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作成:2023/09/24
更新:2024/04/21

イルクラン ILCLAN



 3151年1月、アラリック・ワード氏族長率いるウルフ氏族の全軍が、ウォールを通過して、地球に到着しました。
 その目的は地球に降り立って、イルクラン――大氏族になるため。そしてウルフ氏族の下に星間連盟を復活させるためです。
 しかし、これはデヴリン・ストーンの作戦の一環に過ぎませんでした。ウルフ氏族をおびき寄せ、守りの固い地球で叩きのめすのが、スフィア共和国総裁の戦略だったのです。
 一方のアラリックも策士。地球を占領するために、様々な陰謀を張り巡らせていました。

















ここに至るまで


マーキュリー作戦 OPERATION MERCURY

 フォートレスのウォールが降りたあと、ウルフ氏族は共和国中の世界を荒らし周り、3150年1月にニューアースを占領して、フィデリスの大半を吸収した。ワード氏族長の到着に伴い、カストス・ポール・ムーンはフィデリスの素性がスモークジャガー氏族であることを明かし、最終的に氏族に戻りたい旨を話した。共和国の防衛に関する情報を交換したあと、ムーン自身はウルフ氏族に加わるのを望まなかった少数のフィデリス戦士とともに旅立つのを許可された。ニューアースは地球強襲への前進展開地点になり、そのあいだワード氏族長は科学者階級からの返答を待った……地球星系の最後のウォールを打ち破る手段を求めていた。


最後の準備 FINAL PREPARATIONS

 3150年10月24日、ウルフ氏族の科学者たちは共和国最後の要塞を突破する方法を発見した。地球星系からおよそ50光年離れた何もない空間にジャンプし、それからリチウムフュージョンバッテリーを使うか、ジャンプコアにホットチャージしてそこから地球にジャンプすることで、ウォール技術がジャンプ波を目標に妨害する前に星系内にたどり着くことができるのだ。3150年11月6日、バッテリー装備のウルフ航宙艦2隻がニューアースから地球への極秘の往復に成功した。

 他の国がウォールを破る秘密を見つける前に、ワード氏族長は急いでマーキュリー作戦の命令を伝達した……ウルフ氏族のほぼ全軍である14個銀河隊をニューアースに集め、それから地球近くの宙域に入るのである。アラリックはライラ共和国も自由世界同盟も何もできないと見て、ウルフ帝国からほぼすべての防衛部隊を剥ぎ取るというギャンブルに出た。ライラ軍は国境が広がったところで効果的に守ることができず、同盟はレグルスの再統合とマリア帝国との紛争からいまだ回復中であると彼は信じた。

 3151年1月1日、アラリック・ワード氏族長は先陣の海軍打撃艦隊にマーキュリー作戦を発動する最後のシンプルな命令を出した――ジャンプせよ。










地球の戦い、フェーズ1: ウルフ来たる 


タスクフォース・オステンド TASK FORCE OSTEND

 共和国は長く待つ必要がなかった。3151年1月1日、標準時刻0711、タスクフォース・オステンドと名付けられた2隻のオデッセイ級航宙艦が天底点にジャンプした。ウルフ氏族の船種不明降下船6隻(あとにパイルドライバー級強襲降下船と特定)が航宙艦から切り離され、海軍防衛ステーション、フォート・モンローとフォート・アカエフ=キャメロンに向けて最大加速で直進した。2基の海軍要塞は、天頂点、天底点の近くに作られ、艦載級兵器と気圏戦闘機格納庫を備えていた。星系内にジャンプしようとする戦艦にとっては、このすべてが大きな脅威であった。

 RSS〈アブンダンティア〉が要塞の支援に動くと、ラベー提督は小艦隊の戦艦の大半に、ウェイポイント・ゼファー(後退地点)に戻るように命令した。彼は降下船を即座に破壊するのを予測していたのみならず、追加の侵略者が現れた場合に備えて、共和国の戦艦の多くを保持するようストーンから命令を受けていた。だが、この決断はすぐ裏目に出た。要塞は気圏戦闘機をスクランブルさせたが、効果は出なかった……パイルドライバーは兵器を犠牲にして、ユニオン級の船体に分厚い装甲と高推力の核融合エンジンを積んでいた。オステンドは砲火を受けたが、増強された装甲とジャンプポイントから加速した時間を持ってして、射程に入ってから一斉射分しか浴びず、パイルドライバーの大半が生き残った。

 共和国海軍は知らなかったが、タスクフォース・オステンドの乗組員たちは年老いたウルフ氏族のソラーマ戦士で構成されており、彼らの任務はいかなる犠牲を払おうとも(それが地球星系での名誉ある死を意味していたとしても)海軍要塞を破壊することだった。残ったパイルドライバーの1隻が時速500キロメートル以上でアカエフ=キャメロン要塞に突っ込むと、両者はエネルギーの奔流とデブリと化した。フォート・モンローにも似たような運命が降りかかり、突っ込んだパイルドライバーが艦載級ミサイルの弾薬庫を誘爆させた。残ったウルフの降下船はすでに破壊されたステーションに突っ込むか、作戦基地を失った気圏戦闘機に撃墜された。タスクフォース・オステンド全体が破壊されたものの、地球への道は切り開かれたのである。






オズの素晴らしき世界: T-デイ THE WONDERFUL WORLD OF OZ: T-DAY

 デヴリン・ストーンとRAF最高司令部の予想していた惑星降下地点は、ウルフ海軍が軌道プラットフォームのすべてか大半を破壊・無力化できる場所だったが、アラリック、ウルフジェネラル・チャンス・ヴィッカース、ギャラクシー・コマンダー・ラミエル・ベッカーの作った侵攻計画は誰も予想しないアプローチが求められていた。

 3151年1月10日、ウルフ氏族はオーストラリアの奥地に惑星降下した。アラリックの侵攻タイムテーブルはこの日を「T-デイ」としていた……歴史上ではじめて、氏族侵攻軍が地球に到達したのである。アラリックが上陸した降下船から展開するよう戦士たちに命令すると、ウルフたちは指示に従わず、アラリックのサヴェッジウルフが地球の大地に第一歩を踏み出すのを待った。

 地球標準時間0917時、「Wアワー」に、アラリック・ワード氏族長は征服を目的に地球に足をつけた最初の氏族長となった。ウルフジェネラル・チャンス・ヴィッカースとガーナー・ケレンスキーがすぐさまあとに続いた。

 ウルフ氏族軍の14個銀河隊すべてをオーストラリア大陸の長い前線に沿って配置するという決断は共和国指導部を驚かせた。地球にたどり着いた氏族は、地球上の戦略地点(軍事、政治、象徴的に重要な場所)など数カ所に上陸すると、数多の共和国シンクタンク、軍事アドバイザー、さらにはストーン自身が地球の戦いの前に予想していた。この軍事ドクトリンに基づき、ストーンは目標となる都市やその他の目標地点の周辺に重要塞化されたリダウト(砦)を建設し、RAF兵を配置した。ウルフ氏族の上陸戦略はこの計画を混乱に陥れた。共和国にとっては幸運にも、ストーンの地球防衛計画はオーストラリアを防衛なしにはしていなかったのである。


西オーストラリア: レッドバーンの逆襲 WESTERN AUSTRALIA: REDBURN’S REVENGE

 中央オーストラリアの降下地点から、アラリックとベータ銀河隊はパースに向かい、ガーナー・ケレンスキー副氏族長はアルファを率いて、ウルフジェネラル・ヴィッカース、エプシロン銀河隊とともにリダウト・シドニーの防衛に立ち向かった。

 オーストラリアのRAF防衛部隊の中で、レッドバーン防衛軍がまっさきにアラリックの西オーストラリア進軍に対応した。レッドバーン防衛軍の指揮官、ダミアン・レッドバーン元総帥はかつて共和国レムナント(フォートレス・リパブリックのウォールが上がったとき共和国の外に取り残された共和国軍の連合体)を率いており、ウルフと戦場で戦うのをためらったりはしなかったた。

 アラリックの取り巻きたちは、地球でレッドバーンが指揮官の座にあるのを見て驚かされた。3149年、レッドバーンのレムナントは地球に向かうウルフ氏族に対して防衛線を敷くことを主張していた……げに深きは、ウォールを起動して共和国の9/10を放棄したとされるストーンに対する敵意であった。レッドバーンは、地球に戻るよう彼とレムナントに命令したRAF部隊に怒りをぶつけたのである。氏族ウォッチの諜報部は、軍法会議のためにレッドバーンが地球に送られて獄に繋がれたと報告していたが、ストーンはそうせず指揮官に復帰させた。氏族の脅威が迫っており、とにかく誰でもいいから人手が必要だったことから、ストーンは完全な恩赦と引き換えに、レッドバーンをオーストラリアの指揮官とした。

 レッドバーンはウルフ氏族戦士との戦闘には慣れており、ほぼ元レムナントで構成されるレッドバーン防衛軍も同様であった。防衛軍は大規模な氏族侵攻軍に怯むことなく即座に機動して、迫るベータ銀河隊の西側面への作戦行動に移った。パースから出撃したレッドバーンはウルフの反応を見るために攻撃を加え、最初の衝突は砂漠の中で熱く激しく燃え上がった。ついに聖なる地球での戦いに挑むことになったアラリックのウルフたちは強いアドレナリンに酔いしれ、レッドバーンはウルフをこの惑星から遠ざけるために長年かけて牙と爪を磨いてきた。レッドバーンが仇敵と戦うのを大いに楽しんでいたとは、多くが語ることである。

 ウルフがオーストラリア奥地に上陸させた絶対数を考えると、正面から戦うのは災厄になることをレッドバーンは知っていた……RAFの援軍が来るまでに時間がかかるとなれば、なおさらである。彼の究極的な目的は、オーストラリアの外部からRAF兵が到着するまで時間を稼ぐことだった。そのために、レッドバーン防衛軍はベータ銀河隊の前線を阻止部隊で叩いてウルフが追撃するように仕向け、それから前進するウルフの側面を別の部隊が攻撃する作戦に出た。最初、この戦術は成功したが、レッドバーン防衛軍は時間を稼いでいるだけだと認識しており、再武装と修理のためパースの作戦基地に戻ることを余儀なくされた。

 防衛軍はこの攻撃パターンをできる限り長く続けたが、各波のたび徐々に戦力を消耗し、援軍はやってこなかった。他のRAFの防衛部隊も、すでにウルフ軍と交戦しており、支援を受けられなかった。たとえウルフをオーストラリアに封じ込めるため迅速に援軍を送り込んでも、単純に肉挽き器の中に消えていくだろうことがRAF最高司令部にはわかっていた。

 次の3日間でレッドバーン防衛軍は45パーセント近い損失を出したが、レッドバーンは他のオーストラリア防衛部隊のために時間を稼ぐという希望を捨て去るのを拒否した。1月13日の夜更け(T+3日)、レッドバーンはパースから出撃してベータ銀河隊の側面に攻撃を行い、シルバー親衛隊、第19ウルフ打撃星団隊、ウルフフューリー星団隊が仕掛けた挟み撃ちに突っ込んでしまった。罠から逃れようと戦う一方で、レッドバーンはアラリックを個人的に倒そうとした……幸運の一撃でウルフ氏族長を倒して、ウルフの風向きを変えることを望んだのである。だが、アラリックがレッドバーンのアトラスIIIを撃墜し、元総帥は安全に脱出した。捕虜とするために捜索隊が送られたが、レッドバーンは夜に紛れてウルフの手を逃れ、ジュネーヴのRAF最高司令部に報告のため戻った。

 レッドバーンが落とされると、リーダーを失ったレッドバーン防衛軍はベータ銀河隊に追いやられてパースの基地に戻り、追い詰められ、撃破された。最終的に1ダース分のメックと戦車が降伏して捕虜になったのだった。


レッドバーン防衛軍 REDBURN GUARDS

指揮官: 聖騎士ダミアン・レッドバーン
平均経験: 古参兵/疑問
戦力構成: 1個強襲メック連隊、1個歩兵連隊、1個装甲連隊
配備地点: パース、オーストラリア
現況: 95パーセント損失。T+3日、ウルフ氏族に降伏

 ハスタティ・センチネルスと同じ枠組みで組織されている――よって軽々しく「第17ハスタティ・センチネルス」と呼ばれる――レッドバーン防衛軍は大部分が鍛え上げられたRAF古参兵で構成される。防衛軍隊員の多くは、3149年に地球に強制送還されるまでダミアン・レッドバーンのレムナント連隊に属しており、従ってデヴリン・ストーンや共和国よりもレッドバーンに忠誠を誓っている。

 結成からレッドバーン防衛軍は高速配備連隊として専門に訓練しており、数時間で地球のどこにでも招集して展開する能力を持つ。レッドバーン防衛軍が即応訓練していたのは思いもかけない幸運であった。連隊はオーストラリアでウルフの橋頭堡とぶつかった最初の部隊であり、その存在はリダウト・シドニーの防衛部隊を元気づけた。レッドバーン防衛軍のスーパーヘビーメックはウルフにとって魅力的な目標であり、攻撃したウルフたちは予期せぬ側面機動に屈したのだった。



リダウト・シドニー REDOUBT SYDNEY

 メルボルンはシドニーと同じくらい人口の多い都市だが、RAFはオーストラリア東岸の戦力をシドニーに集中させることを選んだ。Tデイに、ガーナー・ケレンスキーは先陣のアルファ、デルタ銀河隊を率いてシドニーに向かい、戦闘の只中に突っ込むことを予期したが、戦士たちは予想もしていなかった固い抵抗に遭遇した。都市の前には、事前準備された防衛――地雷原、掩蔽壕、防壁、塹壕、その他の要塞――リダウト・シドニーがあったのだ。リダウトそのものは、大部分が第1ニューサウスウェルズ市民軍(騎士エドウィン・ティーウ指揮下の地元RAF部隊)によって守られていたが、思いもかけぬ防衛手段がケレンスキー軍の足を止めた。

 アルファ銀河隊が隠れていた戦車を叩き、トーチカを目標にし、振動地雷原を啓開しようとすると、高名な傭兵部隊、ハンセン荒くれ機兵団の1個大隊がリダウト・シドニーから隠し通路を使って出撃してきたのだ(ボタニー湾の地下にあるキャッスルブライアンの隠しトンネルを使っていた)。傭兵たちはアルファ銀河隊の側面を捉え、激しく攻撃し、それから安全に撤退して、修理と再武装を行った。

 地球に大規模な防衛の準備が必要だったことから、ストーンはウォールを通して荒くれ機兵団を招待し、駐屯、訓練契約を結んだ――ウォールが稼働していたことから、氏族ウォッチはその事実を知らなかった。共和国諜報部は、荒くれ機兵団がガラテア防衛同盟の異なる傭兵部隊を巧みに訓練して効果的に活動させるのを目撃し、よってストーンはその手腕を地球で活用しようと考えたのだ。荒くれ機兵団の主要任務には、まっさらなRAFの徴募兵をしごいて、形にすることが含まれており、とりわけリダウト・シドニーのような防衛要塞の適切な維持の訓練が施された。尻の青いRAF志願兵たちが侵略するカペラ、氏族の軍勢を一目見て潰走しないように、荒くれ機兵団は地球中を巡回した。Tデイに、ウルフ氏族が地球降下した際、荒くれ機兵団はオーストラリアに駐留してまだ一ヶ月で、第1NSWと第1メルボルン市民軍を訓練していた。[ハンセン荒くれ機兵団が東オーストラリアの防衛軍に対氏族戦術を訓練する時間があったのなら、地球での緒戦がどのように変わったのか推測するのは興味深い。荒くれ機兵団が他の大陸で兵士たちを訓練していのなら、ウルフはほとんど戦うことなくオーストラリアから出られたのだろうか? よく言われるように、タイミングがすべてなのである。 -RJ]

 2日にわたって、ガーナーは荒くれ機兵団の戦術とリダウト・シドニーの固い守りと格闘した。ウルフの間接砲撃がリダウトの防衛を叩いたものの、防衛部隊は長期の包囲に耐えられることを証明してみせた。リダウトの間接砲と新たに見つかった地雷原でケレンスキーはメックを失い続け、部下の戦士たちは傭兵が出撃する道を発見できなかった。侵攻のタイムテーブルを遅らせないようにするため、T+3日、ケレンスキーはアラリックに連絡を取り、別の指針を求めた。アラリックは、ウォーベアこと元ゴーストベアの戦術家ラミエル・ベッカーにリダウト・シドニーの問題解決を任せた。ウォーベアは最初に気圏戦闘機数個星隊を呼んで、リダウトの南西方面の地雷原と掩蔽壕を切り開いて広い道をつくり、あだ名が正しいことを示した。ガーナーは戦線突破を活用した。アルファ銀河隊がリダウト・シドニーの外周部を通って市内に入り、荒くれ機兵団の出入り口をひとつ残してすべてふさいだ。

 傭兵は西のブルー・マウンテンズ目指して組織的撤退を行い、チャンス・ヴィッカース指揮するエプシロン銀河隊のアイアン親衛隊(メルボルン強襲から呼ばれた)にまっすぐ突っ込む羽目になった。ヴィッカースは荒くれ機兵団を東に押し、荒くれ機兵団はリダウト・シドニーに残る防護物の下に入ろうとした。だが、彼らの後退は止まった……デルタ銀河隊の第41ウルフガード戦闘星団隊がすでに都市内に入っているのを発見したのである。残った荒くれ機兵団は方針転換して都市の外周部を迂回し、メルボルン目指して海岸沿いを南西に向かい、その道すがらチャンスの戦士たちと衝突した。

 存在するだけで士気向上する荒くれ機兵団の支援を失った、第1NSWの都市防衛は揺らいだが崩れることはなかった。荒くれ機兵団の訓練を証明するかのように、ティーウ卿の兵士たちは第17ウルフ打撃星団隊のメックがシドニーオリンピック公園(第1NSWのまさに後方)に戦闘降下するまで持ちこたえた。ほとんど同時に、デルタ銀河隊の支隊が都市に押し寄せた――ウルフ氏族が最初に包囲の姿勢を示したのは、防衛部隊を自己満足に陥らせるための計算された策略だったことを表している。このような大部隊が後方に現れたことで、第1はできる限り長く持ちこたえたあと、シドニー湾に退却した。ティーウ卿の指揮中隊がガーナーの進撃に対して最後の突撃を率い、そのあいだ連隊の生存者たちを満載にした港の船数隻が南太平洋へと出港した。

 エドウィン・ティーウの陽動はウルフの注意をひくのに成功したが、最終的に敗北に終わった。第17打撃星団隊指揮官のスターコーネル・バート・コナーズはティーウのマローダーと1対1の対決を行った。騎士の達人的な射撃技術でスターコーネル・コナーズとその側近は重傷を負ったが、ランクノーの指揮小隊からの挑戦者たち相手に持ちこたえることはできず、すぐに決定的な終わりを迎えたのだった。騎士のファイティングスピリットに敬意を払い、ウルフはティーウの指揮中隊の捕らえた2名をボンズマンとした。またウルフの気圏戦闘機が逃げる第1NSWの船団を追跡していたものの、アラリックは非戦闘員とみなし、出発するのを許した。

 アイアン親衛隊は、M31ハイウェイを下って退却する荒くれ機兵団を事あるごとに妨害し、第37ウルフ打撃星団隊がリダウト・シドニーの残骸から南西約100キロメートルのミッタゴンで傭兵の行く手を遮った。閉じ込められた荒くれ機兵団は猛烈な戦闘を行ったが、ウルフが傭兵大隊を1個中隊まですり減らすと、一時停戦した。チャンスは荒くれ機兵団を征服したリダウド・シドニーまで連行し、そこでガーナー・ケレンスキーが大隊指揮官の降伏を受け入れた。


第1メルボルン市民軍 FIRST MELBOURNE MILITIA

指揮官: ザカリヤ・アーウィン大差
平均経験: 新兵/信頼できる
戦力構成: 1個歩兵連隊、1個砲兵中隊
配備地点: メルボルン、オーストラリア
現況: 65パーセント損失、部隊解散

 第1メルボルン市民軍、別名ブッシュランド・ボーイズは、ウルフの到着に先駆けてオーストラリアで新設されたRAF防衛部隊である。地球の戦いで故郷が爆心地になることを予期していたオーストラリア人はほとんどおらず、訓練されていない新部隊がウルフの初弾を受けると思っていた者はさらに少なかった。しかし、直面した状況を考えると、この機械化歩兵連隊は、戦闘で損失を受けたにもかかわらず、立派に戦った。

 (敗北したが)それなりの成功を収めた理由は、RAF新部隊の訓練のためオーストラリアにいたハンセン荒くれ機兵団に負う部分が大きい。ウルフが来るまで一ヶ月もなかった荒くれ機兵団のオールドガード中隊は、第1メルボルンに効果的な機械化歩兵戦術を教え、同時に市民兵たちからオーストラリアの地形で活動するすべをひとつかふたつ学んだ。荒くれ機兵団はウルフによるリダウト・シドニーへの激しい攻撃でこの大きな利点を活用したのだった。

 メルボルンの戦いで、第1メルボルンは訓練の成果を発揮したが、ウルフが大軍を投入したことでぐらついた。最終的に、リダウト・シドニーでの再結集を図ったが、メルボルンからそう遠くないところでウルフが第1メルボルンを散り散りにした。多数が捕まらず逃れたが、戦える部隊として再結成する数は残らなかった。







東部戦線: 共和国の逆襲 THE EASTERN FRONT: THE REPUBLIC STRIKES BACK

 オーストラリアと東南アジアにいたRAF戦力の大半はウルフに破れたが、彼らが戦った相手を考えれば、おおよそは善戦したといえる。数カ所でノトス作戦のタイムテーブルを遅らせ、アラリックのコンピュータシミュレーションが予言していたよりも遥かに長く生き残った。損害が積み上がったにもかかわらず、氏族の全戦力に対する共和国のファイティングスピリットは失われていなかったが、それだけでは十分ではなかった。ストーンとRAF最高司令部は、ウルフが来るのを待ち続けるのではなく、ロシアと中国(アラリックとガーナーがリダウト・ホンコン征服後にやってくると思われる)に戦力を動かして陣取った。T+12日、アラリックが兵士たちを休ませたあと、ウルフの東部戦線は上海に向けて前進を続けた。応じて、ストーンはタスクフォース・ブルーヘロン、エリートの第14ハスタティセンティネルスを中核とした攻勢を動員した。聖騎士ティリーナ・ドラモンドに率いられたタスクフォースはウルフを迎撃して、激しく叩くことを望み、特にアラリックの部隊であるベータ銀河隊を狙っていた。

 T+15日の強襲はシブコの演習のように始まった。第14ハスタティの先陣がウルフの前衛に殴り込み、タウ銀河隊を切り裂いて、ギャラクシーコマンダー・ヴィクトリア・コナーズに重傷を負わせて、アラリックの上海への前進を止めた。オーストラリアの粘り強いレッドバーン防衛軍にも匹敵する、古参兵たちによるこの厚かましい攻撃は、ウルフを行動に移らせた。アラリックの戦士たちは、メック小隊群を包囲して拘束し、第14ハスタティの主力から切り離した。ドラモンド兵は山を通って西に撤退したが、アラリックは罠を疑って、戦士たちに追撃を禁止した。翌日、二度似たような攻撃が行われた……ブルーヘロンの支隊が山から駆け下りてウルフ戦線の深くに突き刺さり、それからウルフが反撃する前に西へと後退するのである。二度目の攻撃はギャラクシーコマンダー・コナーズの命を奪った……衛生兵の勧めを無視して戦闘任務に戻っていたのである。だが、ギャラクシーコマンダーの死を持ってしても、アラリックがドラモンドの罠にかかることがなかった。

 T+17日の航空偵察でウルフ氏族長の疑念は確認された……東への攻撃でウルフを追跡させたところに、エリート大隊群が陣取っていて、最大の効率で襲いかかる作戦だったのである。ウルフが追撃を拒否して、守勢に回るのならば、ドラモンドの全戦力は5日以内にアラリックの陣地にたどり着くと推測される。ラミエル・ベッカーは、ドラモンドのやり口に乗るのを拒否し、リスキーだが、極めて効果の高い過激な戦略を提案した。

 ドラモンドが黄河沿いの道に戦力を再配置していたあいだ、ベータ、タウ両銀河隊が共和国の隊列を攻撃した。続く数日間、両銀河隊の星団隊が異なる方向から叩いた――あるいは第14ハスタティはそう信じた。ベッカーの戦略の第一段階は2個星団隊(ベータの第2ウルフ強襲星団隊とタウの第12ウルフ機兵団)のみを投入し、この地域におけるウルフの数を多く見せるものであった。第2ウルフ強襲のスターコーネル・カリデッサ・ケレンスキーの下、2個星団隊は攻撃して、救護所に後退して、迅速な修理と塗装を行い、それから戦いに戻って以前とは別の方向から攻撃を加えた。

 聖騎士ドラモンドが策略を見抜いたのは、ベッカーの戦略が第二段階に入る直前だった。T+24日、ベータ、タウ銀河隊の残りが黄河から姿を現した。そこは囮星団隊と戦うタスクフォース・ブルーヘロンの東側縦隊の脆弱な正面であった。ウルフはセンサーのみを使って濁った川を遡るという注意深い機動を4日に渡って行い、水中のシルトでRAFの探知を妨げて、ベッカーの罠を完成させたのである。川の放熱能力を使って火力を増したウルフは、第14ハスタティを痛めつけ、共和国軍が開けた道の上にいるというアドバンテージを最大限に生かした。

 大きな損害に直面したドラモンドは西への戦闘退却を命令した。ヘルマン・マネス少佐指揮する英雄的な遮断によって、ウルフが激しく追撃するなか、どうにか聖騎士とマネスは脱出して再集結することができた。タスクフォース・ブルーヘロンは黄河岸の都市、鄭州に向けて川沿いに退却した。ドラモンドは、全力の強襲の姿勢を見せているアラリックを都市におびき寄せるつもりだった。都市内であれば、交戦を有利に進めることが可能だからだ。だが、カリデッサ・ケレンスキーは2個星団隊を動かして第14ハスタティを捕まえ、アラリックの本隊が来るまで足止めした。郊外で発生した衝突で、タウ銀河隊のレッド親衛隊がギャラクシーコマンダー・コナーズの死に復讐するべく突撃の先頭に立ち、丸一日近くに及ぶむごたらしい戦闘の始まりを告げた。

 T+25日、ドラモンド兵は敵戦線への突撃の前に、最後の結集を試みた。最初の急襲で大きな代償が支払われたが、最も重要な損失はこの日の戦闘の最後の瞬間、聖騎士ドラモンドがトレバルナの中で戦死したことだった。これで、残ったタスクフォース・ブルーヘロンは戦う意志を失った……包囲されたRAFの生存者は武器を下ろし、カリデッサ・ケレンスキーは降伏を受け入れた。


明日の戦争 TOMORROW’S WAR

[記録開始]

タッカー・ハーウェル: ウルフがとうとうやってきました。連中は計画通り動いていません。あなたが約束していた鎖はどこです?

デヴリン・ストーン: 誤解している。ウルフを鎖でつないだり、口輪を付ける、ということではない。そうするにはアラリックは狡猾すぎる。我らはウルフをおびき出そうとしている――地面に血を垂らして、こちらの望むところまで引きつけようとした。だが、アラリックはもっと大きな獲物を嗅ぎつけたようだ。

ハーウェル: 鎖でも、口輪でも、どうでもいい。ウルフは大陸を丸ごとひとつ奪っている。私はあなたのような戦略の天才ではないが、何もせず手をこまねいているようにしか見えない。なぜ全連隊をやつらにぶつけないんだ? メック全機を降下船に積めて、オースラリアの奥地に落とすか、惑星中のキャッスルブライアンに入れて、ウルフがもう戦えなくなるまで殴り続けるのは駄目なのか?

ストーン: そうすれば、消耗戦に陥って、受け入れられないレベルまで戦力をすり減らすことになる。その場合、ウルフのあとに別の氏族が来たら、この惑星の人々は神に祈るしかなくなる。いずれにしても、ウルフ氏族相手にこの惑星を守るのは可能だ……もし賢明に戦えば。テルモピュライの教訓を忘れたか? 効果的な攻撃をするには拠点を守るよりも多くの兵力が必要になる。守りを固めたウルフの後衛を攻撃するために兵士を送れば、貴重な生命が失われる。我々はもう失うことができないのだ。だが、彼がどうするのかわかったいま、彼をこちらに招き寄せ、戦力をこちらの防衛にぶつけさせればいい。

ハーウェル: [含み笑い] あなたのことを知って何年にもなります。それでも、あなたがもう何千回もこれについて考えているのを忘れることがあります。あなたの緊急計画には緊急計画がある。あなたはこの戦闘の計画を立てているのではない。すでに未来の戦闘を計画している。だからウルフと戦って、どちらが勝つかはそれほど重要ではない。その後で、生き残ることを気にしているんだ。そうなんでしょう?

ストーン: 間違えるな……今の戦争は重要なものだ。だが、明日の戦争に向けて計画を立てていなかったら、明日はない。イルクランの宣言よりも遥かに大きな危機がある。

[記録終了]

 ――ストーン会議、書き起こし #G412-A、3151年1月15日(T+5)



新たな挑戦者 A NEW CONTENDER

 聖騎士ドラモンドの死とタスクフォース・ブルーヘロンの降伏は、ストーンとRAF最高司令部にとって衝撃であった。第14ハスタティは共和国のエリート連隊だったのみならず、ドラモンドの死は共和国の軍事指導力を減じさせた。ブルーヘロンは信頼できる2個連隊と引き換えにウルフの1個銀河隊と2個星団隊の一部を事実上無力化させたが、アラリックにはまだまだ銀河隊がある。だが、ブルーヘロンの敗北がもたらした大きな結果は、中国、韓国の大部分、ロシアの一部を守るのが、ウルフのような決意を秘めた軍隊を押し戻す力を持たない地元市民軍になってしまったことだ。

 一方、共和国からすると、アラリックは惑星上のリダウトすべての征服を目指しているので、先は長いとなる。チャンス・ヴッカースがリダウト・バンガロールの廃墟にとどまり、アラリックがロシアに襲いかかる準備をするなかで、共和国軍とリダウトはアジア、アフリカ、ヨーロッパ、南北アメリカに残った。たとえ、ブルーヘロンを失ったとしても、ウルフ氏族の戦力全体を1/10でも削ぐことができたのなら、価値のある犠牲だったと言うことができる……ウルフ前線への次の攻撃も似たような結果が出るかもしれず、氏族の戦力はけして無尽蔵ではない。

 だが、アラリックは戦闘による疲労に備えていたのだ。征服した土地を固めるためにとどまる間、彼は進行計画の第二段階の準備をしていた。しかし、命令を下す前に、戦いをどう進めるかの根本的な状況が変わってしまった。

 T+25日、聖騎士ドラモンドが死んだ直後、ジェイドファルコンのマルヴィナ・ヘイゼンと最初のファルコン4個銀河隊が星系内に到着してフランスに上陸した。地球を我が物とし、大氏族の称号を得るためだった。










地球の戦い、フェーズ2: ファルコン乱入 


ファルコンの到来 THE FALCONS’ ADVENT

 展開地点としてリギル・ケンタロスを使ったマルヴィナ・ヘイゼン氏族長は、T+11日、まず5個前線銀河隊と戦艦を地球の天頂ポイントにジャンプさせた。こうして、ジェイドファルコンの地球占領戦役、バースライト作戦が始まった。


天頂ジャンプポイント ZENITH JUMP POINT

 到着した直後、ジェイドファルコン海軍はフォート・グレック(天頂ジャンプポイントに設置された2基の防衛ステーションの1基)から大量の艦載級ミサイルを受けた。気圏戦闘機部隊がファルコン艦隊を切り裂く一方、直後にタスクフォース・アティラ(RAFの生き残った海軍戦力の大半含む)が到着し、ファルコン艦隊を猛攻撃した。

 しかしながら、ファルコンは最初の強襲に耐えて、行動に移った。〈アブンダンティア〉とフォート・グレックからの砲撃を受けながら、キャメロン級戦闘巡洋艦CJF〈ターキナ・プライド〉(マルヴィナ・ヘイゼン氏族長とスターアドミラル・シャリザル・ビーネッティの旗艦)は応射を防衛ステーションに集中させ、ステーションが〈アブンダンティア〉の射線を遮る位置に機動した。しかしながら、フォート・グレックの砲撃が〈ターキナ・プライド〉の左舷兵器を使用不能とし、スターアドミラル・ビーネッティは自艦を回頭して右舷を目標に向けねばならなかった。

 他のファルコン戦艦も攻撃を受けた。〈グラディウス・テリー〉と〈グローリー・オブ・ザ・リパブリック〉の弾幕がCJF〈レッド・タロン〉のエンジンを打ち抜き、CJF〈ジェイド・トルネード〉はこれ以上のダメージを避けるために全速でCJF〈レッド・タロン〉を盾にして、近距離から〈グローリー・オブ・ザ・リパブリック〉に襲いかかった。〈ターキナ・プライド〉を狙いづらくなった〈アブンダンティア〉は、フォート・アバナシー(もう一つの防衛ステーション)の装甲外殻に全力射撃していたCJF〈ジェイド・タロン〉を目標にし、〈ファイア・オブ・ザ・リパブリック〉はファルコンの降下船を攻撃するのを中断して、ラベー提督の攻撃に加わった。

 共和国艦隊の戦闘機がファルコンの降下船を目標にしているのを知ったマルヴィナは、CJF〈ジェイドエリー〉〈ブルータロン〉にフォート・グレック攻撃をやめて降下船を守るように命令した。ファルコン戦艦のタイムリーな行動と、気圏戦闘機部隊の支援によって、RAF気圏戦闘機中隊の大半を撃退したものの、数隻のファルコン強襲降下船、歩兵輸送艦がデブリと成り果てるかエンジンを失った。

 続くCJF〈ターキナ・プライド〉の砲撃が、フォート・グレットの外殻を撃ち抜き、ステーションの融合炉を破壊した。ステーションを抹殺しただけでは満足しなかったマルヴィナは、燃え盛るステーションから発進した救命艇すべてを狙うよう命令した。このような蛮行への報復として、〈アブンダンティア〉は〈ジェイドタロン〉に全力の舷側斉射を浴びせた。当たりどころのよかった艦載PPCがイージス級戦艦の船体を貫き、核融合炉とカーニー=フチダ機関の両方を連鎖反応で吹き飛ばし、艦を漂流するがままにさせた。

 ファルコン艦隊は砲撃が止むまでフォート・アバナシーを叩きのめした。2基目の防衛ステーションが失われると、ラべー提督はそれ以上の損失を防ぐために退却を始めるようタスクフォース・アティラに命令した。アティラはそれ以上戦艦を失うことなく、ファルコン戦艦2隻を戦闘不能にしており、次の侵略者に備えて艦隊を保全せよというストーンの命令を守った。中間地点トラファルガーまでの道すがら、〈アブンダンティア〉はフォート・アバナシーの横に並んで、一定数の人員を回収した。だが、フォート・グレックの生存者は、ファルコンがほぼ残らず殺したため、極めて少なかった。

 マルヴィナは退却する共和国艦隊の追撃を望んだが、スターアドミラル・ビネッティがバースライト作戦の最終目標、火星と地球に進むよう進言した。ファルコン氏族長は同意し、艦隊に火星に進むよう命令を下した。それはアラリックがファルコンに残した目標であった。




ファルコン降り立つ THE FALCON DESCENDS

 地球への進路にいる防衛部隊が、満身創痍の共和国海軍以外にいなくなると(マルヴィナの進路から離れたままだった)、T+25日、ジェイドファルコンの先陣が地球に惑星降下した。


ヨーロッパの止まり木 A EUROPEAN PERCH

 ラプター親衛隊とともに、ファルコンのアルファ、ガンマ、エプシロン、デルタ、ヴァウ銀河隊がフランス北部、ナンシーの近くに上陸し、征服のため地球の土を踏んだ最初のジェイドファルコンとなった。

 RAFの戦略家たちは、ファルコンが最初の目標に直接、軌道降下か空中戦闘降下すると予想していた(モンゴルドクトリンの速攻、一か八かの精神性にあっている)が、ファルコンはヨーロッパの重要な軍事的、政治的目標から数時間の距離に降下したのだ。地上戦役を開始してから数時間以内に、ヴァウ銀河隊は西のパリに向かい、残った4個銀河隊は南のジュネーヴに進撃した。マルヴィナの第一目標が明らかになるとすぐに、ストーンはジュネーヴに最後の退去命令を発した……まだ都市内にいる全民間人に対して、可能なうちに逃げるよう勧告したのである。


フランクフルト FRANKFURT

 デルタ銀河隊の指揮官、ステファニー・チストゥはリダウト・ジュネーヴを突破する戦役の初期段階に参加していたが、難攻不落の防衛に直面して小さな成功しか収めなかったため、惑星上に追加のファルコン星団隊群が到着すると、マルヴィナがデルタをジュネーヴ攻撃の計画から外して交替した。チストゥはマルヴィナのやり方に表立って反対の声を挙げなかったが、モンゴル・ドクトリンを全面的に支持するのを拒否していた……チストゥのスタンスにマルヴィナが、懲戒も、より抜本的な手段も取らなかった唯一の理由は、デルタ銀河隊がモンゴルドクトリンの定めた無制限戦争の恐怖戦術に頼ることなく求められた任務を果たしていたからである。マルヴィナはこのような効率的な戦士たちを表立って排除することなく、ジュネーヴ陥落(マルヴィナの戦争会議はもう数日でそうなると確信していた)の栄誉を分け合うことも許さず、この手に負えない兵器を別の目標に割り振ることとした。ドイツに駐留していたRAFの集結地点である。

 フランス=ドイツの国境そのものは守りが薄かったが、フランクフルトに接近したデルタ銀河隊は、T+38日、最初の本格的な抵抗に遭遇した。第110強襲連隊(重装甲部隊)がファルコンを待ち構えており、第11ファルコン軽装隊が射程内に入った瞬間、地獄を解き放ったのである。共和国の最初の斉射はデルタの縦列に刺さったが、ファルコンの反撃は激しいもので、第110の警戒線を通り過ぎ、戦線を突破し、散り散りにし、都市に退却させた。

 だが、チストゥの戦士たちは市内まで追撃しなかった……マルヴィナの命令は、フランクフルトを占領するというものでなく、ジュネーヴのように市街戦が長引くリスクを取らずに、この地域で最大の防衛戦力を殲滅するというものであった。デルタは完全に第110を撃破したわけではなかったが、第5戦闘星団隊が第110の指揮中隊を追い詰めて、T+39日に騎士ルドヴィク・ヤバールを捕まえた。

 チストゥが捕虜を取ったと知って、マルヴィナは最初怒り狂ったが、そんな彼女でもスフィア騎士を尋問する利を認めた。チストゥは、サー・ルドヴィクをファルコン・ウォッチ指揮官、スターコーネル・アブズグ・ヘルマーに引き渡し、いまだ守りの固いジュネーヴ防衛の情報について尋問が行われた。

 デルタ銀河隊はフランクフルトへの道を切り開いたが、T+42日、ギャラクシーコマンダー・チストゥは都市から部隊を引き上げ、北のボンへと向かい、ここでジュネーヴ陥落を待った。T+50日になってもその知らせは届かなかった。


パリとリダウト・ノルマンディ PARIS AND REDOUBT NORMANDY

 タラ・キャンベルが直々にリダウト・ノルマンディの防衛を極めて効果的に指揮していると知って、マルヴィナ・ヘイゼンは葛藤した。ファルコン氏族長はキャンベルを憎んでいた……3134年のファルコンのデサントの折に、スカイアの戦いでシブキンのアレクサンドル・ヘイゼンが殺されたからである。一方で、マルヴィナはジュネーヴが落ちるまで離れたくなかった……共和国の心臓に止めの一撃を加えたという名誉を誰にも譲るわけにはいかなかったのだ。同様に、タラ・キャンベルもマルヴィナと相まみえて、スカイアを共和国から奪った復讐をしたかったが、彼女もまた命令を受けており、部下たちをジュネーヴの肉挽き機に送り込むよりも、ここでもっとできることがあった。

 ジュネーブに注意を向けないとならないのと同じくらいにマルヴィナを苦しめたのは、北フランスのリダウト攻略に、ギャラクシーコマンダー・クリスティーナ・ブハーリンを使い続けないとならないことだった。ヴァウ銀河隊は立てこもるハイランダーズに対して決定的な前進をできないでいるのだ。

 T+36日にゼータ銀河隊がフランスの第一LZに降下し、状況が変化した。マルヴィナはゼータをジュネーヴの包囲に使うという誘惑に駆られたが、ハイランダーズを突破するためにヴァウのところへ送り込んだ。ブハーリンとギャラクシーコマンダー・ローレンス・ロシャーク(ゼータ銀河隊)は、リダウト・ノルマンディをどう攻略するかについての意見が別れ、別々の場所を集中攻撃すると決めた。ゼータがリダウトのノルマンディ側に移動する一方で、ヴァウはパリを守ってる城壁と塹壕を叩いた。だが、ゼータの到来により、ハイランダーズはついに行動する決意を固めた。彼らが守るリダウトは、いまや2個ジェイドファルコン銀河隊という大軍と対峙していたのだ。

 ハイランダーズはリダウトの外に1個メック小隊ずつローテーションで出撃させ、攻撃するヴァウのメックを正確な統制射撃で撃ち抜いて、それから後退し、別のメック小隊が別の方向から何度も同じことを繰り返した。そのすべてでファルコンの反撃は最小限だった。こういった攻撃はブハーリンの脇腹に刺さった棘となり続けた。ブハーリンはT+40日に間接砲撃を倍とし、繰り返し防衛作業を打ち据えた。

 33時間続いた砲撃は不意に止まった。再開した砲撃はすさまじい精度でファルコン軍を狙っていた。ブハーリンは調査を命じ、深攻撃を行ったハイランダーズがファルコンの兵器を使っていたと判明した。ハイランダーズは逃亡の際に、ヴァウの残った間接砲の弾薬を爆破していった。ロシャークがゼータの弾薬の共有を拒否すると、ブハーリンは所有の神判の挑戦を行った。素手の戦いで素早くロシャークを破ったが、勝ち取った弾薬が届く前に、ハイランダーズが再び深襲撃を実行して、逃げる前にヴァウの間接砲の大半を破壊していった。

 ゼータはノルマンディの近くで大きな成功を収めた。ブハーリンがパリの敵兵を倒すことに集中していたところ、ロシャークは城壁と掩蔽壕に力を注いでいたのである。兵士失ってもどこからか持ってくることができるが、物理的な防衛設備は再建に時間がかかる……とりわけ砲撃の下では。T+51日、ゼータは三層のリダウト・ノルマンディのうち最初の一層を突破したが、まだ守りは固められていた。


ジュネーヴ: なりふり構わず GENEVA: DESPERATE MEASURES (T+30 TO T+48)

 リダウト・ジュネーヴの防衛は、マルヴィナを苛立たせた。彼女は、電撃戦と圧倒的な大群によって、ものの数日で共和国首都を手にできると見ていたが、RAFのリダウトシステムはモンゴルドクトリン戦術に対して有効だと証明された。凶暴にして雷速の攻撃用に作られていたファルコン軍は、逆襲に身を晒さずに強化城壁を倒すことができなかった。T+29日の攻勢がストーン・ラメントに跳ね除けられると、マルヴィナは究極の解決手段を使うしかなくなった。

 マルヴィナの手元には戦術核兵器の備蓄があったが、ジュネーヴに投入すれば共和国による同種の報復を受けるのみならず、占領地をフォールアウトで汚すことになるとわかっていた。もっと正面からの戦闘スタイルでジュネーヴを勝ち取る必要があった。

 T+30日、アルファ銀河隊は宇宙港へ向かい、これまでより深くリダウト・ジュネーヴの奥に浸透した。城壁は、メック、戦車、間接砲からの砲撃で崩れ去り、包囲が始まってからはじめてアルファが都市の範囲内に流れ込んだ。エプシロン銀河隊が裂け目に入り、宇宙港の支配権を奪ったが、その向こうにはもう一つの強化防衛層が待っていた。防衛層の向こうには、第122装甲師団の1個連隊が群れており、重戦車が鋼の壁となってアルファとエプシロンを殴りつけた。

 膠着状態はT+31日の0200時まで続き、ファルコンは砲撃をやめて、アルファとエプシロンが宇宙港まで退却した。第122は追撃を試みたが、退却は陽動だった……第122の進む都市周辺に炎が降り注いだ。〈ターキナ・プライド〉が軌道砲撃を実施し、近隣を灰と瓦礫に変えたのだ。地面が冷える前に、ラプター親衛隊とガンマ銀河隊の降下船が廃墟に着陸し、範囲内にあるすべてに火をかけた。民間施設、警察のバリケード、軍事要塞――そこに防衛部隊がいるか、そう疑われたところはすべてである。アルファ、ガンマ、エプシロンはそれぞれ都市内に目標があったものの、全ファルコンに対するマルヴィナの基本命令は一つであった。いかなる犠牲を払おうとも、ジュネーヴを落とさねばならない。

 都市内に橋頭堡を確保したにもかかわらず、ファルコンは通りの全てに歩兵と装甲車両が立てこもるバリケードを発見していた。これがジュネーヴを危険な迷宮とし、ファルコンは1cm進むごとに嘴と爪で戦わねばならなかった。ファルコンにとって最大の問題は、聖騎士マックス・エルゲン(3149年に恒星連邦のためロビンソン解放した共和国の英雄)指揮する第10ハスタティ・センチネルスがいたことだった。第10が突如としてジュネーヴに現れたことはマルヴィナを困惑させた。第10はどこからか戦闘に参加して、後方や側面の陣地に現れ、軌道爆撃やその後の破壊で作られた瓦礫の中に身を隠した。ウルフウォッチは、第10ハスタティ、ストーン・ラメント、その他の防衛部隊が地下洞窟の秘密ネットワークを使用しており、RAF最高司令部は重要塞化された地下壕"ソリチュード"からジュネーヴの防衛を調整していると判断した。

 第10ハスタティはファルコンをしつこく攻撃し、強力な一撃を見舞っては瓦礫の中に消えていくか、わざと身を晒して第122装甲師団が守る地域にファルコンが追撃するようにした。地雷の仕掛けられた道路、用意された伏撃、インフェルノミサイルの集中攻撃、対メック戦術が、ファルコンの前進を毎度苦しめた。丸5日間、マルヴィナとエルゲンは都市内で危険なダンスを踊ったが、どちらも戦術的な優位を得ることはなかった……ファルコンが制圧できない強化地点に対して〈ターキナ・プライド〉が軌道爆撃を続けていたにもかかわらずだ。ファルコンの援軍が惑星に向かっていたが、ロー銀河隊はT+40日まで到着せず、マルヴィナは増援なしで流れを変えることを望んでいた。

 進捗の遅れを是正するために、マルヴィナはガンマ銀河隊のファルコンガード(新たに再建された有名部隊)にトンネルネットワークの出入り口の捜索を任せた。そのあいだ、残ったガンマは第10ハスタティの狙撃の盾となる。出入り口と疑われる6箇所が報告されたが、マルヴィナは引き返してそれ以上の追撃をしないように厳命していた。T+36日、〈ターキナ・プライド〉からの精確な軌道砲撃が6箇所のうち3箇所を消滅させ、崩壊したトンネルにいた第10ハスタティの1個中隊と、第122の1個大隊をまるごと埋葬した。

 ジュネーヴ宇宙港周辺での戦闘が続くあいだ、ロー銀河隊の降下船が着陸を試みて、T+40日に争いに加わった。残った第10ハスタティの航空支援が第12ファルコン正規隊のオーバーロードC級降下船を撃ち落とすと、両軍に混乱が広がった……第78臨時守備星団隊のユニオンC級2隻もまた残骸に加わった。損失に怒り狂ったロー銀河隊の生存者たちは、降下船から戦闘降下を行い、戦闘のど真ん中に飛び込んで、エプシロンが宇宙港に張り巡らせた防衛境界線を強化した。彼らはともに第10の強襲部隊をはねのけた。側面を失ったRAFのハイランダーズは再結集を余儀なくされた。

 そのあいだ、軌道爆撃は途絶えることなく続いた。敵兵が陣地にこもっていて損害を出すことなく突破出来ないとの情報が届くと、マルヴィナは戦士たちに撤退を命じ、その地域に残る建物がなくなるまで軌道砲撃で叩き続けた。




東部方面: 北アメリカのウルフたち THE EASTERN FRONT: WOLVES IN NORTH AMERICA

 チャンス・ヴィッカースとラミエル・ベッカーがパキスタンで戦うあいだ、アラリックは東シベリアに入った。ストーンはウルフが日本海を渡って、本州にあるキャッスル・ブライアン(部分的に稼働する)2箇所を強襲すると予想していた……しかしながらウルフのウォッチ情報は、日本に駐留する平和維持部隊は、集団で移動してウルフの戦線を脅かす手段を持たないことを確認した。日本のRAF部隊は大隊・中隊を運ぶ船を持っていたものの、日本の4つの島を移動する許可しか与えられておらず、アジア大陸への輸送の許可はなかった。降下船支援は、メック1個小隊か装甲・歩兵小隊を日本列島内の問題がある場所に運ぶもののみである。防衛の達人である孤立した兵士たちを征服するよりも、アラリックは当面日本を無視することを選んだ。


ベーリング海峡を越えて ACROSS THE BERING STRAIT

 アラリックはロシア東部で共和国兵(亜寒帯用装備)の激しい抵抗を受けると予想していたが、実際には小規模な歩兵、装甲部隊と遭遇しただけで、嫌がらせの範疇を超えず、損傷した装甲板の交換で面倒な程度のものだった。最新の偵察によると、この地域にいた防衛部隊は西へ向かうガーナーの戦士たちを追いかけていったとのことだった。

 ロシアの東端に達すると、アラリックは降下船を呼んで、指揮下の2個銀河隊を往復輸送させ、ベーリング海峡を越えてアラスカへと入った。

 北アメリカでアラリックの決意が最初に試された瞬間は、アラスカ上空に入ったT+35日にやってきた。分厚い対空砲火と海岸線沿いの戦闘航空哨戒が、ベータ、シータ銀河隊を積んでいた降下船を狙ったのである。共和国の攻撃で、第23ウルフ守備星団隊の降下船2隻が撃たれ、ベーリング海峡の荒れた海に墜落した。続く対空射撃と気圏戦闘機出撃によって降下船数隻が空から落とされ、シルバー親衛隊と第11ウルフ戦闘星団隊は降下船を放棄してアラスカのツンドラへの緊急戦闘降下を余儀なくされ、アンカレッジ郊外には好戦的な傭兵団が待ち構えていた。ハンセン荒くれ機兵団の残った戦力が、分散し混乱するウルフを引き裂き、ウルフの組織化されない前線に重い損害を与えた。オーストラリアの復讐を誓う荒くれ機兵団は、ウルフの不安定な戦線に押し寄せ、メック戦士が死ぬか、メックの足が落とされるか、戦車の足回りが壊れ車軸が砕けるまで戦った。荒くれ機兵団は慈悲を与えも求めもせず、ウルフもそれに応じた。

 起伏のある地形での戦いはT+36日に及び、荒くれ機兵団は常に地形の有利を使って守勢のウルフをさらに受け身にさせた。さらに問題を悪くしたのは、攻撃部隊のスターコーネル全員が最初の2時間を使ってアラリックに無線で呼びかけ、返事がなかったことである。彼のサヴェッジウルフが戦場で目撃されることはなかった。アラリックは死亡し、彼を乗せた降下船は撃ち落とされ、ベーリング海峡の冷たく無慈悲な海底で行方不明になったものと多くが思った。だが、残ったウルフの指導者たち全員が、アラリックがまだ生きていて遠くから偉業を見ているかのように戦うよう戦士たちに発破をかけた。たとえ氏族長が死んだとしても、ニコラス・ケレンスキーが子どもたちに定めた運命を求めるのをやめさせることはできなかったのである。

 アラリックの副官、スターコーネル・オマール・ホーカーが情熱的に呼びかけると、ベータ銀河隊は激しく荒くれ機兵団を押し込んで、文字通り壁まで傭兵を後退に追い込んだ。自暴自棄になった荒くれ機兵団は崖を背に布陣し、ウルフは背後に回り込んで、脆弱な側面を撃つことができなくなった。これは退路がないことを意味していたが、指揮官は降伏を拒否した。ベータが荒くれ機兵団を粉砕する前に、謎の5個強化中隊がウルフの側面に切り込み、ジャンプ可能なメックと歩兵が崖の上から降り立った。

 後にグレイガニー槍機兵団と特定された新参者は、危険をものともしない無謀さを持ってして戦いに割って入り、行き当たりばったりにウルフのメックを攻撃して行動不能になるダメージを与えては次の目標に突進し、ど特定の陣地にも長くとどまることはなかった。槍機兵団が包囲された傭兵仲間を守るために駆けつけると、荒くれ機兵団は再結集し、再編し、2個傭兵団がベータ銀河隊に仕掛けた罠から移動した。ウルフが槍機兵団の歩兵小隊を殲滅しようとしたそのとき、槍機兵団のメックが歩兵を守るために突進し、対メック歩兵たちが襲いかかってきたウルフのメックに群がって、無力化した。

 戦闘のさなかにすぐさま日が落ちた。戦場が北極圏に近いことから、日が出ているのは7時間以下だった。だが、夜陰に紛れて、第2ウルフ強襲星団隊の2個三連星隊がウルフの防衛隊形から飛び出て、前線を攻撃するために槍機兵団の前を横切って、敵陣にヘッドハンター・エレメンタルを下ろしたが、部隊指揮官は特定できなかった。

 突撃の先頭にいたストームウルフは、実戦経験のないスターコマンダーの登録になっていた。ストームウルフのパイロットは敵戦線の奥深くに味方を導き、ここでグレイガニー槍機兵団の識別標がないグランドサモナーに近づいた。この機体は、近くにいたスターキャプテンと副官を驚くべき手際の良さで殺していた。2機のメックは激しく戦い、近くにいた両陣営のメック戦士たちは離れて決闘を見守った。

 精確で激しい砲撃を繰り広げた後、両者は互いのマシンをかろうじて動くところまで破壊した。だが、グランドサモナーが空に上って飛び降り攻撃を仕掛けたとき、ストームウルフのパイロットは地面を固く踏みしめた。グランドサモナーが降下すると、十数発のSRMが胴とコクピットを切り裂いた。

 グランドサモナーは地面に墜落し、二度と起き上がることはなかった。グレイガニー槍機兵団はまとめて後退して、降下船に乗る荒くれ機兵団を護衛し、それから現れたのと同じくらい早く極地の森へと消えていった。あとでウルフウォッチが確認したところでは、槍機兵団も荒くれ機兵団も損害を出していたものの、撤退したのはデヴリン・ストーンからの撤退命令を受けたからだった。

 0230時、戦いの趨勢を変えたストームウルフはスターコーネル・ホーカーのティンバーウルフの横で崩れ落ち、コクピットからアラリック――負傷していたがまったく生きていた――が降りてきてベータの勝利を祝福し、どうにか倒したグランドサモナーのパイロットの身元を確かめた。アラリックのサベージウルフは最初の戦闘降下で行動不能の損害を受け、動かなくなった[大規模なオーバーホールが必要だが、将来的にまた戦闘可能となるだろう。-RJ]。ウルフの氏族長は座して待つことなく、着陸失敗でメック戦士が首を折ったメックによじ登り、無線を封鎖して戦死したと敵に思い込ませ、見つかることなくウルフの陣形の中を移動した。

 ボンズマンとなった荒くれ機兵団の少数の捕虜は、死んだグランドサモナーのパイロットはグレイガニー槍機兵団の指揮官、エヴァン・ブラックフォード司令官だとした。彼らの話によると、ブラックフォード(鍛えられた古参兵)は両部隊の交戦と撤退を指揮していたが、彼自身は後退の呼びかけをすべて拒否した。価値ある敵との戦いの中で死ぬことを望んでいるように見え、アラリックがその望みをかなえたという。

 戦闘に勝利し、ウルフたちは氏族長が生きていたことを喜んだが、氏族の勝利は法外な代償を要求するものであった。2つの傭兵部隊は共同で、アラリックのタスクフォースで最高の2個星団隊に大損害を与えた。第23、第19ウルフ打撃星団隊の装備は修理可能で、ウルフの予備から補充できるが、あまりに多くの戦士を失ったことは氏族全体に響いたのだった。


グレイガニー槍機兵団 GRAY GUNNY LANCERS

指揮官: エヴァン・ブラックフォード少佐
平均経験: エリート/狂信的
戦力構成: 5個強化諸兵科連合バトルメック中隊(装甲、歩兵、バトルアーマー支援付き)
配備地点: アンカレッジ、トレド、ルイヴィル
現況: [削除済み]

 後にグレイガニー槍機兵団となる部隊は、メック1個小隊と戦車半個小隊という小規模なところから始まった。装備はすべて、3132年8月7日にグレイマンデーでHPGネットワークが崩壊するわずか1週間前に回収されたものである。部隊の指揮官、工業設備技師エヴァン・ブラックフォードは、元の傭兵隊長が星系から逃亡したあと、[削除済み]の駐屯契約を引き継いだ。

 最初の契約の最中に、槍機兵団はバンソン・ユニバーサルが運営する極秘の兵器研究施設(隠匿されていた聖戦期の非常に不安定なワード・オブ・ブレイク技術を研究していた)を偶然発見した。稼働はしないのだが、戦力を増強する可能性のある技術は、ブラックアウト後の中心領域の戦場に不均衡をもたらすかもしれなかった。槍機兵団は技術と首席研究者を解放し、彼らを追ってきた共和国の駐屯部隊を捕まえた。大金持ちのビジネスマン、ジェイコブ・バンソンは何があっても不安定な技術を取りも出すだろうことはわかっており、グレイガニー槍機兵団を捕まえて研究を再開するため、傭兵を次から次へと送り込んでくるのは時間の問題だった。聖騎士ジャネラ・レイクウッドは槍機兵団の苦境を知って、スフィア共和国の利益のため彼らと契約し、常に動き続ける任務を与えて、バンソンの賞金稼ぎより先に行けるようにした。レイクウッドと槍機兵団が技術を確実に葬り去った後も、彼らの仕事のやり方は変わらなかった。

 グレイガニー槍機兵団はレイクウッド個人の極秘作戦部隊となり、「ホットジャンピング」を専門とした……進行中の戦いに混乱を生み出すのである。どの戦いでも主力とならない槍機兵団は、最大の混乱を引き起こせるところに戦闘降下するかジャンプで飛び込み、それから損失などものともしないかのように素早い攻撃を仕掛けて、戦闘から退却する。槍機兵団の珍しい交戦規定のひとつは、部隊内に比較的バトルメックが少ないにもかかわらず、「機械は消耗品だが隊員はそうではない」として、歩兵を救うためにメックを犠牲にするのを厭わないことである。この行動指針で、狙撃手、秘密工作員、バトルアーマー兵、野戦修理テックなど極めて効果的な専門の歩兵を惹き付けている。





ウルフ戦線: ヨーロッパ THE WOLF FRONT: EUROPE


ミラノ MILAN

 ウルフの西部戦線は、アテネからアドリア海に沿って北西に進み、ミラノへと向かった。第1ミラネーゼ連隊が立ちふさがったが、氏族ウォッチの情報によると、この歩兵連隊は急遽立ち上げられた部隊で、まともな訓練を受けておらず、ウルフにとっては名誉ある挑戦にならなかった。チャンスは交戦するかわりに第1ミラネーゼに最後通告を出した……戦うのをやめれば、彼らにも都市にも何もしない。

 ミラノの防衛部隊は武器を置くことを選び、エプシロンとガンマが都市内に入ることを許した。だが、ウォッチの情報は正しくなかった。T+45日、夜の帳が下りると、爆発が夜を切り裂き、移動式ガントリーで修理中だったウルフのメック数機を破壊した。それから第1ミラネーゼは都市内に隠した武器(戦車、野砲含む)で攻撃を仕掛けた。エプシロンとガンマは緊急出動し、ミラノの街で暴れ回って、敵を1個分隊ずつ追い詰めていった。

 このような公然とした欺瞞に直面したウルフは何もためらわなかった。夜明けまでに、第1ミラネーゼ連隊は敗走し、ドゥオーモ・ディ・ミラーノなど歴史的な建築が戦闘で損傷したのだった。




ファルコンズ・フューリー THE FALCON’S FURY


ソリチュード陥落 THE FALL OF SOLITUDE

 マルヴィナは軌道爆撃の停止に合意したが、ジュネーヴ争奪戦にあたるファルコンの力を減じさせることはなかった。むしろ、海軍支援を失ったことで、都市の防衛隊を抹殺するというファルコンの熱意は高まったのである。アルファ、ガンマ、エプシロン、イオタ、ヴァウ、ロー銀河隊が、都市のブロックからブロックを突き進み、街区に火をかけ、戦車や歩兵が隠れていると疑われる建物をすべて破壊していった。ファルコンはエメラルド色のがん細胞のようにジュネーヴに広がり、都市のほとんどがマルヴィナの制圧下となり、かつて隆盛を誇った共和国首都の瓦礫の下には大勢の民間人が倒れていた。

 T+53日までに、ファルコンは都市のほとんどを占領するか破壊したが、防衛隊はしぶとく戦闘を続けた。マルヴィナは、行政地区など残った地区に向けて、南への大規模な攻勢を組織した。ちょうど宇宙港に降り立ったオメガ銀河隊が、アルファ銀河隊、ラプター親衛隊、ゼータ銀河隊の一部(戦役が止まっているリダウト・ノルマンディから引き抜いた)と肩を並べて前線で戦った。止まらぬファルコンの砲撃と空爆が都市の大部分を倒壊させると、マルヴィナは戦士たちを率いて、疲れ切った共和国兵たちに向かった。ストーン・リベレーターズがローヌとジュネーヴ湖に沿って戦闘退却すると、第10ハスタティが動いて、ヨナ・レヴィンが安全に到着するだけの時間を稼いだ。マルヴィナが破壊しなかったトンネルの入り口を使って、リベレーターズはストーン、聖騎士ジャネラ・レイクウッド、ソリチュード司令部の要員を、都市から100km以上離れた秘密の出入り口までエスコートした。ここから、ストーンと一行はどこかへと消えていった。

 ストーンがいなくなると、ジュネーヴの防衛は消失した。かろうじて統制を保っていた第122はついにファルコンの怒りに屈し、第10ハスタティのぼろぼろになった残存戦力は都市からの退却を試みた際にさらにすり減っていった。ロー銀河隊がジュネーヴ南東につながる道をすべて塞ぎ、逃げる共和国兵はファルコンの憤怒の餌食となった。特筆すべきは、聖騎士マックス・エルゲンのドロワールは生存者たちのなかになかったことである……ストーンとともにソリチュードから逃げたものと考えられている。

 共和国首都を抑えたファルコンは最後の突撃の後、捕虜として取られたRAF兵士を集めた。それからマルヴィナは地球中にホロヴィッドでメッセージを放送した。「諸君らが見ているものは、ニューアヴァロン、ルシエン、シーアン、立ちふさがるすべての世界で繰り返されることになろう」カメラの前で捕虜全員が処刑され、放送は終わった。マルヴィナの暴力の誓いは、惑星中のウルフ戦士、共和国市民、モンゴル・ドクトリンの価値と名誉に疑問を持ち始めたファルコンたちに暗く鳴り響いた。




ナイトホーク作戦: 終わりの始まり OPERATION NIGHTHAWK: THE BEGINNING OF THE END

 ジュネーヴの陥落で、地球の民衆に恐怖の波紋が広まった。ウルフが惑星中の広い地域を支配していたが、ファルコンは地球の魂を征服した。地球の重要な都市の多くが氏族の手に落ち、頑強な防衛隊の多くが残骸となった。さらに悪いことに、ジュリアン・ダヴィオン国王が約束した支援は結実しなかった……ストーンの求めが国王の手に届いていないのか、あるいは約束を破ってドラコ連合から国家を守ることを選んだかは問題ではない。問題は助けが来ないとRAF最高司令部が知っていることである。地球攻防戦が続く中、共和国は完全に孤立していた。


トリノ TURIN

 T+56日、ジェネラル・ヴィッカースがトリノ近くの市民軍グループとの交戦作戦を監督していたあいだ、新たな敵兵が思いがけず騒ぎに加わった。ジェイドファルコンのメック1個二連星隊が都市内でウルフの後方に戦闘降下したのだ。これが示すのは、マルヴィナがジュネーヴ陥落後に南へとさらに拡大することを選んだということだ。アラリックとマルヴィナの合意がまだ有効であり、境界の誤解で停戦を破るのはファルコンの地球戦役にとって自殺に等しいことから、チャンスは戦士たちに砲撃を控えるよう命じた。ウルフは幅広い前線に薄く分散してることから、アラリックはRAFとジェイドファルコンの両方を同時に戦うことを許しておらず、チャンスは戦闘降下がファルコンのナビゲーションのミスによるものと信じていた。

 偶発的な交戦のリスクを避けるため、チャンスは戦士たちを射線から動かし、ファルコンに敬意を表して、攻撃計画を再考した。しかしながら、ファルコンは強引に進んで、チャンスの指揮星隊に近づいた。最初のファルコン星隊はまず彼女のサベージウルフを砲撃し、二番目は星隊員を狙った。

 チャンスの側近、スターコーネル・デーモン・ワードが戦いに加わるまでに、ファルコンのメックはチャンスの星隊をピアッツァ・カステッロまで押し込んだ。続く戦闘は熾烈なものとなった――慈悲が与えられることも求められることもなかった。デーモン・ワードはチャンスの星隊に加勢しようとしたがたどり着くのが遅すぎて、生き残ったファルコンのメックがチャンスのサヴェッジウルフに集中射撃するのを見せられることになった。チャンスは子供を守る母狼のように戦ったものの、重量に押しつぶされて地に伏した。

 スターコーネル・ワードは即座にウルフの指揮をとり、いかなる犠牲を払っても侵入したファルコンを撃破するよう命令した。残ったわずかなファルコンのメックはクズ鉄と化すまで叩きのめされた。戦場に静寂が下りると、めちゃくちゃになったサヴェッジウルフは損害で形跡がわからなくなっており、ウルフジェネラル・チャンス・ヴィッカースは通信に答えなかった。


フランスのファルコン THE FALCONS IN FRANCE

 マルヴィナはジュネーヴを得たが、ファルコンがヨーロッパでの領土拡大を目指すと、都市の外でRAF兵多数の抵抗を受けた。やがて、ファルコンの支配してる土地は、ウルフが持つ地域と重なる恐れが出て、拡大する余裕は乏しくなっていった。

 ファルコンは南下してイタリアに向かい、西のパリではリダウトのハイランダーズとの衝突が続いていた。タラ・キャンベルの部下たちは、ジュネーヴの攻防で兵站、物資支援を奪われたため、一撃離脱戦を敢行し、常に移動することでファルコンを無防備にした。

 T+56日、ハイランダーズを永遠に葬り去る最善の方法を考案するため、マルヴィナ、ギャラクシーコマンダーたち、ライアン・プライド副氏族長がラムラ湖(ジュネーヴの真北)に集まった。立案計画の最中に、接近警報が鳴り響き、マルヴィナは直ちに外に出て、予期せぬ新たな脅威に立ち向かうためシュライクに乗り込んだ。修理したばかりのウルフ1個メック三連星隊が見える範囲に戦闘降下した。

 侵略者たちは着陸し、マルヴィナの臨時司令本部に向かって道を切り開いた。シュライク(ブラックローズ)に乗るマルヴィナは、ラプター親衛隊の指揮星隊とともに正面から敵とぶつかった。もし、ウルフが約束を反故にしてジュネーヴを奪い取るつもりなら、マルヴィナの死体の手から奪わねばならないのだ。猛烈な会戦で、シュライクの兵器の半分が犠牲となったが、マルヴィナは構わず戦い続けた……副氏族長がメックを起動する前にコクピットを撃たれたと聞いたあとでさえも。

 ファルコンの指揮星隊は1機ずつ、集中砲火で落とされていき、最後にはマルヴィナが残った。マルヴィナは一般回線でがなり立てながら向こう見ずに突撃し、最初の2機をダメージを負ったシュライクで破壊した。そしてガウスライフルのスラッグがシュライクの鳥に似た頭部を落としかけ、湖の横に燻る95トンの残骸が残された。

 リーダーを失い、混乱に陥りながらも、残ったファルコンたちは近くの敵に襲いかかり、生き残ったウルフのメックをすべて倒した。戦場に動くウルフはもうなかった。


イタリアとドイツのウルフ THE WOLVES IN ITALY AND GERMANY

 T+56日の午後、ジェイドファルコンのメック2個部隊が、ヨーロッパの別の場所でウルフ氏族軍を強襲した。両攻撃の結果は悲惨なものとなった。


ベルガモ BERGAMO

 トリノでチャンスがジェイドファルコンから攻撃を受けているとガーナー・ケレンスキーが聞き及んだあと、ジェイドファルコン国境からの妨害攻撃がベルガモ(トリノの北東約200キロメートル)近くの北部側面に深く入った。この予期せぬ機動はガーナーの戦線深くに浸透し、ゴールデン親衛隊の前線にまで到達した。ヴォルガ川を渡る戦闘でかなりの損害を受けたガーナーの指揮部隊は、攻撃を鈍らせるのに充分な土地をカバーするのに失敗した。

 ウルフがファルコンのメックを押し戻そうとするあいだ、1隻のブロードソード級降下船がゴールデン親衛隊の陣形のど真ん中に5機を戦闘降下させた。この新たな戦力はガーナーの部隊に破壊を解き放った。ラプター親衛隊の配色のジュピターが部隊を率い、ガーナーのブラッドリーパーに恥知らずな突撃を仕掛けた。ジュピターのマーキングはファルコンの副氏族長ライアン・プライドに属するものと特定された。

 ジュピターの仲間たちはウルフの副氏族長に砲撃を集中させようとしたが、ガーナーの星隊員たちが最初の斉射を引き受け、ファルコンのリーダーが一人になるまで集中攻撃を行った――あるいはガーナーはそう信じた。孤立し、裸になったジュピターはフルスロットルでガーナーに突撃し、至近距離からすべての砲門を開いた。ガーナーは砲撃を返した……背中への攻撃でジャイロを壊されるまで。他の敵メックがゴールデン親衛隊の前衛を突破し、後方から攻撃を仕掛けたのである。まだ戦えたガーナーは正面からジュピターとぶつかり、至近距離でレーザー・ミサイルとPPCが交錯した。両者はほぼ同時に地面に倒れた。双方ともにコクピットは激しい火力の応酬で溶解していた。


リダウト・シュトットガルト REDOUBT STUTTGART

 ジュネーヴ陥落後、アラリックは数日かけてベータ銀河隊を欧州に連れていき、地元市民軍と遭遇し、撃退し、それぞれ異なる結末を迎えた。第1バイエルン・ブラヴァドは高速なホバー戦車を使い、ベータの戦線をすり抜けたが、その勇猛さにもかかわらずすぐに敗走した。対照的にリダウト・シュトットガルトを守る第1クリークスマシーネの戦車と間接砲はゼータ銀河隊に相応の損害を与え、アラリックはゼータが圧倒されるのを避けるためにラミエル・ベッカーとTRC(戦術即応星団隊)を呼ぶことになった。ラミエルの戦略はバトルアーマーの工作員をクリークスマシーネの後方に送り込んでRAFの間接砲を殲滅するというものだった。これによって、ゼータはクリークスマシーネの側面を突くことが可能になり、リダウトの掩蔽壕内での短く熾烈な戦闘のあと、生き残ったわずかなRAF兵士がアラリックに降伏した。

 戦闘が終結したあと、ウルフ氏族長はタスクフォース・ゼブラ(極秘任務で、フォートレス・リパブリックの手順に関係していると疑われた秘密の施設を確保するために南極へと送り込まれた)から、任務に成功し、施設奪還を意図したRAFの逆襲を撃退したとの報告を聞いた。

 シュトットガルトでアラリックが2つの勝利に酔いしれていたT+56日、不適切な応答信号を発する1隻の氏族ブロードソード降下船が迎撃コースでウルフの前線に向かって疾走した。ジェイドファルコンの塗装をしたメック1個星隊がアラリックの陣地に降り立ち、降下船がアラリックのサヴェッジウルフに砲門を開き、アラリックと近くのウルフに数発の命中弾を与えた。近くにいたゼータ銀河隊のメックが即座に行動に移った。

 数発の致命的な攻撃を受けてコクピットが損傷し、サヴェッジウルフはよろめいた。ラミエル・ベッカーは氏族長の前にストームウルフを動かして、アラリックを殺したであろう集中砲火を食い止めた。砲弾はアラリックの代わりにラミエル・ベッカーを殺し、貴重なアラリックの時間を稼いだ。ウルフ氏族長はラミエルの死を悼み、戦い続け、サヴェッジウルフが稼働停止寸前になり、弾薬が尽きるまで偽ファルコンを1機ずつ落としていった。

 退却路を見つける前に、共和国のヘッドハンター最後の2機が同時に攻撃を仕掛けた。ジェイドホーク――聖騎士ダミアン・レッドバーン操縦――が後退するサヴェッジウルフの射程内にジャンプし、至近距離からアルファストライクを見舞ったのである。

 レーザーと短距離ミサイルが装甲を貫通し、ミサイルの着弾で内部にぎざぎざの穴が開いた。サヴェッジウルフが地面に倒れるその音は、惑星中の全司令部、野戦本部で聞くことができた。

 しかし、近くにいたウルフはすぐに復讐を果たした。レッドバーンのメックに砲撃を集中させて、容赦なく引き裂き、元総帥の生命を終わらせた。だが、それも後の祭りであった……共和国のナイトホーク作戦は目標すべてを攻撃するのに成功し、氏族の指導部を活動不能にしたのである。


ナイトホーク作戦 OPERATION NIGHTHAWK

第一目標: 氏族の上級指導者たちを抹殺する
第二目標: 不和と疑念をばらまく
任務指揮官: 聖騎士ダミアン・レッドバーン
開始日時: T+56日
関与部隊: ストーン・エクスキューショナーズ

 氏族の指導部をシステマチックに排除するナイトホーク作戦は、最終的にジュネーヴ陥落後のT+53日、デヴリン・ストーンにより承認されたのだが、作戦それ自体は元総裁ダミアン・レッドバーンの発案によるものである。フォートレス・リパブリックの外で過ごし、RAFの直接的な支援無しで戦ったことで、このように倫理的に怪しい軍事作戦を考案、実行するのに必要な、やるかやられるかの妥協しない姿勢が生まれたのだ。

 ナイトホークを実行するにあたって、地球上の武器庫にあるすべての氏族製メック(RAFのメック戦士が乗っていたものや、ウルフ、ファルコンとの緒戦で回収されたもの含む)を充てる必要があった。場合によっては、信憑性を維持するために、博物館の収蔵品が使われることすらあった。2氏族のリーダーたちに近いウルフ、ファルコン部隊の最新情報を使って、レッドバーンはナイトホークの物資を4つの集団に分割し、近くの部隊の配色に塗装し、5つの目標それぞれを攻撃しているかのように見せかけた。目標とは、アラリック・ワード、ガーナー・ケレンスキー、チャンス・ヴィッカース、マルヴィナ・ヘイゼン、ライアン・プライドである。

 5つの目標に対する作戦のすべては、T+56日に同時に開始された。奇襲の優位を最大化させるために、各部隊の指揮官たちはおよそ同時に目標と交戦しようとしたが、氏族の陣地は移動し続け、気まぐれに戦闘作戦が行われることから、各ヘッドハンティング任務は1日の中で分散してしまった。目標は攻撃に気づいたが、どういう攻撃であるかや偽旗作戦であることには気づかなかった。



ストーン・エクスキューショナーズ STONE’S EXECUTIONERS

指揮官: 聖騎士ダミアン・レッドバーン
平均経験: 古参兵/狂信的
戦力構成: 5個混成重量メック二連星隊
配備地点: トリノ、ラムラ湖、ベルガモ、シュトゥットガルト
現況: 100%損失

 倫理的に疑わしく、即席で編成されたことから、ストーン・エクスキューショナーズは公式のRAFの書類には載っていない。もう失うもののないRAF志願兵たちは、地球で氏族の上級リーダーたち全員探し出し抹殺する任務を与えられた。必要ならいかなる手段を使ってでも暗殺するのだ。

 ストーン・エクスキューショナーズは正真正銘のストーン旅団所属部隊ではないが、デヴリン・ストーンは名前の使用を承認した。なぜなら、ナイトホーク作戦の発動は彼の判断によるものであり、部隊はストーン旅団の指揮官ターナー将軍ではなく、ストーンの直属であるからだ。

 元総裁ダミアン・レッドバーンは直々にウルフ氏族長アラリック・ワードを攻撃し、ジェイドファルコンの塗装を施したジェイドホークに乗っていたが、他のパイロットたちと同じく生命という代償を支払うことになった。攻撃が実施されると、ウルフ、ファルコン両軍はストーン・エクスキューショナーズを短時間で殲滅し、誰も生かして残さなかった。











地球の戦い、フェーズ3: 夢の終わり 


その後の影響: ジェイドファルコン氏族 FALLOUT: CLAN JADE FALCON

 ウルフ氏族指導部の怪我と喪失(アラリックが負傷し、ガーナーとラミエルが死に、チャンスが昏睡状態)に比べると、ジェイドファルコンの損害は軽いものだった。マルヴィナは肋骨を2本折り、膝を捻挫し、大規模なオーバーホールが必要なくらい生体義手が損傷した。T+58日、マルヴィナは手術の麻酔から覚めて、アラリックに命を狙われたのではないと結論付けた。なぜなら、彼はこのような不名誉な戦術を取らないだろうからだ(特に両氏族が協定を結んでいることを考えると)。共和国の裏切りを知ったマルヴィナは、暗殺と、ウルフと争わせようとした陰謀に怒り狂い、全地球に放送を行い自らの意図をはっきりと伝えた。

 放送の中で、マルヴィナはデヴリン・ストーンと手下どもの偽善と臆病を公然と非難した。一人の捕虜……ナイトホークの唯一の生存者、遍歴棋士ジョディ・マザノブルが連れてこられた。マルヴィナはカメラの前で彼を殺し、ストーンの共和国の支持者たちはマザノブル卿と同じ運命を辿ると地球の市民に通告した。

 しかしながら、ライアン・プライド副氏族長の予後は悪いものだった。攻撃で殺されることはなかったのだが、ジュピターのコクピットから救出された際にマシンガンの傷で出血多量に陥りかけた。マルヴィナの衛生兵たちは、医療的な昏睡状態に置かないと、もう二度とバトルメックを操縦できないどころか、死ぬことになるだろうと強調した。プライドの容態は最終的に安定したが、入院でファルコンの隊列にはひとつの穴が空いた。職務できないプライドの代わりに、最も優秀なギャラクシーコマンダーであるステファニー・チストゥが臨時副氏族長に任命されるとファルコンの多くが予想したが、実際にはガンマ銀河隊のギャラクシーコマンダー・ジェーン・タスタスが指名された。タスタスはモンゴル・ドクトリンを遵守しており、マルヴィナが地球の市民に誓ったことを助けると誓った。


地球の戦いの謎: いなくなったウルフ

 アラリック・ワードが地球の戦いにファルコンを招待すると知ったとき、マルヴィナ・ヘイゼンが予想してほくそ笑んだことのひとつが仇敵のアナスタシア・ケレンスキーと邂逅し、戦いの中でとどめを刺すことだった。マルヴィナがなぜウルフ氏族の副氏族長を憎んでいるかは、スカイアの戦いに遡る。3134年、ジェイドファルコンがスフィア共和国にデサントしたときに、アナスタシアとスティール・ウルヴズはマルヴィナのシブメイト、アレクサンドル・ヘイゼンの死に関わったのだ。

 地球の戦いが勃発するまでの数年間、ウルフ氏族の指導部はアラリックが氏族長で、アナスタシアが副氏族長だった。前副氏族長ガーナー・ケレンスキーはMIA(行方不明)になっていた。彼の所在地は不明で、地球への侵攻回廊を作る中で犠牲になったものと考えられていた。アナスタシアがウルフ氏族第二の地位についたのは理にかなう選択であった。だが、アラリックが全氏族の先頭に立って地球にたどり着くと、ウルフの指揮系統はさらに混沌としていた。ガーナー・ケレンスキーが現在の副氏族長で、腹心のチャンス・ヴィッカースがウルフジェネラルに任命されており、アナスタシアはどこにもいなかった。

 マルヴィナは宿敵が地球に到達する前のどこかの時点で殺されたのではないかと考えるのを拒否した。アナスタシア・ケレンスキーがそんなやわなはずがなく、チンギス・ハーンとしてライバルを抹殺するのが運命なのだとマルヴィナは信じていた。必要ならば素手でもやってのける。アラリックが地球のどこかにアナスタシアを隠したものとして、バースライト作戦のあいだ、マルヴィナは居場所を探し続けたが、氏族ウォッチの長、スターコーネル・アブザグ・ヘルマーは証拠を発見できず、地球星系内いるかどうかすら不明であった。T+56日、ガーナー・ケレンスキーが戦死すると、マルヴィナはアナスタシアがついに頭を出して、副氏族長の地位を取り戻すものと確信したが、野戦病院にいるチャンス・ヴィッカースが代わりに副氏族長に任命された。ヴィッカースが副氏族長になったということは、(1)アナスタシアは本当に死んだ、(2)アラリックとアナスタシアは対立して道を違えた、(3)アラリックはアナスタシアの居場所を隠すのに大成功した、のどれかであった。最初の可能性2つは理にかなうものだった。なぜならウルフ氏族長は、重要な氏族の戦士が死んだりいなくなったことを公にしたくないからだ。しかし3つめの場合だと、なぜアラリックが最高の戦士をスフィア共和国軍との戦いに使わず温存しているのか(特にナイトホーク作戦の暗殺の後で)、マルヴィナには判断がつかなかった。

 マルヴィナは仇敵を探すのに固執し、あやうく身の破滅になるところだった。しかしながら、なぜアナスタシアがいなかったかは、機密文章なしでは完全に説明できないもしれない。[この数ヶ月、アナスタシアの不在に関する記述が地球で出回ってるが、質の悪い文章として見過ごされている。懸念すべきは、こういった文章が小さな矛盾こそあるもの、真実に近いことだ。我々は、情報漏洩の可能性を探るため、情報源を特定しようとしている。-RJ]

 ――ソフィー・バーグマン博士著『語られざる歴史: 地球の戦いの謎』ターカッド大学プレス刊、3153年



光の都 THE CITY OF LIGHTS

 共和国に対する最初の懲罰逆襲はT+59日、パリの近くで始まった。アラリックは負傷し、サヴェッジウルフはほぼ破壊されたものの、トマホークIIに乗ってベータ、デルタ、シグマ、ゼータ銀河隊を率い、ストーン・レヴナントの哨戒線を突破しようとした。ウルフは正義の怒りを持って反撃し、生存者たちは北西に逃げてパリに向かい、聖騎士レイクウッドの部隊と合流しようとした。ここで怒れるファルコンが妨害を行った。

 ファルコンとウルフの捜索隊はパリの南をさらい、RAF部隊を探して交戦しようとした。ストーン・ラメント、ストーン・レヴナント、ストーン・フューリー、第1、第2地球イレギュラーズとの交戦は熾烈で残虐なものとなった。公正な攻撃と1対1の決闘は消え去った……怒りがこの日を支配し、集中砲火、格闘、重砲撃、その他の非氏族的戦術というパンドラの箱が開け放たれた。アラリックとマルヴィナによると、共和国はこの紛争における高いモラルの権利を失い、盗賊に他ならぬ扱いをされるとした。名誉という呪縛から解き放たれた両氏族の戦士たちは、パリの防衛部隊を切り裂いていった。

 援軍なしでも、RAFは少なくとももう数週間、都市の要塞を守れたはずだが、ファルコンは攻撃的で民間の建物と歴史地区への損害を避けようとしなかったことから、レイクウッドは大きく戦略を変化させた。ファルコンがジュネーヴと市民に行ったことを見た、レイクウッドはパリに同じ運命を味あわせたくなかったのである。パリを救うためには、パリを捨てねばならなかった。T+60日、両氏族の全面的強襲が始まってから36時間後に、聖騎士レイクウッドは都市の防衛境界線からの全面的な撤退を宣言し、南へ向かって、ファルコンの攻撃から離れた。

 両氏族の攻撃は連携していなかったが、退却を活用する道を見つけた。レイクウッド軍は都市から逃げようとする一方で、ファルコンは放棄されたリダウトを突破して、撤収が策略だった場合に備えてパリの市街に溢れた。RAF兵は南に向かい続けるのを余儀なくされた――ウルフ氏族の大顎の中へと。ウルフの間接砲はセナールの森を砲撃して、レイクウッド兵を森から叩き出し、デルタ銀河隊はセーヌ川沿いの北からストーン・フューリー、ストーン・レヴナントと交戦し、渡河を妨げようとした。共和国軍は知らなかったが、ファルコンの数個星団隊が川岸の反対側におり、攻撃するチャンスを待ち構えていた。

 ウルフの多くはファルコンと交戦しようとうずうずしていた。ウルフはパリをファルコンでなく自分たちの戦場と見ており、両氏族のあいだで連携がないことは、マルヴィナ軍がウルフの戦いに割り込んでいることを意味している。ファルコンもまたウルフがファルコン領を侵害しているとみなしていた。両陣営で怒りが燃え上がった。対立は欧州戦役に破滅をもたらすと知っていたアラリックは、戦士たちにファルコンと交戦しないように厳密な命令を出していた……故意にせよ、偶然にせよ、ファルコンに撃たれたら、即座に離脱してなんとしても退却するのだ。だが、ファルコンはそのような制限を与えられていなかった。マルヴィナはウルフを攻撃しないよう戦士たちに命令せず、ライバル氏族への発砲を明確に禁止することもなかった……ファルコンの作戦に干渉したウルフは合法的な目標となる。

 ウルフのデルタ銀河隊がレイクウッド兵を釘付けにすると、アルファ、ゼータ銀河隊が北から攻撃を仕掛け、シグマ銀河隊が南から行動に移った。だが、レイクウッドがウルフの前衛を突破しようと試みるあいだ、セーヌ川の両岸(RAFが渡河しようとする地点の近く)で第6ファルコン竜機兵団と第328ウルフ強襲星団隊が砲火を交わした。どちらの氏族が先に撃ったか、バトルROMと戦闘後報告でははっきりとしていない。だが、わかっているのは、厳しい叱責を受けたウルフが退却する前に、両陣営が小規模な損害を被ったことである。

 ストーン・フューリーと第2地球イレギュラーズがついにアラリックの罠にかかり、両側から押しつぶされて崩壊したが、レイクウッドは損害の中に入っていなかった。彼女の幕僚たちは両氏族の乱闘を利用して、ウルフの哨戒線をすり抜けたのだ。いなくなった聖騎士の捜索が血眼で行われた。

 レイクウッドが見つかったのは数時間後、ベータ、デルタ銀河隊が第2地球イレギュラーズの生き残りを掃討しているときであった。第17ウルフガード打撃星団隊の戦士たちが降伏を拒否した共和国兵の小集団に集中したが、最終的に共和国のツンドラウルフを倒したのは第2ウルフ強襲星団隊所属のカーナヴォアの戦車兵たちだった。ツンドラウルフのパイロットは聖騎士レイクウッドと特定された。彼女は降伏し、パリ地区にいる指揮下の全部隊に武器を置くよう命令した。この報奨に満足したアラリックはパリからウルフを退却させた。

 都市はファルコンの支配下に置かれた。


ダンフリースの戦い THE BATTLE OF DUMFRIES

 アラリックがキャンベルに出した条件はシンプルなものであった。同等規模のウルフ軍を入札し、直々にスコットランドを攻めるというものだ。もし、ウルフが勝ったら、ハイランダーズは降伏し、武器を置くが、ハイランダーズが勝ったらウルフはスコットランドから完全に撤退し、ハイランダーズがこの地域の支配を続ける。共和国が崩壊したときには、ハイランダーの支配するスコットランドは大氏族の統治下でノースウィンドの大使館として機能する。

 ヨーロッパや他の地域でのRAF軍の状況が急速に悪化してることを考えると、アラリックの挑戦を拒否して共和国が崩壊した場合に、残された道はほとんどないことがキャンベルとハイランダーズにはわかっていた……リダウト・ノルマンディを放棄して隠れるか、一箇所にとどまって狭まる氏族の包囲網に虐殺されるか、スコットランドに突進してなんの合意もなしに交戦して壊滅するかだ。一方でアラリックの挑戦を受ければ、勝った場合に生き残るチャンスがある。しかしながら、戦闘に合意すればウルフの有利になることをキャンベルは知っていた。結果の如何に関わらず、ウルフの損害はリダウト・ノルマンディの塹壕を強襲するよりも遥かに少なくなる。

 キャンベルとマイケル・グリフィン大佐(グレイウィッチ指揮官)は、アラリックの条件を飲んだ場合のメリットについて討論するため、士官全員を集めて評議会を持った。リアルタイムの偵察映像によると、この評議会が行われている最中にも、ウルフのメックがスコットランドの田園をパトロールして、汚していた。戦争会議は数時間の熟議を重ねた。これ以上、先祖代々の土地が汚されるのを見たくなかったキャンベルとハイランダーの士官たちは、スコットランドの戦場でアラリックと相まみえるという難しい決断を下した。ウルフにスコットランドを明け渡すことはできず、キャンベルはアラリックが直々に攻撃を率いると知っており、ハイランダーズはウルフ氏族の指導者を照準に捉えて名誉ある戦いのなかで抹殺するチャンスがあった――もしアラリックがリダウト・ノルマンディに兵士たちを投入するのなら、このチャンスは存在しない。

 満場一致の決断がくだされた直後、ハイランダーズ2個大隊は、ハイランダーズではない部隊をフランスに残し、英仏海峡を渡って、ダンフリースのすぐ近くに上陸した。スコットランドの田園風景を再び目にしたそれだけでキャンベルの兵士たちは息を吹き返し、来るべき戦いに向けて士気をあげたのである。

 アラリックが入札したのは、シルバー親衛隊、第2ウルフ強襲星団隊で、戦闘から離れたところに予備として第19ウルフ打撃星団隊の一部を配置した。ウルフは攻撃に乗り出さず、南に向けて陣取って、丘の上の防衛境界線と正対した。迎え撃つハイランダーズは攻撃の最初に戦線を形成したが、第2ウルフ強襲星団隊は傭兵の西側面を迂回し、ハイランダーズを包囲して、降下船に退却する道を遮断しようとした。だが、ハイランダーズはまっとうに戦わず、わかりやすい戦線を作らなかった。メックとホバー戦車のスピーカーからバグパイプの音楽を鳴り響かせながらウルフに襲いかかり、戦場に一陣の混乱を振りまき、制限なしの強襲で至近距離から頸動脈に突っ込んだ。

 だが、ハイランダーズの戦術は見た目ほど無計画なものではなかった。なぜならキャンベルの部下たちは未熟な新兵とはほど遠かったからだ。ハイランダーズはレムナントとしてウルフと長年に渡って戦っており、よってウルフの戦術に精通し、上手く対抗するやり方をよく知っていた。なので、ハイランダーズの組織化された混乱は、第2ウルフ強襲星団隊の迂回攻撃を妨害し、スターコーネル・カリデッサ・ケレンスキーの戦士たちが混乱を収めようとして失敗すると、各三連星隊は分断された。

 グレイウォッチのグリフィン大佐は戦闘の最初の数時間で撃墜され、ダンフリースの戦いで最初の重要な損害となった。副指揮官のキャドハ・ジェフレイが軍旗を拾い上げてグレイウォッチを率い、第2ウルフ強襲星団隊の包囲と締め付けを抑えようとした。第2ウルフは激しく戦ったが、ジェフレイのすばしこい部下たちに近づくことはできなかった。重要な指揮官を失ったものの、キャンベル軍は屈するのを拒否した。ウルフがどうにか包囲を成し遂げ、ハイランダーズの本体から切り離しても、降伏は死も同然とばかりに戦い続けた。

 戦闘中、シルバー親衛隊の使命はタラ・キャンベルのメックを探すことであっただが、あちこちにいるとの報告がなされ、特定するのは難しかった。戦場の混沌が続き、ハイランダーズは敵の小規模な分遣隊を本体から孤立させるのに習熟していたことから、アラリックは自分のサヴェッジウルフが支援なしで孤立していることに気づいた。女伯の傷ついたバトルマスターが戦塵の中から現れ、攻撃を仕掛けたのはそのときだった。2機の強襲メックが加わり、アラリックがそのうち1機を落としたにもかかわらず、組み合わされた砲撃で片足を破壊され、そこにキャンベルが突撃した。アラリックは倒され、女伯のバトルマスターは負傷しながらも立っていた。

 敗北したウルフ氏族長は直ちに信号を発し、予備を戦闘に投入した。キャンベルは、ウルフに停戦を命じなかったら、メック内にいるアラリックを殺して地球征服を終わらせると脅したが、アラリックはひとつの選択肢を与えた……降伏してボンズマンとなり、生き残ったハイランダーズを守るか、それともアラリックを殉教者とし、ウルフの手で瞬く間に壊滅するのを確実にするかだ。展開した第19ウルフ打撃星団隊はすでにハイランダーズ軍を包囲し始めていた。ハイランダーズは戦い続けられるが、ウルフは降下船への道を遮断していた……もしタラがアラリックを殺したら、第19はハイランダーズを憎しみとともに握り潰すだろう。降伏だけが部下たちを生き残らせる唯一の道だとアラリックは強く呼びかけた。

 タラ・キャンベルは条件に同意し、武器を下ろすようハイランダーズに命令した。アラリックが手首にボンドコードを巻くと、キャンベルただひとつの条件を出した……ファルコンに対する最終的な勝利をアラリックに約束させたのである。




ジェイドファルコン方面: 南カリフォルニアとコロラド THE JADE FALCON FRONT: SOUTHERN CALIFORNIA AND COLORADO

 北アメリカ征服の次の段階を完了させるため、T+64日、マルヴィナはラプター親衛隊とヴァウ銀河隊をティファナに上陸させた。


オールドガード THE OLD GUARD

指揮官: グラハム・バディノフ准将
平均経験: エリート/狂信的
戦力構成: 1個重メック連隊
配備地点: リダウト・ロサンゼルス、ユッカ・バレー、コロラド
現況: 100パーセント損失。

 オールドガードは地球へのあらゆる脅威に対するデヴリン・ストーンの緊急対応計画のひとつである。連隊の人員は、年季の入った受勲多数のRAF古参兵、RAFの上澄みで構成される……ストーン旅団やハスタティセンチネルスの退役軍人、元共和国騎士、その他のRAF兵士である。超自然的なまでに殺されないことから、部外者たちはオールドガードを「死なずのソラーマ」と呼んでいる。実際、隊員たちは、RAFにある軍事グレードの義肢よりも連隊にある数のほうが多いと冗談を飛ばしている。誇張されているが、まったく根拠がないわけではない。

 その職分、評判、目的にふさわしく、オールドガードはスフィア共和国が供給出来る最高のバトルメックと兵器(RISC技術含む)を装備しており、ストーンは彼らに求めるものすべてを与えている。予備戦力ながら、連隊は射撃技術とプロフェッショナリズムの高い基準を維持しており、特定の王家軍、氏族軍と戦うのを想定した演習を定期的に行っている。

 高齢者ばかりなのだが、オールドガードは地球の戦いで立派に責務を果たした。ファルコンの強襲で最終的に退却に追い込まれたが、氏族の1個銀河隊の大半を叩きのめし、ファルコン氏族長を倒し、戦場からの退却に成功した。だが、死なずのソラーマでさえもファルコンの怒りを避け続けることはできなかった。コロラドの山中で最後の一人までもが戦ったのだった。





死の谷 THE VALLEY OF DEATH

 アマリロ飛行場が占拠され、リダウト・ロサンゼルスが征服され、オールドガードがコロラドで粉砕されると、ファルコンは北アメリカに残ったRAF兵の大半に勝利していた。アブズグ・ヘルマーによると、RAF最高司令部の最後の砦は中西部のどこかにあるとのことで、マルヴィナはそこからストーンを引きずり出す決意を固めた……それは先祖のエリザベス・ヘイゼンが2822年にブラザーフッド・オブ・ドネガルのリーダーたちをブラックブライアンから引きずり出して、クロンダイク作戦を終わらせたのを思わせるものだった。このときだけ、マルヴィナはペンタゴン解放より遥かに大きい作戦を終わらせようとした……デヴリン・ストーンを抹殺すれば、スフィア共和国を単独で殺したことになり、ファルコンこそが大氏族と宣言する間近になろう。

 アブズグ・ヘルマーがストーンの居場所を突き止めるのを待つことなく、マルヴィナは、T+76日に、オハイオ川低地の一端に戦闘可能な銀河隊の大半を進めた。ウルフが北東からストーンのいそうな場所に近づくと、マルヴィナは南から接近し、アルファ、エプシロン、ラムダ、ヴァウ、オメガ銀河隊は大きく網を広げ、ストーンと部下たちがコマンドポスト・ルージュから逃げようとしたら捕まえる構えを取った。[この作戦に、デルタ、エプシロン、ゼータ、ロー銀河隊がいないのは、反モンゴル思想に傾いたためと思われる。残りはファルコンが勝利した重要地点に駐留し続けている。-RJ]

 ファルコンもウルフも知らなかったことだが、RAFはオハイオのトリードに数個部隊を集めており、その大半は地球の別の場所で戦った部隊の残存戦力だった。ストーン・ラメント、ストーン・リベレーターズ、ストーン・プライド。残ったハスタティ・センチネルとフィデス・ディフェンダー(最後のRAF正規連隊)。アラスカでの戦いから呼び戻されたハンセン荒くれ機兵団とグレイガニー槍機兵団。その他の小部隊。だが、コマンドポスト・ルージュのストーン戦争会議は大幅に規模を縮小していた。ダミアン・レッドバーンはナイトホーク作戦で戦死した。ティリーナ・ドラモンドはアジアで戦死した。ジャネラ・レイクウッドはナイトホーク後に捕まった。ヨナ・レヴィンはジュネーヴ崩壊から逃げたとのニュースがあるものの、消息不明である。タラ・キャンベルもまたウルフの手に落ちた。

 T+83日、ジェイドファルコンはケンタッキーのなだらかな丘陵地にたどり着き、ストーンの秘密基地がありそうな田園を虱潰しにした。両軍の前線はケンタッキーのスコッツバーグ近くの丘で激しくぶつかり、ファルコンと共和国で最大の会戦のひとつとなった。

 ヴァウ銀河隊は第15ハスタティによる最初の突撃を吸収し、残りのファルコンが包み込むと、RAFは回る破壊のダンスの中に飛び込んだ。降りしきる春の雨の中で、地球の防衛軍は激しく戦った。まるで、ここで負けるのは、ジェイドファルコンの手で処刑されるのみならず、スフィア共和国の死の鐘を鳴らすことを意味するかのようであった。それまでファルコンと戦ってないグレイガニー槍機兵団が、同じ星団隊を二度攻撃することなく、打撃を加えては姿を隠して、戦闘にさらなる混乱を付け加えた。槍機兵団のすぐ近くで戦う荒くれ機兵団は、混乱に乗じて強引に割り込み、もっと大きなRAF部隊がファルコンを強烈に叩くための道を切り開いた。

 戦闘が荒れ狂うなかで、マルヴィナの戦士たちは白の骸骨が描かれた黒のアトラスIIを探し続けていた――デヴリン・ストーンの伝説的メック、ファントムである。多くの兵士たちが戦場で戦っているかを考慮し、マルヴィナは総統が傲慢にも目立つメックに載っていると信じた。ファントムに一発でも入れたと証明できるバトルROM映像には賞金を設定し、ストーンを倒したものは誰であっても副氏族長にすると宣言した。マルヴィナは自身でストーンを撃破することを望んだが、挑戦を提示して戦士たちに拍車をかけた……特に、ファントムと同じ塗装のストーンラメントとぶつかるエプシロン銀河隊はそうなった。

 だが、雨が続くなかで、ストーンのメックが戦場のどこかに行くという報告はなかった。マルヴィナはストーンが戦術的手腕を振るっているものと感じたが、実際には戦場からでなくコマンドポスト・ルージュから指揮していた。確かにストーンはメックから部下たちを率いることを切望したが、体調が悪化するという現実(冷凍保存の極低温冷凍プロセスが不完全だった)により、神経機能障害で神経ヘルメットが使用できず、非現実的だった。

 もしストーン自身が戦っていたら、スコッツバーグの戦いは違う結果が出ていたかもしれない。ストーンがいないと知って、マルヴィナの怒りのゲージは数段上がった。無意識のうちに、それを臆病さの現れと見ていたのである。激怒は行動に変換され、ラプター親衛隊はストーン・ラメントの牙の中に突撃し、揺らいでいた側面を立て直した。もしストーンを戦闘で倒せなかったら、彼を守るすべてを破壊して自身の手で絞め殺してやることを誓った。

 雨が上がり、晴れ間が開くと、ストーン旅団の指揮官ターナー将軍は敗北して処刑され、RAF兵はヴァウ、オメガ銀河隊に大きな損害を与えて敗走した。共和国の生存者たちは3方向に退却して、ファルコンの追撃を難しいものとした。[報告によると、グレイガニー槍機兵団が紛争中に消えたことは注目に値する。ファルコンは一人の戦傷者も回収しておらず、バトルROMの映像を見ない限りは、金銭戦士たちが騒がしい戦いに参加していなかったように思える。彼らはまだ捕まっていないと考えられる。-RJ] マルヴィナは1個銀河隊に命じてそれぞれの退却路を追撃させ、残りを北に差し向けた。

 数日間、ファルコンはRAFの脱落者たちを追い回し、T+90日までに、大半が追い詰められた。次にファルコンは勝利を宣言し、さらに北上して、オハイオ川をわたり、コマンドポスト・ルージュを捜索し、RAF最後の砦であるトリード基地(展開地点に使っていた)に向かった。




V-Tディ V-T DAY

 31531年4月14日、ウルフ氏族が地球の土を踏んでから95日後、デヴリン・ストーンとRAF最高司令部は陰鬱な事柄について話し合うため、デトロイトのベル島でファルコンとウルフの代表団と面会した。共和国側の出席者はストーンと側近きタッカー・ハーウェル、それに警備隊。ファルコン側はチンギスハーン・マルヴィナ・ヘイゼン、ジェーン・タスタス副氏族長、ギャラクシーコマンダー・ステファニー・チストゥ、マルヴィナの"ペット"であるシンシア。ウルフ側はアラリック・ワード氏族長、ジェネラル・チャンス・ヴィッカース、それからボンズマンのタラ・ウルフ。

 氏族のリーダー2人は、スフィア共和国とRAF正規軍の完全な無条件降伏しか受け入れなかった。ストーンの降伏は単純な交戦の停止であった。アラリックとマルヴィナは、共和国を永遠に解散するという譲歩を求めた。

 いまやは車椅子に縛られた抜け殻と化しているデヴリン・ストーンは、公式に両氏族の条件を受け入れ、地球上の市民にメッセージを送って決断を放送した。スフィア共和国と約束された平和の夢はもうどこにも存在しない。

 氏族は4月14日を地球への勝利を記念するV-Tディと宣言したが、どちらも祝うことはなかった。イルクランを決める戦いにはまだ勝っていなかったからだ。










地球の戦い: すべての神判を終わらせる神判 

 共和国が降伏したいま、ジェイドファルコンとウルフの不可侵協定は停止された。この2つの氏族が地球と大氏族の称号を争う唯一の挑戦者であることから、ファルコンとウルフの氏族長たちは、どちらが永遠の名誉を勝ち取り、グランドクルセイドを終わらせるのか、戦闘神判を実施することに合意した。


最後のバッチェル THE FINAL BATCHALL

 4月16日、ミシガンの円形劇場(ストーンが降伏した地点から約50キロメートル)で、公式のバッチェル式典が開催された。両氏族の参加できる戦士が、正装一式の礼服で出席した……重傷者だけが不在であった。両氏族のローアマスターが司会を努め、アラリックはウルフがこの神判の獲物(防衛側)であると主張した。なぜなら、ウルフが地球に最初に着陸したからで、マルヴィナとジェイドファルコンは狩人(攻撃側)となる。アラリックはウルフ氏族の地上部隊全体の入札を宣言し、マルヴィナは条件に従い、ジェイドファルコン氏族のすべてを入札した。獲物として、ウルフは決闘の開催地点を宣言する権利があった。アラリックはオタワからウィニペグまで幅2000キロメートルのカナダの森を選んだ。この地域は都市が少なく民間人の危険を小さくできるのみならず、境界線のあいだに両氏族が機動するだけの広大な面積がある。従って大氏族の地位を賭けた神判は、戦士たちの戦闘技能に加えて純粋に戦略的、戦術的機動次第となり、都市を占領することも、民間人を脅かすことも、その他の不名誉な戦術を使うこともない。大氏族はニコラス・ケレンスキーが制定した基準で戦い、高潔で名誉ある競争を勝ち抜く。

 両氏族は翌日の東部標準時0700に神判を開始する合意を交わした。獲物側として、ウルフは展開地点を先に選び、オタワに基地を構えた。マルヴィナはウィニペグを選んで、氏族の司令本部を置いた。契約が封印されると、両氏族の上級指導者たち――ウルフ臨時副氏族長チャンス・ヴィッカースと、回復してジェーン・タスタスから職務を取り戻したライアン・プライド副氏族長――は、対等な立場で挨拶を交わし、最後の準備のため別々の道に進んだ。




大氏族の神判 THE TRIAL OF THE ILCLAN


開幕出撃: 0700-0859時 OPENING SORTIES:0700-0859 HOURS

 神判は東部標準時0700(夜明けの数分前)にすぐ始まったが、両氏族の地上部隊は遠く離れていたことから、攻撃できる可能性があるのは気圏戦闘機に限られた。神判でウルフが獲物(防衛側)であるのは単に儀式的なものだったが、ジェイドファルコンは始まってからすぐに先制攻撃を仕掛けることで文字通りの意味とした。ファルコンのオムニ戦闘機3個星隊がオタワ上空に飛来し、アラリックの夜戦本部を捜索した。儚い希望であったが、ウルフ氏族長や戦闘会議のメンバーの誰かを早い段階で抹殺できれば、ウルフの士気をドミノ倒しにできることをマルヴィナは知っていた。

 ウルフの空中哨戒戦闘機が迎撃に動いたが、ファルコンはウルフのスクリーンを強引に押し通り、アラリックの移動HQがあると疑われた地点すべてに爆弾を投下した。だが、ファルコンのパイロットたちは代償を支払うことになった……ウルフの戦闘機が追跡して、基地に戻ろうとしたファルコンの大半を撃ち落としたのである。出撃したオムニ戦闘機30機のうち、穴の空いた戦闘機10機以下がウィニペグの飛行場に戻った。

 ファルコンが攻撃していた間、ウルフはすでに自分たちの攻撃を進めていた。シータ銀河隊、第9ウルフ機兵隊のVTOLが、ファルコン戦線の奥深く、ファルコンの前線補給庫のひとつに飛び込み、臨時施設の大半を破壊し、それからさらにファルコン領の奥へと進んでいった。0725時、第9ウルフのVTOL隊はウィニペグのすぐ外にある司令本部を叩き、レーザーと戦術ミサイル砲撃で引き裂いた。ここはファルコンのウォッチ指揮官、アブザグ・ヘルマーがいると疑われた地点だった。VTOL数機がファルコンの空中哨戒戦闘機と対空砲に落とされたが、すでに損害は出ていた。ファルコンの死者の中には、ヘルマーが含まれていたのだ。ウォッチ指揮官とHQの両方が失われると、ファルコンは事実上なにも見えなくなったが、新しく指揮本部を移し、マルヴィナがスターキャプテン・ジャカパン(トップエージェントの一人)をウォッチ司令官に任命すると、ウォッチは息を吹き返した。

 空爆はどちらも目標の氏族に違った形で損害をもたらしたが、本当の戦いは地上で争われることになる。両陣営ともに厳然と前進を続ける中で、太陽は空に高く昇った。


正面強襲: 0900-1659時 FRONTAL ASSAULT: 0900-1659 HOURS

 互いの距離が離れていて、両陣営が地上部隊の長距離移動に降下船を使わなかったことから、ファルコンとウルフの最初の衝突は神判に入ってから3時間近くがかかった。アルファ、ガンマ、エプシロン、ヴァウ銀河隊からなるファルコンの攻勢の前衛を努めたのはファルコンガードだった。マルヴィナはアラリックが側面機動をすると予測して、東に進撃する北側面をデルタ銀河隊に守らせ、ゼータ、ロー、オメガ銀河隊に南側面を守らせた[4個銀河隊すべてが反モンゴル感情で知られてるか疑われていたことは注目に値する。マルヴィナは意図的に彼らを側面に追いやって、ファルコンの穂先として戦う栄光を奪ったのだろう。-RJ]。オタワから西へ向うウルフ軍は、ヒューロン湖の北岸に沿って行進し、それから2つの攻撃軸に分かれた。ガンマ銀河隊“ウルフ軽機兵隊”が南部の攻勢を率いて、スペリオル湖沿いに進む一方で、デルタ銀河隊“スナーリング・ウルフ”は北に向かった。ウルフの前線はさながら大顎のように開いた。

 ファルコンガードが抵抗に遭遇したのは、0925時、フェイズライン・チャーリーを越えた湿原で、ウルフの軽量級の散兵と衝突した。スターコーネル・マルフ・ロシャークは正面から対決するために、ウルフを広い場所におびき出そうとしたが、ウルフは退却し、間接砲でファルコンを叩いた。ロシャークはウルフに追跡を促そうと、戦力を西に向けた……だが、ファルコンガードがフェイズライン・チャーリーを越えて戻ると、ウルフの戦士たちはファルコンを追うことなくフェーズラインに沿って南に向かった。間接砲砲撃は続き、戦うべき相手はいなかった。ファルコンはウルフの主力を湿原の中で探し回った。

 この日のうちに三度、戦線の中心にいるファルコンの4個銀河隊がウルフの戦線を強襲し、それから戦術的後退を仕掛け、ウルフがついてくるように誘った。マルヴィナはアラリックが罠に掛かるとは思わなかったが、ファルコンの攻撃は受けるより多い損害を与えていた。もし、ウルフが広い土地での戦闘に加わらないのならば、ファルコンは一度に一滴ずつの出血を強いる準備があった。必要ならばそうする。




大氏族の神判、2日目 THE TRIAL OF THE ILCLAN, DAY TWO

 戦闘の最初の17時間、ジェイドファルコンもウルフも決定的な有利を得ることができなかった。ウルフ氏族はオタワ周辺の航空優勢を維持して、敵戦線の後方に橋頭堡を築いたが、4月18日(神判の2日目)の丑三つ時に入ると、こういった優位も怪しいままであった。両者はおよそ対等な立場にあった。しかしながら、この状況はすぐにも破壊的で破滅的な方向へと振られていく。


戦線の背後: 0000-0559時 BEHIND ENEMY LINES: 0000-0559 HOURS

 大氏族の神判、2日目の最初の大規模な作戦は、ウルフ氏族がサンダーベイの橋頭堡から奇襲を仕掛けて始まった。ゼータ銀河隊の第9ウルフ強襲星団隊と第79ウルフ戦闘星団隊は、ファルコンのセンサーを避けるために、長い時間をかけてスペリオル湖の冷たい水中を注意深く移動し、0030時に湖から上がって敵の後方に出た。2個星団隊は上陸地点で合流し、それから道を分かれて、北に1キロメートル以内の目標に向かっていった。

 第9ウルフの任務はファルコンの修理・弾薬施設を攻撃することで、第79ウルフは主補給庫を目標にした。両星団隊の目的は、ファルコンの哨兵を押し通り、目標を攻撃して、できる限り多くの臨時設備を破壊し、それから制圧される前に退却することだった。残念ながら、この任務は簡単ではなかった。予想もしてなかったことに、ロー銀河隊全体が需要な目標を守っていたのである。マルヴィナはアラリックが兵站ハブを狙うと予想しており、それに備えていた。攻撃のタイミングと湖から来ることだけは予測できなかった。

 闇夜の電撃戦は見張りの装甲・歩兵の不意を打った。両星団隊は押し通って、最初の防衛隊を殲滅し、それから目標を叩いた。第9ウルフの修理設備に対する攻撃は、ほとんど成功しなかった……ある程度のダメージはあったのだが、大半は完全な稼働状況で残った。だが、弾薬庫への強襲は大きな成功をもたらした。ロー銀河隊が近づいてくる前に、スターコーネル・ヘンリー・チュツオーラの戦士たちは、弾薬庫の2/3に火をかけたのである。第12ファルコン正規隊と第5混成星団隊が側面を打つと、第9ウルフは予定通りの退却を実行した。

 第79ウルフは哨兵を迂回して、少数の補給庫施設を破壊するのに成功したが、残りのロー銀河隊が駆けつけて包囲し、退却路を遮断した。スターコーネル・スキナーの戦士たちは勇敢に戦ったものの、第8ファルコン正規隊と第78臨時守備星団隊は容赦なく切りつけ、首輪を締め付けた。

 両ウルフ星団隊にとって、この隠密攻撃は本物の自殺任務となった。第9ウルフの1個三連星隊近くがファルコンの鉤爪を逃れたものの、第79ウルフはそれほど幸運ではなかった。ロー銀河隊の網を抜けた戦士は1個星隊以下で、残りは撃破され、無慈悲に殺された。

 大量の弾薬と補給物資を失ったファルコンは長期に及ぶ戦役を戦えなくなった。やるのであれば、他の調達先から持ってくるか、ウルフから盗むしかない。だが、マルヴィナと上級司令官たちは、物資の不足が問題になるほど長引かせるつもりはなかった。


労苦と難事: 1200-1359時 TOIL AND TROUBLE: 1200-1359 HOURS

 ジェネラル・ヴィッカースは、ファルコンの不安定なウルフ戦線に対する攻撃戦略を注意深く分析し、ランダムに見える攻勢は意図した正確なものであることを読み解いた。ファルコンの一部は隙間を通り、防衛の第2戦線を強襲したが、攻撃部隊の大半は後方に回り込み、前線を再び攻撃した。その結果、ファルコンが少しずつ移動したあとで、ウルフの多くが不注意に前進してしまった。それはマルヴィナが以前に企んでいた大規模な掃討作戦とは別物であった。こうして、シータ、イオタ、ユプシロンがウルフ戦線の中枢を形成し、ファルコンの強襲が続く中で、さらに西へとじりじり進んだ。彼らは気づかずに、フェーズライン・チャーリーを超えるというアラリックの交戦規定の基本を破ってしまったのである。

 1245時、チャンスが3個銀河隊の司令官と連絡を取って、西に向かうよう命令を出そうとしたのが、何か悪いことが起きているという最初の兆しになった。ファルコンは3個銀河隊の通信をECM妨害でジャミングし、チャンスの命令が伝わるのを阻止した。数分後、戦況の変化に関する報告が殺到した。それは戦いの様相を永久的に作り変えるものだった。

 ウルフの前線と第2戦線のあいだにある森が炎に包まれた。ジェイドファルコンの気圏戦闘機が焼夷弾で戦場を火炎爆撃し、火災をもっと早く広げるためにインフェルノジェルが投入された。加えて、ファルコンのソラーマ戦士たちがニトログリセリンの缶を戦略的に配置したことで、森の計画された区域に火の手が上がった。ファルコンの気圏戦闘機は正確に森を火炎爆撃し続け、15分以内に、シータ、イオタ、ユプシロン銀河隊の全体が燃え盛る壁に完全に閉じ込められた。

 山火事は全方向に2キロメートル以上延焼し、春の風は炎を広げるだけであった。カナダの森で燃え盛る火災は歯止めが効かなかった。ウルフの戦車と通常戦力は閉じ込められ、これほど厚い炎の壁を超えるのは自殺行為であった。メック戦士とエレメンタルだけが生き残る望みがあったが、たとえそうだとしても、メックとバトルアーマーは長時間の熱から身を守ることはできなかった。メック戦士たちにはエンジン停止と弾薬誘爆のリスクがあったのみならず、炎で赤外線センサーが使用不能となった。炎をくぐり抜けるには磁気センサーを使うしかなく、炎を避けるのに成功し、罠を抜けたウルフにはファルコンが待ち構えていた。直後、ファルコンの間接砲が囚われた3個銀河隊に砲撃を開始し、気圏戦闘機による機銃掃射と爆撃を行って、火に油を注いだ。こうしてウルフは、トラップの中に残って砲撃と爆撃にさらされるか、炎の中に飛び込んで待ち構えているファルコンに強襲されるか、広がり続ける炎の壁を越えるのに失敗するかを余儀なくされた。自らの運命を選べない者は、すぐにも選ぶことになるだろう……炎が広がって、燃えてない部分がゆっくりと減っていくからだ。

 加えてマルヴィナが放火した面積自体が広大だったため、燃えてない場所にいるウルフ銀河隊もまた機動を制限された。気圏戦闘機、VTOL、ジャンプ可能メックは火災を迂回できたが、戦場の北と南に残された無事な土地は比較的少なく、火災が続くごとにゆっくりと狭くなっていった。

 消火のためにアラリックとチャンスは即座に動いたが、この時点ですでに対処不可能なほどに延焼していた。ウルフはオタワから産業メックと消防隊を呼び出し、降下船を使って消防士と機材を素早くシャトルした。


燃え盛る炎と泡立つ大釜: 1400-1559時 FIRE BURN AND CAULDRON BUBBLE: 1400-1559 HOURS

 ウルフはマルヴィナが仕掛けた地獄のように燃える区域に大釜(Cauldron)と名付けた。大釜の炎をくぐり抜けるために、囚われたウルフたちが鋼の意思を奮い起こすあいだ、消防隊の隊員たちは炎と戦ったが、効果は乏しかった。火災の規模が大きすぎたのみならず、ファルコン軍は大釜の外周を回って、民間人の産業メックパイロットを狙い撃ちにした。消防士たちは、ただでさえ厳しい状況に置かれているのに、砲撃の下で消火作業するという異常事態に陥った。アラリックは消防士を守るために戦力を動かした。彼らなくしては、鎮火することもできず、シータ、イオタ、ユプシロン銀河隊が爆撃や炎で死ぬ前に生き残りを避難させることもできない。

 消防隊はすぐに、消火能力を越えていると確認した。これが通常の森林火災であれば、小型の航空機を使って空から消火剤を撒くところだが、ファルコンに撃ち落とされるので大氏族の神判が終わるまでそれはできなかった。最終的に消防士たちは、炎の中を通る道を作って、囚われたウルフたちを安全な地点まで移動させるのがベストだと決断した。林業メックが木々を伐採して道を作り、消防メックが消火剤を散布し、建設メックはブルドーザーで木と灰を積み上げた。

 消防隊が活動するあいだ、ウルフの気圏戦闘機は大釜の外にいるファルコンに爆撃と機銃掃射を行って、火の輪から抜けようとするウルフが攻撃されたり、ファルコンのジャンプメックが炎に飛び込んで直接ウルフを攻撃するのを妨げた。残念ながら戦線の後方深くにいるファルコンの間接砲が大釜の中にいる部隊を叩き続けた……ウルフの気圏戦闘機が間接砲部隊を捜索し、破壊しようとしたが、ファルコンは活発なCAPパトルールで間接砲を守っており、ウルフのパイロットは突破できなかった。これの意味するところは、いまだ炎の中にいるウルフが自分の手で問題を解決せねば、炎や砲弾で死ぬことである。

 スターキャプテン・ノーラン・ケレンスキーの指揮下で、シータ銀河隊第29ウルフ守備星団隊の4個オムニメック星隊と、原隊からはぐれたエレメンタル部隊が、火の輪を西に押し通り、ファルコンの間接砲の方角へと向かった。全員が生き残ったわけではなかったが、1415時、燃え盛る坩堝の向こう側までたどり着けた者たちが、ファルコンの前衛砲兵隊アルファ(主力2個砲兵隊の片方)を発見した。護衛との砲撃戦の後、ノーランの部隊はファルコンのエレメンタルとソラーマ歩兵に圧倒される前に発射砲の大半を破壊した。ノーランは炎の中に退却して敵を驚かせ、歩兵は追跡ができなかった。

 大釜に戻ったノーランの生き残ったメックとエレメンタルはもう一度炎を突っ切って北に向かい、道中のはぐれたメックとエレメンタルを拾い上げ、大火の中を進んだ。この旅で、数はさらに減ったが、脱落していった者たちは間接砲の砲門を減らすごとにウルフの生命を救うことになると知っていた。再び大釜の外に出ると、ノーランの寄せ集め部隊は復讐心を込めて前衛砲兵隊ベータに襲いかかって引き裂き、目につく敵の全てを抹殺した。

 間接砲を無力化すると、ノーランはウルフを率いてもう一度炎の中に入り、さらなる生存者を集めて、安全な場所までたどり着く方法を模索した。ウルフの気圏戦闘機は、囚われたウルフの一部を消火隊が作った防火帯に誘導したが、大釜に火がついてからわずか2時間で貴重な生存者たちはほとんど残されていなかった。

 間接砲支援を奪われたファルコンは、イオタ銀河隊を北から大釜に突進させ、ラムダ銀河隊は南東から入った……大釜から逃げようとするウルフを撃破するためのものであった。ウルフのイオタ銀河隊が突撃の矢面に立ったが、彼らの犠牲によりシータとイプシロンの完全な壊滅が妨げられた。

 1442時、優しい春の雨が中央カナダに降り注ぎ始めた。数分以内に、雨は大釜内の炎を消し止め、まだ燃えるインフェルノジェルだけがあちこちに残った。1515時に、シータ、イオタ、イプシロン銀河隊の最後の生き残りが大釜を出ると、中にいたファルコンたちは追撃せず退却した。損害は取り返しがつかないものだった……アラリックとチャンスが放火の影響を精査すると、大釜に囚われた3個銀河隊の損害は72パーセントだった。




大氏族の神判、3日目 THE TRIAL OF THE ILCLAN, DAY THREE


無慈悲な突進: 1000-1359時 A RELENTLESS DRIVE: 1000-1359 HOURS

 組み合わされたファルコンの信じがたい圧力に面したウルフは、少しずつ後退し続けた。カッパとタウが完全な退却に追い込まれたが、敗走することはなかった。できる限り秩序正しく後退するかし、包囲されるか罠にかかったときは最期まで戦った。前進せねば処刑するというマルヴィナの命令は、乗馬むちのように戦士たちを急き立て、無謀なときでも前に推し進めた。ファルコンは大きな損害を被ったが、ファルコン軍の重量と決意がマルヴィナの明確な脅迫と組み合わされて、ウルフを最初の衝突地点からさらに東と南に追いやった。

 1100時、ファルコンガードがガンマ銀河隊の先頭に立ってウルフの戦線深くに押し入った。ギャラクシーコマンダー・タスタスの部下たちはウルフのデルタ銀河隊に深い傷を与えたが、このスナーリング・ウルフを撤退に追い込む前に、犠牲にできる部分を使い果たした。ファルコンガードのスターコーネル・ロシャークは機会を無駄にするのを潔しとせず、さらに東へと戦士たちを急き立て(脅したのではなく、その先に待つ栄光をちらつかせた)、ガンマもそれに続いた。

 もう2時間、ウルフは常ならざるエメラルドの波を押し留めようとしたが、そう上手くはいかなかった。1300時までに、ジェイドファルコンはフェーズライン・ナターシャの一番西にいるウルフのガンマ銀河隊に達した。ハーストの南西、スタントン川でファルコンの前線は、ウルフ軽機兵隊と遭遇し、撤退する余裕を与えず粉砕した。こうしてガンマが交戦するだけの充分な空間が生まれた。

 45分以内に、ウルフの前線はスタントン川を渡って後退し、ファルコンのエプシロン銀河隊がローテーションで前衛に立つなか、東へと撤退し続けた。攻撃の急先鋒となった第1ファルコン猟兵隊はウルフのゴールデン親衛隊を追い回し、そのあいだ他のエプシロン各星団隊はアルファ銀河隊の残りを追いかけた。ゴールデン親衛隊の後退速度は猟兵隊の想定よりもゆっくりとしたもので、攻撃の勢いが落ちるとエプシロンの残りは渋滞した。エプシロンの大半はモンゴルドクトリンを表立って支持していたが、スターコーネル・カーラス・プライドはそうではなく、星団隊を前に進め続けたら、得るものなく撃破されることがわかっていた。だが、得たものをまとめ、新たな攻撃のために再組織したら、ウルフに1メートルたりとも明け渡すなというマルヴィナの特別な命令に触れてしまう。エプシロンの残りがアルファ銀河隊の砲撃に突っ込むなかで、プライドは氏族長の命令を無視して、星団隊を後方に近い陣地で再編し、攻撃する最適の瞬間を待った。それからエプシロンがアルファ銀河隊の退却する壁に突進した。ファルコンの損害のほうが大きかったが、ゴールデン親衛隊はエプシロンの自殺的突撃と、エプシロンの後方に流入したオメガ銀河隊の星団隊群に持ちこたえることができなかった。

 12時半、ウルフの戦線は陣形の中央と北で崩壊しつつあった。ファルコンの大規模な攻撃は勢いを緩めていたが、ウルフの息の根を止める熱意は衰えていなかった。マルヴィナ・ヘイゼンとジェイドファルコンは、優位に立ち、純粋な戦力で上回っていた。ファルコンとイルクランのあいだに立ちふさがっていたのは、弱体化するウルフ銀河隊と氏族長……ファルコンがいかなる代償を払っても殺す決意をした一人だけだった。


アテナ・ライズ: 1400-1644時 ATHENA RISES: 1400-1644 HOURS

 1400時までに、アラリックはタスクフォース・アテナライジングを解き放つ時が来たことを知った。このタスクフォースは最悪の瞬間のために予備とされていたものだった。いまだファルコンの気圏戦闘機が空を支配していたが、ここでリスクを取らねばもう二度と次の機会などなくなることがアラリックにはわかっていた。

 1410時、彼はアテナ・ライジングを起動し、氏族軍の東端にいた氏族軍の半分に西へと向かうよう命令した。それはあたかもファルコンの顔の前でドアを閉めたかのようだった。ラ・ベレンドライ自然保護区に停泊していたアテナ・ライジングの降下船が離陸し、ファルコンの北端側面の北に向かって飛んだ。空中偵察機が降下船を目撃すると、マルヴィナは偵察機に交戦しないよう命令した。中身は空だと彼女は断言した……アラリックはすでに全氏族軍を戦場に投入しており、従ってこれは戦場の一番重要な部分から注意を逸らす絶望的な陽動であった。

 オメガ銀河隊が南東に移動を始めると、タスクフォース・アテナライジングは着陸し、降下船から2種類の戦力をおろして、ファルコンのみならずウルフの多くまでも驚かせた。暗号名リユニオン、放浪ウルフの1個銀河隊。暗号名アマルガメーション、ウルフ竜機兵団の3個連隊である(元の隊員たちの大部分がウルフ氏族出身である伝説的な傭兵部隊)。元放浪ウルフと竜機兵団の両方が、T+40日とT+51日に惑星降下していた……従ってアラリックには彼らを戦場に投入する権利があった。降下船の中に隠れていたので、ファルコンのウォッチは彼らが惑星上にいるという徴候をつかめなかったのである。

 3146年にジェイドファルコンが放浪ウルフの本拠地アークロイヤルを征服したあと、アラリックが恩赦を出して戻るよう呼びかけたが拒否されたという噂があったにもかかわらず、この新しい銀河隊(オメガ臨時銀河隊と命名)は、ウルフ氏族に戻ることを選んだ放浪ウルフ戦士の生き残りで構成されていた。だが、マルヴィナを心底仰天させたのは、ウルフ氏族と肩を並べて傭兵団が戦っていたことである。しかもそれが高名なウルフ竜機兵団だったのだ。氏族は傭兵の雇用を基本原則として拒否していたのみならず、氏族侵攻でウルフ竜機兵団は中心領域に与して、中心領域の指導者たちに氏族についてと効果的に戦う方法を教えて、氏族の主人たちを裏切っていた。それ以来、氏族は裏切り者たちに格段の憎しみを抱いた。それは名誉なき金銭戦士たち(lucrewarriors)に向けられる通常の嫌悪を越えるものだった。まだドラコ連合と契約しているとの噂があったのに、なぜ竜機兵団がウルフ氏族とともに、ここ地球で戦うのを選んだのかは、信頼されているごく少数のウルフだけが内々に知る話であった。

 アテナ・ライジングの5個部隊は、それぞれ特定の目標を与えられており、彼らの成功と失敗がファルコンを負かすか、ウルフを破滅に追いやるかを決めることになる。トーマス・ブラベイカー将軍率いるウルフ竜機兵団3個連隊は彼らが好む先陣を任され、そのあいだブラックウルフ中隊(デボラ・シェリダン大尉指揮下)は、ファルコンのゼータ銀河隊(モンゴルドクトリンを熱烈に支持する部隊の一つ)を目標にした。オメガ臨時銀河隊(元放浪ウルフ氏族長ミリアム・ショー指揮下)は戦場の南を迂回して、ファルコンの後方を攻撃しようとした。竜機兵団の特殊部隊、第7奇襲部隊(アーロン・クリュル大佐指揮)は極秘作戦に派遣された。最後の戦力はメック戦士一人で構成されていた……アナスタシア・ケレンスキー、ウルフの元副氏族長である。


捜索中 ON THE HUNT

 展開したオメガ臨時銀河隊が南に突撃する一方、ウルフ竜機兵団はファルコンの北側面に獰猛さと軍事的精度を持って押し寄せ、マルヴィナの戦士たちを凍りつかせた。この新たな脅威に対抗すべく、ファルコンのアルファ、ガンマ、ヴァウ銀河隊は北と東に弧を描く防衛線を構築し、デルタ銀河隊は北部の側面を守るためにぐるりと回った。マルヴィナがさらに戦線を調整すると、聞き慣れた声が電波に乗った。「マルヴィナ・ヘイゼン、こちらアナスタシア・ケレンスキー。おまえと会うために来た」

 アナスタシア・ケレンスキーただひとつの任務は、どんな手を使ってでも、マルヴィナ・ヘイゼンを探し、抹殺することだった。アナスタシアの周囲で戦闘が荒れ狂う中、ウルフの気圏戦闘機と地上軍はラプター親衛隊らしき目撃情報を伝えて、アナスタシアのサヴェージウルフができるかぎり無傷でマルヴィナのところにたどり着けるように誘導を支援した。しかし、マルヴィナのほうもまたアナスタシアを探し求めた……スカイアでアレクサンドル・ヘイゼンの死に関わった元ウルフ副氏族長に復讐するためである。

 竜機兵団の最初の突撃は、さながらバッテリング・ラムのようにデルタ銀河隊をに突き刺さり、銀河隊をふたつに割った。通常の戦術ならアルファ連隊が左右に分かれ、デルタにとどめを刺しただろうが、竜機兵団は損失にも動じず南へと進み続けた。彼らの任務は、できる限り深くファルコンの戦線を突破することだった。

 竜機兵団の主力が戦場の北部をかきわけて進む中、第7奇襲部隊は1515時にサンダーベイから北にあるファルコンの飛行場を攻撃した。クリュル大佐指揮下の歩兵とスペシャリストたちは戦場と航空偵察の目から離れた南の森を進み、ラップの近くに出現し、全3個中隊が仕事に備えた。アルファ中隊は南に向かって滑走路を守る軽戦車と車両を目標にし、ブラボー中隊は北から接近して地上をパトロールするソラーマ歩兵の気を引いた。ファルコンが遠くに引き寄せられると、チャーリー中隊が航空基地に入って、滑走路を遮り、できる限り多くの戦闘機に爆薬を仕掛けた。囮に引っかからなかったソラーマ歩兵1個ポイントがチャーリーを妨害し、ファルコンの航空支援能力がすべて失われるのを防いだが、第7奇襲部隊が森に引き上げたときにはもう損害が出ていた。いまやウルフが戦場の空を支配していた。




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