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作成:2010/08/22
更新:2010/09/05

アントン・マーリックの反乱



 内乱と分裂の国、自由世界同盟。3014年に発生したアントンの反乱は、その象徴的な事件といえるかもしれません……ヤノス・マーリック総帥に反旗を翻したアントンは、ヤノスの実の弟だったのです。
 この内戦には、ウルフ竜機兵団が反乱軍の一角として参加していました。悪名高きケレンスキー独立中隊、ブラックウィドウが誕生したのはまさにこの戦いの最中のことです。
 ウルフ竜機兵団の参加した交戦を中心に紹介します。








人物



名前:アントン・マーリック
役職:カペラ前線指揮官、自由世界同盟総帥(仮定)
階級:将軍、プロキオン公爵
年齢(3015年):55

 幼少期のアントン・マーリックとヤノス・マーリックはほとんど分かちたがいものがあった。年長のヤノスは弟とともに陰謀と冒険の世界に飛び込み、父親を困惑させた。長じると、ふたりはヤノスを総帥にして、同盟を悩ます病をいやすという大計画を共有した。アントンがヤノスに続いてプリンスフィールドに入ったとき、兄弟のトラブル体質はこの養成校にとって忘れられないものとなった。アントンがウィリス・クロフォードと遊戯を結んだのはこのときのことで、すぐに彼は内輪の集団の一員となった。2981年に卒業したアントン・マーリック少尉は第3マーリック国民軍で華々しい活躍を見せた。上官たちは彼の戦術的手腕と優れたカリスマ性に注目した。カペラ前線で戦ったアントンは一連の勝利と、部下たちからの熱狂的な忠誠心をつかんだ。連隊指揮官に昇進した彼は国民軍の歴史で最も若い連隊指揮官となった。兄が総帥の座をつかんだあと、アントンは(一部の老士官たちから激しい反対があったにもかかわらず)将軍に昇進した。ヤノスの「友人議会」の中枢をなしたアントンは同盟の政策を策定する助けとなった。プロキオン公爵に任命されたアントンは全カペラ前線の指揮権と、望むように同盟の戦略を決めるフリーハンドを与えられた。

 同盟政治の過酷な現実は、二人の兄弟をひき裂くことになる。改革のためには議会の後ろ盾を得る必要があることを認識していたヤノスは政治的な駆け引きに巻き込まれるようになり、アントンの好みからかけ離れた譲歩を数多く行った。二人の間で議論が白熱するようになり、ことわりなくヤノスがアントン指揮下の部隊をライラ前線に動かすと緊張は高まった。ソラリスVIIの大敗のあと、ヤノスがウィリス・クロフォードを処刑すると(軍事的な失敗が理由での処刑は、この100年あまりではじめてだった)、二人の間の溝は修復しがたいまでに深まった。ヤノスが分裂しがちな自由世界同盟を統治するという問題で深い泥沼にはまるに従って、アントンは自分ならもっと上手くできるという考えをもてあそぶようになり、側近たちはそれをほとんど否定しなかった。2988年のクーデターで失敗した陰謀家たちが再浮上してアントンに近づいた時、彼は(兄と違って)彼らを糾弾しなかった。すでに支持者たちのネットワークを持っていたアントンは、少なくとも総帥の座を狙うことを真剣に考えはじめた。その後、マクシミリアン・リャオ首相が、この件に関わると決めた。

 ウルフ竜機兵団を得たアントンの計画は、夢想の段階から現実へと移った。地球での最初の秘密会談で、アントン公爵とジェイム・ウルフはすぐさま互いの戦略的明察と戦術手腕に尊敬を抱いた。だが、個人レベルでは、彼らの個性は相反するものであった――それはその後、災厄に帰結することになる。竜機兵団が裏切りを画策しているとの噂が浮上した時、アントンは竜機兵団を直接指揮下に置くことでウルフを試そうとした。ウルフが拒否すると、アントンはこれをウルフの二心の証明だととらえた。最悪をおそれたアントンは反乱を防ぐべくジョシュア・ウルフとそのほかの竜機兵団一族を捕らえた。護衛たちと戦ったジョシュアが死ぬと、アントンはパニックに陥り、そのほかの囚人を処刑するように命じた。

 自称総帥アントン・マーリックはニューデロスで死亡した。ナターシャ・ケレンスキー大尉の中隊が3015年3月25日に彼の司令本部を襲ったのである。






名前:ヴェサール・クリストファー
役職:アントン・マーリック公爵補佐官
階級:大佐
年齢(3015年):46

 カペラの世界、チコノフの首都、チコグラッド市の裏道で生まれたヴェサール・クリストファーの一族は破産しかかっていた。貧しい幼少期から逃れるという野心と決意を秘めていた18歳のクリストファーはコムスターに入団した。鋭く頭の切れるところを見せた彼は素早く侍祭の地位を駆け上がっていった。コムスターの内部政治をすり抜けるのに必要な手腕に長けていたクリストファーは2988年、ROMに異動となった。

 3005年に、自由世界同盟軍への浸透を任されたクリストファーは、この任務にふさわしいたぐいまれな技量を持っていることを実証し、アントン・マーリック公爵の個人的な幕僚という地位を得た。ユニークな地位についたことで、クリストファーの野心は煽られたように見える。アントン公爵はすでに総帥の地位を狙っており、クリストファーはROMの情報源を使って公爵に取り入ることができた。(反乱が成功したら)玉座の背後に居座ることができるというのに、クリストファーは重要でない工作員という役割に満足できただろうか? ROMの裏切り者は背後から事態を動かし、最後には自由世界同盟を内戦に追いやったのである。

 ヴェサール・クリストファーはニューデロスの虐殺を生き残ったが、カペラ宙域に逃げた時にROM工作員に逮捕された。第一系列に連行される前に彼は破門され、寂れた辺境世界アルファ・ハイドリに追放された。クリストファーはアルファ・ハイドリの試練を生きのび、辺境の盗賊に救出されたとの根強い噂がある。この話によると、彼はクリストファー・ケリーの名前を使って、盗賊のリーダーの座にのぼったという。そして海賊、ケリー奇襲部隊の辺境伝説はここから来ているとされる。ケリーはその後、他の海賊団との小競り合いで死んだということだ。

[残念ながら、このラウンドはファウストベルグ教授のドラゴンが勝ったようだ。クリストファーはみなが考えているようなワード・オブ・ブレイクの無法者工作員などではなかった。単なる工作員ではなく、なんとコムスターのROM司教だったのである。

 3005年、前任者がウルフ竜機兵団の出自を暴くのに失敗した後、任命されたクリストファーは、通常のやり方が失敗した後で、より複雑なアプローチをとらざるを得なくなった。この計画は、竜機兵団に出来る限りのダメージを与え、どこかにある本拠地に帰還させるというものであった。同時に、マーリックのイーグル通貨はCビルに対して強くなってきた。そこで第一系列は中心領域の経済をコムスターの都合がいいように戻す方法をなんとしても探していたのだ。

 ふたつの問題を解決する大胆な計画を持ち込んだクリストファーは、コムスターが事態を動かし、アントン・マーリックに長期間計画された反乱を起こさせることを示唆した。首位者ジュリアン・ティエポロと第一系列の祝福を受けたクリストファーは自ら浸透してアントン公爵のスタッフになり、リャオ首相がアントンの反乱を支援すべく竜機兵団を派遣するとの考えを吹き込むことが出来た。その結果、マーリックの経済は打撃を受け、イーグルは下落し、竜機兵団は本拠地での補給をせねばならなくなるほどの損害を受けることであろう。

 状況証拠によると、アントンの反乱の間、クリストファーはジェイム・ウルフがアントン公爵を裏切る計画を立てているとの情報を生み出し、ウルフの忠誠心を試すため竜機兵団分割という命令を出すことを示唆したようだ。ウルフが拒絶すると、アントンは裏切り間近という噂を信じざるを得なくなり、傭兵を支配下に置くために人質をとった。そしてまた、クリストファーは公爵のオフィスでの争いの最中にジョシュア・ウルフを射殺した。これが自身と公爵を守るための瞬間的な行動であったのか、注意深く実行された計画の一部であるのかは不明である。確かにジェイムの弟の死は、竜機兵団のニューデロスへの降下をもたらすだろう(傭兵に多大な被害をもたらす可能性がある)。

 結局のところ、クリストファーの陰謀は部分的な成功を収めただけだった。アントンの反乱はたしかにマーリック・イーグルの下落につながったが、ナターシャ・ケレンスキー大尉がアントンの司令部を強襲し、ニューデロスの戦いをすぐに終わらせ、竜機兵団が補給移動につながるような致命的な損失を受けるのは妨げられたのである。クリストファーの監視をおそれていたティエポロは、野心的なROM司教を排除するためにこの部分的な失敗を利用したと思われる。-Ed]






名前:ジェイム・ウルフ
役職:司令官、ウルフ氏族竜機兵団遠征隊(ウルフ竜機兵団)
階級:大佐
年齢(3015年):35

 ウルフ氏族のメック戦士ジョン・ヴィッカーズとブリジット(商人階級)の息子、ジェイム・ウルフはエデン飛び地領にあるアップルゲートの農業居住地で生まれた。通例のごとく、10歳でジェイムはどの階級がふさわしいかのテストを受けた。飛び抜けた反射神経と平均以上の知性の組み合わせを披露した、この若きフリーボーンは、戦士階級に入るための訓練を受けるというたぐいまれな名誉を賜った。ガンマ10シブコに割り振られた、成長途上のジェイムは、ヴィッカーズの血統によくある小柄で筋肉質な体型を継承した。ジェイムは古いアーチャーを操縦し、階級の神判での勝利を得た。トゥルーボーンの操縦するブラックホークを撃墜し、その後、ソアに見事なレーザーの一撃をもらって、損傷していたバトルメックが行動不能となったのである。

 3000年、メック戦士として、エプシロン銀河隊のショエール守備星団隊に配属されたジェイムは、星団隊が所有の神判でキルケの採掘権を守っていた際に、ノヴァキャット三連星隊を撃破するのを手助けし、すぐに頭角を現した。戦場でのキャットに対する勇敢な行動は、ジェイムに前線部隊での地位をテストする機会を与えた。地形の巧みな利用で相手を敗ったジェイムは、対戦相手が乗っていたソアをアイソーラ(戦利品)とし、第328強襲星団隊でスターコマンダーの地位を我がものとしたのである。スターキャプテン・ナターシャ・ケレンスキーの指揮の下、ジェイムは、パクストンでダイアモンドシャークを、エデンでジェイドファルコンを叩くのを助け、3003年、ケレンスキーのスターコーネル昇進後に、苦もなくスターキャプテンになったのだった。

 ウルフのブラッドネームを創設するという約束(ほとんど前代未聞の名誉)をもって、ワード氏族長はスターキャプテン・ジェイムと弟のジョシュアに、ウルフ竜機兵団の指揮をとらないかと持ちかけた。多くの氏族はこの選択に尻込みしたが、族長会議はウルフ氏族にふさわしい部隊と隊員を決める権利があると決定した。

 竜機兵団は辺境でいったん足を止め、戦艦とそのほかの装備を隠した……中心領域に竜機兵団がSLDF出身であることを見抜かれるだろうと前衛斥候が報告してきたのである。ジェイムはこの任務に選ばれた「一族郎党」の一人、エレンと結婚した。3005年の4月、恒星連邦の世界デロス上空に竜機兵団が現れ、地元の防衛隊にパニックを引き起こした。竜機兵団の指揮官がジェイム・ウルフ大佐と名乗り、竜機兵団が雇用主を探している傭兵であると地元司令官に通告すると、彼らはいくぶん落ち着いた。装備の良い5個連隊、支援部隊を持つ竜機兵団は、仕事を探すのに苦労することはなかった。ウルフ竜機兵団の指揮下で、ウルフ竜機兵団は精強にして腕の立つ傭兵部隊であるとの評判を確立した――その一方で、出自を尋ねられると、礼儀正しく首を振ったのだった。

 ジェイムがアルファ連隊を率いてカペラ大連邦国のスークで戦っていた時に、エレンは最初の子供、マッケンジーを出産した。マックは翌年、妹のリンとブリジットを得た。保安上の理由により、家族のことは中心領域の権力者たち、竜機兵団の大部分の目から隠された。子供たちは、カーティス・ウィニングハムの孤児、ダーネル、キャリー、サラとされたのだった。アントン・マーリックの手によって、弟のジョシュア、妻エレン、娘のリン、ブリジットが死んだのは、ジェイムを打ちのめしたに違いない。偶然にも、マッケンジーだけが虐殺を逃れた。彼は恒星連邦で言語障害の治療中だったのである。



竜機兵団の妥協

 ナディア・ウィンソン(ゴーストベア氏族長にして熱心な侵攻派)は、氏族の中心領域への帰還を争点にしようとした。ケルリン・ワードは、そのような重要な決定をするには、必要な情報が足りないと主張した。妥協案として、傭兵に偽装した一個部隊を中心領域に派遣し、将来の敵の強みと弱みに関する詳細な報告を入手することを、彼は提案した。族長会議はこれを受け入れ、主としてフリーバースと、その他の評価が低い戦士たちからなる部隊を招集する名誉をウルフ氏族に与えた。フリーボーンの「一族郎党」が放浪する傭兵部隊という外見を仕上げ、数名のブラッドネーム持ち戦士たち(ナターシャ・ケレンスキー含む)がこの任務に志願した。

 数ヶ月間、ゴリアテスコーピオン・ハートベノム星団隊の訓練を受けたのち、ウルフ竜機兵団は2004年に中心領域へと向かい、その後は有名な歴史の知る通りである。







名前:ジョシュア・ウルフ
役職:副司令官、ウルフ氏族竜機兵団遠征隊(ウルフ竜機兵団)
階級:少佐
年齢(3015年):34

 兄のように、ジョシュアはフリーバースの生まれにもかかわらず、戦士階級に入るための訓練を受ける名誉を与えられた。階級の神判の激闘の結果、ジョシュアはキルケの第二線級ショエール守備星団隊に配属された。ここで彼は兄と同じくらい腕が立つことを証明して見せた……ウルフ氏族ベータスリー鉱業施設群を巡る所有の神判で、スノウレイヴン氏族の第14戦闘星団隊に手痛い敗北を与えるのを手伝ったのである。レイヴンの気圏戦闘機は、守備隊を痛めつけていたが、突然キルケ特有の大嵐に遭遇した。レイヴンの航空支援が地上に戻ると、ジョシュアは千載一遇のチャンスをつかんで、三連星隊の生き残った隊員を率いて、即興の逆襲を行い、レイヴンの地上部隊を粉砕したのだった。

 キルケでの行動が評価され、ジョシュアは階級の神判を許され、前線部隊に入った――具体的には、エリート第328強襲星団隊のスターキャプテン・ナターシャ・ケレンスキー率いる三連星隊である。スターコマンダー・カーチャ(ナターシャ・ケレンスキーと同じシブコ出身のトゥルーボーン)に仕えたジョシュアはメック戦士としての特別な才能を発揮し続けた――3002年、エデンでのとある神判で、ジェイドファルコンを重要な瞬間に釘付けとし、3002年、スターコマンダーの階級に昇進した。

 ジェイムと並んでジョシュアはウルフ竜機兵団の指揮を持ちかけられた。ジェイムが氏族長となり、ジョシュアが副氏族長の役割をこなすのである。氏族偵察隊を組織するのに必要だった数ヶ月のうちに、ジョシュアの管理事務的な才能が発掘され、解放されたジェイムは、ゴリアテスコーピオン氏族の志願者の助けを借りて、竜機兵団の戦術的技能をとぎすますことが出来たのである。

 中心領域到達に際して、ジョシュアはジェイムの幕僚として仕え続け、すべての契約交渉に深く携わり、雇い主との連絡任務をこなした。ジョシュアは最期の瞬間にもこの役目を果たしていた……彼と27名の竜機兵団員、家族(ジェイムの妻、娘含む)は、アントン・マーリック兵に虜囚として捕らえられ、処刑されたのだった。



スパイダーとウルフ

 当初、ジョシュアに対するナターシャ・ケレンスキーの関心は、純粋に職業的なものだった。彼女はジェイムの手腕に多大な敬意を払うようになり、そしてジョシュアが同等の能力を発揮すると、三連星隊の損失(ダイアモンドシャークを破った時に被ったもの)を埋めるように要求したのである。第328強襲星団隊に共に仕え、強い友情の絆が、ケレンスキーとフリーボーン兄弟の間に生まれた。

 3003年、スターコーネルの地位に上昇したケレンスキーは、キャリアがここで止まってしまったことに気づいた。政治的忍耐がまったく欠けていたことは、重要な任務からはずされることを意味していたのである。さらに悪いことに、戦場で成功していたことから、他の氏族は入札を絞って彼女の星団隊を排除し始めた。結果、ウルフ氏族の敵が行きすぎた過剰入札をし、戦場での大敗を喫した一方で、ケレンスキーと第328は、他部隊が軍事的栄光を勝ち得ているのをサイドラインから見ていることになった。中心領域での作戦行動、冒険のチャンスに、性急なケレンスキーが飛びついたのは不思議ではない――たとえそれが、事実上、ポイントコマンダーの階級への降格を意味していたとしても(ワード氏族長は、ケレンスキーを連隊指揮官のような目立つ地位につけると、竜機兵団の正体のあからさまな手がかりになってしまうと感じたのである)。

 ジョシュアとナターシャの関係がいつ友人から恋人になったのか、それを語る記録は存在しないが、状況証拠によると、竜機兵団がカペラ大連邦国と契約していた際に、関係が始まったものと思われる。二人は関係を隠すのに苦労したのだが、ジェイムは何が起きていたかに気づいていたようだ。明らかにジョシュアの死は、ケレンスキーに大打撃を与えた。ニューデロスでの最期の戦闘後、彼女は「ブラックウィドウ」を自称して登場したのである。









反乱



ノヴァローマ NOVA ROMA

 アトレウスに向かう通過点のノヴァローマは、アントンの「イーグル」攻勢の最初の目標となった。第9マーリック国民軍、旧式装甲車両による2個連隊、4個市民軍に守られていたこの王党派惑星は、反乱軍の猛攻に対する準備が出来ていなかった。第4レグルス軽機兵隊と第3公爵近衛隊が、竜機兵団戦闘団(ベータ連隊、第7奇襲部隊、特殊偵察群、ゼータ大隊)の支援を受けて上陸した。

 長引く戦いにはまりたくなかったベータのジェレミー・エルマン大佐は次の二日間、第4軽機兵隊と共に調査攻撃を行った。第9国民軍指揮官モンターグ・ヴァン・キャッスル大佐の注意を引きつけたことに満足したエルマン大佐は、第7奇襲部隊を、ノヴァローマ首都、コンスタンティノープルに差し向けた。白昼堂々の襲撃で、奇襲部隊はアイリーン・コンスタンティーヌ知事と閣僚の大半を誘拐するのに成功した。反乱軍の手中におちた知事は、王党派に対し、武器を置くよう命令することを強要された。ノヴァローマ市民軍の大半は応じたが、一部は無視して、ゲリラ戦を行うべく地方に落ち延びた。支援軍を失ったヴァン・キャッスル大佐はノヴァローマを放棄し、エムリスIVに後退するよう、第9マーリック国民軍に命令した。

 主だった戦いはわずか三日で終わったが、アントン兵たちは王党派のゲリラに対処せねばならなかった。ベータ連隊、特殊偵察群、第3公爵近衛隊の分隊が次の一週間、敵を狩りたてた。これらの掃討戦の間に、悪名高き賞金稼ぎと、ベータ連隊のナターシャ・ケレンスキー中尉がドーンリバー周辺の険しい地形に派遣されたのである。アントンの私軍を拡大させるため契約した小規模傭兵隊、フリーランスの中に、賞金稼ぎと仲間の人殺したちが混ざっていた。

 狭い峡谷を偵察していた賞金稼ぎは問題ないとの信号を送った。ケレンスキーが重小隊を率いて入った時、隠れていた王党派部隊が砲火を開いたのである。中尉はマローダーからの緊急脱出を強いられた後、意識不明の状態となった。意識を取り戻すと、彼女は賞金稼ぎと仲間たちが部隊の残骸(ケレンスキーのメック含む)を回収しているのを目撃した。小隊のうちもう一人(メック戦士コリン・マクラーレン)だけが待ち伏せを生き延びたのだった。

 賞金稼ぎの事件をのぞくと、タスクフォースイーグルの損害は軽いものだった。計画を推し進めたアントン公爵はタスクフォースイーグルにエムリスIVに進むよう命じた。



エムリスIV EMRIS IV

 エムリスIVは継承権戦争の災禍を逃れた産業化された世界で、アントン・マーリックにとってはアトレウスまでの道程という以上の世界であった。ここで決定的な勝利を収めれば、中立を宣言した国を彼の側に動かすことが出来るかもしれない――総帥の座につくというアントンの主張が説得力を増すだろう。

 ノヴァローマからの撤退を強いられた第9マーリック国民軍もまたエムリスIVに向かっていた。この星は反乱軍にとって理論的な目標でもあり、第6マーリック国民軍と1個連邦歩兵旅団に守られていた――全隊が、イワノグラッドにあるスターコープス社のメック工場と、ウルセイノヴァにあるホーリー工業の兵器工場の周囲に駐屯していた。第6のサジ・ラハル大佐と話し合ったあとで、ヴァン・キャッスル大佐は第6をウルセイノヴァに動かした。ノヴァローマの失敗を繰り返さないと誓っていたヴァン・キャッスル大佐は政府の上層部を素早く保護下に置いたのである。

 第6が強力な航空宇宙部隊を持つことを知っていたアントン公爵は、FWLSファルコンズ・ネスト(貴重なヴェンジャンス級降下船)と自身の航空宇宙戦力のうちから最も優秀な部隊を、強襲の支援にあてた。竜機兵団の航空隊に支援された凄腕の2個航空大隊は、容易に第6マーリック航空隊を押しのけた。アルファ、ベータ、ガンマ連隊と、ゼータ大隊、火力支援群の支援と共に上陸したジェイム・ウルフ大佐は、アルファとガンマをイワノグラッドの第6マーリックの正面に動かし、その一方で、エルマン大佐のベータ(火力支援群とゼータ大隊の支援付き)をもう一度ウルセイノヴァの第9に向けた。

 ウルフ大佐は二週間に渡って第6の防衛力を調査し、弱点を探したのだが、イワノグラッドが手に負えないタフであるのを証明しただけに終わった。ガンマ連隊のウィルヘルミナ・コルシュト大佐は、デスウォッチ旅団――第6のエリート強襲大隊の前に立ち止まった。パトリック・チャン少佐のレッドデビルス(アルファ連隊、べーカー大隊)は、華麗なディック"ダイバー"ディクソン大尉と遭遇した。大尉はジャンプするオストロックで無謀な真上からの飛び降りを仕掛けて混乱を振りまき、ウィルヘルム火力大隊の残りが到着するまで数に勝る敵に対し1個中隊で戦線を守ったのだった。

 ウルフが状況を打破したのは、偵察兵たちが第6が見逃していたと思われる放棄されたトンネルを発見した時のことだった。トンネルはもうスターコープス社の工業地帯までは届いていなかったが、第6の固く守られた防衛境界線を超えて走っていたのである。気づかれることなく大規模な戦闘群を通すのは難しいことにウルフは気づいていたが、おそらく小規模な部隊なら防衛隊がイワノグラッドの周辺に敷いた鋼鉄の輪をすり抜け、混乱を振りまき、主力が突破のための強襲を行うことを可能とするかもしれない。志願者を募ったウルフはこの危険な仕事にナターシャ・ケレンスキー中尉を選んだ。コルシュト大佐が一連の陽動攻撃を仕掛けている間、ケレンスキー中尉(王党派から回収したウォーハンマーに乗っていた)は臨時中隊をトンネルに導いた。

 障害物と妨害を乗り越えると、戦闘が夜に荒れ狂い、彼らはついにエプスタイン重大隊の背後に現れた。安全なはずの後方に敵が現れたことで、パニックがエプスタイン大隊を駆け抜けていった。危機を救うため、英雄的な行動に出たイーサン・エプスタイン少佐はケレンスキー隊に指揮中隊を差し向け、敵を素早く片づけて戦線を安定させようとした。ウルフ大佐はそのチャンスを与えなかった。極限まで高められた手腕を持ってタイミングを選んだウルフは、全アルファ連隊を崩れた国民軍大隊に投入した。ラハル大佐は穴を埋めるためにデスウォッチ旅団を動かしたが、重々しい強襲メックはあまりに低速すぎた。アルファが先にたどり着き、王党派の戦線は崩壊したのである。

 戦闘は朝まで続いたが、それまでには竜機兵団が第6をイワノグラッドから追い出していたのである。デスウォッチ旅団とウィルヘルム火力大隊は秩序正しく退却したが、エプスタイン大隊はアルファに陣地を蹂躙され壊滅したのだった。エプスタイン少佐はオリオンの中で戦死した。ケレンスキー隊は4名のメック戦士だけが生き残った(中尉とメック戦士マクラーレンはその中に含まれていた)。ガンマ連隊がイワノグラッドを確保する間、アルファは第6を追撃し、ウルセイノヴァの第9と合流できないようにした。

 アルファとガンマがイワノグラッドに力を注いでいる間、ベータ連隊、ゼータ大隊、火力支援群はウルセイノヴァで激しい抵抗に遭遇していた。都市の主な建築様式は27世紀にさかのぼる、広い通りと林立する大理石・花崗岩の建物の組み合わせで、この町をメック戦士の悪夢とした。エルマン大佐による最初の強襲は上手く運び、ゼータ大隊による強襲で第9マーリック国民軍をウルセイノヴァに追いやった。都市に入ると、前進は遅々としたものへとかわった。大急ぎで作られた遮蔽の背後から、歩兵と装甲車が前進するメックを狙い撃ったのである。ゼータとの交戦で痛めつけられていたのだが、第9マーリック国民軍は激しい戦いを続けた。もっとも酷い状況に置かれたのが政府管区であった。パラシス少佐のエイブル大隊が、歩兵、装甲車、振動地雷の中に突っ込んでしまったのである。ウォーハンマーが待ち伏せで撃墜されると、パラシス自身も負傷した。アリシア・ファンケル大尉(強襲中隊指揮官)がエイブル大隊の指揮を引き継いだ。ベータの全装甲隊を支援のために呼び寄せたファンケルのバトルメック隊は、容赦のない果敢さで組織的に拠点となっているビルを破壊していき、都市から防衛隊を押し流した。

 イワノグラッドとウルセイノヴァの両方が失われると、ファン・キャッスル、ラハル両大佐はエムリスIVを放棄するよう血まみれの諸連隊に命じた。第6の残った気圏戦闘機は安全に王党派を撤退させるのに成功したが、そうするのに多大な代価を支払った。第6はソフィーズワールドに向かい、第9はヴァンラに向かっていった。



マテラン MATHERAN

 オリエント公国の目立たない世界、マテランは、第11アトレウス竜機兵団が駐屯しているというだけでアントンの反乱の目標となった。主に中量級バトルメックで構成された、経験に欠ける1個連隊の第11は、姉妹連隊である第12アトレウス竜機兵団の相手になりそうもなかった。数個重バトルメック中隊を持つ古参兵の第12は、マテランに上陸した時にはやや定数不足の状態にあった。なぜなら、部隊全体がアントンの側についたにも関わらず、幹部の一部(上級士官含む)が公爵を支持しないと決めたからである。

 第11のオマー・サンダスキー大佐は、降下船を使って部隊を第12の降下地点に展開し、より経験を持つ連隊が足場を確保するのを妨げようとした。フランシス・フェルディナンド大佐の第12アトレウス竜機兵団は容易にサンダスキーの攻勢を撃退したが、中隊指揮官たちが大隊を運営していたことから王党派を追撃するのが遅くなってしまった。翌月、2個連隊は赤道直下の広大な森林地帯で死の鬼ごっこを行った。サンダスキーは戦うために何度も振り返ることとなった……フェルディナンドの経験豊かで装備の優れた兵士たちは何度も王党派の戦線を破ることが出来た。9月半ばまでに、王党派は半分の戦力となり、第12に追いつめられるのは時間の問題かと思われた。

 スミッソン・チャイニーズ・バンディッツの到着が、2個連隊の状況をひっくり返した。

 アントンの宣言のニュースが届いた時、この傭兵隊は契約を更新している最中だった。追いつめられた同盟の状況を利用して、冷血なエリン・ヴィオラ大佐は交渉を二週間引き延ばし、契約金のアップを主張した。アントンが条件の良いオファーを出すかもしれないと恐れた同盟の交渉担当者は、すぐさまヴィオラ大佐の条件を飲んだ。傭兵の忠誠を確保したヤノス・マーリックはバンディッツに即座の移動を命じた。

 バンディッツはちょうどいいタイミングでマテランに到着した。第12の背後に降下したヴィオラ大佐の諸兵科連合隊は、ゴリアテ松の数メーターの厚みを持つ幹の中での接近戦に理想的であることがわかった。特に対メック歩兵は成功した……第12アトレウス竜機兵団は適切な歩兵支援を欠いていたのである。サンダスキー隊に最後の一撃を加えていた反乱軍は後退した。

 反乱軍と王党派の役柄はいまや逆転した。第12は暗い森を通って、追撃してくる傭兵に激しく追い立てられながら、戦闘退却を行った。



ソフィーズワールド SOPHIE’S WORLD

 反乱軍の着実な前進を止めようと、総帥は兵士をかき集めて、その進路に放った。ヤノスはソフィーズワールドに集まった部隊がそう長く敵を押しとどめられないと考えていた。総帥には時間を稼ぐ必要があり、よって第1アトレウス竜機兵団、第6マーリック市民軍、傭兵ヘッドハンターズをそのためのコインとしたのである。第1アトレウス竜機兵団は防衛任務向きの1個重連隊であったが、第6はエムリスIVで敗北したばかりだった。ヘッドハンターズは、総帥がほとんど思いつきで辺境から持ってきた、落ちぶれた傭兵バトルメック大隊だった。3個通常連隊――そのうち2個は重装甲連隊――に支援されていたのだが、エンリコ・ビッグズ将軍(プリンスフィールド卒業生で、総帥の古くからの友人)は、かきあつめた部隊では竜機兵団の大軍勢を止めることは出来ないと分かっていた。兄に予定を狂わされるのを拒否したアントンは、この惑星を奪うために、第3マーリック市民軍、竜機兵団のデルタ、エプシロン連隊(予備だった)を派遣し、その間主力強襲軍は、ドルジバッケン、そしてマーリック共和国への移動に備えた。

 地に足をつけたその瞬間から、反乱軍は軽メックによる一撃離脱戦の嵐に晒された。逃げる王党派メックは、繰り返し、追撃部隊を第1アトレウス、第6マーリックの重バトルメックの待ち伏せに引き込もうとした。第6、第3マーリック市民軍の間の戦闘は、特に野蛮なものとなり、どちらの部隊も慈悲を与えることも望むこともなかった。

 総帥が望んだように、反乱軍は長引く戦いに拘束され始め、反乱を永遠に終わらせる反撃を行うための王党派を集結させるのに必要な時間を稼ぐことが出来たのである。







躓き



ソフィーズワールド SOPHIE’S WORLD

 ソフィーズワールドがタスクフォースイーグルの限られたリソースを奪うのではないかと心配したウルフ大佐は、素早く片を付けるために、アルファ連隊を転進させた。すでに地上にいた部隊との調整を行ったウルフは、アルファを第1アトレウス竜機兵団の予測進路に下ろした。アルファとデルタの間にとらわれた王党派には移動する場所がなかった。数的不利を被り火力で負けていることがわかっていたオムステッド大佐は、アルファ連隊の突破を図った。第1アトレウス竜機兵団の突撃は、ケリー・ユキノフ少佐のエイブル大隊からの猛砲火に直面して止まった。二度目の突撃に備えたアトレウス竜機兵団は到着したデルタに背後から襲われた。

 アトレウス竜機兵団が崩壊すると、第6マーリック市民軍とヘッドハンターズは賢明にも撤退した。第1アトレウス竜機兵団の生存者は駆りあつめられ、ニューデロスの捕虜収容所へと送られた。



マテラン MATHERAN

 スミッソン・チャイニーズ・バンディッツは、ぼろぼろになった第11アトレウス竜機兵団の生き残りと共に、ほぼ一ヶ月間、草の根をかきわけて、反乱軍の第12アトレウス竜機兵団を探した。ソフィーズワールドでは、反乱軍が長引く戦いに足を取られていた。これらの部隊はオルロフ公爵領、オリエントからあるはずの攻撃に備えて、アントンの南側面を守ることになっていた。アントンがキャサリン・ハンフリーズを動かし、アンドゥリエン防衛軍を得るのに失敗したことは、この脅威をもう無視できないことを意味していた。性急に策定されたコンドル作戦によって、新たな反乱軍部隊(ウルフのベータ、ガンマ連隊に率いられた)が、キャロウェイVIに向かう途中呼び寄せられ、包囲された第12アトレウス竜機兵団の救援に向かった。

 竜機兵団の戦列連隊は、昇進したナターシャ・ケレンスキー大尉指揮下の新独立中隊を伴っていた。竜機兵団内の犯罪者や規律に問題のある者にとってのラストチャンス部隊である(ケレンスキー大尉はこの中隊の指揮を志願した)。ジェイム・ウルフは彼らを火消し役、トラブルシューティングに使うことを計画していた。

 ソフィーズワールドと違って、ウルフ竜機兵団と反乱軍兵士たちの連携は充分と言えないもので、第1アトレウス竜機兵団を苦しめていた罠の連続を処理することは出来なかったのである。スミッソン・チャイニーズ・バンディッツは、第12アトレウスとウルフ竜機兵団の間につかまったらどうにか出来るなどと考えていなかった。ヴィオラ大佐は整然と部隊を引き上げさせ、ヴィンセント・ウォラム少佐(第11アトレウス代理指揮官)にもそうするよう説得した。ウォラムは拒否し、バンディッツにもその場を死守するように命じた。総帥は死ぬまで戦うに足る代金を払ってないと怒鳴ったヴィオラはウォラムを無視し、ストラヴェン河を渡って引き続けた。

 ついに窮地にいることを理解したウォラムは打ちのめされた第11を移動させ始めたが、すでに遅すぎた。ケレンスキー大尉の中隊がベータ連隊と共に上陸していたのだが、偵察兵は敵がいないと報告していたので、ケレンスキーは部下をせき立て強行軍を行い河を渡らせた。バンディッツを止めるには遅すぎたケレンスキーは第11アトレウス竜機兵団の撤退を止めることが出来た。ウォラムは強引に渡河しようとしたが、ケレンスキー中隊は段々と死にものぐるいになってくる突撃に対し断固として立ちふさがった――バンディッツがウォラムを支援しようと、漫然とした攻撃を行っていたのだが。ベータ連隊が近づいているとの報告を受けるとウォラムは膝を屈し、ケレンスキーに降伏を申し入れた。

 その夜、スミッソン・チャイニーズ・バンディッツは降下船に乗り込み、カーボニスに向けて出発した。







崩壊



キャロウェイVI CALLOWAY VI

 キャロウェイVIは、ヤノス・マーリックが選んだ集結地点で、集めた部隊を持って内戦を終わらせるための決定打を放つことを計画していた。5個バトルメック連隊(第1、第2、第6オリエント軽機兵隊、オリエント機兵連隊第2旅団、第6アンドゥリエン防衛軍)がこの世界に移動済みだった。アントンのコンドル作戦は本来ならこのような戦力集中を妨げることを意図していたのだが、ノックアウトパンチがやってくるのは遅すぎたのである。正確な情報を持っていなかったアントンは、竜機兵団のベータ、ガンマ連隊、ケレンスキー中隊、傷ついた第12アトレウス竜機兵団、第3公爵近衛隊をこの作戦に割り振った。

 反乱軍はキャロウェイ星系に入った瞬間から激しい抵抗に直面した。王党派の戦闘機は航宙艦を無視した一方で、降下船に集団攻撃を仕掛けたのである。すでに戦力減少していた第12アトレウス竜機兵団は、ユニオン級〈ローリレス・プライド〉がリーバー戦闘機の1個航空中隊に吹き飛ばされた時に、1個中隊すべてを失った。次の攻撃で戦闘降下は分散させられ、ケレンスキー大尉のひらめきによってのみベータ連隊は降下地点を確保出来たのである。

 いったん上陸すると状況は反乱軍にとってわずかに良くなった。コーネリアス山脈に抱かれるアースワークスの工場に突き進むベータ連隊は、第6アンドゥリエン防衛軍に止められた。ガンマによる側面攻撃がこの抵抗を脇にやった(ミルドレッド・ハンフリーズ中将は「ウルフに押された」後に形ばかりの抵抗を行っただけだった)が、ベータの再開した進撃は、第6オリエント軽機兵隊とオリエント軽機連隊にまたも止められた。ベータをガンマのベイカー大隊で増強したエルマン大佐は第6軽機兵隊と側面の軽機連隊を押し通ろうとした。この計画は一部成功した……中量級の軽機兵隊が機動力を活かすべき場面でうかつにも立ち止まって戦ったのである。この王党派連隊は壊滅したが、機兵連隊が再展開するのに充分な時間稼ぎをするのにはどうにか成功した。第1、第2オリエント軽機兵隊が隠された掩蔽壕のネットワークから出てきて、傭兵隊と他の反乱軍部隊との間にくさびを打ち込もうとすると、エルマン大佐はアトレウス竜機兵団と公爵近衛隊をオリエント機兵連隊にぶつけた。

 四方を囲まれた竜機兵団は、孤立した反乱軍を救い出そうと戦い続けた。戦闘はほぼ休むことなく続いたが、機兵連隊とアンドゥリエンが圧力をかけ続ける中で、竜機兵団はオリエント軽機兵隊が公爵近衛隊とアトレウス竜機兵団を包囲するのを妨げることが出来なかった。公爵近衛隊はもう一日もったが、彼らの陣地は急速に絶望的なものとなっていった。2個メック中隊がやっとというところまで減じた反乱軍は降伏した。敵を討とうとする4個連隊からの分隊に直面したエルマン大佐は、降下船に対し緊急脱出ポイント(二日目に奪取した精油所の向こう側)に着陸するよう命じた。精油所まで渓谷を飛び飛びに後退したベータとガンマは降下船にたどり着いた。エルマンは乗船にいましばらくの時間が必要なことを知っていた。よってケレンスキー中隊を派遣して渓谷を確保させたのである。ケレンスキー大尉とメック戦士たちは第2オリエント軽機兵隊の1個大隊を一時間足止めし、エルマンが必要としていた時間を稼いだ。竜機兵団は物理的には生き残ったが、竜機兵団が無敵であるという王党派の評価はキャロウェイVIで死に絶えたのである。エルマンはセメニーアへと引き返していった。

 キャロウェイVIは王党派の勝利に終わったのだが、代償の大きいものであった。第6オリエント軽機兵隊は作戦可能な部隊ではなくなっていた。さらに悪いことに、反乱を終わらせるために作られたタスクフォース・ヤノスはそれが出来る状況ではなくなっていたのである。



ティバー TIBER

 第4レグルス軽機兵隊が裏切り、レグルス国が兄についたのに伴い、アントン公爵はこれが反乱で最後になる攻勢に着手した。マーリック共和国への攻撃が失敗すると、アントンはアトレウスを叩くためにレグルス宙域をすり抜けることを決断した。1月の後半、ウルフ竜機兵団のベータ連隊(ゼータ大隊、火力支援群、ケレンスキー中隊に支援されていた)と、第6、第8公爵近衛隊の臨時部隊が、地元通常部隊の激しい抵抗に遭遇しながらも、ティバーとアースワークスのバトルメック工場を奪い取った。

 総帥は怠惰ではなかった。キャロウェイVIの部隊はしばしの間足止めを食わされてしまったが、ライラの攻撃がゆるんだことで、他のオルロフ擲弾連隊群を持ってくることが出来た。第1レグルス軽機兵隊と合流した擲弾兵隊は抵抗軍のすぐ後に到着した。

 軽機兵隊が最初に上陸した。すさまじい砲撃と、ゼータ大隊の巨大なバトルメックによる断固とした攻撃に直面しながら、彼らはどうにか足場を確保した。オルロフ擲弾兵隊が到着するまでに、軽機兵隊はバトルメック1個大隊にまで減少していた。彼らが苦労して勝ち取った橋頭堡から、第5擲弾兵隊はアースワークスの工場を確保しに突き進んだが、竜機兵団のベータ連隊に阻まれた。第8擲弾兵隊は友軍の支援に動いたが、ゼータ大隊の待ち伏せを受けただけだった。戦闘は一週間続き、どちらも優位を得ることが出来なかった。

 戦友たちが傭兵たちと戦っている間、擲弾兵隊の第1、第6連隊は公爵近衛隊と交戦した。キャロウェイVIのわずかな生存者とアントンがかき集めた兵士たちを急いで組織化した近衛隊は、王党派と長時間対決するだけの戦力と団結の両方を欠いていた。王党派の前進速度は、ケレンスキー中隊による補給線への攻撃の繰り返しで低下したが、公爵近衛隊は着実に地歩を失っていった。陣地が抜き差しならない事態に陥ると、エルマン大佐は援軍を要求した。

 アントンに派遣できる部隊はなかった。ヴァンラの戦いで最後の予備が消耗していたのである。公爵の司令部とヴァンラにいたウルフ隊とのメッセージの交換で、ついにアントンはティバーを保持できないと確信した。王党派のバランスを崩すために、ゼータ大隊と共に最後の強襲を行ったエルマン大佐は、兵士たちを降下船に引き替えさせ、ソフィーズワールドに出発した。

 二週間の戦闘で、参加した公爵近衛隊は事実上壊滅した。王党派の勝利は重い代償を伴うものだった。戦闘が始まった二週間前には12個だった擲弾兵大隊のうち、7個だけが残ったのである。







最後の過ち

 アントンにとって状況は絶望的なものに見えた。王党派は彼の部隊を押しつぶしつつあり、支援は次第になくなっていった。竜機兵団が彼を見捨てようとしていると言う証拠を示されたアントンは、ウルフの忠誠心を試そうとした。シエンフエーゴス司令部に大佐を呼びつけたアントン公爵は、公爵近衛隊を増強するために彼の傭兵部隊を分散するように命じた。ウルフは拒絶した。契約条項によれば、竜機兵団の部隊はアントンの士官の指揮下には入らないことに言及したのである。次に傭兵は、竜機兵団を使って王党派戦線の向こうにある補給線を攻撃するという戦略を提案した。

 引き下がったように見えたアントン公爵は、竜機兵団が一族郎党と共にマッケナに出発することを許し、ウルフに対しては幕僚たちを作戦の提案と、引き続き連絡役として残るように求めただけだった。いまやウルフに見捨てられると確信していたアントンは、ジョシュア・ウルフ率いる連絡士官たちを逮捕した。アントンはマッケナの天底ジャンプポイントにいるウルフにメッセージを送り、竜機兵団を最初の命令通り再展開するように要求した。連絡士官と家族は竜機兵団を服従させる人質となったのである。これに応じて、ジェイム・ウルフはエプシロン連隊、支援大隊、特殊偵察群を、一族郎党と共にセカンドチャンスへと向かわせた。竜機兵団の残りはウルフについてニューデロスに戻った。

 次に何が起きたのかは推測の対象となっている。根拠のない意見によると、ジョシュア・ウルフはアントン公爵を殺そうとしたか、あるいはおそらく個人的な面談のため公爵の部屋に連れてこられた後で逃げようとしたという。護衛の一人から銃を取り上げたジョシュアは、ヴェサール・クリストファーによって撃たれたという。何が起きたにせよ、ジョシュア・ウルフは死に、アントン・マーリックはパニックに陥った。彼は反逆罪で人質たちを処刑した。公爵は知らなかったが、ジェイムの妻、エレンと娘のブリジット、リンも殺害された中に含まれていたのである。

 我を忘れて激怒した竜機兵団はニューデロスに襲いかかった。



ニューデロス NEW DELOS

 数ヶ月に及ぶ戦いの後で、竜機兵団のアルファ、ベータ、ガンマ、デルタ連隊は完全な戦力にはなかった。同じくゼータ大隊もティバーの損害を取り戻してなかった。ニュー・デロスに降り立った竜機兵団のうち、火力支援群だけが完全な戦力に近かった。

 彼らにぶつけるためにアントンが用意できたのは、第18マーリック国民軍の1個大隊と、第1、第2、第5公爵近衛隊の生き残りだった。シエンフエゴースの厳重に守られた司令部に避難したアントンは、フェロクリートの壁の下でアルファ、ガンマ連隊の猛攻を乗り切ろうとした。他の場所では、デルタが宇宙港を確保しようとした。ここでは第1公爵近衛隊の一部が数隻の降下船を確保し、竜機兵団の復讐を逃れようとしていた。その間、ベータ連隊とゼータ大隊は予備となった。

 2個連隊を相手に全方位を守る兵士を欠いていたアントンは、シエンフエゴースの背後の乾いた森林に火を放つよう命じた。この計画は上手くいくように見えた――アルファとデルタはやむを得ず、狭い正面から戦うことを強いられ、反乱軍は砲火を効果的に集中させることが出来たのである。ゼータ大隊が連れてこられたが、彼らでさえもアントン公爵の防衛を破れそうにはなかった。アントンが知らなかったのは、ケレンスキー大尉の中隊が燃えさかる森の中に降下したことである。彼にとっては考えの外であった。ケレンスキー隊はすでに定数以下にあり、この自殺的に見える機動でさらに2機のメックを失ったが、これは成功した。

 アントンの背後の壁には事実上人がいなかった。ケレンスキー隊の生き残ったバトルメックは邪魔されることなく施設内に押し入って暴れ回り、戦闘指揮所、発電設備を破壊し、前をふさいだ賢明でないアントン兵たちを殺した。竜機兵団を押し返していた砲台は、電力を失い動かなくなった。ウルフ大佐とアルファ連隊が要塞に押し入るまでに、アントン・マーリック、プロキオン公爵にして自称自由世界同盟総帥は死んだ。

 三日間に及ぶ大破壊で、竜機兵団が壊さなかった城壁はなかった。







戦後の影響

 内戦ではどちらの陣営も勝利を主張できないものである――生存者のみそうすることが出来る。自由世界同盟はアントンの反乱を生き延びたが、損害は甚大なものであった。ニューデロスでの反逆裁判は3015年の4月半ばにはじまり、六ヶ月続いた。生き残った反乱軍にほとんど慈悲は与えられず、アントンの上級士官たち、支持者たちは処刑された。その中にはノヴァローマのコンスタンティーヌ知事も混じっていた。他の反乱軍参加者たちは流刑惑星に追放されるか、重労働を課せられた。

 驚くべきことに、ヤノスは弱った軍隊を竜機兵団への契約を持ちかけることで強化した。総帥はアントンの死に関わった傭兵に対して、憎悪を向けなかった。事実、彼はジェイムに対する個人的な文章の中でジョシュア・ウルフに対する哀悼の念を表現している。これによって議会の中で政治的な猛火が発生したが、ライラ国境からの不平の声が出し抜けに同盟が絶望的に兵士を必要としていることを思い起こさせたのである。騒ぎは次第に弱まり、ヤノスは竜機兵団をシュタイナー家に対する一連の襲撃に解き放った。これは第13次ヘスペラス戦で最高潮に達したのだった。




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