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作成:2007/12/30
更新:2008/09/10

アイル・オブ・ザ・ブレスド Isle of the Blessed



 恒星連邦 VS ワード・オブ・ブレイク。
 第三次ニューアヴァロン戦を舞台にしたキャンペーンイベント Vengeance Gambit: The Third Battle of New Avalon の序文的な小説(日記形式)です。世界各地で行われたイベントの結果により、この後のストーリー展開が決まりました。
 ニューアヴァロン防衛の指揮を執っているのは、恒星連邦軍の最高司令官、ジャクソン・ダヴィオン元帥(通称、オールドマン)。内戦でカトリーナ派に与しながら、なおも尊敬されている職業軍人的人物です。
 Isle of the Blessed とはアヴァロン島の異名。恵みの島という意味があります。コムスター、ワード・オブ・ブレイクの常套句である"our blessed Order"とかかっているのでしょう。
 battlecorps Isle of the Blessed より。







Vengeance Gambit: Isle of the Blessed

ロバート・ドゥセット
 極秘で活動している、NAISの凄腕技術者ロバートは、NAISの秘密施設にコリアン・エンタープライズの生き残った人員と共に隠れる一方で、死にものぐるいのダヴィオン軍に補給を行っている。コリアンのスタッフたちは、ブレイク信徒をニューアヴァロンから追い出すべく、新型メック――リージョネア――を完成させる間際である。


ジェフリー・ザッカー
 ダヴィオン家からワード・オブ・ブレイクに転じたジェフリーは使命を帯びたメック戦士である。熱狂的な兄弟たちの一部と違って、ジェフリーは大規模な暴力に頼らず、中心領域に光をもたらすことが出来ると信じている……だが、その前に彼は一兵士である。







Tech Journal Doucette: 9 MAR 3071

3071年3月9日

やあ、ミリー

 考えをまとめるために、この「日記のようなもの」を初めてみようと思う。みなにかかっているストレスと緊張を考えると、これは君のためになるのと同時に、私のためにもなると思う(ところでアドバイスをありがとう)。プロジェクトが佳境に入ったところで、私は、配線図、マイアマー収縮率、回路基盤以外のことを考える時間がほとんどないことに気がついた。

 休みの時間に考えを書き留めるのは、ワードがここに迷い込んでくるかもしれないのを待っているよりよっぽどいい。私が言いたいのは、この隠れ家に感謝しているということだ――コリアンが約50年間この場所を隠してきたことを考えると、彼らは明らかに私の知らない何かを知っている――しかし、缶詰工場の地下よりマシなところがあればよかったと、本当に、本当に思っている。

 気に病まないで欲しい。だが、ある日、ブレイク信徒どもの砲撃で、私がこの世を去ったなら、君は私を思い出す何かを持っていることだろう。

 私はこの通信断絶状態を心底嫌悪している。惑星全体にまたがるものでないことは嬉しいのだが、それでもいやなものである。彼らが通信網の中でここの重要度をアップグレードしたことを考えると――なんとオールドマンが先週ここに来たのだ!――レギオン・プロジェクトはほぼ完了したのである……といっても、そう言っているのはオレイリィなのだが。私の意見? そうとは言い切れない。ロータリーを載せたことで発生したトルクに関する大きな問題がある……が、詳細を話して、君を退屈させるのはやめよう。通常の放送がワードによって完全に遮断されているわけでないとしても、この世界内の各所と交信できないのは本当に最低だと言うに足るだろう。ああ、HPGが数年前に失われたことはさておく。恒星連邦の残りが星間通信を失ったら、それが何に似ているか、想像できるだろうか?

 でも、私は秘密厳守の必要性を理解している。私が言いたいのは、DMI(軍情報部)の標準手続き上、我らは沈黙を保たねばならず、よって我らは閉じこめられているということだ。DMIはいま超重度の偏執狂である……が、彼らがいなかったら、我々は噂される軌道上の囚人船に収容される羽目に陥ったんじゃないかと思う。

 従って、今のところ、使えるのは「公式回線のみ」である。願わくば、いつの日か、日記を交換し、ギャップを埋められることを望む。手に入るもので最善をなさねばならないと私は考える。そうだろう? わかるだろうか? ポップスが帰還を果たしたのだ! 到着したのは一月前で、パンプールからの密輸船が、残るブレイク派の船を回避するのに成功したのである。これはそう難しいことではない――オレイリィ少佐によると、奴らの軌道パターンは予測出来つつあるそうだ。もっとも、侵攻艦隊よりも、小型の降下船の方がすり抜けるのは簡単だと強く確信しているのだが――69年初頭に軽近衛隊に起きたことを見ると(おっと、もう2年前なのか?)。

 とにかく、ポップスが言うには、ジャラスター社の間抜けどもが、9-D9の新型プラズマガンにあう冷却剤供給パイプをとうとう作ってのけた。外装チューブを肘の関節の中に入れるのではなく、外側に通し、それから溝を入れてはめこんだ。こうしてパイプはぴたりと腕に収まり、突き出して引っかかるようなことはなくなった。関節内に結合すると、冷却剤の移動が阻止されて、武器をシャットダウンしてしまう――撃ち合いの中ではよろしくないことだ。むろん、君のような者は知らないだろうが。私が言いたいのは、何のために君がラインハルトと防衛軍と共にいるかだ。7年にもなるだろうか? 私は実のところ君が有能なセニー(センチュリオン)パイロットであることに少し興奮している――これが君の狂った兄弟以外の話題を与えてくれる。

 ポップスはいつもより沈んでいるように見えた。私は密輸船にはDMIの工作員も乗っていたことを知った。彼の話しぶりから、ポップスの良き友人であるようだ。彼らはポップスの息子に関する手がかりを得たらしい。エプシロン・エリダニからのニュース記録によると、知事記者会見の背後に彼がいるのである。

 神よ、私はあの老人を愛している。彼がルーディン・エスコタルピの化石を持ち帰ってきたことは知ってるだろう? はるばるパンプールまで行って、私のコレクションのために何かを持ってくる時間を探してくれている。彼を見ると、連邦共和国の大失敗の前に戻って、祖父を思い出す。任務でも任務外でも、祖父は行く先々の世界でいつも何かを持って帰ってきてくれた。私は彼が"20"年代のプロセルピナ襲撃で見つけた「真実の石」をまだ持っている。

 とにかく、ポップスはこのニュースに取り乱したように見える。この10年間――コムスターが分離してから、ジェフからの便りがないのを私は知っている。私はポップスの話しぶりから、彼がコムスターにいるものと考えていた。彼らが馬鹿げた喧嘩で疎遠になったことを私は知っている。彼がセニーに関してどのくらい頑固であるかを考えると、また議論の時に絶対引かない(最近、ロータリーについて議論した――スタビライザーのマウントにきちんと載らなかったのだ)ことを考えると、このいさかいはまだ解決されていないものと確信できる。ジェフはいい子だったから、彼がコムガードに残っているものとばかり思っていた。ポップスが追憶に耽ってる時は、彼の顔を見ればわかる。そうして、彼は息子がブレイク派の側にいるらしいことに、かなりのショックを受けている。

 いまいましいワード。私はいまだに彼らがなぜここにいるかを理解できない。そしてなぜ私たち全員が放射性の灰になってないのかということも。あちこちの密輸人、その他の工作員から聞いたニュースによると、他の星々も彼らの手によってぼろぼろに破壊されたようだ――ターカッドがその一つである。そして我らは最近、アウトリーチとアルタイルについて聞いた。だからどうしてここなのだ? 私には理解できない…

 そんなもの求めていない! NAISに起きたことよりひどいものを見なくて済んだことに感謝している。幸運なことに、NAISが倒壊した時に、プロジェクトリーダーたちの一部はその場にいなかったのだ――もっとも機士団(ニューアヴァロン機士団)はキャンパスの外で犠牲となったと聞いているのだが。教授たちと職員の一部は安全に脱出した――地下輸送路を通って逃げることができたのである。実際に、NAISが倒壊した後、我らは第2候補生隊の生存者を救出した。彼らはどうにか数台のAPCを入手して、ここまでやってきたのだ。

 オレイリィ少佐がトンネルを潰すと決めた後でも、ブレイク派がそれを発見してしまうのに備えて、しばらくは入り口を警護していた。掘削は骨折りであるが、貫通できるのなら、それはここでの戦争に勝ったことを意味している。それを楽しみにしている。アヴァロンシティ再建も同様に。

 さて、遅い時間になってきた。「消灯」の警告が聞こえてくる。ワードがニューカントンの電力施設を吹き飛ばして以来、電気は目立つのだ。君は地下の予備電源があるので問題がないと思うかもしれないが、第三次戦の最中に戻ってきた我らの素晴らしきデザイナーたちは、主電源を製造施設につないだのである。ここは、ついでに言うと、魚のような臭いがする。外観を保つために、すべての感覚を断たねばならないことに感謝せねばならないのだろう。アヴァロン・サーモンの刺激臭が膝関節についてる時の決まりの悪い感覚にも。

 6時間したら指導に戻るつもりである――今日中にジャイロを回して、新型フレームのスタビライザーがうまく動くかを確認したい。後者は酷く失敗して、模擬ストレス試験では、あやうくロータリーをマウントからねじ曲げてしまうところだった。ねじりせん断に問題があるんじゃないかと私は考えている。朝になったら、マイクにもう何回か試してもらいたい。

 また書こうと思う。ミリーへ、ありったけの愛を込めて。

ロバート







22 Jan 3041: Precentor Zucker's Log

3041年1月22日

 日誌……日記。将来のために付け始めることにした。孤独を怖れている、と言うのも書き始めた理由になっている。

 私は混乱している。良いスタートではなくなってしまった。

>>挿入<<

 過去の日記を、もっともふさわしいこの位置に挿入します。父よ、私が死んだ時は、あなたがこれを受け取るように手配してあります。もし私が死んだら。たとえ私が死んだ時でも、あなたがこれを受け取ることがあってはならないが、もしそうなったら……良い変化があることを望みます。あなたが言った >>削除<< ことは >>削除終了<< ――私たちが言ったことは、無かったことにはできません。いま私たちにのしかかっています。この手紙を送るのは、私の選択がそう悪いものでなかったことを表現するためです。いつか、もしかしたら、死ぬ前にこれをあなたに送ることができるかもしれません。いつか、もしかしたら、また話すことができるかもしれません。でも、それが無理なら、以下の中からあなたが誇りと思える何かが見つかることを願います。

>>挿入終わり<<

3059年4月7日

地球…

 私はこの地に来ることを知らず、また降下船の外に出るまでは、それを完全に受け入れられなかった。呼吸できる大気。降り注ぐ太陽。足下の泥。それが私の来たところだ。この感覚をどう判断すればいいのだろうか。

 畏敬。それはまるで深い理解の表面をひっかいてるかのようだ。

 私たちは宇宙に進出してからの時間より多くを、この惑星で過ごしてきた。だが、私たちはそれをどう表せばよいのだろうか? 私たちは成長することができるが、人間の良い面よりも欲望と戦争に訴えてしまう。私たちは堕落し、堕落させられる。権力は堕落する。

 ブレイクは正しかった。技術を扱う能力と、責任を持って扱う資格はまったく別物であると彼は言っている。無責任な使用の例は、歴史書をめくれば全ページに見受けられる。

 私たちはぞんざいに技術を扱うという誘惑をはねのけねばならない。

 私たちは成熟するまで禁止されるべき事柄があると知っている。飲酒。運転。兵役。

 私たちが航宙艦、戦艦、バトルメックを扱えるまでに成熟するのはいつだろうか?

 アナスタシウス(フォヒト)は馬鹿者である。分派した組織を使って、求める知識と技術のすべてに手を広げている。これは遊び場の子供全員に、ナイフを与えたようなものだ。きっと何か恐ろしいことが起きるだろう。そして、この子供たちの中には、互いに憎みあっている者たちがいるのだ。彼は氏族とその脅威に目を奪われ、ひとつの戦争にすべてを投じようとしている。それは何がいつ終わるのだろう? すべてが箱の中に戻るのだろうか? 氏族たちは協力するであろうことを私は確信している。

 無責任に技術を使った時になにが起きるのか。氏族たちがその生ける実例であることに、どうして彼は理解できないのだろう?

 地球の奪還は、もっと前の時代に行われるべきであった。







3 September 3067/4 December 3067: Precentor Zucker's

3067年9月3日

 第三段階(The Third Transfer)。あと数週間しかない。最後には、フォヒトによって加えられた損害の一部は取り戻されるだろう。最後には、ますます激しくなる戦争を抑えることができる立場に我らはあるだろう。最後には、氏族の脅威を終わらせ、氏族の最後の一人までを、大軍隊的な人間性から解き放つことになるはずである。

 喜びで目がくらむのを抑えることが出来ない! ブレイクの理想が、生きているうちに訪れるかもしれないのだ! 率直に言うと、私の人生は、この数十年の後退によって伸びた道を一歩進むことに費やされると信じていた。

 確かに我々は数百の世界で多くの尊敬を得ているが、中心領域の一部で軽蔑を買っているのを知ると、胸が痛くなってしまうのである。特にニューアヴァロンで軽蔑されていることは、私を苦しくさせる。トースター崇拝者(Toaster worshipper)。どのように私たちは誤解され、矮小化されてるのだろうか? 彼らはマシンに愛称を与え、敵と戦うときには(特に重要な瞬間には)幸運が訪れることを祈る。我々は岩や砂に名前をつけるだろうか? それがこの話のすべてである。だが、我らはトースターを崇める者たちなのである。

 泣き言を言いすぎた。「不信心者」が我らの信念に対して言うことを気にかけるべきではないが、全員がそうするのは難しい。

 私は、我らが直面しているのは新たな大事業の始まりに過ぎないことに気付いたが、現時点で非常に安心している。少なくとも我らは本気でそれを始めることが出来る。人類はあまりに長い期間、分裂している。この300年の戦争で無駄になったすべての努力は、すぐもっと良い方向に使われることになるだろう。

 第三段階が実行に移された時、私はニューアヴァロンにいるだろう。星間連盟の旗の下、我らは、教団の最も強大な敵に和解の意志を提示する。我らは馬鹿げた内戦後の再建の手助けをする。我らは守護を与える。我らは星間連盟の真の意義を示すため、友情と許しを与える。

 もしかしたら、私たち、あなたと私は会えるかもしれない。そしておそらく、私がもう一度ニューアヴァロンの陽の中を歩くとき、私たちは再び話すことが出来るだろう。





3067年12月4日

 今感じている敗北感と失望を私は思い出すことができない。すべては崩壊した! 今でも信じられない。破壊と無知のサイクルから人類を進化させる仕事が始まりそうだった時に、忌まわしい欲望と堕落がすべてを破壊してしまったのである。

 奴らは安物のおもちゃに飽きたように星間連盟を捨て去った! 費用がかかりすぎると奴らは言った! 費用がかかりすぎると! どうしてそのようなことを!?

 人類の未来は棺を背負うこととなった。あのいまいましいシュタイナー=ダヴィオンども。奴らが宇宙に害をなしてきたのではないか? 奴らの近視眼と利己主義は許されるものではない。そのために数千が戦い、死んでいき、そして貴重な投資に対する充分なリターンがないとして、捨て去ってしまった。彼らが自らのこと以外に関して涙を流したことがあっただろうか? 彼らの「無私無欲の」活動は、国境を越えることがなかった。

 あなたはこんな連中についていくのか、父よ! どこに行こうとしているのか? なぜ、このような連中についていくのか?

 怒り、失望しているにもかかわらず、攻撃の命令は私を悩ませている。確かに、恒星連邦の指導者は、ルシエン、ターカッド、シーアンの指導者のように罰せられ、排除されるに値する。だが、それは市民に及ぶべきでない。我らが地球を攻略した時、民間人の死傷者を減らすように、あらゆる努力が払われた。だが、我らは恒星連邦の主星に、戦艦と兵士と共に向かっているのである……

 物事が早く進みすぎている。だが、私はケルノフ(ROM司教)を信頼している。彼は私以上の知性を持ち、こういった問題に関しては、私以上に経験を積んでいる。彼は王家君主たちに再考を促すべく、彼らがどれだけ間抜けか見せつけてやる自信があるようだ。

 我らは見つけだすつもりである。彼らが言うように、賽は投げられたのだ。







3 January 3068: Precentor Zucker's Log

3068年1月3日

 この三週間は地獄であった。何が起きたのか、なぜ起きてしまったのかを説明するのは難しい。

 私は戦闘に参加したことがあるが、これに対する心構えはしていなかった。

 私は多くの友人たちが死んでいくのを見た、父よ。そして、私は苦しんだ。私は殺した。

 これは我らが良く知る、戦争に欠くことの出来ない一面である。私と同じようにあなたもそれが嫌いであることを知っているが、我々は受け入れる。私はなすべきことをなす。それが私の役割だからだ。それが私の目的だ。これが世界を良い方向に変えるのを手伝う、私のやり方なのだ。

 しかし、それは、より良い何かのためになるべきだ。

 惑星へのアプローチは悲惨なものとなった。私はまだ完全な詳細を知らないが、ラグランジェポイントの近くでダヴィオンと交戦した直後に、ダヴィオンは〈ヘラルド・オブ・ジャスティス〉に体当たりした。みな、ケルノフが死んだと言っている。次に、軌道上に入ると、数基のSDS(星系防衛システム)が我らの降下船を砲撃し、ニコラヴィッチ司教は発射地点、観測地点への爆撃を命じた。それからHPGステーションもまた破壊された。聞いたところでは、砲撃目標地点にはSDSがなく、軌道上から地表への反撃でかなりの民間被害が出たようだ。これがすべてを変えてしまった。この被害をどのように説明しようか? とんだ失態? 突如として我々は、敵地で我が物顔に振る舞う戦争犯罪者となったのだ。

 六日後に、孤立しても損害はあまり減らせないという決断が下された。もしかしたら誰かがブラックボックスのことを思い出したのだろうか? そして、それとは無関係に、我々は駐留部隊の制圧を命じられた。

 目標はNAISのキャンパスであった。ダヴィオンは我が隊の降下進路を追跡し、我らの目的を妨げるべく、防衛部隊の一部を動かすだろうと予期された。計画はうまくいった。(ニューアヴァロン)機士団とNAIS候補生隊は、ほとんど自殺的な強襲を行い、強固な防衛陣地を構えた。彼らは軌道爆撃に対する準備をしておらず、殲滅された。この時、私は初めて軌道爆撃というものを見た。我が隊は生存者を掃討し、戦艦が残されたキャンパスを片づけた。これを見るのは65年遅すぎた。確かに、星間連盟時代の医療、農業技術の再発見が、多くの人たちを助けた。だが、悪いことなしに良いことはないのである。我らも治療と穀物以上のことでNAISに感謝をしている。

 それから我が隊は再び離陸し、ダヴィオンの援軍を避けた。

 次の数週間、我が隊は軌道爆撃(とダヴィオン)を避け、あちこちの目標への急襲降下(hot-drop)を行った。これは私のミスだった。混沌と混乱を作り出し、敵を惑わせ続けるために、機動力、爆撃能力を使うことを主張するべきではなかった。この戦争を遂行するには正しいやり方だとわかっていたのだが、これほどまでに疲れたことはかつてなかった。ダヴィオンが分散し、見事に爆撃の効果を減らしたのを忘れてはならない。ダヴィオンは爆撃を受けたが、こちらにもいくらかの被害が出た。そして彼らは我が方の観測員を捜し出すのに成功した。我が隊は損耗を理由に脱出したが、一週間早くそうすべきだった。我らは泥だらけになり、市民たちは死んでいった。我が方のメック戦士たちの大半が爆撃を要請せねばならない状況となり、最後の二日間は、ダヴィオンが群がってきたために、ちょうど我らがいるところに砲弾が撃ち込まれた。私はもう部下たちを打ち倒すような砲撃を要請したくない。

 私は疲れている。我が軍は増援を待つ間、建設した臨時基地にいる。皮肉なことに、私たちは内戦の復興支援に使うはずだった資材を、ニューアヴァロン包囲の基地を作るために使ったのである。

 だが、私は笑えない。畜生、ここは私の故郷だったのだ! 私は自分の世界の人々を殺したのだ! なぜこんなことが起きたのか? いったいどのように?







27 March 3069: Precentor Zucker's Log

3069年3月27日

 日記を書く時間が見つかるのは、ニューアヴァロンを炎上させている時だけのようだ。我らの滞在は少なくとも一度目よりは長いものであった。傲岸不遜なガイスト司教の助けを借りた我らは、容易にいくらかの土地を確保し得た。彼はニューアヴァロンでの三週間に参加せず、我らは恒星連邦の主星を1個師団で守り続けるのに失敗しただけで、突如として彼より劣ることになったのである。なんて嫌な野郎だ。

 マッキン司教と語り合ったように、それは簡単だと明らかになった。確かに、ジャクソン・ダヴィオンは極めて柔軟であった。ジャクソンは、我らが戻ってくる場合に備えて計画を立て、数多くの予備後退地点、独立した小補給所、小部隊が短期間野営できる隠れ家を用意した。このやり方は機動戦に最適で、我が軍の軌道上の目を忙しくさせた。彼らがどこに行ったのか我らには分からなかったのである。

 その計画は惑星上に対する増援にまで広がった。ダヴィオンの援軍の全部隊が突如として各ジャンプポイントに同時に出現したのである。その5グループのうち、我が方の艦船が交戦出来たのは2グループだけであった。〈レッドエンジェル〉は、ニューアヴァロンの大気圏まで軽近衛隊の船を追いかけ、首尾良く全滅させた。〈ディヴァイン・フォーギブネス〉は、第3近衛隊に一太刀浴びせ、コンキスタドールを破壊したのだが、成功とは言い難かった。

 残った部隊はそれぞれの進路を進み、それからニューアヴァロンの大気圏内でもう一度分散して、各自の降下地点(我々が支配していないところ)に降り立った。これらの部隊はすぐに船から降り、隠れ家に向かった。その位置はこの作戦を容易にするために選び抜かれていた。ひとつの惑星とはいかに巨大であることか。我が軍の両戦艦は、降下船の数隻を下船時、離陸時に撃ち据えたのだが、援軍の大部分は上陸し、消え去るのに成功したのだった。戦艦は、我らを支援するために、追撃を行わなかった。ダヴィオンによる大規模な攻撃が「必然的に」行われるだろうと、ガイストが予言していたのである。そして、彼は反撃のために貴重な小型核兵器を温存していた。

 彼はその予言を取り下げることがなかった……一年後に撤退を命じられた時でさえも。彼は第31が言わねばならなかったことを、何一つ聞こうとしなかった。我が方には、彼に与える傭兵隊がもうなかった。一年におよぶ、絶え間ないゲリラ戦で、ダヴィオンは我らの弱点を叩き、軌道上からの支援が来る前に、あるいは交戦後に、すぐさま撤退していった。彼らは常に分散し、軌道上からのダメージを中和した。彼らはランダム化された軌道を読み解くコツを得たように思える。かつて(ツカイードの)ディンジュ山道でジャガーたちがどう感じていたのかがわかった。

 我が軍は少しずつ兵士と土地を失っていき、またガイストは大規模な強襲が今にも来るかもしれないと語り続けた。彼が言っているように、援軍はいつでも来ることだろう。実のところ、第36が上陸する前にすら、我々はニューアヴァロンをかけた二度目の戦闘に敗北していた。私は今それを見ることができる。

 最高司令部はニューアヴァロンにこれ以上手間をかけないだろうと、私は確信している。彼らはすでに、ゲリラを排除し、仕事を完遂するに足る充分な兵士を送り込んだろう。

 我々はモンスターであると、いま誰もが信じている。誰もが我らの敵である。私がすべきだったのは、生まれ故郷を同じくする人々の目を覗きこむことだった。

 我らが高邁な理想のために戦っていると、今はもう誰も信じていない。第三段階という我らの夢は、二年前にターカッドで死に絶えたのだ。我らは彼らを連盟に戻すことができない。そして、人道を再生させるために、彼らを炎で浄化することができない。違う、我らは生き残るために戦っている。今、それは私にとって明白である。もうどこにも行くことはできない。彼らは我々の降伏を受け入れないだろう。彼らは我々を殲滅するまで止まらないだろう。彼らは今、我々の滅亡だけを求めている。

 捕らえられた味方のために祈りを捧げる。どのような運命が彼らを待っているのだろう? 他の者の罪、自らが関わってない罪のために罰されるのだろうか?

 ブレイクの名が簒奪と同じ意味になる日が来ることだろう。

 我らが根絶されずに終わるのは難しいだろう。







27 March 3069: Precentor Zucker's Log

3070年3月4日

 3070年。50歳になった。生まれ育った星系に戻って三年ほどになる。私は海賊として生き、ニューアヴァロンで掠奪を行って補給物資を得ている。敵が言うところの「救援物資」は尽きてしまった。この土地の良いところは、近隣の5つの世界に食料を供給する数十億人の農民たちが住んでいることである。私たちは実際、食べ物に困ってはいない。

 私は、囚人船以外の任務につけないかどうか、マッキンに尋ねた。私はこれらのボロ船での二度目の勤務を終えたところだった。この仕事は最悪のものだ。誰かを拘留する時、人は人でいられなくなる。他の何かにならねばならない。常に身の安全を考えて、整列させねばならない。こういった船は危険である。捕虜たちはすさまじい創造性を発揮して武器を作り出す。サンチェスは紙製のミニクロスボウで腹を打たれたのである。なんということだ。誰がそんなものを考えついたのだ? 私が聞いたところでは、配管用の部品と、デッキの材料で作られた、完全に機能するセミオートマチックピストルが見つかったという。唯一見つからなかったのは、弾薬の供給源である。試験のために5発欲しかったとその捕虜は語った。見つかった時に彼が持っていたのは3発だった。

 戦争で初めてメックを倒して以来、私は大勢を殺さねばならなかったが、これはまったく違うものだ。捕虜を殴りつける時、人は一言で言い表せるものになってしまう。私はもうそれにはなりたくはない。

 だからもう基地から離れたくない。基地にいたほうがまだましなのである……だが、他とそう大きな違いがあるわけではない。誰にも楽しみなどないのだ。私たちはこの星系の者たちと同じく囚人なのである。私たちはここを離れることができない。そして仕事を終えることが出来ない。どこかで起きている数多の戦闘(私たちが起こしたもの)で、兵士が必要だとわかっている。しかし、上層部は戦艦1隻を提供してくれた。(自由世界)同盟の塗装がされたままのイーグル級。〈モルドレッド〉だ。誰かの皮肉のセンスが戦艦の配備に影響したのだと推測する。

 ダヴィオン山を破壊したと誰もが自慢している。私が知っているのは、ただ単に〈レッドエンジェル〉と〈ディヴァイン・フォーギブネス〉の両艦が、ダヴィオン山に近づいた時にはいつも数発撃ちこみ、ジャクソンに忘れていないことを思い知らせることである。だが、見たところ、〈モルドレッド〉は狐の巣(恒星連邦軍最高司令部)を完全に破壊するつもりのようだ。彼らが直接ダヴィオン山に行くことはない。我が方は、20年間毎日砲撃出来るだけの艦隊を持っているのである。







Tech Journal Doucette: 28 April 3071

3071年4月28日

 音信不通だったのを許して欲しい。私はふさぎ込んでいて、それ故、不安定になっている。

 ひどい一日だった。我らはねじれ問題を解決した……のだが、予期せぬヒートポケットがTagCo(ターゲティング・コンピュータ)の配線に逆位相を生み出しているようだ。ねじれ問題を解決した結果、これが起きたのだと我々は考えている――データの損傷率は高すぎるし、TagCoはゴーストになってしまっている。これがレーザー光学装置に悪さをする。このビーグル犬がこれ以上ひどいことにならないといいのだが……。正常に動作するようにシールドが出来たと我々は考えている。驚くほど単純な泡状のシールドでそれが出来た。

 我々はプロトタイプ四機の全システムをすべて完全に切り替えなければならなくなるだろう――すぐに作業が終わるといいのだが。噂によると、ここ数週のうちにジャクソンが「準備状況」の視察に来るようだ。オレイリィは、リモートHUDと単純な目標ドローンを使って、そのうち一機をオールドマンに披露することを望んでいる。それをアケロンの森で実施する予定である。森は深い木々に包まれ、ワードが時折軌道上に置いている人工衛星の目から、赤ん坊を隠すことができる。1Xと2Xの両方に問題があり、準備ができているかどうか私には判断が付かない。彼はおそらく基本コントロールを使って、機体を動かすことになるだろうが、まだその時でないことを進言することになりそうだ。

 その一方で、暇になるのを避けるため、我らはブレイクが打ち上げた人工衛星で賭けを行っている――これまでのところ、軌道上に最も長くとどまったものはYOC-1で、近衛隊のスパローホークに対衛星攻撃で叩き落とされるまでに179時間だった。ジョアンヌが掛け金(45Dと二日の夜勤交代)を勝ち取った。運の良い奴だ……

 通信が停止していることから、チャンネル9の突発的な放送を除いて、我々は何もわからないでいる。DMI(軍情報部)の通信手順と、ローブ野郎によるランダムなECM妨害が組み合わさって、信頼できる情報を入手するのは本当に難しいものとなっている。

 オレイリィはパラノイアになっている。ここから4クリック(キロメートル)の位置にある砲兵基地がワードに叩きつぶされて以来(そして、君の近衛隊、第2候補生隊用の、すべての弾薬、パーツ、燃料を持って行かれて以来)、彼は我らの特権を厳しく制限している。ブレイクがどうやって基地を見つけたかはまだわからない――交通量を調査したのか、あるいは、それはあってはならないが、スパイがいたのかもしれない。いずれにせよ、それはみなを不安にし、我らはすべてを結果論で批判している。

 私はチームの全員に丸一日のオフを与えねばならなかった。なぜかというと、右上腕のマイアマーをつり上げていた時に、トーゲセンが胴フレーム全体を50センチ落としてしまったのである。結果、肩の関節が完全にねじれてしまった。彼は疲れ果てていたのだ。

 とにかく、仕事はもう十分だ。仕事のことを考えると気が滅入ってしまう。

 ポップスはしっかりしている……眠る前にいくらか酒を飲むようになったのだが。かわいそうなやつだ。なにかしてやれることがあればいいのだが――そうするのは当然だ。63年に私の家族がソーリンで死んだのを知った後で、彼はここにいてくれている。私はまだ覚えている。そこに立った彼が、神の手によってなされたことを教えてくれたのだ。

 後に私は、彼が私を守るために、私の職務記録をまとめてくれたことを知った。しかも同時に彼は自身の仕事もこなしていたのである。彼はそうしたことで、ジェロー大尉と私から罵声を浴びせられた。後に彼は「君と私は互いに守りあっている。君はわたしがここにいられるようにしている。そして私は背中を守るために君がいられるようにしている」と言った。あの夜、我々はへべれけに酔っぱらったと思うのだが、よくおぼえていない。

 彼は打ちのめされている、ミリー。残った最後の家族が敵の側にいるというのはどういうことなのか、私には想像できない。これは聖戦中に友人たちから聞いた裏切りのたぐいではない。この戦争は――私は戦争ととらえている――生き残りをかけた戦争である。内戦は権力争いであった。誰が統治の権利を持つのかという。この戦争は、誰が生き残るのか……そして死ぬかを決めるものだ。質問しているのは我々ではない――自身を「救済者」と呼ぶ、あの人でなしのローブ野郎どもだ。間違ってるなら言ってほしい。だが、救済者というのは、信者を絶滅させず、救うものではなかろうか?

 ああ、思い出されてしまう! 私はアヴァロンシティのネットワーク送信をいくつか見た。MI4は諜報画像を撮影するために無人機を送ったようだ。ここの五階に臨時諜報本部が置かれていたので、我らは直に情報を見ることができた。恐ろしいものだった。美しい宝石の大半が残骸に倒れていたのだ。だが、奇妙にも、それは放射性物質にやられたのではなく、戦闘による破壊だったのである。我らが知る限り、連中は核兵器を使っていない――その場合、ここの放射能探知機がけたたましい警報を出していることだろう――のだが、ほかの弾薬を使用したと思われる。つまり、第2候補生隊の生存者が語ってくれた、3067年の12月、NAISの外にいた第2候補生隊と機士団に降り注いだ「天からの炎」のことである。

 しかしながら、軌道爆撃はその地域に制限されたようである。私は惑星上の他部隊に関する断片的な報告を聞いていた――通信が断絶する前に(もっとも、再武装のためにやってきた哨戒部隊から、時々、話を聞いていたのだが)。幾度かの攻撃が行われたのだが、アヴァロンシティに対するものより激しいものは他になかった。巣(地下の最高司令部)さえ攻撃されていない――本当に奇妙だ。つまり、彼らはその場所を知っているのであるが、まるでその存在を我らに思い知らせるかのように、周期的に砲撃するだけなのである。ハゲタカが獲物を生かしたまま旋回しているのだ。ともかくとして、首都へ加えられた打撃は、消火が難しい火災、いくらかの戦争による大殺戮、それに我々が観測した二度の軌道攻撃である。大部分は、宮殿と、近衛隊の集結地点のひとつに対するものだ。MI4の探査機は、シヴァ戦闘機に落とされる前に五分もった。

 本当に異様なこと? セントヨゼフ大聖堂――カソリック信仰の中心地――がまだ健在なのである。周囲の大部分とともに。都市内でも攻撃を受けてない広い地域のひとつである――他の箇所とは違って、小規模な被害を受ける兆候すらないのだ。

 奇妙だ。まるで彼らが何かを語りかけようとしているかのようだ。あるいは、教皇が我らにずっとうそをついているのだ。

 くそっ、呼び出しだ。何かろくでもないことがベイで起きたに違いない――また後で手紙を書こうと思う。

 ありったけの愛をこめて!

 ロバート







Tech Journal Doucette: 3 August 3072

3072年8月3日

 今日、コサック隊がまたもここにきた。アルファ機を試運転しさえした……短い時間であったが。不満は漏れてこなかったので、技術面は問題ないと受け取った。もっとも、弾薬を節約する必要があったので、実弾テストは行われなかったのだが……ワードはここから80クリックのところにある別の砲兵基地をたたいたのだ。ロビーどもが弾薬を我々に対して使うよりは、炎の中で爆発したほうがまだましである。(そう。私は奴らの呼び名に、オレイリィのニックネームを使っている――"Robes"と"Wobbies"の組み合わせである。こちらの方が発音しやすい)

 ポップスは良くなっている――彼は息子を失ったという事実を受け入れたのだと思う。願わくば、ポップスのため、あのネズミとの間に生まれた少年が、カオス境界域を離れ、ここの近くでないどこかにいますように。

 ポップスと話すのは楽しい……彼が29年にデスコマンドの襲撃と戦ったのを知っているだろうか? 彼は「狐」とレノ(チームバンザイ隊員――彼らを覚えているか?)の後ろにいた三番目のメックだったのだ。センチュリオンでキャピー(カペラ)のバンシーを倒した。ポップスの話しぶりから、君は彼が一人でハンスの命を救ったと思うことだろう。そして私が彼を信じていることもきみは知っている! なんとも彼はすごい人生を送っているのである。私が彼について知っているのは、52年に私がNAISに配属されて以降のことなのだが、ポップスはあちらこちらに行っていた。39年戦争では、ブリードで攻撃部隊を率いた。

 当時彼が私の祖父と一緒にいたかもしれないとさえ私は考えているのだが、どんな部隊だったのかはわからない。NAISの任務で、彼はバックアップパイロットとしてAFFCのあちこちにいたようである。もちろん、彼はセニーのテストも常に行っていた――彼は機体の中も外も知り尽くしている。

 実際のところ、それはすばらしいことだ。レギオン・プロジェクトは確かに新型メックに関するものなのだが、元々はセニーのパワーアップが想定されていた――センチュリオンII、と彼らは名付けたかったのではないだろうか。だが予算に制約があり、彼らは結局、計画の大部分を廃棄したのだった。彼らの手元にはフレームがあったので、それを無駄にするより、足の速いメックを作り出すことを決めた。そのメックは容易に生産が可能で、忌むべき内戦での途方もない損害を埋めることになる予定だった。私には、この超小型ブリッツリークを製作することが本当に正しいかどうかわからないが、もしロータリーがきちんと動作するなら、この野獣は完璧な迂回攻撃機になると言える。もっとも私はロータリーオートキャノンを搭載できるか疑い始めているのだが――性能を完全に引き出すためには、頭か肩の真上に載せねばならず、そうじゃないと役立たずとなる。これは良い標的となってしまう。私見では、その醜くも美しいラインを台無しにしている。

 私は訓練時に古代の軽騎兵隊の一部隊に配属されたことに感謝しているのだよ。私は「撃って逃げる」経験を持っていたので(だが認めねばならない、ソーリンでこれは役に立たなかった――巨大なくぼみに足をとられたのだ)、装甲配置やバランスアルゴリズムについてフィルビー博士と議論する助けとなった。

 ああ、私はポップスの息子、ジェフについて考え続けざるを得ない。なぜ彼は家族を離れ、国を去り、あのような秘密組織に入ったのだろうか?

 あの子は取り込まれてしまったに違いない。そうでなければ、生まれつき短絡的だったのだろう。

 なあ、君と生き残った近衛隊員たちが、哨戒任務でこのあたりに来るかもしれないという噂を聞いた。君たちがここに立ち寄る許可を得ているのを望む――ラインハルト・シュタイナーに会いたいのだ。話を聞いたら、君は彼がひとりでファルコンをくい止め、押し返したと思うことだろう。ああ、もちろん、君にも会いたいと思っているよ! ハハ!

 朝食の時間だ。胃が鳴っている。今日は、生鮮食料品と卵を入手できたと聞いている――近所の農民たちが近くの町で食料品をまとめて落としていったのだ。

 ありったけの愛をこめて!

 ロバート







10 December 3072: Precentor Zucker's Log

3072年12月10日

 五年がたった。そして、いま、ついに我らがニューアヴァロンを我がものにできるかもしれない。第5連邦共和国RCTが《レッドエンジェル》を核攻撃した数日後に、第44シャドウ師団が現れた。ああ、マスターの手をここまでのばすとの決断が下されたのだ。上層部は、主星を押さえれば恒星連邦が崩壊するかもしれないと判断して、切り札を切ったのではないだろうか。彼らはブロンソン群団を伴っていた。おかしい。我らは、傭兵ビジネスの評判をおとしめ、最大で中隊程度に抑えるのを計画していたはずだった。なんとも、必要に応じて原則がねじ曲げられたようだ! これを彼らに指摘しても、ほめられることはないだろう。

 彼らの指揮官は、ガイスト司教の態度を侍祭以下のレベルに下げた。彼は今、呼び名を偽っている。だが、彼を非難することは出来ない。私は彼らの司教に会った……アヴィトゥ(Avitue)である。私はその名を調べねばならなかった。いまわしき通称である。

 彼女は……ぞっとする。私はこれまでに何度かおそろしい女性に会ってきたが、この人物はかつてなかったほど苛烈である。

 だが彼女は明らかに鋭い人物である。彼女は下調べを済ませ、その計画はうまくいった。それは、私たちが67年に引き戻したそうとしたものに、似ていることに気づかざるを得なかった。それは、なぜマッキンが監視されずに行動しているか、許可を受けずにトイレに行けるかの理由になるかもしれない。

 我々は明日降下する。私の中の一部は、愛機レガシーに再び乗るのを楽しみにしている。残った一部は、あるひとつのことを忘れていない。もしかしたら、それは今より良くなるかもしれない。

 あなたはまだ生きているだろうか? 私がなしたことすべてを、私がなったものを、誇れるだろうか?







Tech Journal Doucette: 18 December

3072年12月18日

 ああ、ミリー、残念だ。

 我々は待ち伏せの件を聞いた。出来る限りの戦力を緊急出動させたのだが、到着した時にはもう遅かった。

 ラインハルトは英雄であった……間違いなく。だが、彼の死の「真実」が明らかになることはないのではないだろうか。どうしたものか、私は「ワイバーンの拳に倒された」という話に疑問を抱いているのである。彼が小口径レーザーだけでロビーのメック4機を片づけ、死んでいったとの噂がすでに出ている。だが、それとは無関係に、彼は本物の英雄であった……彼がシュタイナーであったとしてもだ。

 奴らがポップスを倒したのかどうかも疑っている。彼は少しずつ、腕をにぶらせていたのだよ、ミリー。このことと息子のことが彼をむしばんでいた……。昨日のことだ、ポップスの試運転は三十分長引いていた――大変な三十分だった、我らは完全に彼を見失ってしまった。オレイリィは半狂乱となり、数名の候補生たちを動員した(絶対にこのメックを失うことは出来なかったのだ、あまりに重要すぎた!)。そしてオレイリィが最後のデータを候補生たちに与えたまさにその時、ポップスがグリッド上に戻ってきた。彼は何が起きたかを思い出すことができなかった。私はログをチェックし(小さなレッドボックスレコーダーを各プロトタイプのコクピットに載せていた)、データが失われているのを見た。私にはポップスがシステムをいじったのだとわかった……というのも、彼はそれが出来る三人のうちの一人だったからである(残りの二人は私と、オレイリィである)。私はそれを彼に突きつけた。昔の家に行っていたというのが彼の答えだった。私は彼がこのあたりで生まれ育ったというのを忘れていた。念のため、次は知らせてくれと私は伝えた。

 ああ! とうとうメックに名前がついた。ジャクソンは「リージョネア」に固執しているようである。この機体が、すさまじい打撃力を持つ、高速、安価で、容易に交換できるメックとして設計されたのを考えると、我らはそれほど驚かなかった。我らの見立てによると、ジャクソンはセンチュリオンのパイロットにリージョネアを操縦させることを望んで、古代ローマの歴史にあわせたのだろう。

 君はこの獣のセールスポイントを知ってるだろうか? モジュラーフレームだ。セニーが改造しにくい最悪のメックの一機と知ってるだろうか? さてさて、退屈な詳細を省くと、リージョネアのフレームは、どこかの地下室で作れるようなモジュラー形式なのである……充分な大きさがあれば。オーケー、そんな広いところはないかもしれない。

 でも、フレームの組み立ては本当に簡単なんだよ。ロータリーはTagCo付きでコクピットの上に、容易に載せられる。私の目から見て、唯一の欠点は、弾薬ベルトをロータリーの下から通すことが出来なかったことだ。重力に頼らず、強制的に装弾すると、ジャムの確率が確実に上がってしまう。したがって、我々はベルトを胴の上部からこの武器に通さねばならなかった。うまくいけば、機体の輪郭が目標にされるのを妨げてくれるだろう。そうでなければ、ベルトは吹き飛ばされるのを待つ、爆竹の束になってしまう。

 それで、第5連邦共和国RCTが我らを「救出」するために戻ってきたという事実をどう考える? 私はまだこの件の全容を知らない――最後の補給は六週前のことで、この地区の残った放送アンテナはフライになってしまったのである……こともあろうに落雷によって。どう考えるべきなのかを判断できるだけの証拠がそろっているか、私にはわからない……彼らが戦艦一隻をしとめたことに感謝しているのを私は認めなければならないだろう。そのおかげで、荒野での追加試験運転が出来るようになったのである。加えて、どうやらダヴィオンが部隊を再編したようで、昨夜、もう1個メック小隊が再装備のためにベイにやってきた。彼は部隊をゆっくりローテーションさせて、ここで残った特殊弾薬(候補生隊が持ってきたもの)を載せようとしているのだろう――我らは利用できる優位はなんでも利用せねばならない。なにかの大規模な準備が進んでいると思わざるを得ないが、私にはそれが何かわからない。近くにブレイク派の大部隊がいるのかもしれないが、私は単なる下級エンジニアにすぎないので、重要な情報にはまったく関与できないのである。

 情報から切り離されているのはいいことだと思う。自分の仕事に集中できるからだ。

 仕事の時間だ。ありったけの愛をこめて。

 ロバート







Tech Journal Doucette: 9 January 3073

3073年1月9日

 わかった、良くはない。まったくもって良くない。

 特務警護隊の大半が他の場所に移されて以降、このあたりの哨戒を増やさねばならかった。メックベイは今だけかなり奥深くに隠されている。1個小隊だけが行動できる状態にあり、またリージョネア2機が最終段階に入っている――つまりうまくいけば、この2機を戦闘に使えるということだ。我らはもう2機の用意を大急ぎで進めている――オレイリィはこの2機を次の密輸船に乗せて、ニューアヴァロンから遠く、遠く離れたコリアンの施設に送ろうとしている。もし、惑星脱出に成功したなら、AFFSは多量の補充機を作れるだろう。適切な設備を持つ工場施設ならどこでもリージョネアを大量生産できるように、生産過程を煮詰めることができたと私は考えている。

 ここの守りを手薄にするのが賢いことなのか、私は納得していないのだが、現状では人目を避けて隠れていること自体が大きな武器になっている。この地域へのワードオブブレイクの出撃は大幅に減少し、士官たちが噂しているところによると、これは惑星全土に及ぶようだった。何かが起こっている。私はこれがロビーの撤退ではないと思っている。

 警戒態勢が高まっていることから、彼らは我らのうち数名を正規のメック戦士として現役に戻した。ポップスは通常の当番に編入されている――実戦に耐えられるような年ではないのだが、とにかく兵士が足りないのだ。今日、この後、少佐に会うことになっているが、私も復職することになるんじゃないかと思う。脚の問題と、耳力バランスの問題があるにもかかわらずだ。その場合、彼らは本当に何かのための準備をしているのだろう。内戦以来、彼らがこの場所の守りを薄くしたことなどなかったのだ(内戦の時には、彼らはすべてをはぎ取り、キャサリンにぶつけた)。

 不穏当である。

 私は心配している。なぜならコクピットに戻ることになるかもしれないからだ。それは戦闘を意味している。それは死の可能性を意味している。それは終戦に立ち会えない可能性を意味している。それはもう会えないことを意味している。

 私は相当におびえている、ミリー。そして、私は疑っている、私は思う。君がコクピットに入り込むとき、どう対処しているのか理解しているかを。

 道中の安全を祈る、愛しい人よ。

 ありったけの愛をこめて。

 ロバート







SITREP: Armed Forces of the Federated Suns

 ミサイルが我がメイルシュトロムの左腕を叩き、装甲を破壊した。ワイアフレームがイエローからレッドの方にちらつく。奴が林の中に入ったのを見て、私はサイクロプス(大口径レーザー)で仕返ししてやった。エメラルドの光が木々の間を貫き、真っ白なエクスカリバーの胸を焦がしたが、それだけだった。

 ちくしょう。さっきのオウサムにPPCを持って行かれてなければ。

 幸いにも、エクスカリバーのガウスを壊すことができた。あいつのLRMの弾道内に入れれば、仕留めることができるだろう。

 右に避ける。奴が木々の中にいる限り、こちらにとっては遮蔽となる。

 だがこちらには機動力がある。

 Jエドガーの砲撃がトースターの注意を左に引いて、私が近づき回り込むための貴重な数秒を稼いだ。

 トースターは私の動きを見て対処し始めた。やつは迫ってくるものを見たが、森が動きを阻害していた。やつは逃げようとしなかった。

 そして私は弾道内に入った。

 パルスレーザーの砲門を開き、やつの装甲を切り裂いてやった。たいしたダメージではなかったが、奴は反撃できなかった。いますべきは、やつを倒すことだ。

 無線が音を立て、ジョン・ダヴィオンの声が聞こえた。「重近衛隊、こちらヘビーワン。戦いながら退却せよ。今すぐ、大隊ごとに後退し、交代でしんがりをつとめよ。実行」

 私は無線を切り替える。「ヘイ、エル・ティー。こっちはロープの上でトースターをやったところだ。なぜ後退するんだ?」

「国王はおしゃべりに給料を払ってるんじゃない」エル・ティーは鋭く言う。「頼むから、グエン、一度でいいから無駄口を叩かず命令に従ってくれ」

 私は叱責にとまどった。いったい何があいつのパンツの中に入ったんだ? だが、私は命令に従う方法を知っていた。メイルシュトロムを停止させる。

 そしてエクスカリバーが射程から離れていくのを見た。

「第5だ」、カールソンが言う。「やつらは俺たちの側面を守ってなけりゃならなかった。やつらは俺たちを売ったんだ。アトミック・アニー(第5RCT指揮官)はローブ野郎の側についてるんだ」

「そんなのわからないだろ」私は言った。「もしかしたら特殊任務のたぐいについてるのかもしれない」

 カールソンは鼻息で、この意見に関する考えを皆に伝えた。「ああ、きっとな、グエン。おまえがサンタクロースとイースターバニーを信じてることに賭けるぜ」

「もし我々が下がったら、クラッシャーズ(強襲近衛隊)は丸裸になるぞ」ヘンダーソンが言う。

「もういい」エル・ティーは怒鳴った。「くだらないおしゃべりは慎めと言わなければならないようだな。番号ごとに後退しろ。グリッド・シックスフォーツーに着いたら、塹壕を掘って、第2の退却を援護する」

 「イエッサー」のコーラスが無線を満たした。

 だが、ヘンダーソンの言葉を聞き逃した者はだれもいなかった。我が隊が退却したら、コルマルク争奪戦に負けてしまうことになる。

 悪寒が背筋を降りていく。

 無線が入り、私は希望を持ってそれを見た。

 誰かが叫ぶ。「ダヴィオンが撃墜された。ダヴィオン元帥が死んだ」

「なんだって?」私は口走る。

「口を慎め」エル・ティーは怒鳴る。「戦術無線を使え。ただちに後退するんだ」

 突如として喉が締まっていった。ダヴィオン元帥が死んだ。でも、どちらだ? ジョン?

 それともジャクソン?







SITREP: Word of Blake Militia

 防音処理されたトヤマのコクピットにいても、連邦ネズミの砲撃の音が聞こえた。致命的なまでの正確さで降ってきた砲弾の衝撃が、脚の下に伝わる。その鋼鉄の雨が、ダヴィオン強襲近衛隊への攻撃を妨げた。

 我が隊はどうにかそれをやり過ごさねばならなかった。

 森に分け入ると、木の枝に脚を取られる感覚があった。VDNIコネクションを通して肌が冷たさを感じる。

 そして低い砲撃音の下のどこかに、何かのささやきを聞く。

 頭を左に引っ張られる。

 そして私は動く光を見た。

 それは速度のわずかな兆候だった。鷹から逃れようとする兎の思いがけない動きである。私はそちらに左腕を向けて、下ろし、ブランケンブルク重PPCを放った。蒼穹の稲妻が空気を焼き、オゾン臭のする電子で大気を覆って、すさまじいブーム音の後に続いた。

 観測手が飛び出して、自らをさらけ出した。彼が装備していたのはインフィルトレーター・アーマーなのにだ。

 私は振ってくる砲弾の音を聞いた。そして、そのとき観測手が英雄的な最後の瞬間に、砲撃を自分のところに撃つよう要請していたことを知ったのである。

 やれやれ、プレイヤーは二人いたのだ。

 私はそこに立ち、砲撃を受けた。装甲が砲弾で切り裂かれるのを感じる。まるで怒り狂った犬に肉をかみ切られているかのようだ。私は歯を食いしばって、痛みに耐えた。PPCを水平に構え、連邦ネズミの兵士を火葬してやる。

 さあこれで我が隊は連邦の間接砲のところにいける。

 私は後退して、降り注ぐ砲弾から逃れた。司令部の周波数に切り替えて、観測手の死を伝えようと思ったそのとき、ジェフリー・ザッカー司教の声が飛び込んできた。「ワードオブブレイク全軍へ。こちらザッカー。アヴィトゥ司教が戦死した。繰り返す、アヴィトゥ司教が戦死した。私が全軍の指揮を引き継ぐ」

 私は一瞬固まった。

 アヴィトゥ。死んだ? 裏切り者のザッカーが指揮を?

 信じられなかった。

 たった今ダヴィオンが死んだと聞いたところだ。連邦は崩壊していた。どうやったらアヴィトゥが死ぬのか?

 暗い考えが心をよぎる。ザッカーがアヴィトゥを裏切った?

 やつが彼女を殺したのか?

 ザッカーはニューアヴァロンの生まれだ。やつはアヴィトゥに逆らって、ついこの間まで拘束されていた。

 そしてそのとき、別の声が聞こえた。「シャトルをこの地点に投入せよ。ゴールドオーソリティ」

 ゴールドオーソリティ。アヴィトゥ個人のコールサインだ。もし誰かが彼女のコールサインを使ってシャトルを呼んだのなら、死ぬに死ねないだろう。

 ザッカーは何をたくらんでいるんだ?

 まるで合図のように、無線が音を立て、ザッカーが言う「第44シャドウ、左に回って、高速進軍の用意だ」

 VDNIを通して地図を調べた私は顔をしかめた。「アヴァロンシティを攻撃するのですか?」

 「いいや」ザッカーの声が答える。「目標はもう少し北だ」



(訳注:ワード・オブ・ブレイクがこの戦いに勝利しました。最高司令官ジャクソン・ダヴィオン元帥がアヴィトゥの手にかかって戦死しています)













タイプ: リージョネア LGN-2D(LGN-2X)
技術ベース: 中心領域
重量: 50トン
戦闘価値: 1386

                            装備重量
内部中枢:     エンドースティール         2.5
エンジン:         350XL            15
    歩行:         7
    走行:        11
    ジャンプ:       0
放熱器:         10(20)             0
ジャイロ:                        3
操縦機器:                        3
装甲板:          152             9.5

        内部中枢    装甲
頭部:      3         9
胴中央:    16        20
胴中央(背面):           7
左/右胴:    12        16
左/右胴(背面):          6
左/右腕:     8        14
左/右脚:    12        22

武器・装備         配置    装備欄数    重量

ロータリーAC/5       右胴      9      13
弾薬(AC)60        右胴      3       3
ターゲティングコンピュータ 左胴      3       3




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