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作成:2019/01/27
更新:2020/12/27

ドラコ連合 The Draconis Combine



 ドラコ連合は、中心領域の五大王家のひとつで、日本の文化、特にサムライのイメージと旧日本軍の気風を持つ軍事大国です。アラブ系、ロシア系など日本以外の血統を持つ国民も多く、北欧系のラサルハグ管区は後に独立するに至りました。3050年代には氏族による侵攻を受け、そこから多くのストーリーが生まれています。






起源と歴史 3063 Origins and History

 中心領域の国家はすべて、それを形作った人々と事件の産物であるが、とりわけドラコ連合は少数の著名人と単一の支配的文化によって作られたものである。連合の創設者、シロー・クリタはひとつの惑星からスタートした。50年後に死亡するまでに、彼は60以上の世界を持つ相当に大きい帝国を支配していた。以来、彼の子孫たちは親族と日本の文化的伝統を用いてきた。それによって彼は、恐るべき軍事力、不屈の勇気、クリタ家への普遍的献身を持った帝国を築き上げたのである。





創設の父: シロー・クリタ Founding Father: Shiro Kurita

 ドラコ連合は、どの巨大な星間帝国よりも、一人の男の夢と意思によって存在している。創設者、シロー・クリタである。彼の文化的背景と強烈な人格は、彼が建てた国に消えない刻印を残し、6世紀にわたってクリタの後継者たちは偉大な先祖の伝統を大きく強化してきたのである。

 2270年にニューサマルカンドの植民地で生まれたシロー・クリタはブシドーの教えと共に育った。ブシドーとは、日本のサムライ哲学であり、軍事的な力と感情的ストイシズムを尊ぶものであった。そのあいだ、ニューサマルカンドは、6つの都市国家を支配する軍閥の間で同盟が移り変わる蜘蛛の巣であった。独裁者たちは惑星全土にまたがる支配権を求めたが、それに値する軍事力は誰も持っていなかった。政治的陰謀、抜け目のない外交、武力による威嚇によって、不安定なバランス・オブ・パワーは保たれていた。

 知性的で野心的なシローは故郷の政治的な仕組みを熱心に研究していた。彼は成人年齢に達すると地元の政治に参与した。24歳までに、彼は生まれた都市、ヤマシロの支配者となった。次の2年間、彼は賄賂、脅迫、たまに殺人を組み合わせて、惑星全土に権力を拡大させた。2296年、彼は自らがニューサマルカンドの「第一市民」であると公に宣言した。

 故郷が彼の支配下に入り、いくつかの小さな軍隊が手強い弟ウリゼン率いる忠誠派戦闘部隊にまとめられると、シロー・クリタは恒星間帝国の建設に目を向けた。彼の最初の取り組みは、権力を争う潜在的なライバルの破壊であった。それはオザワ商業共同体(OMA)、ニューサマルカンドの経済が依存する金持ちの貿易コングロマリットである。

 OMAは23世紀の半ばに誕生し、超光速船舶を保有する企業群を中心に作られた輸送・商業共同体のひとつだった(カーニー=フチダ式ジャンプドライブを装備したこれら比較的珍しい船舶は、2237年の地球同盟崩壊時にばらばらになった植民地世界を旅することが出来た)。この商業共同体は数多の惑星をつなぐ唯一の存在だった。彼らは、貨物、乗客、情報を星から星に運ぶことで金を稼いだ。同名の日本人一族が率いるオザワ商業共同体は、ニューサマルカンドのある宇宙象限で活動していた。とてつもない大金持ちではなかったものの、彼らの不可欠な事業はオザワたちに商売先の元植民地よりも相当な経済的成功をもたらしたのである。経済格差は必然的に恨みを買い、オザワ交易商人の多くは傲慢だったことから火に油が注がれ、顧客たちに彼らが商人の好意に依存していることを思い起こさせる数少ない機会は失われた。そういった態度が、ニューサマルカンド地域での経済独占が組み合わされて、ニューサマルカンドと周辺の世界ではオザワを打倒しようと思わないものはほとんどいなかったのである。それを誰より望んでいたのは、ニューサマルカンドの第一市民、シロー・クリタ卿であった。





ゲイルダン同盟 Alliance of Galedon

 帝国建設を目指す数多の活動の中で、シローは近くの繁栄した重要な世界、ゲイルダンVの政府とコンタクトを取った。ゲイルダンの指導者たちは、利益を持っていくオザワ商業共同体に対する怨恨を募らせていた。ゲイルダン惑星知事、ナサニエル・イムラとの数ヶ月におよぶやりとりの後、シローは提案を携えて惑星を訪問した。彼はニューサマルカンドとゲイルダンの同盟を結ぶことを望んでいた。両惑星の技術的、軍事的資源を共同利用すれば、オザワに対して共に立ち向かうことが可能となる。もし、同盟が成立すれば、他の世界も合流し、シローの望むがままに説得することが可能となる。機嫌を取るために、シローは新しい連合をゲイルダン同盟と呼ぶ提案をした――それは同盟の諸事においてゲイルダンが上に立つことを暗に示唆している。シローのカリスマに揺れるゲイルダン政府理事会は提案を受けた。彼らはシローに長官の称号を与え、両世界の軍事と海軍の最終的権限を彼の手に置いたのである。

 新しい仲間の強力な支援を受けて、シローはオザワのくびきを振り払うため同盟に参加するようこの地域の世界を次々と説得した。ゲイルダン同盟はすぐに成長した……特にオザワが輸送費を大幅値上げすると無分別に脅しをかけた後には。これを挑発と呼んだシローは、非武装のOMA船舶に乗り込んで、貨物と船そのものを戦時"賠償"として没収するようゲイルダンの武装した海軍艦に命令を出した。まもなく、ゲイルダン同盟は独自の商船艦隊を保有するにいたった。応じて、オザワは残った船を武装させ、シローを妨害しながら、イメージの向上を図る大規模な広報活動に着手した。この活動は効果的だった。同盟を結成してから1年程度で、シロー・クリタの人気は落ちていった。彼は無慈悲な報復を行い、以降、それは数多のクリタ大統領たちの特徴となった。2303年11月、シローの工作員たちが同盟内にあったOMAのオフィスと施設をすべて爆破した。

 OMAに致命的一撃を加えると、シローは最初の散発的な侵攻を開始した。2303年12月、ウリゼン・クリタとニューサマルカンド軍はスヴェルドロフスクに侵攻した。この近くにある惑星の指導者たちは、同盟=オザワ紛争の中で中立を保つことを望んでいた。クリタ軍はたかが4個師団に過ぎなかったが、怒り狂った地元民によるばらばらの抵抗(正規の市民軍はなかった)を克服するのには充分であった。上陸から数週間足らずで、スヴェルドロフスクの指導部は惑星をシロー卿に明け渡す調印を行った。

 シローと後継者たちが行ったように、スヴェルドロフスク戦役はひとつ以上の目的を持っていた。ニューサマルカンド以外の最初の惑星を完全に支配することに加え、大胆な軍事的攻撃によって近くの世界の権力者たちを怖じ気づかせる。だれもニューサマルカンドの軍隊に挑戦できる装甲軍を持っていなかったことから、クリタ兄弟のブラフに応じようとする者はなかった。元中立惑星いくつかの指導者たちはシローと条約を結び、ゲイルダン同盟の力とシロー個人の権威を増加させた。次の6年間で、シロー、ウリゼン・クリタはひとつずつ世界を併合していった。それはどれだけ権力が掌握されたのかを隠せるくらい頻度の低いものだった。2309年までに、シローは説得し、脅迫し、公然と征服して、ゲイルダン同盟を完全に支配下におけるだけの世界を手にした。

 この時点で同盟が保有していたのは、充分な人口と資源を持つ世界7つと、そうでない世界1ダース以下であった。シローはもっと欲しがった。中でも有望なのはディーロン、アルタイル、ベンジャミン、ウォーレル、ジャンクション、ルシエン、ペシュトであった――いずれも元地球同盟の成功した植民地で、隣の世界いくつかを支配するくらいに強力だった。シローはこれらの世界やその他の主星を巡る一年間の外遊を行った。表面的にはゲイルダン同盟のために外交的関係を模索するためであった。実際は彼らを吸収することを計画していた。外遊に出る前に、シローは各惑星の統治者に関して相当量の情報を集めていた。各世界に到着した直後、シローは国王、公爵、将軍たちに隣国のライバルが侵略を企んでいるという証拠を見せるようもくろんだ。釣り糸を垂れると、シローは迫る諍いの仲介を持ちかけた――あるいは惑星統治者に対してゲイルダン同盟に加入して軍事力を手にするよう誘った。この策略は毎回成功した。2310年、シローは1ダース以上の条約に調印してニューサマルカンドに戻った。スムーズな外交、悪知恵、武力の戦略的な使用の組み合わせによって、クリタは同盟を30以上の世界に拡大させた。

 シローの砂上の楼閣は2311年に崩壊の危機にさらされた。ディーロンとアルタイルの指導者たちの論争によって、各惑星の支配者たちがゲイルダン同盟の軍事援助を同じように約束されていたと明らかになったのである。ベンジャミン、テロスIV、アースガルドはシローの二枚舌に怒りの反応を示し、彼の権威の下に入るのを拒絶した。同盟軍は2311年9月後半3個の惑星に侵攻した……最後の拠点、アースガルドは2312年8月に陥落した。凶悪な戦闘とクリタの最終的な勝利は、他の反乱予備軍への実地研修となった……次の7年間、この地域で同盟の支配者たちの声をあえて無視しようとする世界は一握りであった。2319年までに、シロー・クリタは地球近くからほとんど冒険されてないドラコニス・リフトまでの細い帯状になった惑星群を支配していた。シローは不気味なほど美しいリフトから名前をとって、ドラコ連合に改名した。

 次の30年間、シロー・クリタは同じ戦術――狡猾さ、脅し、たまの暴力――を使って、彼の帝国を倍の大きさにした。死亡した2348年時点で、シローはラサルハグ公国の境界から恒星連邦国境まで、60以上の世界からなる帝国を後に残した。政治的には、シローの戦略的本能、権力偏愛、絶大なカリスマ性のすべてが大統領(彼が自国に使った肩書き)の官職を形作った。こんにちでも、シローの絶対的な権威と、個人的な魅力の多くは、ふさわしくない大統領を輩出したにもかかわらず、大統領の地位に力を吹き込み続けたのである。





クリタ王朝 The Kurita Dynasty

 クリタ家と、彼らが統治する国家は、まったくもって離れがたいものであり、国民たちはほとんど信奉に近い忠誠心をもってして統治者と結び合わされる。クリタの統治者たちの大半も、自らが連合を具現化する存在であるというほとんど神秘的な見識を通して、似たような結びつきを国民たちに感じてきた。だが、大統領がこのような理解を欠いている時、国家の行く末はひどいものになり得る。星間連盟時代の浪費家、レオナルド・クリタは、ひとつの例を示すものである。彼の不名誉な振る舞いは、ドラコ連合と星間連盟所属国の間に、取り返しのつかないダメージを与えるであろう戦争を引き起こしかけた。レオナルドの治世の最初の8年間、星間連盟は加入を拒否した辺境諸国との血塗られた征服戦争を戦っていた。レオナルドは各軍事管区の元帥たちに仕事を任せ、そのあいだ当人は享楽の日々を送った。元帥たちはふさわしいと見たところに戦力を配置した――一部は星間連盟の役に立ち、一部はレオナルドの気まぐれにつきあわされた――地球近くの惑星でレオナルドの私生児多数を捜索するなどである。全バトルメック部隊が地球帝国の世界に上陸し、大統領に似ている子供全員を探し出し、誘拐していった。当初、再統合戦争という圧力が帝国の軍事的対応を妨げた。2597年に紛争が終わった後、地球上の星間連盟軍はドラコ連合への攻撃に備えて動員を始めた。迫る戦争の危機は2605年に消滅した。レオナルドが謎の病気で突如として死亡したのである。





フォン・ロアーズの空位 The Von Rohrs Interregnum

 25世紀、フォン・ロアーズの大統領たちは、単純に悲惨な支配の長さによって、連合に最大のダメージを残した。マリカ・クリタ(ロバート・クリタ大統領の姉妹)から続くクリタ一族の血縁、フォン・ロアーズは2421年に宮廷クーデターで権力を奪った。約90年にわたって、ニホンギ・フォン・ロアーズと後継者たちは、恐怖政治で支配し、ドラコ連合をほとんど破壊しかけた。大量処刑が一般的になった……大統領にとって不都合な者たちはすぐに死の名簿に加わった。ニホンギが初期に粛正した数多の犠牲者の中には、企業経営者たちがいた。ニホンギは個人で連合の経済を統制しようとし、彼の行く先には不幸が立ちはだかっていた。

 (事実でも妄想でも)反対意見を無慈悲にすべて封殺し、思慮に欠けた大規模な経済干渉によって痛めつけられたドラコ連合は、内部崩壊の危機に瀕した。軍事分野でのみドラコ連合は進歩した。フォン・ロアーズの大統領たちは、防備の甘いライラ国境の世界を攻撃するという前任者の政策を続けた。2445年までに、連合軍は共和国のタマラー協定地方の惑星約1/5を奪った。16年後、コーゾー・フォン・ロアーズの時代に、特殊部隊がライラの世界コベントリを襲撃し、この世紀で最も重要な軍事的達成、バトルメックの計画一式をドラコ連合にもたらしたのである。だが、これらの成果も、貧困と臣下たちの士気喪失によって影を投げかけられた。これほど明白な暴君に対しても、一般的な連合市民は、反乱など事実上考慮に入れなかった。フォン・ロアーズはクリタであり、統治する運命にあった。別のクリタだけが彼らを廃し、国家の長き悪夢を終わらせる正統性を持ち得るのである。市民たちは待ち、日々の中で出来る限りのベストを尽くし、救いを祈ったのである。

 2510年、祈りへの返答があった。マーチン・マカリスター(クリタの血統を持つ一人)がクーデターによってフォン・ロアーズ王朝を終わらせ、権力の座についたのである。マカリスターは最初、フォン・ロアーズの使者として名目上独立しているラサルハグ公国に赴き、フォン・ロアーズを打倒してクリタ血統の正統性を取り戻すため、ラサルハグの指導者、ブレイン・ソレンソン卿と手を結んだ。2494年から2510年前半にかけて、マカリスターは政治的・軍事的な力を集めていった――それはラサルハグ内が大半だったが、本国の連合軍、フォン・ロアーズの宮廷のものすらあったのである。彼はフォン・ロアーズ宮廷内での権力を使って、ヤマ・フォン・ロアーズ大統領の投獄を工作し、2508年、弟のクルーガーを大統領の座につけた。感謝するクルーガーはマカリスターに王室近衛隊大佐の階級を与えた。この地位はマカリスターがフォン・ロアーズの血塗られた治世を終わらせる最後の武器となった。ブレイン・ソレンソン卿がラサルハグ軍を率いてドラコ連合領内に攻め込む間、マカリスターと王室近衛隊内の支持者たちはフォン・ロアーズの宮殿を占拠し、一族を一人残らず虐殺したのである。それからマカリスターは自らがシロー・クリタの子孫であり、それゆえドラコ連合の玉座に座する正統性があると明らかとしたのだった。





復旧と復興 Restoration and Renewal

 いわゆるマカリスターの反乱は、腐敗して血塗られたフォン・ロアーズの体制を終わらせ、マーチン・マカリスターの娘、シリワン・マカリスター=クリタによる事実上のルネッサンスへの道を切り開いた。ドラコ連合で最も有名で敬愛される指導者のひとり、シリワンはクリタの名前と大統領職への崇敬を使い、ドラコ連合への奉仕の抜本的な再定義を行った。そうすることで、彼女は来たるべき国家の未来を保証したのである。

 元大統領たちの大半と違って、シリワンは戦争以外の方法を使って国家を強くした。約90年に及ぶ内部での恐怖、外部との紛争の後、ドラコ連合は平和を死活的に必要としていた。経済は疲弊し、経済の問題が解決せねば、軍隊も遠からずひどいことになるだろう。優秀な使節団を使って、シリワンはドラコ連合にとって利益があるときはいつも外交提案を行い、国境の緊張を和らげ、交易を求めた。軍役は名誉であり続けたが、いまや別のやり方で大統領と国家に仕えるのも入隊とほとんど同じくらい価値があった。フォン・ロアーズの暗黒時代に見られなかった商人と起業家たちは、シリワンの時代に再び花開き始めた。回復した経済も軍の助けとなり、シリワンは敵領土へのコストがかかる攻撃よりも国境の防衛に重きを置いた。

 シリワン・マカリスター=クリタによる土台作りは、平均的な連合市民に新しい考え方を教えた。少なくとも、その中には息子のへヒロがいた。母が実例を示したことにより、へヒロ・クリタは御代に向け13年間の真に未来を見通した道に入ったのである。2569年、へヒロはヴェガ条約に調印し、ドラコ連合を星間連盟の一員として、国家の運命を人類のすべてに結びつけたのである。この重大な行動で、ドラコ連合は外国との貿易やその他の交流が最大規模に拡大した。中心領域にまたがる自由貿易の衝撃は連合の経済に若干の影響を与えたが連合市民はすぐに適応した。まもなく、連合の実業界はかなりの利益をもたらした。

 星間連盟時代に連合は繁栄した。健全な貿易関係と各種の技術進歩が星間連盟の所属国の間で共有され、下層市民から連合軍に至るまで連合社会のあらゆるレベルに恩恵をもたらした。これらの強みは重要だと2世紀後……星間連盟が崩壊して元所属国間で残酷な覇権争いに流れ込んだ時に証明された。新たになった連合軍のおかげで、ドラコ連合は300年近い悪質な戦争(歴史上継承権戦争として知られる)を生き延び、紛争の数世紀でおびただしい人名と技術が失われたにもかかわらず国家として存続したのだった。





武士道の隆盛 The Rise of Bushido

 武士道、古代日本の戦士哲学が、創設期からドラコ連合を形作るのを助けてきた。だが、27世紀前半までは数ある文化的影響の一つに過ぎなかった。大統領ウリゼン・クリタII世がこれを文化的礎石とし、こんにちまでその地位を占めるようになったのだ。

 連合文化が変化する種は2617年に埋められた。サンティア・クリタが主星を一族の本拠地であるニューサマルカンドから比較的手つかずの惑星ルシエンに移した。資源不足で沼に覆われたルシエンには大きな都市がなく、人口は開発された連合の世界に比べると相当に少なかった。だが、ルシエンはニューサマルカンドよりも連合の中心に位置していており、未開だったことは連合の市民に必要とされていた挑戦を提供した。2620年に王座を継いだサンティアの後継者ウリゼンII世は、新首都の建設の大半を監督した。

 日本の建築様式を採用した巨大な政府庁舎群(後にインペリアルシティと命名)は、巨大な事業であった。建物のほとんどがチーク材、花崗岩、大理石の巨大なブロックで作られており、これは犯罪者たちと軍の末端が細いケーブルを引っ張ったものである。長年の建設作業で数百名が死んだが、作業が止まることはなかった。労力の大きさそのものが国中で国家的威信に火を付け、インペリアルシティの建築の大半に影響を与えた中世日本への興味が生まれた。ウリゼンII世もまた例外ではなかった。有名な祖先とのつながりから武士道の教えに傾倒していた彼はサムライの哲学に没頭し、熱心な帰依者となった。クリタ家の文化的ルーツに敬意を表したかったウリゼンは17世紀日本の文化を全面的に取り入れた。武士道だけでなく、歴史、芸術、宗教その他もである。

 大統領が行ったことから、それは国中に伝わった。ウリゼンが初期に行った文化改革のひとつがコクガク(国家の学問)で、古代日本の歴史と哲学を重視するものだった。ウリゼンが意図していたように、コクガクは事実上日本の考え方とやり方だけを志向する市民たちを生み出した。各世代が教育を受けるに従い、日本文化という要素は他のすべてを覆い隠すまでに強くなったのである。

 非日系の市民はこの変化を全面的に歓迎したわけではなかった……特に子供の教育に関しては。ムスリムが優勢な世界、アーカーでは、地元のカリキュラムに日本文化と仏教が課されたことで暴動が起こり、連合社会の日本化の醜い段階が始まったのである。さらなる反乱を防ぐために、ウリゼンII世は国家公安隊(ISF)――クリタの秘密警察に頼った。すでに強大だった彼らは大規模に予算拡大され、大統領に「純粋でない」非日系人たちの浄化を任され、さらに強くなった。

 ISFはこの命令を重く受け止め、ウリゼンII世の治世最後の10年間、惑星にまたがる数多の粛正を実行した。ウリゼンが2691年に退位するまで、ドラコ連合はゆるい汎アジア的傾向を持つ文化のるつぼではなくなっていた。厳格な階層性の社会になっていたのである。ここでは新たな現実に適応した者が成功し、すこしでも違うものたちはたいていすべてを失ったのだった。文化的同一性を強制するというISFの役割は、政治的対立の処理に関しても寄与した。文化と政治は絡み合いすぎて、シーク教のターバンを着用したり、韓国語を話すことも、しばしば反逆とみなされたのである。だが、社会の統制が強化されたにもかかわらず、非日系人たちは生き延び、ドラコ連合の一部では繁栄しさえしたのである。





連合とラサルハグ The Combine and Rasalhague

 ドラコ連合の歴史において、ラサルハグ公国は政治的・文化的抵抗の好例となっている。主にスカンジナビア人が入植したラサルハグ地方はシロー・クリタにとって魅力的なターゲットであり、2330年、最初に征服を試みた。だが、その民衆は意見を異にしていた。外国人のくびきに屈するのをよしとしなかった彼ら頑固なノルウェー人、フィンランド人、スウェーデン人の誇り高き末裔たちは、圧倒的な軍隊に対して独立を守るために激しく戦った。ゲリラ戦によって、2367年、ドラコ連合は退却を余儀なくされ、惑星ラサルハグには傀儡の軍総督と総督府を守るのに充分な兵士たちが残された。次の150年間、ラサルハグ公国は名目上独立国家として残った。

 ウリゼンII世の文化改革はラサルハグ市民に打撃を与えたが、中世日本風社会の中で誇り高き違った地域を完全に作り替えるのには失敗したのである。地元のラサルハグ人たちはスウェーデン語をしゃべり続け、ドラコ連合は最終的に公用語として認めた。当局が出来る限りのあらゆる圧力をかける中で(大量処刑、多すぎる駐屯兵、追加のISF工作員により分離活動のわずかな徴候でも排除する)、大衆は自分たちの宗教、習慣、考え方を持ち続けた。ラサルハグは3034年、公式に連合に吸収されてから5世紀後、ついに自由を獲得したのだった。





連合社会 Combine Society

 名誉と義務のバランスをとること、厳密に構造化された社会秩序における立場を受け入れること、自分より高い地位にある者を敬うこと、クリタ家を崇敬すること……これがドラコ連合における人生の礎である。これらの理想は多数派の文化と権力機構から生まれ、強化される。部外者は連合を個人主義や異分子が疎外される体制国家と見ている。一面においてこの考え方は正しい。だが、ドラコ連合は目に見えるよりも多様性がある。日本の文化を受け入れられない、受け入れたくない個人や集団は、押し通すか、国家の利益のために交渉するか、連合の社会で自分の居場所を持つことになる。





正しき思想の守護者: 五柱の会 Guardians of Right Thinking: Order of the Five Pillars

 ウリゼン・クリタII世は文化の絶対的な統一を図る手段として、最初、ISFを使ったが、彼の治世以降、その任務は五柱の会(O5P)の手に落ちた。このいにしえの団体は、24世紀半ばにシロー・クリタの娘、オミによって創設され、名誉勅令(Dictum Honorium)の名で知られる複雑な行動規範を伝え、教えるために存在した。この勅令は宗教的伝統、社会規範、礼儀作法、哲学について書かれた6巻からなり、ドラコ連合の日常生活のすべてを知らせるものだった。ウリゼン・クリタII世の前の時代、O5Pはクリタ家に対する適切な忠誠心を保証することに関心を持っていた。ウリゼンの時代の後、クリタ家への忠誠心は日本のやり方への服従を含むものであった……従って、日本のやり方への服従を確実にする任務はこの会の手に渡ったのである。

 連合のイデオロギーと社会規範の裁定者として力を持つにも関わらず、あるいはそれだからこそ、O5Pは創設から数十年経つまで正式な承認を受けることはなかった。会とその最高位(家名の守護者)が公認を受けたのはサンユ・クリタの在任期間中だった。サンユはパーカー・クリタ(兄のロバートが2412年に殺された後、いやいや大統領になった優柔不断な人物)の姉である。パーカーよりもはっきりとしているサンユ・クリタは、弟の欠点を利用して、権力機構の中で影響力を行使できる範囲を切り開いた。連合内の儲かる象牙取引を独占すべくパーカーを説得したサンユは、個人の財産、クリタ家の威信、王室近衛隊に配した歩兵大隊を使って、独占を実現した。

 象牙取引を支配するサンユ・クリタは、この新たに認められた会を豊富な資金源とし、初期の活動の理想的な隠れ蓑とした。象牙ギルドの商船と広範囲な貿易ネットワークによって、O5Pの工作員はドラコ連合のどこにでも行き、人民の雰囲気を調査し、忠誠心を強化することが出来た。当初、貴重な貨物を守るためO5Pの船に配備されていた警備員たちは、小規模だが極めて規律のとれた準軍隊に進化し、さらに会の力を増した。この強大なリソースによって、生まれたばかりのO5Pはフォン・ロアーズ大統領時代の最初40年間を生き残った。フォン・ロアーズ一族の多くは、彼らが言うところの「堕落した」クリタ直系の産物である会と名誉勅令を不快に感じていた。

 守護者サンユ・クリタの死後、2459年、フォン・ロアーズはO5Pを公然と攻撃した。当時のコーゾー・フォン・ロアーズは自身を守護者とし、女子大修道院長ジャミラ・ベンハシミーを殺害して、会の上層部に暗殺のうねりを誘発した。殺人の話が内部に広まると、会員たちは地元の民衆の中に隠れ、時を待った。50年後、マーチン・マカリスターがクリタ家の正統を復活させると、地下O5Pは表に出て、前の役割に戻った。

 O5Pは名誉勅令の熱心な信奉者であるシリワン・マカリスター=クリタの下で権力の頂点に達した。フォン・ロアーズ時代の悪夢の記憶も生々しかったシリワンは、五柱の会を大統領の権力に対する真に手強いカウンターウェイトとした。ドラコ連合市民に象牙の工芸品の購入を義務づけることで、シリワンは会の資金を増やし、そのかなりの部分を諜報能力の強化に使った。彼女はまたブドージン、武芸の先進的でオカルトな応用に熟達した工作員の部隊を設立し、最後にインペリアルシティ中心部の近くに見事なビル群からなるO5Pの本部を建設した。シリワンの治世が終わるまでに、O5PはISFに匹敵する諜報能力を保有し、必要不可欠な軍人への武術教練を独占し、軍部にまで長い手を伸ばしたのだった。

 現代のO5Pはドラコ連合に様々な立場で貢献し続けている。会員たちは政治的・社会的正しさの教師であり、アジア史・哲学の学者であり、才能豊かな武術家でスパイである。これらすべての分野で、彼らはドラコ連合の中核にある理想……大統領への忠誠、クリタの名前への崇敬、ドラコ連合に仕える上での正しい思想と行動の効果的なシンボルとなっている。





階級システム The Caste System

 連合社会の顕著な特徴は階級システムである。これは、明らかに非協力的でもしかしたら反体制派かもしれない者たちにさえ居場所を与えるものだ。政府、軍部の最上位から最下層の卑しい労働者まで、連合市民は全員が大統領と国家に奉仕する可能性がある。物乞いだろうとこそ泥だろうと、完全に階級外になることはない。意図的に、潜在的な破壊分子を緊密な社会秩序に組み込むことで、階級システムは連合の揺るぎなく安定した社会を保つのを助けるのである。

 連合は5つの階級を持つ。クゲ(貴族)、ブケ(戦士)、中産階級、ヘイニン(労働者)、そしていわゆる非生産階級である。貴族は数の面では少ないが、連合の社会で事実上絶対的な権力を振るう。貴族の最高位は大統領であり、現人神と信じられた古代日本の天皇のようにドラコ連合を具現化している。戦士階級はドラコ連合招集軍(DCMS)を構成し、各人は軍隊か準軍隊(例えばISFの奇襲部隊員)で勤務する。中産階級は、商人、生産業者、各分野の専門家(医者、教師、会計士、民間科学者、芸術家、その他)である。労働者階級は、工場作業員、レンガ職人、配管工、レジ打ち、その他の、熟練労働者か、半熟練労働者である。この下にいる人々が非生産階級で、誰もやりたがらない不愉快だが必要な仕事を行う未熟練労働者と犯罪者である。

 非生産階級はその低い立場よりも重要な社会的機能を発揮する。この階級は、あらゆる社会不適合者のゴミ捨て場となっている。軽犯罪者、戦乱の惑星からの難民、無能力や不服従で上位の階級から降格された者、ヤクザの名前で知られる強力な犯罪組織の構成員たちだ。こういった者たちの多くが、連合の社会秩序に潜在的な危険性を与える。定義上、犯罪者たちは法に縛られぬ社会で活動している。難民はよく言っても地元の資源の浪費で、悪く言うと平穏を容易に打破する怒りの源泉である。上位の階級から転落した者たちは、連合の厳格な社会に沿えなかったことから、忠誠や義務を怠るものと認識される。彼らが脅かしているその社会秩序に組み込むことで、社会秩序を蝕む力を奪うのである。最も不満のある連合市民でさえも、少なくともなんらかの期待を吸い上げる傾向があり、非生産的な低い立場を受け入れるか、誤りを正して脱しようとする。高い階級を失う瀬戸際にいる者たちは、非生産者になるのを恐れて、態度を改める。ヤクザはその活動が国家全体を弱体化させない限り、犯罪組織から利益を得ることを許される。連合の指導部は、特定の領域内でヤクザの存在を認めており、そこから出る者たちに対して動くのをためらったりはしない。

 近年、ゴースト連隊は非生産階級にわずかな名誉をもたらした。第四次継承権戦争後、DCMSの著しい人手不足を解消するために作られたこの軍事部隊は、ヤクザと連合のその他下層民たちで構成される。迅速に訓練する必要があったことから、実践的な戦闘技能が教えられて政治的な教育はおそろかになり、正規部隊の伝統的な者たちの疑念はほとんど払拭されなかった。しかし、憤慨したDCMSの士官たちが悲惨な予想をしたというのに、ゴースト連隊はおおむね立派に勤め上げたのである。3個連隊が名誉を持って氏族と戦い、1個連隊は1個大隊をのぞいて全滅した。一部のゴースト連隊はヤクザの活動のフロントに過ぎないものであり、また一部は部隊内のライバル関係で引き裂かれているが、DCMSの基準を超えていると評価されているのが多数派なのである。これらヤクザ連隊がオヤブンやヤクザロードへの忠誠心と大統領への忠誠心のバランスを取っていることは、階級システムの有効性とセオドア・クリタ(ゴースト連隊の創設者)の指導力の証明となっている。





クリタ家への忠誠 Loyalty to House Kurita

 ISFとO5Pに加えて大規模で訓練された軍隊を持つドラコ連合の支配王家は、主権を維持するための道具に苦労することはない。しかし、クリタ家が権力を手放さない第一の理由は、暴力による恐怖ではなく、連合市民の畏敬の念から来ているのである。クリタ家への忠誠が連合を一つにまとめ、上流階級の貴族と下層階級の路上清掃員に、あるはずのなかった共通の土台を与えるのである。

 4才で初等学校に入った時から、連合市民は個人の名誉が社会で課された役割と大統領への義務をいかに果たすかにかかっていることを教えられる。従属と忠誠は最高の美徳である……名誉は義務を果たし、それによって国家に貢献することにある。現在の大統領は連合の社会規範を幾分緩和し、それが国家の役に立つ限り個人の独創力に大きな裁量を許している。この姿勢のシフトは特に軍隊で顕著である。セオドア・クリタの考え方では、上官への盲従は兵士にとって潜在的に致命的な欠点である。そうする代わりに、現代のDCMS戦士たちは上官への敬意と、上官が間違っているというレアケースを認識する能力のバランスを取るよう努めなければならない。軍隊の階級外では、自由な考え方は奨励されない。6巻に及ぶ名誉勅令は、想像しうる状況ほぼすべてにおいて正しい考え方と態度を規定している。良き市民はこれらの行動規範を小学校で学び、生涯にわたってそれを守るのである。

 犯罪者たちですらクリタ家に一般的な敬意を払うが、他の社会規範は脇に置かれるかもしれない。3050年、スモークジャガー氏族が連合の世界タートルベイを攻撃した際、エド市のヤクザ一家は我が身に流れる忠誠心を示して見せた。連合の玉座の後継者であるホヒロ・クリタは、ジャガーの強襲によりこの世界に閉じ込められていた。ヤクザはクルシイヤマ刑務所(ジャガー侵攻軍に占領されたISFの拠点)まで彼を追いかけた。ジャガーは捕まえた者の正体に気づかなかったが、ヤクザは知っていた。彼らは牢破りを仕掛け、ジャガーの死体を残して、ホヒロが惑星外に脱するのを助けた――無私の愛国心による行動は、彼らとエド市に法外な代償をもたらした。遅ればせながら失ったものの大きさに激怒したジャガーは、軌道上からエド市を爆撃し、都市を炎上させた。地元のヤクザは強力な敵を阻止することで被害を被るかもしれないと知っていいた――それでもとにかく彼らはホヒロを助け、クリタ家に奉仕する名誉と引き換えに、破滅のリスクを甘んじて受けたのである。





愛国と服従 Patriotism and Conformity

 ウリゼン・クリタII世の下で、中世日本の文化を全面的に受け入れて以来、クリタ家への忠誠は日本のすべてをひいきすることになった。学校のカリキュラム、芸術、メディアのISFによる統制、軍内でのブシドーへの普遍的敬意はすべて、日本的文化の支配を続けることに寄与している。このように、政治的、文化的忠誠心を統合したにもかかわらず、非日系の要素は生き残り、自身の地域で繁栄しさえした。啓蒙されてない大統領は、よくこれら「外来」の要素を排除しようとしてきたが、賢い統治者は彼らが連合の文化に厚みを与える力を認識している。アラブ系を祖先に持つムスリムのアザミは、そのようなケースである。彼らは地球と恒星連邦国境近くの世界いくつかに定住し、これらの惑星では支配的文化を不当に乱すことなく、自分たちの伝統を追求することが出来た。フォン・ロアーズが彼らの排除に失敗した後、アザミは名誉勅令に名目上従い、戦闘経験を国境襲撃に使うのと引き換えに、ある程度の信義と行動の自由を得る交渉を行った。アザミと連合は互いに適応し、両者ともにそこから利益を得ている。





影の戦争とその遺産 The Shadow War and its Legacy

 人民から奉仕されるのと引き換えに、大統領は人民に仕えなければならない。彼または彼女は、名誉に賭けて個人の野望と欲望よりも上にドラコ連合の利益を置かねばならない。相互の忠誠心が意図した通りに機能するならば、連合は繁栄する。疑問符が付くのなら、連合は苦しむ。クリタ一族が権力を争う時は、クリタ家への忠誠心か、ドラコ連合の忠誠心かで矛盾が生ずる。29世紀に発生した影の戦争は、最も有名な内戦であり、そのやっかいな遺産は、時折、国家の安定を揺るがしている。

 2860年代の半ば、静かに、そして連合中で荒れ狂った影の戦争は、国家が内戦に最も近づいた瞬間であった。紛争の種は40年前に蒔かれていた。第二次継承権戦争の壊滅的な破壊の後、ジンジロー・クリタ大統領は再建のために人民再建運動(PRE)を創設した。PREは、連合政府の軍事、科学、経済、政治の各復興プログラムを調整し、監督した。あまりに多くの権限によって、PRE主席の地位は大統領に次ぐものとなった。

 2838年、ヨグチ・クリタが叔父のジンジローを継いだ。就任3年目、彼は妹のロウィーナ・クリタをPRE主席に任命した。知性的で野心的なロウィーナは、女性の権力が連合の強力な家父長制の中で制限されていることに苛立っていた。PREの運営責任者に任命される前に、彼女はISFを手なずけていた。職員の多くが、ISFがDCMSの権限下に置かれたことを激しく罵っていた。PREの大規模な官僚機構を支配するロウィーナは、PREの力を使ってDCMSという支配者と戦うISFを助けた。引き換えに、ISFの諜報部員たちは、個人の財産を蓄積するというロウィーナの計画を助けるか、あるいは少なくとも邪魔をしなかった。

 数年間、ロウィーナは、金を稼ぎ、美術品を収集し、強大な地位に溺れるにとどまった。2850年、ライラの工作員がヨグチ・クリタを暗殺しても、ロウィーナは連合の統治権を得ようとはしなかった……彼女は喜んで弟のミヨギにその任を負わせ、息をするようにPREを運営した。だが、その地位は彼女をミヨギよりも公の目にさらすものだったのである。これに加えて、PREの規模と範囲が大きかったことで、最終的に不安を感じたミヨギが姉の調査に乗り出した。だが、ISFはロウィーナへの借りを忘れていなかった。彼女の「非連合的活動」を調査せよという命令で、大統領は工作員たちの人気を相当に失った。一部は彼の真意を疑いすらした。それは、大統領への忠誠を確保するのが第一の任務である者たちにとって、驚くほど不忠義な行動であった。

 2863年、問題は表出した。第三次継承権戦争が終結すると、ミヨギ大統領は調査に必要な余裕を得たのである。大統領に絶対の忠誠を誓うISFエージェントの小規模なエリート分隊が、ロウィーナ派の同業者を探して暗殺し始めた。ロウィーナ派は応戦した。2865年までに、1000名以上のISF工作員が権力闘争の中で殺され、国民はこれを影の戦争(シャドウウォー)と呼び始めた。一般人もまたすぐに犠牲となり始めた。ISFは連合中のどこにでもいたが、どちらの諜報員が聞き耳を立てているかだれにも確かなことはわからなかった。片方が支配している惑星で、もう片方を支持するという軽率な発言をした者は、家族と一緒に永遠の行方不明になることがよくあったのである。

 連合の内紛に関する話が国境に外に広まっていくと、らせんに巡る衝突は軍にまで及ぶ危険性があった。最高司令部はどちらのクリタにつくかで分裂し、最終的に大統領の側についた。2866年1月の上旬、DCMSの奇襲部隊がPREの主要庁舎とロウィーナ派ISFの拠点を急襲した。直後、ミヨギ大統領はPREを解体した。

 ISF内の不満分子を排除するのには25年に及ぶ粛正が必要となった。最初の10年間で組織はニューサマルカンドの本部に退却し、ドラコ連合政府との直接的な対応を拒絶した。ISFの工作員たちは任務を実行し続けたが、要請に従うのはニューサマルカンドが尊敬するサン=ツァン兵学校の仲介をうけたときのみだった。クリタ二人の間に駒として使われたことに怒っていたISFは、不満を表すすべとして孤立を選んだのである。2921年にシンジロー・クリタ大統領がニューサマルカンドを訪問するまで、ISFとクリタ家の間の溝が埋まることはなかった。シンジローとISF長官クラリッサ・インドラハラとの一連の会談で、ISFにDCMS最高司令部内の地位を与えるダヴァラパーラ協定が発行された。この譲歩によって、ISFは軍部の下に入ることを受け入れた。ヨグチ・クリタが組織をDCMSに従属させて以来、80年前の不満は解消されたのである。

 表面上、ISFは大統領に対する忠誠心を再確認した。だが、影の戦争とその後の余波は危険な前例を作ってしまったのである。ISFの歴史上初めて、彼らは大統領への忠誠と連合への奉仕を別のものとした。ロウィーナの支持者にとって、連合に仕えることは積極的に大統領と戦うことを意味した――これは事実上考えられぬ矛盾である。大統領派もにたようなものだったが、忠誠心の区別はより微妙な問題であった。彼らはドラコ連合に仕え続けたが、大統領からの直接的な要請は拒絶した――文字通りにではなく象徴的にだったが、ふたつを分けて考えたのである。シンジロー大統領は関係を修復するためにISFを訪問し、かなりの譲歩をしてようやくそれを達成することが出来た。これらの事件は、ISFに大統領の行動を判断する権利があるということを、本質的に肯定してしまった――大統領がその職務にふさわしいか判断することもできるというのが避けられぬ結論であった。

 それからの数十年、ISFが大統領に反することは滅多になかったが、内外の反動分子は、現在の大統領、セオドア・クリタに対する軽蔑を隠さないでいる。玉座につく前から、ラサルハグの独立、ゴースト連隊の創設と、伝統を重んじる者たちは眉をひそめ、疑念を抱いたのである。氏族戦争のあいだ、ハンス・ダヴィオン国王(連邦共和国の統治者にしてクリタ家最大のライバルの一族)と3051年に不可侵条約を結ぶことで、保守的な感情はさらに煽られた。この条約はハンスの息子で後継者であるヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンとの本当に親密な関係に発展し、一部の強情な伝統主義者たちは、外国の影響が利益を上回るのを大統領が許したと確信した。氏族戦争を終わらせる上でDCMSが誉れ高い役割を果たし、星間連盟は再興され、3061年にセオドアは第一君主に任命された。これは緊張を幾分か緩和させたが、反対は残っているのであった。
















DCMS 3025





選抜連隊 SELECTED REGIMENTS



〈光の剣〉バトルメック連隊 SWORD OF LIGHT BATTLEMECH REGIMENTS

 〈光の剣〉の5個バトルメック連隊は、ドラコ連合招集兵団の精鋭である。人員の選択、訓練、装備など、部隊を構成するすべての要素が、典型的なメック連隊よりもひとつ上の戦闘能力を持つように計算されている。

 光る剣という意匠は、仏教徒、ヒンズー教徒、さらには古代キリスト教徒にルーツを持つ古風なものである。光の剣はもともと無知を切り開く啓発を表していた。ドラコ連合の旗の下で、燃えさかる剣はクリタ卿の意思の無慈悲な主張をシンボル化するようになった。

 〈光の剣〉連隊に入隊するメック戦士にまず求められるのは、クリタ家への狂信的な献身であり、他メック連隊での少なくとも5年の完璧な勤務によって示される。志願者はそれから知能、肉体、精神、政治の各能力について厳格な審査を受ける。テックやその他の支援人員も似たようなテストに合格せねばならない。

 〈光の剣〉連隊は需品調達部から最高の扱いを受け、部隊のメック戦士と戦闘機パイロットは新品かほぼ新品のバトルメック、気圏戦闘機を得る。〈光の剣〉連隊は戦場でも、交換部品の使用から配給の列まで最優先となる。各連隊はほぼ新品の専用航宙艦、降下船すら持っている。

 〈光の剣〉連隊は特定のRR(担当区域)を持っていないが、国家を移動して必要なところに力を貸す。不慣れな世界で友軍連隊を助けるため、最高司令部は目標地点の最新地図・報告を提供する。〈光の剣〉連隊は反乱鎮圧という遙かに栄光のない役割も果たす。近年はこの任務を実行する必要はなかった。しかしながら、かつて問題のある世界に〈光の剣〉連隊のメックが現れただけで、反乱分子は慌てて走り回ることになったのである。

 5個連隊のすべてが完全な4個大隊を持っている。珍しい4番目の大隊は、連隊指揮官に3個大隊では不可能な戦術的柔軟性を与える。利点の一つは第4大隊を連隊指揮官の護衛に使えることである。単純に数を増やして守りを強化するか、あるいは後方や側面を守るのである。さもなくば、3個大隊が痛めつけた敵に破滅的な一撃を見舞うのだ。

第1〈光の剣〉: アイボリー・ドラゴン
  この部隊は、夜間戦闘を専門とする2個中大隊、1個重大隊、1個強襲大隊からなる。
第2〈光の剣〉: スティール・ドラゴン
  この部隊は、1個軽大隊、2個重大隊、1個強襲大隊からなり、通常の2倍の気圏戦闘機を持つ。スティール・ドラゴンは開けた野戦を好む。
第5〈光の剣〉: ゴールド・ドラゴン
  第5連隊は、1個軽大隊、1個中大隊、2個重大隊からなり、すべて専門分野である市街戦に向いている。
第7〈光の剣〉: チーク・ドラゴン
  この部隊は、2個軽大隊、1個中大隊、1個強襲大隊で構成される。第5連隊と同じく、第7連隊は市街戦のスペシャリストである。
第8〈光の剣〉: チーク・ドラゴン
  この部隊は、2個中大隊、2個強襲大隊で構成される。3011年に再組織されたところで、まだ専門を持っていない。





自由移動連隊 FREE-FLOATING REGIMENTS

 ドラコ連合軍は、決まった担当区域のない部隊を表現するため「自由移動連隊」という言葉を使っている。これらの移動部隊は必要なところに行く準備をして、素早く移動することを期待される。これを達成するため、移動部隊は専用の降下船と航宙艦を持つ。

 ドラコ軍には自由移動部隊に対する偏見がある。優れた部隊の手腕を賞賛する者たちも多い一方で、大半が傭兵とたいして変わりない存在と見ている。部隊があまりに移動しすぎることから、管区部隊と違って国家に対する忠誠を育めないとは、批判する者たちの言い分である。

 自由移動部隊が最もこの偏見を感じるのは、補給物資を獲得しようとする時のことである。



プロセルピナ戦闘部隊 The Proserpina Hussars

 プロセルピナ戦闘部隊は移動自由連隊の精鋭である。彼らが持つ一撃離脱攻撃の実行能力は伝説的だ。戦闘部隊の起源については忘れられて久しい。最初に言及があるのは、クリタ家初期の軍隊の1個戦車師団である。それ以来、彼らの優れた戦闘能力は常に優遇を受けてきた。

 プロセルピナ戦闘部隊はプロセルピナ大学とつながっている。かつて、優秀な卒業生たちは、自動的に戦闘部隊に入隊した。だが、大学(と惑星自体)は近年の戦闘で大きな被害を被り、部隊との関係性は薄いものとなっている。

 プロセルピナ戦闘部隊の指揮官は、部隊に送られたメック戦士たちの能力をテストする権利を持っている。このテストが主眼を置くのは、極めて機動的な戦闘状況における戦士の戦闘能力と反応である。志願者が指揮官の基準に達していない場合、下位連隊に送られる。

 素早く巧みに戦う能力以外に、必要とされるものはない。集団として、プロセルピナ戦闘部隊は政治や正しいか間違ってるかの重要性を軽視する傾向にある。彼らにとって、存在意義とは、生きること、戦うこと、そして死ぬことなのである。彼らは遺産を残すことを心配するのは馬鹿馬鹿しいと考えている。しかしながら、政府関係者が周りにいるときは、この信条を口に出さないように注意している。

 プロセルピナ戦闘部隊は需品調達部と非常に上手くやっている。彼らの評判と戦果は自由移動部隊という偏見を容易に覆すものであった。自由移動部隊の常として、戦闘部隊はたまたま出くわす場合をのぞいて補給物資がほとんどどこかに送られてしまうことに苦しんでいる。

第1プロセルピナ戦闘部隊: ブラッドサッカーズ
  第1戦闘部隊は、4個大隊からなる中メック部隊で、一撃離脱戦術を専門とする。
第2プロセルピナ戦闘部隊: クリタヴァンパイア
  第2戦闘部隊は、追加の戦闘機支援を持つ中メック部隊で、一撃離脱戦術を専門とする。
第4プロセルピナ戦闘部隊: ルシエンリーチ
  第4戦闘部隊は、中メック部隊で、一撃離脱戦術を専門とする。



ヴェガ軍団 Legion Of Vega

 プロセルピナ戦闘部隊からスペクトラムの反対側にいるのがヴェガ軍団である。タカシ・クリタ大統領によって最近作られたヴェガ軍団は、「龍の腕の脇の下」と言われる。ペシュト正規隊に配属されるのがクリタに嫌われてることのサインとするなら、ヴェガ軍団への配属はクリタに憎まれていることのサインである。ここからは戻ることの出来ない地獄なのだ。

 3011年に作られたこの部隊は、3個連隊からなる。それぞれがクリタ軍のはみ出しもの、潰滅した傭兵部隊の生き残り、外国からの亡命者、辺境で捕まって軍団に奴隷として売られたメック戦士の寄せ集めである。

 奇妙な取り合わせであるのを見ると、規律がほとんど無いのは驚くべきことではない。彼らのやる気を引き出すのは難しく、たいていはボーナスを出すか、処刑すると脅して動かすのだ。

 ヴェガ軍団は傭兵部隊のやり方で運営される。政府はメック戦士に給与でなく任務ごとの報酬を払うことでこの考え方を助長する。

 部隊が部品を調達することは不可能に近い。需品調達部はヴェガ軍団をリストの一番下に置いており、傭兵部隊よりもさらに下なのである。需品調達部はヴェガ軍団に承認された補給物資をわざと遅らせることまでよくあるのだ。

 ISFはヴェガ軍団の活動を取り締まるのに困難を感じているが、所属メック戦士たちの性質を鑑みると、常時監視は不可欠である。軍団のメック戦士たちは、ISF諜報員の頭を打たずにドアを開けることは出来ないなどと言っている。ISFによる精査が、ヴェガ軍団への補給がいつも遅れる理由の一つとなっている。

 部隊にはメックへの塗装を施す予算がなく、よってメックは様々な塗装を使っている。

 部隊の紋章は、惑星の上で葉巻を吹かすネズミである。この世の地獄を生み出した男に敬意を払って、ヴェガ軍団の隊員たち(指揮官セオドア・クリタ含む)は紋章のネズミをタカシと呼んでいる。

第2ヴェガ軍団: ピラジャーズ(略奪者)
  この連隊は中メック部隊である。
第11ヴェガ軍団: ルーターズ(火事場泥棒)
  この連隊は重メック部隊である。
第14ヴェガ軍団: ルーターズ(酒飲み)
  この連隊は軽メック部隊である。



夜行兵団 The Night Stalkers

 引退を余儀なくされたメック戦士によって創設されたこの2個連隊は、すっかり名声を獲得している。年齢と戦傷が原因で退役したロイド・マクギャヴィン大佐は、まだまだこの先何年も戦えると感じていた。彼は懐疑的なDCMSから連隊を作る許可を得て、ドラコ実業界の裕福な要人に会い資金援助を求めた。

 3020年までに、彼は新品・中古の軽量級メックからなる2個連隊を組織した。幹部団を作るため、彼と同じく引退を強要されたベテランを集めた。それから、上位部隊に入れなかった若いメック戦士を採用する許可も勝ち取った。

 夜行兵団はすぐに注目を集めた。彼らは敵の支配する惑星襲撃を専門としていた。襲撃成功のうちほとんどはLCAF(ライラ共和国軍)に対するものだった。彼らの防衛能力もまた賞賛された……特にバトルメック工場のあるアルナイル防衛において重要な役割を担ってからは。

 不幸なことに、マクギャヴィン大佐は部下の面倒を見過ぎるきらいがある。政府からの非難をものともしない彼は、作戦中、部下を危険にさらすことはできないと、二度上官の命令に背いている。これはクリタ上層部にかなりの波紋を引き起こした。

 大統領はマクギャヴィン大佐の行動に満足はしていない。タカシ・クリタは2個連隊を分割し、出来る限り遠く離して配置している。需品調達部は夜行兵団に向かう補給物資をいくらか「紛失」する命令を受けている。

 夜行兵団は暗い配色を好む。マクギャヴィン連隊の部隊章は、大きな白い月を背にした大黒猫で、ジョヒロ連隊の記章は、黒衣を纏った骸骨である。


第1夜行兵団: マクギャヴィン連隊
  この軽メック部隊は、一撃離脱を専門とする4個大隊である。
第2夜行兵団: ジョヒロ連隊
  この軽メック部隊は、敵の惑星への襲撃を専門としている。



サン=ツァン兵学校候補生隊 The Sun Zhang Academy Cadre

 サン=ツァン兵学校候補生隊は、兵学校で4年過ごしたメック戦士候補の最後のテストとなる。候補生隊で、彼らは実戦を経験し、サン=ツァン兵学校の長く栄光ある伝統を持つ戦士のように対応することを期待される。

 候補生たちは部隊で9ヶ月勤務する。任期の最後で、卒業を許可されるか、あるいはさらなる任期を務めることになる。たいていが最初の任期では卒業できない。

 4個候補生隊での生活は極めて乱暴なものである。教官たちは出来るだけタフに、出来るだけ残酷にするために選ばれている。よって、卒業した候補生たちにとって、普通のメック部隊は生ぬるく見える。候補生たちは、敵地で哨戒の先陣に立ち、恐れることなく地雷原を通り抜け、鍛え抜かれたメック戦士ですら避ける任務を日常的に実行する。候補者の死亡(自殺含む)が異様に多いのは驚くべきではないだろう。生き残った者たちは、残りの人生を尊敬と共に扱われることとなる。

 物資の調達はサン=ツァン兵学校候補生隊にとって問題にならない。

第1サン=ツァン兵学校候補生隊
第5サン=ツァン兵学校候補生隊
第9サン=ツァン兵学校候補生隊
第12サン=ツァン兵学校候補生隊



アンティン軍団 The An Ting Legion

 第二次継承権戦争において、アンティン軍団はプロセルピナ戦闘部隊とよく似た任務を果たし、同じ敬意と栄光を勝ち取った。戦争が経過し、アンティン軍団が幾度かの大規模な敗北を喫すると、5個連隊はわずか2個連隊にまで減少した。この2個連隊が今日まで生き残っている。

 かつてアンティン軍団はサン=ツァン兵学校に匹敵する名門のメック戦士養成校を持っていた。この学校の卒業生はアンティン軍団に入隊した。残念ながら、恒星連邦からの何度かの攻撃とサン=ツァン兵学校からの一度の攻撃によって、養成校は閉鎖に追い込まれたのだった。

 きょう、アンティン軍団は自由移動部隊となっている。需品調達部はほとんど敬意を払わず扱うので、部隊は凋落している。

第2アンティン軍団: ライト・オブ・エンライトメント
  第2軍団は夜間戦を専門とする中メック部隊である。
第4アンティン軍団: ブッダ・ライト
  第4軍団は市街戦を専門とする中メック部隊である。
















DCMS 3067



ディーロン正規隊 DIERON REGULARS

 我らが古き敵と戦うため、長きにわたって防衛の訓練を行ってきたディーロン管区の連隊群は、軍内で最も実用主義的な兵士たちであり、その多くがセオドア・クリタ大統領による実利的な戦術ドクトリン変更を最も熱烈に受け入れた。氏族が来る前に広まっていた厳格なサムライコードを守っている者は連隊内にほとんどおらず、連合よりも個人の名誉を重んじるものはさらに少ない。



ゲイルダン正規隊 GALEDON REGULARS

 ドラコ連合でも最長かつ誇り高き歴史を持つゲイルダン管区。ここで育った兵士たちが最も由緒正しく腕が立つことはほとんど驚きではないだろう。4つの名門軍事校のうち2つを利用出来ることから、ゲイルダン正規隊には偉業が期待される。

 他の管区正規隊と同じように、過去10年の紛争はゲイルダンにとって生やさしいものではなかった。2個連隊が完全に失われた。第2正規隊は、マツイダで第17アヴァロン装甲機兵隊の砲火に倒れ、第17正規隊はメイレンでゴーストベアの第139打撃星団隊の前に崩壊した。両部隊の生存者は本国に送還され、他のゲイルダン連隊に転属となった。

 ゲイルダン管区内の活動が少ないゲイルダン正規隊は、中心領域にやってきた新氏族を適切に出迎える機会を得た。第19ゲイルダンはスノウレイヴン氏族と戦った最初の中心領域部隊になるという栄誉を得て、カンザカ星系でレイヴンの戦艦の1隻を撃沈した。この事件が何を引き起こすかは議論の種となったままだが、レイヴンのデータと海軍戦力に重きを置いていることから考えると、カンザカのジャンプステーションにおける「勝利」で大きな代償を支払うことになるかもしれない。



ペシュト正規隊 PESHT REGULARS

 かつては静かな地域で、兵士たちの心配することといったらパレードの隊形を乱さぬこととたまの海賊襲撃を撃退することくらいしかなかったペシュト管区は、氏族が中心領域への強襲を開始すると、大規模な激戦地となった。氏族の侵略によって、正規隊の大多数が拡大する氏族前線へと配置転換となり、コアワード辺境の防衛は事実上剥ぎ取られた。

 正規隊の負担は、ペシュト管区に我らが首都、ルシエンがあることで二倍になっている。スモークジャガーとノヴァキャットが進撃するに従い、ペシュト管区の運命、我らが首都の運命、ひいては連合全体の運命は、危機にさらされたが、比較的経験不足で、規律が取れず、装備の悪いペシュト正規隊のやる気が大きく引き出されることになった。



ゲンヨウシャ GENYOSHA

 エリートで、猛烈な忠誠心を持ち、機動性の高いゲンヨウシャ連隊群は、侵攻の開始からブルドック作戦とストラナメクティの大拒絶による集結まで氏族戦争を通して、繰り返しその価値を証明した。輝かしい戦歴は侵攻が終わってからも続いた……ゴーストベア戦争中にコンスタンスとキアンバで、後の恒星連邦との戦いではマーダックとブリードで。ふたつの戦いで激しい戦闘に身をさらしたのだが、両連隊は戦力が完全に充足しており、今後いかなる脅威が連合に降りかかろうとも名誉を持って直面する用意が調っている。



オトモ OTOMO

 オトモはセオドア・クリタ大統領の命を狙った後で一時的に冷遇されたものの、解散した第9ゴースト連隊の隊員たちで戦力を補充してかつての栄光に返り咲いた。公式には狂信的な忠誠心を持つ部隊となっているが、多彩な新隊員の過去がいかがわしいことから、ISFは新オトモを常時監視している。



イザナギ IZANAGI

 3030年代、拡大するセオドアの権力基盤に対する抑えとして結成されたイザナギ・ウォリアーズは、オトモに同行して戦力を増強する重要な資産となった。ゲンヨウシャ、オトモのように、イザナギの活躍は典型的なもので、ブルドッグ作戦で惑星いくつかを奪還し、ゴーストベアの侵攻では勇敢に戦った。



〈光の剣〉 SWORD OF LIGHT

 連合で最高の訓練を受け、最高の装備を持ち、最高の忠誠心を持つべく作られた〈光の剣〉連隊は、星間連盟時代から我が国のために勇敢に戦い、現代でもそれに違いは無い。DCMSの誇りである〈光の剣〉への入隊は、最も誇り高く難しく、氏族侵攻による大虐殺をもってのみ、厳しい制限が緩和されたのであった。



ゴースト連隊 GHOST REGIMENTS

 下層階級や犯罪者など社会の好ましからざる者たちによって作られたゴースト連隊は、第四次継承権戦争後にセオドア・クリタが発案したものであった。この時期に弱体化したドラコ連合の防衛力を強化したゴースト連隊は、3039年に連邦=共和国による確実な敗北から我が国を救った……たとえ彼らの存在が、龍の軍隊に穢れた血をもたらしたとしても。現在では、ゴースト連隊のうち一部だけが本来の起源に沿ったものであり、各ヤクザのオヤブンたちが部隊内の出来事に多かれ少なかれ影響を及ぼしている。だが、ゴースト連隊が有事に駆けつける限り、少数の怪しげな連中による不当利益は見逃されるかもしれない。

 このようないかがわしい活動により、ISFはゴースト連隊すべてに警戒の目を向けている。これら死活的に必要な兵士たちの確保にヤクザやその他の犯罪組織が貢献しているという暗黙の了解があるものの、大統領がゴースト連隊を作るという大胆な動きに出たことでオヤブンたちの活動はわかりにくくなっており、これら犯罪王たちの多くは黒龍会と結託していることで知られているのである。



ヴェガ軍団 LEGIONS OF VEGA

 かつて名誉と規律を持たぬDCMSの底辺であったヴェガ軍団は、3024年にセオドア・クリタが指揮をとってから方向転換を行った。価値なしとは考えられていないが、栄光を失い、やり直す力を持ったメック戦士たちはヴェガ軍団に送られ、軍管区部隊や同種の栄誉ある配置に戻るチャンスを得るのである。



リュウケン RYUKEN

 エリートで機動力の高いリュウケンは、故タカシ・クリタによる実験であり、伝説のウルフ竜機兵団によって訓練された。政治的な策謀によって、竜機兵団とリュウケンが互いの喉に剣を突きつけあった際、リュウケンの失敗は集団的名誉(連隊の特徴となり続けているもの)に傷を付けたのだった。















ドラコ連合 3075 Draconis Combine


指導者: .ホヒロ・クリタ大統領
政府: 貴族制(日本型封建主義)
首都、主星: ヤミシロ、ニューサマルカンド
主要言語: 日本語(公用語)、アラビア語、英語
主要宗教: 神道(公式)、仏教、イスラム教
居住星系: 267
創世年: 2319年
通貨: リュー





ホヒロ・クリタ Hohiro Kurita
称号/階級: ドラコ連合大統領、3070年〜
生年: 3023年(3075年時点で52歳)

 聖戦の初期は、ホヒロ・クリタにとって優しいものではなかった。まず、父が発作を起こして昏睡状態に陥り、ホヒロ自身もディーロンでワード・オブ・ブレイクに捕らえられた。数ヶ月後に救出されたものの、精神と肉体にダメージを負い、その後何年にもわたって苦しんだ。これによって、軍事の管領(軍務局長官)キヨモリ・ミナモトが連合政府で権力を振るうのが可能となったのである。戦争が落ち着きつつある現在、ホヒロは権威を強め、国家の迅速な回復に向けた計画を立てている。だが、ワード・オブ・ブレイクは脅威を弱めつつある一方、保守的で危険なブラックドラゴンというやっかいな問題はなお残っているのである。彼らは父親が実行した改革をすべて元に戻せという圧力を大統領にかけるのをためらったりはしないだろう。




第1〈光の剣〉 First Sword of Light

 DCMSの誇りと考えられている〈光の剣〉連隊は、連合の最精鋭部隊の一角である。だが、その伝統的な狂信を持ってしても、龍の最悪期において、裏切りと反逆という種を抑えることは出来なかったのだ。

 第1〈光の剣〉は戦闘のただ中に残って、プロセルピナ戦区でダヴィオンの侵攻と戦い、保護領のブレイク派世界を襲撃し、現在ではデヴリン・ストーンの連合区コマンドの先陣部隊を務めている。連隊はほとんど超自然的な怒り(ゴーストベアの暴力性に匹敵する)と共に戦い、龍の怒りのシンボルと化している。


ゴースト連隊 Ghost Regiments

 連合のゴースト連隊は、聖戦が勃発し、ルシエンが通信断絶した時には、恒星連邦の国境沿いに配置されていた。第10ゴーストはディーロンという肉挽き機の中でブレイク派を相手に勝てない戦闘を行い、そのあいだ他の連隊は国境をジャンプしたAFFS軍を押しとどめた。ゴースト連隊の大半は受けた損害より多くを与えたが、ルシエンからの指揮統制が失われ、ホヒロ・クリタが行方不明になったことで、DCMS部隊の多くが士気崩壊し、進退窮まった。その中にはゴーストの一部連隊も入っていたのである。


アーカブ軍団 Arkab Legions

 玉座が住民の行く末を軽視していたことと、連係した指揮がなくなったことに苦しんできたアーカブ軍団はついに限界にまで達した。それはアーカブに恐るべき小惑星攻撃が行われ、救援と援助の求めが事実上無視された時のことである。

 信頼を裏切り続けてきた龍にうんざりしたアーカブ軍団は持ち場を離れ、故郷の民衆を守り、支援するために、自星系へと帰還した。抗議の声が高まるにつれ、軍団は管領の求めに耳を貸さなくなり(アザミは大統領の操り人形に過ぎないと信じた)、その場にとどまった。




ルシエン・アーマーワークス Luthien Armor Works
本社: ペシュト
主要工場: ニューサマルカンド、トグラ、アビー・アディ

 おそらく連合で最大の企業コングロマリットであり、龍の代表的バトルメック製造業者であるLAWは、クリタ帝国の基礎を固める要となっている。LAWの忠誠心は常にクリタの玉座にあり、大統領の気まぐれにあわせて組織と事業計画を策定している。何世紀にもわたりこの大企業を真に脅かすものは何もなかった――聖戦までは。


インディペンデンス兵廠 Independence Weaponry
本社: ニューサマルカンド
主要工場: ルシエン、ドネガル、マーカブ、ヴィクトリア、スチュワート

 星間政治の表舞台に立てるよう中立の立場を取る兵器メーカー、インディペンデンス兵廠は、中心領域中の大手軍需生産業者のほとんどにサービスと物資を販売している。連合を拠点とするIWはひとつの企業というよりは、コングロマリットとして運営されており、各部門は特定の派閥とその慣習に沿って活動する。このような組織は何らかの奇妙な状況を生み出す。たとえば、どこで生産されようとも同じ兵器という事実があるにもかかわらず、連合内でIWが生産した兵器が恒星連邦の装備製造工程に売却、輸送、使用されるのを防ぐといったことである。


ハチマン=タロー・エレクトロニクス Hachiman-Taro Electronics
本社: ハチマン
主要工場: タウン、ディーロン、ルシエン、ミヤダ

 故チャンドラセカール・クリタが保有していた莫大な資産の中心的企業であるHTEは、連合の電子市場における要石と見なされている。"アンクル・チャンディ"のはじめた企業慣習により、連合外に販売・輸送される製品は、龍の市民向けの遙かに安い価格を相殺すべく、50パーセント近く高い値札が付けられている。

 HTEは、LAW、ワカザシ、イルテック、セレス、フェデレーテッド=ボーイングなど大企業の顧客に、軍用・民間用の電子装置を供給している。加えて、サファイア・サンセット金属、コンタード鉱業、スターコープス、イセサキ運輸など二流の企業といくつかの協定・合意を結んでいる。




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