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作成:2017/10/15
更新:2018/03/11

第一次継承権戦争 First Succession War



 2781年に星間連盟崩壊が崩壊し、ケレンスキー将軍とSLDFがエグゾダスを決行すると、中心領域には大きな空白が残りました。
 とどめる者のなくなった「継承国家」は、新たな宇宙の支配者となるため、破滅的な争いに身を投じます。それが継承権戦争です。
 第一次、第二次継承権戦争では、戦艦から核兵器までありとあらゆる兵器が使われ、数百億人が死亡し、惑星が丸ごと潰滅するのも珍しいことではありませんでした。
 35年に渡る第一次継承権戦争に勝者はなく、後には破壊だけが残されましたが、王家君主たちは懲りることなく、わずか5年後には第二次継承権戦争を始めます。やがて継承国家同士の争いは250年もの長きにわたって続くことになります。






継承権戦争(2786年〜2821年) THE SUCCESSION WAR (2786-2821)


発火点 IGNITION POINTS

 いずれ継承権戦争になるものの初弾は、公式に戦争が宣言される数ヶ月前に放たれた。これらの戦闘は、各王家君主が戦争の新時代を非公式に知らせる口実としての役割を果たした。


ボラン攻勢 THE BOLAN OFFENSIVE

 継承権戦争における最初の大規模な作戦行動は、ライラ共和国による惑星ボランへの「精密攻撃」であった。LCAF最高司令部によって「エルボージョイント作戦」と名付けられたこの攻撃は、公式には先制攻撃に分類されるものであり、自由世界同盟の「露骨な侵略の徴候」に応じて行われたものだった。この正当化は、自由世界同盟が、2738年、2784年に、ミルンジェラとサルティヨをそれぞれ併合したことによって説得力を増す。このふたつはサム地区の交通を監視し続けるために、マーリック家と元星間連盟が共同で管理していた世界だった。母国が好戦的でないとしたがるライラの歴史家たちは、これらの例を引き合いに出してボラン攻勢は必要だったとしているが、自由世界同盟の歴史家たちは「露骨な侵略」が存在したかについてこんにちまで激しく議論している。

 どちらの陣営がより不当に扱われているのかに関わりなく、ボラン攻勢の結果は、来たるべき戦争全体のトーンを決めたのだった。

 ライラ共和国の攻撃は、3個バトルメック連隊を中心とし、支援するのは2倍の数の歩兵・装甲連隊、それに4個気圏戦闘機大隊であった。これらの戦力は、コモンウェルス級巡洋艦3隻、マコ級コルベット4隻などからなる海軍のタスクフォースに護衛されていた。

 作戦を指揮するのは、准将リチャード・ジョンソン・フォン・アイレンブルク男爵だった。若き士官であるジョンソンの戦闘経験は、辺境世界共和国の惑星(ケレンスキーのSLDFにすでに撃破されていた)を占領する流血なき作戦が何度かだけだった。彼は指揮する兵士たちと士官たちの大部分について、事実上なにも知らなかった。LCAFにおいて裕福な貴族の一員が准将に昇進するのは驚くべきことではないが、どのように彼が〈戦い〉の時代以来初となる大規模かつ合法的な軍事行動の指揮権を獲得したかについては数世紀にわたって論争の種となっている。

 2785年3月7日、エルボージョイント作戦は航宙艦ルシアン・ベル(ボラン地方の自由世界同盟=ライラ共和国国境双方の居留地でよく知られている独立商人)が到着すると共に始まった。この船にドッキングしていたのは、民間登録されていた1隻のミュール級降下船だった。ボラン星系の天頂ジャンプポイント(星系で唯一の再充填、税関ステーションがある)に実体化した直後、ルシアン・ベルはジャンプセイルを広げ、ステーションの担当者に呼びかけた。いつもの冗談のやりとりに見えたものの後、ルシアン・ベルはいつもの税関検査に備えた――王家君主のあいだでの緊張感が高まるまでは、通常のプロトコルだった。

 税関のシャトルが近づいてくると、ミュールの両カーゴベイのドアとフライトベイが開いて、LCAF戦闘機2個中隊が発進し、すぐさま近づいてくるシャトルに向かった。直後、ミュール級は航宙艦から離脱し、ステーションに向かう一方、強力なECMを発した。短い撃ち合いは、ライラの海兵1個小隊以上が税関ステーションに強制的に乗り込んで終わった。そのあいだ、戦闘機は近くのライラでない船をすべて破壊した。

 効率的に攻撃が行われたにもかかわらず、自由世界同盟のパトロール・シャトルの1隻が星系内の防衛部隊にどうにか事態を知らせてみせた。だが、メッセージが受信されるのは遅すぎた……最初の一発が放たれてから数分以内に、コモンウェルス級戦艦が天頂地点にジャンプし、LCAFの兵士1個連隊を積んだ航宙艦小艦隊を連れてきたのだ。ほぼ同時に二番目の船隊(6隻の戦闘艦に支援され、タスクフォースの残った地上戦力を運んでいた)がボランの軌道面に沿ったラグランジェポイントに実体化した。

 惑星上には自由世界同盟ボラン防衛旅団の2個連隊がいた。この部隊は、〈戦い〉の時代に占領された後、ボラン・サムで作られたものだった。名目上、第6防衛部隊のサラム・タット大佐に指揮されるこれらの連隊は、惑星の主要大陸に分散していた……警報が鳴ったときには、半分が演習中であった。一方、ボランの軌道防衛は、リーグ級駆逐艦3隻と、修理されたイージス級巡洋艦〈マナスル〉1隻がほぼすべてであった。

 防衛戦力の仕上げとなるのは、オーバーウォッチの名で知られる巨大な要塞だった。元はSLDF第418機械化歩兵師団の本部だったオーバーウォッチは、惑星の人口が少ないセバリ大陸にある大規模に強化された施設群であった。崩壊しつつある地球帝国の完全に動作するキャッスルブライアンとは違うのだが、オーバーウォッチは地表対軌道防衛砲台と長距離戦略ミサイルプラットフォームをいくつか持っていた。共和国諜報部によると、これらの施設は差し迫るライラ共和国への攻勢に備えて弾薬と装備の倉庫となってるとされていた。

 もし、そのような事態が発生したのならば、シュタイナー家の諜報部は正しかったということになる――ケニオン・マーリックが共和国への大規模な侵攻の足場として、戦略地点であるボランを使う準備をしていたら、だ。だが、自由世界同盟の総帥は、ケレンスキーがいなくなってすぐ、地球帝国の世界を奪うという誘惑にあらがうことができなかったのである。従って、ボラン・サム中に備蓄が置かれていたにもかかわらず、シュタイナー家と戦うための船と兵はスピンワードに向かっていた。

 警報が惑星ボランに届くと、マーリック軍は緊急出動した。最寄りの駐屯地から、援軍を求める緊急HPGメッセージを送った後、タット大佐は同僚の連隊指揮官である第10防衛部隊のアンリ・バルキチェク大佐と協議を行った。彼は第10の大部分に対し、サケテ大陸の惑星首都ムンバイを守るように命じ、第6の1個大隊を近くの港湾都市クエッタに配置した。第10の1個大隊は都市カルカッタ(カシミール大陸最大の居留地)をカバーするために派遣され、第6の支援部隊の1/3がそれをバックアップした。2個メック連隊の残った支援戦力は、中隊規模に分割されて、サケテ大陸、カシミール大陸の大都市、ムルタン、ペシャワール、シビ、サッカル、バドーダラーなどに散らばった。最後に市民軍と治安部隊はやってくる侵略者を監視するために最大限の警戒態勢を取ったが、交戦を避けるように厳格な命令を与えられ、代わりに目撃したものをすべて報告し、人口の少ない地区に現れた敵兵の戦力を測定した。残ったタット大佐の地上戦力(バトルメック2個大隊)は、オーバーウォッチ周辺の地域を守る。

 宇宙では、自由世界同盟の戦艦が、太陽面に沿ってやってくるライラ艦に対して身構えた。これらの敵艦――コモンウェルス級巡洋艦〈カレドニア〉〈ドネガル〉と護衛するマコ級コルベット〈アウレリウス〉〈ネルヴァ〉〈ウェスパシアヌス〉〈ウィテリウス〉――は、それだけで守るマーリック艦隊を粉砕するだけの火力を持っていた上に、強襲降下船、戦闘機の2個小艦隊の支援を受けていた。だが、シュタイナーは数で勝っていたというのに、艦隊を広く分散させすぎていたのである。シュタイナーのコルベット4隻は、向かってきたマーリックの駆逐艦〈タルワール〉〈ターク〉〈ティベリウム〉と交戦することを熱望し、降下船の支援をまともに受けず前に出過ぎた。陽動と突然の退却を用いて、同盟側は向かってくるコルベットをさらに散開させ、巡洋艦(背後に大量の輸送降下船を伴っていた)が惑星軌道に到達する前に充分なダメージを与えて、〈ネルヴァ〉〈ウェスパシアヌス〉を退却させたのである。

 LCAFのメック輸送船を迎撃する必死の努力の中で、イージス級巡洋艦〈マナスル〉が先頭に立って交戦を行い、少数の強襲降下船、重戦闘機の2個航空中隊が同行した。同時に、同盟の〈ティベリウム〉――コルベット〈ネルヴァ〉〈ウェスパシアヌス〉との交戦ですでに大きな損傷を負っていた――は、〈ドネガル〉に自殺的な突撃をして〈マナスル〉の支援をしようとした。そのあいだ、残ったシュタイナーのマコ2隻と交戦していた〈タルワール〉〈ターク〉は、戦闘の外に置かれるのを余儀なくされた。

 〈マナスル〉の砲撃は〈カレドニア〉を叩き、機動ドライブと左舷の火器管制に大きな損傷を与えた。ライラの〈カレドニア〉はボランの重力井戸に転げ落ちるのを避けるために後退を余儀なくされたが、その前に〈マナスル〉に対する応射を行い、少なくとも2発の核弾頭バラクーダ・ミサイルと艦載レーザーの破壊的な片舷斉射で、船首に穴をうがったのだった。センサー群を破壊され、指揮所が消滅し、機動スラスターの半分が使用不能となった〈マナスル〉はコントロールを失い、乗組員たちは脱出ポッドに急いだ。〈ティベリウム〉の攻撃もまた失敗し、〈ドネガル〉はより小型な同盟艦を避けるのに成功したのみならず、エンジンに致命的な打撃を与えたのである。惑星の重力に負けた〈ティベリウム〉は、数分後、ボランの大気圏内で分解し、最後の恐るべき瞬間に、脱出ポッドを放出したのだった。

 軌道上の戦闘の外周部では、〈タルワール〉と〈ターク〉がもっと上手くやり、〈アウレリウス〉と〈ウィテリウス〉を片付けていた。3隻目のコモンウェルス級巡洋艦LCS〈フリーロ〉は、これを探知し、天頂のジャンプポイントから直進した。傷ついた同盟の駆逐艦は、オーバーウォッチからの命令で戦場から逃げ出した。

 ボランをかけた地上戦は、3月14日、ライラ共和国の艦隊が軌道優勢を確保した翌日に始まった。ペシャワールに上陸したLCAF2個連隊(第11、第14アークトゥルス防衛軍)は、地元の防衛部隊を殲滅し、カシミール市内に陣取った。これを見た、同盟の指揮官たちは、ライラ軍がカルカッタを直接攻撃するために結集しているのだと信じ込んだ。ジョンソン准将は実際に、カルカッタの早期降伏を促すために、幾度か脅しをかけたのだが、ライラ軍は単にペルシャワールの橋頭堡を強化しているだけだった。比較的経験に乏しかったにもかかわらず、ジョンソン准将はボラン防衛部隊についてと、ボラン・サムを守る彼らの献身性についてよく気づいていた。地元の民衆から立ち上げられ、〈戦い〉の時代以来、何世代にもわたってマーリックのプロパガンダを叩き込まれてきたボラン防衛部隊の戦士たちは、シュタイナー家を征服者と見るのみであった。旅団のモットーですら"Ad respiratio ultimas"(息絶えるまで)であり、故郷を守るために喜んで死ぬという意思を如実に語っていた。ジョンソン自身は(他のライラ人と同じように)、ボランは星間連盟の創設時に国境が「批准」された際にライラ共和国から盗まれた世界であると感じていた。

 オーバーウォッチに向けて進撃する代わりに、ジョンソン准将は連隊を分割して、複数の目標に向かった。戦力を分けるのは、大都市クエッタ、カルカッタにいる最大規模のマーリック軍を素早く激しく叩くためのものであり、その一方、気圏戦闘機、強襲降下船は、両都市に一番近い町を爆撃任務で総なめにしていった。両地上部隊は機動性を維持し、守備側の砲撃や軌道爆撃の目標になりづらくした。

 3月16日、第10スカイア特戦隊が直接クエッタの外周部に惑星降下し、〈フリーロ〉から都市宇宙港への軌道攻撃がそれに続いた。港湾施設は主に商用向けであったが、この時点で防衛部隊の降下船数隻が避難しており、ボランの生き残った航空部隊の主要な補給ステーションとなっていた。特戦隊は宇宙港の周囲の強化陣地近くに戦闘降下し、敵が混乱しているのを目撃していた……近くの燃料庫や弾薬満載のハンガーが爆発し、炎と煙が荒れ狂っていたのである。燃えさかる地獄の中で、ライラ軍は出来るだけの混乱を撒き、同盟の陣地を叩きつぶした。

 惑星の別の場所では、クエッタ強襲が始まるとすぐに第11アークトゥルス防衛軍が降下船に乗り込み、準軌道ホップを実行し、クエッタとムンバイの間にある丘陵地の田園地帯に着陸しようとした。同盟の戦闘機は着陸を阻止しようとしたが、この二日間の損害と特戦隊の航空支援によって空から一掃された。第11アークトゥルスはムンバイに移動して都市南側の郊外を支配し、ボラン防衛部隊は後退してあらかじめ設置されたトラップの迷路にシュタイナー軍をおびき寄せようと無駄な努力をした。ライラのメックは都市のすぐ外に陣取る一方、間接砲支援が両都市に対する散発的な砲撃を開始し、数回射撃した後で断続的に移動した。

 3月17日の朝までに、クエッタとムンバイの中心地区はくすぶるがれきだらけの飛び地となっていた。都市の中では、ますます絶望的になっていくボラン防衛部隊が安全な場所を探して這い回り、その一方、対砲兵射撃は敵に数回の命中しか出していなかった。そのあいだジョンソン准将は第14アークトゥルスにカルカッタに動くよう命じた。激しい空爆、砲撃の援護の下、ほぼ中軽量メックで構成される第14アークトゥルスは、都市の北と西の厚い森に集中した一方、高速のホバー戦車、VTOLは出来るだけ同盟の陣地を特定するため都市の外縁沿って走った。カルカッタの砲兵、都市ムルタンからの妨害部隊が、迫るライラにいくらかのダメージを与えたものの、日が暮れるとカルカッタは事実上LCAFの1個連隊に包囲された。

 宇宙では、〈ドネガル〉と〈フリーロ〉が、生き残った同盟の駆逐艦(降下船の支援を受けて偵察・地上任務を行っていた)とかくれんぼを行う一方、サバリ大陸とオーバーウォッチの軌道防衛兵器を明らかに避けていた。ボラン防衛部隊は陣地の防空壕にこもって戦艦の目標になるのを拒否し、同盟の駆逐艦はこの月のない惑星の上空で敵を手こずらせた。どう見ても、タット大佐の防衛戦略、オーバーウォッチの能力、海戦による損失は、侵略した共和国を尻込みさせた。ライラ側は純粋な火力と戦力の点でまだ有利だったが、ボラン人の指揮官は惑星が陥落するまで血塗られた長い戦闘を行うと誓っていた――もしかしたら、援軍がやってくるまで長く。

 膠着状態という錯覚は3月18日の半ばまで続いただけだった……ジョンソン准将は戦役の次の段階に動いたのだ。3個連隊から気圏戦闘機の大半を集めて、焼夷弾、通常段、クラスター弾を搭載すると、彼はカルカッタへの集中攻撃を命じた。やまない砲弾の雨あられと爆撃の組み合わせによって、都市はすぐに倒壊し、2万人以上のボラン市民が死亡し、事実上、第10ボラン防衛部隊の第101強襲大隊を殲滅した。激怒したタット大佐は、駆逐艦〈タルワール〉に第11アークトゥルスの降下船(まだペシャワールの危険なほど近くにいた)を軌道攻撃するように命じた。

 〈タルワール〉の攻撃は、ジョンソン准将がタット大佐に降伏を求める最後の呼びかけるのと同時に行われ、ライラの残った戦力が同じような残虐性で同盟の占領している陣地すべてを根絶する能力と意思を持っているとタット大佐は確信した。軌道上の巡洋艦は核弾頭を持っているとのジョンソン准将のほのめかしを警戒したタット大佐は、ボラン防衛部隊は最後の一兵まで立ち向かうと誓い、旅団のモットーを暗唱してから、通信を切った。約束したにもかかわらず、タット大佐は重要でない人員全員に、オーバーウォッチに避難するよう命令し、出来るだけ多くの生き残った戦闘部隊を降下船に載せた。残った野戦指揮官たちには、守りを放棄し、直接敵と交戦するよう命令を出して、彼らをクエッタとムンバイの現在の陣地に置いたままとした。

 士官たちが知っていたのは、これが最期になるということだった。残った防衛部隊が遮蔽から出て、ライラ包囲軍を攻撃すると、タット大佐はオーバーウォッチの戦略兵器庫を解き放つ許可を出した。狙いは彼らの陣地であった。最初の核弾頭が、惑星首都ムンバイと首都内のペシャワール街区を叩いたとき、ジョンソン准将はこれが焦土戦略であることを認識した。封じ込め戦術を放棄した彼は、包囲部隊に出来る限りの早さで離脱と退却を命じる一方、戦艦に対しすぐセバリ大陸に向けて、核兵器を使わせた。地上戦力が完全に殲滅されるのを避けると決めたジョンソン准将は、巡洋艦にオーバーウォッチをボランの地表から消し去るよう指示した。貴重な施設と内部の物資を奪い取ることは、もう選択肢になかった。

 ボラン争奪戦に勝利したのはライラ共和国だったが、代価は恐るべきものだった。ムンバイ、カルカッタ、ペシャワール、クエッタの都市は放射性の灰となり、セバリ大陸の大半とオーバーウォッチ基地もそうなった。民間の被害はおよそ3〜800万人の範囲だった。第6ボラン防衛部隊の1個大隊だけがどうにかズディツェに落ち延び、一方のLCAFは第10スカイア特戦隊の2/3以上と第11、第14アークトゥルス防衛軍の1/3を失った。ボランにおいて同盟は海軍を完全に失った……ライラは〈マナスル〉を回収したが、修理不能と判断され、直後にスクラップされた。〈タルワール〉と〈ターク〉は逃げる地上部隊を守って破壊された。共和国海軍の損失は、コルベット〈アウレリウス〉〈ウィテリウス〉に限られたが、〈ネルヴァ〉と〈ウィテリウス〉はニューキョートのボルソン造船所で約2年に渡る修理を実施し、この造船所が破壊されるまさにそのときに現役復帰したのだった。ひどい損傷を負っていた巡洋艦〈カレドニア〉は、姉妹艦〈フリーロ〉と共に、戦争の後半までボランに残った。

 ボラン攻勢は将来の戦争のテンプレートとなった。星間連盟評議会の反対がない状況において、大王家は重海軍部隊を侵攻の先陣に置き、防衛側は爆撃を思いとどまらせるために都市に後退するか、SLDFが残していった重要塞化陣地にこもった。この戦略は、引き替えに、せっかちな指揮官たちが長期戦を避けるために核化学兵器を放つことを促した。この決断を正当化するのは、敵にショックを与えて屈服させ、自分たちの戦略を保つにはそれはが必要であるということだった。敵が損失を素早く回復するのを妨げるために、重工業世界もまた王家君主の照準に入った――たとえ人口密集地帯の中にあったとしてもだ。そして、なにもかもが失敗したときは、焦土戦が常に最終手段となったのだった。

 自由世界同盟にとって、ボランをかけたこの戦いは、継承権戦争の始まりを表すものであり、その結果は募兵センターに志願者が詰めかけるようなときの声となった。タット大佐は、残虐非道な侵略軍を押しとどめるために命を投げ出した国家の英雄として、死後に祭り上げられた。ライラ共和国にとって、これは必要悪であった――同盟の侵略に対する安全装置として、共和国の領土をできるだけ多く埋め立てする必要があったのだ。リチャード・ジョンソン男爵は、勝利を賞賛されると同時に野蛮さと不器用さで非難された。彼はこの作戦で昇進することになるが、その後、大規模な作戦を指揮することはなく、祖国の歴史書において物議を醸す人物として最終的に引退した。


タウン Towne

 恒星連邦は2738年に地球帝国の惑星タウンを併合した。これはジョン・ダヴィオン国王が継承権戦争勃発前に認可した数少ない作戦行動の一つであった。我こそがキャメロン家の正統後継者であると騒ぎ立てるために、ダヴィオン国王は地球帝国の惑星に「見苦しい」行動を取ることを軍に対し禁止していた。このため、他の王家が帝国の領土をあからさまに平らげていくなか、AFFSは君主の指示に従うため価値あるものを買い取るか秘密裏に盗まねばならなかった。

 一方、星間連盟時代に、長年、軍事輸送の予算がカットされていたために、多数のダヴィオン連隊が地域に縛られるようになっており、たいていは配置によって自らを認識するようになった。よって、星間連盟の崩壊後に部隊の移動が必要となると、地元コミュニティ内のルーツが害されたとして、兵士たちの多くがちょっとした不快感を持った。こういった態度は大元帥たちにまで浸透し、軍事部隊・戦友たちのあいだで異常な不信につながった……隣の戦闘地区から来たというだけで、「外国人」と見なすようになったのだ。省と軍部の連携は、ケレンスキーのエグゾダス後の数年で冷え込んだ――この事実は2785年初めのタウンで公の目にさらされた。

 タウンには価値ある産業、元SLDFの装備貯蔵庫がかなりあったことから、ダヴィオン国王は第56アヴァロン装甲機兵隊と第123気圏戦闘機迎撃大隊にタウンを守らせた。ドラコ境界域フェアファクス軍事地域出身のメック偏重な第56アヴァロン装甲機兵隊は、コーリアを拠点とする第4アヴァロン装甲機兵隊と、数十年にわたって訓練演習を繰り返し、自らの帰属意識を固め始めたところだった。対称的に、第123気圏戦闘機迎撃大隊は、カペラ境界域のチェスタートン戦闘地区、ウランバートル出身で、元々は第12シルティス機兵隊に付属していた。第12シルティス機兵隊はこの配置に大声で不平を唱えたが、AFFS最高司令部は第56アヴァロン装甲機兵隊の航空支援戦力が比較的経験を欠いてるのを埋めるためとして正当化した。

 タウンに着任してからの数ヶ月間、両部隊のやりとりは事実上存在しなかった。第56アヴァロン装甲機兵隊(タウンのハイボリアン大陸にある惑星首都ポートハワードを拠点にする)は、地元市民軍の中核人員と何度も訓練し、惑星の北半球を日常的にパトロールした。一方の第123迎撃大隊はケールベイ(南方のゲルスト大陸にあるタウン第二の都市)に近い基地から防衛飛行偵察任務に自体の大半を費やしていた。両軍の指揮官は公の場では互いを認め、共に惑星を守るとAFFSの上層部に何度も確約したが、両者の関係は完全な機能不全にまで達しつつあった。

 2785年2月、カペラ大連邦国第7チコノフ槍機兵団の一部が、タウン星系の非通常ラグランジュジャンプポイントに到着し、惑星に急行して、守りのない南方フェトリル大陸を狙った。ダヴィオンの気圏戦闘機迎撃大隊が戦闘の準備をしていたまさにそのとき、月の影から別の攻撃部隊がやってくるのを軌道センサーが探知した――この部隊はドラコ連合第18ベンジャミン正規隊であると特定され、ハイボリアン大陸への惑星降下を狙っていると見積もられた。

 迫る攻撃部隊は比較的小規模――それぞれかろうじて1個強化大隊以上――だったのだが、ダヴィオンの2個防衛部隊の指揮官たちはどちらを先に攻撃するかで行き詰まった。第56アヴァロン装甲機兵隊の指揮官、コリン・ウィルキンス少佐はクリタ軍がより脅威であると主張した……降下地点から見て惑星首都を目指しているものと思われ、もしかしたら大規模なDCMSによる侵攻の先陣かもしれない。迎撃大隊を指揮するイムリッチ・ドナー少佐は、カペラの方が大きな脅威であると返し、ウィルキンスは議論に勝つために地域的なバイアスを利用していると示唆した。どちらも引き下がらなかったために、ドラコ連合軍は事実上抵抗を受けることなくハイボリアン大陸に上陸し、カペラ大連邦国の襲撃部隊は南半球の航空宇宙防衛を押し通り、最小限のダメージでフェトリル大陸に上陸した。

 地上では両国の襲撃部隊が同時に破壊の道を切り開き、ハイボリアンとフェトリルの守りが薄い倉庫いくつかを略奪した。ダヴィオンの指揮官たちが、想像上の権限と責任について口論しているあいだにも敵が暴れ回っていることに気づくまでに、カペラ軍は撤退を開始していた……フェトリル大陸の都市ヴェールの地元市民軍に、驚くほど機略に富んだゲリラ攻撃を受けたのである。大連邦国の侵攻軍はこの攻撃で小規模なダメージを受けただけだが、市民たちのAFFSが来るまで喜んで足止めするという意思に気づいたのである。

 第123の1個航空中隊がリャオ家の襲撃部隊を降下船まで追い立て、そのあいだ、第56アヴァロン装甲機兵隊の通常部隊とメックからなる分遣隊が地元市民軍を救援すべくフェトリル大陸に移動した。市民軍にお株を奪われて決まりが悪くなったのか、地元政府高官たちからの救援の懇願が強くなったからか、単純に襲撃部隊の一方が先に撤退したのが好都合だったからか、ダヴィオン軍は大連邦国の脱出を許すという妥協に達したのみならず、ハイボリアン大陸で緩やかに連携された防衛を実施した。最後の逆襲は完璧からほど遠かったが、タウン北半球での自由な支配は終わったとDCMSが確信するには充分なものであった。秩序正しく撤退したドラコ連合軍は、最小限の損失で空に上がっていった。

 いわゆる「タウンの大敗」と呼ばれた二週間以下の同時襲撃で、4000名以上の民間人と250名の軍人(大半が地元市民軍に属する)が死亡し、5000名が住居を失った。7箇所の重要な倉庫――フェトリル大陸が3箇所でハイボリアン大陸が4箇所――が襲撃部隊によって略奪されるか、完全に破壊されて、7000万ポンド(約3000トン)以上のAFFSの装備と弾薬が失われ、民間のインフラの犠牲はさらに大きいものであった。惑星の防衛をやり損なったことに対する市民たちの怒りはニューアヴァロンに届いた一方、ドナー少佐とウィルキンソン少佐は互いを非難し続けた。

 この災厄の影響を緩和するために、ジョン・ダヴィオン国王はタウン勅許を発布した……AFFSの特例としてタウンの市民は防衛の戦力を強化する権利を持つという公式の宣言である。この法案により、地元市民軍は惑星上の倉庫に残されたに残された軍事装備の大半を入手できるようになり、外国の攻撃に対する準備状況を改善したのである。

 だが、最悪の事態はまだ来ていなかった。

 タウンの恒星連邦軍が弱いと認識したクリタ家は、同年の12月、襲撃に続いて全面的な強襲を行ったのだ。強襲の先陣に立ったのは、第15ディーロン正規隊で、小規模な海軍小艦隊に護衛され、7個連隊分の歩兵・航空宇宙支援を受けていた。まだ先の屈辱から回復している最中だった第56アヴァロン装甲機兵隊と第123迎撃隊は、再び、俗に言うところのパンツを下げたところを見られる(不意打ちを受ける)ことになった。

 新たな脅威はひとつの敵軍によるものだったが、この部隊は2月の襲撃よりもはるかに規模が大きかった。彼らの名誉のために言っておくと、ドナーとウィルキンスは共に侵略者と戦うのに同意したのみならず、惑星外からの援軍を呼ぶ必要があることにすぐ気がついた。

 残念ながら、新たに連携の感覚が生まれたというのに、違いを脇に置きたがらない者は、この2名の指揮官以外にもいた。地元の忠誠派と官僚の妨害により、タウンへ救援部隊を送ろうというAFFSの奮闘は妨げられ、2ヶ月近く到着が遅れた。2786年2月後半に航宙艦が到着するまでにはもう遅すぎたのである。第56アヴァロン装甲機兵隊と第123迎撃大隊は、ドラコ連合の数と連携に押しつぶされた。生き残った者たちは地下に潜って惑星市民軍の残存戦力と共にゲリラ戦を実行するか、龍の捕虜となったのだった。


帝国領大争奪戦 THE GREAT HEGEMONY LAND-GRAB

 継承権戦争が始まる数年前――実際のところケレンスキーがエグゾダスする前から――星間連盟の所属国は国境に近い地球帝国の世界を吸収し始めていた。これらの合併は、たいたいの場合、救援・再建を口実として行われ、ほとんど砲火を交えることがなかった……アマリス帝国の恐怖と戦争を生き延びた地元民たちは、その時点において援助に感謝していたのである。

 大局的見地から見ていたアレクサンドル・ケレンスキーとSLDF忠誠派は、ゆるやかな「領土争奪」に激しく反対したが、長引く戦いの後で戦争に臨むのは気が進まなかった。好機とみた各大王家は遭遇したSLDFの駐屯部隊を懐柔しようとし始めた――忠誠と引き替えに、富と領土を約束したのである。これによって一部の勝手な指揮官たちが傭兵に鞍替えし、すでに崩壊していたSLDFの士気がさらに低下していくと、ケレンスキーは帝国を維持するという約束が守れないことに気づき、エグゾダスの計画を策定した。

 ケレンスキーが出発した後、各王家君主たちは積極的に帝国の世界を奪うようになった……地球に近づいていくと特に。それでも2786年半ばまでは戦争になることはなかった――ライラ共和国がボランを攻撃し、ドラコ連合がトロロック・プライムとグラムを征服した後、地球帝国と共同統治世界の吸収は戦争へと変貌を遂げたのある。


宣言の後 AFTER THE DECLARATIONS

 一年以上にわたって戦争状態が続いていたのだが、2786年まであと数週間というこの時期を歴史家たちの大半は第一次継承権戦争が公式に始まったポイントとしている。12月後半、ミノル・クリタ大統領は、星間連盟の玉座を受け継ぐ正当な権利を持っているのは彼自身とクリタ家のみであるとの布告を出した。HPGによってドラコ連合内外に放送を行い、さらに他の四ヶ国と地球に残っていたクリタ大使の手を通して信書を送ったミノルは、「龍の意思に逆らうような間抜け」に対しては宣戦を布告すると付け加えた。

 メッセージが届くと激怒が始まった。バーバラ・リャオ首相が最初に対抗し、第一君主の座を要求して戦争を宣言し、公式にカペラ大連邦国を拡大する紛争へと投じた。ジェニファー・シュタイナー国家主席は、より皮肉な反応を示し、大晦日にドラコ連合に宣戦布告した。自由世界同盟は、すでに共和国と戦争状態になっていたことから、マーリック家は星間連盟の支配権の主張を加えただけにとどまり、その直後に(最後に)ダヴィオン家と恒星連邦が続いた。

 これらの宣言はすでに起きていたことを確認しただけであった。大衆は、王家君主たちが隣国との国境紛争で相違を解決するだろうと納得しようとしていたが、いまや5大国のすべてが同じ目標を追い求めていることが明らかになった。

 その目標とは、地球であり、帝国を完全に崩壊させるだろうことは確実だった。この後、5つの「継承国家」は同じ熱意を持ってして人類の生まれた惑星を目指し、互いに対する戦争を執行することになる。

 地球帝国の惑星の一部は簡単に陥落し、10年近い経済的・政治的破滅をもたらす混沌から救済するのと引き換えに、近隣大王家の統治を受け入れることになる。だが、最後の目標に近づくに従い、他の国の軍隊と遭遇することは避けられなかった。特に、帝国の中心に近い星系は、5勢力が支配権を求める黙示録的な戦場となった。

 これらの世界の不幸な住人たちにとっては、アマリスの大虐殺が復活したようなものであった。








龍の跳梁: クリタの戦争 THE DRAGON RAMPANT: KURITA’S WARS


温存: ディヴィッド、サフェル攻防戦 Holding Back: The Battles for David and Saffel

 2787年2月、第11アヴァロン装甲機兵団が、元SLDF第1894軽機兵連隊(ブルースターイレギュラーズ傭兵団としての制服で活動していた)1個大隊の支援を受けて、ドラコ連合のディヴィッドを襲撃した。DCMSの駐屯部隊(第3アーカブ軍団)は、装甲歩兵4個通常連隊、第3ディーロン正規隊メック連隊で戦力を強化していた。ジンジロー・クリタの命令に従い、防衛部隊は援軍の戦力を温存して、アーカブ軍団の半数のみで襲撃部隊と交戦した。ダヴィオン軍は港湾都市サッサリの近くでこの部隊をいたぶり、アーカブ軍団は1時間にも満たない戦闘で後退した。彼らが明け渡していった倉庫には、かなりの量の弾薬、小火器、スペアパーツがあったが、惑星衛星センサーネットワークが警告を発したおかげで、攻撃の数日前にわざと減らされていた。

 惑星全土を征服するには戦力が足りず、ドラコが近隣星系に援軍を呼んだと確信していた第11アヴァロン装甲機兵団と傭兵は1週間だけディヴィッドに残って撤退し、クリタ家の国境防衛を適切にテストできたことに満足した。襲撃部隊は大都市の上空で航空偵察哨戒を行ったが、北アンドロポの荒野深くに第3ディーロンの隠し基地を暴くことはできず、ファティマ川に沿って点在する過疎村として偽装された車両バンカーを見つけることもできなかった

 2787年4月、ドラコ連合がサフェルを攻撃していた間、第6ベンジャミン正規隊は、第21辺境世界連隊の一部がすでに惑星上にいたのを見つけた。クリタの情報部は、この元辺境世界共和国兵士たちをブルースターイレギュラーズの一員であると特定したが、ディヴィッド襲撃の後でこの惑星にいるとは思っていなかった。見たところアマリス帝国の貯蔵庫(ケレンスキーの地球解放戦役の後に残されたもの)を確保するためサフェルに派遣されたイレギュラーズは、ここを地球回廊で恒星連邦が実施する追加作戦の展開地点にする任務もまた課されていた。

 もう一度、DCMSの指揮官、シロー・クヌートソン大佐は戦力を制限して、この地域のドラコ連合が弱いという印象を維持した。攻撃部隊を複数の居留地に分散して効力を希釈し、傭兵たちがやってきた時にはたやすく土地を明け渡すよう命令した。消滅した辺境世界共和国の「名誉なきクズども」に弱さと無能さを装うことは、第6ベンジャミン正規隊の戦士たちにとって苦々しいことだったが、クヌートソン大佐は指示を無視した者たちに「なぜそうしたのかジンジロー卿に説明するのは自由である」ことを指摘して、規律を保ったのだった。

 第6ベンジャミン正規隊は、10日間の散発的な戦闘の末、ついにサフェルから退却した。航宙艦が星系からジャンプアウトしてからわずか数日後、ジンジローの慎重な計画はまるで運命のように実を結んだのである。


敗走 ROUT

 ドラコ連合による侵攻の三週目、ジョン・ダヴィオン国王は第1ダヴィオン近衛隊と共にマスキーゴンにあり、数個連隊がカペラ大連邦国への強襲のために集合していた。ここで彼らはドラコ境界域中からのHPGメッセージの洪水を受け取り、逼迫した状況に気がついた。この方面が混乱すると、彼は即座に大連邦国侵攻計画を凍結し、防衛戦を確立すべくドラコ連合国境の全AFFS部隊に後退を命令した。

 残念ながら、2785年にタウンの大敗に結びついたのと同じ忠誠心の分断と指揮系統の混乱が再び持ち上がり、国王が「完全な秩序正しい退却」と呼んだものを邪魔したのである。故郷を放棄したがらなかったAFFS兵士たちの多くが退却を拒否する一方で、あまりに急いで逃げ出し数万トン分の価値ある軍事物資を敵に残していった者たちもいた。無秩序な退却はドラコ境界域の戦線に空いた穴を広げ、クリタ家は素早く食いついた。

 実際、恒星連邦国境の防衛が分断されたことで、ドラコ連合の戦争戦略全体が完全に機能したのである。出来るだけ素早く、出来るだけ効果的にダヴィオンへの決定的一撃を打ち込むと決意していたジンジロー・クリタはこの強襲で「惑星飛び」アプローチを考案した。すでに恒星連邦の(戦略眼でなく)軍事力について知っていたジンジローと父親は、壊滅的なペースを維持するために激しい抵抗を避けねばならないことに合意していた。これが、なぜ通信と通行を破壊してから惑星強襲が始まったかの理由になっている……そうすることで事実上足止めされた恒星連邦軍はすぐに征服されることはなく、よってドラコ連合の後詰めは敵を後から片付けることが出来た(包囲された世界が飢え、士気崩壊し始めたところが望ましかった)。

 ドラコ連合の最初の侵攻波で背後に残されたAFFS部隊の大半は、戦争の最初の2年間で事実上壊滅した。生き残れたのは、第30ロビンソン機士隊のダウボーイ大隊(ドブソン)、第4ロビンソン機士隊のゴーゴン大隊(フランクリン)、第10ロビンソン機士隊のチャージャー大隊(ニューロードスIII)など、機知に富んでいるか、回復力があるか、単純に幸運に見舞われた例だけだった。これら部隊のうち多くが、親連隊と支援部隊の残存戦力で構成されており、本拠地世界が陥落した後で長年地下に潜り、補給物資を得るため継続的に襲撃を行って、対処のため残されていたクリタの戦士たちに出来る限りの被害を与えた。


津波と戦う FIGHTING THE TSUNAMI

 2788年の2月までに、カペラ侵攻というジョン・ダヴィオン国王の夢は崩壊し、ドラコ方面戦線の全体で士気が崩壊した。士気を回復し、クリタの進撃を鈍らせるという絶望的な努力として、ダヴィオン国王はリャオ家攻撃のために配備していた数個連隊をまとめ、エルバー、シェーダー、カルタゴを狙った。ダヴィオン国王はこの反撃で地球方面沿いのDCMS戦線突破することを望み、さらに重要なのはミノル大統領自身が繰り返し指揮する侵攻の先端を妨害することであった。

 残念ながら、調整の不足と戦艦支援の不足によって、逆襲はほとんどスタートから破綻した。近くから集められたダヴィオンの主力連隊は、第1ダヴィオン近衛隊、第28アヴァロン装甲機兵隊、第8シルティス機兵連隊であり、それに加えて二倍の数の装甲・歩兵連隊がマーレッテ戦闘地区の地域市民軍から引き抜かれた。これらの部隊は作戦の一部になって共に行動するだけの訓練を受ける時間がなく、攻撃を支援する海軍護衛はそれぞれに戦艦2隻ずつのみであった。

 国王はこれらの問題に気づいており、部下の指揮官たちも懸念を口にしたが、クリタの猛攻を止めたいのなら、スピードこそが重要だったのである。時間は彼の側にないことがわかっていた。成功のチャンスを増やす望みをかけて、ダヴィオンはフェアファクス戦闘地区に後退してから進撃を再開する命令を出した。

 この年の5月、3つの攻撃グループはそれぞれの目標を叩いた……第28アヴァロン装甲機兵隊がシェーダー、第8シルティス機兵連隊がエルバー、第1ダヴィオン近衛隊がカルタゴである。これら3つのケースにおいて、DCMSの反応は残虐なほどに効果的であった。数ヶ月前に航空宇宙優勢を確立し、これら世界の近くに充分な戦闘機と降下船を残していた敵の防衛グループそれぞれは、恒星連邦の船がやってくるのを見て必要な追加の戦艦支援を呼ぶことが可能であり、そのあいだ、地上部隊は塹壕に立て籠もった。

 結果は悲惨なものであった。シェーダーでは、クリタの防衛軍は2隻のローラI級駆逐艦〈ミネカゼ〉〈シオカゼ〉とヴィンセント級コルベット〈カイテン〉を持っていた。第28アヴァロン装甲機兵隊の護衛は、キャラック級輸送船〈リバプール〉とヴィンセント級コルベット〈ロベスピエール〉だった。最初から劣勢だったダヴィオン海軍は、それにも関わらず、進む第28アヴァロン装甲機兵隊を守ろうとしたが、〈ミネカゼ〉と〈シオカゼ〉は簡単に落とせる〈リバプール〉の存在を無視し、〈カイテン〉は高軌道の決闘で〈ロベスピエール〉を拘束した。DCMS戦闘機の集団が〈リバプール〉を痛めつけるあいだ、ダヴィオンの降下船を狙った〈ミネカゼ〉と〈シオカゼ〉はメック輸送船を1隻ずつ切り刻み、最終的に2個中隊分をのぞくすべての惑星降下を妨げた。

 エルバーでは、ドラコ連合には戦艦がなかった――突如としてナルカミ級戦艦〈ツツジ〉と2個DCMS戦闘機中隊が現れ、ダヴィオンの航宙艦が再充電を完了する前に捕らえ、第8シルティス機兵連隊の輸送船すべてを破壊するまでは。罠に飛び込んでしまったと気づいた第8の船は退却した。だが、護衛する戦艦は、降下船すべてをドッキングすることができず、出来る限りの船員、乗員、装備をキャラック級〈ポート・ヴィクトリア〉に移して、ドッキングできない船を放棄し、安全な宙域に戻っていった。

 だが、最悪の失敗はカルタゴで発生した。ドラコ軍は上空でのぞんざいな戦闘をしただけで、第1ダヴィオン近衛隊に惑星降下を許した。軌道上でバロン級駆逐艦2隻だけと交戦した恒星連邦軍(ダヴィオンII級駆逐艦〈デューク・ヘンリー〉と〈エドマンド・ダヴィオン〉に守られていた)は、優勢を保ったと考え、首都宇宙港の外にある谷に連隊全体を降下させた。だが、ジョン国王は罠を疑い始め、メックを出来る限り早く下船させた。5キロメートル離れた舗装エプロンに止まっているのは、クリタの降下船ではなく民間船の船体であった――そして全船が壊れていた。退却命令はすんでのところで間に合った。その場のすべてが核爆発の閃光で満たされたのである。1個中隊近くのメックと1個航空中隊の戦闘機が最初の爆風の中に消えていったが、ジョン国王はどうにか船に乗り込んだ。全強襲部隊に離陸を命じた彼は、宇宙に上がるあいだ、命を狙う二度目の攻撃を切り抜けた……ドラコの戦闘機グループがダヴィオン近衛隊を撃ち落とすためこの地域に押し寄せたのである。そのあいだ、ドラコ連合のコルベットは軌道上の恒星連邦艦と戦うために戻った――ただしこのとき、ダヴィオン海軍は、ナルカミII級駆逐艦〈オモダカ〉(惑星の反対側に潜伏することで見つかるのを避けていた)に側面を突かれていたのである。〈オモダカ〉の到着により、カルタゴからの退却は血塗られた追撃戦となり、クリタのコルベットが大破し、ダヴィオンを逃がすために〈デューク・ヘンリー〉が犠牲になることで終わった。

 ジョン国王は、タスクフォースと共に安全地帯に戻るまでに、失敗した逆襲計画で恒星連邦の戦艦3隻が失われたことを知った。シェーダーで〈リバプール〉と〈ロベスピエール〉、カルタゴで〈デューク・ヘンリー〉である。さらにAFFSはエルバーで航宙艦8隻、降下船12隻を失う一方、3箇所の作戦行動で2個メック連隊近くとその支援部隊を失うか放棄した。この純然たる大災害において、敵側の損失は2隻の駆逐艦と約3個航空中隊相当の戦闘機、1個大隊分のメックと装甲車両のみであった。

 恒星連邦の宣伝工作担当者は、この事件全体を龍の敗北にねじ曲げようとした……クリタは結局のところカルタゴでジョン国王を仕留めるのに失敗し、おまけにフェアファクスの進撃は一握りの惑星を解放しただけだったのである。これにも関わらず、ニュースが広まるに従い、AFFS内の士気は急落した。








ソフトターゲット: 連合=共和国方面戦線 SOFT TARGETS: THE COMBINE-COMMONWEALTH FRONT


シュタイナーの逆襲: ルシエンとディーロン Steiner Strikes Back: Luthien and Dieron

 龍に何らかの懸念を与えるのを望んでいたLCAFは、敵を攻撃するため最精鋭の型破りな2個連隊を解き放った。彼らなら、最大のダメージを与えてやることが出来るはずであった。タマラータイガース、元々はタマラー協定の地域軍として生まれた軽量で高機動のメック連隊が、ルシエンを狙う深襲撃に送られた。その一方、ステルス、元辺境世界共和国の第23軽槍機兵連隊で現在はシュタイナー家に使えるエリートの傭兵打撃連隊が、ドラコ連合の戦争にとって戦略的に重要な世界、ディーロンに送られた。

 タマラータイガースとステルスは双方ともに、最新鋭の装備を持ち、一流の訓練を受けたエリート連隊だったが、それぞれ戦闘に対して異なったアプローチをとり、それが彼らを他に類を見ない存在としていた。軽量級のマシンを装備するタマラータイガースは、ライラの他メック部隊にないレベルのスピードと機動性を好み、高速の一撃離脱攻撃にふさわしい存在となっている。それよりもやや重量のあるステルスは、比較すると、敵の弱点の特定に重きを置き、それから直接に強襲を行う。ステルスの戦術は待ち伏せと突破任務に絶好であり、ひとたび解き放たれたならば、抑えるのは困難である。

 2787年3月、タマラータイガースは、グラハム・ケルスワ大佐(公爵)の指揮下で、ポチョムキン級巡洋艦LCS〈ナイトウィンド〉に護衛され、ドラコ連合の「黒真珠」(ルシエン)に近いパイレーツポイントに到着した。龍の主星の周囲に大規模な海軍があることを予期していた〈ナイトウィンド〉は、攻撃船と戦闘機空母を混ぜた降下船25隻を満載していた。実際に彼らが見たのは、ルシエンの直近を守るナーガ級駆逐艦、DCS〈ブルーロータス〉ただ1隻であり、軌道上の乾ドックに建造途中のナルカミII級があるだけだった。惑星の防衛は2個メック連隊のみだった――インペリアルシティにいたサンツァン軍事養成校候補生隊と、ルシエン・アーマーワークスの主要工場に集まっていた第3ペシュト正規隊である。

 ナイトウィンドと直衛の降下船が、軌道上の乾ドックと、2隻の船を抹殺する一方、タイガースは眼下の重工業世界に降下し、アイチ大陸(両DCMS部隊がいる場所の反対側)の守備が手薄なオブチとスカイタワーシティを荒らし回った。ライラの攻撃軍は長居しなかった……彼らの任務は破壊よりも衝撃に重点を置くストレートな一撃離脱作戦だったのである。それでも、3日間で、ケルスワのタイガースはオブチに近いLAWのメック小工場、スカイタワーの弾薬工場、農工業都市ガリレオの食品生産工場を倒壊させた。援軍が来る前に脱出したタイガースの襲撃は、今後数十年間にわたってドラコ連合が甘受することになる屈辱的敗北の第一歩であった。その後の継承権戦争において、クリタ家は4個メック連隊以上の恒久的な駐屯部隊をルシエンに置くことになる。

 ルシエン襲撃からわずかに一ヶ月後、レイモンド・ヘムステッド大佐とステルス、帯同する重連隊の第14スカイア特戦隊はディーロンにたどり着いた。マーリック前線から引き抜いた戦艦の1個小艦隊に護衛されたタスクフォースは、ただひとつの目的を持っていた……惑星軌道上の一部稼働するSLDF造船所と地上の支援工場群を破壊することである。ルシエンと違って、ドラコ連合の海軍防衛はそれほど貧弱ではなかった。恒星連邦に対しての配備を行っており、スコンディアで戦闘が続行しているのを鑑みると、ディーロンは龍の艦隊にとって特に重要だったのである。ディーロンを守るために、戦艦6隻からなる1個小艦隊とさらに2個の戦闘降下船小艦隊が惑星の近くに漂っており、時間のほとんどを放射性のデブリ(ディーロン外部の月、ネビュロスを取り囲んでいる)の中で隠れるか演習をして過ごしていた。単純にジャンクヤードの名前で知られるこの一帯には、月の引力にとらわれた小さな小惑星いくつかと、アマリス危機の際に破壊された軌道ステーション2基、数隻の船もあった。

 ライラの戦艦グループは、ターカッド級戦闘巡洋艦〈コベントリ〉を中心にし、対艦核ミサイルを搭載した2隻のコモンウェルスII級巡洋艦と、同じく核弾頭を装備する降下船1個小艦隊(戦闘機空母多め)を持っていた。クリタの防衛軍にとっては残念ながら、自艦のうち5隻(エセックス駆逐艦2隻、ローラ2隻、イージス巡洋艦1隻)は、対するシュタイナー海軍よりも遙かに古い骨董品だったのだ。6隻目のサマルカンドII級空母〈ラートシュタット〉は定期メンテナスで乾ドックに入っており、戦闘機部隊の大半がいなかった。

 ライラ軍は素早くしたたかに攻撃し、旧式の駆逐艦群を吹き飛ばし、戦術ミサイルの斉射で巡洋艦〈セレーネ〉の竜骨をへし折った。必死に戦闘に加わり、港で撃たれるのを避けようとした〈ラートシュタット〉は、船員の半数のみを載せ、武装の1/3が非稼働状態のまま係留を引きちぎった。2隻のマコ級コルベットを左右に従える〈コベントリ〉は、空母〈ラートシュタット〉と正面から交戦し、その一方、巡洋艦〈ギャラリー〉〈ヨーク〉が造船所と近くのバスティオン級システムディフェンスプラットフォーム2基(再稼働の作業中だった)にミサイルを向けた。〈ラートシュタット〉はぼろぼろになった〈コベントリ〉に衝角攻撃するという無駄な努力の中で死んだが、ローラ級駆逐艦〈アキコ〉〈マジャ〉が戦闘に加わるだけの時間を稼いだ。この駆逐艦2隻は〈コベントリ〉に深刻なダメージを与え、コルベットの〈アンテミウス〉〈ヘラクレイオス〉を破壊したのだが、〈ギャラリー〉〈ヨーク〉が砲撃任務から戻ってくると劣勢になった。その間、駆逐艦〈ジャレット〉〈ソーヤー〉はイージス級巡洋艦〈アイアンウッド〉の砲火を受け、最終的に大破した。

 クリタの戦艦が屈するまでに、戦闘はネビュロスの月軌道上の近くに移っていた。〈コベントリ〉が酸素・燃料漏れを起こしているという状況において、ライラの海軍指揮官は船を放棄する準備をして、残った戦艦に再集結を求め、よって生き残りを回収することが出来た。次に起きたことは、数世紀経っても不明である。ライラの降下船が大気圏突入するステルスを支援するためディーロンに近づいたとき、戦艦〈ギャラリー〉〈ヨーク〉〈アイアンウッド〉はネビュロス近くで合流した。〈コベントリ〉を含め、その後、全艦が消息を絶った。


そこでなにが起きたのか?

 2787年、ディーロンで勝利を得た直後にシュタイナーの戦艦が行方不明になったことは、数多の歴史家やロステックハンターたちを何世紀にもわたってひるませてきた謎である。継承権戦争期が終わるまで、もっともまともな説は、コムスターによる秘密作戦、探知されなかったクリタ戦艦の第二グループによる奇襲、ジャンクヤードのデブリ内で待ち構えていた核武装のクリタ戦闘機による1〜2個戦闘機中隊による似たような奇襲などである。他の説は、宇宙戦闘が予想よりも遠くなり、コントロール不能となった〈コベントリ〉を救出する際に、損傷を負った共和国の船が何らかの悲劇的な運命をたどったということである。

 知られていることは、作戦後のデブリーフィングで語られた、ビーマー(ディーロンの内側の月)がライラ戦艦と降下船グループの間に位置し、通信を約15分にわたって遮ったということである。この時点から、降下船の大気線突入が始まり、ディーロンの自転が通信不能時間を30分間引き延ばした。これらのことから、シュタイナーの降下船船長と地上指揮官たちは地上強襲が本格的に始まるまで、アラームを発する理由がなかったのである。戦艦戦闘群からの連絡がなく、降下船空母が調査のため派遣されたのは、さらに四時間後のことだった。

 残念ながら、ネビュロスをめぐる放射性のデブリと岩の中に、戦闘艦隊がどうなったかを示す確かな証拠をほとんど見つけられなかった。この時点で回収された確実な証拠は、デブリ帯の中を漂う〈コベントリ〉の脱出ポッドいつくかと、〈ギャラリー〉か〈ヨーク〉の大きな船体の破片が少数であった。曇ってチリに包まれたディーロン外側の月の地表では、視覚的な偵察はほとんど不可能であった。地表を攻撃したアマリス時代の大量破壊兵器が生み出した高濃度の微粒子状金属と放射性降下物の影響である。

 ライラ襲撃部隊が近づいて状況を調査するような時間はほぼなく、第一次継承権戦争が終わるまでこの件は凍結された。だが、防衛活動の中で、彼らはクリタ戦線の背後にある重要な星系への襲撃を行ったのである。調査が月の高高度軌道からの数回の通過スキャン程度になったのは、彼らが有能さに欠けるからではなく、戦術的な用心深さによるものである。

 LCAFの公式記録は、最終的に、戦艦4隻のすべてを「戦闘中行方不明、撃沈と推定」にリストしている。

 ――エリン・プレケ著『継承権戦争の大いなる謎』より、スターグループ・プレス社、3125年



ブロークンブレード作戦 Operation BROKEN BLADE

 これらの屈辱から這い出た、クリタ家による共和国への新たな攻勢が、2787年末近くに行われた。ブロークンブレード作戦の発動である。スコンディア強襲に使ったのと同じ艦隊(修理し、追加の戦艦数隻で戦力強化した)を投入したブロークンブレードは、ヘスペラスIIを叩いた。同行した地上強襲グループは第5、第8〈光の剣〉連隊で、それを支援するのは第18ディーロン正規隊(アルゲディ正規隊)と傭兵の第52重強襲連隊だった。

 だが、ヘスペラスIIの防衛は弱体化していると予想されていたが(ライラ兵はマーリック国境地方に再配置されていた)、ヘスペラスを守るためにシュタイナーがどれだけ本気かは過小評価されていた。実際、星間連盟の崩壊から数日以内に、ライラ国家主席はこの惑星の大規模な要塞化を発注し、ディファイアンス社工場の生産ラインを出来る限り(メック生産を大きく減らさないようにしつつ)地下に移していた。それに加えて、ヘスペラスは共和国地域主星の外から大規模な海軍小艦隊を受け取っており、地上には4個バトルメック連隊がほぼいつでも準備完了していた。

 クリタの攻撃計画は単純なものであった……艦隊の重軌道対地表爆撃の支援を受け、強襲規模の地上襲撃を仕掛ける。その目的はルシエンとディーロンへの攻撃に対する復讐で、シュタイナー家に自分たちも深襲撃に対して脆弱であることを思い起こさせるものであった。だが、ライラ艦隊の戦艦約30隻、強襲降下船50隻、戦闘機空母20隻は、ブロークンブレードをスタートからねじ曲げてしまったのである。

 再び、ヒロシ・ペダーソン大将は、海軍の作戦行動を任されたが、戦艦と降下船の戦力はスコンディアの戦いの半分を上回る程度であった。さらに悪いことに、ダヴィオンの攻勢に対して強襲船、戦闘機が必要になったことで、前の戦いにはあった地上部隊輸送船の護衛能力を欠いてしまったのである。それにも関わらず、ペダーソン大将はスコンディアで成功したのと同じ戦略を試み、戦艦を円錐のくさび形にしてシュタイナーの艦隊を狙うと同時に、降下船を守ろうとした。

 ヘスペラス海軍防衛司令、ルーサー・ワイスコフ提督はペダーソン大将が予想していたよりも遙かに手強い敵であることを証明して見せた。重巡洋艦(ターカッド級戦艦6隻、コモンウェルスII級8隻など)を先頭に、艦隊を横に並べたワイスコフ提督は、予定より早く交戦することを敵に強要し、そのあいだ、高速のマコ級、ヴィンセント級コルベットが機動即応部隊の役割を果たし、敵の小型艦をはねのけるか、少なくともバランスを崩した。さらに、スコンディアでのファン・ハッテン提督の防衛と違って、ワイスコフ提督の大型艦は、ドラコ艦を撃破することに主眼を持ち続けた。この戦術によって、DCMSを兵士たちの大半を惑星に下ろすことが可能になった――のだが、たいてい計画されていた配置地点からはかなり遠くなったのだった。

 クリタ艦隊を宇宙に封じ込めることで、地上の襲撃部隊は軌道爆撃をほとんど使えなくなった。それに加えて、あまりに多くの要塞、固定防衛砲台、主に重・強襲級バトルメックからなる4個連隊が予想を覆して存在した。ドラコ連合の兵士たちは、山がちな地形を何キロメートルも移動せねばならず、工場で見つけたソフトターゲットは予想よりも少なかった――準備万端で待ち構えていたのは、バトルメックのほとんど難攻不落の壁であった。

 第一次ヘスペラスII戦は、シュタイナー家の勝利に終わった。龍が決意を固めて攻撃を加えたにもかかわらず、共和国の王冠にはめられた工業の宝石に最悪のダメージが与えられたのは、いらだつペダーソン大将が残った戦艦の1個小艦隊を軌道上工場に差し向けた時のことだった。惑星首都マリア・エレジーの外、ミョーオー山脈の中で消耗し、疲れ果てたドラコ連合地上軍の指揮官たちは、2788年1月半ば真てに、敗北を受け入れざるを得なかった。撤退命令が出るまでに、DCMSは第18ディーロン正規軍丸ごとと、傭兵支援を失い、その一方、艦隊は稼働する戦艦12隻まで減らされていた。ライラは生き残った降下船を痛めつけ、ドラコ艦隊に血を流させるだけの充分な高速艦を持っていたが、ワイスコフ提督は生存者たちがさらなる損害をほとんど受けることなく退却させた。

 スコンディアとヘスペラスIIの後、クリタ家は共和国国境線での戦闘行動を小規模な襲撃と大隊規模の作戦に制限すると決めた――少なくとも、恒星連邦侵略が続行している間は。次の20年間、連合=共和国方面の前線は、戦艦と連隊の叙事詩的な衝突ではなく、小さい部隊の戦いが特徴となっていった――もっとも、こういった小規模な作戦行動によって、ノックスやジ・エッジなど、守りの薄いシュタイナー惑星が占領される結果になったのだが。








思いがけぬ不意打ち: ブレイクの一手 OUT FROM LEFT FIELD: JEROME BLAKE’S GAMBIT

 中心領域を全面戦争が覆い尽くすと、大王家は崩壊した星間連盟最後の高官の予期せぬ訪問を受けることとなった。ジェローム・ブレイクである。消滅したSLCOMNET(星間連盟通信網)の管理者として、ブレイクは中心領域中の全惑星HPG通信グリッドを再組織し、コムスターと彼が名付けた国際多国籍企業の下に置いた。2787年にライラ共和国から始めたブレイクは、元星間連盟所属国家に慌ただしい外交ツアーを行い、コムスターの主権承認と来たるべき紛争での中立を求めた。

 過去7年間、ステファン・アマリスによって損なわれたネットワークの再建に努めたブレイクは、王家君主たちが戦争を遂行する上で悪用されないことを確実にしたかったのである。個人的にアマリス戦争の恐怖を体験し、継承権戦争が人類宇宙の全体に広まっていくことを確信していた彼は、星間連盟の技術と知識を守るため、コムスターの組織を使う決心をした。おそらく地球の中世ヨーロッパにおけるキリスト教修道院に触発された彼は、HPGを似たような聖域にしようと画策し、来たるべき紛争における中立と引き替えに、大きな政治勢力の介入を拒んだ。

 この取り決めを実現するため、ブレイクは星間連盟の元評議員たちに、2787通信議定書と呼ばれるものを提出した。この協定の概要は、コムスターが中立であること、どのような政治派閥でもすべての勢力がHPGを自由に使えることであった。加えて、繊細な情報の安全と機密保護の誓い、コムスター信用状(国際通貨。恒星間ネットワークの維持と運用の財源に使われる)の発行があった。中立なコムスター(自分でインフラを維持できる)の戦略的、政治的、経済的な価値を理解したジェニファー・シュタイナー国家主席はこの協定を歓迎した――だが、サインするのは他の王家君主たちがそうしてからと約束した。

 大胆さと愚かさを半々にした政治的な策謀の中で、ブレイクは嘘をついた。

 偽の署名入りの文章を作った彼は、すでに他の四王家はサイン済みだと述べた。満足したライラの統治者は条件を受け入れ、(この時点で気づいてなかったが)取り決めに合意した最初の王家君主となった。それからブレイクは、各国の主星でこのプロセスを繰り返した。2788年前半、地球のヒルトンヘッド島に戻るまでに、彼は5つの継承国家すべてからコムスターの中立に関する合法的な支持を勝ち取っていた。

 王家君主たちが全会一致で合意に達するのは、今後数世紀でこれが最後になる。全方面で全面戦争が勃発したからだ。この合意がもたらす広範囲な影響に気づいた者はいなかった。そして、ブレイクの外交が、より野心的な計画の最初の一歩であることに気づいた者はいなかったのである。


地球強奪 SEIZING TERRA

 2788年6月25日の早朝、地球のHPGは沈黙し、直後、コムスターの全宇宙通信ネットワークの送信機も続いた。中心領域の各国は答えを求めたが、コムスターのハイパーパルス管理者たちは相手にせず、ローカルネットワークが落ちたとして不都合を謝罪した。すべてのケースにおいて、管理者たちは継承国家の「消費者」たちに、通信の断絶は一時的なものであり、すぐに復旧すると保証した。

 わずかに72時間後、ネットワークは驚くべき声明と共に復旧した……コムスターは全地球太陽系を奪取し、この人類の故郷であり崩壊した星間連盟の中心地を保護領にするとしたのである。このメッセージには軍事的占領のホロヴィッドが含まれており、以下の点をさらに強調した。たった一撃で、第一君主の称号を得るために全五王家が切望していた報償を獲得し、おまけに全通信の管理と強力な軍隊の恐るべきコンビネーションを指揮するところを見せつけたのである。

 王家君主たちは、ジェローム・ブレイクが地球に残っていた名ばかりの継承国家軍を攻撃したとして、コムスターの行動を非難した。抗議したにもかかわらず、2787通信議定書を破棄するというリスクを冒した王家君主はいなかった。正体不明の軍隊を持ち、たった3日間で完全に恒星間ネットワークを支配したことから、正面から対決しても成功する自信がなかったのである。この時点で継承権戦争が進行中だったので、地球を侵略したり、自国のHPG管理者が問題を解決できるかテストさせたりといった意欲はさらに弱まった。

 その後の数十年間、ジェローム・ブレイクと後継者のコンラッド・トヤマはは、舞台裏で陰謀を企み続け、中心領域にまたがる強力なメガコーポレーションを、野心的で謎めいた目標に邁進する秘密主義の疑似宗教団体に変身させた。


その後 AFTERMATH

 地球を手にしたわずかに5日後、コムスターはもう一つの軍事的攻撃に着手し、元SLDFの司令部が存在する近隣惑星のニューアースを目標とした。事実上、ケレンスキー同行者たちが残した価値あるデータと設備を狙ったこの攻撃は、最小限の損害しか与えなかった。広がる施設群と要塞化倉庫を占領していた地球帝国の残存市民軍は、だいたいにおいて侵略者たちを歓迎し、輸送用に設備を解体するのを助けさえしたのである。積み荷を満載した降下船は、2788年7月11日に出発し、後には空っぽになった建物が残されたのだった。

 注目に値するのは、当初は地球と似たような形でニューアースを征服する計画だったことである。王家にまだ支配されてない地球帝国の世界をすべて占領するシルバーシールドの延長部分である。しかし、ブレイクの外交直後に戦争が始まったことから、このシルバーシールドの「第三フェーズ」は中止された。五王家のすべてが戦争に踏み切ったいま、さらなる軍事的冒険は単純に危険だと判断したブレイクは、即座にコムスターを非侵略的な中立のポジションに戻した。

 それでもシルバーシールドの結果は、コムスターの中心領域における地位を固め、いずれコムガードとなるものの土台を形作ったのだった。他の国々が狙っていた地球を、戦争が始まってから本当にすぐ手に入れたことで、コムスターは王家君主たちが第一君主の称号に説得力を与えるだろう象徴的な報償を入手不可としたのである。

 シルバーシールドの成功と、星間通信の支配者としての役割は、教団(と呼ばれることになる)の数世紀にわたる内密の活動にも役だった。これらの活動――悪名高い隠されし世界、ワード・オブ・ブレイクの聖戦の背後にいた謎めく「マスター」の登場など――は、中心領域に大きな影響を及ぼした。


シルバーシールド作戦

 「元星間連盟のみなさん。私はジェローム・ブレイク、コムスターの主席管理官です。現時点、地球標準時間0900をもって、私の指揮下にある軍事部隊が太陽系の支配権を奪取しました。現在、コムスターが正式に地球と太陽系内に残された元星間連盟施設を管轄しています。この時点から、2787通信議定書に乗っ取り、地球と太陽圏全体をコムスターの保護下にある中立地帯であると宣言します。以前の放送で明らかとしたように、コムスターは人類の故郷をいかなる侵略者からも守り通す充分な軍事部隊を保有しております」

 「我らの目的は平和的なものです。我らは人類の共存と繁栄を求めています。今回の措置は、進行中の戦争の中で人命を救うため実行に移されたものです。太陽系と我らの中立が尊重される限り、コムスターはすべての加盟国に対し、通信を提供し続けるものです」

 ――ジェローム・ブレイク、2788年6月28日

 ジェローム・ブレイクの宣言は、シルバーシールド作戦と名付けられた3日間の電撃戦の後に行われた。ケレンスキーが残した8個のSLDF師団、ジェローム・ブレイクのコムスターに仕えると誓約した者たちが、「警備のために」雇われた傭兵部隊に偽装して地球に到着した。このローレン・ヘイズの指揮下にあった師団のほとんどが、地球に残された宇宙防衛システムの基地を狙い、素早く占拠した。ここにいたのは、王家君主たちが残していった中隊規模のまばらな警備兵たちだった。これらの部隊は即座に倒された――場合によっては、血が流されることもなく。ベルリン市の近くに駐屯していたダヴィオン部隊は、最も有名な例外となり、ヘイズの攻撃を5時間持ちこたえた。

 地球でヘイズの地上攻撃が続くなか、二番目の戦闘グループが重航空宇宙支援を受けて、太陽系内の各地を確保していった――火星、金星に加え、月、小惑星帯、木星、土星の居留地などだ。例外なく、これら地球外の拠点・居住区は、ちょっとした舌戦と緊張した交渉の後で、コムスターの支配を認めた。地球で数々の外交、経済的提案を行い、アマリス後の再建において目に見える活動をしたブレイクの代理人たちは、すぐに太陽系中の民間政府、行政部門の支持を得た

 実際のところ、シルバーシールドに対する最大の抵抗は、南アフリカ大陸アマゾニア地区での2個SLDF機械化歩兵師団(第71、第123)によるものだった。ヘイズがSLDF難民としての連帯をアピールしてもなお、コムスターの権威を認めなかった2個師団は、故郷と呼ぶアマゾンの熱帯雨林で連続した戦いを仕掛けた。彼らの抵抗により、ヘイズが最初に送った小規模な戦闘グループは大きな損害を被った。2788年6月28日の未明、第13親衛歩兵師団と第251バトルメック師団が、マナウス市の要塞を包囲し、攻略した。

 すべてのケースにおいて、ヘイズの戦闘グループに抵抗し、捕虜となるか、降伏した者たちは、コムスターの臨時収容所の「ゲスト」となり、基地・軍事装備が没収されるか破壊されるあいだ、ごく短時間だけ収容された。あとに彼らは、完全な恩赦と地球での市民権が与えられるか、あるいはそれぞれが選んだ継承国家に追放された。この寛大な処置は、コムスターが強力であるのと同時にフェアで開明的というのを強調するように考えられたものだった。









サーナへの道: 同盟=大連邦国方面戦線 A PATH TO SARNA: THE LEAGUE-CONFEDERATION FRONT

 地球帝国のかなりの部分が自由世界同盟の支配下に入り、ライラ共和国が自由世界同盟の襲撃とクリタ家の侵略(とされる)で手一杯になると、ケニオン・マーリックは注意をカペラ大連邦国に向けた。2787年2月、マーリック国民軍の10個メック連隊と、その4倍近い通常部隊、気圏戦闘機部隊に命令が下された。「サーナまで10パーセクの幅を持つルートを作れ」

 サーナは、カペラ大連邦国サーナ共和区の主星であるのに加えて、テンゴ・エアロスペース(戦闘機から降下船まで幅広くCCAFに供給している最先端の製造業者)、サーナ軍事養成校、小規模な機動艦隊基地が存在した。同盟国境からサーナの間には、カーボリス、コーリー、ワザンをはじめとするいくつかの価値ある目標があった。さらに重要なのは、サーナを奪い取れば、大連邦国の1/3近く――歴史的に重要な惑星リャオ含む――をシーアンの中央司令部から切り離すであろうくさびを打ち込めるということである。さらには、別の地域主星であり工業の中心地、カペラが同盟の射程距離内に入るのである。

 複合効果によって、カペラの士気は完全に崩壊し、戦略的にカペラは足腰立たなくなると、ケニオン・マーリックは信じていた。彼の個人的な読みでは、バーバラ・リャオ首相(ケレンスキーを免職にしたことを後悔している数少ない人物)は、そのような緊張状態に置かれたら気力をくじかれるはずだった。大連邦国がすぐにも降伏すれば(特にシーアン攻略が長引くことも被害が大きくなることもなければ)、ケニオン・マーリックはわずか数年のうちに片方の前線を安全にすることが出来るだろう。


コーリーとワザン Corey and Wazan

 2787年7月、戦役の第三波は、チャムド、コーリー、ファクト、ワザンを目標とした。チャムドとファクトの星系では、到着した自由世界同盟軍(それぞれ戦闘で摩耗した2個メック連隊含む)は、3隻の戦艦に護衛されていた――この進撃を止めることはまったくできなかった。パニックになり、地元民の保安部隊に逃げられた地元政府は、侵略者に対して降伏し、慈悲を求めて絶望的な交渉をするしかなかった。

 対称的に、コーリーとワザンに到着した攻撃軍は、敵の小規模な海軍を見つけた。大連邦国の降下船と戦闘機は到着した自由世界同盟軍に立ち向かったが、これらの機体の大半はマーリックの優勢な火力に直面すると素早く退却した。

 コーリーに上陸した第19、第20マーリック国民軍は当初抵抗を受けなかったが、守る第10大連邦国予備機兵隊(元SLDF第202機械化歩兵師団のキンケイド特戦隊の名でも知られる)が首都ヴァラーシャ近郊の宇宙港で待ち構えていることにすぐ気がついた。第10大連邦国予備機兵隊を支援するのは、歩兵の増援を受けたカタパルト(ヴァラーシャのダウンタウンにあるホリス・インコーポレーテッド本社近くの工場で生産された)の1個メック大隊未満だった。宇宙港を巡る短い戦闘が勃発したが、CCAF兵は素早く都市の中へと後退していった。罠を疑った第19国民軍の指揮官、ソロモン・ゲインズ大佐は、地上部隊を送り込む前に、綿密な航空偵察を行った。

 頭上偵察が都市の中心部に集中していたカタパルトからの激しいミサイル砲撃に晒された後、ゲインズ大佐は直ちにこの陣地への軌道対地砲撃を要求した。数分後、ヴァラーシャの商業地区は生きる者のない燃えさかるクレーターへと姿を変えていた。同盟のメックがようやく都市へと入ると、生き残ったキンケイド特戦隊は熱意あふれるものの弱々しい抵抗を実施した。ヴァラーシャとコーリーはわずか1日後に陥落したが、ゲインズ大佐と第19国民軍の同僚、ヴィットカ・ラモーン大佐はすぐに懸念を示すようになった。作戦報告と復旧作業によると、第10大連邦国予備機兵隊のメックの多くが、一週間かけてがれきをさらった後でさえも、行方不明になっていたのである。

 ワザンでは、第22、第37マーリック国民軍が似たようなシナリオに直面していた。コーリーの戦いと同じように、カペラは敵が上陸した際に挑戦しなかった。侵略者たちは惑星首都ルーマラでまともな抵抗に遭遇しなかった……地元の治安部隊、市民軍グループとの短い衝突の直後に主宇宙港と都市自体が陥落した。

 その後、工業都市アスワートダの近くで敵のメックが確認された。偵察部隊が送られ、第8リャオ槍機兵団の分隊に直面した――同盟の諜報部がオールドケンタッキーにいると予想していた連隊であった。コーリーの第10CRCと同じように、リャオの戦士たちはぞんざいな戦闘の後で直ちに後退した。同盟の先任士官、ダフナ・ハルブライト大佐(第22マーリック国民軍)は罠を疑って、都市と周辺の上空で何度かの航空偵察を行い、部下たちの行く手に何が待ち構えているかを判断しようとした。

 高高度の上空飛行で地対空砲火はなかったが、何カ所かにカペラのバトルメック小隊がいて、戦車が重要な交差点を固めているのを容易に見ることが出来た。さらに、建物のいくつかに熱源が探知され、メックが待ち構えているのは間違いなかった。そして、通りに民間の往来はなかった。これは市街地防衛においてまずまず「理想的」な配置であった――圧倒的な敵と戦う部隊にとって理にかなうものだった――その一方でハルブライト大佐はどこか誘われているように感じた。さらに、彼女は強化された陣地に対処するのも、通りから通りの戦闘を行うのも、気が進まなかった。この都市はサーナ戦役の壮大な構想の中でほんの小さな戦略的価値しかなかったのである。

 〈戦い〉の時代にまで遡り、カペラのデストラップ戦術の実例を思い起こしたハルブライト大佐は決断を固め、両マーリック連隊に対して都市の外に陣取り、主要道路を大隊規模の戦力でカバーするよう命令を下した。彼女はそれからさらなる上空飛行を開始した――このとき戦闘機はナパーム弾頭を満載しており、それを激しい砲撃が支援した。アスワートダの火炎爆撃は、事前通告も降伏勧告もなしに行われた……同盟の指揮官たちは、攻撃の前に手の内を晒したくなかったのである。第8リャオ槍機兵団のメックと車両はキルゾーン(苦労して潜った陣地)から急いで逃げ出し、その多くが待ち構えていたマーリック国民軍の銃口の前に突っ込んでしまった。しかし、ワザン陥落と同じくらいに劇的であったが、ハルブライト大佐と下級指揮官たちはあまりにたやすく話が進んだことに懸念を示したのである。

 同盟がコーリーとワザンの攻略を完了してからわずかに3週間後、先の攻勢で獲得した世界のあちこちで反乱軍の攻撃の嵐が始まった。これらのうち多くが、小規模な暴動、地元の休日にあわせた日和見主義的な活動、地域指導者とオリエント公国から送られた守備隊に他する抗議運動だった。他にはカペラの軍事襲撃部隊に支援されたものがあった――第9リャオ槍機兵団はラーメンIIとバヌラの両方を叩いて、第10オリエント軽機兵隊、第1オルロフ擲弾兵隊それぞれに対する反乱軍の活動を助けた。だが、最も面倒な抵抗は、コーリーとワザンで発生した。戦闘の中心にあったのは、当初推定されていた惑星防衛部隊の1/2〜1/3程度だった。

 チャムドとファクトは依然として平穏極まりなかったので、侵攻軍の指揮官たちは2787年9月までにコーリーとワザンの抵抗を鎮圧する支援を求めた。チャムドから第40マーリック国民軍がワザンを支援するために移動し、ファクトから第3マーリック国民軍がコーリーを戦力増強するために移動した。これにより、起きうるカペラのゲリラ(次の侵攻波で危険をもたらすかもしれないもの)の対処と監視を続けるため1個メック連隊とその支援部隊だけが残された。11月後半までに、コーリーとワザンの援軍は大規模な抵抗セルを鎮圧し、第10CRCと第8リャオ槍機兵団を事実上撃破した。1ヵ月後、第4オリエント機兵連隊がコーリーに、第7オリエント軽機兵隊がワザンに到着し、次の侵攻波でマーリック国民軍を解放するに足る充分な支援を提供した。

 そしてリャオ家が罠を発動させた。

 マーリック国民軍の降下船が待機中の航宙艦に向かうわずか数日前、カペラの戦艦小艦隊が突如として両星系の主ジャンプポイントに姿を現し、すぐに自由世界同盟の輸送船をすべて破壊するか拿捕した。惑星の軌道上にいたマーリックの戦艦は、輸送船からカペラの戦闘群に圧倒されているとの混乱する警報を受けると、星系内ジャンプを使って急行した。

 コーリーの宇宙戦において、アトレウス級戦艦〈アグリッパ〉、リーグII級駆逐艦〈オラン〉〈オクリ〉、ヴィジラント級コルベット〈サムハイン〉は、コングレス級フリゲート〈テンチン〉率いるエセックス級駆逐艦4隻とヴィンセント級コルベット2隻の戦闘群の手で壊滅した。ワザン上空の戦いも同じく決定的であり、自由世界同盟の戦艦〈ラグーザ〉、ローラ級駆逐艦〈ミンスク〉〈ワルシャワ〉が、ブラックライオン級戦闘巡洋艦〈ズルフィカール〉率いるエセックス級駆逐艦2隻、ローラIII級駆逐艦2隻の犠牲となった。それぞれの交戦におけるカペラ大連邦国側の損失は比較的軽微なものだった。コーリーで駆逐艦〈アイディ〉とコルベット〈ヴラディスラフ〉が失われ、ワザンで駆逐艦〈カルザン〉が航行不能になって自沈処分となった。

 両星系でいまだ同盟が惑星を支配していたものの、リャオ家はマーリックの6個メック連隊を足止めし、侵略の先陣に立つ戦力の大半を封鎖したのだった。これらの連隊は、ほとんど確実なカペラの逆襲に備えて立て籠もり、FWLM最高司令部に海軍支援の増援と指示を求めた。

 マーリック家の部隊は知らなかったが、大連邦国の諜報部、マスキロフカはすでに暗号をクラックしていたのだった。


賭け金積み増し: リャオの対応 RAISING THE ANTE: LIAO’S RESPONSE

 マーリック国民軍の数個連隊がカペラ大連邦国を攻撃しているとの第一報が届くと、バーバラ・リャオ首相は驚き、怒り狂った。ライラのボラン侵攻のニュースと、ダヴィオン軍が国境上に集結しつつあるとの諜報報告の間で、リャオ首相は自由世界同盟でなく恒星連邦が大連邦国に最初の攻撃を与えると信じていた。

 レディ・バーバラは、敵に圧倒されるだろうと戦略局が指定した世界に急いで予備戦力を送ることはなく、時を待った。逆襲に移る前に、国中から兵士、艦船、物資をシーアンに集めたのである。リャオ首相が望んでいたのは、自由世界同盟がもう二度と大連邦国を攻撃するなどと考えないように痛烈な報復を行うことだった。一方、カペラの守備部隊はマーリック侵攻軍の進撃路に残され、できるだけの力で、できるだけ長く、戦線を保つように命令された。

 2788年2月下旬、シーアンに集められた大軍は、100隻以上の戦艦と戦闘降下船、12個気圏戦闘機連隊、CCAFの中で最も狂信的な10個部隊から集められた臨時編成の8個メック連隊であった。リャオ首相が直々にこの軍隊の視察を行い、全体をジャセン・デヴリン大佐の指揮下に置いた。彼がイニシアティブをとって、戦役の計画と組織を行ったことから、このタスクフォースにはデヴリンの名がつけられることになった。報復を実行する指揮官たちを集めて、リャオ首相は前進命令を出した。その最後の言葉は、大連邦国の決意を強調し、来たるべき第一次継承権戦争でなされるであろうことを明示するものになった。

 「指揮官どもよ、現時点からアレス条約は停止したものと考えてよい。そのように行動することを妾は望む」


ニューデロスの虐殺 The New Delos Massacre

 2788年4月、タスクフォース・デヴリンがニューデロス星系の外縁部に実体化した。マスキロフカが入手したマーリック家のコードを使ったこの分艦隊は、FWLMの極秘補給船団として地元のセンサーネットに登録した。大規模な艦隊だったにもかかわらず、現地の指揮官たちは直ちに警戒信号を出すことがなかった……ニューデロスはサーナへの侵攻における展開地点として戦略的な場所であり、同盟が得た新領土への物資流入は奇妙でも何でもなかったのである。全艦隊が惑星に向けて移動すると、センサーネットの油断はすぐにかき消された。

 カペラのニューデロス攻撃は完璧なタイミングで行われた。ここに配置されていた防衛用の海軍戦力(ソーヤル級巡洋艦〈クンバ〉〈ミスナ〉、同盟で唯一のサマルカンド級空母〈クロノス〉など)は、すでに前方に移されていた。その理由は、今回の攻勢ですでに占領された世界の平定を助けるため、そしてコーリー、ワザンの包囲を突破する追加の軍艦を待つための両方であった。こうして、ニューデロスの軌道防衛は気圏戦闘機の軽部隊のみとなり、地上には最近になって招集された第9オルロフ擲弾兵隊という形で1個予備メック連隊と少しがある程度だった。地元の市民軍でさえも、貧血状態にあった……装甲・歩兵大隊の大半が第36マーリック国民軍につけられ、現在は第1オルロフと共にヴァンラにいた。

 危機に立たされた同盟の地上部隊指揮官たちは状況を最高司令部に報告する一方、同時にわずかな気圏戦闘機中隊群を差し迫った強襲に対して展開した。くわえて、カペラ軍がサーナ侵攻の兵站線を断ちに来たものと仮定して、第9オルロフ擲弾兵隊は惑星中の主な軍事基地・補給庫に分散した。防衛部隊は迫りつつある大軍にかなうチャンスはないと知っていた……彼らの役割は、単純に外部からの援軍があるまで敵を束縛することにあった。

 復讐を第一にしたリャオの航空宇宙部隊は、軌道上の取るに足りない敵を迅速かつ残忍に蹂躙してのけ、1時間以下の戦闘で宇宙優勢を確保した。デヴリン大佐はヌエバ・ハバナ(ミンダナオ大陸にある惑星首都)の外周に上陸するよう降下船の大多数に命令した。兵士たちが下船し、包囲を狭めると、デヴリンは都市と惑星政府に対し、最後通牒を突きつけた……日没(わずか8時間後)までに、軍も政府もリャオ家に降伏するか、さもなくば同盟による大連邦国への言われなき攻撃の責任を取るかである。

 期限が迫る前に、デヴリン大佐は地上部隊に進撃命令を出す一方で、戦闘機に都市上空を飛び回らせた。近くの宇宙港では、エプロンにあった宇宙輸送船が商用・軍用の区別なく機銃掃射と爆撃によってすぐに破壊された。首都それ自体には最小限の警備しかなかったことから、防衛部隊の妨害作戦はかろうじて侵略者の足を緩めるにとどまった。日暮れまでに、大連邦国はニューデロスの首都を占領し、地元政府とのあらゆる通信を無視した。都市内への爆撃が始まると、リャオ家は惑星の降伏を受け入れる意図がないことが明らかとなった。

 ニューデロスの虐殺が始まったのである。

 次の三日間で、ストライクフォース・デヴリンは、主に軍事目標ではなく民間・工業・商業を狙った空爆・地上強襲を数度見舞った。攻撃が行われるたび、貧弱な防衛部隊は虐殺を止めるべく、小規模なメック部隊を派遣せざるを得なかった――この即応部隊はそれぞれ姿を現すと同時に殲滅された。ミンダナオの人口密集地帯にある都市と町のいくつかが炎上した後でようやく、カペラの目標は軍事基地と補給庫に向かい、軽戦闘機による超高速航空中隊が焼夷弾と通常弾頭でこれらを倒壊させた。

 カペラの電撃戦により、第9オルロフ擲弾兵隊のメック90パーセント以上が破壊され、残りは鹵獲された。シエンフエゴスとキトの軍事作戦センターは炎上し、ユカタンの補給庫はサウス・エンジェルス近くの修理施設と共に倒壊した。一方のカペラ軍は、この作戦の全体において、バトルメック17機、気圏戦闘機26機、通常歩兵1個大隊程度を失っただけだった。

 だが、最悪の損害は民衆に、とりわけヌエバ・ハバナ内外に与えられたものだった。市民の多くはどうにか緊急シェルターにたどり着いたが、最終的な民間人の死者数は2万人を越え、その十倍以上が負傷した。首都が復興することはなく、地元政府を移転せざるを得なかった。ニューデロスのインフラが破壊されたことで、その後数ヶ月に渡って、この地方の軍事・商業の通信、兵站網は妨害されることになる。


フォールアウト Fallout

 大連邦国にとっては残念なことに、ニューデロスへの圧倒的な強襲と、無慈悲は破壊と死は、望んでいたのと正反対の効果をもたらした。自由世界同盟はひるんでカペラ宙域から退却するようなことはなく、コーリーとワザンの行き詰まりを打破するため、虐殺に出来る限り復讐するのを意図して同じくらい野蛮な報復を行った。

 2788年の残り、自由世界同盟は小規模な戦闘機の多い海軍攻撃グループを送り込み、カペラの世界を核ミサイル・サーモバリックミサイルで爆撃した。2788年7月、最初の攻撃でインガーソルは壊滅した……空母〈クロノス〉率いるマーリック小艦隊が、惑星で最大の10都市を火炎爆撃したのである。攻撃された都市の大半が商業的なリゾート、観光地であり、大きな島の豪華なビーチの前に所在していた。

 翌月、ニューカントンへの攻撃が行われた。参加したのは、2隻のキャラック級輸送艦(空母改造型)などからなる戦闘群で、アトレウス級戦艦〈カナタ〉〈マジェスティック〉、リーグ級駆逐艦〈アンドリア〉〈アヴェリーノ〉の護衛を受けていた。またも、この航空宇宙作戦は、地元の防衛部隊が反応する前に、都市と工業地区を炎上させた。

 9月にはアウトリーチ、11月にはホールで同じことが繰り返された。それぞれの攻撃は、軍事基地と補給庫に相当な損害を与えたが、大連邦国の戦争遂行能力に意味があったのはインガーソルの地上降下船造船所とアウトリーチの物資集積所だけだった。

 火炎爆撃と侵略による民間の被害はニューデロスを遙かに上回るものだったが、第一次継承権戦争の記録においてはほんの脚注に過ぎなかった。


キャロウェイの大敗 Debacle at Calloway

 マーリックの逆襲が進むに従い、カペラ大連邦国はアンチスピンワード国境を強化するため、さらなる船と兵士を持ってこざるを得なかった。サーナへの進撃が戦闘の大半を占めていたことから、戦力の大半はコアワードに向かっていた……カペラ、サーナ、チコノフ共和区。

 封鎖部隊に艦が追加されたコーリーとワザンでは、バーバラ首相が究極的な手段を使う明白な許可を出していたにも関わらず、まだ惑星に圧倒的な火力が向けられていなかった。実際、自己防衛のために絶対に重要でない限り、軌道爆撃を控えるようこれらの艦隊は命じられていた。リャオ家は完全な形でこれらの世界を取り戻すことを欲しており、敵の連隊群をここに封じ込めている限りは同盟に対して有利になるとみていた。

 だが、もちろんのこと、マーリックの交戦意思を打ち砕くのが第一だった。ニューデロスの後にも爆撃を行っていたにもかかわらず、リャオ首相はさらに一度、「デヴリン・ソリューション」の候補を探していた。

 2788年末までに、適当な目標が選ばれた……鉱業、貿易の世界であるキャロウェイIVだった。リャオが望んでいたのは、同盟に経済的ダメージを与えるのに加えて、オリエント公国の主星に危険なほど近い星系を破壊することで、マーリックの中央と口うるさい所属国の間にくさびを打つことだった。マスキロフカは攻撃に沿って適切なプロパガンダを計画していた。マーリック家がカペラ征服の名の下に、オリエント地方の防衛を弱め、ニューデロスのように危険な逆襲を受けやすくなり、オリエント自体は取り残され、見捨てられるということを明白に示唆するものであった。

 大胆と言うより無謀な決断として、バーバラ・リャオ首相自身はこの攻撃に同行することを選び、自慢の紅色槍機兵団の先頭に立った。加えてアレス・タイタンズ連隊もまた作戦に参加した。このふたつの部隊には、リャオ首相の息子が二人とも大隊レベルの指揮官として加わった。この決断について、レディ・バーバラのアドバイザーたちは本気で警告したが、主君を動かすことはできなかった。2789年2月までに、タスクフォース・デヴリンはプロパスで再編を終え、ここでキャロウェイVIに向かう残りの地上部隊と合流した。

 2789年3月、タスクフォース・デヴリンの各艦はキャロウェイ星系に跳躍した。ニューデロスでの攻撃とは違って、カペラには入手したコードはなかった。キャロウェイIVとVのあいだにあるパイレーツポイントを通っての攻撃が検討されたが、密度の高い太陽系の中のジャンプポイントは瞬間的なものであることから、タスクフォース・デヴリンのような規模の戦闘部隊にとってはあまりに危険な選択肢であった。従って、全艦隊が惑星の天頂点のウェイステーションに実体化した。

 カペラの計画には、あるひとつの要素が考慮に入れられてなかった……デヴリン麾下の大佐の一人が、ニューデロスへの攻撃と、その後のマーリックの火炎爆撃でカペラの人命が失われたことに罪悪感を感じており、黙って銃口を味方に向けたのである。計画された襲撃に先立って、プロパスにいる自由世界同盟のスパイに警告したこの裏切り者は、作戦の運命を定め、リャオ家自体の運命もまた定めかけていた。

 キャロウェイの天頂点ウェイステーションには、アトレウス級戦艦2隻とリーグII級駆逐艦4隻からなる第1オリエント地方戦隊が待ち構えていた。この海軍戦力に加え、地上の防衛部隊(第1オリエント機兵連隊、第3オリエント軽機兵隊、第8オリエント軽機兵隊、スチュアート竜機兵団のヘルム胸甲機兵連隊など)には、攻撃降下船と気圏戦闘機大隊群のグループが配備されていた。特別な即応部隊がオリエントで結成される前に、これらの戦力ほぼすべてがキャロウェイIVに派遣済みであった。

 翻ってオリエントでは、同盟の第3艦隊の半数が警戒状態にあり、プロパスのマーリック家情報工作員がカペラの戦力結集に気づいて以降、ホルトに似たような規模の海軍グループが置かれていた。情報がカペラの陽動であった場合に備え、保険としてこれら星系にいた各艦隊は、近くの星系からの緊急要請を待っており、3時間以内に30光年以内の世界にジャンプすることが可能であった。

 タスクフォース・デヴリンがキャロウェイに到着したとき、オリエントの海軍戦隊はカペラのジャンプパルスに素早く反応した。侵略者がやってきたとキャロウェイの防衛部隊に警告した彼らは、地上部隊と軌道防衛の用意を確実にする一方で、話がオリエントまで伝わって、攻撃が実行中と事実確認できるようにしたのである。

 デヴリンのタスクフォースに対してひどく数的劣勢だったにもかかわらず、マーリックの戦隊は敵の真ん中にまっすぐ突っ込み、最大限の効果で輸送航宙艦に集中した。そこまで素早い反応があると思ってもみなかったデヴリンの戦艦は、輸送航宙艦を守るのが遅くなった。積んでいた降下船を発進しさえする前に、何隻かは命中弾を受けたのである。第1オリエントの艦艇は、カペラの戦艦・攻撃船艇にやられる前に出来る限り空母降下船とメック輸送船を無力化すべく、危険など意に介せずカペラの降下船に砲火を集中させた。

 タスクフォースの戦艦は、この戦闘でほとんどダメージを受けなかったが、艦隊の輸送船と地上部隊に関してはそう言えなかった。オリエントの船をすべて仕留めるまでに、カペラの非戦闘型航宙艦の1/4が破壊され、CCAFの気圏戦闘機とメックのそれぞれ1個連隊以上が失われたのである。この戦闘で、オーバーロード級降下船が大破した際に、首相の末息子であるバーナバス・リャオが負傷した。

 指揮官たちは後退を促したが、リャオ首相はデヴリンに対して侵攻の続行を命じた。2週間かけて天頂点から惑星に移動したが、軌道上まで12時間のところで、カペラは敵の強襲艇と空母降下船の大群が待ち構えているのを探知した。両者が邂逅すると、マーリック戦闘機の群れが、カペラの高速で軽量な戦闘機と交戦した。軌道優勢をかけた戦いは2日にわたって続き、大連邦国の輸送降下船7隻と、2個連隊分近い戦闘機が、撃ち落とされるか行動不能となった。

 キャロウェイVIの地上戦において、タスクフォース・デヴリンの残ったメック部隊(いまや5個連隊を越える程度)に立ち向かったのは、ほぼ同数の自由世界同盟部隊だった。加えて、事前に警告を受けていたマーリック軍は、2週間をかけて陣地を強化し、罠を設置し、民間人を惑星で最大の人口密集地帯から退避させていた。

 だが、この戦役にとって最も重要な要素はカペラの指導者から出された。軌道上の司令本部から戦いの様子を監視するのを拒否したバーバラ・リャオ首相は、自ら戦場に打って出ると言い出したのである。地上指揮官たちは、首相の安全を図るため、紅色槍機兵団が戦場に出るたび貴重な予備を使うこととなった。一度ならず、敵軍が戦線を突破してきた時に、大連邦国はレディ・バーバラを安全なところまで案内せざるを得なかったことがあった。それだけの戦力があれば、同盟の攻撃を鈍らせることができたのである。

 キャロウェイVIの地表での10日後に渡る決定的でない消耗の後、地上部隊と戦闘機の大多数が失われたことから、リャオ首相はついに負けたことに気がついた。リャオ首相の撤退を援護するのに、エリートの紅色槍機兵団のうち1/3しか生き残らなかった一方、アレス・タイタンズは後退の際に全体がマーリックの砲火の前に倒れた。損失の中には、バーナバス・リャオ少佐がいた。バーナバス・リャオ少佐のオストソルは、同盟のオリオン小隊と戦う中で、致命的な核融合炉の損傷を引き起こしたのである。

 キャロウェイVIから退却するだけでも、リャオ家にとっては災厄であると判明した……艦隊はそこに輸送航宙艦がもういないことにすぐ気づいたのである。リャオ首相が惑星へ向けて進撃すると運命的な決断を下してから1週間以内に、オリエントから来たマーリック戦艦の大規模なグループが天頂点ウェイステーションに実体化した。戦艦の多くが停泊しているリャオ航宙艦の近くに姿を現し、ハイパーパルスの余波が消えた瞬間に撃ち始め、航宙艦がSOSを発信するその前に、数隻を消し飛ばした。航宙艦を守るために残されていた少数の戦艦と攻撃船艇もまた同じく破壊され、彼らが放った警告は、敵のECMと到着した際の電磁パルスによって妨害されたのだった。カペラの航宙艦小艦隊のうち、2隻だけがどうにか虐殺を逃れるのに成功し、大連邦国宙域へとジャンプで戻っていった。

 従って、惑星から逃げ出して来たカペラの艦船は、「ニューデロスの人殺しども」を始末したがっていたマーリック戦艦の中にまっすぐ突っ込むこととなったのである。

 旗艦ドゥ・シ・ワン級〈サンダーマン・リャオ〉の艦橋で、デヴリン大佐は敗北が差し迫っていることを認識した。だが、リャオ首相の命が消えるか否かの瀬戸際において、彼はいずれにしても交戦することを選び、レディ・バーバラと生き残った後継者がマーリック家の戦線を突破して安全を確保するための時間を稼ぐことに望みをつないだ。首相を守るために6隻の戦艦を派遣した後、デヴリンは残った戦闘艦を臨時の「後衛」に当てた。彼らの任務は、敵と正面から交戦することであった。

 デヴリンにとっては名誉なことに、高速で突っ込むという手はだいたいにおいて成功した――だが、すさまじい損害を出した。宇宙での戦闘が終わるまでに、リャオ首相の乗艦は安全なところに飛び去り、タスクフォース・デヴリンは消滅していた。キャロウェイにやってきた戦艦30隻、攻撃降下船50隻、輸送降下船56隻のうち、戦艦12隻、攻撃降下船6隻、メック輸送船5隻、戦闘機空母3隻のみが離脱するのになんとか成功して、再結集の後でキャロウェイ星系からジャンプアウトした。さらに、デヴリンの気圏戦闘機は、ほぼ全機が失われていた。作戦に加わったメック7個連隊(紅色槍機兵団、アレス・タイタンズ、第1、第2シーアン竜機兵団、第4カペラチャージャーズ、第3予備騎兵隊、第5リャオ槍機兵団)のうち、紅色槍機兵団、第3予備騎兵隊、第5リャオ槍機兵団だけが何らかの戦力を持った形で生き残った。

 この大敗全体の中で、最も深刻なカペラの損失は、首相の息子二人だった。キャロウェイVIでバーナバス・リャオが死去したのに加え、バルタザール・リャオが宇宙戦で戦死したのである……乗艦していたエセックス級駆逐艦〈カルズレーニュ〉が、イージス級巡洋艦〈プレイアデス〉に撃沈されたのである。

 マーリック家の側は、キャロウェイの戦闘で戦艦12隻、強襲降下船24隻、約2個連隊分の戦闘機を代償とした。残った大型艦のすべてが深刻な損害を負っていたが、カペラが残していった船の残骸を回収することで損害のいくらかを補填することになった。

 [編集者注:タスクフォース・デヴリンの中にいた裏切り者は誰なのか、場合によっては本当に裏切り者が存在したのかは、何世紀にもわたって論争の種となっている。カペラの歴史書の多くでは、サン=ツー・リャオの治世まで変節者について触れられることがなかった(コムスターの歴史家が書いたものでさえも)。一方で、自由世界同盟の歴史家たちは、SAFE情報局によってすべて操られた反乱であるという可能性を描くのがいつものことであった。今日に至っても、この件について議論が交わされている]


失地 LOSING GROUND

 2789年の年末までに、リャオとマーリックの間の戦争は明らかに個人的なものとなっていた。大連邦国はコーリーとワザンを封鎖することで「サーナへの道」沿いの侵攻を遅らせていたが、ニューデロスからキャロウェイまで残虐行為がエスカレートしたことで国境線沿いの戦闘は広いエリアに拡散していた。

 キャロウェイでの屈辱的な敗北で、大連邦国は最も献身的な戦士たち数個連隊分と戦闘艦の大部分を犠牲としたのみならず、首相自身が墓穴を掘っていた。戦闘で息子二人が失われたのに伴い、次の玉座はバーバラ・リャオの孫娘にあたるイルザに受け継がれることとなった。イルザ・リャオはキャロウェイの大敗の時点で若干6歳であった。「デヴリン・ソリューション」が惨めに失敗したという事実は、彼女の指導力に疑問符をつけるものであり、士気の問題がカペラの将兵の間に素早く広まっていった。

 一方の、自由世界同盟は流れに乗っていた。コーリーとワザンを包囲で、カペラ海軍はよそにあった艦を持ってくることを余儀なくされ、同盟は残ったカペラ艦を追い払うか撃沈して、両世界の支配を固めることが出来たのである。同盟軍は次にカーボニス、オーレンセン侵攻に成功した……オーレンセンでは第10アトリアン竜機兵団と第3オルロフ擲弾兵隊が新たに結成された第12チコノフ槍機兵団を殲滅する一方、カーボニスでは第1、第2オリエント軽機兵隊が(第4オルロフ擲弾兵隊の支援を受けて)第9リャオ槍機兵団を撃破し、オルウェイズ・フェイスフル傭兵団の1個連隊を殲滅した。

 噂によると、いくらでもリャオの惑星を奪えると過信していたケニオン・マーリックは、大連邦国の地図にダーツを投げて次の目標を決めていたという。実際のところは、単にサーナから戦略を移して、カペラを窮地に追い詰めただけだった。

 キャロウェイの戦いから二ヶ月後、個人的に手紙を出してレディ・バーバラを嘲った彼は、アンドゥリエン星系の奪還の意思があることを宣言した。ケニオンの予想通り、リャオ首相と戦略局はこの警告を無視することを選んだ。サーナ共和区を切り裂くため、極めて損失の大きい決定的な戦役に2年間を費やした後、マーリックが考えを改めて、国境のリムワード半分に目標を変えるというのは、滑稽に見えた。マーリック総帥は彼らが完全に間違っていたことを証明した。

 アンドゥリエンが真っ先に陥落した……同盟艦隊が第4、第11アトリアン竜機兵団を惑星に差し向け、それに4個傭兵メック連隊(ボールドウィン・コブラ重旅団とグラッドストン・グラディエーターズ)を同行させたのである。軌道上の守りはバロン級駆逐艦〈チャンサ〉〈マウント・ソン〉と支援の旧式キャラック級重輸送船2隻しかないという状況において、大連邦国はマーリック強襲軍の、アトレウス級戦艦4隻、リーグ級駆逐艦4隻、ソーヤル級重巡洋艦〈ヴリシャバー〉の勢いをかろうじて緩めただけだった。カペラの名誉のために言っておくと、マーリックの〈ヴリシャバー〉は戦いの中で操縦不能となり、乗員が脱出した後、ムラセン(アンドゥリエンに2つある月の1つ)の表面に墜落した。だが、この撃沈は防衛側にとって小さな慰めに過ぎなかった……敵は損失を埋め合わせるために補給物資満載のキャラック級を拿捕して見せたのである。

 アンドゥリエンを賭けた地上戦は、同じく一方的なものとなった。アンドゥリエン重防衛軍と実戦経験のない第12アンドゥリエン軽機兵隊は、マーリックの侵略者にかなわなかった……マーリック軍が重航空支援、ボールドウィン・コブラの間接砲を巧みに利用していたとなればなおさらだった。1週間以内に惑星は陥落した。

 次にインゴニッシュとライアーソンが占領され、ダンスアーからピリアポリスにかけての波打った戦線にいたカペラ防衛部隊を事実上粉砕した。これら世界の多くには、郷土防衛軍程度しかなく、最低限の戦闘で陥落していった。まるで、マーリック家は望んだリャオの世界をいくらでも占領できるように見えた。その勢いが止まったのは、2793年、第3ケンタウリ防衛軍が戦闘艦隊と3個CCAF支援部隊の援護を受けて、アネガサキ奪還の際に第4マーリック国民軍を撃破したときのことである。

 アネガサキへの強襲により、同盟の大連邦国に対する戦争継続の上で重要な兵站世界が損なわれた。さらに、驚くほど強力な敵軍がカペラ戦線に迫っており、マーリックの軍指揮官たちは停止して地固めするよう忠告を行った。この敗北は、大規模な逆襲の先駆けとなった。








襲撃戦争: シュタイナーの継承権戦争 THE WAR OF RAIDS: HOUSE STEINER’S SUCCESSION WAR


ヘスペラスを手放すな

 継承権戦争の最初の3年間で、3度の悪名高い「ヘスペラスIIの戦い」が発生した。この時点、すべての装甲軍が生産力・戦力のピークにあるという状況においてなお、ディファイアンス工業の工場群は中心領域で最も大規模かつ先進的なバトルメック生産施設であった(地球の工場をのぞく)。

 これを認識していたライラ共和国は、星間連盟が解散した直後に数年をかけてヘスペラスを要塞化し、工場施設の多くを出来るだけ多く、ひらけた平野の建物からミョーオー山脈近くの岩山に掘られた人工洞窟に移した。すぐには移動できない施設、経済的な理由で移動できない施設(軌道上の降下船建造支援工場など)や、最先端の電力・コンピューターによる組み立て工場は、強化され、武装された。工場への入り口と、惑星の軌道接近ゾーンには、早期発見用のセンサーがつけられる一方、工場地区へとつながる主要道路沿いには様々な間隔で武装バンカーが作られた。コベントリ、ドネガル、タマラーで、重要なメック工場を守るために似たような強化と防備がなされたが、ヘスペラスIIほど大規模なものはなかった。

 能動的な防衛のため、歩兵、装甲、気圏戦闘機の手厚い支援を受けた少なくとも2個の古参バトルメック連隊がヘスペラスに配備され、少なくとも戦艦1個分艦隊が星系内か、ジャンプ1回の範囲内に置かれた。戦争が始まる時点で、これより大きな駐屯部隊を持っていたのは、共和国主星ターカッドだけであった。



第一次防衛戦(対クリタ)

 ヘスペラスに対する最初の攻撃は2787年12月に発生した。ドラコ連合が、12隻以上からなる艦隊に護衛された4個バトルメックと支援を送り込んだのである。侵略者たちは、これが致命的な一撃になることを望んだ……戦艦は工場と都市の倒壊を狙ったほとんど黙示録的な機動砲撃を繰り出し、圧倒的な地上攻撃は生存者を殲滅して、砲撃を逃れた者を掘り起こすことであろう。

 スコンディア占領で自信を持ち、ライラは国境沿いに戦力を回していると信じていたクリタ人は、ヘスペラスの防衛が軽いことを確信していた。実際には、彼らは共和国で最大級の戦艦を含む艦隊の防衛に遭遇し、その指揮官の戦略はこれまでDCAが直面してきたものよりも遙かに積極的だった。

 クリタの攻撃部隊は兵士を上陸させるのにどうにか成功したが、シュタイナーの宇宙防衛により戦艦は計画していたすさまじい爆撃をすることなどできなかった。1ヶ月間近い激しい宇宙戦闘の後(その間、連合の地上部隊は固定砲台、トラップ、強襲級バトルメックによる回廊の中で叩きのめされていた)、クリタの攻勢は崩壊した。DCAの提督はヘスペラスIIの補助造船所を破壊するのに成功していたが、艦隊の半分以上と地上の2個連隊以下が失われた。

 軌道造船所が失われたのに加え、ヘスペラスIIの工場は、最高のメック生産ラインと車両生産地に広範囲な被害を被った。損害を与えたのは、第18ディーロン正規隊の数個部隊だった。軌道爆撃のミスにより、シュタイナーの防衛戦線が四散し、突破を成し遂げたのである。

 DCMSの戦士たちいくらかが後に残され、そのうち大半は捕らえられ、後にドラコ連合へと身代金で返還された。だが、少数のグループが、クリタ正規軍の14名と傭兵の7名を中心にレジスタンスを結成し、戦後も長い間に渡ってディファイアンス社の警備兵たちを苦しめた。コナー・マクリーダム大尉(崩壊した元SLDFの傭兵、第52重強襲連隊の唯一生き残った士官)に率いられたこの失機者の集団は、ミョーオー山脈に逃げ場を求めた。ここから、彼らは工場施設を行き来するトラック輸送隊を妨害し、落とした岩で立ち往生したトラックから武器を入手し、3年に及ぶゲリラ戦で戦車、ホバークラフト、武装VTOLの撃破すら成し遂げたのである。マクリーダム・デビルズ(と呼ばれるようになっていた)最高の記録は、100トンのバトルメック、アトラスを谷底に叩き落としたことである。



第二次防衛戦(対ダヴィオン)

 2788年4月、ディファイアンス工業を破壊する二度目の試みが実行に移された。ブラスリング作戦と呼ばれた絶望的な任務の一環として、恒星連邦の海軍機動部隊が、地上強襲戦力(大半が高速軽量級メック)を運ぶ輸送艦隊を護衛した。この作戦においては、地上部隊が地表の工場に迫り、出来る限りの物資をかっさらい、出来る限りを破壊しようとするあいだ、小規模な艦隊が彼らを援護することを求められていた。作戦を指揮するのは、ミルトン・ヘイズ海軍少将である。

 シュタイナー家とダヴィオン家は正式な戦争状態にあらず、共通の敵による攻撃を受けていたことから、ブラスリング作戦が本当に恒星連邦のためになるかはわからなかった。さらに悪いことに、使える戦艦がクリタ家の強襲に回されていて不足していたことから、ブラスリング作戦の海軍戦力は数の面でヘスペラスの共和国艦に絶望的なほど劣っていた――1年前の損害を考えてもだ。

 8隻の戦艦しかなかったヘイズ海軍少将は、数の面で3倍のシュタイナー艦隊に遭遇した。馬鹿正直にぶつかって敗北するのを望まなかった恒星連邦の指揮官は、大型の巡洋艦に対し素早く鋭い攻撃を繰り返すことで、ライラの前衛部隊を弱体化させようとした。最も重量のある敵艦を引きつけることで、薄くなった防衛戦を高速の輸送降下船が突破することを彼は望んでいた。高速の襲撃部隊が眼下で仕事をこなす中、ダヴィオン艦は惑星、衛星、デブリ(ドラコ連合の失敗した攻撃で生まれた破壊された船体を含む)のあいだで巧緻なかくれんぼを行い、シュタイナーを忙しくさせる。

 この計画はわずかな成功を収めただけだった。1週間以上におよぶ、ヘスペラス上空の素早い一撃離脱海戦の後、ダヴィオンはシュタイナー艦隊に対し、3隻の戦艦と12隻の護衛降下船を失った。その過程において、ヘイズの艦隊はつかの間兵士たちを上陸させるだけの窓を開いて見せたが、地表に降ろせたのは1個大隊だけだった――そのすべてが、目標から70キロメートルの岩砂漠に散らばった。なので、ライラ人たちには守りを固めるための時間が充分にあり、敵兵士たちがディファイアンス工場を見るそのずっと前に撃破するのに成功したのである。

 第二次ヘスペラス防衛戦において、共和国が失ったのは巡洋艦1隻に過ぎず、戦艦6隻、2個航空中隊、地上の各種車両・固定砲台にそれなりの損害が与えられた。さらなる地上部隊を安全に送るだけ敵の防衛を突破できず、敵の援軍がやってくる前に時間切れとなったことに気づいたヘイズ海軍少将は撤退を余儀なくされた。

 敗北の屈辱は生存者たちの中で燃え上がった。友軍宙域への帰り道、ヘイズと機動部隊はライラの世界、ゾーリンとロッキーを叩いた。ゾーリンでは、商業とインフラに出来る限りのダメージを与えることに集中した。だが、ロッキーでは、LCAFが元辺境世界共和国軍の抵抗勢力を捜索しているのに遭遇し、戦闘は素早くエスカレートし、結果として引き起こされた核兵器の応酬で、大都市がいくつか灰じんと化し、惑星の環境が致命的に損なわれたのだった。



第三次防衛戦(対マーリック)

 第三次ヘスペラスII防衛戦――そして第一次継承権戦争におけるヘスペラス工場への最後の真剣な攻撃――は、恒星連邦の敗北からわずか11ヶ月後にやってきた。2789年3月、自由世界同盟は海軍による電撃戦を仕掛け、先駆者たちと違い重メック支援を持ってきていなかった。物資や装備を奪うために地上強襲を支援するという面倒から解放されたこの攻撃は、宇宙からの爆撃で工場を抹殺することを意味した。

 この強襲を率いたのは、ケニオン・マーリック総帥の息子サディアス・マーリック海軍中将であった。以前の戦闘に関する限られたデータ(自由世界諜報部が集めたもの)を研究し、彼は地上戦闘は避ける決定を下した。ヘスペラスのような守りの堅い世界を相手にするには、速度と奇襲こそが成功の鍵となると、彼は推論したのである……大量の輸送船と随行航宙艦は足を引っ張るだけだった。だが、もっと重要なのは、高機動なジャンプ可能艦で艦隊を組むことで、最も危険と航海士たちが見積もったパイレーツポイントに全軍を送ることができるということだ。

 それは太陽と太陽に最も近いヘスペラスIの間にあるラグランジェポイントである。

 第三次ヘスペラスII防衛戦の以前には、星間連盟防衛軍だけがこれほど太陽に近い非通常到着ポイントを通って大規模な戦艦の機動部隊を移動させることができた。現在においてもなお、リチウム核融合バッテリーを載せたSLDF艦だけがこのような機動に使われる。もし、到着したポイントが不安定過ぎたり、守りが堅すぎたりしたら、素早くジャンプして戻ることが可能だからだ。王家君主たちの海軍のうちごく一部の戦艦だけが似たような装備を持っていた……自由世界同盟艦隊の中では、マーリックの旗艦、ローラIII級駆逐艦〈ブカレスト〉だけがこのような技術を備えていた。

 太陽に近いジャンプポイントを選んだサディアス・マーリック提督は、完全にライラの不意をうつことができると自信を持っていた。このような劇的な場所から激しい攻撃を受けると予想する敵はおらず、ヘスペラスF級恒星からの自然放出は艦隊の到着ジャンプパルスと加速の赤外線を隠す役に立つはずだった。さらに、ソーラープレーンに沿った内側からのアプローチによって、伝統的なポイントからの攻撃よりも防衛側の反応する時間を短くすることが出来るはずだった。

 マーリックの謀略はライラ人を驚かせたが、防衛艦隊(ヘスペラスII軌道上に密集していた)の絶対的な戦力は、恐るべきものであることが証明された。さらに悪いことに、マーリックの機動部隊が到着するわずか数日前に、追加の巡洋艦、イージス級〈グラナイト〉〈エンデバー〉が現地の天頂ジャンプポイントに到着し、惑星へと向かっている最中だったのである。艦齢は古いのだが、地球製の戦艦はアマリス危機の数年前にSLDFの手で改装されており、〈ブカレスト〉に似たリチウム核融合バッテリーを持っていた。

 〈グラナイト〉を指揮するのオスカー・F・デューイ海軍中将は、前任者のルーサー・ワイスコフから海軍防衛の指揮を受け継ぐためヘスペラスIIに向かっているところだった。敵の攻撃が惑星近くに迫ってると聞くと、デューイ海軍中将は航海士たち(と〈エンデバー〉)に、ヘスペラスIIの衛星ラグランジェポイントに星系内緊急ジャンプを行うよう命令した。この絶望的な跳躍により、両巡洋艦はマーリックの主力が共和国の防衛部隊と交戦する直前、惑星の軌道に入った。

 大規模な防衛を予想していたマーリックは、ソーヤル級巡洋艦〈ディヴァステイター〉と〈スカルカー〉に離脱と工場への攻撃を命じ、そのあいだ指揮下の艦の大半はシュタイナーを拘束した。突然〈グラナイト〉〈エンデバー〉現れたことは、この2隻を驚かせた。2隻と2隻は素早く構えをとり、激しい一斉射撃をぶつけあい、そのあいだ乱戦は惑星へと近づいていった。

 まもなく、〈グラナイト〉の左舷弾薬庫が誘爆し、火力の半分が奪い取られた。対する〈ディヴァステイター〉は、〈グラナイト〉を仕留める決意を固め、破壊された側に最後の通過攻撃を仕掛けた。絶望の中で、デューイ海軍中将は乗員たちに〈ディヴァステイター〉に体当たりを命じた。〈グラナイト〉の衝突で両艦は破壊され、惑星の危険なほど近くに絡み合った船体が残された。直ちに離れることの出来なかった両艦はヘスペラスIIの重力井戸に捕まり、分解し始めた。〈エンデバー〉は〈スカルカー〉を打ち破るのに成功し、僚艦の救援に駆けつけたが、たどり着くのが遅すぎた。〈グラナイト〉の生存者を満載した若干数のシャトルだけが救援された。

 サディアス・マーリック提督にとって、デューイ海軍中将の行動は、彼の全計画を破滅に追いやるものだった。多くの戦艦が共和国艦隊の主力と激しく交戦し、損害を受けたことから、ライラの側面を突く艦を使うことは出来なかった。さらに悪いことに、3個中隊の攻撃降下船が惑星地表から打ち上がってくるのが探知された。彼らが加わろうとしていたのは、ヘスペラス軌道防衛のわずかなギャップを埋めるため、すでに移動していたマコ級コルベット数隻であった。不承不承、サディアス・マーリック提督は指揮下の機動部隊に撤退を命じ、シュタイナー家に勝利を明け渡したのだった。









鬱陶しい攻撃は最大の防御 THE BEST DEFENSE IS AN ANNOYING OFFENSE

 LCAF最高司令部を慎重にさせたのは、2787年のルシエン、ディーロンに対する懲罰襲撃が、成功したにもかかわらず、ドラコ連合を怒らせただけに終わったことだった。一発もらったにもかかわらず、クリタ家は即座にヘスペラスIIを狙った。この攻撃は失敗したが、国境線に近いシュタイナー世界のいくつかはそれほど幸運ではなかった。

 だとしても、これらの逆襲はダヴィオン家に対する戦役に比べると、上手くいってなかった。明らかに、龍の力はよそに注がれていたのである……DCMSは激しい攻撃を仕掛けることができたが、どこにでもというわけではなかった。

 同じく、ボラン占領で自由世界同盟との戦端が開かれ、核による報復が約束されたのだが、マーリック家が大連邦国から目を離していないことをライラの諜報部は確認した。シュタイナーの敵たちは確かに彼らを無視したりはしなかったが、どちらも、全力で国境をまたいで押し寄せてくることはなかったのである。両国の襲撃が成功したことで――国境沿いのインフラへのダメージが大きかったことも加えて――LCAFは次の攻撃がいつどこにやってくるか不安を募らせ続けることになった。

 適切に対応するべきタイミングであった。ステルスとタマラー・タイガースの成功に刺激を受けたジェニファー・シュタイナー国家主席は、ライラの襲撃戦略を拡大する許可を出した。自由世界同盟前線でこれを担当したのは、アマンダ・レストレード大将であり、最初の大規模な戦役は、2788年にさかのぼり、地球地方に近いマーリック世界いくつかへの懲罰であった。ドラコ連合国境では、ポール・シュタイナー最高司令官がスークからポム・ド・テールまでを目標としてタマラー・タイガースを忙しくさせ、必要なときはLCAF軍や独立傭兵部隊でバックアップした。両将軍は攻撃の数と頻度を増やし、敵の目を攻勢から防衛に向けさせた。

 2790年、ライラ共和国は両戦線に対する二度目の襲撃攻勢に出た。自由世界同盟に対しては、レストレード大将がボラン・サムを奪還するために、大胆で長期にわたる「襲撃から占領」戦役の認可を出した。アリック・ハッセルドルフ中将(アラリオン地区下級戦域指揮官)が提案したこの計画は、FWLMの防衛部隊が摩耗し、疲労し、補給線逼迫して崩壊するまで、マーリックの世界をあらゆる方向から数年間執拗に襲撃するというものであった。これにより、レストレード大将は、生まれ故郷のスカイア地方や最近征服した元地球地方に近い自由世界同盟国境にエネルギーを集中することが出来たのである。ドラコ連合に対しては、ポール・シュタイナー最高司令官はディーロン地方のクリタ家の占領地に注意を向けることを選び、スカイア周辺の重工業化世界を守るというレストレードの尽力を支援することを望んだ。

 襲撃による攻勢のスターは、またもステルスとタマラー・タイガースであった。レストレード麾下に移されたステルスは、シリウス、グラハムIV、オリバーを攻撃する一方、他のLCAF連隊がワイアット、デュドネ、ボードン、サバンナを叩いた。ドラコ連合放免ては、タマラー・タイガースが、ポム・ド・テール、ステュクス、テロスIV、カーヴィルを襲撃し、他のLCAF部隊がデイヴとディーロンを襲った。これらの攻撃の主目標は、敵の補給地点、輸送能力、軍事的に価値のあるあらゆる工業を破壊するためのものだった。

 惑星の征服は、二次的な目標であり、「機会があったとき」のみに試みられるものであった。これら機会はたいていが、最初の襲撃が成功して征服が容易になったとき、敵が援軍を送ってくる前に援軍を送り込めるとLCAF最高司令部が判断したときであった。同盟方面では、シリウス、オリバー、デュドネがこのカテゴリーに当てはまった……連合方面では、デイヴ、カーヴィル、ステュクスが良い獲物であるとLCAFは判断した。2790年11月までに、これら目標となる6つの世界に2個重メック連隊が差し向けられた。兵士たちを鼓舞し、隣人たちにライラの決意を見せつけるため、ジェニファー・シュタイナー国家主席時間が、第4親衛隊を率いてステュクスを強襲することを選んだ。

 運命の定めによって、これは災厄となった。


国家主席の死 The Death of an Archon

 2790年のライラ共和国の国境から嵐の世界ステュクスまでは、連合の占領する宙域の奥深くジャンプ2回だった。地球帝国の世界として、放射性物質、その他の稀少金属の豊富なステュクスは、星間連盟時代の前から重要な工業地帯であった――龍が古くから欲しがっていた惑星だ。ケレンスキーがエグゾダスしてなお、ステュクスは帝国に忠誠を誓っており、ミノル・クリタが第一君主の宣言をしてから数週間、あまりにも地元民の抵抗が多すぎて、ドラコ連合がこの惑星を事実上占領することは出来なかったのである。

 それ以来、荒涼とした気候と、抵抗組織による長期化した断固たる活動によって、ステュクスはドラコ兵たちが罰として守ることを命じられるような世界になっていたかもしれない。さらに、化学プラント、鉱業採掘、放射性鉱物精製を中心に大規模な鉱業を持つことから、兵士たちが守ることを任されるかもしれない場所は、惑星で最も環境が汚染されているかもしれないのだ。2790年に共和国が攻勢をかける前の3年間で、反クリタ地下組織による一連の操業停止とサボタージュは状況を悪化させるのみであった――なので、タマラー・タイガースは、2790年の前半にステュクスを襲撃した際に、士気崩壊した防衛部隊と遭遇し、地元のガイドたちは全員がライラ人たちに最も脆弱なDCMSの陣地を教えたがったのである。

 共和国の国境から比較的離れていたにもかかわらず、LCAF最高司令部がステュクスを侵攻の第一目標に決めたのは、これらの要素があったからだった。ここを攻撃すれば、ライラは国境上のもっと頑強なDCMS部隊を容易に迂回して、脆弱で意欲の薄い駐屯部隊を目標とし、地元の充分な支援を受けることが出来る。ドラコ連合宙域奥深くへと攻撃する展開地点としてステュクスを確保すれば、クリタ家は奪還のために共和国の国境から兵士を引き抜くしかなくなる。

 軽い戦艦の護衛と共に、ジェニファー・シュタイナー国家主席は、強襲部隊(第4親衛隊、第2スカイア特戦隊バトルメック連隊含む)の先頭に立って、2790年12月12日、ステュクスに到着した。10日後、事実上抵抗なく上陸したライラ人たちは、素早く惑星で最大の宇宙港、バルバドス、メンフィス、惑星首都サンダーフォールズの3箇所を占領した。3箇所の上陸地点のうち、サンダーフォールズの滑走路でのみまともな戦闘が発生した……DCMSのメック1個中隊と2個装甲小隊が下船中の親衛隊を待ち伏せしようとしたのである。

 わずかに1週間で、知られていた惑星上の防衛部隊の半分以上が敗北したことから、ステュクスの惑星政府はシュタイナーに降伏した。工業都市ニューエスローを中心にいくつかの抵抗拠点が残ったのみであった。

 だが、ニューエスローは巨大な化学工業地帯というだけではなかった……星間連盟の時代には、表面上、テラフォーミング計画や「固有の生物を封じ込める弾頭」に使う軍事研究、開発プロジェクトの拠点だったのである。当地で生産される化学物質の多くは、生物化学戦争の候補になることから、地球帝国はニューエスローにかなりの戦力を配置した。この中には、災害発生時に外部汚染に耐えられる(あるいは閉じ込める)よう設計された要塞があった。クリタの支配下で、これらの施設(アマリスの時代に大きな損害を負っていた)は、化学大量破壊兵器の備蓄生産を主眼に修復され、再び武装された基地となっていた。

 強襲によって危険な化学物質がこの地域にばらまかれるかもしれないのを懸念したシュタイナーは、ニューエスロー攻撃に軌道爆撃、戦術核兵器を投入するのを差し控えた。その代わり、彼女と兵士たちは出入り口を重強襲級メックの壁で封鎖するのを望んで都市を包囲し、そのあいだ歩兵のチームが間接的に施設内に入る道を探した。だが、すぐに明らかとなったのは、ドラコ連合が施設につながる各種のトンネルや地下通路を完全に封鎖していることであり、攻略できない要塞が生み出されていた。ほとんどすべての主要出入り口にブービートラップがあるように見え、抵抗勢力が絶え間なくライラとステュクス中のシンパに脅威を与える中で、国家主席と野戦司令官たちは単純に敵が飢えたり降伏するのを待つことは出来ないと確信した。

 ニューエスローの施設への強襲は2791年1月4日の夜に決断された。指揮官たちのアドバイスに反して、シュタイナーは「リスクをシェア」することを選び、ウォーハンマーの操縦席から主攻撃に加わった。この作戦は電撃戦になることを想定していた――要塞化された出入り口に複数の方向からまっすぐに突進し、敵が爆薬を起爆したり、化学兵器を解き放つ前に実行するのである。ライラにとっては不幸なことに、ドラコ連合の兵士たちは予想されていたよりも遙かに警戒しており、全砲座が激しい砲撃を開始した。

 この攻撃の中で、国家主席は強引にこじ開けるため、要塞の正面玄関に突進した。メックサイズのゲートに張り巡らされた爆薬が起爆し、連鎖的に施設そのものの大半を吹き飛ばしただけでなく、ジェニファー・シュタイナーのバトルメックの上半分が消滅した。

 継承権戦争は、王家君主の中から最初の犠牲者を出したのである。


タマラー・タイガースの長い最期 THE LONG, LAST STAND OF THE TAMAR TIGERS

 2794年前半、重工業化された世界、ベンジャミンが防衛部隊をすべて奪われたとの話がライラの諜報部にまで届いた。LICにとって、これは当然のことであった……遠いダヴィオン=クリタ戦線からの報告では、龍はパニックモードになっていたように見えた。どうやら、特に残虐だったケンタレスIVの虐殺への反感が、恒星連邦の決意を一新させたようだった。怒り狂ったダヴィオンたちは侵略者を後退させ、DCMSは必死に守ることとなった。あまりに長く恒星連邦に集中したことで、他の戦線から兵士たちを持ってきたり、戦争そのものを崩壊させるようなリスクを冒すのは、クリタ家にとって合理的な帰結となっていたのである。ドラコの前線の奥深くに位置するベンジャミンは、防衛部隊を持ってくるのにちょうどいい、適度に安全な世界であった。

 この知識で武装したグラハム・ケルスワ大将は、ドラコ連合に痛打を見舞う決意を固め、2794年、タマラー・タイガースを率いてベンジャミンに向かった。

 一番近い共和国の星系からハイパースペース・ジャンプ5回だったにも関わらず、ベンジャミンへの移動は、教科書通りに行われた。密輸業者から星系のデータを得ていたおかげで、LCAFの攻撃グループ(コルベット3隻、数個戦闘機中隊、タマラー・タイガース自体の降下船に護衛された)は、ベンジャミン星系内の完全な非通常ポイントを使うと決めた。この攻撃は、クリタに対する完全な奇襲となるはずだった。

 到着すると即座に、ケルスワ将軍の降下船が切り離され、高Gで惑星に向かった。センサーと通信によると、敵の海軍はここに存在しないことが確認され、地元防衛軍はライラの到着に気づいてないようなやりとりをしていた。地元市民軍は事実上なにもしていないようだった……各拠点は暗号化されてないチャンネルで報告し、無意味な冗談を交わし、通信技術者は退屈しているようだった。

 2日後、タマラー・タイガースが軌道上に入り、降下を始めたちょうどそのとき、クリタは罠を発動させた。延々と待ち続けていた2隻のナルカミ級駆逐艦が、惑星のセンサーの影から左右に飛び出した。それぞれに3隻ずつの空母型降下船が続き、接近すると気圏戦闘機を発進させた。戦闘機がライラの降下船に群がり、ナルカミ級はライラのマコ級2隻を引き裂いた。数分後、タイガースの輸送航宙艦から狂乱的な報告が入った……3隻目のナルカミ級が実体化し、残ったマコ級を破壊しようとしているのだ。

 たった5分で、タマラー・タイガースは、海軍支援と航宙艦を奪い取られ、完全に準備が整った世界へと降りていった。

 タイガースの到着に備え、3個DCMSバトルメック連隊と、その4倍の装甲・歩兵部隊がベンジャミンに駐屯していた。だが、罠によって敵の脱出手段を奪ったというのに、ケルスワとメック戦士たちがそう簡単に倒せる相手ではないとクリタの防衛部隊はすぐに知ったのである。惑星首都ディバー・シティ近郊の平原に急いでいたまさにそのとき、ケルスワは戦士たちに戦闘降下を命じ、地形の中に分散するよう指示した。周辺の地形に慣れ親しめば、メックは捕まるのを避けて、ディバー・シティの北部・西部の深い森に入れると将軍は知っていたのである。ここから、彼らは救援が来るまでゲリラ戦を実行することが出来る。

 残念ながら、そのような救援が来ることはなかった。

 ライラ共和国では、ドラコ連合がケルスワの降下船を上陸すらする前にすべて撃ち落としたと、初期の諜報が報告していた。ディバー・シティに集まっていた、ベンジャミンの数少ないライラのスパイは、タイガースの降下したメックにまったく気づかなかった(また、旅団規模のDCMS兵士たちが惑星上に隠れていることを見逃していた)。LCAF最高司令部は襲撃隊が生き残ったことを知らず、続いて惑星上のスパイとの連絡が断たれたことでクリタ家がベンジャミンを封鎖したことが確認された。

 タイガースが生き延びているとの噂が定期的に出回ったが、これら報告の大半は無視された。ある噂はさらなるライラ軍をおびき寄せるためのISFの陰謀として退けられ、またある噂は単なるドラコ連合のプロパガンダとして無視された。一部の歴史家は、ケルスワが生きてるという報告はLCAF最高司令部の者たちによって故意になかったことにされたとさえしている……ケルスワ公爵と一族の対立によるものか、あるいは純粋に政治的な理由によって。それもまた2800年11月までのことであった。ポール・シュタイナー大将がラマーで死んでから一年後、タイガースがベンジャミンの防衛部隊と戦い続けているという確かな情報が国家主席のもとに届いたのである。

 そのときまでに、ケルスワの戦士たちはクリタのエリートメック2個大隊と2倍の支援部隊を撃破する一方で、同時にベンジャミンの都市と工場の多くにに深刻な損害を与えていた――ほとんどすべてのメックがその代償となり、残ったのはメック1個中隊を越える程度であった。一方、軍事輸送船と戦艦は、LCAFで不足し続けていた。ドラコ連合の全戦を突破して生き残ったわずかなタイガースを救出する計画が立てられたが、リチャード・シュタイナー国家主席はそれを非現実的として不承不承退けた。

 2801年1月、残ったタマラー・タイガースは、ディバー・シティへの勇敢な強襲で最期を見せた。一ヶ月間、DCMSとの精緻な鬼ごっこを続けた彼らは、敵がカスターノ大陸のあちこちに分散し、都市や農園や燃料精製施設や脆弱なインフラを守っていると確信した。同時に、ベンジャミンの犯罪勢力内にいる共謀者の助けを借りて、タイガースは残った最後のメック15機を放棄された地下鉄や下水道のトンネルから都市中央部に移動させた。

 タイガースはディバーシティのまさに中心に現れて攻撃を仕掛けた。最初の攻撃は大都市全体を混乱に陥れ、クリタのバトルメック2個小隊と、地元の警察、暴動鎮圧部隊をほぼ抹殺した。ドラコ連合軍はとって返し、首都が立て籠もったライラ人に占領されているのを見た(大勢の半組織化されたギャングや反体制派に支援されていた)。タイガースの生き残りを根絶するには一週間の大半を要し、終わってみるとディバーシティは壊れたいぶる廃墟へと姿を変えていた。

 最期のタマラー・タイガースが倒れるまでに、DCMSは恐るべき襲撃者を片付けるため1個連隊以上のバトルメック、3個連隊の戦車と歩兵を費やしていた。人気のある話では、グラハム・ケルスワ公爵自身が生き残った最後のライラ戦士になった(DCMSに捕まって、拷問されて死んだ)とされているが、現代の歴史家たちは最期の戦いが始まる一年前に殺された可能性が高いと疑っている。



ソラリスVII Solaris VII

 ソラリス・バルジに対する戦役の最後の一撃は、ホガース少将の計画の最も如才ない部分であった。ソラリスVIIでの地上戦は著しく混乱すると知っていた彼は、惑星を直接攻撃しないことを選んだ。実際、戦災がゲームワールドを訪れた際に、ホガースは惑星をまったく攻撃したがらなかったのである。

 5年にわたるスパイダーウェブ作戦の戦役で、ソラリスの周囲が占領された一方、ライラ共和国はプロパガンダの専門家を惑星ソラリスに送り込み、星間ニュースが地域の戦いを自由に報道するのを許した。だが、この計画が名誉を追い求めるソラリスVIIのグラディエイターたちに恐怖を撒くことはなかった……FWLMの駐屯部隊を士気崩壊させ、惑星の民間政府機関がどれほど自由世界同盟から切り離された気づかせることにはなった。

 カリダサ陥落の報がソラリスに届くと、ライラの外交グループが惑星政府議会に近づき、提案を行った。ソラリスがライラ共和国の支配を自発的に受け入れ、惑星の収入を名目上削減し(有利な税率にする)、現在のFWLM防衛部隊を追い出すのと引き替えに、LCAFは必要な防衛を提供しつつ、「オープンワールド」として半自治的な運用が続くのを許す。追加のボーナスとして、現在の戦争が終わったら、ソラリスVIIの中心領域の商業・娯楽ハブとしての政治的な中立を保証すると、議会の指導者たちに国家主席自身の約束が伝えられた。

 シュタイナー家の申し入れは、最後通牒とは言えなかった……提示した外交官たちの中に傲慢や悪意はなかったのである。惑星の統治者たちが提案を蹴れば、LCAFがソラリスVIIにやってくるが、必ずや自由世界同盟が抵抗して戦闘が発生することだろう。そのような戦闘は、ソラリスVII経済の中枢である人口密集地帯と工業地帯に飛び火すると、外交団は警告した。さらに悪いことに、ライラの外交団は大量破壊兵器を第一の手段にしないことを約束したが、マーリックがそうするかどうかは言及しなかった。

 要旨はシンプルだった……シュタイナーはソラリスVIIにビジネス上のパートナーシップを求めているのである。そうすれば、共和国の旗の下、血を見ることなくビジネスを通常通り続けることができるだろう。

 2819年9月10日、3ヶ月にわたる討論と密約の後、ソラリスVIIの統治者たちは最終的な決断を下した。ライラの軍隊を受け入れることを宣言し、自由世界同盟の守備隊は2820年1月までに立ち去ることを求められ、同日、ソラリスは自由世界議会から脱退する。

 惑星上の自由世界同盟指揮官、ローリー・マグナロ将軍は、議会の宣言を知って立ちすくみ、それから戒厳令の下に惑星首都ソラリス・シティを占領すべく兵士たちの準備をした。しかし、準備が完了したのと同日、ライラ共和国が追加のバトルメック連隊群をスカイア連邦奥深くの地域に動かしているとの一報が入った。シュタイナーの全面強襲に直面する可能性があるのと同時に、最寄りの友軍星系までジャンプ2回以上という事態に直面したマグナロは、しぶしぶ計画を中止し、ソラリス指導部の要求を受け入れた。

 FWLMの退去は2819年末に完了した。2週間以内に、ホガース少将の侵攻部隊がソラリス星系に到着し、ソラリスVIIのグレイランド大陸に前哨基地を作る任務を課された。

 スパイダーウェブ作戦は最高司令部の予想を超えて成功したように見えたが、自由世界同盟はもう一発、二発を放った。ソラリス・バルジでの戦争行為が終わったように見えてから2ヶ月後、2820年3月、重襲撃部隊がソラリス星系に実体化した。ソラリスVII軌道上に近いパイレーツポイントにハイパースペースから出現した攻撃グループは、元SLDF傭兵の2個強化大隊からなっており、エセックス級駆逐艦FWLS〈デスパイザー〉に護衛されていた。

 ライラには襲撃部隊を撃退できるだけの海軍力がなかったことから、傭兵たち(後にレッドイーグルスと、クリントン・カットスロートの一部と特定)は、ソラリスシティ北部のブラッケン・スワンプスに上陸した。LCAFの守備隊は大規模な浄水場の近くで攻撃部隊と邂逅し、ブラッケン・スワンプス中にまたがる3日間の砲撃戦で撃退したが、傭兵たちは事実上、浄水場を破壊し、地元の工業区を灰に変えていたのである。

 だが、最悪はまだ来てなかった。生き残った傭兵たちがソラリスVIIから離陸すると、FWLS〈デスパイザー〉は退却を援護するかのように動いた。だが、ソラリスシティ上空を通過したそのとき、駆逐艦長はこの地区への激しい爆撃を命じたのである。10分間で、艦載級ミサイル、荷電粒子砲の砲撃が、惑星上に降り注いだ。この爆撃はかろうじてソラリスシティの北東部に外れたが、近くの郊外地や工業区はそれほど幸運ではなかった。〈デスパイザー〉の攻撃で数千人が死亡し、首都地域に給水していた二番目の浄水場が破壊された。

 同盟の報復攻撃の後、共和国は少なくともソラリスVIIの航空宇宙抑止力を何らかの形で保証しようとし、使えるだけの戦闘艦を探した。ソラリスにとっては残念ながら、継承権戦争で損耗したことにより、永久的な海軍力を多数提供するのはLCAFにとってコストがかかりすぎることが証明されていた。実際、戦争が終わるまでに、地元の守備隊が捻出できた最高の航空防衛は、数個戦闘機中隊と迎撃降下船数隻であった。

 ソラリスVIIの市民にとって、同盟の最後の報復攻撃は恥辱の日となった。3年後、致命的なミスジャンプで〈デスパイザー〉が消滅したとの話が届くと、惑星議会は憎き艦が消えた日、2823年4月2日を惑星の祝日と宣言した。

 [編集注: 外交上の約束を守るため、マーカス・シュタイナー国家主席は2824年後半にソラリス法案を通して、ソラリスVIIの中立が共和国の保護下で法的に確立されたのだった]








優先順位変更: リャオ家漸進 SHIFTING PRIORITIES: HOUSE LIAO FORGES ON

 アネガサキで第4マーリック国民軍を壊滅させたのは、カペラ大連邦国にとって驚くべき成功であると証明された。ケンタウリ第21槍機兵隊大隊(ジャンプ可能なグラスホッパー重量級メックを多く持っていた)を先陣にして戦闘に突入した中量級連隊(第3ケンタウリ防衛軍)は、重火力を交戦に持ち込み、第4マーリック国民軍の機動力というアドバンテージを事実上無力化したのである。勝利したカペラはアネガサキを手中にし、戦力結集させる一方、ここにあった装備と補給物資の備蓄を回収した。これらはもともと、マーリック総帥の「サーナへの道」戦役を支援するためのものだった。

 アネガサキをこれほど素早く決定的に失ったことは、同盟がリャオ家に勝利してきた4年分のメンツを帳消しにするものであった。同様に、CCAFがここでいかにフェアに戦ったかも印象的であり、ニューデロスの虐殺や、軌道砲撃、核攻撃、化学兵器攻撃を使いたがった他の例と対称的であった。カペラの指導部はキャロウェイでの恐るべき敗北で受けた動揺から立ち直り、自由世界同盟が望む世界をどこでも占領できるということはもうなさそうだった。アネガサキがよりひどい事態の先駆けになると確信したFWLM指導部は、さらなる分析が行われるまで、迅速に防御的なスタンスにシフトした。

 バーバラ・リャオ首相と戦略局にとって、同盟が足を止めたのは歓迎すべき救援であったが、壮大な逆襲を行って浪費するだけの余裕はなかった。もし、マーリックが国境を要塞化したのなら、リャオは同じことをして、特に自由世界同盟に痛めつけられた地域の防衛を強化するつもりだった。よって、追加の連隊群がカペラ、サーナ、アンドゥリエン共和区に送られた。これらの地域から、同盟の防衛部隊をテストするために定期的に国境襲撃が行われ、弱点を探す一方で、大連邦国が次にどこを叩くのか敵を疑心暗鬼にさせた。

 成功のチャンスを増やすため、CCAFの襲撃部隊はこれら攻撃の際、少数の核兵器または化学弾頭を常に少数持っていった。これらの弾薬の大半は戦術規模のものだったが、一度の攻撃で工場や軍事基地を破壊するのに充分なものであった――それは自殺的な任務になることがよくあった。オリエントに対するそのような襲撃の最中、カペラの1個気圏戦闘機中隊が軌道防衛をすり抜け、ナヴァーラン大陸南方の谷に位置するマグナ・フュージョン・プロダクツ社に対して核攻撃を仕掛けた。カペラの戦闘機全6機(と空母降下船)は撃ち落とされたが、それはアラモ級核弾頭2基で工場と近くの防衛基地を倒壊させた後でのことだった。この攻撃による被害者の中には、総帥の16歳になる孫、ジェイソン・マーリックがいた。

 アネガサキ後の襲撃は、同盟を拘束したかのように見えたそのあいだ、バーバラ・リャオ首相と軍事アドバイザーたちはマーリックの進撃路沿いの重要な世界いくつかを奪還する計画を練った。それは特にアンドゥリエンとワザン突端部を狙ったものであった。大連邦国にとっては不幸なことに、これらの逆襲戦略は不完全なまま残された……2795年、突如として首相が珍しい血液病に屈したのである。バーバラの息子2人はキャロウェイで殺されていたことから、直系の最高齢は孫のイルザ・リャオとなった――若干12歳だった。


幸運の一撃: オリエントの放棄 STROKE OF LUCK: ORIENTE ABANDONED

 2804年1月、ケニオン・マーリック総帥は、70歳の誕生日まで一週間もないところで、心臓麻痺を起こし、死亡した。二番目の息子であるサディアス・マーリック海軍中将は、このとき戦場にあり、アルヘナのライラ要塞に対する最後の強襲を監督していた。父が死んだとの知らせが届くと、マーリックの議会が後継者について話し合うための集まりを呼びかけているとのニュースも入ってきた。応じて、サディアスは敵を撃破したと確信できるだけその場にとどまった。3日後――最後の共和国兵たちが離陸してからわずかに数時間後――彼は最初のシャトルで旗艦〈ブカレスト〉に戻った。乗組員たちに最速でアトレウスへ戻るよう命じた彼は、虚空に跳躍し、玉座を目指した。

 自由世界同盟首都に向かうあいだ、ラサルスで戦艦の古びたドライブが燃え尽きた……ダブルジャンプのためにクイックチャージして傷ついたのである。軍用航宙艦に乗り換えざるを得なかったのだが、メックを載せたFWLM降下船を側近につけることができたのである。従って、7月後半、総帥になる男がついにアトレウスに到着すると、重バトルメック大隊が傍らにいた。

 サディアス・マーリックは審議中の議会に乱入し、集まった代表たちに決議288号の条項と規定を提示した。父親が、地位を手放したり、決議を撤廃する前に死んだこと、決議をもたらした危機的状況が去ってないという明白な事実を引き合いに出したマーリックは、ケニオンの後継者として総帥のマントをまとう権利があると宣言した。マーリックの支持者と敵対者が激しい議論を交わす間、サディアスは沈黙し議場に立った。議論が行き詰まりに達すると、議員の2/3近くが怒って建物の外に出て、FWLMの強襲メック1個中隊が不気味に立ちはだかっているのに直面した。

 反マーリック議員の大半は、気を変えて、危機の状況を確認するために議場に戻り、決議288号の条項に満足した。だが、投票は満場一致とはならなかった。……オリエント公国の指導者でありカペラ国境沿いの小国の協力調整官、カーター・アリソンは脅しに屈するのを拒否した。支配下にある地方国家の議員たちを従え、彼が恐れもせず挑戦すると、もちろんサディアス・マーリックはそれがアリソンの決断であることを心に留めた。

 だが、総帥として、いまや彼にはオリエントからFWLMの連邦部隊を引き上げるだけの権力があったのである――それは彼がすぐに実行したことだった。


目標: オリエント - ストライク・ワン Objective: Oriente - Strike One

 カペラ大連邦国にとって、マーリック家の内部闘争は自由世界同盟の主要所属国に大打撃を与える貴重な機会であった。FWLMがオリエント公国から発ったのが確認されると、CCAFはアネガサキ、イプスウィッチ、ペラIIの展開地点から軍を進めた。9月半ばまでに、大連邦国はルクラ、サッフォー、シェンワンの世界を奪回した一方、オリエントの地方防衛部隊は主星を守るために緊急出動した。

 2804年12月、カペラ大連邦国はオリエントに対する最初の大規模な強襲に着手し、第10リャオ槍機兵団、第11、第24シーアン竜機兵団、護衛する戦艦と空母降下船の小規模な艦隊が投入された。オリエントを守るために残されていた地方軍の戦闘可能な船はほとんどなかったことから、死にものぐるいの防衛側は核兵器搭載の戦闘機、徴用された降下船の壁、地対軌道ミサイル砲台に頼り、カペラの数的優勢を鈍らせるしかなかった。これらの防衛は侵略側の海軍戦力に大きな被害をもたらしたが、それにも関わらずCCAFは2個メック連隊を惑星上に落として見せた。

 ナヴァーレ大陸の工業地帯での数週間に及ぶ戦闘の後、地方軍が大連邦国を押し戻せたのは、ひとえに決断力と幸運によるものであった。カペラの侵攻計画立案者たちは、強襲によって自由世界同盟が内部のいさかいを脇に置き、逆襲を行うと確信しており、任務の目標を厳密に設定し、戦闘のタイミングと受け入れられる最大の損失を決めていた。惑星の防衛部隊がカペラのタイムテーブルを乱し、任務の限界まで戦力を減少させると、CCAFの指揮官、アーネスト・マレッタ大佐は、戦闘退却を命じた。

 敗北したにもかかわらず、2月前半に最後のカペラがオリエントを発つまで、都市のルーゴ、メルシア、ソリアが、いぶる廃墟と化していた。この攻撃に参加した戦艦4隻のうち、リャオの船1隻(ボロボロになったデュ・シ・ワン級戦艦〈ダンカン・リャオ〉)だけが作戦可能で残った。地上部隊のうち、3個連隊のすべてが大きな損害を被った。


目標: オリエント - ストライク・ツー Objective Oriente - Strike Two

 リャオの戦略局を驚かせたことに、自由世界同盟からの諜報報告によると、マーリック総帥はこの強襲を見ても動かぬままであった。この重要な世界を失いかけたにもかかわらず、FWLMの援軍を動かす徴候がないことに、マスキロフカは気づいた。実際、唯一起きていたのは、アリソン公爵から麾下の地方指揮官に命令が流れていることだけだった。命令の内容は、同盟の支援がない大連邦国との国境を支援するため、追加の部隊を送れという要求である。

 このニュースに勇気づけられた、イルザ・リャオ首相は出来る限り早くオリエントを強襲する認可を出した。2805年4月後半、CCAFは惑星フジデラを占領した。わずかに2ヶ月後(オリエントへの攻撃から4ヶ月後)、大連邦国は1個戦闘団と共に戻ってきた。戦闘団を形成するのは、迅速に回復した第11、第24シーアン竜機兵団、増援のオルウェイズ・フェイスフル傭兵団アルファ連隊、大規模な気圏戦闘機部隊であった。〈ダンカン・リャオ〉は修理中であったことから、カペラが用意できた最高の護衛艦は、ヴィンセント級コルベット4隻であった。

 前の侵略からいまだ回復中だったオリエントは、事実上やってくる戦艦を止めるすべがなかった。その上、大連邦国の艦長たちは、地表に近づきすぎないほうがいいことを前の攻撃から学んでいた……そうしたら、地表のランチャー(惑星首都カディスやその他の主要軍事基地・宇宙港の周辺に配置されているといまや知っていた)からの砲撃を受けるリスクがあった。これによって、上陸する船は降下中に戦艦の援護をほとんど受けられないが、攻撃予定の都市や施設から遠くに降りることでこの危険を相殺した。上陸すると、特別奇襲部隊チーム(小型の低空飛行機に乗った)が目標の近くに落とされた。これらのチームは、主強襲に先駆けて、防衛の重要地点(レーダー基地、通信ハブ、その他の道中で遭遇した固定防衛地点すべて)の無力化を狙う戦略の一環となった。

 エルンスト・マレッタ大佐は侵攻全体の指揮官となり、特別な野戦司令本部から指揮をとった。これまでのように、彼が主眼に置いたのは、首都のある巨大なナヴァール大陸と、それにくわえて以前の侵攻で見過ごしてきた優先順位の高い工業的目標だった。残念ながら、兵士たちが展開してからまもなく、高高度軌道上の戦友たちからトラブルのニュースが届いた……ナヴァールで巨大な嵐が発達中だったのである。これは明らかに一ヶ月におよぶ冬の最初のブリザードであった。

 やってきた嵐は、このときマレッタ大佐が着手していた戦略に重大な影響を与えた。この侵攻が成功するには、奇襲部隊チームによって敵の重要なインフラをいくらか無力化する必要があり、そうすることで航空宇宙軍は遠慮なく行動することができる。敵の通信・早期警戒システムが損なわれれば、CCAFは首都の盆地防衛に重要な3箇所の飛行場を孤立化させ、占領(あるいは破壊)することが出来るだろう。そうすれば、カペラの戦闘機はこの地域の航空優勢を取る格好の機会を得て、この盆地地域をカバーする地対軌道ミサイルサイロを片付けることができるだろう。

 だが、ブリザードがやってくれば、奇襲部隊チームは遅延するか、あるいは完全に動けなくなってしまい、この地域の貴重な航空支援をリスクにさらすこととなる(それに伴い地上部隊への援護射撃がなくなる)とマレッタ大佐は知っていた。そうなれば、オリエント地方軍の航空戦力が空を満たすことになろう。さらに悪いことに、もし嵐がこの地域で停滞したら、航空戦力を完全に展開するのを妨げられ、機動力が最も必要とされる時期に地上部隊は動きを鈍らせることになるだろう。スケジュールの遅れと似たような平凡な出来事でまた敗北するのを恐れたマレッタ大佐は、再び、航空戦力を呼び出し、奇襲部隊チームが目標にたどり着きすらするその前に、地対軌道ミサイルサイロを破壊する任務を課した。

 その結果は、風が強くなりつつある首都上空で起きた、人類が空に飛び立った時期を思わせる、大規模で犠牲の大きい低空での航空戦であった。CCAFの戦闘機は立派にも盆地周辺でミサイルサイロのおよそ80パーセントをどうにか破壊して見せたが、オリエントとのドッグファイトで半数以上の戦力を失ったのである。そのあいだ、マレッタ大佐はメックに進撃を命じ、主目標へ距離を詰めることを望んだ……オリエントの首都カディスと隣接する宇宙港である。

 最終的に、マレッタ大佐の二度目のオリエント強襲を負かしたのは天候であった。奇襲部隊チームは先鋒でなくなったずっと後に、任された目標を片付けたものの、暴風雨によって気圏戦闘機部隊は一本の滑走路も確保することなく軌道へと逃げることを余儀なくされたのだった。カディス周辺の敵要塞を爆撃する航空支援なしに、バトルメック部隊は丸裸も同然となり、積雪に足を取られ、途方もないダメージを受けた。

 第二次オリエント戦がの8日目に、最悪の不運がやってきた。嵐が一時的に小康状態となった際に、敵の偵察小隊がマレッタ大佐の指揮小隊に出くわしたのである。貴重な数分間に、風はやみ、雪が弱くなると、機転を利かせたオリエント地方軍はマレッタ大佐の陣地に大規模な砲撃を要請し、危険なほど近くから砲弾を誘導した。嵐がさらに強く吹き荒れたその瞬間、マレッタ大佐の小隊はオリエントの偵察機2機と共に消滅した。指揮官を失ったカペラの士気は崩壊し、次席の指揮官は戦闘退却を要求した。

 2日後、大連邦国侵攻軍は再びオリエントを後にしたが、その前にカディス周辺の郊外を大規模に荒廃させ、惑星に残された地対軌道ミサイルサイロの大半を破壊していたのだった。最後に捨て台詞として、カペラのコルベット3隻が低軌道での上空通過爆撃を1回実施し、マリゲス大陸の人口密集地帯に艦載型ミサイルを撃ち込んだ。

 オリエントへの二度目の強襲はリャオ家にとって二度目の敗北となったかもしれないが、アリソン公爵は単なる運命のねじれによって惑星が残されたことに気づいていた。総帥の就任に反対してから12ヶ月後、彼の本拠地は二度の全面的侵攻に直面していた。同時に、カペラは3つの世界を奪還したのみならず、オリエント公国内の惑星を占領し始めた一方で、公国に属していない国境の世界は連邦政府の支援を享受していた。数百万が死亡する中、アリソンとマーリックは政治的なチキンレースを続けていた――その中でアリソンは何も準備が出来ていなかったことが証明された。

 次のカペラの侵攻で穴だらけの防衛が切り刻まれることは確実であった。アリソン公爵は降下船で惑星を発ち、アトレウスまでのコマンドサーキット(航宙艦による連絡路)を形成するために、出来る限り多くの好意を求めた。


目標: オリエント - ストライク・スリー、アウト Objective Oriente - Strike Three and Out

 CCAFによる二度目の強襲が失敗した後、アリソン公爵がオリエントを発ったことは、カペラ諜報部の知るところとなった。シーアンの戦略局がこれを聞き及ぶと、公爵は総帥に直接助けを求めている可能性が高いというコンセンサスが得られた。両指導者の間にある亀裂は不透明なままだったが、和解の危険性は明白なものだった――自由世界同盟の一部をぶちこわしにするという大連邦国の最大の希望は消滅するだろう。

 窓が閉じつつあることを認識したCCAF上級司令官たちは、オリエントに対する三度目の攻勢の計画を練った。勝利を確実にするため、オリエント近くの新たに征服した星系、つまりフジデラ、フレッチャーと、奪還したルクラとサッホから戦力を引き抜いた。前回の強襲で使われた連隊の残存兵力、その時点ですぐに利用可能なすべての戦艦(まだダメージを受けている戦艦〈ダンカン・リャオ〉含む)があれば、カペラ軍は確実に地域防衛軍を圧倒して、FWLMが充分な援軍と共に戻ってくる遙か前に橋頭堡を確保できるだろう。

 本質であるスピードを鑑みて、戦略局は侵攻戦略の計画が完了しさえする前に、兵士を動かす命令を出した。簡単に言えば、このタスクフォースはアリソンかFWLMの援軍がオリエントに到着する前に攻撃する必要があった。余裕は二ヶ月より多くはないだろう。緊急の配備命令により、部隊の多くは完全な準備が出来ておらず、ルクラとサッホからの援軍は、輸送手段の不足により、装甲・歩兵支援抜きで移動せねばならなかった。

 CCAFにとっては奇跡的なことに、支援部隊の不足をのぞいては、たいした問題もなくフレッチャーに部隊を集結できた。だが、そのときにようやく、彼らは命令系統がどうなるかを知ったのである。侵攻に参加して生き残った数少ない連隊指揮官としての経験を持っていることから、戦略局は第11シーアン竜機兵団のサスカ・ローリー大佐を全作戦の指揮官として任命し、第24のダンラディ・ラジク大佐を次席とした。

 時間を無駄にすることがなかったローリー大佐は、2805年9月18日、全戦闘集団をオリエント星系にジャンプさせた。

 カペラによる三度目のオリエント侵攻は、惑星天頂点にいた地方軍降下船2隻、商業航宙艦1隻の破壊から始まった――これが惑星接近の上で起きた海戦のすべてだった。18日間の移動の間、ローリー大佐と他の連隊指揮官たちは、最初に攻撃する優先目標のリストを作り、第二目標と機会があったら攻撃する目標のリストを作った。過去の侵攻の知識を使ったローリーは、戦艦が残った地対軌道ミサイルサイロを避けて軌道に入る最良の進路を特定した。メック部隊を降下させるあいだ、彼らはオリエント気圏戦闘機のわずかな抵抗に遭遇しただけであり、その多くは即座に撃退された。

 カペラ兵は直ちに上陸し、各連隊はナヴァール大陸の第一目標に急行し、地元防衛隊(薄く引き延ばされていた)の控えめな抵抗に遭遇した。上陸から2日以内に、カペラ大連邦国は首都カディスがある盆地周辺の4つの航空宇宙港を占拠した。他に奪い取ったのは、発電所いくつかと兵士たちが再配置されたらしき軍事基地2箇所であった。

 以前の侵攻と違って、大連邦国の三度目のオリエント強襲は子供の遊びのように展開した――よってローリー大佐は全体が同盟の罠のようなものと思った。引き続きカディスを包囲し、気圏戦闘機と間接砲が残った大型ランチャーサイロを狙い破壊するのを急がせたローリー大佐は、進捗状況の報告を部下にせっつくようになった。彼女はますますパラノイアになり、マイクロマネージングするようになって部下たちを苛立たせたが、11月半ばまでに首都の包囲は完了した。

 カディスの戦いが本格的に始まると、ローリー大佐の恐れていたニュースがついにやってきた。〈ダンカン・リャオ〉によって伝えられたそれは、天頂のジャンプポイントからの逆上した救難連絡だった。自由世界同盟の航宙艦と戦艦が出現したのである。マーリック家のオリエント救援部隊がやってきたのだ。

 同盟商船隊の連絡によって、サディアス・マーリック総帥はカペラとほぼ同時にアリソン公爵がオリエントを発ったことを知った。公爵が音を上げると予想したマーリック総帥は戦艦と連隊群をレグルス公国からティンタヴェルに動かす命令を送った。当初、マーリック総帥はこの戦力をまずフジデラとフレッチャーに送り、そこを拠点として、大連邦国の進撃を押し返すことを計画していた。

 だが、そのときリャオ家がオリエントに三度目の強襲を仕掛けたとの一報が届いた。今回はカペラが不運によって蹂躙を妨げられることがないのは確実だった。マーリックは全タスクフォースをオリエントに送ること対応した。与えられた命令は、オリエントの侵略者を殲滅することである。

 〈ビスマルク〉――自由世界同盟海軍から急速に減少しつつあるイージス級戦艦の1隻――に率いられた自由世界同盟の艦隊は、オリエントの天頂点に出現し、カペラの輸送航宙艦の大半が近くにいるのを見た。冷酷なまでの効率を持ってして戦艦は敵艦が地上の味方に警告する前に破壊すべく動いた。警告を発するのを止めることはできなかったが、マーリック艦隊は大連邦国の航宙艦2隻を拿捕し、残りを到着から20分以内に撃沈してのけた。

 駆逐艦2隻を地上部隊の護衛に送り、残った戦艦――〈ビスマルク〉とソーヤル級巡洋艦〈カルカ〉〈マカラ〉――は、ドライブを再充電するだけその場に残り、オリエントで一番都合の良い月ラグランジェポイントに星系内ジャンプする計算をした。惑星にある2つの衛星によって事態は複雑になったが、同盟の航行士は地上部隊が到着する前にジャンプ実行できる適切なポイントを探し出してみせた。〈ビスマルク〉が最初にジャンプし、軌道上にいたカペラ艦を驚かせ、〈ダンカン・リャオ〉に素早く近寄った。〈カルカ〉と〈マカラ〉はその数分後に跳躍して、火力支援し、必要なら伏兵と交戦する準備を行った。射程内に近づくと、両艦は搭載していた戦闘機を発進させた。

 カペラの戦艦は数的優位を享受し、戦艦〈ダンカン・リャオ〉をヴィンセント級コルベット4隻とエセックス級駆逐艦2隻が支援したのだが、自由世界同盟側の艦は遙かに良い状態で戦闘に入り、多数の戦闘機支援を持ってきていた。30分にわたる軌道上の砲撃戦が終わったあと、カペラのコルベットは4隻すべてが破壊され、生き残った駆逐艦は降伏し、〈ダンカン・リャオ〉はオリエントの重力井戸に落ちて行く残骸の雲となった。引き換えにマーリックの戦闘団は〈マカラ〉を失い、〈ビスマルク〉はK-Fドライブシステムに壊滅的な損害を受けた。FWLMの戦闘機1/3以上も失われ、一方の大連邦国側は1個航空中隊程度が生き残り、地上に逃げていった。

 地上フェーズに備えて同盟のタスクフォースが惑星の軌道上に滑り込むまでに、地上のCCAFは防衛部隊の残存兵力を撃破するか撃退し、カディスの占領を成し遂げていた。いまや大連邦国の兵士たちは、首都全域と、ナヴァール大陸の主要工業・軍事拠点の大半を占拠していた。カペラ兵の多くが戦闘と消耗品の不足で疲弊していたが、戦場での回収品と猛烈な工事作業によって、来たるべきマーリックの強襲に備えて立て籠もることが可能となった。

 彼らが長く待つことはなかった。12月18日、完全な軌道優勢と重航空宇宙支援の下、自由世界同盟は4個バトルメック連隊と12個装甲・歩兵連隊をオリエントに降下させた。これら戦力の半数は首都に直接移動し、残りは地方の主要基地・空港を奪還するために散らばった。占領した目標の中に囚われ、艦隊の壊滅で脱出する望みを失ったカペラ人は、窮鼠猫を噛むような獰猛と絶望を持ってして戦い、一部は必然的な最期を避けるために戦術核を投入しさえした。

 2806年の第一週までに、オリエントに侵攻したすべてのCCAF兵が撃破されるか捕まるかした。1個メック連隊、1個装甲・歩兵連隊が星系内に残されて再建の支援をする一方、マーリック軍は戦闘が終わってから一ヶ月もしないうちにオリエントから移動した。この年のうちに、これら兵士たちはフジデラ、フレッチャーのみならず、カペラ国境のルクラとサッホを奪還した。


戦後 Aftermath

 この最後の悲惨な敗北の後、CCAFの戦略局は同盟方面において防衛のみの戦略を採らざるを得なくなった。大いに失望したイルザ・リャオ首相は「全面的無能」を理由に軍事顧問のうち2名を解任し、海軍戦力の大半をマーリック家による襲撃を鈍らせるかひるませる希望を託して同盟国境をカバーさせる命令を出した。

 大連邦国が同盟に対して防衛的なスタンスに立ち返ると、この国境での戦争は襲撃と小規模な海戦の乱打戦となり、最終的に両陣営の資源をすり減らすだけに過ぎないものになったのだった。








継承権戦争の奇妙な出来事 ODDITIES OF THE SUCCESSION WAR


ヘルム事件 INCIDENT ON HELM

 ブラスリング作戦の前に、ドラコ連合は自由世界同盟に深襲撃を仕掛けるという似たような図りがたい決断を下していた。2788年、DCMSの1個連隊が2隻の駆逐艦に護衛されて、旧帝国国境から自由世界宙域へジャンプ数回の位置にあるヘルム星系へと送られた。フリーポート近くの要塞化された施設内にSLDFの大規模な備蓄が残されているという報告を元に行われたこの攻撃は、備蓄を奪うためにミノル・クリタ自身が命令を下したとされている。激しい抵抗が予想され、また都市直下のキャッスルブライアンを突破する必要があったことから、ドラコ連合兵は充分な核弾頭と爆薬を装備していた。

 5月半ばの襲撃の時点で、同盟は地球帝国の征服を支援するために戦力を移したところで、ヘルムには装甲・歩兵がほとんどの地元市民軍を残していっただけだった。オラフ・ナンセン大将の下、クリタの襲撃部隊は、フリーポート市で手早く市民軍兵士を片付け、小規模なバトルメック部隊を追い払い、備蓄の捜索を開始した。バンカーを爆破して突破するのに8時間かけた後で、見つけたのは空っぽの倉庫と無価値になるまで剥ぎ取られた補助施設だけだった。すでに張り詰めていたナンセン大将は、情報を求めて捕まえた地元民を拷問することから始めた。その最中、ゲリラグループがフリーポートに侵入するのに成功してクリタ人を待ち伏せし、激しい市街戦でDCMSのメック1個中隊近くが犠牲になった。

 怒り狂い、自由世界同盟軍がとっくに施設を略奪済みだと確信したナンセン大将は、都市から兵を引き上げさせ、軌道上からの核攻撃を要請した。降下船に戻り、宇宙に上がった後、ナンセン大将は核攻撃の範囲を拡大して、惑星上の大都市いくつかを狙い、タスクフォースの戦術ミサイルがなくなるまで撃ち続けるように命令を出した。DCMS襲撃部隊は手ぶらで帰還したが、ヘルムの住人9000万人を殺害するか、立ち退かせ、惑星の大きな部分を放射性廃棄物に変えた。

 [編集者注:ナンセン大将の時代にはわからないことだったが、SLDFの備蓄は星間連盟の工兵によって隠されており、同じくSLDFの航空宇宙ベイが現地の小惑星帯に隠され、数世紀を生き延びた]


なぜ、ウェストファリア? WHY, WESTPHALIA?

 DCMSのヘルム攻撃に比べると、ライラが出資したウェストファリア襲撃は、破壊の規模こそ小さかったものの、はるかに首をひねるものであった。2815年、フリーマン・ファナティクス傭兵大隊が、この水豊富な世界に上陸し、CCAFの第1チェスタートン・ヴォルティジュールと交戦した。数週間にわたって、ファナティクスとヴォルティジュールは島から島を飛び回る鬼ごっこを繰り広げ、最終的に傭兵のメック1個中隊強が犠牲となった――重メックの1個小隊は、カペラの高機動偵察マシンに落とされたものだった。

 ウェストファリアへの襲撃から数世紀が経った現在、攻撃の意図は謎のままとなっている。ライラはカペラと国境を接しておらず、交戦する理由はないはずだった。さらに、軍事産業や技術研究所がないことから、ウェストファリアには戦略的な価値がほとんどなかった……唯一、ダヴィオン国境とチェスタートン地方に近いことで、CCAFは駐屯部隊を置いていたのである。

 LCAFの作戦記録は第一次継承権戦争の戦火の中で失われており、なぜライラの利益にかなわない無価値な目標を叩くために傭兵部隊が雇われたのか、共和国の歴史家たちですら説明できないでいる。現在、もっともありえそうな説は、この地域の情報を収集するために送り込まれ、脱出不能になったスパイを救出するべく、フリーマン・ファナティクスが送られたというものである。これよりもっと過激な――それでもいくぶんもっともらしい――説は、リャオ家とシュタイナー家の同盟(自由世界同盟と戦うためのもの)に関する話し合いが失敗した結果、起きたというものである。


ロッキーの戦い The Battle of Rocky

 元地球帝国の世界を巡る破滅的な戦いの中で、ロッキーは第一次継承権戦争においてダヴィオンとシュタイナーが直面した数少ない例の一つとなっただけでなく、ステファン・アマリスの帝国軍残党が姿を現したことで状況が悪化した実例となった。

 LCAFがロッキーを奪ったのは2785年のことで、そのときに地元民から、AEAFの孤立した部隊が地球解放の直後からケーヴィングウッドの港町廃墟跡に隠れていると聞き及んだ。それ以来、追い剥ぎになった元共和国の兵士たちは近くの町いくつかを獲物としていた。事実上軍隊のなかったロッキー市民は、喜んでライラ共和国軍にそれを教えた。AFFSの部隊が到着し、ヘスペラスでの失敗の復讐を決意した時、ライラ人はまだ山賊狩りをしている最中であった。

 ダヴィオンをより大きな脅威になると判断したシュタイナーは、交戦するために海賊狩りを切り上げた。LCAFとAFFSの部隊が首都から100キロメートル離れたところで激しく戦っていたそのとき、アマリスの残党がライラの司令本部を叩いた。アマリスがダヴィオンと組んでいると確信し、大胆な直接攻撃で不意を打たれた共和国指揮官はパニックに陥った。アマリスを終わらせ、新たな侵略者たちに教訓を与える決意を固めた彼は、ケーヴィングウッドに戦術核攻撃の命令を下し、首都近くのAFFS上陸地点に対する爆撃を要請した。軌道上にいたダヴィオンの戦艦は同じやり方で反撃し、共和国の陣地に核弾頭の艦載級ミサイルを放った。

 核攻撃のエスカレートは、アマリス危機ですでに耐えがたい打撃を受けていた惑星の状況をさらに悪化させた。放射性降下物と空を舞う核の灰に挟まれた惑星は氷河期の始まりを迎えており、先細りする人口を支援するインフラは事実上存在しなかった。LCAFとAFFSは約1個大隊の兵士をロッキーから脱出させることに成功したが、アマリス軍はそれ以来見かけられることがなかった。


ティルヴィングのホロコースト THE TYRFING HOLOCAUST

侵攻軍:
 AFFS: 第4ダヴィオン近衛隊、第5ドラゴンロード
 LCAF: 第7ドネガル防衛軍、ステルス
 DCMS: 第8〈光の剣〉、ブラックシャーク(傭兵)
 CCAF: 共和区知事警護隊、アリアナ擲弾兵隊
 *元第23アマリス竜機兵団

防衛側:
 FWLM: 第23マーリック国民軍、第3オリエント軽機兵隊、第7オリエント軽機兵隊

 星間連盟時代のティルヴィングは、地球帝国の地方主星となっていた。2300年代半ばに植民されたこの重工業世界は、アマリスの反乱時には約30億人の市民がおり、洗練された宇宙防衛システムと5つ以上のブライアン城塞を備えていた。帝国でも有数の自然環境でも有名であり、1000キロにわたってみずみずしい草原が続くグレートクリスタルバレー、表情豊かな雪化粧の山脈に挟まれたエキゾチックな森林地帯、谷のあちこちで明るい色々に輝く自然に成長したクォーツのような水晶などがある。

 ケレンスキーの帝国解放戦役のあいだ、ティルヴィングはSLDF第5軍(第12艦隊の支援付き)の目標となった。この惑星を巡る戦いは長く血塗られたものとなり、アマリス帝国の防衛軍は星間連盟軍が降下するとすぐに核兵器を投入した。民間人が死ぬのを食い止めるため、星間連盟軍はアマリス帝国の兵士たちを要塞に追い立て、封じ込める一方で、民間人を安全な場所に移したり、惑星の外に脱出させるのにマンパワーの大半を費やした。侵攻の指揮官、SLDFのソルハイム将軍が、それ以上の民間付随被害を最小限に出来ると感じると、敵の占領する要塞への最終攻撃を命じ、軌道砲撃と「外科手術的な(精密な)」核攻撃で粉砕した。

 2777年半ばに包囲が終わると、惑星のインフラと経済は崩壊し、各種の核化学兵器を使ったことで生態系にひどい被害が出ていた――戦役の初期に鉱業都市群から汚染が広がってコントロール不能になったことで、惑星の大部分は住めないようになった。戦後、ケレンスキーがエグゾダスする時期までには、再建が始まっていたが、惑星の大気と天候が悪化するに従い、地元の民衆が移住していくのを止められることはなかった。それでも、星間連盟崩壊直後の時期、ティルヴィングは自由世界同盟にとって重要だと見なされ、併合された。

 2788年後半、継承権戦争が始まってからわずか3年後、いまだもがいていたこの惑星はまたも攻撃を受けた――1国のみならず、大王家すべての侵攻がやってきたのだ。星間連盟とアマリス軍が大規模な武器の備蓄を残していったと言う報告から(またマーリック家が残った惑星SDSネットワークの再起動を進めているという噂から)、7月にライラ共和国とカペラ大連邦国の襲撃部隊がまず最初に到着し、互いにぶつかりあい、FWLMの防衛部隊を攻撃した。8月後半、ティルヴィングを賭けた三つ巴の戦いに恒星連邦の攻撃部隊が加わった。恒星連邦はクリタ家を撃退するために、星間連盟の技術がどうしても必要になりつつあったのである。ドラコ連合は恒星連邦の遠征を妨害するか、あるいは技術的優位を得たくて、10月に自軍を上陸させた。

 ティルヴィングを巡る五つ巴の戦いは、10年前よりも核化学の恐怖を惑星にまき散らし、残った大都市とキャッスルブライアンをほぼ抹殺した。繰り返される小競り合い、一時的な同盟、当然の裏切りによって、勝敗を決するのはほぼ不可能であった……30年後と同じように。

 最も劇的な撃ち合いはグレートクリスタルバレーで発生した。かつては惑星で一番だった息を飲むような鮮やかな風景の中で、惑星上にいる全11個バトルメック連隊がぶつかったのである。6日間におよぶ5すくみの戦いで、いまや毒に冒されていた森林地帯の残りは切り裂かれ炎上し、象徴的な往古の水晶の大半は踏みつけられ、吹き飛ばされて塵になった。

 2789年2月後半、侵攻軍最後の船が出発するまでに、ティルヴィングは復興できる状態を越えていた。完全な形で残った工業都市はなく、住人は800万人以下となっていた。参加したメック連隊のすべてが多かれ少なかれ生き残ったものの、大連邦国のアリアナ擲弾兵隊など一部の連隊は、再び戦場に戻るまでに大規模な修理と再編が必要となった。

 対称的に、支援する各種の地上部隊はそれほど幸運ではなかった。核化学兵器が蔓延ったことと、アマリス危機の時から汚染物質が残されていたことで、各歩兵部隊には重い被害が出て、戦闘終結時に元の戦力の12パーセント以上を数えた参加部隊はなかった。車両、気圏戦闘機部隊は、それより少しだけマシだったが、それでも第23マーリック国民軍で戦闘可能な通常支援部隊は元の戦力の20パーセント以上程度だった。

 戦闘後、ケニオン・マーリック総帥は特殊防護回収チームに、キャッスルブライアンの廃墟から出来る限りの装備を開始をするように命じ、それから残ったものを焼き尽くした。その後、ティルヴィングの駐屯部隊は、特殊環境部隊になる一方、ボランティアと政府各局が地元の生存者に対する救援を実施した。継承権戦争が終わるまでに、ティルヴィングの人口は約500万人と推計され、いまだ人口減少が続いている。その理由の大部分は、戦闘が引き起こした汚染物質の後遺症によるものであり、事実上医療インフラがないことによるものである。2824年、自由世界同盟政府は公式にこの星系を隔離処置した。



イングレスモンド包囲戦 The Siege of Inglesmond

 地球帝国の世界、イングレスモンドはアマリス危機を相当に良い形で生き残った。その理由の大部分は、民衆が合法的な帝国政府と見たものに対して戦うのを嫌がったからである。アマリス時代、イングレスモンドの市民たちは、この決断に対する不安を募らせていったが、公然と反乱することはなかった。ケレンスキー将軍が地球を解放すると、イングレスモンドは勝利を受け入れ、帝国が栄光を取り戻すのを楽しみに待った。だが、2782年までに、状況が厳しいこと、復興を座して待つのは自殺に他ならないことが明らかとなり、そのあいだ王家君主たちは星間連盟を救うのに失敗した。

 ローンスター管区の他の惑星政府と同じく、自分たちで問題を解決することにしたイングレスモンドは、近くの惑星いくつかに手を伸ばして、地元の工業を戦時生産に移行した。2785年末までに、こういった努力はいくらか実を結んでいた……新しい戦闘艦を建造するため軌道造船所のアップグレードを急ぐ一方、星間連盟最新鋭の装備を持つ装甲軍が同盟相手のアルジェディ、カーヴィル、スークの防衛を助けた。残念ながら、そのときまでに、王家君主たちは地球帝国の残した豊かさに目を向けており、ドラコ連合が元帝国の惑星を圧倒しているところだった。

 2786年のはじめ、イングレスモンドの兵士たちはDCMSの侵攻と戦った。彼らは同盟星系の陥落を防ぐのに失敗した一方、抵抗によって帝国の民衆がまだ戦力を残していることを龍に教えたのである。それに応じて、2787年、ドラコ連合の襲撃部隊がイングレスモンドを直接叩き、造船所で一部建造されていた戦艦数百万トンを破壊した。残忍なクリタによる侵攻が避けられないことを理解したイングレスモンドの政府は、クリタの敵――ライラ共和国と恒星連邦――に助けを求め、どちらか守ってくれた方に忠誠を誓うとした。

 他の部分での戦いで手一杯だったライラ共和国と恒星連邦は、表向きすでに完全包囲されていた惑星の突破を助けるため、小規模な「調査隊」をイングレスモンドに送り込んだ。彼らの到着は問題をさらに悪化させただけで、事態は帝国の裕福な星系の支配権を巡る四つ巴の紛争に突入した。自分たちの力では惑星を手にできないとよくわかっていたダヴィオン軍とシュタイナー軍は核兵器による焦土戦術に出て、クリタ侵攻軍の優位を妨げるのに必死であった。DCMSは同じやり方で応じた。イングレスモンドの大都市と工業地帯は破壊され、2788年の終わりまでに惑星政府とインフラのすべてが完全に崩壊した。最終的にドラコ連合が放射性のちりに覆われた惑星を手にした。10年後、回収できる資源を漁り取った後、クリタ家は核の冬という苦しみに残されたすべてを置き去りにしていった。直後、おざなりな生存者捜索によって廃墟の中に生命の徴候がないのを確認すると、コムスターの地図作成サービスはこの世界を地図から外した。


散り散りになった槍機兵団 The Scattered Lancers

 星間連盟が崩壊に向かう中で、数多のSLDF隊員たちが運命を食い止めようとして途方もないダメージを受けた。そのうちのひとつが第238機械化歩兵師団(チェコ槍機兵団)である。タウラスが背後にいる海賊攻撃、テロリズムに長らく苦しめられてきた槍機兵団は、2765年にニューファンデンベルク暴動が始まった時には、士気の低下に苦しみ、周りが敵に見えるようになっていた。

 タウラス連合の恒星連邦国境に近いところに駐留する第238師団は、この危機を収めるために動いた最初の師団であった。驚くほど装備の良い分離派部隊との激しい戦いで痛めつけられたチェコ槍機兵団は、2767年、ケレンスキーの手で公式に解散させられた。第238師団、第2機械化歩兵旅団の約1/3とバトルメック連隊は、他の部隊に組み入れられ、残りは――4個大隊規模のメックと歩兵は――予備要員となった。

 2771年、ケレンスキー軍が地球解放という最後の戦役の準備に乗り出したころ、予備にあった槍機兵団の1個大隊が辺境でAWOL(無許可離隊)した。カロン・チルドレンと名乗る大隊は、次の数年間、元辺境世界共和国の星々を食い物にして自らの摩耗を早め、中心領域を通過し、トルトゥーガ・プライム周辺の海賊地帯に消えていった。

 4年後、アマリス危機と星間連盟議会の崩壊をきっかけに、ライラ共和国の代理人たちがチェコ槍機兵団の予備になった生き残りに接近し、雇い入れようとした。だが、この時点までに、生き残ったSLDF兵士たちの間で緊張が高まり、暴力にまで波及しており、1個大隊分以上の槍機兵団メック戦士が地元の営倉に入れられ、味方の戦士たちに監視された。大勢を雇用しようとした共和国の勧誘員はまず囚人たちに近づき、指揮官のディヴィッド・クリン大佐から、自由と引き換えにLCAFに加わるとの誓約をすぐに得た。

 ライラの代理人たちが、囚人たちを「買う」と持ちかけると、槍機兵団のあいだでさらなる紛争が持ち上がった。リオネル・シャッファー大佐の指揮の下、機械化歩兵部隊はいまだケレンスキーに身を捧げており、このような取引を考慮することさえも断固として拒否した。レイシー・マギル大佐を筆頭に受諾に傾いていた者たちは、秘密裏に勧誘員に会って取引を持ちかけた……要求した金額、大隊の拘束契約、LCAFのメック若干数の貸し出しを条件に、刑務所破りをして投獄されている者たちを救出するというものである。このやり方なら、ケレンスキー忠誠派は理想を裏切ったと感じることはなく、LCAFはSLDFで訓練された1個大隊を手にし、レイシー・マギル大佐は自分の大隊を傭兵として率いることが出来るだろう。

 ライラの勧誘員たちはこれを受けたが、マギル大佐が予想していなかったのは、シャッファー大佐のケレンスキー忠誠派たちがいかにクリン大佐と部下たちを守るために戦い続けるかだった。マギル大佐の戦士たちがLCAFのマシンで刑務所施設に近づくと、発生した撃ち合いの中でシャッファー大佐の機械化歩兵2個中隊以上が死亡し、メック中隊の1/3が破壊された。マギル大佐の部隊は上手くやってのけて(いくらかのダメージを受けたが)、刑務所施設を脱するのに成功した。

 事件のあと、クリン大佐指揮下の元捕虜たちはLCAF第8ライラ正規隊の中核となり、マギル大佐の大隊はアイアン・レイヴン傭兵団として再組織された。メックと歩兵の1個大隊以下となったチェコ槍機兵師団のわずかな生き残りは、翌年、ケレンスキーのエグゾダスに加わって、歴史の中に消えていった。








台風の目(2821年〜2830年) EYE OF THE STORM (2821-2830)





平和の序曲 PEACE OVERTURES

 2820年代までに継承国家のすべてが疲れ果て、攻勢作戦を実施するのは難しい状況となった。紛争が止まると、水面下での交渉が始まり、平和の展望が暗示された。


武器よさらば A Farewell to Arms

 第一次継承権戦争で使われた兵器は、星間連盟製のものであった……長射程PPC、パルスレーザー、ストリークミサイル等々。メック、戦車、戦闘機は、高度な装甲複合材と構造部品を用い、それが〈戦い〉の時代や継承権戦争後期よりも、機体を軽量で高速なものとしていた。だが、このような高度な部品の生産は、洗練された工業能力を必要とし、第一次継承権戦争でインフラが狙われる中で、それはすぐに問題となった。

 生産地点の多くがくすぶる廃墟に変わるその前に、中心領域の技術基盤の崩壊はゆっくりと始まっていた。貿易の崩壊によって、全面戦争が始まりすらする前に、軍需物資を生産するのに必要な重要資源が不足するようになっていたのだが、アマリス危機中に備蓄を積み増したことで、大王家は第一次継承権戦争が始まる前に大規模な生産を続けることができた。その大きな例外は、戦艦の生産のような超巨大な消費者である。砒化ガリウムなど稀少な素材の不足によって、ケレンスキーが出発すらする前に、これら巨大船の建造は止まっていたのだった。その結果、地上部隊は大きく成長する一方、海軍が拡大することはほとんどなかったのだ。これが意味するところは、第一次継承権戦争での大規模な海軍の損失を補充できず、ダウングレードされた技術を配備することができないということだった。

 地上部隊にとって、技術凋落の最初の徴候は、高度な弾薬の不足が悪化することであった。紛争が始まってから最初の数年で備蓄は消費され、弾薬工場は戦争の目標となりさえするその前に、需要に応えるべく奮闘していた。各部隊はスマート弾頭の代わりに地元で生産される劣った弾薬を使わねばならず、スマート弾頭はたいていが上級の部隊に回された。だが、2790年代半ばまでに、それらを生産していた弾薬工場は消し炭となりはてるか、重要な部品、素材を欠くこととなり、エリート部隊でさえも高度な弾薬を取り上げられことになったのである。

 同様に、装甲と武器の交換部品はますます乏しくなり、野戦修理では先進のシステムを洗練されてないが手に入りやすいバージョンに交換することがしばしば求められた。「フランケンメック」が現代の道理となり、稼働状況を保つために応急修理されたシステムと「フィールド・ダウングレード」がしばしば用いられた。

 新型の車両も似たような問題に直面した……生産ラインは星間連盟スペックのウォーハンマーを生産できるかもしれないが、ERPPC、装甲部品、電子装備を欠いていた。代わりに、段階的にダウングレードされた仕様が使われた――通常型のオートキャノンがウルトラ型に置き換わり、ERレーザーを通常型にするなどである。直ちにローテク機種が登場することはなかった……その代わりに、星間連盟時代の「ロステック」バージョンから、MAD-3Rマローダーなどの機種がゆっくりと現れた。

 それにも関わらず、星間連盟の機体・仕様は、メック、戦車、戦闘機の主流であり続け、29世紀前半の第一次継承権戦争終わりまで使われた。第二次継承権戦争の残虐さ(そして第三次継承戦争の長期化)は、軍事技術をどん底にまで落とし、それから31世紀前半にゆっくりと回復することとなる。

 先進装備がますます不足する一方で、第一次継承権戦争の最初の20年は、新しい部隊を立ち上げるだけの充分な生産がまだ存在した。これらの部隊、第16ライラ正規隊などは、たいてい戦前の兄弟部隊よりも装備が悪かった。大王家が既存の装備や部隊を維持するのに難儀するほど生産量が落ちるのは、第一次継承権戦争の終わりにさしかかってから、とりわけ第二次継承権戦争の最中である。








第一次継承権戦争(2784〜2821)の人物


ミノル・クリタ MINORU KURITA
階級/地位: ドラコ連合大統領(2766年〜2796年)
生年: 2705年4月30日〜2796年9月14日

 ドラコ連合を継承権戦争に導いた男、ミノル・クリタは星間連盟最期の日々を見届けたのとまったく同じ男ではなかった。第一君主の王座を諦めたことはなく、そのための戦争の権利を放棄することはなかったが、ケレンスキー脱出艦隊が出発したことは彼に重要だが小さい影響を与えたようだ。その後の日々において、大統領は疲れ果て、物思いに沈んでいった。

 ミノルの態度が変化する、最初の、そしておそらく最も表立った徴候は、第一次継承権戦争が始まってからの数年間でやってきた。大統領はどちらの敵を試すのかについて話し合い、ライラ共和国が明白に脆弱だったにもかかわらず、恒星連邦への攻撃を選んだ。この決断は、名誉ある連合の伝統に基づくものだったが、それにも関わらず優柔不断さを見せるものであった。まさか最初に第一君主の称号を求めた人物がこうなることを予想していた者はほとんどいなかった。ダヴィオン家との戦争計画を、息子であるジンジローに任せたことは、ミノルが大統領としての負担で疲れ果てていたことを強調するのみだと学者たちは見ている。

 2790年代の半ばまでに、年老いた大統領はかつてのような野心的な人物ではなくなっていた。ドラコ軍が恒星連邦の主星までわずかジャンプ一回のところまでに迫ったとき、ジンジローに最後の一撃を待つよう助言したのが彼であった。この運命的な決断によって、彼は知らず知らずのうちに、ケンタレスIVという目立たない惑星で最期の瞬間を迎え、星間連盟崩壊以来達成してきたものすべてを無に帰す舞台を整えてしまったのである。


ジンジロー・クリタ JINJIRO KURITA
階級/地位: ゲイルダン元帥(2777年〜2796年)、ドラコ連合大統領(2796年〜2837年)
生年: 2747年9月15日〜2841年4月11日

 父の死に対する反応――ケンタレスの虐殺――によって、また晩年の数年間によって、ジンジローは中心領域に殺戮をもたらすサイコパス的な狂人として描かれてきた。現実はもっとニュアンスのあるものである。彼はゲイルダン軍事管区を指揮するまでに昇進した熟練の戦士にして指揮官であり、彼の作戦計画によって第一次継承権戦争の初期にドラコ連合は決定的な成功を収めたのだった。

 ルシエンでヘヴンズゲート(ミノルのお気に入りの内妻)から生まれたジンジローは最初の十年間、政治的に無視され、数多の陰謀の種となった。母親の策略によって、ようやくミノルはジンジローを息子・後継者として認識したが、母親の生命が代償となった……ミノルの妻、イボンヌ・トシ=クリタ(ザブ・クリタを妊娠して6ヶ月だった)がこの愛妾を宮殿の城壁から突き落としたのである。クリタの伝説によると、ヘヴンズゲートは息子の腕の中で息を引き取り、彼女が殺されたことで継承権戦争におけるジンジローの行動に影響が与えられたという。

 母の死後、ジンジローは新しい人生に身を投じて、成長を目指し、腹違いの兄弟がジンジローの不安定な立場を揺るがすのを阻止しようとした。ジンジローはサン・ツァン・メック戦士兵学校をトップの成績で卒業し、ゲイルダン正規隊の中に地位を得た。彼は身動き取れないザブを人生から追い出すことも出来たが、そうはせず完璧な兄となった。ジンジローが持つ軍事スキル――そして弟が学問に傾倒していったこと――によって、ジンジローの指名後継者としての立場は固められた。2777年、ジンジローは最年少でゲイルダン元帥となった。身内贔屓が任命の主要因でないことは、軍事スキルと奮起を促すリーダーシップを見れば明白であるが、身内贔屓について示唆した者はジンジローの伝説的な短気を目の当たりにしたのである。

 第一次継承権戦争が勃発する時点で、ジンジローは父に脆弱なライラ共和国を無視して、恒星連邦を攻撃するよう説得した。当初、ケレンスキーのエグゾダス後に活発化した軍事活動に隠れて実行されたジンジローの計画は、細心の注意を払っており、ダヴィオン一族を殲滅する寸前であった。ターニングポイントは2796年の惑星ケンタレスにやってきた……ミノル・クリタ大統領が、第7南十字星部隊に対する作戦を視察中、一人のスナイパーに殺されたのである。2週間後、惑星に到着したジンジローの反応は、人類史上で最も血塗られた残虐行為となった……ケンタレスの虐殺である。5ヶ月におよぶ大量殺戮で5000万人以上のダヴィオン市民が殺された――元大統領を守るのに失敗した者たち、事件を伝える気概が足りなかった者たち、蛮行の最中にダヴィオン市民を守ろうとした者たちも同様で、少なからぬDCMS軍人が殺された。

 新大統領の手腕はその後の数年間で不首尾に終わった……才能のひらめきを見せたものの、その戦術は残虐さを増して失敗したのである。DCMSがつまずき、地歩を失うと、精神的に不安定な大統領でさえ自国の伝統――後退を拒否して、不名誉をそそぐために切腹する――を脇に置かねばならないことに気がついた。皮肉にも、同時期、決闘的なスポーツがドラコ連合のエンタテインメント分野で人気になっていた。

 2820年代半ばまでに、ジンジロー卿は狂気に陥る寸前となり、正気である期間はごくわずかとなった。大統領は知的な腹違いの弟にその座を譲ることがドラコ連合にとって災厄になることを知っていた。第一次継承権戦争が引き分けに終わっても、ジンジローはドラコ連合の手綱を握り続け、DCMSの力を強化しようとした。

 最終的に狂気が大統領を蝕み、ザブが後を継ぐという彼の恐怖は、DCMSの一部による直接的な行動で和らげられた。ジンジローは弟より長生きしたが、最後の5年間は正気を失っていたのだった。


イルザ・リャオ ILSA LIAO
階級/地位: シーアン女公、カペラ大連邦国首相(2801年〜2828年)
生年: 2783年4月19日〜2828年6月23日

 イルザ・リャオは、父バルタザールがキャロウェイIVの大敗で死んだ時にわずか6歳であり、祖母が他界した6年後に大連邦国の後継者となった。サンドル・クインが首相代理を務めるなか、イルザは複雑な政府の中に身を投じ、シーアン宮廷の暗くて陰鬱な政治を通り抜けるすべを学んだ。少女時代はほとんど戦闘に興味を持たなかったが、彼女はバトルメックの操縦を学び、16歳の時に紅色槍機兵団に2ヶ月勤務した(ミラクへの大胆な襲撃にも参加した)。彼女は軍事的な問題を後の軍事戦略長官であるクインに任せることを好んだ。しかし、彼女は軍事行動の政治的な意味をよく理解しており、隣接する大王家の行動と反応に強い関心を示した。

 2801年、首相に就任した後、彼女は軍事作戦に対してより実践的なアプローチを取るようになり、前線部隊を巡回して、時折は交戦に参加することすらあった。前任者のクインのように、彼女はそこにいるだけで兵士たちに影響を与えることを認識しており、チェスタートンの世界を奪還する時が来た際には、前線から指揮することを選んだ。それは致命的な決断であった……イルザは第二次継承権戦争の開幕戦であるオルビソニアの後衛戦で戦死し、戦闘で死亡した最初のカペラ首相となったのだ。








テクニカルリードアウト


ヴァルキリー VLK-QA VALKYRIE
重量: 30 トン
シャーシ: コリアン・モデル1AA
パワープラント: オムニ150
巡航速度: 54 キロメートル/時
最高速度: 86 キロメートル/時
ジャンプジェット: ノース・インダストリーズ3S
 ジャンプ能力: 150メートル
装甲板: レイズ470
武装:
 スーテルIX中口径レーザー 1門
 ディヴァステイター・シリーズ7 LRM10 1門
製造元: コリアン・エンタープライゼス
 主要工場: ニューアヴァロン
通信システム: Lynx-shur
照準・追尾システム: Sync-Tracker (39-42071)




概要
 元々VLK-QAヴァルキリーは、内戦直後に星間連盟が発注したものだった。注文時には、国家間のビジネスがすぐにも平常通りに戻ると信じられていたのである。SLDFに補充の必要性があると予想していた大王家の利益を重視する軍事技術産業は、需要を取りに行く準備を整え、意欲を持ち、それが可能だった。従って、コリアン・エンタープライゼス社(SLDFと取引していなかった最大の非地球系防衛産業のひとつ)は、「軽量級火力支援機」とマーケティング部門が銘打ったマシンの契約を簡単に勝ち取ったのである。

 1機目のヴァルキリーがニューアヴァロンの生産ラインから出る前に星間連盟が崩壊すると、これらのマシンはすぐにも包囲されることとなる恒星連邦の軍隊に向かった。



性能
 軽量級メックとして、ヴァルキリーは同世代の平均の地上速度しか持っていなかった。最大時速90キロメートル以下、150メートルのジャンプ半径という機動性は、シャドウホークやグリフィンのような最高級の中量級メックと同じである。だが、これは受け入れられるものと考えられている……なぜなら戦場での役割が、追撃・偵察よりも、火力支援に比重を置いたものだからだ。接近戦に向いた軽量級メックと共に行動するのを前提にしているヴァルキリーは、僚機が狩猟犬とすれば、狩人の役割を果たす。ヴァルキリーが遠距離からターゲットにミサイルを浴びせる一方、僚機が敵の装甲を素早い攻撃で傷つけるのである。



戦史
 ヴァルキリーは2787年にデビューした――それは第一次継承権戦争に入ってからかろうじて1年、ドラコ連合が国境広く恒星連邦に強襲を仕掛けてわずか数ヶ月後だった。DCMSが惑星を次々に陥落させるに従い、AFFSはコリアン・エンタープライゼスに補充マシンの注文を増やし、工場は生産サイクルをさらに加速させた……ニューアヴァロンにおけるヴァルキリーの生産は年に200機にまで達した。

 コリアンの生産速度は恒星連邦が装備を失う速度に追いつかなかったが、ヴァルキリーは大隊単位で前線に送られることがほとんど保証されていた。輸送は迂回することになったり――惑星が陥落したことで別の部隊に向かった――クリタ軍に破壊・鹵獲されることになったりした。充分な数が戦場にたどり着いて大規模に使われたが、あまりに急いでいたので、連隊の配色や記章はなく、未塗装で工場のラベルをつけていた。

 DCMSとダヴィオン兵が抵抗グループと襲撃パーティーに別れる前にAFFS部隊が崩壊したので、ヴァルキリーはゲリラ活動で見かけられるようになった。ヴァルキリーの軽い重量、相当な機動力、長距離火力の組み合わせによって、反乱軍は途方もない支援火力を得て、より高価で、低速で、重量のあるマシンをリスクに晒す必要がなくなった。VLKは戦線の後ろでの作戦においても重要な役割を果たした……ガルター、ニューローデス、そしてもちろんケンタレスで。

 恒星連邦がケンタレスの虐殺後に足場を取り戻してからも、コリアン・エンタープライゼスはヴァルキリーの生産を続けたが、そのときまでに兵站への負担が高まっていた。部品の不足と輸送の混乱によって、工場の生産量は半分にまで減じられており、かろうじて需要に見合う分をまかなうことが出来た。この戦争を通して二度、ニューアヴァロンの工場は数ヶ月単位の操業停止に追い込まれた……星間連盟品質にある生産設備の摩耗に対処するためだ。



著名なメック戦士
レイチェル・アクロン中尉("ザ・アヴェンジャー"): アクロン中尉は第7南十字星部隊の生き残りの一人であり、2706年、ケンタレスIVの抵抗軍として活動していた。ドラコ連合によるケンタレス征服の際、エンフォーサーを落とされた彼女は、歩兵としてDCMS占領軍への妨害を続けていた。2792年、ヴァルキリーがケンタレスIVに密輸されると、彼女は再びバトルメックのヘルメットをかぶった。それからの4年に渡って、アクロンとヴァルキリーは、元いた歩兵小隊による一連の襲撃に単独のメック支援を提供した。メックをよくエサに使った彼女は、各倉庫、補給車列の護衛部隊を誘い出して、即席の罠に導き、反乱軍のコマンド部隊が物資を奪って脱出するあいだ忙しくさせた。

 ミノルがケンタレスで暗殺されたとの一報を受けて、ダヴィオン国王が第7南十字星部隊を惑星から呼び戻すと、アクロン中尉はこの命令に従った大部分の中にいた……彼らはDCMSがケンタレス市民に報復しないことを期待していたのである。歩兵の仲間たちはほとんどが後に残り、状況を観察しようとした。ケンタレスの虐殺の後で、彼女が惑星に戻ると、歩兵たちがソホシ・オーシタ中尉の第1〈光の剣〉軽偵察小隊に殺されていたことを知った。

 怒り狂ったアクロン中尉は、即座に休暇を申請して、ダヴィオン家がオーシタの軽偵察小隊に賭けた賞金を取りに行った。2801年までに、悪名高きDCMSの小隊の全隊員が死亡しただけでなく、技術者たちもが同じ末路を辿った。小傭兵団の助けを借りて、アクロンは軽偵察小隊をトールマッジの持ち場にまで追跡した。ここで、傭兵の賞金稼ぎたちはクリタのメック戦士を待ち伏せし、アクロンはオーシタの技術者たちが死ぬのを直に目撃した……守られてない野戦格納庫に押し入って、ヴァルキリーの足で踏みつぶしたのである。








シャドウホーク SHD-2D/2K SHADOW HAWK
重量: 55 トン
シャーシ: アースワークスSHD
パワープラント: コアテック275
巡航速度: 54 キロメートル/時
最高速度: 86 キロメートル/時
ジャンプジェット: ピットバンLFT-50
 ジャンプ能力: 90メートル
装甲板: マクシミリアン43
武装:
SHD-2D派生型
 アームストロングJ11オートキャノン 1門
 ホリー5連長距離ミサイル 1門
 ホリー2連短距離ミサイル 2門
 マーテル・モデル5中口径レーザー 2門
SHD-2K派生型
 ドーナルPPC
 ホリー5連長距離ミサイル 1門
製造元: ラング・インダストリーズ、アースワークス・インコーポレーテッド
 主要工場: カフ(ラング)、キャロウェイVI(アースワークス)
通信システム: O/P 300 COMSET
照準・追尾システム: O/P 2000A




概要
 シャドウホークの起源は、ワスプと同じようにメック開発の初期にまで遡る。このメックは早くも2467年には、ラング・インダストリーズによって地球帝国向けに最初の生産が行われた。使っていた部品は遙かに原始的なものだった。これもワスプと似ているのだが、シャドウホークのスタンダードモデル、SHD-2Hは星間連盟期を通してほとんど形や機能を変わることがなかった。幅広いタイプの武装を持つこのメックはサイズに比較して優れた機動性を持ち、登場時にはジャンプジェットを持つ最重量のメックの1機であった。これによってシャドウホークは万能の戦闘マシンとなり、2700年代半ばまでに、星間連盟所属国と準所属国家の各軍隊に向かうこととなった。

 第一次継承権戦争の勃発によって、SHDを中心領域中に届けていた交易路は分断され、シャドウホークの工場を持たない国家――特にドラコ連合と恒星連邦――は、損傷を負った機体を維持するのが難しくなりつつあった。この障害は2790年代後半までにダヴィオン型(SHD-2D)を生み出し、10年以内にクリタ型(SHD-2K)が続いた。



性能
 シャドウホーク2D、2Kは双方ともに現地改修型であり、それぞれそのときに必要とされていた戦略的需要を満たすために考案された。ドラコ連合の全面強襲によろめいていた恒星連邦にとって、目標は出来る限り安く対メック火力を投射可能なバトルメックを生み出すことであった。従って、2D型は追加のSRMと中口径レーザーを載せるため、装甲の守りが減らされた――近距離で2倍の火力を持つ襲撃機が生まれたが、防護力は偵察機並であった。

 ドラコ連合の2K派生型は、同じく火力を強化しようとしている。このバージョンは接近戦兵器とオートキャノンを下ろして、長距離での打撃力を強化するためにPPCを積んでいる。だが、この変更には他の理由もある……2Kが登場した2803年、恒星連邦はすべての前線でクリタ人を押し返し始めており、補給庫に備蓄された弾薬と補給物資を奪うか破壊することがよくあったのである――連合が静かに取り組んでいたオートキャノンの部品不足が悪化し、DCMSは手に入りやすい他の武器を探さざるを得なかったのである。



戦史
 恒星連邦のシャドウホーク2D改修型は、2796年、ケンタレスの虐殺の直後、初陣を飾った。新型シャドウホークを生産する工場がなかったことから、AFFSは前線部隊に改修キットと指示を送り、必要に応じて改造するように奨励した。ポール・ダヴィオン国王が玉座に着き、組織だってない即応強襲を許可して、ドラコ連合の前進を止めた後、ポール国王は多量の改修キットを受け取った部隊が作戦で成功したのを見た。これによって、野戦指揮官たちは龍への襲撃で奪った機体を2D型に改修し、DCMSが互換性のある弾薬を備蓄しているかもしれない世界を叩くさらなるインセンティブが生まれたのである。

 ドラコ連合の2Kシャドウホークは、2803年、リオへの襲撃(三度目)で、カペラ軍と戦ったのが初陣であった。PPCを装備したシャドウホークは大連邦国に対して極めて有効だったが、クリタ人の襲撃部隊は長期間にわたって持ちこたえるには数が足りなかった。2805年、AFFSの逆襲がニューバレンシアに届くと、ドラコ連合はついに2K型が2Dシャドウホークに対していかに有効かを見たのだった。



著名なメック戦士
カリーナ・アイード中尉"セイバー・スマッシャー": 第2アーカブ軍団の女性エースメック戦士であるアイード中尉は、多くの点で変人だと考えられている。冷酷で粘り強い彼女は、戦争を通してAFFSの破滅の素因となってきたが、恒星連邦による三度目の逆襲の最初三週間でほとんど伝説的な地位を得た。ダヴィオンによる重要なストローン強襲の際、アイードとシャドウホーク2HはDCMSの退却を援護してひどいダメージを負った。双方ともに生き延びたのだが、アイードは療養に数ヶ月を費やし、そのあいだ彼女のメックは修復され2K型に改修された。

 2811年、ドネヴァルで恒星連邦のメック戦士と再び相まみえるまでに、アイードはドラコ連合が占領している世界をまたにかけてダヴィオン派の反乱軍を追い詰め撃破し、ゲリラ狩りのプロとしてすでに名を上げており、メックの肩装甲に折れた剣のキルマークをつけた。ドネヴァルを守る2ヶ月に及ぶ苦闘において、第2軍団が撤退命令を受けたことを上官から伝えられるまでに、アイードはさらに4つの「粉砕されたサーベル」を増やしていた。

 アイード中尉は躊躇なくアーカブ軍団の退却の援護に志願した。仲間のメック戦士たちが後退する間、彼女と少数の志願者たちは、追撃するAFFSのバトルメック半中隊と対決するために準備を整えた。だが、敵を機体を見た瞬間、アイード中尉はいつものストイックな落ち着きをかなぐり捨てて、突如として狂戦士のように怒り狂った。突進した彼女は、近づいてくるメックを叩きのめし、敵が乱入に反応しさえする前に1機を撃墜した。慌てふためくダヴィオンがシャドウホークを行動不能にするまでに、アイード中尉はもう2機を倒し、3機目を「死の抱擁」で捕まえて、道連れにするために核融合炉を起爆したのだった。








ウルバリーン WVR-6M WOLVERINE
重量: 55 トン
シャーシ: クルーシス-A
パワープラント: コアテック275
巡航速度: 54 キロメートル/時
最高速度: 86 キロメートル/時
ジャンプジェット: ノースラップ12000
 ジャンプ能力: 150メートル
装甲板: マクシミリアン60
武装:
 マグナMkIII大口径レーザー 1門
 ハープーン6SRMランチャー 1門
 マグナMkII中口径レーザー 2門
製造元: カロン・インダストリーズ
 主要工場: サーモポリス
通信システム: テック・バトルコム
照準・追尾システム: ガレットT11b




概要
 自由世界同盟とライラ共和国の数十年にわたる激しい戦闘で、2810年代半ばまでに両陣営の産業と輸送はズタズタにされた。自由世界同盟がライラ共和国によるボラン・サムへの最後の強襲をはねのけるのに失敗した後、国境地域の争点はベラI周辺で繰り返される衝突となった。戦闘地帯の近くに位置するカロン・インダストリーのサーモポリス工場は、WVR-6R ウルバリーンの生産ラインへのわずかなダメージだけで紛争を乗り切るのに成功した。

 だが、カロンはサーモポリスでウルバリーンのシャーシを生産可能な一方、ライラの襲撃部隊がGMワールウィンド・オートキャノンの備蓄を破壊してしまったのだ。不足に対応することを迫られた地元の技術者たちは、新しい派生型を作ってオートキャノン不足を克服するのみならず、メックの火力と襲撃機としての持久力を強化した。この新しいマーリック家派生型――WVR-6Mと名付けられた――は、2816年、戦場に出た。



性能
 オートキャノンの代わりに大口径レーザーを同じ半着脱式マウントに取り付けているウルバリーン6Mは、攻撃力を強化するのみならず、かなりの重量を低減している。その余裕を使って、設計士たちは、2門目のレーザー、追加放熱器、若干の装甲さえも付け加えた。その上、このペイロードは火力と防御力を強化するのに、機動力を損なうことはなかったのである。

 これらの利点は、一度に多くのエネルギー兵器を使う上での発熱管理問題によっていくらか制限されてしまうが、6Mはシュタイナー家との戦いで何度も価値を証明して見せた。この戦果に感銘を受けたFWLMは、新しい派生型の大規模な発注を増やし、カロン・インダストリーズはサーモポリス工場の装備を永続的に改装することで応じた。



戦史
 最初のWVR-6M派生型は、工場の生産ラインから出てから1年後に大軍で戦争に投じられた……2817年、同盟によるベラIへの最終侵攻の際のことである。ここで6M型の2個メック小隊が、スタンダードな6R型、星間連盟時代の6K型の混成1個中隊と共に配備された。惑星をまたにかけての高速機動戦で、ウルバリーンのみのこの戦闘群は、シュタイナーの防衛戦略を難しくさせて、自分たちの能力に疑問を持たせるようになったのである。

 だが、6Mの熱管理問題は、ベラI争奪戦において、目を覆うような失敗につながった。この派生型を受け取ったマーリックのメック戦士たちのうち少数が、6Mを熱に問題のない6R原型機のようにアグレッシブに用いたのである。従って、メック戦士たちは予想より早くマシンの動きが鈍くなったことに気づき、少数が熱により弾薬の誘爆を引き起こした。これによりメックとパイロットの両方が失われたのだった。



著名なメック戦士
マッケンジー"ザ・ナイフ"ヘンケル: 元々は自由世界同盟軍の中隊指揮官だったマッケンジー・ヘンケルは、ソラリス・バルジでの同盟と共和国の戦闘で予期せずキャリアをねじ曲げられることになった。カリダサで中支援中隊に配属されたヘンケルは、LCAFが2819年に侵攻してきた際には、珍しいSLDFモデルTBT-3Cトレビュシェットのコクピットから部隊を指揮していた。同盟防衛部隊の大半は、他の世界への配置展開に向かっている途中の宇宙で迎撃されたが、ヘンケルの中隊は幸運なことにその中にはいなかった。だが、それは上陸したライラの怒りをぶつけられなかったということではない。

 トレビュシェットは最先端であったにも関わらず(あるいはそうだったからか)、ヘンケルはすぐに撃墜されてしまい、パイロットの戦死したWVR-6Mウルバリーンに回された。カリダサでの2ヶ月におよぶ地上戦のほとんどで、ヘンケルは新しい乗機と襲撃機としての役割に順応し、惑星が降伏するまでに5機の撃墜を記録した。生き残り捕まらなかった数少ないFWLM兵の一人であるヘンケルはライラ占領軍に対するゲリラ戦の準備をしていたようだ。そうはならず、同盟の工作員が彼女とバトルメックを惑星外に出すのに成功した。

 部隊がほとんど全滅したのに伴い、ヘンケルはレッドイーグルス傭兵大隊の連絡士官に配置転換された。数ヶ月後、イーグルスがクリントン・カットスロートの分遣隊と組んでソラリスVIIを襲撃すると、ヘンケルは彼らに同行し、ソラリスシティ北東部にあるブラックケン・スワンプスでの小競り合いに何度か参加した。傭兵にとっては不幸なことに、LCAFは効果的に対応し、敵の戦士いくらかを分断し、襲撃部隊が惑星を離れると、ヘンケルは敵の領地内に取り残されたことに気がついた。ヘンケルが戦友にメッセージを送る前に、軌道上の同盟駆逐艦〈デスパイザー〉が惑星を爆撃した――数千人が死亡した時、ヘンケルは着弾地点の危険なほど近くにいたのである。

 大量殺戮を目撃して驚いたヘンケルは同盟に仕えるのを辞めた。発見したレッドイーグルスのわずかな生存者たちと組んだ彼女は、レッドナイヴス、ソラリスのアリーナで生計を立てる独立メック戦士ステイブルを作り上げた。依然としてWVR-6Mウルバリーンを操縦しているヘンケルは、特徴的な戦闘スタイルを開発した。ほとんどいつも敵たちに「バックスタビング」(背後からの)レーザーをお見舞いするのである。この理由から、ヘンケルはレッドナイヴスの事実上のリーダーとなり、「ザ・ナイフ」の名で知られるようになった。




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