケレンスキーのウルフがこの世界を要求する。守る飼い犬は何か?」と宣言した。スモークジャガーのバッチェルはこう始まった。「スモークジャガーはこの世界を要求する。防衛する軍隊は名を名乗れ。宇宙の霧からやってきた我らは、襲いかかる誰かが何者か知ろう」。ゴーストベアはもっとビジネスライクに始める。「我らはゴーストベア氏族である。この世界は我らのものだ。異議のある者は、早期の決着のため、規模と位置を明らかにせよ」

 ジェイドファルコンの場合はこのように挑戦を開始する。「ジェイドファルコンの鉄の爪から、この世界を守る勇気があるのは誰か?」。だが、ファルコンによって侵攻を受けた世界は、このような迫り来る終焉の丁重な警告を受けなかった。厳密に言えば、氏族の礼儀作法に反していたが、ファルコン指揮官の多くは「野蛮人」に対するバッチェルを拒否し、防衛隊の多くは突然レーダーに痕跡が現れたのを見て、侵攻を知ったのである。

 防衛隊がスクランブル発進して、発見したものは、荒れ果てた地形にメックと降下船を降下させる氏族のすさまじい能力と、勝つためには中心領域の最精鋭に近い部隊が必要とされていることだった。たいていの氏族部隊は敵の防衛境界線内を降下地点に選ぶ。ファルコンはしばしば敵陣のすぐそばに着陸し、空にいるうちから撃ちはじめた。

 氏族の攻撃のほとんどが直接攻撃で成功を収めた。現在の中心領域軍の戦術では、けして正面攻撃を採用しない。氏族、特にジェイドファルコンのような保守派は、正反対の戦略をとる。彼らは他の戦術を、フリーボーンの「まわりくどい」ものとして拒絶する。彼らの決闘の哲学は、大規模な交戦でさえも、ナタクロール、「避けることができない剣の一撃」として知られる一連の破滅的な直接攻撃を要求する。

 戦闘での人命、財産の損失を最小限にするというニコラス・ケレンスキーの目的を保つ上で、氏族の最初の攻撃目標は、敵の指揮、通信、統制陣地を特定し、無力化、もしくは破壊することであった。それに失敗した彼らは、敵軍の大集団を相手に回し、「敵の首を落とすのに失敗したら、腕を切り落とす」と正当化した。

 ジェイドファルコン氏族軍にとって、第一波は予期されていなかった栄光と、わざかな驚きをもたらした。彼らは敵に関するそれなりの情報を持っていたのだが(大半はウルフ竜機兵団や独立した工作員の報告によるもの)、一部の情報は単純に入手していなかった。ファルコンは、AFFCの連隊戦闘団が、バルセロナ、ヒア、トレルワンなど特定の世界を守り、強固な抵抗を見せるだろうことを知っていた。最小2個星団隊まで入札を削減することと、ターキナ親衛隊、ジェイドファルコンガードのようなエリート部隊を、最初の強襲の急先鋒にするか、予備部隊とすることで、ファルコン指揮官はこれらの世界に備えた。

 軽い防御がなされていると分類された世界でさえも、氏族、特に侵攻派は地方の市民軍の技量と決意を過小評価し続けていたので、予想より多くの努力が必要とされた。彼らはウルフ竜機兵団の報告を、裏切り者の嘘として大部分を切り捨て、独自の諜報部工作員を無視した。こういう低い評価は、自由ラサルハグ共和国については正確だったが、連邦=共和国、ドラコ連合では災厄となった。

 連邦=共和国市民軍の中核はメック中隊だった。指揮官たちは中隊を小隊に分割し、歩兵、装甲大隊に配属した。小隊は防衛陣地の礎となった。彼らは、近づいてくるメック星隊に突進せず、機械化部隊が敵の進撃を遅らせるのを待った。この戦術はファルコンをすっかり混乱させた。彼らはすべての戦闘でメックが戦闘に出るものと予期していたのである。

 民兵たちはファルコンのためらいを利用して戦略を生み出し、第一波と第二波の大半で良い効果をもたらした。戦車とホバークラフトに率いられた在来型市民軍が前進する氏族部隊と接敵した。ファルコンは市民軍と激しく戦い、多大な損害を与えるが、完全に破壊する前に、メック小隊が出てきて、氏族のパイロットに決闘を申し込むことになる。氏族の名誉は、地上部隊への攻撃をやめ、バッチェル(名誉ある戦闘の儀式)の規則を遵守するのを要求した。ファルコンは氏族法を頑なに守ったので(決闘のために対等の環を決めることも含む)、市民軍に撤退する時間が与えられた。在来軍が安全なところまで離れると、メックは一斉射したあとで撤退した。言うまでもなく、ファルコンはこの戦術に相当な嫌悪を抱き、憤怒した。この「ファルコン騙し」戦術が、ファルコンの目的達成を妨げなかった一方で、多くの死んでいたであろう兵士たちが生き残ったのである。

 ジェイドファルコン氏族長はすぐにバッチェルを完全に放棄した。ファルコンの戦士たちは、中心領域の戦士たちによる挑戦を無視できるようになったのである。さらに、名誉の掟の遵守を利用した者に罰を与える許可が出された。



トレルワン Trell 1

 息子を失うのは、私にとって悲劇だとしても、連邦=共和国で最高の訓練を受けた一人の兵士を失うことでしかない。AFFCに所属する全男女の生命はかけがえのないものであるが、我らが我らであるものを守るために、それを放棄する。さらに重要なのは、外部の暴政から自由を守るための生存権であると、彼ら自身が考えていることだ。
――トレルワン侵攻の真っ最中に書かれた、ハンス・ダヴィオン国王とメリッサ・シュタイナー=ダヴィオン国家主席の個人的なコミュニケより

 惑星トレルワンは、大部分が沼地、山岳、壮大な洞窟からなり、ライラ共和国時代の初期には、海賊と密輸業者の避難地となっていた。昨日の海賊は今日のビジネスマンとなり、トレルワンは重要な経済、行政センターに変貌を遂げたのである。それだけでトレルワンは、ファルコン征服優先リストの上位に入った。だが、惑星を守っていた第12ドネガル防衛軍の若き大隊指揮官、ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオン(連邦=共和国の継承者)の存在が、トレルワンを何より価値のあるものとした。

 第12ドネガル防衛軍は、新たに誕生した連邦共和国装甲軍の軍事教義を受け入れ、適応し(他のライラ部隊は嫌がった)、すぐさま他の連隊と連携して火力と速度のコンビネーションをたたき込めるような高機動部隊となっていた。これはライラのメック部隊に対する評判……いかなる通常部隊からの助けをも拒む鈍重な金属塊、というものと正反対であった。

 部隊の成功の大部分は、ニューアヴァロン軍士官学校で特別訓練を受けた最初のライラ士官の一人、ジェレミー・ホークスワース少将の功績である。彼の卓越したリーダーシップの下、第12ドネガル防衛軍は、第三次継承権戦争と3039年戦争で傑出した働きを見せ、「フォクシー・クロコダイルズ」のあだ名を賜った。この爬虫類のような恐ろしさと賢さで、RCTが移動し、戦ったからである。

 3039年戦争後、クロコダイル隊は、休息と改修のためトレルに行き、この世界で新たな任務を受けた。赤色旅団として一般に知られる大隊サイズの部隊、CoOpFor(共和国仮想敵部隊)の親部隊となったのである。トレルワンは連邦=共和国軍の訓練場の役目を果たし、赤色旅団は定期的に、ドラコ連合と自由世界同盟の戦術をシミュレートした1ヶ月に及ぶ演習を行っていた。赤色旅団は激烈との評判を楽しんだが、氏族の諜報網はどうしたものかそれを見落とし、結局、トレルワン攻防戦で重要な役割をなすことになったのである。

 ジェイドファルコンはトレルを非常に重要な目標と考えたので、クリッチェル氏族長は惑星に対するすべての入札を断り、その代わり、エリートのジェイドファルコンガードに率いられる3個星団隊を担当させた。ファルコンガード、第1ファルコン打撃星団隊、第5ファルコン打撃星団隊は標準的なファルコンの戦術を使って攻撃を仕掛けた。ファルコンガードのスターコーネル、アドラー・マルサスによって作成された単純で直接的な計画である。

 フォクシー・クロコダイルズは最初の30分ですさまじい損害を被った。起伏の激しい地形は防衛隊に味方したが、通信が困難で、兵士たちは孤立し、援軍を受けられず戦って死んでいった。第1大隊ブラボー中隊はこの戦いで最も英雄的な行動を見せた。ファルコンのメック、エレメンタル2個星隊を相手に、急流ドレッビン川のパイレートチャズム橋を四十分確保し、その間にドネガル戦闘工兵隊が橋に爆薬をしかけたのである。彼らは成功したが、生き残った兵士たちは一握りだけであった。

 ホークスワース少将は、侵攻軍が「パイレーツ・パラダイス」を奪うのに興味がないことをすぐ悟った。彼らが望んだのは軍隊、特にメック連隊、第2大隊の指揮官ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンだった。先日、ナーゲルリンク軍士官学校を優等で卒業したヴィクター王子には戦闘の経験がなかった。ホークスワース少将は彼が死ぬか、ファルコンに捕らえられた場合のことを想像して震えたに違いない。

 連邦=共和国の未来の指導者は、勝ち目のない戦いで、軍事指揮官としてのキャリアを開始した。彼の大隊は、クリサル山道のキャッスル・マウンテンの向こうにおり、赤色旅団との演習を予定していた。未確認の敵影がモニタに写ったとき、大隊の先導部隊は、赤色旅団が到着し、演習が始まるのだろうと考えた。それら偵察兵たちは思いこみのために死んでいった。彼らはなんとかシュタイナー=ダヴィオン少佐に警告を発し、大隊を完全な警戒状態に置いたのである。

 突進するジェイドファルコンガード分隊は止められないように見えた。彼らのメックは、大隊の防衛陣地に突っ込み、十字砲火の作り出す"キルゾーン"をほとんど無視した。ファルコンのメックは即座に敵を破壊せず、エレメンタル星隊に慈悲を残した。

 ダヴィオン少佐は残った部隊に、クリサル山道へ戻るよう命じ、スマッグラーズ・バレーに辿り着くことを望んだのだが、この計画は失敗した。山道についた彼らはファルコン戦闘機の機銃掃射を受け、ファルコンメック・エレメンタル二連星隊に攻撃された。ダヴィオン少佐は部下を結集させ、再び撤退した。この過程でさらに多くの兵が失われた。

 彼らはスマッグラーズ・マウスに移動して、キャッスル・マウンテンを穴だらけにしている洞窟に難を逃れようとした。向かう途中、ダヴィオン少佐は、ジェイドファルコンガードが容易に逃亡を遮断でき、またクリサル山道に構えたファルコンが背後から攻撃できることに気付いた。

 このときに歴史が転換した。王子が捕らえられたら、ハンス・ダヴィオン国王とメリッサ・シュタイナー国家主席は多大なショックを受け、連邦=共和国全体を意気消沈させだだろう。この国家は若き王子を、一時的な連合と見られがちなライラ共和国と恒星連邦の実体であると見なしていた。ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンの死、あるいは捕縛は、連邦=共和国にすさまじい一撃を浴びせることとなる。

 王子と参謀たちが最後の戦いに備えて準備をしていたとき、赤色旅団が救援にやってきた。予定された訓練実習の一環として、旅団は隠された陣地につき、第2大隊を待ち伏せしていた。ファルコンは通過時に旅団を発見できなかった。何が起きたかをすぐに悟り、ファルコン追撃の強行軍が開始された。彼らはちょうど間に合い、ファルコンガードに背後からの攻撃を仕掛けた。

 この後方攻撃でジェイドファルコンガードは向きを変え、新たな危機に対処せざるを得なくなり、ダヴィオン少佐と大隊の残りに、洞窟の迷路に滑り込むチャンスを与えたのである。王子と共に洞窟に入り得た赤色旅団のメックと兵士はわずかであった。

 洞窟内での戦いは、私が記述している文章量よりも、注目に足るものである。大隊の生存者は、王子の大胆な指揮の下、わずかな損害しか出さず、スマッグラーズ・バレーへの逃走を成し遂げ、追撃隊を洞窟に置いてけぼりにしたのである。

 赤色旅団の自己犠牲と、王子の逃走劇は、スマッグラーズ・パラダイスの包囲を遅延させた。ホークスワース少将(彼のRCTはわずかなメックと数個通常連隊にまで減少していた)は、残されたわずかなアドバンテージを使って、王子を守った。気圏戦闘機はまだ谷の上空を直接支配していたのである。

 降下船が頑固な王子と側近たちを惑星から運び去ったのを見届けると、ホークスワース少将は誰かがつぶやくのを聞いた。「連邦=共和国最後の、最高の可能性が行ってしまった。彼は私たちに何らかの意味で歩むべき困難な道を残したのでしょう」

 ホークスワースに率いられるドネガル防衛軍の残存兵力と、生き残った赤色旅団の分遣隊は、スマッグラーズ・メイズに戻り、スマッグラーズ・バレーを放棄した。兵士たちの多くが、谷の向こうの森林地帯に逃げこみ、残りは山の下の洞窟に残った。これら軍勢は、長く絶望的なゲリラ戦を展開し、それが終わったのは何ヶ月も後に最後の一兵が死ぬか捕らえられたときだった。



第一波の終結 First Wave Conclusions

成功だ、仲間たちよ! その上、意外な富と驚きが一緒に付いてきた。生きてこの日を迎えられた我々は、本当に恵まれている!
――名前を知られてないジェイドファルコン戦士の発言

 ジェイドファルコンにとって、侵攻の第一波は、望外の報酬をもたらした。征服した各世界は、強欲な商人たちが思い描いていたものよりも、遙かに大量の自然資源をもたらしたのである。

 ファルコンの戦士たちは、侵攻の証である経済力を喜ぶと同時に、大半が科学者たちが命名するところの「征服者多幸症」の餌食となった。勝利を目指す上で破壊したものを、ほとんど子どもっぽく眺め、崇拝するといった行為が、多くに現れたのである。この多幸症は敬虔からほど遠い者を生み出し、彼らは征服した人々と財産に対し傲慢に振る舞ったのである。

 征服者多幸症は、ジェイドファルコンの戦士たちを夢中にさせ、その大半に征服の真の難しさを忘れさせた。中心領域の防衛隊は、前線のメック連隊から、後方の兵士に至るまで、氏族が予期していたより巧みに、勇敢に戦ったのである。彼らの抵抗は最後のメックが破壊されるまで続いた。占拠された世界の住民は、単に反攻の第一段階を終えただけで、次を開始した。市民軍の指揮官は、正面からの戦いではファルコンの相手にならないと悟り、非通常戦闘を行った。防衛隊の新戦略は手短にまとめると、「我らの星から侵略者を追い出すことが出来ないのなら、あのくそったれどもの人生を惨めなものにしてやる」というものだった。連邦=共和国の市民軍は組織的な抵抗をあきらめ、未開の原野にとけ込み、ファルコンの士官たちが勝利を誇るがままにさせた。わずかな思慮深いファルコン指揮官だけが、突然の屈服に不安を抱いた。

 大氏族長が求めた情報の綿密な交換は、第一波の終わった頃には忘れられていた。熱気球のような報告(熱風で膨張する、融通のきく申し立て)が戦闘報告に取って代わり、結局、ウルフ氏族とゴーストベア氏族だけが正確な報告書を作成した。



第二波:ファルコンの攻撃 Second Wave: The Falcon Strikes

もっと注意深く進むべきだと言う者たちがいる。中心領域の戦士たちは、勇敢で危険な敵であると。だが我らは氏族だ。我らは星間連盟の名を勝ち取るであろう。注意? 注意はウルフに向けよう……
――スターアドミラル・エイドリアン・マルサス

 連邦=共和国防衛部隊の手腕と決意が、ジェイドファルコン星団隊指揮官にショックを与えたにもかかわらず、ティムール・マルサス氏族長、エリアス・クリッチェル氏族長、それにファルコン最高司令部の大半は、中心領域の成果は幸運に寄るものとした。

 それでも、ファルコンは非常事態に備えたわずかな緊急対策計画を作成した。最高のフリーボーン星団隊が結成され、緊急展開予備軍に編入された。この部隊は、征服した世界での抵抗、ゲリラ活動に断固とした対応を行う。彼らは中心領域と氏族宙域を結ぶ輸送システムを構築し、補給と物資の流れが滞らないのを確実とした(ウルフ氏族のシステムより遙かに小規模だったが)。最後に、エメラルドタロン海軍強襲星隊が、究極の報復……必要なら惑星を破壊するための予備となった。

 侵攻の第二波はスケジュール通り、3050年3月に開始された。この時、ファルコンは12の世界を目標とした。ウルフ氏族、ゴーストベア氏族が計画した強襲よりは多かったが、スモークジャガー氏族の意図した征服よりは少なかった。

 第二波でジェイドファルコン氏族が直面した反攻はごくわずかで、予期せぬ抵抗を恐れていた指揮官たちを安心させた。防衛部隊のほとんどは、混合市民兵か、侵攻の第一波で崩壊した部隊の残存兵力からなっていた。ファルコンは惑星アポロでのみ断固とした抵抗に遭遇した。憎むべき辺境世界共和国の元主星である。



アポロ Apollo

 汚名の歴史でアポロを超えうるのは、ケンタレスIVのみである。アポロはかつて辺境世界共和国の主星で、アマリス家の故郷だったのだ。ジェイドファルコン氏族は、星間連盟再興のために、この惑星を我がものとしたがった。

 気圏戦闘機3個星隊にエスコートされた、ターキナ親衛隊とジェイドファルコン銀河隊が、アポロ(雨期の真っ最中)に降り立った。この天候は、ジェイドファルコンのオムニ戦闘機が、効果的に地上軍を支援できないようにした。両ファルコン軍は、アポロ市民軍、第2グレイヴ・ウォーカーズ(そこそこの評判を持つ傭兵連隊)の激しい抵抗と直面した。ジェイドファルコン銀河隊は素早く最初の前進を果たしたが、第2グレイヴ・ウォーカーズの猛烈な抵抗が、悪天候によって増強された。

 優れた氏族の技術と技量が最後には勝り、防衛部隊を二つの大規模な要塞に撤退させた。第一君主リチャード・キャメロンに対する簒奪の直前、ステファン・アマリスによって建設された、これらの施設は、地球帝国のブライアン城塞を手本としていた。数個エレメンタル星隊は要塞の一方をどうにか陥落させて見せた。エクソダス前の記録にあった設計図から見つけた、忘れ去られし秘密脱出口から侵入したのである。もうひとつの要塞はもっと侵入が難しいと実証された。防衛部隊はくり返される強襲をはねのけた……気圏戦闘機による攻撃すら、天候と、要塞の兵器を守る重厚なコンクリート砲座に阻まれ、大きなダメージを与えるのに失敗した。マルサス、クリッチェル氏族長は、日が経つごとにチャンスが減っていくと見て、とうとうマルサス氏族長が、第305強襲星団隊(アローIVミサイル間接砲を装備したオムニメック部隊がある)に、要塞をガレキに変えるよう命じた。第305強襲隊は、大々的なミサイル攻撃に着手した。掩蔽壕と砲座は熟した果物のように裂かれ、要塞の大砲は沈黙して、オムニメックとエレメンタルが地下に入れるようになった。氏族長は誘導ミサイルを使うように命じたので、要塞の近くの民間地区に被害はなかった。二番目の要塞が降伏した二時間後、残ったアポロの防衛部隊も無条件で降伏した。

 ファルコンに対する第二波中の抵抗は軽いものだった。なぜなら、ハンス・ダヴィオン、メリッサ・シュタイナー=ダヴィオンが、攻撃下にある世界に援軍を送らないことを、気が進まないながらも決めたからである。この決断に苦しめられたとしても、氏族との戦い方を知る前に兵士たちを送り込むことは、兵士たちを自殺を求めるのと大差がないことに気付いていたのである。彼らは最強の部隊を温存し、有効な妨害方法を決めるべく情報が集まるのを待った。その間、政府は敵に占領された多くの世界でのゲリラ活動を支援した。



第三波:稲妻の翼 Third Wave: Wings of Lightning

これまで我らに立ち向かってきたような防衛隊しか中心領域にいないのなら、我らはすぐさま地球の聖地に立つことだろう。
――エリアス・クリッチェル氏族長

 兵站上の問題(氏族宙域までの補給線)があったことから、ジェイドファルコン氏族の第三波での目標はわずかに5つの世界だけとなった。彼らをさらに当惑させたのは、ウルフ氏族が鮮やかに補給線を維持してのけ、衰えるわずかな徴候さえ見せなかったことである。ファルコンが占領した世界のいくつかで暴動が起き、ジェイドファルコン氏族は、やむを得ず氏族本拠地から臨時守備銀河隊を持って来ねばならなかった。ファルコンは予定通り、5つの世界を叩き、まともな抵抗に遭遇したのはホットスプリングスのみだったのだが、惑星マリブがペレグリン銀河隊による最初の交戦後に降伏した時でさえも、勢いを失っているのが明白となったのである。

 第三波が終わりに近づくと、スティールヴァイパー氏族が次の第四波でより活動的な役割を果たすとの噂が広まった。マルサス、クリッチェル氏族長は公にこの噂を退けたが、氏族長に近い筋によると個人的な懸念を寄せていたという。



ホットスプリングス Hot Springs

 ジェイドファルコン氏族はホットスプリングスを目標とした。鉱水が豊富なことで有名な、中心領域の観光名所である。攻撃の理由は、ブラッドネーム、フォン・ヤンクモンの創設者がこの惑星で生まれたことが、最近明らかになったことのみだった。このブラッドネームのメンバーはジェイドファルコン氏族軍内で有力な地位を占めており、氏族長はホットスプリングスを進行のリストに加えることを承伏したのである。ホットスプリングスTMMの新兵たちは、ジェイドファルコンの上陸を妨害すべく、全気圏航空中隊を派遣した。これが市民軍の破滅となった。なぜなら、歴史的にフォン・ヤンクモンの血統は、マルサスの血統と同じくらい、恐るべき戦闘機パイロットたちを生み出してきたからである。市民軍のパイロットたちは、全部隊と引き替えに、ジェイドファルコンの戦闘機1機のみをなんとか撃ち落とした。ターキナ親衛隊のオムニメックは宇宙港から着実に前進し、阻もうとした数機の通常型戦闘機、VTOLを叩き落とした。

 市民軍は優位を保てる唯一の陣地、惑星の首都に構えた。ファルコンは最小限の被害で都市を取るよう命令されていたので、全面的な攻撃をしたがらなかった。エレメンタルが前線に立ち、ゆっくりと通りを進んで、戦車、銃座を破壊し、市民軍歩兵を潰走させ、ついにはホットスプリングスTMMのメック部隊を事前陣地から追い出した。ジェイドファルコンは市民軍の都市からの逃走を許したが、彼らが世界の荒れ地にたどり着いてゲリラ戦を組織するのを阻止した。第1ファルコン猟兵隊が待ち伏せしており、30分以内に、ホットスプリングスTMMの全兵士がジェイドファルコン氏族の圧倒的な火力に屈したのだった。



第四波:ファルコンのよろめき Fourth Wave: The Falcon Falters

 第四波はジェイドファルコン氏族に、15個の世界を叩くことを求めていた。補給問題は解決され、ファルコンが地球に一番乗りするのを止めるものは何もないように見えた。だが、災厄の連続がファルコンの進撃を緩めてしまったのである。

 当初、ファルコンの攻撃は予定通り上手く行った。手ひどく痛めつけられたAFFC部隊の多くが解散せねばならなかった。ファルコンの最初の挫折は惑星トワイクロスでやってきた。悪天候で出立の遅れたファルコンガードが、連邦=共和国の反撃が進行しているのを発見したのである。第10ライラ防衛隊、第9連邦=共和国RCT、ケルハウンド両連隊がトワイクロスに降り立ち、すぐさまファルコンガード、ジェイドエリー星団隊分隊からの圧力を受けた。氏族の優位は短時間で、カイ・アラード=リャオがファルコンガードを罠にはめたときに終わった。指揮官スターコーネル、アドラー・マルサスを含む、ファルコンガードの大半が、引き起こされた蹂躙で死に絶えた。わずかな生存者のみが撤退しえたのだった。

 戦闘の後遺症がジェイドファルコン氏族にさらなる打撃を与えた。普通、ブラッドネームを与えられたひとつのブラッドライトが不名誉となった際、他の同じブラッドネームのブラッドライトにはまったく影響はない。だが、今回のケースでは、トワイクロス敗北の恥辱が、マルサスの全ブラッドネームに波及したのである。名誉の失墜は、他のブラッドネーム戦士のコーデックスに深刻な影響を与えなかったが、マルサスのブラッドヘリテージのライバルたちが氏族評議会で政治的反発を生み出し、ティムール・マルサスを辞任に追いやったのである。同じ政治駆け引きで、これ以上氏族の底面を汚さぬよう厳しい命令が下され、マルサスのブラッドネームを持つ戦士たちの大半が氏族宙域へと戻された。(むろん、マルサス・ブラッドヘリテージの者たちは、ライバルたちがより多くの栄光を得るためだけに行ったものだと見なした)。エリアス・クリッチェル氏族長は、ヴァンダーヴァン・チストゥを下級氏族長に選んだ。

 氏族長の辞職直後、ティムール・マルサスの命運に関する噂が広まり始めた。事故で死んだか、自殺したと氏族人の多くが信じた。未確認の報告によると、彼は〈エメラルド・タロン〉に乗って氏族宙域に帰還したという。我らの最新の情報では、ティムール・マルサスと、スターアドミラル・エイドリアン・マルサスは、現在、スティールヴァイパー氏族の潜在的な攻勢に対処する特殊部隊の指揮を執っていることが示されている。

 決定的な不運が、ジェイドファルコン氏族を待っていた。氏族の強力な代弁者であったレオ・シャワー大氏族長が、ラサルハグのパイロットのカミカゼ攻撃で死んだのである。この女性は、ウルフ氏族旗艦〈ダイアウルフ〉の艦橋(族長会議のために全氏族の指導者が集っていた)に、傷ついた戦闘機を衝突させた。指導者を失った氏族たちは、新たな大氏族長を選出するため、やむをえずブラッドネーム所有の前線兵たちを氏族本拠地に引き上げさせた。ジェイドファルコン氏族にとっては不幸なことに、氏族はウルリック・ケレンスキー(最も憎むべき敵の指導者)を新たな指導者として選んだのである。



平和の年:ファルコンの休息 Year of Peace: The Falcon Rests

 〈ダイアウルフ〉上でのレオ・シャワー大氏族長の死後、前線部隊に所属するブラッドネームを持つ戦士たちは、族長会議を招集し、新たな大氏族長を選ぶため、ストラナメクティに帰還した。しかし、会議が本題に入る前に、スモークジャガー氏族長リンカーン・オシスは、レオ・シャワーの死に責任があるとして、ウルリック・ケレンスキー氏族長の地位を剥奪する動議を提出した。ジェイドファルコン氏族、ゴーストベア氏族、スターアダー氏族が支持に回り、ウルフ氏族、スティールヴァイパー氏族、コヨーテ氏族が反対した。守護派の穏健派であるスノウレイヴン氏族は、純粋に政治的な理由から両陣営に支援を与えず、討論中、中立を保った。スティールヴァイパー氏族はウルリック氏族長を支援した。スノウレイヴン氏族と同じ見解だったかもしれないが、ヴァイパーとスノウレイヴンはいまだに苦々しい遺恨を持ち続けていた。一世紀以上前に、スノウレイヴン氏族はスティールヴァイパー相手に、ひとつの世界を失っていたのである。

 守護派はウルリック氏族長を退けるという動議を破ったのだが、侵攻派は鮮やかな反撃を放って見せた。ローアマスター・コナル・ワード(ウルフ氏族の強硬な侵攻派の一人)が、ウルリック・ケレンスキー氏族長を大氏族長に推薦し、また侵攻派氏族はウルフ氏族に謙虚さを教え込むチャンスと認識したのである。大氏族長の地位は、ウルリック・ケレンスキーを全氏族の最高戦争指導者とするが、大氏族長として族長会議の決定に従わねばならない。侵攻派氏族の氏族長たちは、彼らの投票権と政治力が、守護派の抵抗を抑えて議題を動かすのに充分だと確信していた。

 族長会議が開催されている間、一箇所以上の闘技場で戦闘が行われた。スティールヴァイパー氏族は、ジェイドファルコン氏族に対し、エリアス・クリッチェル氏族長の遺伝子素材をかけての所有の神判を挑戦した。年齢上の理由からセミリタイアしていたと考えられていたエリアス・クリッチェル氏族長は、見事に神判の入札を操って見せた。侵攻から除外されていたオメガ銀河隊四個星団隊のうち三個が入札され、スティールヴァイパー氏族のガンマ銀河隊全部隊と対戦した。この戦闘でオメガ銀河隊を率いたクリッチェル氏族長は、政治的手腕と同様、軍事的な才を持ち続けていることを証明した。オメガ銀河隊のアルファ戦闘機三連星隊が、ヴァイパー航空星隊群に襲いかかったとき、ヴァイパーは悪いスタートを切った。ファルコンのオムニメックとエレメンタルが上陸すると、第4ヴァイパーガード星団隊が猛烈な反撃に着手し、ジェイドファルコンを降下船のすぐ近くに釘付けとした。クリッチェル氏族長は自らオメガ親衛隊を率い、スティールヴァイパーの陣地(オメガ親衛隊と第50ファルコン強襲星団隊の間に閉じこめられていた)のほぼ頭上からの軌道降下を行い、ヴァイパー軍を叩き始めた。降下地点を確保したファルコン星団隊群は、残ったヴァイパー軍を掃討し、スティールヴァイパー氏族が敗北を認めるまで、爆撃し続けた。

 クリッチェル氏族長が所有の神判での勝利から戻った直後、族長会議はウルリック・ケレンスキーを大氏族長とする票決に達した。大氏族長としてのケレンスキーの最初の行動は、スティールヴァイパー氏族とノヴァキャット氏族を侵攻に加え、ジェイドファルコン氏族、スモークジャガー氏族と組ませることだった。「公平」を表したのがさらにファルコンとジャガーをいらだたせる中で、ウルリック大氏族長と会議は、スティールヴァイパー、ノヴァキャットが、ジェイドファルコンとジャガーが侵攻し反乱が続いている世界に対して所有の神判の入札を行う権利があると決定した。ジェイドファルコン氏族は氏族世界ヘルゲートに対するスティールヴァイパー氏族との所有の神判を戦ったところだったので、エリアス・クリッチェル氏族長はこう信じた……ヴァイパーとノヴァキャットを侵攻の主力に加えるのは、各世界への入札を行わせ、貴重な時間を浪費させるためである、と。ウルフ氏族とゴーストベア氏族だけが、この決定から利益を得た。スティールヴァイパー氏族と一緒に活動させることで、族長会議が故意に侮辱を与えたとジェイドファルコンは感じた。

 ジェイドファルコン氏族のクリッチェル、チストゥ氏族長は、侵攻の間をファルコンガード再建に使った。氏族軍内でファルコンガード星団隊が必要とされていたが、アドラー・マルサスがトワイクロスでもたらした不名誉によって、今ではこの部隊への配属は最も望ましくないものとなっていた。ヴァンダーヴァン・チストゥは、スターコーネル・エイダン・プライドに指揮を任せることによって、この問題を解決した。彼の汚名にまみれた経歴は、フリーバースを含む、ファルコンで最も厄介な戦士たちで構成された部隊を率いるのにふさわしかった。ファルコンガードの士気は記録的な低水準を記録した。スターコーネル・エイダン・プライドは、ファルコンガードを鍛え直し、ファルコン評議会内の敵を驚かせた。部隊はトワイクロスの前よりも恐るべきものとなったのである。

 ジェイドファルコン氏族長たちは侵攻の中断を利用して、他の懸念材料に対応した。まもなく中心領域征服をスティールヴァイパー氏族と分担することになると気付いていたクリッチェル氏族長は、エメラルドタロン海軍星隊を氏族宙域での哨戒任務につけた。2個銀河隊を加え、この連合部隊"ターキナ・タロン"は、即応展開軍となった。この部隊は、ヴァイパーによる、ファルコン保有(共同保有)世界への、いかなる攻勢にも対応するよう企図されていた。スティールヴァイパー氏族との所有の神判で、この2個銀河隊がファルコンに優位を与えることになるだろうとクリッチェル氏族長は信じている。追加の予防措置として、スノウレイヴン氏族のリン・マッケナ氏族長への、領土と遺伝物質の友好的な提案が行われた。侵攻にヴァイパーを加えるというウルリック大氏族長の決定に先立って、スノウレイヴン氏族は守護派陣営を支援していた。その後、スノウレイヴンの氏族長は侵攻派の大儀に賛成するようになっていた。クリッチェル氏族長は、スノウレイヴン氏族を侵攻派氏族に引き込む好機と見て、動いた。彼らの全面的な支援は、族長会議での侵攻派の権力を増し、スティールヴァイパー氏族に対する強力な味方を与えることだろう。この文章を書いている現時点で、リン・マッケナ氏族長がジェイドファルコン氏族の申し出にどう応じたかは不明である。



第五波:ファルコンとヴァイパー Fifth Wave: The Falcon and the Viper

 3051年11月、中心領域に対する氏族の戦争が再開した時、ジェイドファルコン氏族はいくつかの世界をスティールヴァイパー氏族と共同で支配していた。スティールヴァイパーは第五波での侵攻権をジェイドファルコンに対して入札し、その結果として、ジェイドファルコン氏族は3つの世界の権利を完全に割譲し、残った4つを賭けて所有の神判を戦った。ジェイドファルコンの勝利は2つだけであった。敗北の原因は、ファルコンが侵攻初年度の熾烈な戦闘を行い、多大な被害を受け、その一方で、ヴァイパー星団隊は中心領域での戦闘に事実上関わってなかったからだとした。トワイクロスの大敗は、ジェイドファルコンから最高の戦闘機パイロット、メック戦士たちを奪い、勝利達成をより難しくした。ジェイドファルコン氏族は第五波で計画していた7つの世界のうちの2つしか攻撃しなかった。スティールヴァイパー氏族とウルリック・ケレンスキー氏族長に対する憎悪の炎がいっそう強まったのである。



第五波の結果 Fifth Wave Conclusions

 目下のところ、中心領域勢力の懸念は、氏族の政治的な内部闘争よりも、ジェイドファルコンの戦士たちが中心領域の戦法にあわせているという、多数の報告である。アリーナからの報告(確認済み)が記述するところでは、ジェイドファルコンのメック戦士2名が、ヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンのバトルメック1機に向けて同時に撃ったという。未確認の報告によると、ジェイドファルコン侵攻回廊の全前線で、似たような事態が起きている。このニュースは悩ましいものである……ファルコンの振る舞いは、一対一で戦うという氏族の名誉の規定に反しているからだ。火力を集中させるのを嫌がるのは、一貫して氏族最大の弱点であると判明している。もしジェイドファルコンがこの戦術を成功させ、族長会議から譴責を受けないのであれば、他の氏族も似たような戦術を用いるようになり、中心領域は優位を失ってしまうかもしれない。



スノード氏族 Clan Snord

スターコーネル・デーモンは、間抜けな老人だ。フリーバースの盗賊たちを、まるで真の戦士のように扱った。もし私の艦を入札に加えていたら、"スノード氏族"はその日のうちに終焉を迎えていただろう。
――スターキャプテン・クリストファー・フォルクナー、イージス級巡洋艦〈ホークアイ〉艦長

 中心領域侵攻で、あるひとつの出来事がなによりジェイドファルコンを嫌悪させた。ロンダ・スノードというウルフ氏族のフリーバース戦士が、スノード氏族の創設を発表したのである。ファルコンはスティールヴァイパーとのパートナーシップを嫌っていたが、少なくともヴァイパーは氏族法に従って行動した。氏族を拒絶したはみ出し者と彼女を呼ぶことで、ジェイドファルコン氏族は、ロンダ・スノードがニコラス・ケレンスキー以降の全氏族人を侮辱したと感じた。

 3051年の8月、ロンダ・イレギュラーズはジェイドファルコン占領域の惑星アポロに深襲撃を仕掛けた。彼らの目的は、ダークネビュラにあるという伝説の海軍基地の位置を記した、忘れられし星間連盟のデータを手に入れることだった。イレギュラーズはデータを入手し、その過程でダークウィング星団隊の1個星隊を撃破して、ダークネビュラに向けてジャンプした。ダークウィングのスターコーネル・デーモンは、イレギュラーズが偶然残していったデータの一部を発見し、海軍基地の位置を再構築するためにそのデータの断片を使った。スターコーネル・デーモンの星団隊は降下船に乗り込み、ホークアイ(イージス級巡洋艦)に連結して、ダークネビュラにジャンプした。

 "キャメロット・コマンド"として知られる基地に到着したダークウィングは、この巨大な小惑星ステーションに着陸して、イレギュラーズに所有の神判を挑戦した。もしロンダ・スノードが戦闘に勝てば、基地の所有権を得て、ダークウィングと降下船をアイソーラ(戦利品)として要求できる。スターコーネル・デーモンはロンダのバッチェルの条件を受け入れ、戦闘が始まった。

 イレギュラーズの慎重に計画された戦術と、地形の賢い利用が、ダークウィング星団隊をよろめかせた。失敗の恥辱を避けるために、基地の主核融合炉を破壊しようという最後の絶望的な試みは、ロンダ・スノード(ハイランダー乗機)の手により、スターコーネル・デーモンが破れたことで終わった。ホークアイの艦長は怒り狂った。なぜなら、氏族法は彼が介入して、盗賊どもの基地を吹き飛ばすのを妨げたからである。彼はアポロに戻り、HPG通信を通して、盗賊階級が戦艦の造船施設を所有していることを伝えた。

 クリッチェル氏族長は、たとえ連邦=共和国の助けを借りても、造船開始までに少なくとも15年が必要だと知っていた。基地を失ったことより、氏族の名誉が汚されたことに、彼は懸念を持った。この基地は今後数年で、所有の神判の目標となるだろう。そして、憎むべきスティールヴァイパーもまたこの神判に入札するだろうが、クリッチェル氏族長はジェイドファルコンが最終的に勝利すると信じている。




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