indexに戻る
作成:2015/05/07
更新:2015/06/17

第二次連合ドミニオン戦争 THE SECOND COMBINE-DOMINION WAR



 第二次連合ドミニオン戦争は、3100年前後に行われたラサルハグドミニオンとノヴァキャット=ドラコ連合の間の紛争です。
 この戦いは、ドラコ連合内の極右秘密結社である黒龍会(ブラックドラゴンソサエティ)の残党が引き起こしたもので、ドラコ連合、ゴーストベア、ノヴャキャットの三勢力すべてがまんまと乗せられ、それぞれ不必要な損害を被りました。とくにノヴァキャットは氏族の屋台骨を揺るがすような大打撃を受けています。









パウダールーム THE POWDER ROOM

 聖戦後、ゴーストベア・ドミニオンとドラコ連合の関係は緊張を伴うものになった。ゴーストベアはワード・オブ・ブレイクとの戦争でドラコ連合を助けたのだが、DCMS古参士官の多くは氏族侵攻でアルシャイン管区の大半を失ったことに怒りを覚えていたのである。ホヒロ・クリタ大統領は、不必要な戦争が始まらないように、ドミニオンへの大規模な惑星侵攻を禁止していた。だが、DCMSの訓練状態を保ち、戦争を望む士官たちへの外交的な対応のため、国境をまたいだ襲撃は許可されたのである。毎月のように繰り返される連合とドミニオンの襲撃は、両陣営が国境襲撃を競争のように捉えるのを助長した。

 地下深くで活動していたブラックドラゴンソサエティの手が、状況を徐々に戦争へと向かわせ、戦争状態を持続させた。聖戦直後、ISFは、軍事管領キヨモリ・ミナモトの助けを借りて、ブラックドラゴン派の大多数をDCMSから根絶するのに成功し、ピラー・オブ・スティール(軍部)の忠誠心を大統領に向けるのを確実とした。DCMSの粛正と、ブラックドラゴンに対する襲撃が衆目を集めたことで、小規模なグループが地下に潜り、後に混乱を起こす結果となった。3089年、ブラックドラゴンは、スフィア共和国内の元ドラコ連合世界を攻撃することによって、ルシエンの政府を再び不安定にし、ホヒロ・クリタを玉座から廃そうとした。

 この新たな秘匿戦争は、3093年、DCMSとRAFのタスクフォースがシモニタでブラックドラゴンの重要拠点を根絶するまで続いた。攻撃を率いたキツネ・クリタはアルナイルで共和国市民権と騎士の座をオファーされた。キツネは実の父であるヴィクター・シュタイナー=ダヴィオンが騎士に叙勲してくれるのならこれを受けると発表した。この発表は残ったブラックドラゴンのセルに衝撃を与えた……この反体制派グループはキツネを大統領にしようとしていたからだ。それからの数週間で、「汚れた」後継者を支持したのを恥じて、ブラックドラゴンの数百名が切腹した。ブラックドラゴンとドラコ連合人の大半は、キツネがミヤコ・クリタの息子であり、イソロク・クリタの孫だと考えていたのだ。これがブラックドラゴンソサエティの最期になることが望まれたが、充分な数の反体制派が汚名と共に生きて、戦い続けることが出来た。

 DCMSがドミニオンの国境世界を襲撃するのに加えて、ノヴァキャット氏族がこの襲撃によるベアの混乱を利用した。聖戦を生き延びた氏族軍の多くがスフィア共和国に加わったのに伴い、サンティン・ウェスト氏族長は襲撃を使って、新兵たちに素早く実戦経験を与え、イレース管区の産業基盤を再建するための資源を入手した。ドミニオンとノヴァキャットの間には公式の外交関係がなかったので、両氏族の氏族軍は着実に敵意を強めていった。

 3096年11月、その後有名になるノヴァキャットのヘイルソーウェン襲撃で、ノヴァキャット特戦隊が第3ベアガードに深刻な打撃を与えると流れが変わった。ゴーストベアの残った2個メック星隊を渓谷に閉じ込めた後、ノヴァキャット特戦隊のスターキャプテン・エリ・ロッセはゴーストベアにヒジュラを与えるのを拒否し、第3の残ったメックを破壊し回収したのである。これにより、両陣営がただちに第二次連合ドミニオン戦争へのトーンを高め、どちらの側も慈悲を与えることはなくなった。

 ゴーストベア・ドミニオン内の争いもまた戦争へと向かう道であった……民間人の政府と戦士が率いる軍部のあいだで緊張が高まったのだ。聖戦の直後の時期、ラサルハグ人の政府は、ウルフ氏族、ヘルズホース氏族に占領されているラサルハグ惑星を「解放」するために、隣国への軍事的行動を推進した。ワード・オブ・ブレイクに対して損失を出し、スフィア共和国に4個星団隊が贈られて、氏族軍が大きく縮小したことから、ゴーストベアは実行不可能と考えた。

 3080年代の後半から3090年代にかけて、これらの方向は段階的に逆転した。民間政府と民衆は変化を求める扇動を減らしていった……王家軍銀河隊がゴーストベア氏族軍内でより重要な役割を果たすようになってきたからだ。ドミニオンの民衆たちは、国内・軍事政策の両方に直接的な影響力を持っていると感じるようになった。同じく、氏族人でない軍人の増加により、アレサ・カブリンスキー氏族長は、前線銀河隊を駐屯任務に置くのではなく、攻撃的な役目に使う自由を得られた。






第二次連合ドミニオン戦争の重要人物


キヨモリ・ミナモト KIYOMORI MINAMOTO
階級/称号: DCMS軍事管領
生年: 3022年(77歳、3099年時点)

 キヨモリ・ミナモトはその半生で数多くの地位についてきた。第7〈光の剣〉連隊の元指揮官にして、聖戦中にホヒロ・クリタがとらわれの身になっていた間は事実上の大統領、そしてクリタ大統領の最も信頼するアドバイザー。当初、ブラックドラゴンソサエティとの関係が疑われたミナモトは、大統領の信頼によりISFの告発を交わした。やがて、クリタ大統領は、ミナモトの助言にますます依存するようになった。聖戦後、ISFの高官たちは、ミナモトが数多くの超保守的な政策を提案・支持したことから、彼の真の忠誠心を疑った。実例としては、80年代半ばのアザミ世界での制限緩和に声高で強い反対を行ったことだ。「ドラコ連合の美学に則った」世界の惑星インフラを強化することを支持し、日本語のみで教育を行う学校にだけ資金を投じるべきだと信じた。ブラックドラゴンもまたこれらの政策を支持し、ミナモトのスピーチはしばしばこの秘密組織のプロパガンダと不気味に似通っていた。ISFのシャキール・ジェラー長官は、死後に出版された回顧録で「生きてるうちにミナモトの真実をあきらかにすることを誓う」と述べている。

 第二次連合=ドミニオン戦争の間、ミナモトは大統領とDCMSの連絡係を務め続けた。これにより、大統領は国家が直面している国内の問題に注視することができた。ミナモトは一定の戦力を直接支配し、快適なルシエンを離れることなく、ほとんど監督せず事実上の元帥として活動することが出来たのである。これによって、戦争中、ミナモトが国内的な問題から離れたわけではない。イレース管区中に存在するノヴァキャットの「文化保護地区」の発案者は彼であり、ゴーストベアの攻撃で連合の民間人が被害を受けるのを免れたという。これら保護地区は壁に囲まれた施設で、ノヴァキャットの民間人階級が閉じ込められ、保護される一方で、惑星市民軍(もしくはイレースの場合はDCMS軍)に囲まれる。社会全体と軍隊が激しい反氏族なので、ノヴァキャットの自由をイレース地区内で制限するのは、彼ら自身を守る最高のやり方だと両陣営が考えている。

 キヨモリ・ミナモトが、戦後、長く生きることはなかった。3102年1月11日、シャキール・ジェラーISF長官は大統領との7時間におよぶ面会を行い、直後、ミナモトが大統領との謁見に呼ばれた。1時間後、大統領はミナモトが切腹したことを発表した。





ソヴェルゼネの災厄 THE DISASTER AT SOVERZENE

 不安定な小康状態は、3098年11月のノヴァキャットによるソヴェルゼネ強襲で終わりを告げた。ノヴァキャットの強襲を受けて、ゴーストベアは全軍が配置につく前に、ナイトフォール作戦を開始せざるを得なかった。ウェスト氏族長の死に対し、ドラモンド氏族長はベアへの強襲という形でドミニオンへのはっきりした声明を発することを望んでいた。DCMSの情報工作員(と彼が考えていた者)から情報を受け取ると、ドラモンドはノヴァキャット軽機兵隊にソヴェルゼネの主宇宙港強襲と、第3軽機兵隊(メック戦力をゆっくり増強中のラサルハグ王家軍星団隊)の弾薬庫襲撃を命じた。

 現地の夜が明ける前に、ノヴァキャット軽機兵隊は星系内のパイレーツポイントにジャンプし、主宇宙港に惑星降下した。ベアの第3軽機兵隊には部隊を組織する時間がほとんどなかった。第3軽機兵隊が比較的脆弱で経験に欠けるフリーボーン部隊であることを知っていたスターコーネル・アドリアーナ・デレポータスは、ベアのスターコーネル・フリーダ・ヨハンセンにバッチェルを先んじて出した。

 最も激しい戦いは宇宙港自体で行われた。互いの降下船が低空での交戦を繰り広げたのである。地上戦はわずか数分間続いただけだった……ノヴァキャットが第3軽機兵隊の指揮二連星隊を圧倒し、スターコーネル・ヨハンセンを殺して、第3軽機兵隊の反応を完全な混乱状況に陥れたからである。第3軽機兵隊の降下船が破壊されるか退却すると、ノヴァキャット軽機兵隊の大部分は周辺に散開し、規律がなくいまだ終結していた第3軽機兵隊を追い詰めた。11月30日が終わるまでに、ノヴァキャットは第3軽機兵隊を殲滅した。1個メック星隊と2個バトルアーマー星隊がベッルーノ・バッドランズの広大な荒野に隠れた。

 12月10日、ソヴェルゼネを離れるまでに、ノヴァキャット軽機兵隊は、失った数より多い機体をはぎ取り、回収することができた。王家軍星団隊の壊滅は、カブリンスキー氏族長とヘイッキネン国王を激怒させた。ニュースがアルシャインとラサルハグに届くと、両指導者はノヴァキャットへの対応が必要なことに同意した。すでにドミニオン中で始まっていた第3軽機兵隊壊滅に対する民間人の抗議を押しとどめたヘイッキネン国王は、12月1日にスピーチを行い、このようなことは二度と起こらないことを民衆に保証した。





ベアは目覚めた THE BEAR IS ROUSED

 ゴーストベア・ドミニオンの反応は遠からずもたらされた。ベアのカブリンスキー氏族長はイレース管区に近い国境世界で準備完了していた部隊に対し、あらゆるノヴァキャット戦力を強襲し、あらゆるノヴァキャット施設を破壊し、そしてドラコ連合との紛争を避けるよう命令を下した。3098年12月29日、ドミニオンの諸星団隊がイレース管区に向けて移動しつつあったそのとき、三手に分かれた攻撃が始まった。ゴーストベアの照準に入ったのは、ラブリア、ムーラン、ヤマロフカだった。





ムーラン Mualang

 ムーランを巡る戦いは始まる前に終わっていた。ゴーストベアが到着したとき、守備隊であるノヴァキャット軽機兵隊はソヴェルゼネを攻撃した後、無人星系を通って帰還する最中だったのである。第8ベア胸甲機兵隊とロー銀河隊指揮三連星隊は12月29日に上陸した。両ゴーストベア部隊は、航空宇宙戦力を低軌道に展開し、ノヴァキャット軽機兵隊がパイレーツポイントを使って戻ってくる場合に備えた。12月31日、ノヴァキャット軽機兵隊が天底点に到着するまでに、ドミニオン軍は惑星に残ったわずかなノヴァキャット市民軍を片付け、ノヴァキャットのシブコ、補給庫をすべて破壊し、小規模なムーラン・バトルアーマー生産施設を奪い取っていた。

 ノヴァキャット軽機兵隊は軌道上のドミニオン軍を突破し、地上に展開することが出来たが、第8ベア胸甲機兵隊はキャットに戦闘計画を練るような時間を与えなかった。降下地点の大量殺戮を生き残ることが出来たわずかなノヴァキャットは散り散りとなった。スターコーネル・アドリアーナ・デレポータスは着陸した直後に殺された。リーダーを失ったノヴァキャット軽機兵隊は、確固とした逆襲を行うことができず、一撃離脱戦術に絞って、救援を待った。ネコリュウ親衛隊が3099年1月31日に到着したが、すぐに退却せざるを得なくなった。ノヴァキャット軽機兵隊のうちネコリュウ親衛隊と共にムーランを発った者はほとんどいなかった。





ヤマロフカ Yamarovka

 キャッツアイ星団隊とネコリュウ親衛隊は、2月13日、ベアの第243戦闘星団隊、第73戦闘星団隊が上陸するまでに、防衛の準備をする時間が与えられた。ノヴァキャット軍を指揮する新副氏族長ポール・ルルーは、懸命にも都市ヤマ外周部の氏族施設に戦力を集中させた。天候は非協力的であった。厚い雲によって低空の視界が利かなくなり、激しい太陽活動によって着陸する降下船を低軌道で攻撃するのがきわめて危険となったのた。

 再び劣勢となったノヴァキャット軍は、ヤマ周辺の地形に知悉していることをアドバンテージとして使った。太陽嵐が両陣営の人工衛星をノックアウトし、軌道偵察を不可能とした。2月18日、ヤマへの進撃の間、ネコリュウ親衛隊は珍しく天候が良くなった隙を突いて、第73戦闘星団隊を叩いた。海外線沿い町セヴェルク外部で行われた、副氏族長自ら率いる20分の短い交戦は、ノヴァキャットの一方的な勝利となった。ルルー副氏族長の気圏戦闘機星隊が、嵐の前線から急降下し、第73戦闘星団隊の指揮部隊をピンポイント攻撃する一方、親衛隊のバトルメックとエレメンタルが掩蔽壕(この地域でよくあるモンスーンとハリケーンから重機を守るもの)から躍り出た。この小競り合いは、ルルー副氏族長のスキタイが大ダメージを負い、交戦地域からの撤退を迫られると終わった。ノヴァキャットは第73戦闘星団隊に大打撃を与え、5個メック星隊近くを破壊した一方、損害は戦闘機3機とメック二連星隊だけだった。

 この天候と第73に対する小さい勝利があってなお、ノヴァキャットはドミニオン軍を押しとどめ、氏族民間人とシブコの多くが降下船に乗り込むあいだに大きな損害を出した。2月28日までに、ドミニオンはこの世界をしっかりと確保し、ノヴァキャットの作った建物をほぼ破壊したのだった。





イタビアナの最期 LAST STAND ON ITABAIANA

 クールシュバル、ソヴェルゼネ星系に集結した後、ベアのカブリンスキー氏族長はベータ銀河隊にイタビアナと、ドラコ連合の支援でそこに作られた兵站ハブを強襲するよう命じた。イタビアナは、ダイアモンドシャーク氏族が管理する世界であった一方、ドラコ返還の扇動が行われており、加えてノヴァキャットがこの世界――それにダイアモンドシャークの中立的立場――を利用して、安全に兵士を移動させて、それからドミニオンへの攻撃を行ったとゴーストベアは感じていた。ダイアモンドシャークの守備部隊は、保安上の事情からシャーク製造施設と三つの月の上に駐屯していた。3098年に繰り返されたテロリストの攻撃(後にブラックドラゴンによるものと判明)が、数百のダイアモンドシャーク氏族人と1000の民間人を殺していたのである。これは、ゴーストベアが4月9日に惑星降下したとき、イタビアナの地表にいる唯一の戦力が、第3ペシュト正規隊だけだったことを意味している。

 新しい兵站ハブ(LAW-8iと名付けられていた)は、人口の少ない大陸テソーラスに位置していた。大陸の建設残土と露天掘り鉱山は、この新しい施設を守りやすいものとしており、第3ペシュト正規隊は施設周辺に多層的な防衛線を構築し、ゴーストベア軍をカモフラージュされた立坑か即席の地雷原に誘い込むことを狙った。第3ペシュトを指揮するナナミ・ウエノ大佐(腕の立つメック戦士)は、数で劣っていることと、圧倒的なゴーストベア軍に対抗するチャンスがないことを知っていた。彼女は前進するゴーストベアに対し、調査攻撃を命じ、ノヴァキャット製のメックだけを使用した……惑星上にノヴァキャットの守備隊がいるとゴーストベアに思い込ませるためである。

 この調査攻撃は逆の効果をもたらした。施設を破壊する命令を受け、連合軍は避けるように命じられていたギャラクシーコマンダー・ヴィゴ・ホールは、ノヴァキャットが第3ペシュト正規隊に組み入れられていると見なしたのである。警戒は投げ捨てられ、迅速な前進がなされた。防衛設備があってなお、第3ペシュト正規隊はほとんど4対1の数的不利にあった。ベータ銀河隊は防衛の外周部に流入し、砲塔と、立坑や地雷原で失われたわずかな機体を無視した。LAW-8iでの戦闘はわずかに50分間だけ続き、第3ペシュト正規隊のメック1個中隊が建物の中に逃げ込んだ。ギャラクシーコマンダー・ホールは、一石二鳥をもくろんで施設への砲撃を命じ、防衛部隊とノヴァキャットの民間人労働者の大半を殺した。逃げ延びたのはわずかだった。

 第3ペシュト正規隊がほぼ殲滅されてから数時間以内に、この戦いのホロヴィッドがドラコ連合中に流れた。民衆は戦争を求め、国境にいるDCMS部隊への侵攻命令はすでに出されていた。4月15日までに、ホヒロ・クリタとアヤックス・ドラモンドは、イレース地区の合同戦略を策定した。ノヴァキャットのメックが少なく、兵站線に負担がかかっていたことから、両軍がいる場合はDCMS士官が作戦の指揮をとった。





オレステス Orestes

 第2ヴェガ軍団は、工業的に重要な世界、オレステスを強襲し、ゴーストベアに対する逆襲を行った最初の部隊となった。オレステスにある2つの軍需部品製造業者、ヤネセク工業とオーディン製造は、第1機兵隊(王家軍部隊にしては優れた気圏戦闘機とメックを持つ)に守られていた。第3ペシュトをほぼ殲滅した後、カブリンスキー氏族長は、防波堤を作るため、軍事的に重要な地点とインフラの周囲に防衛星団隊を配置した。第2ヴェガ軍団がオレステス星系に入るまでに、第1機兵隊はオーディン製造の周囲に追加の防衛を施す充分な時間が与えられなかったが、星団隊の戦力の大半は工業地帯の周辺に配備されていた。

 第2ヴェガ軍団の襲撃は、クリュタイムネストラ大陸にあるオーディン主工場群への電撃的攻撃を意図していたが、結果的に包囲戦になることがまもなく明らかとなった。第2ヴェガ軍団のヨウタ・ナカムラ大佐はオーディンの工場群と主宇宙港の間にあるインフラストラクチャを破壊するチャンスと見た。ナカムラ大佐は第241ヴェガ正規隊(歩兵部隊)に、メック工場周辺のマグレブと道路を破壊するように命じ、第53ヴェガ槍機兵団(装甲部隊)を指揮して、ラサルハグの第1軽機兵隊と戦った。

 オーディン工場の包囲は、3099年4月25日に始まった。第53ヴェガ槍機兵団が主生産ラインを完全に取り囲んだのである。強化された防壁に、バトルメック掩蔽壕、砲塔設備があったことから、第53ヴェガ槍機兵団は重い損害を出すであろう正面強襲を仕掛けることができなかった。6日以上におよぶ戦闘で、オーディンの製造施設はがれきの山となった。砲兵部隊が工場を砲撃し、より機動的な戦闘にしようとする第1機兵隊の反撃はすべて失敗に終わった。

 4月31日、ゴーストベアの援軍が到着する前に、ナカムラ大佐は惑星を離れる命令を出した。オーディンの工場はスクラップと大差ないものとなったが、10月、第241ヴェガ正規隊に破壊された第二発電所が復旧すると、シャドウホークを生産していたラインのひとつが操業可能となった。すべての困難に打ち勝って、第1機兵隊は戦闘可能な部隊として生き残った。メック、バトルアーマーのわずか2個二連星隊にまで減少した第1機兵隊は、シャドウホークの生産ラインと戦場に散乱するメック数十機の回収によって、装備を補充することができたのだった。





アースガルド Asgard

 ブラックドラゴンの情報源からノヴァキャットの配置に関する諜報を受け取ったカブリンスキーは、ヘイッキネン議員やドミニオン・ウォッチとこれらリークの正確さと目的について幾度も会合を重ねた。ドミニオンの情報源がブラックドラゴンの情報を確認すると、カブリンスキーは次のフェーズに進む許可を出した。集結したノヴァキャット軍、ネコリュウ親衛隊、ノヴァキャット機兵隊、キャッツアイ星団隊を殲滅するため、アルファ銀河隊の第1、第3ベアガードとロー銀河隊の第243戦闘星団隊からなる合同タスクフォースが集められた。この戦いは最大の地上戦になった。天頂、天底のジャンプポイントに到着したゴーストベア軍は、3099年6月14日の夜明けに惑星降下した。ノヴァキャットの航空宇宙戦力の抵抗はほとんどなかった。

 ゴーストベアの降下地点は、約5000万人が住むスプロールの超巨大都市、惑星首都ヴェルナンの近くであった。ドミニオン軍が郊外に入り始め、ニュースがノヴァキャットの物資や兵士を運べるような大型車両をすべて撃っているのを放映すると、民衆は都市から逃げ出した。ゴーストベアが人口の多い都市中心部に入ったことから、夕暮れまでに民間人の被害は数千に達した。ベアのスターコーネル・マイケル・ベッカー(第1ベアガードとタスクフォース全体の指揮官)は、第243戦闘星団隊に引き返して、第1、第3ベアガードの背後の地域を守るように命じた。なぜなら、隠れたノヴァキャット部隊が待ち伏せするのを予期していたからである。

 ゴーストベアが都市の中心に入り、誰もいないシブコ施設、氏族の行政ビルを破壊し始めると、ポール・ルルー副氏族長はキャッツアイ星団隊とノヴァキャット軽機隊にヴェルナン内の駐車場ビル、建物の中庭に隠した機体に火を入れるよう命じた。都市中心部の狭い道は、ゴーストベアの火力を制限し、数で上回ってるのをほとんど無意味とした。一週間近く続いたアースガルドの戦いのあいだ、通りから通りの残虐な戦闘は一般的なものとなった。両陣営はビルの残骸と破壊されたメックを遮蔽として使った。ノヴァキャットの気圏戦闘機が郊外の上空を周回し、補給・修理のためLZに向かう重い損傷を負ったゴーストベアの機体を狙い撃ちにした。攻撃のたび、ドミニオンの気圏戦闘機が低軌道から下りてきて、ノヴァキャットの戦闘機にも大きな損失が出た。

 7月1日、ルルー副氏族長は戦力にかなりの損害を受けたのを見て、残ったノヴァキャット軍に対し、都市内の奥深くにある大きな公園に隠した降下船に撤退する命令を出した。ノヴァキャットが陣地を放棄したのを見たスターコーネル・ベッカーは徹底的に追撃するよう命じた。防衛陣地がノヴァキャット軍を守ってくれなくなったことから、静かな後退はすぐさま迅速な退却に変わった。降下船は、集団で発射することはなく、満杯になるとそれぞれ離陸していき、残ったわずかなノヴァキャット気圏戦闘機部隊が適切な護衛をできないようになった。ルルー副氏族長は、ノヴァキャット軽機隊の降下船が軌道に上がっていく間に戦死した。

 ネコリュウ親衛隊とキャッツアイ星団隊の殲滅で、ノヴァキャット氏族は壊滅的な打撃を被った。ノヴァキャット軽機隊だけが戦闘部隊として生き残り、エイヴォンに逃れることのできたわずかなキャッツアイの戦力を吸収した。





シュテルンヴェルデ Sternwerde

 3099年の大半、DCMSはコアワードでの戦役に集中し、ドミニオンの長い国境線上に兵士を移動させた。各連隊がゆっくりと配置につくと、ホヒロ・クリタはついに命令を下した……第5〈光の剣〉によるシュテルンヴェルデの第300戦闘星団隊への先制攻撃である。第300はいまだ戦力不足の星団隊であり、補充用の機材は活発に参戦する第243戦闘星団隊に回されていた。

 ドラコ連合はシュテルンヴェルデに関する広範囲な地図と知識を持っていた。なぜなら、この星系は氏族侵攻まで龍の手の中にあったからである。シュテルンヴェルデの詳細な知識を使って、第5〈光の剣〉は、11月2日、この世界から1日離れたパイレーツポイントにジャンプした。彼らの到着はドミニオン補給部からの遅れに遅れた輸送に見えたが、やってくる降下船は応答を返さなかった……第300には防衛陣地にスクランブルするまで数時間しかなかった。第5〈光の剣〉は抵抗を受けることなく降下地点から移動し、ドミニオンが自分たち用に改装した元DCMSの施設へと集団で進んだ。

 シュテルンヴェルデの戦闘は短いが激しいものだった。第300はミュッツェニヒ基地を強化防衛陣地として使い、第5〈光の剣〉の火力から身を守った。11月10日、DCMSは限られた間接砲支援を壁の一点に集中させ、破壊し、第300がギャップを埋める前に、少数の第5〈光の剣〉部隊の侵入を可能とした。これら部隊のうちひとつが、ISFの極秘作戦チームであり、ミュッツェニヒ基地内の弾薬庫と核融合炉を爆破した。

 ほとんど得るものなしに受け入れられない損害が出始めると、第5〈光の剣〉は11月14日に退却した。出発前に、彼らの降下船が少なくとも一回、ミュッツェニヒ基地に機銃掃射を仕掛け、できる限りの破壊を引き起こした。ホヒロ・クリタはこの襲撃を成功と考えた。なぜなら、第300は散り散りになり、しばらく戦闘ができなくなったからだ。





ビキニ・アトール Bikini Atoll

 ドミニオンとドラコ連合の戦艦は、この戦争が始まってからの数ヶ月間、直接的な戦闘からは離しておかれた。〈ドラコニス・リフト〉だけが、第17ベンジャミン正規隊と第6リュウケンの輸送を支援するために、ドミニオン国境に近づいた。両陣営ともに、紛争を軌道支援が必要なところにまでエスカレートさせたくなかったことから、戦艦の使用に関して暗黙の合意に達した。両陣営ともに、互いの戦艦の位置についての良い情報がなく、3099年12月後半までこの状況が変わることはなかった。

 カブリンスキー氏族長は、ノヴァキャットかドラコ連合軍が死にものぐるいの状況になったら、暗黙の合意が破られるだろうと考えた。3099年2月、彼女はミミルに対し、DCMSの戦艦艦隊を捜索、追跡するよう命じた。情報入手は難しかった一方で、舞い込んだ情報が〈アンバー・ロータス〉の所在地を伝えた。さらに重要なのは、このイナズマ級戦艦が、ビキニ・アトールというコードネームを持つ無人星系で工場船〈ヤマト〉〈リュー〉を守っていたことである。ドラコ・リーチ内の無惑星星系であるビキニ・アトールは、ドミニオンの星系カタログに載っていた……なぜなら、SLDFが2720年からここをマスドライバーの秘密試験に使っていたからである。ビキニ・アトールで行われていた研究は、アマリス・クーデターの際に放棄され、エグゾダスの最中に価値ある物資は施設からすべてはぎ取られた。白星を巡る小惑星帯にほとんど無限の資源があることから、ドラコ連合はこの星系を使用していた。

 カブリンスキーはリヴァイアサン級〈ラサルハグ〉と、6個星隊分のポケット戦艦と、気圏戦闘機空母を運ぶ航宙艦小艦隊に対し、無人星系を通り再充電を行って、ドラコ連合の戦艦製造・修理能力を破壊するように命じた。ヴァニル級ポケット戦艦を重打撃力として使い、船員たちが比較的経験に欠けるのを船の数で補う予定だった。ブラックドラゴンの工作員は、この小艦隊が4月5日にアルシャインを発ったことに気づいたが、目的地を知らなかったので、ノヴァキャットとドラコ連合にリーク出来た情報は少なかった。

 ドミニオンの機動艦隊は、3099年12月18日1430時に、ビキニ・アトールに入った。DCMSの工場艦が使っている小惑星帯からわずか1/10秒光年の位置であった。武装の大半を取り外した元戦艦である〈ヤマト〉〈リュー〉は、〈ラサルハグ〉のジャンプ・サインが探知されるとすぐに星系移動ドライブを動かし、反対方向に移動し始めた。護衛の〈アンバー・ロータス〉は6機の気圏戦闘機を発進させ、オキナワ級降下船3隻を切り離した……この3隻、ヒーテッド・ソード、イイジマズ・プライド、コンフォーティン・サイレンスもまた気圏戦闘機を発進させた。

 強襲降下船が移動ドライブに火を入れるとすぐに、ドミニオン艦隊は二つのグループに分かれた。ヴァニル級ポケット戦艦2個星隊と〈ラサルハグ〉自身は、〈ヤマト〉と〈アンバー・ロータス〉を追撃し、気圏戦闘機4個星隊は降下船空母と共に〈リュー〉を追った。ゴーストベアは最大加速で船に負担をかけ、わずかに20分後、最初のホワイトシャーク・ミサイルを発射した。軽装甲の工場船は艦載級兵器に太刀打ちするチャンスはほとんどなかった。両工場船は、ゴーストベアが星系内に到着してからわずか1時間後に破壊されるか無力化された。〈アンバー・ロータス〉は〈ラサルハグ〉からのすさまじい舷側射撃に屈したのだった。

 〈アンバー・ロータス〉から連絡がなかったことから、DCMSは3100年1月15日、調査のため〈ドラコニス・リフト〉を送り込んだ。彼らが発見したのは戦闘の残骸だけだった。工場船はビキニ・アトールの太陽コロナに突っ込み、完全に破壊されていた。〈アンバー・ロータス〉の残骸はサルベージ不可能であり、生存者は見つからなかった……脱出ポッドはすべて砲撃によって穴を開けられ、真空に晒されていた。救援クルーたちは、この戦闘で生まれたデブリの中に、ドミニオンのマーキングを付けた2機の気圏戦闘機を発見した。DCMSの報復は素早いものであった。





トロントハイムの戦い THE BATTLE OF TRONDHEIM

 ジャレット、スールに加えてさらに領土を増やすべく、DCMSはもうひとたび惑星強襲を命じた。それはドミニオンがまったく予想していなかったものだった。トロントハイム星系は、ドミニオン領の内部にあったが、名目上、ダイアモンドシャーク氏族の管理下にあった。ミナモトは大統領に強襲の許可を求める積極的な運動を行い、ホヒロ・クリタはダイアモンドシャークの資産を直接攻撃しない限りはと同意した。トロントハイム星系は、その戦力的位置と兵站能力から、ドミニオン奥深くに進軍するのに理想的な目標であり、さらにドミニオンの主星、ラサルハグまでジャンプ1回と少しのところにあったのだ。

 強襲を任された第5〈光の剣〉連隊と第11ゴーストは、戦闘の準備が出来ていることと、氏族技術を多量に持っていることから選抜された。作戦に向かう道すがら、第11ゴーストはイレース星系で立ち止まり、ノヴァキャット強化型の装備と、バケネコ・メック(ドラコ連合とノヴァキャットが共同開発した初のメック)の初期生産分を入手した。

 3099年7月前半、カブリンスキー氏族長は、ダイアモンドシャークから再装備の提案を受けて、トロントハイムに数個星団隊を送った。この星系は、改装を行うのに理想的な場所だった……カブリンスキーが計画していたジャレット、スール逆襲に使いやすい出発地点だからだ。DCMSが強襲した時点で、ゴーストベアはトロントハイムに4個星団隊を置いていた。カッパ銀河隊の第55PGC、ラサルハグ銀河隊の第2ラサルハグベアーズ、第1ティール、ポラー銀河隊の第2機兵隊である。加えて、さらなるゴーストベア星団隊群がトロントハイムに向かっている途上だった。

 3100年3月18日、DCMS軍がトロントハイムのL1ラグランジェポイントにジャンプしたとき、ドミニオン軍は油断していたところを捉えられた。DCSの〈ドラコニス・リフト〉に護衛された2個連隊は、ゴーストベアが軌道上にスクランブルした気圏戦闘機部隊を突破することが出来た。すぐさま軌道に入った第11ゴーストは、〈ドラコニス・リフト〉から戦闘降下し、第2ラサルハグベアーズの集結地点の周辺に降り立ち、そして第5〈光の剣〉は高速で惑星の軌道を進んで、第55PCGに向けて降下した。戦闘降下の速度は、完全にゴーストベアを圧倒した。第2ベアーズは数で劣りながらも激しく戦った。最初の一時間で第2ベアーズはバトルメック7個星隊を失い、第11ゴーストは5個小隊を失った。第11ゴーストが第2ベアーズの集結地点を支配してからすぐに、戦場と近くの宇宙港の真上に陣取っていた〈ドラコニス・リフト〉が残存兵力を追跡した。第1ティールが弱体化した星団隊を支援する位置に入る前に、第2ベアーズは撃破された。第55PGCは第5〈光の剣〉に対してもっとひどい結果になった。すぐに対応出来る戦力が少なかった第55PGCは、第5〈光の剣〉が軌道上から降下した時点で、6対1の不利にあったのである。戦場での回収品と、第55の倉庫に残っていたメックから、第5〈光の剣〉は短い砲撃戦で失った損失をすぐに埋め合わせることが出来た。

 2個星団隊が全滅したことにより、生き残ったゴーストベアは行動に移った。第2機兵隊のスターコーネル・ジャクソン・エドボムは、HPGを通してラサルハグに救援を求める一方、部隊を首都ミスビー・フラットにとどめた。4月5日の朝、第2機兵隊は第11ゴーストの激しい砲撃を受け、宇宙港内の強化陣地にとどまった。軌道上に〈ドラコニス・リフト〉がいたことから、第2機兵隊の命運は風前の灯火であった。第5〈光の剣〉は降下船で短距離移動を行い、第1ティールは〈ドラコニス・リフト〉の艦載級兵器を避けながら、惑星と4つの月の間でかくれんぼを行った。

 持ちこたえることが出来なくなったスターコーネル・エドボムが防衛陣地から出て、最後の突撃を仕掛けようとしたまさに直前、第11ゴーストは前衛陣地から引き上げ始め、待っていた連隊の降下船に後退した。ポラー銀河隊の残りが、3個ポケット戦艦星隊と共にパイレーツポイントに到着し、〈ドラコニス・リフト〉に向かって突き進んできたのだ。この星系から逃げ出したDCMSは、トロントハイムを占領するのに失敗し、カブリンスキーの計画していた逆襲を止めることが出来なかったが、DCMSはラサルハグに向かう足を緩めることはなかったのである。





撃沈 THE FALL

 DCMSのトロントハイム攻撃によって、カブリンスキー氏族長はドラコ連合がドミニオンのコアワード地方を突破するまでしばしの時間があると感じた。優先事項となったのは、トロントハイムの生き残りを修復することであった……なぜなら、DCMSの戦艦〈ドラコニス・リフト〉は、3100年3月30日にトロントハイムを発った後、諜報報告から再び消えたからである。6月前半、ISFの報告によると、ドミニオン軍がトロントハイムに移動し、ラサルハグを守ってるのは第1ラサルハグベアーズとナイトロード級〈ウルサ・メジャー〉のみとされていた。ラサルハグ侵攻のためすでに戦艦艦隊を終結させていたホヒロ・クリタは、侵攻の命令を変更した。地上部隊にはコアワード地方に立てこもるよう命じ、艦隊には〈ウルサ・メジャー〉を拿捕するか沈めるよう命令した。

 3100年4月29日、最初に星系内に入った〈ドラコニス・リフト〉は、ラサルハグ星系第五惑星と太陽の間のパイレーツポイントに到着した。ドラコ海軍本部が望んでいた通り、〈ウルサ・メジャー〉を軌道上に確認した〈ドラコニス・リフト〉は、第五惑星を高Gで回り始め、スリングショット機動でラサルハグの衛星シグルドに向かう速度を増した。〈ウルサ・メジャー〉は1720時に〈ドラコニス・リフト〉探知し、単独行動しているこのキューシュー級戦艦を迎撃しようとした。これは明白な戦術的ミスであった。〈ドラコニス・リフト〉に向かってから1時間後、惑星ラサルハグとシグルドのおよそ中間のところで、〈ウルサ・メジャー〉は目前のラグランジェポイントに残りのドラコ連合艦隊を探知したのである。

 〈ウルサ・メジャー〉は惑星ラサルハグの低軌道に入り、地上から発進した第6ヴァルキリー星団隊の庇護下に入るべく、反転し、減速を開始した。〈ウルサ・メジャー〉が減速して外側へと移動し続けていたそのとき、〈ウィンド・オブ・ヘヴン〉が陣取って、ゴーストベア艦に砲門を開き、そのあいだ、〈ディーロン・スター〉と〈ライアー・オブ・マイティ・ワイアームス〉が、やってくる気圏戦闘機のほうに逃げようとする〈ウルサ・メジャー〉を迎撃する機動を取った。

 1803時、〈ウィンド・オブ・ヘヴン〉が〈ウルサ・メジャー〉への砲撃を開始した。この軽装甲のコルベットは10分近くゴーストベア艦と交戦を行った。〈ウルサ・メジャー〉の舷側射撃は〈ウィンド・オブ・ヘヴン〉を切り裂き、隔壁に穴を開け、ほとんど航行不能とするところだった。〈ウィンド・オブ・ヘヴン〉は加速の全てを使って脱出し、もうひとつのラグランジェイポイントからジャンプした。〈ウルサ・メジャー〉はほとんど装甲を焦がしただけだったが、〈ウィンド・オブ・ヘヴン〉の妨害によって、〈ディーロン・スター〉と〈ライアー・オブ・マイティ・ワイアームス〉は速度を合わせることができたのである。〈ウルサ・メジャー〉は両艦の中間に置かれ、背後から〈ドラコニス・リフト〉が接近した。

 いまだ惑星ラサルハグに向けて加速していた〈ウルサ・メジャー〉は、近距離で〈ライアー・オブ・マイティ・ワイアームス〉、〈ディーロン・スター〉と交戦した。ドラコ連合両艦は、〈ウルサ・メジャー〉の圧倒的な海軍用オートキャノンから逃れるために横転を始めた。1825時、〈ライアー・オブ・マイティ・ワイアームス〉はひどく損傷し、〈ディーロン・スター〉は敵艦の船尾に船首搭載の兵器を叩き込むため後退した……〈ウルサ・メジャー〉が90度回頭したのである。〈ウルサ・メジャー〉は〈ディーロン・スター〉の舳先に全開の舷側射撃を叩き込んで、船体を砕いた。艦載級オートキャノンの弾倉が誘爆し、1827時には総員退避が始まった。この殺人的機動によって、ゴーストベア戦艦の船首が〈ライアー・オブ・マイティ・ワイアームス〉の真正面に向いた。その位置を利用して、〈ライアー・オブ・マイティ・ワイアームス〉は艦載ガウスを〈ウルサ・メジャー〉のドライブシステムに直接撃ち込み、移動能力を奪い去った。

 戦うのをやめない〈ウルサ・メジャー〉はスピンを続け、スラスターが動かないことから操作不能となり、ラサルハグへのコースを外れた。〈ライアー・オブ・マイティ・ワイアームス〉は、射程外に移動しながら、砲撃を続けた。1843時、〈ドラコニス・リフト〉が高速で舳先を通過し、ブリッジと生命維持システムを叩き壊した。それまでに〈ウルサ・メジャー〉はスピンが早すぎて、脱出ポッドを射出不可能となり、遠心力が構造部材を痛めつけていた。内部での爆発が、この戦艦をサルベージ不能の残骸とし、ラサルハグ星系内のかなり広いエリアにデブリが散乱したのだった。

 1940時に〈ディーロン・スター〉はラサルハグに接近し、内部からの酸素流出と核融合炉のオーバーロードでバラバラになった。数週間後、ゴーストベアの作業員たちは、きわめて大きなストレスでフレームが劣化してサルベージ不可能になったと判断し、艦のK-Fドライブを破壊した。〈ディーロン・スター〉が〈ウルサ・メジャー〉による最後の損害ではなかった。〈ライアー・オブ・マイティ・ワイアームス〉は戦闘で大きな損害を負い、5月15日、ラサルハグからジャンプ3回の無人星系でK-Fドライブが完全に動作不能となったのである。ラサルハグが艦隊を追跡していることを知っていた船員たちは、ドミニオンがサルベージするリスクを冒すよりはと船を沈めたのだった。





イレース IRECE

 〈ウルサ・メジャー〉を失い、それをネタにモトスタンドのセルが民間人の抵抗をあおる中、カブリンスキー氏族長はイレースへの最終強襲を命じた。その目的は、惑星の工場を破壊し、ドラモンド氏族長を殺すことだった。3100年6月26日、ベアの全2個銀河隊がイレース星系の通常ジャンプポイントにそれぞれジャンプした。ゴーストベアのベータ、オメガ銀河隊からなるこの連合軍を率いるのは、イタビアナ攻撃で悪名高いギャラクシーコマンダー・ヴィゴ・ホールであった。ホールは兵士たちの怒りを押さえつけるのを望まず、オメガ銀河隊に対していかなる手段を持っても目標を破壊してもいいという許可を出した。この星系にいる多数のノヴァキャット部隊は、ラムダ、クシー銀河隊からなる残った氏族軍の半数を少し上回るものであった……アヤックス・ドラモンド氏族長自身が指揮するロッセイ親衛隊、ノヴァキャット機兵隊、ノヴァキャット軍団、ノヴァキャット反逆隊、ドラゴンズクロウ星団隊である。ドラモンドはイレースがノヴァキャットにとって本当の最後の戦いになることを知っており、20世紀の指導者の言葉を引用した。「一歩たりとも後退するな!」

 ノヴァキャットの航空宇宙戦力は使い果たされており、イタビアナとアースガルドで航空宇宙シブコが破壊されたあとで、失われたパイロットを補充するのが不可能になっていた。これにより、ゴーストベア軍は、7月7日、抵抗を受けずに上陸することができた。ベータ、オメガ銀河隊は、首都ニューバーセラの外に降下地点を確保すると、二手に分かれた。ベータ銀河隊はノヴァキャット機兵隊、ノヴァキャット軍団が守るバーセラ・バトルアーマーとバーセラ=LAWの工場に進み、オメガ銀河隊はシブコと主遺伝子貯蔵庫を破壊するために首都の中心部へと突き進んだ。

 ノヴァキャット機兵隊とノヴァキャット軍団は、ふたつのバーセラ工場の間に部隊を分割し、両方を守らねばならなかった。各施設の周囲に自動防衛砲台と緊急で作られた防衛要塞があってなお、両星団隊が時間を稼ぐために命を犠牲にするだろうことをドラモンド氏族長は知っていた。バーセラ・バトルアーマー工場の戦いは日没直前に始まった……ゴーストベアの銀河隊指揮三連星隊が、第18戦闘星団隊と第140打撃星団隊を率いて、ノヴァキャットの防衛陣地に正面から突撃を仕掛けたのである。プログラムがいまだ試験されてない自動防衛砲台は、数十のターゲットについていくことが出来なかった。目標補足システムが混乱し、砲台をシャットダウンに追い込んだ。ギャラクシーコマンダー・ホール自身が、コディアックの大口径オートキャノンで工場の壁に穴を開け、最初の入り口を作った。守るノヴァキャット軍団は工場内であらゆる手段を持ってして戦い、工作機械を遮蔽に使って、裂け目からよじ登って来るゴーストベアのメックに集中砲火を浴びせた。

 同じころ、ベアの第14戦闘星団隊と第332強襲星団隊がバーセラ=LAW工場のノヴァキャット機兵隊陣地を圧倒していた。戦闘の途中で、隠れていた所属不明のドラコ連合メック中隊が現れ、工場の防衛を支援し、ノヴァキャットとゴーストベアの双方に対して、「連合の権利を守る」と宣言した。ゴーストベアは簡単に新参者を撃破したが、その前に3機のドミニオン側メックを行動不能とし、ノヴァキャット機兵隊に声援を送ったのである。謎の戦士たちの犠牲はノヴァキャットにとってほとんど助けとならなかった。夜明けまでに、ノヴァキャット機兵隊は弾薬をほぼ使い果たし、崩壊の危機に瀕した。

 オメガ銀河隊によるドラモンド氏族長旗下部隊への攻撃は、7月8日朝に始まった。ドラモンド氏族長自ら激しい戦いの中に身を置いたノヴァキャット軍は後退を拒否した。この日が終わるまでに、オメガ銀河隊はニューバーセラに一歩たりとも足場を確保出来ず、損害はすでに50パーセントを超えていた。オメガ銀河隊の指揮官は、銀河隊の新型ドミニオン製、ポラリス級降下船全5隻の発進を命じた。バトルアーマーと戦車を運ぶ支援用降下船として設計されたポラリスは、艦載級兵器並みの打撃力を持つ巡航ミサイルランチャーを搭載していた。最初のミサイル10発が、ニューバーセラ中心部の主要遺伝子貯蔵庫に衝突し、爆心地から50メートル以内にあるすべての建物を破壊した。この中には、ドラモンド氏族長のロッセイ親衛隊の3個星隊が含まれていた。ノヴァキャット軍は素早く分散し、難しい目標となった。巡航ミサイルの第二波は、さらに威力を発揮し、崩壊した建物を増やした。ドラモンド氏族長は、IPN司令本部のがれきの下に埋められた。ポラリス降下船は、次にミサイルをノヴァキャット軍団、ノヴァキャット機兵隊の防衛陣地に向けた。2斉射で工場はがれきの山に過ぎないものへと変わった。それからドミニオン軍は、わずかな生き残りを落ち着いて殲滅した。

 ニューバーセラで火災が荒れ狂うなか、オメガ銀河隊はノヴァキャット軍と好戦的な民間人グループを掃討するために燃える市街地に戦力を送った。ドラモンド氏族長が死んだと信じたドミニオン軍は、完全な破壊を保証するために、もう一日かけて砲撃を繰り返し、7月9日にイレースを離れた。5日後、ドラモンド氏族長はIPNビルのがれきの下から発見された。生きてはいたが、ノヴァキャットのコクピットの中で重傷を負っていたのだった。

 全体的に、ゴーストベアはイレース強襲で重い損害を被ったが、この攻撃でノヴァキャットの未来をほぼ破壊した。主遺伝子貯蔵庫への損害はひどいものだったが、遺伝子サンプルの大半は建物地下深くの掩蔽壕内で助かった。最大の生産工場が廃墟となり、ノヴァキャット氏族全軍がイレースで壊滅したことで再建の道はなくなった。





怒れるベア RAGING BEARS

 正体不明のドラコ連合部隊が突如としてイレースに現れたことは、この戦争の性質を変化させ、ついには終わらせることになる連続した事件の始まりとなった。保守系ニュースメディアが彼らの壊滅を報道する際に「連合の忠実なる戦士が犠牲となった」と表現すると、連合中で反氏族抗議運動が勃発した。後に証拠が示唆したところでは、このとき使用されたメックは、聖戦中にDCMSの名簿から消えたものであり、ブラックドラゴンソサエティに盗まれたと噂されていたものであった。

 イレースで人命が失われたことで、ゴーストベアドミニオン中に広まった憤慨がさらに勢いを増した。3100年の後半、ドミニオン民間人の過酷な取り扱いへの抗議が一般的なものとなったのである。モトスタンドはこれを口実に、ゴーストベアの軍事基地やラサルハグの近辺を狙って、ドミニオン中で爆破やその他のテロ活動を開始した。このテロ活動は後にポラー、タイガ銀河隊がドラコ連合コアワード地域に進撃するのを食い止めることになる。なぜなら、カブリンスキーとマグヌッソンは、モトスタンドのセルと戦うウォッチを支援するために、王家軍を再配備せざるを得なくなったからだ。





残虐行為 ATROCITIES

 3099年のあいだ、ドミニオンの民間人はノヴァキャットとの戦いがどれほどの規模なのかに気づいていなかったが、年末までに、ゴーストベア軍がイレース管区内で行った残虐行為が目の当たりにされ、話がドミニオンの各地を飛び交った。ドミニオン中で平和抗議活動が日常的となり、シルバーデールではゴーストベアの司令部前で行われさえした。ヘイッキネンは、オメガ銀河隊がイレースで撮影したバトルROM映像を見た後、3100年12月1日、アルシャインに移動し、カブリンスキー氏族長と会談を行った。彼が目指したのは、世論の声、すなわちイレース管区での戦争を停止しドミニオン軍による戦争犯罪の完全な調査するべきというものを伝えることであった。

 ヘイッキネンとドミニオンの戦争指導者たちのあいだで激しいやりとりが交わされた。ヘイッキネンのとある補佐官によると、カブリンスキーは「ノヴァキャットが一人残さず死に絶えるまで」作戦をやめないと言ったされるが、戦闘で鍛えられ、今では欠かせない存在となっている王家軍銀河隊群が戦争犯罪者扱いされることを受け入れたがるかについてヘイッキネンが述べると、考えを改めた。ヘイッキネンは司令部を辞し、大規模な平和抗議活動の前に出ると、カブリンスキー氏族長が一時的に攻勢作戦を停止すると認めたことを発表した。このニュースはすぐさまドラコ連合中に広まり、ホヒロ・クリタはイレース管区の被害状況を精査するため一時的な停戦に応じた。

 その後の数週間で、ドミニオン、ドラコ、スフィア共和国の調査チームが、ノヴァキャット全階級人の死体でいっぱいの巨大墓地を発見した。それはドミニオンの侵攻を受けていない世界にさえもあったのである。3099年10月の早い時期に、ポートアーサーの巨大墓地が、ブラックドラゴンソサエティの戦力によるものとの証拠が発見された。ドラコ連合は、ノヴァキャットとの協力を保つためにこの虐殺を隠蔽したが、ホヒロ・クリタはリュウケン=ゴに、ドミニオン国境でブラックドラゴンを追い詰めるように命じた。捕まったブラックドラゴンの工作員は、「連合の世界を氏族の手から解放するために」、戦争を激しくあおって処刑部隊の煙幕にしたと証言した。オメガ銀河隊のイレースのようなドミニオン軍が民間人を多数殺した世界でさえも、ブラックドラゴンの処刑部隊とソサエティシンパの連合市民が、ノヴァキャット人民の約5〜10パーセントを殺していたのである。

 スフィア共和国がイレース管区と連合のドミニオン側国境に平和維持軍を配備すると、ホヒロ・クリタはドミニオンとの交戦を終える申し出を行った。大統領はこの休戦により、「我らが領土を再び汚した不名誉を消す」ことが出来ると宣言した。この条約により、両国の国境は確かなものになった一方で、両陣営は捕虜の返還と、新しい旗の下で生きることを望まない民間人の交換に合意するのに1年近い時間をかけたのである。このとき、ドミニオンと連合の双方が「提案された和平条件が遵守されているか調査するために」軽襲撃を続けていた。カブリンスキー氏族長が、戦争犯罪の可能性を調査するため、嫌々ながらオメガ銀河隊にアルシャインへ戻るよう命令を出した後、統一評議会指導者のヘイッキネンは、公式に平和条約を受け入れた。3101年11月10日、第二次連合=ドミニオン戦争は公式に終わりを告げた。




indexに戻る
inserted by FC2 system